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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154744
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】加速度補正装置
(51)【国際特許分類】
   G01C 9/08 20060101AFI20231013BHJP
   B60Q 1/115 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
G01C9/08
B60Q1/115
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064284
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105980
【弁理士】
【氏名又は名称】梁瀬 右司
(74)【代理人】
【識別番号】100121027
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 公一
(74)【代理人】
【識別番号】100178995
【弁理士】
【氏名又は名称】丸山 陽介
(72)【発明者】
【氏名】北浦 亮
(72)【発明者】
【氏名】平野 呈
(72)【発明者】
【氏名】山本 真也
(72)【発明者】
【氏名】中西 雷太
(72)【発明者】
【氏名】小澤 宏二
【テーマコード(参考)】
3K339
【Fターム(参考)】
3K339AA02
3K339BA01
3K339BA25
3K339BA28
3K339CA01
3K339GB01
3K339KA23
3K339LA02
3K339LA11
3K339MB04
3K339MC24
3K339MC45
3K339MC48
3K339MC52
(57)【要約】
【課題】車輪速センサによる車輪速検出値を時間微分して算出される車体加速度推定値を最適補正することにより、車体加速度推定値に基づく車両の制御を精度よく行えるようにする。
【解決手段】演算手段により算出される路面傾斜角θrを車体加速度推定値Aにより微分した微分値(∂θr/∂A)が、予め設定された閾値Th以下かどうかが補正手段22により判断され、微分値(∂θr/∂A)が閾値Thより大きい場合には、補正手段22により、車体加速度推定値Aに予め規定された補正係数が掛け算され、路面傾斜角θrを補正後の車体加速度推定値Aで微分した微分値(∂θr/∂A)が閾値Th以下になるまで、補正係数の掛け算を繰り返す補正が行われる。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪速の検出値に基づき車体加速度を導出し、導出した前記車体加速度を車両制御に用いる際に前記車体加速度を補正する加速度補正装置において、
車両の前後方向及び上下方向の加速度を検出して前後方向出力値X及び上下方向出力値Zを出力する加速度センサと、
車輪速を検出して車輪速検出値を出力する車輪速センサと、
前記車輪速検出値を時間微分して車体加速度推定値Aを算出し、前記加速度センサからの前記前後方向出力値X及び前記上下方向出力値Z、導出した車体加速度推定値A並びに重力加速度Gに基づき、路面傾斜角θrを所定の演算式を用いて算出する演算手段と、
前記演算手段により算出された前記路面傾斜角θrを前記車体加速度推定値Aにより微分した微分値が予め設定された所定の閾値以上である場合に、前記微分値が前記所定の閾値より小さくなるように前記車体加速度推定値Aを補正する補正手段と
を備えることを特徴とする加速度補正装置。
【請求項2】
請求項1に記載の加速度補正装置において、
前記補正手段は、前記微分値が前記所定の閾値より小さくなるように、前記車体加速度推定値Aに予め設定された補正係数を掛け算して前記車体加速度推定値A補正することを特徴とする加速度補正装置。
【請求項3】
請求項2に記載の加速度補正装置において、
前記補正手段は、前記微分値が前記所定の閾値より小さくほぼゼロになるまで前記補正係数を前記車体加速度推定値Aに掛け算することを繰り返す
ことを特徴とする加速度補正装置。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の加速度補正装置において、
前記演算手段は、
X=A・cosθv-G・sin(θv+θr)
Z=A・sinθv+G・cos(θv+θr)
