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特開2023-154780有底缶の製造方法および有底缶製造用の中間材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154780
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】有底缶の製造方法および有底缶製造用の中間材
(51)【国際特許分類】
   B21D 28/26 20060101AFI20231013BHJP
   B21D 22/26 20060101ALI20231013BHJP
   B21D 51/26 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B21D28/26
B21D22/26 C
B21D51/26 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064334
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】313005282
【氏名又は名称】東洋製罐株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100153497
【弁理士】
【氏名又は名称】藤本 信男
(72)【発明者】
【氏名】大堀 圭
(72)【発明者】
【氏名】石黒 英紀
(72)【発明者】
【氏名】長船 達矢
(72)【発明者】
【氏名】中川 高則
【テーマコード(参考)】
4E137
【Fターム(参考)】
4E137AA04
4E137AA18
4E137BA05
4E137BB01
4E137CA02
4E137CA07
4E137CA09
4E137CA26
4E137CA29
4E137EA01
4E137FA12
4E137GA02
4E137GA15
4E137GB16
(57)【要約】
【課題】ブランクの所期の部分を薄肉化することができながら位置決めに高い精度が得られてゆがみや反りの抑制された高品質の有底缶を得ることができ、かつ、廃棄されるスクラップ量が低減される有底缶の製造方法および有底缶製造用の中間材の提供
【解決手段】本発明の有底缶の製造方法は、1枚の金属製の原板20から複数の有底缶10を製造する方法であって、原板におけるブランク33となるブランク予定領域30の少なくとも一部をコイニング加工するコイニング工程と、原板からブランクを得る打ち抜き加工および得られたブランクを有底缶形状に成形する絞り加工を施す成形工程とをこの順に行い、コイニング工程の前に、原板のブランク予定領域間に素材流動緩衝用孔25を穿設する緩衝用孔形成工程を行う。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚の金属製の原板から複数の有底缶を製造する方法であって、
前記原板におけるブランクとなるブランク予定領域の少なくとも一部をコイニング加工するコイニング工程と、
前記原板からブランクを得る打ち抜き加工および得られたブランクを有底缶形状に成形する絞り加工を施す成形工程とをこの順に行い、
前記コイニング工程の前に、前記原板のブランク予定領域間に素材流動緩衝用孔を穿設する緩衝用孔形成工程を行うことを特徴とする有底缶の製造方法。
【請求項2】
前記コイニング工程の前に、位置決め部を設ける位置決め部形成工程を行い、
前記位置決め部は、前記原板のブランク予定領域外であって前記ブランク予定領域との間に前記素材流動緩衝用孔が介在される位置に形成されることを特徴とする請求項1に記載の有底缶の製造方法。
【請求項3】
前記位置決め部が、前記原板を貫通する位置決め孔であることを特徴とする請求項2に記載の有底缶の製造方法。
【請求項4】
前記ブランク予定領域が前記原板の幅方向に長い長円形状であり、
前記位置決め部が、隣接するブランク予定領域間における前記原板の幅方向の両端部に対称的に形成されることを特徴とする請求項2に記載の有底缶の製造方法。
【請求項5】
前記素材流動緩衝用孔が、前記原板の幅方向に延在する長方形または長円形の形状であることを特徴とする請求項1に記載の有底缶の製造方法。
【請求項6】
