(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154854
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】電解銅箔およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 1/04 20060101AFI20231013BHJP
C25D 1/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C25D1/04 311
C25D1/00 311
C25D1/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064464
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000232014
【氏名又は名称】日本電解株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【弁理士】
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】有原 幸一
(72)【発明者】
【氏名】諸江 翔太
(72)【発明者】
【氏名】星 裕之
(72)【発明者】
【氏名】野澤 和浩
(57)【要約】
【課題】 銅箔表面の面粗さや銅箔への表面処理に依ることなく伝送損失を向上させることができる、電解銅箔およびその製造方法を提供する。
【解決手段】 電解銅箔の製造方法は、電解液を電解することによって、結晶粒径が0.4μm以下の電解銅箔を得る電解工程と、この電解銅箔を加熱することによって、電解銅箔の結晶粒径を0.6μm以上に変化させる熱処理工程とを含む。これにより得られる電解銅箔は、結晶粒径が0.6μm以上であり、面粗さSaが0.4μm以下である。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を電解することによって、結晶粒径が0.4μm以下の電解銅箔を得る電解工程と、
前記電解銅箔を加熱することによって、前記電解銅箔の結晶粒径を0.6μm以上に変化させる熱処理工程と
を含む、電解銅箔を製造する方法。
【請求項2】
前記熱処理工程で、前記電解銅箔を100~500℃に加熱する請求項1に記載の電解銅箔を製造する方法。
【請求項3】
前記熱処理工程前後の電解銅箔の面粗さSaがいずれも0.4μm以下である請求項1又は2に記載の電解銅箔を製造する方法。
【請求項4】
結晶粒径が0.6μm以上であり、面粗さSaが0.4μm以下である、電解銅箔。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解銅箔およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電解銅箔は圧電銅箔と比べて量産性に優れ、比較的製造コストも低いことから、プリント配線板等の様々な用途で用いられている。従来、主にパソコンやサーバー等のIT関連機器に接続していたインターネットは、衣服(ウェアラブルデバイス)、自動車(スマートカー)、家屋(スマートハウス)等あらゆるものへと展開されつつある。それに伴って、通信の高速化および大容量化が求められている。
【0003】
通信を高速化または大容量化するには、電気信号の周波数を高くすればよい。しかしながら、電気信号の周波数が高くなるほど信号電力の損失(伝送損失)は大きくなり、データが読み取りにくくなる。電子回路における伝送損失は、大別して銅箔による損失(導体損失)と、樹脂基材による損失(誘電体損失)との2つからなる。導体損失は交流信号で見られる表皮効果によるものであり銅箔表面の粗さの影響を強く受ける。この傾向は交流信号の周波数が大きくなるほど顕著となる。したがって、導体損失を少なくするため、銅箔の表面粗さを小さくすることが望ましい。
【0004】
誘電体損失は、銅箔と樹脂基材との間を接着する接着剤による影響を受けるため、銅箔と樹脂基材との間は接着剤を用いずに接着することが望ましい。銅箔と樹脂基材との間を接着剤の使用なしに接着するためには、銅箔の接着面を粗くして、アンカー効果により銅箔と樹脂基材との間の接着性を高めればよい。しかしながら、前述の通り表面を粗くすると、特に高周波域において導体損失を増大させる恐れがある。このように、銅箔の表面粗さに関して、伝送損失と密着性はトレードオフの関係にある。
【0005】
