(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154339
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】荷重センサシステム
(51)【国際特許分類】
G01G 19/12 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
G01G19/12 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063613
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】501418498
【氏名又は名称】矢崎エナジーシステム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】弁理士法人栄光事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼森 徹示
(72)【発明者】
【氏名】澤村 慧
(57)【要約】
【課題】センサの内部温度変動に起因する荷重測定誤差の発生を抑制すると共に、測定開始可能な状態になるまでの待ち時間を短縮すること。
【解決手段】電源供給開始後の荷重センサユニットの内部温度変動が飽和点に到達して安定した温度状態になるまでの時間TP0をS17で推定し、この時間をS18で通知する。電源供給開始時に検出した内部温度、又はその変化の勾配から、温度-飽和時間テーブル61などを利用して時間TP0を特定する。時間TP0のカウントを開始した後、実際の内部温度変動を監視し、安定した状態に到達したら時間TP0を経過する前に、測定可能であることを通知する。内部温度変動の実績データを記録して温度-飽和時間テーブル61の内容に反映する。同時に複数の荷重センサユニットを使う場合は、内部温度の飽和が最も遅いセンサの予測飽和時間をS17で選択して通知する。
【選択図】
図10
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車載器と、
車軸に取り付けられ、前記車載器と接続されたセンサユニットと、
を備え、
前記センサユニットは、ユニット内部で検出された内部温度の信号と、前記車軸上で検出された歪の信号とを出力する機能を有し、
前記車載器は、前記センサユニットから出力される信号に基づいて、前記内部温度が飽和する時間を推定し、推定した時間を通知する機能を有する、
荷重センサシステム。
【請求項2】
前記車載器は、前記内部温度に対応する複数の温度値のそれぞれについて、前記内部温度が飽和温度に到達するまでの所要時間の定数を保持する温度飽和テーブルを備え、
前記内部温度の測定値から前記温度飽和テーブルに基づいて、前記内部温度が飽和温度に到達するまでの所要時間を推定する、
請求項1に記載の荷重センサシステム。
【請求項3】
前記車載器は、前記内部温度の測定値の変化を監視する温度変化監視部を有し、
前記車載器は、前記温度変化監視部が前記内部温度の測定値の飽和を検知した場合には、前記内部温度の推定時間に到達する前に温度飽和の通知を許可する、
請求項1に記載の荷重センサシステム。
【請求項4】
前記車載器は、前記内部温度の測定値の変化を監視する温度変化監視部を有し、
前記車載器は、前記温度変化監視部が前記内部温度の測定値の飽和を検知した時間の実績を反映して、前記温度飽和テーブルの登録内容を更新する、
請求項2に記載の荷重センサシステム。
【請求項5】
互いに異なる位置に配置された複数の前記センサユニットが前記車載器に接続され、
前記車載器は、前記複数のセンサユニットのそれぞれの内部温度が飽和する時間の中で、最も遅い時間を優先的に通知する、
請求項1に記載の荷重センサシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両における積載重量などの測定に利用可能な荷重センサシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
例えばタンクローリーのような車両においては、積載物の重量を測定する必要がある。また、トラック等の大型車両においては過積載の防止のために積載物の重量を測定したり、車両の総重量を測定することが必要になる。このような用途で利用可能な測定装置の従来技術は、例えば特許文献1及び特許文献2に開示されている。
【0003】
