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特開2023-154397コンプレッションモールド用離型フィルム、半導体チップ封止体の製造方法
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  • 特開-コンプレッションモールド用離型フィルム、半導体チップ封止体の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154397
(43)【公開日】2023-10-19
(54)【発明の名称】コンプレッションモールド用離型フィルム、半導体チップ封止体の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20231012BHJP
   B32B 27/36 20060101ALI20231012BHJP
   B29C 33/68 20060101ALI20231012BHJP
【FI】
B32B27/00 L
B32B27/36
B29C33/68
【審査請求】未請求
【請求項の数】20
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023019708
(22)【出願日】2023-02-13
(31)【優先権主張番号】P 2022063293
(32)【優先日】2022-04-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】塩見 篤史
(72)【発明者】
【氏名】巽 規行
(72)【発明者】
【氏名】内田 裕仁
(72)【発明者】
【氏名】合田 亘
【テーマコード(参考)】
4F100
4F202
【Fターム(参考)】
4F100AA07A
4F100AA07H
4F100AA20A
4F100AA20H
4F100AC04A
4F100AC04H
4F100AK01A
4F100AK14B
4F100AK17B
4F100AK36A
4F100AK36B
4F100AK36H
4F100AK42A
4F100BA02
4F100BA03
4F100CA02B
4F100CA02H
4F100CA24A
4F100CA24H
4F100CC102
4F100CC10B
4F100DD07B
4F100EH462
4F100EH46B
4F100EJ052
4F100EJ05B
4F100GB41
4F100GB90
4F100JB13B
4F100JL14
4F202AA24
4F202AB16
4F202AF01
4F202AG05
4F202AH33
4F202AH37
4F202CA09
4F202CB01
4F202CM72
4F202CM73
4F202CM74
(57)【要約】
【課題】優れた意匠性を付与することができ、かつ成型加工時の成型性に優れた、コンプレッションモールド用離型フィルム、および半導体チップ封止体の製造方法を提供する。
【解決手段】基材層、離型層からなり、少なくとも片側の表面に離型層を有し、基材層に粒子を0.1質量%以上、30質量%以下含有する半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材層、及び離型層を含み、少なくとも片側の表面に前記離型層を有し、基材層に粒子を0.1質量%以上、30質量%以下含有する半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項2】
前記粒子が無機粒子である請求項1に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項3】
比重が1.38以上、1.70以下である請求項1または2に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項4】
少なくとも片面の離型層に含まれる粒子含有量が4質量%以下である請求項1または2に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項5】
少なくとも片面の離型層表面における三次元表面粗さの平均波長Sλaが1μm以上、35μm以下である請求項1または2に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項6】
125℃におけるヤング率が50MPa以上、500MPa以下である請求項1または2に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項7】
少なくとも片面の離型層表面における水の接触角が85°以上、120°以下である請求項1または2に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項8】
前記離型層側から測定した際の中心面粒度SGrが200μm以上800μm以下である請求項1または2に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項9】
前記離型層側から測定した際の三次元表面粗さの算術平均粗さSRaが0.1μm以上2.0μm以下である請求項1または2に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項10】
前記離型層側から測定した際の60°光沢度が1%以上10%以下である請求項1または2に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項11】
前記基材層がポリエステル樹脂を主たる構成成分とする請求項1に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項12】
前記基材層のポリエステル樹脂がシクロヘキサンジメタノール残基もしくはブチレングリコール残基をジオール成分のうち0.5mol%以上、20mol%以下含有する請求項11に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項13】
前記基材層のポリエステル樹脂がイソフタル酸残基を酸成分のうち0.5mol%以上、10mol%以下含有する請求項11または12に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項14】
前記基材層がポリアルキレングリコールを0.1質量%以上、3.0質量%以下含有する請求項11に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項15】
前記ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである請求項14に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項16】
前記基材層が少なくともメイン層とサブ層で構成され、サブ層に粒子を10質量%以上、40質量%以下を含有する請求項11または14に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項17】
サブ層を構成する樹脂にシクロヘキサンジメタノール残基および/またはテトラメチレングリコール残基および/または1,3-プロパンジオールをおよび/または1,4-ブタンジオールをジオール成分のうち10mol%以上、45mol%以下含有する請求項16に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項18】
半導体フェイスアップ方式に用いられる請求項1または2に記載のコンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項19】
ファンアウトウェハレベルパッケージプロセスに用いられる請求項1または2に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
【請求項20】
請求項1または2に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルムの離型層がモールド樹脂面側となるよう配置する工程、および加熱プレスによりモールド樹脂を硬化させる工程を有する、半導体チップ封止体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンプレッションモールド加工に用いられる離型フィルムに関するものであり、特に半導体封止工程で行われるコンプレッションモールド用離型フィルムとして好適に用いることができる。
【背景技術】
【0002】
半導体チップは、光、熱、水分、物理的な衝撃等の外乱からの保護を目的として樹脂で封止され、パッケージと呼ばれる成形品として基板上に実装される。半導体チップの封止には、エポキシ樹脂等の硬化性樹脂が用いられる。半導体チップの封止方法としては、いわゆるトランスファモールド(トランスファ成型)加工法またはコンプレッションモールド(圧縮成型)加工法が知られているが、近年、半導体ウェハの大面積化やパッケージの低背化、多ピン化といった形状のトレンドを背景にコンプレッションモールド法の導入が進んでいる。
【0003】