特許文献1には、銅箔の少なくとも片方の面に、粗化処理層、防錆処理層及びシランカップリング剤処理層が銅箔を基準にしてこの順で積層されている表面処理銅箔であって、シランカップリング剤処理層の表面から測定された三次元表面性状の複合パラメータである、界面の展開面積率Sdrの値が8~140%の範囲であり、二乗平均平方根表面勾配Sdqの値が25~70°の範囲であり、且つ、前記シランカップリング剤処理層の表面から測定された三次元表面性状の空間パラメータである、表面性状のアスペクト比Strの値が0.25~0.79である表面処理銅箔が記載されている。
【0006】
特許文献2には、炭素含有量が5ppm以下、硫黄含有量が3ppm以下、酸素含有量が5ppm以下、窒素含有量が0.5ppm以下であり、且つ炭素、硫黄、酸素、窒素及び水素の合計含有量が15ppm以下であり、結晶粒数が8.0~12.0個/μm2である電解銅箔であって、150℃で1時間加熱されることによって、結晶粒数が0.6~1.0個/μm2に変化する電解銅箔が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許6462961号公報
【特許文献2】国際公開第2020/121894号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1には、電解銅箔を表面処理して、粗化処理層、防錆処理層及びシランカップリング剤処理層を順に積層させ、シランカップリング剤処理層の表面から測定される三次元表面性状を表すパラメータである、界面の展開面積率Sdr、二乗平均平方根表面勾配Sdq、および表面性状のアスペクト比Strを所定の範囲内にすることで、高周波数で優れた伝送損失を達成できるということが記載されているものの、このような銅箔表面の三次元性状を表す3つのパラメータを全て満足させるような表面処理を行うことは容易ではないという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、銅箔表面の面粗さや銅箔への表面処理に依ることなく伝送損失を向上させることができる、電解銅箔およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、その一態様として、電解銅箔を製造する方法であって、電解液を電解することによって、結晶粒径が0.4μm以下の電解銅箔を得る電解工程と、前記電解銅箔を加熱することによって、前記電解銅箔の結晶粒径を0.6μm以上に変化させる熱処理工程とを含む。
【0011】
前記熱処理工程では、前記電解銅箔を100~500℃に加熱することが好ましい。
【0012】
前記熱処理工程前後の電解銅箔の面粗さSaはいずれも0.4μm以下であることが好ましい。
【0013】
また、本発明は、別の態様として、電解銅箔であって、結晶粒径は0.6μm以上であり、面粗さSaは0.4μm以下である。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、結晶粒径が0.4μm以下の電解銅箔に対して、所定の温度で熱処理することで、電解銅箔の結晶粒径を0.6μm以上に粗大化させることで、驚くべきことに、銅箔表面の面粗さや銅箔への表面処理に依ることなく伝送損失を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1において熱処理前の電解銅箔の断面を示す走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
【
図2】実施例1において熱処理後の電解銅箔の断面を示すSEM像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明に係る電解銅箔およびその製造方法の一実施の形態を説明する。ただし、本発明は、以下に説明する実施の形態によって限定されるものではない。
【0017】
本実施形態の電解銅箔を製造する方法は、電解液を電解することによって、結晶粒径が0.4μm以下の電解銅箔を得る電解工程と、この電解銅箔を加熱することによって、電解銅箔の結晶粒径を0.6μm以上に変化させる熱処理工程とを主に含む。
【0018】
電解工程は、電解銅箔を形成する一般的な電解装置で行うことができ、例えば、電解槽の中にほぼ半分が収容される状態で回転する電着ドラム(陰極)と、この電着ドラムの表面に対して所定間隔を置いて電解槽内に配置された不溶性電極板(陽極)とを備えた装置を使用できる。電着ドラムの表面は、例えば、チタンや、ニッケル、クロム、又はステンレス鋼等それらの合金などにより形成されている。不溶性電極板は、例えば、鉛、白金被覆チタン、イリジウム被覆チタンなどにより形成されている。
【0019】