特許文献1は、温度変化により荷重センサ出力が変化しても容易にこれを補正し、積載重量や車両重量を測定するための技術を開示している。具体的には、出力変化が小さい時には、最新のセンサ検出出力に対しても温度変化前と同じ荷重演算値を出力するように補正処理を行なう。一方変化が大きい場合には補正は行なう事なく最新のセンサ検出出力を取込む。
【0004】
特許文献2は、積載量変化が少ない場合にも温度の変化による測定誤差を的確に排除して精度を改善するための技術を開示している。具体的には、荷重検出手段の出力変化または荷重演算値の変化が小さい場合でも挙動検出手段に所定値以上の出力変化が生じていれば、積載状況が変化したと判定して記憶中の積載荷重を荷重検出手段の出力に基づく最新の演算結果に更新する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10-9937号公報
【特許文献2】特開平11-160140号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
車両の車軸などにおいて荷重を検出する装置は、荷重を検出するために歪みゲージのようなセンサを利用しているので、温度変化の影響を受けて物理特性が変化し、出力信号に変動が発生する。そのため、温度変化が測定値に影響を及ぼすのを避けるために特許文献1及び特許文献2のような対策が必要になる。
【0007】
また、発熱する電子回路と歪みゲージなどのセンサとが一体に構成されたセンサユニットを利用する場合には、外気などの環境温度変化だけでなく、センサ自身の発熱に起因する内部温度の変化も考慮しなければならない。
【0008】
したがって、実際に荷重の測定を行う場合には、測定装置の電源を投入してから一定の待ち時間(例えば30分)を経過した後で、計測が可能であることを利用者に通知するように運用するのが一般的である。すなわち、測定装置の電源を投入してから一定の待ち時間を経過すれば、センサ自身の発熱に起因する内部温度の変動はほぼなくなると考えられるので、温度の変動に起因する計測誤差を減らすことができる。
【0009】
しかしながら、測定装置の電源を投入してから実際に内部温度の変動がなくなるまでの所要時間は一定ではない。例えば、センサ周辺の環境温度が比較的低い状況下では前記所要時間が長くなる傾向がある。したがって、前記待ち時間を経過した後で荷重の測定を行う場合でも、環境温度が低い状況下では内部温度の変動に起因する誤差が増大する可能性がある。また、内部温度の変動に起因する誤差を減らすために前記待ち時間を長めに定めると、実際に内部温度の変動がなくなった後も前記待ち時間を経過するまでは荷重の測定を開始できないので、無駄な時間が増えるのは避けられない。
【0010】
一方、特許文献1の技術を採用する場合には、所定値以下のセンサ出力変化が単純に温度変化に起因するものと判定されるため、この判定が間違いであった場合は荷重の測定精度が低下することが予想される。
【0011】
また、特許文献2の技術を採用する場合には、エンジンの始動/停止から所定時間経過した時点で温度補正を実施するので、無駄な待ち時間の発生は避けられず、待ち時間が不足する場合は内部温度の変動に起因して誤差が発生する。更に、車両の挙動を検出するためにGセンサや車高センサが必要になる。また、これらのセンサの出力は風などの影響を受けて変動するので、これが測定の誤差要因となる。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、センサの内部温度変動に起因する荷重測定誤差の発生を抑制すると共に、測定開始可能な状態になるまでの待ち時間を短縮することが可能な荷重センサシステムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る上記目的は、下記構成により達成される。
【0014】
車載器と、
車軸に取り付けられ、前記車載器と接続されたセンサユニットと、
を備え、
前記センサユニットは、ユニット内部で検出された内部温度の信号と、前記車軸上で検出された歪の信号とを出力する機能を有し、
前記車載器は、前記センサユニットから出力される信号に基づいて、前記内部温度が飽和する時間を推定し、推定した時間を通知する機能を有する、
荷重センサシステム。
【発明の効果】
【0015】
本発明の荷重センサシステムによれば、内部温度が飽和して温度変動がほとんど生じない状態になってから実際の荷重計測を開始できる。したがって、センサの温度特性に起因する誤差の発生が抑制され計測精度が向上する。また、装置の電源を投入してから荷重計測を開始するまでの待ち時間を短縮できる。
