(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154819
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】スプルーブッシュ
(51)【国際特許分類】
B22D 17/22 20060101AFI20231013BHJP
B22C 9/08 20060101ALI20231013BHJP
B22C 9/06 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B22D17/22 S
B22D17/22 T
B22C9/08 B
B22C9/06 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064405
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000100791
【氏名又は名称】アイシン軽金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100114074
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 嘉一
(74)【代理人】
【識別番号】100222324
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 千明
(72)【発明者】
【氏名】奥野 隆志
【テーマコード(参考)】
4E093
【Fターム(参考)】
4E093NA01
4E093NB02
4E093PA03
(57)【要約】
【課題】ダイカスト用金型においてランナー近傍を効率よく冷却でき、冷媒漏れのリスクや部品交換コストを低減可能で、ダイカスト鋳造された鋳造品の品質向上を図ることができるスプルーブッシュの提供を目的とする。
【解決手段】固定金型に取り付けられ、可動金型との間にランナーを形成するスプルーブッシュであって、ブッシュ本体と該ブッシュ本体の外周面に嵌合する中間スリーブと、該中間スリーブの外周面に嵌合し該中間スリーブとで冷媒路を形成する外側スリーブとを備え、前記中間スリーブのランナーを形成する先端の近傍に前記冷媒路の一部が配設されていることを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定金型に取り付けられ、可動金型との間にランナーを形成するスプルーブッシュであって、
ブッシュ本体と該ブッシュ本体の外周面に嵌合する中間スリーブと、該中間スリーブの外周面に嵌合し該中間スリーブとで冷媒路を形成する外側スリーブとを備え、
前記中間スリーブのランナーを形成する先端の近傍に前記冷媒路の一部が配設されていることを特徴とするスプルーブッシュ。
【請求項2】
前記ブッシュ本体は先端に向かって徐々に肉薄になるように形成され、
前記可動金型との間で、前記ブッシュ本体の先端側の薄肉部が軸方向に第1ランナーを形成し、さらに前記中間スリーブの先端が軸方向におよそ垂直な方向に第2ランナーを形成することを特徴とする請求項1に記載のスプルーブッシュ。
【請求項3】
前記中間スリーブの周方向に沿って複数の冷媒路を有し、少なくとも先端側と基端側の冷媒路が異なる冷媒の供給孔及び排出孔を有していることを特徴とする請求項1又は2に記載のスプルーブッシュ。
【請求項4】
前記ブッシュ本体は基端側に鍔部を有し、
前記中間スリーブは前記鍔部に対向するフランジ部を有し、
前記鍔部、フランジ部及び外側スリーブの基端側がともに固定部材で固定されることを特徴とする請求項1又は2に記載のスプルーブッシュ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイカスト金型用のスプルーブッシュに関する。
【背景技術】
【0002】
ダイカスト金型への湯口となるとともに、ランナーを形成するスプルーブッシュが知られている。
例えば、特許文献1に開示するスプルーブッシュ(湯口スリーブ)は、略円筒状の内周側部材と外周側部材からなり、内周側部材の先端側と分流子との間でランナーを形成する。
内周側部材には、その先端側近傍まで軸方向に沿って冷却穴が形成されてあり、ここに冷却水を流通することでランナー近傍を冷却する。