前記素材流動緩衝用孔が、前記位置決め部を囲繞するV字部分と、両V字部分を連続させるI字部分とからなる概略X字形状であることを特徴とする請求項4に記載の有底缶の製造方法。
【請求項7】
前記位置決め部が、前記素材流動緩衝用孔のV字部分の頂点を結んだ直線と当該V字部分とにより形成される三角形状領域内に配置されることを特徴とする請求項6に記載の有底缶の製造方法。
【請求項8】
前記位置決め部形成工程および前記緩衝用孔形成工程が、同時に行われることを特徴とする請求項2に記載の有底缶の製造方法。
【請求項9】
前記有底缶の底部となる底部予定領域の外周縁に沿ってコイニング加工を施すことを特徴とする請求項1に記載の有底缶の製造方法。
【請求項10】
前記有底缶が、矩形缶であることを特徴とする請求項1に記載の有底缶の製造方法。
【請求項11】
複数の有底缶を製造するためのブランクが打ち抜かれる1枚の金属製の有底缶製造用の中間材であって、
前記有底缶製造用の中間材のブランク予定領域間に素材流動緩衝用孔を有することを特徴とする有底缶製造用の中間材。
【請求項12】
前記有底缶製造用の中間材のブランク予定領域外に位置決め部を有し、
前記位置決め部は、前記ブランク予定領域との間に前記素材流動緩衝用孔が介在される位置に形成されることを特徴とする請求項11に記載の有底缶製造用の中間材。
【請求項13】
前記位置決め部が、前記原板を貫通する位置決め孔であることを特徴とする請求項12に記載の有底缶製造用の中間材。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絞り加工または絞りしごき加工によって成形される有底缶の製造方法、および、有底缶製造用の中間材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属製の有底缶の製造方法としては、原板から打ち抜いたブランクに対して絞り加工または絞りしごき加工を施す方法が一般的に知られている。このような方法においては、原板やブランクなどに凹部を刻印(コイニング加工)して薄肉部を形成することが行われている。その理由としては、例えば、筒状の側壁部のしごき率を低減させて破胴を抑制する目的で、絞りしごき加工が施される側壁部に対応する領域に予めコイニング加工を行って薄肉化しておくという理由や、筒状の側壁部はしごかれて薄肉化が図られるものの、底部はほとんど加工されないためにその厚みは原板の厚みに依存することになり、その結果、底部の厚みが側壁部よりも厚くなってしまうので、ブランクや中間成形体における有底缶の底部となる予定の底部予定領域を予めコイニング加工によって薄肉化しておくという理由などがある。
例えば、特許文献1には、ブランクをプレスして有底筒形の中間成形品を成形し、中間成形品の底部中央部分にコイニング加工をしてから、絞り加工や絞りしごき加工を施して有底缶を成形する方法が開示されている。また、特許文献2には、絞りしごき加工での側壁部のしごき率を低減させて破胴を抑制する目的で、絞りしごき加工が施される側壁部に対応する領域に予めコイニング加工する方法が開示されている。
【0003】
上記の有底缶は、例えば、各加工に必要な金型を搬送路に沿って工程順に配列し、帯状の原板を間欠搬送によってこれらの加工(コイニング加工、ブランクの打ち抜き加工および絞り加工や絞りしごき加工)に順に供することにより、製造することができる。この製造方法に従うと、1枚の帯状の原板から複数の有底缶を連続的に製造可能である。
一方、コイニング加工は、帯状の原板、打ち抜かれたブランク、ある程度絞り加工された中間成形品等に施すことが可能であるところ、コイニング加工をブランクの打ち抜き加工の前に施す場合すなわち帯状の原板に対して行う場合には、コイニング加工で材料が押し出されることによって原板にゆがみや反りが生じ、その後のブランクの打ち抜き加工における位置決め等に支障をきたす、という問題がある。また、帯状の原板にコイニング加工によるゆがみが生じても隣接するブランク予定領域にゆがみが波及しないようにするためには、ブランク予定領域間の距離を大きく確保しておく必要が生じ、その結果、廃棄されるスクラップ量が増大して生産性が低くなる、という問題も生じる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第4702843号公報
