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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154449
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】体腔液処理装置及び濃縮器
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/00 20060101AFI20231013BHJP
   B01D 61/14 20060101ALI20231013BHJP
   B01D 63/02 20060101ALI20231013BHJP
   B01D 71/10 20060101ALI20231013BHJP
   B01D 71/40 20060101ALI20231013BHJP
   B01D 71/68 20060101ALI20231013BHJP
   B01D 61/58 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
A61M1/00 190
B01D61/14 500
B01D63/02
B01D71/10
B01D71/40
B01D71/68
B01D61/58
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063728
(22)【出願日】2022-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 貴大
(72)【発明者】
【氏名】森島 奈月
(72)【発明者】
【氏名】西口 理奈
【テーマコード(参考)】
4C077
4D006
【Fターム(参考)】
4C077AA20
4C077BB02
4C077DD07
4C077EE10
4C077JJ16
4C077LL05
4D006GA06
4D006HA02
4D006HA18
4D006HA19
4D006JA01B
4D006JA02B
4D006JA53A
4D006JA55C
4D006JA67C
4D006KA52
4D006KA55
4D006KA57
4D006KE02R
4D006KE06R
4D006KE12R
4D006KE30R
4D006MA01
4D006MA21
4D006MC11
4D006MC36
4D006MC62
4D006PA01
4D006PA02
4D006PB20
4D006PB24
4D006PB52
4D006PB70
4D006PC41
(57)【要約】
【課題】濾過された腹水を濃縮するときに中空糸膜の膜間圧力差が上昇することを抑制することができ、なおかつ腹水中のタンパク質を高い回収率で回収することができる腹水処理装置を提供する。
【解決手段】腹水処理装置1の濃縮器12は、濾過された腹水を複数の中空糸からなる中空糸膜を通じて濃縮するものであり、中空糸膜が1.6m2以上2.9m2以下の膜面積を有し、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で腹水を濃縮したときに、各々の中空糸の線速度が2.2m/hr以上3.8m/hr以下となり、前記条件で6Lの腹水を処理したときに、中空糸膜の膜間圧力差が500mmHg以下に維持され、タンパク質の回収率が85%以上になるように構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
体腔液処理装置であって、
体腔液を貯留する第1の貯留部と、
体腔液を濾過する濾過器と、
濾過された体腔液を濃縮する濃縮器と、
濃縮された体腔液を貯留する第2の貯留部と、
前記第1の貯留部の体腔液を前記濾過器に供給する第1のラインと、
前記濾過器で濾過された体腔液を前記濃縮器に供給する第2のラインと、
前記濃縮器で濃縮された体腔液を前記第2の貯留部に供給する第3のラインと、
前記濃縮器で体腔液から分離された分離液を排出する第4のラインと、を備え、
前記濃縮器は、
濾過された体腔液を複数の中空糸からなる中空糸膜を通じて濃縮するものであり、
前記中空糸膜が1.6m2以上2.9m2以下の膜面積を有し、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で前記体腔液を濃縮したときに、各々の前記中空糸の線速度が2.2m/hr以上3.8m/hr以下となり、前記条件で6Lの前記体腔液を処理したときに、前記中空糸膜の膜間圧力差が500mmHg以下に維持され、タンパク質の回収率が85%以上になるように構成されている、
体腔液処理装置。
【請求項2】
体腔液を1L処理した時の前記膜間圧力差をA、3L処理した時の前記膜間圧力差をB、6L処理した時の膜間圧力差をCとしたとき、
前記濃縮器は、B/A≦1.5、C/A≦1.5となるように構成されている、請求項1に記載の体腔液処理装置。
