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特開2023-154804工具寿命予測装置、工具寿命予測方法および工作機械
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154804
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】工具寿命予測装置、工具寿命予測方法および工作機械
(51)【国際特許分類】
   B23Q 17/09 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
B23Q17/09 C
B23Q17/09 F
B23Q17/09 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064375
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000028
【氏名又は名称】弁理士法人明成国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石榑 祐貴
(72)【発明者】
【氏名】野々山 眞
(72)【発明者】
【氏名】米津 寿宏
(72)【発明者】
【氏名】栗栖 章
(72)【発明者】
【氏名】クンドゼーロブァ タチアナ
(72)【発明者】
【氏名】水野 尊広
(72)【発明者】
【氏名】ストイメノフ ボイコ
【テーマコード(参考)】
3C029
【Fターム(参考)】
3C029DD08
3C029DD11
3C029DD14
(57)【要約】
【課題】加工条件が変更されても工具の残寿命を予測可能な技術を提供する。
【解決手段】工具寿命予測装置は、複数の刃を有する工具の回転により切削加工を施される工作物に複数の刃のそれぞれが接触することで生じる物理量を検出するセンサからの出力信号を取得する信号取得部と、出力信号の自己相関係数を算出する自己相関係数算出部と、自己相関係数の波形を構成する複数の部分波形であって、複数の刃に対応する複数の部分波形同士のばらつき度合いを算出するばらつき度合い算出部と、ばらつきを指数に基づいて、工具の残寿命を予測する残寿命予測部と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
工具寿命予測装置であって、
複数の刃を有する工具の回転により切削加工を施される工作物に前記複数の刃のそれぞれが接触することで生じる物理量を検出するセンサからの出力信号を取得する信号取得部と、
前記出力信号の自己相関係数を算出する自己相関係数算出部と、
前記自己相関係数の波形を構成する複数の部分波形であって、前記複数の刃に対応する複数の部分波形同士のばらつき度合いを算出するばらつき度合い算出部と、
前記ばらつき度合いに基づいて、前記工具の残寿命を予測する残寿命予測部と、
を備える、工具寿命予測装置。
【請求項2】
請求項1に記載の工具寿命予測装置であって、
前記ばらつき度合い算出部は、前記複数の部分波形のピーク値を用いて前記ばらつき度合いを算出する、工具寿命予測装置。
【請求項3】
請求項2に記載の工具寿命予測装置であって、
前記ばらつき度合い算出部は、前記複数の部分波形のピーク値の近似直線を導出し、前記ピーク値と前記近似直線との差を、前記ばらつき度合いとして算出する、工具寿命予測装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の工具寿命予測装置であって、
前記残寿命予測部は、予め定められた閾値と前記ばらつき度合いとの差に基づいて、前記残寿命を予測する、工具寿命予測装置。
【請求項5】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の工具寿命予測装置であって、
前記残寿命予測部によって予測された前記残寿命が予め定められた値を下回った場合に、前記残寿命が前記値を下回ったことを報知する報知部を備える、工具寿命予測装置。
【請求項6】
工具寿命予測方法であって、
複数の刃を有する工具の回転により切削加工を施される工作物に前記複数の刃のそれぞれが接触することで生じる物理量を検出するセンサからの出力信号を取得する信号取得工程と、
前記出力信号の自己相関係数を算出する自己相関係数算出工程と、
前記自己相関係数の波形を構成する複数の部分波形であって、前記複数の刃に対応する複数の部分波形同士のばらつき度合いを算出するばらつき度合い算出工程と、
前記ばらつき度合いに基づいて、前記工具の残寿命を予測する残寿命予測工程と、
を有する、工具寿命予測方法。
【請求項7】
