(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154593
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】ポリカーボネート、ポリカーボネートの製造方法、及び成形体
(51)【国際特許分類】
C08G 64/30 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
C08G64/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064026
(22)【出願日】2022-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】000000033
【氏名又は名称】旭化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】難波 仙嗣
【テーマコード(参考)】
4J029
【Fターム(参考)】
4J029AA09
4J029AB04
4J029AB05
4J029AD01
4J029AE01
4J029BB10A
4J029BB10B
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4J029BE07
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4J029DA10
4J029DB07
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4J029DB13
4J029HC05A
4J029HC05B
4J029JA091
4J029JA121
4J029JB131
4J029JB171
4J029JC731
4J029JF021
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4J029JF381
4J029KD02
4J029KD07
4J029KE02
4J029KE05
4J029KH03
4J029KH08
4J029LB05
(57)【要約】
【課題】成形体表面の艶消し性に優れるポリカーボネートを得る。
【解決手段】下記の<成形条件>で成形された、厚さ40μm、幅15cm、面積2.5m
2のフィルム中に存在する、大きさが50~100μmのフィッシュアイの数が、250~5000個であり、かつ、MFRが3.0~45.0(g/10min)である、
ポリカーボネート。
<成形条件>
熱風乾燥機で、120℃、5時間乾燥させたポリカーボネートのペレットを、バレル温度320℃、Tダイ温度320℃、ロール温度120℃で厚さ40μm、幅15cmのフィルムを成形する。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の<成形条件>で成形された、厚さ40μm、幅15cm、面積2.5m2のフィルム中に存在する、大きさが50~100μmのフィッシュアイの数が、250~5000個であり、かつ、
MFRが3.0~45.0(g/10min)である、
ポリカーボネート。
<成形条件>
熱風乾燥機で、120℃、5時間乾燥させたポリカーボネートのペレットを、バレル温度320℃、Tダイ温度320℃、ロール温度120℃で厚さ40μm、幅15cmのフィルムを成形する。
【請求項2】
前記<成形条件>で成形された、厚さ40μm、幅15cm、面積2.5m2のフィルム中に存在する、大きさが50~100μmのフィッシュアイの数が、300~3000個である、
請求項1に記載のポリカーボネート。
【請求項3】
下記式(1)で示される繰り返し単位を有する、
請求項1に記載のポリカーボネート。
【化1】
(式(1)中、Arは2価の芳香族基を表す。)
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリカーボネートの製造方法であって、
ジヒドロキシ化合物及びジアリールカーボネート、又は、これらが反応したプレポリマーを溶融状態で重合する重合反応工程と、
前記重合反応工程から溶融状態で送り出されるポリカーボネートを固化する押出成形工程と、
を、有し、
前記重合反応工程と、前記押出成形工程との間に、絶対濾過精度が、20μm~45μmであり、濾過層の厚みが0.75~2.0mmのフィルターにより濾過処理する、濾過工程を有する、
ポリカーボネートの製造方法。
【請求項5】
前記フィルターの入口と出口の操作圧力の差(入口の圧力-出口の圧力)[MPa]が、2.5~15.0[MPa]である、
請求項4に記載のポリカーボネートの製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載のポリカーボネートの成形体。
【請求項7】
シボ表面を有する、請求項6に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート、ポリカーボネートの製造方法、及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネートは、透明性、耐熱性、及び機械的強度等に優れており、かかる特性上の優位性を生かして、従来から、電気・電子部品、自動車用部品、光学記録媒体、レンズ等の光学分野等の材料として、いわゆるエンジニアリングプラスチックとして広く利用されている。
【0003】
ポリカーボネートの代表的な製造方法としては、エステル交換法又は溶融法と呼ばれる方法が知られている。かかる製造方法では、ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートを重合触媒の存在下、180℃~330℃の高温条件下でエステル交換し、副生するフェノールを系外に取り除くことにより重合を進行させている。
【0004】
このように、エステル交換法によるポリカーボネートの製造方法では、高温で長時間反応させるため、フィッシュアイが生成し、成形品の表面外観を損ねる場合がある、という問題点を有している。
特に、薄物フィルム、波板及び平板シート、飲料用ボトルといった用途において、フィッシュアイが表面に現れると、これらフィッシュアイは、目視で観察される数十μm~数mmのサイズ(大きさ)を有しているため、外観不良の原因となる。
【0005】
上述したような目視で観察されるサイズのフィッシュアイを低減させる方法に関しては、従来から種々の提案がなされている。
例えば、特許文献1には、絶対濾過精度が0.5μm~50μm、好ましくは0.5μm~20μmであるリーフディスク型ポリマーフィルターを用いて樹脂を濾過し、フィッシュアイを除去する方法が開示されている。
また、特許文献2には、捕集効率95%以上の粒子径が5μm又は20μmのフィルターを用いて、フィッシュアイを除去する方法が開示されている。
