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  • 特開-ガラス材及びその製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154781
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】ガラス材及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 3/155 20060101AFI20231013BHJP
   C03C 3/15 20060101ALI20231013BHJP
   C03B 27/012 20060101ALI20231013BHJP
   G02B 1/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C03C3/155
C03C3/15
C03B27/012
G02B1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064337
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(71)【出願人】
【識別番号】000232243
【氏名又は名称】日本電気硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001232
【氏名又は名称】弁理士法人大阪フロント特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 明寛
(72)【発明者】
【氏名】榎本 朋子
【テーマコード(参考)】
4G015
4G062
【Fターム(参考)】
4G015CA00
4G015CB03
4G062AA04
4G062BB07
4G062CC10
4G062DA01
4G062DB01
4G062DC01
4G062DD01
4G062DE01
4G062DF01
4G062EA01
4G062EB01
4G062EC01
4G062ED01
4G062EE01
4G062EF01
4G062EG01
4G062FA01
4G062FB01
4G062FB02
4G062FB03
4G062FB04
4G062FB05
4G062FB06
4G062FB07
4G062FC01
4G062FC02
4G062FC03
4G062FD01
4G062FE01
4G062FF01
4G062FG01
4G062FG02
4G062FG03
4G062FG04
4G062FG05
4G062FG06
4G062FG07
4G062FH01
4G062FJ01
4G062FK03
4G062FK04
4G062FK05
4G062FK06
4G062FL01
4G062GA01
4G062GB01
4G062GC01
4G062GD01
4G062GE01
4G062HH01
4G062HH03
4G062HH05
4G062HH07
4G062HH09
4G062HH11
4G062HH13
4G062HH15
4G062HH17
4G062HH20
4G062JJ01
4G062JJ03
4G062JJ05
4G062JJ07
4G062JJ10
4G062KK01
4G062KK03
4G062KK04
4G062KK05
4G062KK07
4G062KK10
4G062MM02
4G062NN02
4G062NN34
(57)【要約】
【課題】屈折率の高いガラス材及びその製造方法を提供する。
【解決手段】モル%で、La 5%~70%、Nb+TiO 10%~85%を含有し、屈折率nd及びアッベ数νdが下記式(1)及び(2)の関係を満たす、ガラス材。
-204.5nd+504≦νd ・・・(1)
2.0<nd≦2.45 ・・・(2)
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モル%で、La 5%~70%、Nb+TiO 10%~85%を含有し、屈折率nd及びアッベ数νdが下記式(1)及び(2)の関係を満たす、ガラス材。
-204.5nd+504≦νd ・・・(1)
2.0<nd≦2.45 ・・・(2)
【請求項2】
屈折率nd及びアッベ数νdが下記式(3)の関係を満たす、請求項1に記載のガラス材。
45≦nd・νd ・・・(3)
【請求項3】
モル%で、La+Nb+TiO 50%以上を含有する、請求項1または2に記載のガラス材。
【請求項4】
屈折率nd及びアッベ数νdが下記式(1)及び(2)の関係を満たす、ガラス材の製造方法であって、
モル%で、La 5%~70%、Nb+TiO 10%~85%を含有するガラス材前駆体を製造する工程と、
