(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154479
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】回転電機
(51)【国際特許分類】
H02K 1/276 20220101AFI20231013BHJP
【FI】
H02K1/276
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063788
(22)【出願日】2022-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110001210
【氏名又は名称】弁理士法人YKI国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦田 信也
(72)【発明者】
【氏名】平本 健二
(72)【発明者】
【氏名】大谷 裕子
(72)【発明者】
【氏名】中井 英雄
(72)【発明者】
【氏名】津田 哲平
(72)【発明者】
【氏名】井手上 薫樹
(72)【発明者】
【氏名】飯島 亜美
【テーマコード(参考)】
5H622
【Fターム(参考)】
5H622AA02
5H622CA02
5H622CA07
5H622CA10
5H622CA14
5H622CB03
5H622CB05
5H622PP10
(57)【要約】
【課題】ステータコイルに発生する逆起電圧を低減し、波高付近の最大値を基本波の振幅に近づけることができ、コイル印加電圧上限をインバータDC電圧まで有効活用でき、トルクの増加が可能な回転電機を提供する。
【解決手段】回転電機10は、スロット21を有するステータ20と、フラックスバリア32に磁石31が埋め込まれ構成される磁極33を有するロータ30とを備える。ロータ30の周方向に隣り合う磁極対の各磁極33は、フラックスバリア32の延在する先端領域34においてブリッジ35を有し、ブリッジ35は、ロータ30表面に配置される外ブリッジ35aと、外ブリッジ35aよりも内径側に配置される中ブリッジ35bの二種類の何れかであり、磁極対における外ブリッジ35aと中ブリッジ35bの数は同じであり、外ブリッジ35aと中ブリッジ35bの配置が、d軸、q軸の何か一方の軸に対して対称であり、他方の軸に対して非対称である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステータと、
フラックスバリアに磁石が埋め込まれて構成される磁極を有するロータと、
を備え、
前記ロータの周方向に隣り合う磁極対の各磁極は、前記フラックスバリアの延在する先端領域においてブリッジを有し、
前記ブリッジは、外ブリッジと、外ブリッジよりも内径側に配置される中ブリッジの二種類の何れかであり、
前記磁極対における前記外ブリッジと前記中ブリッジの数は同じであり、
前記外ブリッジと前記中ブリッジの配置が、d軸及びq軸の何か一方の軸に対して対称であり、他方の軸に対して非対称であることを特徴とする回転電機。
【請求項2】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記磁極対の一方の磁極において、前記外ブリッジと前記中ブリッジの配置が、d軸に対して非対称であり、
前記磁極対の他方の磁極において、前記外ブリッジと前記中ブリッジの配置が、前記磁極対の前記一方の磁極における配置とq軸に対して対称であることを特徴とする回転電機。
【請求項3】
請求項1に記載の回転電機であって、
前記外ブリッジと前記中ブリッジの内の一方のみが、前記磁極対の一方の磁極において、d軸に対して対称に配置され、
前記外ブリッジと前記中ブリッジの内の他方のみが、前記磁極対の他方の磁極において、d軸に対して対称に配置されることを特徴とする回転電機。
【請求項4】
請求項1~3の何れか一項に記載の回転電機であって、
前記ロータは、径方向に複数の前記フラックスバリアを有し、
前記外ブリッジと前記中ブリッジの配置は、前記フラックスバリアの内、最外径側に配置される前記フラックスバリアに適用されることを特徴とする回転電機。
【請求項5】
請求項1~4の何れか一項に記載の回転電機であって、
前記ステータは周方向に等間隔に並ぶ複数のティースを有し、
隣合う前記ティースの開角をα、前記磁極における前記d軸を挟む2つの前記ブリッジの周方向における中心と回転軸中心を結ぶ直線のなす角をβとするとき、