工作機械であって、
複数の刃を有する工具が装着される主軸を有し、前記主軸に装着された前記工具を回転させる主軸装置と、
前記工具の回転により切削加工を施される工作物が固定されるテーブルを有し、前記主軸に装着された前記工具に対して、前記テーブルに固定された前記工作物を相対移動させる移動装置と、
前記主軸装置と前記移動装置とを制御する制御装置と、
前記工作物に前記複数の刃のそれぞれが接触することで生じる物理量を検出するセンサと、
を備え、
前記制御装置は、
前記センサからの出力信号を取得する信号取得部と、
前記出力信号の自己相関係数を算出する自己相関係数算出部と、
前記自己相関係数の波形を構成する複数の部分波形であって、前記複数の刃に対応する複数の部分波形同士のばらつき度合いを算出するばらつき度合い算出部と、
前記ばらつき度合いに基づいて、前記工具の残寿命を予測する残寿命予測部と、
を有する、工作機械。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、工具寿命予測装置、工具寿命予測方法および工作機械に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、切削加工中に工具近傍にて計測される振動加速度のピーク値が閾値を超えた場合に加工条件を変更することによって、切削加工中に工具が破損して加工不良が生じることを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2010-257010号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した技術では、切削加工中に加工条件を変更することで、切削加工中に工具が破損することを防止している。切削加工中に工具が破損することをより確実に防止するためには、工具の残寿命を予測しておくことが好ましい。例えば、工具の残寿命が少なくなるほど工具の刃が工作物に接触するときに生じる振動や切削音等が増加するので、振動の大きさや切削音の大きさに基づいて工具の残寿命を予測することが考えられる。しかしながら、加工条件が異なれば上述した振動の大きさや切削音の大きさも異なる。そのため、例えば、多品種少量生産ラインのように、加工条件の変更頻度が高い環境下で工具が用いられる場合には、上述したように振動の大きさや切削音の大きさに基づいて工具の残寿命を予測することは難しい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本開示は、以下の形態として実現することが可能である。
【0006】
(1)本開示の第1の形態によれば、工具寿命予測装置が提供される。この工具寿命予測装置は、複数の刃を有する工具の回転により切削加工を施される工作物に前記複数の刃のそれぞれが接触することで生じる物理量を検出するセンサからの出力信号を取得する信号取得部と、前記出力信号の自己相関係数を算出する自己相関係数算出部と、前記自己相関係数の波形を構成する複数の部分波形であって、前記複数の刃に対応する複数の部分波形同士のばらつき度合いを算出するばらつき度合い算出部と、前記ばらつき度合いに基づいて、前記工具の残寿命を予測する残寿命予測部と、を備える。
この形態の工具寿命予測装置によれば、残寿命予測部は、複数の部分波形同士のばらつき度合いに基づいて工具の残寿命を予測する。工具の各刃の摩耗が進行するほど、各刃の摩耗のばらつき度合いが大きくなって、複数の部分波形同士のばらつき度合いが大きくなる。複数の部分波形同士のばらつき度合いは、加工時間の増加に伴って変化するが、加工条件の変更によっては変化しない。そのため、残寿命予測部は、加工条件が変更されたとしても、工具の残寿命を予測できる。
(2)上記形態の工具寿命予測装置において、前記ばらつき度合い算出部は、前記複数の部分波形のピーク値を用いて前記ばらつき度合いを算出してもよい。
この形態の工具寿命予測装置によれば、部分波形全体でばらつき度合いを算出する形態に比べて、ばらつき度合いを算出する際の負担を軽減できる。
(3)上記形態の工具寿命予測装置において、前記ばらつき度合い算出部は、前記複数の部分波形のピーク値の近似直線を導出し、前記ピーク値と前記近似直線との差を、前記ばらつき度合いとして算出してもよい。
この形態の工具寿命予測装置によれば、複数の部分波形同士のばらつきが大きくなるほどピーク値と近似直線との差が大きくなるので、ばらつき度合いを精度良く表すことができる。そのため、残寿命の予測精度を高めることができる。
(4)上記形態の工具寿命予測装置において、前記残寿命予測部は、予め定められた閾値と前記ばらつき度合いとの差に基づいて、前記残寿命を予測してもよい。
