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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154827
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】回転陽極型X線管
(51)【国際特許分類】
   H01J 35/10 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
H01J35/10 N
H01J35/10 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064421
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】503382542
【氏名又は名称】キヤノン電子管デバイス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001737
【氏名又は名称】弁理士法人スズエ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】清水 誠
(57)【要約】
【課題】 すべり軸受の温度が過度に上昇した場合に、陽極ターゲットから軸受面への熱伝導を抑制可能な回転陽極型X線管を提供する。
【解決手段】 電子を放出する陰極と、前記電子を受けてX線を発生する陽極ターゲットと、回転軸線に沿って延在する回転体と、前記回転体を支持する固定シャフトと、前記回転体と前記固定シャフトとの間に保持されている潤滑剤と、を有しているすべり軸受と、真空外囲器と、を備え、前記固定シャフトは、内部の熱を外部に放出する放熱部を有し、前記回転体は、前記回転軸線に沿って延出して形成され、前記陽極ターゲットの内側に固定され、前記固定シャフトを囲んで位置する第1伝熱部品と、前記回転軸線に沿って延出して形成され、前記第1伝熱部品の内面に接触している第2伝熱部品と、を有し、前記第1伝熱部品の熱膨張係数は、前記第2伝熱部品の熱膨張係数よりも大きい、回転陽極型X線管。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子を放出する陰極と、
前記電子を受けてX線を発生する陽極ターゲットと、
前記陽極ターゲットに連結され回転軸線に沿って延在する回転体と、前記回転体を回転可能に支持する固定シャフトと、前記回転体と前記固定シャフトとの間に保持されている潤滑剤と、を有しているすべり軸受と、
前記陰極及び前記陽極ターゲットを収納し、前記固定シャフトを固定する真空外囲器と、を備え、
前記固定シャフトは、内部の熱を外部に放出する放熱部を有し、
前記回転体は、
前記回転軸線に沿って延出して形成され、前記固定シャフトを囲んで位置している第1伝熱部品と、
前記回転軸線に沿って延出して形成され、前記第1伝熱部品の内面に接触している第2伝熱部品と、を有し、
前記陽極ターゲットは、前記第1伝熱部品の外周面を囲み、前記第1伝熱部品に固定され、
前記第1伝熱部品の熱膨張係数は、前記第2伝熱部品の熱膨張係数よりも大きい、
回転陽極型X線管。
【請求項2】
前記第1伝熱部品の材料は、モリブデン又はチタンジルコニウムモリブデン合金であり、
前記第2伝熱部品の材料は、中粒超硬合金、粗粒超硬合金、超微粒子合金、又は鉄ニッケル合金である、
請求項1に記載の回転陽極型X線管。
【請求項3】
前記回転体は、
前記第1伝熱部品に固定され、前記第2伝熱部品の前記回転軸線に沿った方向における一端面に対向している第1ストッパと、
前記第1伝熱部品に固定され、前記第2伝熱部品の前記回転軸線に沿った方向における他端面に対向している第2ストッパと、を有し、
前記第1ストッパ及び前記第2ストッパは、前記第2伝熱部品の前記回転軸線に沿った方向への移動を制限する、
請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
【請求項4】
前記第2伝熱部品は、前記第1伝熱部品に前記陽極ターゲットに囲まれた領域の外側で固定されている、
請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
【請求項5】