α×N≦β≦α×(N+1)、但し、Nは1以上の整数、
を満足することを特徴とする回転電機。
【請求項6】
請求項1~5の何れか一項に記載の回転電機であって、
前記ロータは、互いに前記外ブリッジと前記中ブリッジの配置を入れ替えた部分ロータを、回転軸方向に積層して形成されることを特徴とする回転電機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆起電圧を低減可能なロータ構造を有する回転電機に関する。
【背景技術】
【0002】
回転電機は、電車や自動車の電動機として適用されている。通常、回転電機は、円筒状のステータとこのステータの内側で回転自在に支持されるロータを備えている。ロータは電磁鋼板を回転軸方向に積層して形成され、この電磁鋼板には、複数の磁石が埋め込まれ、異なる磁性の磁極が回転の周方向に交互に配置されている。
【0003】
ロータとステータ等から構成される回転電機において、ロータの回転による磁気変化によって、ステータコイルに逆起電圧(線間電圧)が発生する。逆起電圧の最大値が大きくなると、コイル印加電圧の上限を制限する必要があり、モータトルクが低下するという課題がある。
【0004】
特許文献1には、トルク定数を低下させずに、線間電圧の最大値を下げるために、ロータの外周部においてq軸上の表面に深い凹みを設けた永久磁石式回転電機が記載されている。特許文献2には、トルクリプルを低減するために、ロータ表面のS極、N極のそれぞれにおいて磁石に囲まれたロータコアの表面に凹みを設けた回転電機が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2012-16189号公報
【特許文献2】特許2017-70040号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は、磁極間のq軸に磁気抵抗を設けるものであり、リラクタンストルクを活用する回転電機には適用しにくい。特許文献2は、フラックスバリアとは別に磁気抵抗を設ける構成であり、トルクを平均的に低下させることが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る回転電機は、スロットを有するステータと、フラックスバリアに磁石が埋め込まれ構成される磁極を有するロータとを備える。ロータの周方向に隣り合う磁極対の各磁極は、フラックスバリアの延在する先端領域においてブリッジを有し、ブリッジは、ロータ表面に配置される外ブリッジと、外ブリッジよりも内径側に配置される中ブリッジの二種類の何れかであり、磁極対における外ブリッジと中ブリッジの数は同じであり、外ブリッジと中ブリッジの配置が、d軸、q軸の何か一方の軸に対して対称であり、他方の軸に対して非対称であることを特徴とする。
【0008】
ここで、回転電機は、磁極対の一方の磁極において、外ブリッジと中ブリッジの配置が、d軸に非対称であり、磁極対の他方の磁極において、外ブリッジと中ブリッジの配置が、磁極対の一方の磁極における配置とq軸に対して対称であることが好適である。
【0009】
また、回転電機は、外ブリッジと中ブリッジの内の一方のみが、磁極対の一方の磁極において、d軸に対称に配置され、外ブリッジと中ブリッジの内の他方のみが、磁極対の他方の磁極において、d軸に対称に配置されることが好適である。
【0010】
ここで、回転電機のロータは、径方向に複数のフラックスバリアを有し、外ブリッジと中ブリッジの上記配置は、フラックスバリアの内、最外径側に配置されるフラックスバリアに適用されることが好適である。
【0011】
また、回転電機は、隣合うティースの開角をα、磁極におけるd軸を挟む2つのブリッジの周方向における中心と回転軸中心を結ぶ直線のなす角をβとするとき、α×N≦β≦α×(N+1)、(但し、Nは1以上の整数)を満足することが好適である。
【0012】
更に回転電機のロータは、互いに外ブリッジと中ブリッジの配置を入れ替えた部分ロータを、回転軸方向に積層して形成されてもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係る回転電機は、ロータ回転に伴う逆起電圧を抑制することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】本発明の回転電機のティースの開角とブリッジの開角との関係を示す。
【
