(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154652
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】人工血管
(51)【国際特許分類】
A61F 2/06 20130101AFI20231013BHJP
D03D 1/00 20060101ALI20231013BHJP
D03D 3/02 20060101ALI20231013BHJP
D03D 15/587 20210101ALI20231013BHJP
A61L 27/40 20060101ALI20231013BHJP
A61L 27/34 20060101ALI20231013BHJP
A61L 27/14 20060101ALI20231013BHJP
A61L 27/50 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
A61F2/06
D03D1/00 Z
D03D3/02
D03D15/587
A61L27/40
A61L27/34
A61L27/14
A61L27/50 300
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064118
(22)【出願日】2022-04-07
(71)【出願人】
【識別番号】390000996
【氏名又は名称】株式会社ハイレックスコーポレーション
(74)【代理人】
【識別番号】110001896
【氏名又は名称】弁理士法人朝日奈特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】小嵐 伸作
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
4L048
【Fターム(参考)】
4C081AB13
4C081BB02
4C081BB07
4C081DA03
4C081DC03
4C097AA15
4C097BB01
4C097CC02
4C097EE06
4C097EE08
4C097EE11
4C097FF12
4L048AA14
4L048AA20
4L048AA24
4L048AA34
4L048AB07
4L048AB11
4L048AC18
4L048BA01
4L048BB04
4L048CA00
4L048CA11
4L048CA15
4L048DA22
4L048EB00
4L048EB05
(57)【要約】
【課題】本発明は、柔軟性を維持しつつ、耐漏血性を向上させることが可能な人工血管の提供を目的とする。
【解決手段】人工血管VEは、経糸1および緯糸2が織られた所定の織構造を有する人工血管VEであって、経糸1および緯糸2の少なくとも一方は、複数のフィラメント糸を含むマルチフィラメント糸によって構成され、人工血管VEは、人工血管VEの表面に複数箇所設けられ、それぞれがマルチフィラメント糸を面状に覆う複数の被覆部Cと、人工血管VEの表面において、複数の被覆部Cの間に設けられ、被覆部Cによって覆われていない非被覆部UCとを有している。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
経糸および緯糸が織られた所定の織構造を有する人工血管であって、
前記経糸および緯糸の少なくとも一方は、複数のフィラメント糸を含むマルチフィラメント糸によって構成され、
前記人工血管は、
前記人工血管の表面に複数箇所設けられ、それぞれが前記マルチフィラメント糸を面状に覆う複数の被覆部と、
前記人工血管の表面において、複数の被覆部の間に設けられ、前記被覆部によって覆われていない非被覆部と
を有している、人工血管。
【請求項2】
前記人工血管は、前記被覆部に対して前記人工血管の径方向内側に、前記マルチフィラメント糸の前記複数のフィラメント糸が互いに分離した状態で延びる内側織部を有している、請求項1に記載の人工血管。
【請求項3】
前記被覆部および前記非被覆部は、前記人工血管の表面の一部において、前記人工血管の軸方向および/または周方向で交互に設けられている、請求項1に記載の人工血管。
【請求項4】
複数の前記被覆部の総面積が、前記人工血管の表面積の50~90%である、請求項1に記載の人工血管。
【請求項5】
前記被覆部は、前記マルチフィラメント糸が溶融固化された状態の、または、前記マルチフィラメント糸の表面にコートされた樹脂層によって構成されている、請求項1に記載の人工血管。
【請求項6】
前記経糸は、前記人工血管の長さ方向に沿って延びており、
前記経糸は、前記マルチフィラメント糸によって構成され、
前記経糸は、複数の緯糸を跨いで延びる部分を有し、
前記複数の緯糸を跨いで延びる部分に、前記被覆部が設けられている、
請求項1に記載の人工血管。
【請求項7】
前記人工血管は、前記人工血管の軸方向に山部と谷部とが交互に形成されている、請求項1に記載の人工血管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は人工血管に関する。
【背景技術】
【0002】
人工血管は、例えば病的な生体血管を取り替えるために用いられている。人工血管は、例えば、特許文献1に示されるように、経糸および緯糸の織構造によって構成されている。人工血管は、人工血管からの血液の漏れが少ないこと、すなわち高い耐漏血性が要求される。人工血管は、経糸および緯糸の織密度を高くすることによって耐漏血性を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、人工血管の織密度を高くすると、耐漏血性を向上させることはできるが、人工血管に求められる柔軟性が損なわれてしまう。
【0005】
そこで、本発明は、柔軟性を維持しつつ、耐漏血性を向上させることが可能な人工血管の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の人工血管は、経糸および緯糸が織られた所定の織構造を有する人工血管であって、前記経糸および緯糸の少なくとも一方は、複数のフィラメント糸を含むマルチフィラメント糸によって構成され、前記人工血管は、前記人工血管の表面に複数箇所設けられ、それぞれが前記マルチフィラメント糸を面状に覆う複数の被覆部と、前記人工血管の表面において、複数の被覆部の間に設けられ、前記被覆部によって覆われていない非被覆部とを有している。
