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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154360
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】転がり軸受
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/78 20060101AFI20231012BHJP
   F16C 33/66 20060101ALI20231012BHJP
   F16J 15/16 20060101ALI20231012BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
F16C33/78 Z
F16C33/66 Z
F16J15/16 B
F16C19/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063673
(22)【出願日】2022-04-06
(71)【出願人】
【識別番号】597107733
【氏名又は名称】株式会社藤野鉄工所
(74)【代理人】
【識別番号】100120938
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 教郎
(72)【発明者】
【氏名】藤野 真一
【テーマコード(参考)】
3J043
3J216
3J701
【Fターム(参考)】
3J043AA16
3J043BA02
3J043CA05
3J043CA08
3J043CA15
3J043CB07
3J043CB20
3J043DA06
3J043HA10
3J216AA02
3J216AA03
3J216AA12
3J216AA14
3J216AB48
3J216BA30
3J216CA02
3J216CA04
3J216CB03
3J216CB07
3J216CB18
3J216CC45
3J216CC62
3J216CC70
3J216DA11
3J216DA30
3J216EA04
3J216GA03
3J701AA02
3J701AA13
3J701AA32
3J701AA42
3J701AA52
3J701AA54
3J701AA62
3J701BA73
3J701BA78
3J701CA40
3J701EA03
3J701EA31
3J701EA76
3J701EA77
3J701FA13
3J701GA55
3J701XB03
3J701XB12
3J701XB19
(57)【要約】
【課題】軸受内部の潤滑剤が軸受外部へ発塵するのを抑制することができる転がり軸受を提供する。
【解決手段】 転がり軸受1は、外輪11と、内輪12と、外輪11及び内輪12の間に転動可能に配置された複数の玉13と、軸受内部S1の潤滑剤が軸受外部S2に流出するのを抑制するために外輪11の軸方向両側に取り付けられた一対の環状のシールド20と、を備える。シールド20は、外周面が外輪11に取り付けられるとともに内周面が内輪12の外周面に対して隙間をあけて配置された環状の内側シールド板21と、内側シールド板21よりも軸方向外側において外周面が外輪11に取り付けられるとともに内周面が内輪12の外周面に対して隙間をあけて配置された環状の外側シールド板24と、内側シールド板21と外側シールド板24との間に挟持されて潤滑剤を吸着可能な環状の吸着材27と、を有する。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定輪と、回転輪と、前記固定輪及び前記回転輪の間に転動可能に配置された複数の転動体と、軸受内部の潤滑剤が軸受外部に流出するのを抑制するために前記固定輪の軸方向両側に取り付けられた一対の環状のシールドと、を備え、
前記シールドは、
内周面及び外周面のうちの一方の周面が前記固定輪に取り付けられ、他方の周面が前記回転輪の周面に対して隙間をあけて配置された環状の内側シールド板と、
前記内側シールド板よりも軸方向外側において、内周面及び外周面のうちの一方の周面が前記固定輪に取り付けられ、他方の周面が前記回転輪の周面に対して隙間をあけて配置された環状の外側シールド板と、