これにより、ランナーを通過する金属溶湯の凝固冷却を促進し、キャビティに充填される溶湯温度を低下させることで、鋳造品の冷却時間を短縮して生産効率を向上させる。
しかし、同公報に開示するような内周側部材の場合、その内側が直接高温の溶湯に触れ、外側に形成した冷却穴を冷却水が流通するために、内周側部材は熱応力による亀裂や割れ、いわゆる熱疲労破壊を起こしやすい。
内周側部材に亀裂等が発生しやすければ、水漏れのリスクが上昇するだけでなく、短期間で使用不可となれば新品への交換コストが増大するなど、様々な問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、ダイカスト用金型においてランナー近傍を効率よく冷却でき、冷媒漏れのリスクや部品交換コストを低減可能で、ダイカスト鋳造された鋳造品の品質向上を図ることができるスプルーブッシュの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係るスプルーブッシュは、固定金型に取り付けられ、可動金型との間にランナーを形成するスプルーブッシュであって、ブッシュ本体と該ブッシュ本体の外周面に嵌合する中間スリーブと、該中間スリーブの外周面に嵌合し該中間スリーブとで冷媒路を形成する外側スリーブとを備え、前記中間スリーブのランナーを形成する先端の近傍に前記冷媒路の一部が配設されていることを特徴とする。
【0006】
本発明のスプルーブッシュは、ブッシュ本体、中間スリーブ及び外側スリーブの三重構造を備え、可動金型との間でランナーを形成する中間スリーブの先端に対し、その近傍に冷媒路の一部を配設してある。
これにより、熱的負荷の最も高いランナーの近傍を冷却できるとともに、中間スリーブの内側に配設されたブッシュ本体を、その熱疲労破壊を抑制しながら間接的に効率良く冷却でき、中間スリーブが熱疲労破壊の影響を受けた場合には、中間スリーブだけを交換してブッシュ本体を再利用できる。
例えば、ブッシュ本体は高温の溶湯に多く接触するために高い硬度の素材であっても、中間スリーブや外側スリーブの硬度を低く設定できるので、冷媒路を形成する中間スリーブや外側スリーブの割れ等を防止しやすく、これによっても冷媒漏れを抑制しやすい。
【0007】
本発明において、前記ブッシュ本体は先端に向かって徐々に肉薄になるように形成され、前記可動金型との間で、前記ブッシュ本体の先端側の薄肉部が軸方向に第1ランナーを形成し、さらに前記中間スリーブの先端が軸方向におよそ垂直な方向に第2ランナーを形成することが好ましい。
例えば、スプルーブッシュは可動金型に設けた分流子との間でランナーを形成する。
この際、分流子との間でブッシュ本体の薄肉部は軸方向に第1ランナーを形成し、中間スリーブの先端は軸方向におよそ垂直な方向に第2ランナーを形成することになる。
冷媒路を中間スリーブの先端近傍に配設することで、第1ランナーを通過する溶湯に対しても、肉厚の薄い薄肉部を介して効率的に冷却できる。
【0008】
本発明において、前記中間スリーブの周方向に沿って複数の冷媒路を有し、少なくとも先端側と基端側の冷媒路が異なる冷媒の供給孔及び排出孔を有していることが好ましい。
このようにすると、中間スリーブの先端側の冷媒路に効果的に冷媒を流通できる。
また、本発明において、前記ブッシュ本体は基端側に鍔部を有し、前記中間スリーブは前記鍔部に対向するフランジ部を有し、前記鍔部、フランジ部及び外側スリーブの基端側がともに固定部材で固定されてもよい。
このようにすれば溶接レスが可能で、熱疲労破壊を受けやすい溶接部を有さないスプルーブッシュとなり、固定部材である固定ボルト等を外すことで、中間スリーブの交換も容易にできる。
また、中間スリーブと外側スリーブの嵌合を妨げないように両者の間にシールリングを設けることで、より冷媒漏れを防ぐことができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、スプルーブッシュを構成する中間スリーブに対し、その先端の近傍に冷媒路の一部を配設することで、ランナーを通過する溶湯を効率良く冷却できる。
特にランナーが軸方向からおよそ垂直方向に立ち上がる部分には、溶湯の冷却が不十分であることに起因する品質不良が発生しやすいが、この部分に中間スリーブの先端を位置させることで冷却効果が高く、鋳造品の品質向上を図ることができる。