コンプレッションモールド加工法は、溶融した封止樹脂を加熱状態で金型が上下することで圧縮、硬化する工法である。この際、金型と封止樹脂との離型性を担保するため、間に離型フィルムを挿入する方法が一般的である。離型フィルムとしては、離型性と耐熱性、金型形状への追従性に優れるエチレン-テトラフルオロエチレン共重合体のフィルムが広く用いられて来たが、硬化性のモールド樹脂から発生するガスの透過性が高く、金型を汚染しやすいことから、ポリエステルを中心としたガス透過性が低い材料の検討が行われている(特許文献1、2)。ポリエステルフィルムのなかでも、寸法安定性に優れるポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムを基材とする離型フィルムの場合、基材層とは別に離型層を設ける必要があり、意匠性付与のため離型層に粒子などの凹凸付与成分を添加させる手段がしばしば用いられている(特許文献3)。また離型フィルムの表面に凹凸を付与する手段として、サンドブラストやエンボスなどの物理的な加工を加える方法もしばしば用いられている(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-158242号公報
【特許文献2】特開2016-92272号公報
【特許文献3】特開2016-92271号公報
【特許文献4】特開2019-73022号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
細かく均一な表面凹凸を付与でき、優れた意匠性を付与する観点から、粒子などの凹凸付与成分を添加することが望ましいが、工程中における凹凸付与成分の脱落により系内を汚染することを抑制する観点からは、基材層に凹凸付与成分を含ませることが望ましいことが分かった。一方で、基材層が凹凸付与成分を含有することにより、成型加工時に局所的に応力が集中した時に離型フィルムが破れるおそれがあることがわかった。
【0006】
そこで、本発明の課題は、優れた意匠性を付与することができ、かつ成型加工時の成型性に優れた、コンプレッションモールド用離型フィルム、および半導体チップ封止体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の好ましい一態様は以下の構成をとる。
(1)基材層、及び離型層を含み、少なくとも片側の表面に前記離型層を有し、基材層に粒子を0.1質量%以上、30質量%以下含有する半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(2)前記粒子が無機粒子である(1)に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(3)比重が1.38以上、1.70以下である(1)または(2)に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(4)少なくとも片面の離型層に含まれる粒子含有量が4質量%以下である(1)~(3)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(5)少なくとも片面の離型層表面における三次元表面粗さの平均波長Sλaが1μm以上、35μm以下である(1)~(4)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(6)125℃におけるヤング率が50MPa以上、500MPa以下である(1)~(5)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(7)少なくとも片面の離型層表面における水の接触角が85°以上、120°以下である(1)~(6)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(8)前記離型層側から測定した際の中心面粒度SGrが200μm以上800μm以下である(1)~(7)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(9)前記離型層側から測定した際の三次元表面粗さの算術平均粗さSRaが0.1μm以上2.0μm以下である(1)~(8)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(10)前記離型層側から測定した際の60°光沢度が1%以上10%以下である(1)~(10)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(11)前記基材層がポリエステル樹脂を主たる構成成分とする(1)~(10)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(12)前記基材層のポリエステル樹脂がシクロヘキサンジメタノール残基もしくはブチレングリコール残基をジオール成分のうち0.5mol%以上、20mol%以下含有する(11)に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(13)前記基材層のポリエステル樹脂がイソフタル酸残基を酸成分のうち0.5mol%以上、10mol%以下含有する(11)または(12)に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(14)前記基材層がポリアルキレングリコールを0.1質量%以上、3.0質量%以下含有する(11)~(13)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(15)前記ポリアルキレングリコールがポリエチレングリコールである(14)に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(16)前記基材層が少なくともメイン層とサブ層で構成され、サブ層に粒子を10質量%以上、40質量%以下を含有する(1)~(15)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(17)サブ層を構成する樹脂にシクロヘキサンジメタノール残基および/またはテトラメチレングリコール残基および/または1,3-プロパンジオールをおよび/または1,4-ブタンジオールをジオール成分のうち10mol%以上、45mol%以下含有する(16)に記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(18)半導体フェイスアップ方式に用いられる(1)~(17)のいずれかに記載のコンプレッションモールド用離型フィルム。
(19)ファンアウトウェハレベルパッケージプロセスに用いられる(1)~(18)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルム。
(20)(1)~(19)のいずれかに記載の半導体コンプレッションモールド用離型フィルムの離型層がモールド樹脂面側となるよう配置する工程、および加熱プレスによりモールド樹脂を硬化させる工程を有する、半導体チップ封止体の製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、優れた意匠性を付与することができ、かつ成型加工時の成型性に優れた、コンプレッションモールド用離型フィルム、および半導体チップ封止体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】中心面粒度SGrのイメージ、およびSGrが200μm未満ならびにSGrが800μmを超える場合における断面形状のイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のコンプレッションモールド用離型フィルム(以下、単に離型フィルムと記載する場合がある)は基材層(以下、A層という場合がある)、及び離型層(以下、B層という場合がある)を含み、当該離型層(以下、B層)は、少なくとも片側の表面にあり、当該表面において、後述する方法で測定される水の接触角が85°以上である樹脂層である。
【0011】
<基材層(A層)組成、構成>
本発明のA層はポリエステル樹脂を主たる構成成分とすることが好ましい。ここでポリエステル樹脂を主たる構成成分とするとは、該フィルムを構成する成分に対してポリエステル樹脂が60質量%よりも多く含有されていることをいう。
【0012】
ポリエステル樹脂としては、1)ジカルボン酸もしくはそのエステル形成性誘導体(以下、「ジカルボン酸成分」と総称する)とジオール成分もしくはそのエステル形成性誘導体(以下、「ジオール成分」と総称する)の重縮合、2)一分子内にカルボン酸もしくはカルボン酸誘導体と水酸基を有する化合物の重縮合、および1)2)の組み合わせにより得ることができる。
【0013】
1)において、ジカルボン酸成分としては、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、スベリン酸、セバシン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、エイコサンジオン酸、ピメリン酸、アゼライン酸、メチルマロン酸、エチルマロン酸等の脂肪族ジカルボン酸類、アダマンタンジカルボン酸、ノルボルネンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸などの脂環族ジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、1,5-ナフタレンジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,8-ナフタレンジカルボン酸、4,4’-ジフェニルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルエーテルジカルボン酸、4,4’-ジフェニルスルホンジカルボン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、フェニルエンダンジカルボン酸、アントラセンジカルボン酸、フェナントレンジカルボン酸、9,9’-ビス(4-カルボキシフェニル)フルオレン酸などの芳香族ジカルボン酸、もしくはそのエステル誘導体などが代表例としてあげられる。また、これらは単独で用いても、複数種類用いても構わない。
