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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154860
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】車両用ドア
(51)【国際特許分類】
   E05B 85/16 20140101AFI20231013BHJP
   E05B 79/20 20140101ALI20231013BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
E05B85/16 D
E05B79/20
B60J5/04 H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064474
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100059959
【弁理士】
【氏名又は名称】中村 稔
(74)【代理人】
【識別番号】100067013
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 文昭
(74)【代理人】
【識別番号】100130937
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100162824
【弁理士】
【氏名又は名称】石崎 亮
(72)【発明者】
【氏名】守山 幸宏
(72)【発明者】
【氏名】倉本 英介
【テーマコード(参考)】
2E250
【Fターム(参考)】
2E250AA21
2E250HH02
2E250JJ42
2E250JJ49
2E250KK01
2E250LL01
2E250PP12
2E250QQ09
(57)【要約】
【課題】車両用ドアにおいて、ケーブル引っ張り部材の大型化及びハンドルの操作性悪化を抑制しつつ、リリースケーブルの引っ張り量を確保する。
【解決手段】車両用ドア10は、ユーザにより把持されるハンドル20と、ハンドルの操作に伴ってヒンジピン31を中心にして回動するハンドルアーム30と、ハンドルアームの回動に伴ってヒンジピンを中心にして回動することでリリースケーブル70を引っ張るクランクプレート60と、リリースケーブルが引っ張られるとドアのロックを解除するラッチ装置80と、を有し、クランクプレートは、リリースケーブルと接触する接触面67を回動に伴って移動させることでリリースケーブルを引っ張り、この接触面は、ドア開時の回動方向と反対方向にいくほど回転軸(ヒンジピン)から当該接触面までの距離が大きくなるよう形成されている。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両用ドアであって、
前記車両用ドアを開操作するためにユーザにより把持されるハンドルと、
ユーザによる前記ハンドルの操作に伴って、前記車両用ドアのアウタパネルよりも車幅方向内側にある回転軸を中心にして回動するハンドルアームと、
前記ハンドルアームの回動に伴って、前記アウタパネルよりも車幅方向内側にある回転軸を中心にして回動することで、リリースケーブルを引っ張るように構成されたケーブル引っ張り部材と、
前記リリースケーブルに接続され、当該リリースケーブルが引っ張られると前記車両用ドアのロックを解除するように構成されたラッチ装置と、
を有し、
前記ケーブル引っ張り部材は、前記リリースケーブルと接触する接触面を備え、前記ケーブル引っ張り部材の回動に伴って前記接触面を移動させることで、前記リリースケーブルを引っ張るように構成され、
前記ケーブル引っ張り部材の前記接触面は、前記車両用ドアの開操作時の回動方向と反対方向にいくほど、前記ケーブル引っ張り部材の前記回転軸から当該接触面までの距離が大きくなるように形成されている、
ことを特徴とする車両用ドア。
【請求項2】
前記ケーブル引っ張り部材の前記接触面は、前記車両用ドアの開操作時の回動方向にいくにつれて前記ケーブル引っ張り部材の前記回転軸に向かって車幅方向内側に膨出した湾曲形状により形成されている、請求項1に記載の車両用ドア。
【請求項3】
前記ケーブル引っ張り部材の前記接触面は、前記車両用ドアの開操作時の回動方向と反対方向にいくほど、前記ケーブル引っ張り部材の前記回転軸から当該接触面までの距離が徐々に大きくなるような楕円形状により形成されている、請求項2に記載の車両用ドア。
【請求項4】
前記ハンドルは、前記アウタパネル内に格納された状態と、前記アウタパネル外方へ突出してユーザが把持できる状態とを取ることが可能に設けられている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両用ドア。
