(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154438
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】電磁ブレーキ装置
(51)【国際特許分類】
F16D 55/28 20060101AFI20231013BHJP
F16D 65/18 20060101ALI20231013BHJP
F16D 121/22 20120101ALN20231013BHJP
【FI】
F16D55/28 B
F16D65/18
F16D121:22
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063700
(22)【出願日】2022-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(72)【発明者】
【氏名】川井 考生
【テーマコード(参考)】
3J058
【Fターム(参考)】
3J058AA43
3J058AA48
3J058AA53
3J058AA58
3J058AA69
3J058AA78
3J058AA88
3J058BA21
3J058BA27
3J058BA46
3J058CB15
3J058CB17
3J058CB22
3J058CC07
3J058CC13
3J058CC77
3J058EA01
3J058EA15
3J058FA42
(57)【要約】
【課題】ブレーキハブと抜け止め部材との当接時の異音の発生を防止するとともに異物の進入を抑制することが可能な電磁ブレーキ装置の提供にある。
【解決手段】ブレーキステータ31と、ブレーキステータ31に対して回転可能な回転軸15と、回転軸15と嵌合され、回転軸15の軸心P方向に移動可能なブレーキハブ34と、ブレーキハブ34と一体回転可能に嵌合されるとともに回転軸15の軸心P方向に移動可能に備えられるブレーキ板35と、回転軸15に備えられ、回転軸15からのブレーキハブ34の抜け出しを防止する抜け止め部材52と、を有する電磁ブレーキ装置10において、ブレーキハブ34と抜け止め部材52との間に緩衝部材57が介在された。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ブレーキステータと、
前記ブレーキステータに対して回転可能な回転軸と、
前記回転軸と嵌合され、前記回転軸の軸心方向に移動可能なブレーキハブと、
前記ブレーキハブと一体回転可能に嵌合されるとともに前記回転軸の軸心方向に移動可能に備えられるブレーキ板と、
前記回転軸に備えられ、前記回転軸からの前記ブレーキハブの抜け出しを防止する抜け止め部材と、を有する電磁ブレーキ装置において、
前記ブレーキハブと前記抜け止め部材との間に緩衝部材が介在されることを特徴とする電磁ブレーキ装置。
【請求項2】
前記緩衝部材は、前記抜け止め部材において前記ブレーキハブと対向する端面に固定され、
前記緩衝部材と前記ブレーキハブとの隙間が形成されていることを特徴とする請求項1記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項3】
前記緩衝部材は、前記ブレーキハブにおいて前記抜け止め部材と対向する端面に固定され、
前記緩衝部材と前記抜け止め部材との隙間が形成されていることを特徴とする請求項1記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項4】
前記緩衝部材は、リング状に形成されるとともに、前記回転軸と同軸状に配置されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の電磁ブレーキ装置。
【請求項5】
前記緩衝部材は、ゴム系材料又は海綿状体により形成されていることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項記載の電磁ブレーキ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、電磁ブレーキ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