図3】実施例1~4のロータの磁極対におけるブリッジの配置を示す断面図である。
【
図4】比較例1~3のロータの磁極対におけるブリッジの配置を示す断面図である。
【
図5】比較例4~5のロータの磁極対におけるブリッジの配置を示す断面図である。
【
図6】比較例1~3における逆起電圧波形を示す図であり、(a)は電気角一周期の波形図であり、(b)は電気角60°±30°の拡大図である。
【
図7】実施例1、4と比較例1、2に対する
図6と同様の逆起電圧波形である。
【
図8】実施例1~4の逆起電圧波形を比較する図であり、(a)は実施例1、2の比較図、(b)は実施例3、4の比較図である。
【
図9】実施例と比較例のピーク電圧/基本波振幅の比較グラフである。
【
図10】実施例1と比較例4、5に対する
図6と同様の逆起電圧波形である。
【
図11】実施例1と比較例1、2のピーク電圧の発生位置を説明する図である。
【
図12】実施例1の磁束密度分布の解析結果である。
【
図13】比較例1の磁束密度分布の解析結果である。
【
図14】比較例2の磁束密度分布の解析結果である。
【
図15】実施例1と比較例を交互積層した構成に対する
図6と同様の逆起電圧波形である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。以下の説明において、具体的な形状、材料、方向、数値等は、本発明の理解を容易にするための例示であって、用途、目的、仕様等に合わせて適宜変更することができる。また、以下で説明する実施形態および変形例の構成要素を選択的に組み合わせることは当初から想定されている。
【0016】
図1に本発明の回転電機10の部分断面図を示す。回転電機10は、ステータ20とロータ30を備えている。回転電機10は、ステータ20に回転磁場を発生させて、回転軸を中心にロータ30を回転させる電動機である。
図1では、ステータ20及びロータ30を扇形に切り取った一部分の断面を示している。
【0017】
ステータ20は、中空の円筒形状をしている。ステータ20は、複数の電磁鋼板を回転軸方向に沿って積層して形成されている。ステータ20は、周方向にスロット21とティース22が等間隔に複数交互に配置された構造を有する。スロット21には、コイルが巻回されている。ティース22は、ロータ30の外周と対向し、ロータ30からの磁束を受ける面として作用する。スロット21とティース22の外周には、バックヨーク23が配置されている。バックヨーク23は、各ティース22の間の磁束を結合するための鉄心であり、磁気回路を構成する。
【0018】
ロータ30は、円筒形状である。ロータ30は、中空円筒形状のステータ20の内部において回転軸を中心に回転可能に配置される。ロータ30は、その外周面がステータ20の内周面と隙間を空けて配置される。ロータ30は、複数の電磁鋼板を回転軸方向に沿って積層して構成される。
【0019】
ロータ30は、内部に磁石31が埋め込まれたフラックスバリア32を有する。フラックスバリア32は、ロータ30を構成する電磁鋼板よりも透磁率が低い領域であり、例えば、ロータ30の内部に設けられた空間で構成される。フラックスバリア32によって、磁石31から出る磁束がロータ30の側面から漏れることが抑制され、ロータ30の外周面上の磁束密度を高めることができる。
【0020】
フラックスバリア32は、磁極毎に複数設けてもよい。フラックスバリア32は、例えば、ロータ30の径方向に複数設けてもよい。本実施の形態では、ロータ30は、径方向に沿って2つの第1フラックスバリア32a及び第2フラックスバリア32bを有する。
【0021】
フラックスバリア32に埋め込まれた磁石31は、ロータ30における磁極33を構成する。磁石31は、各磁極33において磁束の方向がロータ30の径方向を向くように配置される。すなわち、各磁極33における磁束中心はd軸と一致する。磁石31は、周方向に隣り合う磁極33の磁化方向が異なるように配置され、磁極対をなすS磁極33SとN磁極33Nが周方向に沿って交互に形成される。ロータ30において、S磁極33SとN磁極33Nの中央がq軸と一致する。
【0022】
フラックスバリア32は、d軸を中心としてロータ30の周方向に沿って延設され、その両側の先端部がロータ30の外周面に向かうように湾曲した形状を有する。また、第1フラックスバリア32aの両端の先端領域34(第1先端領域34a、第2先端領域34b)にはブリッジ35が形成される。1つの磁極33における第1フラックスバリア32aの第1先端領域34aは、当該磁極33の隣にある他の磁極33における第1フラックスバリア32aの第2先端領域34bと隣り合うものとする。
