IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社豊田中央研究所の特許一覧

特開2023-154347時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラム
<>
  • 特開-時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラム 図1
  • 特開-時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラム 図2
  • 特開-時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラム 図3
  • 特開-時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラム 図4
  • 特開-時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラム 図5
  • 特開-時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラム 図6
  • 特開-時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラム 図7
  • 特開-時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラム 図8
  • 特開-時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラム 図9
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154347
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/374 20210101AFI20231012BHJP
   A61B 5/02 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
A61B5/374
A61B5/02 310
【審査請求】有
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063632
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川本 敦史
(72)【発明者】
【氏名】生田 靖弘
【テーマコード(参考)】
4C017
4C127
【Fターム(参考)】
4C017AA08
4C017AA09
4C017AA16
4C017AA19
4C017BC16
4C017FF15
4C127AA02
4C127AA03
4C127AA04
4C127AA07
4C127AA10
4C127CC01
4C127GG11
(57)【要約】
【課題】恣意性を排除したデータ処理が可能な、時系列データ処理装置を提供する。
【解決手段】時系列データを周波数ドメインのデータに変換する変換部101と、周波数ドメインのデータから所定の周波数成分を選択する選択部102と、選択部102が選択した前記周波数成分を時間ドメインのデータに逆変換する逆変換部103とを備え、選択部102は、時系列データと逆変換部103による逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなる周波数成分を選択する、時系列データ処理装置10が提供される。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
時系列データを周波数ドメインのデータに変換する変換部と、
前記周波数ドメインのデータから所定の周波数成分を選択する選択部と、
前記選択部が選択した前記周波数成分を時間ドメインのデータに逆変換する逆変換部と、
を備え、
前記選択部は、前記時系列データと前記逆変換部による逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなる周波数成分を選択する、
時系列データ処理装置。
【請求項2】
前記選択部は、前記逆変換部による逆変換後のデータが自己無撞着となる周波数成分を選択する、請求項1に記載の時系列データ処理装置。
【請求項3】
前記選択部は、第1の周波数成分の逆変換後のデータと、前記第1の周波数成分を含む第2の周波数成分の逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなった場合に、前記逆変換部による逆変換後のデータが自己無撞着となったと判断する、請求項2に記載の時系列データ処理装置。
【請求項4】
前記時系列データは、生体信号又は生体信号に基づく信号である、請求項1に記載の時系列データ処理装置。
【請求項5】
プロセッサが、
時系列データを周波数ドメインのデータに変換し、
前記周波数ドメインのデータから所定の周波数成分を選択し、
選択された前記周波数成分を時間ドメインのデータに逆変換し、
前記時系列データと逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなる周波数成分を選択する、
処理を実行する、時系列データ処理方法。
【請求項6】
コンピュータに、
時系列データを周波数ドメインのデータに変換し、
前記周波数ドメインのデータから所定の周波数成分を選択し、
選択された前記周波数成分を時間ドメインのデータに逆変換し、
前記時系列データと逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなる周波数成分を選択する、