電磁ブレーキ装置の従来技術として、例えば、特許文献1に開示された無励磁電磁ブレーキ装置が知られている。特許文献1に開示された無励磁電磁ブレーキ装置は、可動鉄心と、回転円板と、センタハブと、回転軸と、連結部材とを備える。可動鉄心は、電磁石に吸引されて制動を解放し制動ばねで押されて制動をする軸方向にのみ移動可能である。回転円板は、この可動鉄心と制動板との間に配置されている。センタハブは、この回転円板と軸方向にのみ移動可能に結合されている。回転軸は、このセンタハブに固定され軸受で支承されている。連結部材は、電磁石の固定鉄心と制動板との相互位置を確保する。
【0003】
また、特許文献1の無励磁電磁ブレーキ装置は、センタハブ又は回転軸と回転円板との間に、回転円板の制動位置から解放方向への移動距離が可動鉄心の制動位置から解放位置までのギャップより小さい位置に規制する移動規制手段と、回転円板を解放方向に付勢する力が制動ばねの力より小さい付勢手段とを備える。
【0004】
特許文献1の無励磁電磁ブレーキ装置によれば、制動が解放されて回転中の回転円板は、移動規制手段と付勢手段とにより、解放位置にある可動鉄心と制動板との間に軸方向位置が定まり、可動鉄心とも制動板とも摺動せず、摺動音の発生がないとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、電磁ブレーキ装置には、ブレーキハブ(センタハブ)が回転軸に対して軸方向に摺動可能に備えられている場合がある。この場合、回転軸の端部には、ブレーキハブの回転軸からの抜け出しを防止するための抜け止め部材が備えられる。そして、非制動時である回転軸の回転時には、ブレーキハブが軸方向に摺動して抜け止め部材と当接を繰り返すことがある。このため、ブレーキハブと抜け止め部材との当接時に異音が生じるほか、ブレーキハブと回転軸との間に異物が入り込み易いという問題がある。ブレーキハブと回転軸との間に金属粉(異物)が入り込むと、ブレーキハブと回転軸との摺動部における摩耗が促進される。
【0007】
特許文献1の無励磁電磁ブレーキ装置は、回転円板の解放方向への移動距離は、可動鉄心および制動板の摺動を規制して摺動音の発生を抑制するに過ぎず、ブレーキハブと抜け止め部材との当接時に異音を抑制する技術ではない。
【0008】
本発明は上記の問題点に鑑みてなされたもので、本発明の目的は、ブレーキハブと抜け止め部材との当接時の異音の発生を防止するとともに異物の進入を抑制することが可能な電磁ブレーキ装置の提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明は、ブレーキステータと、前記ブレーキステータに対して回転可能な回転軸と、前記回転軸と嵌合され、前記回転軸の軸心方向に移動可能なブレーキハブと、前記ブレーキハブと一体回転可能に嵌合されるとともに前記回転軸の軸心方向に移動可能に備えられるブレーキ板と、前記回転軸に備えられ、前記回転軸からの前記ブレーキハブの抜け出しを防止する抜け止め部材と、を有する電磁ブレーキ装置において、前記ブレーキハブと前記抜け止め部材との間に緩衝部材が介在されることを特徴とする。
【0010】
本発明では、ブレーキハブと抜け止め部材との間に緩衝部材が介在されるので、緩衝部材がブレーキハブ又は抜け止め部材と当接せず、当接による異音発生は防止される。また、ブレーキハブと抜け止め部材との間に介在される緩衝部材は、ブレーキハブと回転軸との摺動部への異物の進入を妨げることができる。
【0011】
また、上記の電磁ブレーキ装置において、前記緩衝部材は、前記抜け止め部材において前記ブレーキハブと対向する端面に固定され、前記緩衝部材と前記ブレーキハブとの隙間が形成されている構成としてもよい。
この場合、緩衝部材が抜け止め部材におけるブレーキハブと対向する端面に固定され、緩衝部材とブレーキハブとの隙間が形成されている。したがって、回転軸に対して周方向にブレーキハブのガタつきが生じている場合であっても、隙間が存在することで緩衝部材とブレーキハブとの摺接を抑制することができる。
【0012】
また、上記の電磁ブレーキ装置において、前記緩衝部材は、前記ブレーキハブにおいて前記抜け止め部材と対向する端面に固定され、前記緩衝部材と前記抜け止め部材との隙間が形成されている構成としてもよい。
