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特開2023-154581不明熱患者のB細胞リンパ腫診断補助キットおよび情報提供方法
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  • 特開-不明熱患者のB細胞リンパ腫診断補助キットおよび情報提供方法 図1
  • 特開-不明熱患者のB細胞リンパ腫診断補助キットおよび情報提供方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154581
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】不明熱患者のB細胞リンパ腫診断補助キットおよび情報提供方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20231013BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20231013BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20231013BHJP
   C12Q 1/6874 20180101ALN20231013BHJP
   C12N 15/12 20060101ALN20231013BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/686 Z ZNA
G01N33/53 M
C12Q1/6874 Z
C12N15/12
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064001
(22)【出願日】2022-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000125381
【氏名又は名称】学校法人藤田学園
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】岡本 晃直
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA18
4B063QA19
4B063QQ03
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】低侵襲性の生体サンプルである末梢血を用いて、不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報の提供方法および当該情報を提供するためのキットを提供する。
【解決手段】情報の提供方法は、患者から採取した末梢血中に含まれる、CD79Bタンパク質のY196C、Y196D、Y196F、Y196H、Y196N、およびY196Sのアミノ酸置換、ならびにMYD88タンパク質のL265Pのアミノ酸置換を伴う遺伝子変異を検出する検出工程を含む。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報の提供方法であって、
提供方法は、
患者から採取した末梢血中に含まれる、
(a)CD79Bタンパク質のY196Cのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(b)CD79Bタンパク質のY196Dのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(c)CD79Bタンパク質のY196Fのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(d)CD79Bタンパク質のY196Hのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(e)CD79Bタンパク質のY196Nのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(f)CD79Bタンパク質のY196Sのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
および、
(g)MYD88タンパク質のL265Pのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異、
を検出する検出工程を含む
提供方法。
【請求項2】
前記(a)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>G変異で、
前記(b)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>G変異で、
前記(c)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>T変異で、
前記(d)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>C変異で、
前記(e)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>A変異で、
前記(f)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>C変異で、
前記(g)のMYD88遺伝子変異が、c.794T>C変異で、
ある
請求項1に記載の提供方法。
【請求項3】
前記検出工程が、Droplet Digital PCR法を用いる
請求項1または2に記載の提供方法。
【請求項4】
不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するためのキットであって、該キットは、
(a)CD79Bタンパク質のY196Cのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(b)CD79Bタンパク質のY196Dのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(c)CD79Bタンパク質のY196Fのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(d)CD79Bタンパク質のY196Hのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(e)CD79Bタンパク質のY196Nのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
