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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154743
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】電気刺激装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20231013BHJP
   A61B 5/296 20210101ALI20231013BHJP
   A61B 5/397 20210101ALI20231013BHJP
   A61B 5/395 20210101ALI20231013BHJP
【FI】
A61N1/36
A61B5/296
A61B5/397
A61B5/395
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064283
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000103471
【氏名又は名称】オージー技研株式会社
(72)【発明者】
【氏名】根木 陽一
【テーマコード(参考)】
4C053
4C127
【Fターム(参考)】
4C053JJ01
4C053JJ24
4C127AA04
4C127DD03
4C127LL08
(57)【要約】
【課題】従来よりも狭い範囲で電気刺激を出力できる電気刺激装置を提供する。
【解決手段】2個の電極により構成された二極電極3aと、単一電極3bとを備え、被治療者の皮膚表面に配置された二極電極3a及び単一電極3bを介して被治療者の筋電位を検出し、筋電位に基づく電気刺激を二極電極3aの2個の電極間に出力する。筋電位に基づく電気刺激を二極電極3aの2個の電極間に出力する第1モードと、筋電位に基づく電気刺激を二極電極3aと単一電極3bとの間に出力する第2モードとを備えている。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2個の電極により構成された二極電極と、単一電極とを備え、被治療者の皮膚表面に配置された前記二極電極及び前記単一電極を介して前記被治療者の筋電位を検出し、前記筋電位に基づく電気刺激を前記二極電極の前記2個の電極間に出力する、ことを特徴とする電気刺激装置。
【請求項2】
前記筋電位に基づく電気刺激を前記二極電極の前記2個の電極間に出力する第1モードと、前記筋電位に基づく電気刺激を前記二極電極と前記単一電極との間に出力する第2モードとを備えた、ことを特徴とする請求項1に記載の電気刺激装置。
【請求項3】
複数のチャネルを備え、少なくとも1つのチャネルにおいて前記第1モードと前記第2モードを選択可能に構成された、ことを特徴とする請求項2に記載の電気刺激装置。
【請求項4】
前記複数のチャネルのうち或るチャネルにおいて前記被治療者の筋電位を検出する場合、前記或るチャネルを使用中は他のチャネルでの電気刺激の出力を禁止するか、前記他のチャネルを使用不可にする、ことを特徴とする請求項3に記載の電気刺激装置。
【請求項5】
前記二極電極は舌骨筋群上に配置される、ことを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の電気刺激装置。
【請求項6】
前記被治療者がものを飲み込む動作をするときに前記二極電極の前記2個の電極間に電気刺激を出力し、前記被治療者が口を開けているときは前記電気刺激の出力を停止する、ことを特徴とする請求項5に記載の電気刺激装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気刺激装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、被治療者の麻痺肢の筋電位に基づく電気刺激を同じ麻痺肢に出力する機能を備えた電気刺激装置が記載されている。2個の電極が基材で一体的に構成された二極型電極と、1個の基準電極とから構成された筋電検出・電気刺激両用電極を、被治療者の麻痺肢に接触させ、麻痺肢の筋電位の検出と麻痺肢への電気刺激の出力が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2013-248344号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