処理を実行させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
被験者の生体データに基づいた被験者の生体情報を精度良く得るためには、生体データに重畳されるノイズを除去することが求められる。そこで、被験者の生体データのような時系列データのノイズを除去するための時系列データ処理に関する技術が開示されている。特許文献1には、睡眠時ポリソムノグラフィを使用する場合に比べて被験者への負担を少なくするとともに、従来の方式に比べて心拍間隔を高精度に検出するための技術が開示されている。
【0003】
詳細には、特許文献1には、第1の刻み幅と振動波形とに基づいて第1の呼吸波形を演算すると共に、第1の刻み幅とは期間が異なる第2の刻み幅と振動波形とに基づいて第2の呼吸波形を演算し、振動波形から第1の呼吸波形を減算した第1の脈波波形を演算すると共に、振動波形から第2の呼吸波形を減算した第2の脈波波形を演算し、各脈波波形の中から各ピークの間隔が異常であるピーク間隔の数が少ない脈波波形に基づいて心拍数変動指標を演算する生体情報の取得装置が開示されている。
【0004】
そして、特許文献1には、前処理としてバンドパスフィルタにおいてマイクロ波レーダーの出力から、通常の体動や呼吸、脈波の周期よりも高周波の成分と、直流成分とを除去している。また特許文献1には、前処理として第1の呼吸波形を演算する際に単純移動平均法または重み付き移動平均法を用いている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-104360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1で開示されている技術では、バンドパスフィルタで除去される周波数帯の成分に必要なデータが含まれていたり、バンドパスフィルタを通過した成分にノイズが含まれていたりする可能性を判定できない。また特許文献1で開示されている技術では、移動平均だけでは、どの周波数成分を操作したか判定できない。そして、特許文献1で開示されている技術には、前処理が解析者の裁量に依存し、前処理に恣意性が入りやすいので、誤った結論を引き出す可能性がある。
【0007】
本発明は、上記の点に鑑みてなされたものであり、恣意性を排除したデータ処理が可能な、時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明のある観点に係る時系列データ処理装置は、時系列データを周波数ドメインのデータに変換する変換部と、前記周波数ドメインのデータから所定の周波数成分を選択する選択部と、前記選択部が選択した前記周波数成分を時間ドメインのデータに逆変換する逆変換部と、を備え、前記選択部は、前記時系列データと前記逆変換部による逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなる周波数成分を選択する、を備える。
【0009】
前記選択部は、前記逆変換部による逆変換後のデータが自己無撞着となる周波数成分を選択してもよい。
【0010】
前記選択部は、第1の周波数成分の逆変換後のデータと、前記第1の周波数成分を含む第2の周波数成分の逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなった場合に、前記逆変換部による逆変換後のデータが自己無撞着となったと判断してもよい。
【0011】
前記時系列データは、生体信号又は生体信号に基づく信号であってもよい。
【0012】
上記の目的を達成するために、本発明の別の観点に係る時系列データ処理方法は、プロセッサが、時系列データを周波数ドメインのデータに変換し、前記周波数ドメインのデータから所定の周波数成分を選択し、選択された前記周波数成分を時間ドメインのデータに逆変換し、前記時系列データと逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなる周波数成分を選択する処理を実行する。
【0013】
上記の目的を達成するために、本発明の別の観点に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、時系列データを周波数ドメインのデータに変換し、前記周波数ドメインのデータから所定の周波数成分を選択し、選択された前記周波数成分を時間ドメインのデータに逆変換し、前記時系列データと逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなる周波数成分を選択する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、恣意性を排除したデータ処理が可能な、時系列データ処理装置、時系列データ処理方法及びコンピュータプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施形態に係る時系列データ処理システムの概略構成を示す図である。
図2】時系列データ処理装置のハードウェア構成例を示すブロック図である。
図3】時系列データ処理装置の機能構成の例を示すブロック図である。
図4】時系列データ処理装置による時系列データ処理の流れを示すフローチャートである。
図5】時系列データ、例えば脳波のデータの収束過程の例を示したグラフである。
図6】時系列データの一例である脈波のデータの例を示す図である。
図7】時系列データの一例である脳波のデータの例を示す図である。
図8】オリジナルの脈波のデータと、誤差が閾値以下となった周波数成分を基に再構成した時系列データとを重ね合わせたグラフである。
