(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154729
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】多孔性金属錯体を含む混合物
(51)【国際特許分類】
A01N 59/00 20060101AFI20231013BHJP
A61L 9/014 20060101ALI20231013BHJP
B01J 20/26 20060101ALI20231013BHJP
A01P 3/00 20060101ALI20231013BHJP
A01N 25/30 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
A01N59/00 B
A61L9/014
B01J20/26 A
A01P3/00
A01N25/30
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064250
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】391034938
【氏名又は名称】大原パラヂウム化学株式会社
(72)【発明者】
【氏名】上林祥晃
(72)【発明者】
【氏名】井手洋和
(72)【発明者】
【氏名】脇浩一
【テーマコード(参考)】
4C180
4G066
4H011
【Fターム(参考)】
4C180AA02
4C180AA16
4C180BB03
4C180BB06
4C180BB11
4C180BB12
4C180BB13
4C180BB14
4C180BB15
4C180CC04
4C180CC15
4C180CC17
4C180EA14Y
4C180EA21Y
4C180EA26Y
4C180EA28Y
4C180EA30Y
4C180EA34Y
4C180EB21X
4G066AA05C
4G066AA12C
4G066AA18C
4G066AA22C
4G066AA66C
4G066AB24B
4G066AC02C
4G066AC11B
4G066BA03
4G066BA09
4G066BA20
4G066BA38
4G066CA02
4G066CA24
4G066CA29
4G066DA03
4G066FA37
4H011AA02
4H011BA05
4H011BB16
4H011BC16
4H011BC18
4H011BC19
4H011DA15
4H011DG03
4H011DG16
4H011DH10
(57)【要約】
【課題】多孔性金属錯体は、製造時に使用した有機溶剤の残留や、粉砕後に吸収する水分の影響による二次凝集が懸念される。二次凝集が生じると、多孔性金属錯体の偏在を始めとする加工時の生産性低下のみならず、多孔性金属錯体の細孔閉塞も懸念される。本発明では、多孔性金属錯体の二次凝集を防ぎ、多孔性金属錯体が均一に分散され、且つ消臭性能を発現できる、実使用可能な多孔性金属錯体の混合状物を提供できる。
【解決手段】多孔性金属錯体に二次凝集しない分散剤を加え、混合撹拌させた混合物は、二次凝集することなく多孔性金属錯体の消臭性能を得ることができる。また得られた混合物は、二次凝集による多孔性金属錯体の細孔閉塞を防ぎ、加工時の生産性と製品の消臭性能を両立できる。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒子状の多孔性金属錯体と分散剤とを含み、且つ下記特徴を有する混合物。
(1)多孔性金属錯体の平均粒径が0.2~50μmの範囲内である。
(2)分散剤の平均粒径が、0.01~500μmの範囲内である。
【請求項2】
下記範囲内であることを特徴とする、請求項1に記載の混合物。
(1)多孔性金属錯体の占める割合が、混合物対比で1~90wt%。
(2)混合物の安息角が70°以下。
【請求項3】
多孔性金属錯体が、下記特徴を有する、請求項1および2に記載の混合物。
(1)粒径0.2~50μmの範囲内へ粉砕後、残留有機溶剤で二次凝集する。
(2)粒径0.2~50μmの範囲内へ粉砕後、吸収した水分で二次凝集する。
【請求項4】
分散剤が、下記特徴を有する、請求項1から3に記載の混合物。