【発明の効果】
【0007】
本発明の人工血管によれば、柔軟性を維持しつつ、耐漏血性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の一実施形態の人工血管の側面図である。
【
図3】
図1の人工血管に用いられる基材の織構造の一例を示す、織物組織図である。
【
図4】
図3のIV-IV線に沿って基材を切断した基材断面の模式図である。
【
図5】
図3のV-V線に沿って基材を切断した基材断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、図面を参照し、本発明の一実施形態の人工血管を説明する。なお、以下に示す実施形態はあくまで一例であり、本発明の人工血管は、以下の実施形態に限定されるものではない。
【0010】
なお、本明細書において、「Aに垂直」およびこれに類する表現は、Aに対して完全に垂直な方向のみを指すのではなく、Aに対して略垂直であることを含んで指すものとする。また、本明細書において、「Bに平行」およびこれに類する表現は、Bに対して完全に平行な方向のみを指すのではなく、Bに対して略平行であることを含んで指すものとする。また、本明細書において、「C形状」およびこれに類する表現は、完全なC形状のみを指すのではなく、見た目にC形状を連想させる形状(略C形状)を含んで指すものとする。
【0011】
図1は、本発明の一実施形態の人工血管の側面図である。
図2は、
図1の人工血管の領域IIの部分拡大図である。
図3は、
図1の人工血管に用いられる基材の織構造の一例を示す、織物組織図である。
【0012】
人工血管は、例えば、病的な生体血管と取り替えて、生体血管をバイパスするためなどに用いられる。
図1および
図2に示されるように、本実施形態の人工血管VEは、人工血管VEの軸X(
図1参照)方向に山部Mと谷部Vとが交互に形成されている。人工血管VEに山部Mと谷部Vとが交互に形成される場合、柔軟性がある人工血管とすることができ、人工血管VEを曲げたときにキンクしにくい。本実施形態では、人工血管VEは、山部Mおよび谷部Vが螺旋状に形成された円筒状に形成されているが、人工血管は、山部Mおよび谷部Vを有していなくてもよい。
【0013】
人工血管VEの直径は、用いられる部位等に応じて変更可能であり、特に限定されない。例えば、人工血管VEは、内径10mm以上の大口径(胸腹部大動脈用)の人工血管であってもよいし、内径6mm、8mmなど、内径6mm以上10mm未満の中口径(下肢、頸部、腋窩領域における動脈用)の人工血管であってもよいし、内径6mm未満の小口径の人工血管であってもよい。人工血管VEの厚さは、用いられる人工血管の内径や長さに応じて適宜変更され、特に限定されない。例えば、人工血管VEの厚さは、0.1~2mmとすることができる。
【0014】
人工血管VEの軸X方向の長さは、用いられる部位等に応じて変更が可能であり、特に限定されない。例えば、人工血管VEの軸X方向の長さは、100~1000mmとすることができる。なお、人工血管VEは、所望の部位に移植される際に、医師等によって所定の長さにカットされて用いられる。人工血管VEは移植される部位によって、軸X方向に対して垂直にカットされる場合もあれば、軸X方向に対して所定の角度で傾斜して斜めにカットされる場合もある。
【0015】
人工血管VEが山部Mおよび谷部Vを有する場合、人工血管VEの山部M(または谷部V)の数(プリーツの数)は、特に限定されないが、必要なキンク性能に応じて適宜設定することができる。例えば、人工血管VEの山部Mの数(プリーツの数)は、外径が15mmの人工血管の場合、軸X方向の長さ100mmあたり、20~70個、好ましくは25~35個とすることができる。また、人工血管VEの山部Mの頂部Mt(
図2参照)と隣接する山部Mの頂部Mtとの間の軸X方向の間隔(ピッチ)は、特に限定されないが、例えば、人工血管VEの外径(山部Mの頂部Mtにおける外径)の10~30%、好ましくは15~25%とすることができる。また、山部Mの頂部Mtから谷部Vの底部Vb(
図2参照)までの深さは、特に限定されないが、例えば、人工血管VEの外径の5~20%、好ましくは5~15%とすることができる。
【0016】
また、本実施形態では、山部Mの頂部Mtにおける曲率が、谷部Vの底部Vbにおける曲率よりも小さい(本実施形態では、山部Mの頂部Mtにおける曲率半径は、谷部Vの底部Vbの曲率半径よりも大きい)。なお、「山部Mの頂部Mtにおける曲率が、谷部Vの底部Vbにおける曲率より小さい」とは、山部Mの頂部Mtにおける軸X方向に沿った湾曲の度合いが、谷部Vの底部Vbにおける軸X方向に沿った湾曲の度合よりも小さい(山部Mのカーブが谷部Vのカーブよりも緩やか)ということを意味し、山部Mおよび谷部Vは、完全な円弧面を形成している必要はない。山部Mの頂部Mtにおける曲率が、谷部Vの底部Vbにおける曲率よりも小さい場合、人工血管VEに外力が加わったときに、谷部Vに応力が集中するため、谷部Vを起点として人工血管VEが湾曲しやすくなる。山部Mおよび谷部Vの曲率は、特に限定されない。例えば、山部Mの頂部Mtの曲率半径は、人工血管VEの直径の5~8%(かつ谷部Vの底部Vbの曲率半径よりも大きい)とすることができる。また、谷部Vの底部Vbの曲率半径は、人工血管VEの直径の2~3%(かつ山部Mの頂部Mtの曲率半径よりも小さい)とすることができる。人工血管VEが湾曲し易くなることで、湾曲した人工血管VEが元に戻りにくくなり、人工血管VEと血管等の接続部位への負荷を軽減することができる。
【0017】
なお、山部Mの頂部Mtにおける湾曲部と、谷部Vの底部Vbにおける湾曲部とは、平面部PL(
図2参照)により接続することができる。これにより、湾曲部同士を直接接続する場合と比べて、より柔軟性と耐キンク性能とを向上させることができる。なお、一方側の平面部PL1と他方側の平面部PL2とのなす角θを20°~40°、好ましくは30°となるようにすることができ、一方側の平面部PL1と他方側の平面部PL2とのなす角θは、人工血管の径、山部の高さ、谷部の高さ、ピッチ等により適宜設定することができる。
【0018】
