(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154738
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】ひずみゲージ、及び、ひずみの測定方法
(51)【国際特許分類】
H10N 30/853 20230101AFI20231013BHJP
G01L 1/24 20060101ALI20231013BHJP
H10N 30/30 20230101ALI20231013BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20231013BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20231013BHJP
【FI】
H01L41/187
G01L1/24 Z
H01L41/113
H01L41/29
H01L41/047
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064259
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】100111567
【弁理士】
【氏名又は名称】坂本 寛
(72)【発明者】
【氏名】小林 大造
(72)【発明者】
【氏名】藤村 潤
(57)【要約】
【課題】増幅回路や電源を不要とするひずみゲージを提供する。
【解決手段】ひずみゲージ100は、ヘテロ接合型光電変換素子10と、ヘテロ接合型光電変換素子を挟む電極対21,22と、を備え、ヘテロ接合型光電変換素子のPN接合部におけるP型半導体12とN型半導体11との少なくとも一方が圧電半導体である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ接合型光電変換素子と、
前記ヘテロ接合型光電変換素子を挟む電極対と、を備え、
前記ヘテロ接合型光電変換素子のPN接合部におけるP型半導体とN型半導体との少なくとも一方が圧電半導体である
ひずみゲージ。
【請求項2】
前記電極対の間の電圧の測定値より、光が照射された状態における前記ヘテロ接合型光電変換素子に印加されたひずみが得られる
請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項3】
前記光が照射された状態における前記ヘテロ接合型光電変換素子に印加されたひずみを、前記電極対の間の起電力の変化によって得る
請求項2に記載のひずみゲージ。
【請求項4】
前記N型半導体が前記圧電半導体である
請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項5】
前記P型半導体が結晶化セレンである
請求項4に記載のひずみゲージ。
【請求項6】
前記P型半導体と前記N型半導体とは、前記ヘテロ接合型光電変換素子に印加されるひずみが大きくなるとバンドオフセットが小さくなる組み合わせである
請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項7】
前記P型半導体と前記N型半導体とは、設定されたひずみの測定範囲の上限のひずみが印加されたときの前記電極対間の開放電圧が最大になる組み合わせである
請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項8】
前記電極対のうちの前記N型半導体に接続されている電極は透明電極である
請求項1に記載のひずみゲージ。
【請求項9】
ヘテロ接合型光電変換素子を利用したひずみの測定方法であって、
前記ヘテロ接合型光電変換素子のPN接合部におけるP型半導体とN型半導体との少なくとも一方が圧電半導体であるヘテロ接合型光電変換素子の、前記P型半導体と前記N型半導体とに電極対を接続し、
前記ヘテロ接合型光電変換素子に光を照射し、
前記電極対の間の電圧の測定値より、前記光が照射された状態における前記ヘテロ接合型光電変換素子に印加されたひずみを得る、ことを備えた
ひずみの測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ひずみゲージ、及び、ひずみの測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2013-32918号公報(以下、特許文献1)に開示されているような、従来のひずみゲージは、金属に対して与えられた外力によって生じたひずみを、金属の外力によって変化した抵抗によって読み取るものが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、このような一般的なひずみゲージでは、抵抗値を読み取るために増幅回路や電源が必要となる。そのため、増幅回路や電源を不要とするひずみゲージの要望がある。
