(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154737
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】シート成形口金のリップ間隙調整装置およびリップ間隙調整方法
(51)【国際特許分類】
B29C 48/31 20190101AFI20231013BHJP
【FI】
B29C48/31
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064258
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】井ノ本 健
【テーマコード(参考)】
4F207
【Fターム(参考)】
4F207AJ08
4F207AK02
4F207AR12
4F207AR14
4F207KA01
4F207KA17
4F207KK64
4F207KL76
4F207KM15
(57)【要約】
【課題】
本発明は、フィルム厚み分布を適時に調整できる反応時間の短いリップ間隙調整装置を提供する。
【解決手段】
本発明は、ヒートボルトを用いたシート成形口金のリップ間隙調整装置であって、上記ヒートボルトの加熱部の表面に綾目状の凹凸が形成されている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒートボルトを用いたシート成形口金のリップ間隙調整装置であって、前記ヒートボルトの加熱部の表面に綾目状の凹凸が形成された、シート成形口金のリップ間隙調整装置。
【請求項2】
前記綾目状の凹凸の高さが200μm以上、600μm以下である、請求項1のシート成形口金のリップ間隙調整装置。
【請求項3】
前記加熱部の周辺の空気を循環する循環装置を備えた、請求項1のシート成形口金のリップ間隙調整装置。
【請求項4】
請求項3のシート成形口金のリップ間隙調整装置を用いたリップ間隙調整方法であって、
前記加熱部の周辺の風速を7m/s以上とする、シート成形口金のリップ間隙調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート成形口金のリップ間隙調整装置と、そのリップ間隙調整装置を用いたリップ間隙調整方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、フィルムの高機能化・薄膜化によって、フィルムの幅方向厚みムラが重要視されている。シート成形口金のリップ間隙からシート状に吐出されたシート材料がフィルムに成形されるため、リップ間隙を調整することでフィルムの厚み分布を調整し、幅方向厚みムラを低減できる。このリップ間隙を調整する装置として、幅方向に複数配置されたヒートボルトを加熱、膨張させ、シート成形口金のリップを押し引きするリップ間隙調整装置がある。幅方向厚みムラが小さくなるように、測定したフィルム厚み分布に応じて、このリップ間隙調整装置は各ヒートボルトの熱膨張量を制御する。このとき、フィルム厚み分布は時々刻々と変化するため、ヒートボルトを加熱し始めてから熱膨張しきるまで、つまりリップ間隙が変化しきるまでの時間(以下、「反応時間」と言う)が長いと、フィルム厚み分布を適時に調整できない。ゆえに、フィルム厚み分布を適時に調整するため、反応時間の短いリップ間隙調整装置が望まれている。
【0003】
ところで、本発明の好ましい形態と一見すると似ているように見える技術として、特許文献1に開示されている押出成形用ダイと、特許文献2に開示されているフィルム製造装置がある。特許文献1には、調整ボルトの調整技量を軽減する目的で、検出器で吐出口の隙間形状を検出する押出成形用ダイが開示されている。
図5は特許文献1の押出成形用ダイの幅方向に対して垂直な断面図である。
図5に示すように、特許文献1の押出成形用ダイは、吐出口4を形成するリップ2、3から構成される押出成形用ダイ1と、ボルト保持部21に設置され、リップ2を押し引きする調整ボルト5と、調整ボルト5に内装され、調整ボルト5をヒートボルトとして機能させるヒータ6と、リップ2の下面に設置された検出体22と、ボルト保持部21の下面に設置され、検出体22との距離を検出する近接センサ23と、を備えており、検出体22と近接センサ23で構成された検出器で吐出口4の隙間形状を検出できる。一般的には調整ボルト5で調整する吐出口4の間隙形状は下流のフィルム厚みから推定するため、調整には熟練を要する。それに対し、特許文献1の押出成形用ダイでは吐出口4の隙間形状を検出器で確認できるため、調整の技量を軽減できる。