(1)活性炭、シリカ、ゼオライト、結晶セルロース、合成マイカ、酸化チタン、酸化亜鉛等、二次凝集しにくい粉体。
(2)複数種混用できる。
【請求項5】
請求項1から4に記載の混合物を得る製造方法。
【請求項6】
請求項1から5に記載の混合物は、抗菌性、抗ウイルス性および消臭性のある混合物。ならびに、それを使用したフィルター、置物、消臭シート等の消臭製品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は空気中の水分、有機溶剤、および悪臭成分を効率的に分離・回収、もしくは吸着・除去できる、多孔性金属錯体を凝集させず均一分散させ効果的に使用できる混合物に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔性金属錯体は、Porous Coordination Polymer または Metal-Organic Framework(以降PCP/MOFと省略)とも呼ばれ、金属イオンと有機配位子との配位結合を利用して人工的に合成された多孔性物質である。金属イオンが有機配位子と架橋することによって、フレームワークが構築され、このフレームワーク内の空隙が分子を取り込む空間として機能する。
【0003】
従来の多孔性物質としては、ゼオライト、シリカ、活性炭等の天然の無機的なものを挙げることができる。それぞれ、分離、吸蔵、吸着、排出といった細孔機能を有しているが、微細な細孔の制御が困難であり、細孔機能も影響を受ける。一方、PCP/MOFは、分子設計によって様々な多孔性構造のものを合成することができ、非常に複雑な構造のものや、高機能ないし多機能な多孔性物質を構築することができる。そのため、PCP/MOFは、ガス(水素、メタン、CO2等)の吸蔵、分子やイオンの選択貯蔵、異性体分離等の分離、固体触媒(酸化反応、付加反応、水素化反応等)、除放、隔離、輸送、ナノ容器、センサー等幅広い応用が期待されている。
【0004】
タバコ臭、動物臭、排泄臭等の生活臭は、家庭内や職場内、公共施設といった生活環境に溢れている。臭いによっては社会問題となることもある。高齢化に伴い排泄物の処理が問題となるが、同時に排泄臭の問題も惹起する。タバコ臭や動物臭についても、ヒトによっては耐え難いものがある。その他の生活臭にしても、生活環境において快適に過ごすためには、できれば除去することが望まれる。これら生活臭を除去する手段の一つとして、従来からゼオライト、シリカ、活性炭といった多孔性物質が用いられている。しかし、このような天然の多孔性物質では、比表面積はPCP/MOFよりも小さく、十分な消臭効果があるとは言い難い。
【0005】
人工の多孔性物質であるPCP/MOFについても、それを用いて悪臭を閉じ込める方法がいくつか提案され、活用方法全般に関しては特許文献1に開示されている。
特許文献1には、PCP/MOFの活用に関して提案がされている。実際にPCP/MOFを使用する際、PCP/MOFを粉砕し、細孔部を開口させた後にPCP/MOF同士が凝集してしまう現象(以下、二次凝集)が発生し、実使用では対策を施さなければ使用できない。特許文献1には、二次凝集に関する記載がなく、実使用での有効性に疑問が残る。
【0006】
また特許文献2では、担体の表面にPCP/MOFを点接着させる技術が提案されているが、特許文献1と同様に、製造時での二次凝集に関する記載がない。また、配合に関しては、接着剤が1~30wt%と記載があるものの、PCP/MOFの配合比に関する記載はないが、表面接着を考慮すると、PCP/MOFの配合比が主体ではなく、担体の性能を補完させるため、必ずしもPCP/MOFの性能が十分に発揮できるとは言えない。
【0007】
特許文献3では、PCP/MOFではないものの、二次凝集に対する対策が提案されている。旋回流を応用しているが、空隙を有するPCP/MOFの二次凝集を再度分散させることへの転用は困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2019-88499
【特許文献2】特開2021-62322
