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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154458
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】電子部品
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/38 20060101AFI20231013BHJP
   C08G 59/02 20060101ALI20231013BHJP
   B32B 15/08 20060101ALI20231013BHJP
   B32B 27/26 20060101ALI20231013BHJP
   H01F 37/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B32B27/38
C08G59/02
B32B15/08 E
B32B15/08 U
B32B27/26
H01F37/00 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063744
(22)【出願日】2022-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000229597
【氏名又は名称】日本パーカライジング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小林 勇太
(72)【発明者】
【氏名】和智 大介
(72)【発明者】
【氏名】猪俣 翔
(72)【発明者】
【氏名】中谷 亜紀乃
【テーマコード(参考)】
4F100
4J036
【Fターム(参考)】
4F100AB01A
4F100AB03
4F100AH03
4F100AH03B
4F100AK25
4F100AK41
4F100AK53
4F100AK53B
4F100AL01
4F100AL06
4F100AL06B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CA02
4F100CA02B
4F100EH46
4F100EJ08
4F100EJ42
4F100EJ86
4F100GB41
4F100JG04
4F100JJ03
4F100JL09
4F100JM01
4J036AB01
4J036AB07
4J036AB09
4J036AC01
4J036AC11
4J036AD08
4J036AD09
4J036AD11
4J036AD13
4J036AD15
4J036AD21
4J036AE07
4J036CA19
4J036CA22
4J036CA25
4J036CB04
4J036CB05
4J036CB10
4J036DC27
4J036GA07
4J036GA09
4J036GA10
4J036GA11
4J036HA12
4J036JA01
4J036JA05
4J036JA08
4J036KA01
(57)【要約】
【課題】高温耐久性に優れた電子部品を提供することを課題とする。
【解決手段】金属部分を有し、該金属部分の全部又は一部に皮膜を有する電子部品であって、前記皮膜が、特定のエポキシ樹脂(A1)と、特定のアミン化合物(A2)と、を反応させて得られる電子部品により、上記課題を解決する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属部分を有し、該金属部分の全部又は一部に皮膜を有する電子部品であって、
前記皮膜が、
エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)を反応させて得られ、
前記エポキシ樹脂(A1)は、
式(1)で示されるプロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)と、
ビスフェノール化合物(a2)と、
式(1)とは異なるジエポキシ樹脂(a3)と、
2つのカルボキシル基が少なくとも1個の炭素原子を介して結合されているジカルボン酸(a4)と、
を反応させて得られる、アミノ基変性エポキシ樹脂又はその塩、
を含む、電子部品。
【化1】


[式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数3~10のアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロへキシレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基、又は-R-R-R-であり、R及びRは、シクロヘキシレン基又はフェニレン基であり、Rは、1又は2個の置換基を有していてもよいメチレン基であり、m及びnは、相互に独立しており、1~20のいずれかの整数である。]
【請求項2】
前記電子部品がモーターを構成する電子部品、バスバー、リアクトル、電線及び焼結磁石からなる群から選択される、請求項1に記載の電子部品。
【請求項3】
金属部分を有し、該金属部分の全部又は一部に皮膜を有する電子部品であって、
前記皮膜が、
エポキシ樹脂(A1)由来の構成単位と、アミン化合物(A2)由来の構成単位と、を有する樹脂を含み、
前記エポキシ樹脂(A1)は、
式(1)で示されるプロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)由来の構成単位と、
ビスフェノール化合物(a2)由来の構成単位と、
式(1)とは異なるジエポキシ樹脂(a3)由来の構成単位と、
2つのカルボキシル基が少なくとも1個の炭素原子を介して結合されているジカルボン酸(a4)由来の構成単位と、
を有するアミノ基変性エポキシ樹脂又はその塩、
を含む、電子部品。
【化2】

[式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数3~10のアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロへキシレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基、又は-R-R-R-であり、R及びRは、シクロヘキシレン基又はフェニレン基であり、Rは、1又は2個の置換基を有していてもよいメチレン基であり、m及びnは、相互に独立しており、1~20のいずれかの整数である。]


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、特定の樹脂を含む表面処理剤を用いて、優れた皮膜を金属材料上に形成する検討がなされている。例えば、特許文献1には、特定の構造を有するアミノ基変性エポキシ樹脂を含むカチオン電着塗料組成物を用いて金属材料に表面処理することで、耐食性等に優れた皮膜を形成できる旨、開示されている。
一方、種々の製品に用いられる電子部品は、使用環境が多様化しつつある。このような状況下において、電子部品には使用される環境下において高い耐久性を満たすことが求められている。特許文献2には、金属磁性粉を含む絶縁体を用いた電子部品において、その絶縁体上に樹脂のコーティング膜形成することで、耐湿性や耐薬品性等に優れた電子部品を得ることができる旨、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】国際公開第2017/038631号公報
【特許文献2】国際公開第2016/013643号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の通り、電子部品にはその使用される環境下において高い耐久性を満たすことが求められている。例えば、自動車等で用いられる電子部品には、高温環境下でも長時間にわたって絶縁性等の性能が持続すること(高温耐久性)が求められる。特許文献2に開示されているコーティング膜が形成された電子部品は、上記高温耐久性の観点において、改善の余地が残されている。本発明は、上記高温耐久性に優れた電子部品を提供することを課題としたものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、
[1]金属部分を有し、該金属部分の全部又は一部に皮膜を有する電子部品であって、
前記皮膜が、
エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)を反応させて得られ、
前記エポキシ樹脂(A1)は、
式(1)で示されるプロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)と、
ビスフェノール化合物(a2)と、
式(1)とは異なるジエポキシ樹脂(a3)と、
2つのカルボキシル基が少なくとも1個の炭素原子を介して結合されているジカルボン酸(a4)と、