の2つの式を変換して得られる
θr=sin-1{(X+Z)-(A+G)}/-2・A・G
θv=sin-1{(-G・cosθr)・X+(A-G・sinθr)・Z}/(X+Z
の2つの式に、当該演算タイミングにおける前記車体加速度推定値Aを補正した値、前記前後方向出力値X、前記上下方向出力値Zの各値及び前記重力加速度Gの値(=1)を代入して前記路面傾斜角θrを算出するとともに、ヘッドランプの光軸の傾き角度の制御に用いる車体傾斜角θvを算出することを特徴とする加速度補正装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車輪速の検出値に基づき車体加速度を導出し、導出した車体加速度を車両制御に用いる際に車体加速度を補正する加速度補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ヘッドランプの光軸の傾き角度を車体傾斜角に応じて制御し、対向車両に対する幻惑を防止する技術として、オートレベリング制御技術がある。例えば特許文献1に記載のオートレベリング制御の場合、車両に搭載された加速度センサによる車両前後方向の加速度を第一軸に、車両上下方向の加速度を第二軸に設定した座標に、加速時及び減速時の少なくとも一方における加速度センサにより検出される検出値をプロットし、プロットした複数点から得られる直線又はベクトルの傾きを用いて車体の傾斜角である車両姿勢角度を算出し、ヘッドランプの光軸の傾き角度を制御している。
【0003】
また、車輪速センサにより検出される車輪速検出値に基づき車体加速度推定値Aを導出し、加速度センサにより検出される車両の前後方向出力値X及び前記上下方向出力値Z、導出した車体加速度推定値A並びに重力加速度Gに基づき、路面傾斜角θr及び路面に対する車体傾斜角θvを算出し、算出した車体傾斜角θvに基づいてヘッドランプの光軸の傾き角度を制御することも提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2014-100979号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところが、近年の車両では、CAN(Controller Are Network)通信を介した車両ネットワークを利用して、車輪速センサによる車輪速検出値が演算手段により取得され、演算手段によりこれが時間微分されて車体加速度推定値Aが算出されるが、車輪速検出値はLBS(Least Significant Bit)誤差やタイヤ直径の変化による誤差等を含んでいるため、車体加速度推定値Aを正しく算出することができず真値からずれているため、ヘッドランプの光軸の傾き角度を精度よく制御することができないという問題がある。なお、ヘッドランプの光軸の傾き角度の制御に限らず、車体加速度推定値Aを用いて車両の制御行う場合にも、同様の問題が生じ得る。
【0006】
本発明は、車輪速センサによる車輪速検出値を時間微分して算出される車体加速度推定値を最適補正することにより、車体加速度推定値に基づく車両の制御を精度よく行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した目的を達成するために、本発明の加速度補正装置は、車輪速の検出値に基づき車体加速度を導出し、導出した前記車体加速度を車両制御に用いる際に前記車体加速度を補正する加速度補正装置において、車両の前後方向及び上下方向の加速度を検出して前後方向出力値X及び上下方向出力値Zを出力する加速度センサと、車輪速を検出して車輪速検出値を出力する車輪速センサと、前記車輪速検出値を時間微分して車体加速度推定値Aを算出し、前記加速度センサからの前記前後方向出力値X及び前記上下方向出力値Z、導出した車体加速度推定値A並びに重力加速度Gに基づき、路面傾斜角θrを所定の演算式を用いて算出する演算手段と、前記演算手段により算出された前記路面傾斜角θrを前記車体加速度推定値Aにより微分した微分値が予め設定された所定の閾値以上である場合に、前記微分値が前記所定の閾値より小さくなるように前記車体加速度推定値Aを補正する補正手段とを備えることを特徴としている。
【0008】