この場合、緩衝部材がブレーキハブにおける抜け止め部材と対向する端面に固定され、緩衝部材と抜け止め部材との隙間が形成されている。したがって、回転軸に対して周方向にブレーキハブのガタつきが生じている場合であっても、緩衝部材と抜け止め部材との隙間が存在することで緩衝部材と抜け止め部材との摺接を抑制することができる。
【0013】
また、上記の電磁ブレーキ装置において、前記緩衝部材は、リング状に形成されるとともに、前記回転軸と同軸状に配置されている構成としてもよい。
この場合、緩衝部材がリング状に形成され、回転軸と同軸状に配置されているので、緩衝部材が回転軸の周囲を囲繞する。したがって、ブレーキハブと回転軸との摺動部への異物の進入をより妨げることができる。
【0014】
また、上記の電磁ブレーキ装置において、前記緩衝部材は、ゴム系材料又は海綿状体により形成されている構成としてもよい。
緩衝部材は、ゴム系材料又は海綿状体により形成されているので、緩衝部材の摩耗粉が異物としてブレーキハブと回転軸との摺動部へ進入しても、ブレーキハブと回転軸との摺動部は摩耗粉による影響は殆ど受けることはない。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、ブレーキハブと抜け止め部材との当接時の異音の発生を防止するとともに異物の進入を抑制することが可能な電磁ブレーキ装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1の実施形態に係る電磁ブレーキ装置および電動モータを一部破断して示す側面図である。
【
図2】第1の実施形態に係る電磁ブレーキ装置の要部の縦断面図である。
【
図3】電磁ブレーキ装置の抜け止め部材および緩衝部材の斜視図である。
【
図4】第2の実施形態に係る電磁ブレーキ装置の要部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1の実施形態)
以下、第1の実施形態に係る電磁ブレーキ装置について図面を参照して説明する。本実施形態の電磁ブレーキ装置は、無励磁状態で制動状態となる無励磁制動型の電磁ブレーキ装置である。また、本実施形態の電磁ブレーキ装置は、車両に搭載される走行用の電動モータに備えられる電磁ブレーキ装置であり、車両は産業車両としてのフォークリフトである。
【0018】
図1に示すように、本実施形態の電磁ブレーキ装置10は、電動モータ11に備えられている。まず、電動モータ11について説明すると、電動モータ11は、ロータ12と、ステータ13と、を備えている。ロータ12は、ロータコア14と、ロータコア14を貫通して固定されている回転軸15と、を有している。回転軸15はロータ12の両端から突出する。ステータ13は、円筒状のステータコア16およびステータコイル17を備えている。ステータコア16の両端部にはステータコイル17のコイルエンド18が形成されている。
図1では一方の端部のコイルエンド18は図示されず、他方の端部のコイルエンド18のみが図示される。なお、回転軸15の電磁ブレーキ装置10側の端部の中心には、ねじ孔20が形成されている。
【0019】
電動モータ11は、ステータ13の一方の端部に取り付けられる出力側ブラケット19と、ステータ13の他方の端部に取り付けられる電磁ブレーキ装置10側となるブレーキ側ブラケット21と、を備えている。出力側ブラケット19は、軸受(図示せず)を介して回転軸15における一方の端部付近を回転可能に支持する。ブレーキ側ブラケット21は、軸受22を介して回転軸15における他方の端部付近を回転可能に支持する。出力側ブラケット19およびブレーキ側ブラケット21は通しボルト(図示せず)により連結されている。回転軸15の一部は、出力軸23として出力側ブラケット19から突出している。また、ブレーキ側ブラケット21における他方の端部には電磁ブレーキ装置10が取り付けられている。電磁ブレーキ装置10の詳細については後述する。
【0020】
ブレーキ側ブラケット21には端子台24が設けられている。ステータコイル17の他方のコイルエンド18からリード線25が引き出されており、引き出されたリード線25は端子台24に引き込まれている。端子台24は、リード線25と接続されるとともに、外部機器(例えば、インバータ)と接続する外部配線と接続可能な端子部(図示せず)を有している。リード線25は、電動モータ11へ電力供給するための配線である。
【0021】
次に、ロータ12の回転を制動可能とする電磁ブレーキ装置10について説明する。