【0014】
また上述のジカルボン酸成分の少なくとも一方のカルボキシ末端に、l-ラクチド、d-ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸類およびその誘導体や該オキシ酸類が複数個連なったもの等を縮合させたジカルボキシ化合物も用いることができる。
【0015】
次にジオール成分としては、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオールなどの脂肪族ジオール、シクロヘキサンジメタノール、スピログリコール、イソソルビドなどの脂環式ジオール、ビスフェノールA、1,3-ベンゼンジメタノール,1,4-ベンセンジメタノール、9,9’-ビス(4-ヒドロキシフェニル)フルオレンなどの芳香族ジオールが代表例としてあげられる。また、これらは単独で用いても、必要に応じて、複数種類用いても構わない。また、上述のジオール成分の少なくとも一方のヒドロキシ末端にジオール類を縮合させて形成されるジヒドロキシ化合物も用いることができる。
一方、2)においては、一分子内にカルボン酸もしくはカルボン酸誘導体と水酸基を有する化合物の例としては、l-ラクチド、d-ラクチド、ヒドロキシ安息香酸などのオキシ酸、およびその誘導体、オキシ酸類のオリゴマー、ジカルボン酸の一方のカルボキシル基にオキシ酸が縮合したもの等が挙げられる。
【0016】
ポリエステル樹脂として具体的にはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2、6-ナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸等のホモ重合体、およびこれらの共重合体が挙げられ、本発明のポリエステルフィルムを構成するポリエステル樹脂は前記のホモ重合体および共重合体の中から1種類を選択して用いてもよく、ホモ重合体同士、またはホモ重合体と共重合体をブレンドして用いてもよい。
【0017】
ここでポリエステル樹脂のホモ重合体としては、製膜性の観点からポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2、6-ナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸が好ましく、中でも加工性が容易であることからポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン-2、6-ナフタレートがより好ましく、意匠性の観点からポリエチレンテレフタレートが特に好ましい。
【0018】
またポリエステル樹脂の共重合体とは、ポリエステル樹脂全体の50mol%未満を異なるジカルボン酸成分とジオール成分のいずれか、または両方が構成する重合体のことを示し、ホモ重合体とのブレンドを想定する場合は、対象のホモ重合体と同じ分子構造を全体の50mol%以上を構成する共重合体を用いることが好ましい。
【0019】
ここでポリエステル樹脂の共重合体としては、重合適性や熱安定性、ホモ重合体との相溶性に優れる観点からジカルボン酸成分として、脂環族ジカルボン酸、イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸が、ジオール成分としてはブタンジオール、エチレングリコール、スピログリコール、シクロヘキサンジメタノールを共重成分として含むものが好ましく用いられ、これらは単独で用いても、必要に応じて組み合わせて用いても構わない。
【0020】
本発明の離型フィルムの基材層を構成するポリエステル樹脂において、ジカルボン酸成分に対するイソフタル酸残基量を0.5mol%以上とすることで離型フィルムの成型性を向上させることができるため好ましい。また、イソフタル酸残基量を10mol%以下とすることで過剰な柔軟化による凹凸の転写効率低下を抑制し、意匠性を高めることができるため好ましい。同様の観点から、イソフタル酸残基量は1.0mol%以上、7.0mol%以下がより好ましく、1.5mol%以上、3.0mol%以下が更に好ましい。また、同様の効果が期待できる点から、ジオール成分に対するシクロヘキサンジメタノール残基量、またはブチレングリコール残基量を0.5mol%以上、20mol%以下とすることが好ましく、5.0mol%以上、17mol%以下がより好ましく、8.0mol%以上、15mol%以下が更に好ましい。
【0021】
基材層としてポリエステル樹脂を主たる構成成分とする際、成型性を更に高める目的で、ポリエステル樹脂に柔軟化成分としてポリアルキレングリコール成分を含有させることが好ましい。ポリアルキレングリコール成分としては、ポリエチレングリコールやポリプロピレングリコール、ポリブチレングリコールが好ましく、分解温度が高い点やポリエステル樹脂と固体同士の溶融混練が容易であることから、ポリエチレングリコールがより好ましい。
【0022】
ポリアルキレングリコール成分の含有量として、基材層100質量%中、0.1質量%以上とすることで、成型性をより高められるため好ましい。また、ポリアルキレングリコール成分の含有量として、基材層100質量%中、3.0質量%以下とすることで、ポリアルキレングリコール成分の熱分解に伴う離型性不良を抑制できることや、過剰な柔軟化による凹凸の転写効率低下を抑制し、意匠性を高めることができるため好ましい。同様の観点から、ポリアルキレングリコール成分の含有量は、基材層100質量%中、0.3質量%以上、2.0質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上、1.0質量%以下が更に好ましい。
【0023】
尚、上記共重合成分の残基量や添加成分量は、離型フィルムを溶媒抽出した後、プロトン核磁気共鳴分光法(H-NMR)やカーボン核磁気共鳴分光法(13C-NMR)などの公知の手法によって分析を行うことができる。
【0024】
本発明では基材層が少なくともメイン層とサブ層で構成され、サブ層に粒子を10質量%以上、40質量%以下を含有する構成であることが好ましい。本構成であることによって粒子が高濃度に添加されたフィルムであってもメイン層があることによって製膜安定性および成形性が維持しやすくなる。このため、メイン層は粒子含有量が10質量%未満であることが好ましく、0質量%以上8質量%以下であることが好ましい。製膜安定性のみを考慮するのであればメイン層には粒子が添加されていないことが最も好ましい態様である。尚、意匠性を付与する観点から、少なくとも離型層/サブ層/メイン層の順で構成されていることが好ましい。当該構成である限り、サブ層がメイン層の両面に積層されたサブ層/メイン層/サブ層の3層積層構成でもよいし、交互に3層以上10000層以下の複数積層された構成であってもよい。尚、離型層側とは逆となる背面側にサブ層が形成されている場合(離型層/サブ層/基材層/サブ層の構成など)、離型フィルムと金型を真空引きによって吸着固定する際にエア抜けが良好となりシワが入ることを抑制できるためフェイスダウン方式に好適に使用することができる。
【0025】
尚、サブ層とメイン層の積層比は限定されないが、製膜安定性、成形性を重視するならばメイン層の比率を高くすることが好ましく、意匠性付与とエア抜けを重視するならばサブ層の比率を高くすることが好ましい。例えば、サブ層:メイン層=1:1~1:40の厚み方向の積層比率とすることが挙げられ、製膜安定性と意匠性付与を考慮すると1:5~1:20であることが好ましい。尚、サブ層の厚み絶対値は、意匠性付与とエア抜けの観点から1μm以上であることが好ましく、製膜安定性の観点から20μm未満であることが好ましい。尚、各層の厚み比について、例えば離型層/サブ1/メイン/サブ2の場合はサブ1とサブ2の厚みの和をサブ層とし、サブ3、4・・・とある場合においても各サブ層の和をサブ層とする。
【0026】
また、サブ層に粒子を10質量%以上、40質量%以下を含有する構成である場合、サブ層を構成する樹脂にシクロヘキサンジメタノール残基および/またはテトラメチレングリコール残基および/または1,3-プロパンジオール、および/または1,4-ブタンジオールをジオール成分のうち10mol%以上、45mol%以下含有することが好ましい。本構成であることによってフィルム製膜時に粒子含有によって生じたボイドを抑制しやすくなり、フィルム製膜安定性が向上する。ボイドがあると離型時に界面剥離し、残渣として残ってしまうことがあるが、このようなボイドが抑制されるため、コンプレッションモールド離型時に、離型フィルムから生じる残渣の発生を低減し、モールド樹脂や金型汚染等を抑制することができたり、後述する加工後のモールド樹脂に入るシワを抑制することができる。
【0027】
本発明の離型フィルムは、基材層全体となるA層の粒子含有量を0.1質量%以上とすることで、離型フィルムの表面形状を付与し、意匠性を高めることができる。また、A層の粒子含有量を30質量%以下とすることで、表面に多くの凹凸を有する粒子含有フィルムであっても離型性と成型性を維持することができる。同様の観点から、0.3質量%以上、26質量%以下が好ましく、1.0質量%以上、23質量%以下がより好ましく、3.0質量%以上18質量%以下が更に好ましい。
【0028】