次に、人工血管VEを構成する基材の構成について説明する。
【0019】
本実施形態の人工血管VEは、経糸1および緯糸2が織られた所定の織構造を有する。人工血管VEの所定の織構造は、人工血管に用いることが可能な公知の織構造、または公知の織構造を組み合わせた構造を採用することができる。例えば、人工血管VEは、全体的または部分的に、平織構造、綾織り構造、朱子織構造、またはこれらの織構造の複合構造を有していてもよい。本実施形態では、人工血管VEを構成する経糸1および緯糸2の少なくとも一方は、複数のフィラメント糸を含むマルチフィラメント糸によって構成されている。なお、経糸1および緯糸2のいずれか一方のみがマルチフィラメント糸によって構成されていてもよいし、経糸1および緯糸2の両方がマルチフィラメント糸によって構成されていてもよい。
【0020】
本実施形態では、
図3に示されるように、人工血管VEは、軸X方向(
図3では上下方向)に沿って延びる経糸1a~1l(以下、まとめて経糸1と呼ぶ)と、人工血管VEの周方向(
図3では左右方向)に沿って延びる緯糸2a~2l(以下、まとめて緯糸2と呼ぶ)とを有している。より具体的には、
図3に示されるように、人工血管VEは、複数の経糸1a~1lと複数の緯糸2a~2lとを有し、経糸1と緯糸2とを交錯させた織構造を有している。なお、
図3において、経糸1は上下方向に延びており、経糸1の延在方向(人工血管VEの軸X方向)をD1と呼ぶ。また、
図3において、緯糸2は左右方向に延びており、緯糸2の延在方向(人工血管VEの周方向)をD2と呼ぶ。
図3において、黒(ドットが付された部分)で示されているのが、経糸1が人工血管VEの外面(表面)に出る部分であり、白で示されているのが、緯糸2が人工血管VEの外面に出る部分である。なお、人工血管VEを製造するための織機は、特に限定されない。
【0021】
後述するように、本実施形態では、経糸1は、複数の緯糸2を跨いで延びる部分R21、R31を有している(
図3および
図5参照)。具体的には、経糸1は、
図3に示されるように、複数の緯糸2を跨いで延びる部分R21、R31と、1本の緯糸2を跨いで延びる部分R1、R22、R32とを有している。なお、経糸1は、必ずしも複数の緯糸2を跨いで延びる部分を有していなくてもよい。また、経糸1が複数の緯糸2を跨いで延びる部分を有している場合、人工血管VEの織構造は、必ずしも
図3に示される織構造に限定されず、他の織構造を有していてもよい。
【0022】
本実施形態では、人工血管VEは、
図3に示されるように、経糸1と緯糸2とが平織で織られた第1領域R1を有している。また、人工血管VEは、人工血管VEの一方の面(本実施形態では、人工血管VEの外面(表面))において、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ第2領域側第1部分(複数の緯糸2を跨いで延びる部分)R21、および、経糸1が1本の緯糸2を跨いで延びる第2領域側第2部分(1本の緯糸2を跨いで延びる部分)R22を有する第2領域R2を有している。さらに、人工血管VEは、人工血管VEの一方の面(本実施形態では、人工血管VEの外面)において、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ第3領域側第1部分(複数の緯糸2を跨いで延びる部分)R31、および、経糸1が1本の緯糸2を跨いで延びる第3領域側第2部分(1本の緯糸2を跨いで延びる部分)R32を有する第3領域R3を有している。第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3は、
図3に示されるように、緯糸2の延在方向D2で交互に形成されている。すなわち、第1領域R1、第2領域R2および第3領域R3は、緯糸2の延在方向D2にこの順に繰り返し配置されている。第2領域側第1部分R21は、緯糸2の延在方向D2で第3領域側第2部分R32に隣接し、第2領域側第2部分R22は、緯糸2の延在方向D2で第3領域側第1部分R31に隣接している。また、本実施形態では、経糸1は、マルチフィラメント糸によって構成されている。本実施形態の人工血管VEが上記構成を有している場合、後述するように、第2領域側第1部分R21または第3領域側第1部分R31において拘束されずに長く延びた、マルチフィラメント糸によって構成された経糸1が、平織で織られた第1領域R1へと広がる。この経糸1の立体構造によって、平織で織られた第1領域R1において生じる繊維間隙から血液が染み出たとき、血液は漏れ出ることが抑制され、立体構造内に保持される。保持された状態で血液が凝固することで、耐漏血性を向上させることができる。以下、人工血管VEの各部の構成および織構造について説明する。
【0023】
経糸1は、人工血管VEを構成する繊維のうち、一方向に延びる繊維である。本実施形態では、経糸1は、人工血管VEの長さ方向(軸X方向)に沿って延びる繊維である。経糸1は、繊維の織構造によって構成される布製人工血管に適用可能な材料によって構成される。経糸1の材料は、布製人工血管に適用可能な材料であれば、特に限定されない。例えば、経糸1の材料は、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド等とすることができる。また、経糸1の材料として、融点や伸縮率など異なる性質を持つ適用可能な2種類以上の材料によって構成された複合材料が用いられても良い。例えば、経糸1の材料は、ポリエチレンテレフタレート(PET)とポリトリメチレンテレフタレート(PTT)等が紡糸段階で複合されて、らせん状のクリンプを有する1本の長繊維を形成する合成繊維とすることができる。例えば、らせん状のクリンプを有する、融点や伸縮率が異なる性質を持つ2種類の材料によって構成された複合材料が経糸1の材料として用いられた場合、後述する経糸1によって構成される立体構造が緯糸2の延在方向D2で広がりやすく、より血液を保持する性能が高まり、耐漏血性を向上させることができる。
【0024】
