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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154346
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】高層煙突の転倒方法
(51)【国際特許分類】
   E04G 23/08 20060101AFI20231012BHJP
【FI】
E04G23/08 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063627
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】522139419
【氏名又は名称】合同会社カルカット開発
(74)【代理人】
【識別番号】100108604
【弁理士】
【氏名又は名称】村松 義人
(72)【発明者】
【氏名】川添 栄一
【テーマコード(参考)】
2E176
【Fターム(参考)】
2E176AA07
2E176AA13
2E176DD10
2E176DD61
2E176DD64
(57)【要約】
【課題】高層煙突を所望の方向に転倒させる技術を提供する。
【解決手段】4本の煙突体110を含む高層煙突100の上端から地上に向けて、2本の牽引用線状体2と、2本の支持用線状体3をわたす。牽引用線状体2は、高層煙突100を転倒させる方向に重なる仮想の線分である前方線に対して対称とされ、同じ力で牽引される。支持用線状体3は、前方線と逆向きに伸びる後方線に対して対称な関係とされ、その両端部は地上に固定される。その後4本の煙突体110の基端付近をそれぞれ切断する。その後2本の支持用線状体3を切断すると、高層煙突100は牽引用線状体2に引かれて倒れる。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面視した場合に、地上に描かれた仮想の正方形の頂点に対応する位置にそれらそれぞれの下端を固定された高層の4本の煙突である煙突体を一組として含む高層煙突を解体のために転倒させる転倒方法であって、
前記高層煙突の上端から地上に向けて、前記高層煙突を転倒させる方向である転倒方向に伸びる仮想の線である前方線を挟む2つの方向にそれぞれ伸びる線状体である牽引用線状体を張り渡し、2本の前記牽引用線状体のそれぞれを、2本の前記牽引用線状体が前記高層煙突にそれぞれ与える力の合力が、前記転倒方向となるように地上に向けて牽引するとともに、前記高層煙突の上端から地上に向けて、前記転倒方向の逆方向に伸びる仮想の線である後方線を挟む2つの方向に伸びる線状体である支持用線状体を張り渡し、2本の前記支持用線状体の地上側の端部を地上に固定する第1過程と、
前記第1過程の後に実行される、前記高層煙突に含まれる前記4本の煙突体の下端付近をそれぞれ切断する第2過程と、
前記第2過程の後に実行される、2本の前記支持用線状体をそれぞれ切断する第3過程と、
前記第3過程の後に実行される、前記牽引用線状体を引き続き牽引することで前記高層煙突を、前記転倒方向に向けて引き倒す第4過程と、
を含む、
高層煙突の転倒方法。
【請求項2】
前記前方線は、平面視した場合における前記正方形のうちの1つの対角線の延長方向に伸びる、
請求項1記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項3】
前記第2過程では、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するものを、当該煙突体の高さ方向の複数箇所で切断する、
請求項2記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項4】
前記第2過程では、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するものと前記後方線に近接するものを除いた2本の前記煙突体を、同じ高さで切断する、
請求項2記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項5】
前記第2過程が実行される前に実行される、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するものにおける複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置と、当該位置から離れた地上或いは地上に固定された物の所定の位置とを、その一端と他端との距離を縮めるための近接手段を備える線状体である補助線状体の一端と他端とでそれぞれ固定的に繋ぐ補助接続過程と、
前記第3過程の後に実行される、前記近接手段により前記補助線状体の両端の距離を縮めることにより、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するものにおける複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置を、前記補助線状体の一端で牽引する補助牽引過程を更に含む、
請求項3記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項6】
前記補助接続過程では、前記補助線状体の前記他端が、前記後方線の延長線上の前記後方線の手前側に固定される、
請求項5記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項7】
前記補助接続過程では、前記補助線状体の前記他端が、前記4本の前記煙突体のうち、前記後方線に近接するものにおける切断箇所の下側に固定される、
請求項6記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項8】
前記前方線は、平面視した場合における前記正方形のうちの任意の一辺から当該辺に対して垂直方向に伸びる、
請求項1記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項9】
前記第2過程では、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するもの2本を、当該煙突体の高さ方向の複数箇所で切断する、
請求項8記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項10】
前記第2過程では、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接する2本の前記煙突体を、同じ高さで切断する、
請求項8記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項11】
前記第2過程が実行される前に実行される、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するもののうちの一方における複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置と、当該位置から離れた地上或いは地上に固定された物の所定の位置とを、その一端と他端との距離を縮めるための近接手段を備える線状体である補助線状体の一端と他端とでそれぞれ固定的に繋ぐとともに、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するもののうちの他方における複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置と、当該位置から離れた地上或いは地上に固定された物の所定の位置とを、その一端と他端との距離を縮めるための近接手段を備える線状体である補助線状体の一端と他端とでそれぞれ固定的に繋ぐ補助接続過程と、
前記第3過程の後に実行される、2つの前記近接手段により前記補助線状体の両端の距離を縮めることにより、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するもの双方における複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置を、前記補助線状体の一端で牽引する補助牽引過程を更に含む、
請求項9記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項12】
前記補助接続過程では、2本の前記補助線状体の前記他端のそれぞれが、当該補助線状体の前記他端の後方であって、前記仮想の正方形の中に固定される、
請求項11記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項13】
前記補助接続過程では、2本の前記補助線状体の前記他端のそれぞれが、当該補助線状体の前記一端が固定された前記煙突体の後方に位置する前記煙突体における切断箇所の下側に固定される、
請求項12記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項14】
前記第1過程では、2本の前記支持用線状体を前記高層煙突と地上との間に張り渡してから、2本の前記牽引用線状体を牽引し、2本の前記牽引用線状体による牽引によって前記高層煙突の上端を僅かに前記前方線方向に傾かせることによって、2本の前記支持用線状体に張力を入れるようにする、
請求項1、2又は8記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項15】
前記補助線状体における前記近接手段として、前記補助線状体の長さ方向の任意の部分に前記補助線状体の長さ方向に伸縮できるようにして取付けられた、伸縮可能なジャッキを用いる、