【特許文献2】特許第6776768号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上述の問題点を解決するものであり、ブランクの所期の部分を薄肉化することができながら位置決めに高い精度が得られてゆがみや反りの抑制された高品質の有底缶を得ることができ、かつ、廃棄されるスクラップ量が低減される有底缶の製造方法および有底缶製造用の中間材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の有底缶の製造方法は、1枚の金属製の原板から複数の有底缶を製造する方法であって、
前記原板におけるブランクとなるブランク予定領域の少なくとも一部をコイニング加工するコイニング工程と、
前記原板からブランクを得る打ち抜き加工および得られたブランクを有底缶形状に成形する絞り加工を施す成形工程とをこの順に行い、
前記コイニング工程の前に、前記原板のブランク予定領域間に素材流動緩衝用孔を穿設する緩衝用孔形成工程を行うことにより、上記課題を解決するものである。
【0007】
本発明の有底缶製造用の中間材は、複数の有底缶を製造するためのブランクが打ち抜かれる1枚の金属製の有底缶製造用の中間材であって、
前記有底缶製造用の中間材のブランク予定領域間に素材流動緩衝用孔を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明の有底缶の製造方法および有底缶製造用の中間材によれば、コイニング加工が行われるので基本的にブランクの所期の部分を薄肉化することができる。しかも、ブランク予定領域間に素材流動緩衝用孔が穿設されていることにより、コイニング加工によって押し出された素材の外方への膨出によって隣接するブランク予定領域にゆがみが波及することが防止されるので、ブランク予定領域間の距離をゆがみが波及しない程度に大きく確保しておく必要がなく、その結果、廃棄されるスクラップ量を低減させることができて高い生産性が得られる。また、素材流動緩衝用孔が原板のブランク予定領域間に穿設されていることにより、この素材流動緩衝用孔がコイニング加工によりブランク予定領域から押し出される素材の膨出先となってコイニング加工の前後におけるブランク予定領域の位置の変位を抑止することができるので、その後のブランクの打ち抜き加工においても搬送される帯状の原板の位置決めの精度が高くなり、ブランク予定領域を精確に打ち抜くことができ、その結果、ゆがみや反りの抑制された高品質の有底缶を得ることができる。
【0009】
また、位置決め部を有する本発明の有底缶の製造方法および有底缶製造用の中間材によれば、ブランク予定領域と位置決め孔との間に素材流動緩衝用孔が穿設されることにより、この素材流動緩衝用孔がコイニング加工によりブランク予定領域から押し出される素材の膨出先となってコイニング加工の前後における位置決め孔のブランク予定領域に対する位置の変位を防止することができるので、その後のブランクの打ち抜き加工においても搬送される帯状の原板の位置決めの精度が高くなり、ブランク予定領域を精確に打ち抜くことができ、その結果、ゆがみや反りの抑制された高品質の有底缶を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施形態に係る有底缶の製造方法における加工途中の帯状の原板を示す平面図である。
図2】本発明の一実施形態に係る絞りしごき加工が施された第1中間成形品を示す斜視図である。
図3】本発明の一実施形態に係る絞りしごき加工が施された第2中間成形品を示す斜視図である。
図4】本発明の有底缶の製造方法によって得られた有底缶の一例を示す斜視図である。
図5】コイニング加工に用いる装置の一例を示す、凹部の刻印前の状態を示す説明用断面図である。
図6図5のコイニング装置における、凹部の刻印後の状態を示す説明用断面図である。
図7】本発明の有底缶製造用の中間材の一例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、本発明の一実施形態に係る有底缶の製造方法および有底缶製造用の中間材について、図面に基づいて説明する。
【0012】
本発明の有底缶の製造方法によって製造される有底缶10は、例えば、電池の外装容器等に使用する矩形缶であり、図4に示すように、平面形状が一対の長辺および短辺を有する略長方形状の底部12と、底部12を取り囲み垂立するよう一体的に形成された、水平断面が長方形である角筒形状の側壁部13とを備えており、側壁部13の上端は開口されている。側壁部13は、底部12の長辺を下辺とする一対の長側面部14と、底部12の短辺を下辺とする一対の短側面部15とを有している。