さらに、本発明者は、上述した従来技術の問題点の解決を図る技術として、フィルターの空隙率と、絶対濾過精度を、所定の範囲に特定することにより、成形体のフィッシュアイの低減を図る技術を開示している(下記特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001-240667号公報
【特許文献2】特開2000-219737号公報
【特許文献3】特開2015-231619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上述した従来提案されている技術は、目視で観察されるサイズのフィッシュアイの低減に関する方法に留まり、成形体表面の艶消し性の向上には寄与せず、かかる特性に優れた成形体が得られるポリカーボネートを製造する観点からは、未だ検討がなされていないという問題点を有している。
【0008】
そこで本発明においては、シボなどの成形体表面の艶消し性に優れるポリカーボネート、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上述した従来技術の問題点に鑑み、鋭意検討を行った結果、ポリカーボネートの特性に関し、特定の成形条件で成形されるフィルム中の所定のサイズのフィッシュアイ数が特定の範囲となるように制御することで、成形体表面の艶消し性に優れるポリカーボネートが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち、本発明は、以下のとおりである。
【0010】
〔1〕
下記の<成形条件>で成形された、厚さ40μm、幅15cm、面積2.5m2のフィルム中に存在する、大きさが50~100μmのフィッシュアイの数が、250~5000個であり、かつ、MFRが3.0~45.0(g/10min)である、
ポリカーボネート。
<成形条件>
熱風乾燥機で、120℃、5時間乾燥させたポリカーボネートのペレットを、バレル温度320℃、Tダイ温度320℃、ロール温度120℃で厚さ40μm、幅15cmのフィルムを成形する。
〔2〕
前記<成形条件>で成形された、厚さ40μm、幅15cm、面積2.5m2のフィルム中に存在する、大きさが50~100μmのフィッシュアイの数が、300~3000個である、前記〔1〕に記載のポリカーボネート。
〔3〕
下記式(1)で示される繰り返し単位を有する、前記〔1〕又は〔2〕に記載のポリカーボネート。
【0011】
【0012】
(式(1)中、Arは2価の芳香族基を表す。)
【0013】
〔4〕
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のポリカーボネートの製造方法であって、
ジヒドロキシ化合物及びジアリールカーボネート、又は、これらが反応したプレポリマーを溶融状態で重合する重合反応工程と、
前記重合反応工程から溶融状態で送り出されるポリカーボネートを固化する押出成形工程と、
を、有し、
前記重合反応工程と、前記押出成形工程との間に、絶対濾過精度が、20μm~45μmであり、濾過層の厚みが0.75~2.0mmのフィルターにより濾過処理する、濾過工程を有する、
ポリカーボネートの製造方法。
〔5〕
前記フィルターの入口と出口の操作圧力の差(入口の圧力-出口の圧力)[MPa]が、2.5~15.0[MPa]である、前記〔4〕に記載のポリカーボネートの製造方法。
〔6〕
前記〔1〕乃至〔3〕のいずれか一に記載のポリカーボネートの成形体。
〔7〕
シボ表面を有する、前記〔6〕に記載の成形体。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、成形体表面の艶消し性に優れるポリカーボネートが得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】ポリカーボネートの製造装置を構成する不活性ガス吸収装置及びガイド接触流下式重合装置の概略構成図を示す。
【
図2】ポリカーボネートの製造装置の一例の概略構成図を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」ともいう。)について詳細に説明する。
なお、本発明は、本実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0017】
〔ポリカーボネート〕
本実施形態のポリカーボネートは、下記の<成形条件>で成形された厚さ40μm、幅15cm、面積2.5m2のフィルム中に存在する、大きさが50~100μmのフィッシュアイの数が、250~5000個であり、かつ、
MFRが3.0~45.0(g/10min)である。
<成形条件>
熱風乾燥機で、120℃、5時間乾燥させたポリカーボネートのペレットを、バレル温度320℃、Tダイ温度320℃、ロール温度120℃で厚さ40μm、幅15cmのフィルムを成形する。
【0018】
本実施形態によれば、成形体表面の艶消し性に優れるポリカーボネートが得られる。このような効果が得られる理由は、特定の大きさのフィッシュアイを特定の数に制御することにより、成形体表面に適度で均一な凹凸が形成され、その結果艶消し性が発現するためと考えられる。すなわち、本実施形態においては、特定の成形条件で得たフィルムにおける、大きさが50~100μmのフィッシュアイの数を250~5000個に特定したことにより、成形体の表面に適度で均一な凹凸が形成される効果が得られ、その結果、艶消し性が発現するためと考えられる。
【0019】
(ポリカーボネートのMFR)
本実施形態のポリカーボートのMFR(メルトフローレート)は、成形性の観点から、3.0~45.0(g/10min)であるものとし、3.5~40(g/10min)が好ましく、5.0~35(g/10min)がより好ましい。
3.0(g/10min)以上であることにより、良好な成形性が得られ、45.0(g/min)以下であることにより、十分な強度の成形体が得られる。なお、MFRは、後述する実施例の記載の方法により測定できる。
ポリカーボネートのMFRは、例えば、後述の製造工程で、重合温度、重合圧力等の重合条件を適正な範囲に調整することにより、上記数値範囲に制御することができる。
【0020】
(フィルム中のフィッシュアイの数)
本実施形態のポリカーボネートは、上記特定の<成形条件>で得た、厚さ40μm、幅15cm、面積2.5m2のフィルム中に存在する、大きさが50~100μmのフィッシュアイの数が、250~5000個である。前記フィッシュアイの数は、300~3000個が好ましく、500~2500個がより好ましい。
フィッシュアイの大きさについては、所定の条件で成形したフィルムをCCDカメラで観察し、光の透過率が50%以下である部位の大きさ(長径)のサイズを測定し、これをフィッシュアイの大きさとする。長径とは、通常フィッシュアイは真円形ではなく、楕円等のような形状をしているため、その一番長い部分の大きさとする。具体的には、CCDの画素1つ1つの大きさ(例えば0.1μm)の何個かが50%以下の透過率と検出された場合、占有する画素数から大きさが判明する。
