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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154561
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】駆動力伝達制御装置
(51)【国際特許分類】
   F16D 48/02 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
F16D48/02 640D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022063965
(22)【出願日】2022-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】坂崎 広大
【テーマコード(参考)】
3J057
【Fターム(参考)】
3J057AA03
3J057BB04
3J057GA49
3J057GC11
3J057GC12
3J057GE07
3J057HH02
3J057JJ01
(57)【要約】
【課題】低温時において駆動力伝達装置の温度を上昇させることができる駆動力伝達制御装置を提供する。
【解決手段】駆動力伝達制御装置3は、第1及び第2の多板クラッチ43,44、第1及び第2の油圧室540,550に供給される作動油の油圧によって第1及び第2の多板クラッチ43,44を押圧するピストン451,461、及び第1及び第2の油圧室540,550に作動油を供給する油圧ユニット6を有する駆動力伝達装置31と、制御装置32とを備える。油圧ユニット6は、油圧ポンプ63と、電動モータ62と、第1及び第2の電磁弁65,66とを有する。制御装置32は、作動油の推定温度が暖機運転開始温度よりも低くかつ第1及び第2の油圧室540,550に作動油を供給する必要がないとき、第1及び第2の油圧室540,550への作動油の供給時とは反対側に電動モータ62を回転させると共に、第1及び第2の電磁弁65,66に通電する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のクラッチプレート間の摩擦力によって駆動力を伝達する多板クラッチ、前記多板クラッチを収容するハウジング、前記ハウジングに形成された油圧室に供給される作動油の油圧によって前記多板クラッチを押圧するピストン、及び前記油圧室に前記作動油を供給する油圧ユニットを有する駆動力伝達装置と、
前記油圧ユニットを制御する制御装置と、を備え、
前記油圧ユニットは、油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動する電動モータと、前記油圧ポンプから前記油圧室に供給される前記作動油の油圧を調節する電磁弁とを有し、
前記制御装置は、前記作動油の推定温度が所定の暖機運転開始温度よりも低くかつ前記油圧室に前記作動油を供給する必要がないとき、前記油圧室への前記作動油の供給時とは反対側に前記電動モータを回転させると共に前記電磁弁に通電して前記作動油の温度を上昇させる暖機運転を行う、
駆動力伝達制御装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記作動油の推定温度が所定の暖機運転終了温度よりも高くなるまで、又は前記暖機運転の開始から所定時間が経過するまで、前記暖機運転を行う、
請求項1に記載の駆動力伝達制御装置。
【請求項3】
前記駆動力伝達装置は、車両の駆動源の駆動力を車輪側に伝達する駆動力伝達経路に設けられ、
前記制御装置は、少なくとも前記車両の起動時において前記作動油の推定温度が前記暖機運転開始温度よりも低い発進前の状態であるときに前記暖機運転を行い、前記車両の発進時に前記電動モータの回転方向を反転させて前記油圧室に前記作動油を供給する、
請求項2に記載の駆動力伝達制御装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記車両の発進に向けた運転者の操作、又は前記車両を統括的に制御する統括制御装置からの指令があったとき、前記作動油の推定温度が前記暖機運転終了温度よりも低く、又は前記暖機運転の開始から前記所定時間が経過していなくても、前記電動モータの回転方向を反転させて前記油圧室に前記作動油を供給する、
請求項3に記載の駆動力伝達制御装置。
【請求項5】
前記駆動力伝達装置は、複数の駆動源を有する車両における何れかの駆動源の駆動力を車輪側に伝達する駆動力伝達経路に設けられ、
前記制御装置は、少なくとも前記車両の起動時における前記作動油の推定温度が前記暖機運転開始温度よりも低い発進前の状態であるときに前記暖機運転を行い、前記複数の駆動源のうち他の駆動源の駆動力による前記車両の走行時においても前記作動油の推定温度が前記暖機運転終了温度以下であれば前記暖機運転を行う、
請求項2に記載の駆動力伝達制御装置。
【請求項6】
前記駆動力伝達装置は、前記作動油を貯留するリザーバタンクを有し、
前記リザーバタンクに前記電磁弁の少なくとも一部、及び前記電動モータの少なくとも一部が配置されている、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の駆動力伝達制御装置。
【請求項7】
前記制御装置は、前記暖機運転時に前記電磁弁の定格電流値の電流を前記電磁弁に供給する、
請求項1乃至5の何れか1項に記載の駆動力伝達制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油圧式の駆動力伝達制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、例えば前輪及び後輪を駆動することが可能な4輪駆動車には、駆動源の駆動力を多板クラッチを介して車輪側に伝達する駆動力伝達装置が搭載されたものがある。本出願人は、このような駆動力伝達装置として、特許文献1に記載のものを提案している。