経糸1のそれぞれは、モノフィラメント糸であっても、マルチフィラメント糸であってもよいが、本実施形態では、経糸1は、マルチフィラメント糸によって構成されている。なお、経糸1がモノフィラメント糸である場合は、緯糸2がマルチフィラメント糸によって構成される。経糸1の繊度は特に限定されないが、例えば、経糸1がモノフィラメント糸である場合は、経糸の単糸繊度は、15~100dtex、好ましくは20~75dtexとすることができる。また、経糸1がマルチフィラメント糸である場合は、経糸1の繊度は、例えば、経糸1の単糸繊度を0.25~2.50dtex、好ましくは0.50~2.00dtexとし、経糸1の総繊度を2~2500dtex、好ましくは6~1600dtex、より好ましくは10~540dtex、さらに好ましくは30~200dtexとすることができる。経糸1の単糸繊度および経糸1の総繊度を上記範囲することにより、第2領域R2および第3領域R3の経糸1を第1領域R1に向かって良好に広げることができる。したがって、第2領域R2および第3領域R3の経糸1によって第1領域R1の間隙から血液が染み出たとき、血液は漏れ出ることが抑制され、経糸1の立体構造によって保持され、保持された状態で血液が凝固することで、耐漏血性を向上することができる。なお、「単糸繊度」は、経糸1を構成するフィラメント1本あたりの繊度であり、「総繊度」は、単糸繊度と、経糸1を構成するフィラメントの本数との積である。なお、経糸1本を構成するフィラメント糸の本数(以下、フィラメント本数という)は特に限定されないが、例えば、後述するように、経糸1の総フィラメント本数が緯糸2の1本あたりのフィラメント本数の1.5倍以上であり、第2領域R2において、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1の経糸本数が1本である場合、経糸1の1本あたりのフィラメント本数は、8~1000本、好ましくは12~800本、より好ましくは20~270本、さらに好ましくは60~100本とすることができる。なお、後述するように、経糸1の1本あたりのフィラメント本数が、緯糸2の1本あたりのフィラメント本数の0.8~1.2倍であり第2領域R2において、複数の緯糸2を跨ぐ経糸1の経糸本数が2本以上である場合は、経糸1の1本あたりのフィラメント本数は、4~500本、好ましくは6~400本、より好ましくは10~135本、さらに好ましくは30~50本とすることができる。
【0025】
緯糸2は、人工血管VEを構成する繊維のうち、経糸1と交差する方向に延びる繊維である。本実施形態では、緯糸2は人工血管VEの周方向に延びる繊維である。緯糸2は、繊維の織構造によって構成される布製人工血管に適用可能な材料によって構成される。緯糸2の材料は、布製人工血管に適用可能な材料であれば、特に限定されない。例えば、緯糸2の材料は、ポリエステル、ポリテトラフルオロエチレン、ポリアミド等とすることができる。
【0026】
緯糸2のそれぞれは、モノフィラメント糸であっても、マルチフィラメント糸であってもよいが、本実施形態では、緯糸2は、マルチフィラメント糸によって構成されている。なお、緯糸2がモノフィラメント糸である場合は、経糸1がマルチフィラメント糸によって構成される。緯糸2の繊度は特に限定されないが、例えば、緯糸2がモノフィラメント糸である場合は、緯糸の単糸繊度は、15~100dtex、好ましくは20~75dtexとすることができる。また、緯糸2のそれぞれがマルチフィラメント糸によって構成されている場合、例えば、緯糸2の単糸繊度を0.25~2.50dtex、好ましくは0.50~2.00dtexとし、緯糸2の総繊度を1~1250dtex、好ましくは3~800dtex、より好ましくは5~270dtex、さらに好ましくは15~100dtexとすることができる。なお、「単糸繊度」は、緯糸2を構成するフィラメント(モノフィラメントまたはマルチフィラメント)1本あたりの繊度であり、「総繊度」は、単糸繊度と、緯糸2を構成するフィラメントの本数との積である。なお、緯糸2がマルチフィラメント糸によって構成される場合、緯糸1本を構成するフィラメント糸の本数は、4~500本、好ましくは6~400本、より好ましくは10~135本、さらに好ましくは30~50本とすることができる。
【0027】
第1領域R1は、経糸1と緯糸2とが平織された部分である。
図3において、第1領域R1は、経糸1a、1b、1e、1f、1i、1jと緯糸2(緯糸2a~2l)とが交錯する領域である。平織構造の第1領域R1において、経糸1は、
図4に示されるように、人工血管VEの一方の面(人工血管VEの外面(表面)。
図4において上側の面)から他方の面(人工血管VEの内面。
図4において下側の面)に行くまで、他方の面から一方の面に行くまでに、1本のみの緯糸2を跨ぐ(複数本の緯糸2を跨がない)ように延びている。第1領域R1は、人工血管VEの強度、特に(人工血管VEの軸X方向の)引張強度を向上させる。第1領域R1は、経糸1の延在方向D1に沿って延びており、人工血管VEの軸X方向に延びている。また、第1領域R1は、緯糸2の延在方向D2において所定間隔で互いに離間して複数配置されている。緯糸2の延在方向D2で、1つの第1領域R1と、他の1つの第1領域R1との間には、第2領域R2と第3領域R3とが配置されている。
【0028】
本実施形態では、第1領域R1は、
図3に示されるように、2本の経糸1a、1b(経糸1e、1fまたは経糸1i、1j)と、複数の緯糸2a~2l(および図示されていない緯糸)とが平織されている。1つの第1領域R1に設けられる経糸1の経糸本数は、2~4本、好ましくは2~3本、より好ましくは2本とすることができる。なお、本明細書において、経糸1がマルチフィラメント糸である場合に、「経糸本数」という場合、マルチフィラメント糸を構成するフィラメント本数ではなく、複数のフィラメント糸によって構成されて纏まった経糸1を1本とし、そのフィラメント糸が纏まった経糸1が何本あるかをいう。経糸1の経糸本数を上述した範囲とすることにより、第2領域側第1部分R21の経糸1および第3領域側第1部分R31の経糸1によって覆われない第1領域R1の範囲を小さくすることができる。したがって、平織の第1領域R1が、第2領域側第1部分R21の経糸1および第3領域側第1部分R31の経糸1によって立体的にカバーされやすくなり、第1領域R1から血液が染み出たとき、第2領域側第1部分R21の経糸1および第3領域側第1部分R31の経糸1の立体構造によって血液が保持され、保持された状態で血液が凝固することから、人工血管VEからの漏血量を低減することができる。また、人工血管VEにおいて、第1領域R1~第3領域R3における緯糸2の延在方向D2において配列された経糸1の全経糸本数に対する、第1領域R1での経糸1の経糸本数の比率(第1領域R1での経糸本数/全経糸本数)は、特に限定されないが、例えば0.2~0.4(本実施形態では、1/3)とすることができる。第1領域R1での経糸1の経糸本数および経糸本数の比率を上記範囲とすることにより、人工血管VEの強度を高めつつ、人工血管VEからの漏血量を低減することができる。
