(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154331
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】試料吐出システム、試料吐出装置、試料吐出方法、及び人工組織の製造方法
(51)【国際特許分類】
C12M 1/00 20060101AFI20231012BHJP
A61D 19/02 20060101ALI20231012BHJP
F04B 13/00 20060101ALI20231012BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20231012BHJP
【FI】
C12M1/00
A61D19/02 Z
F04B13/00 A
C12N5/071
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063601
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】501083643
【氏名又は名称】学校法人慈恵大学
(74)【代理人】
【識別番号】100188558
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 雅人
(72)【発明者】
【氏名】山中 修一郎
(72)【発明者】
【氏名】横尾 隆
【テーマコード(参考)】
3H075
4B029
4B065
【Fターム(参考)】
3H075AA09
3H075BB03
3H075CC11
3H075CC31
3H075DA07
3H075DB03
4B029AA27
4B029BB11
4B029DG10
4B029GA08
4B029GB01
4B029GB02
4B065AA90
4B065BA30
4B065BD50
4B065CA44
(57)【要約】
【課題】試料の吐出操作が容易な試料吐出システム、試料吐出装置、試料吐出方法、及び人工組織の製造方法を提供する。
【解決手段】試料を吐出する試料吐出アセンブリを備える試料吐出システムであって、試料吐出アセンブリは、試料空間及び試料空間内に収容された試料を外部に吐出する吐出口を有する吐出部と、試料空間と連通する気体チャンバを有し、気体チャンバに気体を収容できる気体収容部と、気体チャンバ内の圧力を増加させる加圧機構と、気体チャンバと連通する弁室及び閉構成と開構成とを切り替え可能な弁体を有するバルブ機構と、を備え、弁室は、外部空間へ開放されたベント部と連通し、弁体は、閉構成において弁室とベント部との連通を遮断し、開構成において弁室とベント部とを連通させる、試料吐出システムを提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を吐出する試料吐出アセンブリを備える試料吐出システムであって、
前記試料吐出アセンブリは、
試料空間及び前記試料空間内に収容された試料を外部に吐出する吐出口を有する吐出部と、
前記試料空間と連通する気体チャンバを有し、前記気体チャンバに気体を収容できる気体収容部と、
前記気体チャンバ内の圧力を増加させる加圧機構と、
前記気体チャンバと連通する弁室及び閉構成と開構成とを切り替え可能な弁体を有するバルブ機構と、
を備え、
前記弁室は、外部空間へ開放されたベント部と連通し、
前記弁体は、前記閉構成において前記弁室と前記ベント部との連通を遮断し、前記開構成において前記弁室と前記ベント部とを連通させる、
試料吐出システム。
【請求項2】
前記加圧機構は、前記気体チャンバ内の気体を圧縮することにより、前記気体を介して前記試料を前記吐出口から押し出す、
請求項1に記載の試料吐出システム。
【請求項3】
前記弁体が前記閉構成にある場合に、前記試料吐出アセンブリの内部に、前記吐出口と連通する内部空間が形成され、前記内部空間は、前記吐出口に繋がる部分を除いて、外部空間から閉鎖されている、
請求項1又は2に記載の試料吐出システム。
【請求項4】
前記加圧機構は、前記内部空間の体積を変化させる、
請求項3に記載の試料吐出システム。
【請求項5】
前記バルブ機構は、ソレノイドと、前記ソレノイドの作用で移動するプランジャと、を有し、
前記プランジャは、前記ソレノイドの作用による移動に伴って、前記弁体を前記閉構成と前記開構成との間で切り替える、
請求項1又は2に記載の試料吐出システム。
【請求項6】
前記弁体は、移動することによって前記閉構成と前記開構成とを切り替え、
前記ソレノイドが前記プランジャに作用した場合に、前記プランジャは、前記弁体を前記閉構成から前記開構成へ移動させる、
請求項5に記載の試料吐出システム。
【請求項7】
前記弁体は、移動することによって前記閉構成と前記開構成とを切り替え、
前記バルブ機構は、前記開構成から前記閉構成へ向かう方向に前記弁体を直接的又は間接的に付勢する弾性部材を有する、
請求項5に記載の試料吐出システム。
【請求項8】
前記加圧機構は、前記気体チャンバに少なくとも部分的に挿入されるピストン本体と、前記ピストン本体を前記気体チャンバ内で移動させるピストン駆動機構と、を有する、
請求項1又は2に記載の試料吐出システム。
【請求項9】
前記加圧機構及び前記バルブ機構の少なくとも一方の動作を電気的に制御する制御ユニットをさらに備える、
請求項1又は2に記載の試料吐出システム。
【請求項10】
試料を収容可能な試料空間を内部に有する吐出部から試料を吐出するための試料吐出装置であって、
前記吐出部と結合される気体収容部であって、前記気体収容部が前記吐出部と結合された場合に前記試料空間と連通する気体チャンバを有する気体収容部と、
前記気体チャンバ内の圧力を増加させる加圧機構と、
前記気体チャンバと連通する弁室及び閉構成と開構成とを切り替え可能な弁体を有するバルブ機構と、
を備え、
前記弁室は、外部空間へ開放されたベント部と連通し、
前記弁体は、前記閉構成において前記弁室と前記ベント部との連通を遮断し、前記開構成において前記弁室と前記ベント部とを連通させる、
試料吐出装置。
【請求項11】
試料を収容可能な試料空間を内部に有する吐出部から試料を吐出する方法であって、
前記試料空間に試料を収容するステップと、
前記試料空間の内部圧力を増加させることにより、前記試料を前記吐出部から押し出すステップと、
閉構成と開構成とを切り替え可能な弁体を、前記閉構成から開構成に切り替えるステップであって、前記弁体は、前記閉構成において前記試料空間と外部空間との連通を遮断し、前記開構成において前記試料空間と外部空間とを連通させる、ステップと、
を含む、
試料吐出方法。
【請求項12】
前記試料を収容した前記吐出部を標的(ヒトを除く)に挿入するステップをさらに含み、
前記試料を前記吐出部から押し出す前記ステップにおいて、前記試料が、前記標的に注入される、