電解槽に供給する電解液としては、例えば、銅原材料を硫酸に溶解した水溶液を用いることができる。硫酸濃度としては、40~220g/Lが好ましく、40~100g/Lがより好ましい。電解液中の銅濃度としては、硫酸銅(CuSO4・5H2O)換算で、60~400g/Lが好ましく、200~400g/Lがより好ましい。また、電解銅箔を形成する電解液に通常使用される各種添加剤、例えば、レベリング剤、光沢剤、塩化物イオン等で銅箔中に共析しない添加剤であれば使用することができる。
【0020】
電解工程での電流密度としては、特に限定されないが、0.5~100A/dm2が好ましく、30~50A/dm2がより好ましい。電解液の液温としては、特に限定されないが、10~50℃が好ましく、15~30℃がより好ましい。
【0021】
電解工程によって得られる電解銅箔の厚さとしては、2~50μmが好ましく、6~35μmがより好ましい。厚さが6μmよりも薄すぎると、電解銅箔のハンドリングが難しくなる場合がある。一方、厚さが35μmよりも厚すぎると、プリント配線板等の用途に使用する際にファインパターンを形成するうえで不利になる場合がある。電解銅箔の厚さは、電解処理の時間に概ね比例することから、電解銅箔の所望する厚さに応じて電解処理の時間を調整することができる。
【0022】
このようにして電解工程で得られた電解銅箔は、本実施の形態では、結晶粒径が0.4μm以下である。電解銅箔の結晶粒径の測定は、電解銅箔を縦に切断し、その断面を観察することによって行う。観察は走査型電子顕微鏡(SEM)などを使用して行うことができる。なお、電解銅箔は、通常、陰極と接していた側である光沢を有する面(「S面」という)と、その反対側の銅が析出した面(「M面」という)とを有する。電解銅箔の結晶粒径は、S面とM面とで異なり、例えば、S面側(例えば、S面から深さ1μmの位置)の結晶粒径は、M面側(例えば、M面から深さ1μmの位置)の結晶粒径よりも、約0.1μm低い傾向がある。本実施の形態では、電解工程で得られた電解銅箔は、S面側の結晶粒径が0.38μm以下であることが好ましく、0.28μm以下であることがより好ましい。また、M面側の結晶粒径が0.40μm以下であることが好ましく、0.38μm以下であることがより好ましい。なお、結晶粒径の下限は、特に限定されないが、例えば、0.1μm以上である。
【0023】
また、電解銅箔の面粗さSaも、通常、S面とM面とで若干異なり、例えば、S面側の面粗さSaは、M面の面粗さSaよりも、約0.1μm低い傾向がある。本実施の形態の電解工程で得られた電解銅箔では、S面の面粗さSaは、0.01~0.4μmが好ましく、0.1~0.3μmがより好ましい。また、M面の面粗さSaは0.01~0.4μmが好ましく、0.15~0.35μmがより好ましい。
【0024】
なお、面粗さSaは、算術平均高さとも呼ばれており、ISO 25178に準拠して測定され、表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表したものである。面粗さSaの値が大きい程、表面がより粗いことを示す。
【0025】
熱処理工程では、このように電解工程で得た電解銅箔を加熱することによって、電解銅箔の結晶粒径は0.6μm以上に粗大化する。熱処理工程での電解銅箔の加熱温度は、例えば、100~500℃とすることが好ましい。より好ましくは200~500℃、さらに好ましくは300~500℃である。加熱温度を100℃以上にすることで、電解銅箔の結晶粒径を上記のように顕著に粗大化することができる。一方、加熱温度が高すぎると、酸化の進行が促進し,不活性ガス雰囲気下での熱処理が必要になるという問題があることから、500℃以下にすることが好ましい。加熱時間は、銅箔の結晶粒が再結晶化するのに十分な時間であれば特に限定されないが、例えば、30分以上が好ましい。
【0026】
このような熱処理工程によって結晶粒径が粗大化した電解銅箔は、特に、S面側の結晶粒径が0.60μm以上であることが好ましく、0.63μm以上であることがより好ましく、0.66μm以上であることが更に好ましい。また、M面側の結晶粒径が0.65μm以上であることが好ましく、0.70μm以上であることがより好ましく、0.75μm以上であることが更に好ましい。なお、結晶粒径の上限は、特に限定されないが、例えば、2.0μm以下である。
【0027】
そして、このように熱処理工程によって電解銅箔の結晶粒径が0.6μm以上に粗大化することで、驚くべきことに、電解銅箔の面粗さや表面処理とは関係なく、熱処理工程前に比べて、伝送損失を大幅に低減することができる。
【0028】