前記内側シールド板と前記外側シールド板との間に挟持され、前記潤滑剤を吸着可能な環状の吸着材と、を有する、転がり軸受。
【請求項2】
前記内側シールド板の前記回転輪に接近する部分には、前記回転輪に向かうに従って軸方向内側に傾斜する環状の傾斜面が形成されている、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記内側シールド板及び前記外側シールド板のうちの一方のシールド板は、前記固定輪の周面と、この周面に対向する前記吸着材の周面との間において軸方向に突出して他方のシールド板に当接する短筒状の突出部を有し、
前記突出部は、前記内側シールド板と前記外側シールド板とによる前記吸着材を挟持する間隔が所定値以下になるのを規制している、請求項1又は請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
前記内側シールド板は、その軸方向内側の側面が前記固定輪に設けられた段差面に当接されて軸方向内側への移動が規制されており、
前記外側シールド板は、その軸方向外側の側面が前記固定輪に取り付けられた環状の規制部材に当接されて軸方向外側への移動が規制されている、請求項3に記載の転がり軸受。
【請求項5】
前記吸着材は、軸方向に並んで複数設けられている、請求項1又は請求項2に記載の転がり軸受。
【請求項6】
複数の前記吸着材は、第1吸着材と、前記第1吸着材よりも軸方向内側に配置された第2吸着材と、を有し、
前記第2吸着材における前記回転輪側の周面の直径は、前記第1吸着材における前記回転輪側の周面の直径よりも大きい、請求項5に記載の転がり軸受。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的な転がり軸受は、内輪、外輪、複数の転動体、及びこれら転動体を保持する保持器を備えている。さらに、転動体が存在している軸受内部に軸受外部から水や異物等が侵入したり、軸受内部のグリースが軸受外部へ流出したりするのを抑制するために、環状のシールドを備えた転がり軸受が知られている(例えば、特許文献1参照)。シールドの外周部は、固定輪(外輪)の軸方向両側に取り付けられている。シールドの内周面は、回転輪(内輪)の外周面との間には微小な隙間をあけて配置されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008-51304号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような転がり軸受では、軸受内部のグリースは、転動体の転動によって軸方向中央部から軸方向両側に飛散する。軸方向両側に飛散したグリースの大部分は、シールドに遮られることよって軸受外部への流出が抑制される。しかし、グリースの一部は、シールドと内輪との隙間から微小のミストになって軸受外部に発塵される。軸受外部が、清浄な環境を求められるクリーンルーム等である場合、転がり軸受から発塵されたミストが他の装置に悪影響を与えるおそれがある。
【0005】
本発明は、軸受内部の潤滑剤が軸受外部へ発塵するのを抑制することができる転がり軸受を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明の転がり軸受は、固定輪と、回転輪と、前記固定輪及び前記回転輪の間に転動可能に配置された複数の転動体と、軸受内部の潤滑剤が軸受外部に流出するのを抑制するために前記固定輪の軸方向両側に取り付けられた一対の環状のシールドと、を備え、前記シールドは、内周面及び外周面のうちの一方の周面が前記固定輪に取り付けられ、他方の周面が前記回転輪の周面に対して隙間をあけて配置された環状の内側シールド板と、前記内側シールド板よりも軸方向外側において、内周面及び外周面のうちの一方の周面が前記固定輪に取り付けられ、他方の周面が前記回転輪の周面に対して隙間をあけて配置された環状の外側シールド板と、前記内側シールド板と前記外側シールド板との間に挟持され、前記潤滑剤を吸着可能な環状の吸着材と、を有する。
【0007】
