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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154528
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】印刷用シート、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/32 20060101AFI20231013BHJP
   B32B 27/18 20060101ALI20231013BHJP
   B32B 27/34 20060101ALI20231013BHJP
   B29D 7/01 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B32B27/32
B32B27/18 Z
B32B27/34
B29D7/01
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063886
(22)【出願日】2022-04-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-07-14
(71)【出願人】
【識別番号】311018921
【氏名又は名称】株式会社TBM
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(74)【代理人】
【識別番号】100131705
【弁理士】
【氏名又は名称】新山 雄一
(72)【発明者】
【氏名】出井 晃治
【テーマコード(参考)】
4F100
4F213
【Fターム(参考)】
4F100AA01
4F100AA01A
4F100AA01C
4F100AC03
4F100AC03A
4F100AC03C
4F100AK03
4F100AK03B
4F100AK46
4F100AK46A
4F100AK46C
4F100AK73
4F100AK73A
4F100AK73C
4F100AR00
4F100AR00A
4F100AR00C
4F100AT00
4F100AT00B
4F100BA02
4F100BA03
4F100BA07
4F100DE01
4F100HB31
4F100YY00A
4F100YY00B
4F100YY00C
4F213AA03
4F213AA11
4F213AB16
4F213AG01
4F213AG03
4F213AH81
4F213AR12
4F213AR15
4F213WA06
4F213WA10
4F213WA43
4F213WB01
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、強度、及び印刷適性に優れた印刷用シートを提供することである。
【解決手段】本発明は、基材と、前記基材の片面又は両面に設けられたコート層と、を含む印刷用シートであって、前記基材が、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含み、前記コート層が、クレイ、重質炭酸カルシウム、スチレン-ブタジエン共重合体、及びカチオン性ポリアミド系樹脂を所定量含む、印刷用シートを提供する。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材の片面又は両面に設けられたコート層と、を含む印刷用シートであって、
前記基材が、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含み、
前記コート層が、クレイ、重質炭酸カルシウム、スチレン-ブタジエン共重合体、及びカチオン性ポリアミド系樹脂を含み、
前記クレイの含有量が、前記コート層に対して、43質量%以上63質量%以下であり、
前記重質炭酸カルシウムの含有量が、前記コート層に対して、24質量%以上34質量%以下であり、
前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記コート層に対して、10質量%以上20質量%以下であり、
前記カチオン性ポリアミド系樹脂の含有量が、前記コート層に対して、0.3質量%以上0.7質量%以下であり、
前記カチオン性ポリアミド系樹脂のカチオン化度が、2.00meq/g以上4.00meq/g以下である、
印刷用シート。
【請求項2】
前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂である、請求項1に記載の印刷用シート。
【請求項3】
前記クレイの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下である、請求項1に記載の印刷用シート。
【請求項4】
前記重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下である、請求項1に記載の印刷用シート。
【請求項5】
前記印刷用シートが、オフセット印刷用シートである、請求項1から4の何れかに記載の印刷用シート。
【請求項6】
基材の片面又は両面にコート層を設ける、コート層形成工程を含む印刷用シートの製造方法であって、
前記基材が、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含み、
前記コート層が、クレイ、重質炭酸カルシウム、スチレン-ブタジエン共重合体、及びカチオン性ポリアミド系樹脂を含み、
前記クレイの含有量が、前記コート層に対して、43質量%以上63質量%以下であり、
前記重質炭酸カルシウムの含有量が、前記コート層に対して、24質量%以上34質量%以下であり、
前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記コート層に対して、10質量%以上20質量%以下であり、
前記カチオン性ポリアミド系樹脂の含有量が、前記コート層に対して、0.3質量%以上0.7質量%以下であり、
前記カチオン性ポリアミド系樹脂のカチオン化度が、2.00meq/g以上4.00meq/g以下である、
製造方法。
【請求項7】
前記コート層形成工程の前に、
前記基材をシート状に押出成形する成形工程と、
前記成形工程後、前記基材を延伸する延伸工程と、
を含む、請求項6に記載の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷用シート、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、印刷用シートとして、目的に応じて基材表面が改質された合成紙等が幅広く使用されている(例えば、特許文献1及び2)。
