(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015484
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】乗客コンベア、および、乗客コンベアの制御方法
(51)【国際特許分類】
B66B 29/00 20060101AFI20230125BHJP
B66B 25/00 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
B66B29/00 Z
B66B25/00 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119287
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000005108
【氏名又は名称】株式会社日立製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】弁理士法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】桑村 秀樹
【テーマコード(参考)】
3F321
【Fターム(参考)】
3F321AA04
3F321DC01
3F321EA02
3F321EB07
3F321EC06
(57)【要約】
【課題】乗客の安全性を確保しつつ、輸送能力の低下を抑制することができる乗客コンベアを提供する。
【解決手段】移動する踏段22と、乗客12の歩行速度を検出する歩行速度検出部60と、乗客の乗車完了を検出する乗車完了検出部61と、乗客の歩行速度に応じて踏段の移動速度を制御する移動速度制御部65と、を備える。移動速度制御部は、乗客の歩行速度が閾値速度よりも遅い場合に、踏段の移動速度を通常速度から減速させ、その後、乗客の乗車完了を検出した場合に、踏段の移動速度を通常速度に加速させる。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗車口から降車口に向かって移動する踏段と、
前記乗車口に近づく乗客の歩行速度を検出する歩行速度検出部と、
前記乗車口で乗客が前記踏段への乗車を完了したことを検出する乗車完了検出部と、
前記歩行速度検出部が検出した前記乗客の歩行速度に応じて前記踏段の移動速度を制御する移動速度制御部と、を備え、
前記移動速度制御部は、前記歩行速度検出部が検出した前記乗客の歩行速度が閾値速度よりも遅い場合に、前記踏段の移動速度を通常速度から減速させ、その後、前記乗客が前記踏段への乗車を完了したことを前記乗車完了検出部が検出した場合に、前記踏段の移動速度を前記通常速度に加速させる
乗客コンベア。
【請求項2】
前記踏段に乗車中の乗客が降車前位置に到達したことを検出する到達検出部をさらに備え、
前記移動速度制御部は、前記歩行速度検出部が検出した前記乗客の歩行速度が前記閾値速度よりも遅い場合であって、かつ、前記踏段に乗車中の前記乗客が前記降車前位置に到達したことを前記到達検出部が検出した場合に、前記踏段の移動速度を前記通常速度から減速させる
請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記到達検出部が前記降車前位置への到達を検出した乗客が前記踏段からの降車を完了したことを検出する降車完了検出部をさらに備え、
前記移動速度制御部は、前記歩行速度検出部が検出した前記乗客の歩行速度が前記閾値速度よりも遅い場合であって、かつ、前記踏段に乗車中の前記乗客が前記降車前位置に到達したことを前記到達検出部が検出した場合に、前記踏段の移動速度を前記通常速度から減速させ、その後、前記乗客が前記踏段からの降車を完了したことを前記降車完了検出部が検出した場合に、前記踏段の移動速度を前記通常速度に加速させる
請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記移動速度制御部は、
前記歩行速度検出部が検出した前記乗客の歩行速度に応じて、前記乗客の乗車時および降車時に適用すべき踏段の移動速度を設定する速度設定部と、
前記速度設定部が設定した踏段の移動速度に関する速度情報を乗客ごとに記憶する速度情報記憶部と、をさらに備え、
前記踏段に乗車中の乗客が前記降車前位置に到達したことを前記到達検出部が検出した場合に、前記降車前位置に到達した前記乗客に対応して前記速度情報記憶部に記憶されている前記速度情報に応じて前記踏段の移動速度を制御する
請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記移動速度制御部は、
前記乗車口で乗客が前記踏段への乗車を完了した乗車時刻を乗客ごとに記憶する乗車時刻記憶部と、
前記踏段に乗車中の乗客が前記降車前位置に到達したことを前記到達検出部が検出した場合に、前記到達検出部が検出した検出時刻以前の前記踏段の移動速度と前記乗車口から前記降車前位置までの前記踏段の移動距離とを基に、前記乗客が前記乗車口から前記降車前位置まで移動するのに必要な移動時間の範囲を予測すると共に、前記到達検出部が検出した検出時刻と前記乗車時刻記憶部に記憶されている乗車時刻との差である時刻差を乗客ごとに算出し、算出した時刻差のうちいずれか1つの時刻差が前記移動時間の範囲内であるか否かによって、前記降車前位置に到達した乗客を判別する乗客判別部と、
をさらに備える
請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記閾値速度は、第1の閾値速度と、前記第1の閾値速度よりも遅い第2の閾値速度とを少なくとも含み、
前記移動速度制御部は、前記歩行速度検出部が検出した前記乗客の歩行速度が前記第1の閾値速度未満前記第2の閾値速度以上である場合に、前記踏段の移動速度を通常速度から第1の速度へと減速させ、前記歩行速度検出部が検出した前記乗客の歩行速度が前記第2の閾値速度未満である場合に、前記踏段の移動速度を前記通常速度から前記第1の速度よりも遅い第2の速度へと減速させる
請求項1または2に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
前記移動速度制御部は、前記踏段の移動速度を変更する場合に、変更後の移動速度が遅い方を優先して、前記踏段の移動速度を制御する
請求項1、2または3に記載の乗客コンベア。
【請求項8】
乗車口から降車口に向かって移動する踏段を備える乗客コンベアを制御する、乗客コンベアの制御方法であって、
前記乗車口に近づく乗客の歩行速度が閾値速度よりも遅い場合に、前記踏段の移動速度を通常速度から減速させ、その後、前記乗客が前記踏段への乗車を完了した場合に、前記踏段の移動速度を前記通常速度に加速させる
乗客コンベアの制御方法。
【請求項9】
前記乗客の歩行速度が前記閾値速度よりも遅い場合であって、かつ、前記踏段に乗車中の前記乗客が降車前位置に到達した場合に、前記踏段の移動速度を前記通常速度から減速させる
請求項8に記載の乗客コンベアの制御方法。
【請求項10】
前記乗客の歩行速度が前記閾値速度よりも遅い場合であって、かつ、前記踏段に乗車中の前記乗客が前記降車前位置に到達した場合に、前記踏段の移動速度を前記通常速度から減速させ、その後、前記乗客が前記踏段からの降車を完了した場合に、前記踏段の移動速度を前記通常速度に加速させる
請求項9に記載の乗客コンベアの制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアとその制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
