(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154679
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】難治性神経疾患治療用組成物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
A61K 35/32 20150101AFI20231013BHJP
A61P 21/00 20060101ALI20231013BHJP
A61P 25/28 20060101ALI20231013BHJP
C12N 5/071 20100101ALN20231013BHJP
C12N 5/00 20060101ALN20231013BHJP
【FI】
A61K35/32
A61P21/00
A61P25/28
C12N5/071
C12N5/00
【審査請求】有
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064178
(22)【出願日】2022-04-07
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2022-08-25
(71)【出願人】
【識別番号】517280627
【氏名又は名称】株式会社再生医学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100196391
【弁理士】
【氏名又は名称】萩森 学
(72)【発明者】
【氏名】上田 実
【テーマコード(参考)】
4B065
4C087
【Fターム(参考)】
4B065AA90X
4B065BB32
4B065BC50
4B065BD50
4B065CA44
4C087AA01
4C087AA02
4C087AA03
4C087BB46
4C087BB64
4C087CA04
4C087NA14
4C087ZA16
4C087ZA94
(57)【要約】
【課題】難治性神経疾患治療用組成物及びその製造方法を提供することにより筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびアルツハイマー病の治療を可能とする。
【解決手段】乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用い超音波照射下で培養して得られる培養上清を含有することを特徴とする難治性神経疾患治療用組成物。該難治性神経疾患治療用組成物を含有することを特徴とする筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療用医薬およびアルツハイマー病治療用医薬。乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用いて超音波照射下で培養して得られる培養上清を該組成物に含有させることを特徴とする難治性神経疾患治療用組成物の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
難治性神経疾患治療用組成物であって、
乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用い超音波照射下で培養して得られる培養上清を含有することを特徴とする難治性神経疾患治療用組成物。
【請求項2】
上記の超音波の周波数が20KHzないし10MHz、バースト幅が10μsecないし1msec,繰り返し周期が5Hzないし10KHz,超音波出力が5ないし120mW/cm2であることを特徴とする請求項1に記載の難治性神経疾患治療用組成物。
【請求項3】
請求項1あるいは請求項2に記載の難治性神経疾患治療用組成物を含有することを特徴とする筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療用組成物。
【請求項4】
請求項1あるいは請求項2に記載の難治性神経疾患治療用組成物を含有することを特徴とするアルツハイマー病治療用組成物。
【請求項5】
難治性神経疾患治療用組成物の製造方法であって、
乳歯歯髄幹細胞を、無血清培地を用いて超音波照射下で培養して得られる培養上清を該組成物に含有させることを特徴とする難治性神経疾患治療用組成物の製造方法。
【請求項6】
上記の超音波の周波数が20KHzないし10MHz、バースト幅が10μsecないし1msec,繰り返し周期が5Hzないし10KHz,超音波出力が5ないし120mW/cm2であることを特徴とする請求項5に記載の難治性神経疾患治療用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は 難治性神経疾患治療用組成物およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