筋電検出・電気刺激両用電極による電気刺激は、二極型電極の全体と基準電極との間で出力されるため、例えば舌骨筋群の狭い部位への電気刺激が困難であるという課題があった。電気刺激をしたい舌骨筋群の場所によっては基準電極と二極型電極を貼る位置が限定される。基準電極と二極型電極の距離を離して貼ると、これらの電極間で電気刺激が出力されるので狙った舌骨筋群をピンポイントに刺激できないという課題もあった。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、従来よりも狭い範囲で電気刺激を出力できる電気刺激装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る本発明の電気刺激装置は、2個の電極により構成された二極電極と、単一電極とを備え、被治療者の皮膚表面に配置された前記二極電極及び前記単一電極を介して前記被治療者の筋電位を検出し、前記筋電位に基づく電気刺激を前記二極電極の前記2個の電極間に出力する、ことを特徴とする。この構成によれば、従来よりも狭い範囲で電気刺激を出力できるため、例えば舌骨筋群の狭い部位への治療に適用することができる。
【0007】
請求項2に係る電気刺激装置は、前記筋電位に基づく電気刺激を前記二極電極の前記2個の電極間に出力する第1モードと、前記筋電位に基づく電気刺激を前記二極電極と前記単一電極との間に出力する第2モードとを備えた、ことを特徴とする。この構成によれば、治療要望に合わせて第1モードと第2モードを選択して使用することができる。第1モードを使用することで、例えば舌骨筋群の狭い部位への治療に適用することができる。第2モードを使用することで、例えば肘関節の運動機能訓練に適用することができる。
【0008】
請求項3に係る電気刺激装置は、複数のチャネルを備え、少なくとも1つのチャネルにおいて前記第1モードと前記第2モードを選択可能に構成された、ことを特徴とする。この構成によれば、複数のチャネルを備えているため、例えば肘関節と手指伸展等、2つの部位の運動機能訓練に適用することができるとともに、少なくとも1つのチャネルにおいて、第1モードと第2モードを選択して使用することができる。
【0009】
請求項4に係る電気刺激装置は、前記複数のチャネルのうち或るチャネルにおいて前記被治療者の筋電位を検出する場合、前記或るチャネルを使用中は他のチャネルでの電気刺激の出力を禁止するか、前記他のチャネルを使用不可にする、ことを特徴とする。例えば筋電位の検出を伴う治療モードを2つのチャネルで同時に使用した場合、一方のチャネルで電気刺激を出力した際に、他方のチャネルの二極電極に電気信号が混入し筋電位として誤検出することがあったが、この構成によれば、或るチャネルの筋電位の検出に対して、他のチャネルによる電気刺激の出力が影響しないようにすることができ、或るチャネルにおける筋電位の誤検出を防止することができる。
【0010】
請求項5に係る電気刺激装置は、前記二極電極は舌骨筋群上に配置される、ことを特徴とする。この構成によれば、舌骨筋群の筋力強化ができ、嚥下機能の改善を図ることができる。
【0011】
請求項6に係る電気刺激装置は、前記被治療者がものを飲み込む動作をするときに前記二極電極の前記2個の電極間に電気刺激を出力し、前記被治療者が口を開けているときは前記電気刺激の出力を停止する、ことを特徴とする。この構成によれば、舌骨筋群の筋力強化ができ、嚥下機能の改善を図ることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、従来よりも狭い範囲で電気刺激を出力できる。このため、例えば舌骨筋群の狭い部位への治療に適用可能な電気刺激装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明の実施の形態1による電気刺激装置の構成を示す図である。
図2】同電気刺激装置のチャネル1に関する電気的構成を示すブロック図である。
図3A】同電気刺激装置を用いた第1治療例を説明するための図である。
図3B】同電気刺激装置を用いた第2治療例を説明するための図である。
図4】本発明の実施の形態2による電気刺激装置の構成を示す図である。
図5】同電気刺激装置のチャネル2に関する電気的構成を示すブロック図である。
図6】同電気刺激装置の制御部に関するブロック図である。
図7A】本発明の実施の形態3による電気刺激装置を用いた第3治療例を説明するための図である。