【特許文献3】特開2022-6480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述の通り、PCP/MOFを使用する場合、製造時に使用した有機溶剤の残留や、粉砕後に吸収する湿度の影響による二次凝集が懸念される。本発明では、PCP/MOFの二次凝集を防ぎ、実使用可能なPCP/MOF混合状物を提供できる。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明では、PCP/MOFの有する優れた吸着、消臭性能を、高配合し消臭剤として発現させるため、下記特徴を同時に備えることが重要である。
(1)多孔性金属錯体の粒径が0.2~50μmの範囲内である。
(2)分散剤の粒径が、0.01~500μmの範囲内である。
【発明の効果】
【0011】
本発明で得られる混合物は、PCP/MOFの取り扱い時に懸念される二次凝集を防止でき、形状が安定し取り扱いに優れ、生産性も良く安定的に供給可能になる。加えて、生活臭を瞬時に消臭でき、菌ないしウイルスを効果的に抑制することができる。したがって、本発明での製品および製造方法を用いると、生活臭の消臭と抗菌性・抗ウイルス性とを兼ね備えた生活資材を安定的に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明で得られた混合物の拡大写真である(倍率200倍)
【
図2】本発明で使用した混合物の拡大写真である(倍率500倍)
【発明を実施するための形態】
【0013】
1.本発明の混合物
本発明の混合物は、平均粒径が0.2~50μmの範囲内にある高配合のPCP/MOF(A)が、二次凝集することなく、消臭剤として使用できることを特徴とする。
【0014】
1.1 PCP/MOF(A)について
本発明消臭剤は、細孔口径が0.6~3.0nmの範囲内にあるPCP/MOF(A)を含む。係るPCP/MOF(A)は、金属イオンと有機配位子とが交互に配位結合されてなる。
【0015】
PCP/MOF(A)の細孔口径は、IUPACの定義によるマイクロポアの領域である0.6~3.0nmの範囲内であるが、0.7~0.9nmの範囲内が好ましく、0.9nmがより好ましい。当該細孔口径は、ガス/蒸気吸着量測定装置より測定される口径値であって、例えば、マイクロトラック・ベル社のBELSORP-maxにより測定することができる。当該細孔口径が0.6nmより小さくても、3.0nmより大きくても十分な瞬間消臭能は得られ難い。本発明消臭剤におけるPCP/MOF(A)(金属イオン、有機配位子)は、上記細孔口径を有すれば特に制限されない。
【0016】
1.1.1 金属イオン
PCP/MOF(A)を構成しうる金属イオンとしては、Mg2 +、Ca2+、Sr2+、Ba2+、Sc3+、Y3+、Ti4+、Zr4+、Hf4+、V4+、V3+、V2+、Nb3+、Ta3+、Cr3+、Mo3+、W3+、Mn3+、Mn2+、Re3+、Re2+、Fe3+、Fe2+、Ru3+、Ru2+、Os3+、Os2+、Co3+、Co2+、Rh2+、Rh+、Ir2+、Ir+、Ni2+、Ni+、Pd2+、Pd+、Pt2+、Pt+、Cu2+、Cu+、Ag+、Au+、Zn2+、Cd2+、Hg2+、Al3+、Ga3+、In3+、Tl3+、Si4+、Si2+、Ge4+、Ge2+、Sn4+、Sn2+、Pb4+、Pb2+、As5+、As3+、As+、Sb5+、Sb3+、Sb+、Bi5+、Bi3+、Bi+が挙げられる。この内、Cu2+が特に好ましい。但し、Cu2+を有するPCP/MOFは加水分解しやすいことが公知であり、本発明では、水を使用できない。
【0017】
1.1.2 有機配位子
PCP/MOF(A)を構成しうる有機配位子は、金属イオンと配位可能な複数の官能基を有する芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物を含み、さらに金属イオンと配位可能な1つの官能基を有する芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物を併用してもよい。
【0018】
有機配位子の金属イオンに配位可能な前記官能基は、1つの芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物に対し1~5個、好ましくは2~4個、より好ましくは2~3個含まれる。
【0019】
芳香族化合物は、5または6員の芳香族炭化水素環からなる単環または多環系の化合物を意味する。