この形態の工具寿命予測装置によれば、ばらつき度合いが閾値に到達するまでの残り加工時間を工具の残寿命として予測できる。
(5)上記形態の工具寿命予測装置は、前記残寿命予測部によって予測された前記残寿命が予め定められた値を下回った場合に、前記残寿命が前記値を下回ったことを報知する報知部を備えてもよい。
この形態の工具寿命予測装置によれば、残寿命が少なくなった場合に、残寿命が少なくなったことをユーザに報知できるので、切削加工中に工具が寿命を迎えて加工不良が生じることを抑制できる。
(6)本開示の第2の形態によれば、工具寿命予測方法が提供される。この工具寿命予測方法は、複数の刃を有する工具の回転により切削加工を施される工作物に前記複数の刃のそれぞれが接触することで生じる物理量を検出するセンサからの出力信号を取得する信号取得工程と、前記出力信号の自己相関係数を算出する自己相関係数算出工程と、前記自己相関係数の波形を構成する複数の部分波形であって、前記複数の刃に対応する複数の部分波形同士のばらつき度合いを算出するばらつき度合い算出工程と、前記ばらつき度合いに基づいて、前記工具の残寿命を予測する残寿命予測工程と、を有する。
この形態の工具寿命予測方法によれば、残寿命予測工程では、複数の部分波形同士のばらつき度合いに基づいて工具の残寿命を予測する。工具の各刃の摩耗が進行するほど、各刃の摩耗のばらつき度合いが大きくなって、複数の部分波形同士のばらつき度合いが大きくなる。複数の部分波形同士のばらつき度合いは、加工時間の増加に伴って変化するが、加工条件の変更によっては変化しない。そのため、加工条件が変更されたとしても、工具の残寿命を予測できる。
(7)本開示の第3の形態によれば、工作機械が提供される。この工作機械は、複数の刃を有する工具が装着される主軸を有し、前記主軸に装着された前記工具を回転させる主軸装置と、前記工具の回転により切削加工を施される工作物が固定されるテーブルを有し、前記主軸に装着された前記工具に対して、前記テーブルに固定された前記工作物を相対移動させる移動装置と、前記主軸装置と前記移動装置とを制御する制御装置と、前記工作物に前記複数の刃のそれぞれが接触することで生じる物理量を検出するセンサと、を備える。前記制御装置は、前記センサからの出力信号を取得する信号取得部と、前記出力信号の自己相関係数を算出する自己相関係数算出部と、前記自己相関係数の波形を構成する複数の部分波形であって、前記複数の刃に対応する複数の部分波形同士のばらつき度合いを算出するばらつき度合い算出部と、前記ばらつき度合いに基づいて、前記工具の残寿命を予測する残寿命予測部と、を有する。
この形態の工作機械によれば、残寿命予測部は、複数の部分波形同士のばらつき度合いに基づいて工具の残寿命を予測する。工具の各刃の摩耗が進行するほど、各刃の摩耗のばらつき度合いが大きくなって、複数の部分波形同士のばらつき度合いが大きくなる。複数の部分波形同士のばらつき度合いは、加工時間の増加に伴って変化するが、加工条件の変更によっては変化しない。そのため、残寿命予測部は、加工条件が変更されたとしても、工具の残寿命を予測できる。
本開示は、工具寿命予測装置や、工具寿命予測方法や、工作機械以外の種々の形態で実現することも可能である。例えば、工作機械の制御装置等の形態で実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1】第1実施形態の工作機械の概略構成を示す斜視図。
図2】第1実施形態の制御装置の機能構成を示す説明図。
図3】工具に設けられた刃を示す断面図。
図4】工具寿命予測処理の内容を示すフローチャート。
図5】センサの出力信号の波形を示す第1の説明図。
図6】センサの出力信号の波形を示す第2の説明図。
図7】センサの出力信号の自己相関関数を示す説明図。
図8】工具の残寿命の予測結果を模式的に示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0008】
A.第1実施形態:
図1は、第1実施形態における工作機械11の概略構成を示す斜視図である。本実施形態では、工作機械11は、立型マシニングセンタである。工作機械11は、互いに直交する3つの座標軸であるX,Y,Z軸を有している。本実施形態では、X軸は工作機械11の左右方向に沿った座標軸であり、Z軸は工作機械11の前後方向に沿った座標軸であり、Y軸は工作機械11の上下方向に沿った座標軸である。
【0009】
工作機械11は、主軸装置100と、移動装置200と、センサ300と、制御装置400とを備えている。主軸装置100は、主軸110と、主軸モータ115と、回転角検出器120とを備えている。主軸110には、工具TLが装着される。後述するように、工具TLは、先端部に複数の刃を有している。本実施形態では、工具TLは、エンドミルである。主軸モータ115には、例えば、サーボモータや、ビルトインモータを用いることができる。回転角検出器120には、例えば、ロータリエンコーダを用いることができる。