前記フィッシュアイの数が250個以上であることにより、成形体において優れた艶消し性が得られ、外観が優れたものとなる。5000個以下であることにより、シルバーの発生等の外観不良の発生を抑制することができる。
前記フィッシュアイの数は、後述する実施例に記載する方法により測定できる。
また、フッシュアイの数は、後述の濾過工程を行うことにより上記数値範囲に制御できる。
【0021】
〔ポリカーボネートの製造方法、及びポリカーボネート〕
本実施形態のポリカーボネートの製造方法は、
ジヒドロキシ化合物及びジアリールカーボネート、又は、これらが反応したプレポリマーを溶融状態で重合する重合反応工程と、
前記重合反応工程から溶融状態で送り出されるポリカーボネートを固化する押出成形工程を有し、
前記重合反応工程と、前記押出成形工程との間に、絶対濾過精度が、20μm~45μmであり、濾過層の厚みが0.75~2.0mmのフィルターにより濾過処理する、濾過工程を有する。
【0022】
(重合反応工程)
重合反応工程においては、ジヒドロキシ化合物及びジアリールカーボネート、又は、これらが反応したプレポリマーを溶融状態で重合する。
以下、本実施形態のポリカーボネートを製造する際に用いる材料である、ジヒドロキシ化合物、及びジアリールカーボネートについて示す。
【0023】
本実施形態で用いるジヒドロキシ化合物としては、例えば、芳香族ジヒドロキシ化合物、脂肪族ジヒドロキシ化合物が挙げられる。
【0024】
<芳香族ジヒドロキシ化合物>
芳香族ポリカーボネートを製造する場合において使用される、芳香族ジヒドロキシ化合物は、下記式で示される化合物である。
HO-Ar-OH
(式中、Arは2価の芳香族基を表す。)。
2価の芳香族基Arは、好ましくは例えば、下記式で示されるものである。
-Ar1-Y-Ar2-
(式中、Ar1及びAr2は、各々独立して炭素数5~70の2価の炭素環式又は複素環式芳香族基を表し、Yは炭素数1~30を有する2価のアルキレン基を表す。)
本実施形態のポリカーボネートが芳香族ポリカーボネートである場合、前記芳香族ポリカーボネートの製造において使用される、芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種単独でも2種類以上でもよい。
芳香族ジヒドロキシ化合物としては、ビスフェノールAが好ましい例として挙げられる。また、分岐構造を導入するための3価の芳香族トリヒドロキシ化合物を併用してもよい。
ビスフェノールAとして特に好ましいのは、塩素の含有量が1ppb以下のポリカーボネート用高純度品である。
【0025】
2価の芳香族基、Ar1、Ar2は、1つ以上の水素原子が、反応に悪影響を及ぼさない他の置換基、例えば、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、フェニル基、フェノキシ基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等によって置換されたものであってもよい。複素環式芳香族基としては、1ないし複数の環形成窒素原子、酸素原子又は硫黄原子を有する芳香族基が好ましい具体例として挙げられる。2価の芳香族基Ar1、Ar2は、例えば、置換又は非置換のフェニレン、置換又は非置換のビフェニレン、置換又は非置換のビリジレン等の基を表す。ここでの置換基は上述したとおりである。
【0026】
2価のアルキレン基Yは、例えば、下記式で示される有機基である。
【0027】
【0028】
前記式中、R1、R2、R3、R4は、各々独立に、水素、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、環構成炭素数5~10のシクロアルキル基、環構成炭素数5~10の炭素環式芳香族基、炭素数6~10の炭素環式アラルキル基を表す。
kは3~11の整数を表し、R5及びR6は、各Xについて個々に選択され、互いに独立に、水素又は炭素数1~6のアルキル基を表し、Xは炭素を表す。
また、R1、R2、R3、R4、R5及びR6において、一つ以上の水素原子が反応に悪影響を及ぼさない範囲で他の置換基、例えばハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、フェニル基、ビニル基、シアノ基、エステル基、アミド基、ニトロ基等によって置換されたものであってもよい。
【0029】
このような2価の芳香族基Arとしては、例えば、下記式で示されるものが挙げられる。
【0030】
【0031】
式中、R7、R8は、各々独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~10のアルキル基、炭素数1~10のアルコキシ基、環構成炭素数5~10のシクロアルキル基、又はフェニル基を表す。m及びnは1~4の整数で、mが2~4の場合には、各R7は、それぞれ同一でも異なるものであってもよいし、nが2~4の場合には、各R8は、それぞれ同一でも異なるものであってもよい。
【0032】
さらに、2価の芳香族基Arは、下記式で示されるものであってもよい。
-Ar1-Z-Ar2-
(式中、Ar1、Ar2は前述のとおりであり、Zは単結合又は-O-、-CO-、-S-、-SO2-、-SO-、-COO-、-CON(R1)-等の2価の基を表す。なお、R1は前述の通りである。)
【0033】
このような2価の芳香族基Arとしては、例えば、下記式に示されるものが挙げられる。
【0034】
【0035】
式中、R7、R8、m及びnは、前述の通りである。
【0036】
さらに、2価の芳香族基Arの具体例としては、置換又は非置換のフェニレン、置換又は非置換のナフチレン、置換又は非置換のピリジレン等が挙げられる。
【0037】
本実施形態で用いられるジオールとしての芳香族ジヒドロキシ化合物は、1種単独で用いても、2種類以上を併用してもよい。芳香族ジヒドロキシ化合物の代表的な例としてはビスフェノールAが挙げられる。また、本実施形態においては、本発明の目的を損なわない範囲で、重合されるポリカーボネートに分岐構造を導入するための3価の芳香族炭化水素からなるトリオール化合物を併用してもよい。
【0038】
<ジアリールカーボネート>
本実施形態のポリカーボネートの製造に使用される、ジアリールカーボネートは、下記式で表される。
【0039】
【0040】
(前記式中、Ar’’は、それぞれ炭素数5~20の1価の芳香族基を表す。)
【0041】
前記ジアリールカーボネートの中でも、非置換のジフェニルカーボネートや、ジトリルカーボネート、ジ-t-ブチルフェニルカーボネートのような低級アルキル置換ジフェニルカーボネート等の対称型ジアリールカーボネートが好ましいが、特に、最も簡単な構造のジアリールカーボネートであるジフェニルカーボネートが好適である。これらのジアリールカーボネート類は1種のみを単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