図7B】同電気刺激装置を用いた第4治療例を説明するための図である。
図8】本発明の実施の形態4による電気刺激装置の電気的構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態に係る電気刺激装置について図面を参照して説明する。
【0015】
(実施の形態1)
図1に示すように、本発明の実施の形態1による電気刺激装置1は、電気刺激を出力するための電気回路が内部に設けられた装置本体2と、被治療者の肢体の皮膚表面に配置されて筋電位の検出及び電気刺激の印加を行う両用電極3と、両用電極3を装置本体2に接続するケーブル4とを主たる構成としている。装置本体2には出力コネクタ5a、5bが設けられており、図1では出力コネクタ5aにケーブル4を介して両用電極3が接続された例を示している。各出力コネクタ5a、5bはそれぞれ1つのチャネルを構成し、出力コネクタ5aをチャネル1とし、出力コネクタ5bをチャネル2とする。なお、装置本体2に設けられたコネクタ27については後述する。
【0016】
両用電極3は少なくとも一対の電極であり、一例として2個の電極が非導電性部材によって一体的に構成される二極電極3aと、1個の単一電極3bとから構成されている。二極電極3a及び単一電極3bは裏面が被治療者の皮膚表面に貼り付ける貼付面とされるホック式のゲル電極になっている。
【0017】
二極電極3aは対象筋肉の筋腹の皮膚表面に配置され、被治療者の筋活動から発生する微弱な筋電位を2個の電極間で検出するとともに、電気刺激を付与するための電気刺激用電極として機能する。単一電極3bは、二極電極3aの2個の電極間で筋電位を検出するときに基準電位を決める基準電極として機能する一方、電気刺激を付与したい筋肉の筋腹の皮膚表面に配置され、電気刺激を筋肉に印加するための電気刺激用電極としても機能する。
【0018】
二極電極3aの2個の電極及び単一電極3bの各ホックは中途位置で三本に分岐したケーブル4の各先端側に係着され、ケーブル4の基端側の接続プラグ4aは装置本体2に設けられた出力コネクタ5aに着脱自在に挿嵌される。
【0019】
装置本体2は、回転可能なダイヤル6、ダイヤル6の中央に配置された押し込み可能な決定ボタン7、及び、表示部8を備えている。治療条件の設定はダイヤル6と決定ボタン7を用いて行う。表示部8はタッチパネルになっており、このタッチパネルにも決定ボタン7の機能が備えられている。表示部8には治療条件や治療結果等が表示される。
【0020】
図2に示すように、装置本体2に設けられたコネクタ27には、電気刺激装置1の動作を制御するハンドスイッチ28が不図示のケーブルによって接続される。装置本体2はさらに、電気刺激手段9、出力切替部10、筋電検出回路11、電源回路12、電池電圧検出回路13、記憶部14及び制御部15を有しており、これらは装置本体2の内部に設けられている。制御部15は電気刺激手段9、出力切替部10、記憶部14、表示部8を制御するもので、マイクロコントローラ(マイコン)により構成される。記憶部14は設定された治療条件などを読み出し可能に記憶するもので、例えば不揮発性メモリ(EEPROM)で構成される。制御部15はダイヤル6、決定ボタン7、タッチパネル(表示部8)からの信号を受けて治療条件の設定等を行い、設定された治療条件や治療結果のデータは例えば記憶部14に記憶される。
【0021】
電気刺激手段9は、両用電極3に電気刺激を供給する手段であり、電池電源16、電池電源16の電圧を昇圧し出力用電源として供給するDC-DCコンバータ17、DC-DCコンバータ17から入力された電圧を制御する出力制御回路18、出力制御回路18からの出力電圧を昇圧する出力トランス19、出力トランス19からの電気刺激(出力電流)を検出する電流検出回路20から構成されている。電流検出回路20で検出された出力電流信号は制御部15に入力され、制御部15は出力制御回路18を制御することで、例えば過電流の発生を防止している。
【0022】
電池電源16として、アルカリなどの乾電池を使用でき、リチウムイオン二次電池などの充電式電池を採用しても構わない。また、電池電源16の電圧値を検出する電池電圧検出回路13が設けられており、電池電圧検出回路13により電池電源16の電圧値が第一の閾値にまで低下したことが検出されると、制御部15は電圧値の低下を表示部8に画像表示して治療者等に報知する。また、電池電源16の電圧値が第一の閾値より低い第二の閾値に到達すると、制御部15は電気刺激装置1の電源を切断する。なお、電源回路12は電池電源16に接続され制御部15に制御用電源を供給するための回路である。