【請求項5】
前記ハンドルアームの前記回転軸及び前記ケーブル引っ張り部材の前記回転軸が、同一の軸により構成される、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両用ドア。
【請求項6】
前記ラッチ装置は、前記リリースケーブルが引っ張られると前記車両用ドアのロックを電動により解除するように構成されている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の車両用ドア。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ユーザのハンドル操作に応じてリリースケーブルを引っ張ることでロックを解除する車両用ドアに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、車両用ドアに設けられたハンドルがユーザにより操作されると、ドアのアウタパネル内側に設けられたリリースケーブルが引っ張られ、それにより、ドアのロックを解除する技術が知られている。例えば、特許文献1には、アウトサイドハンドルの操作に応じて、伝動ケーブルを介してラッチ機構を動作させることで、ドアをロック解除状態に切り替えるシステムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-299369号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したような車両用ドアにおいては、ユーザのハンドル操作に応じてリリースケーブルを引っ張るに当たって、アウタパネル内側に設けられた所定の構成部材(ケーブル引っ張り部材)を利用することが考えられる。このケーブル引っ張り部材は、ユーザのハンドル操作に伴って動作する(例えば回動する)ことで、リリースケーブルの引っ張りを実現するものである。
【0005】
ところで、リリースケーブルを引っ張ることで車両用ドアのロックを解除する、つまりドアラッチを解除する装置では、このドアラッチの適切な解除動作を実現するために、リリースケーブルの引っ張り量を十分に確保することが望ましい。リリースケーブルの引っ張り量を確保するための1つの方法として、上記したような、アウタパネル内側に設けられたケーブル引っ張り部材のサイズを大きく構成することが考えられる。こうすると、ケーブル引っ張り部材の動作量が大きくなり、リリースケーブルの引っ張り量も大きくなる。しかしながら、この方法では、大きなサイズを有するケーブル引っ張り部材がドア内部に設けられるため、当該部材が車両走行時の振動によりドア内部の他の部材(典型的にはドアガラス)と接触しやすくなる。
【0006】
他方で、リリースケーブルの引っ張り量を確保するために、ユーザにより操作されるハンドルの操作量を大きくするように車両用ドアを構成する方法が考えられる。しかしながら、この方法では、ユーザによるハンドルの操作性が悪化してしまう可能性がある。例えば、ユーザが操作しにくい角度や場所にまでハンドルを移動させるようにすると、ハンドル操作時に手が滑りやすくなる。
【0007】
本発明は、上述した問題点を解決するためになされたものであり、ユーザのハンドル操作に応じて、ケーブル引っ張り部材を介してリリースケーブルを引っ張ることでロックを解除する車両用ドアにおいて、ケーブル引っ張り部材の大型化及びハンドルの操作性悪化を抑制しつつ、リリースケーブルの引っ張り量を適切に確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の目的を達成するために、本発明は、車両用ドアであって、車両用ドアを開操作するためにユーザにより把持されるハンドルと、ユーザによるハンドルの操作に伴って、車両用ドアのアウタパネルよりも車幅方向内側にある回転軸を中心にして回動するハンドルアームと、ハンドルアームの回動に伴って、アウタパネルよりも車幅方向内側にある回転軸を中心にして回動することで、リリースケーブルを引っ張るように構成されたケーブル引っ張り部材と、リリースケーブルに接続され、当該リリースケーブルが引っ張られると車両用ドアのロックを解除するように構成されたラッチ装置と、を有し、ケーブル引っ張り部材は、リリースケーブルと接触する接触面を備え、ケーブル引っ張り部材の回動に伴って接触面を移動させることで、リリースケーブルを引っ張るように構成され、ケーブル引っ張り部材の接触面は、車両用ドアの開操作時の回動方向と反対方向にいくほど、ケーブル引っ張り部材の回転軸から当該接触面までの距離が大きくなるように形成されている、ことを特徴とする。