請求項5又は11記載の高層煙突の転倒方法。
【請求項16】
前記第2過程における、前記高層煙突に含まれる前記4本の煙突体の下端付近のそれぞれの切断を、遠隔操作により行う、
請求項1記載の高層煙突の転倒方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高層煙突を解体のために転倒させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
本願では、高層煙突を以下のように定義する。
本願における高層煙突とは、「平面視した場合に、地上に描かれた仮想の正方形の頂点に対応する位置にそれらそれぞれの下端を固定された高層の4本の煙突である煙突体を一組として含む、高層の煙突」を意味する。
このような高層煙突は、例えば、火力発電所の煙突としてよく見られる。煙を含む排気を発生させるボイラーは高層煙突の側に設けられており、高層煙突、或いはそれを構成する各煙突体は、地上から上方に伸びる。
高層煙突は文字通り高層でありその高さが非常に高い。周知のように煙突体の上端からは排気が排出されるが、生活圏に排気を排出することを防止する観点から、高層煙突の高さは非常に高くされているのである。高層煙突の高さは場合によっては200mを超え、その重量は場合によっては6000tを超える。
【0003】
上述のような高層煙突にも当然に、他の建造物と同様に耐用年数があり、耐用年数を迎えた高層煙突は解体される。
高層煙突を解体する場合には、例えば、高層煙突の隣に高層の足場とクレーンを建て、上方から少しずつ解体を行い生じた瓦礫を地上に下ろすという技術が用いられている。
しかしながら、そのような高層の足場とクレーンを建てるのはコストが嵩む。また、上述の技術を実施する場合には、高所での狭い足場での不自由な作業を強いられるから、高層煙突の解体作業に必要な時間が長期化する。そして、何より、高所での作業は危険である。高さ200mの場所では地上の2倍程度の風速の風が吹いていることが通常であるから、作業者にはなおさら危険がつき纏う。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
そのような高所の作業を必要としない高層煙突の解体作業について研究を重ねていたところ、本願発明者に、高層煙突の解体を行うに先立って、高層煙突を地上に転倒させてしまえば良いというアイデアが浮かんだ。高層煙突を地上に転倒させてしまえば、横倒しになった高層煙突の解体には高所の作業が生じないから、上述したようなコスト高、作業期間の長期化、作業の危険性といった問題をまとめて解決することができる。
しかしながら、高層煙突を転倒させるには危険がある。例えば、非常に高い高層煙突が予期せぬ方向に倒れたら、それこそ重大な事象を引き起こす可能性がある。
そして、高層煙突を所望の方向に転倒させる技術は今の所存在していない。
【0005】
本発明は、高層煙突を所望の方向に転倒させる技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述の課題を解決するための本発明は、以下のようなものである。
平面視した場合に、地上に描かれた仮想の正方形の頂点に対応する位置にそれらそれぞれの下端を固定された高層の4本の煙突である煙突体を一組として含む高層煙突を解体のために転倒させる転倒方法である。つまり、本願発明は、背景技術の欄で説明した高層煙突を転倒させる転倒方法(以下、単に、「転倒方法」という場合がある。)である。4本の煙突体はそれぞれ、概ね鉛直方向に伸びる。多くの場合、4本の煙突体は、上端に近づくに連れて、平面視した場合に、仮想の正方形の重心に近づくように、互いに近づいていくようになっている。4本の煙突体は、多くの場合、高さ方向の複数の位置で互いに接続されており、結果として一体となっている。
高層煙突の転倒方法は、前記高層煙突の上端から地上に向けて、前記高層煙突を転倒させる方向である転倒方向に伸びる仮想の線である前方線を挟む2つの方向にそれぞれ伸びる線状体である牽引用線状体を張り渡し、2本の前記牽引用線状体のそれぞれを、2本の前記牽引用線状体が前記高層煙突にそれぞれ与える力の合力が、前記転倒方向となるように地上に向けて牽引するとともに、前記高層煙突の上端から地上に向けて、前記転倒方向の逆方向に伸びる仮想の線である後方線を挟む2つの方向に伸びる線状体である支持用線状体を張り渡し、2本の前記支持用線状体の地上側の端部を地上に固定する第1過程と、前記第1過程の後に実行される、前記高層煙突に含まれる前記4本の煙突体の下端付近をそれぞれ切断する第2過程と、前記第2過程の後に実行される、2本の前記支持用線状体をそれぞれ切断する第3過程と、前記第3過程の後に実行される、前記牽引用線状体を引き続き牽引することで前記高層煙突を、前記転倒方向に向けて引き倒す第4過程と、を含む。
【0007】
高層煙突の転倒方法は、上述したように、高層煙突の上端から地上に向けて、高層煙突を転倒させる方向である転倒方向に伸びる仮想の線である前方線を挟む2つの方向にそれぞれ伸びる線状体である牽引用線状体を張り渡し、2本の牽引用線状体のそれぞれを、2本の牽引用線状体が高層煙突にそれぞれ与える力の合力が、転倒方向となるように地上に向けて牽引するとともに、高層煙突の上端から地上に向けて、転倒方向の逆方向に伸びる仮想の線である後方線を挟む2つの方向に伸びる線状体である支持用線状体を張り渡し、2本の支持用線状体の地上側の端部を地上に固定する第1過程を含む。
第1過程では、高層煙突の上端から地上に向けて4本の線状体をわたす。4本の線状体のうちの2本が牽引用線状体であり、他の2本が支持用線状体である。牽引用線状体、支持用線状体ともに、例えば、丈夫なワイヤとすることができる。
牽引用線状体は、高層煙突に、それを、予定された方向(後述する転倒方向)に引き倒すような力を加えるための線状体である。牽引用線状体は、平面視した場合において、前方線を挟む2つの方向で、高層煙突の上端から地上に向けてそれぞれ伸びる。前方線は、例えば、平面視した場合における仮想の正方形のうちの1つの対角線の延長方向(仮想の正方形から外に伸びる方向)に地表上で伸びる直線とすることができ、或いは、平面視した場合における前記正方形のうちの任意の一辺から当該辺に対して地表上で垂直方向に伸びる直線とすることができる。前方線は、高層煙突を転倒させる方向である転倒方向に伸びる仮想の線である。
2本の牽引用線状体は、例えば、公知或いは周知の牽引装置(ウィンチ等)によって、高層煙突を引き倒す方向に牽引される。2本の牽引用線状体が高層煙突に与える力は、それらの合力が、前記転倒方向となる向きとなるようにする。必ずしもそうする必要はないが、平面視した場合における2本の牽引用線状体の高層煙突から地上にわたる部分が、前方線に対して線対称の関係にあるのであれば、2本の牽引用線状体を牽引する力を同じとすれば、2本の牽引用線状体が高層煙突に与える力の合力は、転倒方向或いは前方線と重なることになる。なお、2本の牽引用線状体は、地上に降りたその位置で牽引を行われる必要はなく、そこから例えば滑車などを介して延長された他の位置で牽引されてももちろん構わない。牽引用線状体の牽引装置にまでに至る間に、牽引装置による牽引用線状体を牽引する力を倍加させるような例えば複数の滑車を組合せた工夫を行うことも当然に可能である。
支持用線状体は、牽引用線状体からの力によって転倒しようとする高層煙突を、高層煙突を転倒させるべき適当なタイミングまで転倒させないようにする役割を担う線状体である。支持用線状体は、平面視した場合において、後方線を挟む2つの方向に、地上に向けてそれぞれ伸びる。後方線とは、上述の仮想の正方形から、転倒方向の逆方向に伸びる仮想の線である。支持用線状体は、高層煙突の予期せぬ転倒を防ぐための目的で用いられるものであるため、牽引は必要ない。つまり、支持用線状体の地上側の端部は、地上に固定される。必ずしもそうする必要はないが、平面視した場合における2本の支持用線状体の高層煙突から地上にわたる部分が、後方線を挟んで線対称の関係にあるのであれば、仮に予期せぬタイミングで高層煙突が転倒しようとした場合において高層煙突から支持用線状体にはたらく反力が同じとなるので、高層煙突の、或いは両支持用線状体のバランスを保つには好ましい。
【0008】
本願の高層煙突の転倒方法は、上述したように、第1過程の後に実行される、高層煙突に含まれる4本の煙突体の下端付近をそれぞれ切断する第2過程を含む。
第2過程では4本の煙突体の下端付近をそれぞれ切断する。これにより、高層煙突は、外力が加えられれば倒れる状態となる。ただし、高層煙突は、非常に重量が大きいので、ある程度以上の外力が加えられない限り、4本の煙突体の下端付近を切断されたとしても簡単には倒れない。例えば、高層煙突は、牽引用線状体から力を加えられたとしても、その力を支持用線状体が打消すため、4本の煙突体の下端付近を切断されたとしても倒れない。
本願の高層煙突の転倒方法は、上述したように、第2過程の後に実行される、2本の支持用線状体をそれぞれ切断する第3過程を含む。
第2過程によって4本の煙突体の下端付近が切断されたとしても、支持用線状体が存在する限り、高層煙突は簡単には転倒しない。第3過程で、支持用線状体をそれぞれ切断すると、高層煙突は支持用線状体から受けていた、牽引用線状体から受ける力を打消す反力を失う。それにより、高層煙突は、2本の牽引用線状体からその上端に受ける力によってその上端を地上に向けて引っ張られ、転倒する状態となる。
本願の高層煙突の転倒方法は、上述したように、第3過程の後に実行される、牽引用線状体を引き続き牽引することで高層煙突を、転倒方向に向けて引き倒す第4過程を含む。
これにより、高層煙突は、予定された方向、つまり転倒方向に、大きなずれがなく転倒する。