【0003】
特許文献1に記載の駆動力伝達装置は、潤滑油によってクラッチプレート間の摩擦摺動が潤滑される多板クラッチと、多板クラッチを収容するハウジングと、ハウジングに形成された油圧室に供給される作動油の油圧によって多板クラッチを押圧するピストンと、油圧室に作動油を供給する油圧ユニットと、油圧ユニットを制御する制御装置とを備えている。油圧ユニットは、油圧ポンプと、油圧ポンプを駆動する電動モータと、油圧ポンプから油圧室に供給される作動油の油圧を調節する電磁弁とを備えている。制御装置は、油圧ユニットの動作に基づく温度推定の結果に基づいて油圧ユニットの制御量を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-63535号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の駆動力伝達装置では、低温時において潤滑油の粘性が高いと多板クラッチによって大きな駆動力が伝達されやすくなるので、低温時には常温時や高温時に比較して電動モータの回転速度を低下させる。しかし、低回転時には電動モータの回転速度を高い精度で制御することが難しくなり、ハンチング等によって異音が発生してしまうおそれがある。本願の発明者は、低温時における車両の発進前に駆動力伝達装置の温度を上げることができれば、上記の問題を解決し得るとの着想を得て本発明をなすに至った。すなわち、本発明の目的は、低温時において駆動力伝達装置の温度を上昇させることができる駆動力伝達制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記の目的を達成するため、複数のクラッチプレート間の摩擦力によって駆動力を伝達する多板クラッチ、前記多板クラッチを収容するハウジング、前記ハウジングに形成された油圧室に供給される作動油の油圧によって前記多板クラッチを押圧するピストン、及び前記油圧室に前記作動油を供給する油圧ユニットを有する駆動力伝達装置と、前記油圧ユニットを制御する制御装置と、を備え、前記油圧ユニットは、油圧ポンプと、前記油圧ポンプを駆動する電動モータと、前記油圧ポンプから前記油圧室に供給される前記作動油の油圧を調節する電磁弁とを有し、前記制御装置は、前記作動油の推定温度が所定の暖機運転開始温度よりも低くかつ前記油圧室に前記作動油を供給する必要がないとき、前記油圧室への前記作動油の供給時とは反対側に前記電動モータを回転させると共に前記電磁弁に通電して前記作動油の温度を上昇させる暖機運転を行う、駆動力伝達制御装置を提供する。
【発明の効果】
【0007】
本発明に係る駆動力伝達制御装置によれば、低温時において駆動力伝達装置の温度を上昇させることができる。また、駆動力伝達装置の温度を上昇させることにより、例えば油圧ポンプを駆動する電動モータの制御性を向上させることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る駆動装置が搭載された4輪駆動車の概略の構成例を示す模式図である。
図2】駆動装置の構成例を示す断面図である。
図3】油圧ユニットの構成例を示し、(a)は外観図、(b)は一部の構成を破線で示す(a)のA矢視図である。
図4】第1の電磁弁の構成例を示す断面図である。
図5】(a)は、第4のハウジング部材を示す斜視図である。(b)は、第5のハウジング部材を示す斜視図である。
図6】(a)は、作動油の温度と動粘度との関係の一例を示すグラフである。(b)は、暖機運転の経過時間と作動油の温度との関係を示すグラフである。
図7】本発明の第2の実施の形態に係る4輪駆動車の概略の構成例を示す模式図である。
図8】本発明の第3の実施の形態に係る4輪駆動車の概略の構成例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態について、図1乃至図6を参照して説明する。なお、以下に説明する実施の形態は、本発明を実施する上での好適な具体例として示すものであり、技術的に好ましい種々の技術的事項を具体的に例示している部分もあるが、本発明の技術的範囲は、この具体的態様に限定されるものではない。
【0010】
(4輪駆動車の構成)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る駆動装置が搭載された4輪駆動車の概略の構成例を示す模式図である。この4輪駆動車1は、主駆動輪である右前輪101及び左前輪102が駆動源としてのエンジン11の駆動力によって駆動され、補助駆動輪である右後輪103及び左後輪104が駆動装置10によって駆動される。右前輪101及び左前輪102ならびに右後輪103及び左後輪104には、それぞれ車輪速センサが対応して取り付けられている。
【0011】
エンジン11の駆動力は、トランスミッション12からフロントディファレンシャル装置13に伝達され、フロントディファレンシャル装置13から左右のドライブシャフト141,142を介して右前輪101及び左前輪102に配分される。右後輪103及び左後輪104には、駆動装置10から左右のドライブシャフト151,152を介して駆動力が伝達される。なお、右前輪101及び左前輪102を駆動する駆動源としては、高出力型の電動モータを用いてもよく、エンジンと高出力型の電動モータとを組み合わせた所謂ハイブリッド型のものを用いてもよい。
【0012】
フロントディファレンシャル装置13は、デフケース131と、デフケース131に固定されたピニオンシャフト132と、ピニオンシャフト132に支承された一対のピニオンギヤ133と、一対のピニオンギヤ133に噛み合わされた左右のサイドギヤ134,135とを有している。右側のサイドギヤ134には、右側のドライブシャフト141が相対回転不能に連結され、左側のサイドギヤ135には、左側のドライブシャフト142が相対回転不能に連結されている。