請求項11に記載の試料吐出方法。
【請求項13】
前記標的は、非ヒト動物の胎仔である、
請求項12に記載の試料吐出方法。
【請求項14】
前記試料は、細胞を含む、
請求項11~13のいずれか一項に記載の試料吐出方法。
【請求項15】
人工組織の製造方法であって、
内部の試料空間に細胞を収容した吐出部を、非ヒト動物の胎仔に挿入するステップと、
前記試料空間内の気体の圧力を増加させて前記細胞を前記吐出部から押し出すことにより、前記細胞を前記胎仔に注入するステップと、
閉構成と開構成とを切り替え可能な弁体を、前記閉構成から開構成に切り替えるステップであって、前記弁体は、前記閉構成において前記試料空間と外部空間との連通を遮断し、前記開構成において前記試料空間と外部空間とを連通させる、ステップと、
前記吐出部を、前記胎仔から引き抜くステップと、
前記細胞が注入された前記胎仔を母体内で育てるステップと、
を含む、
人工組織の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、試料吐出システム、試料吐出装置、試料吐出方法、及び人工組織の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
流動性を有する試料を吐出し、標的に注入するための試料吐出装置が知られている。特許文献1には、シリンジ内に吸入した薬液を生体に所定の速度で注入することができるシリンジポンプが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、このような試料吐出装置において、試料の性質や、試料が注入される標的の種類によっては、吐出操作の操作性が十分でない場合があった。
【0005】
本発明が解決しようとする課題は、試料の吐出操作が容易な試料吐出システム、試料吐出装置、試料吐出方法、及び人工組織の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の態様を含み得る。
[1]試料を吐出する試料吐出アセンブリを備える試料吐出システムであって、前記試料吐出アセンブリは、試料空間及び前記試料空間内に収容された試料を外部に吐出する吐出口を有する吐出部と、前記試料空間と連通する気体チャンバを有し、前記気体チャンバに気体を収容できる気体収容部と、前記気体チャンバ内の圧力を増加させる加圧機構と、前記気体チャンバと連通する弁室及び閉構成と開構成とを切り替え可能な弁体を有するバルブ機構と、を備え、前記弁室は、外部空間へ開放されたベント部と連通し、前記弁体は、前記閉構成において前記弁室と前記ベント部との連通を遮断し、前記開構成において前記弁室と前記ベント部とを連通させる、試料吐出システム。
[2]前記加圧機構は、前記気体チャンバ内の気体を圧縮することにより、前記気体を介して前記試料を前記吐出口から押し出す、[1]に記載の試料吐出システム。
[3]前記弁体が前記閉構成にある場合に、前記試料吐出アセンブリの内部に、前記吐出口と連通する内部空間が形成され、前記内部空間は、前記吐出口に繋がる部分を除いて、外部空間から閉鎖されている、[1]又は[2]に記載の試料吐出システム。
[4]前記加圧機構は、前記内部空間の体積を変化させる、[3]に記載の試料吐出システム。
[5]前記バルブ機構は、ソレノイドと、前記ソレノイドの作用で移動するプランジャと、を有し、前記プランジャは、前記ソレノイドの作用による移動に伴って、前記弁体を前記閉構成と前記開構成との間で切り替える、[1]又は[2]に記載の試料吐出システム。
[6]前記弁体は、移動することによって前記閉構成と前記開構成とを切り替え、前記ソレノイドが前記プランジャに作用した場合に、前記プランジャは、前記弁体を前記閉構成から前記開構成へ移動させる、[5]に記載の試料吐出システム。
[7]前記弁体は、移動することによって前記閉構成と前記開構成とを切り替え、前記バルブ機構は、前記開構成から前記閉構成へ向かう方向に前記弁体を直接的又は間接的に付勢する弾性部材を有する、[5]に記載の試料吐出システム。
[8]前記加圧機構は、前記気体チャンバに少なくとも部分的に挿入されるピストン本体と、前記ピストン本体を前記気体チャンバ内で移動させるピストン駆動機構と、を有する、[1]又は[2]に記載の試料吐出システム。
[9]前記加圧機構及び前記バルブ機構の少なくとも一方の動作を電気的に制御する制御ユニットをさらに備える、[1]又は[2]に記載の試料吐出システム。
[10]試料を収容可能な試料空間を内部に有する吐出部から試料を吐出するための試料吐出装置であって、前記吐出部と結合される気体収容部であって、前記気体収容部が前記吐出部と結合された場合に前記試料空間と連通する気体チャンバを有する気体収容部と、前記気体チャンバ内の圧力を増加させる加圧機構と、前記気体チャンバと連通する弁室及び閉構成と開構成とを切り替え可能な弁体を有するバルブ機構と、を備え、前記弁室は、外部空間へ開放されたベント部と連通し、前記弁体は、前記閉構成において前記弁室と前記ベント部との連通を遮断し、前記開構成において前記弁室と前記ベント部とを連通させる、試料吐出装置。
[11]試料を収容可能な試料空間を内部に有する吐出部から試料を吐出する方法であって、前記試料空間に試料を収容するステップと、前記試料空間の内部圧力を増加させることにより、前記試料を前記吐出部から押し出すステップと、閉構成と開構成とを切り替え可能な弁体を、前記閉構成から開構成に切り替えるステップであって、前記弁体は、前記閉構成において前記試料空間と外部空間との連通を遮断し、前記開構成において前記試料空間と外部空間とを連通させる、ステップと、を含む、試料吐出方法。
[12]前記試料を収容した前記吐出部を標的(ヒトを除く)に挿入するステップをさらに含み、前記試料を前記吐出部から押し出す前記ステップにおいて、前記試料が、前記標的に注入される、[11]に記載の試料吐出方法。
[13]前記標的は、非ヒト動物の胎仔である、[12]に記載の試料吐出方法。
[14]前記試料は、細胞を含む、[11]~[13]のいずれか1つに記載の試料吐出方法。
[15]人工組織の製造方法であって、内部の試料空間に細胞を収容した吐出部を、非ヒト動物の胎仔に挿入するステップと、前記試料空間内の気体の圧力を増加させて前記細胞を前記吐出部から押し出すことにより、前記細胞を前記胎仔に注入するステップと、閉構成と開構成とを切り替え可能な弁体を、前記閉構成から開構成に切り替えるステップであって、前記弁体は、前記閉構成において前記試料空間と外部空間との連通を遮断し、前記開構成において前記試料空間と外部空間とを連通させる、ステップと、前記吐出部を、前記胎仔から引き抜くステップと、前記注入した細胞を、前記胎仔の体内で育てるステップと、を含む、人工組織の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、試料の吐出操作が容易な試料吐出システム、試料吐出装置、試料吐出方法、及び人工組織の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る試料吐出システムの全体構成を示す概略図である。