【0004】
また特許文献2には、ヒートボルトによるスリット間隙調整機構を溶液製膜に適用する目的で、ヒートボルト全体を覆った覆い内に気体を給排気するフィルム製造装置が開示されている。
図6は特許文献2のフィルム製造装置の幅方向に対して垂直な断面図である。
図6に示すように、特許文献2のフィルム製造装置は、スリット間隙4を形成するリップ2、3から構成される口金1と、リップ2を押し引きするヒートボルト5と、ヒートボルト5を加熱する発熱体6と、ヒートボルト5の全体を覆うカバー31と、カバー31で覆われた覆い内に気体を給気する気体供給管32、排気する気体排気管33と、を備えている。気体供給管32と気体排気管33で気体を給排気することで、溶液製膜で飛散した溶媒がヒートボルト5や発熱体6に接触することを防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5998697号公報
【特許文献2】特許第3932711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1および2の技術は反応時間に着目していないため、他の従来技術同様、反応時間は長く、フィルム厚み分布を適時に調整できない。
【0007】
そこで本発明は、フィルム厚み分布を適時に調整できる反応時間の短いリップ間隙調整装置と、そのリップ間隙調整装置を用いたリップ間隙調整方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1) 上記課題を解決する本発明は、ヒートボルトを用いたシート成形口金のリップ間隙調整装置であって、前記ヒートボルトの加熱部の表面に綾目状の凹凸が形成されている。
【0009】
本発明のシート成形口金のリップ間隙調整装置は、下記(2)~(3)のいずれかの態様であることが好ましい。
(2) 上記綾目状の凹凸の高さが200μm以上、600μm以下である、上記(1)のシート成形口金のリップ間隙調整装置。
(3) 上記加熱部の周辺の空気を循環する循環装置を備えた、上記(1)または(2)のシート成形口金のリップ間隙調整装置。
【0010】
(4) 上記課題を解決する本発明のシート成形口金のリップ間隙調整方法は、上記(3)のシート成形口金のリップ間隙調整装置を用いたリップ間隙調整方法であって、上記加熱部の周辺の風速を7m/s以上とする。
【0011】
次に、本発明における各用語の意味を説明する。
「シート材料」とは、シートを構成する材料をいう。シート材料としては、たとえば、ポリエチレン・ポリプロピレン・ポリスチレン・ポリメチルペンテンなどのポリオレフィン樹脂、脂環族ポリオレフィン樹脂、ナイロン6・ナイロン66などのポリアミド樹脂、アラミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート・ポリブチレンテレフタレート・ポリプロピレンテレフタレート・ポリブチルサクシネート・ポリエチレン-2,6-ナフタレートなどのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリアリレート樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、4フッ化エチレン樹脂・3フッ化エチレン樹脂・3フッ化塩化エチレン樹脂・4フッ化エチレン-6フッ化プロピレン共重合体・フッ化ビニリデン樹脂などのフッ素樹脂、アクリル樹脂、メタクリル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリグリコール酸樹脂、ポリ乳酸樹脂、などを溶媒に溶かすか溶融するなどして流動化したものを用いることができる。またこれらの熱可塑性樹脂としてはホモ樹脂であってもよく、共重合または2種類以上のブレンドであってもよい。また、各熱可塑性樹脂中には、各種添加剤、例えば、酸化防止剤、帯電防止剤、結晶核剤、無機粒子、有機粒子、減粘剤、熱安定剤、滑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、屈折率調整のためのドープ剤などが添加されていてもよい。
「シート成形口金」とは、一対のリップで形成するリップ間隙からシート材料をシート状に吐出する装置をいう。シート成形口金としては、Tダイ、コートハンガーダイ、Lダイ、フィッシュテールダイであるが、これらに限らない。
「リップ間隙調整装置」とは、フィルム厚み分布を調整するために、シート成形口金のリップ間隙を調整する装置をいう。