【0023】
なお、本実施の形態では、フラックスバリア32のうちロータ30において最も外周面側に設けられた第1フラックスバリア32aの両端を先端領域34(第1先端領域34a、第2先端領域34b)とすることが好適である。ただし、第2フラックスバリア32b等の他のフラックスバリアの両端を先端領域34(第1先端領域34a、第2先端領域34b)としてもよい。
【0024】
本実施の形態では、外ブリッジ35a及び中ブリッジ35bの2種類のブリッジ35が用いられる。外ブリッジ35aは、凹部等が設けられていないロータ30の外周面付近において、ロータ30の外周面とフラックスバリア32の先端部とを繋ぐ部分である。中ブリッジ35bは、ロータ30の外周面に設けられた凹部又はロータ30の内部に設けられた空隙とフラックスバリア32の先端部とを繋ぐ部分である。すなわち、ロータ30の外周面に設けた凹部や内部に設けられた空隙によって、中ブリッジ35bは、ロータ30の外周面に対して外ブリッジ35aよりも内側に位置する。
【0025】
各磁極33において、第1フラックスバリア32aの第1先端領域34aと第2先端領域34bはd軸に対して対称の位置にある。また、各磁極33の構造は、ブリッジ35の構成を除いて、q軸に対して互いに対称である。第1先端領域34aと第2先端領域34bには、それぞれ外ブリッジ35aまたは中ブリッジ35bのいずれかが適用される。なお、ロータ30の回転バランスを考慮して、ブリッジ35は周方向に沿って周期的に配置することが好適である。
【0026】
図2は、隣り合うティース22の開角とブリッジ35のブリッジ開角との関係を示す。ここで、隣合うティース22の径方向の中心線と回転軸を結ぶ直線のなす角をティースの開角αと定義する。第1先端領域34aと第2先端領域34bに外ブリッジ35aを配置したときの外ブリッジ35aの周方向における中心と回転軸中心を結ぶ直線のなす角をブリッジ開角βと定義する。本発明の回転電機10のブリッジ開角βとティースの開角αは、α×N≦β≦α×(N+1)、(但し、係数Nは1以上の整数)を満足するように形成される。尚、
図2においては、第2先端領域34bには、中ブリッジ35bが配置されているが、ブリッジ開角βは、外ブリッジ35aが配置されたと仮定して求めるものとする。
【0027】
本実施の形態の例では、ティース22の開角αは7.5°とし、係数Nを2としている。したがって、ブリッジ35のブリッジ開角βは、15°≦β≦22.5°の条件を満足するように設けている。ただし、ティース22の開角αとブリッジ35のブリッジ開角βとの関係は、これに限定されるものではなく、上記式を満たせばよい。
【0028】
ブリッジ35の配置における対称(対称配置)について以下の通り定義する。
「d軸に対して対称」とは、フラックスバリア32の第1先端領域34aと第2先端領域34bに配置されるブリッジ35の種類が同じであることを意味する。
「d軸に対して非対称」とは、フラックスバリア32の第1先端領域34aと第2先端領域34bに配置されるブリッジ35の種類が異なることを意味する。
「q軸に対して対称」とは、磁極対において、各磁極33がq軸に対して対称位置の先端領域34に同種類のブリッジ35が配置されることを意味する。
「q軸に対して非対称」とは、磁極対において、各磁極33がq軸に対して対称位置の先端領域34に異なる種類のブリッジ35が配置されることを意味する。
【0029】
本発明は、磁極対のS磁極33S、N磁極33Nに配置される外ブリッジ35aと中ブリッジ35bが、d軸およびq軸に対して特定の配置の対称性を有することにより、逆起電圧が抑制されることに着眼してなされたものである。
【0030】
図3(a)~
図3(d)を参照して、ロータ30におけるブリッジ35の配置について説明する。
図3(a)~
図3(d)は、それぞれ実施例1~4の外ブリッジ35aと中ブリッジ35bの配置を示している。
【0031】
<実施例1>
実施例1のS磁極33Sの第1先端領域34aには、中ブリッジ35bが配置される。S磁極33Sの第2先端領域34bには、外ブリッジ35aが配置される。N磁極33Nの第1先端領域34aには、外ブリッジ35aが配置される。N磁極33Nの第2先端領域34bには、中ブリッジ35bが配置される。