前記固定シャフトの内部に冷媒を取入れる取入れ口と、前記冷媒を前記固定シャフトの外部に吐出す吐出し口と、を有している冷却管を更に備え、
前記放熱部は、前記冷媒に熱を伝達する熱伝達部である、
請求項1又は2に記載の回転陽極型X線管。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、回転陽極型X線管に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、X線を使用して被写体を診断する医療用機器や工業用機器には、X線発生源としてX線管装置が使用されている。X線管装置として、回転陽極型のX線管(以下「回転陽極型X線管」とも称する)を備えた回転陽極型X線管装置が知られている。
【0003】
回転陽極型X線管は、電子を放出する陰極と、電子を受けてX線を発生する陽極ターゲットと、回転体と固定シャフトと潤滑剤とを有しているすべり軸受とを備えている。陽極ターゲットは、電子から受けるエネルギーの大半が熱に変換され温度が上昇する。陽極ターゲットで発生した熱は、すべり軸受の軸受面を介して固定シャフトに伝わり、固定シャフトを介して回転陽極型X線管の外部に排出される。回転体に熱伝導率が小さい材料を使用することで、すべり軸受を保護することが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000-340148号公報
【特許文献2】特開2012-104391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本実施形態は、すべり軸受の温度が許容範囲内である場合、伝導冷却を最大限利用できる回転陽極型X線管を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
一実施形態に係る回転陽極型X線管は、電子を放出する陰極と、前記電子を受けてX線を発生する陽極ターゲットと、前記陽極ターゲットに連結され回転軸線に沿って延在する回転体と、前記回転体を回転可能に支持する固定シャフトと、前記回転体と前記固定シャフトとの間に保持されている潤滑剤と、を有しているすべり軸受と、前記陰極及び前記陽極ターゲットを収納し、前記固定シャフトを固定する真空外囲器と、を備え、前記固定シャフトは、内部の熱を外部に放出する放熱部を有し、前記回転体は、前記回転軸線に沿って延出して形成され、前記陽極ターゲットの内側に固定され、前記固定シャフトを囲んで位置する第1伝熱部品と、前記回転軸線に沿って延出して形成され、前記第1伝熱部品の内面に接触している第2伝熱部品と、を有し、前記第1伝熱部品の熱膨張係数は、前記第2伝熱部品の熱膨張係数よりも大きい。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、一実施形態に係るX線管装置を示す断面図である。
図2図2は、図1に示す固定シャフトの一部を示す側面図である。
図3図3は、上記実施形態に係る回転陽極型X線管の一部を示す拡大断面図であり、陽極ターゲットに熱が入力され、陽極ターゲットが冷却されるまでの状態を示す図である。
図4図4は、上記実施形態に係る回転陽極型X線管の変形例の一部を示す拡大断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に、本発明の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の趣旨を保っての適宣変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面や説明をより明確にするため、実際の様態に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。また、本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宣省略することがある。
【0009】
始めに、本発明の実施形態の基本構想について説明する。