転倒させた高層煙突は、適当な技術、例えば、公知或いは周知の技術を用いて解体すれば良い。その作業は地上で行うため安全であり、コスト、工期の面でも有利である。
【0009】
本願発明の転倒方法では、前方線が、平面視した場合における仮想の正方形のうちの1つの対角線の延長方向に伸びるようになっている場合がある。このようにすると、本願発明の転倒方法を実施した場合において高層煙突が転倒させられる予定された方向は、平面視した場合における仮想の正方形のうちの1つの対角線の延長方向となる。そのような方向に高層煙突を転倒させようとするのであれば、その対角線を挟む位置にある2つの煙突体が他方の対角線方向に高層煙突が転倒するのを抑制するため、高層煙突の転倒方向を予定した方向に収めるのに役立つ。
上述したように、第2過程では、4本の煙突体のすべてをそれらの下端付近で切断する。各煙突体を切断する位置と数は、必ずしもこの限りではないが、以下のようにすることができる。
前方線が、平面視した場合における仮想の正方形のうちの1つの対角線の延長方向に伸びるようになっている場合、前記第2過程では、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するものを、当該煙突体の高さ方向の複数箇所で切断することができる。煙突体を、地上に近い複数の位置で切断すると、当該煙突体のうち、複数の切断箇所の間に属する部分を、その上下から抜けるようになる。4本の煙突体のうち前方線に近接する煙突体の、複数の切断箇所の間に属する部分が当該煙突体の上下の部分から抜け落ちれば、高層煙突は転倒方向に向けて予定された通りに自然に倒れ易くなる。
前方線が、平面視した場合における仮想の正方形のうちの1つの対角線の延長方向に伸びるようになっている場合、前記第2過程では、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するものと前記後方線に近接するものを除いた2本の前記煙突体を、同じ高さで切断することができる。こうすることにより、仮想の正方形の中の前方線と後方線とを繋ぐ対角線を挟んで対称の位置にその下端が位置する2本の煙突体は、対角線を挟んで対称の位置にあるのみならず、その切断された高さも等しくなるため、高層煙突が倒れるときにおいて、切断された部分よりも下の部分が支点として機能することになる。それにより、高層煙突は転倒方向に向けて予定された通りに自然に倒れ易くなる。この場合、すべての煙突体において、それらの切断される位置の高さを一致させることも可能である。加えて、前方線に近接する煙突体は、他の煙突体と同じ高さ位置で切断された位置よりも上側の少なくとも1箇所で更に切断されてもよい。
【0010】
上述したように、第2過程では、4本の煙突体のうち、前方線に近接するものを、当該煙突体の高さ方向の複数箇所で切断してもよい。前方線が、平面視した場合における仮想の正方形のうちの1つの対角線の延長方向に伸びるようになっている場合であって、前方線に近接する煙突体を高さ方向の複数箇所で切断する場合、本願発明の高層煙突の転倒方法は、以下のようなものとすることができる。
即ち、この場合における高層煙突の転倒方法は、前記第2過程が実行される前に実行される、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するものにおける複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置と、当該位置から離れた地上或いは地上に固定された物の所定の位置とを、その一端と他端との距離を縮めるための近接手段を備える線状体である補助線状体の一端と他端とでそれぞれ固定的に繋ぐ補助接続過程と、前記第3過程の後に実行される、前記近接手段により前記補助線状体の両端の距離を縮めることにより、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するものにおける複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置を、前記補助線状体の一端で牽引する補助牽引過程を更に含んでもよい。
補助接続過程では、補助線状体の一端と、4本の煙突体のうち、前方線に近接するものにおける複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置とを接続するとともに、補助線状体の他端と、補助線状体の一端から離れた地上或いは地上に固定された物の所定の位置とを接続する。補助線状体には、補助線状体の両端の距離を縮める近接手段が設けられている。
かかる補助接続過程は、第2過程、つまり、4本の煙突体の下端付近をそれぞれ切断する過程が実行される前に実行される。第2過程が実行された後においては、高層煙突の重量が大きく、また、支持用線状体が存在することにより、そのおそれが僅かに抑えられてはいるものの、高層煙突が予期せぬタイミングで転倒するおそれが生じる。したがって、そのようなおそれの未だ生じていない第2過程が実行される前の適当なタイミングで、高層煙突の下端付近で行うことが必要な補助接続過程を行うことにより、作業者の安全を確保することができるようになる。
補助牽引過程は、近接手段により補助線状体の両端の距離を縮めることにより、4本の煙突体のうち、前方線に近接するものにおける複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置を、補助線状体の一端で牽引する、というものである。これにより、4本の煙突体のうち前方線に近接する煙突体の、複数の切断箇所の間に属する部分を当該煙突体の上下の部分から抜け落ちさせることが可能となる。これにより、牽引用線状体による牽引だけでは高層煙突を転倒させるに不十分な場合でも、近接手段の駆動によって確実に、高層煙突を予定された転倒方向に転倒させることができるようになる。
前記補助線状体における前記近接手段として、前記補助線状体の長さ方向の任意の部分に前記補助線状体の長さ方向に伸縮できるようにして取付けられた、伸縮可能なジャッキを用いることができる。或いは、近接手段として、補助線状体を巻き取るウィンチを用いることもできる。ジャッキは一般的に、牽引用線状体を牽引する力よりも格段に大きな力を出すことができるので、前方線に近接する煙突体の、複数の切断箇所の間に属する部分を当該煙突体の上下の部分から抜け落ちさせるために有効である。
前方線が、平面視した場合における仮想の正方形のうちの1つの対角線の延長方向に伸びるようになっている場合、前記補助接続過程では、前記補助線状体の前記他端が、前記後方線の延長線上の前記後方線の手前側に固定されるようにしてもよい。より具体的には、前記補助接続過程では、前記補助線状体の前記他端が、前記4本の前記煙突体のうち、前記後方線に近接するものにおける切断箇所の下側に固定されてもよい。このように、補助線状体の他端を後方線の延長線上の後方線の手前側に固定することにすれば、高層煙突を転倒させた場合に、特に近接手段がジャッキである場合、転倒した高層煙突に押し潰されて近接手段が破壊される可能性を小さくすることができる。ジャッキはある程度高価であるから、ジャッキが破壊を免れれば経済的に有利である。
【0011】
本願発明の転倒方法では、前方線が、平面視した場合における上述した仮想の正方形のうちの任意の一辺から当該辺に対して垂直方向に伸びる場合がある。このようにすると、本願発明の転倒方法を実施した場合において高層煙突が転倒させられる予定された方向は、平面視した場合における仮想の正方形のうちの1つの辺に垂直な方向となる。そのような方向に高層煙突を転倒させようとするのであれば、前方線と交わる辺の両端に位置する2つの煙突体の切断された部分よりも下側の部分の上端が支点となって高層煙突が倒れ込むことになるため、高層煙突の転倒方向を予定した方向に収めるのに役立つ。
前方線が平面視した場合における正方形のうちの任意の一辺から当該辺に対して垂直方向に伸びる場合においては、前記第2過程では、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するもの2本を、当該煙突体の高さ方向の複数箇所で切断することができる。煙突体を、地上に近い複数の位置で切断すると、当該煙突体のうち、複数の切断箇所の間に属する部分を、その上下から抜けるようになる。4本の煙突体のうち前方線に近接する煙突体2本の、複数の切断箇所の間に属する部分が当該煙突体の上下の部分から抜け落ちれば、高層煙突は転倒方向に向けて予定された通りに自然に倒れ易くなる。
前方線が平面視した場合における正方形のうちの任意の一辺から当該辺に対して垂直方向に伸びる場合においては、前記第2過程では、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接する2本の前記煙突体を、同じ高さで切断するようにしてもよい。前方線が平面視した場合における正方形のうちの任意の一辺から当該辺に対して垂直方向に伸びる場合においては上述したように、前方線と交わる辺の両端に位置する2つの煙突体の切断された部分よりも下側の部分の上端が支点となって高層煙突が倒れ込む。4本の煙突体のうち、前方線に近接する2本の煙突体を同じ高さで切断すれば、上述の2つの支点の高さを合わせることができる。それにより、高層煙突を転倒方向に向けて予定された通りに倒し易くなる。
【0012】