【0029】
第2領域R2は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ第2領域側第1部分R21と、経糸1が1本の緯糸2を跨いで延びる第2領域側第2部分R22とを有している。第2領域側第1部分R21および第2領域側第2部分R22は、
図3に示されるように、経糸1の延在方向D1で交互に設けられている。第2領域R2が、第2領域側第1部分R21と第2領域側第2部分R22とを有していることにより、人工血管VEの全てが平織構造であるものと比較して、人工血管VEを柔軟にすることができる。なお、第2領域R2に設けられた経糸1cの部分は、1本の経糸によって構成されていてもよいし、複数本の経糸によって構成されていてもよい。第2領域R2に設けられる経糸1の経糸本数は、例えば1~4本、好ましくは2~3本、より好ましくは2本とすることができる。
【0030】
第2領域側第1部分R21は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ部分を有するように織られた部分である。本実施形態では、経糸1c、1g、1k等が複数の緯糸2を跨いでいる。第2領域側第1部分R21において、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐことにより、平織構造よりも人工血管VEがその部分で柔軟になる。また、第2領域側第1部分R21の経糸1がマルチフィラメント糸によって構成されている場合、経糸1の延在方向D1で第2領域側第1部分R21の両端は、第2領域側第2部分R22の緯糸2(
図3の部分P1参照)によって縛られた状態となる。その場合、両端が縛られたマルチフィラメント糸によって構成された経糸1の第2領域側第1部分R21は、経糸1の延在方向D1の中央部が緯糸2の延在方向D2に広がる立体構造を形成する(なお、この立体構造は
図3において左右方向および紙面手前方向にも広がっている)。したがって、第2領域側第1部分R21に緯糸2の延在方向D2で隣接する、平織構造の第1領域R1は、広がった第2領域側第1部分R21のマルチフィラメント糸によって部分的に被覆される。この経糸1の立体構造によって、平織で織られた第1領域R1において生じる繊維間隙から血液が染み出たとき、染み出た血液はマルチフィラメントによって構成された立体構造のフィラメント間の隙間に保持される。これにより、保持された状態で血液が凝固することで、耐漏血性を向上させることができる。また、本実施形態では、第2領域側第1部分R21に緯糸2の延在方向D2で隣接する第3領域側第2部分R32も同様に、広がった第2領域側第1部分R21のマルチフィラメント糸によって部分的に被覆される。これにより、第3領域側第2部分R32において生じる隙間についても、第2領域側第1部分R21のマルチフィラメント糸によって被覆され、人工血管VE内の血液が、外部に漏出しにくくなる。
【0031】
第2領域側第1部分R21において(経糸1が人工血管VEの他方の面から一方の面(
図3において示されている面)に出てから他方の面に行くまでに)、経糸1が跨ぐ緯糸2の緯糸本数は、特に限定されないが、例えば、2~5本、好ましくは3~4本、より好ましくは3本(
図3に示される状態)とすることができる。第2領域側第1部分R21において、経糸1が跨ぐ緯糸2の緯糸本数を上記範囲とすることによって、経糸1のマルチフィラメント糸を緯糸2の延在方向D2に広げやすいとともに、人工血管VEを所定の強度に維持することができる。
【0032】
第2領域側第1部分R21は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ部分を有していれば、第2領域側第1部分R21を構成する経糸1の本数は特に限定されない。例えば、第2領域側第1部分R21(第2領域R2)は、複数(2本)の経糸によって構成されていてもよい(経糸1c、1g、1kのそれぞれが、複数本の経糸によって構成されている)。また、第2領域側第1部分R21(第2領域R2)は、1本(のみ)の緯糸2を跨いで延びる少なくとも1本の経糸1と、複数の緯糸2を跨ぐ少なくとも1本の経糸1とを有していてもよい。
【0033】
第2領域側第2部分R22は、経糸1が1本のみの緯糸2を跨ぐ(経糸1が人工血管VEの他方の面から一方の面(
図3において示されている面)に出てから他方の面に行くまでに複数の緯糸2を跨がない)ように織られた部分である。第2領域側第2部分R22は、経糸1の延在方向D1で、第2領域側第1部分R21の長さと同程度の長さとされている。すなわち、第2領域側第1部分R21における緯糸2の緯糸本数(
図3では3本)は、第2領域側第2部分R22における緯糸2の緯糸本数(
図3では3本)と等しい。
【0034】
第3領域R3は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ第3領域側第1部分R31と、経糸1が1本の緯糸2を跨いで延びる第3領域側第2部分R32とを有している。第3領域側第1部分R31および第3領域側第2部分R32は、
図3に示されるように、経糸1の延在方向D1で交互に設けられている。第3領域R3が、第3領域側第1部分R31と第3領域側第2部分R32とを有していることにより、人工血管VEの全てが平織構造であるものと比較して、人工血管VEを柔軟にすることができる。なお、第3領域R3に設けられた経糸1dの部分は、1本の経糸によって構成されていてもよいし、複数本の経糸によって構成されていてもよい。第3領域R3に設けられる経糸1の経糸本数は、例えば1~4本、好ましくは2~3本、より好ましくは2本とすることができる。
【0035】