【0016】
以上、本発明について簡潔に説明した。更に、以下に説明される発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)を添付の図面を参照して通読することにより、本発明の詳細は更に明確化されるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る荷重センサシステムの構成を示すブロック図である。
【
図2】
図2は、1つの荷重センサユニットの構成例を示すブロック図である。
【
図3】
図3は、荷重センサシステムを搭載したトラック車両の構成例を表す正面図である。
【
図4】
図4は、荷重センサシステムを搭載したトラック車両の構成例を表す右側面図である。
【
図5】
図5は、荷重センサシステムを搭載したトラック車両の構成例を表す底面図である。
【
図6】
図6は、荷重センサユニットの内部温度と電源投入時からの経過時間との関係を示すグラフである。
【
図7】
図7は、温度-飽和時間テーブルの構成例を示す模式図である。
【
図8】
図8は、温度-飽和時間テーブルの特性例を示すグラフである。
【
図9】
図9は、荷重センサシステムを使用する前の事前準備の処理を示すフローチャートである。
【
図10】
図10は、荷重センサシステムにおける特徴的な動作の一部分を示すフローチャートである。
【
図11】
図11は、荷重センサシステムにおける特徴的な動作の一部分を示すフローチャートである。
【
図12】
図12は、荷重センサシステムにおけるテーブル更新処理の例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明に関する具体的な実施形態について、各図を参照しながら以下に説明する。
【0019】
<荷重センサシステムの構成>
図1は、本発明の実施形態に係る荷重センサシステムの構成を示すブロック図である。
【0020】
図1に示した荷重センサシステムは、車載器の本体として車両に搭載される電子制御装置10を備えている。また、この電子制御装置10に記録カード21、車両情報入力部22、車両電源23、無線通信部24、4つの荷重センサユニット25A~25D、位置情報取得部26、および設定用パソコン27が接続されている。
【0021】
また、電子制御装置10は、制御部11、本体メモリ12、警報出力部13、表示部14、入出力I/F(インタフェース)15、16、および電源部17を備えている。
【0022】
記録カード21は、電子制御装置10に対して着脱自在な不揮発性のメモリカードであり、運転者毎に個別に用意される。この記録カード21は、荷物の輸送品質に関連する情報を含む運行記録情報を記録するために利用できる。
【0023】
車両情報入力部22は、例えばイグニッションのオンオフを示す信号、車速信号など車両側の状態を表す情報を取得して電子制御装置10に入力することができる。
車両電源23は、車両に搭載されているバッテリーなどの電源であり、電子制御装置10等の車載器に対して所定の直流電力を供給することができる。
【0024】
無線通信部24は、例えばデータセンタなど車両外の管理装置と電子制御装置10との間を無線通信で接続するために利用できる。
【0025】
荷重センサユニット25A、25B、25C、および25Dは、それぞれ、前方左側(FL)、前方右側(FR)、後方左側(RL)、および後方右側(RR)の各位置の車輪を支持するサスペンションに加わる荷重の大きさを計測できるように設置されている。
【0026】
位置情報取得部26は、例えば、GPS(Global Positioning System)受信機などを利用して自車両の現在位置の緯度/経度を表す情報を取得することができる。
【0027】
設定用パソコン27は、電子制御装置10の機能を管理したり保守などを行う際に、必要に応じて電子制御装置10と接続することができる。例えば、電子制御装置10上のテーブルに必要なデータを登録したり、電子制御装置10の制御に用いる各種しきい値などのパラメータを調整する際に設定用パソコン27を利用できる。
【0028】
制御部11は、マイクロコンピュータを主体とする電子回路により構成され、事前に用意されたプログラムを実行することにより、電子制御装置10に必要とされる各種の制御機能を実現する。このプログラムの中には、4つの荷重センサユニット25A~25Dが検出した荷重に基づいて自車両の積載重量や総重量を演算する機能が含まれている。
【0029】