図9】オリジナルの脳波のデータと、誤差が閾値以下となった周波数成分を基に再構成した時系列データとを重ね合わせたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しつつ説明する。なお、各図面において同一または等価な構成要素および部分には同一の参照符号を付与している。また、図面の寸法比率は、説明の都合上誇張されており、実際の比率とは異なる場合がある。
【0017】
図1は、本実施形態に係る時系列データ処理システムの概略構成を示す図である。
【0018】
図1に示した時系列データ処理システムは、時系列データの一例である生体信号を測定する生体信号測定装置1と、生体信号測定装置1が測定した生体信号に対する処理を行う時系列データ処理装置10と、を備える。
【0019】
生体信号測定装置1が測定する生体信号は、例えば心拍、心電図、心磁図、脳波、脳磁図、脈波、体温、血圧、筋電図、皮膚電位、又はこれらを加工した信号であるが、本発明は係る例に限定されるものでは無い。生体信号に基づく信号の例としては、上述した生体信号を複数組み合わせた信号、又は、上述の生体信号に基づいて算出された数値が挙げられる。生体信号に基づく信号は、生体信号と、その他の信号とが組み合わされた信号であってもよい。
【0020】
生体信号測定装置1が測定する生体信号には、ノイズが重畳されている場合がある。例えば、生体信号が脈波に基づくものである場合、被測定者の脈波だけでなく、被測定者の体動又は呼吸に伴う振動又はノイズも含まれうる。ノイズが重畳されている状態では、生体信号に対して正確な処理を行うことが出来ない。従って、生体信号に重畳されているノイズは、生体信号に対する処理の前に除去される必要がある。
【0021】
そこで、時系列データ処理装置10は、生体信号測定装置1から送られる生体信号に対して、生体信号に重畳されるノイズを除去する処理を実行した上で、生体信号に関する処理を実行する。本実施形態に係る時系列データ処理装置10は、生体信号に重畳されるノイズを除去する際に、生体信号を周波数ドメインのデータに変換し、周波数ドメインのデータから所定の周波数成分を選択する。そして時系列データ処理装置10は、選択した周波数成分を時間ドメインのデータに逆変換し、生体信号と逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなる周波数成分を選択することで、生体信号測定装置1から送られる生体信号に重畳されるノイズを除去する。
【0022】
時系列データ処理装置10は、生体信号測定装置1から送られる生体信号に重畳されるノイズを除去した後に、生体信号に対する処理を実行する。時系列データ処理装置10が行う生体信号に対する処理には、例えば、生体信号に基づいた波形の表示、心拍数、体温、血圧その他の生体情報の表示等がある。
【0023】
時系列データ処理装置10は、このように周波数ドメインのデータへの変換及び逆変換を行って、生体信号と逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなる周波数成分を選択することで、恣意性を排除したデータ処理が可能となる。
【0024】
なお、時系列データ処理装置10は、クラウドネットワーク上のサーバ、パーソナルコンピュータ、スマートフォン、スマートウォッチ、スマートバンド、ウェアラブル機器、医療機器、診断装置等の時系列データを扱う装置全般に適用可能である。また、時系列データ処理装置10が扱う時系列データは生体信号に限られず、時間的に連続したデータであればその種類は問わない。
【0025】
図2は、時系列データ処理装置10のハードウェア構成例を示すブロック図である。
【0026】
図2に示すように、時系列データ処理装置10は、CPU(Central Processing Unit)11、ROM(Read Only Memory)12、RAM(Random Access Memory)13、ストレージ14、入力部15、表示部16及び通信インタフェース(I/F)17を有する。各構成は、バス19を介して相互に通信可能に接続されている。
【0027】
CPU11は、中央演算処理ユニットであり、各種プログラムを実行したり、各部を制御したりする。すなわち、CPU11は、ROM12またはストレージ14からプログラムを読み出し、RAM13を作業領域としてプログラムを実行する。CPU11は、ROM12またはストレージ14に記録されているプログラムにしたがって、上記各構成の制御および各種の演算処理を行う。本実施形態では、ROM12またはストレージ14には、生体信号測定装置1から送られる生体信号に対して、生体信号に重畳されるノイズを除去する時系列データ処理プログラムが格納されている。
【0028】
ROM12は、各種プログラムおよび各種データを格納する。RAM13は、作業領域として一時的にプログラムまたはデータを記憶する。ストレージ14は、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)またはフラッシュメモリ等の記憶装置により構成され、オペレーティングシステムを含む各種プログラム、および各種データを格納する。
【0029】
入力部15は、マウス等のポインティングデバイス、およびキーボードを含み、各種の入力を行うために使用される。
【0030】
表示部16は、たとえば、液晶ディスプレイであり、各種の情報を表示する。表示部16は、タッチパネル方式を採用して、入力部15として機能しても良い。
【0031】
通信インタフェース17は、他の機器と通信するためのインタフェースであり、たとえば、イーサネット(登録商標)、FDDI、Wi-Fi(登録商標)等の規格が用いられる。
【0032】
上記の時系列データ処理プログラムを実行する際に、時系列データ処理装置10は、上記のハードウェア資源を用いて、各種の機能を実現する。時系列データ処理装置10が実現する機能構成について説明する。