乗客コンベアに関する技術として、たとえば特許文献1には、老人などの乗客でも効率良く安全に利用できるよう、乗客コンベア入口部への乗客の歩行速度を判定し、判定した歩行速度が所定速度以下である場合に、踏段(移動踏み面)の移動速度を減速させる技術が記載されている。特許文献1に記載された技術によれば、歩行速度が遅い老人などが乗客コンベアを利用する場合に、踏段の移動速度を減速させることで、老人でも踏段に乗り込みやすくなる。このため、乗客の安全性を確保することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された技術では、歩行速度が所定速度以下である乗客を乗客コンベアの乗車口から降車口まで踏段に乗せて輸送する場合に、踏段の移動速度の減速にともなって乗客コンベアの輸送能力が低下してしまう。
【0005】
本発明の目的は、乗客の安全性を確保しつつ、輸送能力の低下を抑制することができる乗客コンベアとその制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、たとえば、特許請求の範囲に記載された構成を採用する。
本願は、上記課題を解決する手段を複数含んでいるが、その1つを挙げるならば、乗車口から降車口に向かって移動する踏段と、乗車口に近づく乗客の歩行速度を検出する歩行速度検出部と、乗車口で乗客が踏段への乗車を完了したことを検出する乗車完了検出部と、歩行速度検出部が検出した乗客の歩行速度に応じて踏段の移動速度を制御する移動速度制御部と、を備える乗客コンベアである。移動速度制御部は、歩行速度検出部が検出した乗客の歩行速度が閾値速度よりも遅い場合に、踏段の移動速度を通常速度から減速させ、その後、乗客が踏段への乗車を完了したことを乗車完了検出部が検出した場合に、踏段の移動速度を通常速度に加速させる。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、乗客の安全性を確保しつつ、輸送能力の低下を抑制することができる。
上記した以外の課題、構成および効果は、以下の実施形態の説明によって明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】実施形態に係る乗客コンベアの構成例を模式的に示す概略側面図である。
【
図2】実施形態に係る乗客コンベアの制御系の構成例を示すブロック図である。
【
図3】実施形態に係る乗客コンベアの制御方法を説明するフローチャートである。
【
図5】踏段の速度制御方法と乗客の判別方法の具体例を説明する図である。
【
図6】踏段の移動速度を変更するときに、変更後の移動速度が遅い方を優先して、踏段の移動制御を制御する場合の具体例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。本明細書および図面において、実質的に同一の機能または構成を有する要素については、同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0010】
図1は、実施形態に係る乗客コンベアの構成例を模式的に示す概略側面図である。
図1に示すように、乗客コンベア10は、建築構造物の上階と下階との間で乗客12を輸送する傾斜型の乗客コンベア、すなわちエスカレータである。本実施形態においては、乗客コンベア10が乗客12を下階から上階へと輸送するエスカレータ、すなわち上りエスカレータである場合を例に挙げて説明するが、本発明は、下りエスカレータあるいは動く歩道などにも適用可能であることは言うまでもない。
【0011】
乗客コンベア10は、フレーム14と、無端状の踏段チェーン16と、下部スプロケット18と、上部スプロケット20と、乗客を乗せて輸送するための複数の踏段22と、欄干パネル24と、を備えている。
【0012】
フレーム14は、建築構造物の下階と上階との間に掛け渡されている。フレーム14の長手方向の一端部には下部機械室26が設けられ、フレーム14の長手方向の他端部には上部機械室27が設けられている。下部機械室26は下部乗降床28によって塞がれ、上部機械室27は上部乗降床29によって塞がれている。本実施形態においては、乗客コンベア10が上りエスカレータであるため、下部乗降床28は乗車口30に配置され、上部乗降床29は降車口31に配置されている。
【0013】
踏段チェーン16は、複数の踏段22を循環移動させるためのチェーンである。踏段チェーン16は、下部スプロケット18と上部スプロケット20とに巻き掛けられている。下部スプロケット18は下部機械室26に配置され、上部スプロケット20は上部機械室27に配置されている。また、上部機械室27には、駆動装置34と制御装置36とが配置されている。駆動装置34は、上部スプロケット20を回転駆動する装置である。駆動装置34は、駆動源であるモータ38と、モータ38の駆動力を上部スプロケット20に伝達する減速機40とを備えている。減速機40は出力スプロケット42を有し、この出力スプロケット42と上部スプロケット20とに駆動チェーン44が巻き掛けられている。
【0014】
複数の踏段22は、それぞれ踏段チェーン16に連結されている。複数の踏段22は、図示しない左右一対のレールに案内されて移動する。複数の踏段22は、乗客12から見える範囲では、下部乗降床28と上部乗降床29との間を乗車口30から降車口31に向かって移動する。下部乗降床28の一端部には、下部乗降床28と踏段22との境界部に位置して下部櫛板35が設けられている。乗客コンベア10に乗車する乗客12は、下部櫛板35を跨いで踏段22に乗り込む。一方、上部乗降床29の一端部には、上部乗降床29と踏段22との境界部に位置して上部櫛板37が設けられている。乗客コンベア10から降車する乗客12は、上部櫛板37を跨いで踏段22から降りる。また、乗客コンベア10に乗車する乗客12は、下部乗降床28の上を歩いて踏段22に乗り込み、乗客コンベア10から降車する乗客12は、それまで乗っていた踏段22から上部乗降床29へと踏み出した後、上部乗降床29の上を歩いて乗客コンベア10から離れる。
【0015】
欄干パネル24は、フレーム14の上方に配置されている。欄干パネル24は、複数の踏段22の両側に位置するように、フレーム14の幅方向の両側に1つずつ配置されている。欄干パネル24の周縁部には移動手摺46が設けられている。移動手摺46は、無端状のベルト部材であるハンドレールによって構成されている。欄干パネル24の下部には、スカートガード48が設けられている。
【0016】
上記構成からなる乗客コンベア10において、上部スプロケット20が駆動装置34の駆動力を受けて回転すると、その駆動力が踏段チェーン16を介して下部スプロケット18に伝達される。これにより、下部スプロケット18は、上部スプロケット20と共に回転する。また、踏段チェーン16は、下部スプロケット18と上部スプロケット20との間を循環移動し、複数の踏段22は、踏段チェーン16と共に循環移動する。一方、移動手摺46は、移動のための駆動力を踏段チェーン16から受けることにより、複数の踏段22と同じ速度で循環移動する。
【0017】
ここで、本実施形態に係る乗客コンベア10は、乗車口側乗客センサ51と降車口側乗客センサ52とを備えている。乗車口側乗客センサ51は、乗車口30側に設けられた乗客センサである。降車口側乗客センサ52は、降車口31側に設けられた乗客センサである。乗車口側乗客センサ51は、乗客12の歩行速度Vwを検出するための信号(以下、「歩行速度信号」という。)と、乗車口30側で乗客12の位置を検出するための信号(以下、「乗車側乗客位置信号」という。)とを出力するセンサである。降車口側乗客センサ52は、降車口31側で乗客12の位置を検出するための信号(以下、「降車側乗客位置信号」という。)を出力するセンサである。