前方線が平面視した場合における正方形のうちの任意の一辺から当該辺に対して垂直方向に伸びる場合においては、前記第2過程が実行される前に実行される、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するもののうちの一方における複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置と、当該位置から離れた地上或いは地上に固定された物の所定の位置とを、その一端と他端との距離を縮めるための近接手段を備える線状体である補助線状体の一端と他端とでそれぞれ固定的に繋ぐとともに、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するもののうちの他方における複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置と、当該位置から離れた地上或いは地上に固定された物の所定の位置とを、その一端と他端との距離を縮めるための近接手段を備える線状体である補助線状体の一端と他端とでそれぞれ固定的に繋ぐ補助接続過程と、前記第3過程の後に実行される、2つの前記近接手段により前記補助線状体の両端の距離を縮めることにより、4本の前記煙突体のうち、前記前方線に近接するもの双方における複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置を、前記補助線状体の一端で牽引する補助牽引過程を更に含んでもよい。
補助接続過程と補助牽引過程とをこのタイミングで行う理由は、前方線が平面視した場合における仮想の正方形のうちの1つの対角線の延長方向に伸びるようになっている場合における補助接続過程と補助牽引過程とを同様のタイミングで行う理由と同じである。また、この場合の近接手段は、2本の補助線状体がそれぞれ近接手段を備えることを除けば、前方線が平面視した場合における仮想の正方形のうちの1つの対角線の延長方向に伸びるようになっている場合における近接手段と同様で良い。
この場合、補助線状体は2本である。前方線が平面視した場合における正方形のうちの任意の一辺から当該辺に対して垂直方向に伸びる場合においては、上述の任意の一辺の両端に位置する2本の煙突体が、高層煙突において転倒方向或いは前側に位置することになる。そして、2本の補助線状体によって、その前側の2本の煙突体における複数の切断箇所の間に属する部分を当該煙突体の上下の部分から抜け落ちさせることが可能となる。つまり、牽引用線状体による牽引だけでは高層煙突を転倒させるに不十分な場合でも、2本の補助線状体がそれぞれ備える近接手段の駆動によって確実に、高層煙突を予定された転倒方向に転倒させることができるようになる。
前方線が平面視した場合における正方形のうちの任意の一辺から当該辺に対して垂直方向に伸びる場合においては、前記補助接続過程では、2本の前記補助線状体の前記他端のそれぞれが、当該補助線状体の前記他端の後方であって、前記仮想の正方形の中に固定されてもよい。より詳しくは、前記補助接続過程では、2本の前記補助線状体の前記他端のそれぞれが、当該補助線状体の前記一端が固定された前記煙突体の後方に位置する前記煙突体における切断箇所の下側に固定されてもよい。
これらによる効果は、高層煙突を転倒させた場合に、特に近接手段がジャッキである場合、転倒した高層煙突に押し潰されて近接手段が破壊される可能性を小さくすることができることであり、前方線が平面視した場合における仮想の正方形のうちの1つの対角線の延長方向に伸びるようになっている場合と同様である。
【0013】
本願発明の転倒方法における第1過程において、牽引用線状体と、支持用線状体のどちらを先に張り渡してもよい。
前記第1過程では、2本の前記支持用線状体を前記高層煙突と地上との間に張り渡してから、2本の前記牽引用線状体を牽引し、2本の前記牽引用線状体による牽引によって前記高層煙突の上端を僅かに前記前方線方向に傾かせることによって、2本の前記支持用線状体に張力を入れるようにしてもよい。
2本の支持用線状体が弛んだ状態だと、予期せぬタイミングで高層煙突が倒れようとしたときに、支持用線状体から高層煙突に対して力が加わるまでにタイムラグが生じうるが、上述したように支持用線状体を先に張り渡し、後から牽引用線状体で牽引を開始することにより支持用線状体に当初から張力を入れておけば、そのようなタイムラグが生じることを防止できるから、支持用線状体の機能が発揮されない時間帯を無くすことができるようになる。
上述したように、本願発明の転倒方法における第2過程では、高層煙突に含まれる4本の煙突体の下端付近のそれぞれを切断する。かかる切断を、遠隔操作により行うことができる。
かかる切断を煙突体の付近にいる作業者が行うと、万が一予期せぬタイミングでの高層煙突の転倒が生じた場合に、作業者が危険に晒されるおそれがあるからである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の第1実施形態で転倒させられる高層煙突の、(A)側面図、(B)A-A断面図。
図2】第1実施形態における第1過程終了後の高層煙突の側面図。
図3】第1実施形態における第1過程終了後の高層煙突の平面図。
図4】第1実施形態における補助接続過程実行中における高層煙突の下端付近の側面図。
図5】第1実施形態における補助接続過程終了後における高層煙突の下端付近の側面図。
図6】ジャッキの概略側面図。
図7】第1実施形態における第2過程実行中における高層煙突の下端付近の側面図。
図8】案内リングの平面図。
図9】案内リング、及びそれを取付られた煙突体の縦断面図。
図10】第1実施形態における第2過程終了後における高層煙突の下端付近の側面図。
図11】第1実施形態における補助牽引過程実行中における高層煙突の下端付近の側面図。
図12】第1実施形態における補助牽引過程、及び第4過程実行中の高層煙突の側面図。
図13】第1実施形態における補助牽引過程、及び第4過程実行中の高層煙突の平面図。
図14】第1実施形態における第4過程終了後の高層煙突の側面図。
図15】第1実施形態における第4過程終了後の高層煙突の平面図。
図16】第2実施形態における第1過程終了後の高層煙突の側面図。
図17】第2実施形態における第1過程終了後の高層煙突の平面図。
図18】第2実施形態における補助接続過程で補助線状体が張り渡される位置を示す平面図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の好ましい第1及び第2実施形態を、図面を参照しながら説明する。各実施形態で共通する対象には共通する符号を付すものとし、重複する説明は場合によって省略することにする。
【0016】
≪第1実施形態≫
第2実施形態でもそうであるが、第1実施形態で説明するのは、高層煙突を転倒させる、高層煙突の転倒方法である。
高層煙突は、既存のものであり、解体を目的として、解体に先立って転倒させられる。
まず、転倒さられる高層煙突の構造について簡単に説明する。とはいえ、この実施形態で転倒させられる高層煙突は、高層煙突として一般的なものであり、これには限られないがこの実施形態では、火力発電所が備える煙突である。
図1に、高層煙突100の全体構成を概略的に示す。図1(A)は、高層煙突100の側面図、図1(B)は、同A-A断面図である。
高層煙突100は、4本の煙突体110からなる。各煙突体110は、筒状、この実施形態では円筒状の煙突であり、地上から上空に向けて略鉛直に伸びている。各煙突体110の高さはこれには限られないが200m或いはそれ以上であり、その直径はこれには限られるものではないが、2mから8mである。4本の煙突体110の構成は同一でもそうでなくてもよいが、この実施形態ではそれらの構成は同一である。
4本の煙突体110の基端は、地上に描かれた仮想の正方形の各頂点に乗っている。4本の煙突体110は、上端に近づくに連れて、平面視した場合に、仮想の正方形の重心に近づくように、互いに近づいていくように構成されている。煙突体110は、金属製であり、その内周面には、公知或いは周知の例えばセラミックでできた耐熱材111が設けられている。各煙突体110の下端は、高層煙突100の側に設けられた図示せぬボイラーに接続されており、ボイラーから生じた排気が、煙突体110の内部を通って、各煙突体110の上端から排出されるようになっている。
4本の煙突体110の所定高さおき(一定の高さおきであるとは限らない。)に、水平な足場120が設けられている。足場120は、高層煙突100が使用されているときに、作業者がその上に乗って高層煙突100のメンテナンスその他の必要な作業を行う等の目的で用いられる。足場120は、これには限られないがこの実施形態では、水平面で4本の煙突体110を切断したときにできる正方形の一つの対角線上に存在している。足場120は例えば、金属製の支保工により構成されているが、これはもちろんこの限りではない。
4本の煙突体110は、各足場120がある高さにおいて、隣接する煙突体110同士を、金属の棒状体である接続部材130によって接続されている。なお、図1(A)では、接続部材130の図示を省略している。
所定の高さおきに存在する足場120、及び接続部材130の存在により、4本の煙突体110は、或いは高層煙突100は、全体として一体となっている。
4本の煙突体110のうちの少なくとも1つ(図1(A)では、右側に描かれた煙突体110)には、階段140が設けられている。階段140は、高層煙突100が使用されているときに、作業者がそれを用いて高層煙突100の上部に登るために用いられる。作業者は、階段140を用いて高層煙突100に登り、例えば、上述した足場120のそれぞれに到達することができる。
【0017】
以上で説明した高層煙突100を転倒させるには、以下の各工程を行う。
【0018】
まず、第1過程を行う。第1過程では、2本の牽引用線状体2と、2本の支持用線状体3とを、高層煙突100の上端から地上へと張り渡す(図2図3)。図2は、第1過程が終わった後の側面図、図3は、第1過程が終わった後の平面図である。牽引用線状体2と、支持用線状体3とは、ともに丈夫なワイヤである。牽引用線状体2と、支持用線状体3とにそれぞれ用いられるワイヤは同じものであってもそうでなくても構わないが、この実施形態では両ワイヤは同じものとされる。後述するように、牽引用線状体2には張力が入れられるが、牽引用線状体2は、その張力に耐えうるようなものとされる。