本実施形態のポリカーボネートが芳香族ポリカーボネートである場合、前記芳香族ポリカーボネートを製造する原料となるジフェニルカーボネートとしては、特に好ましいのは、エチレンオキシドとCO2を反応させて製造・精製されたエチレンカーボネートを、メタノールと反応させて製造・精製されたジメチルカーボネートに、さらに精製フェノールを反応蒸留法によって反応させて製造及び精製されたものである。かかるジフェニルカーボネートは、アルカリ金属/アルカリ土類金属及び塩素を含まない超高純度品である。
【0042】
<プレポリマー>
本実施形態のポリカーボネートの製造方法においては、重合反応工程でプレポリマーを使用することもできる。
重合反応工程では、このプレポリマーは溶融状態で重合され、目的とするポリカーボネートを得る。
前記プレポリマーは、ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとから製造される。前記ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートの使用割合(仕込み比率)は、用いられるジヒドキシ化合物とジアリールカーボネートの種類や、重合温度その他の重合条件によって異なるが、ジアリールカーボネートは、ジヒドロキシ化合物1モルに対して、通常0.9~2.5モル、好ましくは0.95~2.0モル、より好ましくは0.98~1.5モルの割合で用いられる。
前記ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートとから製造されたプレポリマーは、ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートから製造される、目的とする重合度を有するポリカーボネートより重合度の低い重合途中の溶融物を意味しており、オリゴマーであってもよい。
プレポリマーの平均重合度は、特に限定されず、その化学構造によっても異なるが、通常約2~2,000である。
重合原料として用いられるこのようなプレポリマーは、公知のいかなる方法によって得られたものでよい。
【0043】
<重合反応装置>
本実施形態のポリカーボネートの重合反応を行う製造装置や配管は、これらの材質に特に制限はなく、通常、ステンレススチール製、カーボンスチール製、ハステロイ製、ニッケル製、チタン製、クロム製、及びその他の合金製等の金属や、耐熱性の高いポリマー材料等の中から選ばれる。また、これらの材質の表面は、メッキ、ライニング、不働態処理、酸洗浄、フェノール洗浄等必要に応じて種々の処理がなされてもよい。好ましくは、ステンレススチールやニッケル、グラスライニング等であるが、特に好ましくはステンレススチールである。
なお、溶融状態のポリカーボネートを送り出す排出ポンプは、通常、定量的に高粘度物質を排出できるギアポンプ類が用いることが好ましいが、これらのギアの材質はステンレススチールであってもよいし、他の特殊な金属であってもよい。
【0044】
<触媒>
ジヒドロキシ化合物とジアリールカーボネートからポリカーボネートを製造する反応は、触媒を加えずに実施することができるが、重合速度を高めるため、必要に応じて触媒の存在下で行われる。
触媒としては、この分野で用いられているものであれば特に制限はない。
触媒は、以下に限定されないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水酸化物類;水素化アルミニウムリチウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素テトラメチルアンモニウム等のホウ素やアルミニウムの水素化物のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、第四級アンモニウム塩類;水素化リチウム、水素化ナトリウム、水素化カルシウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の水素化合物類;リチウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カルシウムメトキシド等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属のアルコキシド類;リチウムフェノキシド、ナトリウムフェノキシド、マグネシウムフェノキシド、LiO-Ar-OLi、NaO-Ar-ONa(Arはアリール基)等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属のアリーロキシド類;酢酸リチウム、酢酸カルシウム、安息香酸ナトリウム等のアルカリ金属及びアルカリ土類金属の有機酸塩類;酸化亜鉛、酢酸亜鉛、亜鉛フェノキシド等の亜鉛化合物類;酸化ホウ素、ホウ酸、ホウ酸ナトリウム、ホウ酸トリメチル、ホウ酸トリブチル、ホウ酸トリフェニル、酸化スズ、ジアルキルスズオキシド、ジアルキルスズカルボキシレート、酢酸スズ、エチルスズトリブトキシド等のアルコキシ基又はアリーロキシ基と結合したスズ化合物、有機スズ化合物等のスズの化合物類;酸化鉛、酢酸鉛、炭酸鉛、塩基性炭酸塩、鉛及び有機鉛のアルコキシド又はアリーロキシド等の鉛の化合物;第四級アンモニウム塩、第四級ホスホニウム塩が挙げられる。
触媒を用いる場合、これらの触媒は1種だけで用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
触媒の使用量は、原料のジヒドロキシ化合物に対して、通常10-10~1質量%、好ましくは10-9~10-1質量%、さらに好ましくは10-8~10-2質量%の範囲である。
ポリカーボネートを溶融エステル交換法で製造する場合、使用した重合触媒は、ポリカーボネート中に残存するが、これらの重合触媒は通常ポリマー物性に悪影響を及ぼすものが多い。従って、触媒の使用量はできるだけ、少なくすることが好ましい。
【0045】
<重合反応工程で得られるポリカーボネート>
本実施形態のポリカーボネートの製造方法における、重合反応工程で得られるポリカーボネートは、下記式(1)で示される繰り返し単位を有する。
【0046】
【0047】
(前記Arは、前述した構成と同じである。)
【0048】
特に好ましいポリカーボネートは、全繰り返し単位中、下記式で示される繰り返し単位が85モル%以上含まれるポリカーボネートである。
【0049】
【0050】
また、本実施形態のポリカーボネートの末端基は、通常、ヒドロキシ基、又は下記式で示されるアリールカーボネート基からなっている。
【0051】
【0052】
前記式中、Ar5は、前述したAr’’と同定義である。
