(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154540
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】加齢性難聴の予防又は改善のための組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 33/13 20160101AFI20231013BHJP
A23L 2/52 20060101ALI20231013BHJP
A61K 31/706 20060101ALI20231013BHJP
A61P 27/16 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
A23L33/13
A23L2/00 F
A23L2/52
A61K31/706
A61P27/16
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063912
(22)【出願日】2022-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】311002148
【氏名又は名称】明治ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】萬治 愛子
(72)【発明者】
【氏名】大山 昌代
(72)【発明者】
【氏名】若林 潤
(72)【発明者】
【氏名】森藤 雅史
【テーマコード(参考)】
4B018
4B117
4C086
【Fターム(参考)】
4B018MD44
4B018ME14
4B117LC04
4B117LK08
4C086AA01
4C086AA02
4C086EA16
4C086GA08
4C086MA01
4C086MA04
4C086MA52
4C086MA60
4C086NA14
4C086ZA34
(57)【要約】
【課題】 高音域で聴力が低下する加齢性難聴に対して特に予防又は改善作用を有する新規の組成物を提供すること。
【解決手段】 ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を有効成分として含有することを特徴とする、加齢性難聴の予防又は改善のための組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を有効成分として含有することを特徴とする、加齢性難聴の予防又は改善のための組成物。
【請求項2】
周波数16kHz以上の音域における聴力低下を予防又は改善するための組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
経口用組成物又は経腸用組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項4】
飲食組成物、医薬組成物、又は医薬部外組成物であることを特徴とする、請求項1に記載の組成物。
【請求項5】
ヒトに対する投与量が、体重1kgあたり、かつ、1日あたり、ニコチンアミドモノヌクレオチド量で0.01~500mgであることを特徴とする、請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加齢性難聴の予防又は改善のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
哺乳動物の聴力は、特別な聴覚障害が無くとも、一般に年を重ねること(加齢)に伴って低下することが知られている。このような加齢に伴う聴力の低下は「加齢性難聴」と呼ばれ(「老人性難聴」等と呼ばれる場合もある)、特に高音域における低下が著しい。ヒトでは、個人ごとに異なるが、40歳代以降に高音域から聴力の低下が始まり、60歳代になると「軽度難聴」レベルまで聴力が低下して、聞こえが悪くなったことを感じる人が急激に増加することが報告されている(立木ら、Audiology Japan 45,241-250,2002(非特許文献1))。65~74歳では3人に1人、75歳以上では約半数が、このような加齢性難聴に悩んでいるといわれており、かかる加齢性難聴の予防や改善は、高齢者のQOLの改善のためにも望まれる。
【0003】
従来、外因性の難聴(加齢性難聴でない)については、例えば、特表2015-524408号公報(特許文献1)において、ニコチンアミドリボシド(NR)の有効量を哺乳動物に投与することにより、その難聴を予防又は治療する方法が記載されている。特許文献1には、同文献に記載の方法の対象として騒音暴露や薬物毒性による難聴が挙げられており、同文献には、NR投与によって8kHzや16kHzにおける難聴で一過的に閾値変動を示したことが記載されている。