【0018】
乗車口側乗客センサ51と降車口側乗客センサ52は、互いに同じタイプのセンサで構成してもよいし、互いに異なるタイプのセンサで構成してもよい。乗車口側乗客センサ51は、たとえばマイクロ波センサ、スキャナ式レンジセンサ、画像センサなどを用いて構成することが可能である。同様に、降車口側乗客センサ52は、たとえばマイクロ波センサ、スキャナ式レンジセンサ、画像センサなどを用いて構成することが可能である。
図1においては、乗車口側乗客センサ51の検出エリアを符号E1で示し、降車口側乗客センサ52の検出エリアを符号E2で示している。
【0019】
図2は、実施形態に係る乗客コンベアの制御系の構成例を示すブロック図である。
図2に示すように、乗客コンベア10は、上述した駆動装置34、制御装置36、乗車口側乗客センサ51および降車口側乗客センサ52の他に、インバータ32を備えている。インバータ32は、駆動装置34の駆動源であるモータ38(
図1参照)に供給する電力の周波数を変えることにより、モータ38の回転速度を制御する機器である。インバータ32は、制御装置36から与えられる速度指令信号に従ってモータ38の回転速度を制御する。上述した上部スプロケット20の回転速度や踏段22の移動速度は、モータ38の回転速度によって決まる。
【0020】
制御装置36は、歩行速度検出部60と、乗車完了検出部61と、到達検出部63と、降車完了検出部64と、移動速度制御部65とを備えている。制御装置36は、コンピュータによって構成することが可能である。コンピュータは、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)、不揮発性記憶装置などのハードウェア資源を備え、CPUが、ROMに格納されたプログラムをRAMに読み出して実行することにより、種々の処理および機能を実現する。以下、コンピュータによって実現される制御装置36の機能部について説明する。
【0021】
歩行速度検出部60は、乗車口30に向かう乗客12の歩行速度Vmを検出する機能部である。歩行速度検出部60は、乗車口側乗客センサ51から出力される歩行速度信号を取り込み、この歩行速度信号に基づいて乗客12の歩行速度Vwを検出する。なお、乗車口側乗客センサ51をマイクロ波センサによって構成した場合は、マイクロ波センサからマイクロ波を送信し、このマイクロ波が乗客12に当たって反射することで得られる反射波をマイクロ波センサで受信することにより、歩行速度信号を生成することができる。
【0022】
乗車完了検出部61は、乗車口30で乗客12が踏段22への乗車を完了したこと、すなわち乗客12の乗車完了を検出する機能部である。乗車完了検出部61は、乗車口側乗客センサ51から出力される乗車側乗客位置信号を取り込み、この乗車側乗客位置信号に基づいて乗客12の乗車完了を検出する。本実施形態においては、一例として、乗客コンベア10に乗ろうと乗車口30に進入した乗客12が乗車口側乗客センサ51の検出エリアE1から外れた時点から所定時間後に、乗車完了検出部61が乗客12の乗車完了を検出するものとする。所定時間は、乗車口側乗客センサ51を配置する位置にもよるが、たとえば2~5秒程度の範囲内で適宜設定される。なお、乗車口側乗客センサ51の検出エリアE1の端が下部櫛板35の直上位置になるように乗車口側乗客センサ51を配置した場合は、乗車口30に進入した乗客12が乗車口側乗客センサ51の検出エリアE1から外れる位置まで移動した時点で、乗車完了検出部61が乗客12の乗車完了を検出すればよい。
【0023】
到達検出部63は、踏段22に乗車中の乗客12が降車前位置P(
図1参照)に到達したこと、すなわち乗客12の降車前位置到達を検出する機能部である。到達検出部63は、降車口側乗客センサ52から出力される降車側乗客位置信号を取り込み、この降車側乗客位置信号に基づいて乗客12の降車前位置到達を検出する。降車前位置Pは、踏段22に乗車している乗客12が上部乗降床29に足を踏み出そうと考える位置よりも手前側(上流側)に設定される。また、降車前位置Pは、上部櫛板37が配置される位置から踏段移動方向の上流側に所定の距離Lだけ離れた位置に設定される。所定の距離Lは、たとえば踏段数個分の寸法に相当する距離に設定される。本実施形態においては、一例として、踏段22に乗車している乗客12が降車口側乗客センサ52の検出エリアE2に進入した時点で、到達検出部63が乗客12の降車前位置到達を検出するものとする。
【0024】
降車完了検出部64は、到達検出部63が降車前位置Pへの到達を検出した乗客12が踏段22からの降車を完了したこと、すなわち乗客12の降車完了を検出する機能部である。降車完了検出部64は、降車口側乗客センサ52から出力される降車側乗客位置信号を取り込み、この降車側乗客位置信号に基づいて乗客12の降車完了を検出する。乗客12の降車完了とは、乗客12が、それまで乗っていた踏段22から上部乗降床29へと完全に乗り移った状態を意味する。本実施形態においては、一例として、踏段22から上部櫛板37を跨いで上部乗降床29へと踏み出した乗客12が、降車口側乗客センサ52の検出エリアE2から外れる位置まで上部乗降床29の上を歩いた時点で、降車完了検出部64が乗客12の降車完了を検出するものとする。
【0025】
移動速度制御部65は、踏段22の移動速度を制御する機能部である。移動速度制御部65は、インバータ32を介して駆動装置34のモータ38の回転速度を制御する。踏段22の移動速度はモータ38の回転速度によって決まる。このため、モータ38の回転速度を制御することは、踏段22の移動速度を制御することと実質的に同じ意味である。本実施形態においては、好ましい例として、移動速度制御部65が踏段22の移動速度(m/分)を通常速度Vn、第1の速度V1および第2の速度V2の3段階に変更可能であるものとする。通常速度Vnは、たとえば30(m/分)に設定される。第1の速度V1は、通常速度Vnよりも遅い速度であり、たとえば20(m/分)に設定される。第2の速度V2は、第1の速度V1よりも遅い速度であり、たとえば10(m/分)に設定される。
【0026】
移動速度制御部65は、速度設定部70と、乗車時刻記憶部72と、速度情報記憶部74と、乗客判別部76と、速度指令部78とを備えている。
【0027】
速度設定部70は、歩行速度検出部60が検出した乗客12の歩行速度Vwに応じて、乗客12の乗車時および降車時に適用すべき踏段22の移動速度を設定する機能部である。速度設定部70は、歩行速度検出部60が検出した乗客12の歩行速度Vwと、予め決められた閾値速度とを比較し、この比較結果に基づいて踏段22の移動速度を設定する。本実施形態においては、上述したとおり移動速度制御部65が踏段22の移動速度を3段階に変更可能であることから、これに応じて2つの閾値速度が設定されている。1つは第1の閾値速度Vsh1であり、もう1つは第2の閾値速度Vsh2である。第2の閾値速度は、第1の閾値速度よりも遅い速度である。第1の閾値速度Vsh1は、たとえば高齢者の平均的な歩行速度を考慮して、Vsh1=1.3(m/秒)に設定される。第2の閾値速度Vsh2は、たとえば歩行困難者の平均的な歩行速度を考慮して、Vsh2=0.9(m/秒)に設定される。
【0028】