【0013】
駆動装置10は、右後輪103及び左後輪104を駆動する駆動源としての駆動モータ2と、駆動モータ2の出力軸21の回転を減速する減速機構20と、駆動モータ2を制御するモータコントローラ200と、減速機構20を経て伝達される駆動モータ2の駆動力を左右のドライブシャフト151,152に配分して伝達する駆動力伝達制御装置3とを備えている。
【0014】
駆動力伝達制御装置3は、駆動力伝達装置31及び制御装置32を備えている。駆動力伝達装置31は、第1及び第2の多板クラッチ43,44を有する駆動力配分機構4と、駆動力配分機構4を収容するハウジング5と、駆動力配分機構4に作動油を供給する油圧ユニット6とを備えている。制御装置32は、油圧ユニット6を制御する。
【0015】
このように、4輪駆動車1は、複数の駆動源(エンジン11及び駆動モータ2)を有しており、駆動力伝達装置31は、複数の駆動源の一つである駆動モータ2の駆動力を右後輪103及び左後輪104に伝達する駆動力伝達経路に設けられている。
【0016】
エンジン11は、エンジン制御装置110によって制御される。エンジン制御装置110、モータコントローラ200、及び制御装置32は、4輪駆動車1を統括的に制御する統括制御装置100との通信が可能である。エンジン制御装置110は、統括制御装置100からの指令を受けてエンジン11を制御し、モータコントローラ200は、統括制御装置100からの指令を受けて駆動モータ2を制御する。制御装置32は、統括制御装置100から各種の車両状態の情報を取得可能である。この車両状態の情報には、例えば外気温の情報や、アクセル開度の情報、右前輪101及び左前輪102ならびに右後輪103及び左後輪104の回転速度の情報などが含まれる。
【0017】
(駆動力伝達装置の構成)
図2は、駆動力伝達装置31の構成例を示す断面図である。図2では、図面左側が4輪駆動車1の車両左側にあたり、図面右側が4輪駆動車1の車両右側にあたる。ハウジング5は、ダイキャスト成形されたアルミニウム合金からなる第1乃至第5のハウジング部材51~55を有しており、第1乃至第5のハウジング部材51~55が複数のボルトによって相互に固定されている。ハウジング5は、4輪駆動車1の車体に固定されている。
【0018】
駆動モータ2は、モータコントローラ200からモータ電流が供給される電動モータであり、中空管状に形成された出力軸21と、出力軸21と一体に回転するロータ22と、ロータ22の外周に配置されたステータ23と、出力軸21の回転を検出する回転センサ24とを有している。ロータ22は、ロータコア221と、ロータコア221に固定された複数の永久磁石222とを有している。ステータ23は、ステータコア231と、ステータコア231に巻き回された複数相の巻線232とを有している。出力軸21の内側には、駆動力配分機構4の第1の出力回転部材41が挿通されている。複数相の巻線232には、モータコントローラ200から例えば三相交流のモータ電流が供給され、モータ電流の大きさに応じたトルクでロータ22がステータ23に対して回転する。
【0019】
減速機構20は、駆動モータ2の出力軸21の端部に外嵌された筒状のピニオンギヤ201と、大径歯車部202a及び小径歯車部202bを有する減速歯車202と、小径歯車部202bに噛み合うリングギヤ203とを有して構成されている。ピニオンギヤ201は、出力軸21にスプライン嵌合して出力軸21と一体に回転し、外周に形成されたギヤ部201aが減速歯車202の大径歯車部202aと噛み合っている。駆動モータ2の駆動力は、リングギヤ203から駆動力配分機構4の入力回転部材40に入力される。
【0020】
駆動力配分機構4は、減速機構20を介して駆動モータ2の駆動力を受ける入力回転部材40と、入力回転部材40と同軸上で相対回転可能な第1及び第2の出力回転部材41,42と、入力回転部材40と第1の出力回転部材41との間に配置された第1の多板クラッチ43と、入力回転部材40と第2の出力回転部材42との間に配置された第2の多板クラッチ44と、第1の多板クラッチ43を押圧する第1の押圧機構45と、第2の多板クラッチ44を押圧する第2の押圧機構46とを備えている。
【0021】
また、本実施の形態では、第1の多板クラッチ43と第1の出力回転部材41との間に第1のクラッチハブ47が介在して配置され、第2の多板クラッチ44と第2の出力回転部材42との間に第2のクラッチハブ48が介在して配置されている。第1の出力回転部材41は、第1のクラッチハブ47にスプライン嵌合され、第1のクラッチハブ47と一体に回転する。第2の出力回転部材42は、第2のクラッチハブ48にスプライン嵌合され、第2のクラッチハブ48と一体に回転する。第1のクラッチハブ47と第2のクラッチハブ48との間には、スラスト軸受49が配置されている。
【0022】
入力回転部材40、第1の出力回転部材41及び第2の出力回転部材42は、車両左右方向に沿った回転軸線Oを中心として互いに相対回転可能である。第1の多板クラッチ43及び第2の多板クラッチ44は、ハウジング5に封入された潤滑油によって後述するクラッチプレート同士の摩擦摺動が潤滑される湿式の多板クラッチである。駆動装置10には、各部の回転を円滑にする転がり軸受551~559、及び潤滑油の漏出や異物の侵入を防ぐシール部材561~563が適所に配置されている。以下、回転軸線Oに平行な方向を軸方向という。
【0023】
入力回転部材40は、第1のクラッチハブ47の外周に配置された第1のクラッチドラム401と、第2のクラッチハブ48の外周に配置された第2のクラッチドラム402と、第1のクラッチドラム401と第2のクラッチドラム402との間に配置されたセンタープレート403と、複数のボルト404とを有している。複数のボルト404は、第1のクラッチドラム401、第2のクラッチドラム402、及びセンタープレート403を相対回転不能に連結すると共に、これらをリングギヤ203に固定している。図2では、複数のボルト404のうち一本のボルト404を図示している。