【0005】
ある実施の形態に従うと、ひずみゲージは、ヘテロ接合型光電変換素子と、ヘテロ接合型光電変換素子を挟む電極対と、を備え、ヘテロ接合型光電変換素子のPN接合部におけるP型半導体とN型半導体との少なくとも一方が圧電半導体である。
【0006】
他の実施の形態に従うと、ひずみの測定方法は、ヘテロ接合型光電変換素子を利用したひずみの測定方法であって、ヘテロ接合型光電変換素子のPN接合部におけるP型半導体とN型半導体との少なくとも一方が圧電半導体であるヘテロ接合型光電変換素子の、P型半導体とN型半導体とに電極対を接続し、ヘテロ接合型光電変換素子に光を照射し、電極対の間の電圧の測定値より、光が照射された状態におけるヘテロ接合型光電変換素子に印加されたひずみを得る、ことを備えている。
【0007】
更なる詳細は、後述の実施形態として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、実施の形態に係るひずみゲージの構成の概略図である。
【
図2】
図2は、ひずみゲージの製造方法の一例を説明するための図である。
【
図3】
図3は、ひずみゲージへのひずみの印加方法の一例を表した図である。
【
図4】
図4は、ひずみゲージに含まれる光電変換素子のエネルギー準位を説明するための図である。
【
図5】
図5は、発明者らによる、マグネシウム添加酸化亜鉛(ZnMgO)の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位を変化させたときの光電変換素子の光電変換特性のシミュレーション結果を表した図である。
【
図6】
図6は、ひずみゲージに対して同一のひずみを繰り返し印加したときの、ひずみゲージの開放電圧の測定結果を表した図である。
【
図7】
図7は、ひずみゲージに印加されるひずみの定義を説明するための図である。
【
図8】
図8は、ひずみゲージに対するひずみの印加量と開放電圧の測定結果との関係を表した図である。
【
図9】
図9は、N型半導体が酸化亜鉛(ZnO)、P型半導体がテルル化カドミウム(CdTe)であるときのエネルギー準位を説明するための図である。
【
図10】
図10は、N型半導体が酸化チタン(TiO
2)、P型半導体がテルル化カドミウム(CdTe)であるときのエネルギー準位を説明するための図である。
【
図11】
図11は、ひずみゲージを用いたひずみの測定方法の概要を表したフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<1.ひずみゲージ、及び、ひずみの測定方法の概要>
【0010】
(1)本実施の形態に係るひずみゲージは、ヘテロ接合型光電変換素子と、ヘテロ接合型光電変換素子を挟む電極対と、を備え、ヘテロ接合型光電変換素子のPN接合部におけるP型半導体とN型半導体との少なくとも一方が圧電半導体である。
【0011】
P型半導体とN型半導体との少なくとも一方が圧電半導体であるため、光が照射された状態においてひずみが印加されると、圧電半導体のエネルギー順位が変化し、P型半導体とN型半導体との間のバンドオフセットが変化する。その結果、P型半導体とN型半導体とそれぞれに接続された電極間の電圧が変化する。P型半導体とN型半導体との少なくとも一方が圧電半導体であるヘテロ接合型光電変換素子に対してひずみを印加することで電極間の電圧が変化し、その変化が、印加されたひずみに応じた変化であることは、発明者らによる測定によって検証された。従って、光が照射された状態において印加されたひずみと電極間の電圧の変化との関係を予め記憶しておくことによって、電極間の測定電圧に基づいて印加されたひずみを得ることができる。そのため、このひずみゲージを用いることによって、増幅回路や電源を不要として容易にひずみが測定される。
【0012】
(2)好ましくは、ひずみゲージは、電極対の間の電圧の測定値より、光が照射された状態におけるヘテロ接合型光電変換素子に印加されたひずみが得られる。これにより、増幅回路や電源を不要として容易にひずみが測定される。
【0013】
(3)好ましくは、ひずみゲージは、光が照射された状態におけるヘテロ接合型光電変換素子に印加されたひずみを、電極対の間の起電力の変化によって得る。これにより、増幅回路や電源を不要として容易にひずみが測定される。
【0014】
(4)好ましくは、N型半導体が圧電半導体である。これにより、ひずみを印加することでN型半導側のエネルギー順位が変化し、P型半導体とN型半導体との間のバンドオフセットが変化する。
【0015】