を反応させて得られる、アミノ基変性エポキシ樹脂又はその塩、
を含む、電子部品。
【化1】

[式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数3~10のアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロへキシレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基、又は-R-R-R-であり、R及びRは、シクロヘキシレン基又はフェニレン基であり、Rは、1又は2個の置換基を有していてもよいメチレン基であり、m及びnは、相互に独立しており、1~20のいずれかの整数である。]
[2]前記電子部品がモーターを構成する電子部品、バスバー、リアクトル、電線及び焼結磁石からなる群から選択される、[1]に記載の電子部品。
[3]金属部分を有し、該金属部分の全部又は一部に皮膜を有する電子部品であって、
前記皮膜が、
エポキシ樹脂(A1)由来の構成単位と、アミン化合物(A2)由来の構成単位と、を有する樹脂を含み、
前記エポキシ樹脂(A1)は、
式(1)で示されるプロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)由来の構成単位と、
ビスフェノール化合物(a2)由来の構成単位と、
式(1)とは異なるジエポキシ樹脂(a3)由来の構成単位と、
2つのカルボキシル基が少なくとも1個の炭素原子を介して結合されているジカルボン酸(a4)由来の構成単位と、
を有するアミノ基変性エポキシ樹脂又はその塩、
を含む、電子部品。
【化2】

[式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数3~10のアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロへキシレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基、又は-R-R-R-であり、R及びRは、シクロヘキシレン基又はフェニレン基であり、Rは、1又は2個の置換基を有していてもよいメチレン基であり、m及びnは、相互に独立しており、1~20のいずれかの整数である。]
などである。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、高温耐久性に優れた皮膜を有する電子部品を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0007】
以下、本発明の実施形態に係る金属部分の全部又は一部に皮膜を有する電子部品及びそ
の製造方法について説明する。
【0008】
<電子部品>
本実施形態において用いることのできる電子部品は、金属部分を有する電子部品であり、表面の全部または一部が金属で構成されている電子部品であれば特に制限はない。電子部品の種類としては、例えば、モーターを構成する電子部品(ステータ(固定子)、ロータ(回転子)及びリード線等)、バスバー、リアクトル、電線、焼結磁石等を挙げることができる。
【0009】
電子部品の表面の全部又は一部を構成する金属としては、特に制限されるものではないが、例えば、鉄、鉄合金、アルミニウム、アルミニウム合金、銅、銅合金等が挙げられる。上記金属は、電子部品の全部又は一部の表面上に膜の形態で構成されていてもよい。上記金属の膜としては、各種金属材料(合金材料を含む);セラミック;ガラス;樹脂フィルム;シリコン、シリコンカーバイド(SiC)、サファイア、ガラス、リン化ガリウム(GaP)、ヒ化ガリウム(GaAs)、リン化インジウム(InP)、窒化ガリウム(GaN)等のウェハー;等の材料の表面上に、スパッタリング法、CVD法、レーザー蒸着、インクジェット法、パターンめっき転写法、ダマシン法等で形成したものを具体的に挙げることができる。なお、上記材料と、上記金属の膜との間に、別の膜(例えば、チタン又はチタン合金の膜等)が蒸着法やスパッタリング法等で形成されたものであってもよい。チタン合金としては、チタンとチタン以外の金属元素を含み、チタンが最も多く含まれているものであれば特に制限されるものではない。具体的には、JIS H 4600:2012に定められている、チタン-パラジウム合金系、チタン-ニッケル-クロム-ルテニウム-パラジウム合金系、チタン-タンタル合金系、チタン-パラジウム-コバルト合金系、チタン-ニッケル-ルテニウム合金系、チタン-アルミニウム合金系、チタン-アルミニウム-バナジウム合金系などが挙げられる。
【0010】
また、電子部品が有する金属部分の大きさは特に限定されるものではなく、電子部品の種類により異なるが、典型的には、自動車ボディーなどのような大きな部品ではない。
その大きさの一例としては、長径が1mm以上であり、10mm以上であってよく、また1000mm以下であり、500mm以下であってよく、300mm以下であってよい。
【0011】
上記電子部品については、例えば、以下に示すものが具体例として挙げられる。
【0012】
国際公開第2019/077793号公報には、マイカを含むマイカ層(7)と、このマイカ層(7)に積層され、フィラー粒子(10)および補強材(11)を含む補強層(8)とで構成される絶縁被覆材(6)を有する固定子コイルが開示されている。上記固定子コイルを対象として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0013】
特開2019-116552号公報には、固定子鉄心12と固定子コイル11の隙間を充填し両者を絶縁及び固着する絶縁シート1が開示されている。上記固定子鉄心12と固定子コイル11の隙間の充填に、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0014】
特開2020-114179号公報には、回転電気の固定子10に備えられているカラー13及びコイルエンド12aについて、カラー13の外周部13cとコイルエンド12aの内周部12bとの間に弾性のある物体(例えば、絶縁紙)を介在させることができる旨、記載されている。上記弾性のある物体として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0015】
特開2019-6924号公報には、固定子鉄心21と、固定子鉄心21の内周部に多
数個設けられているスロット15と、スロット15に巻回された固定子コイル60と、を含む固定子20について、上記固定子コイル60を電気機器絶縁用樹脂組成物の硬化物で被覆することが記載されている。また、特開2016-124878号公報には、上記固定子コイル60に樹脂組成物601を被覆することが記載されている。上記固定子コイル60に対して、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0016】
特開2015-171249号公報には、ステッピングモーター10に用いられる固定子コア11に絶縁コーティングをすることが記載されている。上記固定子コア11に対して、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0017】
特開2021-60263号公報には、多数の突出磁極(13)を有する1個のみの輪状ステータ(10)を用いた二重冗長系レゾルバが記載されている。上記二重冗長系レゾルバは、上記各突出磁極(13)のうち、一対の突出磁極(13)を1個の部品とした1個の分割コア(21)の間が非磁性体(20)によって絶縁されていることが記載されている。上記分割コア(21)間の非磁性体(20)として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0018】
特開2020-18080号公報には、輪状ステータ1及び各磁極2の全面に、各磁極2に巻回されるステータ巻線10との間の絶縁を得るための輪状絶縁キャップ4が設けられていることが記載されている。上記輪状絶縁キャップ4として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0019】
特開2020-145854号公報及び特開2020-145854号公報には、複数の芯部が環状に配置されたモータコアと、上記芯部に挿入される空芯コイルと、を備えるステータにおいて、上記芯部と上記空芯コイルとの間に絶縁紙が配置されていることが記載されている。上記絶縁紙に代わるものとして、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0020】