【0009】
このように構成された本発明によれば、車両用ドアは、ユーザによるハンドルの操作に応じたハンドルアームの回動に伴って回動することで、リリースケーブルを引っ張るよう動作するケーブル引っ張り部材を有し、このケーブル引っ張り部材は、リリースケーブルと接触する接触面を備え、ケーブル引っ張り部材の回動に伴って接触面を移動させることで、リリースケーブルを引っ張るように構成されている。特に、本発明によるケーブル引っ張り部材の接触面は、ドア開時の回動方向と反対方向にいくほど、ケーブル引っ張り部材の回転軸から当該接触面までの距離が大きくなるように形成されている。
【0010】
このような車両用ドアでは、開操作が進むにつれて、つまりケーブル引っ張り部材が回動していくと、リリースケーブルにおいて回動方向と反対方向の部分がケーブル引っ張り部材の接触面に新たに接触していくようになり、それにより、ケーブル引っ張り部材の回動に伴ってリリースケーブルが引っ張られる(換言すると引き込まれる)こととなる。この場合において、上記のようにケーブル引っ張り部材の接触面を回動方向と反対方向にいくほど回転軸からの距離が大きくなるように形成すると、ケーブル引っ張り部材が回動していくと、接触面においてリリースケーブルに新たに接触し始める部分、つまり接触面においてリリースケーブルと接触する部分における回動方向と反対方向の端部(この部分はリリースケーブルの引っ張りに大きく寄与する部分である)の回転半径が徐々に大きくなり、この部分における周方向の移動量が大きくなっていく。その結果、ドアの開操作が進むにつれて、ケーブル引っ張り部材によるリリースケーブルの引っ張り量が徐々に大きくなっていくのである。したがって、本発明によれば、ケーブル引っ張り部材のサイズを大きくしたりハンドルの操作量を大きくしたりすることなく、リリースケーブルの引っ張り量を適切に確保することができる。
【0011】
本発明において、好ましくは、ケーブル引っ張り部材の接触面は、車両用ドアの開操作時の回動方向にいくにつれてケーブル引っ張り部材の回転軸に向かって車幅方向内側に膨出した湾曲形状により形成されている。
このように構成された本発明は、換言すると、ケーブル引っ張り部材における接触面の断面の外形線は、ドア開時の回動方向にいくにつれて回転軸から離れる方向に湾曲するものではない。したがって、本発明によれば、リリースケーブルがケーブル引っ張り部材の接触面により引っ張られるときに、リリースケーブルが折れ曲がってしまうことを確実に抑制できる。
【0012】
本発明において、好ましくは、ケーブル引っ張り部材の接触面は、車両用ドアの開操作時の回動方向と反対方向にいくほど、ケーブル引っ張り部材の回転軸から当該接触面までの距離が徐々に大きくなるような楕円形状により形成されている。
このように構成された本発明では、ケーブル引っ張り部材における接触面は、ドア開時の回動方向と反対方向にいくほど曲率が小さくなるような楕円形状となっている。これにより、リリースケーブルがケーブル引っ張り部材により引っ張られるときに折れ曲がってしまうことを抑制しつつ、リリースケーブルの十分な引っ張り量を的確に確保することができる。
【0013】
本発明において、好ましくは、ハンドルは、アウタパネル内に格納された状態と、アウタパネル外方へ突出してユーザが把持できる状態とを取ることが可能に設けられている。
このように構成された本発明では、ハンドルは、アウタパネル内に格納された格納位置と、アウタパネル外方へ突出した把持位置とを取ることが可能に構成されている。このような構成では、ハンドルは格納位置から把持位置まで回動されるが、この後ドア開操作のために、ハンドルは既にある程度回動した状態の把持位置から更に回動されることとなる。そのため、ドアのロックの解除のために回動された後のハンドルの角度が大きくなる傾向にある。しかしながら、ハンドルの操作性の観点から、このようにハンドルを大きな角度まで回動された状態にすることは望ましくないと言える。この点、本発明による車両用ドアでは、上述したようにケーブル引っ張り部材を構成することでリリースケーブルの十分な引っ張り量が確保されているので、ドアのロックを解除するためにハンドルを大きな角度まで回動させなくて済むようになっている。したがって、本発明によれば、ハンドルを格納位置と把持位置とを取るように構成しても、ドアのロックの適切な解除のためにハンドルの操作性が悪化してしまうことを抑制できる。
【0014】
本発明において、好ましくは、ハンドルアームの回転軸及びケーブル引っ張り部材の回転軸が、同一の軸により構成される。