(5)好ましくは、P型半導体が結晶化セレンである。セレンは、可視光の光吸収係数が高い。そのため、光電変換素子の光電変換を向上させることができる。
【0016】
(6)好ましくは、P型半導体とN型半導体とは、ヘテロ接合型光電変換素子に印加されるひずみが大きくなるとバンドオフセットが小さくなる組み合わせである。これにより、電圧変化で印加されたひずみを測定することができる。
【0017】
(7)好ましくは、P型半導体とN型半導体とは、設定されたひずみの測定範囲の上限のひずみが印加されたときの電極対間の開放電圧が最大になる組み合わせである。これにより、このひずみゲージを用いて、設定された測定範囲内のひずみの印加を測定することが可能になる。
【0018】
(8)好ましくは、電極対のうちのN型半導体に接続されている電極は透明電極である。透明電極を用いることで、ひずみゲージに照射された光が透過し、光電変換素子に到達する。
【0019】
(9)本実施の形態に係るひずみの測定方法はヘテロ接合型光電変換素子を利用したひずみの測定方法であって、ヘテロ接合型光電変換素子のPN接合部におけるP型半導体とN型半導体との少なくとも一方が圧電半導体であるヘテロ接合型光電変換素子の、P型半導体とN型半導体とに電極対を接続し、ヘテロ接合型光電変換素子に光を照射し、電極対の間の電圧の測定値より、光が照射された状態におけるヘテロ接合型光電変換素子に印加されたひずみを得る、ことを備える。
【0020】
光が照射された状態において印加されたひずみと電極間の電圧の変化との関係を予め記憶しておくことによって、電極間の測定電圧に基づいて印加されたひずみを得ることができる。そのため、このひずみゲージを用いることによって、増幅回路や電源を不要として容易にひずみが測定される。
【0021】
<2.ひずみゲージ、及び、ひずみの測定方法の例>
【0022】
図1は、本実施の形態に係るひずみゲージ100の構成の概略図である。
図1を参照して、ひずみゲージ100は、光電変換素子10と、光電変換素子10を挟む電極対21,22と、を備える。
【0023】
光電変換素子10は、ヘテロ接合型光電変換素子であって、PN接合部におけるN型半導体11とP型半導体12との少なくとも一方が圧電半導体である。一例として、光電変換素子10は、N型半導体11が圧電半導体であって、一例として、c軸に配向したウルツ鉱型の圧電半導体である。ウルツ鉱型の圧電半導体は、一例として、酸化亜鉛系材料の圧電半導体であって、例えば、マグネシウム添加酸化亜鉛(ZnMgO(ZMO))である。
【0024】
P型半導体12は、結晶化セレン(Se)の薄膜である。セレンは、可視光の光吸収係数が高い。そのため、光電変換素子10の光電変換を向上させることができる。
【0025】
N型半導体11には、電極対21,22のうちの電極21が接続されている。P型半導体12には、電極対21,22のうちの電極22が接続されている。電極21は透明電極であって、例えば、ITO(Indium-Tin Oxide)透明電極である。透明電極を用いることで、ひずみゲージ100に照射された光が透過し、光電変換素子10に到達する。電極22は、非透過性の電極であってよく、例えば、金(Au)電極である。
【0026】
光電変換素子10は、基板23上に積層されていてもよい。一例として、電極21が基板23上に配置され、その上にN型半導体11、P型半導体12、及び、電極22の順に積層されている。この場合、基板23は、柔軟性を有する透明基板であって、一例として、PET(ポリエチレンテレフタレート)基板である。これにより、ひずみゲージ100に照射された光が透過し、光電変換素子10に到達する。
【0027】
電極21,22には、電圧計24が接続可能である。電極21,22の間に電圧計24が接続されることによって、電極21,22の間の開放電圧、すなわち、起電力が測定される。
【0028】
図2は、ひずみゲージ100の製造方法の一例を説明するための図である。ひずみゲージ100は、
図2のステップS1~S5の工程によって製造される。
【0029】
詳しくは、
図2を参照して、始めに、PET基板などである基板23を用意し、その上面にITO薄膜を形成する(ステップS1)。ITO薄膜の形成はエッチングプロセスであってよく、例えば、蒸着エッチングであってよい。これにより、基板23上に電極21が成形される。
【0030】
次に、ITO薄膜の上にマグネシウム添加酸化亜鉛(ZnMgO)をスパッタにて成膜して、ZnMgOのN型半導体11を形成する(ステップS2)。これにより、電極21の上にN型半導体11が成形される。
【0031】