難治性神経疾患として、筋萎縮性側索硬化症(ALS:Amyotrophic Lateral Sclerosis)およびアルツハイマー病がある。筋萎縮性側索硬化症(以下ALSとも呼ぶ)は上位および下位運動ニューロンに選択的にかつ系統的な障害をきたす神経変性性疾患である。片側上肢の筋萎縮に始まり、反対側上肢、両下肢へ筋委縮が進行し、その間に言語障害、呼吸困難などと四肢の痙縮によって全身が強直する。人工呼吸器による管理を行わないと、発症後2ないし5年で呼吸不全のために死亡に至る。
ALSの原因は不明であり有効な治療法は存在しない。したがって過去に治療に成功した報告はない。いったん発症すると症状を緩和することも進行を停止することもできないALSは、神経疾患のなかで最も残酷な疾患とされている。
【0003】
世界のアルツハイマー病患者は2030年には7600万人、2050年には1億3500万人に達する。アルツハイマー病では、脳にアミロイドβ蛋白というタンパク質が蓄積し、さらにタウというタンパク質が蓄積して、神経細胞が減少し脳が萎縮していく。脳の中の海馬は記憶の中枢として知られている。アルツハイマー病では、脳の萎縮が海馬付近から始まり拡がっていく。そのため、症状は記憶の障害から始まり、徐々に認知機能全体が低下していく。アルツハイマー病には有効な治療法がなく、大きな社会問題となっている。
【0004】
従来の医療技術では治療困難な疾病に対する汎用的な代替技術として、幹細胞を利用した再生医療が注目されている。幹細胞を用いた再生医療は、全ての難病にとっての新しい臨床プラットフォームにおける有望なツールである。再生医療の適用が可能、あるいは期待される疾病は多く、臨床応用に向けた数多くの研究が行われている。なかでも筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの難治性神経変性性疾患は、再生医療による治療がもっとも期待される疾患の一つである。
【0005】
体性幹細胞をはじめ、ヒト胎児幹細胞、胚性幹細胞(ES細胞)、惹起性多能性幹細胞(iPS細胞)など種々の幹細胞が報告されている。体性幹細胞としては骨髄や脂肪由来の幹細胞があるが(非特許文献1)、これらの幹細胞には幾つかの短所、即ち、(1)加齢とともに採取可能な幹細胞数が減少すること、(2)加齢における遺伝子変異の蓄積によって移植幹細胞の安全性が確保しにくいこと、(3)細胞増殖能が低いこと、(4)幹細胞採取には激しい生体侵襲を伴うことなどの短所がある。これらの問題点を解決するために新しい難治性神経疾患治療用の幹細胞リソースの開発が重要である。ヒト胎児やES細胞由来の神経幹細胞を用いた難治性神経疾患の移植治療(特許文献1)が現実性のある研究課題として認識されているが、倫理性や安全性に大きな問題を抱えている。またips細胞の発がん性に対する懸念は払拭されず、これらはいずれも実用的な幹細胞源とはいえない。
【0006】
こうした中、本願発明者らは、幹細胞の培養上清、中でも歯髄幹細胞を無血清培養すことによって得られた幹細胞培養上清を含み、歯髄幹細胞を含まない組成物が、皮膚損傷治癒効果、脳梗塞マウスの運動機能回復効果および梗塞体積減少促進効果、神経系細胞の神経突起伸長誘導効果及びアポプトーシス抑制効果及び脊髄損傷治癒効果を有することを見出した(特許文献2)。
培養上清には、細胞自体は含まれないことから免疫拒絶反応を起こすことはない。このため、他人の幹細胞から作製した培養上清でも拒絶反応を心配することなく使用することができ適用範囲が非常に高いという特徴がある。また、あらかじめ作製した培養上清を保存しておけば、必要な時にすぐに使用することができる等、利便性が高い。
【0007】
培養軟骨細胞に超音波を照射すると、軟骨基質の生合成が高まることが報告されている(非特許文献2)。このような作用をもたらす超音波は、Duarteらにより骨折治療への研究が行われ(特許文献3)、その後米国Exogen社により超音波骨折治療機セーフスTM(SAFHSTM)(登録商標)が開発されている。超音波骨折治療機セーフスTM(SAFHSTM)は、臨床試験において、脛骨幹部骨折(非特許文献3)ならび橈骨遠位端骨折(非特許文献4)などの治癒促進効果が証明されている。また、Pittengerらにより、未分化間葉系細胞をIn vitroで脂肪細胞、軟骨細胞および骨細胞へ分化させ得ることができ、これら3種類の細胞への分化をもたらす培地組成も知られている(非特許文献5、非特許文献6)。さらに、未分化間葉系細胞を骨分化誘導倍地中で培養する際に、超音波骨折治療機セーフスTM(SAFHSTM)による超音波を照射することで骨分化が促進されることも報告されている(非特許文献7)。