【0020】
脂肪族化合物としては、メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサ ン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等の炭素数1~12の脂肪族化合物が挙げられる。
【0021】
脂環式化合物としては、シクロプロパン、シクロブタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンおよびシクロオクタンが挙げられる。
【0022】
ヘテロ芳香族化合物は、N、OおよびSから選択される1~3個のヘテロ原子を含む、5または6員の芳香環からなる単環または多環系の化合物を意味し、多環系の場合には少なくとも1つの環がヘテロ芳香環であればよい。
【0023】
ヘテロ環式化合物としては、モルホリン、ピロリジン、ピペリジン、メチルピペラジン、テトラヒドトフラン、ジオキサンが挙げられる。
【0024】
芳香族化合物、脂肪族化合物、脂環式化合物、ヘテロ芳香族化合物、ヘテロ環式化合物は、金属イオンと配位可能な官能基の他に1~5個、好ましくは1~3個、特に1~2個の置換基を有していてもよい。
【0025】
本明細書において、PCP/MOF(A)としては、金属イオンと有機配位子から構成され、カウンターイオンを含んでいてもよい。金属イオンをカウンターアニオンとする場合、Mg2 +、Ca2+、Mn3+、Mn2+、Fe3+、Fe2+、Ru3+、Ru2+、Co3+、Co2+、Rh2+、Rh+、Ni2+、Ni+、Pd2+、Pd+、Cu2+、Cu+、Zn2+、Cd2+、Ti4+、V4+、V3+、V2+、Cr3+、Pt2+、Pt+、Mo3+、Zr4+、Sc3+等のイオンが好ましく、Mg2 +、Mn3+、Mn2+、Fe3+、Fe2+、Co3+、Co2+、Ni2+、Ni+、Cu2+、Cu+、Zn2+等の金属のイオンがより好ましい。金属イオンは、単一の金属イオンを使用してもよく、2種以上の金属イオンを併用してもよい。
【0026】
PCP/MOF(A)を構成しうる好ましい有機配位子としては、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、フェナントレン、フルオレン、インダン、インデン、ピレン、1,4-ジヒドロナフタレン、テトラリン、ビフェニレン、トリフェニレン、アセナフチレン、アセナフテン等の芳香環に2個、3個または4個のカルボキシル基が結合した化合物(前記リガンドは、F,Cl、Br,I等のハロゲン原子、ニトロ基、アミノ基、アセチルアミノ基等のアシルアミノ基、シアノ基、水酸基、メチレンジオキシ、エチレンジオキシ、メトキシ、エトキシ等の直鎖または分岐を有する炭素数1~4のアルコキシ基、メチル、エチル、プロピル、tert ブチル、イソブチル等の直鎖または分岐を有する炭素数1~4のアルキル基、SH、トリフルオロメチル基、スルホン酸基、カルバモイル基、メチルアミノ等のアルキルアミノ基、ジメチルアミノ等のジアルキルアミノ基等の置換基で1,2または3置換されていてもよい)、フマル酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸等の不飽和2価カルボン酸、ピリジン、ピラジン、ピリダジン、ピリミジン、4,4-ビピリジル、ジアザピレン、ニコチン酸、イミダゾール、チアゾール、オキサゾール、キノリン、イソキノリン、ナフチリジン等の1または2以上の環内窒素原子、酸素原子もしくは硫黄原子により配位可能な含窒素芳香族化合物(前記置換基により1、2または3置換されていてもよい。)等が挙げられる。配位子が中性の場合、金属イオンを中和するのに必要なカウンターカチオンを有する。このようなカウンターカチオンとしては、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、リン酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、ベンゼンスルホン酸イオン、過塩素酸イオン等が挙げられる。
【0027】