次に、ZnMgOの薄膜の上にテルル(Te)及びセレン(Se)を例えば抵抗加熱式の蒸着などによって成膜し(ステップS3)、高温でアニール処理する(ステップS4)。これにより、N型半導体11の上にセレンが結晶化され、P型半導体12が成形される。
【0032】
次に、全体に結晶化セレンの薄膜の上に、金(Au)を、例えば抵抗加熱式などによって蒸着する(ステップS5)。これにより、P型半導体12の上に金の薄膜が形成され、電極22が成形される。
【0033】
ひずみゲージ100は、光照射時における、光電変換素子10に圧縮ひずみ(以下、ひずみと称する)が印加されたときの、印加されていないときからの変化を利用して、ひずみを測定可能とするものである。
図3は、ひずみゲージ100へのひずみの印加方法の一例を表した図である。
図3に表されたように、一例として、ひずみゲージ100は、光電変換素子10のP型半導体12側をフレキシブル基板200に向けて、フレキシブル基板200にセットされる。ひずみゲージ100に対して、フレキシブル基板200とは逆側から光が照射されて、光電変換素子10に対してN型半導体11側から光エネルギーEが与えられる。その状態で、フレキシブル基板200に曲率が与えられることによって、ひずみゲージ100にひずみが与えられる。
【0034】
図4は、光電変換素子10のエネルギー準位を説明するための図であって、
図4のTypeAは光電変換素子10にひずみが印加されていないときのエネルギー準位、TypeBはひずみが印加されたときのエネルギー準位を表している。
【0035】
図4を参照して、光電変換素子10のPN接合部(境界)では、圧電半導体であるマグネシウム添加酸化亜鉛(ZnMgO)(N型半導体11)と、結晶化セレン(Se)(P型半導体12)との間のエネルギー準位差であるバンドオフセット△Ecが生じている。
【0036】
圧電半導体がc軸に配向している場合にひずみを印加すると、圧電半導体であるN層内で分極が生じる。実施の形態に係る光電変換素子10は、N型半導体11がc軸に配向したウルツ鉱型の圧電半導体であるマグネシウム添加酸化亜鉛(ZnMgO)で構成されているため、ひずみを印加するとN層内で分極が生じる。
【0037】
N層内で分極が生じると、PN接合部に負の分極電荷が増加する。PN接合部に負の分極電荷が増加すると、伝導帯の電子(負)が反発して価電子帯の正孔が引き寄せられ、圧電分極電荷が発生する。これにより、
図4の「変化後」に示されたように、酸化亜鉛窓層の伝導帯下端(CBM:Conduction Band Minimum)のエネルギー準位が、ひずみが印加されていない「変化前」より高くなる。その結果、PN接合部のバンドオフセット△Ecが改善(減少)される。
【0038】
すなわち、光電変換素子10にひずみを印加すると、マグネシウム添加酸化亜鉛(ZnMgO)と結晶化セレン(Se)との伝導帯エネルギー準位のバンドオフセット△Ec(整合性)が、ひずみが印加されていない状態(TypeA)から変化(改善)する。その結果、電極21,22の間の光照射時の開放電圧及び短絡電流が、ひずみに応じて変化する。
【0039】
このように、ヘテロ接合型光電変換素子である光電変換素子10では、N型半導体11とP型半導体12との少なくとも一方に圧電半導体を用いることによって、PN接合部(境界)のバンドアライメント制御が、光電変換素子10へのひずみの印加によって容易に行えるようになる。このとき、N型半導体11とP型半導体12とは、光電変換素子10に印加されるひずみが大きくなるとバンドオフセット△Ecが小さくなる組み合わせとする。また、N型半導体11とP型半導体12とは、N型半導体11の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位の方が、P型半導体12の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位より低い組み合わせとする。これにより、逆の状態よりも分極によるエネルギー準位のシフトが生じやすくなる。
【0040】
この点、マグネシウム添加酸化亜鉛(ZnMgO)は、圧電効果を有するN型半導体として用いることが可能であるとともに、結晶化セレン(Se)との境界でのバンドアライメント制御が容易である。従って、マグネシウム添加酸化亜鉛(ZnMgO)は、光電変換素子10のN型半導体11を構成する材質として好適である。
【0041】
図5は、発明者らによる、マグネシウム添加酸化亜鉛(ZnMgO)の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位を変化させたときの光電変換素子10の光電変換特性のシミュレーション結果を表した図である。シミュレーションには、一次元デバイスシミュレータのSCAPS(Solar Cell Capacitance Simulator)(M. Burgelman et al., Thin Sol. Films 361-362(2000)527. )を用い、変化させたバンドオフセット△Ecの値ごとの電流密度と、電圧と、変換効率と、開放電圧と、を算出した。