乗車時刻記憶部72は、乗車口30で乗客12が踏段22への乗車を完了した乗車時刻を乗客ごとに記憶する機能部である。乗車時刻記憶部72は、乗車完了検出部61が乗客12の乗車完了を検出するたびに、乗客12の乗車時刻を記憶する。たとえば、3人の乗客A,B,Cがそれぞれ異なる時刻に踏段22に乗車する場合、乗車時刻記憶部72は、乗客Aが乗車を完了した時刻である乗車時刻Taと、乗客Bが乗車を完了した時刻である乗車時刻Tbと、乗客Cが乗車を完了した時刻である乗車時刻Tcとを記憶する。このとき、乗車時刻記憶部72は、各々の乗客A,B,Cに対して、乗車順に固有の識別子を付与する。この識別子は、乗車時刻記憶部72に記憶される乗車時刻と、速度情報記憶部74に記憶される速度情報とを、各々の乗客A,B,Cごとに、1つの組として紐付ける(対応付ける)ためのものである。なお、乗車時刻記憶部72と速度情報記憶部74は、2つに分けずに1つの記憶部で構成することも可能である。その場合は、各々の乗客A,B,Cごとに、乗車時刻と速度情報とをテーブル形式で記憶すればよい。
【0029】
速度情報記憶部74は、速度設定部70が設定した踏段22の移動速度に関する速度情報を乗客ごとに記憶する機能部である。たとえば、3人の乗客A,B,Cに関して、乗客Aの歩行速度に応じて速度設定部70が設定した踏段22の移動速度が第2の速度V2であり、乗客Bの歩行速度に応じて速度設定部70が設定した踏段22の移動速度が第1の速度V1であり、乗客Cの歩行速度に応じて速度設定部70が設定した踏段22の移動速度が通常速度Vnである場合、速度情報記憶部74は、乗客Aに適用すべき第2の速度V2と、乗客Bに適用すべき第1の速度V1と、乗客Cに適用すべき通常速度Vnとを、乗客A,B,Cごとに記憶する。このとき、速度情報記憶部74は、上述した乗車時刻記憶部72と同様に、各々の乗客A,B,Cに対して、乗車順に固有の識別子を付与する。これにより、たとえば乗客Aに関しては、同じ識別子を用いて、乗車時刻記憶部72に乗車時刻が記憶され、かつ、速度情報記憶部74に速度情報が記憶される。なお、速度情報記憶部74には、すべての乗客を対象にしなくても、歩行速度が閾値速度よりも遅い乗客のみを対象に速度情報を記憶してもよい。
【0030】
乗客判別部76は、降車前位置Pに到達した乗客12を判別する機能部である。たとえば、3人の乗客A,B,Cが踏段移動方向に間隔をあけて異なる踏段22に乗車していて、いずれかの乗客12が降車前位置Pに到達した場合、乗客判別部76は、降車前位置Pに到達した乗客12が3人の乗客A,B,Cのうちいずれの乗客であるかを判別する。また、乗客判別部76は、踏段22に乗車中の乗客12が降車前位置Pに到達したことを到達検出部63が検出した場合に、到達検出部63が検出した検出時刻以前の踏段22の移動速度と乗車口30から降車前位置Pまでの踏段22の移動距離とを基に、降車前位置Pに到達した乗客12が乗車口30から降車前位置Pまで移動するのに必要な移動時間の範囲を予測すると共に、到達検出部63が検出した検出時刻と乗車時刻記憶部72に記憶されている乗車時刻との差である時刻差を乗客ごとに算出し、算出した時刻差のうちいずれか1つの時刻差が上記移動時間の範囲内であるか否かによって、降車前位置Pに到達した乗客12を判別する。
【0031】
速度指令部78は、インバータ32に対して速度指令信号を出力する機能部である。速度指令部78は、乗客12の乗車時に適用すべき踏段22の移動速度に関する情報については、速度設定部70から受け取ることで取得し、乗客12の降車時に適用すべき踏段22の移動速度に関する情報については、速度情報記憶部74から読み出す(抽出する)ことで取得する。なお、本実施形態においては、一例として、速度指令部78は、乗客12の乗車時に適用すべき踏段22の移動速度に関する情報を速度設定部70から受け取ることで取得するものとするが、これに限らず、乗客12の乗車時に適用すべき踏段22の移動速度に関する情報を速度情報記憶部74から読み出すことで取得してもよい。
【0032】
図3は、実施形態に係る乗客コンベアの制御方法を説明するフローチャートである。このフローチャートは、主に、踏段の移動速度を可変制御する場合の処理手順を示している。
【0033】
まず、制御装置36は、踏段22の移動速度を通常速度Vnに設定して乗客コンベア10の運転を開始する(ステップS1)。
【0034】
次に、制御装置36は、乗車口側乗客センサ51が乗客12を検出したか否かを判断する(ステップS2)。具体的には、制御装置36は、乗車口側乗客センサ51の検出エリアE1に乗客12が進入していない場合は、ステップS2でNOと判断し、乗車口側乗客センサ51の検出エリアE1に乗客12が進入した場合は、ステップS2でYESと判断してステップS3に進む。乗車口側乗客センサ51に検出エリアE1の乗客12が進入したか否かについては、たとえば、乗車口側乗客センサ51から出力される乗車側乗客位置信号を乗車完了検出部61に取り込み、その乗車側乗客位置信号が示す乗客12の位置が検出エリアE1内であるか否かによって判断することが可能である。
【0035】
次に、制御装置36の歩行速度検出部60は、乗車口側乗客センサ51から出力される歩行速度信号を取り込み、この歩行速度信号に基づいて乗客12の歩行速度Vwを検出する(ステップS3)。歩行速度検出部60が検出した乗客12の歩行速度Vwに関する情報は、歩行速度検出部60から移動速度制御部65に与えられ、移動速度制御部65の速度設定部70に取り込まれる。
【0036】
次に、速度設定部70は、歩行速度検出部60が検出した乗客12の歩行速度Vwに応じて、乗客12の乗車時および降車時に適用すべき踏段22の移動速度を設定する速度設定処理(ステップS4)を実行する。この速度設定処理は、次に述べる2つのステップS4a,4bを含む。
【0037】
まず、ステップS4aにおいて、速度設定部70は、上記ステップS3で歩行速度検出部60が検出した歩行速度Vwが第2の閾値速度Vsh2よりも遅いか否かを判断する。そして、速度設定部70は、歩行速度Vwが第2の閾値速度Vsh2よりも遅い場合は、この乗客12の乗車時および降車時に適用すべき踏段22の移動速度を第2の速度V2に設定する。また、速度設定部70は、歩行速度Vwが第2の閾値速度Vsh2以上である場合は、ステップS4aからステップS4bに進む。
【0038】
ステップS4bにおいて、速度設定部70は、上記歩行速度Vwが第1の閾値速度Vsh1よりも遅いか否かを判断する。そして、速度設定部70は、歩行速度Vwが第1の閾値速度Vsh1よりも遅い場合は、この乗客12の乗車時および降車時に適用すべき踏段22の移動速度を、上記第2の速度V2よりも速い第1の速度V1に設定する。また、速度設定部70は、歩行速度Vwが第1の閾値速度Vsh1以上である場合は、この乗客12の乗車時および降車時に適用すべき踏段22の移動速度を、上記第1の速度V1よりも速い通常速度Vnに設定する。
【0039】
次に、速度指令部78は、上記速度設定処理によって速度設定部70が設定した踏段22の移動速度に応じて、インバータ32に速度指令信号を出力することにより、踏段22の移動速度を可変制御する。具体的には、速度指令部78は、速度設定部70が上記ステップS4aの判断結果に基づいて踏段22の移動速度を第2の速度V2に設定した場合は、踏段22の移動速度を通常速度Vnから第2の速度V2へ減速させる(ステップS5a)。また、速度指令部78は、速度設定部70が上記ステップS4bの判断結果に基づいて踏段22の移動速度を第1の速度V1に設定した場合は、踏段22の移動速度を通常速度Vnから第1の速度V1へ減速させる(ステップS5b)。また、速度指令部78は、速度設定部70が上記ステップS4bの判断結果に基づいて踏段22の移動速度を通常速度Vnに設定した場合は、踏段22の移動速度を通常速度Vnに維持すべく、ステップS4bからステップS10に移行する。なお、ステップS5aおよびステップS5bにおいて、踏段22の移動速度を減速するタイミング(以下、「乗車時減速タイミング」ともいう。)は、少なくとも、乗客12が下部乗降床28から踏段22へと足を踏み出すタイミングよりも早いタイミングである。乗車時減速タイミングは、たとえば下部櫛板35の位置から60cm~80cmほど手前の位置まで乗客12が歩みを進めたタイミングに設定される。乗車時減速タイミングを決める乗客12の位置は、乗車口側乗客センサ51が出力する乗車側乗客位置信号を基に検出してもよし、乗車口側乗客センサ51とは別に設けられたセンサ(不図示)によって検出してもよい。