本体メモリ12は、事前に定めた各種定数データや電子制御装置10の動作に必要なプログラムが書き込まれた不揮発性メモリ(EEPROMなど)と、一時データを保持するためのメモリ(RAM)とを備えている。
【0030】
警報出力部13は、電子制御装置10に内蔵された警報ランプやブザーなどを用いて異常の発生を運転手に報知するために利用される。
【0031】
表示部14は、自車両の運転手の位置から視認が容易な状態で配置された平面ディスプレイを備えている。この平面ディスプレイの二次元画面に、カラー画像や文字情報などを必要に応じて表示できる。本実施形態では、重量の計測を開始可能な状態になるまでの待ち時間の長さを表示したり、計測可能になったことを表示するために表示部14を利用できる。
【0032】
入出力I/F15は、制御部11が記録カード21のデータにアクセスするための信号処理と、車両情報入力部22からの信号入力のための制御を実施する。入出力I/F16は、無線通信部24、位置情報取得部26、各荷重センサユニット25A~25D、および設定用パソコン27と制御部11との間の信号入出力のための制御を実施する。
【0033】
電源部17は、車両電源23から供給される電力に基づいて、安定した直流電力を生成する。電源部17が出力する直流電力は、電子制御装置10内部の各回路と、各荷重センサユニット25A~25Dへ電源として供給される。
【0034】
<荷重センサユニットの構成>
図2は、1つの荷重センサユニット25の構成例を示すブロック図である。
図1中に示した荷重センサユニット25A~25Dのそれぞれが
図2の荷重センサユニット25に相当する。
【0035】
図2に示すように、この荷重センサユニット25は、歪み検出素子31、専用IC(ASIC)32、温度センサ33、MCU(マイクロコントローラ、又はマイクロコンピュータ)34、入出力I/F35、および電源回路36を内蔵している。
【0036】
歪み検出素子31は、これが設置されている箇所に加わる荷重により生じる歪み量を検出する。専用IC32は、歪み検出素子31が検出した歪み量、すなわち荷重に相当する電圧(V)の電気信号を生成する。
【0037】
温度センサ33は、荷重センサユニット25内部の温度を歪み検出素子31の近傍で検出し、その内部温度に応じた電気信号を出力する。
【0038】
荷重センサユニット25内の各構成要素は、保護のため所定のケース内の比較的小さい空間に収容され外気から隔離されている。したがって、荷重センサユニット25の内部回路に対して電源電力供給を開始すると、専用IC32、MCU34、電源回路36などで生じる発熱の影響を受けてケース内の温度が変化する。この内部温度が、歪み検出素子31の物理特性に影響を及ぼす。この内部温度を温度センサ33が検出する。
【0039】
MCU34は、歪み検出素子31により検出された荷重の大きさを表すデータと、温度センサ33により検出された内部温度を表すデータをそれぞれ生成する。MCU34が生成した荷重および内部温度の検出データは、入出力I/F35を経由して電子制御装置10に入力される。
【0040】
<計測対象のトラック車両の構成例>
荷重センサシステムを搭載したトラック車両41の構成例を
図3~
図5に示す。
図3はトラック車両41の正面図、
図4はトラック車両41の右側面図、
図5はトラック車両41の底面図である。
【0041】
図3に示した例では、トラック車両41の運転席の近傍に電子制御装置10が設置されている。電子制御装置10に接続された4つの荷重センサユニット25A、25B、25C、および25Dは、それぞれ、左前方の車輪44A、右前方の車輪44B、左後方の車輪44C、および右後方の車輪44Dの近傍に設置されている。
【0042】
トラック車両41の荷台42の内部空間に、様々な荷物が積載される。荷物の積載状況に応じて、各位置の荷重が変動する。また、各位置の荷重のバランスに応じて、車軸43Aの傾斜角度、車軸43Bの傾斜角度、および前後方向の車軸の傾斜角度が変動する。
【0043】
複数の荷重センサユニット25A、25B、25C、および25Dをそれぞれ適切な位置に設置することで、各車軸43A、43Bに傾斜が生じている場合でも、各荷重センサユニット25A~25Dがそれぞれ検出した荷重に基づいて、トラック車両41における積載重量や総重量を計算により比較的高精度で求めることが可能である。
【0044】
<センサ内部温度の変化>
図6は、荷重センサユニット25の内部温度と電源投入時からの経過時間との関係を示すグラフである。