【0019】
牽引用線状体2は、前方線Xを挟むようにして張り渡される。
前方線Xは、高層煙突100を転倒させる方向(本願で言う転倒方向)に伸びる線である。第1実施形態における前方線Xは、これには限られないが、4本の煙突体110の基端がそれぞれその4つの頂点に乗る上述の仮想の正方形の1つの対角線の延長線上に伸びる線である。
牽引用線状体2は、上述の前方線Xを挟むようにして張り渡されるが、平面視した場合の2本の牽引用線状体2の高層煙突100の上端から地上に至る部分は、これには限られないが前方線Xを挟んで対称の関係となるようにされる。つまり、平面視した場合における、2本の牽引用線状体2のそれぞれが前方線Xとなす角度は、図3に示したように、同じくαとなっている。
牽引用線状体2と高層煙突100との接続方法は、公知或いは周知技術によれば良い。この実施形態における2本の牽引用線状体2は、高層煙突100の上端の同じ位置に接続されているが、これは必ずしもこの限りではない。2本の牽引用線状体2が地上に到達した部分にはそれぞれ、増幅装置4が配置されている。増幅装置4の役割は2つである。増幅装置4は、高層煙突100の上端から地上に至った牽引用線状体2の方向を、後述する牽引装置に向かう方向に変更する役割を担う。また、増幅装置4は、もう一つの役割として、後述する牽引装置が牽引用線状体2に加える張力を、倍加させる役割を担う。一般に、線状体にかける張力を倍加させるための仕組み、例えば、滑車を用いてそれを実現させるための仕組みは、公知というよりも周知である。そのような仕組みが両増幅装置4の中には設けられている。これには限られないがこの実施形態では、増幅装置4は、牽引装置が牽引用線状体2にかける張力を、4倍に増幅するようになっている。なお、両牽引用線状体2において、高層煙突100から増幅装置4に至る部分と、増幅装置4から後述する牽引装置に至る部分とは、異なる線状体(ワイヤ)によって構成されていても良いし、一本物として構成されていても構わない。なお、増幅装置4は必須ではない。また、増幅装置4は、上述した2つの役割のうちの一方のみを担うものとされていても良い。
増幅装置4で向きを変えられた両牽引用線状体2の先端は、それぞれ牽引装置5に接続される。両牽引装置5はともに、牽引用線状体2に対して張力を与える機能を担う。それが可能な限り牽引装置5はどのようなものであっても構わないが、この実施形態では、公知或いは周知のウィンチにより構成されている。この実施形態では、2つの牽引装置5を準備し、2つの牽引装置5のそれぞれで牽引用線状体2のそれぞれを個別に牽引する。
以上のようにすることにより、両牽引装置5が牽引用線状体2に与える牽引力は、増幅装置4で4倍に増幅されてから、高層煙突100の上端に伝えられることになる。この実施形態では、これには限られないが、両牽引用線状体2を、牽引装置5によって20tの力で牽引する。したがって、増幅装置4で、その力は4倍の80tに増幅され、都合、高層煙突100の上端には、2本の牽引用線状体2からそれぞれ、80tずつの力がかかることになる。図3中の矢印は、牽引用線状体2における牽引方向を示している。
両牽引装置5は同じものであってもそうでなくてもよいが、この実施形態では、2つの牽引装置5により、同じ力で、牽引用線状体2をそれぞれ牽引する。したがって、平面視した場合における両牽引用線状体2の高層煙突100の上端から地上に至る部分が前方線Xに対して対称な関係にあることと相まって、2本の牽引用線状体2が高層煙突100に与える力の合力は、平面視した場合に、前方線Xに重なる方向にはたらき、また、斜め下向きにはたらくこととなる。この力は、高層煙突100を、前方線Xに向けて引き倒そうとする力である。
なお、2本の牽引用線状体2が高層煙突100に与える力の合力が、平面視した場合に、前方線Xに重なる方向に斜め下向きにはたらくようになっているのであれば、平面視した場合の牽引用線状体2における高層煙突100の上端から地上に至る部分は、必ずしも前方線Xに対して対称となっている必要はない。
【0020】
支持用線状体3は、高層煙突100の上端から地上に向けて張り渡される。支持用線状体3は、牽引用線状体2からの力によって転倒しようとする高層煙突100を、高層煙突100を転倒させるべき適当なタイミングまで転倒させないようにする役割を担う線状体である。
支持用線状体3は、平面視した場合において、後方線Yを挟む2つの方向に、地上に向けてそれぞれ伸びる。後方線Yとは、上述の仮想の正方形から、前方線Xの逆方向の延長線上に伸びる仮想の線である。
支持用線状体3は、上述の後方線Yを挟むようにして張り渡されるが、平面視した場合の2本の支持用線状体3の高層煙突100の上端から地上に至る部分は、これには限られないが後方線Yを挟んで対称の関係となるようにされる。つまり、平面視した場合における、2本の支持用線状体3のそれぞれが後方線Yとなす角度は、図3に示したように、同じくβとなっている。上述したように、2本の牽引用線状体2が高層煙突100に与える力の平面視した場合の合力は、前方線Xに重なる方向にはたらく。支持用線状体3が、後方線Yを挟んで対称な関係となっていれば、牽引用線状体2が高層煙突100に与える力に対して両支持用線状体3にはたらく反力が同じになるので、高層煙突100、或いは両支持用線状体3のバランスを保ち易くなる。
上述したように、高層煙突100の上端には、2本の牽引用線状体2から、高層煙突100を引き倒そうとする力がかかるが、支持用線状体3からの反力により、支持用線状体3が存在する限り、或いは支持用線状体3が高層煙突100に上述の反力を与えている限り、高層煙突100が倒れることがない。
支持用線状体3は、高層煙突100の予期せぬ転倒を防ぐための目的で用いられるものであるため、牽引は必要ない。支持用線状体3の地上に到達した部分には、支持用線状体3の先端を地上に固定するための固定部材6が設けられている。固定部材6は、支持用線状体3を地上に固定する機能を確保できる限りどのように構成されていても構わず、公知或いは周知の部材を用いることができる。この実施形態では、固定部材6の下には、これには限られないが支持用線状体3の延長線上に地下に向かって伸びる、公知或いは周知のアンカー6Aが設けられている。アンカー6Aは、地盤に対する摩擦力によって、支持用線状体3の先端を地面に強固に固定する。
支持用線状体3と、高層煙突100との接続もどのようにして行われても良い。公知、或いは周知の技術を用いてこれをなすことができる。この実施形態における2本の支持用線状体3は、高層煙突100の上端の同じ位置に接続されているが、これは必ずしもこの限りではない。また、この実施形態における2本の支持用線状体3は、高層煙突100の上端の牽引用線状体2が接続されているのと同じ位置に接続されているが、これもこの限りではない。
【0021】
上述のように、第1過程では、2本の牽引用線状体2と、2本の支持用線状体3とを、高層煙突100の上端から地上に向けて張り渡す。牽引用線状体2と、支持用線状体3との張り渡しのどちらを先に行っても良いが、この実施形態では、支持用線状体3の張り渡しを先に行うか、少なくとも2本の牽引用線状体2に対して牽引装置5で張力を入れる前に、2本の支持用線状体3の張り渡しを終えておくのが良く、これには限られないがこの実施形態ではそうしている。そうすると以下の利点がある。
少なくとも2本の牽引用線状体2に対して牽引装置5で張力を入れる前に、2本の支持用線状体3の張り渡しを終えていれば、2本の牽引用線状体2に対して牽引装置5でそれぞれ張力を入れ、それにより高層煙突100を僅かに前方線Xに向けて傾けることにより、2本の支持用線状体3に対して張力を入れることが可能となる。そのために、支持用線状体3は、高層煙突100と地上との間に張り渡した段階で、弛みが無いか、殆どたるみが無い状態としておく。
2本の支持用線状体3が弛んだ状態だと、予期せぬタイミングで高層煙突100が倒れようとしたときに、支持用線状体3から高層煙突100に対して力が加わるまでにタイムラグが生じうる。しかしながら、上述したように支持用線状体3に当初から張力を入れておけば、そのようなタイムラグが生じることを防止できるから、支持用線状体3の機能が発揮されない時間帯を無くすことができるようになり、予期せぬタイミングで高層煙突100が倒れることをより抑制できるようになる。
【0022】
次に、この実施形態では、補助接続過程を実行する(図4図5)。補助接続過程を実行するのは、後述する第2過程の前である。補助接続過程は、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するもの(図2図3で、最も左に位置するもの)における複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置と、当該位置から離れた地上或いは地上に固定された物の所定の位置とを、その一端と他端との距離を縮めるための近接手段を備える線状体である補助線状体の一端と他端とでそれぞれ固定的に繋ぐというものである。
補助接続過程では、上述したように補助線状体を張り渡すが、その前にまず、補助線状体を張り渡すための仮設足場7を設ける(図4)。仮設足場7は、補助線状体を張り渡す作業と、後述する第2過程に伴う作業を行うための足場であり、それら作業が可能な限り仮設足場7はどのようなものであっても構わず、もちろん、公知或いは周知のもので良い。仮設足場7は、例えば、柱、梁、板等の適当な建材を組合せて組むことができる。図4は仮設足場7が完成した状態を示している。
【0023】