【請求項3】
前記中空糸膜は、10000本以上の前記中空糸を有し、なおかつ、400mm以下の長さを有する、請求項1または2に記載の体腔液処理装置。
【請求項4】
前記中空糸膜は、ポリスルホン系高分子、セルロース系高分子、ポリアクリル酸系高分子、ポリメタクリル酸系高分子のいずれかである、請求項1または2に記載の体腔液処理装置。
【請求項5】
濾過された体腔液を複数の中空糸からなる中空糸膜を通じて濃縮する濃縮器であって、
前記中空糸膜が1.6m2以上2.9m2以下の膜面積を有し、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で前記体腔液を濃縮したときに、各々の前記中空糸の線速度が2.2m/hr以上3.8m/hr以下となり、前記条件で6Lの前記体腔液を処理したときに、前記中空糸膜の膜間圧力差が500mmHg以下に維持され、タンパク質の回収率が85%以上になるように構成されている、
濃縮器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、体腔液処理装置及び濃縮器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、肝硬変や癌の患者に対し腹水濾過濃縮再静注法(Cell-free and Concentrated Ascites Reinfusion Therapy)を用いた治療が施されることが増えている。腹水濾過濃縮再静注法は、患者から腹水を採取し、当該腹水を濾過して腹水中に存在する癌細胞や細菌などの細胞成分を除去し、次に、腹水中に存在するアルブミンなどの必要タンパク質を濃縮して回収し、その後患者の体内に再注入する治療法である。
【0003】
かかる治療法には、通常腹水処理装置が用いられ、当該腹水処理装置は、例えば腹水を貯留する貯留容器、濾過用フィルタ(濾過器)、濃縮用フィルタ(濃縮器)及び回収容器をこの順番で直列的に接続した構成を備えている(特許文献1参照)。濾過器及び濃縮器には、一般的に中空糸膜を用いたフィルタが用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第5856821号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述のような腹水処理装置では、大量の腹水を短時間で濾過、濃縮して回収する、いわゆる高速処理が求められている。しかしながら、腹水は、高タンパク質で粘性が高い。このため、従来の腹水処理装置では、濃縮器において濃縮の処理流速を上げると、処理開始後直ぐに中空糸膜の膜間圧力差が上昇して上限圧に達し、処理が止まってしまう。また、腹水中の必要タンパク質を高い回収率で回収することが難しくなる。
【0006】
本出願はかかる点に鑑みてなされたものであり、濾過された腹水などの体腔液を濃縮するときに中空糸膜の膜間圧力差が上昇することを抑制することができ、なおかつ体腔液中のタンパク質を高い回収率で回収することができる体腔液処理装置及び濃縮器を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題について濃縮器の中空糸膜の膜面積と中空糸の線速度を適正にすることにより中空糸膜の膜間圧力差の上昇を抑え、体腔液中のタンパク質を高い回収率で回収できることを見出し、本発明を完成するに至った。
即ち、本発明の態様は以下を含む。
(1)体腔液処理装置であって、体腔液を貯留する第1の貯留部と、体腔液を濾過する濾過器と、濾過された体腔液を濃縮する濃縮器と、濃縮された体腔液を貯留する第2の貯留部と、前記第1の貯留部の体腔液を前記濾過器に供給する第1のラインと、前記濾過器で濾過された体腔液を前記濃縮器に供給する第2のラインと、前記濃縮器で濃縮された体腔液を前記第2の貯留部に供給する第3のラインと、前記濃縮器で体腔液から分離された分離液を排出する第4のラインと、を備え、前記濃縮器は、濾過された体腔液を複数の中空糸からなる中空糸膜を通じて濃縮するものであり、前記中空糸膜が1.6m2以上2.9m2以下の膜面積を有し、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で前記体腔液を濃縮したときに、各々の前記中空糸の線速度が2.2m/hr以上3.8m/hr以下となり、前記条件で6Lの前記体腔液を処理したときに、前記中空糸膜の膜間圧力差が500mmHg以下に維持され、タンパク質の回収率が85%以上になるように構成されている、体腔液処理装置。
(2)体腔液を1L処理した時の前記膜間圧力差をA、3L処理した時の前記膜間圧力差をB、6L処理した時の膜間圧力差をCとしたとき、前記濃縮器は、B/A≦1.5、C/A≦1.5となるように構成されている、(1)に記載の体腔液処理装置。
(3)前記中空糸膜は、10000本以上の前記中空糸を有し、なおかつ、400mm以下の長さを有する、(1)または(2)に記載の体腔液処理装置。