第3領域側第1部分R31は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ部分を有するように織られた部分である。本実施形態では、経糸1d、1h、1l等が複数の緯糸2を跨いでいる。第3領域側第1部分R31において、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐことにより、平織構造よりも人工血管VEがその部分で柔軟になる。また、第3領域側第1部分R31の経糸1は、マルチフィラメント糸によって構成されている場合、経糸1の延在方向D1で第3領域側第1部分R31の両端は、第3領域側第2部分R32の緯糸2(
図3の部分P2参照)によって縛られた状態となる。その場合、両端が縛られたマルチフィラメント糸によって構成された経糸1の第3領域側第1部分R31は、経糸1の延在方向D1の中央部が緯糸2の延在方向D2に広がる立体構造を形成する。したがって、第3領域側第1部分R31に緯糸2の延在方向D2で隣接する、平織構造の第1領域R1は、広がった第3領域側第1部分R31のマルチフィラメント糸によって部分的に被覆される。この経糸1の立体構造によって、平織で織られた第1領域R1において生じる繊維間隙から血液が染み出たとき、染み出た血液が、マルチフィラメントによって構成された立体構造のフィラメント間の隙間に保持される。これにより、保持された状態で血液が凝固することで、耐漏血性を向上させることができる。また、本実施形態では、第3領域側第1部分R31に緯糸2の延在方向D2で隣接する第2領域側第2部分R22も同様に、広がった第3領域側第1部分R31のマルチフィラメント糸によって部分的に被覆される。これにより、第2領域側第2部分R22において生じる隙間についても、第3領域側第1部分R31のマルチフィラメント糸によって被覆され、人工血管VE内の血液が、外部に漏出しにくくなる。
【0036】
第3領域側第1部分R31において(経糸1が人工血管VEの他方の面から一方の面(
図3において示されている面)に出てから他方の面に行くまでに)、経糸1が跨ぐ緯糸2の緯糸本数は、特に限定されないが、例えば、2~5本、好ましくは3~4本、より好ましくは3本(
図3に示される状態)とすることができる。第3領域側第1部分R31において、経糸1が跨ぐ緯糸2の緯糸本数を上記範囲とすることによって、経糸1のマルチフィラメント糸を緯糸2の延在方向D2に広げやすいとともに、人工血管VEを所定の強度に維持することができる。
【0037】
第3領域側第1部分R31は、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐ部分を有していれば、第3領域側第1部分R31を構成する経糸1の本数は特に限定されない。例えば、第3領域側第1部分R31(第3領域R3)は、複数(2本)の経糸によって構成されていてもよい(経糸1d、1h、1lのそれぞれが、複数本の経糸によって構成されている)。また、第3領域側第1部分R31(第3領域R3)は、1本(のみ)の緯糸2を跨いで延びる少なくとも1本の経糸1と、複数の緯糸2を跨ぐ少なくとも1本の経糸1とを有していてもよい。
【0038】
第3領域側第2部分R32は、経糸1が1本のみの緯糸2を跨ぐ(経糸1が人工血管VEの他方の面から一方の面(
図3において示されている面)に出てから他方の面に行くまでに複数の緯糸2を跨がない)ように織られた部分である。第3領域側第2部分R32は、経糸1の延在方向D1で、第3領域側第1部分R31の長さと同程度の長さとされている。すなわち、第3領域側第1部分R31における緯糸2の緯糸本数(
図3では3本)は、第3領域側第2部分R32における緯糸2の緯糸本数(
図3では3本)と同じになっている。
【0039】
本実施形態の人工血管VEは、
図5および
図6に示されるように、人工血管VEの表面に複数箇所設けられ、それぞれがマルチフィラメント糸を面状に覆う複数の被覆部Cと、人工血管VEの表面において、複数の被覆部Cの間に設けられ、被覆部Cによって覆われていない非被覆部UCとを有している。
【0040】
被覆部Cは、人工血管VEの表面において、経糸1本または緯糸1本を構成するマルチフィラメント糸の複数のフィラメント糸を部分的に覆う。「マルチフィラメント糸を面状に覆う」とは、被覆部Cが、マルチフィラメント糸を構成する複数の隣接するフィラメント糸の間の、人工血管VEの表面側での隙間を塞ぐように、人工血管VEの表面において、マルチフィラメント糸の延在方向(経糸1の延在方向D1)およびマルチフィラメント糸の延在方向に垂直な方向(緯糸2の延在方向D2)に延在していることをいう。詳細は後述するが、被覆部Cが設けられていることによって、人工血管VEの径方向で被覆部Cの内側に位置する複数のフィラメント糸の間の隙間が、人工血管VEの表面において塞がれる。これにより、人工血管VEの耐漏血性が向上する。
【0041】
被覆部Cは、
図5および
図6に示されるように、人工血管VEの表面において、複数箇所設けられている。ここで、「複数箇所」とは、人工血管VEの表面全体を複数の部分に分けたときに、被覆部Cが複数の部分に設けられていることをいう。被覆部Cは、互いに分離して複数箇所に設けられていてもよいし、人工血管VEの軸方向(経糸1の延在方向D1)および/または周方向(緯糸2の延在方向D2)で互いに連続して複数箇所に設けられていてもよい。
【0042】
非被覆部UCは、
図6に示されるように、人工血管VEの表面において、被覆部Cによって被覆されていない、被覆部Cに対する残りの部分である。非被覆部UCは、
図6に示されるように、複数箇所設けられた被覆部Cの間に配置されている。非被覆部UCは、例えば、人工血管VEの軸方向(経糸1の延在方向D1)および/または周方向(緯糸2の延在方向D2)で、被覆部Cの間に配置される。詳細は後述するが、非被覆部UCは、人工血管VEの表面において、被覆部Cの間に配置されることで、人工血管VEの柔軟性を維持することに寄与する。本実施形態では、非被覆部UCの領域における経糸1および緯糸2のマルチフィラメント糸は、隣接するフィラメント糸の間の隙間が維持された状態で、人工血管VEの表面において露出している(
図6参照)。
【0043】