【
図2】実施形態に係る試料吐出アセンブリを示す斜視図である。
【
図3】実施形態に係る試料吐出アセンブリを示す、
図2の線III-IIIで切断した断面図である。
【
図4】実施形態に係る試料吐出アセンブリを示す、
図3の線IV-IVで切断した断面図である。
【
図5】実施形態に係る試料吐出アセンブリを示す、
図3の線V-Vで切断した断面図である。
【
図6】実施形態に係る試料吐出アセンブリ(閉状態)の一部(
図3の領域E)を示す拡大断面図である。
【
図7】実施形態に係る試料吐出アセンブリ(開状態)の一部(
図3の領域E)を示す拡大断面図である。
【
図8】実施形態に係る試料吐出システムの構成を示すブロック図である。
【
図9】実施形態に係る試料吐出システムの動作を示すフローチャートである。
【
図10】試料吐出システムによって腎前駆細胞が移植されたマウスの腎発生領域の写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態の試料吐出システム、試料吐出装置、試料吐出方法、及び人工組織の製造方法を、図面を参照して説明する。なお、図面は模式的又は概念的なものであり、各部分の厚みと幅との関係、部分間の大きさの比率などは、必ずしも現実のものと同一とは限らない。また、同じ部分を表す場合であっても、図面により互いの寸法や比率が異なって表される場合もある。また、図面に示すXYZ座標は、説明の便宜上定義されたものであり、発明を限定するものではない。
【0010】
本明細書において、「XXに基づく」とは「少なくともXXに基づく」ことを意味し、XXに加えて別の要素に基づく場合も含む。また、「XXに基づく」とは、XXを直接に用いる場合に限定されず、XXに対して演算や加工が行われたものに基づく場合も含む。「XX」は、任意の要素(例えば情報)である。
【0011】
<試料吐出システム1の構成>
図1~
図8を参照して、実施形態に係る試料吐出システム1について説明する。
図1は、実施形態に係る試料吐出システムの全体構成を示す概略図である。
図2は、実施形態に係る試料吐出アセンブリ100を示す斜視図である。
図3は、実施形態に係る試料吐出アセンブリ100を示す、
図2の線III-IIIで切断した断面図である。
図4は、実施形態に係る試料吐出アセンブリ100を示す、
図3の線IV-IVで切断した分解図である。
図5は、実施形態に係る試料吐出アセンブリ100を示す、
図3の線V-Vで切断した分解図である。
図6は、実施形態に係る試料吐出アセンブリ100(閉状態)の一部(
図3の領域E)を示す拡大図である。
図7は、実施形態に係る試料吐出アセンブリ100(開状態)の一部(
図3の領域E)を示す拡大図である。
図8は、実施形態に係る試料吐出システム1の構成を示すブロック図である。
【0012】
試料吐出システム1は、試料Sを吐出するためのシステムである。具体的には、
図1に示すように、試料吐出システム1は、試料吐出アセンブリ100、位置決めユニット200、及び制御ユニット300を備える。試料吐出アセンブリ100は、位置決めユニット200に固定されて、標的Tに対して位置決めされる。制御ユニット300は、試料吐出アセンブリ100の動作を制御する。なお、本明細書において、「システム」とは、2以上の装置からなるシステムに限定されず、単独の装置からなるシステムも含む。
【0013】
試料Sは、流動性及び粘性を有する。好ましくは、試料Sは、試料Sを収容した細管が水平に設置された場合に、少なくとも数秒~数十秒の間、当該細管の口から自然に流れ出ることが実質的にない程度の流動性及び粘性を有する。試料Sの種類は、特に限定されないが、例えば生体試料を含む。好ましくは、試料Sは、細胞を含む。細胞は、幹細胞、前駆細胞、最終分化細胞など、特に限定されない。細胞の例として、ES細胞やiPS細胞などの多能性幹細胞や体性幹細胞から分化誘導した細胞、生体由来の組織を分解酵素で処理して得た細胞などが挙げられるが、これらに限定されない。細胞は、遺伝子改変された細胞であってもよく、遺伝子改変されていない細胞であってもよい。
【0014】
標的Tは、試料Sの注入対象である。試料Sが細胞である場合には、標的Tは、試料Sの移植対象であってよい。例えば、標的Tは、ヒト若しくは非ヒト動物、その胎仔、又はそれらの体組織や器官の全部又は一部領域である。標的Tは、生体内の領域に限定されず、生体外に置かれた体組織や器官であってもよい。例えば、標的Tは、非ヒト動物の胎仔又はその一部である。
【0015】
<試料吐出アセンブリ100の構成>
試料吐出アセンブリ100は、試料Sを吐出する構成を有する。具体的には、
図2に示すように、試料吐出アセンブリ100は、吐出管102、シリンジ104、ピストン106、及びバルブ機構108を備える。
【0016】
[吐出管102の構成]
吐出管102(「吐出部」の一例)は、
図3に示すように、試料Sを内部に収容するとともに、収容された試料Sを吐出する。具体的には、吐出管102は、中空の細長い管状部材である。吐出管102の内部には、試料空間102Aが形成される。吐出管102の一端には、試料Sを吐出するための吐出口102Bが形成される。より具体的には、吐出管102は、試料空間102Aと連通する2つの開口を有し、2つの開口の一方は、シリンジ104に結合されてシリンジ104の気体チャンバ22と連通し、2つの開口の他方は、吐出口102Bとして機能する。
【0017】
吐出管102は、シリンジ104に対して取り外し可能に装着される。ただし、吐出管102の構成はこれに限定されず、シリンジ104に対して取り外し不能に装着されてもよく、シリンジ104の一部として一体に設けられてもよい。
【0018】
吐出管102には、試料空間102Aに収容された試料Sの量を推定するために使用可能な目盛りなどのマーカが付されてよい。ユーザは、吐出管102から試料Sを吐出させる際に、このマーカを視認することにより、試料Sの吐出量を推定することができる。
【0019】
吐出管102の材質は、特に限定されないが、生体材料に対して有害でない材料であることが好ましい。吐出管102の材質の例として、ガラス、高分子材料、金属材料などが挙げられる。
【0020】
吐出管102は、標的Tに挿入されて、標的Tの内部に試料Sを注入するために使用可能である。好ましくは、吐出管102は、生体組織に穿刺できる程度の強度を有する。
【0021】
[シリンジ104の構成]