【0008】
培養細胞に対する超音波の影響については様々な照射条件が検討され、特に超音照射装置を培養チャンバの底面に設置して、低出力パルスを作用させ細胞の成熟に有効であるとする研究が多い(非特許文献8)。本願発明者らは未分化間葉系細胞を軟骨分化誘導用培地で培養し人工軟骨を製造する時、培養中に超音波を照射することにより未分化間葉細胞の軟骨細胞への分化が顕著に促進されることを見出している(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2002-281962
【特許文献2】特許第6296622号
【特許文献3】米国特許第4,530,360号
【特許文献4】特許第4676679号
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Atala A. and Lanza R ( 2021-12-31) Handbook of Stem Cells.Academic Press P 452, ISBN 978-0-12-385943-3
【非特許文献2】Parvizi et al.: J Orthop. Res., 17(4):488-94, 1999
【非特許文献3】Heckman et al.: J Bone and Jiont Surg, 76A: 25-34, 1994
【非特許文献4】Kristiansen et al.: J Bone and Joint Surg, 79A: 961-973, 1997
【非特許文献5】Pittenger MF et al. : Multilineage potential of adult human mesenchymal stem cell. SCIENCE 284(2): 143-147, 1999
【非特許文献6】Pittenger MF et al. : Mesenchymal stem cell : cell biology to clinical progress. nature partner journal(npj)|regenerative medicine . Published:02 Dec. 2019.Open Access
【非特許文献7】岡田 他:第4回 日本組織工学会、川崎、7月6-7日、2001
【非特許文献8】S.-G.Yan et al.Med.Hypotheses,76:4-7,2011
【非特許文献9】Miura et al. SHED: stem cells from human exfoliated deciduous teeth. Proceedings of the National Academy of Sciences (2003)Vol.100, 5807-5812
【非特許文献10】Matsubara,K.,et al : Secreted ectodmain of sialic acid-binding Ig-like lectin and monocyte chemoattractant protein-1 promote recovery after rat spinal cord injury by altering macrophage polarity.,J.Neuroscience 35(2015):2452-2464.
【非特許文献11】Drago,D.,et al : The stem cell secretome and its role in brain repair.,Biochimie 95.12(2013):2271-2285.
【非特許文献12】Shimojima,C. et al.; Conditioned medium from the stem cells of human exfoliated deciduous teeth ameliorates experimental autoimmune encephalomyelitis.,J.Immunol 196(2016):1-8
【非特許文献13】Matsubara,K.et al.J.Neurosci.11,2015.35(6):2452-2464)
【非特許文献14】臨床神経2011:51:1195-1198
【非特許文献15】Pollari,E. etal:In Vivo electropysiological measurement of compound muscle action potential from the forelimbs in models of motor neuron degeneration.Neuroscience,15:2018 doi:10.3791/57741