上述したように、本実施形態の人工血管VEは、人工血管VEの表面に複数箇所設けられ、それぞれが複数のマルチフィラメント糸を面状に覆う複数の被覆部Cと、人工血管VEの表面において、複数の被覆部Cの間に設けられ、被覆部Cによって覆われていない非被覆部UCとを有している。これにより、人工血管VEは、被覆部Cによってマルチフィラメント糸を構成する複数のフィラメント糸の間の隙間が塞がれることで、人工血管VEの耐漏血性が向上する。また、複数箇所の被覆部Cの間には非被覆部UCが設けられることで、人工血管VE全体として、柔軟性を維持させることができる。したがって、本実施形態の人工血管VEによれば、人工血管VEの柔軟性を維持しつつ、耐漏血性を向上させることができる。
【0044】
被覆部Cの人工血管VEの表面積に対する割合は特に限定されないが、複数の被覆部Cの総面積が、人工血管VEの表面積の50~90%、より好ましくは、60~80%であることが好ましい。この場合、人工血管VEの耐漏血性がより向上しつつ、人工血管VEの柔軟性を維持することができる。
【0045】
また、本実施形態では、
図5に示されるように、人工血管VEは、被覆部Cに対して人工血管VEの径方向内側(
図5における下側)に、マルチフィラメント糸の複数のフィラメント糸が互いに分離した状態で延びる内側織部IWを有している。内側織部IWは、人工血管VEの織構造の一部を構成し、複数のフィラメント糸が互いに隙間をあけて分離した状態で、被覆部Cに被覆されている。内側織部IWの複数のフィラメント糸は、
図5では模式的に示されているが、人工血管VEの径方向(
図5における上下方向)に複数本隣接し、緯糸2の延在方向D2(
図5における紙面奥行方向)に複数本隣接するような束状に延びている。なお、内側織部IWは、
図6においては、被覆部Cによって被覆されており見えていないが、被覆部Cに対して紙面奥行方向に位置している。内側織部IWの構造は、被覆部Cに対して人工血管VEの径方向内側に、複数のフィラメント糸が互いに分離した状態で延びていれば、特に限定されない。本実施形態では、内側織部IWは、第2領域側第1部分R21(および第3領域側第1部分R31)に対応する領域のマルチフィラメント糸が緯糸2の延在方向D2に広がって構造を有し、内側織部IWのマルチフィラメント糸を構成する複数のフィラメント糸は互いにばらけた状態で経糸1の延在方向D1に沿って延びている。なお、本実施形態では、
図5に示されるように、経糸1は、第2領域側第1部分R21(および第3領域側第1部分R31)に対応する領域において、人工血管VEの表面側の面状の樹脂層である被覆部Cと、被覆層Cに対して径方向内側に位置するマルチフィラメント層である内側織部IWとの二層構造を有している。
【0046】
内側織部IWが被覆部Cの径方向内側に設けられていることによって、面状の被覆部Cの径方向内側には、複数のフィラメント糸が互いに隙間を有するように、分離した状態で延びている。したがって、被覆部Cによって被覆されたマルチフィラメント糸によって構成された内側織部IWは、所定の柔軟性を維持した状態で延びている。したがって、面状の被覆部Cが設けられていても、人工血管VE全体としての柔軟性が損なわれにくく、人工血管VEの柔軟性と耐漏血性の両立が可能となる。また、内側織部IWを有することにより人工血管内側構造は、織構造を維持することができ、細胞の侵入性を損なうことを抑制できる。
【0047】
また、被覆部Cおよび非被覆部UCは、人工血管VEの表面の一部において、人工血管VEの軸方向(経糸1の延在方向D1)および/または周方向(緯糸2の延在方向D2)で交互に設けられていることが好ましい。この場合、被覆部Cおよび非被覆部UCが、人工血管VEの軸方向および/または周方向でバランス良く配置される。したがって、人工血管VEの柔軟性および耐漏血性がバランスよく向上し、人工血管VEが局所的に硬くなったり、局所的に漏血しやすくなったりすることが抑制される。特に、被覆部Cおよび非被覆部UCが人工血管VEの軸方向で交互に設けられている場合、人工血管VEを曲げやすくなり、体内での人工血管VEの配置が容易になる。また、被覆部Cおよび非被覆部UCが人工血管VEの周方向で交互に設けられている場合、人工血管VEを捩りやすくなり、人工血管VEが捩れたときの変形(潰れ)が抑制される。したがって、例えば、人工血管VEが、人工心肺装置などに接続されるときのねじ止めなどによって捩れる方向の力を受けた場合であっても、人工血管VEの捻じれによる潰れが抑制される。したがって、人工血管VEが捩れて潰れることによって、当該潰れた箇所で血液が固まって人工血管VEが閉塞されてしまうような、人工血管VEの捩れによる弊害が抑制される。本実施形態では、人工血管VEは、被覆部Cおよび非被覆部UCが、人工血管VEの軸方向および周方向の両方で交互に設けられている。この場合、人工血管VEの柔軟性および耐漏血性が、人工血管VE全体でバランス良く向上する。
【0048】
被覆部Cが設けられる領域は、被覆部Cが人工血管VEの表面において、所定の面積で複数箇所設けられていれば、特に限定されない。本実施形態では、被覆部Cは、
図5に示されるように、経糸1のうち、複数の緯糸2を跨いで延びる部分R21、R31に設けられている(
図5では、複数の緯糸2を跨いで延びる部分R21のみが示されている)。より具体的には、被覆部Cは、第2領域側第1部分R21および第3領域側第1部分R31に対応する部分に設けられている。なお、被覆部Cは、必ずしも複数の緯糸2を跨いで延びる部分(第2領域側第1部分R21および第3領域側第1部分R31)に設けられた複数のフィラメント糸の全てを覆う必要はなく、複数のフィラメント糸の大部分(限定されないが、例えば50%以上、好ましくは80%以上)を覆っていればよい。
【0049】
経糸1の、複数の緯糸2を跨いで延びる部分R21、R31は、上述したように、経糸1が複数の緯糸2を跨ぐことにより、人工血管VEは、部分R21、R31において、平織構造のみの人工血管よりも柔軟になる。また、複数の緯糸2を跨いで延びる部分R21、R31の両端は緯糸2(
図3の部分P1、P2参照)によって縛られた状態となる。この場合、両端が縛られたマルチフィラメント糸によって構成された複数の緯糸2を跨いで延びる部分R21、R31は、経糸1の延在方向D1の中央部が緯糸2の延在方向D2に広がる立体構造を形成する。このように、複数の緯糸2を跨いで延びる部分R21、R31は、柔軟性と立体構造による血液の高い保持性を有し、さらに被覆部Cによって被覆されることで、さらに耐漏血性が向上している。したがって、より人工血管VEの柔軟性および耐漏血性が向上する。