(4)前記中空糸膜は、ポリスルホン系高分子、セルロース系高分子、ポリアクリル酸系高分子、ポリメタクリル酸系高分子のいずれかである、(1)から(3)のいずれか一項に記載の体腔液処理装置。
(5)濾過された体腔液を複数の中空糸からなる中空糸膜を通じて濃縮する濃縮器であって、前記中空糸膜が1.6m2以上2.9m2以下の膜面積を有し、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で前記体腔液を濃縮したときに、各々の前記中空糸の線速度が2.2m/hr以上3.8m/hr以下となり、前記条件で6Lの前記体腔液を処理したときに、前記中空糸膜の膜間圧力差が500mmHg以下に維持され、タンパク質の回収率が85%以上になるように構成されている、
濃縮器。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、濾過された体腔液を濃縮するときに中空糸膜の膜間圧力差が上昇することを抑制することができ、なおかつ体腔液中のタンパク質を高い回収率で回収することができる体腔液処理装置及び濃縮器を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】腹水処理装置の構成の一例の概略を示す説明図である。
図2】濾過器の一例を示す縦断面の模式図である。
図3】実施例の実験結果を示す表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の好ましい実施の形態について説明する。なお、図面の上下左右等の位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。さらに、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。また、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0011】
図1は、本実施の形態に係る体腔液処理装置としての腹水処理装置1の構成の概略を示す説明図である。
【0012】
図1に示すように、腹水処理装置1は、例えば第1の貯留部としての第1の容器10と、濾過器11と、濃縮器12と、第2の貯留部としての第2の容器13と、第1のライン14と、第2のライン15と、第3のライン16と、第4のライン17と、第5のライン18と、制御装置19等を備えている。
【0013】
第1の容器10は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性の樹脂からなる容器であり、患者から採取された腹水を収容できる。第1の容器10は、例えば1L以上、好ましくは3L以上、さらに好ましくは6L以上の容量を備えている。
【0014】
濾過器11は、例えば中空糸膜型のフィルタである。例えば濾過器11は、筒状容器20を有し、筒状容器20の内部には、その長手方向に沿って多数本の中空糸21からなる中空糸膜22が配置されている。中空糸膜22は、腹水のタンパク質溶液から癌細胞、細菌などの細胞成分を分離することができる。筒状容器20の上部及び下部には、中空糸膜22の管内空間に通じる出入口23、24が設けられ、筒状容器20の側面部には、中空糸膜22の管外空間に通じる2つの出入口25、26が設けられている。出入口26は、第2のライン15に通じ、出入口25は、閉鎖されている。出入口24は、第1のライン14に通じ、出入口23は、第5のライン18に通じている。なお、本実施の形態における「上」、「下」は、図1に示す腹水処理装置1の設置例に基づいている。
【0015】
第1のライン14は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性のチューブである。第1のライン14の第1の端14aは、第1の容器10に接続され、第2の端14bは、濾過器11に接続されている。本実施の形態では、第2の端14bは、濾過器11の側面下部の中空糸膜22の管内空間に通じる出入口24に接続されている。第1のライン14には、例えばチューブポンプ30が設けられ、チューブポンプ30により第1の容器10の腹水を濾過器11に送ることができる。なお、第1のライン14にチューブポンプ30を設けずに、第1の容器10の腹水を重力落下により濾過器11に供給するようにしてもよい。
【0016】
濃縮器12は、中空糸膜型のフィルタである。例えば濃縮器12は、筒状容器50を有し、筒状容器50の内部には、その長手方向に沿って多数本の中空糸51からなる中空糸膜52が配置されている。筒状容器50の上部及び下部には、中空糸膜52の管内空間に通じる出入口53、54が設けられ、筒状容器50の側面部には、中空糸膜52の管外空間に通じる2つの出入口55、56が設けられている。出入口53は、第2のライン15に通じ、出入口54は、第3のライン16に通じている。出入口55は、第4のライン17に通じ、出入口56は、閉鎖されている。