このように構成された本発明によれば、ハンドルアームの回転軸とケーブル引っ張り部材の回転軸とを異なる軸により構成する場合と比較して、装置を小型化したり構成を簡素化したりすることが可能となる。
【0015】
本発明において、好適な例では、ラッチ装置は、リリースケーブルが引っ張られると車両用ドアのロックを電動により解除するように構成されているのがよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、ユーザのハンドル操作に応じて、ケーブル引っ張り部材を介してリリースケーブルを引っ張ることでロックを解除する車両用ドアにおいて、ケーブル引っ張り部材の大型化及びハンドルの操作性悪化を抑制しつつ、リリースケーブルの引っ張り量を適切に確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の実施形態による車両用ドアが適用された車両の側面図である。
図2】本発明の実施形態による車両用ドアの斜視図である。
図3図1中のIII-III線に沿って見た、ハンドルが格納位置にあるときの、本発明の実施形態による車両用ドアの断面図である。
図4】本発明の実施形態によるハンドル及びハンドルアームの斜視図である。
図5A】本発明の実施形態によるクランクプレートの斜視図である。
図5B】本発明の実施形態によるクランクプレートの上面図である。
図5C図5(A)中のVC-VC線に沿って見た、本発明の実施形態によるクランクプレートの部分断面図である。
図6A図5(A)中のVC-VC線に沿って見た、回動前の位置にある本発明の実施形態によるクランクプレートの部分断面図である。
図6B図5(A)中のVC-VC線に沿って見た、回動後の位置にある本発明の実施形態によるクランクプレートの部分断面図である。
図7】本発明の実施形態による駆動装置などの上面図である。
図8図1中のIII-III線に沿って見た、ハンドルが把持位置にあるときの、本発明の実施形態による車両用ドアの断面図である。
図9図1中のIII-III線に沿って見た、ハンドルが開放位置にあるときの、本発明の実施形態による車両用ドアの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、添付図面を参照して、本発明の実施形態による車両用ドアについて説明する。
【0019】
なお、以下で説明する図において、「F」は車両前方を示し、「R」は車両後方を示し、「UP」は車両上方を示し、「OUT」は車幅方向の外方を示す。また、本発明による車両用ドアは、4ドアタイプの車両のフロントドア、リヤドアやリフトゲート等にも適用できるが、以下の実施例においては2ドアタイプの車両のドアに適用した構造について述べる。
【0020】
[装置構成]
まず、図1は、本実施形態による車両用ドアが適用された車両の側面図を示す。図1に示すように、車両1では、サイドドアとしての車両用ドア10が、車室前方部において上下方向に延びるヒンジピラー4に、上下一対のドアヒンジ4aを介して開閉可能に取り付けられている。車両用ドア10は、主に、ドアウインド部材としてのドアウインドガラス5と、外板を形成するアウタパネル7と、内板を形成するインナパネル(不図示)と、を有している。また、アウタパネル7には、車両用ドア10を開操作するためにユーザにより把持されるハンドル20が設けられている。特に、本実施形態では、ハンドル20は、アウタパネル7内に格納可能に設けられている。
【0021】
次に、図2は、本実施形態による車両用ドア10の斜視図を示す。ここでは、車両用ドア10の各構成要素の概要について説明する。
【0022】
図2に示すように、車両用ドア10は、主に、当該車両用ドア10を開操作するためにユーザにより把持されるハンドル20(図2では不図示、図1参照)と、ユーザによるハンドル20の操作に伴って、回転軸を中心にして略水平方向において回動するハンドルアーム30と、ハンドルアーム30の回動に伴って、回転軸を中心にして略水平方向において回動することで、リリースケーブル70を引っ張るよう動作するクランクプレート60(ケーブル引っ張り部材)と、リリースケーブル70に接続され、当該リリースケーブル70が引っ張られると車両用ドア10のロックを解除(つまりドアラッチを解除)するよう動作するラッチ装置80と、を有する。
【0023】
また、車両用ドア10は、当該車両用ドア10を開錠するためのキーを差し込むキーシリンダ15と、格納位置にあるハンドル20が外方から押圧されるとオンになるスイッチ16と、スイッチ16がオンになったときに通電されることで、ハンドルアーム30を回動させるよう動作して、格納位置にあるハンドル20をアウタパネル7外方へ突出させる、具体的にはユーザが把持できる把持位置までハンドル20を移動させる駆動装置40と、ハンドルアーム30が把持位置まで移動したときに、ハンドルアーム30をこの把持位置において仮保持する仮保持機構17と、クランクプレート60を反リリース方向(クランクプレート60がリリースケーブル70を引っ張る方向と反対方向を意味する。以下同様とする。)に付勢するコイルスプリング72と、を有する。