【0004】
また、例えば、中国特許出願公開第105535009号明細書(特許文献2)には、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含む、聴力損失を予防し治療する薬物又は健康食品が記載されており、1kHz、2kHz、4kHz、及び8kHzにおける難聴に対する予防作用を試験したことが記載されている。しかしながら、加齢性難聴の予防又は改善、すなわち、高音域における聴力の低下の予防又は改善に注目した研究は、未だ十分になされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特表2015-524408号公報
【特許文献2】中国特許出願公開第105535009号明細書
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】立木ら、Audiology Japan 45,241-250,2002
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、特に高音域で聴力が低下する加齢性難聴に対して予防又は改善作用を有する新規の組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ね、加齢性難聴の予防又は改善に有効な成分を探索したところ、ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)をマウスに投与することによって、これを投与しなかった場合には高音域での聴力が低下して加齢性難聴を発症したのに対して、これを投与した場合にはかかる加齢性難聴の発症を有意に抑制できる、すなわち、ニコチンアミドモノヌクレオチドには高音域における聴力の低下を抑制する作用があることを新たに見い出した。よって、ニコチンアミドモノヌクレオチドを有効成分とする組成物を投与又は摂取せしめることにより、特に加齢性難聴を予防又は改善できることが明らかとなり、本発明を完成するに至った。かかる知見により得られた本発明の態様は次のとおりである。
[1]
ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN)を有効成分として含有する、加齢性難聴の予防又は改善のための組成物。
[2]
周波数16kHz以上の音域における聴力低下を予防又は改善するための組成物である、[1]に記載の組成物。
[3]
経口用組成物又は経腸用組成物である、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]
飲食組成物、医薬組成物、又は医薬部外組成物である、[1]~[3]のうちのいずれか一項に記載の組成物。
[5]
ヒトに対する投与量が、体重1kgあたり、かつ、1日あたり、ニコチンアミドモノヌクレオチド量で0.01~500mgである、[1]~[4]のうちのいずれか一項に記載の組成物。
[6]
加齢性難聴の予防又は改善のための、ニコチンアミドモノヌクレオチドの使用。
[7]
加齢性難聴の予防又は改善用組成物の製造のための、ニコチンアミドモノヌクレオチドの使用。
[8]
ニコチンアミドモノヌクレオチドの有効量を対象に投与する、加齢性難聴の予防又は改善方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高音域で聴力が低下する加齢性難聴に対して特に予防又は改善作用を有する新規の組成物を提供することが可能となる。また、本発明の組成物は、飲食組成物としても提供することができるため、摂取しやすく、また、摂取を習慣化しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】試験例1の周波数32kHzにおける各群の投与前及び投与13週の音圧閾値(dB SPL)の平均値及び標準偏差を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0012】
<加齢性難聴の予防又は改善用組成物>
本発明は、ニコチンアミドモノヌクレオチドを有効成分として含有する加齢性難聴の予防又は改善のための組成物(本明細書中、場合により「加齢性難聴の予防又は改善用組成物」又は単に「本発明の組成物」という)を提供する。
【0013】
本発明の加齢性難聴の予防又は改善用組成物に含有される有効成分は、ニコチンアミドモノヌクレオチド(本明細書中、場合により「NMN」ともいう)である。本発明者らは、ニコチンアミドモノヌクレオチドが、特に高音域における聴力の低下の予防又は改善作用を有し、優れた加齢性難聴の予防又は改善作用を奏することを見い出した。
【0014】
