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特開2023-154748検体分析カートリッジ、及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154748
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】検体分析カートリッジ、及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 35/00 20060101AFI20231013BHJP
   G01N 37/00 20060101ALI20231013BHJP
   G01N 35/08 20060101ALI20231013BHJP
   B81B 1/00 20060101ALI20231013BHJP
   B81C 3/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
G01N35/00 D
G01N37/00 101
G01N35/08 A
B81B1/00
B81C3/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064288
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】390014960
【氏名又は名称】シスメックス株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】519264771
【氏名又は名称】クリエイティブナノシステムズ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100140431
【弁理士】
【氏名又は名称】大石 幸雄
(72)【発明者】
【氏名】堀井 和由
(72)【発明者】
【氏名】中本 竣
(72)【発明者】
【氏名】干川 晃生
(72)【発明者】
【氏名】大嶋 克則
(72)【発明者】
【氏名】辻田 公二
(72)【発明者】
【氏名】葛田 渉
(72)【発明者】
【氏名】細矢 智之
(72)【発明者】
【氏名】戸田 瑛
(72)【発明者】
【氏名】森本 正浩
【テーマコード(参考)】
2G058
3C081
【Fターム(参考)】
2G058HA00
3C081AA15
3C081AA18
3C081BA23
3C081CA31
3C081CA32
3C081DA10
3C081DA31
3C081EA26
(57)【要約】
【課題】液漏れ耐久性が高い検体分析カートリッジ等を提供すること。
【解決手段】少なくとも片面にマイクロ流路が形成された第1の基材と、前記第1の基材のマイクロ流路が形成されている面に対向して配された第2の基材と、前記第1の基材及び前記第2の基材を接着する光硬化性樹脂層と、を備え、前記第1の基材及び前記第2の基材が、シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含む、検体分析カートリッジ。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも片面にマイクロ流路が形成された第1の基材と、
前記第1の基材のマイクロ流路が形成されている面に対向して配された第2の基材と、
前記第1の基材及び前記第2の基材を接着する光硬化性樹脂層と、を備え、
前記第1の基材及び前記第2の基材が、シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含む、
検体分析カートリッジ。
【請求項2】
前記光硬化性樹脂層の厚さが、1.0μm以上100μm以下である、請求項1に記載の検体分析カートリッジ。
【請求項3】
前記マイクロ流路の最小流路幅が、200μm以下である、請求項1に記載の検体分析カートリッジ。
【請求項4】
前記第1の基材と前記第2の基材との間の180°剥離強度が、15N/10mm以上である、請求項1に記載の検体分析カートリッジ。
【請求項5】
前記光硬化性樹脂層が、アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂を含む、請求項1に記載の検体分析カートリッジ。
【請求項6】
前記光硬化性樹脂層が、(a)重量平均分子量2000以上のアクリルオリゴマー及び/又はメタクリルオリゴマーと、(b)アクリルモノマー及び/又はメタクリルモノマーと、(c)光ラジカル重合開始剤と、を含む光硬化性樹脂組成物の硬化物である、請求項1に記載の検体分析カートリッジ。
【請求項7】
前記(a)アクリルオリゴマー及び/又はメタクリルオリゴマーが、ポリウレタン骨格を有する、請求項6に記載の検体分析カートリッジ。
【請求項8】
請求項1~7のいずれか1項に記載の検体分析カートリッジの製造方法であって、
前記製造方法は、
前記第1の基材に光硬化性樹脂組成物をインクジェット方式で塗布する工程と、
前記第1の基材の前記光硬化性樹脂組成物を塗付した面に前記第2の基材を貼り合わせる工程と、
前記光硬化性樹脂組成物に光を照射して前記光硬化性樹脂層を形成する工程と、を含む、製造方法。
【請求項9】
前記光硬化性樹脂組成物の粘度が、1.0mPa・s以上50mPa・s未満である、請求項8に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検体分析カートリッジ、及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の面上にマイクロ流路が形成された検体分析カートリッジを用いて、検体中の被検物質を分析する方法が知られている。そのような分析方法において、検体や試薬が流路に導入されることで、検体分析カートリッジ上で各種反応や検出を行うことができる。
【0003】
例えば特許文献1には、複数のチャンバと複数のチャンバを接続するチャネルとを含むカートリッジ内で磁性粒子を前記複数のチャンバを経由して移送することにより、前記磁性粒子に被検物質と標識物質との複合体を担持させ、前記複合体の前記標識物質に基づいて前記被検物質を検出する検出装置が開示されている。
【0004】
また、検体分析カートリッジとしては、例えば基材の面上に開放流路を形成し、開放流路を平板により封止したものが知られている。
例えば、特許文献2には、検体分析カートリッジの基材に用い得る材料として、シクロオレフィンポリマーやシクロオレフィンコポリマー等が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-009952号公報
【特許文献2】米国特許第9555411号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
検体分析カートリッジに用いる基材には、優れた透明性や耐薬品性が要求される。本発明者らが鋭意検討した結果、そのような要求を満たす材料を含む検体分析カートリッジは液漏れが生じやすいこと、より具体的には被検物質を試薬と反応させるために約40℃程度に加熱する場合に液漏れが生じやすいことを見出した。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、被検物質を試薬と反応させる際の加熱条件下においても液漏れ耐久性が高い検体分析カートリッジ、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の検体分析カートリッジは、少なくとも片面にマイクロ流路が形成された第1の基材と、前記第1の基材のマイクロ流路が形成されている面に対向して配された第2の基材と、前記第1の基材及び前記第2の基材を接着する光硬化性樹脂層と、を備え、前記第1の基材及び前記第2の基材が、シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含む。
【0009】
このような検体分析カートリッジは、第1の基材及び第2の基材がシクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含むため、透明性が高く、耐薬品性が高い。また、従来の検体分析カートリッジに用いられている粘着剤では、シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーに対する接着性が低く、シクロオレフィンポリマー及び/又はシクロオレフィンコポリマーを含む基材を用いて液漏れ耐久性が高い検体分析カートリッジを提供することは困難であるが、本発明の検体分析カートリッジは、光硬化性樹脂層により第1の基材及び第2の基材を接着しているため、接着力及び耐熱性が高く、被検物質を試薬と反応させる際の加熱条件下においても液漏れ耐久性が高い検体分析カートリッジとすることができる。
【0010】
本発明の検体分析カートリッジの製造方法は、前記第1の基材に光硬化性樹脂組成物をインクジェット方式で塗布する工程と、前記第1の基材の前記光硬化性樹脂組成物を塗付した面に前記第2の基材を貼り合わせる工程と、前記光硬化性樹脂組成物に光を照射して前記光硬化性樹脂層を形成する工程と、を含む。
【0011】
このような製造方法は、インクジェット方式で光硬化性樹脂組成物を塗布し、次いでこの組成物に光を照射することで光硬化性樹脂層を形成するため、光硬化性樹脂層を形成する部分を精密に制御することができ、第1の基材に形成されたマイクロ流路につまりを発生させることなく光硬化性樹脂層を形成することができる。これにより、被検物質を試薬と反応させる際の加熱条件下においても液漏れ耐久性が高い検体分析カートリッジを簡便に製造することができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、被検物質を試薬と反応させる際の加熱条件下においても液漏れ耐久性が高い検体分析カートリッジ、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】第1実施形態の検体分析カートリッジAの概略断面図である。
図2】第2実施形態の検体分析カートリッジBの概略断面図である。
図3】第3実施形態の検体分析カートリッジ100の概略平面図である。
図4】第3実施形態の検体分析カートリッジ100の概略断面図である。
図5】本実施形態の検体分析カートリッジを用いて検体を分析する検出装置の一例を示す概略斜視図である。