仮設足場7が作られたら、補助線状体8を張り渡す(図5)。補助線状体8は、近接手段としての後述するジャッキが発生する力に耐えうる線状体であればよい。補助線状体8は、例えば丈夫なワイヤにより構成することができる。補助線状体8は、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するもの(図2図3で、最も左に位置するもの)における複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置にその一端が接続される。補助線状体8の他端は、地上或いは地上に固定された物の所定の位置に固定される。ただし、補助線状体8の一端か他端に近接手段が位置するときには、「4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するものにおける複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置」と、「地上或いは地上に固定された物の所定の位置」との一方に、補助線状体8の一端又は他端ではなく、近接手段の一部が固定される場合がある。その場合においても、本願で言う「4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するものにおける複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置と、当該位置から離れた地上或いは地上に固定された物の所定の位置とを、その一端と他端との距離を縮めるための近接手段を備える線状体である補助線状体の一端と他端とでそれぞれ固定的に繋ぐ」という条件は充足されるものとする。
【0024】
上述するように、補助線状体8の一端は、「4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するものにおける複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置」と、補助線状体8の他端は、「地上或いは地上に固定された物の所定の位置」と、それぞれ固定される。図5では、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するものにおける複数の切断箇所を、P、Q、Rの符号が付された破線で示している。切断箇所P、Q、Rは、その煙突体110のうち、後述するように後に切断される部分である。この実施形態では、切断箇所P、Q、Rは3箇所であるが、少なくとも2箇所である。補助線状体8の一端は、その煙突体110の切断箇所P、Q、Rのうちの最も上のものである切断箇所Pと、最も下の切断箇所Rの間の所定の位置に固定される。仮に切断箇所が2箇所であれば、補助線状体8の一端は、前方線Xに近接する煙突体110のうちの、その2箇所の切断箇所の間の適宜の部分に固定される。補助線状体8と、前方線Xに近接する煙突体110の固定の仕方はどのようなものであってもよく、公知或いは周知の技術によることができ、また、所定の部材を介してかかる固定がなされても良い。この実施形態では、これには限られないが、当該煙突体110の周囲を囲むようにして当該煙突体110に固定された金属製で丈夫なリング体8Aを介して、補助線状体8の一端は当該煙突体110の上述した部分に固定される。
この実施形態では、これには限られないが、補助線状体8の他端が接続される「地上或いは地上に固定された物の所定の位置」は、後方線Yの延長線上の後方線Yの手前側の所定の位置とすることができる。そうすることにより、後述するように高層煙突100を転倒させたときに、転倒した高層煙突100に巻き込まれることによりジャッキ9が破損する可能性が小さくなる。これには限られないがこの実施形態では、より具体的には、補助線状体8の他端は、4本の煙突体110のうち、後方線Yに近接するもの(図5における右側の煙突体110)の、後に切断が行われる切断箇所よりも下方に固定される。4本の煙突体110のうち、後方線Yに近接するもの(図5における右側の煙突体110)の、後に切断が行われる切断箇所よりも下方は、後方線Yの延長線上の後方線Yの手前側の所定の位置に位置するものであり、且つ地上に強固に固定された状態で当初から存在するものであるから、高層煙突100を転倒させた場合においてジャッキ9の破損の可能性を低くするための補助線状体8の取付け位置として流用するに相応しいからである。
【0025】
ジャッキ9は例えば、図6の概略図に示したように構成されている。
ジャッキ9は、例えば、公知或いは周知の油圧ジャッキである。ジャッキ9は、本体9Aと、本体9Aに対して平行移動可能なスピンドル9Bを備えている。
この実施形態では、ジャッキ9のスピンドル9Bの先端(スピンドル9Bの図6における左側)が上述したリング体8Aに、ジャッキ9の本体9Aに対して補助線状体8の一端側がそれぞれ固定されている。当初図6(A)の位置にあったスピンドル9Bが、図6(B)の位置に移動すると、ジャッキ9のスピンドル9Bの先端から、補助線状体8の他端までの距離が、図6に示したLの長さだけ短くなるようになっている。
この実施形態では、ジャッキ9におけるスピンドル9Bは、300tの力で本体9Aに対して移動を行うようになっている。
【0026】
補助接続過程を実行したら、次に第2過程が実行される。
第2過程は、高層煙突100に含まれる4本の煙突体110の下端付近をそれぞれ切断するというものである。
高層煙突100における各煙突体110の切断は以下のようにして行う。この実施形態では、これには限られないが、各煙突体110において行われる切断は、すべて同じ方法で行われる。これには限られないが、この実施形態では各煙突体110を、遠隔操作によって切断する。各煙突体110を切断すると、支持用線状体3によってそれが防止されているとはいえ、僅かにではあるが高層煙突100に予期せぬタイミンでの転倒のおそれが生じる。そのような予期せぬタイミンでの高層煙突100の転倒に作業者が巻き込まれる事故が生じることがないように、煙突体110の切断は遠隔操作によって行うのが良い。
【0027】
煙突体110の切断は以下のように行う。
まず、上述の仮設足場7を用いて、煙突体110の切断を予定された箇所(例えば、上述の切断箇所P、Q、Rに相当する位置)に、煙突体110を囲む、環状の部材である案内リング10を取付ける(7、図8)。環状の部材といっても、案内リング10は、長さ方向に分割された複数の部材を組合せて構成されていても良い。
案内リング10は、後述する切断機を煙突体110の周囲を一周するように案内する機能を有する。
案内リング10は、図9の断面図に示されたように、断面H型の鋼材で作られたベース10Aと、その上に乗せられてベース10に固定された案内部材10Bとを含んで構成されている。ベース10Aと、案内部材10Bとはいずれもリング状であり、煙突体110を一周囲んでいる。案内部材10Bには、その半径方向の適当な位置においてそれぞれ立ち上がった壁である、相対的に内側に位置する内壁10B1と、相対的に外側に位置する外壁10B2とが設けられている。内壁10B1と、外壁10B2とは、案内部材10Bの周方向に設けられ、いずれも案内部材10Bに沿うようにして案内部材10Bを一周している。内壁10B1と外壁10B2の対向する面間の距離は、それらの周方向のどの位置でも一定とされる。内壁10B1と、外壁10B2は、後述するように移動する切断機20を案内するためのものである。
【0028】
切断機20は、煙突体110を切断する装置である。上述したように煙突体110は金属製である。切断機20は金属製の煙突体110を切断できるようなものとなっており、それが可能な限りにおいてどのような機器を切断機20として採用しても良い。切断機20は、これには限られないがこの実施形態ではプラズマ切断機である。プラズマ切断機は、発生させた極高温のアークプラズマで金属を溶かし、溶かした金属を高圧のエアーで吹き飛ばす事で金属板等を切断することのできる機器である。この実施形態では、プラズマ切断機を切断機20として用いることで、煙突体110を切断することとしている。
この実施形態における切断機20は、プラズマ切断機本体21と、プラズマ切断機本体21から煙突体110に向かって突き出たプラズマ発生部22と、プラズマ切断機本体21の下面に設けられた走行用車輪23と、プラズマ切断機本体21の両側面に設けた案内用車輪24とを備えている。
プラズマ切断機本体21は、切断機20の本体であり、種々の部品が設けられている。
プラズマ発生部22は、プラズマを発生するとともに、プラズマによって煙突体110が溶けたことによって生じた溶けた金属をエアーによって吹き飛ばすためのエアー吹付け装置を含んで構成される。プラズマ発生部22は、切断機20が案内部材10Bの内壁10B1と、外壁10B2の間に置かれた場合、煙突体110に近接した位置に位置するようにされている。
走行用車輪23は、プラズマ切断機本体21を走行させるための車輪である。走行用車輪23は、駆動力を発生させる図示を省略のモータと接続されており、モータが生じる駆動力により回転するようになっている。それにより、この実施形態の切断機20は、自走するようになっている。
プラズマ切断機本体21の両側面に設けられた案内用車輪24は、いずれも車輪であり、プラズマ切断機である切断機20が、案内リング10を構成する案内部材10Bの内壁10B1と、外壁10B2との間に置かれた場合において、内壁10B1と外壁10B2との互いに対向する面にそれぞれ当接するようになっている。案内用車輪24は、切断機20が、案内部材10Bの内壁10B1と、外壁10B2との間を自走する際に案内部材10Bの内壁10B1と、外壁10B2とにそれぞれ当接することにより、切断機20の自走を安定したものとする。案内用車輪24は、モータ等の駆動力によって回転するようになっていても良いし、それらが当接する内壁10B1、又は外壁10B2の内周面からの力によって回転するようになっているだけでも構わない。
【0029】