図6において、横軸は電源投入時からの経過時間の長さ[分]を表し、縦軸は内部温度[℃]を表す。
【0045】
図6において、温度特性カーブC1は内部温度が0[℃]の状態で電源を投入した場合の内部温度の変化を表している。また、温度特性カーブC2は内部温度が24[℃]の状態で電源を投入した場合の内部温度の変化を表している。
【0046】
一方、
図1に示したような荷重センサシステムにおいては、各荷重センサユニット25A~25D内の歪み検出素子31の特性が温度に応じて変化する。したがって、内部温度が変動している時に荷重の計測を実施すると大きな計測誤差が生じる可能性がある。
【0047】
特に、
図1に示した荷重センサシステムの場合は電源を投入してからしばらくの間(時間は一定ではない)は、荷重センサユニット25内の電子回路の発熱に起因して
図6中の温度特性カーブC1、C2のように内部温度が上昇するので、内部温度が変動している間に計測を実施すると精度の高い計測結果が得られない。
【0048】
そこで、内部温度の変動に起因する計測誤差の増大を避けるために、装置の電源を投入してから一定の待ち時間を経過するまでは、計測を行わないように運用することが一般的に行われている。つまり、装置の電源を投入してから所定の待ち時間を経過すれば、内部温度が飽和して安定すると考えられるので、内部温度の変動に起因する計測誤差の発生を抑制できる。
【0049】
しかし、例えば温度特性カーブC1、C2の違いから分かるように内部温度の実際の変動は一定ではないので、待ち時間を一定時間にした場合には、待ち時間の過不足が発生する。つまり、待ち時間が短すぎる場合は内部温度の変動が継続している時に計測を開始してしまうので、比較的大きい計測誤差が発生する可能性がある。また、待ち時間が長すぎる場合は、既に内部温度が安定した状態に到達していても作業者等は時間待ちを続けなければならないので時間の無駄が生じる。
【0050】
そこで、
図1に示した荷重センサシステムは、内部温度が安定した状態に到達するまでの適切な時間の長さを状況に応じて推定すると共に、その時間を使用者に通知する機能を備えている。
【0051】
<温度-飽和時間テーブル>
図7は、温度-飽和時間テーブル61の構成例を示す模式図である。
図8は、温度-飽和時間テーブル61の特性例を示すグラフである。
【0052】
荷重センサユニット25における内部温度は、
図6に示した2種類の温度特性カーブC1、C2のように電源投入時から時間の経過と共に指数関数的な曲線に沿ってゆっくりと上昇する。また、この曲線の勾配は時間経過と共に徐々に小さくなり、いずれ飽和点に到達して温度の変動がほぼなくなる。また、この曲線は主に電源投入時における内部温度に依存して温度特性カーブC1、C2のように大きく変化する。
【0053】
図8に示した予測飽和時間は、電源投入時から内部温度が飽和点に到達するまでの時間の長さの予測値を表し、電源投入時における荷重センサユニット25の内部温度に応じて変化する。つまり、荷重センサユニット25における電源投入時の内部温度と予測飽和時間との間には、例えば
図8に示すような相関関係がある。
【0054】
そこで、本実施形態においては、例えば実験により測定して得られたデータに基づいて、
図7に示すような温度-飽和時間テーブル61を事前に作成しておく。この温度-飽和時間テーブル61を利用することで、電源投入時の内部温度から予測飽和時間を容易に求めることができる。
【0055】
図7に示した温度-飽和時間テーブル61においては、センサ内温度を表すデータ項目61aのデータと、予測飽和時間を表すデータ項目61bのデータとを互いに紐付けした状態で並べて登録してある。
【0056】
例えば、電源投入時の内部温度が0[℃]の場合には、
図7中に示した温度-飽和時間テーブル61のデータ項目61bの内容から、30[分]の予測飽和時間を求めることができる。また、電源投入時の内部温度が40[℃]の場合には、温度-飽和時間テーブル61のデータ項目61bの内容から、8[分]の予測飽和時間を求めることができる。
【0057】
なお、
図7の温度-飽和時間テーブル61において、センサ内温度を表すデータ項目61aの代わりに、例えば電源投入時から1[分]の時間を経過するまでの実際の温度変動の勾配(初期の1分あたりの温度変化)のデータを登録してもよい。
【0058】
<荷重センサシステムの動作>
<事前準備の処理>
図1に示した荷重センサシステムを使用する前の事前準備の処理を
図9に示す。
【0059】