本発明に係るPCP/MOF(A)は、シート状等の二次元細孔または複数のシートがアキシャル位に配位する二座配位子を構成要素として含む三次元細孔を有するPCP/MOF(A)を包含するが、例えば一次元細孔を有するPCP/MOF(A)を使用することができる。
【0028】
また、国際公開第2015/129685号に開示されている[Zn4(μ4 O)2(BTMB)2](BTMB=1,3,5 tris(3 carboxyphenyl)benzene)等の1,3,5-トリス(3-カルボキシフェニル)ベンゼン系のPCP/MOF(A)も使用することができる。
【0029】
本発明で使用しうるPCP/MOF(A)は、例えば以下の文献、総説(Angew.Chem.Int.Ed.2004,43,2334 2375.;Angew.Chem.Int.Ed.2008,47,2 14.;Chem.Soc.Rev.,2008,37,191 214.;PNAS,2006,103,10186 10191.;Chem.Rev.,2011,111,688 764.;Nature,2003,423,705 714.)、特許文献(国際公開第2015/129685号)等に記載されているが、これらに限定されず、公知のPCP/MOF(A)あるいは今後製造され得るPCP/MOF(A)を広く使用することができる。
【0030】
1.2 分散剤(B)について
本発明分散剤(B)は、PCP/MOF(A)と混合し分散させるため、下記特徴を有するものを選択する。
本発明においては、PCP/MOF(A)の二次凝集を防止するため、電気的にも化学的にも分散性に優れるものを混合する。電気的に無極性な物質や、化学的に安定した物質を選択することが重要であり、無機物が第一選択となる。無機物の種類としては、活性炭、シリカ、ゼオライト、酸化チタン、酸化亜鉛等が挙げられる。無機物以外でも、電気的、科学的に安定していればその限りではなく、結晶セルロース、合成マイカ等が挙げられる。
【0031】
また、分散性以外の機能から分散剤を選定することもできる。混合物内で発生した静電気を、除電されやすくするため、分散剤に活性炭、カーボンブラック、カーボンナノファイバー、黒鉛粉末等の導電性物質も含まれる。その他には、滑剤として、六方晶窒化ホウ素(hBN)、黒鉛、二硫化モリブデン等が挙げられる。後述する熱可塑性樹脂を使用した接着剤も該当する。これらの場合でも、前記分散剤と同じく、粒径範囲や、電気的、化学的安定が必要である。更に複数の分散剤を混用しても良い。
【0032】
粒径は、前記の通りPCP/MOF(A)が0.2~50μm、分散剤(B)が0.01~500μmの範囲内となるが、加えて重要なのは、それぞれの粒径が範囲内であっても、混合する際は、二次凝集なく分散させるため、粒径差を考慮した最適な配合比を選択することである。
分散剤を担体として用いるには、PCP/MOF(A)よりも粒径が大きく、平均粒径は100~500μmの範囲が好ましい。この場合は粒径差の影響は軽微である。また、500μmより粒径が大きい場合、均一に分散するのが難しく簡単な振動で片寄ってしまう。一方で分散剤(B)の粒径が0.01~100μmと、PCP/MOF(A)よりも小さいか同等の場合、PCP/MOF(A)の外側に分散剤が付着しやすくなるため、PCP/MOF(A)の細孔を塞がない様に、混合比で調整することとなる。また、0.01μmより粒径が小さい場合、PCP/MOF(A)の細孔を塞いでしまい性能が低下する。
【0033】
2 混合物の製造方法
本発明に係るPCP/MOF(A)は、それ自身公知の化合物であり、公知の製造方法(前記文献等に記載の製造方法)で得ることができ、また常法により前記細孔口径のものを調製することができる。PCP/MOF(A)と分散剤(B)との混合物は、均一に混合できればその製造方法は特に限定されない。例えば、ミキサー内にPCP/MOF(A)と分散剤(B)とを投入し、撹拌混合することで得られる。
【0034】
混合の際、特にPCP/MOF(A)の混合比が高い場合、PCP/MOF(A)同士が互いに接触することで二次凝集し、PCP/MOF(A)の細孔を塞いでしまい、消臭効果が減少してしまう。二次凝集を防ぐには、前記の通り適切な粒径差に合わせた最適な混合比が重要となる。
【0035】
本発明における混合工程では、加熱加工を行わないため、分散剤(B)に、熱可塑性樹脂を含む接着剤を使用しても良い。特に、後述する狭着フィルターで使用する接着剤を、混合工程で使用することは工程短縮にも役立つ。