前記ガラス材前駆体を高圧下で熱処理することによりガラス材を得る工程と、
を含む、ガラス材の製造方法。
-204.5nd+504≦νd ・・・(1)
2.0<nd≦2.45 ・・・(2)
【請求項5】
前記ガラス材前駆体に対する加圧圧力が1GPa以上である、請求項4に記載のガラス材の製造方法。
【請求項6】
前記ガラス材前駆体に対する加熱温度が100℃以上である、請求項4又は5に記載のガラス材の製造方法。
【請求項7】
前記ガラス材の屈折率ndが、前記ガラス材前駆体の屈折率ndに対して1%以上高くなる、請求項4又は5に記載のガラス材の製造方法。
【請求項8】
前記ガラス材のアッベ数νdが、前記ガラス材前駆体のアッベ数νdに対して1%以上大きくなる、請求項4又は5に記載のガラス材の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス材及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、カメラ、顕微鏡及び内視鏡等の小型化に伴い、屈折率の高い光学素子が求められている。
【0003】
上記光学素子は、屈折率の高いガラス材から製造されることが多い。屈折率の高いガラス材として、例えば、SiOやBの含有量が少なく、希土類酸化物や中間酸化物等の含有量が多いガラス材が知られている。しかし、上記ガラス材はガラス化しにくく、製造が難しくなりやすい。
【0004】
上記ガラス材を製造する方法の一つとして、原料を浮遊させた状態で溶融、冷却する無容器浮遊法が知られている。例えば、特許文献1では、無容器浮遊法を用いてTiOとBaOのみを含有するガラス材が作製されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第4789086号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
光学系の設計自由度を高める観点から、より一層屈折率の高いガラス材が求められている。
【0007】
以上に鑑み、本発明は屈折率の高いガラス材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明のガラス材は、モル%で、La 5%~70%、Nb+TiO 10%~85%を含有し、屈折率nd及びアッベ数νdが下記式(1)及び(2)の関係を満たすことを特徴とする。
-204.5nd+504≦νd ・・・(1)
2.0<nd≦2.45 ・・・(2)
【0009】
本発明のガラス材は、屈折率nd及びアッベ数νdが下記式(3)の関係を満たすことが好ましい。
45≦nd・νd ・・・(3)
【0010】
本発明のガラス材は、モル%で、La+Nb+TiO 50%以上を含有することが好ましい。
【0011】
本発明のガラス材の製造方法は、屈折率nd及びアッベ数νdが下記式(1)及び(2)の関係を満たす、ガラス材の製造方法であって、モル%で、La 5%~70%、Nb+TiO 10%~85%を含有するガラス材前駆体を製造する工程と、前記ガラス材前駆体を高圧下で熱処理することによりガラス材を得る工程と、を含むことを特徴とする。
-204.5nd+504≦νd ・・・(1)
2.0<nd≦2.45 ・・・(2)
【0012】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス材前駆体に対する加圧圧力が1GPa以上であることが好ましい。
【0013】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス材前駆体に対する加熱温度が100℃以上であることが好ましい。
【0014】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス材の屈折率ndが、ガラス材前駆体の屈折率ndに対して1%以上高くなることが好ましい。
【0015】
本発明のガラス材の製造方法は、ガラス材のアッベ数νdが、ガラス材前駆体のアッベ数νdに対して1%以上大きくなることが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、屈折率の高いガラス材及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ガラス材前駆体の製造装置の一実施形態を示す模式的断面図である。
図2】本発明のガラス材及びガラス材前駆体の屈折率nd及びアッベ数νdをプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態について、図面を用いて詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではない。