このような構成によれば、演算手段により、車輪速センサによる車輪速検出値が時間微分されて車体加速度推定値Aが算出され、加速度センサからの車両の前後方向出力値X及び上下方向出力値Z、算出された車体加速度推定値A並びに重力加速度Gに基づき、路面傾斜角θrが算出されるとともに、算出された路面傾斜角θrを車体加速度推定値Aにより微分した微分値(∂θr/∂A)が算出される。このとき、車体加速度推定値Aに誤差がなければ、路面傾斜角θrは一定であるので、路面傾斜角θrを車体加速度推定値Aにより微分した微分値(∂θr/∂A)はゼロもしくは限りなくゼロに近い値となる。
【0009】
そのため、演算手段により算出された路面傾斜角θrを車体加速度推定値Aにより微分した微分値(∂θr/∂A)が、予め設定されたゼロに近い所定の閾値以上である場合に、補正手段により、当該微分値(∂θr/∂A)が所定の閾値より小さくなるように車体加速度推定値Aを補正することにより、車体加速度推定値Aを実際の真値に近い値に補正することができ、真値に近い補正後の車体加速度推定値Aを用いて車両制御を行う場合に、精度のよい車両の制御を行うことができる。
【0010】
また、前記補正手段は、前記微分値が前記所定の閾値より小さくなるように、前記車体加速度推定値Aに予め設定された補正係数を掛け算して前記車体加速度推定値A補正するとよい。このとき、補正手段は、前記微分値が前記所定の閾値より小さくなるまで前記補正係数を前記車体加速度推定値Aに掛け算することを繰り返すのが望ましい。こうすることにより、車体加速度推定値Aを実際の真値によりいっそう近い値に補正することができる。
【0011】
また、前記演算手段は、
X=A・cosθv-G・sin(θv+θr)
Z=A・sinθv+G・cos(θv+θr)
の2つの式を変換して得られる
θr=sin-1{(X+Z)-(A+G)}/-2・A・G
θv=sin-1{(-G・cosθr)・X+(A-G・sinθr)・Z}/(X+Z
の2つの式に、当該演算タイミングにおける前記車体加速度推定値Aを補正した値、前記前後方向出力値X、前記上下方向出力値Zの各値及び前記重力加速度Gの値(=1)を代入して前記路面傾斜角θrを算出するとともに、ヘッドランプの光軸の傾き角度の制御に用いる車体傾斜角θvを算出するようにしてもよい。
【0012】
こうすれば、演算手段により路面傾斜角θrを算出できるとともに、さらにヘッドランプの光軸の傾き角度の制御に用いる車体傾斜角θvを算出することができ、車両の制御として、ヘッドランプの光軸の傾き角度の制御を精度よく行うことが可能なる。
【発明の効果】
【0013】
この発明によれば、演算手段により算出された路面傾斜角θrを車体加速度推定値Aにより微分した微分値(∂θr/∂A)が、予め設定されたゼロに近い所定の閾値以上である場合に、補正手段により、微分値(∂θr/∂A)当該が所定の閾値より小さくなるように車体加速度推定値Aを補正することにより、車体加速度推定値Aを実際の真値に近い値に補正することができるため、真値に近い補正後の車体加速度推定値Aを用いて車両制御を行う場合に、精度のよい車両の制御を行うことが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の加速度補正装置の一実施形態のブロック図である。
図2図1の動作説明図である。
図3図1の動作説明図である。
図4図1の動作説明図である。
図5図1の動作説明図である。
図6図1の動作説明図である。
図7図1の動作説明用フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明に係る加速度補正装置をヘッドランプの光軸制御に使用する場合の一実施形態について、図1ないし図6を参照して詳述する。
【0016】
図1に示すように、本実施形態における加速度補正装置をヘッドランプの光軸制御に使用した制御装置1は、制御用ECU(Electronic Control Unit)2と、3軸加速度センサ3と、車輪速センサ4とを備える。加速度センサ3は、車両の左右方向、前後方向及び上下方向の加速度を検出し、車両の前後方向出力値X及び上下方向出力値ZをECU2に出力する。車輪速センサ4は、車両の各車輪の車輪速を検出して車輪速検出値をECU2に出力する。
【0017】
ECU2は、車輪速センサ4による車輪速検出値を時間微分して車体加速度推定値Aを導出し、加速度センサ3からの前後方向出力値X及び上下方向出力値Z、導出した車体加速度推定値A並びに重力加速度Gを用いた次の演算式に基づいて、走行中の路面に対する車体傾斜角θvと路面傾斜角θrを算出するとともに後述する車体傾斜角θvを算出する演算手段21と、演算手段21により算出された車体加速度推定値Aを補正する補正手段22と、演算手段21の演算の際に使用されるデータを一時的に格納したり補正手段22による補正係数その他の制御に必要なデータを保持するためのメモリ23と、補正された車体加速度推定値等を用いて演算手段21により算出される車体傾斜角θvに基づきヘッドランプ光軸調整手段6を制御してヘッドランプの傾き角度を制御する制御手段24を備える。ここで、地表における重力加速度Gは“1”である。