図6】本実施形態の検体分析カートリッジの製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照して本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付して表している。図面は模式的なものであり、必ずしも実際の寸法や比率等とは一致しない。図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることがある。
【0015】
[検体分析カートリッジ]
本実施形態の検体分析カートリッジは、少なくとも片面にマイクロ流路が形成された第1の基材と、第1の基材のマイクロ流路が形成されている面に対向して配された第2の基材と、第1の基材及び第2の基材を接着する光硬化性樹脂層と、を備え、第1の基材及び第2の基材が、シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含む。
【0016】
本実施形態の検体分析カートリッジは、検体分析装置に挿入され、検体に含まれる被検物質を検出及び/又は定量するために用いられる。以下、検体分析カートリッジの各構成について詳述する。
【0017】
(第1の基材)
第1の基材には、少なくとも片面にマイクロ流路が形成されている。第1の基材には、マイクロ流路以外にも、チャンバのような流路状ではない凹部や、第1の基材を貫通する貫通孔や、特開2018-72131号公報又は米国特許出願公開第2018/117583号明細書に開示されるような押圧することにより貫通孔を形成する機構(以下、「開栓機構」という。)が形成されていてもよい。特開2018-72131号公報及び米国特許出願公開第2018/117583号明細書の内容は参照により本明細書に取り込まれる。
本明細書において、マイクロ流路とは、凹部の幅及び深さの少なくとも一方がμmオーダー以下、すなわち、1.0mm未満の流路を意味する。また、第1の基材又は第2の基材において、「マイクロ流路が形成されている」とは、幅及び深さの少なくとも一方が1.0mm未満の溝部が形成されていることを意味する。その他、マイクロチャンバとの用語も、チャンバの深さが1.0mm未満であることを意味する。
【0018】
第1の基材は、少なくとも片面にマイクロ流路が形成されていればよいが、典型的には、検体の導入口となる貫通孔、マイクロ流路、及びチャンバないしマイクロチャンバ(以下、単に「チャンバ」という場合、特に言及する場合を除きマイクロチャンバを包含するものとする。)が形成されている。第1の基材は、さらに検体の分析に用いる試薬の導入口となる貫通孔や、開栓機構を備えていてもよい。検体は、かかるマイクロ流路及び/又はチャンバ内において化学反応や撹拌等の単位操作がおこなわれ、検体分析カートリッジ上で分析される。
【0019】
第1の基材に形成されるマイクロ流路の最小流路幅は、例えば1.0mm未満であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下であり、さらに好ましくは200μm以下であり、さらにより好ましくは150μm以下である。マイクロ流路の最小流路幅が上記範囲内にあることにより、検体及び試薬が効率よく流路を通過することができ、さらに検体分析カートリッジをより小さくすることができる。マイクロ流路の最小流路幅の下限値は特に限定されず、例えば1μm、5μm、10μm、50μm、又は100μmである。マイクロ流路の最小流路幅は、上記の上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる範囲内としてよい。
【0020】
マイクロ流路の最小流路深さは、例えば1.0mm未満であり、好ましくは500μm以下であり、より好ましくは300μm以下であり、さらに好ましくは200μm以下であり、さらにより好ましくは150μm以下である。マイクロ流路の最小流路深さが上記範囲内にあることにより、検体及び試薬が効率よく流路を通過することができる。マイクロ流路の最小流路深さの下限値は特に限定されず、例えば1.0μm、5.0μm、10μm、50μm、又は100μmである。マイクロ流路の最小流路深さは、上記の上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる範囲内としてよい。
【0021】
マイクロ流路は、典型的には各チャンバを接続する役割と、検体の導入口とチャンバとを接続する役割とを有するが、さらに検体の分離を補助する役割を含むその他の役割を有していてよい。第1の基材上に形成されているマイクロ流路及びチャンバは、第1の基材のマイクロ流路及びチャンバが形成されている面と第2の基材とが接着されることにより、開口が封止され、マイクロ流路及びチャンバとして機能する。
【0022】
マイクロ流路及びチャンバは、第1の基材の少なくとも片面に形成されていればよく、片面のみに形成されていてもよいし、両面に形成されていてもよい。製造コストを下げる観点からは、片面のみにマイクロ流路及びチャンバを形成してもよい。分析の精度や効率を高める観点からは、両面にマイクロ流路及びチャンバを形成してもよい。
【0023】
第1の基材は、シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含む。シクロオレフィンポリマーとは、シクロオレフィンをモノマーとして得られるポリマーであり、実質的に脂環構造を有する構造単位からなるポリマーである。また、シクロオレフィンコポリマーとは、シクロオレフィン及びその他のモノマーを用いて得られるポリマーであり、脂環構造を有する構造単位を含むポリマーである。
【0024】
第1の基材に含まれるシクロオレフィンコポリマーとしては、脂環構造を有する構造単位を含んでいるコポリマーであれば特に限定されないが、シクロオレフィンに由来するモノマー単位(脂環構造を有する構造単位)の割合が、全モノマー単位に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、さらにより好ましくは80モル%以上であるコポリマーであってよい。シクロオレフィンコポリマーにおけるシクロオレフィン以外のモノマー単位としては、例えばエチレン、プロピレン、ブタジエン等のオレフィン類が挙げられる。
【0025】
第1の基材に含まれるシクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーは、透明性が高い。3mm厚のプレートに成形したときの可視光(400-800nm)透過率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、さらに好ましくは85%以上である。可視光透過率の上限値は特に限定されず、例えば100%、99%又は95%であってよい。
【0026】
第1の基材に含まれるシクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーは、耐薬品性が高い。具体的には、ASTM D570に準拠して測定される吸水率が、好ましくは0.10%以下であり、より好ましくは0.08%以下であり、さらに好ましくは0.05%以下である。吸水率の下限値は特に限定されず、0%、0.001%又は0.003%であってよい。
【0027】
シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーは、脂環構造を有する構造単位を含んでいるため、透明性が高く、耐薬品性が高い(すなわち、薬品との反応性が低い)。したがって、第1の基材がシクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含むことにより、耐薬品性の高い検体分析カートリッジとすることができる。これにより、検体分析カートリッジに試薬を封入して長期間安定的に保存することができ、また検体の分析に種々の試薬を用いることができる。また、第1の基材がシクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含むことにより、検体を検体分析カートリッジに保持したまま、検体に光を照射し、あるいは検体が発する光を検出することができる。すなわち、検体を検体分析カートリッジに保持したまま、高精度に蛍光分析や化学発光分析のような光(特に可視光)を用いた分析をすることができる。
【0028】
第1の基材のサイズは、特に限定されず、検体分析カートリッジを挿入する検体分析装置のサイズに応じて適宜変更してよいが、例えば長軸及び短軸の長さは5.0cm以上30cm以下であってよい。また、第1の基材の形状も特に限定されず、例えば円盤状、多角形板状等であってよい。
第1の基材の厚さも特に限定されず、例えば0.50mm以上1.0cm以下であってよく、好ましくは0.75mm以上5.0mm以下である。
【0029】
(第2の基材)
第2の基材は、第1の基材のマイクロ流路が形成されている面に対して、後述の光硬化性樹脂層を介して接着されている。すなわち、第2の基材は、第1の基材に形成されたマイクロ流路の開口を封止するカバーとしての役割を有する。第1の基材と第2の基材とが接着されることで、第1の基材に形成された溝部としてのマイクロ流路が、流路として機能する。
【0030】
第2の基材には、マイクロ流路が形成されていてもよいし、形成されていなくてもよい。同様に第2の基材には、貫通孔やチャンバのような流路以外の凹部が形成されていてもよい。
【0031】
第2の基材は、シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含む。第2の基材が含み得るシクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーは、第1の基材と同様である。第2の基材は、第1の基材と同じ材料により構成されていてもよく、異なる材料により構成されていてもよい。
【0032】
第1の基材に加えて第2の基材がシクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含むことにより、検体分析カートリッジの透明性及び耐薬品性を一層高めることができる。
【0033】
第2の基材のサイズは、特に限定されず、検体分析カートリッジを挿入する検体分析装置のサイズに応じて適宜変更してよいが、例えば長軸及び短軸の長さは5.0cm以上30cm以下であってよい。また、第2の基材の形状も特に限定されず、例えば円盤状、多角形板状等であってよい。第2の基材のサイズ及び形状は、第1の基材のサイズ及び形状と同じとしてよい。