【0024】
第1の多板クラッチ43は、第1のクラッチドラム401と共に回転する複数の第1のアウタクラッチプレート431と、第1のクラッチハブ47と共に回転する複数の第1のインナクラッチプレート432とを有し、複数の第1のアウタクラッチプレート431と複数の第1のインナクラッチプレート432とが軸方向に沿って交互に配置されている。複数の第1のアウタクラッチプレート431は、第1のクラッチドラム401とのスプライン係合により、第1のクラッチドラム401に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。複数の第1のインナクラッチプレート432は、第1のクラッチハブ47とのスプライン係合により、第1のクラッチハブ47に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。
【0025】
第1の多板クラッチ43は、複数の第1のアウタクラッチプレート431と複数の第1のインナクラッチプレート432との間の摩擦力によって第1のクラッチドラム401から第1のクラッチハブ47に駆動力を伝達する。複数の第1のアウタクラッチプレート431と複数の第1のインナクラッチプレート432とは、第1のクラッチハブ47に形成された複数の潤滑油導入孔470から導入される潤滑油によって摩擦摺動が潤滑される。
【0026】
第2の多板クラッチ44は、第2のクラッチドラム402と共に回転する複数の第2のアウタクラッチプレート441と、第2のクラッチハブ48と共に回転する複数の第2のインナクラッチプレート442とを有し、複数の第2のアウタクラッチプレート441と複数の第2のインナクラッチプレート442とが軸方向に沿って交互に配置されている。複数の第2のアウタクラッチプレート441は、第2のクラッチドラム402とのスプライン係合により、第2のクラッチドラム402に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。複数の第2のインナクラッチプレート442は、第2のクラッチハブ48とのスプライン係合により、第2のクラッチハブ48に対して軸方向移動可能かつ相対回転不能である。
【0027】
第2の多板クラッチ44は、複数の第2のアウタクラッチプレート441と複数の第2のインナクラッチプレート442との間の摩擦力によって第2のクラッチドラム402から第2のクラッチハブ48に駆動力を伝達する。複数の第2のアウタクラッチプレート441と複数の第2のインナクラッチプレート442とは、第2のクラッチハブ48に形成された複数の潤滑油導入孔480から導入される潤滑油によって摩擦摺動が潤滑される。
【0028】
第1の押圧機構45は、油圧ユニット6から供給される油圧を受けるリング状のピストン451と、ピストン451と軸方向に並んで配置されたスラストころ軸受452と、スラストころ軸受452を介してピストン451の押圧力を受ける押圧部材453と、第1のクラッチドラム401の内側に配置された押圧プレート454と、押圧部材453に当接するリターンスプリング455とを有している。
【0029】
ピストン451は、第5のハウジング部材55に環状に形成された第1の油圧室550に軸方向の一部が収容され、油圧ユニット6から第1の油圧室550に供給される作動油の圧力によって第1の多板クラッチ43を押圧する。押圧部材453は、円環状に形成された環状部453aと、環状部453aから第1の多板クラッチ43側に向かって軸方向に突出した複数の柱状の押圧突起453bとを一体に有している。複数の押圧突起453bは、第1のクラッチドラム401に形成された貫通孔401aにそれぞれ挿通されており、先端部が押圧プレート454に当接している。リターンスプリング455は、環状部453aに当接して押圧部材453を第5のハウジング部材55側に向かって付勢している。
【0030】
第2の押圧機構46は、油圧ユニット6から供給される油圧を受けるリング状のピストン461と、ピストン461と軸方向に並んで配置されたスラストころ軸受462と、スラストころ軸受462を介してピストン461の押圧力を受ける押圧部材463と、第2のクラッチドラム402の内側に配置された押圧プレート464と、押圧部材463に当接するリターンスプリング465とを有している。
【0031】
ピストン461は、第4のハウジング部材54に環状に形成された第2の油圧室540に軸方向の一部が収容され、油圧ユニット6から第2の油圧室540に供給される作動油の圧力によって第2の多板クラッチ44を押圧する。押圧部材463は、円環状に形成された環状部463aと、環状部463aから第2の多板クラッチ44側に向かって軸方向に突出した複数の柱状の押圧突起463bとを一体に有している。複数の押圧突起463bは、第2のクラッチドラム402に形成された貫通孔402aにそれぞれ挿通されており、先端部が押圧プレート464に当接している。リターンスプリング465は、環状部463aに当接して押圧部材463を第4のハウジング部材54側に向かって付勢している。
【0032】
図3は、油圧ユニット6の構成例を示し、(a)は外観図、(b)は一部の構成を破線で示す(a)のA矢視図である。油圧ユニット6は、ケース61と、制御装置32から供給される電流に応じたトルクを発生するポンプ駆動用の電動モータ62と、電動モータ62によって回転駆動される油圧ポンプ63と、リリーフ弁64と、第1及び第2の電磁弁65,66と、制御装置32との電気的な接続のためのコネクタ67とを有している。
【0033】