【0013】
〔有底缶の製造方法〕
図1は、本発明の一実施形態に係る有底缶の製造方法における加工途中の帯状の原板を示す平面図である。
有底缶10は、金属コイルから送り出された1枚の帯状の金属製の原板(以下、「帯原板」ともいう。)20から連続的に複数製造される。本発明の一実施形態に係る有底缶10の製造方法は、具体的には、帯原板20に位置決め孔21および素材流動緩衝用孔25を穿設するピアッシング工程と、帯原板20におけるブランク予定領域30の少なくとも一部をコイニング加工するコイニング工程(図1の部分a)と、帯原板20から所定の形状のブランク33を分離する打ち抜き加工(図1の部分c)および得られたブランク33を有底缶形状に成形する絞り加工および/または絞りしごき加工を施す成形工程とをこの順に行う順送り加工方法である。なお、図1の部分bは、何の加工も施さないアイドル状態を示している。
帯原板20の搬送路に沿って各加工に必要な金型が工程順に配列されており、帯原板20は、間欠搬送されながら各工程に供される。
【0014】
本実施形態においては、成形工程において位置決めをする際などに使用する位置決め部が帯原板20を貫通する位置決め孔21からなるが、本発明における位置決め部は、貫通孔に限定されず、厚みが異なる凹部であってもよく、凹部には傷や成形痕なども含まれる。このような凹部は、例えばカメラ等を使用してその位置を検出することによってブランク予定領域の位置決めに利用することができる。
【0015】
帯原板20は、例えばアルミニウム板を用いることができるが、特に限定されるものではなく、他の金属材料を用いることもできる。
【0016】
ブランク予定領域30は、後の打ち抜き加工によってブランク33となる領域である。図1中、ブランク予定領域30を破線で示す。ブランク予定領域30は、帯原板20の幅方向(図1の上下方向)に長い長円形状を有する。すなわち、帯原板20の両端縁に近接してブランク予定領域30の長円頂部31が位置されるとともに、中央に寸胴部32が位置される。また、帯原板20においては、搬送方向(図1の左右方向)に複数のブランク予定領域30が一列に並ぶように配置される。
本明細書において、長円形状とは、長軸と短軸を有し、短軸側の周縁を曲線、長軸側の周縁を直線または曲線として組み合わせた形状であって、例えば、オーバル形状、楕円形状、卵形状、角丸長方形状等の形状を含む。
ブランク予定領域の具体的形状は、製造すべき有底缶の形状に従って決定され、上記の長円形状に限定されず、その他の形状であってもよい。
【0017】
ピアッシング工程においては、位置決め孔21および素材流動緩衝用孔25が同時に穿設される。具体的な穿設方法は、帯原板20を所定の形状に打ち抜くことができる方法であれば、従来公知の種々の方法を採用することができる。
本実施形態においては、ピアッシング工程において位置決め孔21および素材流動緩衝用孔25の形成が同時に行われるものとして説明しているが、本発明においてはこれに限定されず、位置決め孔21を穿設する位置決め部形成工程と、素材流動緩衝用孔25を穿設する緩衝用孔形成工程とを別々に行う構成であってもよい。この際、位置決め部形成工程および緩衝用孔形成工程の実施順序は問わない。
【0018】
位置決め孔21は、ブランク予定領域30外であって、隣接するブランク予定領域30の長円頂部31間に形成される略V字領域R内における帯原板20の幅方向の両端部(図1において上端部および下端部)の両端縁に近接した位置にそれぞれ穿設される。位置決め孔21は、略V字領域R内でも特に、隣接するブランク予定領域30から等距離となる位置に形成されることが好ましい。幅方向に対向する一対の位置決め孔21は、搬送方向に垂直な同線上に位置される。
上記のような位置に位置決め孔21が形成されることによって、後記に詳述する素材流動緩衝用孔25を、その効果が十分に発揮される大きな領域を確保するように穿設可能となる。
【0019】
素材流動緩衝用孔25は、コイニング加工時の帯原板20の素材の延びを吸収するための緩衝用孔であって、素材流動緩衝用孔25に膨出した部分が他に影響を与えないようにするものである。本実施形態においては、素材流動緩衝用孔25は、隣接するブランク予定領域30間の距離、および、隣接する位置決め孔21とブランク予定領域30との距離が、コイニング加工の前後において変位しないように機能する。