【0040】
次に、乗車完了検出部61は、乗車口側乗客センサ51が出力する乗車側乗客位置信号を基に、乗客12の位置を監視する(ステップS6)。
次に、乗車完了検出部61は、ステップS6の監視結果を基に、乗車口30で乗客12が踏段22への乗車を完了したか否かを判断する(ステップS7)。そして、乗車完了検出部61は、乗客12が踏段22への乗車を完了していないと判断した場合は、上記ステップS6に戻って乗客12の位置を監視し続ける。また、乗車完了検出部61は、乗客12が踏段22への乗車を完了したと判断した場合は、ステップS8に進む。
【0041】
ステップS8において、乗車時刻記憶部72は、乗車口30で乗客12が踏段22への乗車を完了した乗車時刻を記憶し、速度情報記憶部74は、上記速度設定処理によって速度設定部70が設定した踏段22の移動速度に関する速度情報を記憶する。なお、本実施形態においては、一例として、乗車時刻と速度情報とを1つのステップで記憶しているが、これに限らず、乗車時刻と速度情報とを2つのステップに分けて記憶してもよい。
【0042】
次に、ステップS9において、速度指令部78は、踏段22の移動速度を通常速度Vnへ加速する。このとき、速度指令部78は、加速前に適用していた踏段22の移動速度が第1の速度V1である場合は、踏段22の移動速度を第1の速度V1から通常速度Vnへと加速する。また、速度指令部78は、加速前に適用していた踏段22の移動速度が第2の速度V2である場合は、踏段22の移動速度を第2の速度V2から通常速度Vhへと加速する。なお、ステップS5aまたはステップS5bで踏段22の移動速度を減速した後、たとえば乗客12が踏段22に乗り込むのを止めて引き返した場合は、乗車完了検出部61が乗客12の乗車完了を検出しないまま所定の時間が経過することがあり得る。その場合、速度指令部78は、踏段22の移動速度を減速した後、所定の時間が経過した時点で踏段22の移動速度を通常速度Vnに戻してもよい。
【0043】
その後、制御装置36は、降車口側乗客センサ52が乗客12を検出したか否かを判断する(ステップS10)。具体的には、制御装置36は、踏段22に乗車中の乗客12が降車口側乗客センサ52の検出エリアE2に進入していない場合は、ステップS10でNOと判断し、乗客12が降車口側乗客センサ52の検出エリアE2に進入した場合は、ステップS10でYESと判断してステップS11に進む。本実施形態においては、上述したとおり、乗客12が降車口側乗客センサ52の検出エリアE2に進入した時点で、到達検出部63が乗客12の降車前位置到達を検出する。したがって、ステップS10の処理は、到達検出部63が乗客12の降車前位置到達を検出したか否かを判断する処理でもある。降車口側乗客センサ52の検出エリアE2に乗客12が進入したか否かについては、降車口側乗客センサ52から出力される降車側乗客位置信号を到達検出部63に取り込み、その降車側乗客位置信号が示す乗客12の位置が検出エリアE2内であるか否かによって判断することが可能である。
【0044】
次に、移動速度制御部65の乗客判別部76は、到達検出部63が降車前位置到達を検出した乗客12を判別する(ステップS11)。以下に、乗客判別部76による乗客12の判別方法の具体例について説明する。
【0045】
まず、説明の前提として、上記ステップS10で到達検出部63が乗客12の降車前位置到達を検出した検出時刻をTdとし、乗車口30から降車前位置Pまでの踏段22の移動距離をLmとする。移動距離Lmは、踏段22が下部櫛板35を通過してから降車前位置Pに到達するまでの移動距離によって規定される既知の情報である。そうした場合、乗客判別部76は、検出時刻Td以前の踏段22の移動速度と、上述した踏段22の移動距離Lmとを基に、乗客12が乗車口30から降車前位置Pまで移動するのに必要な移動時間の範囲を予測する。ここで説明を簡単にするため、検出時刻Td以前の踏段22の移動速度が通常速度Vnで一定であると仮定すると、乗客12が乗車口30から降車前位置Pまで移動するのに必要な移動時間Tmは、「Tm=Lm/Vn」の演算式によって算出することができる。ただし、検出時刻Td以前の踏段22の移動速度は、上記ステップS5aで第2の速度V2に減速したり、上記ステップS5bで第1の速度V1に減速したりする場合がある。その場合は、踏段22の移動速度を第1の速度V1または第2の速度V2に減速してから、通常速度Vnに戻すまでの減速期間を考慮して移動時間Tmを算出すればよい。こうして移動時間Tmを算出したら、乗客判別部76は、乗客コンベア10の機械的な誤差や、乗車口側乗客センサ51および降車口側乗客センサ52の検出誤差などを考慮して、移動時間Tmに所定のマージン時間αを加味して、移動時間の範囲を「Tm±α」と予測する。マージン時間αは、踏段22の移動速度にもよるが、たとえば1~3秒の範囲内で適宜設定される。
【0046】
一方で、乗客判別部76は、到達検出部63が降車前位置到達を検出した検出時刻Tdと乗車時刻記憶部72に記憶されている乗車時刻との差である時刻差を乗客ごとに算出する。たとえば、到達検出部63が降車前位置到達を検出した時点で、乗客Aの乗車時刻Taと、乗客Bの乗車時刻Tbと、乗客Cの乗車時刻Tcとが乗車時刻記憶部72に記憶されている場合、乗客判別部76は、上述した時刻差を乗客A,B,Cごとに算出する。具体的には、乗客Aについては、検出時刻Tdと乗車時刻Taとの時刻差ΔTaを算出する。また、乗客Bについては、検出時刻Tdと乗車時刻Tbとの時刻差ΔTbを算出し、乗客Cについては、検出時刻Tdと乗車時刻Tcとの時刻差ΔTcを算出する。さらに、乗客判別部76は、上述のように算出した時刻差ΔTa,ΔTb,ΔTcのうち、いずれか1つの時刻差が、移動時間の範囲(Tm±α)内であるか否かを確認する。そして、乗客判別部76は、時刻差ΔTaが移動時間の範囲内であれば、降車前位置Pに到達した乗客12は乗客Aであると判断する。また、乗客判別部76は、時刻差ΔTbが移動時間の範囲内であれば、降車前位置Pに到達した乗客12は乗客Bであると判断し、時刻差ΔTcが移動時間の範囲内であれば、降車前位置Pに到達した乗客12は乗客Cであると判断する。乗客判別部76による乗客12の判別結果は速度指令部78に通知される。
以上の方法により、到達検出部63が降車前位置到達を検出した乗客12を判別することができる。なお、乗客12の判別方法は、上記の方法に限らず、他の方法を採用してもよい。
【0047】
続いて、速度指令部78は、上記ステップS11で乗客判別部76が判別した乗客12に対応して速度情報記憶部74に記憶されている速度情報を抽出する(ステップS12)。たとえば、速度指令部78は、上記ステップS11で乗客判別部76が判別した乗客12が乗客Aであれば、乗客Aに対応して速度情報記憶部74に記憶されている速度情報を抽出する。このとき、乗客Aに対応する速度情報は、乗客Aの乗車時および降車時に適用すべき踏段22の移動速度が、通常速度Vn、第1の速度V1および第2の速度V2のうち、いずれの速度であるかを示す情報である。この点は、乗客Bに対応する速度情報や乗客Cに対応する速度情報についても同様である。
【0048】