X線管は、陰極で発生した電子を高速で陽極ターゲットに衝突させることでX線を発生し、X線にならなかったエネルギーは熱となり陽極ターゲットの温度が上昇する。エネルギーの大半は熱となるため、陽極ターゲットの温度の冷却特性が重要な特性の一つとなる。液体金属を潤滑剤として使用する軸受を採用した回転陽極型のX線管(以下、「回転陽極型X線管」と称する)においては、上昇した陽極ターゲットの温度を冷却する手段として、陽極ターゲットの表面から熱輻射で放熱する輻射冷却と、陽極ターゲットからすべり軸受に伝導した熱を固定シャフト内部の循環水で冷却する伝導冷却とが利用されている。冷却効率は、輻射冷却よりも伝導冷却の方が良いが、伝導冷却を促進しすべり軸受の温度が過度に上昇すると、軸受特性の悪化につながり、場合によっては回転停止等の不良発生の原因となる。そのため、冷却効率を最適化するために伝導冷却の割合を可能な限り大きくしながらも、軸受特性を損なわないようすべり軸受の温度の上昇を抑制するように回転陽極型X線管の構造が決定されている。
【0010】
従来の回転陽極型X線管の構造では、軸受特性を損なわないために軸受温度が過度に上昇しないよう、効率の良い伝導冷却を抑制した構造となっている。そのため、実際に回転陽極型X線管が使用されているときにすべり軸受の温度が許容範囲内であっても伝導冷却が抑制されていることから陽極ターゲットの冷却効率は最適な効率ではないという問題がある。
【0011】
そこで、本発明の実施形態においては、かかる問題を改善するものであり、すべり軸受の温度が許容範囲内である場合、伝導冷却を最大限利用できる回転陽極型X線管を得ることができるものである。
【0012】
図1は、一実施形態に係るX線管装置を示す断面図である。
図1に示すように、X線管装置は、回転陽極型X線管1、磁界を発生させるコイルとしてのステータコイル2などを備えている。回転陽極型X線管1は、すべり軸受3と、陽極ターゲット50と、陰極60と、真空外囲器70と、を備えている。すべり軸受3は、固定シャフト10と、回転体20と、潤滑剤としての液体金属LMと、を有している。
【0013】
固定シャフト10は、円柱状に形成され、回転軸線aに沿って延在し、外周面に形成されたラジアル軸受面S11a,S11bと、熱伝達部10aと、を有している。固定シャフト10は、径大部11、第1径小部12、及び第2径小部13から構成されている。径大部11、第1径小部12、及び第2径小部13は、同軸的に一体に形成されている。固定シャフト10は、Fe(鉄)合金やMo(モリブデン)合金などの金属で形成されている。
【0014】
以下、図2を用いて固定シャフト10の径大部11の詳細について説明する。図2は、図1に示す固定シャフト10の一部を示す側面図である。
図2に示すように、径大部11は、それぞれ外周面に位置した、ラジアル軸受面S11a、ラジアル軸受面S11b、凹面S11c、凹面S11d、及び凹面S11eを有している。また、径大部11は、一端にスラスト軸受面S11iを有し、他端にスラスト軸受面S11jを有している。ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S11bは、それぞれ径大部11の外周面に全周に亘って形成されている。凹面S11c、凹面S11d、及び凹面S11eは、それぞれ径大部11の外周面に全周に亘って形成されている。
【0015】
ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S11bは、回転軸線aに沿った方向に間隔を置いて位置している。凹面S11cは、ラジアル軸受面S11aとラジアル軸受面S11bとの間に位置し、ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S11bのそれぞれと隣り合っている。凹面S11dは、凹面S11cから向かってラジアル軸受面S11aを超えて位置し、ラジアル軸受面S11aと隣り合っている。凹面S11eは、凹面S11cから向かってラジアル軸受面S11bを超えて位置し、ラジアル軸受面S11bと隣り合っている。
【0016】
ラジアル軸受面S11aは、プレーン面Saと、複数のパターン部Paと、を有している。プレーン面Saは、滑らかな外周面を有している。複数のパターン部Paは、プレーン面Saを窪めて形成されている。各々のパターン部Paは、周方向に対して斜線状に延出して配列されている。複数のパターン部Paは、回転軸線aに沿った方向において、間隔を置いて形成されている。なお、複数のパターン部Paは、回転軸線aに沿った方向において、つながっていてもよい。
【0017】