【0024】
図2に示すように、車両用ドア10においてキーシリンダ15、スイッチ16、仮保持機構17、ハンドルアーム30、駆動装置40、クランクプレート60などは、車両前後方向に延びる固定部材12を介して、アウタパネル7の内側に取り付けられる。特に、これら部材は、アウタパネル7においてハンドル20が取り付けられた箇所の内側付近に、車両前後方向に並べて配置される。他方で、ラッチ装置80は、アウタパネル7の内側における車両前側の位置であって、固定部材12よりも下方の位置に取り付けられる。リリースケーブル70は、一端がクランクプレート60に接続されると共に、他端がラッチ装置80に接続され、ドアウインドガラス5(図2では不図示、図1参照)を避けるように、クランクプレート60から車両後方に一旦延びた後に車両前方に延びて、ラッチ装置80に接続されるようになっている。また、リリースケーブル70は、ケーブルカバー70aにより部分的に覆われている。
【0025】
次に、図3乃至図9を参照して、車両用ドア10の具体的構成について詳細に説明する。図3は、図1中のIII-III線に沿って見た、ハンドル20が格納位置にあるときの車両用ドア10の断面図を示す。図4は、ハンドル20及びハンドルアーム30の斜視図を示す。図5(A)は、クランクプレート60の斜視図を示し、図5(B)は、クランクプレート60の上面図を示し、図5(C)は、図5(A)中のVC-VC線に沿って見たクランクプレート60の部分断面図、特に接触面67付近の断面図を示す。図6(A)は、図5(C)と同様に図5(A)中のVC-VC線に沿って見た、回動前の位置にあるクランクプレート60の部分断面図、特に接触面67とリリースケーブル70との接触状態を示す部分断面図であり、図6(B)は、図5(C)と同様に図5(A)中のVC-VC線に沿って見た、回動後の位置にあるクランクプレート60の部分断面図、特に接触面67とリリースケーブル70との接触状態を示す部分断面図である。図7は、駆動装置40などの上面図を示す。図8は、図3と同様に図1中のIII-III線に沿って見た、ハンドル20が把持位置にあるときの車両用ドア10の断面図を示す。図9は、図3と同様に図1中のIII-III線に沿って見た、ハンドル20が開放位置にあるときの車両用ドア10の断面図を示す。
【0026】
図3に示すように、車両用ドア10は、上述した通り、ドアパネルとしてのアウタパネル7の開口部から出没可能なハンドル20や、ハンドル20が取り付けられ、このハンドル20の操作に伴って回動するスワンネック構造のハンドルアーム30や、ハンドル20がアウタパネル7から突出するように、つまりハンドル20を把持位置まで移動させるようにハンドルアーム30に動力を伝達する駆動装置40や、ハンドル20が把持位置から操作されると、ハンドルアーム30の回動に伴って回動することで、リリースケーブル70を引っ張るクランクプレート60(ケーブル引っ張り部材)などを有する。ハンドル20は、図3図4に示すように、アウタカバー21とインナカバー22との周縁部を凹凸嵌合及び接合固定したもので、側面視で車両前後方向に長い長円形状に形成されている。
【0027】
ハンドルアーム30は、図3に示すように、一端(この例では後端)にハンドル20が取り付けられ、当該ハンドル20がアウタパネル7から突出するように回転させる回転軸としてのヒンジピン31が貫通している。また、ハンドルアーム30は、図3及び図4に示すように、ヒンジピン31が貫通孔32aを貫通することで当該ヒンジピン31を軸支する軸支部32と、この軸支部32からスワンネック形状のネック部33を介して後方に延びるハンドル支持部34と、軸支部32からネック部33とは反対側の前方に延びる延出部35と、を一体的に備えている。ハンドルアーム30は、ユーザによるハンドル20の操作に伴って、回転軸としてのヒンジピン31を中心にして略水平方向において回動するようになっている。
【0028】
図3に示すように、ハンドルアーム30のハンドル支持部34は、アウタカバー21とインナカバー22とから成るハンドル20の内部に配置されている。また、ハンドルアーム30の延出部35には、駆動装置40においてモータ42を固定するモータベース41が取り付けられている。これにより、モータ42の駆動によるモータベース41の移動に伴って、ハンドルアーム30が移動するようになっている。