次に、速度指令部78は、上記ステップS12で抽出した速度情報が示す踏段22の移動速度(以下、「抽出速度」という。)に応じて、インバータ32に速度指令信号を出力することにより、踏段22の移動速度を可変制御する。具体的には、速度指令部78は、抽出速度が第2の速度V2であるか否かを判断する(ステップS13a)。そして、速度指令部78は、抽出速度が第2の速度V2である場合は、踏段22の移動速度を第2の速度V2へ減速させる(ステップS14a)。また、速度指令部78は、抽出速度が第2の速度V2でない場合は、ステップS13aからステップS13bに移行する。
【0049】
ステップS13bにおいて、速度指令部78は、抽出速度が第1の速度V1であるか否かを判断する。そして、速度指令部78は、抽出速度が第1の速度V1である場合は、踏段22の移動速度を第1の速度V1へ減速させる(ステップS14b)。また、速度指令部78は、抽出速度が第1の速度V1でない場合は、上記ステップS2に戻る。なお、ステップS14aおよびステップS14bにおいて、踏段22の移動速度を減速するタイミング(以下、「降車時減速タイミング」ともいう。)は、少なくとも、乗客12が踏段22から上部乗降床29へと足を踏み出すタイミングよりも早いタイミングである。降車時減速タイミングは、たとえば、踏段22に乗車中の乗客12が降車前位置Pを通過した直後のタイミングに設定される。降車減速タイミングを決める乗客12の位置は、降車口側乗客センサ52が出力する降車側乗客位置信号を基に検出してもよし、降車口側乗客センサ52とは別に設けられたセンサ(不図示)によって検出してもよい。
【0050】
次に、降車完了検出部64は、降車口側乗客センサ52が出力する降車側乗客位置検出信号を基に、乗客12の位置を監視する(ステップS15)。
次に、降車完了検出部64は、ステップS15の監視結果を基に、降車口31で乗客12が踏段22からの降車を完了したか否かを判断する(ステップS16)。そして、降車完了検出部64は、乗客12が踏段22からの降車を完了していないと判断した場合は、上記ステップS15に戻って乗客12の位置を監視し続ける。また、降車完了検出部64は、踏段22が踏段22からの降車を完了したと判断した場合は、ステップS17に進む。
【0051】
ステップS17において、速度指令部78は、踏段22の移動速度を通常速度Vnへ加速する。このとき、速度指令部78は、加速前に適用していた踏段22の移動速度が第1の速度V1である場合は、踏段22の移動速度を第1の速度V1から通常速度Vnへと加速する。また、速度指令部78は、加速前に適用していた踏段22の移動速度が第2の速度V2である場合は、踏段22の移動速度を第2の速度V2から通常速度Vhへと加速する。ステップS17の後は上記ステップS2に戻る。以後、乗客コンベア10の運転停止ボタン等が押されるまで
図3の処理が継続される。なお、ステップS14aまたはステップS14bで踏段22の移動速度を減速した後、降車完了検出部64が乗客12の降車完了を検出しないまま所定の時間が経過した場合は、その時点で踏段22の移動速度を通常速度Vnに戻してもよい。また、降車完了検出部64が降車完了を検出した乗客12に関する乗車時刻および速度情報は、降車完了を検出した後に乗車時刻記憶部72および速度情報記憶部74から削除してもよい。
【0052】
以上述べた乗客コンベアの制御方法において、踏段22の移動速度を加速または減速させる場合は、踏段22に乗車中の乗客12が体勢を崩さない程度の緩い加速度または減速度(マイナスの加速度)で踏段22の移動速度を変化させることが好ましい。具体的には、たとえば
図4に示すように、踏段22の移動速度を通常速度Vnと第2の速度V2との間で減速または加速させる場合は、減速度および加速度が、いずれも0.1m/S
2で一定となるように制御することが好ましい。
【0053】
続いて、上記
図3のフローチャートに基づく踏段の速度制御方法と乗客の判別方法の具体例について、
図5を用いて説明する。
図5においては、ケース番号(No.)、乗客検出、データ処理、踏段速度制御の各欄が設けられている。ケース番号の欄には、時間の経過にしたがって1番から順に番号が付されている。乗客検出の欄には、乗車口側乗客センサ51または降車口側乗客センサ52を用いた乗客の検出結果が記載されている。データ処理の欄には、踏段の移動速度の設定に関する移動速度制御部65の処理内容が記載されている。踏段速度制御の欄には、移動速度制御部65による踏段の移動速度の制御内容が記載されている。以下、ケース1からケース10まで順に説明する。
【0054】
(ケース1)
乗客検出の欄には、乗車口側乗客センサ51により、乗車口30に近づく乗客Cを検出するとともに、乗客Cの歩行速度を検出した旨が記載されている。また、データ処理の欄には、乗客Cの歩行速度が第1の閾値速度Vsh1よりも速いため、踏段22の移動速度を切替なし、つまり通常速度Vnに設定した旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を通常速度Vnに維持した旨が記載されている。
【0055】
(ケース2)
乗客検出の欄には、乗車口側乗客センサ51により、乗車口30に近づく乗客Aを検出するとともに、乗客Aの歩行速度を検出した旨が記載されている。また、データ処理の欄には、乗客Aの歩行速度が第2の閾値速度Vsh2よりも遅いため、踏段22の移動速度を第2の速度V2に設定した旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を通常速度Vnから第2の速度V2へ減速した旨が記載されている。
【0056】
(ケース3)
乗客検出の欄には、乗車口側乗客センサ51により、乗客Aの乗車完了を時刻Taで検出した旨が記載されている。また、データ処理の欄には、乗客Aの乗車時刻Taと、上記ケース2で乗客Aに適用した踏段22の移動速度である第2の速度V2とを記憶した旨が記載されている。さらに、データ処理の欄には、乗客Aの乗車完了にともない、踏段22の移動速度を通常速度Vnに設定した旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を第2の速度V2から通常速度Vnへ加速した旨が記載されている。
【0057】
(ケース4)
乗客検出の欄には、乗車口側乗客センサ51により、乗車口30に近づく乗客Bを検出するとともに、乗客Bの歩行速度を検出した旨が記載されている。また、データ処理の欄には、乗客Bの歩行速度が第2の閾値速度Vsh2よりも速く、かつ、第1の閾値速度Vsh1よりも遅いため、踏段22の移動速度を第1の速度V1に設定した旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を通常速度Vnから第1の速度V1へ減速した旨が記載されている。
【0058】
(ケース5)
乗客検出の欄には、乗車口側乗客センサ51により、乗客Bの乗車完了を時刻Tbで検出した旨が記載されている。また、データ処理の欄には、乗客Bの乗車時刻Tbと、上記ケース4で乗客Bに適用した踏段22の移動速度である第1の速度V1とを記憶した旨が記載されている。さらに、データ処理の欄には、乗客Bの乗車完了にともない、踏段22の移動速度を通常速度Vnに設定した旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を第1の速度V1から通常速度Vnへ加速した旨が記載されている。
【0059】
(ケース6)