本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドとは、β-ニコチンアミドモノヌクレオチドのことを示し、NMNとも略す。β-ニコチンアミドモノヌクレオチドは、ニコチンアミド及びニコチンアミドリボシドが生体内でニコチンアミドアデニンジヌクレオチド(NADH、NAD+)に変換される際の中間代謝物である。ニコチンアミドアデニンジヌクレオチドは、酸化還元補酵素として生体内の脱水素反応で中心的な役割を果たすことが知られている。
【0015】
本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドとしては、遊離の形態(フリー体)であっても、水和物や塩の形態であってもよく、本明細書中、単に「ニコチンアミドモノヌクレオチド」という場合にはこれらのいずれも包含する。前記塩としては、本発明の効果が阻害されない限り特に限定されず、食品又は医薬品上許容可能な塩が挙げられ、より具体的には、例えば、有機酸(例えば、酢酸、酒石酸、脂肪酸等)、無機酸(例えば、塩酸、臭化水素酸、硝酸、硫酸、過塩素酸等)、無機塩基(例えば、カリウム、ナトリウム、亜鉛等)などとの塩が挙げられ、これらの塩のうちの1種であっても2種以上の組み合わせであってもよい。本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドの形態は、組成物の形態、投与又は摂取の方法等に応じて適宜選択することができる。
【0016】
本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドの由来としては特に限定されず、例えば、素材や食品(肉類、乳、野菜類、甲殻類(エビ、カニ)、キノコなど)等から、搾汁、濃縮、精製、析出、及び抽出等の従来公知の方法又はそれに準じた方法を用いて得ることができる。また、本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドとしては、乳酸菌等の発酵物などの、微生物を用いて生産したものや、化学的に合成したもの等であってもよい。さらに、市販のもの(例えば、Sigma Aldrich社製、東京化成工業社製、又はオリエンタル酵母工業社製のβ-ニコチンアミドモノヌクレオチド等)を適宜入手してもよい。
【0017】
本発明の組成物において、ニコチンアミドモノヌクレオチドの含有量(フリー体換算、以下同じ)としては、組成物の形態、投与量又は摂取量、投与又は摂取の目的や方法等に応じて適宜調整されるものであるため、特に限定されず、組成物の全質量に対して0.001~100質量%とすることができるが、例えば、本発明の組成物が飲食組成物である場合には、0.01~10質量%であることがより好ましく、0.01~1質量%であることがさらに好ましい。また、例えば、医薬組成物である場合には、0.01~10質量%であることがより好ましい。さらに、例えば、医薬部外組成物である場合には、0.01~100質量%であることがより好ましく、0.01~10質量%であることがさらに好ましい。
【0018】
本発明の組成物の投与量又は摂取量(以下、場合により「用量」ともいう)としては、組成物の形態;投与又は摂取の目的や方法;対象の種、年齢、体重、性別、症状の程度等を考慮して、個々の場合に応じて適宜決定することができる。よって、特に限定されるものではないが、例えば、加齢性難聴の改善を目的とする場合、ヒト(好ましくは、成人)に対する用量としては、ニコチンアミドモノヌクレオチドの量(フリー体換算、以下同じ)で、対象の体重1kgあたり、かつ、1日あたり、0.5~500mgであることが好ましく、例えば、1~500mg、2~250mg、5~200mg、10~200mgであることがより好ましい。また例えば、加齢性難聴の予防を目的とする場合、ヒト(好ましくは、成人)に対する用量としては、ニコチンアミドモノヌクレオチドの量で、対象の体重1kgあたり、かつ、1日あたり、0.01~500mgであることが好ましく、例えば、0.5~200mg、0.5~100mg、1~100mg、1~50mgであることがより好ましい。
【0019】
本発明の組成物は、本発明の効果が阻害されない限り、ニコチンアミドモノヌクレオチドの他に、さらに、食品又は医薬品上許容可能な他の成分を含有していてもよい。前記他の成分としては、特に限定されるものではないが、例えば、水、脂質、糖類、糖アルコール類、ミネラル類、ビタミン類、タンパク質、ペプチド、アミノ酸、有機酸、乳酸菌(ラクトバチルス属、ビフィドバクテリウム属等)、酵母、前記乳酸菌及び/又は酵母の処理物(破砕処理物、加熱処理物等)、前記乳酸菌及び/又は酵母の発酵物、製剤化補助剤、ニコチンアミドモノヌクレオチド以外の他の有効成分が挙げられる。
【0020】