第2の基材の厚さも特に限定されず、例えば10μm以上1.0cm以下であってよく、好ましくは50μm以上5.0mm以下である。
【0034】
本実施形態において、第2の基材はフィルムであってよい。この場合、第2の基材にはマイクロ流路やチャンバは形成されておらず、第2の基材はもっぱら第1の基材のマイクロ流路、貫通孔、及び/又はチャンバを封止する役割を有する。ただし、第2の基材には、貫通孔が形成されていてもよい。この態様において、第2の基材の厚さは、例えば10μm以上0.50mm未満であってよく、好ましくは50μm以上0.30mm以下である。
【0035】
また、第2の基材は第1の基材と同様の構成でもよい。すなわち、第2の基材には、第1の基材に対向する面にマイクロ流路が形成され、任意でチャンバ及び/又は貫通孔及び/又は開栓機構が形成されていてよい。この場合、第2の基材の厚さは、例えば0.50mm以上1.0cm以下であってよく、好ましくは0.75mm以上5.0mm以下である。
【0036】
なお、第2の基材は、第1の基材のマイクロ流路が形成されている面に対向して少なくとも一部が配されていればよい。例えば第1の基材の片面のみにマイクロ流路が形成されている場合、当該マイクロ流路が形成されている面のみに第2の基材が配されていてよく、第1の基材の両面に第2の基材が配されていてもよい。また、第1の基材の両面にマイクロ流路が形成されている場合、いずれかの面のみに第2の基材が配されていてよく、第1の基材の両面に第2の基材が配されていてもよい。第2の基材は、第1の基材のマイクロ流路が形成されていない面に対向して配されていてもよいし、第1の基材のマイクロ流路が形成されている面において、第2の基材が必ずしも配されていなくてもよい。
【0037】
また、第2の基材は、第1の基材のマイクロ流路が形成されている面の全面に配されている必要はなく、マイクロ流路が形成されている部分の一部分のみに配されていればよい。第2の基材が配されている第1の基材の面において、当該面の総面積を100%としたとき、第2の基材は、10%以上の面積を占めていてよく、20%、30%、40%、50%、60%、又は70%以上の面積を占めると好ましい。第2の基材の占める面積割合の上限値は特に限定されず、例えば100%、99%、95%、又は90%であってよい。第2の基材の占める面積割合は、上記の上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる範囲内としてよい。
【0038】
なお、第1の基材のマイクロ流路、貫通孔、及び/又はチャンバが形成されている部分に第2の基材が配されていない場合、当該部分には好ましくは第1及び第2の基材とは異なる第3の基材が配されている。第3の基材については後述する。
【0039】
本実施形態において、第1の基材のマイクロ流路及びチャンバが形成されている部分には、第2の基材が対向して配され、第2の基材によりマイクロ流路及びチャンバが被覆されている。第1の基材に開栓機構が形成されている場合、当該部分には、後述する第3の基材が対向して配され、第3の基材により開栓機構が被覆されていてよい。
【0040】
(光硬化性樹脂層)
光硬化性樹脂層は、第1の基材及び第2の基材を接着する層である。シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーは、透明性が高く、耐薬品性が高いものの、極性基を含まないか極性基の含有量が少ないため、従来検体分析カートリッジの基材の接着において用いられている粘着剤(例えば、アクリル系粘着剤やシリコーン系粘着剤)を有する粘着シートを用いて接着することは困難である。すなわち、シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含む基材同士を、粘着剤を用いて接着したとしても、その接着強度は不十分であり、シクロオレフィンポリマー及び/又はシクロオレフィンコポリマーを含む基材を用いて液漏れ耐久性が高い検体分析カートリッジを提供することは困難である。
【0041】
特に検体分析カートリッジは、検体を分析する際に、検体中の被検物質と標識物質を含む試薬とを安定的に反応させるために42℃程度に加熱されるが、この際、検体分析カートリッジ内部の気相部分が加熱により膨張するため、検体分析カートリッジには2つの基材を剥がそうとする力が働き、液漏れが生じやすい。シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含む基材同士を粘着剤で接着して検体分析カートリッジを作製する場合、粘着剤は熱耐性が低いため、加熱条件下では基材同士の接着力が低下し、特に液漏れが生じやすい。また、粘着剤はマイクロ流路が形成された基材に塗布する際、マイクロ流路が形成された部分以外の部分のみに精密に塗布することが難しく、粘着剤がマイクロ流路内部にまで塗布された結果、マイクロ流路が詰まってしまうという問題もある。
【0042】
このような問題に対して、本発明者らは、シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含む基材同士を、光硬化性樹脂により接着することで、被検物質を試薬と反応させる際の加熱条件下においても液漏れ耐久性が高い検体分析カートリッジを提供できることを見出した。
【0043】
光硬化性樹脂は粘着剤と異なり、基材に含まれる材料が極性基を有するか否かに関わらず高い接着強度を発揮することができるうえ、加熱条件下でも接着力が低下しにくい。また、光硬化性樹脂は粘度を適宜調整することができるため、光硬化性樹脂を適度な粘度に調整することで、インクジェット方式により第1の基材又は第2の基材に光硬化性樹脂を塗布することができるし、光硬化性樹脂は熱硬化性樹脂と比べて硬化速度が速い。したがって、光硬化性樹脂を用いることにより硬化性樹脂層を形成する部分を緻密に制御することができる。これにより、光硬化性樹脂を用いて第1の基材及び第2の基材を接着することにより、マイクロ流路のつまりを発生させることなく、液漏れ耐久性が高い検体分析カートリッジを製造することができる。なお、以上に加えて、光硬化性樹脂は基材に熱を加えずに硬化性樹脂層を形成することができるため、基材上に抗体のようなタンパク質を配置していたとしてもそれらタンパク質の熱変性を生じさせることなく検体分析カートリッジを製造することができる点でも好ましい。
【0044】
光硬化性樹脂層は、第1の基材と第2の基材とが対向する部分の少なくとも一部において存在していればよく、第1の基材と第2の基材のとの接着強度が保たれる限りにおいて、第1の基材と第2の基材とが対向する部分の全面に配されている必要はない。光硬化性樹脂層は、第1の基材のマイクロ流路が形成されている面において、マイクロ流路が形成されていない部分に配されており、マイクロ流路が形成されている部分においては配されていない。
【0045】
光硬化性樹脂層は、第1の基材と第2の基材とを接着する役割を有する。第1の基材と第2の基材との間の180°剥離強度は、好ましくは15N/10mm以上であり、より好ましくは20N/10mm以上であり、さらに好ましくは25N/10mm以上である。180°剥離強度が上記の範囲内にあると、検体分析カートリッジの液漏れ耐久性が一層向上する。第1の基材と第2の基材との間の180°剥離強度の上限値は特に限定されず、例えば、100N/10mm、80N/10mm、60N/10mm、50N/10mm、又は30N/10mmであってよい。180°剥離強度は、具体的には実施例に記載の方法により測定すればよい。例えば後述の光硬化性樹脂組成物を用いて光硬化性樹脂層を形成することにより180°剥離強度を上記の範囲に調整すればよい。
【0046】
光硬化性樹脂層の厚さは特に限定されず、例えば1.0μm以上100μm以下であり、好ましくは1.2μm以上50μm以下であり、より好ましくは1.5μm以上30μm以下であり、さらに好ましくは2.0μm以上20μm以下である。光硬化性樹脂層の厚さが上記の範囲内にあることにより、光硬化性樹脂層がマイクロ流路内に形成されてしまうことをより確実に抑制することができ、マイクロ流路のつまりの発生をより抑制することができる。例えば光硬化性樹脂組成物の粘度、後述の製造方法の貼合工程における押圧の圧力、及び塗布する光硬化性樹脂組成物の量を制御することにより光硬化性樹脂層の厚さを上記の範囲に調整すればよい。
【0047】
光硬化性樹脂層は、光硬化性樹脂を含む層である。本明細書において、光硬化性樹脂層に含まれる光硬化性樹脂は、硬化前の光硬化性樹脂のみならず、硬化後の光硬化性樹脂をも包含する。光硬化性樹脂層は、光硬化性樹脂として、好ましくはアクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂(以下、単に「(メタ)アクリル樹脂」という。)を含む層であり、より好ましくは、(a)重量平均分子量2000以上のアクリルオリゴマー及び/又はメタクリルオリゴマー(以下、単に「(メタ)アクリルオリゴマー」という。)と、(b)アクリルモノマー及び/又は(以下、単に「(メタ)アクリルモノマー」という。)と、(c)光ラジカル重合開始剤と、を含む光硬化性樹脂組成物の硬化物を含む層である。このような光硬化性樹脂組成物は、インクジェット方式で基材に塗布できる程度の粘度であり、さらに接着性が高いため好ましい。
【0048】
(a)重量平均分子量2000以上の(メタ)アクリルオリゴマーは、分子中に1個以上の(メタ)アクリロイル基を有する。(メタ)アクリレートオリゴマーの分子量は、2,000~50,000であるのが好ましく、5,000~40,000であるのがより好ましく、10,000~30,000であることが特に好ましい。本明細書において、高分子について分子量を記載する場合、特に言及する場合を除き、重量平均分子量を意味するものとする。また、重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)によって測定し、標準ポリスチレンの検量線を用いて換算した重量平均分子量である。
【0049】
(a)(メタ)アクリルオリゴマーとしては、特に限定されないが、例えば、ポリウレタンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリイソプレンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー、及びポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。(メタ)アクリレートオリゴマーは、1種類又は2種類以上を使用できる。