【0003】
特許文献1に示されるとおり、本発明者は、印刷用シートを構成する基材表面に、アクリル系ポリマー、クレイ、及び重質炭酸カルシウムを配合したコート層を設けることで、層間の接着性や、印刷適性(インキの速乾性等)を高められることを見出した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第7031917号公報
【特許文献2】特開2008-223174号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、印刷用シートにおける諸特性を改善することへの更なるニーズがある。
【0006】
また、本発明者は、従来技術においては、基材表面に設けたコート層の強度(特に、接着強度)と、印刷適性との両立に課題があり得ることを見出した。
【0007】
本発明は以上の実情に鑑みてなされたものであり、強度、及び印刷適性に優れた印刷用シートの提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、コート層に対し、クレイ、及び重質炭酸カルシウムに加えて、スチレン-ブタジエン共重合体、及びカチオン性ポリアミド系樹脂をそれぞれ所定量配合することで上記課題を解決できる点を見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下を提供する。
【0009】
(1) 基材と、前記基材の片面又は両面に設けられたコート層と、を含む印刷用シートであって、
前記基材が、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含み、
前記コート層が、クレイ、重質炭酸カルシウム、スチレン-ブタジエン共重合体、及びカチオン性ポリアミド系樹脂を含み、
前記クレイの含有量が、前記コート層に対して、43質量%以上63質量%以下であり、
前記重質炭酸カルシウムの含有量が、前記コート層に対して、24質量%以上34質量%以下であり、
前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記コート層に対して、10質量%以上20質量%以下であり、
前記カチオン性ポリアミド系樹脂の含有量が、前記コート層に対して、0.3質量%以上0.7質量%以下であり、
前記カチオン性ポリアミド系樹脂のカチオン化度が、2.00meq/g以上4.00meq/g以下である、
印刷用シート。
【0010】
(2) 前記ポリオレフィン系樹脂が、ポリプロピレン系樹脂である、(1)に記載の印刷用シート。
【0011】
(3) 前記クレイの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下である、(1)又は(2)に記載の印刷用シート。
【0012】
(4) 前記重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径が、0.05μm以上2.00μm以下である、(1)から(3)のいずれかに記載の印刷用シート。
【0013】
(5) 前記印刷用シートが、オフセット印刷用シートである、(1)から(4)の何れかに記載の印刷用シート。
【0014】
(6) 基材の片面又は両面にコート層を設ける、コート層形成工程を含む印刷用シートの製造方法であって、
前記基材が、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含み、
前記コート層が、クレイ、重質炭酸カルシウム、スチレン-ブタジエン共重合体、及びカチオン性ポリアミド系樹脂を含み、
前記クレイの含有量が、前記コート層に対して、43質量%以上63質量%以下であり、
前記重質炭酸カルシウムの含有量が、前記コート層に対して、24質量%以上34質量%以下であり、
前記スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記コート層に対して、10質量%以上20質量%以下であり、
前記カチオン性ポリアミド系樹脂の含有量が、前記コート層に対して、0.3質量%以上0.7質量%以下であり、
前記カチオン性ポリアミド系樹脂のカチオン化度が、2.00meq/g以上4.00meq/g以下である、
製造方法。
【0015】
(7) 前記コート層形成工程の前に、
前記基材をシート状に押出成形する成形工程と、
前記成形工程後、前記基材を延伸する延伸工程と、
を含む、(6)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、強度、及び印刷適性に優れた印刷用シートが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されない。
【0018】
<印刷用シート>
本発明の印刷用シートは、基材と、該基材の片面又は両面に設けられたコート層と、を含み、以下の要件を全て満たす。
・基材が、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の質量比で含む。
・コート層が、クレイ、重質炭酸カルシウム、スチレン-ブタジエン共重合体、及びカチオン性ポリアミド系樹脂を含む。
・クレイの含有量が、コート層に対して、43質量%以上63質量%以下である。
・重質炭酸カルシウムの含有量が、前記コート層に対して、24質量%以上34質量%以下である。
・スチレン-ブタジエン共重合体の含有量が、前記コート層に対して、10質量%以上20質量%以下である。
・カチオン性ポリアミド系樹脂の含有量が、前記コート層に対して、0.3質量%以上0.7質量%以下である。
・カチオン性ポリアミド系樹脂のカチオン化度が、2.00meq/g以上4.00meq/g以下である。
【0019】
本発明者は、鋭意検討した結果、印刷用シートのコート層において、スチレン-ブタジエン共重合体、及びカチオン性ポリアミド系樹脂を、本発明の要件を満たすように配合することで、従来の印刷用シート(例えば、特許第7031917号公報に記載された印刷用シート)の利点を損なわずに、強度、及び印刷適性の両方を更に改善できることを見出した。
【0020】
スチレン-ブタジエン共重合体、及びカチオン性ポリアミド系樹脂の併用によって強度、及び印刷適性を改善できる理由は定かではないものの、これらの成分が、コート層中の樹脂やその他の成分の相溶性を高めたことによるものと推察される。