前記脂質としては、特に限定されないが、より具体的には、例えば、大豆油、コーン油、パーム油、エゴマ油、キャノーラ油、サフラワー油、ひまわり油、ごま油、米油、ぶどう種子油、魚油、べに花油、なたね油、及び落花生油等の天然油脂;炭素数6~12程度の中鎖脂肪酸トリグリセリド(MCT)等の合成油脂が挙げられる。
【0021】
前記糖類としては、特に限定されないが、より具体的には、例えば、デンプン、デキストリン、マルトデキストリン、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、乳果オリゴ糖、ラクツロース、イヌリン、麦芽糖、ショ糖、グルコース、及びシクロデキストリンが挙げられる。
【0022】
前記糖アルコール類としては、特に限定されないが、より具体的には、例えば、ソルビトール、マンニトール、マルチトール、エリスリトール、還元水飴、還元パラチノース等の甘味料が挙げられる。
【0023】
前記ミネラル類としては、特に限定されないが、より具体的には、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、カリウム、リン、鉄、マンガン、銅、亜鉛、ヨウ素、亜鉛、セレン、クロム、及びモリブデンが挙げられる。
【0024】
前記ビタミン類としては、特に限定されないが、ビタミンA、B1、B2、B5、B6、B7、B9、B12、C、D、E、Kが挙げられる。
【0025】
前記製剤化補助剤としては、特に限定されないが、より具体的には、例えば、溶剤、分散剤、乳化剤、増粘剤、増粘安定剤、ゲル化剤、界面活性剤、緩衝剤、安定剤、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、矯味剤、溶解助剤、懸濁剤、コーティング剤、担体(固体担体、水等の液体担体)、保存剤、香料、着色剤、pH調整剤が挙げられる。
【0026】
前記ニコチンアミドモノヌクレオチド以外の他の有効成分としては、特に限定されないが、より具体的には、例えば、食物繊維(難消化性デキストリン等)、果実・野菜及びその加工品、動物及び植物抽出エキス、天然由来高分子(コラーゲン、ヒアルロン酸、コンドロイチン等)等が挙げられる。
【0027】
上記の他の成分としては、1種のみであっても2種以上が含有されていてもよい。また、これら他の成分を含有する場合、当該他の成分の含有量は特に限定されず、組成物の形態、用量、投与又は摂取の目的や方法等に応じて適宜調整することができる。
【0028】
本発明の組成物の投与形態としては、特に限定されず、経口投与、経腸投与、注射投与、舌下投与、経皮投与、経静脈投与、粘膜投与(点鼻、点耳による投与)等が挙げられ、本発明の組成物は、各投与形態に応じた組成物とすることができる。中でも、本発明の組成物としては、経口又は経腸によって投与又は摂取することが好ましく、それに応じて、経口用組成物又は経腸用組成物とすることが好ましい。また、本発明の組成物は、組成物を投与又は摂取する目的、対象、方法、用量等に応じて、例えば、医薬組成物、医薬部外組成物、飲食組成物、又は飼料組成物とすることができる。
【0029】
本発明に係る医薬組成物及び医薬部外組成物としては、例えば、製剤とすることができ、その形態は特に限定されないが、例えば、錠剤、丸剤、顆粒剤、散剤、粉末剤、カプセル剤等の固形剤;一般液剤、懸濁剤、乳剤、シロップ剤等の液剤;ゼリー剤;経腸投与剤;坐剤、点眼剤、点鼻剤、点耳剤、外用固形剤、外用液剤、スプレー剤、軟膏剤、クリーム剤、ゲル剤、貼付剤等の外用剤等が挙げられる。前記製剤は、例えば、ニコチンアミドモノヌクレオチドに前記製剤化補助剤のうちの1種又は2種以上、さらに必要に応じて前記他の成分のうちの1種又は2種以上を加えて、公知の方法又はそれに準じた方法によって製造することができる。
【0030】
本発明に係る飲食組成物の形態としては、特に限定されず、例えば、バーのような固形状、飲料や流動食のような液状、ペースト状、半液体状、ゲル状(ゼリー状)、ゲル状油脂(半固形状油脂)、粉末状等の形態が挙げられる。また、前記飲食組成物としては、流動食、粉末流動食、栄養ペースト、経口・経管栄養剤、飲料、ゲル状食品などとして、経口・経腸栄養患者や高齢者、乳幼児等に摂取させることもできる。
【0031】