【0010】
主軸装置100は、主軸モータ115によって、Y軸に平行な回転軸RXを中心にして、主軸110を回転させる。主軸110の回転に伴って、主軸110に装着された工具TLが回転軸RXを中心にして回転する。回転角検出器120は、主軸110の回転角度、換言すれば、工具TLの回転角度を検出する。回転角検出器120によって検出された回転角度を表す信号は、制御装置400に送信される。
【0011】
移動装置200は、サドル220と、テーブル230とを備えている。テーブル230には、工作物WKが固定される。移動装置200は、主軸110に装着された工具TLに対して、テーブル230に固定された工作物WKを相対移動させる。後述するように、工作物WKは、工具TLによって切削加工を施される。
【0012】
本実施形態では、ベッド210の上面には、Z軸に沿って第1レール215が設けられている。第1レール215の上には、サドル220が配置されている。サドル220の上面には、X軸に沿って第2レール225が設けられている。第2レール225の上には、テーブル230が配置されている。ベッド210とサドル220とには、それぞれ、図示されていないサーボモータおよびボールネジが設けられている。ベッド210は、第1レール215によってサドル220をガイドしつつ、サーボモータおよびボールネジによって、サドル220をZ軸に沿って移動させる。サドル220の移動に伴って、テーブル230と工作物WKとが移動する。サドル220は、第2レール225によってテーブル230をガイドしつつ、サーボモータおよびボールネジによって、テーブル230をX軸に沿って移動させる。テーブル230の移動に伴って、工作物WKが移動する。
【0013】
本実施形態では、コラム240は、ベッド210の上面に固定されている。コラム240の側面には、Y軸に沿って第3レール245が設けられている。第3レール245には、主軸装置100が接続されている。コラム240には、図示されていないサーボモータおよびボールネジが設けられている。コラム240は、第3レール245によって主軸装置100をガイドしつつ、サーボモータおよびボールネジによって、主軸装置100をY軸に沿って移動させる。
【0014】
センサ300は、工具TLに設けられた各刃が工作物WKに切り込むことで生じる物理量を検出する。工具TLに設けられた各刃が工作物WKに切り込むことで生じる物理量とは、例えば、工具TLあるいは工作物WKの振動の加速度や、切削音や、工具TLを回転させる主軸モータ115の負荷電流のことを意味する。切削音には、可聴音だけではなく、超音波が含まれる。センサ300には、切削音を検出するマイクロフォンや超音波マイクが用いられることが好ましい。超音波マイクは環境音の影響を受けにくいので、超音波マイクがセンサ300として用いられることが特に好ましい。センサ300には、工具TLあるいは工作物WKの振動の加速度を検出する加速度センサや、AE波を検出するAEセンサが用いられてもよい。工具TLが大型で且つ低速で回転する場合には、センサ300には、工具TLを回転させる主軸モータ115の負荷電流を検出する電流センサが用いられてもよい。本実施形態では、センサ300は、工具TLに設けられた各刃が工作物WKに切り込むことで生じる工具TLの振動の加速度を検出する加速度センサであり、主軸110に設けられている。センサ300によって検出された加速度を表す信号は、制御装置400に送信される。本実施形態では、センサ300と制御装置400との間には、センサ300から出力された信号に含まれるノイズを低減させるためのフィルタ回路350が設けられている。フィルタ回路350には、例えば、後述する工具回転周波数以上の周波数成分を通過させ、それ以外の周波数成分を遮断するハイパスフィルタが用いられる。なお、フィルタ回路350には、ハイパスフィルタではなく、例えば、後述する工具回転周波数から切れ刃通過周波数までの範囲の周波数成分を通過させ、それ以外の周波数成分を遮断するバンドパスフィルタが用いられてもよい。
【0015】
制御装置400は、CPU401と、メモリ402と、入出力インターフェース403とを備えたコンピュータとして構成されている。さらに、本実施形態では、制御装置400は、表示装置405を備えている。表示装置405は、例えば、液晶ディスプレイで構成される。
【0016】