本発明の離型フィルムにおいて、A層に含まれる粒子の平均粒径を0.10μm以上とすることで、粒子含有による形状付与効果をより高められるため好ましい。また、A層に含まれる粒子の平均粒径を15μm以下とすることで、不均一な表面凹凸による離型性や成型性の低下を抑制できるため好ましい。同様の観点から、A層に含まれる粒子の平均粒径は1.0μm以上、10μm以下がより好ましく、2.0μm以上、6.0μm以下が更に好ましい。なお、平均粒径は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0029】
更に、A層に含まれる粒子の比重を1.5以上とすることで、樹脂層に粒子を高濃度で含有させることが可能となり、意匠性を高めることができるため好ましい。また、粒子の比重を5.5以下とすることで、より高密度な凹凸形状を付与が可能となり、成型性と離型性の低下を抑制できるため好ましい。同様の観点から、A層に含まれる粒子の比重は1.7以上、4.5以下がより好ましく、2.0以上3.5以下が更に好ましい。
【0030】
上記の粒子含有量は、A層部分を削り出した測定試料を150℃真空下で24時間乾燥し秤量する。次いで、o-クレゾール/クロロホルム(質量比7/3)、温度80℃にて溶解させた後、遠心分離機で不溶物を分離し、得られた不溶物に温度80℃に加熱した前記溶媒を加えて分離する洗浄作業を5回繰り返した後、150℃真空下で24時間乾燥して秤量し、溶解前の試料に対する不溶物の含有量をA層中の粒子の含有量とするものとする。
【0031】
なお、上記の粒子比重は、公知の方法で求めることができる。例えば、精秤した離型フィルムを電気炉で加熱し有機物を分解させた後の灰分を秤量する方法や、離型フィルムの樹脂成分をアルカリ溶液で分解して液化、またはヘキサフルオロ-2-プロパノールやo-クロロフェノールの溶媒に溶かして、粒子成分を分離、洗浄してから秤量、測定する方法が挙げられる。
【0032】
A層に用いる粒子の具体例としては、無機粒子と有機粒子が挙げられる。無機粒子としては、金、銀、銅、白金、パラジウム、レニウム、バナジウム、オスミウム、コバルト、鉄、亜鉛、ルテニウム、プラセオジウム、クロム、ニッケル、アルミニウム、スズ、亜鉛、チタン、タンタル、ジルコニウム、アンチモン、インジウム、イットリウム、ランタニウム等の金属、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化セシウム、酸化アンチモン、酸化スズ 、インジウム・スズ酸化物、酸化イットリウム 、酸化ランタニウム 、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム 、酸化ケイ素等の金属酸化物、フッ化リチウム、フッ化マグネシウム 、フッ化アルミニウム 、氷晶石等の金属フッ化物、リン酸カルシウム等の金属リン酸塩、炭酸カルシウム等の炭酸塩、硫酸バリウム等の硫酸塩、ゼオライトなどのアルミノケイ酸塩、その他タルクおよびカオリン、カーボンブラック、フラーレン、チョップドまたはミルドカーボンファイバー、カーボンナノチューブ等の炭素系材料。有機粒子としては、シリコーン系化合物、架橋スチレンや架橋アクリル、架橋メラミンなどの架橋粒子の他、A層の樹脂成分と非相溶で、かつこれら樹脂中に島状に分散する樹脂も粒子とみなすことができる。
【0033】
コンプレッションモールド加工において、高圧で加圧された時に有機粒子は比較的構造変形を起こしやすい観点から、モールド樹脂面への凹凸転写効率に優れた無機粒子を用いることが好ましい。尚、本発明において、無機粒子の表面を有機物で処理、または被覆させた粒子は無機粒子とみなし、有機粒子の表面を無機物で処理、または被覆させた粒子は有機粒子とみなす。
【0034】
また、本発明の離型フィルムの基材層(A層)は、特に限定されるものでは無いが、2層以上の積層フィルムが好ましく、A層全体の60体積%以上を占めるメイン層(以下、A1層)とサブ層(以下、A2層)を設けることがより好ましい。また、A1、A2層を複数回積層した多層構成や、組成の異なるサブ層を複数設ける多種積層でもよい。
【0035】
本発明の離型フィルムは基材層に粒子を含有することが好ましいが、基材層を2層以上の積層フィルムとし、柔軟性の高い層と凹凸形状の付与性の高い層を別に設けることで、成型性と意匠性を同時に高めることができる。更に、モールド樹脂面の意匠性をより高めながら不均一な表面凹凸による離型性不良を抑制する観点から、基材層の少なくとも一方の表層のうち、離型層に近い側の層における粒子の含有量は、当該層100質量%中、1.0質量%以上、35質量%以下であることが好ましく、3.0質量%以上、30質量%以下がより好ましく、10質量%以上、25質量%以下が更に好ましい。ここで当該層とは、例えばA1層/A2層/離型層の場合はA2層、A2層/A1層/離型層の場合はA1層、A2’層/A1層/A2層/離型層の場合はA2層のことを示す。
【0036】
<A層の製造方法>
本発明の離型フィルムのA層は、粒子によって表面凹凸の形状を生じさせる観点から二軸配向フィルムとすることが好ましい。未延伸のシートに粒子を含有させた場合、製膜時に粒子が内部に埋没して意匠性が不十分となる場合がある。ここで二軸配向フィルムは、従来公知の任意の方法により得られた未延伸フィルムを長手方向に延伸した後、幅方向に延伸する、あるいは、幅方向に延伸した後、長手方向に延伸する逐次二軸延伸方法により、または、フィルムの長手方向、幅方向をほぼ同時に延伸していく同時二軸延伸方法などにより延伸を行うことで得ることができる。
【0037】
かかる延伸方法における延伸倍率としては、長手方向に2.7倍以上3.6倍以下、さらに好ましくは3.0倍以上3.4倍以下が採用される。また長手方向の延伸温度は、70℃以上90℃以下とすることが好ましい。また、幅方向の延伸倍率としては、好ましくは3.0倍以上5.0倍以下、さらに好ましくは、3.2倍以上4.0倍以下が採用される。
【0038】
さらに、二軸延伸の後にフィルムの熱処理を行う。熱処理はオーブン中など従来公知の任意の方法により行うことができる。この熱処理はフィルムの結晶融解ピーク温度(Tm)から-40℃以上Tm-5℃以下の温度雰囲気下で行われることが好ましい。熱処理温度をTm-40℃以上とすることで、延伸応力の緩和を十分に行い、コンプレッションモールド加工時の成型性を高めることができる。また、熱処理温度をTm-5℃以下とすることで、A層の表面近傍にある粒子の埋没を抑制し、意匠性を高めることができる。同様の観点から、熱処理温度はTm-30℃以上、Tm-8℃以下がより好ましく、Tm-20℃以上、Tm-10℃以下が更に好ましい。
【0039】
熱処理時間は特性を悪化させない範囲において任意とすることができるが、5秒以上、60秒以下とすることで、前述した熱処理温度による効果を高めることができるため好ましい。同様の観点から、熱処理時間は7秒以上、40秒以下がより好ましく、10秒以上、25秒以下が更に好ましい。
【0040】
<離型層(B層)組成、構成>
本発明のB層は、バインダー樹脂を含むとA層との密着性が向上し、また、剥離させる対象物との剥離力を調整できるため好ましい。バインダー樹脂の具体例としては、ポリエステル樹脂、ポリスチレン樹脂、アクリル樹脂、ウレタン樹脂、ポリビニル、ポリアルキレングリコール、ポリアルキレンイミン、セルロース類、でんぷん類等が挙げられるが、成型性、離型性向上の観点からアクリル樹脂が好ましく用いられる。
【0041】
上記のアクリル樹脂としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステルの単独重合体または共重合体、側鎖および/または主鎖末端に硬化性官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル共重合体があげられ、硬化性官能基としては水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基などがあげられる。なかでもアクリルモノマーと側鎖および/または主鎖末端に硬化性官能基を有するアクリル酸エステルが共重合されたアクリルモノマー共重合体が好ましい。
【0042】
また、B層を構成する成分として架橋剤を添加することが好ましい。前述した樹脂に各種の架橋剤を併用することにより、耐熱性を飛躍的に向上させることができる。架橋剤はオキサゾリン樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、カルボジイミド樹脂、イソシアネート樹脂が好ましい。B層の溶剤への耐久性の観点からメラミン樹脂がさらに好ましく用いられる。架橋剤は任意の比率で混合して用いることができるが、架橋剤は、バインダー樹脂100質量部に対し5質量部以上、50質量部以下の添加が離型性向上の点で好ましく、より好ましくは10質量部以上、40質量部以下である。架橋剤の添加量が5質量部未満の場合、離型性の効果が不十分となることや、ロール搬送時にキズが発生する場合がある。また、50質量部を越える場合、塗布時に斑が発生しやすくなり、結果的に離型性が低下するため好ましくない。
【0043】
本発明では、B層を形成する樹脂組成物中に、バインダー樹脂、架橋剤以外に、離型性を付与する目的に適う添加剤を含有することが好ましい。添加剤は、バインダー樹脂と架橋剤の質量の和を100質量部としたとき、3質量部以上、50質量部以下であることが好ましい。添加剤の質量を3質量部以上にすることで離型性を付与することができ、50質量部以下であることで、B層にコンプレッションモールド加工に耐えられる耐熱性を付与することが可能となり、結果的に離型性低下を抑制できる。好ましくは10質量部以上、42質量部以下であり、20質量部以上、34質量部以下であると最も好ましい。
【0044】