【0050】
ポリウレタンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、脂肪族系(但し、後述のゴム系及び水添ゴム系を除く)、ポリブタジエン及びポリイソプレンからなる群より選択される1種以上等であるゴム系、水添ポリブタジエン及び水添ポリイソプレンからなる群より選択される1種以上等である水添ゴム系、ポリエーテル系、ポリカーボネート系、ポリエステル系又はこれらの組合せのウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーが挙げられる。
【0051】
ポリウレタンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーの市販品としては、UV-3700B(日本合成製:分子量38,000)、UA10000B(ケーエスエム社製:分子量25,000)、UN7700(根上工業株式会社製:分子量20,000)、UN-9200A(根上工業株式会社製:分子量15,000)、UN-9000H(根上工業株式会社製:分子量5,000)、EB230(ダイセルサイテック株式会社製:分子量5,000)等が挙げられる。
【0052】
ポリイソプレンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーは、水素添加物であってもよい。ポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリイソプレンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーは、市販品を用いることができる。例えば、ポリイソプレンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーの市販品としては、UC-1(クラレ社製:分子量25,000)、UC-203(クラレ社製:分子量35,000)等が挙げられる。本明細書において、ポリイソプレンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマー及びポリブタジエンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーは、ウレタン結合を有さないものとする。
【0053】
(a)(メタ)アクリレートオリゴマーは、ポリウレタンを骨格にもつ(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましく、ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、脂肪族系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ゴム系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー及び水添ゴム系ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマーからなる群より選択される1種以上がより好ましい。
【0054】
(b)(メタ)アクリルモノマーは、分子中に1つ以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーであれば特に限定されないが、単官能(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。(b)(メタ)アクリルモノマーは、1種類又は2種類以上を使用できる。
【0055】
単官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子中に1個の(メタ)アクリロイル基を有する(メタ)アクリレート化合物であれば特に限定されず、アルキル(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート、脂環式(メタ)アクリレート、芳香族(メタ)アクリレート及び複素環(メタ)アクリレートが挙げられる。
【0056】
アルキル(メタ)アクリレートとしては、特に限定されず、n-ブチル(メタ)アクリレート、i-ブチル(メタ)アクリレート、t-ブチル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、及びイソステアリル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0057】
光硬化性樹脂層に柔軟性を付与し、硬化前の光硬化性樹脂組成物の粘度をより効率的に下げられ、組成物の臭気を低減できる観点から、アルキル(メタ)アクリレートとしては、C6~C30のアルキル(メタ)アクリレートが好ましい。C6~C30のアルキルは直鎖又は分岐状であり、接着力がより優れる観点から、分岐状が好ましい。C6~C30のアルキルの炭素数は6~20が好ましく、8~16がより好ましい。
【0058】
水酸基含有(メタ)アクリレートとしては、特に限定されず、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等のヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレート;及び、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシプロピルフタレート、2-ヒドロキシ-3-(メタ)アクリロイルオキシプロピル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート等のヒドロキシ置換アルキル(メタ)アクリレート以外の水酸基含有(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0059】
脂環式(メタ)アクリレートとしては、特に限定されず、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、ノルボルネン(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0060】
芳香族(メタ)アクリレートとしては、特に限定されず、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシベンジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0061】
複素環(メタ)アクリレートとしては、特に限定されず、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、(2-メチル-2-エチル-1,3-ジオキソラン-4-イル)メチル(メタ)アクリレート、(3-エチルオキセタン-3-イル)メチル(メタ)アクリレート、ペンタメチルピペリジル(メタ)アクリレート、テトラメチルピペリジル(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0062】
(b)(メタ)アクリルモノマーとしては、第1及び第2の基材と光硬化性樹脂層との接着力がより優れるという観点から、脂環式(メタ)アクリレート、水酸基含有(メタ)アクリレート及び複素環(メタ)アクリレートを含むことが好ましい。
【0063】
(c)光ラジカル重合開始剤は、光硬化性樹脂組成物の硬化を促進するものである。(c)光ラジカル重合開始剤は、1種類又は2種類以上を使用できる。
【0064】
(c)光ラジカル重合開始剤は、光の照射によりラジカルを発生する化合物であれば特に限定されない。光ラジカル重合開始剤としては、ベンゾフェノン、ジアセチル、ベンジル、ベンゾイン、ω-ブロモアセトフェノン、クロロアセトン、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、メチルベンゾイルホルメート、2,2-ジエトキシアセトフェノン及び4-N,N’-ジメチルアセトフェノン類等のカルボニル基系光重合開始剤;ジフェニルジスルフィド及びジベンジルジスルフィド等のスルフィド系光重合開始剤;ベンゾキノン及びアントラキノン等のキノン系光重合開始剤;アゾビスイソブチロニトリル及び2,2’-アゾビスプロパン等のアゾ系光重合開始剤等の紫外光開始剤;並びに、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチル-ベンジル)-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニルフォスフィンオキサイド等の可視光開始剤が挙げられる。
【0065】
(c)光ラジカル重合開始剤としては、硬化の速さが高まり、光硬化後の着色が低減される観点から、カルボニル基系光重合開始剤が好ましい。
【0066】
(その他の構成)
本実施形態の検体分析カートリッジは、第1の基材、第2の基材及び光硬化性樹脂層以外のその他の構成を含んでいてよい。そのような構成としては、第3の基材、試薬や洗浄液等の液体及び磁性粒子が挙げられる。
【0067】
本実施形態の検体分析カートリッジは、第3の基材を備えていてよい。第3の基材は、例えば第1の基材の、第2の基材が対向して配されていない部分に配され、光硬化性樹脂層により接着されていてよい。第3の基材は、第1の基材の開栓機構が形成されている部分に光硬化性樹脂層を介して接着されていてよい。この態様において、第3の基材は、可撓性が高い観点から、ウレタン製フィルムであってよい。
【0068】
本実施形態の検体分析カートリッジは、試薬や洗浄液等の液体が充填されていてよい。当該液体は、使用前の検体分析カートリッジにおいて第1の基材及び第2の基材により囲まれた密閉空間に充填されていてよい。この場合、検体分析カートリッジの使用の際には、第1の基材に形成された開栓機構を押圧することで、当該液体をマイクロ流路やチャンバに導入してよい。
【0069】
本実施形態の検体分析カートリッジは、磁性粒子を備えていてよい。磁性粒子は第1の基材に形成されたチャンバ内に配されていてよい。磁性粒子は、検体の分析において、検体の被検物質をあるチャンバから別のチャンバに移動させる機能を有していてよい。例えば磁性粒子は、表面に被検物質と結合する物質が固定されていてよく、当該物質は抗原又は抗体であってよい。
【0070】
以下、本実施形態の検体分析カートリッジについて詳述する。
【0071】
(第1実施形態)