【0033】
次に、時系列データ処理装置10の機能構成について説明する。
【0034】
図3は、時系列データ処理装置10の機能構成の例を示すブロック図である。
【0035】
図3に示すように、時系列データ処理装置10は、機能構成として、変換部101、選択部102、逆変換部103、及びデータ処理部104を有する。各機能構成は、CPU11がROM12またはストレージ14に記憶された時系列データ処理プログラムを読み出し、実行することにより実現される。
【0036】
変換部101は、生体信号測定装置1から送られる生体信号を周波数ドメインに変換する。具体的には、変換部101は、生体信号測定装置1から送られる生体信号をx(t)(t=[1:T])とすると、そのフーリエ変換F[x(t)]により周波数ドメインに変換する。
【0037】
選択部102は、変換部101が変換した周波数ドメインのデータから所定の周波数成分を選択する。具体的には、選択部102は、生体信号のフーリエ変換F[x(t)]の周波数成分[m:T-m]を選択する。選択部102が選択した周波数成分[m:T-m]をF[x(t)]とする。なお、mは1からT/2までの値である。そして選択部102は、後述の逆変換部103によって逆変換されたデータと、生体信号測定装置1から送られる生体信号との差分が所定の閾値より小さくなるような周波数成分F[x(t)]を選択する。周波数成分F[x(t)]の選択手法の詳細については後述する。
【0038】
逆変換部103は、選択部102が選択した周波数成分のデータに対する、時間ドメインのデータへの逆変換を行う。具体的には、逆変換部103は、選択部102が選択した周波数成分F[x(t)]に対する逆フーリエ変換F-1[F[x(t)]]を行う。選択部102は、周波数成分F[x(t)]の選択に際して、数式(1)で示した二乗平均誤差によって定義される誤差E(m)を評価する。
【0039】
【数1】
【0040】
選択部102は、mを1からT/2まで増加させ、E(m)<Cとなったとき、時系列データが自己無撞着になったと判断し、ノイズ除去された時系列データx(t)を採用する。Cは判定のための閾値である。自己無撞着になったとは、元の時系列データと逆変換後のデータとの差分に関する値が所定の閾値C未満に収束した状態をいう。すなわち、選択部102は、逆変換部103が再構成した時系列データが自己無撞着となるよう周波数成分の選択を行ってもよい。
【0041】
データ処理部104は、選択部102によってE(m)<Cとなるように選択された時系列データx(t)に対するデータ処理を行う。データ処理部104は、例えば、生体信号に基づいた波形の表示、心拍数、体温、血圧その他の生体情報の表示等の処理を行う。
【0042】
時系列データ処理装置10は、係る構成を有することで、周波数ドメインのデータへの変換及び逆変換を行って、生体信号と逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなる周波数成分を選択することで、恣意性を排除したデータ処理が可能となる。時系列データ処理装置10は、時系列データの対象周波数を限定しつつ、時間領域で誤差評価することによって、時系列分析に必要な精度を保証できる。
【0043】
なお、本実施形態では、時間ドメインのデータから周波数ドメインへのデータの変換にフーリエ変換を用いたが、本発明は係る例に限定されない。時系列データ処理装置10は、時間ドメインのデータから周波数ドメインへのデータの変換に、ラプラス変換、ウェーブレット変換等の任意の変換手法を用いてもよい。
【0044】
次に、時系列データ処理装置10の作用について説明する。
【0045】
図4は、時系列データ処理装置10による時系列データ処理の流れを示すフローチャートである。CPU11がROM12又はストレージ14から時系列データ処理プログラムを読み出して、RAM13に展開して実行することにより、時系列データ処理が行なわれる。図4に示した時系列データ処理は、生体信号測定装置1から送られる生体信号x(t)に対するデータ処理に先立って行われる前処理であり、生体信号x(t)に重畳されているノイズを除去する処理である。
【0046】
まずステップS101において、CPU11は、生体信号測定装置1から送られる生体信号x(t)を、フーリエ変換F[x(t)]により周波数ドメインのデータに変換する。
【0047】
続いてステップS102において、CPU11は、周波数ドメインのデータからある周波数成分[m:T-m]を選択する。CPU11は、まずm=1の周波数成分[1:T-1]を選択する。このステップS102でCPU11が選択した周波数成分をF[x(t)]とする。
【0048】
続いてステップS103において、CPU11は、ステップS102で選択した周波数成分F[x(t)]に対する逆フーリエ変換を行ってF-1[F[x(t)]]を得る。m=1の場合、CPU11は、周波数成分F[x(t)]に対する逆フーリエ変換を行ってF-1[F[x(t)]]を得る。
【0049】
続いてステップS104において、CPU11は、上記数式(1)を用いることでE(m)を求め、E(m)の評価を行う。具体的に、CPU11は、E(m)が所定の評価誤差Cを下回っているかどうかにより、E(m)の評価を行う。
【0050】
続いてステップS105において、CPU11は、E(m)<Cとなっているかどうか判断する。換言すれば、CPU11は、逆フーリエ変換により再構成した時系列データが自己無撞着となっているかどうか判断する。ステップS105の判断の結果、E(m)<Cとなっていれば(ステップS105;Yes)、CPU11は一連の処理を終了する。一方、ステップS105の判断の結果、E(m)<Cとなっていなければ(ステップS105;No)、続いてステップS106において、CPU11はmを1つ増加させて、ステップS102の周波数成分の選択処理に戻る。