図2に示すように、電磁ブレーキ装置10は、ブレーキステータ31と、ブレーキアーマチュア32と、固定板33と、ブレーキハブ34と、ブレーキ板35と、ブレーキカバー36を有している。
【0022】
図2に示すように、ブレーキステータ31は、リング状のステータ本体部37と、ステータ本体部37の中心の円形孔38を有している。ステータ本体部37の一方の端面は、ブレーキ側ブラケット21に当接する。円形孔38には、回転軸15における他方の端部およびブレーキハブ34の一部が収容される。ステータ本体部37には、吸着機構としての環状の電磁コイル39が内蔵されている。電磁コイル39は、通電を受けることによりブレーキステータ31を励磁し、通電の停止によりブレーキステータ31を非励磁とする。
【0023】
ステータ本体部37は、電磁ブレーキ装置10を電動モータ11に固定するためのボルト41を挿通する通孔42を有しており、ブレーキ側ブラケット21には、通孔42と対向し、ボルト41を螺入可能とするねじ孔43が設けられている。ブレーキステータ31は、通孔42に挿通されたボルト41がねじ孔43に螺入されることによりブレーキ側ブラケット21に固定される。複数のボルト41は、ブレーキアーマチュア32および固定板33をそれぞれ貫通し、ブレーキステータ31を電動モータ11に固定する。
【0024】
ステータ本体部37は、電磁コイル39よりも内周側に位置する複数の有底孔44を有している。複数の有底孔44は、ステータ本体部37の周方向へ等間隔おきに配置されている。有底孔44にはコイルばね45が内蔵されている。各コイルばね45の中心軸が回転軸15の軸心Pに沿う。コイルばね45は、ブレーキアーマチュア32を付勢する付勢部材である。
【0025】
ブレーキアーマチュア32は、回転軸15の軸心P方向においてブレーキステータ31と対向する。ブレーキアーマチュア32は、円板状であり、中央部を回転軸15およびブレーキハブ34が貫通している。ブレーキアーマチュア32は、回転軸15の軸心P方向に移動可能である。また、ブレーキステータ31に内蔵されているコイルばね45は、軸心P方向における一端がブレーキステータ31と当接し、ブレーキステータ31から突出した軸心P方向における他端がブレーキアーマチュア32に当接する。コイルばね45は、ブレーキアーマチュア32を、回転軸15の軸方向に沿ってブレーキステータ31から離間する方向へ付勢する。
【0026】
電磁コイル39への通電によってブレーキステータ31が励磁されると、ブレーキアーマチュア32は、コイルばね45の付勢力に抗してブレーキステータ31に吸着される。電磁コイル39への通電がなされず、ブレーキステータ31が非励磁のとき、ブレーキアーマチュア32は、コイルばね45の付勢力を受けてブレーキステータ31から離間する方向へ移動する。
【0027】
電磁ブレーキ装置10は、ブレーキカバー36に固定された円板状の固定板33を備える。固定板33は、回転軸15の軸方向に沿ってブレーキステータ31から一定の距離を離れて位置する。ブレーキステータ31および固定板33は回転軸15の軸心P方向に並んで配置されている。固定板33は、固定板33を貫通したボルト(図示せず)をブレーキカバー36に締結することで、ブレーキカバー36に固定されている。ブレーキアーマチュア32は、回転軸15の軸方向において、ブレーキステータ31と固定板33の間に配設されている。
【0028】
電磁ブレーキ装置10は、回転軸15と一体回転するブレーキハブ34を備える。ブレーキハブ34は、回転軸15とキー嵌合しており、回転軸15に対して周方向に回転不可能であるが、回転軸15の軸心P方向に摺動可能である。つまり、ブレーキハブ34は、回転軸15の軸心P方向に移動可能である。回転軸15の外周面およびブレーキハブ34の内周面において軸心方向にキー溝(図示せず)を形成し、キー溝にキー(図示せず)を挿入することでキー嵌合がなされる。
図2では、ブレーキハブ34と回転軸15とのキー嵌合により摺動可能な部位を摺動部Sとして示す。ブレーキハブ34にはブレーキ板35が備えられている。ブレーキ板35は円板状であり、回転軸15の軸心P方向において、ブレーキアーマチュア32と固定板33との間に配設され、ブレーキハブ34と一体回転可能に嵌合されるとともに回転軸15の軸心P方向に移動可能である。ブレーキ板35の板面は、制動状態でブレーキアーマチュア32と当接する摩擦材46と、制動状態で固定板33と当接する摩擦材47を備えている。