本発明でいう添加剤とは、樹脂に添加することにより、樹脂の表面に離型特性を有する化合物を示す。具体的には、シリコーン含有化合物や、フッ素化合物、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、カルナバワックスなどのワックス、長鎖アルキル基含有化合物、樹脂などが挙げられる。中でも、長鎖アルキル鎖含有化合物は、離型性と外観不良を抑制する観点で好ましい。本発明でいう長鎖アルキル化合物とは、長鎖アルキル基を有する化合物を指し、長鎖アルキル基を含む化合物であれば特に限定されないが、主鎖ポリマーの側鎖に長鎖アルキル基を有するものが挙げられる。
【0045】
主鎖ポリマーの側鎖に長鎖アルキル基を有する化合物において、主鎖ポリマーとしては、アクリレート系の重合体もしくは共重合体、ポリビニルアルコール(ポリ酢酸ビニルの部分ケン化物も含む)、エチレン-ビニルアルコール共重合体(エチレン-酢酸ビニル共重合体の部分ケン化物も含む)、ビニルアルコール-アクリル酸共重合体(酢酸ビニル-アクリル酸共重合体の部分ケン化物も含む)、ポリエチルイミン、ポリビニルアミン、スチレン-無水マレイン酸共重合体、ポリウレタンなどが挙げられる。
【0046】
<B層の形成方法>
本発明の離型フィルムの好ましい一態様は、A層の片面、もしくは両面にB層を設けられていることを特徴とする。
【0047】
A層の片面にのみB層を設ける場合、B層の製造過程を短縮することが可能となる点で好ましい。A層の表面組成や特性が異なる場合、後述する表面光沢度測定で60°光沢度が小さい方の面にB層を設けて、モールド加工時に樹脂に接する面に配置することで、優れた離型性と意匠性を両立することができる。またA層の両面にB層を設ける場合、金型側にも離型性が付与され、析出したオリゴマーなどが金型に付着するのを避けることができる点で好ましい。この際も同様に、60°光沢度が小さい方の面をモールド加工時に樹脂に接する面に配置することがより好ましい。
【0048】
B層をA層に設ける方法としては、B層の樹脂組成物を溶媒に溶解または分散せしめてA層に塗布し、塗布後に、溶媒を乾燥させ、且つ加熱を施す方法、A層と一緒にB層の樹脂組成物を溶融共押出して、前記方法でA層と一緒にシート化する方法、コロナ処理等の加工を施したA層の上に溶融したB層の樹脂組成物を押出して樹脂層を設ける方法、別々に製造されたA層とB層をラミネートする方法が挙げられる。中でも、前記の好ましいバインダー樹脂や添加剤、架橋剤を自由に選択できる観点から、B層を塗布して設ける方法が好ましい。
【0049】
A層にB層を塗布する方法としては、メタリングバーやグラビアロールで均一に塗布したのち、オーブンで乾燥させる方法が好ましい。グラビアコート法等のコーティング方式で塗布する場合、塗工層の流動・平坦化(レベリング) を阻害しない様に塗工することが好ましい。オーブン温度は70~245℃が好ましく、より好ましくは80~235℃、最も好ましくは90~225℃である。乾燥温度が70℃より低いと、離型層の硬化が十分に進まず、基材フィルムと離型層が密着しない場合がある。また、245℃よりも高い温度だと、フィルムの熱変形により塗工厚み精度が低下する場合がある。熱処理時間は1~60秒間であると好ましく、5~40秒間であるとさらに好ましく、10~30秒間であると最も好ましい。
【0050】
本発明の離型フィルムにおいて、安定した離型性を確保するため、B層をインラインコーティングにより設けることもできる。具体的には、A層の製造過程において、少なくとも一軸延伸を行ったフィルム上にB層の樹脂組成物を溶解または分散させたものをメタリングリングバーやグラビアロールなどを用いて均一に塗布し、延伸を施しながら塗材を乾燥させる方法が好ましく、上記手法を行うことで、B層の厚みをより均一にすることができる。また、A層との分子的な親和性を高められることで、A層とB層の密着性を高められ、オフラインコートと比した高い温度の熱処理により、塗膜硬化度が高まり耐熱性や耐薬品性が向上すると同時に、製造後のエージング処理が不要、または短時間化できる利点がある。
【0051】
本発明の離型フィルムは、B層厚みが乾燥後に10nm以上であることで、コンプレッションモールドのような高圧での加圧がなされた場合でも、A層の表面形状に追従する離型層維持できるため好ましい。また、B層厚みが乾燥後に2000nm以下であることで、A層の凹凸形状を損なわずに意匠性を高められるため好ましい。同様の観点から、乾燥後のB層厚みは50nm以上、1500nm以下がより好ましく、100nm以上、1200nm以下が更に好ましい。
【0052】
同様にB層中に粒子が含まれると、不均一な凹凸による離型性の低下、粒子脱落による工程汚染の原因となる場合がある。B層中の粒子含有量を当該層100質量%中含有量として4質量%以下であることで、A層の表面形状による効果を阻害することなく、離型性や成型性の両立ができるため好ましく、B層中の粒子含有量は1質量%以下がより好ましく、含有されないことが更に好ましい。
【0053】
<フィルム特性>
本発明の離型フィルムは、コンプレッションモールド加工時に表面凹凸の転写効率を高める観点で、離型フィルム内部の空隙量が少ないことが好ましく、フィルム比重が1.38以上であることで、プレス圧力の面内緩和を抑制し意匠性を高めることができるため好ましい。また、フィルム比重が1.70以下であることで、離型層が基材層の表面凹凸形状に追従し、離型性をより高めることができるため好ましい。同様の観点から、フィルム比重は1.40以上、1.60以下がより好ましく、1.41以上、1.55以下が更に好ましい。なお、フィルム比重は実施例に記載の方法で求めるものとする。
【0054】
本発明の離型フィルムは、少なくとも片面の離型層における三次元表面粗さの平均波長Sλaが1μm以上であることで、離型フィルムの凹凸の間隔が適度に離れることで意匠性を高めることができるため好ましい。また、三次元表面粗さの平均波長Sλaが35μm以下であることで、凹凸がより均一となり欠点などによる離型性低下を抑制できるため好ましい。同様の観点から、三次元表面粗さの平均波長Sλaは5μm以上、30μm以下がより好ましく、10μm以上、18μm以下が更に好ましい。ここで、三次元表面粗さの平均波長Sλaとは、後述する3次元粗さ解析によって求められる面方向の凹凸密度をあらわした数値であり、小さくなるほど凹凸の分布密度が高く均一であることを示し、大きくなるほど凹凸の分布密度が低く不均一であることを示したものである。
【0055】
本発明の離型フィルムは、少なくとも片面の離型層における三次元表面粗さの算術平均粗さSRaが0.1μm以上であることで、意匠性を高めることができるため好ましい。また、三次元表面粗さの算術平均粗さSRaが2.0μm以下であることで、粗大な凹凸に離型層が追従できずに起こる離型性低下を抑制できるため好ましい。同様の観点から、三次元表面粗さの算術平均粗さSRaは0.3μm以上、1.5μm以下がより好ましく、0.5μm以上、1.2μm以下が更に好ましい。なお、本表面特性は、離型層に粒子を含むことで形成するのではなく、表面凹凸が制御された基材層(B層)上に離型層を設けることが重要であり、これによって粒子の滑落や、樹脂層自体の剥離残渣に起因した金型汚染を抑制できるものである。すなわち、上記観点から本発明では離型層には粒子は少ないほど好ましく、凹凸形状を付与するために添加する粒子が入っていないことが特に好ましい。
【0056】
なお、三次元表面粗さの平均波長Sλa、算術平均粗さSRaは特開平07-186335号公報に定義されているものを用いる。
【0057】
本発明の離型フィルムは、離型層側から測定した際の中心面粒度SGrが200μm以上800μm以下であることが好ましい。中心面粒度SGrとは、特性の測定方法および評価方法の(5)に記載する3次元粗さ解析によって求められる表面凹凸の単位面積当たりの突起断面の面積総和をあらわした数値であり、例えば図1(a)に示したイメージ図では、SGrが200μm未満であると突起がシャープであり、図1(b)のように本値が800μmを超えると突起が緩やかである。
【0058】
本発明ではSGrが200μm以上であることで、表面突起が尖りすぎていないため、加工時の樹脂流動性が良好になり、加工に際してモールド樹脂が大きく流動するフェイスアップ方式のコンプレッションモールド加工後のモールド樹脂シワを低減することができ、また、突起が尖りすぎていないので離型時に突起部が残渣として残りにくくフィルム剥離残渣に起因した金型等の汚染を抑制することができる。一方、上記考え方からSGrが大きいほど流動性や剥離残渣が良好になるが、800μm以下であることにより意匠性を付与する上で適度に表面凹凸が形成された状態であるため好ましい。上記特性のバランスを取る観点からSGrが220μm以上600μm以下であることがより好ましく、240μm以上550μm以下であることがさらに好ましい。また、凹凸転写による意匠性を付与する観点からSRaが0.5μm以上1.5μmであって、中心面粒度SGrが200μm以上800μm以下であることが好ましい。
【0059】
SGrを上記範囲とするには離型層(B層)と隣接する層の粒子濃度が10質量%以上、40質量%以下であり、かつ離型層(B層)と隣接する層を構成する樹脂にシクロヘキサンジメタノール残基および/またはテトラメチレングリコール残基および/または1,3-プロパンジオールおよび/または1,4-ブタンジオール(ブチレングリコールとも言う)を合計でジオール成分のうち10mol%以上、45mol%以下含有することが好ましい調整方法である。より好ましくは20mol%以上45mol%以下、更に好ましくは30mol%以上45mol%以下である。また、シクロへキサンジメタノール残基を含有する代わりにイソフタル酸残基をジカルボン酸成分に含有することも好ましい手段としてあげられる。尚、本発明の効果を阻害しない範囲において、SGrを上記範囲に収める場合は、離型層は薄いほど好ましく、その厚みは1200nm以下であることが好ましい。離型性とSGrを上記範囲に収める観点より、離型層の厚みは50nm以上600nm以下であることが好ましい。