【0019】
本発明のガラス材は、モル%で、La 5%~70%、Nb+TiO 10%~85%を含有する。以下、ガラス材の組成範囲をこのように限定した理由について説明する。なお、以下の各成分の含有量に関する説明において、特に断りのない限り「%」は「モル%」を意味する。
【0020】
Laはガラス骨格を形成する成分である。また、光透過率を低下させることなく屈折率を高める成分でもある。Laの含有量は、5%~70%であり、7%~65%、8%~63%、10%~60%、10%~50%、10%~40%、特に10%~30%であることが好ましい。Laの含有量が少なすぎると、上記効果が得づらくなる。Laの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。
【0021】
Nb及びTiOは、屈折率を高める効果が大きい成分である。また、ガラス化範囲を広げる効果もある。Nb+TiOの含有量(Nb及びTiOの合量)は、10%~85%であり、20%~80%、30%~79%、40%~78%、50%~77%、55%~76%、特に60%~75%であることが好ましい。Nb+TiOの含有量が少なすぎると、上記効果が得づらくなる。Nb+TiOの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。なお、各成分の好ましい範囲は以下の通りである。
【0022】
Nbの含有量は、0%~85%、10%~80%、20%~75%、30%~70%、40%~70%、特に50%~70%であることが好ましい。
【0023】
TiOの含有量は、0%~85%、10%~80%、20%~79%、30%~78%、40%~77%、50%~76%、特に60%~75%であることが好ましい。
【0024】
La+Nb+TiOの含有量(La、Nb及びTiOの合量)は、50%以上、55%以上、60%以上、65%以上、70%以上、75%以上、特に80%以上であることが好ましい。これにより、光透過率が高く屈折率の高いガラス材を得やすくなる。La+Nb+TiOの含有量の上限は、例えば、100%以下、99%以下、98%以下、特に95%以下としてもよい。
【0025】
本発明のガラス材は、上記成分に加えて、下記成分を含有してもよい。
【0026】
ZrOは屈折率を高める成分であり、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、ガラス化範囲を広げる効果がある。また化学的耐久性を高める効果も有する。ZrOの含有量は0%~25%、1%~20%、2%~15%、特に3%~5%であることが好ましい。ZrOの含有量が少なすぎると、上記の効果が得られにくくなる。一方、ZrOの含有量が多すぎると、かえってガラス化しにくくなる。
【0027】
Gdは屈折率を高め、ガラス化する際の安定性を高める成分である。Gdの含有量は0%~20%、3%~15%、特に5%~10%であることが好ましい。Gdの含有量が少なすぎると、上記の効果が得られにくくなる。一方、Gdの含有量が多すぎると、かえってガラス化しにくくなる。
【0028】
Gaは屈折率を高める成分である。また、中間酸化物としてガラス骨格を形成するため、ガラス化範囲を広げる効果がある。ただし、Gaの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなり、また原料コストが高くなる傾向がある。よって、Gaの含有量は0%~30%、0%~20%、特に0%~10%とすることが好ましい。
【0029】
Alはガラス骨格を形成し、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Alの含有量が多すぎると、屈折率が低下しやすい。よって、Alの含有量は、0%~10%、0%~5%、特に0%~2%であることが好ましい。
【0030】
はガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、Bの含有量が多すぎると、屈折率が低下しやすい。よって、Bの含有量は、0%~30%、1%~20%、特に5%~10%であることが好ましい。
【0031】
SiOはガラス骨格となり、ガラス化範囲を広げる成分である。ただし、SiOの含有量が多すぎると、屈折率が低下しやすい。よって、SiOの含有量は、0%~20%、特に0%~10%であることが好ましい。
【0032】
GeOは屈折率を高める成分であり、ガラス化範囲を広げる効果もある。ただし、GeOの含有量が多すぎると、原料コストが高くなりやすい。よって、GeOの含有量は、0%~10%、特に0%~5%であることが好ましい。
【0033】