図2は、本実施形態における制御装置400の機能構成を示す説明図である。本実施形態では、制御装置400は、NC制御部410と、信号取得部420と、自己相関係数算出部430と、ばらつき度合い算出部440と、残寿命予測部450と、報知部460と、学習部470とを有している。NC制御部410、信号取得部420、自己相関係数算出部430、ばらつき度合い算出部440、残寿命予測部450、報知部460、および、学習部470は、それぞれ、メモリ402に格納されたコンピュータプログラムをCPU401が実行することによってソフトウェア的に実現される。
【0017】
NC制御部410は、主軸装置100と移動装置200とを制御することによって、工作物WKに対して工具TLによる切削加工を施す。本実施形態では、NC制御部410は、主軸装置100に設けられた主軸モータ115を駆動させることにより、主軸110に装着されている工具TLを回転させるとともに、移動装置200に設けられた各サーボモータを駆動させることにより、テーブル230に固定されている工作物WKを工具TLに対して、工具TLの回転軸RXに直交する方向に相対移動させることで、工作物WKの側面に工具TLによる切削加工を施す。本実施形態では、NC制御部410は、工具TLによる加工時間をカウントして、メモリ402に記憶させる。
【0018】
信号取得部420は、切削加工時にセンサ300から出力される出力信号を取得する。自己相関係数算出部430は、信号取得部420によって取得されたセンサ300からの出力信号の自己相関係数を算出する。後述するように、自己相関係数算出部430によって算出される自己相関係数の波形は、工具TLの有する複数の刃に対応する複数の部分波形によって構成される。ばらつき度合い算出部440は、複数の部分波形同士のばらつき度合いを算出する。残寿命予測部450は、ばらつき度合い算出部440によって算出されたばらつき度合いを用いて、工具TLの残寿命を予測する。報知部460は、残寿命予測部450の予測結果に応じて、工具TLの残寿命に関する情報をユーザに報知する。学習部470は、残寿命の予測に用いられる学習モデルMDの機械学習を実行し、学習済みの学習モデルMDをメモリ402に格納する。なお、制御装置400のことを工具寿命予測装置と呼ぶことがある。
【0019】
図3は、工具TLの先端部に設けられた4つの刃B1~B4を示す断面図である。上述したとおり、本実施形態では、工具TLは、エンドミルである。本実施形態では、工具TLの先端部には、4つの刃B1~B4が設けられている。各刃B1~B4は、工具TLの側面に、工具TLの中心軸CLを中心とする円周方向CDに沿って等間隔で設けられている。なお、工具TLの刃B1~B4の数は、4つに限られず、2つ以上であればよい。
【0020】
本実施形態では、工具TLは、その中心軸CLを中心として、図3における時計回りに回転する。以下の説明では、工具TLが1回転する時間のことを工具回転周期と呼ぶ。工具TLの複数の刃B1~B4のいずれか1つが工作物WKに切り込んでから、当該刃に対して工具TLの回転方向の後方に隣り合う刃が工作物WKに切り込むまでの時間間隔のことを切れ刃通過周期と呼ぶ。工具TLが定速で回転しているときの切れ刃通過周期は、工具回転周期を工具TLの刃の数で割ることによって算出できる。工具回転周期は、回転角検出器120によって取得できる。
【0021】
工具TLの各刃B1~B4は、工作物WKの切削を繰り返すことによって摩耗する。ここでいう、摩耗とは、工具TLの刃先が擦り減って切れ味が低下することを意味する。本実施形態では、主軸装置100が工具TLを回転させ、移動装置200が、回転している工具TLに対して、工具TLの回転軸RXに直交する方向に沿って工作物WKを相対移動させることにより、工作物WKの側面に対して工具TLによる切削加工が施される。切削加工時には、工具TLの各刃B1~B4が次々に工作物WKの側面に切り込む。最初に工作物WKに刃が切り込むタイミングには、その後に工作物WKに刃が切り込むタイミングに比べて大きな力が刃に加えられるので、最初に工作物WKに切り込む刃は、その他の刃に比べて摩耗あるいは損傷する。最初に工作物WKに切り込む刃は毎回同じではないため、工具TLの各刃B1~B4の摩耗や損傷が均等に進行せずに、各刃B1~B4の摩耗や損傷にばらつきが生じる。工具TLの摩耗や損傷が進行するほど、各刃B1~B4の摩耗や損傷のばらつき度合いが大きくなる。そこで、本実施形態では、各刃B1~B4の摩耗や損傷のばらつき度合いが所定の大きさ以上になって、所望の切れ味が確保できなくなったときに、工具TLが寿命を迎えたとする。
【0022】