【0017】
図2は、濃縮器12の構成の一例を示す縦断面の模式図である。中空糸膜52は、円柱状の束になって筒状容器50の内部の中央に配置されている。中空糸膜52の上下の両端部は、硬化性樹脂のポッティング材60により筒状容器50の内壁面に固定されている。例えば筒状容器50の内部は、中空糸膜52の中空糸51の開口端51aと出入口53とに面する上流空間R1と、中空糸膜52の中空糸51の開口端51bと出入口54とに面する下流空間R2と、中空糸膜52の中空糸51内の管内空間R3と、中空糸膜52の中空糸51外の管外空間R4を有する。管外空間R4は、中空糸膜52の外周に形成され、出入口55、56に連通している。管外空間R4と、上部空間R1、下部空間R2は、ポッティング材60により区画されている。
【0018】
濃縮器12は、腹水を濃縮する時に中空糸膜52の膜間圧力差が上昇することを抑制し、なおかつ腹水中のタンパク質を高い回収率で回収するための、最適な中空糸膜52の膜面積と中空糸51の線速度を有している。中空糸膜52は、1.6m2以上2.9m2以下の(有効)膜面積を有する。濃縮器12は、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件1で腹水を濃縮したときに、各々の中空糸51の線速度が2.2m/hr以上3.8m/hr以下となり、同条件1で6Lの腹水を処理したときに、中空糸膜52の膜間圧力差が500mmHg以下に維持され、タンパク質の回収率が85%以上になるように構成されている。なお、入口側流量は、濃縮器12の入口(出入口53)における腹水の流量である。
【0019】
中空糸膜52の膜面積Sは、次の式により算出される。
膜面積S=(中空糸51の内径d×π)×(中空糸51の開口端51a、51b間の距離L1)×(中空糸51の本数)
【0020】
各々の中空糸51の線速度Vは、次の式により算出される。
線速度V(m/hr)=(処理流速(m3/hr))/(開孔面積(m2))
開孔面積(m2)=((中空糸51の内径d/2)^2×π)×(中空糸51の本数)
ここで、処理流速は、中空糸膜52内を流れる腹水の速度である。
【0021】
中空糸膜52の膜間圧力差(TMP)は、中空糸膜52の管内空間R3の圧力と中空糸膜52の管外空間R4の圧力の差である。中空糸膜52の膜間圧力差(TMP)は、次の式により算出される。
膜間圧力差(TMP)=((濃縮器12の入口側の圧力)+(濃縮器12の出口側の圧力))/2-(排水側の圧力)
【0022】
濃縮器12は、条件1において、腹水を1L処理した時の膜間圧力差をA、3L処理した時の膜間圧力差をB、6L処理した時の膜間圧力差をCとしたとき、次の式を満たすように構成されている。
B/A≦1.5、C/A≦1.5
なお、C/A≦1.3を満たしていてもよい。
【0023】
例えば中空糸膜52の中空糸51の数は、10000本以上、または13000本以上である。中空糸51の有効長さL1は、400mm以下、好ましくは300mm以下である。中空糸51の内径は、100μm以上、好ましくは185μm以上、より好ましくは185μm以上300μm以下である。中空糸51の内径が、100μm以上であることにより、膜面積の確保のために中空糸51の本数が増えすぎることを防止でき、また処理終了時に中空糸51内に残り回収できない腹水の量を低減することできる。中空糸51の内径が300μm以下であることにより、中空糸52を安定的に製造することができる。中空糸膜52の全体外径(直径)D1(図2に示す)は、30mm以上であり、全体外径D1と有効長さL1との比は(D1/L1)は、0.10以上である。
【0024】
例えば中空糸膜52の材質には、ポリスルホン系高分子、セルロース系高分子、ポリアクリル酸系高分子、ポリメタクリル酸系高分子のいずれかが用いられている。
【0025】
例えば濃縮器12の中空糸51は、中空糸51のポリビニルピロリドン(PVP)のふるい係数(以下、「PVP-K30ふるい係数」とする)が30%以上50%以下となる孔径(壁孔径)を有する。PVP-K30は、K30の分子量のものを用いたことを示す。PVP-K30ふるい係数とは、PVP-K30を1/15Mリン酸緩衝液(pH7.0)に3%になるように溶解させたものを中空糸膜内部に流し、膜間差圧(TMP)200[mmHg]をかけながら濾過させた時の20分経過時のふるい係数である。PVP-K30ふるい係数は280[nm]の吸光度にて測定した。
PVP-K30ふるい係数は、次の式により算出される。
PVP-K30ふるい係数=(中空糸通過後の分離液の吸光度)/(中空糸通過前の腹水の吸光度(波長280nm))×100(%)
【0026】
例えば濃縮器12(中空糸膜52)は、85mL/min/200mmHg以上、200mL/min/200mmHg以下の限外濾過性能を有している。
【0027】