上記転がり軸受によれば、軸受内部において、転動体の転動により軸方向外側に飛散した潤滑剤の大部分は、内側シールド板に遮られることによって軸受外部への流出が抑制される。さらに、内側シールド板と外側シールド板との間には、潤滑剤を吸着可能な吸着材が挟持されている。このため、軸受内部の潤滑剤の一部が内側シールド板と回転輪との隙間から外側シールド板側へミストになって発塵しても、そのミストを吸着材で吸着することができる。これにより、軸受内部の潤滑剤が外側シールド板と回転輪との隙間から軸受外部へ発塵するのを抑制することができる。
【0008】
(2)上記(1)の転がり軸受において、前記内側シールド板の前記回転輪に接近する部分には、前記回転輪に向かうに従って軸方向内側に傾斜する環状の傾斜面が形成されているのが好ましい。
この場合、軸受内部の回転輪側において、転動体の転動により軸方向外側に飛散した潤滑剤は、内側シールド板の傾斜面に沿って回転輪側から固定輪側へ流れ易くなる。これにより、前記飛散した潤滑剤の外側シールド板側へのミストの発塵量を抑制することができる。その結果、軸受内部の潤滑剤が軸受外部へ発塵するのをさらに抑制することができる。
【0009】
(3)上記(1)又は(2)の転がり軸受において、前記内側シールド板及び前記外側シールド板のうちの一方のシールド板は、前記固定輪の周面と、この周面に対向する前記吸着材の周面との間において軸方向に突出して他方のシールド板に当接する短筒状の突出部を有し、前記突出部は、前記内側シールド板と前記外側シールド板とによる前記吸着材を挟持する間隔が所定値以下になるのを規制しているのが好ましい。
この場合、吸着材が両シールド板の間で挟持されるときに一方のシールド板の突出部が他方のシールド板に当接することで、吸着材が軸方向に過度に圧縮されるのを規制することができる。これにより、吸着材のミストの吸着機能が著しく低下するのを防ぐことができる。
【0010】
(4)上記(3)の転がり軸受において、前記内側シールド板は、その軸方向内側の側面が前記固定輪に設けられた段差面に当接されて軸方向内側への移動が規制されており、前記外側シールド板は、その軸方向外側の側面が前記固定輪に取り付けられた環状の規制部材に当接されて軸方向外側への移動が規制されているのが好ましい。
この場合、規制部材を固定輪に取り付けることで、固定輪の段差面と規制部材との間において、内側シールド板、吸着材、及び外側シールド板を軸方向に位置決めすることができる。このため、シールドを外輪に簡単に取り付けることができる。
【0011】
(5)上記(1)~(4)のいずれかの転がり軸受において、前記吸着材は、軸方向に並んで複数設けられているのが好ましい。
この場合、複数の吸着材により、ミストの吸着効率を高めることができる。
(6)上記(5)の転がり軸受において、複数の前記吸着材は、第1吸着材と、前記第1吸着材よりも軸方向内側に配置された第2吸着材と、を有し、前記第2吸着材における前記回転輪側の周面の直径は、前記第1吸着材における前記回転輪側の周面の直径よりも大きいのが好ましい。
この場合、内側シールド板と第1吸着材との間には、第2吸着材よりも回転輪側に環状の空間が形成される。このため、内側シールド板と回転輪との隙間から発塵したミストは、回転輪の回転に伴う風力によって固定輪側に向かって流れることで、前記空間に溜まり易くなる。これにより、軸受内部の潤滑剤が外側シールド板と回転輪との隙間から軸受外部へ発塵するのをさらに抑制することができる。また、前記空間内のミストは、第1吸着材にその軸方向内側の側面から吸着されるとともに、第2吸着材にその回転輪側の周面から吸着される。これにより、前記空間内のミストを第1吸着材及び第2吸着材により効率的に吸着させることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、軸受内部の潤滑剤が軸受外部へ発塵するのを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態に係る転がり軸受を示す断面図である。
図2】シールドを示す拡大断面図である。
図3】第2実施形態に係る転がり軸受を示す断面図である。
図4】第3実施形態に係る転がり軸受を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、好ましい実施形態について図面を参照しつつ説明する。
[第1実施形態]
<転がり軸受の構成>