【0029】
次に、ブレーキカバー36について説明する。ブレーキカバー36は、固定板33に固定されるカバー本体部48と、カバー本体部48の周縁からブレーキステータ31へ延在する側壁部49と、カバー本体部48から軸方向へ突出する突出部50と、を備えている。カバー本体部48の外周付近には、ボルト41を挿通する通孔48Aが備えられている。側壁部49はブレーキアーマチュア32、ブレーキ板35および固定板33の外周を覆う筒状の部位である。突出部50の内部には、回転軸15の端部が収容される空間51が形成されている。
【0030】
このように構成される電磁ブレーキ装置10では、電磁コイル39が励磁されると、ブレーキアーマチュア32がブレーキステータ31に吸着され、ブレーキアーマチュア32がブレーキ板35から離間し、ブレーキ板35の固定板33への押し付けが解除される。その結果、回転軸15は、制動状態から解放され、規制を受けることなく自由に回転できるようになる。
【0031】
一方、電磁コイル39が励磁されない場合には、コイルばね45の付勢力によってブレーキアーマチュア32がブレーキ板35に向けて押し付けられ、ブレーキ板35が固定板33に押し付けられる。したがって、ブレーキ板35がブレーキアーマチュア32と固定板33によって挟み込まれる。その結果、ブレーキアーマチュア32とブレーキ板35との間で発生する摩擦力により回転軸15が制動状態となる。つまり、パーキングブレーキが作動する。
【0032】
ところで、ブレーキハブ34は、回転軸15とキー嵌合しており、軸心P方向に摺動可能である。回転軸15の他方の端部には、回転軸15からのブレーキハブ34の抜け出しを防止する抜け止め部材52がボルト53により固定されている。抜け止め部材52は、回転軸15の端部の外周径よりも大きな外周径を有する円板である。抜け止め部材52の中心にはボルト53の軸部が挿通される通孔54が形成されている。
【0033】
抜け止め部材52の一方の端面55は、ブレーキハブ34の端面と対向し、他方の端面56は、ブレーキカバー36の突出部50と対向する。抜け止め部材52の一方の端面55にはリング状の緩衝部材57が固定されている。つまり、ブレーキハブ34と抜け止め部材52との間に緩衝部材57が介在される。緩衝部材57は弾性変形可能なゴム系材料により形成されている。なお、ゴム系材料は耐摩耗性のほか湿度および塩分に耐性を有する材料が好ましい。緩衝部材57の抜け止め部材52への固定は、接着剤もしくは両面テープ等により固定されている。
【0034】
緩衝部材57の端面57Aが接着面であり、端面57Aの反対側の端面57Bは、ブレーキハブ34と対向する。
図3に示すように、緩衝部材57は、リング状の部材であるが、回転軸15の軸心Pと同軸状に配置されている。緩衝部材57の内周面57Cの径は、回転軸15の他方の端部の外周径より大きく、緩衝部材57の外周面57Dの径は、ブレーキハブ34の外周径よりも小さい(
図2を参照)。緩衝部材57の断面形状は矩形である。緩衝部材57の軸心P方向の厚さは、緩衝部材57とブレーキハブ34の端面との間に僅かな隙間Gが形成される程度の厚さに設定されている。
【0035】
非制動状態であって回転軸15が回転するとき、ブレーキハブ34が回転軸15に対して軸心P方向に移動して緩衝部材57と当接することがある。緩衝部材57は、ブレーキハブ34と当接しても、ブレーキハブ34との当接時の衝撃を吸収し、当接による異音発生は防止される。つまり、緩衝部材57は、異音防止の機能を有している。また、緩衝部材57は、ブレーキハブ34の端面との隙間Gが僅かであることから、回転軸15とブレーキハブ34との摺動部Sへの異物の進入を妨げる機能を有する。
【0036】
次に、本実施形態の電磁ブレーキ装置10の作動について説明する。まず、電磁ブレーキ装置10が制動状態から非制動状態へ作動する場合について説明する。電磁ブレーキ装置10が制動状態では、電磁コイル39が消磁されている状態である。このため、ブレーキアーマチュア32は、コイルばね45の付勢力によってブレーキ板35へ押し付けられている。ブレーキ板35がブレーキアーマチュア32と固定板33により挟圧されることにより電磁ブレーキ装置10の制動力が発生する。
【0037】