荷重センサシステムにおいては、最初に電子制御装置10を使用する前に、電子制御装置10の動作に必要なデータを設定用パソコン27を用いて入力し登録する場合を想定している。したがって、必要なデータが予め電子制御装置10に登録してある場合は
図9の処理は不要である。
【0060】
図1に示した荷重センサシステムの管理者は、例えば事前に実験を行った結果として、
図8に示すような相関関係のデータを設定用パソコン27上に準備しておく。そして、このデータを設定用パソコン27から電子制御装置10に転送し、
図7に示すような温度-飽和時間テーブル61として電子制御装置10上の不揮発性メモリ(例えば本体メモリ12)に書き込み登録する(S01)。
【0061】
また、管理者は設定用パソコン27を操作して、内部温度が飽和したか否かを識別するための判定で用いる温度勾配の閾値を決定し、この閾値を電子制御装置10上の不揮発性メモリ(例えば本体メモリ12)に書き込み登録する(S02)。
【0062】
【0063】
制御部11は、荷重センサユニット25A~25Dに対する電源電力供給が開始されたか否かをS11で識別し、電源電力供給が開始されるとS11からS12の処理に進む。
制御部11は、荷重センサユニット25A~25Dのそれぞれが出力する歪み(該当部位の荷重)及び内部温度(t)の最新データをS12で取得する。
【0064】
制御部11は、前輪右側(FR)位置の車軸上で荷重を検出する荷重センサユニット25Bが検出した内部温度のデータに基づき、温度-飽和時間テーブル61を参照して、FR位置の予測飽和時間TFRのデータを取得する(S13)。
【0065】
制御部11は、前輪左側(FL)位置の車軸上で荷重を検出する荷重センサユニット25Aが検出した内部温度のデータに基づき、温度-飽和時間テーブル61を参照して、FL位置の予測飽和時間TFLのデータを取得する(S14)。
【0066】
制御部11は、後輪右側(RR)位置の車軸上で荷重を検出する荷重センサユニット25Dが検出した内部温度のデータに基づき、温度-飽和時間テーブル61を参照して、RR位置の予測飽和時間TRRのデータを取得する(S15)。
【0067】
制御部11は、後輪左側(RL)位置の車軸上で荷重を検出する荷重センサユニット25Cが検出した内部温度のデータに基づき、温度-飽和時間テーブル61を参照して、RL位置の予測飽和時間TFRのデータを取得する(S16)。
【0068】
制御部11は、各位置の予測飽和時間TFR、TFL、TRR、TRLの中の最大値を予測飽和時間TP0として特定する(S17)。
制御部11は、警報出力部13の音声出力機能や、表示部14の表示機能を用いて、S17で特定した予測飽和時間TP0を電子制御装置10の利用者に通知する(S18)。
【0069】
制御部11は、所定の内部タイマに予測飽和時間TP0の長さをセットして、この内部タイマのカウントダウンを開始する(S21)。すなわち、予測飽和時間TP0が経過したか否かを内部タイマにより把握可能にする。
【0070】
制御部11は、内部カウンタCの値をS22でクリアする。
制御部11は、S12で各荷重センサユニット25A~25Dからそれぞれ取得した内部温度(t)のデータをS23で内部メモリt0に記憶する。
【0071】
制御部11は、内部タイマのカウントダウンが終了したか否かをS24で識別し、終了してなければS25に進み、終了した場合はS30の処理に進む。
制御部11は、荷重センサユニット25A~25Dのそれぞれが出力する歪み(該当部位の荷重)及び内部温度(t)の最新データをS25で取得する。
【0072】
制御部11は、各位置の荷重センサユニット25A~25Dの内部温度(t)について、温度勾配ΔtをS26でそれぞれ算出する。この温度勾配Δtは単位時間あたりの温度変化として算出できるので、S25で取得した最新の内部温度(t)と、前回の内部温度の値を保持する内部メモリt0の値との差分として求める。
【0073】
制御部11は、S26で算出した温度勾配Δtとその閾値(例えば0.1℃)とをS27で比較する。そして、FR、FL、RR、RL各位置の温度勾配Δt全てが閾値以内に収束した場合にはS27からS28に進み、閾値以内に収束していない場合はS22に戻って上記の処理を繰り返す。
【0074】
前記内部タイマのカウントダウンが終了した場合は、制御部11は警報出力部13の音声出力機能や、表示部14の表示機能を用いて、電子制御装置10が計測可能な状態になったことを利用者に通知する(S30)。
【0075】