【0021】
本発明において、「印刷用シート」とは、任意の方法による印刷に供するためのシートを包含する。
本発明の好ましい態様における印刷用シートは、オフセット印刷用シート、レーザープリンター印刷用シートを包含する。
【0022】
本発明において、「印刷用シートの強度」とは、印刷用シートにおける基材とコート層との接着強度を包含する。
本発明によれば、印刷用シートにおける基材とコート層との高い接着強度を実現し得る。
【0023】
印刷用シートの強度は、実施例に示した方法によって評価できる。
【0024】
本発明において、「印刷用シートの印刷適性」とは、印刷(特に、オフセット印刷、レーザープリンター印刷)の定着性及び転写性を包含する。
【0025】
印刷用シートの印刷適性は、実施例に示した剥離試験によって評価できる。
【0026】
以下、本発明の印刷用シートの構成について詳述する。
【0027】
(1)基材
本発明の印刷用シートの基材の構成は、ポリオレフィン系樹脂と無機物質粉末とを質量比(ポリオレフィン系樹脂:無機物質粉末)50:50~10:90で含む点以外は特に限定されず、製紙分野において従来知られる任意の構成を採用できる。
【0028】
基材において、ポリオレフィン系樹脂と、無機物質粉末との質量比(ポリオレフィン系樹脂:無機物質粉末)は、好ましくは40:60~20:80、より好ましくは40:60~25:75である。
基材の構成が上記要件を満たしていると、耐衝撃性や成形加工性により優れる。
【0029】
本発明の効果がより奏され易いという観点から、ポリオレフィン系樹脂の含有量の下限は、基材に対して、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上である。
【0030】
本発明の効果がより奏され易いという観点から、ポリオレフィン系樹脂の含有量の上限は、基材に対して、好ましくは45質量%以下、より好ましくは40質量%以下である。
【0031】
本発明の効果がより奏され易いという観点から、無機物質粉末の含有量の下限は、基材に対して、好ましくは55質量%以上、より好ましくは60質量%以上である。
【0032】
本発明の効果がより奏され易いという観点から、無機物質粉末の含有量の上限は、基材に対して、好ましくは85質量%以下、より好ましくは80質量%以下である。
【0033】
以下、基材の構成成分につき詳述する。
【0034】
(ポリオレフィン系樹脂)
基材を構成するポリオレフィン系樹脂としては特に限定されず、製紙分野において使用し得る任意の樹脂を採用できる。ポリオレフィン系樹脂は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0035】
本発明において「ポリオレフィン系樹脂」とは、オレフィン成分単位を主成分とするポリオレフィン系樹脂を意味する。
「オレフィン成分単位を主成分とする」とは、オレフィン成分単位がポリオレフィン系樹脂中に50質量%以上(好ましくは75質量%以上、より好ましくは85質量%以上、更に好ましくは90質量%以上)含まれることを意味する。
なお、本発明に使用されるポリオレフィン系樹脂の製造方法は特に限定されず、チーグラー・ナッタ系触媒、メタロセン系触媒、ラジカル開始剤(酸素、過酸化物等)等を用いる方法等の何れでも良い。
【0036】
基材には、機械的強度と耐熱性とのバランスの観点等から、ポリオレフィン系樹脂のうち、ポリプロピレン系樹脂及び/又はポリエチレン系樹脂が含まれていることが好ましく、ポリプロピレン系樹脂が含まれていることがより好ましく、樹脂成分としてポリプロピレン系樹脂のみが含まれていることが最も好ましい。
【0037】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられる。
【0038】
ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体、プロピレンと他のα-オレフィン(プロピレンと共重合可能なもの)との共重合体等が挙げられる。
「他のα-オレフィン」としては、例えば、炭素数4~10のα-オレフィン(エチレン、1-ブテン、イソブチレン、1-ペンテン、3-メチル-1-ブテン、1-ヘキセン、3,4-ジメチル-1-ブテン、1-ヘプテン、3-メチル-1-ヘキセン等)が挙げられる。
上記のポリプロピレン系樹脂のうち、プロピレン単独重合体が特に好ましい。
【0039】
プロピレン単独重合体としては、種々の立体規則性(アイソタクティック、シンジオタクティック、アタクチック、ヘミアイソタクチック等)を示す、直鎖状又は分枝状のポリプロピレン等が包含される。
【0040】
プロピレンの共重合体は、ランダム共重合体、ブロック共重合体、二元共重合体、三元共重合体等の何れであっても良い。具体的には、エチレン-プロピレンランダム共重合体、ブテン-1-プロピレンランダム共重合体、エチレン-ブテン-1-プロピレンランダム3元共重合体、エチレン-プロピレンブロック共重合体等が挙げられる。
【0041】
ポリエチレン系樹脂としては、エチレン成分単位が50質量%以上の樹脂が挙げられる。
【0042】
ポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレン(HDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン1共重合体、エチレン-ブテン1共重合体、エチレン-ヘキセン1共重合体、エチレン-4メチルペンテン1共重合体、エチレン-オクテン1共重合体等が挙げられる。
【0043】
(無機物質粉末)
基材を構成する無機物質粉末としては特に限定されず、製紙分野において使用し得る任意の樹脂を採用できる。無機物質粉末は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0044】
無機物質粉末としては、合成のものであっても天然鉱物由来のものであっても良い。
【0045】
無機物質粉末としては、金属(カルシウム、マグネシウム、アルミニウム、チタン、鉄、亜鉛等)の炭酸塩、硫酸塩、珪酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩、酸化物、又はこれらの水和物の粉末が挙げられる。