【0029】
次に、図3及び図5A~5Cを参照して、クランクプレート60について説明する。図3に示すように、上記のヒンジピン31と同軸上には、ほぼ水平方向に延在する板状のクランクプレート60が回動可能に設けられている。具体的には、図5A図5Bに示すように、クランクプレート60は、車幅方向外側付近の縁端部に設けられ、上方向に延びる板状の縦壁61と、貫通孔62aを備え、この貫通孔62aを貫通したヒンジピン31を軸支する軸支部62と、を有する。
【0030】
クランクプレート60は、上述したユーザによるハンドル20の操作に応じたハンドルアーム30の回動に伴って、回転軸としてのヒンジピン31を中心にして略水平方向において回動する。より具体的には、ハンドル20及びハンドルアーム30が把持位置まで回動したときに(図8参照)、ハンドルアーム30のネック部33がクランクプレート60の縦壁61に当接するようになり(このときまではクランクプレート60は回動し始めない)、この後、ハンドル20及びハンドルアーム30が更に回動すると、ハンドルアーム30のネック部33により縦壁61が押されることにより、クランクプレート60が回動するようになっている(図9参照)。
【0031】
また、図5A図5Bに示すように、クランクプレート60は、上下方向に延びる3つの開口部63、64、65が形成されている。まず、クランクプレート60の開口部63には、図3に示すように、トーションスプリング36の一端36aが係止される。このトーションスプリング36は、ヒンジピン31の周りに巻回され(図3参照)、他端36bがハンドルアーム30の延出部35に係止される(図4参照)。このようなトーションスプリング36により、ハンドルアーム30を介して、ハンドル20を常時格納方向に付勢している。より詳しくは、トーションスプリング36は、ハンドル20が格納位置にあるときに、ハンドルアーム30のネック部33とクランクプレート60の縦壁61とを離間させるように機能する(図3参照)。
【0032】
次いで、クランクプレート60の開口部64には、図3に示すように、コイルスプリング72の一端が係止される。コイルスプリング72の他端は、固定部材12に係止される。このようなコイルスプリング72により、クランクプレート60は常時反リリース方向に付勢される。なお、コイルスプリング72のバネ力は、上記のトーションスプリング36のバネ力よりも大きく設定されている。
【0033】
次いで、クランクプレート60の開口部65には、図3に示すように、リリースケーブル70の一端が係止される。そして、このリリースケーブル70は、開口部65に係止された一端から先の一部分が、図2及び図5Aに示すように、クランクプレート60において車幅方向内側の側壁に設けられ、車幅方向外側に向かって凹んだスリット部66内に収容される。より具体的には、クランクプレート60のスリット部66は、図5Cに示すように、車幅方向外側にある内側壁が、湾曲した形状を有する面(接触面)67により形成されており、このスリット部66の接触面67において、リリースケーブル70の一部とクランクプレート60とが接触するようになっている。上述したように、ユーザによるハンドル20の操作に応じたハンドルアーム30の回動に伴ってクランクプレート60が回動すると、スリット部66の接触面67も移動することにより、この接触面67に接触したリリースケーブル70が連れ回されて、クランクプレート60の回動方向へと引っ張られることとなる(図6A、6B)。
【0034】
また、図5Cに示すように、クランクプレート60の接触面67は、その回動方向(略水平方向)に沿った断面の外形線が、ドア開時の回動方向と反対方向に進むにつれて、回転軸としてのヒンジピン31(一義的に貫通孔62a)からの距離が大きくなるように形成されている。図5Cに示すように、ドア開時の回動方向と反対方向側から順に規定した、接触面67の断面の外形線上の3点P1、P2、P3を例に挙げると、これら3点P1、P2、P3から貫通孔62aの中心までの距離L1、L2、L3は、「L1>L2>L3」となっている。また、接触面67の外形線は、ドア開時の回動方向に進むにつれて、貫通孔62aに向かって車幅方向内側に膨出した湾曲形状となっている(換言すると貫通孔62aから見て凸となるような湾曲形状となっている)。つまり、接触面67の外形線は、ドア開時の回動方向にいくと貫通孔62aから離れる方向に湾曲するものではない。より詳しくは、このような接触面67の湾曲形状は、ドア開時の回動方向と反対方向にいくほど、貫通孔62aからの距離が徐々に大きくなるような楕円形状、つまりドア開時の回動方向と反対方向にいくほど曲率が小さくなるような楕円形状となっている。