素材流動緩衝用孔25は、左右のブランク予定領域30と上下の位置決め孔21とに干渉しない位置である、ブランク予定領域30間かつ位置決め孔21とブランク予定領域30との間に穿設される。換言すると、位置決め孔21は、帯原板20のブランク予定領域30外においてこのブランク予定領域30との間に素材流動緩衝用孔25が介在される位置に配置される。素材流動緩衝用孔25は、ブランク予定領域30および位置決め孔21に添う形状に形成され、具体的には、ブランク予定領域30と位置決め孔21との間に横たわり、位置決め孔21の半分を囲繞するよう幅方向外方に開くV字部分26と、ブランク予定領域30間に横たわり、両V字部分26を連続させるI字部分27とからなる概略X字形状を有する。位置決め孔21は、その全てが、V字部分26の頂点を結んだ直線と当該V字部分26とに囲まれた三角形状領域内に配置されている。また、ブランク予定領域30は、長円頂部31の幅方向両端部以外は、素材流動緩衝用孔25に囲繞された状態とされる。
素材流動緩衝用孔25は、ブランク予定領域30と直接に接しておらず、これらの間にわずかな幅の端部分が介在されている。すなわち、ブランク予定領域30の全周が端部分で囲われたブランク予定領域30よりも一回り大きな形状のブランク用部分34が、幅方向両端部のみが帯原板20に一体に連続し、寸胴部32に対応する部分が隣接するブランク用部分34と分断された状態で、配置されている。
なお、素材流動緩衝用孔25の形状は、上述のX字形状に限定されるものではなく、帯原板20の幅方向(ブランク予定領域30の長軸方向)に延在する長方形状や長円形状であってもよく、ブランク予定領域30の長軸側の周縁に沿ったC字形状や、上記のV字部分の片方およびI字部分よりなるY字形状であってもよく、長方形の幅方向中央がブランク予定領域30の長軸側の周縁に沿ってくびれ、両端が広がっている概略I字形状であってもよい。さらに、素材流動緩衝用孔としての機能を発揮することができれば、その他の形状であってもよい。これらの中でも、X字形状、C字形状、Y字形状、I字形状であることが好ましく、より好ましくはX字形状およびI字形状である。
【0020】
素材流動緩衝用孔25の最小幅tは、コイニング加工後の帯原板20の延び量すなわちコイニング加工によって刻印される凹部37の体積に基づいて設定されるので、コイニング加工によって刻印する凹部37の深さやコイニング加工を施す形状によっても異なる、すなわち有底缶10の用途である具体的なアイテム毎に異なる。素材流動緩衝用孔25の最小幅tの一例を挙げると、例えば図1に示す凹部37の形状でコイニングの厚み(凹部37の深さ)が0.2~0.7mmである場合に、1~10mmとされる。素材流動緩衝用孔25の最小幅tが過小である場合は、コイニング加工による帯原板20の膨出が隣接するブランク予定領域30や位置決め孔21に波及し、位置関係の変位や帯原板20のゆがみが発生するおそれがある。一方、素材流動緩衝用孔25の最小幅tが過大である場合は、歩留まりが低くなり、廃棄されるスクラップ量が増大して生産性が低くなるおそれがある。
素材流動緩衝用孔25の最小幅tは、隣接するブランク予定領域30間の最小の距離、および、ブランク予定領域30と位置決め孔21との最小の距離のうちいずれか小さい距離をいう。
【0021】
コイニング工程においては、帯原板20のブランク予定領域30の少なくとも一部にコイニング加工が施されることにより凹部37が刻印される。凹部37は、帯原板20の元の板厚よりも薄肉化されることになる。本実施形態においては、有底缶10の底部12となる底部予定領域35の外周縁に沿うようにコイニング加工が施される。コイニング加工によって刻印される凹部37は、底部予定領域35の外周の環状領域を底部予定領域35の一対の長辺および一対の短辺に対応する4つの部分に分割した平面形状を有する。コイニング加工を施す領域は、このような位置および形状に限定されず、コイニング加工を行う目的等によって適宜に設計することができる。例えば、底部予定領域35の薄肉化を目的として、底部予定領域35内に凹部が刻印されてもよい。図1中、最終成形品である有底缶10における底部12となる底部予定領域35を点線で示す。