「ヒートボルト」とは、加熱冷却による熱膨張で伸縮して、シート成形口金のリップを押し引きするボルトをいう。
「加熱部」とは、シート成形口金に固定された部分とリップに固定された部分との間で、主に加熱されるヒートボルトの一部をいう。
「循環装置」とは、加熱部周辺の空気を循環する装置を言う。循環装置としては、エアーノズル、給排気機構、ファンであるが、これらに限らない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、フィルム厚み分布を適時に調整できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明のリップ間隙調整装置の幅方向に対して垂直な断面図
【
図2】本発明における加熱部の表面に形成されている網目状の凹凸の一例の拡大図および断面図
【
図3】本発明における加熱部の表面に形成されている網目状の凹凸の別の例の拡大図および断面図
【
図4】循環装置を備えた本発明のリップ間隙調整装置の幅方向に対して垂直な断面図
【
図5】特許文献1の押出成形用ダイの幅方向に対して垂直な断面図
【
図6】特許文献2のフィルム製造装置の幅方向に対して垂直な断面図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明について詳細に述べるが、本発明は以下の実施例を含む実施形態に限定されるものではない。
図1~4は本発明のリップ間隙調整装置10に関する図である。なお、従来の技術と同じ用途および機能を有している部材については、同じ符号を有している場合がある。
【0015】
本発明のリップ間隙調整装置を説明する。
図1は本発明のリップ間隙調整装置10の幅方向に対して垂直な断面図である。
図1に示すように、本発明のリップ間隙調整装置10は、リップ間隙4を形成するリップ2、3から構成されるシート成形口金1と、リップ2に幅方向に複数配置されたヒートボルト5と、ヒートボルト5に内装されたヒータ6と、を備えている。ヒータ6で加熱することで、ヒートボルト5の加熱部7が熱膨張してリップ2を押し、リップ間隙4が狭くなる。このとき加熱部7が加熱し始めてから熱膨張しきるまで、つまりリップ間隙4が変化し切るまでの時間を反応時間と言う。
【0016】
本発明者らは実験、理論計算を重ねた結果、ヒートボルト5の加熱部7の表面を凹凸にすることで反応時間を短くし、フィルム厚み分布を適時に調整できることを見出した。熱伝導方程式から、加熱部7の表面での熱伝達量、つまり熱伝達率と表面積の積が大きいほど、加熱時、冷却時ともに反応時間が短くなる。加熱部7の表面を凹凸にすることで、周囲の気流が乱流になって熱伝達率が大きくなり、さらに表面積も大きくなることで熱伝達量が大幅に増大、反応時間を短くできる。
【0017】
しかし、凹凸の形状によっては十分に反応時間を短くすることができない。例えば、ネジ山のような一方向の凹凸では、乱流になる気流の向きが限定されるために反応時間を十分に短くできない上に、深すぎる凹凸がヒートボルト5の強度を低下させてしまうためにリップ2の押し引きもできなくなる。またブラストなどで表面を荒らした凹凸では、凹凸の高さが低すぎて乱流になりにくい。そこで、本発明者らはさらに鋭意検討を重ねた結果、加熱部7の表面を綾目状の凹凸にすることで、熱伝達量を最大限に増大できることを見出した。凹凸を綾目状にすることで向きに関係なく気流を乱流にでき、浅い凹凸でも十分に熱伝達量を増大させるため、ヒートボルト5の強度も低下させることはない。
図2、3は本発明の綾目状の凹凸の拡大図および断面図である。本発明の綾目状の凹凸としては、
図2に示すようなピラミッド形状や、
図3に示すような上部が平坦な形状であるが、これらに限らない。また綾目状の凹凸の形成範囲は加熱部7の表面積の70%以上であることが好ましい。
【0018】
本発明のリップ間隙調整装置10は、加熱部7の周辺の空気を循環する循環装置を備えることが好ましい。
図4は、循環装置11を備えた本発明のリップ間隙調整装置の幅方向に対して垂直な断面図である。
図4に示すように、循環装置11で加熱部7の周辺の空気を循環することで、綾目状の凹凸による乱流になりやすくする効果がより顕著になり、さらに反応時間を短くできる。
【0019】
また、循環装置11を備えたリップ間隙調整装置10を用いてリップ間隙4を調整するに際し、加熱部7の周辺の風速を7m/s以上とすることが好ましい。加熱部7の周辺の風速を7m/s以上とすることで綾目状の凹凸による乱流になりやすくする効果がより顕著になり、さらに反応時間を短くできる。より好ましくは加熱部7の周辺の風速が10m/s以上である。