制御部11は、内部カウンタCの値に「1」を加算してこれを更新する(S28)。すなわち、S27の条件を満たした回数を内部カウンタCの値で管理する。
【0076】
制御部11は、内部カウンタCの値をその閾値(例えば「3」)と比較する(S29)。そして、内部カウンタCの値が閾値以上になった場合はS29からS31の処理に進み、この条件を満たさない場合はS23に戻って上記の処理を繰り返す。
【0077】
つまり、FR、FL、RR、RL各位置の温度勾配Δt全てが十分に収束し、内部温度が飽和状態で安定したとみなせる状態になると、制御部11はS29からS31の処理に進む。したがって、実際に内部温度が飽和状態で安定すると、S18で特定した予測飽和時間TP0が経過する前であってもS31の処理に進むことができる。
【0078】
制御部11は、内部温度に関する実績データをS31で記録する。すなわち、予測飽和時間TP0が経過する前に内部温度が飽和状態で安定した場合には、その実績データを後述する実績データ記録部62で保存する。この実績データは、S12で取得した電源投入直後の各センサの内部温度と、S29の条件を満たすまでの経過時間のデータを含む。この経過時間は、予測飽和時間TP0と内部タイマの値との差分として取得できる。
【0079】
予測飽和時間TP0が経過する前に内部温度が飽和状態で安定した場合には、制御部11は警報出力部13の音声出力機能や、表示部14の表示機能を用いて、電子制御装置10が計測可能な状態になったことを利用者に通知する(S32)。
【0080】
電子制御装置10が計測可能な状態になった後、4つの荷重センサユニット25A~25Dがそれぞれ検出した歪み量のデータと内部温度のデータとに基づいて、温度補正された荷重をFR、FL、RR、及びRLのそれぞれの位置について算出できる。更に、これらの荷重を加算することで、トラック車両41全体の総重量、又は積載重量を算出することができる。
【0081】
<テーブル更新処理>
図12は、荷重センサシステムにおけるテーブル更新処理の例を示すフローチャートである。
図12の処理について以下に説明する。
【0082】
温度-飽和時間テーブル61の内容に基づいて決定された予測飽和時間TP0よりも短い時間内に内部温度が実際に飽和した場合には、その実績データが
図11のS31で実績データ記録部62に記録されている。したがって、実績データ記録部62上の実績データを利用して
図12の処理を実行することで、温度-飽和時間テーブル61の内容をより適切なデータに更新することが可能である。
【0083】
例えばテーブルの更新処理が必要とされる定期的なタイミングになると、あるいは使用者の操作により設定用パソコン27からの更新指示が発生すると、電子制御装置10の制御部11はS41からS42の処理に進む。そして、制御部11は実績データ記録部62に登録されている実績データを取得して、所定の統計処理により実績データの分析を実施する。
【0084】
例えば、実績データにおける電源投入直後の内部温度毎に、S29の条件を満たした時の経過時間の平均値を制御部11がS42で算出する。
【0085】
制御部11は、S42で実績データを分析して得られたデータと、温度-飽和時間テーブル61の内容とをS43で比較して内部温度毎の時間の差分を求め、この差分を考慮して最適化した更新データを生成する。
制御部11は、S43で生成した更新データをS44で温度-飽和時間テーブル61に登録し、温度-飽和時間テーブル61の内容を更新する。
【0086】
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜、変形、改良、等が可能である。その他、上述した実施形態における各構成要素の材質、形状、寸法、数、配置箇所、等は本発明を達成できるものであれば任意であり、限定されない。
【0087】
例えば、
図1に示した荷重センサシステムにおいては、同時に4つの荷重センサユニット25A~25Dを利用する場合を想定しているが、使用する荷重センサユニット25の数が1つの場合でも本発明を適用できる。また、車両の車軸の数に応じて更に使用する荷重センサユニット25の数を増やすことも想定される。
【0088】
また、
図1に示した荷重センサシステムにおいては、4つの荷重センサユニット25A~25Dのそれぞれが温度センサ33を内蔵する場合を想定しているが、4つの荷重センサユニット25A~25Dのうち1つ以上に温度センサ33があれば、内部温度の飽和時間を予測可能である。
【0089】