より具体的には、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化亜鉛、酸化チタン、シリカ、アルミナ、クレイ、タルク、カオリン、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、珪酸アルミニウム、珪酸マグネシウム、珪酸カルシウム、硫酸アルミニウム、硫酸マグネシウム、硫酸カルシウム、リン酸マグネシウム、硫酸バリウム、珪砂、カーボンブラック、ゼオライト、モリブデン、珪藻土、セリサイト、シラス、亜硫酸カルシウム、硫酸ナトリウム、チタン酸カリウム、ベントナイト、黒鉛等が挙げられる。
これらのうち、炭酸カルシウム粉末が好ましい。
【0046】
炭酸カルシウムとしては、重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムの何れでも良い。コート層との良好な接着強度を実現し易いという観点から、基材には重質炭酸カルシウムが含まれていることが好ましく、基材に含まれる無機物質粉末は重質炭酸カルシウムからなることがより好ましい。
【0047】
なお、「重質炭酸カルシウム」とは、CaCOを主成分とする天然原料(石灰石等)を機械的に粉砕(乾式法、湿式法等)して得られる炭酸カルシウムである。
「軽質炭酸カルシウム」とは、合成法(化学的沈殿反応等)により調製された炭酸カルシウムである。
したがって、重質炭酸カルシウム、及び軽質炭酸カルシウムは互いに明確に区別される。
【0048】
無機物質粉末の形状は特に限定されず、粒子状、フレーク状、顆粒状、繊維状等の何れであっても良い。また、これらの形状は、合成法等により得られる均一な形状であっても良く、天然鉱物の粉砕等により得られる不定形状であっても良い。
【0049】
無機物質粉末は、粒子状、又は繊維状であることが好ましい。
【0050】
無機物質粉末が粒子状である場合、その平均粒子径は、好ましくは0.01μm以上50.0μm以下、より好ましくは1.0μm以上10.0μm以下、更に好ましくは1.0μm以上5.0μm以下である。特に、その粒子径分布において、粒子径50.0μmを超える粒子を含有しないことが好ましい。
平均粒子径の要件が上記を満たしていると、ポリオレフィン系樹脂との混練時における粘度上昇を抑制し易く、成形加工性が良好となり易い。
【0051】
本発明において「平均粒子径」とは、JIS M-8511に準じた空気透過法による比表面積の測定結果から計算した値を意味する。測定機器としては、例えば、島津製作所社製の比表面積測定装置SS-100型を好ましく用いることが出来る。
【0052】
無機物質粉末が繊維状である場合、その平均繊維長は、好ましくは3.0μm以上20.0μm以下、より好ましくは0.2μm以上1.5μm以下である。
無機物質粉末が繊維状である場合、アスペクト比は、通常、10以上30以下である。
【0053】
本発明において「平均繊維長」及び「平均繊維径」は、電子顕微鏡で測定した値を意味する。
本発明において「アスペクト比」は、平均繊維径に対する平均繊維長の比(平均繊維長/平均繊維径)を意味する。
【0054】
無機物質粉末は、その分散性や反応性を高めるために、無機物質粉末の表面が予め表面処理されたものであっても良い。表面処理の方法としては、物理的方法(プラズマ処理等)、化学的方法(カップリング剤や界面活性剤を用いた方法)が挙げられる。
カップリング剤としては、例えば、シランカップリング剤、チタンカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、アニオン性、カチオン性、ノニオン性及び両性の何れのものであっても良く、例えば、高級脂肪酸、高級脂肪酸エステル、高級脂肪酸アミド、高級脂肪酸塩等が挙げられる。
【0055】
(基材におけるその他の添加剤)
基材には、上述の成分に加えて、必要に応じて、その他の添加剤を配合しても良く、配合しなくても良い。その他の添加剤としては、例えば、色素、滑剤、可塑剤、カップリング剤、流動性改良材、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、難燃剤、安定剤、帯電防止剤、発泡剤等が挙げられる。
これらの添加剤は、1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
これらの添加剤の種類や含有量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0056】
(基材におけるその他の構成)
基材についてその他の各種構成は特に限定されない。
【0057】
基材の層構成は、一層でも多層でも良い。
【0058】
基材が多層である場合、任意の目的に応じた層を設け得る。例えば、基材とコート層との密着性を向上させるためのシーラント層や、コート層を設けていない基材表面上への保護層、遮蔽層、粘着層等を設け得る。
ただし、基材が多層である場合、層のうち少なくとも一層が本発明における基材の要件を満たすことを要し、好ましくは全ての層が本発明における基材の要件を満たす。
【0059】
基材は、延伸シートであっても良く、未延伸シートであっても良い。
延伸シートである場合、縦又は横等の一軸方向又は二軸方向に延伸されたものであっても良い。
【0060】
基材の大きさは特に限定されず、印刷物の用途等に応じた、印刷用シートとしての適切な大きさであり得る。
【0061】
基材の厚さは特に限定されず、通常10μm以上300μm以下、好ましくは25μm以上200μm以下である。
【0062】
基材は、必要に応じて、その片面又は両面に表面処理が施されていても良い。表面処理は、基材の表面の全体又は一部に施されていても良い。
好ましい表面処理としては、基材表面に設けられるコート層との密着性を向上させる観点から、酸化法による処理、凹凸化法による処理、プライマー処理等が挙げられる。
酸化法としては、コロナ放電処理、フレーム処理、プラズマ処理、グロー放電処理、クロム酸処理(湿式)、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線照射処理等が挙げられる。
凹凸化法としては、サンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。
【0063】
(2)コート層
コート層は、基材の片面又は両面に設けられる。
コート層は、基材の表面全体に設けても良く、表面の一部に設けても良い。ただし、本発明の効果が奏され易いという観点から、コート層は、基材の表面全体に設けることが好ましい。
【0064】
本発明の印刷用シートのコート層は、印刷される面(印刷面)であり得る。
【0065】