【非特許文献16】Osuchowski,M., et al.: Noninvasive model of sciatic nerve conduction in healthy and septic mice; rehabilitation and normative data . Muscle Nerve. 2009 Oct40(4): 610-6.doi;10.1002/mus.21284
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本願発明が解決しようとする課題は、難治性神経疾患治療用組成物及びその製造方法を提供することである。とりわけ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびアルツハイマー病の治療を可能とすることが、本願発明が解決しようとする課題である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願発明者は鋭意検討を重ねた結果、医療廃棄物であるヒト脱落乳歯歯髄幹細胞(stem cells from exfoliated deciduous teeth;以下乳歯歯髄幹細胞あるいはSHEDと呼ぶ)を超音波照射下で無血清培地を用いて培養して得られる培養上清が、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびアルツハイマー病の治療効果を有することを見出した。
【0013】
乳歯歯髄幹細胞は、骨髄幹細胞(Bone marrow stem cell : BMSC)と同様な自己複製能及び多分化能を有する新規な幹細胞集団として同定されている。この細胞は、神経系譜に近い性状を示す神経堤由来の細胞集団であり、神経細胞への分化誘導に高い反応性を示す。また組織幹細胞であるため、移植における安全性が高く、倫理的問題も極めて少ない(非特許文献9)。
【0014】
上記のような幹細胞を培養する際に生成される上澄み液(培養上清)には、数千種類以上のたんぱく質成分が含まれており、そこには、サイトカインやケモカイン、エクソソームタンパク等と呼ばれる細胞活性のカギとなる情報伝達物質が豊富に含まれている。例えば、Epidermal Growth Factor (EGF)、Fibroblast Growth Factor (FGF)、Platelet-Derived Growth Factor (PDGF)、Hepatocyto Growth Factor (HGF)、Transforming growth Factor(TGF)、vascular endothelial growth Factor (VEGF)等の成長因子、MCP-1((Monocyte Chemotactic protein-1、単球走化性タンパク)、Siglec-9 (Sialbinding immunoglobulin-type lectins-9、シアル酸結合Ig様レクチン-9),エクソソーム等が含まれていることが知られている(非特許文献10、11)。そして、このようなサイトカインやケモカイン、エクソソームタンパク等を含む培養上清は、損傷した組織の修復や、組織を保護する機能を有することが様々な研究から実証されている(非特許文献10,11)。
【0015】
上述のように、培養上清には、細胞自体は含まれないことから免疫拒絶反応を起こすことはない。このため、他人の幹細胞から作製した培養上清でも拒絶反応を心配することなく使用することができ適用範囲が非常に高い。また、あらかじめ作製した培養上清を保存しておけば、必要な時にすぐに使用することができる等、利便性が高い。
【0016】
培養上清は、乳歯をはじめ歯髄、骨髄、脂肪、臍帯などの幹細胞を利用して作られるが幹細胞の種類によってその培養上清に含まれる成分は異なる。乳歯歯髄幹細胞(以下SHEDと呼ぶ)から作られた培養上清(乳歯歯髄幹細胞培養上清、以下SHEDCMと呼ぶ)には、特に多くのたんぱく質成分が含まれ、とくに神経再生に有利なサイトカインやケモカイン、エクソソームタンパク等が含まれていることがわかっている(非特許文献11,12)。
SHEDCMは、SHEDを培養して得られる、細胞を含まない培養液と定義される。本願発明に係る組成物は培養上清を有効成分として含むものであるが、細胞は含まない。本願発明に係る組成物は、細胞を含まないという特徴によって、SHED自体は当然のこと、幹細胞を含む各種組成物とは明確に区別される。