【0032】
換言すると、S磁極33Sの第1先端領域34aとN磁極33Nの第1先端領域34aには、異なる種類のブリッジ35が配置され、且つ、S磁極33Sの第2先端領域34bとN磁極33Nの第2先端領域34bには、異なる種類のブリッジ35が配置される。
【0033】
以下、ブリッジ35の配置構造を、磁極対のS磁極33Sの第1先端領域34a、第2先端領域34b、N磁極33Nの第1先端領域34a、第2先端領域34bにそれぞれ配置されるブリッジ35の種類の頭文字を順に並べて表記するものとする。具体的には、実施例1のブリッジ35の配置構造を「中外外中」と表記する。
【0034】
<実施例2>
実施例2は、実施例1における外ブリッジ35aと中ブリッジ35bを入れ替えた構成である。すなわち、実施例2のブリッジ35の配置構造は「外中中外」である
【0035】
<実施例3>
実施例3のS磁極33Sの第1先端領域34aと第2先端領域34bには、中ブリッジ35bが配置される。N磁極33Nの第1先端領域34aと第2先端領域34bには、外ブリッジ35aが配置される。
【0036】
換言すると、S磁極33Sの第1先端領域34aと第2先端領域34bには、同じ種類のブリッジ35が配置され、且つ、N磁極33Nの先端領域34には、S磁極33Sの先端領域34と異なる種類のブリッジ35が配置される。実施例3のブリッジ35の配置構造は「中中外外」である。
【0037】
<実施例4>
実施例4は、実施例3における外ブリッジ35aと中ブリッジ35bを入れ替えた構成である。すなわち、実施例4のブリッジ35の配置構造は「外外中中」である。
【0038】
<ブリッジの配置構造の条件>
実施例1~4において磁極対について共通する条件は、以下の2つである。
条件(1):外ブリッジ35aの数と中ブリッジ35bの数が同数である。
条件(2):外ブリッジ35aと中ブリッジ35bの配置が、d軸、q軸の何れか一方の軸に対して対称であり、他方の軸に対しては非対称である。
磁極対において、外ブリッジ35aと中ブリッジ35bをこのように構成することで、逆起電圧の抑制が可能である。
【0039】
次に比較例として、上記の条件(2)を満足しないブリッジ35の配置構造を
図4、5に示す。
図4(a)、
図4(b)、
図4(c)、
図5(a)、
図5(b)は、それぞれ比較例1、比較例2、比較例3、比較例4、比較例5の外ブリッジ35aと中ブリッジ35bの配置を示す。
【0040】
<比較例1>
比較例1のS磁極33Sの第1先端領域34aと第2先端領域34bには、外ブリッジ35aが配置される。N磁極33Nの第1先端領域34aと第2先端領域34bにも、外ブリッジ35aが配置される。すなわち、比較例1のブリッジ35の配置構造は「外外外外」である。
【0041】
<比較例2>
比較例2のS磁極33Sの第1先端領域34aと第2先端領域34bには、中ブリッジ35bが配置される。N磁極33Nの第1先端領域34aと第2先端領域34bにも、中ブリッジ35bが配置される。すなわち、比較例2のブリッジ35の配置構造は「中中中中」である。
【0042】
<比較例3>
比較例3のS磁極33SとN磁極33Nの全ての先端領域34には、外ブリッジ35aと中ブリッジ35bの両方が配置される。すなわち、比較例3は、比較例1と比較例2の両方のブリッジ35の配置構造を備える。比較例3のブリッジ35の配置構造は「外外外外/中中中中」である。
【0043】
<比較例4>
比較例4のS磁極33Sの第1先端領域34aには、外ブリッジ35aが配置される。S磁極33Sの第2先端領域34bには、中ブリッジ35bが配置される。N磁極33Nの第1先端領域34aには、S磁極33Sの第1先端領域34aと同じ種類の外ブリッジ35aが配置される。N磁極33Nの第2先端領域34bには、S磁極33Sの第2先端領域34bと同じ種類の中ブリッジ35bが配置される。すなわち、比較例4のブリッジ35の配置構造は「外中外中」である。
【0044】
比較例5は、比較例4における外ブリッジ35aと中ブリッジ35bを入れ替えた構成である。すなわち、比較例5のブリッジ35の配置構造は「中外中外」である。
【0045】
以上示した様に、比較例1~5は、磁極対において、外ブリッジ35aの数と中ブリッジ35bの数が同数であり、上記条件(1)を満足する。一方、外ブリッジ35aと中ブリッジ35bは、d軸とq軸に対して共に対称、又は、共に非対称であり、上記条件(2)を満足しない。