【0036】
混合比は、PCP/MOF(A)が多いほど消臭性能が高くなる半面、二次凝集しやすくなってしまう。PCP/MOF(A)の混合比が、混合物対比で5~90wt%であれば、本発明の効果が得られる。5wt%よりも低いと、二次凝集は生じにくいが、消臭性能の効果が低くなってしまう。90wt%を超えるとPCP/MOF(A)同士が接触しやすく二次凝集が生じやすい。
【0037】
本発明における混合物は、フィルター用消臭剤を始め、消臭シート、据置消臭剤等へ使用できる。
【0038】
本発明品での混合物をフィルターに加工する場合、狭着フィルターでは、基布(主に不織布)の間に狭着し、圧着成形する。圧着する際、下側の不織布上に混合物を振り落とし、上側の不織布を被せて圧着加工する。
【0039】
本発明での混合物を直接臭気へ振り掛けて使用することもできる。この場合、臭気の気体へ直接振り掛けることも可能だが、効果的に臭気を抑制するには、臭気を発生する固体や液体へ直接振り掛ける方が好ましい。例えば接着剤を塗布した繊維状等の物質に直接振り掛けることも可能である。一方臭気を発生する液体が水の場合、加水分解しやすいPCP/MOF(A)は使用できない。この場合、加水分解しにくいPCP/MOF(A)を選択する。水以外の液体では、例えば有機溶剤としては、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素や、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類等を挙げることができ、これらに対しては、加水分解しやすいPCP/MOF(A)を用いることができる。
【0040】
その他、特に加工せずそのまま消臭剤として使用する場合、飛散防止の容器や袋に入れて置物として使用できる。この場合は、容器や袋に通気孔を開けておくことが重要である。通気口は、PCP/MOF(A)が飛散しない様、PCP/MOF(A)の粒径よりも小さくしなければならない。
【0041】
シート状物への塗布剤として、パディング加工やディッピング加工等、溶液を塗布する加工の際、溶液化できれば特に加工方法は限定されない。この場合、PCP/MOF(A)の加水分解性が重要となり、加水分解する場合は、汎用性の高い有機溶剤を使用して分散化する。例えば有機溶剤としては、疎水性有機溶剤には、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素やジエチルエーテル、石油エーテル等のエーテル類等が挙げられ、親水性有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフラン等の環状エーテル類、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール類、酢酸エチル、酢酸ブチル等の酢酸エステル類等を挙げることができる。
【0042】
3 生活臭
本発明消臭剤は、例えば、次のような生活臭を瞬間的に消臭するのに優れる。
(1)介護・看護臭、病院臭:尿臭、排泄臭
(2)一般生活臭-1:生ごみ臭、更衣室臭・ロッカー臭、フィッティングルーム臭、混雑臭(満員電車内臭)、エアコン臭、畳臭、床臭、台所臭、トイレ臭、風呂場臭、下駄箱臭、排水口臭
(3)一般生活臭-2:体臭、汗臭
(4)一般生活臭-3:タバコ臭、焼肉臭
(5)その他の生活臭:堆肥臭、動物臭、ペットの糞尿臭、自動車内部の臭い
【0043】
4 本発明の抗菌剤
本発明に使用されるPCP/MOF(A)は、抗菌剤または抗ウイルス剤として公知となっている。本発明混合物でも、抗菌性はもとより、抗ウイルス性としても効果が期待できる。
【0044】
「金属イオン」、「有機配位子」、「PCP/MOF」の各意義は、前記と同義であるが、PCP/MOF(A)の細孔口径は、上記口径に拘らず適宜調整される。好ましいPCP/MOF(A)の細孔口径は、0.6~1.0nmの範囲内、より好ましくは0.7~0.9nmの範囲内であり、特に0.9nmが好ましい。本発明シート状物は、上記「2 本発明混合物の製造方法」に記載の製造方法と同様に製造することができる。
【0045】