【0023】
次に、筋電位検出の構成について説明する。出力トランス19から所定周波数(例えば20Hz)で所定パルス幅(例えば50μs)の双方向性方形波を、3回をひとつの単位として繰返し二極電極3aと単一電極3b間に出力し、この繰返しの間(例えば8ms)の筋電位を二極電極3aの2個の電極間で検出する。検出された筋電位は筋電検出回路11に入力され、不図示の増幅器等により制御部15が認識できる程度にまで増幅されて制御部15に取り込まれる。制御部15は、信号処理を行って筋電位を算出し、次の電気刺激が、算出した筋電位の強度に比例した強度となるよう出力制御回路18を制御する。
【0024】
電気刺激装置1の治療モードとして、第1モードと第2モードを備えている。第1モードでは、二極電極3aにより検出される治療対象部位の筋電位に比例した強度のパルスが、二極電極3aの2つの電極間に出力される。第2モードでは、二極電極3aにより検出される治療対象部位の筋電位に比例した強度のパルスが二極電極3aと単一電極3bとの間に出力される。チャネル1において、パルスを二極電極3aの2個の電極間に出力するか(第1モード)、二極電極3aと単一電極3bとの間に出力するか(第2モード)、出力切替部10により切り替えられる。すなわち、チャネル1では第1モードと第2モードを選択可能に構成されている。なお、第1モードにおけるパルスの一例として、波形は対称二相性矩形波であり、パルス幅は150~350μsecである。そして、嚥下運動に関与する舌骨咽頭領域の多くの筋が速筋成分であるため、第1モードでのパルスの周波数は速筋繊維の収縮を誘発できる周波数、例えば、30~100Hzとすることが望ましい。また、第2モードにおけるパルスの一例として、波形は矩形波であり、パルス幅は50~300μsecであり、パルスの周波数は1~40Hzである。
【0025】
次に、治療者が電気刺激装置1の第1モードを用いて被治療者を治療する例について説明する。図3Aは被治療者が顎を上げた状態の首から顎の部分を正面から見た図であり、第1治療例において電極が配置された状態を示している。第1治療例では、被治療者の左の顎二腹筋前腹31Lと右の顎二腹筋前腹31Rの上に二極電極3aが配置され、二極電極3aから離れた位置に単一電極3bが配置されている。なお、単一電極3bからは電気刺激が出力されないため、単一電極3bの位置は特に決まりはない。
【0026】
治療者は、電気刺激装置1のダイヤル6、決定ボタン7又はタッチパネル(表示部8)を操作して、治療モードを第1モードに設定するほか、治療時間、電気刺激の最小強度及び最大強度、筋電検出感度の諸々の治療条件を設定する。筋電検出感度を設定する場合、表示部8に筋電位が例えば10段階のレベルで表示されるので、そのレベルを確認しながら筋電検出感度を調節する。具体的には、治療対象部位に力を入れたときに筋電位のレベルが最大(10段階のレベル全てが表示される)になり、脱力したときに筋電位のレベルが最小(10段階のレベル全てが表示されない)になるよう筋電検出感度を調節する。力を強く入れてもレベルが最大にならないときや治療中に電気刺激が弱いと感じたときは筋電検出感度が高くなるように調節を行い、一方、脱力しても筋電位のレベルが最小にならない場合や治療中に電気刺激が強いと感じときは筋電検出感度が低くなるよう調節を行えばよい。
【0027】
第1モードでは治療対象部位に力を入れると、二極電極3aで検出された筋電位は筋電検出回路11に入力され、制御部15が筋電位量を算出して、その大きさに応じた電気刺激が二極電極3aの2つの電極間に流れ、左の顎二腹筋前腹31Lと右の顎二腹筋前腹31Rの間に電気刺激が印加される。例えば、装置本体2のコネクタ27に接続されるハンドスイッチ28を治療者が操作することで、被治療者がものを飲み込む動作をするときに電気刺激が出力されるようにし、被治療者が口を開けているときは電気刺激が出力されないようにする。ここでの「もの」は唾液や水分が好ましい。設定した治療時間が経過すると、電気刺激の出力が自動で停止するので、治療を終了する。ところで、顎二腹筋31は舌骨32を引き上げる筋(舌骨上筋群)の1つであり、閉口した状態で顎二腹筋31が収縮すると舌骨32を引き上げる。図3Aの第1治療例によれば、顎二腹筋31の筋力増強を図ることができ、嚥下機能の改善を図ることができる。なお、顎二腹筋31は顎二腹筋前腹31L、31Rと顎二腹筋後腹に分かれるが、顎二腹筋後腹は図示を省略している。また、舌骨上筋群には顎二腹筋31の他に、顎舌骨筋、オトガイ舌骨筋、茎突舌骨筋が含まれ、舌骨上筋群の筋力を増強することで嚥下機能の改善を図ることができる。