【0035】
ここで、図6A及び図6Bを参照して、クランクプレート60の接触面67とリリースケーブル70との接触状態について具体的に説明する。図6Aは、クランクプレート60が回動する前の位置にあるとき、つまりハンドル20が格納位置(図3)及び把持位置(図8)にあるときの、クランクプレート60の接触面67とリリースケーブル70との接触状態を示す部分断面図である。図6Bは、クランクプレート60がドア開のために回動した後の位置にあるとき、つまりハンドル20が開放位置(図9)にあるときの、クランクプレート60の接触面67とリリースケーブル70との接触状態を示す部分断面図である。
【0036】
図6A図6Bとを比べると明らかなように、クランクプレート60が回動することにより、接触面67も移動(回転)し、それにより、リリースケーブル70において回動方向と反対方向の部分が接触面67に徐々に接触していくようになる、つまりリリースケーブル70において接触面67に接触する部分が徐々に大きくなっていく。その結果、リリースケーブル70が、クランクプレート60の回動に伴って、この回動方向へと引っ張られる(換言すると車両後方へと引き込まれる)のである。
【0037】
次に、図7を参照して、上述したように、ハンドルアーム30の延出部35に取り付けられ、ハンドルアーム30に動力を伝達する駆動装置40の構成について説明する。図7に示すように、駆動装置40は、ヒンジピン31と同軸上に固定した扇形状のセクタギヤG1を備え、このセクタギヤG1は、ヒンジピン31に嵌合されると共に、上記の固定部材12に固定されている(つまり位置不変となっている)。また、図7に示すように、モータベース41には、モータ42が取り付けられ、モータ42の回転軸43には、出力ギヤG2が嵌合され、モータベース41に設けられた軸44には、ピニオンギヤG3を備えたアイドルギヤG4が設けられている。加えて、モータベース41に設けられた別の軸45には、ピニオンギヤG5を備えた従動ギヤG6が設けられている。
【0038】
そして、出力ギヤG2はアイドルギヤG4と噛合し、ピニオンギヤG3は従動ギヤG6と噛合し、ピニオンギヤG5はセクタギヤG1と噛合している。これにより、モータ42を駆動して、その回転軸43及び出力ギヤG2を、図7の反時計方向に回転させると、各ギヤG2、G4、G3、G6をこの順に介して、ピニオンギヤG5が図7の反時計方向に回転する。ピニオンギヤG5が図7の反時計方向に回転すると、セクタギヤG1は位置不変であるから、各要素G2~G6から成る歯車列46と、モータ42と、モータベース41とが、セクタギヤG1の扇形状に沿ってハンドル20突出方向に移動し、ハンドルアーム30を介してハンドル20を突出させる。
【0039】
次に、図3図8図9を参照して、車両用ドア10の各状態、具体的にはハンドル20の各位置における状態について説明する。ハンドル20は、そのアウタカバー21がアウタパネル7と面一になる格納位置(図3参照)と、駆動装置40によりハンドル20の格納位置において面一になる意匠面全体がアウタパネル7から突出してユーザが把持できる把持位置(図8参照)と、この把持位置よりもさらに突出する開放位置(図9参照)と、の間で回動可能に構成されている。
【0040】
図3に示す格納位置から図8に示す把持位置までの間は、ハンドル20は駆動装置40により回動される。上述したように、格納位置にあるハンドル20が外方から押圧されるとスイッチ16がオンになり、このときに駆動装置40のモータ42が通電されて、ハンドルアーム30を回動させるように動作することで、このハンドルアーム30の回動によって格納位置にあるハンドル20がアウタパネル7外方の把持位置へと突出する。なお、ハンドルアーム30が図3に示す格納位置から図8に示す把持位置に達するまでの間においては、クランクプレート60は、バネ力の強いコイルスプリング72により反リリース方向に付勢されているため動かない。
【0041】
図8に示す把持位置においては、ハンドル20は、アウタパネル7から外方に突出し、ユーザにより把持可能になっている。この把持位置から図9に示す開放位置へは、ハンドル20はユーザにより回動される。具体的には、まず、ハンドル20が把持位置に達すると、ハンドルアーム30のネック部33がクランクプレート60の縦壁61に当接する(図8参照)。この後、ハンドル20がコイルスプリング72のバネ力に抗してユーザにより開放方向に回動操作されると、クランクプレート60が縦壁61を介してハンドルアーム30から押されることでリリース方向に回動する(図9参照)。これにより、クランクプレート60の回動によりリリースケーブル70が引っ張られることで、ラッチ装置80(図2参照)がドアラッチを解除するように動作する。例えば、ラッチ装置80は、リリースケーブル70が引っ張られたことをセンサで検知するとアクチュエータを駆動することで、ドアラッチを電動で解除するよう構成されている。