本発明に係る飲食組成物の例としては、特に限定されないが、例えば、飲料(茶類、炭酸飲料、ココア、コーヒー、乳酸菌飲料、豆乳飲料、果汁・野菜汁飲料、清涼飲料、栄養飲料、アルコール飲料等)、加工食品(チョコレート、ガム、グミ、ゼリー、焼菓子(パン、ケーキ、クッキー、ビスケット等)、キャンデー等)、乳製品(調製粉乳(粉末ミルク等)、調整乳、乳飲料、発酵乳、ヨーグルト、アイスクリーム、チーズ、クリーム、バター、マーガリン、練乳等)、調味料(ソース、スープ、ドレッシング、マヨネーズ、マヨネーズタイプ調味料、クリーム等)、サプリメント、食用油、機能性食用油脂が挙げられる。このような飲食組成物は、例えば、既存の飲食品又はその原料若しくは製造過程の中間産物に、本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドを配合する方法等によって製造することができる。この場合に配合するニコチンアミドモノヌクレオチドは、前記医薬組成物又は医薬部外組成物の形態であってもよい。
【0032】
また、本発明に係る飲食組成物としては、例えば、一般食品、健康食品、機能性食品、保健機能食品(例えば、特定保健用食品、栄養機能食品、栄養補助食品、機能性表示食品等)、特別用途食品(例えば、幼児用食品、妊産婦用食品、病者用食品等)、メディカルフード(米国食品医薬品局(FDA)及びオーファンドラッグ法により定義された医師の管理において処方される食品)、治療食(治療の目的を果たすものであり、医師による食事箋に従って栄養士等が作成した献立に基づいて調理されたもの)、食事療法食としてもよい。また、前記飲食組成物には、その製品において本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドによりもたらされる作用・効能(加齢性難聴の予防又は改善)が表示されていてもよい。
【0033】
本発明に係る飼料組成物としては、飼料組成物を投与又は摂取する目的、対象、方法、用量等に応じて、上記飲食組成物を適宜改変したものが挙げられる。
【0034】
本発明の組成物としては、製造後から投与又は摂取までの間、包装容器内に包装(好ましくは封入)されていることが好ましい。前記包装容器としては、特に限定されるものではないが、例えば、包装紙、包装袋、ソフトバック、チューブ、チアパック、紙容器、缶、ボトル、カプセルが挙げられる。
【0035】
本発明の組成物は、上記のニコチンアミドモノヌクレオチドを有効成分として含有することで、加齢性難聴の予防又は改善のために用いることができる。そのため、本発明は、加齢性難聴の予防又は改善のための、ニコチンアミドモノヌクレオチドの使用、並びに、加齢性難聴の予防又は改善用組成物の製造のための、ニコチンアミドモノヌクレオチドの使用も提供する。また、本発明の組成物は、前記加齢性難聴に関連又は起因する疾患や症状である、糖尿病、高脂血症等の代謝性疾患;鬱、認知症、サルコペニア、フレイルなどの予防又は改善のために用いてもよい。
【0036】
本発明に係る加齢性難聴としては、より具体的には、周波数16kHz以上の音域における聴力低下であることが好ましい。本発明者らは、ニコチンアミドモノヌクレオチドがかかる高音域における聴力の低下を特に抑制できることを見出した。本発明に係る加齢性難聴としては、周波数17kHz以上、20kHz以上、23kHz以上、又は25kHz以上の音域における聴力低下であることがより好ましい。前記聴力低下の音域の上限としては、例えば、50kHz、又は65kHzが挙げられる。これらの上限値と下限値とは適宜組み合わせることができ、本発明に係る加齢性難聴としては、16~65kHz、17~65kHz、20~65kHz、20~50kHz、23~65kHz、23~50kHz、25~65kHz、又は25~50kHzの音域における聴力低下であることがさらに好ましい。本発明の組成物としては、低音域(例えば、周波数16kHz未満(例えば15kHz以下)、17kHz未満(例えば16kHz以下)、20kHz未満(例えば19kHz以下)、23kHz未満(例えば22kHz以下)、又は25kHz未満(例えば24kHz以下))における聴力低下の予防又は改善のためにも用いてよいが、かかる用途は除外してもよい。
【0037】
本発明において、前記加齢性難聴が改善又は予防されることは、臨床的に前記音域における聴力低下が改善されたことやその発症が抑制されたことの他、例えば、本発明の組成物又はニコチンアミドモノヌクレオチドを投与前の対象又は投与しなかった群を基準として、前記音域における聴力が向上又は維持されたこと等によって確認することができる。
【0038】
<加齢性難聴の予防又は改善方法>
上記のニコチンアミドモノヌクレオチドを対象に投与することで、同対象の加齢性難聴を予防又は改善させることができる。そのため、本発明は、ニコチンアミドモノヌクレオチドの有効量を対象に投与する、加齢性難聴の予防又は改善方法(以下、場合により「本発明の方法」という)も提供する。本発明の方法は、上記の加齢性難聴に起因する各疾患又は症状の予防、治療若しくは改善、又は寛解の方法とすることもできる。
【0039】