図1は、第1実施形態の検体分析カートリッジAの概略断面図である。図1に示すように検体分析カートリッジAは、片面にマイクロ流路4が形成された第1の基材1と、第1の基材のマイクロ流路が形成された面に対向して配されている第2の基材2と、第1の基材1と第2の基材2とを接着する光硬化性樹脂層3とを備える。光硬化性樹脂層は、第1の基材1の片面において、マイクロ流路4が形成されていない部分のみに形成されている。マイクロ流路4は、第1の基材1に形成され、第2の基材2に被覆されることで流路として機能している。
【0072】
(第2実施形態)
図2は、第2実施形態の検体分析カートリッジBの概略断面図である。図2に示すように検体分析カートリッジBは、両面にマイクロ流路4が形成された第1の基材1と、第1の基材の両面に対向して配されている2つの第2の基材2と、第1の基材1と第2の基材2とを接着する2つの光硬化性樹脂層3とを備える。光硬化性樹脂層は、第1の基材1の片面において、マイクロ流路4が形成されていない部分のみに形成されている。マイクロ流路4は、第1の基材1に形成され、第2の基材2に被覆されることで流路として機能している。
【0073】
(第3実施形態)
図3は、第3実施形態の検体分析カートリッジ100の概略平面図である。検体分析カートリッジ100は、平板形状である。検体分析カートリッジ100は、回転軸321を中心に回転される。具体的には、検体分析カートリッジ100は、板状かつ円盤形状の基材により構成されたディスク型のカートリッジである。検体分析カートリッジ100は、抗原抗体反応を利用して検体中の被検物質を検出するための処理を実行可能な検体処理カートリッジとして構成されている。
【0074】
検体分析カートリッジ100は、被検物質を含む検体を受け入れ、検体分析カートリッジ100の内部で検体の処理が行われることにより、測定試料90を調製することが可能に構成されている。すなわち、図3に示す検体分析カートリッジ100は、1つの検出チャンバ10と、検出チャンバ10に被検物質を移送するためのマイクロ流路40と、を含む複数の処理領域60を備えている。図3の例では、検体分析カートリッジ100が3つの処理領域60を備える。3つの処理領域60の各々は、1つの検出チャンバ10とマイクロ流路40とを含んでいる。なお、3つの処理領域60の各々が有する空間は、互いに流体的に隔離されている。測定試料90を蛍光分析法や化学発光分析法により分析することで検体中の被検物質を定量することができる。以下では、測定試料90を化学発光分析法により分析する例について詳述するが、分析方法はこれに限られない。
【0075】
複数の処理領域60は、検体分析カートリッジ100を面内において概ね等分割するように設けられている。図3の例では、3つの処理領域60が、円盤形状の検体分析カートリッジ100を周方向に3等分するように設けられている。個々の処理領域60は、検体分析カートリッジ100の中心から約120度の範囲で扇状に拡がる領域として形成されている。
【0076】
図4は、検体分析カートリッジ100の概略断面図である。図4(A)に示すように、検体分析カートリッジ100は一部分において、第1の基材51の片面又は両面にマイクロ流路40が形成されている。第1の基材51の両面には光硬化性樹脂層を介して第2の基材52が接着されている。また、図4(B)に示すように、検体分析カートリッジ100は一部分において、第1の基材51を貫通する貫通孔が形成されている。貫通孔は、第1の基材51の両面に配された第2の基材52に上下の開口端が封止され、チャンバを構成している。図4(B)において、チャンバは検出チャンバ10である。
【0077】
処理領域60の具体的な構成について説明する。図3の構成例では、3つの処理領域60が、互いに同一の構造を有する。そのため、1つの処理領域60について説明し、残りの処理領域60については説明を省略する。
【0078】
処理領域60は、分離部31及び回収部32と、5つの処理チャンバ61~65と、1つの検出チャンバ10と、マイクロ流路40と、6つの液体収容部66と、1つの液体収容部67と、導入口30と、を含む。導入口30から検体が注入される。検体は、例えば被検者から採取された全血の血液検体である。
【0079】
マイクロ流路40は、導入口30と、各処理チャンバ61~65と、液体収容部66及び67と、検出チャンバ10とを流体的に接続している。各処理領域60のマイクロ流路40は、他の処理領域60のマイクロ流路40とは流体的に接続されていない。マイクロ流路40は、処理領域60内の各部を流体的に接続する複数のマイクロ流路41~45を含む。
【0080】
処理チャンバ61~65は、マイクロ流路40を介して検出チャンバ10に流体的に接続されている。いずれかの処理領域60の処理チャンバ61~65は、他の処理領域60の処理チャンバ61~65とは流体的に接続されていない。
分離部31、回収部32、処理チャンバ61~65は、それぞれ、液体を収容可能な空間部である。分離部31、回収部32、処理チャンバ61~65は、それぞれ、壁部54によって区画されている。分離部31、回収部32、処理チャンバ61~65及び検出チャンバ10は、検体分析カートリッジ100の外周付近において周方向に並んでいる。
【0081】
分離部31は、マイクロ流路41を介して、導入口30に接続している。導入口30から注入された検体は、検体分析カートリッジ100の回転により発生する遠心力によって、マイクロ流路41を介して分離部31に移送される。
【0082】
回収部32は、分離部31よりも径方向外側に配置されており、マイクロ流路42を介して分離部31に接続している。マイクロ流路41から分離部31に流入する検体は、遠心力によって、径方向外側から順に溜まっていく。分離部31内に溜まった検体がマイクロ流路42に到達すると、それ以上の量の検体が、遠心力の作用によって回収部32に移動される。これにより、分離部31内に貯留される検体が一定量に定量される。
【0083】
処理領域60で行われる検体処理は、検体に含まれる液体成分と固体成分とを分離する処理を含む。分離部31内の検体は、検体分析カートリッジ100の回転により発生する遠心力によって、液体成分である血漿と、固体成分である血球その他の非液体成分に遠心分離される。分離部31で分離された血漿は、毛細管現象により、マイクロ流路43に移動する。マイクロ流路43は、処理チャンバ61の直前の接続部で絞られており、血漿は、処理チャンバ61の直前までマイクロ流路43内を満たす。
【0084】
マイクロ流路43は、処理チャンバ61に接続している。血漿がマイクロ流路43内を満たした状態で、検体分析カートリッジ100の回転により遠心力が加えられると、マイクロ流路43内の血漿が処理チャンバ61に移送される。マイクロ流路43の容積によって、処理チャンバ61に移送すべき所定量の血漿が定量される。
【0085】
マイクロ流路43は、処理チャンバ61に接続している。血漿がマイクロ流路43内を満たした状態で、検体分析カートリッジ100の回転により遠心力が加えられると、マイクロ流路43内の血漿が処理チャンバ61に移送される。マイクロ流路43の容積によって、処理チャンバ61に移送すべき所定量の血漿が定量される。
【0086】
図3の構成例では、処理チャンバ61~65及び検出チャンバ10が、互いに隣り合うように周方向に並んで配列されており、周方向に延びるマイクロ流路45を介して接続されている。これら処理チャンバ61~65及び検出チャンバ10の間では、一方側(処理チャンバ61側)から他方側(検出チャンバ10側)に向けて、被検物質がマイクロ流路45を介して1つずつ順番に移送されていく。また、処理チャンバ61~65及び検出チャンバ10の各々には、対応する液体収容部66に収容された試薬がマイクロ流路44を介して個別に移送される。
【0087】
処理チャンバ61には、マイクロ流路43を介して、被検物質を含む液体が移送される。処理チャンバ61には、磁性粒子MPが封入されている。処理チャンバ61において、検体に含まれる被検物質は、磁性粒子MPに結合する。そのため、処理チャンバ61以降は、検体分析カートリッジ100の回転と磁力の作用との組み合わせにより、磁性粒子MPと結合した被検物質がマイクロ流路40を介して他の処理チャンバへ移送される。
【0088】
マイクロ流路45は、径方向に延びた6つの径方向領域45aと、周方向に延びた円弧状の周方向領域45bと、を含む。周方向領域45bは、6つの径方向領域45aと繋がっている。6つの径方向領域45aのうち5つは、対応する5つの処理チャンバ61~65にそれぞれ繋がり、残りの1つの径方向領域45aが1つの検出チャンバ10に繋がっている。6つの液体収容部66は、それぞれ径方向のマイクロ流路44を介してマイクロ流路45に繋がっている。6つの液体収容部66は、それぞれ対応する処理チャンバ61~65及び検出チャンバ10と径方向に並んで配置されている。また、液体収容部67は、主として径方向に延びるマイクロ流路を介して、検出チャンバ10と液体収容部66との間を繋ぐマイクロ流路44に繋がっている。合計7つの液体収容部66、67が検体分析カートリッジ100の内周側に配置され、処理チャンバ61~65及び検出チャンバ10が検体分析カートリッジ100の外周側に配置されている。
【0089】
液体収容部66、液体収容部67は、いずれも、試薬を収容するとともに、径方向の両端部の上面に1つずつ開栓機構68を備える。開栓機構68は、検出装置300の開栓部によって上から押圧されることにより開栓可能に構成される。開栓機構68が開栓される前は、液体収容部66内の試薬はマイクロ流路44に流れず、開栓機構68が開栓されると、液体収容部66内の試薬がマイクロ流路44に流れ出るようになる。試薬は、検体分析カートリッジ100が回転されると、遠心力により対応する処理チャンバ61~65及び検出チャンバ10に移動する。
【0090】
なお、各液体収容部66及び液体収容部67は、いずれも、1回分の測定が可能な試薬を予め収容している。つまり、検体分析カートリッジ100は、被検物質に対する1回分の測定が可能な試薬を収容した液体収容部66、67を備えている。
【0091】
検体分析カートリッジ100の上述の構成は例示であり、適宜変更してよい。例えば処理領域の数、及び配置、並びに各チャンバや流路の数、大きさ、及び配置等は適宜変更してよい。また、マイクロ流路及びチャンバは第1の基材51の片面のみに形成されていてもよく、両面に形成されていてもよい。開栓機構68を有する場合は、マイクロ流路及びチャンバは第1の基材51の両面に形成されていることが好ましい。