図4は、本実施形態における制御装置400によって実行される工具寿命予測処理の内容を示すフローチャートである。図5は、切削加工中にセンサ300から出力される出力信号SGの波形を示す第1の説明図である。図6は、上記出力信号SGの波形を示す第2の説明図である。図7は、上記出力信号SGの自己相関関数を示す説明図である。図5から図6において、横軸は、時間を表しており、縦軸は、センサ300の出力信号の値を表している。図7において、横軸は、後述するラグを表しており、縦軸は、後述する自己相関係数を表している。
【0023】
本実施形態では、図4に示す工具寿命予測処理は、工作機械11による切削加工の実行中に、制御装置400のCPU401によって実行される。工具寿命予測処理が開始されると、まず、ステップS110にて、信号取得部420は、切削加工中にセンサ300から出力される出力信号SGを取得する。図5には、出力信号SGの波形が表されている。本実施形態では、出力信号SGは、工具TLに生じる振動の加速度の変化に応じて変化する。信号取得部420は、振動の加速度を工具回転周期に比べて十分に長い期間計測することで得られる出力信号SGを取得する。
【0024】
図4のステップS120にて、自己相関係数算出部430は、ステップS110で取得した出力信号SGのうちの一部の区間を抽出する。自己相関係数算出部430は、出力信号SGのうち、振幅や周波数が安定した区間を抽出する。図5では、時刻t1から時刻t2までの区間において、出力信号SGの振幅や周波数が安定しているので、自己相関係数算出部430は、出力信号SGのうち、時刻t1から時刻t2までの区間を抽出する。図6には、出力信号SGのうち、時刻t1から時刻t2までの区間の波形が表されている。なお、例えば、時刻t3から時刻t4までの区間のように、出力信号SGの振幅や周波数の不安定な区間が抽出されると、後述するばらつき度合いの精度が低下するので、自己相関係数算出部430は、このような区間を抽出しないことが好ましい。
【0025】
図4のステップS130にて、自己相関係数算出部430は、出力信号SGの自己相関係関数を導出する。自己相関関数とは、信号の波形を時間軸に沿ってシフトさせたときの、シフト量に対するシフト前の波形とシフト後の波形との類似度を表す関数である。シフト量のことをラグと呼ぶ。類似度のことを自己相関係数と呼ぶ。自己相関係数は、-1.0以上、かつ、1.0以下の値になる。自己相関係数が大きいほど、シフト前の波形とシフト後の波形との類似度が高い。自己相関関数は、下式(1)を用いて表すことができる。
【数1】
ここで、Rxx(τ)は、出力信号SGの自己相関関数である。τは、上述したラグである。E[]は、[]内の期待値演算子である。x(t)は、出力信号SGである。x(t+τ)は、時間軸に沿ってシフトさせた出力信号SGである。図7には、出力信号SGの自己相関係数の波形Wが表されている。自己相関係数の波形Wは、工具TLの複数の刃B1~B4に対応する複数の部分波形PWによって構成されている。図7の横軸に沿った各部分波形PWの長さは、切れ刃通過周期Tpに対応している。
【0026】
図4のステップS140にて、ばらつき度合い算出部440は、自己相関係数の波形WのピークPKを検出する。図7に示すように、ラグτの大きさが工具回転周期Trの整数倍に対応するときには、工具TLの各刃B1~B4が工作物WKに切り込むことによって生じた出力信号SGの波形の各山と、各刃B1~B4自身が工作物WKに切り込むことによって生じた出力信号SGの波形の各山とが重なるので、自己相関係数の波形WにピークPKが現れる。
【0027】
図4のステップS150にて、ばらつき度合い算出部440は、ステップS140で検出した各ピークPKの近似直線を導出する。図7に示すように、本実施形態では、ばらつき度合い算出部440は、最小二乗法によって、各ピークPKの近似直線を導出する。
【0028】
図4のステップS160にて、ばらつき度合い算出部440は、自己相関係数の波形Wを構成する各部分波形PWのばらつき度合いVB、換言すれば、工具TLの各刃B1~B4の摩耗や損傷のばらつき度合いVBを算出する。本実施形態では、ばらつき度合い算出部440は、各部分波形PWのピークPKごとの、ピーク値と近似直線との差を算出する。ばらつき度合い算出部440は、各ピーク値と近似直線との差のうちの最大値を、ばらつき度合いVBとして取得する。図7では、ばらつき度合い算出部440は、ラグτの大きさが工具回転周期Trに対応するときの、ピーク値と近似直線との差をばらつき度合いVBとして取得する。
【0029】