【0050】
なお、被覆部Cの構造は、マルチフィラメント糸を面状に覆うことができれば、特に限定されない。本実施形態では、被覆部Cは、マルチフィラメント糸が溶融固化された状態の、または、マルチフィラメント糸の表面にコートされた樹脂層によって構成されている。「マルチフィラメント糸が溶融固化された状態」とは、経糸1および/または緯糸2を構成するマルチフィラメント糸の一部が加熱等によって一旦溶融されて、その後固化することで面状の樹脂層となった状態をいう。この場合、溶融固化した樹脂層である面状の被覆部Cによって、溶融されていない状態の複数のフィラメント糸が人工血管VEの表面において被覆される。また、「表面にコートされた樹脂層」とは、経糸1および/または緯糸2を構成するマルチフィラメント糸に対して樹脂材料が面状にコートされることで形成された樹脂層をいう。
【0051】
人工血管VEの製造方法は特に限定されないが、被覆部Cが、マルチフィラメント糸が溶融固化された状態の樹脂層によって構成される場合、例えば、以下の製造方法によって製造することができる。まず、人工血管VEを構成する所定の織構造(例えば、
図3の織構造参照)を有する基材を用意する。次に、基材を筒状に加工する前に、被覆部Cを設ける位置に応じて、基材のうち、人工血管VEの外面(表面)となる側の面に加熱媒体を接触させる。加熱された加熱媒体によって、基材表面のマルチフィラメント糸の一部が溶融され、冷却固化することで、所望のパターンの被覆部Cが形成される。次に、基材を筒状に加工することで、人工血管VEが製造される。なお、加熱媒体による基材の加熱は、基材を筒状に加工した後に行われてもよい。加熱媒体による基材の加熱工程(マルチフィラメント糸の一部を溶融する工程)の際に、加熱媒体の温度や加熱時間等が調整されることで、マルチフィラメント糸は、基材の厚さ方向で、人工血管VEの外面側の一部(表層部分)が溶融するが、厚さ方向で、人工血管VEの内面側までは溶融せず、基材のマルチフィラメント糸のうち、人工血管VEの内面側の部分は、複数のフィラメント糸がばらけた状態のままとなる。これにより、被覆部Cと内側織部IWとの二層構造を有する人工血管VEが得られる。なお、山部Mおよび谷部Vを有する人工血管VEを製造する場合は、例えば、上記工程に加えて、筒状の心材の外側に筒状の基材を配置した後、人工血管VEの外側から谷部Vの位置に応じた位置にワイヤを巻き付けて加熱することで、山部Mおよび谷部Vを有する人工血管VEを製造することもできる。樹脂層をマルチフィラメント糸の表面にコートする場合は、上述した基材の加熱工程(マルチフィラメント糸の一部を溶融する工程)に代えて、基材に対して、所望のパターンで樹脂材料を公知の方法でマルチフィラメント糸の表面に塗布することで、被覆部Cを形成することができる。なお、上述した人工血管VEの製造方法はあくまで一例であり、上記製造方法によって、人工血管VEが限定されるものではない。
【0052】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上記実施形態に限定されない。なお、上記した実施形態は、以下の構成を有する発明を主に説明するものである。
【0053】
(1)経糸および緯糸が織られた所定の織構造を有する人工血管であって、
前記経糸および緯糸の少なくとも一方は、複数のフィラメント糸を含むマルチフィラメント糸によって構成され、
前記人工血管は、
前記人工血管の表面に複数箇所設けられ、それぞれが前記マルチフィラメント糸を面状に覆う複数の被覆部と、
前記人工血管の表面において、複数の被覆部の間に設けられ、前記被覆部によって覆われていない非被覆部と
を有している、人工血管。
【0054】
(2)前記人工血管は、前記被覆部に対して前記人工血管の径方向内側に、前記マルチフィラメント糸の前記複数のフィラメント糸が互いに分離した状態で延びる内側織部を有している、(1)に記載の人工血管。
【0055】
(3)前記被覆部および前記非被覆部は、前記人工血管の表面の一部において、前記人工血管の軸方向および/または周方向で交互に設けられている、(1)または(2)に記載の人工血管。
【0056】
(4)複数の前記被覆部の総面積が、前記人工血管の表面積の50~90%、好ましくは60~80%である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の人工血管。
【0057】
(5)前記被覆部は、前記マルチフィラメント糸が溶融固化された状態の、または、前記マルチフィラメント糸の表面にコートされた樹脂層によって構成されている、(1)~(4)のいずれか1つに記載の人工血管。
【0058】
(6)前記経糸は、前記人工血管の長さ方向に沿って延びており、
前記経糸は、前記マルチフィラメント糸によって構成され、
前記経糸は、複数の緯糸を跨いで延びる部分を有し、
前記複数の緯糸を跨いで延びる部分に、前記被覆部が設けられている、
(1)~(5)のいずれか1つに記載の人工血管。
【0059】
(7)前記人工血管は、前記人工血管の軸方向に山部と谷部とが交互に形成されている、(1)~(6)のいずれか1つに記載の人工血管。
【符号の説明】
【0060】
1、1a、1b、1c、1d、1e、1f、1g、1h、1i、1j、1k、1l 経糸
2、2a、2b、2c、2d、2e、2f、2g、2h、2i、2j、2k、2l 緯糸
C 被覆部
D1 経糸の延在方向(人工血管の軸方向)
D2 緯糸の延在方向(人工血管の周方向)
IW 内側織部
M 山部
Mt 山部の頂部
P1 第2領域側第1部分の両端を縛る緯糸の部分
P2 第3領域側第1部分の両端を縛る緯糸の部分
PL、PL1、PL2 平面部
R1 第1領域
R2 第2領域
R21 第2領域側第1部分(複数の緯糸を跨いで延びる部分)
R22 第2領域側第2部分(1本の緯糸を跨いで延びる部分)
R3 第3領域
R31 第3領域側第1部分(複数の緯糸を跨いで延びる部分)
R32 第3領域側第2部分(1本の緯糸を跨いで延びる部分)
UC 非被覆部
V 谷部
Vb 谷部の底部
VE 人工血管
X 人工血管の軸
θ 一方側の平面部と他方側の平面部とのなす角