電磁ブレーキ装置10の制動状態を解除する場合、電磁コイル39に通電する。電磁コイル39の通電により電磁コイル39が励磁されると、ブレーキアーマチュア32が磁力の吸引力によってコイルばね45の付勢力に抗してブレーキステータ31に引き寄せられ、ブレーキ板35から離間する。そして、ブレーキアーマチュア32はブレーキステータ31に吸着される。
【0038】
電磁ブレーキ装置10が非制動状態であるとき、電動モータ11のロータ12は回転可能である。ロータ12が回転するとき、回転軸15とブレーキハブ34は一体的に回転される。また、抜け止め部材52および緩衝部材57は回転軸15と一体的に回転する。回転軸15とブレーキハブ34は一体的に回転されるとき、振動等によってブレーキハブ34が回転軸15に対して軸心P方向に摺動することがある。ブレーキハブ34が抜け止め部材52へ向けて軸心P方向へ摺動すると、ブレーキハブ34は緩衝部材57と当接する。ブレーキハブ34が緩衝部材57と当接しても、緩衝部材57の弾性変形により当接による異音は生じない。また、ブレーキハブ34が緩衝部材57と当接することで隙間Gが解消され、回転軸15とブレーキハブ34との摺動部Sへの異物の進入が防止される。ブレーキハブ34が緩衝部材57から離れる方向へ摺動しても、隙間Gは微小であるので、異物は回転軸15とブレーキハブ34との摺動部Sへ進入し難い。
【0039】
次に、電磁ブレーキ装置10が非制動状態から制動状態へ作動する場合について説明する。電磁ブレーキ装置10が非制動状態では、電磁コイル39が励磁されている状態である。このため、ブレーキアーマチュア32は、コイルばね45の付勢力に抗してブレーキステータ31へ吸着されている。ブレーキアーマチュア32がブレーキステータ31に吸着されることにより電磁ブレーキ装置10に制動力は発生しない。
【0040】
電磁ブレーキ装置10の非制動状態を解除する場合、電磁コイル39への通電を遮断する。電磁コイル39への通電の遮断により電磁コイル39が消磁されると、ブレーキアーマチュア32はコイルばね45の付勢力によりブレーキステータ31から離間するとともにブレーキ板35に押し付けられる。そして、ブレーキ板35はブレーキアーマチュア32および固定板33に狭圧される。電磁ブレーキ装置10は制動状態となる。
【0041】
本実施形態に係る電磁ブレーキ装置10は以下の効果を奏する。
(1)ブレーキハブ34と抜け止め部材52との間に緩衝部材57が介在されるので、緩衝部材57がブレーキハブ34と当接せず、当接による異音発生は防止される。また、ブレーキハブ34と抜け止め部材52との間に介在される緩衝部材57は、ブレーキハブ34と回転軸15との摺動部Sへの異物の進入を妨げることができる。つまり、ブレーキハブ34と抜け止め部材52との当接による異音の発生を防止するとともにブレーキハブ34と回転軸15との摺動部Sへの異物の進入を抑制することが可能である。また、ブレーキハブ34と抜け止め部材52が当接されないので、ブレーキハブ34と抜け止め部材52との当接による摩耗を防止できる。
【0042】
(2)緩衝部材57は、抜け止め部材52においてブレーキハブ34の端面と対向する端面55に固定され、緩衝部材57とブレーキハブ34との隙間Gが形成されている。このため、回転軸15に対して周方向にブレーキハブ34のガタつきが生じている場合であっても、緩衝部材57と抜け止め部材52との隙間Gが存在することで緩衝部材57とブレーキハブ34との摺接を抑制することができる。
【0043】
(3)緩衝部材57は、リング状に形成されるとともに、回転軸15と同軸状に配置されている。このため、緩衝部材57が回転軸15の周囲を囲繞し、ブレーキハブ34と回転軸15との摺動部Sへの異物の進入をより妨げることができる。
【0044】
(4)緩衝部材57は、ゴム系材料により形成されている。このため、緩衝部材57の摩耗粉が異物としてブレーキハブ34と回転軸15との摺動部Sへ進入しても、緩衝部材57の摩耗粉は金属と比較して十分に柔らかく、ブレーキハブ34と回転軸15との摺動部Sは緩衝部材57の摩耗粉による影響は殆どない。また、比較的安価なゴム系材料を用いた緩衝部材57とすることで製作コストを抑制することができる。
【0045】
(5)抜け止め部材52にリング状の緩衝部材57を固定するだけでよいので、異音防止と異物の進入抑制のための必要な部品点数を可及的に削減することができるほか、電磁ブレーキ装置10の組付作業も比較的容易となる。