および、
(f)CD79Bタンパク質のY196Sのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
を検出する試薬を含む
キット。
【請求項5】
前記(a)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>G変異で、
前記(b)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>G変異で、
前記(c)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>T変異で、
前記(d)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>C変異で、
前記(e)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>A変異で、
前記(f)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>C変異で、
ある
請求項4に記載のキット。
【請求項6】
(g)MYD88タンパク質のL265Pのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異を検出する試薬を更に含む
請求項4または5に記載のキット。
【請求項7】
前記(g)のMYD88遺伝子変異が、c.794T>C変異である
請求項6に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願における開示は、不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報の提供方法、および、当該情報の提供方法に用いるためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
不明熱という疾患が知られている。不明熱は、3週間以上継続する38度以上の発熱で、入院検査にて確定診断がつかない疾患である。最終的に特定された不明熱の原因としては、悪性リンパ腫、膠原病、固形腫瘍、感染症等が知られている。しかしながら、上記した原因それぞれの診断技術は向上しているものの、原因が特定され有効な治療を実施する前に患者が死亡する例はむしろ増加している(非特許文献1参照)。したがって、不明熱患者に対する早期の確定診断が求められている。
【0003】
不明熱の原因の中で、悪性リンパ腫が占める割合が多いことが知られている。悪性リンパ腫は、白血球のうちリンパ球ががん化する病気で、がん細胞の形態や性質によって、大きくB細胞リンパ腫、T/NK細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫に分けることができ、その中でもB細胞リンパ腫が占める割合が多いことが知られている。また、B細胞リンパ腫として、びまん性大細胞型B細胞リンパ腫(Diffuse Large B-cell Lymphoma。以下「DLBCL」と記載することがある。)、および、DLBCLの特殊病型であり血管内で主に増殖していく血管内大細胞型B細胞性リンパ腫(Intravascular Large Lymphomas。以下、「IVLBCL」と記載することがある。)が知られている。
【0004】
B細胞リンパ腫の中で、一般にDLBCLは腫瘤を形成する。そのため、腫瘤の病変を採取(生検)することで、DLBCLの診断が可能である。一方、IVLBCLはリンパ節腫脹が通常診られないため、診断が難しいことが知られている。一般的なIVLBCLの診断手順は以下のとおりである。
(1)不明熱が疑われる患者に対し、
・病歴/身体所見より他疾患を除外
・CT/PET-CTにて腫瘍性病変の検索
・各種自己抗体検査にて膠原病を除外
・血液培養にて感染症を除外
することで、不明熱の明らかな所見が見られない患者を特定する。
(2)特定した患者に対し、何れも陰性の場合は皮膚生検(ランダムスキンバイオプシー)を実施する。
【0005】
しかしながら、皮膚生検は、全身の6~8か所の皮膚をランダムにメスで切り取ることから患者への侵襲性が非常に高いという問題がある。また、IVLBCLが疑われた患者を対象にした皮膚生検の感度・特異性を調べた実験では、患者111人中70人は、IVLBCL以外が原因であった。つまり、約70%の患者に対して、不必要な皮膚生検がされたことになる。更に、皮膚生検によりIVLBLCと判定された33人の内、最終的にIVLBLCと確定診断された患者は26人であった。つまり、皮膚生検による感度は約80%であった(非特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Chantal P. Bleeker-Rovers et al.,“A Prospective Multicenter Study on Fever of Unknown Origin”,Medicine,Vol.86,No.1,p26-38,January 2007
【非特許文献2】Kosei Matsue et al.,“Sensitivity and specificity of incisional random skin biopsy for diagnosis of intravascular large B-cell lymphoma”,Blood,14 March 2019,133(11),p1257-1259
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のとおり、皮膚生検は患者への負担が非常に大きい。また、リンパ節の生検は、リンパ節を切除する必要があることから、皮膚生検と同様に患者への負担が大きい。不明熱患者の原因としてB細胞リンパ腫が占める割合が多い。したがって、不明熱患者の診断・治療を進めるにあたり、低侵襲性でB細胞リンパ腫であるか否かの診断ができる方法が望まれる。
【0008】
本出願における開示は、上記問題点を解決するためになされたもので、鋭意研究を行ったところ、不明熱患者から採取した末梢血中に含まれる
(1)CD79Bタンパク質の「Y196C」、「Y196D」、「Y196F」、「Y196H」、「Y196N」および「Y196S」のアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