コイニング加工においては、凹部37内の体積分の肉は寸胴部32や長円頂部31の外周方向に流動して素材流動緩衝用孔25の内方に膨出して素材流動緩衝用孔25の一部空間を埋めるよう変形する。この帯原板20の素材の流動は、素材流動緩衝用孔25の変形によって吸収され、すでにコイニング加工を施された上流側に隣接するブランク予定領域30やまだコイニング加工を施されていない下流側に隣接するブランク予定領域30には波及せず、これらの相対的な位置が変位することが防止される。
コイニング加工を帯状の原板20といったブランクの打ち抜き加工の前段階において行うことにより、絞り加工後の有底筒状中間成形体に対してコイニング加工を行う場合に比べて、コイニングパンチ61や金属板押え部材63の可動ストロークを短くすることができ、簡単に効率よくコイニング加工を行うことができる。特に、ブランクの打ち抜き加工前の帯状の原板20に対してコイニング加工を行うことにより、1台のプレス内で順送り加工を行うことが可能となり、その結果、プレススピードを向上させることができて高い生産性が得られる。
【0022】
コイニング加工は、従来公知の種々のコイニング加工装置を用いて行うことができる。コイニング加工装置60は、例えば、図5および図6に示されるように、一対のコイニングパンチ61と、コイニング用ダイ62と、金属板押え部材63とを備えている。金属板押え部材63には、コイニングパンチ61が通る一対の貫通孔64が設けられている。このように構成されたコイニング加工装置によって、帯原板20に対してコイニング加工が施される。帯原板20は、コイニング用ダイ62に設置された状態でコイニングパンチ61によって加圧される。これにより、帯原板20の一部がコイニングパンチ61とコイニング用ダイ62により圧縮されて塑性変形し、凹部37が刻印される。この凹部37の平面形状は、コイニングパンチ61の先端面の形状と同一となる。なお、金属板押え部材63によって帯原板20を押さえたとしてもコイニング加工による素材の流動は生じる。
【0023】
成形工程においては、例えばパイロットピンを用いて位置決め孔21によって位置決めがされた状態で絞り加工や絞りしごき加工が行われて矩形缶の形状に成形される。図1の部分cにおいては、ブランク33の打ち抜き線のみを示しているが、本実施形態においては、1回のストロークでブランク33を打ち抜いた後に絞り加工を行う打ち抜き・絞り加工が行われる。成形工程において、ブランク33の打ち抜き加工と絞り加工とは、別途に行われてもよく、複数段階の絞り加工や絞りしごき加工が組み合わされて行われてもよい。
本実施形態においては、まず、打ち抜き・絞り加工が行われてブランク33が打ち抜かれると同時に絞られて、図2に示される、楕円形の底部分42と、底部分42のうち曲率半径の小さな部位を含む側壁部分43と、底部分42のうち曲率半径の大きな部位を含む側壁部分44とを備えた、第1中間成形体40が成形される。次いで、第1中間成形体40に絞り加工または絞りしごき加工が施されて、第1中間成形体40の底部分42よりも細長い楕円形の底部分52と、底部分52のうち曲率半径の小さな部位を含み、第1中間成形体40の側壁部分43よりも高さの高い側壁部分53と、底部分52のうち曲率半径の大きな部位を含み、第1中間成形体40の側壁部分44よりも高さの高い側壁部分54とを備えた、図3に示される第2中間成形体50が成形され、さらに第2中間成形体50に絞り加工または絞りしごき加工が施されて側壁部13を所定の肉厚に整えるとともに表面に光沢が付与され、さらにトリム加工により開口端を切り揃えられることにより、最終成形品として図4に示される有底缶10が得られる。このブランク33に形成されている凹部37は、各加工段階に従って厚みや形状が変化していき、最終成形品の有底缶10においては平坦になってその存在を失う。
絞り加工や絞りしごき加工の具体的な方法としては、パンチおよびダイを用いた一般的な加工方法を採用することができる。