ケース61は、例えばダイキャスト成形されたアルミニウム合金からなり、第4のハウジング部材54に取り付けられている。ケース61は、第1のケース部材611と第2のケース部材612とを有し、第1のケース部材611と第2のケース部材612とが不図示のボルトによって締結されている。図3(a)では、第2のケース部材612の輪郭を仮想線(二点鎖線)で示し、ケース61の内部に配置された電動モータ62、油圧ポンプ63、ならびに第1及び第2の電磁弁65,66の一部を示している。第1のケース部材611と第2のケース部材612との間には、作動油を貯留するリザーバタンク60が設けられている。
【0034】
電動モータ62は、制御装置32からU相,V相,及びW相の各相電流が供給される三相モータであり、供給される相電流に応じた大きさのトルクを発生して油圧ポンプ63を駆動する。また、電動モータ62は、複数のホールICによって検出される回転子の磁界の強度によって回転子の回転角を検出するホールIC式の回転センサを有しており、制御装置32がこの回転センサの信号によって電動モータ62の回転子の回転角及び回転速度を検出可能である。
【0035】
油圧ポンプ63は、作動油をケース61内のリザーバタンク60から汲み上げて吐出する。本実施の形態では、油圧ポンプ63が外接ギヤポンプであり、図3(b)に示すように、電動モータ62のトルクによって回転する駆動ギヤ631と、駆動ギヤ631に噛み合って回転する従動ギヤ632とを有している。図3(b)では、第1及び第2の油圧室550,540に作動油を供給する際の駆動ギヤ631の回転方向を矢印Bで示している。なお、油圧ポンプ63としては、外接ギヤポンプに限らず、例えば内接ギヤポンプを用いてもよいし、ベーンポンプを用いてもよい。リリーフ弁64は、吐出された作動油の一部をリザーバタンク60に還流させる固定絞り弁である。
【0036】
第1の電磁弁65は、油圧ポンプ63から第1の油圧室550に至る経路に配置されている。第2の電磁弁66は、油圧ポンプ63から第2の油圧室540に至る経路に配置されている。第1及び第2の電磁弁65,66は、第1及び第2の油圧室550,540にそれぞれ供給される作動油の圧力を調節する圧力制御弁であり、その弁開度が制御装置32から供給される電流に応じて変化する。
【0037】
図4は、第1の電磁弁65の構成例を示す断面図である。なお、第2の電磁弁66も同一の構成を有している。第1の電磁弁65は、第1のケース部材611に形成された収容穴610に収容された筒状のスリーブ71と、スリーブ71に形成された弁孔710内で軸方向に移動する弁体としてのスプール72と、ケース61から突出した電磁ソレノイド73とを有している。図4では、弁孔710の中心軸線Cを一点鎖線で示し、中心軸線Cよりも図面下側にスプール72が軸方向一側に移動した状態を示し、中心軸線Cよりも図面上側にスプール72の軸方向他側に移動した状態を示している。
【0038】
スリーブ71には、油圧ポンプ63から吐出された作動油が供給される供給ポート711、第1の油圧室550に作動油を出力する出力ポート712、及びリザーバタンク60に作動油を戻す排出ポート713が形成されている。スプール72には、弁孔710の内周面に僅かな隙間を介して対向する第1乃至第4のランド721~724が形成されている。スリーブ71は、電磁ソレノイド73とは反対側の端部が蓋体74によって閉塞されており、この蓋体74とスプール72との間にコイルばね75が圧縮された状態で配置されている。
【0039】
電磁ソレノイド73は、制御装置32から供給される電流により磁力を発生させる電磁コイル731と、電磁コイル731の磁力によってスプール72を蓋体74側に押圧するプランジャ732と、電磁コイル731及びプランジャ732を収容するソレノイドハウジング733と、プランジャ732とスプール72の間に介在して配置されたシャフト734とを備えている。スプール72は、シャフト734を介して受けるプランジャ732の押圧力と、コイルばね75から受けるばね力とが釣り合う位置に定位する。
【0040】
電磁コイル731に供給される電流が変化すると、弁孔710内でのスプール72の位置が変わり、供給ポート711と出力ポート712との間の作動油の流路面積、及び出力ポート712と排出ポート713との間の作動油の流路面積が変化する。これにより、出力ポート712から出力される作動油の圧力が変化する。換言すれば、制御装置32は、第1の電磁弁65の電磁コイル731に供給する電流の増減により、第1の油圧室550における作動油の圧力を制御することが可能である。同様に、制御装置32は、第2の電磁弁66の電磁コイル731に供給する電流の増減により、第2の油圧室540における作動油の圧力を制御することが可能である。
【0041】
油圧ユニット6から第1の油圧室550に作動油が供給されると、第1の押圧機構45のピストン451が作動油の圧力に応じた押圧力で第1の多板クラッチ43をセンタープレート403に向かって押圧する。第1の多板クラッチ43によって入力回転部材40から第1の出力回転部材41に伝達される駆動力の大きさは、第1の油圧室550に供給される作動油の圧力に応じて変化する。
【0042】
また、油圧ユニット6から第2の油圧室540に作動油が供給されると、第2の押圧機構46のピストン461が作動油の圧力に応じた押圧力で第2の多板クラッチ44をセンタープレート403に向かって押圧する。第2の多板クラッチ44によって入力回転部材40から第2の出力回転部材42に伝達される駆動力の大きさは、第2の油圧室540に供給される作動油の圧力に応じて変化する。
【0043】
図5(a)は、第4のハウジング部材54を示す斜視図である。図5(b)は、第5のハウジング部材55を示す斜視図である。図5(a)では、図面右側が車両前方側にあたり、図面左側が車両後方側にあたる。図5(b)では、図面右側が車両後方側にあたり、図面左側が車両前方側にあたる。また、図5(a)及び(b)において、図面上側は鉛直方向上方側にあたり、図面下側は鉛直方向下方側にあたる。
【0044】
図5(a)及び(b)では、油圧ユニット6から第1の油圧室550に作動油を導く第1の油路501、及び油圧ユニット6から第2の油圧室540に作動油を導く第2の油路502を破線で示している。なお、図2では、第1の油路501及び第2の油路502をクロスハッチングにより模式的に示している。