本発明者は、コート層おいて、アクリル系ポリマーからなる連続相中にクレイ及び重質炭酸カルシウムが存在することで、基材との密着性や接着性の向上、耐候性の向上、低い表面抵抗率(印刷のし易さ)、白色度の向上、速乾性の向上等を実現し得ることを見出した(特許第7031917号公報)。
また、本発明者は、このような効果が、クレイ及び重質炭酸カルシウムによって形成される微細な凹凸に起因する、基材とコート層との接合界面における接着性の向上効果(アンカー効果)が一因であることを見出した(同公報)。
【0066】
しかし、上記技術には、コート層の強度(特に、接着強度)と、印刷適性(特に、オフセット印刷適性)との両立に改善の余地があった。
そこで、本発明者が更に検討した結果、コート層に対し、クレイ、及び重質炭酸カルシウムに加えて、スチレン-ブタジエン共重合体、及びカチオン性ポリアミド系樹脂を、所定比率を満たすように配合することで、コート層の強度と、印刷適性との両立を実現できることを見出した。
また、このようなコート層が、基材とコート層との接合界面における接着性の向上効果(アンカー効果)を損ない難いこともあわせて見出した。
【0067】
なお、本発明において、コート層に対し、特許第7031917号公報に記載されたアクリル系ポリマー(例えば、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリルアミド、及び(メタ)アクリロニトリルを主たるモノマー成分として得られる重合物等)が配合される態様は排除されない。
ただし、本発明において、コート層にはアクリル系ポリマーが含まれないことが好ましい。
【0068】
以下、コート層の構成成分につき詳述する。なお、コート層の組成の数値は、特段の規定がない限り、乾燥質量を意味する。
【0069】
(クレイ)
クレイの含有量は、コート層に対して、43質量%以上63質量%以下である。
【0070】
クレイの含有量の下限は、コート層の印刷適性を向上させ易く、更に上記のアンカー効果を奏し易いという観点から、コート層に対して、好ましくは45質量%以上、より好ましくは47質量%以上である。
【0071】
クレイの含有量の上限は、コート層の強度(特に、接着強度)を高め易く、更に、コート層に充分な耐水性を付与し、良好な外観を得易いという観点から、コート層に対して、好ましくは61質量%以下、より好ましくは59質量%以下である。
【0072】
本発明において「クレイ」とは、層状構造を有する粘土鉱物、及び層状構造を有しない粘土鉱物(イモゴライトやアロフェン等)を包含する。クレイは、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0073】
層状構造を有する粘土鉱物としては、膨潤性鉱物(スメクタイト、バーミキュライト、モンモリロナイト、ベントナイト、イライト、ヘクトライト、ハロイサイト、サポナイト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト、スメクタイト、雲母、脆雲母、セリサイト(絹雲母)、イライト、グローコナイト(海緑石)、ハイドロタルサイト等)、非膨潤性鉱物(カオリン鉱物(カオリナイト、高陵石)、サーペンティン、パイロフィライト、タルク(滑石)、クロライト(緑泥石)、ゼオライト(沸石)等)が挙げられる。
【0074】
クレイは、天然クレイ、合成クレイ、及び有機化クレイの何れであっても良い。
【0075】
有機化クレイとしては特に限定されないが、クレイ(天然物、合成物等)が有機化剤により有機化されたものが好ましい。
【0076】
有機化剤としては、クレイを有機化できる任意の有機化剤を利用できる。例えば、ヘキシルアンモニウムイオン、オクチルアンモニウムイオン、2-エチルヘキシルアンモニウムイオン、ドデシルアンモニウムイオン、ラウリルアンモニウムイオン、オクタデシルアンモニウムイオン、ジオクチルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクチルアンモニウムイオン、ジオクタデシルジメチルアンモニウムイオン、トリオクタデシルアンモニウムイオン等が挙げられる。
【0077】
クレイは、本発明の効果を奏し易いという観点から、カオリンクレイ(カオリナイトを主成分とする粘度)を含むことが好ましく、カオリンクレイからなることがより好ましい。
【0078】
クレイの粒子径は、特に限定されず、形成しようとするコート層の厚さ等に応じて適宜設定できる。
【0079】
クレイの体積平均粒子径は、本発明の効果が奏され易く、更に、コート層内の分散性、基材接着性、印刷適性、帯電防止性が良好となり易いという観点から、好ましくは0.05μm以上2.00μm以下、より好ましくは0.10μm以上1.70μm以下、更に好ましくは0.20μm以上1.50μm以下、更に好ましくは1.00μm以下である。
【0080】
本発明において「体積平均粒子径」(MV)とは、レーザー回折散乱法に基づく粒子径分布測定の体積基準の積算分率における50%径(D50)を意味する。
【0081】
クレイの粒度は、均一に近いほど、コート層の面内特性が均一となり易いため好ましい。
【0082】
クレイの形状は、特に限定されず、球状、楕円球状、扁平状、不定形状等の何れでも良い。
ただし、コート層中における分散性の観点から、球状に近いもの(例えば、アスペクト比(長径/短径)が好ましくは5以下、より好ましくは3以下、更に好ましくは2以下であるもの)が好ましい。
【0083】
クレイの比重は、特に限定されないが、コート層内での分散性の観点から、好ましくは1.5以上3.0以下、より好ましくは2.0以上2.8以下である。
【0084】
(重質炭酸カルシウム)
重質炭酸カルシウムの含有量は、コート層に対して、24質量%以上34質量%以下である。
【0085】
重質炭酸カルシウムの含有量の下限は、コート層の印刷適性を向上させ易く、更に上記のアンカー効果を奏し易いという観点から、コート層に対して、好ましくは26質量%以上、より好ましくは28質量%以上である。
【0086】
重質炭酸カルシウムの含有量の上限は、コート層の強度(特に、接着強度)を高め易く、更に、コート層に充分な耐水性を付与し、良好な外観を得易いという観点から、コート層に対して、好ましくは32質量%以下、より好ましくは30質量%以下である。
【0087】
コート層に含まれる重質炭酸カルシウムとしては、上記(無機物質粉末)の項で説明したものと同様のものを使用できる。
【0088】
重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径は、好ましくは0.05μm以上2.00μm以下である。