【0046】
実施例1~4および比較例1~5の磁極対における外ブリッジ35aと中ブリッジ35bの配置について表1にまとめた。
【0047】
【0048】
次に、ブリッジ35の配置に対する逆起電圧の発生の違いについて説明する。
図6~9に実施例および比較例のブリッジ35の配置における逆起電圧のシミュレーション結果を示す。
【0049】
図6は、比較例1~3についてのUV相線間電圧における逆起電圧のシミュレーション結果を示す。
図6において、横軸は電気角を示し、縦軸は逆起電圧をpu単位で示す。
図6(a)は、電気角一周期の逆起電圧波形を示し、
図6(b)は、電気角60°±30°の拡大図であり、基本波の最大振幅近傍の波形を示す。
【0050】
比較例1~3の全てにおいて、ピーク電圧値は、電気角60°付近における基本波電圧の最大値よりも大きくなった。従って、コイルへの印加電圧上限を抑える必要があり、インバータDC電圧まで有効活用できない。
【0051】
比較例2では、d軸がティース22の中心軸と平行になるときの電気角、すなわち線間電圧の基本波電圧の最大値の電気角(60°)付近で電圧が増加した。一方、電気角60°の前後15°付近、すなわちティース22の中心軸からスロット21の中心軸へd軸が回転するときの電気角に相当する電気角付近において電圧が減少した。
【0052】
比較例1と比較例3では、d軸がスロット21の中心軸と平行になるときの電気角、すなわち基本波電圧の最大値の電気角60°に対して、ティース22の中心軸からスロット21の中心軸へd軸が回転するときの電気角に相当する15°程度ずれた電気角において電圧が増加した。
【0053】
比較例3では、電気角60°付近における基本波電圧の最大値が小さくなった。これによって、比較例3では回転電機10のトルクが低下した。比較例3では、S磁極33SとN磁極33Nの全ての先端領域34に外ブリッジ35aと中ブリッジ35bの両方が配置されており、ブリッジ35の総数が多いため、磁石31の磁束がロータ30内にて閉じてしまい、ステータ20との鎖交量が減少したためと推察される。比較例3に対してブリッジ35の総数が少ない比較例2、比較例1では、回転電機10のトルクは比較例3より大きくなった。比較例1~3のトルク比は、比較例2:比較例1:比較例3=100.0:98.5:96.2であった。
【0054】
図7は、実施例1、4と比較例1、2のUV相線間電圧における逆起電圧のシミュレーション結果を示す。
図7において、横軸は電気角を示し、縦軸は逆起電圧をpu単位で示す。
図7(a)は、電気角一周期の逆起電圧波形を示し、
図7(b)は、電気角60°±30°の拡大図であり、基本波の最大振幅近傍の波形を示す。
【0055】
実施例1および実施例4では、比較例1に対して、電気角60°付近のピーク電圧を低減させることができ、比較例2に対して、電気角60°±15°付近のピーク電圧を低減させることができた。すなわち、実施例1および実施例4では、全体としてピーク電圧を低減できた。
【0056】
図8(a)は、実施例1と実施例2のUV相線間電圧における逆起電圧のシミュレーション結果、
図8(b)は、実施例3と実施例4のUV相線間電圧における逆起電圧のシミュレーション結果を示す。実施例2のブリッジ35の配置は、実施例1のブリッジ35の配置を周方向に一磁極分だけ回転した配置と同じであり、実施例2では実質的に実施例1と同じ逆起電圧波形となった。また、実施例4のブリッジ35の配置は、実施例3のブリッジ35の配置を周方向に一磁極分だけ回転した配置と同じであるので、実施例3では実質的に実施例4と同じ逆起電圧波形となった。
【0057】
実施例1~4は、比較例1と比較例2の中間的な逆起電圧をもつことが特徴である。具体的には、高調波電圧を調整して、逆起電圧の最大値が基本波の最大値に近くなるようにすることができた。
【0058】
図9は、ピーク電圧を基本波の振幅で除した値(ピーク電圧/基本波振幅)の算出結果を示す。回転電機10においてトルクは基本波電圧の振幅に応じて大きくなる。したがって、ピーク電圧/基本波振幅の値が小さいほど、基本波電圧振幅とピーク電圧値が近く、コイルへの印加電圧の制約下で基本波電圧を大きくできることを意味する。すなわち、ピーク電圧/基本波振幅の値が小さいほど、電圧制約下においてトルクを出し易くなる。実施例1~4では、比較例1、2に比べてピーク電圧/基本波振幅の値が小さく、比較例1,2に比べて電圧制約下においてトルクを出し易いと言える。また、実施例1、2では、実施例3、4に対してもトルク出力において若干優位性がある。