国際公開第2021/153540号公報には、モータステータ30は、電磁鋼板を重ね合わせて形成され、ステータコア31と、インシュレータ34と、励磁コイル35とを含んでいることが記載されている。上記インシュレータ34として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0021】
特開2021-118674号公報に開示さているモータは、望ましい態様として、ステータコアとモータ巻線とを絶縁する絶縁材を有していることが記載されている。上記絶縁材として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0022】
特開2020-102898号公報には、ステータ100を構成するコイル部20が、複数の平角導線20aが互いに接合されることにより形成されており、上記平角導線20aは、導電性部材20bの周囲を絶縁被膜20cが覆うように形成されている旨、記載されている。上記絶縁被膜20cとして、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0023】
特開2021-52462号公報には、ロータ10の円筒状の覆い部材13の外周面に樹脂被膜14が形成されていることが記載されている。上記樹脂被膜14として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0024】
特開2019-176616号公報には、モータMTが有している静止部3が、板状の配線部材36と、電流が流れる導電部材(リード線)306とを有しており、上記リード線は絶縁体による被覆を有している旨、記載されている。上記絶縁体による被覆として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0025】
特開2021-89890号公報には、複数の機器の端子部同士を、それらの端子部間に配設される通電部材を介して通電状態に接続する端子間接続構造が開示されている。上記端子間接続構造の通電部品54に用いられるバスバー56、ボルト84等に本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0026】
特開2021-48001号公報には、インバーターやコンバーター等の電力変換装置内にて電流を伝送するための配線部材として用いられる、絶縁層を有するバスバー(絶縁バスバー10)が開示されている。上記絶縁バスバーの絶縁層2として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0027】
特開2021-57139号公報には、互いの間に間隙が存する状態で同一平面内に配置され且つ前記間隙内に充填された間隙充填部を含む絶縁性樹脂層によって絶縁状態で連結された第1及び第2バスバーを有するバスバーアッセンブリが開示されている。また、上記バスバーアッセンブリの絶縁性樹脂層30を形成する絶縁性樹脂材には、インシュリード(登録商標)が好適に利用されることが記載されている。上記絶縁性樹脂材として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0028】
特開2019-153501号公報には、平角導体と、上記平角導体を被覆する絶縁皮膜とを備えた絶縁平角導体が開示されている。また上記絶縁平角導体を用いたコイルが開示されている。上記絶縁被覆として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0029】
特開2019-197779号公報には、リアクトルを構成するコイル1の導線10が絶縁材料により被覆されていることが記載されている。上記絶縁材料による被覆として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0030】
特開2019-87540号公報には、鉄道車両用の絶縁電線が開示されている。上記絶縁電線は導体110の外周上に複層の層が配置された構成をしている。これらの複数の層のうち、導体110と接する半導電層130について、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0031】
特開2019-117793号公報には、電子機器類の内部配線に使用される絶縁電線及びケーブルが開示されている。上記絶縁電線は、導体と、上記導体の外周に被覆された塩化ビニル樹脂組成物からなる絶縁層から形成されているが、上記絶縁層として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0032】
特開2019-106387号公報には、鉄道車両、自動車、機器用などに適用される多層絶縁電線及び多層絶縁ケーブルが開示されている。上記多層絶縁電線の一実施形態である2層絶縁電線10は、導体11と、導体11に被覆された絶縁内層12と、絶縁内層12に被覆された絶縁外層13とを備えているが、上記絶縁内層12について、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0033】
特開2021-111448号公報には、産業用モータ等のモータに使用されるエナメル線が開示されている。上記エナメル線は、導体と、絶縁皮膜とから構成されているは、上記絶縁皮膜について、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0034】
特開2021-141011号公報には、モータや変圧器などの各種電気機器等に用いられる電気コイルが開示されている。上記電気コイルには絶縁銅線が巻回されており、上記絶縁銅線は、銅線と、銅線の表面を被覆する絶縁皮膜とを有している。上記銅線の表面を被覆する絶縁皮膜として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0035】
特開2020-161410号公報には、車両用モーターのコイル等に用いられる絶縁電線が開示されている。上記絶縁電線は、複数の素線部11を有する導電部1と、導電部1の外周を覆う絶縁層2と、を有している。上記絶縁層2について、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0036】
特開2021-153109号公報には、家電・産業用モータ、電気自動車(EV)やハイブリッド自動車(HEV)の駆動用モータや電動パワーステアリング(EPS)用モータなどの製品で使用される焼結磁石が開示されている。上記焼結磁石には樹脂塗料を用いた表面処理を行って良い旨記載されており、上記表面処理として、本実施形態に係る皮膜を適用することができる。
【0037】
<皮膜>
本実施形態に係る電子部品は金属部分を有し、該金属部分の全部又は一部に皮膜を有する。前記皮膜は、アミノ基変性エポキシ樹脂(以降、樹脂と表記する)又はその塩を含む。前記皮膜によって本実施形態に係る電子部品は高温耐久性が向上し長寿命化が可能となり、もって資源の有効活用を図ることができる。
【0038】
<樹脂又はその塩>
本実施形態に係る樹脂を説明する。なお、下記にて、「アルキル」「アルキレン」「アルケニル」「アルカジエニル」「ヒドロキシアルキル」「アルキレングリコール」「アルカノールアミン」等、炭化水素部分を含む基の記載が存在する。この場合、特記しない限り、当該基の炭素数は、相互に独立して、好適には1~6である。また、各原料のそれぞれについては、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0039】
本実施形態で皮膜に含まれる樹脂は、エポキシ樹脂(A1)由来の構成単位と、アミン化合物(A2)由来の構成単位と、を有する樹脂を含む。そして、前記エポキシ樹脂(A1)は、式(1)で示されるプロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)由来の構成単位と、ビスフェノール化合物(a2)由来の構成単位と、式(1)とは異なるジエポキシ樹脂(a3)由来の構成単位と、2つのカルボキシル基が少なくとも1個の炭素原子を介して結合されているジカルボン酸(a4)由来の構成単位と、を有する。エポキシ樹脂(A1)をアミノ基変性エポキシ樹脂とも称する。
【化3】

[式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数3~10のアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロへキシレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基、又は-R-R-R-であり、R及びRは、シクロヘキシレン基又はフェニレン基であり、Rは、1又は2個の置換基を有していてもよいメチレン基であり、m及びnは、相互に独立しており、1~20のいずれかの整数である。]
【0040】