重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径が上記範囲を満たしていると、同等の粒子径の軽質炭酸カルシウムを用いた場合と比べて、基材とコート層との接着強度が向上し易い。その理由としては、このような体積平均粒子径の重質炭酸カルシウムでは、粒子が脱落し難く、粒子が不定形状であることによるアンカー効果を良好に発現できるためであると考えられる。
【0089】
重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径の下限は、上記のアンカー効果を充分に発現させ、更に、コート層の平滑性やシートの光沢性を向上させ易いという観点から、好ましくは0.07μm以上、より好ましくは0.10μm以上、更に好ましくは0.20μm以上である。
【0090】
重質炭酸カルシウムの体積平均粒子径の上限は、基材とコート層との接着性を向上させ易いという観点から、好ましくは1.50μm以下、より好ましくは1.00μm以下、更に好ましくは0.50μm以下である。
【0091】
重質炭酸カルシウムは、その分散性や反応性を高めるために、重質炭酸カルシウムの表面が予め表面処理されたものであっても良い。表面処理の方法としては、上記(無機物質粉末)の項で説明したものと同様のものを使用できる。
本発明の効果が奏され易いという観点から、表面処理の方法としては脂肪酸表面処理が好ましい。
【0092】
(スチレン-ブタジエン共重合体)
スチレン-ブタジエン共重合体の含有量は、コート層に対して、10質量%以上20質量%以下である。
【0093】
スチレン-ブタジエン共重合体の含有量の下限は、コート層の印刷適性、及びコート層の強度(特に、接着強度)を向上させ易いという観点から、コート層に対して、好ましくは12質量%以上、より好ましくは14質量%以上である。
【0094】
スチレン-ブタジエン共重合体の含有量の上限は、コート層の印刷適性、及びコート層の強度(特に、接着強度)を向上させ易いという観点から、コート層に対して、好ましくは18質量%以下、より好ましくは16質量%以下である。
【0095】
本発明において「スチレン-ブタジエン共重合体」とは、「SBR」とも称され、スチレンと、1,3-ブタジエンとの共重合体である。スチレン-ブタジエン共重合体は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0096】
スチレン-ブタジエン共重合体におけるスチレン含有率の下限は、好ましくは10質量%以上、より好ましくは15質量%以上である。
【0097】
スチレン-ブタジエン共重合体におけるスチレン含有率の上限は、好ましくは50質量%以下、より好ましくは45質量%以下である。
【0098】
スチレン-ブタジエン共重合体のガラス転移温度(Tg)の下限は、好ましくは-66℃以上、より好ましくは-20℃以上である。
【0099】
スチレン-ブタジエン共重合体のガラス転移温度(Tg)の上限は、好ましくは40℃以下、より好ましくは0℃以下である。
【0100】
スチレン-ブタジエン共重合体は変性されたものであっても良く、変性されていないものであっても良い。変性されたスチレン-ブタジエン共重合体としては、カルボキシ変性スチレン-ブタジエン共重合体が挙げられる。
【0101】
(カチオン性ポリアミド系樹脂)
カチオン性ポリアミド系樹脂の含有量は、コート層に対して、0.3質量%以上0.7質量%以下である。
【0102】
カチオン性ポリアミド系樹脂の含有量の下限は、コート層の印刷適性、及びコート層の強度(特に、接着強度)を向上させ易いという観点から、コート層に対して、好ましくは0.4質量%以上、より好ましくは0.45質量%以上である。
【0103】
カチオン性ポリアミド系樹脂の含有量の上限は、コート層の印刷適性、及びコート層の強度(特に、接着強度)を向上させ易いという観点から、コート層に対して、好ましくは0.6質量%以下、より好ましくは0.5質量%以下である。
【0104】
本発明において「カチオン性ポリアミド系樹脂」とは、主鎖にアミド結合を有する共重合体のうちカチオン性であるものを意味し、より具体的には、カチオン化度が2.00meq/g以上4.00meq/g以下であるポリアミド系樹脂を意味する。
カチオン性ポリアミド系樹脂は、1種を単独、又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0105】
本発明において「カチオン化度」とは、分子中のカチオン基の含有率(単位:meq/g)を意味する。カチオン化度は、コロイド滴定法によって特定する。
【0106】
カチオン性ポリアミド系樹脂のカチオン化度の下限は、本発明の効果が奏され易いという観点から、好ましくは2.20meq/g以上、より好ましくは2.40meq/g以上である。
【0107】
カチオン性ポリアミド系樹脂のカチオン化度の上限は、本発明の効果が奏され易いという観点から、好ましくは3.80meq/g以下、より好ましくは3.60meq/g以下である。
【0108】
カチオン性ポリアミド系樹脂としては、例えば、ポリアミンポリアミドエピクロルヒドリン、カチオン性ポリアクリルアミド、ジアリルジメチルアンモニウムクロライドアミド共重合物、ジシアンジアミドジエチレントリアミン重縮合物、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリアミドエポキシ樹脂、変性ポリアミド樹脂等が挙げられる。
【0109】
カチオン性ポリアミド系樹脂は、1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
【0110】
カチオン性ポリアミド系樹脂は市販のものでも良く、例えば、「スミレーズレジン SPI-203(50)H」(カチオン化度:3.00meq/g、田岡化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0111】
カチオン性ポリアミド系樹脂は変性されたものであっても良く、変性されていないものであっても良い。
【0112】
(コート層におけるその他の添加剤)
コート層には、上述の成分に加えて、必要に応じて、その他の添加剤を配合しても良く、配合しなくても良い。その他の添加剤としては、例えば、架橋剤、界面活性剤、pH調整剤、増粘剤、流動性改良剤、消泡剤、抑泡剤、離型剤、浸透剤、色素、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、防腐剤、防黴剤、耐水化剤、インキ定着剤、硬化剤、耐候材料等が挙げられる。