【0092】
(用途)
本実施形態の検体分析カートリッジは、検体中の被検物質を検出、分析及び/又は定量するために用いられる。検体分析カートリッジに検体が導入され、検体分析カートリッジ内のマイクロ流路やチャンバ内で種々の化学処理がなされ、検体分析カートリッジ内で蛍光分析や化学発光分析が行われてよい。
【0093】
以下では、第3実施形態の検体分析カートリッジ100を用いた分析方法について説明するが、第1実施形態及び第2実施形態においても、同様又は類似の方法により検体を分析することができる。
【0094】
図5は、本実施形態の検体分析カートリッジを用いて検体を分析するための検出装置の一例を示す概略斜視図である。
【0095】
検出装置300は、ディスク型の検体分析カートリッジ100を用いて測定を行う。検出装置300は、後述の分析方法を実行して光検出を行う装置である。例えば、検出装置300は、検体分析カートリッジ100を用いて、抗原抗体反応を利用して検体中の被検物質を検出し、検出結果に基づいて被検物質を測定する免疫測定装置である。
【0096】
図5の構成例では、検出装置300は、光検出器を収容した筐体310を備える。筐体310は、所定容積の内部空間を有する箱状部材や、フレームと外装板との組み合わせなどにより構成される。PoC検査用の検出装置300の筐体310としては、卓上設置が可能な小型の箱状形状を有する。
【0097】
筐体310は、基台部311と蓋部312とを備える。蓋部312は、基台部311の上面部の略全面を覆うように設けられている。基台部311の上面部には、検体分析カートリッジ100が配置される配置部313が設けられている。蓋部312は、基台部311に対して回動し、図4(A)に示す配置部313を開放した状態と、図4(B)に示す配置部313を覆う状態とに開閉可能である。筐体310は、検体分析カートリッジ100が配置された配置部313を蓋部312が覆う状態で、検体分析カートリッジ100を外部から遮光するように構成された暗箱として機能する。蓋部312の上面には操作部364が設けられている。操作部364により、検出装置300に所定の処理を実行させて、検体分析カートリッジ100を用いた免疫測定を実施することができる。
【0098】
配置部313は、蓋部312によって開閉可能に覆われる基台部311の上面部分を構成する。配置部313には、検体分析カートリッジ100を下方から支持する支持部材314が配置されている。支持部材314は、例えば、ターンテーブルにより構成される。支持部材314は、検体分析カートリッジ100を、予め決められた相対回転角度となる状態で支持するように構成されている。
【0099】
検出装置300は、検体分析カートリッジ100を回転させたり、支持部材314の裏面(すなわち、基台部311の内部)に配置された磁石を操作したり、測定試料90から発生する光を検出したりすることで、検体分析カートリッジ100に導入された検体を分析する。以下、具体的な測定処理について説明する。
【0100】
測定処理は、液体の移送を含む。検体分析カートリッジ100を用いた分析においては、液体の移送は、例えば図3に示す回転軸321を中心に検体分析カートリッジ100を回転させて液体に遠心力を作用させることにより行われる。そのため、検体分析カートリッジ100は、中心において検体分析カートリッジ100を貫通する孔55を有する。検体分析カートリッジ100は、孔55の中心が、回転軸321の中心に一致するように検出装置300に設置される。なお、孔55に代えて、検体分析カートリッジ100に回転軸が設けられてもよい。その場合、検出装置300によって、検体分析カートリッジ100の回転軸が軸受け支持される。
【0101】
測定処理は、被検物質が結合した磁性粒子MPを、いずれかの処理チャンバから、別の処理チャンバ又は検出チャンバ10へ移送する処理を含む。例えば、磁性粒子MPが、処理チャンバ61の内部と周方向領域45bとの間で、磁力により径方向に移動される。検体分析カートリッジ100が回転されることで、磁性粒子MPが円弧状の周方向領域45b内を周方向に移動する。磁力の作用による径方向移動と、回転による周方向移動との組み合わせによって、被検物質を担持した磁性粒子MPが処理チャンバ61~65及び検出チャンバ10に順次移動する。
【0102】
測定処理は、検体分析カートリッジ100の回転により、処理チャンバ61~65及び検出チャンバ10の少なくともいずれかの内部で被検物質と試薬とを攪拌する処理を含む。すなわち、検体分析カートリッジ100の回転速度が変更され、加速と減速とが交互に繰り返される。加減速により、液体がチャンバ内で周方向に前後するように移動され、試薬中に複合体が分散する。
【0103】
検体分析カートリッジ100では、処理チャンバ61において磁性粒子MPに被検物質を担持させた後、それぞれの処理チャンバ62、63、64、及び65で被検物質が試薬と混合される。処理チャンバ61~65における処理は、被検物質を検出するためのアッセイに応じて設定される。例えば、試薬による処理は、被検物質と標識物質とを結合させる処理である。最終的に、被検物質と標識物質とを担持した磁性粒子MPが検出チャンバ10に移動される。
【0104】
検体分析カートリッジ100を用いた分析においては、複数の検出チャンバ10は、回転軸321を中心として検体分析カートリッジ100の外周側の位置に配置されている。これにより、検体分析カートリッジ100を回転する際の遠心力を利用して検出チャンバ10への送液を行うことができる。例えば検体分析カートリッジ100の回転によって検出チャンバ10の各々へ送液される液体は、発光基質である。すなわち、検体分析カートリッジ100は、複数の検出チャンバ10の各々に対して流体的に接続された複数の液体収容部67を備え、液体収容部67には、測定試料90から光を生じさせるための発光基質が充填されている。このため、各々の検出チャンバ10には、対応する各々の液体収容部67から、発光基質が送液される。発光基質が送液される結果、検出チャンバ10内で、化学発光する測定試料90が調製される。
【0105】
なお、発光基質は、検体分析カートリッジ100の製造時に液体収容部67に予め配置される。発光基質は、空の状態の液体収容部67に対して、検体分析カートリッジ100の使用時にユーザによって注入されてもよい。
【0106】
測定処理は、検出チャンバ10において調製された測定試料90から生じる光を検出することを含む。当該検出は、検出装置300に備えられた光検出器によって行われる。
【0107】
なお、図3の例では、検体分析カートリッジ100の3分の1の領域に3つの処理領域60が形成されている。しかしながら、これに限らず、処理領域60が2つ以下又は4つ以上形成されてもよい。また、処理チャンバ及びマイクロ流路の数及び形状は、図3に示したものに限られない。処理領域60の各部の構成は、処理領域60において実行される検体処理アッセイの内容に応じて決定されるものである。
【0108】
検体分析カートリッジ100には、試薬が1回の使い切りで収容される。この場合、収容された試薬を用いたコントロール物質の測定によって検体分析カートリッジ100の精度管理を行うことが困難である。コントロール物質の測定に代えて精度管理を行うために、検体分析カートリッジ100内で処理が適切に行われたことを外部から視覚的に確認してもよい。視覚的に確認とは、ユーザが検体分析カートリッジ100を視認する場合のほか、撮像部により検体分析カートリッジ100の画像を撮像して確認することを含む。
【0109】
なお、上記実施形態において、化学発光とは、化学反応によるエネルギーを利用して発せられる光であり、例えば、化学反応により分子が励起されて励起状態になり、そこから基底状態に戻る時に放出される光である。化学発光は、例えば、酵素と基質との反応により生じさせたり、電気化学的刺激を標識物質に与えることにより生じさせたり、LOCI法(Luminescent Oxygen Channeling Immunoassay)に基づいて生じさせたり、生物発光に基づいて生じさせたりすることができる。本実施形態では、いずれの化学発光が行われてもよい。所定波長の光が照射されると蛍光が励起される物質と被検物質とが結合して複合体が構成されてもよい。この場合、検出チャンバ10に光を照射するための光源が基台部311の内部に配置される。光検出器は、光源からの光によって複合体に結合した物質から励起された蛍光を検出する。
【0110】
なお、磁性粒子MPとしては、磁性を有する材料を基材として含み、通常の免疫測定に用いられる粒子であればよい。例えば、基材としてFe23及び/又はFe34、コバルト、ニッケル、フィライト、マグネタイトなどを用いた磁性粒子が利用できる。磁性粒子は、被検物質と結合するための結合物質がコーティングされていてもよいし、磁性粒子と被検物質とを結合させるための捕捉物質を介して被検物質と結合してもよい。捕捉物質は、磁性粒子及び被検物質と相互に結合する抗原又は抗体などである。
【0111】
また、捕捉物質は、被検物質と特異的に結合すれば特に限定されない。例えば、捕捉物質は、被検物質と抗原抗体反応により結合する。より具体的には、捕捉物質は、例えば抗体である。あるいは、被検物質が抗体である場合、捕捉物質はその抗体の抗原であってもよい。また、被検物質が核酸である場合、捕捉物質は、被検物質と相補的な核酸であってもよい。標識物質に含まれる標識としては、例えば、酵素、蛍光物質等が挙げられる。酵素としては、アルカリホスファターゼ(ALP)、ペルオキシダーゼ、グルコースオキシダーゼ、チロシナーゼ、酸性ホスファターゼ等が挙げられる。化学発光として、電気化学発光をする場合、標識としては、電気化学的刺激により発光する物質であれば特に限定されないが、例えばルテニウム錯体が挙げられる。蛍光物質としては、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)、グリーン蛍光タンパク質(GFP)、ルシフェリンなどが利用できる。
【0112】