【0028】
図3B図3Aと同様の図であり、第1モードによる第2治療例において電極が配置された状態を示している。第2治療例では、被治療者の右の顎二腹筋前腹31Rの上に二極電極3aが配置され、二極電極3aから離れた位置に単一電極3bが配置されている。電気刺激装置1の使用方法は第1治療例と同様であり、図3Bの第2治療例によって右の顎二腹筋前腹31Rの筋力増強を図ることができ、嚥下機能の改善を図ることができる。
【0029】
ここで、二極電極3aの2つの電極間距離(2つの電極の中心間距離)の一例は20mmである。これに対し、従来のように二極電極3aと単一電極3bとの間に電気刺激を出力して治療する場合の電極間距離は例えば40mmである。二極電極3aの2つの電極間に電気刺激を出力することで、電気刺激を出力する電極の電極間距離が従来に比べて小さくなっており、従来よりも狭い範囲に電気刺激を出力することができる。このため、例えば舌骨上筋群の狭い部位への治療に適用することができる。
【0030】
次に、治療者が電気刺激装置1の第2モードを用いて被治療者を治療する例について説明する。治療者は、二極型電極3aを被治療者の麻痺のある肢体である前腕の手関節背屈筋群や手指伸展筋群の筋腹上に貼り付ける。また、単一電極3bを被治療者の前腕の手関節背屈筋群や手指伸展筋群の筋腹の一端(手首側)付近に貼り付ける。治療者は、電気刺激装置1のダイヤル6、決定ボタン7又はタッチパネル(表示部8)を操作して、治療モードを第2モードに設定するほか、治療時間、電気刺激の最小強度及び最大強度、筋電検出感度の諸々の治療条件を設定する。被治療者が前腕に力を入れると、二極電極3aで検出された筋電位の大きさに応じた電気刺激が二極電極3a全体と単一電極3bとの間に流れ、手関節背屈筋群や手指伸展筋群に電気刺激が付与される。この電気刺激の付与により、手関節背屈筋群や手指伸展筋群の筋収縮が促され、被治療者は手関節及び手指関節の運動機能訓練を行うことができる。設定した治療時間が経過すると、電気刺激の出力が自動で停止するので、治療を終了する。
【0031】
以上のように、電気刺激装置1のチャネル1では、検出された被治療者の筋電位に基づく電気刺激を二極電極3aの2個の電極間に出力する第1モードと、前記筋電位に基づく電気刺激を二極電極3aと単一電極3bとの間に出力する第2モードとから選択して実施できるよう構成されている。このため、治療要望に合わせて第1モードと第2モードを選択して使用することができる。
【0032】
(実施の形態2)
図4は実施の形態2による電気刺激装置1aの構成を示す図であり、実施の形態1と同じ構成は同じ符号を使用して適宜説明を省略する。実施の形態2ではチャネル2の出力コネクタ5bにケーブル21を介して電気刺激用電極22が接続されている。電気刺激用電極22は少なくとも一対の電極であり、一例として二個一対の電極から構成され、各電極の裏面が被治療者の皮膚表面に貼り付ける貼付面とされるホック式のゲル電極より構成されている。電極22の各ホックは中途位置で二本に分岐したケーブル21の各先端側に係着され、ケーブル21の基端側の接続プラグ21aは装置本体2に設けられた出力コネクタ5bに着脱自在に挿嵌される。なお、チャネル1の出力コネクタ5aにはケーブル4を介して両用電極3が接続されており、チャネル1に関するブロック図は図2と同じである。
【0033】
図5は電気刺激装置1aのチャネル2に関するブロック図であり、実施の形態1と同じ構成は同じ符号を使用して適宜説明を省略する。制御部15aは電気刺激手段9、出力コネクタ5b、記憶部14、表示部8を制御する。電気刺激手段9は、出力コネクタ5bを介して電気刺激用電極22に電気刺激を供給する手段である。図6は電気刺激装置1aの制御部に関するブロック図であり、チャネル1の制御部15及びチャネル2の制御部15aはメイン制御部23によって制御される。
【0034】
チャネル1は実施の形態1と同じであり、電気刺激装置1aのチャネル1では、第1モードと第2モードとから選択して実施できるよう構成されている。チャネル2では例えば設定した刺激条件で電気刺激を電気刺激用電極22に出力する第3モード、外部センサ(圧力センサ、角度センサ、加速度センサ等)からの入力により電気刺激出力のオン/オフを制御する第4モードを実施することができる。