樹脂は、エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)を反応させて得られる。また、エポキシ樹脂(A1)は、プロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)と、ビスフェノール化合物(a2)と、(a1)とは異なるジエポキシ樹脂(a3)と、2つのカル
ボキシル基が少なくとも1個の炭素原子を介して結合されているジカルボン酸(a4)と、を反応させて得られる。以下、各原料を詳述する。
【0041】
プロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)は、式(1)で示される樹脂である。式(1)中、Rは、置換基を有していてもよい炭素数3~10のアルキレン基、置換基を有していてもよいシクロヘキシレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基、又は-R-R-R-である。R及びRは、シクロヘキシレン基又はフェニレン基である。Rは、1又は2個の置換基を有していてもよいメチレン基である。m及びnは、相互に独立しており、1~20のいずれかの整数である。
【0042】
ここで、置換基を有する、炭素数3~10のアルキレン基、シクロへキシレン基、フェニレン基、及びメチレン基における置換基としては、例えば、アルキル基、フェニル基等を挙げることができる。更に、これら置換基は、別の官能基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されていてもよい。なお、上記アルキル基は、直鎖状、分岐鎖状又は環状のいずれであってもよい。また、本明細書において「置換基」とは、特記しない限り上述のアルキル基やフェニル基等を意味する。
【0043】
上記式(1)のRは、例えば、上記式(3)で示されるビスシクロヘキシレン基、上記式(4)で示されるビスフェニレン基、又は式(5)で示されるフェニレン基等である。式(3)中、X及びYは、互いに独立に水素原子、アルキル基又はフェニル基である。式(4)中、X及びYは、互いに独立に水素原子、アルキル基又はフェニル基である。式(5)中、X及びYは、互いに独立に水素原子、アルキル基、フェニル基、アルコキシル基又はヒドロキシル基である。X、Y、X、Y、X及びYとしてのアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であれば特に制限されるものではないが、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。また、X及びYとしてのアルコキシル基は、直鎖状又は分岐鎖状であれば特に制限されるものではないが、炭素数1~6のアルコキシル基が好ましく、炭素数1~3のアルコキシル基がより好ましい。
【化4】
【0044】
上記式(1)のmとnは、上述したように1から20のいずれかの整数であればよいが、1から5のいずれかの整数であることが好ましく、mとnがともに1から3のいずれかの整数であることがより好ましく、mとnがともに1であることが特に好ましい。
【0045】
上記式(1)のプロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)は、公知の方法、よ
り具体的には、Rの両末端にヒドロキシル基を有するポリオール化合物にプロピレンオキサイドを付加又は付加重合させ、得られたポリエーテル化合物(末端にヒドロキシル基を有する)とエピクロルヒドリンを反応させてジエポキシ化することにより得ることが出来る。
【0046】
上記ポリオール化合物として、より具体的には、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,4-シクロヘキサンジオール等の、両末端の炭素原子に水酸基が結合された直鎖状又は環状のアルキレングリコール;カテコール、レゾルシノール、ヒドロキノン、ピロガロール等の2個以上の水酸基を有する多価フェノール;2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン(水素化ビスフェノールA)、水素化ビスフェノールF、水素化ビスフェノールE、水素化ビスフェノールB、水素化ビスフェノールAP、水素化ビスフェノールBP、ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールE、ビスフェノールB、ビスフェノールAP、ビスフェノールBP等のポリフェノール化合物又はその水素化物;等を挙げることができる。
【0047】
ビスフェノール化合物(a2)は、1分子中に2個のフェノール性OH基を有する化合物であれば特に制限されるものではなく、例えばビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールE、ビスフェノールB、ビスフェノールS、ビスフェノールAP、ビスフェノールBP等が挙げられる。なかでも、ビスフェノールA,ビスフェノールFが好ましい。
【0048】
ジエポキシ樹脂(a3)は、上記プロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)以外の、1分子中に2個のエポキシ基を有する化合物である。ジエポキシ樹脂(a3)は、一般に170以上500以下、好ましくは170以上400以下の範囲内のエポキシ当量を有する。ジエポキシ樹脂(a3)としては、上記式(2)で示される化合物であることが好ましい。式(2)中、R及びRは、同一であっても異なるものであってもよく、例えば、単結合、アルキレン基、フェニレン基又はシクロヘキシレン基を挙げることができる。X及びYは、それぞれ独立に水素原子又はアルキル基である。X及びYとしてのアルキル基は、直鎖状又は分岐鎖状であれば特に制限されるものではないが、炭素数1~6のアルキル基が好ましく、炭素数1~3のアルキル基がより好ましい。
【化5】
【0049】
上記ジエポキシ樹脂(a3)は、例えば、上記ポリオール化合物、又は、同一の炭素原子に、2つの水酸基;1つの水酸基と1つの、ヒドロキシアルキル基、フェノール基若しくはシクロヘキサノール基;1つのヒドロキシアルキル基と1つの、フェノール基若しくはシクロヘキサノール基;1つのフェノール基と1つのシクロヘキサノール基;若しくは2つのヒドロキシアルキル基(同一であっても異なるものであってもよい);が結合された炭素数が2以上のアルキレングリコールと、エピハロヒドリン(例えば、エピクロルヒドリン)との反応によって得ることができる。上記アルキレングリコールとしては、例えば、1,1-ジヒドロキシエタン、1,1-ジヒドロキシプロパン、2,2-ジヒドロキシプロパン等の、同一の炭素原子に2つの水酸基が結合されたアルキレングリコール;2-ヒドロキシプロパノール、2-ヒドロキシブタノール等の、同一の炭素原子に1つの水
酸基と1つのヒドロキシアルキル基が結合されたアルキレングリコール;2,2-(ジヒドロキシメチル)エタン、2,2-(ジヒドロキシエチル)プロパン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,4-ブタンジオール、3,3-ジエチル-1,6-ヘキサンジオール等の、同一の炭素原子に1種又は2種のヒドロキシアルキル基が結合されたアルキレングリコール;4-(1-ヒドロキシエチル)フェノール、3-(1-ヒドロキシエチル)フェノール、4-(1-ヒドロキシプロピル)フェノール等の、同一の炭素原子に1つの水酸基と1つのフェノール基が結合されたアルキレングリコール;4-(1-ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール、2-(1-ヒドロキシエチル)シクロヘキサノール等の、同一の炭素原子に1つの水酸基と1つのシクロヘキサノール基が結合されたアルキレングリコール;4-ヒドロキシフェニル-2-プロパノール、4-ヒドロキシフェニル-2-ブタノール等の、同一の炭素原子に1つのヒドロキシアルキル基と1つのフェノール基が結合されたアルキレングリコール;2-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-プロパノール、2,2-ジメチル-2-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)-1-エタノール等の、同一の炭素原子に1つのヒドロキシアルキル基と1つのシクロヘキサノール基が結合されたアルキレングリコール;2-(4-ヒドロキシフェニル)-2-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン、1-(4-ヒドロキシフェニル)-1-(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プロパン等の、同一の炭素原子に1つのフェノール基と1つのシクロヘキサノール基が結合されたアルキレングリコール;等を挙げることができる。