本発明混合物が対象としうる菌、ウイルスは特に制限されないが、例えば、次のような菌、ウイルスを挙げることができる。なお、菌には、真菌も含まれる。
【0046】
<菌>
(1)グラム陰性通性嫌気性桿菌大腸菌(Esherichacoli)、シゲラ属(Shigella)、サルモネラ属(Salmonella)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、エルシニア属(Yersinia)、コレラ菌(V.cholerae)、腸炎ビブリオ(Vparahaemolyticus)、ヘモフィルス属(Haemophilus)
(2)グラム陰性好気性桿菌シュードモナス属(Pseudomonas)、レジオネラ属(Legionella)、ボルデテラ属(Bordetella)、ブルセラ属(Brucella)、野兎病菌(Francisellatularensis)
(3)グラム陰性嫌気性桿菌バクテロイデス属(Bacteroides)
(4)グラム陰性球菌ナイセリア属(Neisseria)
(5)グラム陽性球菌ブドウ球菌属(Staphylococcus)、レンサ球菌属(Streptococcus)、腸球菌属(Enterococcus)
(6)グラム陽性有芽胞桿菌バシラス属(Bacillus)、クロストリジウム属(Clostridium)
(7)放線菌と関連微生物群コリネバクテリウム属(Corynebacterium)、マイコバクテリウム属(Mycobacterium)
(8)マイコプラズマ(Mycoplasma)
(9)スピロヘータとらせん菌回帰熱ボレリア(Borreliarecurrentis)、ライム病ボレリア(B.burgdoferi)、梅毒トレポネーマ(Treponemapalidum)、カンピロバクター属(Campylobacter)、ヘリコバクター属(Helicobacter)
(10)リケッチア(Rickettsia)
(11)クラミジア(Clamydia)
【0047】
(12)真菌クリプトコッカス症(Cryptococcosis)、カンジダ症(Candiasis)、アスペルギルス症(Aspergilosis)、ニューモシスチス・カリニ肺炎(Pneumocystiscarinii)、白癬菌(Trichophyton)、癜風菌(Tineaversicolor)
【0048】
5 本発明混合品の使途
本発明混合品の使途としては、消臭剤や吸着剤として使用される。混合品の包装状態や、フィルター始めシート材への塗布等、形態は多岐に渡り特に限定されない。
【実施例0049】
以下に実施例を掲げて本発明を説明するが、本発明はこれら実施例により何ら限定されるものではない。
【0050】
PCP/MOF(A)、分散剤1(B1)、分散剤2(B2)、分散剤(B3)、分散剤(B4)、分散剤(B5)は下記を使用した。
[PCP/MOF(A)]
品番:AP002((株)Atomis製)
[分散剤1(B1)]
品番:ミズカシル P-709(水澤化学工業(株)製)
[分散剤2(B2)]
品番:セオラス ST-100(旭化成(株)製)
[分散剤3(B3)]
品番:ナノファイン50 (堺化学工業(株)製)
[分散剤4(B4)]
品番:サンスフェアH-31(AGCエスアイテック(株)製)
[分散剤5(B5)]
品番:CW-360B(フタムラ化学(株)製)
【0051】
PCP/MOF(A)の前処理として、下記を行った。
[粉砕処理]
(1)ポットミル内にPCP/MOF(A)を入れ、セラミックボール(φ30mm)にて粗粉砕。
(2)60メッシュの篩を使用し、裏ごし機で粉砕。
[乾燥処理]
粉砕処理したPCP/MOF(A)を、送風乾燥機で150℃×7時間乾燥。
【0052】
混合設備は下記を使用した。
(1)混合容器 円筒型容量、30L
(2)撹拌方式 容器回転式
(3)回転数 1~60rpm
【0053】
混合は下記方法にて行った。
[混合方法]
(1)PCP/MOF(A)、分散剤(B)を所定量に計量後、混合容器に投入する。
(2)混合容器を混合設備に取り付け、回転速度45rpmにて15分間回転させる。
(3)15分経過後、容器内の混合物を取り出す。
【0054】
試験は下記方法にて行った。
[アンモニア吸着:検知管法]