シリンジ104(「気体収容部」の一例)は、吐出管102と結合して吐出管102を保持するとともに、吐出管102内部の試料Sを外部に押し出すように動作する。例えば、シリンジ104は、試料吐出アセンブリ100全体を支持する本体として機能する。具体的には、シリンジ104は、シリンジ本体10及びマニフォールド12を有する。マニフォールド12は、吐出管102とシリンジ本体10との間に介在する。吐出管102とマニフォールド12との間には、第1接続部14が設けられる。第1接続部14は、吐出管102とマニフォールド12とを互いに連通させるように接続する。シリンジ本体10とマニフォールド12との間には、第2接続部16が設けられる。第2接続部16は、シリンジ本体10とマニフォールド12とを互いに連通させるように接続する。
【0022】
シリンジ本体10は、吐出管102内の試料Sを押し出すための気体(例えば空気)を内部に収容し、気体を介して吐出管102に試料Sを吐出させる。シリンジ本体10は、内部空間として第1チャンバ22Aを有する。シリンジ本体10は、第1チャンバ22Aに気体を収容できる。具体的には、シリンジ本体10は、両端が開口した筒状部材である。例えば、シリンジ本体10は、一般的なシリンジの構成を有する。シリンジ本体10の材質は、特に限定されないが、少なくとも部分的に透明又は半透明の材料で形成されることが好ましい。シリンジ本体10の材質の例として、ガラス、高分子材料などが挙げられる。
【0023】
シリンジ本体10の両側には、第1保持部10A及び第2保持部10Bが設けられている。第1保持部10Aは、シリンジ本体10の一端を保持し、第2保持部10Bは、シリンジ本体10の他端を保持する。
【0024】
マニフォールド12は、吐出管102とシリンジ本体10とを連通させた状態で連結する。マニフォールド12は、試料吐出アセンブリ100の内部で流路構造を形成する。具体的には、マニフォールド12は、吐出管102の試料空間102Aとシリンジ本体10内部の空間とを連通させる内部空間として第2チャンバ22Bを有する。マニフォールド12は、第2チャンバ22Bに気体(例えば空気)を収容できる。第1チャンバ22A及び第2チャンバ22Bは、互いに連通して、気体を収容できる気体チャンバ22を形成する。したがって、シリンジ104は、気体チャンバ22に気体を収容できる。気体チャンバ22は、シリンジ104が吐出管102と結合された場合に、吐出管102の試料空間102Aと連通する。
【0025】
マニフォールド12は、
図2及び
図4に示すように、両側の側面にベント孔20(「ベント部」の一例)を有する。ベント孔20は、試料吐出アセンブリ100内部の気体を外部に排出することにより、試料吐出アセンブリ100内部の圧抜きを行うことができる。
【0026】
マニフォールド12の第2チャンバ22Bは、分岐した流路を形成することができる。具体的には、
図3に示すように、マニフォールド12は、第1通路24、第2通路26、及び第3通路28を内部に有する。第1通路24は、第2チャンバ22Bから吐出管102の試料空間102Aまで、マニフォールド12の前壁を貫通して延在する。第2通路26は、第2チャンバ22Bからマニフォールド12の上面12Aまで、マニフォールド12の上壁を貫通して延在する。第3通路28は、
図4に示すように、マニフォールド12の上面12Aから、マニフォールド12の内部で分岐して、マニフォールド12の両側面の2つのベント孔20まで延在する。第2通路26と第3通路28とは、後述するバルブ機構108によって接続される。
【0027】
このようにして、マニフォールド12は、内部の分岐通路によって、シリンジ本体10内部の空間と、吐出管102の試料空間102Aと、排気用のベント孔20とを互いに連通接続することができる。
【0028】
[ピストン106の構成]
ピストン106(「加圧機構」の一例)は、気体チャンバ22内の圧力を増加させることができる。ピストン106は、シリンジ104の気体チャンバ22内の気体を圧縮することにより、この気体を介して吐出管102の吐出口102Bから試料Sを押し出す。具体的には、
図3に示すように、ピストン106は、ピストン本体30及びピストン駆動機構32と、ピストン本体30及びピストン駆動機構32を内部に収容するピストン筐体34と、を有する。
【0029】
ピストン本体30は、第1チャンバ22A内に少なくとも部分的に挿入される。ピストン本体30は、シリンジ本体10の内部で摺動することにより、試料吐出アセンブリ100の内部体積を変化させて、試料吐出アセンブリ100内の気体の圧力を変化させることができる。具体的には、
図3に示すように、ピストン本体30は、ピストンヘッド30A及びピストンロッド30Bを有する。
【0030】
ピストンヘッド30Aは、ピストン本体30の遠位端部を構成する円盤状の部材である。ピストンヘッド30Aの外径は、シリンジ本体10の内径と略同じである。これにより、ピストンヘッド30Aは、試料吐出アセンブリ100内部に形成される空間を部分的に画定する。ピストンロッド30Bは、ピストンヘッド30Aから近位方向(-Z方向)に延在する棒状部材である。
【0031】
ピストン駆動機構32は、気体チャンバ22内でピストン本体30を移動させる。具体的には、ピストン駆動機構32は、ピストン本体30を駆動して、シリンジ本体10の第1チャンバ22A内で摺動させる。ピストン駆動機構32としては、既知の任意の並進移動機構が使用可能である。例えば、
図3に示すように、ピストン駆動機構32は、モータ40、ギア42、送りねじ44、及びキャリッジ46を有する。
【0032】
モータ40は、ピストン駆動機構32の駆動源として機能する。ギア42及び送りねじ44は、モータ40の回転運動をZ方向の並進運動に変換して、キャリッジ46に伝達する。キャリッジ46は、ピストンロッド30Bの近位端に取り付けられて、ピストン本体30と一体にZ方向に並進運動をする。これにより、モータ40が回転すると、ピストン本体30が、キャリッジ46とともにZ方向に並進運動をする。このようにして、ピストン駆動機構32は、ピストン本体30を駆動することができる。なお、ピストン駆動機構32の構成は上記例に限定されず、ピストン本体30を移動させるものであれば任意の機構が使用可能である。
【0033】
[バルブ機構108の構成]
バルブ機構108は、試料吐出アセンブリ100の内部空間の連通状態を変更することにより、シリンジ104内の気体のベンティングを操作する。バルブ機構108は、ベンティングを許容しない閉構成と、ベンティングを許容する開構成とを切り替えることができる。例えば、バルブ機構108は、電気的に制御及び操作することが可能なバルブである。具体的には、
図2及び
図3に示すように、バルブ機構108は、電磁弁として構成され、バルブ作動部50及びバルブ駆動機構70を有する。
【0034】
バルブ作動部50は、バルブ機構108の配置構成を変化させることにより、試料吐出アセンブリ100の内部空間とベント孔20との連通状態を切り替える。バルブ作動部50は、シリンジ104に取り付けられる。具体的には、