ラジアル軸受面S11bは、プレーン面Sbと、複数のパターン部Pbと、を有している。プレーン面Sbは、滑らかな外周面を有している。複数のパターン部Pbは、プレーン面Sbを窪めて形成されている。各々のパターン部Pbは、周方向に対して斜線状に延出して配列されている。複数のパターン部Pbは、回転軸線aに沿った方向において、間隔を置いて形成されている。なお、複数のパターン部Pbは、回転軸線aに沿った方向において、つながっていてもよい。
【0018】
各々のパターン部Pa及び各々のパターン部Pbは、数十μmの深さを有した溝で形成されている。複数のパターン部Pa及び複数のパターン部Pbは、それぞれヘリングボン・パターンを形作っている。このため、ラジアル軸受面S11a,S11bは、それぞれ凹凸面であり、液体金属LMを掻き込むことができ、液体金属LMによる動圧を発生し易くすることができる。
【0019】
凹面S11c,S11d,S11eは、それぞれ、滑らかな外周面であり、プレーン面である。凹面S11c、凹面S11d、及び凹面S11eは、ラジアル軸受面S11a及びラジアル軸受面S11bに比べて窪んで形成されている。言い換えると、固定シャフト10において、凹面S11c,S11d,S11eが形成される区間の外径DO2は、ラジアル軸受面S11a,S11bが形成される区間の外径のうち最小の外径DO1より小さい。
【0020】
回転軸線aに垂直な方向にて、凹面(凹面S11c,S11d,S11e)と第2伝熱部品22との間の隙間は、ラジアル軸受面S11a(プレーン面Sa)と第2伝熱部品22との間の隙間より大きく、ラジアル軸受面S11b(プレーン面Sb)と第2伝熱部品22との間の隙間より大きい。
【0021】
凹面S11cと第2伝熱部品22との間の空間、凹面S11dと第2伝熱部品22との間の空間、及び凹面S11eと第2伝熱部品22との間の空間を、液体金属LMを収容するリザーバとして機能させることができる。各々のラジアル軸受面S11a,S11bに両隣から液体金属LMを供給できるため、軸受隙間における液体金属LMの枯渇を抑制することができる。
【0022】
図1に示すように、第1径小部12は、径大部11より外径の小さい円柱状に形成され、径大部11の一端から延出して形成されている。第1径小部12は、スラスト軸受面S11iより回転軸線a側に位置している。
【0023】
第2径小部13は、径大部11より外径の小さい円柱状に形成され、径大部11の他端から延出して形成されている。第2径小部13は、スラスト軸受面S11jより回転軸線a側に位置している。
【0024】
固定シャフト10は、第1底面10b1と、第2底面10b2と、熱伝達部10aとを含んでいる。第2底面10b2は、回転軸線aに沿った方向において第1底面10b1の反対側に位置している。一例においては、第1底面10b1は第1径小部12に位置し、第2底面10b2は第2径小部13に位置している。
【0025】
熱伝達部10aは、回転軸線aに沿って延在し、第1底面10b1及び第2底面10b2に開口している。熱伝達部10aは、強制対流にて内部を流れる冷媒に熱を伝達する。冷媒は、例えば、冷却液Lである。水冷又は油冷(絶縁油)にて回転陽極型X線管1の陽極ターゲット50の冷却率を向上させることができる。なお、冷媒は空気であってもよく、空冷にて陽極ターゲット50の冷却率を向上させてもよい。
【0026】
熱伝達部10aは、少なくとも陽極ターゲット50に対向する領域Aに位置していた方が望ましい。これにより、固定シャフト10のうち、陽極ターゲット50の熱が伝わりやすい箇所を冷却することができる。
【0027】
上記のことから、熱伝達部10aは、固定シャフト10の内部の熱を放出する放熱部である。なお、固定シャフト10の内部の熱を放出する方法は、熱伝達部10aを放熱部として冷媒に熱を伝達することに限られない。例えば、第1底面10b1及び第2底面10b2を熱交換機で冷却することで固定シャフト10の内部の熱を放出してもよい。この場合、第1底面10b1及び第2底面10b2が放熱部となるため、熱伝達部10a及び冷媒(冷却液L)を無しに回転陽極型X線管1を構成してもよい。
【0028】
回転体20は、固定シャフト10を中心に回転自在に構成されている。回転体20は、第1伝熱部品21と、第2伝熱部品22と、第1ストッパ23と、第2ストッパ24と、筒部25とを有している。
【0029】