【0017】
SHEDCMに含まれているサイトカインとしてMCP-1(単球走化性タンパク)、Siglec-9(シアル酸結合Ig様レクチン-9)およびHGF(肝細胞増殖因子)がある。MCP-1は、76個のアミノ酸からなる塩基性タンパク質であり、免疫細胞である単球に対して特異的な遊走活性を示す。また、MCP-1は、単球表面の接着分子の発現に関与しており、炎症局所への単球の遊走、内皮細胞との接着及び内皮下への浸潤等に関与していると考えられている。そして、MCP-1は、炎症において免疫細胞であるリンパ球の組織浸潤を促進させる(NK細胞やNKT細胞を炎症に集積させる)ことができる(非特許文献12)。
【0018】
Siglec-9はMCP-1と協働して炎症性のマクロファージ(M1マクロファージ)活性を抑制すると同時に抗炎症性・再生型マクロファージ(M2マクロファージ)に極性を変換する(非特許文献13)。
【0019】
HGFは、生体の自然治癒力を支える内因性の組織再生・修復因子である。HGFは、肝細胞の増殖を促進するサイトカインとして発見されたが、肝細胞のみならずc-Met受容体を発現している様々な細胞に作用する。HGFは、抗炎症性、抗酸化、抗線維化、血管新生促進、細胞死抑制作用等の様々な作用を有し、ALSに対しても有用とする報告がある(非特許文献14)。
【0020】
第1の発明は難治性神経疾患治療用組成物であって、乳歯歯髄幹細胞を無血清培地を用い超音波照射下で培養して得られる培養上清を含有することを特徴とするものである。
【0021】
第2の発明は第1の発明に係る難治性神経疾患治療用組成物であって、上記の超音波の周波数が20KHzないし10MHz、バースト幅が10μsecないし1msec,繰り返し周期が5Hzないし10KHz,超音波出力が5ないし120mW/cm2であることを特徴とするものである。
【0022】
第3の発明は第1の発明あるいは第2の発明に係る難治性神経疾患治療用組成物を含有することを特徴とする筋萎縮性側索硬化症(ALS)治療用組成物である。
【0023】
第4の発明は第1の発明あるいは第2の発明に係る難治性神経疾患治療用組成物を含有することを特徴とするアルツハイマー病治療用組成物である。
【0024】
第5の発明は難治性神経疾患治療用組成物の製造方法であって、乳歯歯髄幹細胞を無血清培地を用いて超音波照射下で培養して得られる培養上清を該組成物に含有させることを特徴とするものである。
【0025】
第6の発明は第5の発明に係る難治性神経疾患治療用組成物の製造方法であって、上記の超音波の周波数が20KHzないし10MHz、バースト幅が10μsecないし1msec,繰り返し周期が5Hzないし10KHz,超音波出力が5ないし120mW/cm2であることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0026】
本願発明に係る難治性神経疾患治療用組成物は、難治性神経疾患、とりわけ、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびアルツハイマー病に対する治療効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】SHED培養中の超音波照射方法を示す図である。
【
図2】培養期間を通じた超音波照射の、培養終了時の培養上清中の3種のサイトカイン濃度に対する効果を示す表である。
【
図3】培養中に照射する超音波の出力と、培養終了時の培養上清中のサイトカインHGFの濃度との関係を示すグラフである。
【
図4】筋萎縮性側索硬化症モデルマウスに対するSHEDCMの効果を調べる実験のプロトコルを示す図である。
【
図5】筋萎縮性側索硬化症モデルマウス及び対照マウスにSHEDCMあるいは生理食塩水を投与した時のマウス各群の複合筋活動電位の推移を示すグラフである。
【
図6】筋萎縮性側索硬化症モデルマウス及び対照マウスにSHEDCMあるいは生理食塩水を投与した時のマウス各群の生存率の推移を示すグラフである。
【
図7】培養フラスコでの培養中の超音波照射方法を示す図である。
【
図9】筋萎縮性側索硬化症患者の運動可動域のSHEDCM治療による改善結果を示す表である。
【
図10】アルツハイマー病患者にSHEDCMを投与した時の投与前と投与8週間後のHDS-Rを示すグラフである。
【
図11】アルツハイマー病患者にSHEDCMを投与した時の治療効果の発現時期を示すグラフである。
【
図12】アルツハイマー病患者にSHEDCMを投与した時の治療効果の持続期間を示すグラフである。
【
図13】H-SHEDCMの大量生産方法である浮遊培養法の概念図である。
【