【0060】
中でも、離型層(B層)と隣接する層の粒子濃度が10質量%以上、40質量%以下であり、かつ離型層(B層)と隣接する層を構成する樹脂にシクロヘキサンジメタノール残基および/またはイソフタル酸残基を3mol%以上、10mol%以下含有し、かつテトラメチレングリコール残基を2mol%以上、6mol%以下含有し、かつ1,3-プロパンジオールおよび/または1,4-ブタンジオールをジオール成分のうち10mol%以上40mol%以下含有することが上記効果を向上させることができるためより好ましい調整方法である。
【0061】
上記方法をとることによって樹脂中に分散した粒子が形成する表面凹凸状態を抑制することができ、結果としてSGrを200μm以上800μm以下とすることができる。また、表面凹凸は粒子の添加によって制御することも可能であるが、粒子が添加された表面凹凸を形成する樹脂層を、二軸延伸した後の熱処理温度によっても制御することができる。例えば、粒子が添加された樹脂層の融点以上に熱処理を施すと、当該層は溶融することによって粒子が埋没して表面凹凸は平坦化し、SGrは大きくなる。一方、樹脂層の融点未満で熱処理を施すと粒子が起因となるボイドを形成することによってSGrが低下することもある。表面凹凸を形成する樹脂層にボイドが形成されてしまった場合、離型時に界面剥離し、残渣として残ってしまうことがある。このため、ボイドを形成せず、かつ樹脂層を融解しない熱処理温度とすることがSGrを本発明の好ましい範囲に制御する上で最も好ましい手段である。なお、三次元表面粗さの中心面粒度SGrは特性の測定方法および評価方法の(5)に定義されているものを用いる。
【0062】
本発明では、離型層側(R面)から測定した際の60°光沢度が1%以上10%以下であることがこのましい。本発明では離型フィルムを剥離した後のモールド樹脂は意匠性の観点から表面光沢度が低いほど好ましい。当該意匠性は、離型フィルムの表面形状を反転するように転写するため、離型フィルムの光沢度が低いほど、その反転形状が転写されたモールド樹脂の光沢度を低下させることができる。このため、離型層側(R面)から測定した際の60°光沢度が1%以上10%以下であることがこのましい。尚、離型フィルム表面の凹凸形状は反転して転写されるため、本発明のフィルムと転写後モールド樹脂の光沢度は完全に一致することはない。
【0063】
離型層側(R面)から測定した際の60°光沢度を1%以上10%以下にするためには、例えばモールド樹脂に凹凸転写する層(例えば、積層フィルムであればA2層)に数平均粒子径が1μm以上である粒子を凹凸転写する層に対して10質量%以上含むことが好ましい制御方法である。
【0064】
本発明の離型フィルムは、空気下、125℃でのヤング率が50MPa以上であることで、フィルムの剛性が高めて表面凹凸の転写効率をより高めることができるため好ましい。また、空気下、125℃でのヤング率が500MPa以下であることで、成型性をより高めることできるため好ましい。同様の観点から、空気下、125℃でのヤング率は75MPa以上、400MPa以下がより好ましく、100MPa以上、300MPa以下が更に好ましい。
【0065】
本発明の離型フィルムの離型面は、水の接触角が85°以上であることで、離型性を高めることができるため好ましい。また、水の接触角が120°以下であることで、モールド樹脂の追従性を高め意匠性を高めることができるため好ましい。同様の観点から、水の接触角は90°以上、115°以下がより好ましく、95°以上、110°以下が更に好ましい。
【0066】
<半導体チップ封止体の製造方法>
本発明の離型フィルムを用いて半導体封止体を製造する方法としては、成型装置に離型フィルム、半導体チップを配置したシリコンウェハを順に重ね、計量したモールド樹脂をウェハ上に載せた後、上部から離型層側(R面)がモールド樹脂側になるように本発明の離型フィルムを搬送して真空吸着させ、金型を加熱しながら圧縮プレスを行う方法挙げられる。この時、本発明の離型フィルムはモールド樹脂と金型の間に位置するため、意匠性付与のため表面形状を樹脂面に形成しながら成型性と離型性優れる設計が同時に求められる。尚、離型層が離型フィルムの両面に設けられている場合、前記の三次元表面粗さの平均波長Sλaや算術平均粗さSRa、SGr、水の接触角がより好ましい範囲である方をR面に選択することで本発明の効果をより高めることができる。
【0067】
上記の通り、本発明の離型フィルムは、コンプレッションモールド加工時の成型性と離型性を両立しながら、その表面形状から、コンプレッションモールド加工に適した意匠性を付与することができる。尚、モールド樹脂に意匠性が付与された場合、後の加工工程におけるレーザー照射など加工精度を向上することができる。これらは、粒子成分の脱落などによる加工不良を抑制する効果があることから、本発明の離型フィルムは回路製造工程や半導体製造工程用の離型フィルムとして好適であり、特に半導体封止工程用離型フィルムとして好適に用いることができる。
【0068】
また、フェイスダウン方式に比べて加工時の樹脂流動が少ない半導体フェイスアップ方式のコンプレッションモールド加工に用いることによって加工時の樹脂流動性を良好にし、樹脂欠けなどのシワを抑制できる観点から、フェイスアップ方式に好適に用いることができる。なおフェイスアップ方式は、実施例における(11)にあるように、半導体を置いた下型を上昇させる方式である。
【0069】
ただし、前記のとおり離型層側とは逆とのなる背面側にサブ層が形成されている場合(離型層/サブ層/基材層/サブ層の構成など)、離型フィルムと金型を真空引きによって吸着固定する際にエア抜けが良好となる観点から、フェイスダウン方式に好適に使用することもできる。更に、本発明の離型フィルムは意匠性を付与するために離型フィルム表面に凹凸形状を有しているにも関わらず、加工時の樹脂流動性が良好であることから樹脂欠け等を抑制し、モールド樹脂が半導体よりも広く回り込むことができ、より高精度の凹凸転写ができるため、コンプレッションモールド方式の中でもファンアウトウェハレベルパッケージプロセスに好適に用いることができる。
【0070】
〔特性の測定方法および評価方法〕
(1)ポリエステルの組成
ポリエステル樹脂およびフィルムをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)に溶解し、H-NMRおよび13C-NMRを用いて各モノマー残基成分やポリアルキレングリコールについて含有量を定量することができる。積層フィルムの場合は、積層厚みに応じて、フィルムの各層を削り取ることで、各層単体を構成する成分を採取し、評価することができる。なお、本発明のフィルムについては、フィルム製造時の混合比率から計算により、組成を算出した。
【0071】
(2)離型フィルムの断面観察
フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、粒子の種類に適した公知の方法(ミクロトーム法やイオンミリング法)で任意の方向とその直行方向の2つの断面について、厚み方向に対して垂直に切り出した。次いで、透過型電子顕微鏡(日立製作所製TEM H7100)、または走査型電子顕微鏡(日本電子製SEM JSM-6700F)のいずれかの手法で断面を観察した。
【0072】
(2―1)離型フィルム厚み、A層厚み、B層厚み
上記の手法で、離型フィルム厚み、A層厚み、B層厚みが観測可能な倍率を選択し、異なる箇所3点の画像を2方向の断面で取得し、合計6点の平均値を求めた。
【0073】
(2―2)粒子の平均粒径
上記の手法で、A層中の粒子を補足できる倍率を選択し、異なる箇所3点の画像を2方向の断面で取得した後、得られた画像からイメージアナライザーで粒子1つ当たりの面積相当径を算出し、合計6点の平均値を求めた。
【0074】
(3)フィルム比重
フィルムを5cm×5cmにサンプリングして、電子比重計(アルファーミラージュ(株)社製SD-120L)を用いて比重を測定し、N=10の平均値を求めた。
【0075】
(4)A層中の粒子の含有量
A層部分を削り出した測定試料を150℃真空下で24時間乾燥し秤量する。次いで、o-クレゾール/クロロホルム(質量比7/3)、温度80℃にて溶解させた後、遠心分離機で不溶物を分離し、得られた不溶物に温度80℃に加熱した前記溶媒を加えて分離する洗浄作業を5回繰り返した後、150℃真空下で24時間乾燥して秤量し、溶解前の試料に対する不溶物の含有量をA層中の粒子の含有量とした。
【0076】
(5)三次元表面粗さの平均波長Sλa、算術平均粗さSRa、中心面粒度SGr
3次元微細形状測定器(型式ET-4000A、(株)小坂研究所製)を用いて、下記測定条件を用いて離型フィルムの表面形態を測定した。
【0077】
(測定条件)
・測定装置:3次元微細形状測定器(型式ET-4000A)(株)小坂研究所製
・触針:型式ET-1480(先端半径0.5μmR、径2μm、ダイヤモンド製)
・針圧:100μN
・測定方向:フィルム幅方向
・X軸(フィルム幅方向)測定長さ:1.0mm
・Y軸(フィルム長手方向)測定長さ:0.40mm
・測定速度:0.1mm/秒
・X軸送りピッチ:1μm(測定間隔)
・Y軸送りピッチ:5μm(測定間隔)
・Y軸ライン数:81本(測定本数)
・Z軸測定倍率:10,000倍(縦倍率)
・退避量:2mm