【0051】
時系列データ処理装置10は、係る処理を有することで、周波数ドメインのデータへの変換及び逆変換を行って、生体信号と逆変換後のデータとの差が所定の閾値より小さくなる周波数成分を選択することで、恣意性を排除したデータ処理が可能となる。
【0052】
続いて時系列データ処理装置10の効果を説明する。
【0053】
図5は、時系列データ、例えば脳波のデータの収束過程の例を示したグラフである。図5のグラフは、縦軸に二乗平均平方根(Root Mean Square;RMS)、すなわち数式(1)により求められるE(m)、横軸に自己無撞着場(Self-consistent Field)の計算のステップ数、すなわちmの値を示している。図5に示すように、mの値が増加するにつれてE(m)の値が減少していることがわかる。
【0054】
図6は、時系列データの一例である脈波のデータの例を示す図である。時系列データ処理装置10は、mの値を変化させることで脈波のデータの選択範囲を変化させることができる。図6の例では、m=250となってE(m)<Cとなったとする。この場合では、大凡166Hz~250Hz、及び750~834Hzのデータを、実際の脈波のデータとして抽出することができる。
【0055】
図7は、時系列データの一例である脳波のデータの例を示す図である。時系列データ処理装置10は、mの値を変化させることで脳波のデータの選択範囲を変化させることができる。図7の例では、m=250となってE(m)<Cとなったとする。この場合では、大凡166Hz~250Hz、及び750~834Hzのデータを、実際の脳波のデータとして抽出することができる。
【0056】
図8は、オリジナルの脈波のデータと、E(m)<Cとなったm=250の時点で採用された周波数成分を基に再構成した時系列データとを重ね合わせたグラフである。図8の「original」がオリジナルの脈波のデータであり、「smoothed」が再構成した時系列データである。このように、E(m)<Cとなった周波数成分を基に再構成した時系列データは、オリジナルの脈波のデータと近似しており、かつ、オリジナルの脈波のデータに重畳しているノイズ成分が除去されていることがわかる。
【0057】
図9は、オリジナルの脳波のデータと、E(m)<Cとなったm=250の時点で採用された周波数成分を基に再構成した時系列データとを重ね合わせたグラフである。図9の「original」がオリジナルの脳波のデータであり、「smoothed」が再構成した時系列データである。このように、E(m)<Cとなった周波数成分を基に再構成した時系列データは、オリジナルの脳波のデータと近似しており、かつ、オリジナルの脳波のデータに重畳しているノイズ成分が除去されていることがわかる。
【0058】
以上から、本実施形態に係る時系列データ処理装置10は、周波数領域で、対象とする周波数帯を明確に扱いつつ、時間領域での誤差を直接評価することによって、時系列因果分析などの前処理において、解析者の裁量によらず、安定したノイズ除去が可能となる。
【0059】
なお、上記各実施形態でCPUがソフトウェア(プログラム)を読み込んで実行した時系列データ処理を、CPU以外の各種のプロセッサが実行してもよい。この場合のプロセッサとしては、FPGA(Field-Programmable Gate Array)等の製造後に回路構成を変更可能なPLD(Programmable Logic Device)、及びASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の特定の処理を実行させるために専用に設計された回路構成を有するプロセッサである専用電気回路等が例示される。また、時系列データ処理を、これらの各種のプロセッサのうちの1つで実行してもよいし、同種又は異種の2つ以上のプロセッサの組み合わせ(例えば、複数のFPGA、及びCPUとFPGAとの組み合わせ等)で実行してもよい。また、これらの各種のプロセッサのハードウェア的な構造は、より具体的には、半導体素子等の回路素子を組み合わせた電気回路である。
【0060】
また、上記各実施形態では、時系列データ処理のプログラムがROMまたはストレージに予め記憶(インストール)されている態様を説明したが、これに限定されない。プログラムは、CD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)、DVD-ROM(Digital Versatile Disk Read Only Memory)、及びUSB(Universal Serial Bus)メモリ等の非一時的(non-transitory)記録媒体に記録された形態で提供されてもよい。また、プログラムは、ネットワークを介して外部装置からダウンロードされる形態としてもよい。
【0061】
以上、添付図面を参照しながら本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明の技術的範囲はかかる例に限定されない。本発明の技術分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これら各種の変更例または修正例についても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0062】
1 生体信号測定装置
10 時系列データ処理装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9