【0018】
演算手段21は、車輪速センサ4による車輪速検出値を時間微分して車体加速度推定値Aを算出し、加速度センサ3からの前後方向出力値X及び上下方向出力値Z、導出した車体加速度推定値A並びに重力加速度Gに基づき、路面傾斜角θrを用いて車体加速度推定値Aの最適補正を行い、補正後の車体加速度推定値等を用いて車体傾斜角θvを算出するものであり、以下に説明する所定の演算式による演算を行う。
【0019】
いま、図2に示すように、路面傾斜角θrの上り坂を車両が走行中である場合、車両の上下方向(図2中のZ方向)は重力方向である鉛直方向(図2のG方向)に対して、路面傾斜角θrと車体傾斜角θvを加算(θr+θv)した角度傾斜しているため、加速度センサ3により検出される車両の前後方向出力値X及び上下方向出力値Zは、数1の式(1)及び数2の式(2)で表すことができる。そして、(1)及び(2)の両式を数式変換することにより、数3の式(3)が得られ、この式(3)の両辺にsinθvを掛けて変換することにより、数4の式(4)が得られる。
【0020】
【数1】
【0021】
【数2】
【0022】
【数3】
【0023】
【数4】
【0024】
さらに、式(2)の両辺にAを掛けることにより数5の式(5)が得られ、この式(5)を変形してA・sinθvに書き直すと、数6の式(6)が得られ、この式(6)を式(4)の右辺のA・sinθvに代入して変形すると、式(4)は数7の式(7)のように書き換えることができる。
【0025】
【数5】
【0026】
【数6】
【0027】
【数7】
【0028】
また、式(1)の両辺にG・cosθrを掛けて変形することにより数8の式(8)が得られ、式(7)の右辺のA・G・cosθv・cosθrに式(8)を代入して変形すると、数9の式(9)が得られ、式(9)をさらに変形することにより数10の式(10)が得られ、この式(10)から数11の式(11)が得られる。さらに、式(3)を変形することにより路面傾斜角θrを表わす数12の式(12)が得られる。
【0029】
【数8】
【0030】
【数9】
【0031】
【数10】
【0032】
【数11】
【0033】
【数12】
【0034】
ところで、ECU2は、CAN通信を介した車両ネットワークを利用して車輪速センサ4による車輪速検出値や加速度センサ3による車両の前後方向出力値X及び上下方向出力値Zを取得するが、車輪速検出値はLBS(Least Significant Bit)誤差やタイヤ直径の変化による誤差等を含んでおり、車体加速度推定値Aを正しく算出することができないため、算出した車体加速度推定値Aを補正する必要がある。
【0035】
このとき、車体加速度推定値Aに誤差がなくほぼ真値である場合には、路面傾斜角θrは一定であるので、図3中の実線示す直線の傾きである路面傾斜角θrを車体加速度推定値Aにより微分した微分値(∂θr/∂A)はゼロ(傾きゼロ)もしくは限りなくゼロに近い値となるが、実際にはLBS誤差やタイヤ径の変化による誤差に起因して、微分値(∂θr/∂A)は、図3中の破線で示す直線のように所定の傾き角を有する。
【0036】
具体的には、車輪速センサ4による車輪速検出値に基づき算出される車体加速度推定値Aに誤差がなくほぼ真値の場合、図4(a)に示すように、算出される路面傾斜角θrは車体加速度推定値Aの値に関係なく一定であるため、直線の傾きである微分値(∂θr/∂A)はゼロとなる。これに対し、車輪速センサ4による車輪速検出値に基づき算出される車体加速度推定値Aが例えば-20%の誤差を含む場合には、図4(b)に示すように、直線の傾きである微分値(∂θr/∂A)はゼロではなく、図3中の破線の直線のように傾くことになる。なお、図4(a)、(b)の数値は実際に検証した値である。
【0037】
そこで、路面傾斜角θrを車体加速度推定値Aにより微分した微分値(∂θr/∂A)が、予め設定された閾値Thより小さいかどうかを判断し、微分値(∂θr/∂A)が閾値Th以下ではなく図3中の破線で示す直線のように所定の傾き角を有する場合には、車体加速度推定値Aを補正する必要があるため、補正手段22により、車体加速度推定値Aに予め規定された補正係数が掛け算され、路面傾斜角θrを補正後の車体加速度推定値Aで微分した微分値(∂θr/∂A)が閾値Thより小さくなるまで、補正係数の掛け算を繰り返す補正が行われる。ここで、閾値Thは理想的にはゼロであるのが望ましいが、実際にはゼロでなくとも限りなくゼロに近い所定の値に設定するとよい。