上記実施形態においては、ブランク33に対して打ち抜き・絞り加工を施し、その後、中間成形品に対して2回の絞りしごき加工を施す場合を示した。しかしながら、絞りしごき加工を施す回数は最終成形品である有底缶10の形状および寸法に応じて、適宜、設定すればよい。従って、ブランク33に対して絞りしごき加工を一度だけ施す場合もあり得る。また、中間成形品に対して絞りしごき加工を3回以上施す場合もあり得る。また、しごき加工を伴わない絞り加工を行う場合、前記絞り加工の後に再絞り加工を行う場合、さらに、前記再絞り加工時に引っ張り加工を行う場合も含まれる。しごき加工を伴わない絞り加工を、初期の加工工程で1回以上行った後に、絞りしごき加工、またはしごき加工を1回以上行う場合も本発明に含まれる。勿論、複数の絞りしごき加工工程の途中に絞り加工、またはしごき加工工程を行う場合も本発明に含まれる。
【0024】
〔有底缶製造用の中間材〕
図7は、本発明の有底缶製造用の中間材の一例を示す平面図である。
本発明の有底缶製造用の中間材70は、1枚の帯状の中間材70から複数の有底缶10を製造可能なものであり、帯状の金属製の有底缶製造用原板71に上述のピアッシング工程までが各ブランク予定領域30間に対して連続的に行われた状態のものであって、上記の実施形態のように帯原板20の搬送路に沿ってコイニング工程以下の搬送工程に供することにより有底缶10を製造可能なものである。
有底缶製造用の中間材70は、位置決め孔21および素材流動緩衝用孔25が各々ブランク予定領域30間に位置するよう所定間隔ごとに穿設された帯状の金属板である。中間材70においては、上記の実施形態と同じ位置に、位置決め孔21および素材流動緩衝用孔25が穿設されている。すなわち、搬送方向(図7の左右方向)に複数のブランク予定領域30が一列に並ぶように配置され、位置決め孔21が、ブランク予定領域30外であって、隣接するブランク予定領域30の長円頂部31間に形成される略V字領域R内における帯原板20の幅方向の両端部(図7の上端部および下端部)における両端縁に近接した位置にそれぞれ穿設される。また、素材流動緩衝用孔25が、左右のブランク予定領域30と上下の位置決め孔21とに干渉しない位置である、ブランク予定領域30間かつ位置決め孔21とブランク予定領域30との間に穿設される。素材流動緩衝用孔25は、ブランク予定領域30および位置決め孔21に添う形状に形成され、具体的には、ブランク予定領域30と位置決め孔21との間に横たわり、位置決め孔21を囲繞するよう幅方向外方に開くV字部分26と、ブランク予定領域30間に横たわり、両V字部分26を連続させるI字部分27とからなる概略X字形状を有する。位置決め孔21は、その全てが、V字部分26の頂点を結んだ直線と当該V字部分26とに囲まれた三角形状領域内に配置されている。また、長円頂部31の幅方向両端部以外は、素材流動緩衝用孔25に囲繞された状態とされる。
素材流動緩衝用孔25は、ブランク予定領域30と直接に接しておらず、これらの間にわずかな幅の端部分が介在されている。すなわち、ブランク予定領域30の全周が端部分で囲われたブランク予定領域30よりも一回り大きな形状のブランク用部分34が、幅方向両端部のみが帯原板20に一体に連続し、寸胴部32に対応する部分が隣接するブランク用部分34と分断された状態で、配置されている。
【0025】
以上、本発明の実施形態を詳述したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲に記載された本発明を逸脱することなく種々の設計変更を行なうことが可能である。
例えば、本実施形態では、有底缶として矩形缶を例にとって説明したが、本発明の製造方法が適用される有底缶は、矩形缶に限定されるものではなく、有底角筒状以外の多角形の角形缶や円形、楕円形の丸形缶等、有底筒形状の缶について広く適用することができる。
また例えば、有底缶の長側面部,短側面部等、側壁部の肉厚と底部の肉厚の大小関係も特に問わない。
【符号の説明】
【0026】
10 有底缶
12 底部
13 側壁部
14 長側面部
15 短側面部
20 帯原板
21 位置決め孔
25 素材流動緩衝用孔
26 V字部分
27 I字部分
30 ブランク予定領域
31 長円頂部
32 寸胴部
33 ブランク
34 ブランク用部分
35 底部予定領域
37 凹部
40 第1中間成形体
42 底部
43 側壁部分
44 側壁部分
50 第2中間成形体
52 底部
53 側壁部分
54 側壁部分
60 コイニング加工装置
61 コイニングパンチ
62 コイニング用ダイ
63 金属板押え部材
64 貫通孔
70 中間材
71 有底缶製造用原板
R 略V字領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7