【0045】
第1の油路501は、第4のハウジング部材54に形成された第1油孔541及び第2油路542と、第5のハウジング部材55に形成された第3油孔551及び第4油孔552とからなる。第1油孔541は、油圧ユニット6に連結されて第1の電磁弁65から出力された作動油が導入される導入口501aを有し、導入口501aから車両前方に延びている。第2油孔542は、第1油孔541に連通して車両右側に延びている。第3油孔551は、第2油孔542に連通してさらに車両右側に延び、第4油孔552の下端部と連通している。第4油孔552は、第3油孔551と連通して上方に延び、その上端部が第1の油圧室550に開口する導出口501bとなっている。
【0046】
第2の油路502は、第4のハウジング部材54に形成された第5乃至第7油孔543~545からなる。第5油孔543は、油圧ユニット6に連結されて第2の電磁弁66から出力された作動油が導入される導入口502aを有し、導入口502aから車両前方に延びている。第6油孔544は、第5油孔543及び第7油孔545と交差して車両左右方向に延在している。第7油孔545は、第5油孔543と平行して車両前後方向に延在し、車両前方側の端部が第2の油圧室540に開口する導出口502bとなっている。第6油孔544及び第7油孔545の一端部は、それぞれ球状の栓体572,573(図2参照)によって閉塞されている。
【0047】
第1及び第2の多板クラッチ43,44を潤滑する潤滑油と、第1及び第2の押圧機構45,46を作動させる作動油とは、互いに交ざり合わないように分離されている。図5(a)に示すように、第4のハウジング部材54の下端部は、潤滑油が溜まる油溜まり546となっており、第1油孔541及び第2油孔542ならびに第5乃至第7油孔543~545は、油溜まり546の近傍に形成されている。第1油孔541及び第2油孔542ならびに第5乃至第7油孔543~545は、入力回転部材40や第1及び第2の出力回転部材41,42の回転が停止した静止時における潤滑油の油面よりも下方に形成されている。これにより、潤滑油と作動油との間で熱交換が行われるようになっている。
【0048】
例えば-5℃以下の低温時には、第1及び第2の多板クラッチ43,44を潤滑する潤滑油、及び第1及び第2の押圧機構45,46を作動させる作動油の粘度が高くなる。潤滑油の粘性が高くなると、アウタクラッチプレート431,441とインナクラッチプレート432,442との間で伝達される駆動力が潤滑油の粘性によって大きくなるため、例えば常温時や高温時に比較して油圧ユニット6の電動モータ62の回転速度を低くし、車両走行状態に応じた適切な大きさの駆動力が入力回転部材40と第1及び第2の出力回転部材41,42との間で伝達されるように調整を行う。しかし、低回転時には電動モータ62の回転速度を高い精度で制御することが難しくなり、ハンチング等によって異音が発生してしまうおそれがある。
【0049】
そこで、本実施の形態では、制御装置32が油圧ユニット6の電動モータ62ならびに第1及び第2の電磁弁65,66に電流を供給し、暖機運転を行う。具体的には、作動油の推定温度が所定の暖機運転開始温度よりも低くかつ第1及び第2の油圧室550,540に作動油を供給する必要がないとき、第1及び第2の油圧室550,540への作動油の供給時とは反対側に電動モータ62を回転させると共に、第1及び第2の電磁弁65,66に通電して作動油の温度を上昇させる暖機運転を行う。
【0050】
また、本実施の形態では、電動モータ62ならびに第1及び第2の電磁弁65,66の熱が作動油に伝わりやすいように、電動モータ62の少なくとも一部、及び第1及び第2の電磁弁65,66の少なくとも一部がリザーバタンク60内に配置されている。第1及び第2の電磁弁65,66は、電磁ソレノイド73の一部又は全部がリザーバタンク60内に配置されているとよい。本実施の形態では、図3(a)及び(b)に示すように、第1及び第2の電磁弁65,66の電磁ソレノイド73が第1のケース部材611におけるリザーバタンク60の内面611aから突出しており、電磁ソレノイド73の全体がリザーバタンク60内に配置されている。図3(b)では、電動モータ62が停止しているときのリザーバタンク60内の作動油Fの油面FSを図示している。
【0051】
制御装置32は、暖機運転時に第1及び第2の電磁弁65,66の定格電流値の電流を第1及び第2の電磁弁65,66に供給する。定格電流値として、瞬時定格電流値と連続定格電流値が設定されている場合には、瞬時定格電流値の電流を流すことが可能な許容時間までは瞬時定格電流値の電流を第1及び第2の電磁弁65,66に供給し、それ以降は連続定格電流値の電流を第1及び第2の電磁弁65,66に供給することが望ましい。
【0052】
なお、暖機運転時には、電動モータ62及び油圧ポンプ63が第1及び第2の油圧室550,540への作動油の供給時とは反対側に回転するので、第1及び第2の電磁弁65,66に電流を供給しても、第1及び第2の油圧室550,540に作動油が供給されることはない。暖機運転時には、油圧ポンプ63がリザーバタンク60内の作動油をリリーフ弁64を介して吸入し、リザーバタンク60に吐出する。このため、リザーバタンク60内における作動油Fの油面FSの位置がリリーフ弁64の位置よりも高くなるように、作動油の量が設定されている。暖機運転の開始時に第1及び第2の油圧室550,540に作動油が溜まっている場合には、油圧ポンプ63が第1及び第2の油圧室550,540内の作動油を第1及び第2の電磁弁65,66の出力ポート712から供給ポート711を経て吸入する。
【0053】