【0038】
このような補正処理は、図5に示す制御モデルにより行われ、車輪速センサ4による車輪速検出値を用いて演算手段21の車速算出ブロックにより車速が算出され、算出された車速が時間微分されて得られる車体加速度推定値に補正手段22により所定の補正係数が掛け算されてローパスフィルタ(LPF)を介して車体加速度推定値Aの補正値が導出され、重力加速度G(地表では“1”)、加速度センサ3からの前後方向出力値X及び上下方向出力値Zが、数12の式(12)の右辺に代入されて路面傾斜角θrが算出される。尚、図5中の「1/s」は積分、「d/dt」は時間微分、「ASIN」はアークサインの処理を表わすブロックである。
【0039】
そして、補正を行わないときの車体加速度推定値Aに対する路面傾斜角θrの関係は、図6(a)の実線で示す直線となり、誤差のない車体加速度推定値Aに対する路面傾斜角θrの関係を表わす図6(a)の破線で示す傾きのない直線と比較して、補正を行わないときの車体加速度推定値Aに対する路面傾斜角θrの関係はある傾きを持った直線となる。このときの直線の傾きが、路面傾斜角θrを車体加速度推定値Aで微分した微分値(∂θr/∂A)である。
【0040】
次に、例えば補正係数(ゲイン)を“1.05”として、車体加速度推定値Aに対して補正係数を1回掛け算すると、補正係数を1回掛け算して補正した後の車体加速度推定値Aに対する路面傾斜角θrの関係は、図6(b)の実線で示す直線となって同図(a)の場合よりも傾きが小さくなり、補正係数を2回掛け算して補正した後の車体加速度推定値Aに対する路面傾斜角θrの関係は、図6(c)の実線で示す直線となってさらに傾きが小さくなっていき、誤差のない車体加速度推定値Aに対する路面傾斜角θrの関係を表わす同図(b)、(c)中の破線で示す傾きのない直線に近づいていくことが分かる。なお、補正係数は上記した“1.05”に限るものではない。
【0041】
さらに、補正係数の掛け算を繰り返していくと、例えば5回掛け算してした後の車体加速度推定値Aに対する路面傾斜角θrの関係は、図6(d)の実線で示す直線となって、誤差のない車体加速度推定値Aに対する路面傾斜角θrの関係を表わす同図(d)中の破線で示す傾きのない直線とほぼ一致し、このように直線がほぼ一致、つまり路面傾斜角θrを補正した車体加速度推定値Aで微分した微分値(∂θr/∂A)が所定の閾値Thより小さくなれば、補正手段22による補正処理が停止される。
【0042】
そして、微分値(∂θr/∂A)が所定の閾値Thより小さくなると、演算手段により、式(11)を変形して得られる車体傾斜角θvを表わす数13の式(13)を用いて、車体傾斜角θvが算出され、算出された車体傾斜角θvに基づいて、制御手段24によりヘッドランプ光軸調整手段6が制御され、ヘッドランプ光軸調整手段6により、ヘッドランプの光軸の位置及び基準値の更新による傾き角度の制御が行われる。
【0043】
【数13】
【0044】
次に、演算手段21、補正手段22、制御手段24等によるヘッドランプの光軸の傾き角度の制御手順について図7のフローチャートを参照して説明する。
【0045】
いま、図7に示すように、演算手段21により、加速度センサ3により検出される車両の前後方向出力値X及び上下方向出力値Zが取得され(ステップS1)、車輪速センサ4による車輪速検出値を時間微分することにより車体加速度推定値Aが算出され(ステップS2)、これら車両の前後方向出力値X、上下方向出力値Z、車体加速度推定値Aに基づき上記した数12の式(12)の演算により路面傾斜角θrが算出され(ステップS3)、路面傾斜角θrを車体加速度推定値Aにより微分した微分値(∂θr/∂A)が導出される(ステップS4)。
【0046】