【0050】
ジエポキシ樹脂(a3)の製造においては、上記ポリオール化合物及び上記各種アルキレングリコールのほか、例えば、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1-イソブタン、ビス(4-ヒドロキシ-2-tert-ブチルフェニル)-2,2-プロパン、ビス(4-ヒドロキシ-3-tert-ブチルフェニル)-2,2-プロパン、ビス(2-ヒドロキシナフチル)メタン、テトラキス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,2,2-エタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)ヘキサフルオロプロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-ジクロロエチレン、2,2-ビス(3-メチル-4ヒドロキシフェニル)プロパン等を用いることができる。
【0051】
これらの原料によって得られたジエポキシ樹脂(a3)は、樹脂の製造において、単独で用いてもよいし、2種以上用いてもよい。2種以上のジエポキシ樹脂(a3)を用いて樹脂を製造する場合は、それぞれを別々に添加しても同時に添加してもよい。
【0052】
ジカルボン酸(a4)は、2つのカルボキシル基が少なくとも1個の炭素原子を介して結合されている化合物である。好適なジカルボン酸は、下記式(6)で示されるように、2つのカルボキシル基が炭素数1~20個の直鎖状のアルキレン基(R)を介して結合している化合物である。なお、式(6)の化合物におけるアルキレン基(R)は、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基及びメチレン基から選ばれる1種の置換基を1又は2個以上、あるいは、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基及びメチレン基から選ばれる2種以上の置換基をそれぞれ1個又は2個以上、有していてもよい。また、式(6)の化合物におけるアルキレン基(R)の炭素数が2~20個である場合、該アルキレン基の隣り合う炭素原子を介して環を構成してもよい。環は、アルキル基及びアルケニル基から選択される1又は2以上の置換基を有していてもよく、好ましくは、アルキル基及び/又はアルケニル基の2個の置換基を有していてもよい。環が2個の置換基を有する場合、該2個の置換基は、同一であっても異なっていてもよい。環としては、例えば、シクロヘキサン環、シクロヘキセン環、ベンゼン環、デカリン環において2つの炭素-炭素結合が2重結合であるビシクロ環(例えば、ビシクロ[4.4.0]デカン-1,7-ジエン等)を挙げることができる。アルキレン基(R)が有していてもよい、アルキル基、アルケニル基若しくはアルカジエニル基、又は、環が有していてもよい、アルキル
基又はアルケニル基は、直鎖状又は分岐鎖状のいずれであってもよい。
【化6】
【0053】
より好適なジカルボン酸(a4)は、環状及び/又は不飽和結合を有する化合物である。特に好適なジカルボン酸(a4)は、式(6)の化合物のうち、アルキレン基(R)における炭素数が2~18個であり;且つ、アルキレン基(R)は、メチレン基を1個、炭素数が5から9のアルキル基を1個若しくは2個、又は、炭素数が5から9の、アルキル基、アルケニル基及びアルカジエニル基から選ばれる1種又は2種の置換基を2個、有していてもよい、あるいは、アルキレン基(R)の隣り合う炭素原子を介して上記環のいずれかを構成し、環は、それぞれ独立に、炭素数が5から9の、アルキル基、アルケニル基又はアルカジエニル基である2個の置換基を有していてもよい;化合物である。
【0054】
ジカルボン酸(a4)は、例えば、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、2,2-ジメチルグルタル酸、3,3-ジメチルグルタル酸、アジピン酸、2,2-ジメチルアジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、2-エチルアゼライン酸、セバシン酸、1,9-ノナンジカルボン酸、1,10-デカンジカルボン酸、1,11-ウンデカンジカルボン酸、1,12-ドデカンジカルボン酸、1,13-トリデカンジカルボン酸、1,14-テトラデカンジカルボン酸、1,15-ペンタデカンジカルボン酸、1,16-ヘキサデカンジカルボン酸、1,17-ヘプタデカンジカルボン酸、1,18-オクタデカンジカルボン酸、1,19-ノナデカンジカルボン酸、1,20-イコサンジカルボン酸、イタコン酸、フタル酸、ダイマー酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,2-シクロヘキセンジカルボン酸等を挙げることができる。
なお、本実施形態においてエポキシ樹脂(A1)の原料として用いることができるダイマー酸は、例えば、市販の、ハリダイマー200、250又は270S(各ハリマ化成グループ株式会社);ツノダイム205、216、228、395又は346(各筑野食品工業株式会社);Unydyme 14、14R、T-17、18、T-18、22、T-22、27、35、M-9、M-15、M-35若しくは40、又はCentury D-75、D-77、D-78若しくはD-1156、又はSylvatal 7001若しくは7002(各アリゾナケミカル社);Empol 1016、1003、1026、1028、1061、1062、1008又は1012(各BASF社);水素化ダイマー酸(average M~570;Sigma-Aldrich社)等を挙げることができる。
【0055】
本実施形態に用いられるアミン化合物(A2)は、エポキシ樹脂(A1)にアミノ基を導入するための原料である。従って、アミン化合物(A2)は、エポキシ基との反応が可能な活性水素を少なくとも1つ以上含む。アミン化合物(A2)としては、アミノ基を導入できるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、モノメチルアミン、ジメチルアミン、モノエチルアミン、ジエチルアミン、モノイソプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、モノブチルアミン、ジブチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノ(2-ヒドロキシプロピル)アミン、ジ(2-ヒドロキシプロピル)アミン、モノメチルアミノエタノール、モノエチルアミノエタノール、エチレンジアミン、プロピレンジアミン、ブチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、テトラエチレンペンタミン、ペンタエチレンヘキサミン、ジエチルアミノプロピルアミン、ジエチレントリアミン等が挙げられ、これらの内、アルカノールアミンが好適である。なお、1級アミンについてはケチミン化したものも用いる事が可能である。なお、これらのアミン化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。2種以上のアミン化合物(A2
)を用いて樹脂を製造する場合は、それぞれを別々に添加しても同時に添加してもよい。
【0056】
<樹脂又はその塩の製造方法>
<エポキシ樹脂(A1)の製造方法>
次に、エポキシ樹脂(A1)の製造方法について詳述する。エポキシ樹脂(A1)は、例えば、プロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)、ビスフェノール化合物(a2)、ジエポキシ樹脂(a3)及びジカルボン酸(a4)の原料を配合した混合物を、所定温度で攪拌して反応させることにより製造することができる。なお、反応を促進させるために、上記混合物に反応触媒を更に添加することが好ましい。
【0057】
反応触媒としては、反応を促進するものであれば特に制限されるものではないが、例えば、ジメチルベンジルアミン、トリエチルアミン、トリブチルアミン等のような3級アミン、テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等のような4級アンモニウム塩等を用いることが出来る。合成温度は、反応の進行を考えて70℃以上200℃以下で制御するのが望ましい。
【0058】
上記の製造方法により得られるエポキシ樹脂のエポキシ当量は、例えば、1000以上5000以下が望ましく、1250以上4000以下がより望ましく、1500以上3000以下が特に望ましい。当該範囲内であるエポキシ樹脂(A1)は、より優れた液安定性を実現でき、且つ、所定の膜厚を効率よく形成することができるカチオン電着塗料組成物の原料として有用な樹脂を製造することが可能となる。なお、エポキシ当量は、JIS