切断機20は、遠隔操作によって煙突体110の周囲を一周する。遠隔操作は、仮に高層煙突100が予期せぬタイミングで転倒したとしても影響の無い位置に置かれた図示せぬ操作装置によって行われる。操作装置に対して作業者が切断機20を操作するための操作を行うと、操作装置は切断機20を作業者が操作した通り動かすための操作信号を生成し、操作信号が無線で切断機20に送られる。操作信号を受信した切断機20は、操作信号にしたがって操作者が操作装置に対して行った操作の通りに動く。
それが可能なように、切断機20のプラズマ切断機本体21には、操作信号を受信するための受信装置や、受信装置が受信した操作信号に基づいて、走行用車輪23を駆動するためのモータを適切に動作させ、また、プラズマ発生部22を適切に動作させるための制御装置が内蔵されている。そのようなことを可能とする操作装置、また、切断機20における受信装置、制御装置は公知というより周知であるから、それらの詳しい説明は省略する。
【0030】
切断機20を用いて高層煙突100を切断する場合、まず、高層煙突100の切断機20を用いて切断される部分の内周面に位置する耐熱材111を剥ぎ取る。これは、耐熱材111が切断機20による煙突体110の切断の邪魔にならないようにするためである。
また、必要に応じて、高層煙突100の切断の始めとなる部分に、例えばガスバーナーその他の器具を用いて孔を開けて置くのも良い。
また、上述したように、案内リング10を構成する案内部材10Bの内壁10B1と、外壁10B2との間の適当な位置に、切断機20を配置する。
そして、切断機20を遠隔操作により、案内部材10Bの内壁10B1と、外壁10B2との間で、煙突体110を一周するように自走させる。自走する切断機20のプラズマ発生部22は、煙突体110と常に近接した位置を保つ。煙突体110は、周方向において、プラズマ発生部22により切断される。なお、例えば切断機20に動画を撮影可能なカメラを設けておくとともに、そのカメラで撮像した動画例えば、煙突体110の切断箇所が写り込んでいる動画を撮像し、その動画のデータを例えば無線により送信することによって、切断機20を操作するための操作装置を操作する作業者に、その動画のデータに基づく動画を例えば操作装置が備えるディスプレイを介して略実時間で見せることも可能である。そのようにすれば、作業者は、煙突体110の切断状態を略実時間で確認しながら、切断機20の操作を行えることになる。
なお、いずれかの煙突体110において切断機20の自走を開始するのは、すべての煙突体110において、この段落に記載のそれ以外の作業を終えた後とするべきである。切断機20が自走を始めると、煙突体110に転倒の可能性が僅かにではあるが生じるから、その前に作業者は、煙突体110の切断に必要な他の作業を終えておくべきである。
【0031】
第2過程では、上述したように、高層煙突100に含まれる4本の煙突体110の下端付近をそれぞれ切断する。
これには限られないが、この実施形態では、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するものを、当該煙突体110の高さ方向の複数箇所で切断する。また、これには限られないが、この実施形態では、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するものと後方線Yに近接するものを除いた2本の煙突体110(図7図10に描かれた3本の煙突体110のうちの中央の煙突体110は、手前側と奥側に2本存在するが、その2本の煙突体110)を、同じ高さで切断するようにする。
4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するものを、当該煙突体110の高さ方向の複数箇所で切断するのは、後述するように近接手段であるジャッキ9を駆動させることにより、当該煙突体110における最も上の切断箇所と、最も下の切断箇所の間の部分を、当該煙突体110における最も上の切断箇所よりも上の部分、及び最も下の切断箇所よりも下の部分から抜け落ちさせることを可能にするためである。上述の部分が前方線Xに近接する煙突体110から抜け落ちれば当然に、高層煙突100は、前方線Xに向かって正しい方向に倒れやすくなる。
なお、牽引装置5による牽引のみによって煙突体110を転倒させることができるのであれば、近接手段(ジャッキ9)は必ずしも用いる必要はない。また、近接手段としてのジャッキ9で上述の部分を前方線Xに近接する煙突体110のその上下の部分から抜くためには、前方線Xに近接する煙突体110の切断箇所を少なくとも2箇所とする必要がある。したがって、近接手段としてのジャッキ9を用いないのであれば、前方線Xに近接する煙突体110の切断箇所を複数とする必要はない。
4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するものと後方線Yに近接するものを除いた2本の煙突体110を、同じ高さで切断するのは、高層煙突100が転倒しようとするときにそれら2本の煙突体110のうち、切断箇所よりも下の部分が高層煙突100を両側から支持するところ、それら2本の煙突体110の切断箇所よりも下の部分の高さが異なると、高層煙突100の転倒方向が、前方線Xからずれるおそれが生じるからである。
この実施形態では、すべての煙突体110において、同じ高さで切断が行われ、また、前方線Xに近接する煙突体110では、他の3本の煙突体110と同じ高さとされた切断箇所の上側2箇所で、更に切断がなされている。
図10は、煙突体110の切断が終わった後の状態を示している。
図10において、Zで示されたのが、各煙突体110における切断箇所である。なお、図10で示された煙突体110の切断が終わった後の状態でも案内リング10は残存したままとなっているが、切断箇所Zを描くために、本来は存在する案内リング10の描写を省略している。
これにて第2過程が終了する。
【0032】
第2過程が終了したら、第3過程を実行する。
第3過程は、2本の支持用線状体3をそれぞれ切断するというものである。
支持用線状体3は、どのようにして切断しても良く、公知或いは周知の技術でそれをなすことができる。例えば、シャープランスを用いて、支持用線状体3を切断することが可能である。また、それぞれの支持用線状体3の切断位置は適当に決定すれば良い。
【0033】
第3過程が終了したら、第4過程を実行する。
第4過程は、第3過程の後に実行される、牽引用線状体2を引き続き牽引することで高層煙突100を、前方線Xに重なる方向に引き倒すというものである。
ただし、この実施形態では、第3過程の後に、例えば、第4過程と同時に、補助牽引過程を実行する。補助牽引過程は、近接手段としての上述のジャッキ9により補助線状体8の両端の距離(正確には、スピンドル9Bの先端から、補助線状体8の後方線Yに近接する煙突体110の切断箇所よりも下の部分に接続された部分までの距離)を縮めることによりリング体8Aを、図11に示したように右側に移動させる。それにより、前方線Xに近接する煙突体110のうちの、最も上の切断箇所Zと、最も下の切断箇所Zの間の部分(この実施形態では、2つの塊)が、その煙突体110の最も上の切断箇所Zより上の部分と、最も下の切断箇所Zよりも下の部分から抜け落ちる。なお、補助牽引過程における近接手段(ジャッキ9)の操作も、遠隔操作により行うのが好ましい。というより、第2過程で、少なくとも一本の煙突体110の切断が開始されて以降は、作業者は、高層煙突100が倒れてくるおそれがある範囲には踏み込まないようにすべきである。
その状態で更に牽引用線状体2を牽引装置5によって、両牽引用線状体2から高層煙突100に与える力の合力が平面視した場合に前方線Xに重なる方向となる状態を保ちつつ牽引すると(図12図13)、高層煙突100は前方線Xに向けて転倒を始める。なお、図12以降の各図では、仮設足場7、補助線状体8、ジャッキ9、案内リング10の図示は省略している。
そして、高層煙突100はやがて、図14図15に示したように、完全に一致するかどうかはさておき、前方線Xに重なる方向に向けて転倒する。
【0034】
高層煙突100が転倒したら、転倒した高層煙突100を、公知或いは周知の技術にしたがって解体すればよい。
【0035】
≪第2実施形態≫
第2実施形態による高層煙突100の転倒方法について説明する。高層煙突100の構成は第1実施形態の場合と同じであり、高層煙突100は4本の煙突体110を含む。
第2実施形態における高層煙突100の転倒方法は、第1実施形態の場合と概ね同じである。大きく異るのは、高層煙突100の転倒方向である。また、その高層煙突100の転倒方向の相違に基づき、第1実施形態では1本であった補助線状体8の本数が、第2実施形態では2本となる。
第2実施形態の高層煙突100の転倒方法は、第1実施形態の場合と同様に、第1過程から第4過程を含む。また、第1実施形態の場合と同様に必須ではないが、以下に詳述する第2実施形態による高層煙突100の転倒方法も、補助接続過程と補助牽引過程とを含む。
【0036】
第2実施形態の高層煙突100の転倒方法は具体的には以下のようなものである。
まず、第1過程を行う。第1過程では、2本の牽引用線状体2と、2本の支持用線状体3とを、高層煙突100の上端から地上へと張り渡す(図16、17)。図16は、第1過程が終わった後の側面図、図17は、第1過程が終わった後の平面図である。牽引用線状体2と、支持用線状体3とは、丈夫なワイヤである。
牽引用線状体2は、前方線Xを挟むようにして張り渡される。前方線の方向が、第1実施形態と第2実施形態とで異なる。第2実施形態における前方線Xは、平面視した場合における、4本の煙突体110の基端がそれぞれその4つの頂点に乗る上述の仮想の正方形のうちの任意の一辺から当該辺に対して垂直方向に伸びる(図17参照)。図17では、仮想の正方形の左側の辺から左方向に前方線Xが伸びており、後述する第4過程では、高層煙突100は前方線Xに重なる方向(転倒方向)に倒れ込むことになる。