また、中間スリーブが熱疲労破壊の影響を受けた場合でも、ブッシュ本体を再利用することでコスト低減が可能であり、三重構造の外側に位置する中間スリーブと外側スリーブの間に冷媒構造を備えることで、冷媒漏れを抑制しやすい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明に係るスプルーブッシュを備えるダイカスト金型の概略の縦断面図を示す。
【
図2】
図1におけるスプルーブッシュ近傍の部分拡大図を示す。
【
図3】スプルーブッシュの構造例を、(a)に平面図、(b)に縦断面図、(c)に底面図で示す。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明に係るスプルーブッシュの構造例を以下、図に基づいて説明する。
図1にスプルーブッシュを備えるダイカスト金型の概略の縦断面図を示し、
図2にスプルーブッシュ近傍の部分拡大図を、
図3(a)~(c)にスプルーブッシュの構造例を示す。
【0012】
ダイカスト金型は、
図1に示すように固定金型1と、固定金型1に対して近接及び離間可能に設けられた可動金型2を備える。
固定金型1にスプルーブッシュ5が取り付けられ、スプルーブッシュ5の基端側にプランジャスリーブ6が接続されている。
プランジャスリーブ6内に嵌入されているプランジャチップ7は、プランジャスリーブ6の内周面に沿ってスプルーブッシュ5の中空部5aまで進退可能となっている。
一方、可動金型2には、プランジャチップ7の前進方向対向位置に分流子2bが設けられている。
固定金型1、可動金型2の近接状態(型締め状態)において、固定金型の固定入子1aと可動金型の可動入子2aの間にキャビティ3が形成される。
ダイカスト鋳造は、プランジャスリーブ6の注湯口6aから注入された高温の金属溶湯をプランジャチップ7にて射出し、分流子2b等とで形成したランナー4を介してキャビティ3内に充填及び凝固冷却することで鋳物製品が鋳造される。
金属溶湯には、例えばアルミニウムとその合金、亜鉛とその合金、またはマグネシウムとその合金などの溶湯が含まれる。
ランナー4は、スプルーブッシュの中空部5aとキャビティ3を連通する湯路(空間)であり、スプルーブッシュ5の軸方向に延びる第1ランナー4aと、軸方向におよそ垂直な方向に延びる第2ランナー4bを有する。
本実施例は
図2に示すように、第1ランナー4aがスプルーブッシュの先端側の内周面(後述するブッシュ本体の薄肉部13aの内周面)と、分流子2bとの間で形成されている。
第2ランナー4bは、スプルーブッシュの先端(後述する中間スリーブの先端23a)と、分流子2b及び/又は可動入子2aとの間で形成されているが、
図1に示すように固定入子1aと可動入子2aとの間で形成される部分を含んでいてもよい。
【0013】
図3における右側を先端側、左側を基端側として、スプルーブッシュ5について説明する。
スプルーブッシュ5は全体が略円筒形状であり、ブッシュ本体10、中間スリーブ20及び外側スリーブ30を備える。
ブッシュ本体10は、
図3(b)に示すように先端に向かって徐々に肉薄になるように形成された円筒状のブッシュ本体部11と、ブッシュ本体部11の基端側から外側に突出したリング状の鍔部12を有する。
ブッシュ本体部11は、その内周面で形成された中空部5aが軸方向に沿って先端側に拡径し、先端側の端部が薄肉部13となっている。
鍔部12には、軸方向に固定ボルト14が挿入される第1貫通孔(図示省略)を複数形成してあるが、その数に特に制限はない。
中間スリーブ20は、ブッシュ本体部11の外周面に嵌合する円筒状の中間本体部21と、中間本体部21の基端側から外側に突出したリング状のフランジ部22を有し、このフランジ部22が鍔部12の前面に当接する。
フランジ部22、鍔部12の当接状態で、中間本体部21の先端23がスプルーブッシュ全体の先端となり、この先端23のおよそ内側にブッシュ本体の薄肉部13が位置する。
なお、ブッシュ本体の薄肉部13及び中間本体部の先端23のうち、
図2に示すように分流子2b等との間でランナーを形成する部分を、特にブッシュ本体の薄肉部13a及び中間本体部の先端23aと表記する。
一方、外側スリーブ30は、中間本体部21の外周面に嵌合する円筒状であり、後述する中間本体部21に設けた冷媒路の開口部を被覆する。
ブッシュ本体10、中間及び外側スリーブ20、30は、それぞれの鍔部12、フランジ部22及び外側スリーブ30の基端側を、固定ボルト14を用いて軸方向に強固に固定することで、溶接レスで止水性に優れたスプルーブッシュとなる。