次いで、得られた測定データを3次元表面粗さ解析システム(型式TDA-31)に取り込ませ、下記の解析条件の元で3DパラメータとしてSλaとSRa、SGrを算出した。尚、上記測定は任意の方向をX軸とした測定とその方向と直行する方向をX軸とした測定を行い、2回の平均値を採用した。
【0078】
(解析条件)
・解析機器:3次元表面粗さ解析システム(型式TDA-31)
・フィルタ方式:ガウシアン空間型
・レベリング:あり、全領域(傾斜補正)
・低域カットオフ波長λc:0.250mm
・低域予備長さ:λc×0.5
・低域カットオフ推奨領域:波長長さの1/5
・高域カットオフ:0mm
・高域予備長さ:なし
(5-2)離型フィルムの60°光沢度
JIS-Z-8741(1997年)に規定された方法に従って、スガ試験機製デジタル変角光沢度計UGV-5Dを用い、離型フィルムR面が測定面となるようにサンプルをセットし、60°鏡面光沢度をN=3で測定し、その平均値を60°光沢度とした。
【0079】
(6)125℃でのヤング率
フィルムを任意の位置でMD方向に長さ150mm×幅10mmの矩形に切り出しサンプルとした。引張試験機(オリエンテック製“テンシロン”(登録商標)UCT-100)を用いて、初期引張チャック間距離50mmとし、引張速度を300mm/分としてフィルムのMD方向に引張試験を行った。測定は予め125℃に設定した恒温層中にフィルムサンプルをセットし、90秒間の予熱の後で、空気下、引張試験を行った。なお、測定はフィルムの任意の位置における主配向軸方向をTD方向とし、TD方向に直交する方向をMD方向として行う。サンプリングは任意の位置で5点行い、各サンプルにて測定を行い得られた値の平均値を採用した。
【0080】
(7)水の接触角
離型フィルムを室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置後した後、同雰囲気下で、水平に保持した測定面に対して、純水の接触角を、接触角計DM-501(協和界面科学(株)社製)により、それぞれ5点測定し、その測定値の平均値を水の接触角とした。
【0081】
(8)結晶融解ピーク温度(Tm)
示差走査熱量計(リガク製、Thermo plus EVO2 DSCvesta)を用い、JIS K7121-1987、JIS K7122-1987に準拠して測定および、解析を行った。ポリエステルフィルムを5mg、サンプルに用い、25℃から20℃/分で300℃まで昇温した際のDSC曲線より得られた吸熱ピークの頂点の温度を結晶融解ピーク温度とした。吸熱ピークが複数存在する場合は、最も高温側の吸熱ピークのピーク温度を結晶融解ピーク温度とした。
【0082】
(9)成型性
150mm四方、深さ5mmの凹形状の金型を用いて評価を行った。A4サイズに切り出した離型フィルムを赤外線ヒーターで予熱後、130℃に加熱した金型へ真空吸引し、追従させた。その後真空を解放し、取り出した離型フィルムの角位置における深さを測定し、4つの角について平均した値を成形深さとした。得られた成形深さの平均値、および金型形状の再現性から、金型への追従性を次のように評価した。
A:成形深さの平均値が4.8mm以上であり、かつ金型凹部の中心位置金型底面側のコーナーがシャープに成形されており、破れやクラック等に起因する白化が目視で認められない。
B:成形深さの平均値が4.8mm以上であり、金型底面側のコーナーが丸みを帯びているが、破れやクラック等に起因する白化が目視で認められない。
C:成形深さの平均値が4.8mm以上であり、破れは無いが金型底面側のコーナーでクラック等に起因する白化が目視で認められる。
D:成形深さの平均値が4.8mm以上であり、形状に追従しきれずにフィルムが破れた箇所が目視で確認できるが1cm未満に収まっている。
E:成形深さの平均値が4.8mm未満である。および/または、形状に追従しきれずにフィルムが破れた箇所が1cm以上目視で確認できる。
D以上を合格とした。
【0083】
(10)離型性
真空プレス機を用いて、離型フィルムのR面上に厚み2mmのモールド樹脂(ナガセケムテックス(株):商品名「R4507」)を125℃で10分間保持しながら、真空下、圧力2MPaで加圧した。その後、室温23℃相対湿度65%の雰囲気中に24時間放置後した後、離型フィルムを剥離角度90°、剥離速度300mm/分で剥離試験を行ったときのモールド樹脂との剥離力をN=3で測定し、以下の基準で評価した。
A:0.5N/25mm未満
B:0.5N/25mm以上1.0N/25mm未満
C:1.0N/25mm以上3.0N/25mm未満
D:3.0N/25mm以上
C以上を合格とした。
なお、剥離時にフィルム切れが発生し剥離強度が測定困難な場合は、1回までは追加サンプルを準備して再度測定を実施し、それでも同様に測定困難であった場合はD判定とした。
【0084】
(11)フェイスアップ方式のコンプレッションモールド加工時の意匠性
コンプレッションモールド装置(アピックヤマダ(株):装置名「WCM-300」)を用いて、12インチのシリコンダミーウェハ上に1mmの厚みでダミーチップ上を被覆するようにディスペンサーで計量したモールド樹脂(ナガセケムテックス(株):商品名「R4507」)を落とし、成型金型の下型上に配置する。次いで、凹形状の上金型に離型フィルムのR面がモールド樹脂と接するように配置した後、シワが入らないように真空で吸引し固定し、下型を上昇させて、真空成型してコンプレッションモールド加工サンプルを得た。金型温度は125℃、金型圧力は4MPa、キュア時間は10分とした。
【0085】
上記の方法にてモールド加工サンプルを5個準備し、離型フィルムを剥離した後のモールド樹脂の表面光沢度を光沢度計(スガ試験機(株):装置名「グロスメーターGM-1」)を用いてN=5で測定し、以下の基準で評価した。
A:60°光沢度が10%未満
B:60°光沢度が10%以上、40%未満
C:60°光沢度が40%以上、70%未満
D:60°光沢度が70%以上
C以上を合格とした。
【0086】
(12)フェイスアップ方式のコンプレッションモールド加工後のモールド樹脂シワ
(11)の方法にてモールド加工サンプルを5個準備し、離型フィルムを剥離した後のモールド樹脂の表面を目視で確認し、以下の基準で評価した。
A:シワが見られない
B:幅0.5mm未満であって、長さ1cmを超えるシワが見られない。
C:幅0.5mm以上1mm未満、長さ1cm以上3cm未満のシワが見られる。
D:幅が1mmを超えるか、長さ3cmを超えるシワが見られる。
C以上を合格とした。
【0087】
(13)フェイスアップ方式のコンプレッションモールド加工後の離型フィルム起因の剥離残渣
(11)の方法にてモールド加工サンプルを5個準備し、離型フィルムを剥離した後のモールド樹脂の表面を目視で確認し、以下の基準で評価した。
A:離型フィルムに起因した残渣が見られない。
B:離型フィルムに起因した1mm以上5mm以下の残渣が見られる。
C:離型フィルムに起因した5mmを超える残渣が見られる。
B以上を合格とした。
【実施例0088】
以下、本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明は必ずしもこれらに限定されるものではない。
【0089】
1.ポリエステルの製造
A層の製膜に供したポリエステル樹脂は以下のように準備した。
【0090】
(ポリエステルA)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100mol%、グリコール成分としてエチレングリコール成分が100mol%であるポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.65)。
【0091】
(ポリエステルB)
1,4-シクロヘキサンジメタノールがグリコール成分に対し33mol%共重合された共重合ポリエステルを、シクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレートとして使用した(固有粘度0.75)。
【0092】
(ポリエステルC)
イソフタル酸成分がテレフタル酸成分に対し17.5mol%共重合されたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.7)。
【0093】
(ポリエステルD)
ポリエステルA中にポリエチレングリコール1000(分子量1000)を濃度10質量%で含有したマスターバッチ(固有粘度0.62)。
【0094】
(ポリエステルE)
ポリエステルA中にポリブチレンテレフタレートを濃度33質量%で含有したマスターバッチ(固有粘度0.65)。
【0095】
(ポリエステルF)
東レデュポン社製“ハイトレル”(登録商標)7247。
【0096】
(ポリエステルG)
ジカルボン酸成分としてテレフタル酸成分が100mol%、グリコール成分としてテトラメチレングリコール成分が100mol%であるポリテトラメチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.8)。
【0097】
(ポリエステルb)
1,4-シクロヘキサンジメタノールがグリコール成分に対し66mol%共重合されたシクロヘキサンジメタノール共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.78)。
(ポリエステルc)
イソフタル酸成分がテレフタル酸成分に対し35mol%共重合されたイソフタル酸共重合ポリエチレンテレフタレート樹脂(固有粘度0.72)。
【0098】
(ポリエステルd)
ポリエステルA中にポリエチレングリコール1000(分子量1000)を濃度30質量%で含有したマスターバッチ(固有粘度0.56)。
【0099】
(粒子マスターA)