【0042】
図5のシミュレーション結果L1はバンドオフセット△Ecが-0.4[eV](△Ec=-0.4[eV])、シミュレーション結果L2はバンドオフセット△Ecが-0.3[eV](△Ec=-0.3[eV])、シミュレーション結果L3はバンドオフセット△Ecが-0.2[eV](△Ec=-0.2[eV])、シミュレーション結果L4はバンドオフセット△Ecが±0.0[eV](△Ec=±0.0[eV])のときの、SCAPSを用いて算出された電流密度と電圧との関係を表したシミュレーション結果である。また、
図5のシミュレーション結果L5及びL6は、シミュレーション結果L1~L4より得られた、バンドオフセット△Ecが-0.5,-0.4,-0.3,-0.2,-0.1,±0.0[eV]それぞれでの開放電圧、及び、変換効率の算出結果である。
【0043】
図5のシミュレーション結果L5及びL6より、バンドオフセット△Ecの変化に応じて、顕著に開放電圧が変化することがわかる。また、バンドオフセット△Ecが減少する(改善される)ほど、変換効率が向上することがわかる。
【0044】
図6は、ひずみゲージ100に対して同一のひずみを繰り返し印加したときの、ひずみゲージ100の開放電圧の測定結果を表した図である。開放電圧は、電極21,22の間に接続された電圧計24を用いて測定される。
図6の測定では、光を照射した状態におけるひずみゲージ100の、ひずみを印加しない(無ひずみ)状態、-0.31%印加した状態、及び、+0.31%印加した状態の3状態を、それぞれ3回ずつ繰り返して、各状態での開放電圧を測定したものである。開放電圧の測定値が棒グラフで、平均値が折れ線グラフで示されている。
【0045】
なお、ひずみゲージ100に印加されるひずみεは、
図7の式(1)のように定義される。すなわち、
図7を参照して、ひずみεは、ひずみゲージ100が上面にセットされたフレキシブル基板200の厚みh、及び、上面を凸として湾曲したときの曲率半径rを用いて、h/2rで表される。
【0046】
図6の測定において、負のひずみεは、曲率半径rが負、つまり、ひずみゲージ100がセットされたフレキシブル基板200の上面を凹としてひずみゲージ100に印加されたひずみを表している。
【0047】
図6を参照して、ひずみゲージ100に対して同一のひずみεが複数回印加されたとき、各測定での開放電圧の無ひずみ時の開放電圧からの変化は、概ね等しいことがわかった。また、-0.31%印加したときと+0.31%印加したときとで、無ひずみからの開放電圧の変化の傾向が同じであることもわかった。これより、ひずみゲージ100は、ひずみ印加時の開放電圧の変化の再現性を有することが確認できた。
【0048】
図8は、ひずみゲージ100に対するひずみの印加量と開放電圧の測定結果との関係を表した図である。
図8の測定は、光を照射した状態におけるひずみゲージ100に対して-0.31~+0.42%のひずみを印加して、各印加時の開放電圧を測定したものである。
【0049】
図8を参照して、ひずみゲージ100は、印加するひずみεを変化させることで、ひずみεの大きさに応じて開放電圧が変化することがわかった。印加するひずみεを-0.31~+0.42%に変化させることにより、測定された開放電圧の変化量は0.15[V]であった。
図8の測定より、ひずみゲージ100は、印加するひずみの量と開放電圧との間に相関関係を有することが確認された。
【0050】
以上の測定より、ひずみゲージ100は、印加するひずみの量に対する開放電圧の変化量に再現性を有し、かつ、印加するひずみの量と開放電圧との間に相関関係を有することが確認された。そのため、印加するひずみの量に対する開放電圧の変化量の相関関係を予め測定しておくことによって、開放電圧の測定値に基づいて印加されたひずみ量を測定することが可能になる。すなわち、ひずみゲージ100を用いることで、増幅回路や電源を用いることなく、電極21,22の間の電圧の測定値より、光が照射された状態における光電変換素子10に印加されたひずみが得られる。具体的には、光が照射された状態における光電変換素子10に印加されたひずみが、電極21,22の間の起電力の変化によって得られる。これにより、ひずみゲージ100を用いることで印加されたひずみを容易に測定することができる。
【0051】