具体的には、鍔部12の第1貫通孔に対応するようにフランジ部22に第2貫通孔を、外側スリーブ30の基端側に固定孔をそれぞれ設け、第1、第2貫通孔を貫通して固定孔に固定される固定ボルト14により連結する。
また、中間本体部21及び外側スリーブ30の嵌合面であって、冷媒路の開口部よりも先端側及び基端側にリング状の凹溝(図示省略)を形成してあり、この凹溝にシールリング(Oリング)31を配設し圧着させることで、中間本体部と外側スリーブの間をシールしている。
ブッシュ本体10は、例えば熱間金型用鋼(例えば、JIS:SKD61相当)を素材とし、中間スリーブ20、外側スリーブ30は炭素鋼(例えば、JIS:S45C相当)を素材としてもよく、各表面(内周面及び/又は外周面)に表面処理による被覆を施してあってもよい。
【0014】
冷媒を流通する冷媒路について説明する。
本実施例は、中間本体部21の先端側と基端側にそれぞれ別の冷媒路を設けてある。
先端側の第1冷媒路は、前後隣り合う第1前溝24(後述する先端孔28を含む)と第1後溝25が、中間本体部21の周方向に沿って一続きに設けられ、基端側の第2冷媒路も同様に第2前溝26と第2後溝27が周方向に繋がっている。
各溝(第1前後溝24、25、第2前後溝26、27)は、それぞれ中間本体部21の外周面に開口部を有し、この開口部が外側スリーブ30の内周面で被覆されて冷媒路が形成されている。
第1前溝24は、中間本体部の先端23a近傍に配設された先端孔28と連結している。
先端孔28は、
図3(b)に示すように第1前溝24から中間本体部21内を潜るように先端23a側へ穿設された有底孔であり、先端23a側に先端壁28aを有する。
先端孔28を平面視した場合には、
図3(a)に示すように第1前溝24から先端23a側に湾曲して第1溝部24に並列するように直線に延び、再び第1前溝24に戻るように湾曲した例であるが、先端孔の形状はこれに限定されない。
先端壁28aのうち、先端孔28と中間本体部の先端23aの距離が最も短い部分の壁厚(軸方向の厚み)は例えば10mm以上であってもよいが、ランナーを通過する溶湯を効率良く冷却するためには薄いほうが好ましく、例えば10mm以上かつ15mm以下であってもよい。
また、冷媒路の底部(各溝の底部)から中間本体部21の内周面までの肉厚(垂直方向の厚み)は例えば5mm以上であってもよいが、例えば5mm以上かつ10mm以下の薄いほうが好ましく、ブッシュ本体の薄肉部13aの平均肉厚は例えば7mm以上であってもよいが、例えば7mm以上かつ12mm以下が好ましい。
本実施例のように、中間本体部21の先端側と基端側で別の冷媒路を設け、冷媒路の一部を先端23aの近傍に配設することで、先端側及び基端側の冷却効果に差を生じにくくするとともに、ランナー近傍を効率よく冷却しやすくなる。
【0015】
外側スリーブ30の底面側には、
図3(c)に示すように各冷媒路に冷媒を供給するための供給孔32a、33a、排出するための排出孔32b、33bをそれぞれ設け、固定金型1に設けた冷媒供給配管、冷媒排出配管(図示省略)とそれぞれ接続することで冷媒を流通させる。
一例として、平面図である
図3(a)、底面図である
図3(c)に冷媒の流れを矢印で表現したが、冷媒路のルートはこれに限定されない。
例えば第1冷媒路について、供給孔32aから第1前溝24に供給された冷媒が、矢印40a、40b、40cの順に底面側から平面側の第1前溝24及び先端孔28を流れ、並列した第1前後溝24、25が部分的に底面側で連結することで、矢印40d、40eの順で平面側の第1後溝25を進行する。
このように供給直後の冷媒を、中間本体部の先端23a側の第1前溝24及び先端孔28に先に流すことで、冷媒温度の低下を防いでランナー近傍を冷却しやすくなる。
その後に底面側の第1後溝25に流れた冷媒が、矢印40fで示すように第1前溝24側に設けた排出孔32bから排出されるように第1前後溝を形成した例である。
なお、第2冷媒路も同様に、矢印41a、41b、41c、41d及び41eの順で冷媒が流通してもよい。
【符号の説明】
【0016】
1 固定金型
2 可動金型
2b 分流子
4 ランナー
4a 第1ランナー
4b 第2ランナー
5 スプルーブッシュ
10 ブッシュ本体
20 中間スリーブ
30 外側スリーブ