K7236の電位差滴定法に準じて測定することができる。該測定には、市販の電位差
滴定装置(例えば、京都電子工業製のAT-610)を用いて行うことができる。
【0059】
エポキシ樹脂(A1)の製造において、プロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)、ビスフェノール化合物(a2)、ジエポキシ樹脂(a3)及びジカルボン酸(a4)の配合割合は、各原料(a1)~(a4)の総質量に対して下記の通りである。プロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1)は1~50質量%が望ましく、5~45質量%がより望ましく、10~40質量%が最も望ましい。ジカルボン酸(a4)は1~20質量%が望ましく、5~20質量%がより望ましく、10~20質量%が最も望ましい。残りの配合割合はビスフェノール化合物(a2)及びジエポキシ樹脂(a3)によるものとなるが、ビスフェノール化合物(a2)及びジエポキシ樹脂(a3)は1質量%以上であることが望ましい。
【0060】
上記の反応は、適宜、各原料を溶剤に添加して溶剤中で行ってもよい。溶剤としては、樹脂の製造において通常用いられているものであれば特に制限されるものではなく、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン等の炭化水素系溶媒;酢酸メチル、酢酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール系溶媒;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル等のエーテルアルコール系溶媒;等が挙げられ、これらは単独で、若しくは、2種以上混合して用いてもよい。
【0061】
<樹脂の製造方法>
次に、樹脂の製造方法について詳述する。上述したように、樹脂は、エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)とを反応させることにより得ることができる。反応温度及び時間は、例えば、70℃以上110℃以下の範囲内で1~5時間が好適である。樹脂の製造において、アミン化合物(A2)の配合量は、樹脂のアミン価が5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下の範囲となるように調整することが好ましい。従って、得られる樹脂のアミン価は、5mgKOH/g以上30mgKOH/g以下の範囲内であることが
好ましく、5mgKOH/g以上20mgKOH/g以下の範囲内であることがより好ましく、10mgKOH/g以上20mgKOH/g以下の範囲内であることが特に好ましい。なお、アミン価、すなわち、樹脂の全アミン価は、JIS K7237の電位差滴定
法に準じて測定することができる。
【0062】
なお、アミン価を調整しても未反応のエポキシ基が存在する場合は、エポキシ基と反応しうる化合物を用いて、当該未反応のエポキシ基に反応させてもよい。当該未反応のエポキシ基と反応させる化合物は、特に問わないが、例えば、フェノール化合物、カルボン酸類、キシレンホルムアルデヒド樹脂やε-カプロラクトン等が挙げられる。
【0063】
上記エポキシ樹脂(A1)とアミン化合物(A2)との反応は、エポキシ樹脂(A1)を製造する際に用いた上記溶剤と同じものを使用することができるが、これらに限定されるものではなく、他の溶剤を使用してもよい。
【0064】
樹脂はその構造中に含まれるアミノ基を中和酸で中和することで、塩の形態として用いることもできる。中和酸としては、樹脂におけるアミノ基をカチオン化することができるものであれば特に制限されるものではなく、例えば、ギ酸、酢酸、乳酸、スルファミン酸、メタンスルホン酸等の有機カルボン酸を用いる事ができる。これらのうち、より安定な低アミン価樹脂エマルションを作製することが可能なメタンスルホン酸等の強酸を用いることが望ましい。これらの酸は単独で用いることもできるし、2種以上用いることも可能である。2種以上の酸を用いる場合は、それぞれを別々に添加しても同時に添加してもよい。水分散性を付与するためにアミノ基をカチオン化する。カチオン化は全てのアミノ基に対して行ってもよいし、一部のアミノ基に対して行ってもよい。
【0065】
本実施形態に係る皮膜に含まれる、樹脂又はその塩の形態は、そのままの形態であっても、架橋物の形態であってもよい。樹脂又はその塩と、ポリイソシアネート化合物等の硬化剤との架橋物の形態であってもよい。
【0066】
ポリイソシアネート化合物としては、例えば、トリレンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、ジフェニルメタン-2,4’-ジイソシアネート、ジフェニルメタン-4,4’-ジイソシアネート、ポリメリックMDI(クルードMDI:ポリメチレンポリフェニルポリイソシアネート)、ビス(イソシアネートメチル)シクロヘキサン、テトラメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、メチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等が挙げられる。これらのポリイソシアネート化合物は、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0067】
皮膜の厚さとしては、特に制限されるものではないが、通常0.1μm以上1000μm以下の範囲内である。なお、皮膜の厚さは、素地金属が磁性金属であれば電磁誘導式膜厚計、素地金属が非磁性金属であれば過電流式膜厚計により測定することができる。
【0068】
<金属部分の全部又は一部に皮膜を有する電子部品の製造方法>
本実施形態に係る金属部分の全部又は一部に皮膜を有する電子部品は、樹脂又はその塩を含む表面処理剤を用いて、電着塗装等の方法で、対象とする電子部品の金属部分の全部又は一部に皮膜を形成することで得ることができる。
【0069】
本実施形態に係る表面処理剤は、樹脂又はその塩をエマルションの形態で含む。
【0070】
上記エマルションは、例えば、転相乳化法によって樹脂又はその塩を水中に分散させることで得ることができる。分散させる際の温度は特に制限されるものではないが、5℃以
上50℃以下であることが好ましい。
【0071】
上記エマルションは、硬化剤をさらに含んでもよい。硬化剤は樹脂を架橋し得るものであれば特に限定されず、例えば、ブロック化ポリイソシアネート化合物、アミン化合物、メラミン等が挙げられる。なかでも、ブロック化ポリイソシアネート化合物が好ましい。また、硬化剤とともに硬化触媒を含ませてもよい。これらを含ませる場合、上記エマルションは、樹脂又はその塩と、硬化剤と、硬化触媒と、を予め混合した後、転相乳化法によって水中に混合物を分散させることで得ることができる。上記エマルションを得るにあたり、樹脂と、硬化剤と、硬化触媒と、を混合した後に、上記アミノ基の中和を行い、樹脂を塩の形態とすることもできる。
【0072】
上記ブロック化ポリイソシアネート化合物は、上記ポリイソシアネート化合物とブロック剤との付加反応生成物、好適にはポリイソシアネート化合物とブロック剤とのほぼ化学理論量での付加反応生成物である。
【0073】
ブロック剤は、ポリイソシアネート化合物のイソシアネート基に付加して他の化合物が反応するのをブロックするものである。このようにブロック剤でイソシアネート基をブロックすることによって生成されるブロック化ポリイソシアネート化合物は、常温において安定である。なお、ブロック化ポリイソシアネート化合物としては、本発明のカチオン電着塗料組成物によって形成された塗膜を焼き付ける際に、ブロック化しているブロック剤が解離しうるものであることが望ましい。なお、上記焼付温度は、通常、約100~200℃である。
【0074】
このような要件を満たすブロック剤としては、例えば、ε-カプロラクタム、γ-ブチロラクタム等のラクタム系化合物;メチルエチルケトオキシム、シクロヘキサノンオキシム等のオキシム系化合物;フェノール、パラ-t-ブチルフェノール、クレゾール等のフェノール系化合物;n-ブタノール、2-エチルヘキサノール等のアルコール類;エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル等のエーテルアルコール系化合物;等が挙げられる。これらのブロック剤は単独、若しくは2種以上を組み合わせて使用することが出来る。ブロック剤の付加及び解離の反応を効率よく行うことができ、また、意図する付加反応生成物を効率よく得るために、あらかじめ、変性エポキシ樹脂における水酸基と、ポリイソシアネート化合物におけるイソシアネート基と反応させ、且つ、該ポリイソシアネート化合物における他のイソシアネート基の一部又は全部をブロック剤でブロックしてもよい。