図1は、第1実施形態に係る転がり軸受1を示す断面図である。転がり軸受1は、例えば調心輪付き玉軸受であり、機械設備の軸の撓みを吸収する目的で使用される。転がり軸受1は、調心輪10と、外輪11と、内輪12と、複数の玉(転動体)13と、保持器14と、一対のシールド20と、一対の規制部材30とを備える。なお、転がり軸受1は、深溝玉軸受、アンギュラ玉軸受、又は円筒ころ軸受等であってもよい。
【0015】
本明細書において、転がり軸受1の中心軸Cに沿う方向は、転がり軸受1の軸方向であり、単に「軸方向」と称する。軸方向には、中心軸Cに平行な方向も含まれる。図1において、転がり軸受1の軸方向中央から軸方向両側へ向かう方向を「軸方向外側」と称し、転がり軸受1の軸方向両側から軸方向中央へ向かう方向を「軸方向内側」と称する。中心軸Cに直交する方向が、転がり軸受1の径方向であり、単に「径方向」と称する。中心軸Cを中心として転がり軸受1の回転輪(本実施形態では内輪12)が回転する方向が、転がり軸受1の周方向であり、単に「周方向」と称する。
【0016】
調心輪10は、軸受鋼や機械構造用鋼等からなる環状の部材である。調心輪10の内周には、凹球面10aが形成されている。また、調心輪10の内周における周方向の一部には、切欠部10bが形成されている。
【0017】
外輪11は、軸受鋼や機械構造用鋼等からなる環状の部材である。外輪11は固定輪である。なお、外輪11は回転輪であってもよい。外輪11の外周には、調心輪10の凹球面10aに面接触する凸球面11aが形成されている。凸球面11aの中心点は、凹球面10aの中心点と一致している。調心輪10の中心軸に対して外輪11の中心軸が傾斜する荷重が作用すると、凹球面10aと凸球面11aとの間で滑りが生じ、調心輪10に対して外輪11が揺動するようになっている。つまり、転がり軸受1は、調心機能を有している。
【0018】
外輪11の内周における軸方向中央部には、外輪軌道面11bが周方向全体にわたって形成されている。外輪軌道面11bは、玉13が転動する軌道面である。外輪11の内周における軸方向両端部には、それぞれ環状の切欠部11cが形成されている。切欠部11cは、径方向に平坦な段差面11dと、軸方向に平坦な円周面11eとを有している。円周面11eは、段差面11dの径方向外端から外輪11の軸方向外側の側面に至るまで形成されている。
【0019】
内輪12は、軸受鋼や機械構造用鋼等からなる環状の部材である。内輪12は回転輪である。なお、内輪12は固定輪であってもよい。内輪12の外周における軸方向中央部には、内輪軌道面12bが周方向全体にわたって形成されている。内輪軌道面12bは、玉13が転動する軌道面である。内輪12の外周における内輪軌道面12bの軸方向両側には、軸方向に平坦な円周面12cが形成されている。円周面12cは、内輪軌道面12bの軸方向外端から内輪12の軸方向外側の側面に至るまで形成されている。
【0020】
複数の玉13は、外輪11及び内輪12の間に配置されている。本実施形態の玉13は、軸受鋼や機械構造用鋼等からなる。各玉13は、外輪軌道面11b及び内輪軌道面12bを転動する。
【0021】
保持器14は、例えば合成樹脂製の部材である。保持器14は、玉13の軸方向両側に配置された一対の環状体15と、一対の環状体15を連結する複数の柱16とを有している。複数の柱16は、環状体15の周方向全体にわたって等間隔に配置されている。一対の環状体15同士の間と、隣り合う一対の柱16同士の間に、各玉13を収容するポケット17が形成されている。これにより、保持器14は、複数の玉13を周方向に沿って等間隔に保持している。
【0022】
一対のシールド20は、外輪11と内輪12との間の軸方向両側に配置されている。各シールド20は、全体として環状に形成されている。一対のシールド20は、外輪11と内輪12との間の軸受内部S1に封入された潤滑剤(潤滑油、グリース等)が軸受外部S2に流出するのを抑制するものである。一対のシールド20は、外輪11の軸方向両側の切欠部11cに取り付けられている。一対の規制部材30は、外輪11に対して各シールド20を軸方向に位置決めするものである。
【0023】
<シールドの構成>