本発明の方法は、本発明に係るニコチンアミドモノヌクレオチドの有効量を対象に投与する工程を含む。本発明の方法に係る対象としては、ヒト又は非ヒト哺乳動物が挙げられ、前記非ヒト哺乳動物としては、マウス、ヒツジ、ウシ、ブタ、ウマ、サル、イヌ、ネコ、ウサギ等が挙げられる。前記対象としては、既に加齢性難聴に罹患している者であっても、加齢性難聴の発症の予防を目的とする者であってもよい。
【0040】
本発明の方法において、ニコチンアミドモノヌクレオチドは、そのまま、より好ましくは本発明の組成物として投与することができ、前記対象に経口又は経腸で投与することが好ましい。なお、本発明において、経口投与には、前記飲食組成物や前記飼料組成物等の摂取も含む。
【0041】
本発明の方法において、ニコチンアミドモノヌクレオチドの有効量としては、投与の目的や方法;対象の種、年齢、体重、性別、疾患、症状の程度等を考慮して、個々の場合に応じて適宜決定されるものであるため、特に限定されないが、上述の本発明の組成物の用量と同じく、例えば、ヒト(好ましくは、成人)に対しては、ニコチンアミドモノヌクレオチドの量(フリー体換算、以下同じ)で、対象の体重1kgあたり、かつ、1日あたり、加齢性難聴の改善を目的とする場合には、0.5~500mgであることが好ましく、例えば、1~500mg、2~250mg、5~200mg、10~200mgであることがより好ましい。また例えば、加齢性難聴の予防を目的とする場合には、0.01~500mgであることが好ましく、0.5~200mg、0.5~100mg、1~100mg、1~50mgであることがより好ましい。本発明の方法において、投与回数は、1日1回~適当な回数に分けることができる。
【実施例0042】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0043】
<試験例1>
1.試験組成物の調製
β-ニコチンアミドモノヌクレオチド(NMN、フリー体)を電子天秤を用いて秤量し、媒体(注射用水、株式会社大塚製薬工場製)で溶解して、NMN濃度50mg/mLの試験組成物(実施例)を調製した。また、ニコチンアミドモノヌクレオチドを含有させない前記媒体のみ(NMN濃度:0mg/mL)を、対照組成物(比較例)とした。
【0044】
2.混合麻酔薬の調製
ケタラール(登録商標)筋注用500mg(ケタミン塩酸塩、第一三共プロファーマ株式会社製)を1.5mLと、セラクタール(登録商標)2%注射液(キシラジン塩酸塩、バイエル薬品株式会社製)0.5mLとを混合して、混合麻酔薬を調製した。
【0045】
3.マウス
11週齢の雄SPFマウス(系統:C57BL/6J、日本チャールズ・リバー株式会社製)を入手し、先ず、8日間の予備飼育期間を設けた。この予備飼育期間中に体重測定を3回、下記4.のABR検査を1回、一般状態(全身観察、排泄状態、歩行状態等)の観察を1日1回(計8回)行い、体重推移、ABR検査の結果、及び一般状態に異常が認められなかったマウスを群分けした。
【0046】
群分けは、前記予備飼育期間中のABR検査において、周波数16kHz、24kHz、及び32kHzにおける音圧閾値(最小可聴値)の総和が最も高いマウス2例を群分け対象から除外し、コンピュータプログラム(IBUKI、株式会社日本バイオリサーチセンター製)を用いて、体重を層別に分けた後、無作為抽出法により、各群の平均体重及び分散がほぼ等しくなるようにして、10匹ずつ、2群に群分けした。
【0047】
前記予備飼育期間及び下記5.の投与試験期間中、マウスは、環境エンリッチメント(巣作りシート及びオートクレーブ処理した床敷(ペパークリーン、日本エスエルシー株式会社製))を入れた平床式プラスチック製ケージ(幅:175mm×奥行:245mm×高さ:125mm)を用いて、1ケージあたり2匹の群飼育で、管理温度:18.0~28.0°C(実測値:22.3~24.8°C)、管理湿度:30.0~80.0%RH(実測値:40.2~63.4%RH)、明暗期:各12時間(照明:6時~18時)、換気回数:12回/時(フィルターを通した新鮮空気)の飼育条件に維持された飼育室で飼育した。
【0048】
また、前記予備飼育期間及び下記5.の投与試験期間中、マウスには、飼料として、製造後9ヵ月以内の固型飼料(Lab Diet5053(PicoLab RodentDiet 20)、日本エスエルシー株式会社製)を給餌器に入れて自由に摂取させた。また、飲料水として、水道水を給水瓶に入れて自由に摂取させた。
【0049】
4.ABR(Auditory Brainstem Response、聴性脳幹反応)検査