はガラス骨格を構成する成分であり、ガラス化範囲を広げる効果がある。ただし、Pの含有量が多すぎると分相しやすくなる。よって、Pの含有量は、0%~10%、特に0%~5%であることが好ましい。
【0034】
SnOは屈折率を高める効果が大きい成分である。ただし、還元により着色の原因となりやすい。よって、SnOの含有量は、0%~5%、特に0%~3%であることが好ましい。
【0035】
Taは屈折率を高める効果が大きい成分である。ただし、Taの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなり、また原料コストが高くなる傾向がある。従って、Taの含有量は、0%~20%、特に1%~5%であることが好ましい。
【0036】
はガラス化する際の安定性を高め、屈折率を高める成分である。ただし、Yの含有量が多すぎると、かえってガラス化しにくくなる。よって、Yの含有量は、0%~20%、特に0%~10%であることが好ましい。
【0037】
Ybは屈折率を高める成分である。ただし、Ybの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。また、原料コストが高くなる傾向がある。よって、Ybの含有量は、0%~20%、特に0%~10%であることが好ましい。
【0038】
Biは屈折率を高める成分である。ただし、Biの含有量が多すぎると、ガラス材の着色の原因となる。また、原料コストが高くなる傾向がある。よって、Biの含有量は、0%~10%、0%~5%、特に0%~1%であることが好ましい。
【0039】
TeOは屈折率を高める成分である。ただし、TeOの含有量が多すぎると、ガラス化しにくくなる。また、原料コストが高くなる傾向がある。よって、TeOの含有量は、0%~20%、特に0%~10%であることが好ましい。
【0040】
ZnO、MgO、CaO、SrO及びBaOはガラス化する際の安定性を高めやすく、化学的耐久性を高めやすい成分である。ただし、これらの成分の含有量が多すぎると、屈折率が低下して所望の光学特性が得にくくなる。よって、これらの成分の含有量は、各々0%~10%、0%~5%、特に各々0%~3%であることが好ましい。
【0041】
LiO、NaO、KO、RbO及びCsOは溶融温度を低下させる効果があるが、屈折率を低下させやすい成分である。よって、これらの成分は、合量で0%~10%、0%~5%、特に0%~3%であることが好ましい。
【0042】
清澄剤としてSbを含有してもよい。ただし、ガラス材の着色や環境面への影響を低減するため、Sbの含有量は0.1%以下、特に実質的に含有しないことが好ましい。なお、本明細書において、「実質的に含有しない」とは、意図的に原料中に含有させないという意味であり、不純物レベルの混入を排除するものではない。客観的には、各成分の含有量が0.01%未満を指す。
【0043】
PbO及びFは環境への負荷を低減するため、実質的に含有しないことが好ましい。
【0044】
本発明のガラス材を発光材料やカラーフィルター等の用途に用いる場合は、発光剤や着色剤となる遷移金属成分や希土類成分を含有させてもよい。具体的には、遷移金属酸化物としては、Cr、Mn、Fe、CoO、NiO、CuO、V、MoO、RuO等が挙げられる。希土類酸化物としては、CeO、Nd、Eu、Tb、Dy、Er等が挙げられる。これらの遷移金属酸化物及び希土類酸化物は単独で含有させてもよく、2種以上を含有させてもよい。これらの遷移金属酸化物及び希土類酸化物の含有量(2種以上含有させる場合は合量)は、0%~5%、0.01%~3%、0.01%~2%、特に0.02%~1%であることが好ましい。
【0045】
本発明のガラス材は、屈折率nd及びアッベ数νdが下記式(1)及び(2)の関係を満たすことを特徴とする。下記式(1)及び(2)を満たすガラス材は、高屈折率かつ高分散の光学特性を有する。
-204.5nd+504≦νd ・・・(1)
2.0<nd≦2.45 ・・・(2)
【0046】
屈折率ndは、2.0より大きく、2.05以上、2.1以上、2.15以上、2.2以上、特に2.25以上であることが好ましい。屈折率ndが高いほど、光学素子の小型化に有利になりやすい。屈折率ndの上限は、ガラス化の安定性を考慮して、2.45以下、特に2.4以下であることが好ましい。
【0047】
アッベ数νdは、5~95、5~80、5~70、5~60、5~50、特に10~45であることが好ましい。アッベ数νdが上記値であることにより、高分散の光学素子を得やすくなる。
【0048】
本発明のガラス材は、屈折率nd及びアッベ数νdの積が、下記式(3)を満たすことが好ましい。下記式(3)を満たすガラス材は、特に高屈折率かつ高分散の光学特性を有する。なお、47≦nd・νdであることがより好ましい。また、nd・νdの上限は特に限定されないが、例えば、nd・νd≦100としてもよい。