【0046】
(第2の実施形態)
次に、第2の実施形態に係る電磁ブレーキ装置について説明する。第2の実施形態に係る電磁ブレーキ装置は、緩衝部材がロータハブに取り付けられている点で第1の実施形態と相違する。本実施形態では、第1の実施形態と同じ構成は第1の実施形態の説明を援用し、共通の符号を用いる。
【0047】
図4に示すように、本実施形態の電磁ブレーキ装置60では、抜け止め部材52の端面55と対向するブレーキハブ34の端面に緩衝部材61が接着剤又は両面テープで固定されている。緩衝部材61の形状は、第1の実施形態の緩衝部材57と同一である。したがって、緩衝部材61は、抜け止め部材52と対向する端面61Aと、端面61Aの反対側であって接着面である端面61Bと、内周面61Cと、外周面61Dとを備えている。緩衝部材61の材料は、合成樹脂の発泡により得られた合成スポンジである。つまり、緩衝部材61は海綿状体である。緩衝部材61と抜け止め部材52との間には、僅かな隙間Gが形成されている。
【0048】
本実施形態によれば、第1の実施形態の効果(1)、(3)と同等の効果を奏する。また、緩衝部材61がブレーキハブ34における抜け止め部材52と対向する端面に固定され、緩衝部材61と抜け止め部材52との隙間Gが形成されている。したがって、回転軸15に対して周方向にブレーキハブ34のガタつきが生じている場合であっても、隙間Gが存在することで緩衝部材61と抜け止め部材52との摺接を抑制することができる。
【0049】
また、緩衝部材61は、合成スポンジにより形成されている。このため、緩衝部材61の摩耗粉が異物としてブレーキハブ34と回転軸15との摺動部Sへ進入しても、緩衝部材61の摩耗粉は金属と比較して十分に柔らかく、ブレーキハブ34と回転軸15との摺動部Sは緩衝部材61の摩耗粉による影響は殆どない。また、抜け止め部材52にリング状の緩衝部材61を固定するだけでよいので、異音防止と異物の進入抑制のための必要な部品点数を可及的に削減することができるほか、電磁ブレーキ装置60の組付作業も比較的容易となる。さらに、緩衝部材61は、合成スポンジであることから水分を吸収し、摺動部Sへの水分の進入を抑制することができる。
【0050】
本発明は、上記の実施形態に限定されるものではなく発明の趣旨の範囲内で種々の変更が可能であり、例えば、次のように変更してもよい。
【0051】
○ 上記の実施形態では、緩衝部材とブレーキハブ又は抜け止め部材との間に隙間が形成されたが、これに限らない。例えば、緩衝部材とブレーキハブ又は抜け止め部材とは隙間なく接触するようにしてもよい。
○ 上記の実施形態では、緩衝部材は完全なリング状としたがこれに限定されない。例えば、緩衝部材の周方向において緩衝部材を径方向に破断する切り欠きが形成されていてもよい。あるいは、緩衝部材が複数個に分割され、分割された複数の緩衝部材を周方向に配設するようにしてもよい。
○ 上記の実施形態では、緩衝部材の断面形状は矩形としたが、これに限定されない。断面形状は、例えば、円形や楕円形でもよく自由な形状に設定してもよい。
○ 上記の実施形態では、回転軸とブレーキハブとはキー嵌合されたが、これに限定されない。ブレーキハブは、例えば、回転軸とスプライン嵌合されてもよい。この場合、回転軸の外周面において軸心方向にスプライン歯を形成し、ブレーキハブにおいて軸心方向にスプライン孔を形成し、スプライン孔にスプライン歯を挿入すればよい。
○ 上記の実施形態では、抜け止め部材がボルトの締結により回転軸に固定されたが、抜け止め部材の回転軸への固定はボルトに限定されない。抜け止め部材は、例えば、スナップリングによって回転軸に固定するようにしてもよく、抜け止め部材の回転軸への固定手段は特に制限されない。
【符号の説明】
【0052】
10、60 電磁ブレーキ装置
11 電動モータ
12 ロータ
13 ステータ
15 回転軸
19 出力側ブラケット
21 ブレーキ側ブラケット
31 ブレーキステータ
32 ブレーキアーマチュア
33 固定板
34 ブレーキハブ
35 ブレーキ板
36 ブレーキカバー
37 ステータ本体部
39 電磁コイル
41 ボルト
45 コイルばね
52 抜け止め部材
53 ボルト
57、61 緩衝部材
G 隙間
P 軸心
S 摺動部