これらの添加剤は、1種を単独又は2種以上を組み合わせて用いることが出来る。
これらの添加剤の種類や含有量は、得ようとする効果等に応じて適宜設定できる。
【0113】
架橋剤としては、アルデヒド系化合物、メラミン系化合物、イソシアネート系化合物、ジルコニウム系化合物、チタン系化合物、アミド系化合物、アルミニウム系化合物、ホウ酸、ホウ酸塩、カルボジイミド系化合物、オキサゾリン系化合物等が挙げられる。
【0114】
本発明の効果が奏され易いという観点から、コート層は、クレイ、及び重質炭酸カルシウム以外の微粒子(特に、体積平均粒子径が0.05μm以上2.00μm以下である微粒子)を実質的に含まないか、又は全く含まないことが好ましい。このような微粒子としては、ポリマー微粒子(ポリメチルメタクリレート粒子に代表される(メタ)アクリル酸エステル系樹脂粒子等)、ジンクピリチオン、酸化亜鉛等が挙げられる。
【0115】
(コート層におけるその他の構成)
コート層についてその他の各種構成は特に限定されない。
【0116】
コート層の厚さ(乾燥状態における厚さ)は特に限定されず、通常1μm以上10μm以下、好ましくは2μm以上8μm以下、より好ましくは3μm以上5μm以下である。
コート層の厚さが上記範囲内であると、コート層がインキの受容層として充分に機能し、インキ受容特性(良好な着色性、発色性等)を発揮し易くなる。更に、印刷用シートの耐水性、表面の帯電防止性、インキとの密着性等の特性も良好となり易い。
【0117】
コート層の厚さ(乾燥状態における厚さ)は、例えば、基材の厚さに対して1%以上15%以下であり得る。
【0118】
(3)印刷用シートの用途
本発明の印刷用シートは、任意の印刷方法による印刷に供することが出来る。好ましい印刷方法としては、オフセット印刷、レーザープリンター印刷が挙げられる。
【0119】
本発明において「オフセット印刷」とは、版に付けられたインキを、中間転写体(ブランケット等)に転写した後、被印刷体(本発明の印刷用シート)に印刷する印刷方式である。
【0120】
本発明において「レーザープリンター印刷」とは、色材(トナー)を用いて形成された感光体ドラム表面のパターンを、被印刷体(本発明の印刷用シート)に転写する印刷方式である。
【0121】
印刷用シートに対する印刷の条件は特に限定されず、従来知られる任意の印刷機、剤(下地処理剤等)、各種工程(下地処理工程、印刷工程、乾燥工程等)を採用できる。
【0122】
印刷用シートにおける印刷部位は特に限定されず、例えば、コート層の表面の一部又は全体であり得る。
【0123】
<印刷用シートの製造方法>
本発明の印刷用シートの製造方法は特に限定されず、基材の片面又は両面にコート層を設ける工程(コート層形成工程)を含む任意の方法を採用できる。
【0124】
本発明の印刷用シートの製造方法における好ましい態様は、以下の2工程を少なくとも含む。
(工程1)ポリオレフィン系樹脂と、無機物質粉末とを質量比50:50~10:90の割合で含む樹脂組成物を押出成形することで基材を得る工程
(工程2)基材の片面又は両面に、クレイ、重質炭酸カルシウム、スチレン-ブタジエン共重合体、及びカチオン性ポリアミド系樹脂を含む塗工液を塗工及び乾燥することでコート層を設ける工程
【0125】
(工程1について)
基材の成形方法としては特に限定されず、基材を構成する各成分を成形機(押出成形機等)によってシート状に成形し、基材を得る方法が挙げられる。
【0126】
基材を構成する各成分の混合は、ホッパーから成形機に投入する前に行っても良く、成形機による成形と同時に行っても良い。
【0127】
基材を構成する各成分の溶融混練は、均一な分散性や、高い剪断応力の作用を実現できる観点から、二軸混練機を用いることが好ましい。
【0128】
工程1における成形温度は、高温となるほど臭気が発生し易い傾向にあるため、好ましくはポリオレフィン系樹脂の融点+55℃以下、より好ましくはポリオレフィン系樹脂の融点以上かつ融点+55℃以下、更に好ましくはポリオレフィン系樹脂の融点+10℃以上かつポリオレフィン系樹脂の融点+45℃以下である。
【0129】
基材は、コート層形成工程前の任意の時点で、延伸(縦及び/又は横延伸)されたものであっても良い。延伸により基材の密度が低下し、白色度が良好な基材が得られ易い。
延伸は、一軸延伸、二軸延伸(逐次二軸延伸、同時二軸延伸等)、多軸延伸(チューブラー法による延伸等)の何れであっても良い。これらのうち、本発明の効果が奏され易いという観点から、二軸延伸が好ましい。
【0130】
(工程2について)
基材の片面又は両面にコート層を設ける方法としては、コート層を構成する各成分を含む塗工液を基材表面に塗工し、乾燥させる方法が挙げられる。
【0131】
塗工液の形態は特に限定されないが、コート層を構成する各成分を、溶媒に分散又は溶解させたものが挙げられる。溶媒としては、水、有機溶剤等が挙げられる。
本発明における塗工液は、好ましくは、コート層を構成する各成分を水に分散させた水性エマルジョンである。
【0132】
水性エマルジョンの製造方法は特に限定されず、従来知られる乳化重合等の方法を採用できる。
また、コート層の原料として、エマルジョンタイプの成分を使用することで、水性エマルジョンを調製することも出来る。エマルジョンタイプの成分としては、例えば、スチレンブタジエンラテックス(スチレン-ブタジエン共重合体のエマルジョン)が挙げられる。
【0133】
塗工液の調製方法としては、攪拌機又は分散機(例えば、湿式コロイドミル、エッジドタービン、パドル翼等)を用いて、500~3000rpmの回転条件で、1~5分間、各成分を溶媒とともに分散させる方法が挙げられる。
なお、クレイ及び重質炭酸カルシウムの凝集を避けるために分散剤を配合しても良い。ただし、クレイと重質炭酸カルシウムとは、それぞれ比重がほぼ等しいため、塗工液中でクレイと重質炭酸カルシウムとが偏在しにくく、通常、均一に分散させ易い。
【0134】
塗工の方法としては、塗工液を、適当な手法(マイクログラビア、ロールコート、ブレードコート、バーコート、刷毛塗り、スプレーコート、ディッピング等)により基材表面に塗工し、その後、コート層を乾燥、硬化する方法が挙げられる。コート層の乾燥又は硬化の温度は、例えば90℃以上120℃以下であっても良い。
【0135】
(その他の工程)
上記「工程2」の後、得られた印刷用シートを印刷に供することが出来る。印刷用シートは、必要に応じて、品質確認工程、梱包工程等に供しても良い。
【実施例0136】