また、標識が酵素である場合、酵素に対する発光基質は、用いる酵素に応じて適宜公知の発光基質を選択すればよい。例えば、酵素としてアルカリホスファターゼを用いる場合の発光基質としては、CDP-Star(登録商標)、(4-クロロ-3-(メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2'-(5'-クロロ)トリクシロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)、CSPD(登録商標)(3-(4-メトキシスピロ[1,2-ジオキセタン-3,2-(5'-クロロ)トリシクロ[3.3.1.13,7]デカン]-4-イル)フェニルリン酸2ナトリウム)などの化学発光基質;p-ニトロフェニルホスフェート、5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、4-ニトロブルーテトラゾリウムクロリド(NBT)、ヨードニトロテトラゾリウム(INT)などの発光基質;4-メチルウムベリフェニル・ホスフェート(4MUP)などの蛍光基質;5-ブロモ-4-クロロ-3-インドリルリン酸(BCIP)、5-ブロモ-6-クロロ-インドリルリン酸2ナトリウム、p-ニトロフェニルリン等の発色基質などが利用できる。
【0113】
[検体分析カートリッジの製造方法]
本実施形態の検体分析カートリッジは、第1の基材と第2の基材とを光硬化性樹脂組成物を介して接触させた後、光硬化性樹脂組成物に光照射をして硬化させることにより製造することができる。本実施形態の検体分析カートリッジの製造方法について以下詳述するが、本実施形態の検体分析カートリッジは、以下の製造方法以外の方法で製造してもよい。
【0114】
本実施形態の製造方法は、第1の基材に光硬化性樹脂組成物をインクジェット方式で塗布する工程と、第1の基材の光硬化性樹脂組成物を塗付した面に第2の基材を貼り合わせる工程と、光硬化性樹脂組成物に光を照射して光硬化性樹脂層を形成する工程と、を含む。以下、上記の工程のそれぞれを、塗布工程、貼合工程及び硬化工程という。
図6は、本実施形態の検体分析カートリッジの製造方法の一例を示す図である。以下、本実施形態の製造方法の各工程を、図6を参照しながら説明する。
【0115】
(塗布工程)
塗布工程は、第1の基材に光硬化性樹脂組成物をインクジェット方式で塗布する工程である。図6(S1)に示すように、塗布工程は、第1の基材1の少なくともマイクロ流路4が形成された面に、光硬化性樹脂組成物塗布装置400を用いてインクジェット方式で光硬化性樹脂組成物420を塗布する工程であってよい。光硬化性樹脂組成物塗布装置400は、制御装置410により制御され、第1の基材1の所定の部分のみに光硬化性樹脂組成物420を塗布する。
【0116】
制御装置410は、事前に設計されたビットマップ形式の塗布デザインを読み込み、かかる塗布デザインに基づいて光硬化性樹脂組成物420を塗布するように光硬化性樹脂組成物塗布装置400を制御する。なお、塗布デザインは、第1の基材と第2の基材とを貼り合わせるときに光硬化性樹脂組成物が押圧され広がることも考慮して設計される。より具体的には、第1の基材におけるマイクロ流路、チャンバ、及び貫通孔のような凹部が形成された部分から所定の距離の領域には光硬化性樹脂組成物が塗布されないような設計としてよい。上記所定の距離は、例えば50μm以上1mm以下であってよく、100μm以上900μm以下であってよく、300μm以上800μm以下であってよい。かかる距離は、例えば光硬化性樹脂組成物の粘度、後述の貼合工程における押圧の圧力、及び光硬化性樹脂層の所望する厚さに応じて適宜調整すればよい。
【0117】
光硬化性樹脂組成物塗布装置400は、制御装置410の制御に従い、第1の基材1に光硬化性樹脂組成物420を塗布する。光硬化性樹脂組成物塗布装置としては、インクジェット方式で光硬化性樹脂組成物を塗布するものであれば特に限定されないが、好ましくはピエゾ素子を使用したメカニカル方式のインクジェット塗布装置である。インクジェットの方式としては、メカニカル方式、サーマル方式、及びヘルツ方式等が知られているが、その中でもピエゾ素子を用いたメカニカル方式は、吐出する液滴の量や位置を精密に制御することができる。したがって、ピエゾ素子を用いたメカニカル方式のインクジェット塗布装置を用いることにより、マイクロ流路、チャンバ、及び貫通孔のような凹部が形成された部分とその外延部とからなる領域に光硬化性樹脂組成物を塗布しないように塗布部分を精密に制御することができる。また、ピエゾ素子を用いたメカニカル方式では、サーマル方式のように塗布する組成物を加熱しなくてもよいため、幅広い光硬化性樹脂組成物を塗布することができる点でも好ましい。
【0118】
光硬化性樹脂組成物は、重合性化合物と光重合開始剤とを含む組成物である。光硬化性樹脂組成物は、重合性化合物として好ましくは(メタ)アクリル樹脂を含み、光重合開始剤として、好ましくは光ラジカル重合開始剤を含む。光硬化性樹脂組成物は、より好ましくは(a)重量平均分子量2000以上の(メタ)アクリルオリゴマーと、(b)(メタ)アクリルモノマーと、(c)光ラジカル重合開始剤と、を含む。(a)(メタ)アクリルオリゴマー、(b)(メタ)アクリルモノマー、及び(c)光ラジカル重合開始剤の例示及び好ましい態様は、上述のとおりである。
【0119】
インクジェット方式による塗布を好適に行う観点から、光硬化性樹脂組成物の粘度は、1.0mPa・s以上50mPa・s未満であることが好ましい。光硬化性樹脂組成物の粘度は、上記範囲において、より好ましくは5mPa・s以上であり、さらに好ましくは15mPa・s以上であり、さらにより好ましくは20mPa・s以上であり、特に好ましくは25mPa・s以上である。光硬化性樹脂組成物の粘度が1.0mPa・s以上であると、塗布した光硬化性樹脂組成物が硬化前に第1の基材上の設計した部分以外の部分に広がることが抑制され、光硬化性樹脂層が形成される場所をより好適に制御することができる。
【0120】
光硬化性樹脂組成物の粘度は、上記範囲において、より好ましくは48mPa・s以下であり、さらに好ましくは46mPa・s以下であり、さらにより好ましくは45mPa・s以下である。光硬化性樹脂組成物の粘度が50mPa・s未満であると、ピエゾ素子を用いたメカニカル方式のインクジェット塗布装置により塗布することが容易となる。光硬化性樹脂組成物の粘度は、上記範囲において、上記の上限値及び下限値を任意に組み合わせて得られる範囲内としてもよい。
【0121】
(貼合工程)
貼合工程は、第1の基材の光硬化性樹脂組成物を塗付した面に第2の基材を貼り合わせる工程である。図6の(S2)及び(S3)に示すように、貼合工程は、第1の基材1の光硬化性樹脂組成物を塗付した面に第2の基材2を位置合わせして仮貼合した後に、第2の基材2及び/又は第1の基材1の表面をローラ500により押圧することで、第2の基材2を第1の基材1に圧着する工程であってよい。ローラ500による押圧の圧力は特に限定されず、例えば0.10MPa以上10MPa以下であってよい。
本工程において、第2の基材2を第1の基材1よりもわずかに大きいサイズとしておくと、貼り合わせる際の位置合わせが容易となる。
【0122】
(硬化工程)
硬化工程は、光硬化性樹脂組成物に光を照射して光硬化性樹脂層を形成する工程である。図6の(S3)に示すように、硬化工程は、貼合工程により得られた積層体に、光照射装置600を用いて光を照射して光硬化性樹脂組成物を硬化させる工程であってよい。光照射装置600が照射する光の波長や強度は、塗布工程で塗布した光硬化性樹脂組成物の特性に応じて適宜選択すればよい。一態様において、光照射装置600は、紫外線照射装置であり、具体的にはメタルハライドランプである。積算光量は例えば1,000mJ/cm2以上6,000mJ/cm2以下であってよい。
【0123】
(その他の工程)
本実施形態の製造方法は、塗布工程、貼合工程及び硬化工程以外の、その他の工程を含んでいてよい。本実施形態の製造方法は、例えば、以下に説明する基材形成工程、基材切断工程、液体注入工程等を含んでいてよい。
【0124】
基材形成工程は、第1の基材及び/又は第2の基材を形成する工程である。第1の基材及び第2の基材は、上述のシクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を適当な方法で成形する工程であってよい。基材形成工程においては、従来公知の樹脂成型方法やMEMS加工を用いることができる。マイクロ流路の加工は、例えばレーザ描画法、ドライエッチング法、ウェットエッチング法等を用いてもよい。
【0125】
切断工程は、図6(S5)に示すように、第2の基材が第1の基材より大きい場合に、第1の基材に貼合されなかった第2の基材の一部分710を切断する工程である。部分710は、貼合工程においてはみ出した第2の基材の一部分ということもできる。切断工程において、部分710は任意の方法で切断すればよく、高精度に切断する観点からはレーザ加工機700を用いることが好ましい。
【0126】
液体注入工程は、検体分析カートリッジの内部に事前に、検体分析で用いる試薬や洗浄液等の液体を注入する工程である。液体注入工程は、例えば第1の基材の片面に第2の基材を接着させ、その後もう一方の面に2つ目の第2の基材を接着させる前に行ってもよい。注入する液体は、検体分析カートリッジの使用目的に応じて適宜選択すればよい。
【0127】
以上、本実施形態の検体分析カートリッジの製造方法の一例について説明したが、上記の各工程は適宜変更してよく、各工程のいずれかを省略してもよく、上記以外の工程を追加してもよい。
例えば、第1の基材の両面に第2の基材を貼り合わせる場合は、塗布工程及び貼合工程を繰り返し2度行ってもよい。あるいは、塗布工程において第1の基材の両面に一度に光硬化性樹脂組成物を塗布し、その後両面に第2の基材を貼り合わせてもよい。
【0128】
第2の基材にマイクロ流路を形成する場合、あるいは形成しない場合であっても、塗布工程において、第2の基材に光硬化性樹脂組成物を塗布してもよい。
【0129】
[付記]
本発明は以下の実施形態を含む。
[1]
少なくとも片面にマイクロ流路が形成された第1の基材と、
前記第1の基材のマイクロ流路が形成されている面に対向して配された第2の基材と、
前記第1の基材及び前記第2の基材を接着する光硬化性樹脂層と、を備え、
前記第1の基材及び前記第2の基材が、シクロオレフィンポリマー及びシクロオレフィンコポリマーの少なくとも1種を含む、
検体分析カートリッジ。
[2]
前記光硬化性樹脂層の厚さが、1.0μm以上100μm以下である、[1]に記載の検体分析カートリッジ。
[3]
前記マイクロ流路の最小流路幅が、200μm以下である、[1]又は[2]に記載の検体分析カートリッジ。
[4]
前記第1の基材と前記第2の基材との間の180°剥離強度が、15N/10mm以上である、[1]~[3]のいずれか1つに記載の検体分析カートリッジ。
[5]