【0053】
本実施形態のポリカーボネートにおけるヒドロキシ基とアリールカーボネート基の比率は、特に制限はないが、通常95:5~5:95の範囲であり、好ましくは90:10~10:90の範囲であり、より好ましくは80:20~20:80の範囲である。特に好ましいのは、耐熱安定性、色相の観点から、末端基中のフェニルカーボネート基の占める割合が85モル%以上のポリカーボネートである。
【0054】
本実施形態のポリカーボネートは、複数のポリカーボネート主鎖を包含している。この複数のポリカーボネート主鎖が全体として、エステル結合及びエーテル結合からなる群より選ばれる1種の分岐を介して少なくとも1つの側鎖と結合して、部分的に分岐したものであってもよい。すなわち本実施形態のポリカーボネートは、溶融重合によって得られるものであるため、重合反応工程で2種の転移反応が起こり得るため、2種の分岐構造が形成されるようになる。
【0055】
なお、本実施形態のポリカーボネートを製造する製造装置は、相応の機械的強度を有するものであれば、どのようなものでもよいし、ポリカーボネートの連続製造運転に必要な、他のいかなる機能を有する装置・設備を付加したものであってもよい。
ポリカーボネートの製造装置には特に制限はないが、副生するモノヒドロキシ化合物等を蒸発させるための面積の大きい重合器を用いることが好ましい。具体的には薄膜重合器、遠心式薄膜蒸発重合器、表面更新型二軸混練重合器、二軸横型攪拌重合器、濡れ壁式重合器、自由落下させながら重合する多孔板型重合器、支持体に沿ってポリマーを溶融落下せしめて重合を進行させる重合器、例えばワイヤー付多孔板型重合器等を用い、これらを1種単独又は2種以上組み合わせた重合器が用いられる。
【0056】
本実施形態のポリカーボネートの製造方法においては、ゲルの削減及び磨り潰しの効果を最大限に得る観点から、最も下流にある重合器より下流であって、かつ後述する重合反応工程から溶融状態で送り出されたポリカーボネートを固化する押出成形工程の上流に相当する位置において、後述するフィルターを用いた濾過工程を実施する。
【0057】
重合反応工程のプロセスは、バッチ式、連続式いずれの方法でもよく、後述するフィルター装置による濾過処理を行う濾過工程に移行することができれば、いずれの方式であってもよい。
【0058】
<反応温度、反応圧力、反応時間>
重合反応工程での反応温度は、100~350℃の範囲とすることが好ましく、ポリカーボネートの着色を防ぐ観点から、より好ましくは150~290℃の範囲とし、さらに好ましくは180~280℃の範囲とする。
重合反応工程においては、重合反応の進行に伴って、モノヒドロキシ化合物が副生する。
ジヒドロキシ化合物にビスフェノールAを、ジアリールカーボネートにジフェニルカーボネートを用いた場合は、モノヒドロキシ化合物として、フェノールが生成する。
前記モノヒドロキシ化合物を重合反応系外へ除去することによって、重合反応速度が高められる。
従って、窒素、アルゴン、ヘリウム、二酸化炭素や低級炭化水素ガス等、反応に悪影響を及ぼさない不活性ガスを導入して、生成してくるモノヒドロキシ化合物をこれらのガスに同伴させて除去する方法や、減圧下で反応を行う方法等が好ましい。
好ましい反応圧力は、目的とするポリカーボネートの分子量によっても異なり、重合初期には、1.33kPa~常圧の範囲が好ましい。重合後期には、2.66kPa以下が好ましく、1.33kPa以下がより好ましく、0.266kPa以下がさらに好ましい。
重合反応工程における反応温度や反応圧力(減圧度)、反応時間(重合反応器内の滞留時間)等を変更することにより、分子量が異なるポリカーボネートを製造できる。
【0059】
<末端調節剤>
また、重合反応工程において、前述のジヒドロキシ化合物や、水酸基末端のポリカーボネートプレポリマー(低重合度ポリカーボネート)、前述のジアリールカーボネート類や、アリールカーボネート末端のポリカーボネートプレポリマー、t-ブチルフェノールやt-オクチルフェノール等の単官能置換フェノール類等、公知の末端調節剤を添加することにより、水酸基末端比率や末端構造の異なるポリカーボネートを製造することができる。
【0060】
<触媒失活剤>
本実施形態のポリカーボネートには、触媒失活剤を添加してもよい。
触媒失活剤としては、公知の触媒失活剤をいずれも用いることができるが、特に、熱安定性が高く、着色の少ないポリカーボネートを製造する観点から、スルホン酸のアンモニウム塩、ホスホニウム塩が好ましく、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩等のドデシルベンゼンスルホン酸の上記塩類がより好ましい。
また、触媒失活剤として、スルホン酸のエステルも用いることができ、当該スルホン酸のエステルとしては、ベンゼンスルホン酸オクチル、ベンゼンスルホン酸フェニル、パラトルエンスルホン酸メチル、パラトルエンスルホン酸エチル、パラトルエンスルホン酸ブチル、パラトルエンスルホン酸オクチル、パラトルエンスルホン酸フェニル等が挙げられる。特に、熱安定性が高く、着色の少ないポリカーボネートを製造する観点から、ドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩が、好ましく用いられる。
前記重合触媒にアルカリ金属塩及び/又はアルカリ土類金属塩を用いた場合、触媒失活剤の量は、前記重合触媒1モルあたり0.5~50モルの割合とすることが好ましく、より好ましくは0.5~10モルの割合とし、さらに好ましくは0.8~5モルの割合とする。
【0061】
<添加剤>
本実施形態のポリカーボネートには、ABSやPET等の、ポリカーボネート以外の樹脂や、各種安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、離型剤、染顔料、難燃剤等の添加剤等を添加することができる。これにより、さまざまな用途に適合させたポリカーボネート樹脂組成物を製造することができる。
さらに、これらを組み合わせることで、多様なポリカーボネート樹脂組成物を製造できる。
【0062】
添加剤としては、例えば、耐熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、染料及び顔料の他、金属不活性化剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤等が挙げられる。
耐熱安定剤や酸化防止剤としては、以下に限定されないが、例えば、燐化合物、フェノール系安定剤、有機チオエーテル系安定剤、ヒンダードアミン系安定剤等が挙げられる。
光安定剤や紫外線吸収剤としては、以下に限定されないが、例えば、サリチル酸系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤等が挙げられる。