第1伝熱部品21は、回転軸線aに沿って延出し、筒状に形成され、固定シャフト10を囲んで位置している。第1伝熱部品21は、第1伝熱部品本体21aと凸部21b,22cとを有している。第1伝熱部品本体21aは、全周に亘って均一な内径及び外径を有している。
【0030】
凸部21b,21cは、第1伝熱部品本体21aの両端に回転軸線aから離れる方向に延在して形成されている。凸部21b,21cは環状の形状を有している。凸部21b,21cは、第1伝熱部品本体21aと連続的に一体に形成されていなくともよく、例えば、溶接やねじによって第1伝熱部品本体21aの外周面に固定されてもよい。
【0031】
第1伝熱部品21の熱膨張係数は、第2伝熱部品22の熱膨張係数よりも大きい。第1伝熱部品21の材料は、例えば、MoやTZM(チタンジルコニウムモリブデン合金)などである。なお、Moの熱膨張係数は、5.1×10-6乃至5.7×10-6/Kであり、TZMの熱膨張係数は、5.3×10-6/Kである。
【0032】
第2伝熱部品22は、回転軸線aに沿って延出し、筒状に形成され、第1伝熱部品21(第1伝熱部品本体21a)の内面に接触している。第2伝熱部品22は、例えば、第1伝熱部品21に締り嵌めによって取り付けられている。第2伝熱部品22は、固定シャフト10と第1伝熱部品21との間に位置している。一例では、第2伝熱部品22は、全周に亘って均一な内径及び外径を有し、内周面にラジアル軸受面S22を含んでいる。
【0033】
第2伝熱部品22の材料は、中粒超硬合金、粗粒超硬合金、超微粒子合金、鉄ニッケル合金などである。中粒超硬合金としては、例えば、富士ダイス社製のVD15とすることができる。粗粒超硬合金としては、例えば、富士ダイス社製のC50とすることができる。超微粒子合金としては、例えば、CIS(超硬工具協会)規格019DにおけるVF-10とすることができる。鉄ニッケル合金としては、例えば、インバーを使用することができる。ここで、中粒超硬合金を構成する粒子の平均粒径は、1.0μmから2.5μmまでである。なお、上記平均粒径とは、JIS(日本工業規格) B 4054:2020に準拠した炭化タングステン(WC)の平均粒径を指す。また、合金における上記平均粒径は、全粒子の平均粒径のことを指す。粗粒超硬合金を構成する粒子の平均粒径は、2.5μmから5.0μmまでである。超微粒子合金を構成する粒子の平均粒径は、1.0未満である。なお、上記平均粒径は、回転陽極型X線管1の製造が開始される前の平均粒径であり、JIS B 4054:2020に準拠した算出方法により算出される。
【0034】
中粒超硬合金(富士ダイス社製VD15)の熱膨張係数は、4.7×10-6/Kである。粗粒超硬合金(富士ダイス社製C50)の熱膨張係数は、4.8×10-6/Kである。超微粒子合金(VF-10)の熱膨張率は、4.9×10-6/Kである。鉄ニッケル合金(インバー)の熱膨張係数は、1.2×10-6乃至2.0×10-6/Kである。
【0035】
第1ストッパ23は、円環状の形状を有し、第1伝熱部品21の一端に固定されている。第1ストッパ23は、第2伝熱部品22の一端面22aと対向している。一例においては、第1ストッパ23は、第2伝熱部品22の一端面22aと接触している。
【0036】
第1ストッパ23は、Fe合金やMo合金などの金属で形成されている。一例では、第1ストッパ23は、回転軸線aに沿った方向に固定シャフト10のスラスト軸受面S11iと対向したスラスト軸受面S23を含んでいる。スラスト軸受面S23は、第1ストッパ23の内周側に位置し、環状の形状を有している。
【0037】
第1ストッパ23と固定シャフト10(第1径小部12)との間の隙間は、回転体20の回転を維持するとともに液体金属LMの漏洩を抑制できる値に設定されている。以上のことから、上記隙間は僅かであり、第1ストッパ23はラビリンスシールリング(labyrinth seal ring)として機能するものである。
【0038】
第2ストッパ24は、円環状の形状を有し、第1伝熱部品21の他端に固定されている。第2ストッパ24は、第2伝熱部品22の他端面22bと対向している。一例においては、第2ストッパ24は、第2伝熱部品22の他端面22bと接触している。
【0039】
第2ストッパ24は、Fe合金やMo合金などの金属で形成されている。一例では、第2ストッパ24は、回転軸線aに沿った方向に固定シャフト10のスラスト軸受面S11jと対向したスラスト軸受面S24を含んでいる。スラスト軸受面S24は、第2ストッパ24の内周側に位置し、環状の形状を有している。