限外濾過性能は、以下に示すような試験により規定される。タンパク質濃度を6g/dLに調整した牛血漿を用意し、ローラーポンプにより毎分200mLの定速で濃縮器に送液する。このとき、濃縮器の排水側(分離された分離液が排出される側)の出口(本実施の形態における出入口55)は開放状態とする。濃縮器の回収液排出側(分離液が分離された回収液が排出される側)の出口(本実施の形態における出入口54)に接続した回路を圧迫し、濃縮器の図2に示すような中空糸膜の管内空間R3と管外空間R4にかかる膜間圧力差(TMP)が200mmHgとなるよう調整する。このとき、排水側の出口から排出される分離液の単位時間当たり容積を測定し、その値を限界濾過性能とする。
【0028】
図1に示す第2のライン15は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性チューブである。第2のライン15の第1の端15aは、濾過器11の上部の中空糸膜22の管外空間に通じる出入口26に接続されている。第2のライン15の第2の端15bは、濃縮器12の上部の中空糸膜52の管内空間R3に通じる出入口53に接続されている。第2のライン15には、例えばチューブポンプ80が設けられ、チューブポンプ80により第2のライン15の濾過された腹水を濃縮器12に送ることができる。なお、第2のライン15にチューブポンプ80を設けずに、第2のライン15の腹水を重力落下により濃縮器12に供給するようにしてもよい。
【0029】
第2の容器(回収容器)13は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性の樹脂からなる容器であり、濃縮器12で濃縮された、必要なタンパク質を含むタンパク質溶液(回収液)を収容することができる。
【0030】
第3のライン16は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性チューブである。第3のライン16の第1の端16aは、濃縮器12の下部の中空糸膜52の管内空間R3に通じる出入口54に接続されている。第3のライン16の第2の端16bは、第2の容器13に接続されている。
【0031】
第4のライン17は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性チューブである。第4のライン17の第1の端17aは、濃縮器12の側面下部の中空糸膜52の管外空間R4に通じる出入口55に接続されている。第4のライン17の第2の端は、腹水から分離された分離液の廃液部(図示せず)に接続されている。
【0032】
第5のライン18は、例えばポリ塩化ビニルなどの軟質性チューブである。第5のライン18の第1の端18aは、濾過器11の側部上部の中空糸膜22の管内空間に通じる出入口23に接続されている。第5のライン18の第2の端は、腹水から分離された細胞成分を含む廃液の廃液部(図示せず)に接続されている。
【0033】
制御装置19は、例えばコンピュータであり、例えば記録部に記録されたプログラムをCPUで実行することによって、チューブポンプ30、80の動作を制御して、腹水の処理流速、腹水の濃縮倍率などを調整することができる。なお、落差を用いて腹水を処理する場合には、腹水処理装置1は、制御装置19を備えていなくてもよい。
【0034】
次に、腹水処理装置1の作動方法及び腹水の処理方法について説明する。
【0035】
先ず、患者から採取した、例えば6L以上の腹水を収容した第1の容器10が第1のライン14に接続される。例えば腹水は、癌患者から採取した癌性腹水であり、癌細胞や細菌などの細胞成分を含む高濃度のタンパク質溶液である。腹水には、アルブミンなどの必要タンパク質、及びサイトカインなどの不要タンパク質が含まれている。腹水は、0.5g/dL以上、1.0g/dL以上、2.0g/dL以上、2.5g/dL以上のタンパク質濃度を有するものを含む。
【0036】
次に、チューブポンプ30、80が作動し、第1の容器10に収容された腹水が、第1のライン14を通って濾過器11の出入口24から中空糸膜22の管内空間に供給される。腹水は、中空糸膜22の管内空間から中空糸膜22を通って管外空間に流入し、この際に、腹水に存在する癌細胞や細菌などの細胞成分が分離される。中空糸膜22を通過して濾過された腹水(濾過腹水)は、濾過器11の出入口26から流出し、第2のライン15を通って濃縮器12の出入口53から中空糸膜52の管内空間R3に供給される。
【0037】
濃縮器12の中空糸膜52の管内空間R3に、濾過された腹水が流入すると、サイトカインなどの不要タンパク質を含む水分が中空糸膜52を通過して腹水から分離し、中空糸膜52の管外空間R4に流出する。中空糸膜52の管外空間R4に流出した水分やタンパク質(分離液)は、濃縮器12の出入口55から流出し、第4のライン17を通って廃液部に排出される。例えば、この濃縮処理は、濃縮器12内の入口側流量が50mL/min以上、100mL/min以上、150mL/min以上、200mL/min以上の高い流速で行われる。また、濃縮処理は、5倍以上の高い濃縮倍率で行われる。