【0059】
図10は、実施例1と比較例4、5のUV相線間電圧における逆起電圧のシミュレーション結果を示す。実施例1及び比較例4、5では、各磁極33において外ブリッジ35aの数と中ブリッジ35bの数を均等とした。また、ブリッジ35の配置がd軸に対して非対称としたことも同様である。ただし、実施例1のブリッジ35の配置はq軸に対して対称であるのに対して、比較例4、5のブリッジ35の配置はq軸に対して非対称である点で異なる。
【0060】
比較例4では、電気角50°付近で電圧が高くなってピークを示し、電気角60°付近における基本波電圧の振幅最大値より高くなった。また、電気角60°から僅かにずれた角度と電気角80°において電圧が高くなってピークを示した。比較例5では、電気角72°付近で電圧が高くなってピークを示し、電気角60°付近における基本波電圧の振幅最大値を超えた。また、電気角60°付近と電気角42°付近で、電圧が高くなってピークを示した。なお、比較例5の電圧波形は、比較例4の電圧波形を電気角60°を中心に反転させたような波形となった。これは、比較例5のブリッジ35の配置が比較例4のブリッジ35の配置をd軸に対して反転させたものに相当することによるものである。
【0061】
以上のように、実施例1~4のブリッジ35の配置は、比較例1~5のブリッジ35の配置に対して逆起電圧を低減する効果があった。
【0062】
<発明効果の定性的説明>
逆起電圧は、d軸がティース22の中心軸と平行になる状態、及びd軸がスロット21の中心軸と平行になる状態で大きくなり易い。d軸がティース22の中心軸と平行になる状態では、逆起電圧(線間電圧)の基本波最大値の位相の電圧(電圧Aとする)が増減する。d軸がスロット21の中心軸と平行になる状態では、基本波最大値からティース22の中心軸からスロット21の中心軸へロータ30が回転する時の電気角に対する位相がずれた位置の電圧(電圧Bとする)が大きく増減する。
【0063】
比較例2の場合、中ブリッジ35bのみを配置した構成であり、電圧Aが大きくなる。比較例1の場合、外ブリッジ35aのみを配置した構成であり、電圧Bが大きくなる。実施例1~4のブリッジ35の配置では、外ブリッジ35aと中ブリッジ35bを併用した中間的な構造であり、電圧A及び電圧Bにおける逆起電圧のピークの増加を抑制することができる。
【0064】
図11は、比較例1、比較例2及び実施例1の逆起電圧波形を電圧A、電圧Bの位相と共に示す。電圧Aは、電気角60°における逆起電圧であり、電圧Bは電気角45°及び75°における逆起電圧である。実施例1では、電圧Aと電圧Bは比較例1と比較例2の中間的な値を示し、全体としてピーク電圧が低減できた。
【0065】
図12~
図14は、それぞれ実施例1、比較例1、比較例2の磁束密度分布の解析結果を示す。
図12~
図14において、(a)は電気角45°における磁束密度分布の解析結果、(b)は電気角60°における磁束密度分布の解析結果を示す。以下、
図12~14に示すように各ティース22に#1~#12の番号を付し、当該番号を用いて説明する。
【0066】
<外ブリッジ35aで磁束変動が大きくなる理由:電気角45°>
図12(a)に示すように、実施例1の電気角45°では、外ブリッジ35aが2つのティース22の間(#3と#4、#7と#8)に位置する。このとき、磁石31からの磁束が外ブリッジ35aを介してティース22へ直接流れ込もうとするため、ティース22に流れ込む磁束の変動が大きくなり易い。また、2つのティース22からロータ30に流れ込む磁束が外ブリッジ35aにおいて相殺される磁束相殺の影響によっても磁束の変動が起き易い。また、中ブリッジ35bは外ブリッジ35aに比べてティース22から離れており、中ブリッジ35bを介して磁束がティース22に渡る状況における磁路の磁気抵抗変化が小さく、外ブリッジ35aに比べて磁束変動が起きにくい。したがって、電気角45°付近では、外ブリッジ35aによって、逆起電圧が大きくなり易い。
【0067】
<中ブリッジ35bで磁束変動が大きくなる理由:電気角60°>
図12(b)に示すように、実施例1の電気角60°では、ティース22(#1、#9)に隣接するティース22(#12、#10)に磁束が流れ、それによってロータ30の回転に伴った当該ティース22(#1、#9)における磁束変動が大きくなり易い。外ブリッジ35aは対向するティース22(#3、#7)のみに磁束を流すので、磁束変動が起きにくい。したがって、電気角60°付近においては、中ブリッジ35bによって、逆起電圧が大きくなり易い。