図2は、シールド20を示す拡大断面図である。シールド20は、内側シールド板21と、外側シールド板24と、複数の吸着材27と、を有している。内側シールド板21は、例えば金属からなる環状の板部材である。内側シールド板21は、環状の本体部22と、短筒状の突出部23とを有している。
【0024】
突出部23は、本体部22の径方向外側の端部から軸方向外側に突出している。本実施形態の突出部23は、外輪11の切欠部11cの円周面11eと、内側シールド板21の突出部26(後述)の外周面との間において軸方向外側に突出している。突出部23の外周面は、切欠部11cの円周面11eに嵌合されている。これにより、内側シールド板21は、外輪11に取り付けられている。突出部23の軸方向の長さは、円周面11eの軸方向の長さよりも短い。
【0025】
本体部22の軸方向内側の内側面(側面)22aにおける径方向外側は、切欠部11cの段差面11dに当接している。これにより、内側シールド板21は、軸方向内側への移動が規制されている。本体部22の側面22aにおける径方向内側(内輪12に接近する部分)には、環状の傾斜面22a1が形成されている。傾斜面22a1は、本体部22の径方向内端に向かうに従って、つまり内輪12に向かうに従って軸方向内側に傾斜している。本体部22の内周面は、内輪12の円周面12cに対して微小な隙間をあけて配置されている。
【0026】
外側シールド板24は、例えば金属からなる環状の板部材である。外側シールド板24は、内側シールド板21よりも軸方向外側に配置されている。外側シールド板24は、環状の本体部25と、短筒状の突出部26とを有している。
【0027】
突出部26は、本体部25の径方向外側の端部から軸方向内側に突出している。本実施形態の突出部26は、内側シールド板21の突出部23の内周面と、各吸着材27の外周面との間において軸方向内側に突出している。突出部26の外周面は、内側シールド板21の突出部23の内周面に嵌合されている。これにより、外側シールド板24は、内側シールド板21を介して外輪11に取り付けられている。
【0028】
突出部26の軸方向内側の突出端26aは、内側シールド板21の本体部22における軸方向外側の外側面22bに当接している。これにより、外側シールド板24は、軸方向内側への移動が規制されている。本体部25の内周面は、内輪12の円周面12cに対して微小な隙間をあけて配置されている。本体部25の内径は、内側シールド板21の本体部22の内径と略同一である。
【0029】
複数の吸着材27は、それぞれ環状の部材である。複数の吸着材27は、軸方向に密着して並んだ状態で、内側シールド板21の本体部22と外側シールド板24の本体部25との間に挟持されている。外側シールド板24の突出部26は、その突出端26aが内側シールド板21の外側面22bに当接することによって、内側シールド板21と外側シールド板24とによる複数の吸着材27を挟持する軸方向の間隔L1が所定値以下になるのを規制している。本実施形態の間隔L1は、突出部26の軸方向の長さである。前記所定値は、内側シールド板21及び外側シールド板24により各吸着材27が軸方向に過度に圧縮されない値である。
【0030】
吸着材27は、潤滑剤を吸着可能な材質からなる。本実施形態の吸着材27は、繊維が絡み合うことで内部に多数の気孔が形成されているフェルト等の不織布からなる。不織布の平均気孔径は、約300μmであるのが好ましい。吸着材27は、その内部の多数の気孔に潤滑剤が入り込むことで、潤滑剤を吸着するようになっている。なお、吸着材27は、不織布に限定されるものではなく、例えば多数の気孔が内部に形成された軽石であってもよい。
【0031】
複数の吸着材27は、軸方向外側に配置された第1吸着材27Aと、軸方向内側に配置された第2吸着材27Bとを含む。第1吸着材27Aの外周面は、外側シールド板24の突出部26の内周面に嵌合されている。第1吸着材27Aの内径(内周面の直径)D1は、外側シールド板24の本体部25の内径よりも少し大きい。これにより、第1吸着材27Aの内周面は、内輪12の円周面12cに対して隙間をあけて配置されている。
【0032】