その後、補正手段22によりステップS4で導出された微分値(∂θr/∂A)が予め設定された閾値Thより小さいか否かの判定がなされ(ステップS5)、微分値(∂θr/∂A)が閾値Th以上であってこの判定結果がNOであれば、車体加速度推定値Aに予め規定された補正係数が掛け算されて補正値A’が算出され(ステップS6)、算出された補正値A’を用いて路面傾斜角θr’が算出され(ステップS7)、路面傾斜角θr’を車体加速度推定値の補正値A’で微分した微分値(∂θr’/∂A’)が閾値Thより小さいか否かの判定がなされ(ステップS8)、この判定結果がNOであれば、ステップS6に戻って再び車体加速度推定値Aに予め規定された補正係数が掛け算される2回目の補正が行われ、路面傾斜角θr’を車体加速度推定値の補正値A’で微分した微分値(∂θr’/∂A’)が閾値Thより小さくなるまで、ステップS6の処理により補正係数の掛け算を繰り返す補正が行われる。
【0047】
そして、補正の繰り返しにより微分値(∂θr’/∂A’)が閾値Thより小さくなってステップS8の判定結果がYESとなると、上記した数13の式(13)の演算により、車体傾斜角θvが算出され(ステップS9)、算出された車体傾斜角θvに基づいて、制御手段24によりヘッドランプ光軸調整手段6が制御され、ヘッドランプ光軸調整手段6により、ヘッドランプ光軸の傾き角度の制御が行われ(ステップS10)、その後動作は終了する。
【0048】
一方、上記したステップS5の判定結果がYES、つまり微分値(∂θr/∂A)が予め設定された閾値Thより小さいときには、車体加速度推定値Aを補正する必要がないため、上記した数13の式(13)の演算により、車体傾斜角θvが算出され(ステップS11)、その後ステップS9に移行し、ステップS11で算出された車体傾斜角θvに基づいて、制御手段24によりヘッドランプ光軸調整手段6が制御され、ヘッドランプ光軸調整手段6により、ヘッドランプ光軸の傾き角度の制御が行われ(ステップS10)、その後動作は終了する。
【0049】
したがって、上記した実施形態によれば、演算手段21により算出された路面傾斜角θrを車体加速度推定値Aにより微分した微分値(∂θr/∂A)が、予め設定された所定の閾値Th以上の場合に、補正手段22により、当該微分値(∂θr/∂A)が閾値Thより小さくなるように車体加速度推定値Aが補正されるため、車体加速度推定値Aを実際の真値に近い値に補正することができ、真値に近い補正後の車体加速度推定値Aを用いてヘッドランプの光軸の傾き角度の制御に用いる車体傾斜角θvを算出することができ、車両制御であるヘッドランプの光軸の傾き角度の制御を精度よく行うことが可能なる。
【0050】
また、補正手段22は、路面傾斜角θrを車体加速度推定値Aにより微分した微分値(∂θr/∂A)が閾値Thより小さくなるまで既定の補正係数を車体加速度推定値Aに掛け算することを繰り返すため、車体加速度推定値Aを実際の真値によりいっそう近い値に補正することができる。
【0051】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて上記したもの以外に種々の変更を行なうことが可能である。
【0052】
例えば、上記した実施形態では、補正係数(例えば、“1.05”)を繰り返し掛け算して車体加速度推定値Aを補正する場合について説明したが、補正係数の掛け算を1回行う補正であってもよい。
【0053】
また、上記した実施形態では、補正処理後の車体加速度推定値Aを用いて車体傾斜角θvを算出し、算出した車体傾斜角θvに基づいて車両制御であるヘッドランプの光軸の傾き角度の制御を行う場合について説明したが、車両制御はヘッドランプの光軸の傾き制御に限るものではなく、要するに補正した車体加速度推定値を用いて行われる車両制御すべてに対して、本発明に係る加速度補正装置を適用することができる。
【0054】
また、上記した実施形態では、加速度センサ3に3軸の加速度センサを用いた場合について説明したが、前後、上下の2軸の加速度センサであってもよく、前後用及び上下用の1軸加速度センサを2個設けてもよい。さらに、加速度センサ3は、横滑り防止制御用などに既に車両に搭載されている加速度センサを利用してもよく、これによりヘッドランプの光軸制御専用の加速度センサを設ける必要がなく、コストを低減することができる。また、路面傾斜角θrを取得する手段として、上記した実施形態で示した演算手段21による演算の他、ナビゲーションシステム等を用いるようにしてもよい。
【0055】
そして、本発明は、車輪速の検出値に基づき車体加速度を導出し、導出した前記車体加速度を車両制御に用いる際に車体加速度を補正する加速度補正装置に適用することができる。
【符号の説明】
【0056】
3 …加速度センサ
4 …車輪速センサ
21 …演算手段
22 …補正手段
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7