【0038】
濃縮器12の中空糸膜52の管内空間R3で水分や不要なタンパク質が除去された腹水(回収液)は、濃縮器12の出入口54から流出し、第3のライン16を通じて第2の容器13に回収される。この回収液には、アルブミンなどの必要タンパク質が多く含まれている。
【0039】
本実施の形態によれば、濃縮器12が、中空糸膜52が1.6m2以上2.9m2以下の膜面積を有し、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件1で腹水を濃縮したときに、各々の中空糸51の線速度が2.2m/hr以上3.8m/hr以下となり、条件1で6Lの腹水を処理したときに、中空糸膜52の膜間圧力差が500mmHg以下に維持され、タンパク質の回収率が85%以上になるように構成されている。発明者の知見によれば、濃縮器12の中空糸膜52における流速を上げるために、膜面積を上げることは思いつくが、単純に膜面積を上げればよいというものではない。膜面積を上げすぎると、処理終了後に中空糸51内に回収しきれずに残る腹水量が増え、回収率が下がる。そこで、中空糸膜52における目標の流速に対して最適な膜面積の上昇量を設計するためには、線速度がパラメーターとして機能することに気が付いた。かかる構成の濃縮器12によれば、中空糸膜52の膜面積を増やし、中空糸51の線速度を最適の範囲に調整することで、濾過された腹水を濃縮するときに中空糸膜52の膜間圧力差が上昇することを抑制することができ、なおかつ腹水中のタンパク質を高い回収率で回収することができる。この結果、腹水を短時間で濾過、濃縮して回収する、いわゆる高速処理を実現することができる。
【0040】
腹水を1L処理した時の膜間圧力差をA、3L処理した時の膜間圧力差をB、6L処理した時の膜間圧力差をCとしたとき、濃縮器12は、B/A≦1.5、C/A≦1.5となるように構成されている。かかる濃縮器12は、中空糸膜52の膜間圧力差の上昇を十分に抑えることができるものであるので、大量の腹水を短時間で処理することができる。
【0041】
中空糸膜52は、10000本以上の中空糸51を有し、なおかつ、400mm以下の長さL1を有する。これにより、濃縮器12における中空糸膜52の膜面積と中空糸51の線速度を好適に調整することができる。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施の形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0043】
例えば上記実施の形態における腹水処理装置1の構成は、これに限られず他の構成を有するものであってもよい。例えばポンプは、第1のライン14と第2のライン15のみでなく、第3のライン16などの他の流路にも設けられていてもよい。また、ポンプは、第1のライン14のみ、第2のライン15のみ、第3のライン16のみに設けられていてもよい。第4のライン17には、陰圧発生装置が設けられていてもよい。さらに、第1の容器10から第2の容器13に腹水を送るにあたり、ポンプを用いずに落差圧を用いてもよい。図1において第1のライン14は濾過器11の出入口23に接続され、第2のライン15が濾過器11の出入口25に接続され、第5のライン18が濾過器11の出入り口24に接続されていてもよい。腹水処理装置1の濾過方法は、外圧濾過法を用いても、内圧濾過方法を用いてもよい。外圧濾過方法の場合、例えば第1のライン14を濾過器11の出入口25に接続し、第2のライン15を濾過器11の出入口23に接続し、腹水を中空糸膜22の内側から外側に通過させてもよい。本発明は、腹水の処理に限られず、胸水、心嚢液等の他の体腔液の処理にも適用することができる。
【実施例0044】
以下に、本発明が、腹水の濃縮時に中空糸膜の膜間圧力差が上昇することを抑制しなおかつタンパク質の高い回収率を実現することを確認する実験を行った。
【0045】
<実験方法>
タンパク質濃度を5g/dL、アルブミン濃度を2.7g/dLに調整した疑似腹水6Lを準備した。擬似腹水の調整は次のように行った。ウシの血液を用いた疑似腹水を作製した。まず、抗凝固剤としてヘパリンナトリウム注(1万単位/牛血液1L)を添加した牛血液を遠心分離し、血漿層、赤血球層およびバフィーコート層の各溶液を得て、これらを別々に回収することで血漿を得た。次に血漿を濾過器(旭化成メディカル(株)社製 腹水濾過器AHF-MO-W)で濾過させた後、生理食塩液を混和して蛋白質濃度5(g/dL)、アルブミン濃度を2.7(g/dL)に調製し、擬似腹水である元液を6L作製した。本疑似腹水は濾過器を通過した細胞成分のないものとみなすことができるため、濾過器は省略した方法で実施した。擬似腹水6Lが濃縮器に毎分100mLで導入され、回収液が毎分20mLで回収容器に回収される(除水液が毎分80mLで除水される)ようにポンプの流量を調整して、疑似腹水を5倍濃縮した。元液を1L処理した時の膜間圧力差をA、3L処理した時の膜間圧力差をB、6L処理した時の膜間圧力差をCとした。回収容器に回収された回収液のタンパク質の濃度(回収液TP濃度)を測定し、タンパク質回収率を算出した。