【0035】
ここで、チャネル1で実施される治療モード(第1モード、第2モード)では被治療者の筋電位を検出するが、チャネル1とチャネル2を同時に使用した場合、チャネル1での被治療者の筋電位の検出において誤検出が発生した。この誤検出の原因について検討した結果、チャネル2で電気刺激を出力した際に、チャネル1の二極電極3aに電気信号が混入してしまい、筋電位として誤検出すること、あるいは、チャネル1とチャネル2に接続した電極を近距離で配置した場合に、反対側の対象筋での筋電位を誤検出してしまうことがわかった。そこで、チャネル1を使用中はチャネル2での電気刺激の出力を禁止するか、チャネル2を使用不可にするよう、メイン制御部23により制御部15、15aを制御する。これにより、チャネル1での筋電位の検出に対して、チャネル2による電気刺激の出力が影響しないようにすることができる。すなわち、複数のチャネルのうち或るチャネルにおいて被治療者の筋電位を検出する場合、或るチャネルを使用中は他のチャネルでの電気刺激の出力を禁止するか、他のチャネルを使用不可にすることで、或るチャネルの筋電位の検出に対して、他のチャネルによる電気刺激の出力が影響しないようにすることができる。
【0036】
なお、電気刺激装置1aにおいて、治療対象部位とは異なる部位の筋電位に比例した強度のパルスを治療対象部位に出力する第5モード、又は、治療対象部位とは異なる部位の筋電位が設定閾値に達すると設定した刺激条件で治療対象部位に電気刺激を出力する第6モードを実施することも可能である。ここで、治療対象部位とは異なる部位は、例えば被治療者以外の他者又は被治療者の健常な肢体の部位である。この場合、治療対象部位とは異なる部位に両用電極3を配置し、治療対象部位に電気刺激用電極22を配置して、チャネル1及びチャネル2を用いて1つの治療を行うことができる。
【0037】
(実施の形態3)
実施の形態3による電気刺激装置は、実施の形態1の電気刺激装置1においてさらに出力コネクタ5b(チャネル2)にも両用電極3が接続された構成である。チャネル2に関するブロック図は図2と同じであり、チャネル1の制御部15とチャネル2の制御部15は、図6を用いて説明したメイン制御部23によって制御される。チャネル1及びチャネル2では、第1モードと第2モードとから選択して実施することができる。
【0038】
図7A図3Aと同様の図であり、第1モードによる第3治療例において電極が配置された状態を示している。第3治療例では、被治療者の右の顎二腹筋前腹31Rの上に二極電極3a1が配置され、二極電極3a1から離れた位置に単一電極3b1が配置されている。被治療者の左の顎二腹筋前腹31Lの上に二極電極3a2が配置され、二極電極3a2から離れた位置に単一電極3b2が配置されている。二極電極3a1と単一電極3b1は出力コネクタ5aに接続され、二極電極3a2と単一電極3b2は出力コネクタ5bに接続されている。
【0039】
治療者は、チャネル1及びチャネル2についてダイヤル6、決定ボタン7又はタッチパネル(表示部8)を操作して治療モードを第1モードに設定するほか、治療時間、電気刺激の最小強度及び最大強度、筋電検出感度の諸々の治療条件を設定する。前述のようにチャネル1とチャネル2を同時に使用した場合、チャネル1又はチャネル2での被治療者の筋電位の検出において誤検出が発生することがある。このため、チャネル1を使用中はチャネル2での電気刺激の出力を禁止するか、チャネル2を使用不可にし、チャネル2を使用中はチャネル1での電気刺激の出力を禁止するか、チャネル1を使用不可にするよう、メイン制御部23によりチャネル1、2の各制御部15を制御する。これにより、各チャネル1、2における筋電位の誤検出を防止することができる。図7Aの第3治療例によって左及び右の顎二腹筋前腹3L、3Rの筋力増強を図ることができ、嚥下機能の改善を図ることができる。
【0040】
図7B図3Aと同様の図であり、第1モードによる第4治療例において電極が配置された状態を示している。第4治療例では、被治療者の左の顎二腹筋前腹31Lと右の顎二腹筋前腹31Rの上に二極電極3a1が配置され、被治療者の左の胸骨舌骨筋33Lと右の胸骨舌骨筋33Rの上に二極電極3a2が配置されている。単一電極3b1、3b2の位置は特に決まりはなく任意の位置に配置されている。ところで、胸骨舌骨筋33は舌骨32を引き下げる筋(舌骨下筋群)の1つであり、胸骨舌骨筋33が収縮すると舌骨32を前下方に引き下げる。図7Bの第4治療例によれば、舌骨32を引き上げる筋(顎二腹筋31)と舌骨32を引き下げる筋(胸骨舌骨筋33)の筋力増強を図ることができ、嚥下機能の改善を図ることができる。舌骨下筋群には胸骨舌骨筋33の他に、肩甲舌骨筋、胸骨甲状筋、甲状舌骨筋が含まれ、舌骨下筋群の筋力を増強することで嚥下機能の改善を図ることができる。なお、舌骨筋群は舌骨上筋群と舌骨下筋群により構成される。