および
(2)MYD88タンパク質のL265Pのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異、
を検出することで、不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報が提供できることを新たに見出した。
【0009】
すなわち、本出願における開示の目的は、低侵襲性の生体サンプルである末梢血を用いて不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報の提供方法および当該情報を提供するためのキットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願における開示は、以下に示す、不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報の提供方法、および、不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するためのキットに関する。
【0011】
(1)不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報の提供方法であって、
提供方法は、
患者から採取した末梢血中に含まれる、
(a)CD79Bタンパク質のY196Cのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(b)CD79Bタンパク質のY196Dのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(c)CD79Bタンパク質のY196Fのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(d)CD79Bタンパク質のY196Hのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(e)CD79Bタンパク質のY196Nのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(f)CD79Bタンパク質のY196Sのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
および、
(g)MYD88タンパク質のL265Pのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異、
を検出する検出工程を含む
提供方法。
(2)前記(a)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>G変異で、
前記(b)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>G変異で、
前記(c)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>T変異で、
前記(d)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>C変異で、
前記(e)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>A変異で、
前記(f)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>C変異で、
前記(g)のMYD88遺伝子変異が、c.794T>C変異で、
ある
上記(1)に記載の提供方法。
(3)前記検出工程が、Droplet Digital PCR法を用いる
上記(1)または(2)に記載の提供方法。
(4)不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するためのキットであって、該キットは、
(a)CD79Bタンパク質のY196Cのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(b)CD79Bタンパク質のY196Dのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(c)CD79Bタンパク質のY196Fのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(d)CD79Bタンパク質のY196Hのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(e)CD79Bタンパク質のY196Nのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
および、
(f)CD79Bタンパク質のY196Sのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
を検出する試薬を含む
キット。
(5)前記(a)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>G変異で、
前記(b)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>G変異で、
前記(c)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>T変異で、
前記(d)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>C変異で、
前記(e)のCD79B遺伝子変異が、c.586T>A変異で、
前記(f)のCD79B遺伝子変異が、c.587A>C変異で、
ある
上記(4)に記載のキット。
(6)(g)MYD88タンパク質のL265Pのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異を検出する試薬を更に含む
上記(4)または(5)に記載のキット。
(7)前記(g)のMYD88遺伝子変異が、c.794T>C変異である
上記(6)に記載のキット。
【発明の効果】
【0012】
低侵襲性の生体サンプルである末梢血を用いて不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報を提供できる。したがって、不明熱患者を診断・治療する際の患者負担が軽減する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施例のサンプルを採取した不明熱患者50人の最終的な診断結果を示す図。