【0075】
また、ブロック剤の付加及び解離の反応を更に効率良く行うために、適宜、上記硬化触媒とは別の触媒を含ませることも可能である。この触媒としては、市販されているものを適宜使用することが出来る。
【0076】
硬化触媒としては、例えば、すず系触媒、ビスマス系触媒、チタン系触媒、ジルコニウム触媒、アミン系触媒、カルボキシレート系触媒、トリアルキルホスフィン系触媒等、公知の触媒を用いることができる。これらの硬化触媒は、1種用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0077】
上記エマルションは、フェノール構造含有樹脂をさらに含んでいてもよい。フェノール構造含有樹脂とは、1つの置換基を有していてもよいフェノール基を含有する樹脂を意味する。置換基としては、例えば、メチル基、イソプロピル基等のアルキル基;フェノール基;などを挙げることができる。該置換基の位置としては、特に制限されるものではないが、フェノール基が有するOH基に対してオルト位であることが好ましい。
【0078】
フェノール構造含有樹脂は、ジエポキシ化合物(b1)及び/又はエポキシ当量170~500のエポキシ樹脂(b2)と、ビスフェノール化合物(b3)とを、[ジエポキシ化合物(b1)及びエポキシ樹脂(b2)におけるエポキシ基]/[ビスフェノール化合物(b3)のフェノール基]の当量比=0.5~0.85で反応させることにより製造することができる。
【0079】
上記ジエポキシ化合物(b1)は、下記の一般式(7)で表される化合物及び/又は下記の一般式(8)で表される化合物である。
【化7】
【0080】
上記一般式(7)中、2つのRは、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、アルキレンオキシド構造部分の繰り返し単位の数である。r及びsは、r+s=1~20となる整数を示す。
上記一般式(8)中、Rは、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を示し、tは1~9の整数を示し、uは1~50の整数を示す。
【0081】
上記エポキシ樹脂(b2)は、ジエポキシド化合物(b1)以外の1分子中にエポキシ基を2個以上有し、数平均分子量が340~1,500、好ましくは340~1,000の範囲内であり、かつ、エポキシ当量が170~500、好ましくは170~400の範囲内である、化合物である。エポキシ樹脂(b2)は、例えば、ポリフェノール化合物とエピハロヒドリンとの反応によって得られる。
【0082】
なお、上記「数平均分子量」は、JIS K 0124-83に記載の方法に準じて、ゲルパーミエーションクロマトグラフを用いてエポキシ樹脂(b2)を分析し、標準ポリスチレンの分子量に応じた溶出時間に基づいて算出した。ゲルパーミエーションクロマトグラフは、「HLC8320GPC」(東ソー社製)を使用した。カラムとしては、「TSKgel SuperAWM-H」及び「TSKgel guardcolum α」(いずれも東ソー(株)社製、商品名)を用いた。分析は、移動相:N,N-ジメチルホルムアミド、測定温度:40℃、流速:0.5ml/分の条件で、検出器:RI(示差屈折計)を用いて実施した。
【0083】
エポキシ樹脂(b2)の製造に用いられるポリフェノール化合物としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]、ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)メタン[水添ビスフェノールF]、2,2-ビス(4-ヒドロキシシクロヘキシル)プ
ロパン[水添ビスフェノールA]、4,4’-ジヒドロキシベンゾフェノン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1-エタン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-1,1-イソブタン、ビス(4-ヒドロキシ-2もしくは3-tert-ブチル-フェニル)-2,2-プロパン、ビス(2-ヒドロキシナフチル)メタン、テトラ(4-ヒドロキシフェニル)-1,1,2,2-エタン、4,4’-ジヒドロキシジフェニルスルホン、フェノールノボラック、クレゾールノボラック等を挙げることができる。
【0084】
また、ポリフェノール化合物とエピクロルヒドリンとの反応によって得られるエポキシ樹脂としては、中でも、ビスフェノールAから誘導される下記一般式(9)で表されるエポキシ樹脂が好ましい。
【化8】

[一般式(9)中、qは0~2の整数を示す。]
【0085】
ビスフェノール化合物(b3)は、下記一般式(10)で表される化合物である。なお、一般式(10)中、R、R、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。ビスフェノール化合物(b3)としては、例えば、ビス(4-ヒドロキシフェニル)-2,2-プロパン[ビスフェノールA]、ビス(4-ヒドロキシフェニル)メタン[ビスフェノールF]等が挙げられる。
【化9】
【0086】
なお、フェノール構造含有樹脂の製造は、通常、ジエポキシ化合物(b1)及び/又はエポキシ当量170~500のエポキシ樹脂(b2)と、ビスフェノール化合物(b3)とを混合し、適宜、反応触媒として、N,N-ジメチルベンジルアミン、トリブチルアミ
ン等の3級アミン;テトラエチルアンモニウムブロマイド、テトラブチルアンモニウムブロマイド等の4級アンモニウム塩;等を用い、80~200℃、好ましくは90~180℃の温度範囲で、1~10時間、好ましくは1~8時間反応させることによって得ることができる。
【0087】
このようにして得られたフェノール構造含有樹脂は、フェノール構造中の水酸基価が20~112mgKOH/g、好ましくは25~110mgKOH/gであり、数平均分子量が800~15,000、好ましくは900~10,000であることが好ましい。
【0088】
上記エマルションは、例えば、樹脂と、硬化剤との混合物(さらに、フェノール構造含
有樹脂を含んでいてもよい)に上記中和酸を添加して撹拌混合した後、水で希釈することにより作製することができる。水分散性を付与するためにアミノ基をカチオン化する。カチオン化は全てのアミノ基に対して行ってもよいし、一部のアミノ基に対して行ってもよい。
【0089】
カチオン化に用いる酸の量は、特に限定されるものではないが、少ない場合は、水分散性を付与するカチオンが少なくなりエマルションが成立しない場合があり、一方、多い場合は、エマルションの電気伝導度が高まり、該エマルションを含む表面処理剤によって形成される塗膜の外観が悪化する恐れがあるため、表面処理剤の電気伝導度が1000μS/cm未満になるように酸の量を適宜調整することが好ましい。
【0090】
上記表面処理剤は、上記樹脂エマルションに、必要に応じて、上述の、液体媒体、顔料ペースト、有機溶剤、界面活性剤、消泡剤等を攪拌混合することにより、製造することができる。なお、表面処理剤は、希釈前の高濃度のものであっても、高濃度のものを適宜脱イオン水等で希釈して所望の濃度に調整した低濃度のものであってもよい。
【0091】
上記表面処理剤のpHは特に制限されるものではないが、2.0以上8.0以下の範囲内であることが好ましく、3.0以上6.0以下の範囲内であることがより好ましい。pHの調整に用いることのできる物質には特に制限はなく、公知の酸や塩基を用いて行なうことができるが、例えば蟻酸、酢酸、乳酸、硝酸、スルファミン酸、メタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等の酸、及びアンモニア水、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン等の塩基を適宜用いることができる。なお、本明細書におけるpH値は、市販のpHメーターを用い、25℃で測定した値を示す。
【0092】
上記表面処理剤の25℃における電気伝導度は、1000μS/cm未満であることが好ましい。なお、電気伝導度は、市販の電気伝導率計(例えば、東亜DKKのマルチ水質計MM-60R等)を用いて測定することができる。
【0093】