【0040】
第2ストッパ24と固定シャフト10(第2径小部13)との間の隙間は、回転体20の回転を維持するとともに液体金属LMの漏洩を抑制できる値に設定されている。以上のことから、上記隙間は僅かであり、第2ストッパ24はラビリンスシールリングとして機能するものである。
第1ストッパ23及び第2ストッパ24は、第2伝熱部品22の回転軸線aに沿った方向への移動を制限している。
【0041】
筒部25は、第1伝熱部品21の凸部21bの外周面に接合されている。筒部25は、銅(Cu)又は銅合金などの金属で形成されている。
【0042】
液体金属LMは、固定シャフト10(径大部11)と、第2伝熱部品22と、第1ストッパ23と、第2ストッパ24と、の間の隙間に充填されている。液体金属LMは、GaIn(ガリウム・インジウム)合金又はGaInSn(ガリウム・インジウム・錫)合金などの材料を利用することができる。回転体20の回転動作時、液体金属LMの回転軸線a側の液面は、ラジアル軸受面S11a,S11bより回転軸線a側に位置している。これにより、軸受隙間における液体金属LMの枯渇を抑制することができる。液体金属LMは、固定シャフト10の軸受面及び回転体20の軸受面とともに動圧形のすべり軸受を形成している。
【0043】
陽極ターゲット50は、円環状に形成され、固定シャフト10、第1伝熱部品21、及び第2伝熱部品22と同軸的に設けられている。陽極ターゲット50は、陽極ターゲット本体51と、陽極ターゲット本体51の外面の一部に設けられたターゲット層52と、を有している。陽極ターゲット本体51は、円環状に形成されている。陽極ターゲット本体51は、第1伝熱部品21の外周を囲み、第1伝熱部品21に固定されている。
【0044】
陽極ターゲット本体51は、モリブデン、タングステン、あるいはこれらを用いた合金で形成されている。ターゲット層52を形成する金属の融点は、陽極ターゲット本体51を形成する金属の融点と同一、又は陽極ターゲット本体51を形成する金属の融点より高い。例えば、陽極ターゲット本体51は、モリブデン合金で形成され、ターゲット層52はタングステン合金で形成されている。
【0045】
陽極ターゲット50は、回転体20とともに回転可能である。ターゲット層52のターゲット面S52に電子が衝突すると、ターゲット面S52に焦点が形成される。これにより、陽極ターゲット50は、焦点からX線を放出する。
【0046】
陰極60は、陽極ターゲット50のターゲット層52に間隔を置き、ターゲット層52に対向配置されている。陰極60は、真空外囲器70の内壁に取付けられている。陰極60は、ターゲット層52に照射する電子を放出する電子放出源としてのフィラメント61を有している。
【0047】
真空外囲器70は、円筒状に形成されている。真空外囲器70はガラス、セラミック及び金属で形成されている。真空外囲器70において、陽極ターゲット50と対向した箇所の外径は、筒部25と対向した箇所の外径より大きい。真空外囲器70は、開口部71,72を有している。真空外囲器70は、密閉され、陽極ターゲット50及び陰極60を収容し、固定シャフト10を固定している。真空外囲器70の内部は真空状態(減圧状態)に維持されている。
【0048】
真空外囲器70の気密状態を維持するよう、開口部71は固定シャフト10の一端部(第1径小部12)に気密に接合され、開口部72は固定シャフト10の他端部(第2径小部13)に気密に接合されている。真空外囲器70は、固定シャフト10の第1径小部12及び第2径小部13を固定している。すなわち、第1径小部12及び第2径小部13は、軸受の両持ち支持部として機能している。
【0049】
回転陽極型X線管1は、固定シャフト10の内部に冷却液Lを取入れ、かつ、固定シャフト10の内部から冷却液Lを吐出す冷却管40を備えている。冷却管40は、第1管部41と第2管部42とを含んでいる。円環部16は、固定シャフト10の第2底面10b2に液密に接合されている。第1管部41は、外周面が円環部16の開口部に液密に接合され、固定シャフト10の外部に延出している。第1管部41は、固定シャフト10の内部に冷却液Lを取入れるための取入れ口41aを有している。
【0050】