また、油圧ポンプ63は、第1及び第2の油圧室550,540のスプール72と弁孔710との間の僅かな隙間を経て排出ポート713から供給ポート711に流れる作動油をも吸入可能である。なお、リリーフ弁64と並列に、暖機運転時に油圧ポンプ63がリザーバタンク60から作動油を吸入するためのチェック弁を配置してもよい。
【0054】
制御装置32は、少なくとも、4輪駆動車1の起動時において作動油の推定温度が所定の暖機運転開始温度よりも低い発進前の状態であるときに暖機運転を行う。ここで、4輪駆動車1の起動時とは、具体的にはイグニッションスイッチがオン状態となった時、もしくはイグニッションスイッチに相当する車両の起動スイッチがオン状態となった時のことをいう。ただし、制御装置32は、発進前に限らず、4輪駆動車1の発進後においても、作動油の推定温度が暖機運転開始温度よりも低くかつ第1及び第2の油圧室550,540に作動油を供給する必要がない状態であれば、暖機運転を行ってもよい。
【0055】
暖機運転開始温度は、作動油や潤滑油の粘性が電動モータ62の制御性に影響を与える程度に高くなる、例えば-5℃以下の温度である。制御装置32は、例えば外気温センサや、エンジン11の冷却水あるいは駆動モータ2の温度を測定する温度センサの検出値などに基づいて、作動油の温度を推定する。また、駆動力伝達装置31に温度センサが取り付けられている場合には、その温度センサの検出値に基づいて作動油の温度を推定してもよい。
【0056】
制御装置32は、4輪駆動車1の発進時には、電動モータ62の回転方向を暖機運転時とは反転させて第1及び第2の油圧室550,540に作動油を供給する。これにより、特に車輪のスリップが発生しやすい低温環境での発進時に4輪駆動車1を4輪駆動状態とし、安定した発進を行いやすくすることができる。
【0057】
制御装置32は、作動油の推定温度が所定の暖機運転終了温度よりも高くなるまで、又は暖機運転の開始から所定時間が経過するまで、暖機運転を継続して行う。暖機運転終了温度は、暖機運転開始温度よりも高い温度に設定されており、例えば0℃である。所定時間は、例えば作動油の温度が-20℃である状態から作動油の温度を0℃まで暖機運転によって上昇させることが可能な時間である。
【0058】
また、制御装置32は、暖機運転中に4輪駆動車1の発進に向けた運転者の操作、又は統括制御装置100からの指令があったとき、作動油の推定温度が暖機運転終了温度よりも低く、又は暖機運転の開始から所定時間が経過していなくても、電動モータ62の回転方向を反転させて第1及び第2の油圧室550,540に作動油を供給する。4輪駆動車1の発進に向けた運転者の操作とは、例えばアクセルペダルが踏み込み操作や、パーキングブレーキの解除操作、もしくはシフトレバーをパーキングレンジからドライブレンジにシフトする操作である。制御装置32は、これらの情報を、例えば統括制御装置100から、もしくは車内通信ネットワークから取得することができる。なお、4輪駆動車1は、自動運転車であってもよく、4輪駆動車1が自動運転車である場合には、制御装置32が統括制御装置100からの指令によって電動モータ62の回転方向を反転させ、第1及び第2の油圧室550,540に前記作動油を供給する。
【0059】
図6(a)は、作動油の温度と動粘度との関係の一例を示すグラフである。作動油の動粘度は、温度が低くなるほど高くなり、0℃以下では特に急激に動粘度が増大する。図6(b)は、暖機運転の経過時間と作動油の温度との関係を示すグラフである。図6(b)のグラフでは、一般的な電磁弁を用いた場合の作動油の温度の変化を実線で示し、電磁コイルの巻線を細径化すると共に巻線の長さを長くした高発熱用の電磁弁を用いた場合の作動油の温度の変化を破線で示している。作動油の温度は、時間の経過と共に上昇し、高発熱用の電磁弁を用いた場合には、より短時間で作動油の温度を-20℃から0℃に上昇させることができる。
【0060】
(第1の実施の形態の効果)
以上説明した本発明の第1の実施の形態によれば、4輪駆動車1の走行に影響を与えることなく、低温時において駆動力伝達装置31の温度を上昇させることができる。また、油圧ポンプ63を駆動する電動モータ62の制御性を向上させることが可能となる。これにより、例えば電動モータ62のハンチングによって異音が発生してしまうこと等を抑制することができる。
【0061】
[第1の実施の形態の変形例]
上記の第1の実施の形態では、暖機運転中に4輪駆動車1の発進に向けた運転者の操作、又は統括制御装置100からの指令があったとき、作動油の推定温度が暖機運転終了温度よりも低く、又は暖機運転の開始から所定時間が経過していなくても、電動モータ62の回転方向を反転させて第1及び第2の油圧室550,540に前記作動油を供給する場合について説明したが、本変形例では、エンジン11の駆動力による4輪駆動車1の2輪駆動状態での走行時においても、作動油の推定温度が暖機運転終了温度以下、又は暖機運転の開始から所定時間が経過していなければ、暖機運転を行う。
【0062】
つまり、本変形例では、4輪駆動車1の起動時において作動油の推定温度が暖機運転開始温度よりも低い発進前の状態であるときに暖機運転を開始した後、4輪駆動車1がエンジン11の駆動力により2輪駆動状態で走行する場合には、作動油の推定温度が暖機運転終了温度よりも高くなるまで、又は暖機運転の開始から所定時間が経過するまで、暖機運転を継続して行う。
【0063】
これにより、4輪駆動車1の発進時において作動油の温度が十分に上昇していない場合でも、2輪駆動状態での走行中に所定の暖機運転終了条件が満たされるまでは暖機運転が継続して行われるので、より確実に作動油の温度を上昇させることができる。
【0064】
[第2の実施の形態]
図7は、本発明の第2の実施の形態に係る4輪駆動車1Aの概略の構成例を示す模式図である。4輪駆動車1Aは、車両前後方向に延在するプロペラシャフト81と、フロントディファレンシャル装置13のデフケース131とプロペラシャフト81との間に配置された噛み合いクラッチ装置82と、噛み合いクラッチ装置82及びプロペラシャフト81を介して伝達されるエンジン11の駆動力を右後輪103及び左後輪104に配分する駆動力配分装置9とを有している。