前記光硬化性樹脂層が、アクリル樹脂及び/又はメタクリル樹脂を含む、[1]~[4]のいずれか1つに記載の検体分析カートリッジ。
[6]
前記光硬化性樹脂層が、(a)重量平均分子量2000以上のアクリルオリゴマー及び/又はメタクリルオリゴマーと、(b)アクリルモノマー及び/又はメタクリルモノマーと、(c)光ラジカル重合開始剤と、を含む光硬化性樹脂組成物の硬化物である、[1]~[5]のいずれか1つに記載の検体分析カートリッジ。
[7]
前記(a)アクリルオリゴマー及び/又はメタクリルオリゴマーが、ポリウレタン骨格を有する、[6]に記載の検体分析カートリッジ。
[8]
[1]~[7]のいずれか1つに記載の検体分析カートリッジの製造方法であって、
前記製造方法は、
前記第1の基材に光硬化性樹脂組成物をインクジェット方式で塗布する工程と、
前記第1の基材の前記光硬化性樹脂組成物を塗付した面に前記第2の基材を貼り合わせる工程と、
前記光硬化性樹脂組成物に光を照射して前記光硬化性樹脂層を形成する工程と、を含む、製造方法。
[9]
前記光硬化性樹脂組成物の粘度が、1.0mPa・s以上50mPa・s未満である、[8]に記載の製造方法。
【実施例0130】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0131】
[粘度の測定]
本実施例で用いた光硬化性樹脂組成物の粘度は、以下のようにして測定した。
(測定方法)
粘度計(RE105U:東機産業(株)製)を用い、大気圧下、25℃で、適切なコーンプレートと回転速度を選定して粘度を測定した。
【0132】
[実施例1]
以下の材料等を用いて検体分析カートリッジを作製した。
シクロオレフィンポリマー : 日本ゼオン社製、ZEONOR 1060R
光硬化性樹脂組成物 : 協立化学産業社製、KY-L3(含有成分:重量平均分子量10,000以上30,000以下のポリウレタン骨格を有する(メタ)アクリルオリゴマー、(メタ)アクリルモノマー、光ラジカル重合開始剤(開裂型))
【0133】
まず、シクロオレフィンポリマーを射出成型することで直径120mm、厚さ1.2mmの円盤状の基材(第1の基材)を形成した。基材の片面には、最小幅100μm、最小深さ100μm、最大幅9.0mm、及び最大深さ1.2mmマイクロ流路が形成された。なお、深さが1.2mmのマイクロ流路は、貫通孔に相当する。
また、同様に、シクロオレフィンポリマーを射出成型して、直径130mm、厚さ0.1mmの円盤状のフィルムシート(第2の基材)を形成した。
【0134】
次に、上記で得られた基材のマイクロ流路が形成されている面に、上記の光硬化性樹脂組成物を塗布した。塗布にはピエゾ素子を使用したメカニカル方式のインクジェット塗布装置を用いた。事前にビットマップ形式で塗布パターンを作成し、樹脂塗布装置に読み込ませることにより、基材のマイクロ流路が形成されていない部分のみに光硬化性樹脂組成物を塗布した。光硬化性樹脂組成物の塗布パターンは、基板をフィルムシートと貼り合わせる際に樹脂組成物が広がることを考慮して、基板に形成されたマイクロ流路、チャンバ、及び貫通孔のような凹部から600μmの部分の領域以外の部分に樹脂組成物を塗布する設計とした。
【0135】
次いで、基材の光硬化性樹脂組成物を塗布した面に、フィルムシートを貼付した。ローラ治具を備えた圧着装置を用いて、一方の端側部からローラ治具を円弧回転させながら圧着することで基材及びフィルムシートを貼り合わせた。この際の貼り付け圧力は1.5MPaの一定圧となるように制御した。
【0136】
基材とシートを圧着後、シート表面側から紫外線を照射し光硬化性樹脂組成物を硬化させることで光硬化性樹脂層を得た。紫外線照射はメタルハライドランプを用い、照射光量100mW、照射時間30秒、積算光量3,000mJ/cm2の条件とした。得られた積層体を切断し、断面を光学顕微鏡により観察したところ、光硬化性樹脂層は10μm以下の均一な厚さを有する層であった。
【0137】
続いて、基材のフィルムシートが貼付されていない面の貫通孔から、マイクロ流路に適当な試薬類を導入した後、この面にも上記と同様の方法を用いてフィルムシートを貼付した。ただし、かかる面には試薬分注口、検体導入口、及び試薬の流動を制御するための開栓機構が設けられているため、それらの部分は被覆しないようにフィルムシートをプレカットした。
【0138】
その後、開栓機構及び試薬分注口には、片側に粘着性接着剤を塗布したポリウレタンシートを貼り合わせた。基材の両面に貼り合わせたフィルムシートの余剰部位を炭酸ガス光源のレーザ加工機により切断、除去することにより、実施例1の検体分析カートリッジを得た。以上の方法により、検体分析カートリッジを2つ作製した。
【0139】
[実施例2~4]
光硬化性樹脂組成物の組成を微調整したこと以外は、実施例1と同様にして、実施例2~4の検体分析カートリッジを作製した。
【0140】
[参考例1~2]
光硬化性樹脂組成物の組成を微調整したこと以外は、実施例1と同様にして、参考例1~2の検体分析カートリッジを作製した。
【0141】
[比較例1]
基材とフィルムシートの接着に際し、光硬化性樹脂ではなく、アクリル系粘着シートを用いたこと以外は実施例1と同様にして検体分析カートリッジを2つ作製した。
【0142】
<試験方法>
以下の試験を行い、実施例1~4、参考例1~2、及び比較例1の検体分析カートリッジの性能を評価した。
【0143】
[インクジェット塗布の可否と塗膜性]
光硬化性樹脂層の形成に際し、光硬化性樹脂組成物をインクジェット塗布できるかを評価した。また、インクジェット塗布により光硬化性樹脂組成物を塗布できた場合において、光硬化性樹脂組成物の塗膜性を以下の評価基準により評価した。
(評価基準)
○:塗布した光硬化性樹脂組成物が、硬化するまで所望の位置に留まった。
×:塗布した光硬化性樹脂組成物が、硬化前に広がってしまい所望の位置からはみ出した。
【0144】
[液漏れ耐久性試験]
検体分析カートリッジの液漏れ時間を以下のようにして測定して、以下の評価基準により液漏れ耐久性を評価した。
【0145】
(測定方法)
検体分析カートリッジを60℃のホットプレート上に静置し、USB顕微鏡で、1枚/秒の間隔で画像を取得した。事前に充填された試薬の液漏れの有無を、顕微鏡による目視、及び接触観察により行った。
(評価基準)
○:液漏れ耐久時間が10分以上であり、液漏れ耐久性が高い。
△:液漏れ耐久時間が2分以上10分未満であり、液漏れ耐久性が中程度である。
×:液漏れ耐久時間が2分未満であり、液漏れ耐久性が低い。
【0146】
[接着強度の測定]
検体分析カートリッジの基材(第1の基材)とフィルムシート(第2の基材)との間の180°剥離強度を、以下のようにして算出して、以下の評価基準により評価した。
【0147】
(測定方法)
検体分析カートリッジの基材及びフィルムシートと同様のシクロオレフィンポリマーを用いて10mm幅の試験シートを作製した。2枚の試験シートを各例で用いた光硬化性樹脂層により接着して試験片とし、剥離試験機を用いて剥離強度を測定した。試験片の片方のシート底面(接着面とは反対側の面)を試験機ステージに固定し、上側のシートの端部を測定機ロードセルに接続した掴み具で挟んだ。挟んだシートを、固定したシートと平行になる方向(180°)に一定速度で引っ張りながら2枚のシートの剥離力を測定した。これにより、180°方向の引っ張り試験測定値を測定し、当該値を各例の180°剥離強度とした。測定は、JIS K6854-2に準拠した。
(評価基準)
○:接着強度が25N/10mm以上であり、接着強度に優れる。
△:接着強度が18N/10mm以上25N/10mm未満であり、通常の接着強度である。
×:接着強度が18N/10mm未満であり、接着強度に劣る。
【0148】
[光学顕微鏡による観察]
検体分析カートリッジを光学顕微鏡により観察して、マイクロ流路への光硬化性樹脂層のはみ出しの有無を確認した。以下の評価基準により、はみ出しの評価を行った。
【0149】
(評価基準)
○:光硬化性樹脂層のはみ出しがない。
△:分析中(回転動作中)に光硬化性樹脂層がマイクロ流路へはみ出した。
×:光硬化性樹脂層のはみ出しがある。
【0150】
<試験結果>
まず、実施例1と比較例1の検体分析カートリッジにおいて、液漏れ耐久性試験を行い、液漏れ耐久性の比較を行った。経時的な観察結果を表1に示す。表1において、液漏れがない場合を「○」、液漏れがある場合を「×」で示している。
なお、作製した検体分析カートリッジは図3に示すように、3つの処理領域を有するものであったため、実施例1については、作製した2枚のサンプルのそれぞれについて、2つの処理領域(計4領域)において観察を行った。表1において、実施例1として測定No1~4で示される結果は、それぞれ順番に、1枚目のサンプルの第1処理領域、1枚目のサンプルの第2処理領域、2枚のサンプルの第1処理領域、及び2枚のサンプルの第2処理領域の結果である。また、比較例1として測定No1~2で示される結果は、それぞれ順番に、1枚目のサンプル及び2枚のサンプルの結果である。
【0151】
【表1】
【0152】
以上の結果から、粘着剤(粘着シート)を用いて基材及びフィルムシートを接着した比較例1の検体分析カートリッジは液漏れ耐久性が低く、光硬化性樹脂を用いて基材及びフィルムシートを接着した実施例1の検体分析カートリッジは液漏れ耐久性が高いことがわかった。
【0153】
次に、光硬化性樹脂層を形成するための光硬化性樹脂組成物の組成を変更した実施例1~4及び参考例1~2の検体分析カートリッジについて、性能比較を行った。各試験結果を表2に示す。なお、参考例1及び2については検体分析カートリッジの作製が困難であったため、液漏れ耐久性の評価は行わなかった。
【0154】
【表2】
【符号の説明】
【0155】
1,51…第1の基材、2,52…第2の基材、3…光硬化性樹脂層、4,40,41,42,43,44,45…マイクロ流路、10…検出チャンバ、30…導入口、31…分離部、32…回収部、54…壁部、55…孔、60…処理領域、61,62,63,64,65…処理チャンバ、66,67…液体収容部、68…開栓機構、90…測定試料、100,A,B…検体分析カートリッジ、300…検出装置、310…筐体、311…基台部、312…蓋部、313…配置部、314…支持部材、321…回転軸、364…操作部、400…光硬化性樹脂組成物塗布装置、410…制御装置、420…光硬化性樹脂組成物、500…ローラ、600…光照射装置、700…レーザ加工機700、710…部分、MP…磁性粒子。
図1
図2
図3
図4
図5
図6