図2及び
図3に示すように、バルブ作動部50は、第1バルブ作動部52及び第2バルブ作動部54を有する。第1バルブ作動部52及び第2バルブ作動部54は、マニフォールド12の上面12Aに配置される。第2バルブ作動部54は、マニフォールド12の上面12A上で、第1バルブ作動部52の近位側に配置される。
【0035】
図3~
図7に示すように、第1バルブ作動部52には、弁体60、弁室62、弁座64、第4通路66、及び第5通路68が設けられる。弁体60は、第1バルブ作動部52内で流体の流れを制御するために設けられる。弁体60は、閉構成(
図6)と開構成(
図7)とを切り替え可能である。具体的には、弁体60は、移動することによって閉構成と開構成とを切り替えることができる。弁室62は、第1バルブ作動部52の内部空間として、弁体60を収容する。弁室62は、気体チャンバ22と連通するとともに、外部空間に開放されたベント孔20と連通する。弁座64は、
図6に示すように、閉構成にある弁体60に接触して弁体60を支持する。
【0036】
図5及び
図6に示すように、第4通路66は、第1バルブ作動部52の下面52Aから弁室62まで延在する。第4通路66は、XY面内でマニフォールド12の第2通路26と連続するように形成される。すなわち、第2通路26及び第4通路66はともに、マニフォールド12の第2チャンバ22Bと弁室62とを連通接続する通路を形成する。
【0037】
図4及び
図6に示すように、第5通路68は、第4通路66より遠位側(+Z)で、第1バルブ作動部52の下面52Aから弁室62まで延在する形状を有する。
図6及び
図7に示すように、弁座64は、第5通路68の弁室62への出口を取り囲む。第5通路68は、XY面内でマニフォールド12の第3通路28と連続するように形成される。すなわち、第3通路28及び第5通路68はともに、マニフォールド12のベント孔20と弁室62とを連通接続する通路を形成する。ただし、
図6に示すように、弁体60が閉構成にある場合には、弁体60が、弁座64に接触して、弁室62と第5通路68(ひいてはベント孔20)との間の連通を遮断する。
図7に示すように、弁体60が開構成にある場合には、弁体60は、弁座64から離れて配置され、弁室62と第5通路68(ひいてはベント孔20)との間の連通を許容する。すなわち、弁体60は、閉構成において弁室62とベント孔20との連通を遮断し、開構成において弁室62とベント孔20とを連通させる。
【0038】
このように、バルブ作動部50は、弁室62とベント孔20との間の連通を遮断する閉構成と、弁室62とベント孔20との間の連通を許容する閉構成と、の間で移動可能な弁体60を有する。弁体60が閉構成にある場合には、試料吐出アセンブリ100の内部に、吐出口102Bと連通する内部空間が形成され、この内部空間は、吐出口102Bに繋がる部分を除いて、外部空間から閉鎖されている。すなわち、弁体60が閉構成にある場合には、吐出口102Bが、この内部空間を外部空間と連通させる唯一の出口として機能する。この内部空間は、試料空間102A、気体チャンバ22、及び弁室62を含む空間であり、これらは互いに連通する。ピストン106は、この内部空間の体積を変化させることができる。具体的には、ピストン106は、気体チャンバ22内で摺動することにより、内部空間における気体チャンバ22の体積を変化させることができる。バルブ作動部50は、弁体60を閉構成から開構成に移動させることによって、気体チャンバ22内の気体をベント孔20から排出することができる。
【0039】
バルブ駆動機構70は、弁室62内の弁体60を閉構成と開構成との間で移動させることにより、バルブ機構108の開閉状態を切り替える。具体的には、
図3、
図6、及び
図7に示すように、バルブ駆動機構70は、ソレノイド72と、ソレノイド72の作用で移動するプランジャ74と、プランジャ74を付勢するコイルばね76と、を有する。プランジャ74は、ソレノイド72の作用による移動に伴って、弁体60を閉構成と開構成との間で切り替える。
【0040】
ソレノイド72は、バルブ駆動機構70の駆動源として機能する。具体的には、
図6及び
図7に示すように、ソレノイド72は、ボビン80、コイル82、及びコイルカバー84を有する。ボビン80は、両端にフランジを有する円筒形状を有し、ソレノイド72の基部として機能する。コイル82は、ボビン80に巻き付けられた金属線である。コイル82は、電流が印加されると、内部に磁場を発生させる。コイルカバー84は、ボビン80に巻き付けられたコイル82を覆うように、ボビン80に取り付けられる。
【0041】
プランジャ74は、鉄や鋼などの磁性材料から構成される円柱形部材である。ソレノイド72のコイル82に電流が印加されると、コイル82の軸方向に磁場が発生する。ソレノイド72は、プランジャ74に作用した場合に、
図7に矢印で示すように、弁座64から離れる方向(ここでは、-Z方向)の力をプランジャ74に加える。プランジャ74は、遠位端部に小径部86を有する。小径部86は、第2バルブ作動部54の貫通孔に挿入される。小径部86の遠位端である作動端88には、弁体60が取り付けられる。これにより、プランジャ74は、自身の移動に伴って、弁体60をZ方向に移動させることができる。すなわち、ソレノイド72は、プランジャ74が弁体60を閉構成から開構成に移動させるような力をプランジャ74に加える。これにより、ソレノイド72がプランジャ74に作用した場合に、プランジャ74は、弁体60を閉構成から開構成へ向かう方向に移動させる。なお、プランジャ74は、弁体60と一体に形成されてもよい。
【0042】
コイルばね76(「弾性部材」の一例)は、ボビン80に形成された収容穴に収容されて、プランジャ74の近位端に当接する。コイルばね76は、プランジャ74を弁座64に向かう方向(ここでは、+Z方向)に付勢する。これにより、コイル82に電流が印加されていない場合には、コイルばね76は、プランジャ74を介して、弁体60を弁座64に押し付けることができる。すなわち、コイルばね76は、開構成から閉構成へ向かう方向に弁体60を間接的に付勢する。一方、コイル82に電流が印加されてソレノイド72が作動すると、プランジャ74がコイルばね76の弾性力に抗して近位方向(-Z方向)に移動する。これにより、弁体60が弁座64から離れ、弁室62とベント孔20とが連通する。
【0043】
このように、ソレノイド72が作動していない場合には、バルブ駆動機構70は、コイルばね76の付勢力によって、弁体60を閉構成に位置付ける。これにより、弁体60は、弁座64に接触して、弁室62とベント孔20との間の連通を遮断する。一方、ソレノイド72が作動している場合には、バルブ駆動機構70は、コイル82の磁力によって、プランジャ74を弁体60とともに移動させる。これにより、弁体60は、弁座64から離れて、弁室62とベント孔20とを連通させる。このようにして、バルブ駆動機構70は、所望のタイミングで、弁室62とベント孔20との間の連通状態を切り替えることができる。これにより、必要に応じて試料吐出アセンブリ100内部の気体をベント孔20から排出させることができる。