円環部17は、固定シャフト10の第1底面10b1に液密に接合されている。第2管部42は、外周面が円環部17の開口に液密に接合され、固定シャフト10の外部に延出している。第2管部42は、固定シャフト10の外部に冷却液Lを吐出すための吐出し口42aを有している。
【0051】
固定シャフト10は、冷却管40とともに冷却液Lの流路を形成している。冷却液Lは、第1管部41の取入れ口41aを介して固定シャフト10の内部に取り入れられ、固定シャフト10の内部を通り、第2管部42の吐出し口42aから固定シャフト10の外部に吐出される。なお、上記冷却液Lは、逆方向に流れてもよい。この場合、第1管部41が吐出し口を有し、第2管部42が取入れ口を有する。
なお、第1底面10b1及び第2底面10b2を熱交換機で冷却することで固定シャフト10の内部の熱を放出する場合、冷却管40、円環部16、及び円環部17無しに回転陽極型X線管1を構成してもよい。
【0052】
ステータコイル2は、回転体20の外周面、より詳しくは筒部25の外周面に対向して真空外囲器70の外側を囲むように設けられている。ステータコイル2の形状は環状である。ステータコイル2は、筒部25(回転体20)に与える磁界を発生して回転体20及び陽極ターゲット50を回転させる。
上記のように回転陽極型X線管1を備えたX線管装置が形成されている。
【0053】
上記X線管装置の動作状態において、ステータコイル2は回転体20(特に筒部25)に与える磁界を発生するため、第2伝熱部品22は回転する。これにより、第1伝熱部品21及び陽極ターゲット50も一緒に回転する。また、陰極60に電流が与えられ負の電圧が印加され、陽極ターゲット50に相対的に正の電圧が印加される。
【0054】
これにより、陰極60と陽極ターゲット50との間に電位差が生じる。フィラメント61は電子を放出する。この電子は、加速され、ターゲット面S52に衝突する。これにより、ターゲット面S52に焦点が形成され、焦点は電子と衝突するときにX線を放出する。陽極ターゲット50に衝突した電子(熱電子)は、X線に変換され、残りは熱エネルギーに変換される。なお、陰極60の電子放出源としては、フィラメントに限定されるものではなく、例えばフラットエミッタであってもよい。
【0055】
陽極ターゲット50で発生した熱は、ターゲット面S52から、ターゲット層52の内部、陽極ターゲット本体51、第1伝熱部品21、第2伝熱部品22、液体金属LM、固定シャフト10の順に伝わる。固定シャフト10に伝わった熱は、固定シャフト10の熱伝達部10aから冷却液Lに伝わり、冷却液Lとともにすべり軸受3の外部に放出される。
【0056】
図3は、上記実施形態に係る回転陽極型X線管1の一部を示す拡大断面図であり、陽極ターゲット50に熱が入力され、陽極ターゲット50が冷却されるまでの状態を示す図である。
【0057】
図3に示すように、陽極ターゲット50に熱が発生すると、第1伝熱部品21は熱膨張する。すると、第1伝熱部品21の熱膨張係数は第2伝熱部品22の熱膨張係数よりも大きいため、第1伝熱部品21と第2伝熱部品との間に環状の隙間Sが形成される。隙間Sは、第1伝熱部品21及び第2伝熱部品22における熱交換を遮断する断熱部として機能する。つまり、陽極ターゲット50から第1伝熱部品21に伝わった熱が第2伝熱部品22に伝わることを抑制する。
【0058】
一方、陽極ターゲット50に熱が発生すると、第1伝熱部品本体21aの外周面も、回転軸線aから離れる方向に膨張する。この時、筒部25は、凸部21bに取り付けられているため第1伝熱部品本体21aの外周面と接触しない。
【0059】
陽極ターゲット50の温度が低下すると、第1伝熱部品21の熱膨張により形成されていた隙間Sは小さくなり、第1伝熱部品21から第2伝熱部品22への熱伝導が促進される。
【0060】
以下、上記実施形態に係る回転陽極型X線管1の効果について説明する。
上記のように構成された回転陽極型X線管1によれば、回転陽極型X線管1は、陰極60と、陽極ターゲット50と、固定シャフト10と回転体20とを有するすべり軸受3と、真空外囲器70とを備えている。固定シャフト10は、熱を放出する放熱部を有している。回転体20は、第1伝熱部品21と、第1伝熱部品21の内面に接触する第2伝熱部品22とを有している。第1伝熱部品21の熱膨張係数は、第2伝熱部品22の熱膨張係数よりも大きい。これにより、すべり軸受の温度が許容範囲内である場合、伝導冷却を最大限利用できる回転陽極型X線管を得ることができる。