離型剤としては、公知の離型剤を用いることができ、以下に限定されないが、例えば、パラフィン類等の炭化水素系離型剤、ステアリン酸等の脂肪族酸系離型剤、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド系離型剤、ステアリルアルコール、ペンタエリスリトール等のアルコール系離型剤、グリセンモノステアレート等の脂肪族エステル系離型剤、シリコーンオイル等のシリコーン系離型剤が挙げられる。
染料及び顔料としては、有機系や無機系の公知の染料及び顔料を用いることができる。その他にも、金属不活性化剤、帯電防止剤、滑剤、造滑剤等については、目的に応じて、これらの特性を発揮する公知の材料を用いることができる。これらは、いずれも1種のみを単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0063】
<触媒失活剤、添加剤の添加位置>
前記触媒失活剤及び/又は添加剤は、重合反応工程で添加してもよく、後述する重合反応工程から溶融状態で送り出されるポリカーボネートを押し出した後に濾過処理する濾過工程で添加してもよい。
【0064】
(濾過工程)
本実施形態のポリカーボネートの製造方法においては、上述したポリカーボネートを重合する重合反応工程と、溶融状態で送り出されたポリカーボネートを固化する押出成形工程を有し、かつ、前記重合反応工程と、前記押出成形工程との間に、所定のフィルターにより濾過処理する濾過工程を有する。
濾過工程においては、重合されたポリカーボネートを後述する混練装置を用いて混練することが好ましく、必要に応じて所定の混練装置を用いて触媒失活剤及び/又は添加剤を添加し、混練した後、所定のフィルターにより濾過処理する。
なお、濾過工程で用いるフィルターは、全体として単層構成であってもよく、複数層構成であってもよい。
【0065】
<フィルターの設置位置>
濾過工程においては、所定のフィルターにより溶融状態のポリカーボネートの濾過処理を行う。
本実施形態で用いるフィルターは、本発明の目的以外にも、剛性を有する固形異物を分離捕集するというフィルター本来の機能も有しているため、前記混練装置の下流に設置することが好ましく、さらには、後述する押出成形工程の上流にも設置することが好ましい。
フィルター自身の圧力損失、及び後述する押出成形工程において用いられる配管や装置の圧力損失に打ち勝って溶融状態のポリカーボネートを下流へと移送する観点から、混練装置とフィルターとの間には、必要に応じてギアポンプ等の強制移送装置を設置してもよい。
【0066】
<フィルターの空隙率>
本実施形態で用いるフィルターは、空隙率が40~70%であることが好ましい。
「空隙率」とは、フィルターの濾過層の全体積に占める、濾過層中の空間体積の割合を意味する。
なお「濾過層」とは、フィルターの濾過機能に寄与する部分を言う。
本実施形態で用いるフィルターの空隙率は、溶融状態のポリカーボネート中のゲルを磨り潰して細分化し、ポリカーボネートを成形体とした際に表面に観測されるフィッシュアイを本発明規定の特定のサイズに制御する観点から、40~70%であることが好ましく、60~68%であることがより好ましく、62~66%であることがさらに好ましい。
空隙率が40%以上のフィルターであれば製造可能であり、工業的規模の生産量を有するポリカーボネートの製造方法への適用に好適である。
【0067】
<フィルターの絶対濾過精度>
本実施形態で用いるフィルターは、絶対濾過精度が、特定のサイズのフィッシュアイを特定の量の範囲に制御する観点から、20~45μmであるものとし、22~43μmが好ましく、25~40μmがより好ましい。
フィルターの絶対濾過精度が20μm以上であることにより、大きさが50~100μmのフィッシュアイの個数を本発明において規定する所望の数以下に抑制できシルバー等の発生を防止できる。また、絶対濾過精度が45μm以下であることにより、大きさが50~100μmのフィッシュアイの個数を、本発明において規定する所望の数以上に制御することができる。
なお、「絶対濾過精度」とは、濾過対象物を真球状粒子と仮定した場合の、フィルターを通過する間に100%捕集することができる最小の粒子直径を意味する。
【0068】
[フィルターの絶対濾過精度の測定方法]
フィルターの絶対濾過精度は下記のように測定することができる。
均一粒子径を有するラテックスビーズを分散させた液を数種類用いて定圧濾過試験を行い、フィルター濾材通過前後の粒子数(NAとNB)を測定して下記式により濾過効率を算出し、算出した濾過効率とラテックスビーズの粒子径から、濾過効率曲線(粒子径に対する濾過効率のグラフ)を作成し、濾過効率100%の粒子径を絶対濾過精度とした。
フィルター濾材通過前粒子数:NA
フィルター濾材通過後粒子数:NB
濾過効率(%)={(NA-NB)/NA}×100
【0069】
<濾過層の厚み>
本実施形態において用いるフィルターの濾過層の厚みは、濾過精度の維持とフィルターの入口と出口の操作圧力の差を適切に制御する観点から、0.75~2.0mmであるものとし、0.8~1.8mmが好ましく、0.9~1.6mmがより好ましい。
フィルターの濾過層の厚みが0.75mm以上である場合は、十分に高い濾過精度が得られ、2.0mm以下である場合は、操作圧力の差が大きくなり過ぎず、また、色調の悪化、フィッシュアイの増加を防止することができる。
なお、濾過層の厚みとは、本実施形態のポリカーボネートの製造方法の濾過工程で用いるフィルター全体の厚みである。
【0070】
<フィルターの入口と出口の操作圧力の差>
本実施形態のポリカーボネートの製造方法で用いるフィルターの入口と出口の操作圧力の差としては、フィルター自体の圧力損失(a)の他にも、溶融状態のポリカーボネートがフィルターに入りフィルターへ到達するまでの流路における圧力損失(b)や、溶融状態のポリカーボネートがフィルターを通過した後、フィルターから出て行くまでの流路における圧力損失(c)が発生する。
フィルターの入り口と出口の圧力損失は、これら(a)~(c)の各圧力損失の総和である。
フィルター自体の圧力損失(a)のみを監視することは非常に困難である。従って、フィルターの入口と出口の操作圧力の差、すなわち上記圧力損失の総和に対して使用上限を設定し監視することが通常行われている。
圧力損失の総和の上限は、フィルター自体の耐圧強度を元に設定されるが、通常15MPa程度である。
よって、フィルターの入口と出口の操作圧力の差は、2.5~15.0MPaであるものとし、2.5~14.0MPaが好ましく、2.5~13.0MPaがより好ましい。
2.5MPa以上であることにより、フィルター内での編流等の発生を抑制でき、着色や炭化物等の異物の発生を効果的に防止できる。
また、15.0MPa以下であることにより、フィルター及び濾過装置の破損を防止できる。さらに、差圧を低くすることにより装置内部での発熱やシェアを抑制でき、ポリマーの分解や着色等の不具合を防止できる。