乗客検出の欄には、降車口側乗客センサ52により、乗客Cの降車前位置到達を時刻Td1で検出した旨が記載されている。また、データ処理の欄には、検出時刻Td1以前の踏段22の移動速度と、乗車口30から降車前位置Pまでの踏段22の移動距離Lmとを基に、移動時間の範囲(Tm1+α)を予測した旨が記載されている。さらに、データ処理の欄には、検出時刻Td1と乗車時刻Taとの差、および、検出時刻Td1と乗車時刻Tbとの差が、いずれも移動時間の範囲(Tm1+α)内に入らないことから、該当する低速乗客なしと判断した旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を通常速度Vnに維持した旨が記載されている。
【0060】
(ケース7)
乗客検出の欄には、降車口側乗客センサ52により、乗客Aの降車前位置到達を時刻Td2で検出した旨が記載されている。また、データ処理の欄には、検出時刻Td2以前の踏段22の移動速度と、乗車口30から降車前位置Pまでの踏段22の移動距離Lmとを基に、移動時間の範囲(Tm2+α)を予測した旨が記載されている。さらに、データ処理の欄には、検出時刻Td2と乗車時刻Taとの差が移動時間の範囲(Tm2+α)内に入ることから、降車前位置に到達した乗客12は乗客Aであると判定し、踏段22の移動速度を第2の速度V2に設定した旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を通常速度Vnから第2の速度V2へ減速した旨が記載されている。
【0061】
(ケース8)
乗客検出の欄には、降車口側乗客センサ52により、乗客Aの降車完了を検出した旨が記載されている。また、データ処理の欄には、乗客Aの降車完了にともない、踏段22の移動速度を通常速度Vnに設定した旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を第2の速度V2から通常速度Vnへ加速した旨が記載されている。
【0062】
(ケース9)
乗客検出の欄には、降車口側乗客センサ52により、乗客Bの降車前位置到達を時刻Td3で検出した旨が記載されている。また、データ処理の欄には、検出時刻Td3以前の踏段22の移動速度と、乗車口30から降車前位置Pまでの踏段22の移動距離Lmとを基に、移動時間の範囲(Tm3+α)を予測した旨が記載されている。さらに、データ処理の欄には、検出時刻Td3と乗車時刻Tbとの差が移動時間の範囲(Tm3+α)内に入ることから、降車前位置に到達した乗客12は乗客Bであると判定し、踏段22の移動速度を第1の速度V1に設定した旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を通常速度Vnから第1の速度V1へ減速した旨が記載されている。
【0063】
(ケース10)
乗客検出の欄には、降車口側乗客センサ52により、乗客Bの降車完了を検出した旨が記載されている。また、データ処理の欄には、乗客Bの降車完了にともない、踏段22の移動速度を通常速度Vnに設定した旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を第1の速度V1から通常速度Vnへ加速した旨が記載されている。
【0064】
ところで、乗客コンベア10を複数人の乗客12が利用する場合は、2人の乗客が踏段22に乗り込むタイミングが重なったり、乗車口側乗客センサ51が乗客12を検出するタイミングと降車口側乗客センサ52が乗客12を検出するタイミングとが重なったり、乗車口30側で乗客12が踏段22に乗り込むタイミングと降車口31側で別の乗客12が踏段22から降りるタイミングとが重なったりすることがあり得る。そうした場合、移動速度制御部65は、上記
図3のフローチャートにしたがって踏段22の移動速度を変更する場合に、変更後の移動速度が遅い方を優先して、踏段22の移動速度を制御する。以下、
図6を用いて具体的に説明する。
【0065】
図6においては、ケース番号(No.)、乗客検出条件、速度設定候補、優先処理、踏段速度制御の各欄が設けられている。ケース番号の欄には、各々のケースを区別するために11番から順に番号が付されている。乗客検出条件の欄には、乗車口側乗客センサ51または降車口側乗客センサ52を用いた乗客12の検出結果および乗客12の歩行速度の検出結果が記載されている。速度設定候補の欄には、移動速度制御部65の処理内容に基づく踏段22の移動速度の設定候補が記載されている。優先処理の欄には、移動速度制御部65が踏段22の移動速度を変更するときに、いずれの乗客を優先するかが記載されている。踏段速度制御の欄には、移動速度制御部65による踏段の移動速度の制御内容が記載されている。以下、ケース11からケース14までを順に説明する。
【0066】
(ケース11)
乗客検出条件の欄には、乗車口側乗客センサ51により乗車口30側で検出した乗客Aが第2の閾値速度Vsh2未満の歩行速度で踏段22に乗り込むタイミングと、乗車口側乗客センサ51により乗車口30側で検出した乗客Bが第1の閾値速度Vsh1未満第2の閾値速度Vsh2以上の歩行速度で踏段22に乗り込むタイミングとが、重なった旨が記載されている。つまり、ケース11は、歩行速度が異なる2人の乗客A,Bが、横に並んでほぼ同時に踏段22に乗り込む場合を想定している。このため、速度設定候補の欄には、第1の設定候補として踏段22の移動速度を通常速度Vnから第2の速度V2へ減速させる旨、および、第2の設定候補として踏段22の移動速度を通常速度Vnから第1の速度V1へ減速させる旨が記載されている。これに対し、優先処理の欄には、乗客Aおよび乗客Bのうち、変更後の移動速度が遅い方、すなわち乗客Aを優先する旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を通常速度Vnから第2の速度V2へ減速した旨が記載されている。
【0067】
(ケース12)
乗客検出条件の欄には、第2の閾値速度Vsh2未満の歩行速度で踏段22に乗り込んだ乗客Aを降車口側乗客センサ52により降車口31側で検出したタイミングと、乗車口側乗客センサ51により乗車口30側で検出した乗客Bが第2の閾値速度Vsh2以上第1の閾値速度Vsh1未満の歩行速度で踏段22に乗り込むタイミングとが、重なった旨が記載されている。このため、速度設定候補の欄には、第1の設定候補として踏段22の移動速度を通常速度Vnから第2の速度V2へ減速させる旨、および、第2の設定候補として踏段22の移動速度を通常速度Vnから第1の速度V1へ減速させる旨が記載されている。これに対し、優先処理の欄には、乗客Aおよび乗客Bのうち、変更後の移動速度が遅い方、すなわち乗客Aを優先する旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を通常速度Vnから第2の速度V2へ減速した旨が記載されている。
【0068】
(ケース13)
乗客検出条件の欄には、乗車口側乗客センサ51により乗車口30側で検出した乗客Aが第2の閾値速度Vsh2以上第1の閾値速度Vsh1未満の歩行速度で踏段22に乗り込むタイミングと、乗客Aよりも先に第2の閾値速度Vsh2未満の歩行速度で踏段22に乗り込んだ乗客Bの乗車完了を検出するタイミングとが、重なった旨が記載されている。このため、速度設定候補の欄には、第1の設定候補として踏段22の移動速度を第2の速度V2から第1の速度V1へ加速させる旨、および、第2の設定候補として踏段22の移動速度を第2の速度V2から通常速度Vnへ加速させる旨が記載されている。これに対し、優先処理の欄には、乗客Aおよび乗客Bのうち、変更後の移動速度が遅い方、すなわち乗客Aを優先する旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を第2の速度V2から第1の速度V1へ加速した旨が記載されている。なお、いずれの設定候補でも第2の速度V2から加速させる理由は、加速前の踏段22の移動速度が乗客Bの歩行速度(第2の閾値速度Vsh2未満)に合わせて第2の速度V2に設定されるからである。この点は、次に述べるケース14でも同様である。