【0061】
回転体20は、第1伝熱部品21に固定され、第2伝熱部品22の一端面22aに対向している第1ストッパ23と、第1伝熱部品21に固定され、第2伝熱部品22の他端面22bに対向している第2ストッパ24とを有している。これにより、第2伝熱部品22が第1伝熱部品21に対して回転軸線aに沿った方向に移動することを防止できる。
【0062】
回転陽極型X線管1は、固定シャフト10の内部に冷媒を取入れる取入れ口41aと、冷媒を固定シャフト10の外部に吐出す吐出し口42aとを有している冷却管40を備え、放熱部は、冷媒に熱を伝達する熱伝達部10aである。これにより、固定シャフト10内部の熱による自然対流によって冷媒を流すことが可能となり、固定シャフト10を冷却するためのコストを抑えることができる。
【0063】
(変形例)
次に、上記実施形態に係る回転陽極型X線管1の変形例について説明する。回転陽極型X線管1は、本変形例で説明する構成以外、上記実施形態と同様に構成されている。図4は、上記実施形態に係る回転陽極型X線管の変形例の一部を示す拡大断面図である。
【0064】
図4に示すように、第2伝熱部品22は、第1伝熱部品21に陽極ターゲット50に対向する領域Aの外側において、接合部26,27で接合されている。接合部26,27は、例えば、溶接部やろう接部などとすることができる。接合部26及び接合部27は、第2伝熱部品22と第1伝熱部品21との全周に亘って延在してもよいし、第2伝熱部品22と第1伝熱部品21との全周に亘って延在していなくともよい。接合部26,27は、第1伝熱部品21と第2伝熱部品22の全周に亘って延在していない場合、例えば、スポット溶接によって形成されることができる。
【0065】
また、図示しないが、ねじを用いて第1伝熱部品21と第2伝熱部品22とを取り外し可能に固定してもよい。第1伝熱部品21と第2伝熱部品22とは、1箇所で固定されてもよく、例えば、接合部26のみで固定されていてもよい。
【0066】
上記実施形態では第1ストッパ23及び第2ストッパ24によって回転軸線aに沿った方向における第2伝熱部品22の移動を制限することを記載したが、本変形例では第2伝熱部品22は第1伝熱部品21に固定されているため、第1ストッパ23及び第2ストッパ24による第2伝熱部品22の移動の制限は不要である。
【0067】
つまり、本変形例において、第1ストッパ23及び第2ストッパ24は、ラビリンスシールリングとして液体金属LMの漏洩を抑え、固定シャフト10とともに動圧形のスラストすべり軸受を構成する環状部品とすることができる。第1ストッパ23を第1環状部品、第2ストッパ24を第2環状部品とすると、第1環状部品及び第2環状部品は、第1伝熱部品21に固定されてもよいし、第2伝熱部品22に固定されてもよい。第1環状部品は、第2伝熱部品22の一端面22aに隙間を設けて位置してもよい。第2環状部品は、第2伝熱部品22の他端面22bに隙間を設けて位置してもよい。
【0068】
上記のように構成された上記実施形態に係る回転陽極型X線管1の変形例によれば、上記実施形態に係る回転陽極型X線管と同様の効果を得ることができる。
【0069】
本発明の実施形態を説明したが、上記実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。上述した新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。上記実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0070】
1…回転陽極型X線管、3…すべり軸受、10…固定シャフト、10a…熱伝達部、10b1…第1底面、10b2…第2底面、16,17…円環部、20…回転体、21…第1伝熱部品、22…第2伝熱部品、22a…一端面、22b…他端面、23…第1ストッパ、24…第2ストッパ、25…筒部、26…接合部、40…冷却管、41…第1管部、41a…取入れ口、42…第2管部、42a…吐出し口、50…陽極ターゲット、51…陽極ターゲット本体、52…ターゲット層、60…陰極、61…フィラメント、70…真空外囲器、A…領域、L…冷却液、LM…液体金属、S…隙間、a…回転軸線。
図1
図2
図3
図4