【0071】
<フィルターの種類>
本実施形態で用いる「フィルター」とは、一般にポリマーフィルターと呼称されるものであり、溶融状態のポリカーボネートの色調悪化を防ぐ観点から、ステンレス繊維を用いた濾過層を有するものが好ましい。例えば、リーフディスク型フィルターやキャンドル型フィルターが挙げられる。
【0072】
<溶融状態のポリカーボネートの温度>
濾過工程において、ポリカーボネートがフィルターを通過する際のポリカーボネートの温度は、255~350℃であることが好ましい。
前記「フィルターを通過する際の溶融状態のポリカーボネートの温度」は、フィターで濾過処理する前と濾過処理した後の両方におけるポリカーボネートの温度を意味する。
フィルターを通過する際の溶融状態のポリカーボネートの温度は、260~340℃がより好ましく、280~320℃がさらに好ましい。
濾過工程における溶融状態のポリカーボネートの温度を255℃以上にすることで、粘度が急激に上昇することを防止することができ、特に工業規模の生産量を有する製造方法への適用上好ましい。
溶融状態のポリカーボネートの温度を350℃以下にすることで、ポリカーボネートの色調等の品質を良好に維持しやすくなる。
フィルター濾過処理前の溶融状態のポリカーボネートの温度は、フィルターの上流に設置されている重合反応工程又は濾過工程の混練装置又は強制移送装置の温度制御装置及び計器で調整できる。フィルター濾過処理後の溶融状態のポリカーボネートの温度は、フィルターを格納しているフィルター装置の温度制御装置及び計器で調整することができる。
【0073】
(押出成形工程)
本実施形態のポリカーボネートの製造方法は、上述した濾過工程の後、溶融状態のポリカーボネートを固化する押出成形工程を有する。
押出成形工程は、公知の押出機、ペレタイザー、乾燥機等を用いて実施することができる。
例えば、溶融した芳香族分岐ポリカーボネートを押出機に供給し、押出機において、固化して所望の形状に成形できる。また、ABSやPET等の他の樹脂や、耐熱安定剤、酸化防止剤、光安定剤、紫外線吸収剤、離型剤、難燃剤等の添加剤、有機系や無機系の顔料や染料、金属不活性化剤、帯電防止剤、滑剤、造核剤等の任意の添加剤を混合してもよい。
これら他の樹脂及び任意の添加剤は、1種単独で用いてもよく、2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0074】
〔成形体〕
本実施形態の成形体は、上述した本実施形態のポリカーボネートの成形体である。
本実施形態の成形体は、本実施形態のポリカーボネートを成形することにより得られる。
例えば、上述した押出成形工程で得られたポリカーボネートのペレットを、所定の成形機、例えば、射出成形機を用いて成形することにより得られる。
本実施形態の成形体は、表面がシボ加工されたものであることが好ましい。本実際形態によれば、上述した特定の成形条件で得た厚さ40μm、幅15cm、面積2.5m2のフィルム中に存在する、大きさが50~100μmのフィッシュアイ数を250~5000個に特定したことにより、成形体表面に適度で均一な凹凸が形成されるため、シボ加工性が良好で、表面の艶消し性に優れ、外観に優れた成形体が得られる。
【実施例0075】
以下、具体的な実施例及び比較例を用いて、本実施形態をさらに具体的に説明するが、本発明は以下の実施例及び比較例によって何ら限定されるものではない。
【0076】
〔物性及び特性〕
((1)ポリカーボネートのMFRの測定)
熱風乾燥機で、120℃、5時間乾燥させたポリカーボネートのペレットを、メルトフロー試験装置(Mflow ツビックローエル(Zwick Roell)社製)を用いて、300℃・1.2kg荷重の条件で、MFRを測定した。
(単位:g/10min)(ISO1133規格)。
【0077】
((2)フィッシュアイの測定)
熱風乾燥機で、120℃、5時間乾燥させたポリカーボネートのペレットを、バレル温度320℃、Tダイ温度320℃、ロール温度120℃で、厚さ40μm、幅15cmのフィルムを成形し、フィルム検査装置(FSA100 OCS社製)を用いて、面積2.5m2中に存在する、大きさが50~100μmのフィッシュアイの数をCCDカメラで検査した。
【0078】
((3)表面外観の艶消し性評価)
熱風乾燥機で、120℃、5時間乾燥させたポリカーボネートのペレットを、射出成形機を用い、シリンダー温度300℃、金型温度90℃で、表面がシボ加工された縦50mm×横90mm×厚さ3.0mmの試験片を連続成形し、試験片を得た。
得られた試験片30枚の表面外観を、目視にて観察し、以下の基準で評価を行った。
A:艶消し性が十分で光沢感が感じられない試験片が25枚以上ある。
B:艶消し性が不十分で光沢感のある試験片が6枚以上ある。
C:シルバーなどの成形不良が発生している試験片が6枚以上ある。
【0079】
〔ポリカーボネートの製造〕
(PC-1)
図2に示す構成のポリカーボネートの製造装置を用いてポリカーボネートの製造を行った。
不活性ガス吸収装置2基(第1不活性ガス吸収装置39、第2不活性ガス吸収装置44)と、ガイド接触流下式重合装置2基(第1ガイド接触流下式重合装置42、第2ガイド接触流下式重合装置48A,48B)を、第1不活性ガス吸収装置39、第1ガイド接触流下式重合装置42、第2不活性ガス吸収装置44、第2ガイド接触流下式重合装置(2機を並列に配置)の順に直列に配置した重合設備連結した、ポリカーボネートの製造装置を用いて、ポリカーボネートを製造した。
図1に、第1及び第2不活性ガス吸収装置39、44の概略構成図を示す。
なお、不活性ガス吸収装置39、44は、装置構成が後述するガイド接触流下式重合装置42、48A、48Bと略共通しているため、
図1はガイド接触流下式重合装置の概略構成図としても用いる。これらにおいて、共通箇所については、同一符号を使用する。
【0080】
混合槽31(内容量120m3)に、160℃の溶融したジフェニルカーボネート(DPC-1)40トンを投入した。
次いで触媒として、水酸化カリウムをビスフェノールA(BPA-1)45トンに対して、カリウム分で120質量ppb添加し、混合槽内の混合液の温度が100℃以上を維持するようにしながらビスフェノールAを1.8時間かけて投入した。
前記ビスフェノールAの投入量は45.3トンであった。
次いで、前記ビスフェノールAに対するジフェニルカーボネートのモル比が1.15となるように、ジフェニルカーボネート8.9トンを追加で投入した。なお、ジフェニルカーボネートの投入量は、コリオリ式質量重量計を用いて秤量し、ビスフェノールAの投入量はロードセル計量器が設けられている計量ホッパーを用いて秤量した。
前記混合液の温度が180℃に達した時点で、溶解混合物貯槽(内容量120m3)33Aに1時間かけて移送した。
【0081】