【0069】
(ケース14)
乗客検出条件の欄には、乗車口側乗客センサ51により乗車口30側で検出した乗客Aが第2の閾値速度Vsh2以上第1の閾値速度Vsh1未満の歩行速度で踏段22に乗り込むタイミングと、乗客Aよりも先に第2の閾値速度Vsh2未満の歩行速度で踏段22に乗り込んだ乗客Bの降車完了を検出するタイミングとが、重なった旨が記載されている。このため、速度設定候補の欄には、第1の設定候補として踏段22の移動速度を第2の速度V2から第1の速度V1へ加速させる旨、および、第2の設定候補として踏段22の移動速度を第2の速度V2から通常速度Vnへ加速させる旨が記載されている。これに対し、優先処理の欄には、乗客Aおよび乗客Bのうち、変更後の移動速度が遅い方、すなわち乗客Aを優先する旨が記載されている。したがって、踏段速度制御の欄には、踏段22の移動速度を第2の速度V2から第1の速度V1へ加速した旨が記載されている。
【0070】
<実施形態の効果>
以上説明したように、本実施形態に係る乗客コンベアとその制御方法によれば、次のような効果が得られる。
【0071】
本実施形態においては、乗車口30に近づく乗客12の歩行速度が閾値速度(第1の閾値速度Vsh1、第2の閾値速度Vsh2)よりも遅い場合に、その乗客12が踏段22に乗り込む前に、踏段22の移動速度を通常速度Vnから、それよりも遅い速度(第1の速度V1、第2の速度V2)へと減速させる。これにより、歩行速度が遅い乗客であっても、乗車口30で踏段22に乗り込みやすくなる。また、本実施形態においては、歩行速度が閾値速度よりも遅い乗客12が踏段22への乗車を完了した場合に、踏段22の移動速度を通常速度へと加速させる。これにより、歩行速度が遅い乗客12を通常速度で輸送することができる。その結果、乗客12の安全性を確保しつつ、輸送能力の低下を抑制することができる。
【0072】
また、上記特許文献1に記載された技術では、乗客が踏段から降りるときの降りやすさについては考慮されていない。これに対し、本実施形態においては、歩行速度が閾値速度よりも遅い乗客12が踏段22に乗車して降車前位置Pに到達した場合に、その乗客12が踏段22から降りる前に、踏段22の移動速度を通常速度Vnから、それよりも遅い速度(第1の速度V1、第2の速度V2)へと減速させる。これにより、歩行速度が遅い乗客であっても、降車口31で踏段22から降りやすくなる。したがって、乗客12が踏段22に乗り込む場合だけでなく、乗客12が踏段22から降りる場合にも、乗客12の安全性を確保することができる。
【0073】
また、本実施形態においては、歩行速度が閾値速度よりも遅い乗客12が踏段22からの降車を完了した場合に、踏段22の移動速度を通常速度へと加速させる。これにより、歩行速度が遅い乗客12が踏段22から降りるときの安全性を確保したうえで、輸送能力の低下を抑制することができる。
【0074】
また、本実施形態においては、踏段22に乗車中の乗客12が降車前位置Pに到達した場合に、降車前位置Pに到達した乗客12に対応して速度情報記憶部74に記憶されている速度情報に応じて踏段22の移動速度を制御する。このため、乗客コンベア10に複数人の乗客12が乗車している場合でも、個々の乗客12の歩行速度に応じて、降車時における踏段22の移動速度を適切に制御することができる。
【0075】
また、本実施形態においては、踏段22に乗車中の乗客12が降車前位置Pに到達したことを検出した場合に、その検出時刻以前の踏段22の移動速度と乗車口30から降車前位置Pまでの踏段22の移動距離とを基に、乗客12が乗車口30から降車前位置Pまで移動するのに必要な移動時間の範囲を予測する。そして、乗客12が降車前位置Pに到達したことを検出した検出時刻と乗車時刻記憶部72に記憶されている乗車時刻との差である時刻差を乗客ごとに算出し、算出した時刻差のうちいずれか1つの時刻差が移動時間の範囲内であるか否かによって、降車前位置Pに到達した乗客を判別する。これにより、異なる時刻に踏段22に乗車した乗客12が複数人存在する場合でも、個々の乗客12を的確に判別することができる。
【0076】
また、本実施形態においては、乗客12の歩行速度Vwが第1の閾値速度Vsh1未満第2の閾値速度Vsh2以上である場合に、踏段22の移動速度を通常速度Vnから第1の速度V1へと減速させ、乗客12の歩行速度Vwが第2の閾値速度Vsh2未満である場合に、踏段22の移動速度を通常速度Vnから第2の速度V2へと減速させる。これにより、乗客12の歩行速度Vwに応じて、よりきめ細かく踏段22の移動速度を制御することができる。
【0077】
また、本実施形態においては、踏段22の移動速度を変更する場合に、変更後の移動速度が遅い方を優先して、踏段22の移動速度を制御する。これにより、乗客12の安全性をより一層高めることができる。
【0078】
<変形例等>
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例を含む。たとえば、上述した実施形態では、本発明の内容を理解しやすいように詳細に説明しているが、本発明は、上述した実施形態で説明したすべての構成を必ずしも備えるものに限定されない。また、ある実施形態の構成の一部を、他の実施形態の構成に置き換えることが可能である。また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、これを削除し、または他の構成を追加し、あるいは他の構成に置換することも可能である。
【0079】
たとえば、上記実施形態においては、踏段22の移動速度を3段階に変更可能な場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、踏段22の移動速度を2段階または4段階以上に変更可能な構成であってもよい。また、踏段22の移動速度を4段階以上に変更可能とする場合は、これに応じて閾値速度の数を増やせばよい。
【0080】
また、上記実施形態においては、踏段22に乗車中の乗客12が降車前位置Pに到達したことを降車口側乗客センサ52を用いて検出しているが、本発明はこれに限らず、降車口側乗客センサ52を使用せずに、降車前位置Pへの乗客12の到達を検出することも可能である。具体的には、たとえば、乗車口側乗客センサ51を用いて乗客12の乗車完了を検出し、この検出時刻から乗客12が降車前位置Pに移動するまでに必要な移動予想時間が経過した時点で、乗客12が降車前位置Pに到達したことを検出してもよい。その場合、移動予想時間は、乗客12の乗車完了を検出した時刻以降の踏段22の移動速度と、乗車口30から降車前位置Pまでの踏段22の移動距離とに基づいて算出することが可能である。
【0081】
また、上記実施形態においては、乗客コンベア10が上りエスカレータである場合を例に挙げて説明したが、本発明はこれに限らず、下りエスカレータや動く歩道などにも適用可能である。
【符号の説明】
【0082】
10…乗客コンベア、12…乗客、22…踏段、30…乗車口、31…降車口、51…乗車口側乗客センサ、52…降車口側乗客センサ、60…歩行速度検出部、61…乗車完了検出部、63…到達検出部、64…降車完了検出部、65…移動速度制御部、70…速度設定部、72…乗車時刻記憶部、74…速度情報記憶部、76…乗客判別部、P…降車前位置、V1…第1の速度、V2…第2の速度、Vn…通常速度、Vsh1…第1の閾値速度、Vsh2…第2の閾値速度、Vw…歩行速度