第2吸着材27Bの外周面は、外側シールド板24の突出部26の内周面に嵌合されている。第2吸着材27Bの内径(内周面の直径)D2は、第1吸着材27Aの内径D1よりも大きい。これにより、内側シールド板21と第1吸着材27Aとの間には、第2吸着材27Bよりも径方向内側に環状の空間S3が形成されている。なお、吸着材27の個数は、1個だけでもよいし、3個以上であってもよい。
【0033】
規制部材30は、例えば金属からなる有端環状のスナップリングである。規制部材30の外径は、外輪11における切欠部11cの円周面11eの外径よりも大きい。切欠部11cの円周面11eには、環状の凹溝11fが形成されている。上述のように内側シールド板21の本体部22が段差面11dに当接するとともに外側シールド板24の突出部26が内側シールド板21の本体部22に当接した状態で、規制部材30の径方向外側の端部は、外輪11の凹溝11fに嵌め込まれている。これにより、規制部材30は、外輪11に取り付けられ、軸方向両側への移動が規制されている。
【0034】
規制部材30の内径は、外側シールド板24の本体部25の外径よりも小さく、かつ、本体部25の内径よりも大きい。規制部材30の軸方向内側の内側面30aには、外側シールド板24の本体部25における軸方向外側の外側面(側面)25bが当接している。これにより、外側シールド板24は、軸方向外側への移動が規制されている。規制部材30の内側面30aには、内側シールド板21の突出部23の突出端23aも当接している。なお、突出部23は、その突出端23aが規制部材30の内側面30aに当接しないように、軸方向に短く形成されていてもよい。
【0035】
以上の構成により、内側シールド板21は、外輪11の段差面11dと外側シールド板24の突出部26(突出端26a)との間、及び段差面11dと規制部材30との間にそれぞれ挟まれて軸方向への移動が規制される。第1吸着材27A及び第2吸着材27Bは、内側シールド板21の本体部22と外側シールド板24の本体部25との間に挟まれて軸方向への移動が規制される。外側シールド板24は、内側シールド板21の本体部22と規制部材30との間に挟まれて軸方向への移動が規制される。したがって、規制部材30を外輪11の凹溝11fに取り付けることで、外輪11の段差面11dと規制部材30との間において、シールド20の全ての構成部材(内側シールド板21、第1吸着材27A、第2吸着材27B、及び外側シールド板24)が軸方向に位置決めされる。
【0036】
<作用効果>
本実施形態の転がり軸受1によれば、軸受内部S1において、玉13の転動により軸方向外側に飛散した潤滑剤の大部分は、内側シールド板21に遮られることによって軸受外部S2への流出が抑制される。さらに、内側シールド板21と外側シールド板24との間には、潤滑剤を吸着可能な吸着材27が挟持されている。このため、軸受内部S1の潤滑剤の一部が内側シールド板21(本体部22)と内輪12との隙間から外側シールド板24側へミストになって発塵しても、そのミストを吸着材27で吸着することができる。これにより、軸受内部S1の潤滑剤が、外側シールド板24(本体部25)と内輪12との隙間から軸受外部S2へ発塵するのを抑制することができる。
【0037】
また、軸受内部S1の内輪12側において、玉13の転動により軸方向外側に飛散した潤滑剤は、内側シールド板21の傾斜面22a1に沿って内輪12側から外輪11側へ流れ易くなる。これにより、前記飛散した潤滑剤の外側シールド板24側へのミストの発塵量を抑制することができる。その結果、軸受内部S1の潤滑剤が軸受外部S2へ発塵するのをさらに抑制することができる。
【0038】
また、吸着材27が両シールド板21,24の間で挟持されるときに外側シールド板24の突出部26が内側シールド板21(本体部22)に当接することで、吸着材27が軸方向に過度に圧縮されるのを規制することができる。これにより、吸着材27のミストの吸着機能が著しく低下するのを防ぐことができる。
【0039】
また、規制部材30を外輪11に取り付けることで、外輪11の段差面11dと規制部材30との間において、シールド20の全ての構成部材が軸方向に位置決めされる。このため、シールド20を外輪11に簡単に取り付けることができる。
【0040】
また、内側シールド板21(本体部22)と外側シールド板24(本体部25)との間には、複数の吸着材27が挟持されているので、ミストの吸着効率を高めることができる。