【0044】
上記のように、ソレノイド72の作用時に弁体60が開構成から閉構成に切り替わる態様は、ベンティングを行わない平常時にソレノイド72を作動される必要がないため、電力消費などの点で好ましい。ただし、バルブ駆動機構70の構成は上記例に限定されない。例えば、ソレノイド72の作用時に弁体60が閉構成から開構成に切り替わる態様が採用されてもよい。
【0045】
<位置決めユニット200の構成>
位置決めユニット200は、試料吐出アセンブリ100の位置決め及び固定を行う。具体的には、
図1に示すように、位置決めユニット200は、台座210及び移動機構220を備える。
【0046】
台座210は、位置決めユニット200の土台として機能する。移動機構220は、台座210に取り付けられる。移動機構220は、試料吐出アセンブリ100を台座210に対して移動させるとともに、所定の空間位置及び向きに固定する。移動機構220は、その一端に固定部222を有する。固定部222は、試料吐出アセンブリ100を保持して、移動機構220に対して試料吐出アセンブリ100の位置姿勢を固定する。
【0047】
位置決めユニット200は、試料吐出アセンブリ100を、標的Tに対する所定の位置姿勢に固定することができる。これにより、試料吐出アセンブリ100が標的Tに試料Sを注入する動作の精密性が向上し得る。
【0048】
<制御ユニット300の構成>
制御ユニット300は、試料吐出アセンブリ100の動作を制御する。例えば、制御ユニット300は、ピストン106及びバルブ機構108の少なくとも一方の動作を電気的に制御する。具体的には、
図1及び
図8に示すように、制御ユニット300は、操作部310、処理部320、及び駆動制御部330を含む。
【0049】
操作部310は、ユーザによる試料吐出アセンブリ100の操作指示を受け付ける。操作部310は、制御ユニット300を構成する制御装置と一体に設けられてもよく、操作部310の一部又は全部が制御装置とは別体として設けられてもよい。操作部310は、制御ユニット300の操作盤にスイッチやボタンなどの物理的な操作要素として設けられもよく、制御ユニット300の表示パネルに表示されたボタンなどの仮想的な操作要素として設けられてもよく、ユーザの手や足で操作可能である物理的なハンドスイッチやフットスイッチなどの形態であってもよい。これらが併用されて操作部310を構成してもよい。
【0050】
具体的には、操作部310は、ピストン操作部312及びバルブ操作部314を含む。
図1の例では、処理部320及び駆動制御部330を含む制御装置とは別体として、ピストン操作部312及びバルブ操作部314が設けられている。
【0051】
ピストン操作部312は、ピストン106を作動させる操作指示をユーザから受け付ける。例えば、ピストン操作部312は、ピストン106を遠位方向(+Z方向)又は近位方向(-Z方向)に移動させる操作をユーザから受け付ける。例えば、ピストン操作部312がフットスイッチである場合、ユーザは、ピストン操作部312を踏むことによって、ピストン106が遠位方向に移動するように操作して、気体チャンバ22内の気体を圧縮することができる。これにより、ユーザは、所望のタイミングでシリンジ104の内圧を増加させることによって、吐出管102から試料Sを吐出させることができる。ユーザは、吐出管102が標的Tに挿管された状態でピストン操作部312を操作することにより、所望のタイミングで、吐出管102内の試料Sを標的Tに注入することができる。
【0052】
バルブ操作部314は、バルブ機構108の開閉状態を変更する操作指示をユーザから受け付ける。例えば、バルブ操作部314は、弁体60を閉構成から開構成に移動させる操作指示をユーザから受け付ける。例えば、バルブ操作部314がフットスイッチである場合、ユーザは、バルブ操作部314を踏むことによって、バルブ機構108を操作して弁室62とベント孔20とを連通させることができる。これにより、ユーザは、所望のタイミングで気体チャンバ22のベント操作を実行することができる。
【0053】
処理部320は、入力された情報に対して所定の演算処理を実行する。例えば、処理部320は、制御ユニット300の記憶装置に記録されたプログラムを実行することによって、所定の演算処理を実行する。具体的には、処理部320は、操作部310からユーザの操作指示を受け付けるとともに、受け付けた操作指示に基づいて、試料吐出アセンブリ100の制御信号を生成する。具体的には、処理部320は、ピストン駆動機構32又はバルブ駆動機構70の制御信号を生成することができる。
【0054】
駆動制御部330は、処理部320が生成した制御信号に基づいて、試料吐出アセンブリ100の構成要素の駆動を制御する。具体的には、駆動制御部330は、バルブ駆動制御部332及びピストン駆動制御部334を含む。
【0055】
バルブ駆動制御部332は、ピストン操作部312が受け付けたユーザの操作指示に基づいて生成された制御信号により、ピストン駆動機構32の駆動を制御する。具体的には、バルブ駆動制御部332は、ユーザの操作指示に従ってモータ40を駆動させる。
【0056】
ピストン駆動制御部334は、バルブ操作部314が受け付けたユーザの操作指示に基づいて生成された制御信号により、バルブ駆動機構70の駆動を制御する。具体的には、ピストン駆動制御部334は、ユーザの操作指示に従ってソレノイド72を駆動させる。
【0057】
ユーザは、ピストン操作部312を操作し続けることにより、試料Sを標的Tに継続的に注入することができる。あるいは、ピストン操作部312は、ユーザの操作を受け付けると、次に操作を受け付けるまでピストン106を継続的に移動させるようにピストン駆動機構32を制御してもよい。あるいは、ピストン操作部312は、複数種類の操作が可能なように構成されて、所定の操作を受け付けた場合に所定期間だけ継続してピストン106を移動させるように予め設定されてもよい。
【0058】
このようにピストン106が継続的に移動している場合において、ユーザは、バルブ操作部314を操作することにより、バルブ駆動機構70を駆動して弁体60を閉構成から開構成に移動させることができる。これにより、ユーザは、所望のタイミングで気体チャンバ22内の気体をベントすることができる。したがって、ユーザは、試料Sが吐出管102から標的Tに注入され続けている間に、バルブ操作部314を操作することにより、所望のタイミングで試料Sの注入を停止することができる。