好ましくは、N型半導体11とP型半導体12とは、ひずみゲージ100を用いて測定することが設定されたひずみの測定範囲の上限のひずみが印加されたときの電極21,22の間の開放電圧が最大になる組み合わせとする。これにより、ひずみゲージ100を用いて、設定された測定範囲内のひずみの印加を測定することが可能になる。
【0052】
光電変換素子10のN型半導体11とP型半導体12とは、少なくとも一方が圧電半導体であればよい。N型半導体11のみが圧電半導体に限定されない。他の例として、光電変換素子10は、N型半導体11及びP型半導体12のいずれも圧電半導体であってもよい。例えば、N型半導体11が酸化亜鉛(ZnO)、P型半導体12がテルル化カドミウム(CdTe)とする。また、他の例として、N型半導体11とP型半導体12とのうちのP型半導体12のみが圧電半導体であってもよい。例えば、N型半導体11が酸化チタン(TiO2)、P型半導体12がテルル化カドミウム(CdTe)とする。
【0053】
図9は、N型半導体11が酸化亜鉛(ZnO)、P型半導体12がテルル化カドミウム(CdTe)であるときのエネルギー準位を説明するための図であり、
図10は、N型半導体11が酸化チタン(TiO
2)、P型半導体12がテルル化カドミウム(CdTe)であるときのエネルギー準位を説明するための図である。それぞれ、ひずみを印加しない(無ひずみ)とき(ST10,ST20)、小さいひずみを印加した(ひずみ小)とき(ST11,ST21)、大きいひずみを印加した(ひずみ大)とき(ST12,ST22)のエネルギー準位を表している。
【0054】
詳しくは、
図9を参照して、無ひずみのとき(ST10)の酸化亜鉛(ZnO)の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位E10、及び、CBMから価電子帯上端(VBM(Valence Band Maximum))までのエネルギー準位E30は、ひずみ小のとき(ST11)には、それぞれ、エネルギー準位E11,E31に変化し、ひずみ大のとき(ST12)には、それぞれ、エネルギー準位E12,E32に変化する。
【0055】
また、無ひずみのとき(ST10)のテルル化カドミウム(CdTe)の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位E20、及び、CBMから価電子帯上端(VBM)までのエネルギー準位E40は、ひずみ小のとき(ST11)には、それぞれ、エネルギー準位E21,E41に変化し、ひずみ大のとき(ST12)には、それぞれ、エネルギー準位E22,E42に変化する。
【0056】
無ひずみのとき(ST10)のエネルギー準位E10,E20,E30,E40は、それぞれ、4.5[eV]、3.37[eV]、4.3[eV]、1.5[eV]であることが知られている。従って、無ひずみのとき(ST10)の酸化亜鉛(ZnO)とテルル化カドミウム(CdTe)とのバンドオフセット△Ec10は、-0.2~-0.3[eV]程度となる。
【0057】
N型半導体11が酸化亜鉛(ZnO)、P型半導体12がテルル化カドミウム(CdTe)であるとき、酸化亜鉛(ZnO)のエネルギーバンドは、ひずみが印加されることにより接合界面に向かって上昇し、テルル化カドミウム(CdTe)のエネルギーバンドは下降する。すなわち、ひずみ小のとき(ST11)のバンドオフセット△Ec11は負の値であって、バンドオフセット△Ec10より大きくなる。ひずみ大のとき(ST12)のバンドオフセット△Ec12はバンドオフセット△Ec11より大きくなり、正の値となる。
【0058】
従って、N型半導体11を酸化亜鉛(ZnO)、P型半導体12をテルル化カドミウム(CdTe)とした場合、酸化亜鉛(ZnO)とテルル化カドミウム(CdTe)とのいずれもがひずみの印加に従ってエネルギー順位が変化するため、バンドオフセットの変化が大きい。その結果、ひずみゲージ100の光電変換素子10がN型半導体11を酸化亜鉛(ZnO)、P型半導体12をテルル化カドミウム(CdTe)とした場合、小さなひずみで急激に開放電圧が変化する。そのため、このひずみゲージ100を用いても、微小なひずみを高感度に検出することが可能になる。
【0059】
また、
図10を参照して、無ひずみのとき(ST20)の酸化チタン(TiO
2)の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位E50、及び、CBMから価電子帯上端(VBM)までのエネルギー準位E70は、ひずみ小のとき(ST21)には、それぞれ、エネルギー準位E51,E71に変化し、ひずみ大のとき(ST22)には、それぞれ、エネルギー準位E52,E72に変化する。
【0060】