(1)500ml共栓付三角フラスコに試料を入れ、同時に対象ガス(アンモニア)の水溶液を、初発濃度100ppmになる様に入れ密栓する。
(2)(1)を、恒温槽(60℃)に15分静置し、対象ガスの水溶液を気化させる。
(3)恒温槽(60℃)から取り出し、三角フラスコを左右に振り、中の空気を撹拌した後、1時間静置する。
(4)測定前にフラスコを左右に振り、中の空気を撹拌した後、検知管にて測定。下式で吸着率を算出し、70%以上を合格とした。
アンモニア吸着率(%)=(初発濃度-検知管測定濃度)/初発濃度100
[硫化水素消臭:検知管法]
(1)5Lのガスバックに試料を入れ、同時にパーミエーターで4ppmに調節した対象ガス(硫化水素)を、3L注入し栓をする。
(2)2時間静置後、測定前にガスバックを左右に振り、中の空気を撹拌した後、検知管にて測定。下式で吸着率を算出し、70%以上を合格とした。
硫化水素吸着率(%)=(初発濃度-検知管測定濃度)/初発濃度100
【0055】
[抗菌性試験方法:JIS L1902に準拠]
(1)試験素材作成方法
消臭剤1gを寒天2.5gと混合し、生地(綿ニット)に塗付けたものを試験素材とした。
※寒天:蒸留水1L当たり、肉エキス3g、ペプトン5g、粉寒天15gに調整。
試験菌:黄色ブドウ球菌
(2)試験方法:滅菌した試験素材に試験菌のブイヨン懸濁液を注入し、密閉容器中にて
37℃×18時間培養後の生菌数を測定する。植菌後、無加工布菌数に対する抗菌活性値により、抗菌数を評価する。
(3)抗菌活性値 = (Mb-Ma)-(Mc-Mo) (抗菌活性値 ≧ 2.2,合格)
Ma:標準布の試験菌液接触直後の生菌数
Mb:標準布の18時間培養後の生菌数
Mo:抗菌防臭加工布の試験菌液接種直後の生菌数
Mc:抗菌防臭加工布の18時間培養後の生菌数
(4)有効性: Mb - Mo > 1.0 により試験は有効
【0056】
[安息角試験方法:JIS R93012-2を使用]
安息角の測定にはJIS R9301-2-2を使用した。測定値が70°以下であれば、二次凝集しないことを確認できた。
【0057】
下記要領にて本発明を実施した。なお実施例は表1にも記載する。
【0058】
[実施例1]
PCP/MOF(AP002)30gとミズカシル(P-709)70gを採取し、混合容器へ投入後、混合加工を行った。
混合機で前記混合条件にて混合した後、得られた消臭剤にてアンモニア吸着率、硫化水素吸着率、安息角、抗菌性試験を行い、いずれも効果が得られた。
【0059】
[実施例2]
PCP/MOF(AP002)5gとミズカシル(P-709)90g、セオラズ(ST-100)5gを採取し、混合容器へ投入後、混合加工を行った。
混合機で前記混合条件にて混合した後、得られた消臭剤にてアンモニア吸着率、硫化水素吸着率、安息角、抗菌性試験を行い、いずれも効果が得られた。
【0060】
[実施例3]
PCP/MOF(AP002)90gとミズカシル(P-709)10gを採取し、混合容器へ投入後、混合加工を行った。
混合機で前記混合条件にて混合した後、得られた消臭剤にてアンモニア吸着率、硫化水素吸着率、安息角、抗菌性試験を行い、いずれも効果が得られた。
【0061】
[実施例4、5、6]
実施例1と同様にPCP/MOF(AP002)30gにミズカシル(P-709)70gの代わりに表1の分散剤を採取し、混合容器へ投入後、混合加工を行った。
混合機で前記混合条件にて混合した後、得られた消臭剤にてアンモニア吸着率、硫化水素吸着率、安息角、抗菌性試験を行い、いずれも効果が得られた。
【0062】
[比較例1]
ミズカシル(P-709)100gを採取し、混合容器へ投入後、混合加工を行った。
混合機で前記混合条件にて混合した後、得られた消臭剤にてアンモニア吸着率、硫化水素吸着率、安息角、抗菌性試験を行い、いずれも効果が得られなかった。
【0063】
[比較例2]
PCP/MOF(AP002)95gとミズカシル(P-709)5gを採取し、混合容器へ投入後、混合加工を行った。
混合機で前記混合条件にて混合したが、PCP/MOFが二次凝集してしまい、取り扱い可能な混合物が得られなかった。
【表1】
本発明は家庭内環境の消臭を改善する目的で、空気清浄機や日用品の消臭製品等に関し、消臭性と抗菌性を同時に付与することができ、取扱い性をよくすることで効率的に提供できる。