第2実施形態でも、牽引用線状体2は、前方線Xを挟むようにして張り渡されるが、平面視した場合の2本の牽引用線状体2の高層煙突100の上端から地上に至る部分は、これには限られないが前方線Xを挟んで対称の関係となるようにされる。
第2実施形態における2本の牽引用線状体2は、高層煙突100の上端の同じ位置に接続されているが、これは必ずしもこの限りではない。2本の牽引用線状体2が地上に到達した部分にはそれぞれ、第1実施形態の場合と同様に増幅装置4が配置されている。
増幅装置4で向きを変えられた両牽引用線状体2の先端は、第1実施形態の場合と同様に、それぞれ第1実施形態の場合と同じ牽引装置5に接続される。
第2実施形態の場合でも、第1実施形態の場合と同様に、2本の牽引用線状体2が高層煙突100に与える力の合力は、平面視した場合に、前方線Xに重なる方向にはたらき、また、斜め下向きにはたらくこととなる。
【0037】
第2実施形態の場合でも、第1実施形態の場合と同様に、支持用線状体3は、高層煙突100の上端から地上に向けて張り渡される。第2実施形態の場合でも、第1実施形態の場合と同様に、支持用線状体3は、牽引用線状体2からの力によって転倒しようとする高層煙突100を、高層煙突100を転倒させるべき適当なタイミングまで転倒させないようにする役割を担う。
支持用線状体3は、平面視した場合において、後方線Yを挟む2つの方向に、地上に向けてそれぞれ伸びる。後方線Yとは、上述の仮想の正方形から、前方線Xの逆方向の延長線上に伸びる仮想の線である。
第2実施形態でも、支持用線状体3は、上述の後方線Yを挟むようにして張り渡される。これには限られないが第2実施形態でも、第1実施形態の場合と同様に、平面視した場合の2本の支持用線状体3の高層煙突100の上端から地上に至る部分は、後方線Yを挟んで対称の関係となるようにされる。
第2実施形態の場合でも、第1実施形態の場合と同様に、支持用線状体3は、高層煙突100の予期せぬ転倒を防ぐための目的で用いられるものであるため、牽引は必要ない。支持用線状体3の地上に到達した部分には、支持用線状体3の先端を地上に固定するための固定部材6が設けられており、固定部材6はアンカー6Aによって地盤に強固に固定される。
支持用線状体3と、高層煙突100との接続手法は、第1実施形態における接続手法に倣えば良い。
【0038】
牽引用線状体2と、支持用線状体3との張り渡しのどちらを先に行っても良いが、支持用線状体3の張り渡しを先に行うか、少なくとも2本の牽引用線状体2に対して牽引装置5で張力を入れる前に、2本の支持用線状体3の張り渡しを終えておくのが良いことは、第2実施形態の場合でも第1実施形態と変わらない。
【0039】
次に、第2実施形態でも、補助接続過程を実行する(図18)。第2実施形態の場合でも、第1実施形態の場合と同様に、補助接続過程を実行するのは、第2過程の前である。その理由も第1実施形態と同様である。
補助接続過程は、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するもの2本(図16図18で、左に位置する2本)における複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置のそれぞれと、当該位置から離れた地上或いは地上に固定された物の所定の位置のそれぞれとを、その一端と他端との距離を縮めるための近接手段を備える線状体である補助線状体の一端と他端とでそれぞれ固定的に繋ぐというものである。
補助接続過程では、上述したように補助線状体を張り渡すが、その前にまず、補助線状体を張り渡すための仮設足場(図示せず)を設けることも、第2実施形態と第1実施形態で変わらない。
【0040】
第2実施形態でも、仮設足場が作られたら、補助線状体(図示せず)を張り渡す。第2実施形態では、補助線状体の一端は、4本の煙突体110のうちの前方線Xに近接するもの2本における複数の切断箇所のうちの最も上と最も下の部分の間の所定の位置にそれぞれ接続される。また、第2実施形態では、補助線状体の他端は、4本の煙突体110のうちの前方線Xに近接するもの2本の後方(図18の右側)であって、仮想の正方形の中に位置する所定の位置に、より詳細には、4本の煙突体110のうちの前方線Xに近接するものそれぞれの後方に位置する煙突体100における切断箇所の下側に固定される。
都合、第2実施形態では、図18中のKの符号が付された2つの破線で囲まれた範囲にそれぞれ含まれる前後2本の煙突体110の間に、2本の補助線状体が張り渡されることになる。
第2実施形態の場合でも、第1実施形態の場合と同様に、補助線状体には、近接手段としてのジャッキが含まれる。第2実施形態でも、補助線状体の一端側と、前側に位置する煙突体110との接続に、第1実施形態で説明したリング体を用いることができ、これには限られないが第2実施形態でもそうしている。
第2実施形態におけるジャッキは、第1実施形態におけるジャッキと同じでよい。
【0041】
第2実施形態でも、補助接続過程が終わったら、次に第2過程が実行される。
第2過程は、高層煙突100に含まれる4本の煙突体110の下端付近をそれぞれ切断するというものである。
高層煙突100における各煙突体110の切断に用いる技術は第1実施形態の場合と同じでよい。煙突体110の切断は、第2実施形態の場合でも遠隔操作によって行うのが良い。
第2実施形態でも、第2過程では、高層煙突100に含まれる4本の煙突体110の下端付近をそれぞれ切断する。
これには限られないが、この実施形態では、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するもの2本を、当該煙突体110の高さ方向の複数箇所で切断する。また、これには限られないが、この実施形態では、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するもの2本の少なくとも一番下の切断箇所の高さを揃える。
これには限られないが、第2実施形態では、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するもの2本を、第1実施形態において最も前側に位置していた煙突体110と同じく複数、例えば3箇所で切断する。4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するもの2本における3箇所の切断箇所の高さは、それぞれ同じ高さとなるようにする。
第2実施形態では、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接しない2本を、第1実施形態において最も前側に位置していた以外の3本の煙突体110と同じく1箇所で切断する。これには限られないが、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接しないもの2本における切断箇所の高さは、4本の煙突体110のうち、前方線Xに近接するもの2本における最も下の切断箇所の高さと一致させるようにする。
【0042】
第2実施形態の場合でも、第1実施形態の場合と同様に、第2過程が終了したら、第3過程を実行する。
第3過程は、2本の支持用線状体3をそれぞれ切断するというものである。
第2実施形態の場合でも、第1実施形態の場合と同様に、支持用線状体3は、どのようにして切断しても良い。
【0043】
第2実施形態の場合でも、第1実施形態の場合と同様に、第3過程が終了したら、第4過程を実行する。
第4過程は、第3過程の後に実行される、牽引用線状体2を引き続き牽引することで高層煙突100を、前方線Xに重なる方向に引き倒すというものである。
第2実施形態の場合でも、第1実施形態の場合と同様に、第3過程の後に、例えば、第4過程と同時に、補助牽引過程を実行する。第2実施形態の場合でも、第1実施形態の場合と同様に、補助牽引過程は、近接手段としての上述のジャッキにより補助線状体の両端の距離を縮めることによりリング体を後方に引き寄せるものとして実行される。第2実施形態と第1実施形態とで異なるのは、第2実施形態では、2本の補助線状体のそれぞれにおけるジャッキを同時に駆動させるということである。
それにより、第2実施形態では、前方線Xに近接する2本の煙突体110それぞれのうちの、最も上の切断箇所と、最も下の切断箇所の間の部分が、両煙突体110の最も上の切断箇所より上の部分と、最も下の切断箇所よりも下の部分から、事実上同時に抜け落ちる。なお、第2実施形態でも、補助牽引過程における近接手段(ジャッキ)の操作も、遠隔操作により行うのが好ましい。
その状態で更に牽引用線状体2を牽引装置5によって、両牽引用線状体2から高層煙突100に与える力の合力が平面視した場合に前方線Xに重なる方向となる状態を保ちつつ牽引すると、高層煙突100は前方線Xに向けて転倒を始める。
そして、高層煙突100はやがて、完全に一致するかどうかはさておき、前方線Xに重なる方向に向けて転倒する。
高層煙突100が転倒したら、転倒した高層煙突100を、公知或いは周知の技術にしたがって解体すればよい。
【符号の説明】
【0044】
2 牽引用線状体
3 支持用線状体
4 増幅装置
5 牽引装置
6 固定部材
6A アンカー
7 仮設足場
8 補助線状体
9 ジャッキ
9B スピンドル
10 案内リング
10A ベース
10B 案内部材
10B1 内壁
10B2 外壁
20 切断機
22 プラズマ発生部
100 高層煙突
110 煙突体
140 階段
図1
図2
図3
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