45≦nd・νd ・・・(3)
【0049】
本発明のガラス材は、レンズやプリズム等の光学素子や、宝飾品、芸術品、食器等の装飾品用途に用いることができる。
【0050】
本発明のガラス材は、例えば、モル%で、La 5%~70%、Nb+TiO 10%~85%を含有するガラス材前駆体を製造する工程と、ガラス材前駆体を高圧下で熱処理することによりガラス材を得る工程と、を含む製造方法により製造することができる。なお、ガラス材前駆体とは、高温下での熱処理(すなわち、高温高圧処理)を行っていないガラス材を示し、各成分の好ましい範囲は上述したガラス材と同等とすることができる。
【0051】
<ガラス材前駆体を製造する工程>
はじめに、ガラス材前駆体を製造する。ガラス材前駆体は、例えば、無容器浮遊法により製造することができる。
【0052】
図1は、ガラス材前駆体の製造装置の一実施形態を示す模式的断面図である。製造装置1は成形型10を有する。成形型10は溶融容器としての役割も果たす。成形型10は、成形面10aと、成形面10aに開口している複数のガス噴出孔10bを有する。このようにすれば、原料塊12、溶融ガラス、ガラス材前駆体を安定して浮遊させることができる。なお、ガス噴出孔10bが一つだけ設けられた成形型を用いてもよい。ガス噴出孔10bは、ガスボンベなどのガス供給機構11に接続されている。このガス供給機構11からガス噴出孔10bを経由して、成形面10aにガスが供給される。ガスの種類は特に限定されず、例えば、空気や酸素であってもよく、窒素ガス、アルゴンガス、ヘリウムガス、一酸化炭素ガス、二酸化炭素ガス、水素を含有した還元性ガスであってもよい。
【0053】
以下、図1を参照しながら、ガラス材前駆体を製造する方法について説明する。はじめに、原料塊12を成形面10a上に配置する。原料塊12は、ガラスの原料粉末をプレス成形等により一体化したもの、ガラスの原料粉末をプレス成形等により一体化した後に焼結させた焼結体、目標ガラス組成と同等の組成を有する結晶の集合体などが挙げられる。また、上記焼結体を切断や破砕したものを原料塊として用いてもよい。次に、ガス噴出孔10bからガスを噴出させることにより、原料塊12を成形面10a上で浮遊させる。すなわち、原料塊12を、成形面10aに接触していない状態で保持する。その状態で、レーザー光照射装置13からレーザー光を原料塊12に照射する。これにより原料塊12を加熱溶融して、溶融ガラスを得る。その後、溶融ガラスを冷却することにより、ガラス材前駆体を得ることができる。溶融工程と冷却工程においては、少なくともガスの噴出を継続し、原料塊12、溶融ガラス、ガラス材前駆体と成形面10aとの接触を抑制することが好ましい。加熱する方法は、レーザー光を照射する方法に限定されず、例えば、輻射加熱であってもよい。
【0054】
成形型10の材質としては、アルミニウム、アルミニウム-マグネシウム合金、アルミニウム-シリコン合金、アルミニウム-マグネシウム-シリコン合金、アルミニウム-マグネシウム-亜鉛合金、金属シリコン、ステンレス、ジュラルミン、白金、白金-ロジウム合金、タングステン、タングステン合金、ジルコニウム、チタン、チタン合金、窒化ホウ素などが挙げられる。なかでも、アルミニウム、アルミニウム-マグネシウム合金、アルミニウム-シリコン合金、アルミニウム-マグネシウム-シリコン合金、アルミニウム-マグネシウム-亜鉛合金は、耐食性、加工性の面で好ましい。
【0055】
なお、ガラス材前駆体の製造方法は、上述した無容器浮遊法に限定されない。例えば、るつぼ溶融によりガラス材前駆体を製造してもよい。るつぼ溶融の場合は、大量の原料粉末を一度に溶融することができるため、大型のガラス材前駆体を得ることができる。
【0056】
<ガラス材前駆体を高圧下で熱処理することによりガラス材を得る工程>
次に、ガラス材前駆体を高圧下で熱処理することによりガラス材を得る。すなわち、ガラス材前駆体を加圧下で熱処理をすることによりガラス材を得る。より詳細には、ガラス材前駆体に対して所定の圧力を加えた状態で、所定の加熱温度で一定時間保持する熱処理を行うことによりガラス材を得る。
【0057】
加圧圧力は、1GPa以上、2GPa以上、3GPa以上、5GPa以上、7GPa以上、特に10GPa以上であることが好ましい。上記圧力で加圧することにより、得られるガラス材の屈折率を高めやすくなる。なお、加圧圧力の上限は特に限定されないが、例えば、30GPa以下、特に25GPa以下としてもよい。
【0058】