【0065】
駆動力配分装置9は、駆動力伝達制御装置3Aと、入力ギヤ機構91とを有している。駆動力伝達制御装置3Aは、駆動力伝達装置31Aと制御装置32とを有している。駆動力伝達装置31Aは、入力ギヤ機構91を介して伝達される駆動力を受ける入力回転部材40Aを有している。駆動力伝達装置31Aは、入力回転部材40Aの形状が第1の実施の形態に係る入力回転部材40と異なる他は、第1の実施の形態に係る駆動力伝達装置31と同様に構成されている。
【0066】
噛み合いクラッチ装置82は、デフケース131と一体に回転する第1回転部材821と、第1回転部材821と同軸上に並んで配置された第2回転部材822と、第2回転部材822と一体に回転するリングギヤ823と、リングギヤ823に噛み合わされた出力ピニオンギヤ824と、第1回転部材821と第2回転部材822とを相対回転不能に連結することが可能なスリーブ825と、スリーブ825を進退移動させるアクチュエータ826とを有している。スリーブ825は、アクチュエータ826より、第1回転部材821及び第2回転部材822に噛み合う前進位置と、第2回転部材822にのみ噛み合う後退位置との間を移動する。スリーブ825が前進位置にあるとき、第1回転部材821と第2回転部材822とが相対回転不能に連結され、スリーブ825が後退位置にあるとき、第1回転部材821と第2回転部材822とが相対回転自在となる。
【0067】
駆動力配分装置9の入力ギヤ機構91は、入力ピニオンギヤ911と、入力ピニオンギヤ911に噛み合わされたリングギヤ912と、リングギヤ912と一体に回転する円筒状の中空シャフト913とを有している。中空シャフト913には、その中心部に第1の出力回転部材41が挿通されると共に、駆動力伝達装置31Aの入力回転部材40Aが相対回転不能に固定されている。
【0068】
プロペラシャフト81は、車両前後方向の前側及び後側の両端部にユニバーサルジョイント811,812が取り付けられている。前側のユニバーサルジョイント811は、プロペラシャフト81と噛み合いクラッチ装置82の出力ピニオンギヤ824とを連結し、後側のユニバーサルジョイント812は、プロペラシャフト81と駆動力配分装置9の入力ピニオンギヤ911とを連結している。
【0069】
噛み合いクラッチ装置82のアクチュエータ826は、統括制御装置100によって制御され、4輪駆動車1Aを4輪駆動状態にするとき、スリーブ825を前進させて第1回転部材821と第2回転部材822とを相対回転不能に連結する。4輪駆動状態では、第1の押圧機構45のピストン451の押圧力、及び第2の押圧機構46のピストン461の押圧力に応じた駆動力が、第1の出力回転部材41及び第2の出力回転部材42を介して左右のドライブシャフト151,152に伝達される。
【0070】
制御装置32は、第1の実施の形態と同様に、駆動力伝達装置31Aの油圧ユニット6を制御する。また、制御装置32は、噛み合いクラッチ装置82のスリーブ825が後退位置にある2輪駆動状態での走行中に暖機運転を行ってもよい。この場合、作動油の推定温度が暖機運転終了温度よりも高くなるまで、又は暖機運転の開始から所定時間が経過するまで、暖機運転を継続して行うことができる。
【0071】
この第2の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様に、低温時において駆動力伝達装置31の温度を上昇させることができ、油圧ポンプ63を駆動する電動モータ62の制御性を向上させることが可能となる。
【0072】
[第3の実施の形態]
図8は、本発明の第3の実施の形態に係る4輪駆動車1Bの概略の構成例を示す模式図である。4輪駆動車1Bは、第1の実施の形態で説明したものと同様に構成された二つの駆動力伝達制御装置3を備えている。このうち、車両前後方向の前側に配置された駆動力伝達制御装置3は、右前輪101及び左前輪102を駆動し、後側に配置された駆動力伝達制御装置3は、右後輪103及び左後輪104を駆動する。4輪駆動状態での走行時には、二つの駆動力伝達制御装置3が右前輪101及び左前輪102ならびに右後輪103及び左後輪104を駆動する。2輪駆動状態での走行時には、前側の駆動力伝達制御装置3が右前輪101及び左前輪102を駆動し、もしくは後側の駆動力伝達制御装置3が右後輪103及び左後輪104を駆動する。2輪駆動状態での走行時には、前側又は後側の何れかの駆動力伝達制御装置3が暖機運転を行うことができる。
【0073】
この第3の実施の形態によっても、第1の実施の形態と同様に、低温時において駆動力伝達装置31の温度を上昇させることができ、油圧ポンプ63を駆動する電動モータ62の制御性を向上させることが可能となる。
【0074】
(付記)
以上、本発明を第1乃至第3の実施の形態及び変形例に基づいて説明したが、これらの実施の形態及び変形例は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で、一部の構成を省略し、あるいは構成を追加もしくは置換して、適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0075】
1,1A,1B…4輪駆動車 100…統括制御装置
11…エンジン(駆動源) 2…駆動モータ(駆動源)
3,3A…駆動力伝達制御装置 31,31A…駆動力伝達装置
32…制御装置 43…第1の多板クラッチ
44…第2の多板クラッチ 451,461…ピストン
5…ハウジング 540…第2の油圧室
550…第1の油圧室 6…油圧ユニット
60…リザーバタンク 62…電動モータ
63…油圧ポンプ 65…第1の電磁弁
66…第2の電磁弁
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8