【0068】
図13(a)に示すように、比較例1の電気角45°では、ティース22(#1、#2)の間、ティース22(#3,#4)の間、ティース22(#7,#8)及びティース22(#9、#10)の間に外ブリッジ35aが位置する。したがって、外ブリッジ35aがティース22(#3、#4)の間及びティース22(#7、#8)の間に位置する実施例1に比べて、さらにティース22に流れ込む磁束の変動が大きくなり易い。また、中ブリッジ35bは設けられていないため、電気角60°付近においては磁束変動が起きにくい。したがって、比較例1では、電気角45°付近において大きな逆起電圧が発生し易い。
【0069】
図14(b)に示すように、比較例2の電気角60°では、ティース22(#1、#9)に隣接するティース22(#12、#10)及びティース22(#3、#7)に隣接するティース22(#4、#6)に磁束が流れる。したがって、ティース22(#1、#9)に隣接するティース22(#12、#10)に磁束が流れる実施例1に比べて、ロータ30の回転に伴った磁束変動が大きくなり易い。また、外ブリッジ35aは設けられていないため、電気角45°付近においては磁束変動が起きにくい。したがって、比較例2では、電気角60°付近において大きな逆起電圧が発生し易い。
【0070】
<参考例:ロータコアの交互積層>
実施例1と実施例2では、S磁極33Sにおけるブリッジ35の配置とN磁極33Nにおけるブリッジ35の配置が入れ替わっている。すなわち、実施例1及び実施例2において、磁石31を除いたロータ30の構造は一磁極分だけ回転させると一致する。そこで、実施例1のブリッジ35の配置を有するロータ30と実施例2のブリッジ35の配置を有するロータ30とをそれぞれ部分ロータとして回転軸方向に沿って積層することによって、ロータ30の回転時における重量のバランスを向上させることができる。実施例3と実施例4についても同様である。
【0071】
ここで、
図10に示した様に比較例4、5のブリッジ35の配置は、単独では逆起電圧の抑制効果は無かった。しかし、次に述べるように軸方向に交互に積層することで、逆起電圧の低減効果が得られる。
【0072】
実施例1のブリッジ35の構造と同様の効果は、「構造X:単独では逆起電圧で課題が大きかった比較例1と比較例2のブリッジ配置の電磁鋼板を軸方向に交互積層する」、もしくは、「構造Y:単独では逆起電圧で課題が大きかった比較例4と比較例5のブリッジ配置の電磁鋼板を軸方向に交互積層する」ことでも実現可能である。構造X及び構造Yは交互積層が前提であり、ロータ30を構成する電磁鋼板を2種類用意しなくてはならないことが欠点となる。構造Yはq軸に対して鏡面対称のため、電磁鋼板の表裏を入れ替えた形状であり、同じ金型で製作可能である。よって、構造Yは構造Xよりは生産コストを低減できると考えられる。
【0073】
尚、実施例1のブリッジ配置は、実施例2のブリッジ配置の電磁鋼板と交互積層しなくても逆起電圧が低減可能である。実施例3も同様である。しかし、回転バランスを取るために、実施例1と実施例2のブリッジ配置の電磁鋼板を軸方向に交互積層しなければならない場合(構造Z)、逆起電圧の抑制効果についてのみ考えると、構造Yとの差が小さくなる。但し、構造Zは打ち抜いたコアを一磁極分の角度を回転させて積層できるのに対し、構造Yは裏表を入れ替えて積層しなくてはならないため、生産工数的には、構造Zの場合が有利である。参考例として、実施例1、構造X、構造Yの逆起電圧波形を
図15に示す。構造X、構造Yともに実施例1と同様に逆起電圧を抑制できている。
【0074】
なお、本発明は上述した実施形態およびその変形例に限定されるものではなく、本願の特許請求の範囲に記載された事項の範囲内において種々の変更や改良が可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0075】
10 回転電機、20 ステータ、21 スロット、22 ティース、23 バックヨーク、30 ロータ、31 磁石、32、32a、32b フラックスバリア、33 磁極、33N N磁極、33S S磁極、34 先端領域、34a 第1先端領域、34b 第2先端領域、35 ブリッジ、35a 外ブリッジ、35b 中ブリッジ