【0041】
(実施の形態4)
図8は実施の形態4による電気刺激装置1bのブロック図であり、実施の形態1と同じ構成は同じ符号を使用して適宜説明を省略する。出力コネクタ5aに両用電極3が接続され、出力コネクタ5bに電気刺激用電極22が接続されている。電気刺激手段9は、両用電極3及び電気刺激用電極22に電気刺激を供給する手段であり、電気刺激手段9から出力される電気刺激は出力切替部24によって、両用電極3に出力するか、電気刺激用電極22に出力するかを切り替える。また、出力切替部10によって、電気刺激を二極電極3aの2つの電極間に出力するか、二極電極3aと単一電極3bとの間に出力するかを切り替える。
【0042】
電気刺激装置1bは治療条件の設定などを行うための操作スイッチ部25、筋電検出感度の設定時に使用するLED表示部26を備えている。LED表示部26は複数(例えば5個)のLEDが並んで配置されており、検出される筋電位強度が大きくなると、点灯するLEDの数が増えるよう構成されている。筋電検出感度は治療対象部位に力を入れたときにLED表示部26のLEDが5個全て点灯し、脱力したときにLEDが全て消灯するよう筋電検出感度を調節する。力を強く入れてもLEDが全て点灯しないときや治療中に電気刺激信号の出力が弱いと感じたときは筋電検出感度が高くなるように調節を行い、一方、脱力してもLEDが全て消灯しない場合や治療中に電気刺激の出力が強いと感じときは筋電検出感度が低くなるよう調節を行えばよい。
【0043】
電気刺激装置1bでは、出力コネクタ5aに両用電極3を接続し、両用電極3を用いて第1モード又は第2モードによる治療を実施することができ、第1モードと第2モードを選択可能に構成されている。また、出力コネクタ5a、5bにそれぞれ両用電極3、電気刺激用電極22を接続し、両用電極3を用いて被治療者以外の他者又は被治療者の筋電位を検出し、電気刺激用電極22を用いて被治療者の治療対象部位に電気刺激を印加することで、前述した第5モード又は第6モードを実施することができる。また、出力コネクタ5bに電気刺激用電極22を接続し、電気刺激用電極22を用いて被治療者の治療対象部位に電気刺激を印加することで、前述した第3モード、第4モードを実施することができる。このように電気刺激装置1bは、出力コネクタ5aに接続した両用電極3、及び/又は、出力コネクタ5bに接続した電気刺激用電極22を用いて1つの治療を行うよう構成されており、出力コネクタ5a及び出力コネクタ5bが1つのチャネルを構成する。
【0044】
なお、二極電極3a及び単一電極3bは1種類ではなく、複数種類を使用できるようにしてもよい。例えば、二極電極3aの2つの電極間の距離が異なる複数種類の二極電極3aを使用することができる。二極電極3a及び単一電極3bの導電面積が異なる複数種類の二極電極3a及び単一電極3b2を使用することができる。また、二極電極3aとして、別体である2つの電極を装具に着脱自在に取り付ける構成にしてもよく、この構成により2つの電極間の距離が変わらないようにした二極電極3aが得られる。二極電極3aとして、1つの電極が一体的に構成された装具に、もう1つの電極を着脱自在に取付ける構成でもよい。また、チャネルは1つ又は3つ以上設けられていてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0045】
嚥下障害の治療に使用される電気刺激装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0046】
1 電気刺激装置
2 装置本体
3 両用電極
3a 二極電極
3b 単一電極
5a、5b 出力コネクタ(チャネル)
9 電気刺激手段
10 出力切替部
11 筋電検出回路
15、15a、15b 制御部
22 電気刺激用電極
23 メイン制御部
24 出力切替部
31 顎二腹筋
31L、31R 顎二腹筋前腹
33、33L、33R 胸骨舌骨筋
図1
図2
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8