【0059】
上記の操作部310、処理部320、駆動制御部330などの構成は、制御装置が備えるプロセッサ、メモリ、ストレージ、入出力インタフェース、通信インタフェース、これらを相互接続するバスなどを含むハードウェア構成の協働により実現される機能部である。
【0060】
以上のような試料吐出システム1の構成によれば、任意のタイミングでバルブ操作によってシリンジ104の内部圧力を解放することができるので、試料Sの吐出操作が容易になる。これに対し、試料吐出システム1のようなバルブ機構を備えていない従来の試料吐出システムは、任意のタイミングで吐出管からの吐出を停止することが困難であった。特に、胎仔の臓器形成領域を標的Tとする場合には、小さなコンパートメントで構成される胎仔の体腔内の圧力が高い。このため、試料Sを注入するためには、シリンジの内部圧力(すなわち、吐出管の吐出圧)を、標的Tの内圧を超えるまで増加させる必要がある。吐出圧が標的Tの内圧を超えた時点で試料Sの流入が始まるが、一旦流入が始まると、シリンジ内部の空気の圧縮は制御不能となってしまう。その結果、吐出管は、シリンジの内部圧力が十分に低下するまで試料Sを注入し続けてしまう。これにより、過剰量の試料Sが標的T(臓器形成領域)を越えて胎仔の体腔内に流入してしまう可能性がある。このような過量投与は胎仔の致死性因子となり得る。このように、高い内部圧力を有する標的Tに対して試料Sを注入する場合には、所望のタイミングで試料Sの吐出を停止することのできる試料吐出システムが特に求められていた。また、試料Sとして細胞を使用する場合には、粘性が毎回異なるため、試料Sの粘性に依存せず、汎用的な操作が可能な試料吐出システムが必要とされていた。
【0061】
なお、従来の試料吐出システムでは、所望量の試料Sの吐出が完了したタイミングで標的Tから吐出管102を手動で引き抜く手法も行われていた。しかしながら、この手法では、試料Sの注入量を十分な精度で調節することが困難であった。吐出管102を標的Tから引き抜く際に、吐出管102の先端で標的Tを傷つけてしまう可能性や、誤って標的Tに空気が入ってしまう可能性もあった。また、吐出されなかった試料Sは、引き抜き時に吐出管102から零れてしまうことが多く、試料Sが無駄になってしまう場合が多かった。
【0062】
本実施形態に係る試料吐出システム1では、バルブ機構108を操作することによって、シリンジ104の内部空間とベント孔20とを連通させることができる。これにより、吐出管102から試料Sを吐出するためにシリンジ104によって上昇したシリンジ104の内圧を、大気圧まで減少させることができる。その結果、所望のタイミングで試料Sの吐出を停止することができる。これにより、試料吐出装置の操作性が向上し、試料Sの吐出量を精度よく調節できる。従来のような吐出完了時に吐出管102を標的Tから急いで引き抜く動作も不要となる。引き抜き動作を丁寧に行うことができるので、誤って胎仔に空気が入ってしまう可能性も低減できる。吐出管102に残った試料Sが吐出管102から零れてしまう可能性も低減できる。
【0063】
吐出管102を途中まで引き抜いた後、穿刺角度を少しだけ変えて再度標的Tへ穿刺する操作も可能である。このように、吐出管102の挿入角度を微調整しながら複数回の穿刺を行うことにより、標的Tへの広範囲な移植が可能となる。狭い空間でもある程度隅々まで広範囲に細胞を移植できると、再生ネフロンの数が増える点で有利である。これに対し、吐出管102を一旦全部引き抜いた後、細胞を再充填して再び標的Tへ同じ角度又は微調整した角度で穿刺することは、現段階では困難である。
【0064】
さらに、ピストン駆動機構32、バルブ駆動機構70、及び位置決めユニット200を用いることにより、試料吐出アセンブリ100を標的Tに対して固定した状態で各種操作を行うことができる。このため、特に胎仔のような傷つきやすい標的Tに対して、注入操作の安全性を向上させることができる。
【0065】
<試料吐出方法>
次いで、
図9を参照して、試料吐出システム1を使用した試料吐出方法について説明する。
図9は、実施形態に係る試料吐出システム1を使用した試料吐出方法の流れを示すフローチャートである。
【0066】
まず、ステップS901では、ユーザが、吐出管102の試料空間102Aに試料Sを収容する。試料Sの収容は、吐出管102がシリンジ104に装着された状態で行われてもよく、吐出管102に試料Sを収容した後で、吐出管102がシリンジ104に装着されてもよい。なお、吐出管102をシリンジ104に装着する際にバルブ機構108を作動させておくことにより、装着時に吐出管102内の試料Sがシリンジ104の内圧によって吐出口102Bから押し出されてしまう可能性を低減できる。
【0067】
次いで、ステップS902では、ユーザが、シリンジ104に吐出管102が装着された状態で、試料Sを収容した吐出管102を標的Tに挿入する。次いで、ステップS903では、ユーザがピストン操作部312を操作することにより、ピストン駆動機構32が、ピストン本体30をシリンジ本体10内で遠位方向(+Z方向)に摺動させる。このようにシリンジ104内部でピストン106を押し込むことにより、シリンジ104の内部圧力が増加する。このとき、バルブ駆動機構70は作動しておらず、バルブ機構108は、シリンジ104の気体チャンバ22とベント孔20との間の連通を遮断している。シリンジ104の内部圧力が一定値を超えると、吐出管102内の試料Sが吐出口102Bから押し出される。このようにして、ステップS904において、ユーザは、吐出管102から標的Tに、試料Sを所望の量だけ注入することができる。
【0068】
ユーザは、吐出管102に付されたマーカなどを利用して、試料Sが所望の量だけ注入されたか否かを判断する。所望量の試料Sの注入が完了したら、ステップS905において、ユーザがバルブ操作部314を操作することにより、バルブ駆動機構70が作動する。バルブ駆動機構70は、弁体60を閉構成から開構成に移動させることにより、シリンジ104の気体チャンバ22とベント孔20とを連通させる。これにより、シリンジ104内で圧縮された気体の一部がベント孔20から排出されて、弁室62と外部空間とが連通することにより、シリンジ104の内部圧力が外部空間と等しい圧力まで減少する。その結果、吐出管102から標的Tへの試料Sの注入が停止される。その後、ステップS906において、ユーザが、吐出管102を標的Tから引き抜く。また、角度を少しだけ変更して再度標的Tへ穿刺し、標的T内の細胞未投与領域への追加注入をすることも可能である。
【0069】
このようにして、バルブ機構108を操作してシリンジ104内のガス抜きを行うことにより、標的Tに刺激を与えることなく、所望のタイミングで試料Sの注入を停止させることができる。これにより、試料注入操作の安全性、効率、及び移植範囲が向上され得る。