本実施形態に係る金属部分の全部又は一部に皮膜を有する電子部品は、例えば、被塗物を陰極として上記表面処理剤に浸漬した後に通電する電着塗装によって得ることができる。通電時の印加電圧としては、通常、50Vから400V、好ましくは100Vから300Vの範囲内であるが、これらの条件に限定されるものではない。電着塗装時の表面処理剤は、通常10から50℃の範囲内であり、好ましくは15から40℃の範囲内であるが、これらの温度に限定されるものではない。なお、電着塗装後は、形成された皮膜を硬化させるため、乾燥工程を実施する。皮膜の乾燥は、例えば、被塗物表面温度で約100℃から約200℃の温度範囲内で行うことが好ましく、約140℃から約180℃の温度範囲内で行うことがより好ましい。このように、皮膜を乾燥させて硬化させることにより、本実施形態の金属部分の全部又は一部に皮膜を有する電子部品を得ることが出来る。なお、電着塗装工程と乾燥工程との間に、必要に応じて水洗工程を設けてもよい。水洗工程は、例えば、限外濾過液、逆浸透透過水、工業用水、純水等を用いて行うことができる。
【0094】
また、電着塗装工程の前に脱脂処理工程を行ってもよい。脱脂処理は、電子部品に応じて適した脱脂処理剤を用いて公知の方法により行うことができる。なお、脱脂処理剤としては、例えば、公知の、酸性脱脂剤、アルカリ性脱脂剤、溶剤脱脂剤等が挙げられるがこれらに制限されるものではない。脱脂処理方法としては、特に限定されないが、例えば、スクラブ洗浄、スプレー洗浄(噴射洗浄)、ディップ(浸漬)洗浄等の方法が挙げられる。脱脂処理工程後、電着塗装工程前に、電子部品の表面上を水洗する水洗工程を行ってもよいが、水洗工程後、電着塗装工程前にさらに電子部品の表面上を乾燥する乾燥工程を行ってもよい。乾燥方法としては、公知の方法を適用できる。
【0095】
さらに、電着塗装工程前の脱脂処理工程、水洗工程、乾燥工程等の後であって、電着塗装工程前に、電子部品の金属部分に対して化成処理皮膜を形成させる化成処理工程を行なってもよい。化成処理は、公知の化成処理剤に電子部品を接触させることにより行われる。なお、化成処理方法は、特に制限されるものではなく、公知の方法を適用することができる。なお、化成処理工程後、電着塗装工程前に、水洗工程を行ってもよいし、さらに、水洗工程後、電着塗装工程前に乾燥工程を行ってもよい。
【実施例0096】
以下、製造例、実施例及び比較例により、本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、実施例で使用した被処理素材、脱脂剤、及び塗料は市販されている材料の中から任意に選定したものであり、本発明の表面処理用組成物、表面処理用処理液、及び表面処理方法の実際の用途を限定するものではない。また、特記しない限り、%及び部は、質量%及び質量部をそれぞれ意味する。以下、エポキシ樹脂(A1)の合成に用いた原料の一部を表1に示した。
【0097】
【表1】

【0098】
製造例1
温度計、還流冷却管、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコにプロピレンオキサイド付加ジエポキシ樹脂(a1-1):110.9g、ビスフェノール化合物(a2-1):183.1g、ジエポキシ樹脂(a3-1):331.1g、(ジカルボン酸)a4-1:46.2g及びジメチルベンジルアミン0.75gを加え、130℃でエポキシ当量が2000になるまで反応させ、ブチルセロソルブを440.1g加えて反応を停止し、エポキシ樹脂(A1)を得た。別の温度計、還流冷却器、及び攪拌機を備えた内容積2リットルのセパラブルフラスコに、得られたエポキシ樹脂(A1)1000.0gを量り取り、ジエタノールアミン(A2-1):27.1gを加え、90℃で4時間反応させ固形分70%のアミノ基変性エポキシ樹脂を得た。この樹脂のアミン価は15.0mgKOH/gであった。適当な容器内に得られたアミノ基変性エポキシ樹脂65
0.0gを量り取り、メタンスルホン酸10.0gを配合して均一に撹拌した後、脱イオン水740.0gを強く撹拌しながら約10分間かけて投入して固形分33%のエマルションを得た。
【0099】
製造例2~6、8
表2に示した組成となるようにした以外は、製造例1と同様にして、製造例2~6、8のエマルションを製造した。
【0100】
<ブロック化ポリイソシアネート型硬化剤(B)の製造>
反応容器中にコスモネートM-200(商品名、三井化学社製 クルードMDI):678.4gにメチルイソブチルケトン:115.6g加え70℃に昇温した後、ブチルセロソルブ706.0gをゆっくり滴下し、滴下終了後90℃に昇温した。90℃の条件下で12時間反応させブロック化ポリイソシアネート型硬化剤を得た。赤外吸収スペクトル測定を行ったところ、未反応のイソシアネート基由来の吸収が見られず、イソシアネートが完全にブロック化されたことが確認できた。
【0101】
製造例7
表2に示した組成となるようにした以外は、製造例1と同様にしてアミノ基変性エポキシ樹脂を得た。得られたアミノ基変性エポキシ樹脂を650.0g、ブロック化ポリイソシアネート化合物を165.3g混合し、更にメタンスルホン酸10.0gを配合して均一に撹拌した後、脱イオン水1094.0gを強く撹拌しながら約10分間かけて投入して固形分33%のエマルションを得た。
【0102】
【表2】
【0103】
<表面処理剤の作製>
製造例1のエマルションを固形分が16.0%になるようになるように脱イオン水を用いて希釈し、表面処理剤とした。
同様に、製造例2から製造例8のエマルションを用いて、表面処理剤を製造した。
さらに、アクリル-エステル系共重合体(Nipol SX1706A(日本ゼオン社製))のエマルションを固形分が16.0%になるように希釈し、表面処理剤とした。
【0104】
<試験板の作製>
金属板(冷延鋼板(SPCC-SD)、アルミニウム合金板(A5052)及び無酸素銅板(C1020P)のいずれか)を脱脂処理(ファインクリーナーE2001、日本パーカライジング社製、商品名 43℃×2分 スプレー処理)し、その後水洗を実施することで、清浄にした。次いで清浄した金属板を被塗物として、各々の表面処理剤を用いて200Vで3分間電着塗装し、その後水洗した。水洗後、180℃(被塗物表面温度)で20分乾燥し、硬化させ、膜厚20μmの試験板を得た。各実施例、比較例で使用した表面処理剤中のエマルション及び金属板については表3に示した通りである。
【0105】
<評価試験>
作製した各試験板を用いて、各種評価試験を行った。各評価試験の結果は表3に示した。
【0106】
<絶縁性試験>
各試験板の皮膜の絶縁破壊電圧を、耐電圧試験機(TOS9201、菊水電子工業株式会社製)を用いて測定した。測定は、初期電圧を50V、昇圧速度を50V/秒とし、カットオフ電流を1.0mAの条件にて行った。得られた絶縁破壊電圧を皮膜の膜厚で除した、単位膜厚あたりの絶縁破壊電圧を用いて、皮膜の絶縁性を評価した。
【0107】
<高温高湿試験>
各試験板を、温度85℃、相対湿度85%に設定した恒温恒湿機(ETAC HIFLEX 楠本化成製)内に3000時間静置した。恒温恒湿機内に静置する前(初期)及び静置から3000時間後のそれぞれの時点における試験板の皮膜の単位膜厚あたりの絶縁破壊電圧を測定し、各皮膜の初期の絶縁破壊電圧に対する3000時間静置後の絶縁破壊電圧の比(高温高湿試験後の絶縁性保持率)を算出した。得られた比に基づいて、下記の基準にて高温高湿試験の評価を行い、A又はBの評価となったものを合格とした。
A:高温高湿試験後の絶縁性保持率が0.9以上
B:高温高湿試験後の絶縁性保持率が0.6以上0.9未満
C:高温高湿試験後の絶縁性保持率が0.6未満
【0108】
<冷熱サイクル試験>
各試験板を、温度サイクル試験機(ETAC WINTEC 楠本化成製)に静置し、下記1.から4.の順で試験機内の温度を変化させた(1.から4.の温度変化を1サイクルとする)。
1.-50℃で30分保持する
2.150℃へ昇温する
3.150℃で30分保持する
4.-50℃へ冷却する
【0109】
温度サイクル試験機内に静置する前(初期)及び1000サイクル静置後のそれぞれの時点における試験板の皮膜の単位膜厚あたりの絶縁破壊電圧を測定し、各皮膜の初期の絶縁破壊電圧に対する1000サイクル静置後の絶縁破壊電圧の比(冷熱サイクル試験後の絶縁性保持率)を算出した。得られた比に基づいて、下記の基準にて冷熱サイクル試験の評価を行い、A又はBの評価となったものを合格とした。
A:冷熱サイクル試験後の絶縁性保持率が0.9以上
B:冷熱サイクル試験後の絶縁性保持率が0.6以上0.9未満
C:冷熱サイクル試験後の絶縁性保持率が0.6未満
【0110】
<高温暴露試験>
各試験板を、150℃に設定したオーブン内に3000時間静置した。オーブン内に静置する前(初期)及び静置から3000時間後のそれぞれの時点における試験板の皮膜の単位膜厚あたりの絶縁破壊電圧を測定し、各皮膜の初期の絶縁破壊電圧に対する3000時間静置後の絶縁破壊電圧の比(高温暴露試験後の絶縁性保持率)を算出した。得られた比に基づいて、下記の基準にて高温暴露試験の評価を行い、A又はBの評価となったものを合格とした。
A:高温暴露試験後の絶縁性保持率が0.9以上
B:高温暴露試験後の絶縁性保持率が0.6以上0.9未満
C:高温暴露試験後の絶縁性保持率が0.6未満
【0111】
【表3】