工具TLの各刃B1~B4の摩耗や損傷のばらつきが大きくなると、各刃B1~B4が工作物WKに切り込んだときの工具TLの振動の加速度、工作物WKの振動の加速度、切削音、および、主軸モータ115の負荷のばらつきが大きくなる。本実施形態では、センサ300の出力信号SGと工具TLの振動の加速度とが対応しているので、各刃B1~B4の摩耗や損傷のばらつきが大きくなると、各刃B1~B4が工作物WKに切り込んだときの出力信号SGのばらつきが大きくなる。したがって、各ピーク値と近似直線との差のうちの最大値を、各刃B1~B4の摩耗や損傷のばらつきの大きさを表す指標とすることができる。
【0030】
ステップS170にて、残寿命予測部450は、ステップS160で算出したばらつき度合いVBを用いて、工具TLの残寿命を予測する。本実施形態では、残寿命予測部450は、工具TLのばらつき度合いVBが閾値に到達するまでの残りの加工時間を、工具TLの残寿命として予測する。例えば、予め行われる試験によって、工作物WKの切れ味が許容範囲外になるときの工具TLのばらつき度合いVBを調べ、このときのばらつき度合いVBを閾値として用いることができる。
【0031】
本実施形態では、残寿命予測部450は、メモリ402に格納された学習済みの学習モデルMDを用いて、工具TLの残寿命を予測する。学習モデルMDには、例えば、ニューラルネットワークを用いることができる。学習モデルMDは、過去のばらつき度合いVBと累積加工時間とのペアを教師データとして学習することにより、現在のばらつき度合いVBが入力されると、今後のばらつき度合いVBの増加傾向を表す予測線を出力するように構成されている。残寿命予測部450は、学習モデルMDから出力された予測線に基づいて、工具TLのばらつき度合いVBが閾値に到達するまでの残りの加工時間を予測する。なお、他の実施形態では、学習モデルMDは、予め行われる試験によって得られたばらつき度合いVBと残寿命とのペアを教師データとして学習することにより、ばらつき度合いVBが入力されると残寿命を出力するように構成されてもよい。
【0032】
ステップS180にて、残寿命予測部450は、予測結果を出力する。本実施形態では、残寿命予測部450は、予測結果を表示装置405に表示させるとともに、報知部460に送信する。図8には、表示装置405に表示される予測結果が表されている。本実施形態では、報知部460は、残寿命予測部450によって予測された工具TLの残寿命が所定値を下回った場合に、工具TLの寿命が近いことをユーザに報知する。本実施形態では、報知部460は、表示装置405にメッセージを表示させることによって、工具TLの寿命が近いことをユーザに報知する。なお、他の実施形態では、工具TLの寿命が近いことを報知するためのブザーが工作機械11に設けられて、報知部460は、当該ブザーを鳴動させることにより、工具TLの寿命が近いことをユーザに報知してもよい。あるいは、工具TLの寿命が近いことを報知するためのランプが工作機械11に設けられて、6は、当該ランプを点灯させることにより、工具TLの寿命が近いことをユーザに報知してもよい。
【0033】
その後、制御装置400のCPU401は、この処理を終了する。なお、工具寿命予測処理によって実行される方法のことを工具寿命予測方法と呼ぶことがある。ステップS110のことを信号取得工程と呼ぶことがある。ステップS120からステップS130までのことを自己相関係数算出工程と呼ぶことがある。ステップS140からステップS160までのことをばらつき度合い算出工程と呼ぶことがある。ステップS170のことを残寿命予測工程と呼ぶことがある。ステップS180のことを報知工程と呼ぶことがある。
【0034】
以上で説明した本実施形態の工作機械11では、残寿命予測部450は、自己相関係数の波形Wを構成する各部分波形PWのばらつき度合いVB、換言すれば、工具TLの各刃B1~B4の摩耗や損傷のばらつき度合いVBに基づいて工具TLの残寿命を予測する。ばらつき度合いVBは、切削加工中の工作物WKの振動を検出するセンサ300から出力された出力信号SGの自己相関関数を用いて算出される値であり、加工時間の増加に伴って変化するが、加工条件の変更によっては変化しない。そのため、残寿命予測部450は、加工条件が変更されたとしても、工具TLの残寿命を予測できる。
【0035】
また、本実施形態では、ばらつき度合い算出部440は、複数の部分波形PWのピーク値を用いてばらつき度合いVBを算出する。そのため、部分波形PWの波形全体でばらつき度合いを算出する形態に比べて、CPU401やメモリ402の負担を軽減できる。
【0036】
また、本実施形態では、ばらつき度合い算出部440は、複数の部分波形PWのピーク値の近似直線を導出し、ピーク値と近似直線との差を、ばらつき度合いVBとして算出する。工具TLの各刃B1~B4の摩耗や損傷のばらつきが大きくなるほどピーク値と近似直線との差が大きくなる。そのため、上述した方法で算出したばらつき度合いVB用いることにより、各刃B1~B4の摩耗や損傷のばらつきを精度良く検出できる。