図14】H-SHEDCM、R-SHEDCM及び3種のサイトカインの混合物のALSマウスの疾患重症度緩和効果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
つぎに、本発明の実施形態を説明するが、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において様々な変更や修正が可能であることは言うまでもない。
【実施例0029】
乳歯髄由来幹細胞(SHED)の製造
(1)歯髄の採取
脱落したヒトの乳歯から採取した歯髄組織から、SHEDを付着性細胞として選別する。自然に脱落した乳歯の歯牙を、クロロヘキシジン液で消毒した後、歯冠部を分割し歯科用リーマーによって歯髄組織を回収する。クロロヘキシジン液の代わりにポビドンヨード液(イソジン(登録商標)液)を用いてもよい。
(2)酵素処理
(1)で分離・回収して採取した歯髄組織を基本培地(10%ウシ血清・抗生物質含有ダルベッコ変法イーグル培地(Dulbecco’s M odified Eagle’s Medium、以下、「DMEM」とする場合もある))に懸濁し、2mg/mlのコラゲナーゼ及びディスパーゼで37℃、1時間処理する。これを遠心分離(600ないし5000×g、5分間)して、酵素処理後の歯髄組織、歯髄細胞を回収する。
(3)細胞培養
上記のようにして回収した歯髄組織及び歯髄細胞を4ccの5体積%ないし15体積%のウシ血清および50ないし150ユニット/mlの抗生物質を含有するダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)あるいは間葉系幹細胞用培地に懸濁し、付着性細胞培養用ディッシュ、6ウェルへ播種する。
これを5体積%の二酸化炭素(以下、CO2とする場合がある。)雰囲気下、約37℃に調整したインキュベーターで培養する。サブコンフルエント(培養容器の表面の約70面積%を細胞が占める状態を示す。)またはコンフルエントに達したときに細胞を0.05体積%トリプシン・EDTAにて、5分間、37℃で処理する。ディッシュから剥離した歯髄由来幹細胞を直径10cmの付着性細胞培養用ディッシュに播種し、拡大培養を行うようにする。
継代培養は、繰り返し行ってもよく、細胞培養は、継代培養を1ないし15回行い、必要な細胞数(例えば、約1×107個/ml)まで増殖させることが好ましい。以上の培養の後、細胞を回収して保存することもできる。
(4)細胞の回収
トリプシン処理で培養容器から細胞を剥離した後、遠心分離により細胞(付着性細胞)を採取して、SHEDを回収する。遠心分離の条件は600ないし5000×gが好ましく、より好ましくは750ないし5000×gである。
【0030】
乳歯髄由来幹細胞培養上清(SHEDCM)の製造:
次に、SHEDCMの製造の一例を説明する。まず、上記の方法で得られた乳歯髄由来幹細胞(SHED)を培養容器に入れ、基本培地(血清として10体積%のFBS等の動物血清を加えた培地、(上記のDMEM等))を加える。これを5体積%CO2雰囲気下、37℃の条件下に、24ないし48時間培養する。その後、血清を含まないDMEMへ置換し、超音波発生装置(DISCIVER社、SONIC SOAC)の上に置き超音波を照射しながら、さらに24ないし72時間培養を行った後、培養上清を回収する。照射する超音波は、周波数が20KHzないし10MHz、バースト幅が10μsecないし1msec,繰り返し周期が5Hzないし10KHz,出力が5ないし120mW/cm2が好ましい。
回収した培養上清から乳歯髄由来幹細胞を完全に除去するため、回収した培養上清を、600ないし5000×gで3ないし7分間遠心分離処理を行うことにより、乳歯髄由来幹細胞を全く含まない(SHEDを取り除いた)、処理済みのSHEDCMを得る。
SHEDを除去する別の方法としては、SHEDを通過させない分離膜を通過させる等の処理により、SHEDを含まない(乳歯髄由来幹細胞を取り除いた)、処理済みのSHEDCMを得ることができる。
なお、SHEDCMの製造に用いるSHEDの継代数の制限は特にないが、標的組織の改善や予防能力、及び標的となる組織の種類の幅広さという観点から、5ないし15とすることが好ましい。
実施例1の方法で得たSHEDを、2グループに分けて、特定のサイトカインを指標に超音波照射による幹細胞分化誘導能を検証した。第1のグループ(グループ1)は非照射群、第2のグループ(グループ2)は超音波照射群とした。各群の繰り返し回数は5回(n=5)とし、培養は基本培地(DMEM;血清として10体積%のFBS等の動物血清を加えた培地)を用いて37℃、5%CO2下で行い、基本培地は3日ごとに交換した。