図2】ddPCRおよび次世代シーケンサ(NGS)の解析結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本出願において開示する、不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報の提供方法(以下、「情報提供方法」と記載することがある。)、および、不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するためのキット(以下、「キット」と記載することがある。)について詳しく説明する。
【0015】
(情報提供方法の実施形態)
実施形態に係る情報提供方法は、患者から採取した末梢血中に含まれる、
(a)CD79Bタンパク質のY196Cのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(b)CD79Bタンパク質のY196Dのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(c)CD79Bタンパク質のY196Fのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(d)CD79Bタンパク質のY196Hのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(e)CD79Bタンパク質のY196Nのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
(f)CD79Bタンパク質のY196Sのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異、
および、
(g)MYD88タンパク質のL265Pのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異、
を検出する検出工程を含む。
【0016】
表1に、CD79Bタンパク質(ヒトCD79B Molecule)のアミノ酸配列(SEQ.ID.1)および核酸配列(SEQ.ID.2)、並びに、MYD88タンパク質のアミノ酸配列(SEQ.ID.3)および核酸配列(SEQ.ID.4)を示す。
【表1】
【0017】
より具体的には、検出工程では、以下の(1)および(2)に記載の遺伝子変異を検出する。
(1)上記(a)~(f)に記載のCD79Bの変異の有無
CD79Bタンパク質の196番目のアミノ酸であるY(チロシン、Tyr)が、C(システイン、Cys)、D(アスパラギン酸、Asp)、F(フェニルアラニン、Phe)、H(ヒスチジン、His)、N(アスパラギン、Asn)、または、S(セリン、Ser)へのアミノ酸置換を伴うCD79B遺伝子変異の有無、
および、
(2)MYD88タンパク質の変異の有無
MYD88タンパク質の265番目のアミノ酸であるL(ロイシン、Leu)が、P(プロリン、Pro)へのアミノ酸置換に伴うMYD88遺伝子変異の有無。
【0018】
後述する実施例に示すとおり、患者から採取した末梢血中に含まれる上記(a)~(g)の7種類の何れかの遺伝子が変異していた場合、不明熱患者の原因がB細胞リンパ腫であるか否か高感度で特定することができた。本出願で開示する上記7種類の遺伝子変異の組み合わせは、皮膚生検ではなく、患者から採取した低侵襲性生体サンプルである末梢血を用いることで不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かを特定するための新規マーカーということができる。
【0019】
限定されるものではないが、上記(a)~(g)の7種類の遺伝子変異の具体例を以下に示す。
(1)CD79Bタンパク質のY196の変異について
196番目のYをコードする586~588番目のDNAの内、
(a)Y196Cでは、587番目のA(アデニン)がG(グアニン)に変異。
(b)Y196Dでは、586番目のT(チミン)がG(グアニン)に変異。
(c)Y196Fでは、587番目のA(アデニン)がT(チミン)に変異。
(d)Y196Hでは、586番目のT(チミン)がC(シトシン)に変異。
(e)Y196Nでは、586番目のT(チミン)がA(アデニン)に変異。
(f)Y196Sでは、587番目のA(アデニン)がC(シトシン)に変異。
【0020】
(2)MYD88タンパク質のL265の変異について
(g)265番目のLをコードする793~795番目のDNAの内、794番目のT(チミン)がC(シトシン)に変異。
【0021】
検出工程では、上記(a)~(g)の変異の有無を検出できれば検出方法に特に制限はない。例えば、Droplet Digital PCR(ddPCR)法、allele-specific PCR(ASPCR)法、metagenomic deep sequencing法、次世代シークエンス(next generation sequencing:NGS)等が挙げられる。また、必要に応じて、上記例示した方法を実施する前に、患者から検出した末梢血に含まれるDNAをPCR法により増幅してもよい。
【0022】
なお、本出願で開示する上記(a)~(g)に記載の7種類の遺伝子変異の組み合わせは、末梢血を用いてB細胞リンパ腫であるか否かを特定するための新規マーカーである。したがって、上記7種類の遺伝子変異の有無のみを検出することで、検出工程をシンプル化してもよい。例えば、ddPCR法を用いる場合は、ddPCR試薬メーカーに解析したい遺伝子変異情報を提供することで、当該遺伝子変異を特異的に解析できるプローブを含む試薬を入手できる。したがって、不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かに特化した解析ができる。
【0023】
次世代シーケンサーは、患者から採取したサンプル中に含まれるDNAを網羅的に解析できるメリットがある一方で、解析にはコストと時間を要する。また、がん等の診断が下りた後は次世代シーケンサーを用いた検査は保険適用を受けることができる。しかしながら、不明熱患者はその原因が特定されていない段階では、次世代シーケンサーを用いた検査に保険が適用されない。勿論、技術的には次世代シーケンサーで解析した後に、上記(a)~(g)に記載の7種類の遺伝子の何れかに変異が有るか否かを解析すればよいが、原因が特定されていない段階の不明熱患者に対する低コスト且つ迅速な検査との観点では、ddPCR法は特に有用である。