本試験において、ABR検査は、次の方法で行った。先ず、27G注射針(テルモ株式会社製)を取り付けたポリプロピレン製ディスポーザブル注射筒(テルモ株式会社)を用いて、上記2.で調製した混合麻酔薬を対象のマウスの背部に皮下投与(投与液量:2mL/kg)して麻酔した。麻酔後、関電極を検耳(右耳)の外耳付近の頭部皮下に、不関電極を頭頂部皮下に、アース電極を頸部皮下に、それぞれ装着した。電極からABRの電位を生体電位アンプ(Model:ER-1、Cygnus Technology Inc.製)に誘導し、データ収録・解析システム(PowerLab、Sampling soft:LabChart ver.8、ADInstruments製)に、Sampling time:10ms、Sampling rate:40kHz、Bandpass filter:1-3000Hz、加算回数:500回の記録条件で記録した。
【0050】
音刺激は、Coupler type speaker(Model:ES1spc、バイオリサーチセンター株式会社製)を右外耳道に挿入し、TDT音響システム(ZBus for system3、Tucker-Davis Technologies Inc.製)より与えた(音圧範囲:10-90dB、音の種類:16kHz、24kHz、又は32kHzのTone burst)。各周波数の音(16kHz、24kHz、32kHz)について、最初に90dBの音刺激を与えてABR波形を記録し、その後、音圧を適宜変更して、ABRの波形が消失する最大音圧とABRの波形が検出される最小音圧とを5dB刻みで確認した。ABRの波形が検出された最小音圧をその周波数の音における音圧閾値(dB SPL)とした。
【0051】
5.投与試験
上記3.で群分けしたマウスの一方の群を「対照群」とし、もう一方の群を「NMN群」とした。対照群には、上記1.で調製した対照組成物(比較例)を10mL/kg(NMN投与量:0mg/kg)となるように、NMN群には、上記1.で調製した試験組成物(実施例)を10mL/kg(NMN投与量:500mg/kg)となるように、それぞれ経口投与した。投与は、13週間(91日間)にわたって、1日1回(計91回)行った。各群のマウスに対して、投与前(12週齢)及び最終投与日の翌日(投与13週、25週齢)に、上記4.のABR検査を行い、音圧閾値(dB SPL)を測定した。
【0052】
6.ABR試験結果の解析
上記5.のABR検査で測定された各周波数の音における音圧閾値について、各群(対照群(n=10)、NMN群(n=10))及び各検査時期(投与前、投与13週)ごとに平均値及び標準誤差を算出した。下記の表1に、周波数16kHzにおける各群の投与前及び投与13週の音圧閾値の平均値及び標準偏差((dB SPL)±S.E.)を、下記の表2に、周波数24kHzにおける各群の投与前及び投与13週の音圧閾値の平均値及び標準偏差((dB SPL)±S.E.)を、下記の表3に、周波数32kHzにおける各群の投与前及び投与13週の音圧閾値の平均値及び標準偏差((dB SPL)±S.E.)を、それぞれ示す。さらに、これらのうち、周波数32kHzにおける各群の投与前及び投与13週の音圧閾値(dB SPL)の平均値及び標準偏差(エラーバー)を
図1に示す。
【0053】
【0054】
【0055】
【0056】
表1~3に示したように、対照群では、周波数16kHz、24kHz、及び32kHzのいずれの音においても、投与前と比較して投与13週で音圧閾値が上昇し、対照群において加齢性難聴が発症したことが確認された。さらに、表1~3及び
図1に示したように、周波数の高音化と共に、対照群における投与前の音圧閾値と投与13週の音圧閾値との差は増大し、周波数24kHz及び32kHzでは、投与前と比較して、投与13週における音圧閾値が有意に大きくなった(p<0.01、表2、表3、及び
図1中の「**」)。なお、各音の音圧閾値について、対照群の投与前と投与13週との間の有意差検定は、統計プログラム(SASシステム、SAS Institute Japan株式会社製)を用いて、Wilcoxonの符号付順位和検定で行なった。
【0057】
また、表1~3に示したように、周波数16kHz、24kHz、及び32kHzのいずれの音においても、投与13週において、対照群と比較してNMN群で音圧閾値が低下し、NMNの投与によって加齢性難聴の発症が抑制されたことが確認された。さらに、表1~3及び
図1に示したように、周波数の高音化と共に、投与13週における対照群の音圧閾値とNMN群の音圧閾値との差は増大し、周波数32kHzでは、対照群と比較して、NMN群における音圧閾値が有意に小さくなり(p<0.05、
図1中の「♯」)、NMNの投与によって加齢性難聴の発症が特に有意に抑制されたことが確認された。なお、各音の音圧閾値について、検査時期(投与前、投与13週)ごとの対照群とNMN群との間の有意差検定は、統計プログラム(SASシステム、SAS Institute Japan株式会社製)を用いて、Wilcoxonの順位和検定で行った。