溶解混合物貯槽33A内で4~6時間保持した反応混合物を、流量14トン/hrで、溶解混合物貯槽33Aと撹拌槽式の第1重合器35との間に直列に配置して設けられた孔径の異なる2個のポリマーフィルター(図示せず。上流側の孔径が5μm、下流側の孔径が2.5μm)で濾過した。
濾過後の反応混合物を、予熱器(図示せず。)で加熱し、撹拌槽式の第1重合器35へ供給した。予熱器出口の液温は230℃であった。
溶解混合物貯槽33A中の反応混合物のレベルが所定値よりも低下した時点で、撹拌槽式の第1重合器35へ反応混合物を供給する供給元を溶解混合物貯槽33Aから溶解混合物貯槽33Bに切り替えた。撹拌槽式の第1重合器35への反応混合物の供給は、供給元の溶解混合物貯槽33Aと33Bを3.9時間毎に交互に切り替える操作を繰り返すことによって連続的に行った。
なお、溶解混合物貯槽33A、33Bともに、内部コイルとジャケットとが設置されており、180℃を保持した。
【0082】
撹拌槽式の第1重合器35、及び撹拌槽式の第2重合器37で、減圧下で撹拌を行い、発生するフェノールを除去しながら反応混合物を重合させて、プレポリマーを得た。
そのときの撹拌槽式の第1重合器35の温度は230℃、圧力は9.3kPaAであり、撹拌槽式の第2重合器36の温度は265℃、圧力は2.9kPaAであった。
得られたポリカーボネートの溶融プレポリマーを、供給ポンプ38によって、
図1に示す第1不活性ガス吸収装置の液体受給口1より液体供給ゾーン3に連続的に供給した。
【0083】
第1不活性ガス吸収装置39の分配板である多孔板2を通して、内部空間である不活性ガス吸収ゾーン15に連続的に供給された、前記プレポリマーは、ガイド4に沿って流下しながら不活性ガスの吸収が行われた。
第1不活性ガス吸収装置39の内部空間である不活性ガス吸収ゾーン15は、不活性ガス供給口9から窒素ガスを供給して180kPaAに保持されている。
ガイド4の下部から第1不活性ガス吸収装置39のケーシングのテーパー型下部11に落下した溶融プレポリマー(該溶融プレポリマー1kgあたり窒素を0.04Nリットル含む)は、前記装置の底部での量がほぼ一定となるように排出ポンプ8(
図2中、符号40に相当)によって連続的に排出し、第1ガイド接触流下式重合装置42の液体受給口1(前記不活性ガス吸収装置と共通図として使用する
図1中の符号1)を経て液体供給ゾーン3に連続的に供給した。
第1ガイド接触流下式重合装置42の内部空間である蒸発ゾーン5は、真空ベント口6を通して800PaAの圧力に保持した。
ガイド4の下部から、第1ガイド接触流下式重合装置42のケーシングのテーパー型下部11に落下した重合度の高められたポリカーボネートの溶融プレポリマーは、底部での量がほぼ一定となるように排出ポンプ8(
図2中、符号43に相当)によって、液体排出口7から一定の流量で連続的に抜き出され、次いで第2不活性ガス吸収装置44の液体供給ゾーン3に連続的に供給した。
【0084】
前記溶融プレポリマーを、第2不活性ガス吸収装置44の分配板である多孔板2を通して、内部空間である不活性ガス吸収ゾーン15に連続的に供給した。
溶融プレポリマーは、ガイド4に沿って流下しながら不活性ガスの吸収が行われた。
第2不活性ガス吸収装置44の内部空間である不活性ガス吸収ゾーン15は、不活性ガス供給口9から窒素ガスを供給して200kPaAに保持されているものとした。
ガイド4の下部から第2不活性ガス吸収装置のケーシングのテーパー型下部である底部ケーシング11に落下した溶融プレポリマー(該溶融プレポリマー1kgあたり窒素を0.05Nリットル含む)は、三方ポリマーバルブ(45)で二分割(50:50の比で分割)し、該底部での量がほぼ一定となるように排出ポンプ8(
図2中、符号46A、46Bに相当)によって一定量で連続的に排出し、第2ガイド接触流下式重合装置48A、48Bのそれぞれの供給ゾーン3に連続的に供給した。
【0085】
第2ガイド接触流下式重合装置48A、48B内の分配板である多孔板2を通して、内部空間である蒸発ゾーン5に連続的に供給された、溶融プレポリマーは、ガイド4に沿って流下しながら重合反応が進められた。
第2ガイド接触流下式重合装置の内部空間である蒸発ゾーンは5、真空ベント口6を通してそれぞれ110PaAの圧力に保持した。
ガイド4の下部から、第2ガイド接触流下式重合装置のケーシングのテーパー型下部である底部ケーシング11に落下した生成芳香族ポリカーボネートは、該底部での量がほぼ一定となるように排出ポンプ8(49A、49B)によって後段の機器(50A、50B)からストランドとして連続的に抜き出し、冷却後切断してペレット状のポリカーボネートを得た。
後段の機器(50A、50B)は、それぞれ、添加剤等を添加し、混錬する押出機-昇圧ギアポンプ-フィルター装置-ダイ-ストランドバス-ストランドカッターからなる。
生産量は、それぞれ4.0トン/hr(合計8.0トン/hr)であった。添加剤は無添加とした。
ポンプ8(49A)直後の配管からサンプリングして得られたポリカーボネートのMFRは、9.8(g/10min)であった。
【0086】
(PC-2)
第2ガイド接触流下式重合装置の内部空間をそれぞれ210PaAの圧力に保持した以外はPC-1と同じ条件でポリカーボネートを製造した。
ポンプ8(49A)直後の配管からサンプリングして得られたポリカーボネートは、MFRが22.1(g/10min)であった。
【0087】
(PC-3)
市販されているMFRが7.8(g/10min)の芳香族ポリカーボネートを用いた。
【0088】
〔実施例1〕
前記(PC-1)の製造において、後段の機器50Aのフィルター装置部分に、絶対濾過精度が28μm、濾過層の厚みが1.05mm、SUS316L焼結繊維のリーフディスク型フィルターを装着した。
ポリマー処理量は、205kg/h/m2であり、フィルター装置の入口と出口の操作圧力の差(入口の圧力-出口の圧力)は、2.6MPaであった。
得られたポリカーボネートの特性の測定結果を表1に示す。
【0089】
〔実施例2~6〕、〔比較例2~4〕
下記表1に示すように条件を変更したこと以外は、前記実施例1と同様に実施してペレット状のポリカーボネートを得た。
得られたポリカーボネートの特性の測定結果を表1に示す。
【0090】
〔比較例1〕
前記(PC-2)の製造において、後段の機器50Aのフィルター装置部分に、設定温度280℃に保温した直管を設置してポリマーを濾過しなかったことと、下記表1に記載しているように条件を変更したこと以外は、前記実施例1と同様に実施してペレット状のポリカーボネートを得た。
得られたポリカーボネートの特性の測定結果を表1に示す。
【0091】
〔比較例5〕
市販されている芳香族ポリカーボネート樹脂(PC-3)を用いた。
特性の測定結果を表1に示す。
【0092】
本発明のポリカーボネートは、高品質なポリカーボネートを材料として用いる分野、例えば、電気機器、電子機器の筐体、及びカバー等の分野において、産業上の利用可能性を有する。