以下に、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0137】
<印刷用シートの作製>
以下の方法で印刷用シートを作製した。
【0138】
(1)材料の準備
基材、及びコート層の材料を以下のとおり準備した。なお、表中の数値は、何れも有効成分相当量である。
【0139】
(基材の材料)
ポリオレフィン系樹脂:ポリプロピレン単独重合体(融点160℃)
無機物質粉末:重質炭酸カルシウム粉末(JIS M-8511に準じた空気透過法による平均粒子径:2.00μm)
【0140】
(コート層の材料)
コート層の材料は以下のとおりである。
【0141】
[クレイ]
クレイ-1:カオリンクレイ(体積平均粒子径0.29μm、比重2.5)
クレイ-2:カオリンクレイ(体積平均粒子径1.50μm、比重2.6)
【0142】
[重質炭酸カルシウム]
炭酸カルシウム-1:重質炭酸カルシウム(体積平均粒子径0.01μm、比重2.6)
炭酸カルシウム-2:重質炭酸カルシウム(体積平均粒子径0.15μm、比重2.6)
炭酸カルシウム-3:重質炭酸カルシウム(体積平均粒子径3.00μm、比重2.6)
炭酸カルシウム-4:軽質炭酸カルシウム(体積平均粒子径1.00μm、比重2.6)
【0143】
[スチレン-ブタジエン共重合体]
スチレン-ブタジエン共重合体-1:スチレンブタジエンラテックス(「JSR SBLTX、グレード0696」、カルボキシ変性タイプエマルジョン、粒子径:170nm、Tg:-12℃、JSR株式会社製)
スチレン-ブタジエン共重合体-2:スチレンブタジエンラテックス(「JSR SBLTX、グレード0589」、無変性タイプエマルジョン、粒子径:220nm、Tg:0℃、JSR株式会社製)
【0144】
[ポリアミド系樹脂]
ポリアミド系樹脂-1:カチオン性ポリアミド系樹脂(「スミレーズレジン SPI-203(50)H」、カチオン化度:3.00meq/g、田岡化学工業株式会社製)
ポリアミド系樹脂-2:アニオン性ポリアミド系樹脂
【0145】
(2)基材の作製
表中の「基材」の項に示す割合で、基材の材料を押出成形機(二軸スクリューを備えるTダイ押出成形装置、φ20mm、L/D=25)に投入し、220℃以下の温度で混練後、成形温度220℃でTダイによりシート成形し、引き取り機で巻き取りながら二軸延伸(縦3.5倍×横5倍)することで、シート状の基材(縦128mm×横80mm、厚さ200μm)を得た。
【0146】
(3)コート層の形成
表中の「コート層」に示す割合で、分散媒(水)とともに、クレイ、炭酸カルシウム、スチレン-ブタジエン共重合体、及びポリアミド系樹脂を、エッジドタービンを用いて3000rpmで3分間攪拌混合し、コート用塗工液(水性エマルジョン)を得た。
得られた塗工液を、各基材の片側表面の全体に、マイクログラビア法によって塗工した後、110℃で乾燥させ、コート層(膜厚8μm)が設けられた基材を得た。
なお、表中の「コート層」の組成の数値は、乾燥質量の値である。
【0147】
<印刷用シートの評価>
以下の方法で、印刷用シートについて、コート層の強度、及び印刷適性を評価した。その結果を表中の「評価」の項に示す。
【0148】
(コート層の強度)
以下の方法で、コート層の強度を評価した。なお、本例では、基材に対するコート層の接着強度をコート層の強度として評価した。
【0149】
[コート層の強度(接着強度)の評価方法]
基材に対するコート層の強度(接着強度)を評価するために、以下の方法により、粘着テープによる剥離試験を行った。
なお、粘着テープとしては、JIS Z1522:2009に準拠するセロハン粘着テープ(幅:24mm)を用いた。
【0150】
(1)粘着テープを約75mmの長さで取り出した。
(2)各印刷用シートのコート層全体に粘着テープを貼り、コート層全体が透けて見える様に指で粘着テープをこすった。こする際、爪を立てずに指の平で押した。
(3)粘着テープを貼ってから5分間以内に、粘着テープの端部を持ち上げて引き剥がした。引き剥がす際には、引き剥がし方向とコート層とが約60°の角度をなす様にして、0.5~1.0秒で完全に引き剥がした。
(4)粘着テープを引き剥がした後、コート層が印刷用シートに付着しているかを目視確認し、以下の評価基準に基づき、コート層の強度を評価した。
印刷用シートからのコート層の剥離が少ないほど、コート層の強度(接着強度)が高いことを意味する。
【0151】
[コート層の強度(接着強度)の評価基準]
A:コート層の剥離が全く認められなかった。
B:コート層の20%未満が剥離した。
C:コート層の20%以上が剥離した。
【0152】
(印刷適性)
以下の方法で、オフセット印刷適性、及びレーザープリンター(LBP)印刷適性を評価した。
【0153】
[オフセット印刷適性の評価方法]
各印刷用シート(コート層を設けた面)に対して、オフセット印刷機(「RMGT920」、リョービMHIグラフィックテクノロジー株式会社製)を用いて、油性オフセットインクによってテストパターンを印刷した。
印刷完了後から30秒以内に目視観察し、オフセット印刷適性(インク定着性、及びインク速乾性)を以下の基準で評価した。
【0154】
[オフセット印刷適性の評価基準]
A:テストパターン全体が印刷され、かつ、印刷のにじみやズレが全く認められない。
B:テストパターン全体が印刷されているものの、印刷のにじみやズレがやや認められる。
C:テストパターン全体が印刷されていないか(途切れやカスレ等が認められる)、かつ/又は、印刷のにじみやズレが明確に認められる。
【0155】
[レーザープリンター(LBP)印刷適性の評価方法]
各印刷用シート(コート層を設けた面)に対して、レーザープリンター(「Versant 80 Press」、富士ゼロックス株式会社製)を用いて、カラー及びモノクロテストパターンを印刷した。
印刷完了後から30秒以内に目視観察し、LBP印刷適性(トナー定着性)を以下の基準で評価した。
【0156】
[レーザープリンター(LBP)印刷適性の評価基準]
A:テストパターン全体が印刷され、トナーの剥離が全く認められない。
B:テストパターン全体が印刷されているものの、トナーの剥離がやや認められる。
C:テストパターン全体が印刷されていないか(途切れやカスレ等が認められる)、かつ/又は、トナーの剥離が明確に認められる。
【0157】
【表1】
【0158】
【表2】
【0159】
【表3】
【0160】
【表4】
【0161】
【表5】
【0162】
表に示されるとおり、本発明の要件を満たす印刷用シートは、強度、及び印刷適性の何れもが良好だった。