加熱温度は、ガラス転移点をTgとした際に、Tg-300℃~Tg+100℃の温度範囲内であることが好ましい。より詳細には、加熱温度が、Tg-300℃以上、Tg-250℃以上、特にTg-200℃以上であることが好ましい。また、加熱温度が、Tg+100℃以下、Tg+50℃以下、特にTg℃以下であることが好ましい。具体的には、加熱温度は、100℃以上、150℃以上、200℃以上、250℃以上、300℃以上、400℃以上、特に500℃以上とすることが好ましい。上記温度で加熱することにより、得られるガラス材の屈折率をより一層高めやすくなる。また、得られるガラス材のアッベ数νdを高めやすくなる。なお、加熱温度の上限は特に限定されないが、あまり高いと失透する恐れがある。加熱温度は、例えば、1000℃以下、特に800℃以下としてもよい。なお、ガラス転移点は、マクロ型示差熱分析計を用いて測定することができる。例えば、マクロ型示差熱分析計を用いて測定して得られたチャートにおいて、第一の変曲点の値をガラス転移点とすることができる。
【0059】
加熱処理時間は、30分以上、特に45分以上であることが好ましい。また、加熱処理時間は、2時間以内であることが好ましい。加熱処理時間が短すぎると、所望の屈折率が得られない恐れがある。加熱処理時間が長すぎると、ガラス材前駆体が失透したり、破損しやすくなる。
【0060】
上述した加圧圧力及び加熱温度でガラス材前駆体を処理することにより、本発明のガラス材を製造することができる。本発明のガラス材は、ガラス材前駆体と比較して屈折率が高くなりやすい。具体的には、ガラス材の屈折率ndが、ガラス材前駆体の屈折率ndに対して1%以上、特に1.1%以上高くなることが好ましい。言い換えると、ガラス材前駆体の屈折率ndに対するガラス材の屈折率ndの変化量が、1%以上、特に1.1%以上となることが好ましい。このように、本発明のガラス材の製造方法によれば、屈折率の高いガラス材を製造することができる。
【0061】
本発明のガラス材は、ガラス材前駆体と比較してアッベ数νdが大きくなりやすい。具体的には、ガラス材のアッベ数νdが、ガラス材前駆体のガラス材のアッベ数νdに対して0.5%以上、1%以上、特に2%以上大きくなることが好ましい。言い換えると、ガラス材前駆体のアッベ数νdに対するガラス材のアッベ数νdの変化量が、0.5%以上、1%以上、特に2%以上となることが好ましい。なお、一般的に、屈折率とアッベ数νdはトレードオフの傾向にあり、屈折率が高くなるとアッベ数νdは小さくなりやすい。しかしながら、本発明のガラス材の製造方法によれば、屈折率が高く、かつアッベ数νdが大きいガラス材を製造しやすくなる。
【実施例0062】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0063】
表1は本発明の実施例2、3、5、6及び比較例1、4を示している。
【0064】
【表1】
【0065】
実施例は以下のように作製した。はじめに、ガラス材前駆体として、La-TiO系ガラス材前駆体A(組成:10La-75TiO-10ZrO-5Gd(モル%)、Tg:796℃)及びLa-Nb系ガラス材前駆体B(組成:30La-70Nb(モル%)、Tg:725℃)を用意した。これらのガラス材前駆体は無容器浮遊法により作製した。
【0066】
次に、ガラス材前駆体A、Bをそれぞれφ4.5mm、3mmtに加工し、表1に記載の条件で高温高圧処理を行うことによりガラス材を作製した。より詳細には、ガラス材前駆体を表1に記載の処理圧力となるまで10時間かけて加圧し、当該圧力で保持した状態で加熱処理を行った。加熱処理は、具体的には、表1に記載の加熱温度(処理温度)で1時間保持した。なお、昇温速度は100℃/分とした。加熱処理後、ヒーターの電源を切ることにより急冷した。また、5時間かけて除圧し、ガラス材を得た。
【0067】
ガラス材前駆体A、Bをそれぞれ比較例1、4とした。
【0068】
ガラス材前駆体及びガラス材に対して、分光エリプソメータ(堀場製作所社製、UVISEL2)を用いて屈折率を測定した。また、得られた屈折率からアッベ数νdを算出し、ガラス材前駆体A、Bに対する変化量を算出した。なお、nd、nC、nFは、それぞれ波長585nm、655nm、485nmにおける屈折率の値とした。アッベ数νdは、nd、nC、nFの値から算出した。結果を表1に示す。また、図2に、本発明のガラス材及びガラス材前駆体の屈折率nd及びアッベ数νdをプロットしたグラフを示す。
【0069】
表1に示すように、実施例2、3、5、6のガラス材は、ガラス材前駆体と比べて屈折率ndが1.1%以上高くなった。また、アッベ数νdは0.4%以上変化した。特に、実施例3、5、6のガラス材は、ガラス材前駆体と比べてアッベ数νdが2.4%以上高くなった。
【符号の説明】
【0070】
1 製造装置
10 成形型
10a 成形面
10b ガス噴出孔
11 ガス供給機構
12 原料塊(浮遊対象物)
13 レーザー光照射装置
図1
図2