タンパク質回収率=(回収液中のタンパク質量)/(元液中のタンパク質量)×100(%)
実験の各種条件及び結果を図3の表に示す。
【0046】
(実施例1)
濃縮器の中空糸膜の膜面積が2.6m2であり、腹水を、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で濃縮した場合に、各中空糸の線速度が2.48m/hrとなるものを用いた。6Lの腹水を処理したときに中空糸膜の膜間差圧が141mmHgであり、タンパク質の回収率が91%であった。なお、図3の表中、6Lの腹水の処理を完了する前に中空糸膜の膜間差圧が上限圧である500mmHgに到達した場合を「×」、中空糸膜の膜間差圧が上限圧である500mmHgに到達する前に6Lの腹水の処理を完了した場合を「〇」と表示した。また、タンパク質の回収率が85%未満のものを「×」と表示した。
【0047】
(実施例2)
濃縮器の中空糸膜の膜面積が2.2m2であり、腹水を、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で濃縮した場合に、各中空糸の線速度が2.92m/hrとなるものを用いた。6Lの腹水を処理したときに中空糸膜の膜間差圧が210mmHgであり、タンパク質の回収率が89%であった。
【0048】
(実施例3)
濃縮器の中空糸膜の膜面積が1.8m2であり、腹水を、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で濃縮した場合に、各中空糸の線速度が3.60m/hrとなるものを用いた。6Lの腹水を処理したときに中空糸膜の膜間差圧が373mmHgであり、タンパク質の回収率が86%であった。
【0049】
(実施例4)
濃縮器の中空糸膜の膜面積が2.6m2であり、腹水を、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で濃縮した場合に、各中空糸の線速度が2.91m/hrとなるものを用いた。6Lの腹水を処理したときに中空糸膜の膜間差圧が215mmHgであり、タンパク質の回収率が85%であった。
【0050】
(比較例1)
濃縮器の中空糸膜の膜面積が1.5m2であり、腹水を、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で濃縮した場合に、各中空糸の線速度が4.20m/hrとなるものを用いた。1Lの腹水を処理したときの中空糸膜の膜間差圧が400mmHgであり、6Lの腹水を処理する前に上限圧力である500mmHg達し処理が停止された。
【0051】
(比較例2)
濃縮器の中空糸膜の膜面積が3.0m2であり、腹水を、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で濃縮した場合に、各中空糸の線速度が2.12m/hrとなるものを用いた。6Lの腹水を処理したときに中空糸膜の膜間差圧が102mmHgであったが、タンパク質の回収率が83%であった。
【0052】
(比較例3)
濃縮器の中空糸膜の膜面積が2.6m2であり、腹水を、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で濃縮した場合に、各中空糸の線速度が3.83m/hrとなるものを用いた。3Lの腹水を処理したときの中空糸膜の膜間差圧が430mmHgであり、6Lの腹水を処理する前に上限圧力である500mmHg達し処理が停止された。
【0053】
(比較例4)
濃縮器の中空糸膜の膜面積が3.0m2であり、腹水を、入口側流量が100mL/min、濃縮倍率が5倍、タンパク質濃度が5±2g/dLの条件で濃縮した場合に、各中空糸の線速度が2.64m/hrとなるものを用いた。1Lの腹水を処理したときの中空糸膜の膜間差圧が440mmHgであり、6Lの腹水を処理する前に上限圧力である500mmHg達し処理が停止された。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、濾過された体腔液を濃縮するときに中空糸膜の膜間圧力差が上昇することを抑制することができ、なおかつ体腔液中のタンパク質を高い回収率で回収することができる体腔液処理装置及び濃縮器を提供する際に有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 腹水処理装置
10 第1の容器
11 濾過器
12 濃縮器
51 中空糸
52 中空糸膜
13 第2の容器
14 第1のライン
15 第2のライン
16 第3のライン
17 第4のライン
図1
図2
図3