【0041】
また、内側シールド板21と第1吸着材27Aとの間には、第2吸着材27Bよりも内輪12側に環状の空間S3が形成される。このため、内側シールド板21と内輪12との隙間から発塵したミストは、内輪12の回転に伴う風力によって外輪11側に向かって流れることで、空間S3に溜まり易くなる。これにより、軸受内部S1の潤滑剤が、外側シールド板24と内輪12との隙間から軸受外部S2へ発塵するのをさらに抑制することができる。また、空間S3内のミストは、第1吸着材27Aにその軸方向内側の側面から吸着されるとともに、第2吸着材27Bにその内周面から吸着される。これにより、空間S3内のミストを第1吸着材27A及び第2吸着材27Bにより効率的に吸着させることができる。
【0042】
[第2実施形態]
図3は、第2実施形態に係る転がり軸受1の要部を示す断面図である。本実施形態の転がり軸受1は、シールド20の内側シールド板21の形状が、第1実施形態と相違する。本実施形態の内側シールド板21は、本体部22のみによって構成されている。本体部22の外周面は、切欠部11cの円周面11eに嵌合されている。これにより、内側シールド板21は、外輪11に取り付けられている。
【0043】
外側シールド板24の突出部26の外周面は、切欠部11cの円周面11eに嵌合されている。これにより、外側シールド板24は、外輪11に取り付けられている。外側シールド板24の突出部26の突出端26aは、内側シールド板21の本体部22の外側面22bに当接している。内側シールド板21は、外輪11の段差面11dと外側シールド板24の突出部26との間に挟まれて軸方向への移動が規制されている。
【0044】
本実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態の転がり軸受1においても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0045】
[第3実施形態]
図4は、第3実施形態に係る転がり軸受1の要部を示す断面図である。本実施形態の転がり軸受1は、シールド20の外側シールド板24の形状が、第1実施形態と相違する。本実施形態の外側シールド板24は、本体部25のみによって構成されている。本体部25の外周面は、切欠部11cの円周面11eに嵌合されている。これにより、外側シールド板24は、外輪11に取り付けられている。
【0046】
内側シールド板21の突出部23の突出端23aは、外側シールド板24の本体部25における軸方向内側の内側面25aに当接している。第1吸着材27A及び第2吸着材27Bの各外周面は、内側シールド板21の突出部23の内周面に嵌合されている。
【0047】
内側シールド板21の突出部23は、その突出端23aが外側シールド板24の内側面25aに当接することによって、内側シールド板21と外側シールド板24とによる複数の吸着材27を挟持する軸方向の間隔L2が所定値以下になるのを規制している。本実施形態の間隔L2は、突出部23の軸方向の長さである。
【0048】
内側シールド板21は、外輪11の段差面11dと外側シールド板24の本体部22との間に挟まれて軸方向への移動が規制されている。外側シールド板24は、内側シールド板21の突出部23と規制部材30との間に挟まれて軸方向への移動が規制されている。
【0049】
本実施形態の他の構成は、第1実施形態と同様であるため、同一の符号を付し、その説明を省略する。本実施形態の転がり軸受1においても、第1実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0050】
[その他]
今回開示された実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0051】
1 転がり軸受
11 外輪
11d 段差面
12 内輪
13 玉(転動体)
20 シールド
21 内側シールド板
22a 内側面(側面)
22a1 傾斜面
23 突出部
23a 突出端
24 外側シールド板
25b 外側面(側面)
26 突出部
26a 突出端
27 吸着材
27A 第1吸着材
27B 第2吸着材
30 規制部材
L1 間隔
L2 間隔
S1 軸受内部
S2 軸受外部
図1
図2
図3
図4