なお、電解銅箔の面粗さSaは、熱処理によって若干ながら粗くなる傾向があるが、結晶粒径のような顕著な変化は生じない。例えば、熱処理工程後の電解銅箔のS面の面粗さSaは、0.01~0.4μmが好ましく、0.1~0.3μmがより好ましい。また、M面の面粗さSaは0.01~0.4μmが好ましく、0.15~0.35μmがより好ましい。熱処理工程後の電解銅箔の面粗さSaがこのような範囲であることで、アンカー効果による樹脂基材との間の接着性を得ることができるとともに、表皮効果による伝送損失を抑えることができる。
【0029】
このようにして得られた電解銅箔の表面に、必要に応じて、粗面化処理層、防錆層、クロメート処理、シランカップリング処理層などを設けてもよい。これら層を設ける電解銅箔の表面は、S面であってもよいし、M面であってもよい。
【実施例0030】
以下に、本発明の実施例および比較例を挙げて、本発明をより詳細に説明する。しかし、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0031】
[実施例1]
陽極が不溶性電極、陰極がチタン製電極の電解装置を使用して、電解銅箔を製造した。電解液としては、硫酸濃度100g/L、硫酸銅濃度100g/L、および少量のレベリング剤を含む水溶液を用いた。そして、室温において、45A/dm2の電流密度で75秒間、電解処理を行ってチタン電極の表面に銅を電析させた。生成した銅を引き剥がし、厚さ12μmの銅箔を得た。
【0032】
得られた銅箔の面粗さSaを、ISO 25178に準拠して、表面粗さ測定機(東京精密社製、品番:SURFCOM 1400G)で測定した。その結果、チタン電極と接していた面(S面)の面粗さSaは0.16μmであり、反対側の面(M面)の面粗さSaは0.28μmであった。
【0033】
また、この電解銅箔の結晶粒径を測定するため、銅箔を縦に切断し、その断面を走査型電子顕微鏡(SEM)(日立ハイテク製、「SU1510」)を使用して観察した。そのSEM像を
図1に示す。そして、この
図1に示す断面SEM像において、銅箔表面から深さ1μmの位置に表面に平行に線を引き、この平行線において、長さ10μmの部分を横切る結晶粒界の数を計測し、結晶粒界1つあたりの平行線の長さを算出し、これを結晶粒径とした。その結果、結晶粒径は、S面側で0.27μm、M面側で0.38μmであった。
【0034】
次に、この電解銅箔を大気雰囲気下、400℃で1時間加熱し、送風機を用いて室温まで空冷した。なお、電解銅箔の試料サイズは210mm×210mmとし、加熱に使用した機器はデンケン・ハイデンタル製卓上マッフル炉(型式:KDF-S100)である。そして、室温まで冷却した後の電解銅箔の面粗さSa及び結晶粒径を、上記と同様にして測定した。その結果、熱処理を経た電解銅箔のS面の面粗さSaは0.15μmで、M面の面粗さSaは0.35μmであった。また、熱処理を経た電解銅箔の断面のSEM像を
図2に示す。この断面SEM像に基づいて結晶粒径を測定したところ、S面側で0.66μm、M面側で0.77μmであり、熱処理による結晶粒径の粗大化が確認された。
【0035】
次に、この熱処理を経た電解銅箔の伝送損失について評価を行った。電解銅箔のS面に厚さ50μmのLCPフィルム(千代田インテグレ製、ペリキュールLCP)を貼り合わせて銅張積層板を得た。そして、線幅100μm、長さ100mmのマイクロストリップラインを形成し、ネットワークアナライザー(E8363B、KEYSIGHT社製)により10~40GHzの周波数における伝送損失S21を測定した。その結果を表1に示す。
【0036】
【0037】
[実施例2]
LCPフィルムと貼り合せる銅箔の面がM面であること以外は実施例1と同じ手順によって銅張積層板を作製し、マイクロストリップラインの伝送損失S21を測定した。その結果を表1に示す。
【0038】
[比較例1]
電解銅箔への熱処理を行わなかったこと以外は実施例1と同じ手順によって銅張積層板を作製し、マイクロストリップラインの伝送損失S21を測定した。その結果を表1に示す。
【0039】
[比較例2]
電解銅箔への熱処理を行わなかったこと以外は実施例2と同じ手順によって銅張積層板を作製し、マイクロストリップラインの伝送損失S21を測定した。その結果を表1に示す。
【0040】
表1に示すように、400℃で1時間の熱処理を行い、電解銅箔の結晶粒径を粗大化させることによって、10~40GHzのいずれの周波数においても伝送損失S21が大幅に小さくなることが確認された。特に、高速伝送としての利用が期待されている28GHzでは、貼り合わせる電解銅箔の面がS面であってもM面であっても約0.2~0.3dB低下しており、高周波の電子回路における伝送損失を大幅に向上できることがわかる。