また、無ひずみのとき(ST20)のテルル化カドミウム(CdTe)の伝導帯下端(CBM)のエネルギー準位E60、及び、CBMから価電子帯上端(VBM)までのエネルギー準位E80は、ひずみ小のとき(ST21)には、それぞれ、エネルギー準位E61,E81に変化し、ひずみ大のとき(ST22)には、それぞれ、エネルギー準位E62,E82に変化する。
【0061】
無ひずみのとき(ST20)のエネルギー準位E50,E60,E70,E80は、それぞれ、4.4~4.6[eV]、4.3[eV]、3.0~3.2[eV]、1.5[eV]であることが知られている。従って、無ひずみのとき(ST20)の酸化チタン(TiO2)とテルル化カドミウム(CdTe)とのバンドオフセット△Ec20は、-0.2~-0.3[eV]程度となる。
【0062】
N型半導体11が酸化チタン(TiO2)、P型半導体12がテルル化カドミウム(CdTe)であるとき、テルル化カドミウム(CdTe)のエネルギーバンドはひずみが印加されることにより接合界面から降下するのに対して、酸化チタン(TiO2)のエネルギーバンドは印加されるひずみの有無に関わらず一定である。すなわち、ひずみ小のとき(ST21)のバンドオフセット△Ec21は負の値であって、バンドオフセット△Ec20より大きくなる。ひずみ大のとき(ST22)のバンドオフセット△Ec22はバンドオフセット△Ec21より大きくなり、正の値となる。
【0063】
従って、N型半導体11が酸化チタン(TiO
2)、P型半導体12がテルル化カドミウム(CdTe)とした場合、酸化チタン(TiO
2)とテルル化カドミウム(CdTe)とのうちの一方(テルル化カドミウム(CdTe))のみのエネルギー順位が変化し、他方(酸化チタン(TiO
2))のエネルギー順位が変化しないため、ひずみの印加による開放電圧の変化は、両方が圧電素子である場合(
図9)と比較して、大きなひずみの範囲にわたって緩やかに変化するものとなる。そのため、このひずみゲージ100を用いることによって、測定範囲の広いひずみを測定することができる。
【0064】
図11は、本実施の形態に係るひずみゲージ100を用いたひずみの測定方法の概要を表したフローチャートである。
図11を参照して、始めに、ひずみゲージ100をセットする(ステップS101)。ひずみゲージ100のセットは、光電変換素子10のN型半導体11とP型半導体12とのそれぞれに電極21,22を接続し、フレキシブル基板200にセットして、電極対21,22の間に電圧計24を接続することを含む。
【0065】
セットされたひずみゲージ100の光電変換素子10に光を照射し(ステップS103)、電圧計24で電極対21,22の間の開放電圧を測定する(ステップS105)。
【0066】
演算機などで演算してひずみを測定する場合、演算機は、
図8の印加されたひずみと開放電圧の変化との関係を予め記憶しておく。その関係は、例えば、上のように実際にひずみを変化させて開放電圧を測定して実験的に求め、演算機に入力されるものであってよい。印加されたひずみと開放電圧との関係は開放電圧をパラメータとしてひずみを算出する演算式として記憶されていてもよい。この場合、演算機は、予め記憶している演算式に測定された開放電圧を代入することでひずみを得る(ステップS107)。
【0067】
このように、本実施の形態に係るひずみゲージ100を用いることによって、増幅回路や電源を不要として容易にひずみが測定される。
【0068】
<3.付記>
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
【符号の説明】
【0069】
10 :光電変換素子
11 :N型半導体
12 :P型半導体
21 :電極
22 :電極
23 :基板
24 :電圧計
100 :ゲージ
200 :フレキシブル基板
E :光エネルギー
E10 :エネルギー準位
E11 :エネルギー準位
E12 :エネルギー準位
E20 :エネルギー準位
E21 :エネルギー準位
E22 :エネルギー準位
E30 :エネルギー準位
E31 :エネルギー準位
E32 :エネルギー準位
E40 :エネルギー準位
E41 :エネルギー準位
E42 :エネルギー準位
E50 :エネルギー準位
E51 :エネルギー準位
E52 :エネルギー準位
E60 :エネルギー準位
E61 :エネルギー準位
E62 :エネルギー準位
E70 :エネルギー準位
E71 :エネルギー準位
E72 :エネルギー準位
E80 :エネルギー準位
E81 :エネルギー準位
E82 :エネルギー準位
L1 :シミュレーション結果
L2 :シミュレーション結果
L3 :シミュレーション結果
L4 :シミュレーション結果
L5 :シミュレーション結果
h :厚み
r :曲率半径