【0037】
また、本実施形態では、残寿命予測部450は、ばらつき度合いVBが閾値に到達するまでの残り加工時間を工具TLの残寿命として予測する。そのため、工具TLの残寿命を容易に予測できる。特に、本実施形態では、過去の実績を教師データに用いて学習済みの学習モデルMDを用いて残寿命を予測するので、工具TLの残寿命を精度良く予測できる。
【0038】
また、本実施形態では、制御装置400は、残寿命予測部450によって予測された残寿命が予め定められた値を下回った場合に、残寿命が上記値を下回ったことを報知する報知部460を備えている。そのため、残寿命が短くなった場合に、残寿命が短くなったことをユーザに報知できるので、切削加工中に工具TLが寿命に達して、工作物WKに加工不良が生じることを抑制できる。
【0039】
B.他の実施形態:
(B1)上述した第1実施形態の工作機械11は、立型マシニングセンタである。これに対して、工作機械11は、立型マシニングセンタではなく、例えば、横型マシニングセンタや、NCフライス盤であってもよい。工具TLは、エンドミルではなく、例えば、平フライスなどのエンドミル以外のフライス工具でもよい。
【0040】
(B2)上述した第1実施形態では、制御装置400は、NC制御部410と、信号取得部420と、自己相関係数算出部430と、ばらつき度合い算出部440と、残寿命予測部450と、報知部460と、学習部470とを有している。これに対して、信号取得部420、自己相関係数算出部430、ばらつき度合い算出部440、残寿命予測部450、報知部460、学習部470は、制御装置400に接続されたコンピュータに設けられてもよい。この場合、制御装置400ではなく、当該コンピュータのことを工具寿命予測装置と呼ぶ。
【0041】
(B3)上述した第1実施形態において、自己相関係数算出部430は、上述した式(1)ではなく下式(2)によって自己相関関数を導出してもよい。下式(2)によって表される関数ACF(τ)は、正確には自己相関関数に似た関数であるが、ここでは、関数ACF(τ)のことも自己相関関数と呼ぶ。厳密に言うと、自己相関に似せた関数である。
ACF(τ)=IFFT(|FFT(x(t))|) ・・・(2)
ここで、ACF(τ)は、出力信号SGの自己相関関数である。τは、ラグである。x(t)は、出力信号SGである。tは、時間である。FFT()は、括弧内の高速フーリエ変換である。IFFT()は、括弧内の逆高速フーリエ変換である。
【0042】
(B4)上述した第1実施形態では、残寿命予測部450は、学習済みの学習モデルMDを用いて工具TLの残寿命を予測している。これに対して、残寿命予測部450は、学習モデルMDを用いずに、工具TLの残寿命を予測してもよい。例えば、最小二乗法などによって、過去のばらつき度合いVBと累積加工時間との関係を表す点群の近似直線を導出し、近似直線を用いて残寿命を算出してもよい。
【0043】
(B5)上述した第1実施形態では、ばらつき度合い算出部440は、自己相関係数の波形のピーク値を用いて、ばらつき度合いVBを算出している。これに対して、ばらつき度合い算出部440は、ピークPKからずれた位置での自己相関係数を用いてばらつき度合いVBを算出してもよい。
【0044】
本開示は、上述の実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において種々の構成で実現することができる。例えば、発明の概要の欄に記載した各形態中の技術的特徴に対応する実施形態中の技術的特徴は、上述の課題の一部又は全部を解決するために、あるいは、上述の効果の一部又は全部を達成するために、適宜、差し替えや、組み合わせを行うことが可能である。また、その技術的特徴が本明細書中に必須なものとして説明されていなければ、適宜、削除することが可能である。
【符号の説明】
【0045】
11…工作機械、100…主軸装置、110…主軸、115…主軸モータ、120…回転角センサ、200…移動装置、210…ベッド、215…第1レール、220…サドル、225…第2レール、230…テーブル、240…コラム、245…第3レール、300…センサ、350…フィルタ回路、400…制御装置、401…CPU、402…メモリ、403…入出力インターフェース、405…表示装置、410…NC制御部、420…信号取得部、430…自己相関係数算出部、440…ばらつき度合い算出部、450…残寿命予測部、460…報知部、470…学習部、B1~B4…刃、TL…工具、WK…工作物
図1
図2
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図7
図8