【0020】
本発明のリップ間隙調整装置10は、綾目状の凹凸の高さを200μm以上、600μm以下とすることが好ましい。綾目状の凹凸の高さを200μm以上にすることで乱流になりやすくする効果がより顕著になり、さらに反応時間を短くできる。また凹凸の高さを600μm以下にすることでリップ2を押し引きするのに十分なヒートボルト5の強度を維持できる。より好ましくは綾目状の凹凸の高さが300μm以上、500μm以下である。
【0021】
本発明における「凹凸の高さ」とは、凹部分の底部から凸部分の頂部までの高さ方向の距離のことであり、任意の5箇所の数値を平均した値を用いる。
【0022】
本発明のリップ間隙調整装置10を用いて製造されたフィルムの用途の代表的なものは、光学用全般、工業用全般、粘着テープ、ディスプレイ、バックライト反射板、タッチパネル、窓貼り、コンデンサー、バッテリーセパレータ、太陽電池、離型用、リボンであるが、これらに限らない。
【実施例0023】
[実施例1]
図1に示すリップ間隙調整装置を用いて、実際にシートを製造して評価した結果を説明する。本実施形態における具体的なシートの成形方法は以下の通りである。
(1)シート材料:ポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂(東レ(株)製熱可塑性樹脂F20S)
(2)仕込み:シート材料は乾燥後に押出機に供給。押出量は100kg/h、押出機から口金までの温度は280℃に設定した。
(3)シート成形口金:スリット幅500mm、スリット間隙2mm。
(4)吐出:シート材料を口金からシート状に押出した後、冷水で急冷固化し、シート厚みが1mmになるよう成形した。
(5)シート厚み:厚み計「WEBFREX NV」(横河電機製)を用いて、成形中、連続的にシート厚みを測定した。
(6)リップ間隙調整装置:ヒートボルトはφ16mmの円筒形で、加熱部の表面にローレット加工で綾目状の凹凸(凹凸高さ150μm、ピッチ600μm)を形成した。発熱体としてカートリッジヒータをヒートボルト内部に挿入した。綾目状の凹凸は5300mm
2の範囲に形成され、加熱部の表面積7500mm
2の71%に相当する。
(7)反応時間の評価:カートリッジヒータをオンし、ヒートボルト位置に相当する場所でシート厚みの時間変化を確認した。シート厚みが変化し始めてから、最終的な変化量の95%まで変化するのに要した時間を反応時間とした。
【0024】
[実施例2]
循環装置としてスリットエアーノズルを設置して、空気を吹き付け、加熱部の周辺の平均風速が5m/sになるようにした以外は、実施例1と同様にしてシートを成形した。
【0025】
[実施例3]
綾目状の凹凸の高さを300μmにした以外は、実施例1と同様にしてシートを成形した。
【0026】
[実施例4]
加熱部の周辺の平均風速が8m/sになるようにした以外は、実施例2と同様にしてシートを成形した。
【0027】
[比較例1]
加熱部の表面を平滑にした以外は、実施例1と同様にしてシートを成形した。
【0028】
[比較例2]
加熱部の表面をM16のネジ山(凹凸の高さ1083μm)にした以外は、実施例1と同様にしてシートを成形した。
【0029】
[比較例3]
加熱部の表面をブラストで算術平均粗さRa60μmにした以外は、実施例1と同様にしてシートを成形した。
【0030】
[評価結果]
各実施例、各比較例の効果は、比較例1に対して反応時間がどの程度短縮できたかで評価した。
【0031】
比較例1は反応時間が20分であった。加熱部の表面にネジ山を形成した比較例2は反応時間が19分で5%短縮し、加熱部の表面をブラストで処理した比較例3は反応時間が17分で15%短縮し、加熱部の表面を凹凸にしたことで比較例1に比べて反応時間が若干は短くなったが、ほぼ同等であった。
【0032】
一方、加熱部の表面に高さが150μmの綾目状の凹凸が形成された実施例1は、反応時間が8分で60%短縮して、比較例1に比べて反応時間が大幅に短くなった。さらに、加熱部の周辺に平均風速5m/sで空気を吹き付けた実施例2は、反応時間が6分で70%短縮し、綾目状の凹凸の高さを好ましい範囲内の300μmにした実施例3は、反応時間が5分で75%短縮し、加熱部の周辺に好ましい平均風速8m/sで空気を吹き付けた実施例4は、反応時間が3分で85%短縮し、いずれも実施例1と比べても反応時間がさらに短くなった。