また、上述の荷重センサシステムにおいては、温度-飽和時間テーブル61を利用して予測飽和時間を算出しているが、事前に定めた定数や所定の計算式とを利用して、電源投入時の内部温度、又は電源投入直後の内部温度変化の勾配から、計算により飽和時間を推定することもできる。
【0090】
ここで、上述した本発明の実施形態に係る荷重センサシステムの特徴をそれぞれ以下[1]~[5]に簡潔に纏めて列記する。
[1] 車載器(電子制御装置10)と、
車軸(43A、43B)に取り付けられ、前記車載器と接続されたセンサユニット(荷重センサユニット25)と、
を備え、
前記センサユニットは、ユニット内部で検出された内部温度の信号と、前記車軸上で検出された歪の信号とを出力する機能を有し、
前記車載器は、前記センサユニットから出力される信号に基づいて、前記内部温度が飽和する時間を推定し(S12~S17)、推定した時間を通知する(S18)機能を有する、
荷重センサシステム。
【0091】
上記[1]の構成の荷重センサシステムによれば、センサユニットにおける内部温度が飽和する時間を推定して通知するので、内部温度に変動が生じない状態で荷重の測定を開始できる。そのため、装置内部での発熱に起因する温度変動に伴う測定誤差を減らすことができる。しかも、内部温度が飽和するまでの待ち時間を短縮し、無駄な時間を減らすことができる。
【0092】
[2] 前記車載器は、前記内部温度に対応する複数の温度値のそれぞれについて、前記内部温度が飽和温度に到達するまでの所要時間の定数を保持する温度飽和テーブル(温度-飽和時間テーブル61)を備え、
前記内部温度の測定値から前記温度飽和テーブルに基づいて、前記内部温度が飽和温度に到達するまでの所要時間(予測飽和時間TP0)を推定する、
上記[1]に記載の荷重センサシステム。
【0093】
上記[2]の構成の荷重センサシステムによれば、複雑な計算処理を必要とすることなく、所要時間を比較的高精度でしかも瞬時に算出できる。
【0094】
[3] 前記車載器は、前記内部温度の測定値の変化を監視する温度変化監視部(S25~S29)を有し、
前記車載器は、前記温度変化監視部が前記内部温度の測定値の飽和を検知した場合には、前記内部温度の推定時間に到達する前に温度飽和の通知を許可する(S29、S32)、
上記[1]又は[2]に記載の荷重センサシステム。
【0095】
上記[3]の構成の荷重センサシステムによれば、推定時間が経過する前に内部温度の測定値が飽和した場合には、荷重の計測を開始するまでの待ち時間を推定時間に対して短縮できる。
【0096】
[4] 前記車載器は、前記内部温度の測定値の変化を監視する温度変化監視部(S25~S29)を有し、
前記車載器は、前記温度変化監視部が前記内部温度の測定値の飽和を検知した時間の実績を反映して、前記温度飽和テーブルの登録内容を更新する(
図12参照)、
上記[2]又は[3]に記載の荷重センサシステム。
【0097】
上記[4]の構成の荷重センサシステムによれば、実際の使用環境下で検出した内部温度および時間の実績データを反映して、温度飽和テーブルの内容を最適化することが容易になる。
【0098】
[5] 互いに異なる位置に配置された複数の前記センサユニット(荷重センサユニット25A~25D)が前記車載器に接続され、
前記車載器は、前記複数のセンサユニットのそれぞれの内部温度が飽和する時間の中で、最も遅い時間を優先的に通知する(S17、S18)、
上記[1]から[4]のいずれかに記載の荷重センサシステム。
【0099】
上記[5]の構成の荷重センサシステムによれば、同時に使用する複数のセンサユニットの中に内部温度の変動特性が大きく異なるセンサユニットが含まれている場合でも、全てのセンサユニットの内部温度の変動がなくなった後で、荷重の計測を開始できる。したがって、計測結果の信頼性が向上する。
【符号の説明】
【0100】
10 電子制御装置
11 制御部
12 本体メモリ
13 警報出力部
14 表示部
15,16 入出力I/F
17 電源部
21 記録カード
22 車両情報入力部
23 車両電源
24 無線通信部
25,25A,25B,25C,25D 荷重センサユニット
26 位置情報取得部
27 設定用パソコン
31 歪み検出素子
32 専用IC
33 温度センサ
34 MCU
35 入出力I/F
36 電源回路
41 トラック車両
42 荷台
43A,43B 車軸
44A,44B,44C,44D 車輪
61 温度-飽和時間テーブル
61a,61b データ項目
62 実績データ記録部
C1,C2 温度特性カーブ
TFR,TFL,TRR,TRL 時間
TP0 予測飽和時間