【0024】
検出工程により検出した結果は、不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報として用いることができる。例えば、(a)~(g)に記載の7種類の何れか一つでも変異ありと検出された場合には、医師は不明熱患者の原因が、B細胞リンパ腫と診断できる。
【0025】
(キットの実施形態)
実施形態に係るキットは、上記(a)~(f)に記載のCD79B遺伝子変異を検出できる試薬を含んでいれば特に制限はない。例えばddPCR法の試薬の場合、遺伝子変異箇所を識別するプローブ等が挙げられる。上記(a)~(f)に記載の遺伝子変異箇所を識別するプローブは、上記のとおりddPCR試薬メーカーに解析したい遺伝子変異情報を提供することで入手できる。
【0026】
ddPCR法に用いるキットは、上記プローブに加え、CD79Bを認識する任意のプライマー、検出用蛍光試薬等を含んでいてもよい。
【0027】
なお、MYD88タンパク質のL265Pのアミノ酸置換を伴うMYD88遺伝子変異は、ワルデンシュトレーム・マクログロブリン血症の原因となることが知られている。また、上記(g)に記載のMYD88遺伝子変異を検出する方法も知られている。したがって、上記(g)に記載のMYD88遺伝子変異を検出する試薬は別途準備し、情報提供方法を実施する際に、上記(a)~(f)に記載のCD79B遺伝子変異を検出できる試薬と組み合わせて使用することができる。
【0028】
勿論、上記(a)~(f)に記載のCD79B遺伝子変異を検出できる試薬に加え、上記(g)に記載のMYD88遺伝子変異を検出する試薬も加えてキットとして提供してもよい。上記(a)~(g)に記載の遺伝子変異を検出できる試薬を纏めてキットとして提供することで、検査の利便性が向上する。限定されるものではないが、上記(g)に記載の遺伝子変異箇所を識別するプローブは、上記のとおりddPCR試薬メーカーに解析したい遺伝子変異情報を提供することで入手できる。
【0029】
以下に実施例を掲げ、本出願で開示する実施形態を具体的に説明するが、この実施例は単に実施形態の説明のためのものである。本出願で開示する技術的範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。
【実施例0030】
(1)サンプル
不明熱患者50人より、血漿遊離DNA専用の採血管(PAXgene(登録商標) cfDNA採血管)を用いて10cc採血し、その後Qiagen社のDNA抽出キットを用いてDNAを抽出し、-20度にて保管した。サンプルには、保管したDNAを用いた。
【0031】
(2)ddPCR
Droplet digital PCRは、Bio-lad社のQX200 Droplet Digital PCR システムを用いた。上記(1)のサンプルDNAと、Bio-lad社のddPCR Supermix for Probes(登録商標)と、ddPCR Mutation Assay(登録商標)とを混合し、5-20ng/wellになるように調整した。ddPCR Mutation Assayのprobeは、CD79BY196C、CD79BY196D、CD79BY196F、CD79BY196H、CD79BY196N、CD79BY196S、MYD88L265Pを用いた。なお、CD79BY196C、CD79BY196D、CD79BY196F、CD79BY196H、CD79BY196N、CD79BY196S、MYD88L265Pは、それぞれ、変異箇所を含む配列に基づきBio-lad社に発注した。PCRの温度条件は、(1)95℃ 10分加熱し、(2)94℃ 30秒で加熱し、(3)55℃ 2分で加熱し、(4)前記(2)および(3)を計40サイクル施行後、(5)最後に98℃で10分間加熱した。解析はQuantaSoft(登録商標)のSoftwareで行った。
【0032】
(3)次世代シーケンサー(NGS)解析
ddPCRの解析結果と比較するため、上記(1)のサンプルを用い、次世代シーケンサーによる解析も行った。解析はIllumina社のNextSeq(登録商標)を用い、公知の手順で行った。
【0033】
図1に今回のサンプルを採取した不明熱患者50人の最終的な診断結果を示す。図2にddPCRおよび次世代シーケンサ(NGS)の解析結果を示す。なお、図2の■は変異が有ったことを示し、□は変異が無かったことを示す。また、CD79Bについては、CD79BY196C、CD79BY196D、CD79BY196F、CD79BY196H、CD79BY196N、CD79BY196Sの何れか一つに変異が見られた場合には変異有りとしている。なお、図2の×は、解析実験ができなかったサンプルを意味する。
【0034】
図2に示すとおり、B細胞リンパ腫(B-LPD)と診断された患者20名(IVLBCL:18名、DLBCL:2名)の内、本出願で開示する7種類の変異をマーカーとしたddPCR解析により、17人の患者は診断結果と一致した(感度85%、特異度100%)。特に、IVLBCLについては、患者18名の内、17人が一致した(感度94.4%、特異度100%)。したがって、従来の皮膚生検より、高感度でB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助する情報を提供できることを確認した。
【0035】
また、B細胞リンパ腫(B-LPD)と診断された患者20名について、NGSとddPCR法の結果が異なったのは、患者番号17のCD79Bと患者番号19のMYD88のみである(ただし、解析実験ができなかった×のサンプルを除く)。したがって、本出願で開示する新規マーカーを用いたddPCR法により、NGSとほぼ同程度の精度を維持しつつ、迅速且つ安価に不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報を提供できることを確認した。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本出願で開示する7種類の変異を指標とすることで、不明熱患者がB細胞リンパ腫であるか否かの診断を補助するための情報を提供できる。したがって、医療機関や製薬企業にとって有用である。
図1
図2
【配列表】
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