【0070】
<人工組織の製造方法>
次いで、試料吐出システム1を使用した人工組織の製造方法について説明する。以下では、標的Tを臓器欠損動物の胎仔を標的Tとし、当該臓器の前駆細胞を試料Sとする例を説明する。
【0071】
本実施形態では、いわゆる胎生臓器補完法によって、発生環境を持った発生中期以降の動物の胎仔の臓器形成領域(標的T)に前駆細胞(試料S)を移植することにより、人工組織を製造する。具体的には、まず、
図9を参照して説明した上記の試料吐出方法により、吐出管102に収容された前駆細胞(試料S)を、臓器欠損胎仔の臓器形成領域(標的T)に注入する。例えば、注入操作は、経子宮的に行われ得る。このとき、上記の試料吐出方法を使用することにより、高精度で安全な注入操作が可能である。これにより、母体内の胎仔に前駆細胞が移植される。その後、臓器前駆細胞が移植された胎仔を母体内で育てる。これにより、注入された細胞を胎仔の体内で育てることができる。母体から産まれた後の胎仔、又は母体内で一定期間育てられた胎仔の体内から、再生した人工臓器を取得する。このようにして、前駆細胞から人工組織を製造することができる。なお、標的Tは、胎仔内の臓器形成領域に限定されない。例えば、胎仔から摘出した臓器や組織を標的Tとしてもよい。
【0072】
製造された人工組織は、再生医療における移植用臓器として用いられ得る。あるいは、動物の体内で育てたヒト臓器を、創薬における安全性試験や薬効実証試験に使用してもよい。新薬の安全性試験において、動物実験のヒトへの外挿には限界があり、特に腎臓では薬剤代謝に関わる400以上の尿細管トランスポーターにおいてヒトと齧歯類との間の種差が報告されている。腎臓前駆細胞を試料Sとして使用して人工腎臓を製造した場合には、ヒトの腎臓でのみ検証可能な腎毒性を、動物実験の範疇で検証できる。具体的には、ヒト化腎臓マウスを利用した新たな前臨床モデル(安全性試験)の開発、ヒト化腎臓マウスを利用した薬剤性腎障害に対する創薬、及び、透析に変わる腎不全治療法の開発が期待される。
【0073】
<変形例>
試料吐出アセンブリ100の内部の流路構成は、上記例に限定されない。試料吐出アセンブリ100の内部空間は、試料Sが吐出される試料空間102Aと、気体を外部空間に放出するベント孔20とに連通接続されていればよい。ベント孔20の位置や、気体チャンバ22とベント孔20とを連通接続する通路の構成も、上記例に限定されず、任意の配置構成が利用可能である。
【0074】
上記例では、試料吐出アセンブリ100は、管状の形態を有する吐出管102を有するが、吐出部の構成はこれに限定されない。例えば、吐出管102は、円錐状や角錐状など任意の形状を有し得る。試料空間102Aは、湾曲した形状、折れ曲がった形状、分岐した形状などを有してもよい。吐出管102は、2以上の吐出口102Bを有してもよい。試料吐出アセンブリ100は、2以上の吐出管102を有してもよい。
【0075】
上記例では、シリンジ104が筒状の形態を有するが、気体収容部の構成はこれに限定されない。気体収容部は、吐出部から試料を押し出すための気体流路を有している限り、任意の形態を有し得る。例えば、筒状のシリンジ104に代えて、箱状や球状など任意の形状を有する気体収容部が利用可能である。
【0076】
上記例では、ピストン106をシリンジ104に挿入することによって試料吐出アセンブリ100の内部圧力を増加させているが、ピストン106以外の任意の加圧機構も使用可能である。例えば、シリンジ104内部に設けられた可動壁が、ユーザの手動操作、モータ、空気圧、油圧など任意の手段によって移動し、内部体積が変化してもよい。シリンジ104自体が、内部体積を変化させるように変形可能であってもよい。試料吐出アセンブリ100内に気体を供給する手段によって、試料吐出アセンブリ100の内部圧力を増加させてもよい。その他、加圧機構の構成は特に限定されない。
【0077】
上記例では、ソレノイドバルブを用いて弁体60を並進移動させることによって閉構成と開構成とを切り替えているが、バルブ機構108の構成はこれに限定されない。例えば、弁体60を移動させるモータなどの駆動機構が設けられてもよい。ユーザが手動操作で弁体60を動かせるように、スイッチやハンドルなど任意の形態の操作部が設けられてもよい。また、弁体60の形態も上記例に限定されない。例えば、弁体60は、開閉可能な膜状の形態を有してもよい。弁体60は、弁室62からベント孔20への通路の入口、出口、又は中間地点に設けられたシャッター機構であってもよい。弁体60は、膨張状態で弁室62からベント孔20への通路を塞ぎ、収縮状態で当該通路を開通させる、変形可能な形態を有してもよい。これらの形態を併せ持つ弁体60や、複数の弁体60が設けられてもよい。その他、バルブの構成は特に限定されない。
【0078】
上記例では、コイルばね76がソレノイド72を介して間接的に弁体60を付勢しているが、バルブ駆動機構70の構成はこれに限定されない。例えば、コイルばね76がバルブ作動部50に直接的に作用して、開位置から閉位置へ向かう方向に弁体60を付勢してもよい。
【0079】
上記例では、制御ユニット300は、ピストン駆動機構32及びバルブ駆動機構70の動作を制御しているが、制御対象はこれらに限定されない。例えば、制御ユニット300は、位置決めユニット200の移動機構220を制御することによって、試料吐出アセンブリ100の配置の変更や調節、標的Tに対する吐出管102の挿入や引き抜きなどを行ってもよい。これにより、一連の試料注入方法がさらに自動化され得る。
【0080】
上記の試料吐出方法の説明におけるユーザの操作や判断は、任意のセンサを適宜利用して、制御装置が代わりに実行してもよい。
【実施例0081】
上記構成の試料吐出システム(高砂電気工業株式会社製)を使用して、妊娠13.5日目の腎臓欠損胎仔(マウス)の腎発生領域に、腎前駆細胞を移植した。
図10は、試料吐出システムによって腎前駆細胞が移植されたマウスの腎発生領域の写真である。
図10において、移植された腎前駆細胞の位置を矢印で示す。この試料吐出システムによれば、注入される腎前駆細胞の量を精度よく調節できることが確認された。
1…試料吐出システム、100…試料吐出アセンブリ(試料吐出装置)、102…吐出管(吐出部)、102A…試料空間、102B…吐出口、104…シリンジ(気体収容部)、10…シリンジ本体、12…マニフォールド、20…ベント孔(ベント部)、22…気体チャンバ、106…ピストン(加圧機構)、30…ピストン本体、32…ピストン駆動機構、108…バルブ機構、50…バルブ作動部、60…弁体、62…弁室、64…弁座、70…バルブ駆動機構、72…ソレノイド、74…プランジャ、76…コイルばね(弾性部材)、200…位置決めユニット、300…制御ユニット、310…操作部、320…処理部、330…駆動制御部、S…試料、T…標的