ポリエステルA中に数平均粒子径3.2μmの凝集シリカ粒子(比重2.2)を粒子濃度6質量%で含有したマスターバッチ(固有粘度0.65)。
【0100】
(粒子マスターB)
ポリエステルA中に数平均粒子径2.5μmのゼオライト粒子(比重2.2)を粒子濃度50質量%で含有したマスターバッチ(固有粘度0.60)。
【0101】
(粒子マスターC)
ポリエステルA中に数平均粒子径6.0μmの硫酸バリウム粒子(比重4.5)を粒子濃度50質量%で含有したマスターバッチ(固有粘度0.60)。
【0102】
(粒子マスターD)
ポリエステルA中に数平均粒子径3.0μmの架橋メラミン粒子(比重2.2)を粒子濃度50質量%で含有したマスターバッチ(固有粘度0.63)。
【0103】
2.ポリエステル以外の樹脂
(ポリスチレン)
Tm270℃のポリスチレン樹脂。
【0104】
(粒子マスターPS)
上記ポリスチレン樹脂中に数平均粒子径2.5μmのゼオライト粒子(比重2.2)を粒子濃度50質量%で含有したマスターバッチ。
【0105】
(ナイロン)
Tm228℃のナイロン6樹脂。
(粒子マスターNy)
上記ナイロン6樹脂中に数平均粒子径2.5μmのゼオライト粒子(比重2.2)を粒子濃度50質量%で含有したマスターバッチ。
【0106】
3.離型層用塗材の製造
B層に用いた塗材は以下の組成のものを調合して準備した。
【0107】
(塗材B-1)
長鎖アルキル基含有ポリビニル樹脂(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)の「ピーロイル」(登録商標)1050)を固形分換算で10質量部、メラミン系架橋剤(住友化学(株)の「スミマール」(登録商標)M-55)を固形分換算で2.5質量部、p-トルエンスルホン酸(テイカ(株)の「TAYCACURE」(登録商標)AC-700)を固形分換算で1.5質量部、トルエンを200質量部、メチルエチルケトンを70質量部。
【0108】
(塗材B-2)
フッ素樹脂(AGC(株)の「ルミフロン」(登録商標)LF200MEK)を固形分換算で10質量部、メラミン系架橋剤(住友化学(株)の「スミマール」(登録商標)M-55)を固形分換算で2.5質量部、p-トルエンスルホン酸(テイカ(株)の「TAYCACURE」(登録商標)AC-700)を固形分換算で1.5質量部、トルエンを200質量部、メチルエチルケトンを70質量部。
【0109】
(塗材B-3)
長鎖アルキル基含有ポリビニル樹脂(ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)の「ピーロイル」(登録商標)1050)を固形分換算で10質量部、メラミン系架橋剤(住友化学(株)の「スミマール」(登録商標)M-55)を固形分換算で2.5質量部、p-トルエンスルホン酸(テイカ(株)の「TAYCACURE」(登録商標)AC-700)を固形分換算で1.5質量部、メラミン粒子(日本触媒(株)の「エポスター」(登録商標)M30)を固形分換算で60質量部、トルエンを200質量部、メチルエチルケトンを70質量部。
【0110】
4.コンプレッションモールド用離型フィルムの製造
(実施例1)
酸素濃度を0.2体積%とした別々のベント同方向二軸押出機に表1の組成、層構成となるように混合した原料をそれぞれに供給し、A1層押出機シリンダー温度を270℃、A2層押出機シリンダー温度を280℃で溶融し、A1層とA2層合流後の短管温度を270℃、口金温度を270℃で、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させ未延伸シートを得た。次いで、長手方向への延伸前に加熱ロールにてフィルム温度を上昇させ、延伸温度85℃で長手方向に3.2倍延伸し、すぐに30℃に温度制御した金属ロールで冷却化した。
【0111】
次いでテンター式横延伸機にて予熱温度85℃、延伸温度95℃で幅方向に3.7倍延伸し、そのまま定長にて225℃雰囲気下で12秒間熱処理を行い、その後、同温度にて1%の弛緩処理を行い、さらに温度200℃にて2%の弛緩処理を行い、厚み35μmのポリエステルフィルムを得た。
【0112】
次いで、フィルムを常温まで冷却してから、片面に塗材B-1をグラビアコート法で塗布した後、110℃のオーブンに搬送して塗膜を予備乾燥した後、160℃のオーブンで加熱乾燥させ、B層厚みが250nmの離型フィルムを得た。
【0113】
上記で得られた離型フィルムの特性と、B層を塗工した面をモールド樹脂と接する面(R面)として評価した結果は表2の通りであり、非常に優れたコンプレッションモールド加工性を有する離型フィルムであることが分かった。
【0114】
(実施例2~18)
フィルム組成、および構成を表1、表3の通りに変更した以外は実施例1と同様に離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表2、表4に示す。実施例17は成形性にやや劣るが問題無い範囲であった。
【0115】
(実施例18~21)
B層の厚み及び塗材種を表5の通りに変更した以外は実施例1と同様に離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表6に示す。
【0116】
(実施例22)
テンター式横延伸機にて延伸後に行う熱処理温度を205℃に変更した以外は実施例1と同様に離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表4に示す。
【0117】
(実施例23)
A層の延伸方式をテンター式同時2軸延伸機にて予熱温度80℃、延伸温度90℃で長手方向と幅方向にそれぞれ3.5倍延伸し、定長にて225℃雰囲気下で12秒間熱処理を行った以外は実施例1と同様に離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表6に示す。
【0118】
(実施例24)
酸素濃度を0.2体積%とした別々のベント同方向二軸押出機に表5の組成となるように混合した原料をそれぞれに供給し、A1層押出機シリンダー温度を300℃、A2層押出機シリンダー温度を300℃で溶融し、A1層とA2層合流後の短管温度を300℃、口金温度を300℃で、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させ未延伸シートを得た。次いでテンター式同時2軸延伸機にて予熱温度100℃、延伸温度120℃で長手方向と幅方向にそれぞれ3.5倍延伸し、定長にて250℃雰囲気下で12秒間熱処理を行い、厚み35μmのポリスチレンフィルムを得た以外は実施例1と同様に離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表6に示す。得られた離型フィルムは成型性にやや劣るが問題無い範囲であった。
【0119】
(実施例25)
酸素濃度を0.2体積%とした別々のベント同方向二軸押出機に表5の組成となるように混合した原料をそれぞれに供給し、A1層押出機シリンダー温度を260℃、A2層押出機シリンダー温度を260℃で溶融し、A1層とA2層合流後の短管温度を260℃、口金温度を260℃で、Tダイより25℃に温度制御した冷却ドラム上にシート状に吐出した。その際、直径0.1mmのワイヤー状電極を使用して静電印加し、冷却ドラムに密着させ未延伸シートを得た。次いでテンター式同時2軸延伸機にて予熱温度80℃、延伸温度90℃で長手方向と幅方向にそれぞれ3.5倍延伸し、定長にて205℃雰囲気下で12秒間熱処理を行い、厚み35μmのナイロンフィルムを得た以外は実施例1と同様に離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表6に示す。得られた離型フィルムは成型性にやや劣るが問題無い範囲であった。
【0120】
(実施例26~31)
樹脂組成を表9に示した通りとして、熱処理温度を235℃とした以外は実施例23と同様に離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表10に示す。
【0121】
(比較例1、2)
フィルム組成を表7の通りに変更した以外は実施例1と同様に離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表8に示す通り、比較例1が意匠性に劣っており、比較例2は成型性と離型性が劣っていることが分かった。
【0122】
(比較例3)
塗材B-3を塗布した以外した比較例1と同様に離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表8に示す通り、成型性と離型性が劣っていることが分かった。また離型後のフィルムの離型面を光学顕微鏡で観察した結果、粒子成分が滑落してフィルム表面に露出していることが確認された。
【0123】
(比較例4)
片面にサンドブラスト処理を行い、サンドブラスト処理面にB層を設けた以外は比較例1と同様に離型フィルムを得た。各特性の評価結果を表8に示す通り、離型性が劣っていることが分かった。
【0124】
【表1】
【0125】
【表2】
【0126】
【表3】
【0127】
【表4】
【0128】
【表5】
【0129】
【表6】
【0130】
【表7】
【0131】
【表8】
【0132】
【表9】
【0133】
【表10】
【産業上の利用可能性】
【0134】
本発明の離型フィルムはコンプレッションモールド加工時に発生するチップの動作不良や剥離不良などの工程トラブルを抑制し、成型性にも優れる離型フィルムを提供することができる。更に、かかる離型フィルムは半導体封止工程で行われるコンプレッションモールド用離型フィルムとして好適に用いることで、半導体チップの量産性を向上させることができる。
図1