【0042】
[作用及び効果]
次に、本実施形態による車両用ドア10の作用及び効果について説明する。
【0043】
本実施形態による車両用ドア10は、ユーザによるハンドル20の操作に応じたハンドルアーム30の回動に伴って回動することで、リリースケーブル70を引っ張るよう動作するクランクプレート60(ケーブル引っ張り部材)を有し、このクランクプレート60は、リリースケーブル70と接触する接触面67を備え、クランクプレート60の回動に伴って接触面67を移動させることで、リリースケーブル70を引っ張るように構成されている。特に、本実施形態では、クランクプレート60は、回動方向に沿った接触面67の断面の外形線が、ドア開時の回動方向と反対方向にいくほど、クランクプレート60の回転軸(ヒンジピン31)から接触面67までの距離が大きくなるように形成されている(図5C参照)。
【0044】
上述したように、ドアの開操作が進むにつれて、つまりクランクプレート60が回動していくと、リリースケーブル70において回動方向と反対方向の部分が接触面67に徐々に接触していくようになる、つまりリリースケーブル70において接触面67に接触する部分が徐々に大きくなっていく(図6A図6B参照)。この場合において、上記のようにクランクプレート60の接触面67を回動方向と反対方向にいくほど回転軸(ヒンジピン31)からの距離が大きくなるように形成すると(図5C参照)、クランクプレート60が回動していくと、接触面67においてリリースケーブル70に新たに接触し始める部分、つまり接触面67においてリリースケーブル70と接触する部分における回動方向と反対方向の端部(この部分はリリースケーブル70の引っ張りに大きく寄与する部分である)の回転半径が徐々に大きくなり、この端部における周方向の移動量が大きくなっていく。その結果、ドアの開操作が進むにつれて、クランクプレート60によるリリースケーブル70の引っ張り量が徐々に大きくなっていくのである。したがって、本実施形態によれば、クランクプレート60のサイズを大きくしたりハンドル20の操作量を大きくしたりすることなく、リリースケーブル70の引っ張り量を適切に確保することができる。
【0045】
また、本実施形態によれば、クランクプレート60における接触面67は、ドア開時の回動方向にいくにつれて、回転軸(ヒンジピン31)に向かって車幅方向内側に膨出した湾曲形状(例えば楕円形状)となっている。換言すると、接触面67の外形線は、ドア開時の回動方向にいくと回転軸から離れる方向に湾曲するものではない。これにより、リリースケーブル70がクランクプレート60の接触面67により引っ張られるときに、リリースケーブル70が折れ曲がってしまうことを確実に抑制できる。
【0046】
また、本実施形態によれば、ハンドル20は、アウタパネル7内に格納された状態(格納位置)と、アウタパネル7外方へ突出してユーザが把持できる状態(把持位置)とを取ることが可能に設けられている。このような構成では、ハンドル20は格納位置から把持位置まで回動されるが、この後ドア開操作のために、ハンドル20は既にある程度回動した状態の把持位置から更に回動されることとなる。そのため、ドアのロックの解除のために回動されたハンドル20の角度が大きくなる傾向にある。しかしながら、ハンドル20の操作性の観点から、ハンドル20を大きな角度まで回動させることは望ましくないと言える。この点、本実施形態による車両用ドア10では、上記のようにクランクプレート60を構成することでリリースケーブル70の十分な引っ張り量が確保されているので、ドアのロックを解除するためにハンドル20を大きな角度まで回動させなくて済むようになっている。したがって、本実施形態によれば、ハンドル20を格納位置と把持位置とを取るように構成しても、ドアのロックの適切な解除のためにハンドル20の操作性が悪化してしまうことを抑制できる。
【0047】
また、本実施形態によれば、ハンドルアーム30の回転軸とクランクプレート60の回転軸が、同一の軸(ヒンジピン31)により構成される。これにより、異なる軸を用いる場合と比較して、装置を小型化したり構成を簡素化したりすることが可能となる。
【0048】
[変形例]
上記した実施形態では、クランクプレート60の接触面67の外形線を楕円形状に形成していたが、これに限定はされない。他の例では、接触面67の外形線を楕円形状の代わりに円形状(ほぼ真円)に形成してもよい。この例では、接触面67の外形線が回動方向と反対方向にいくほどヒンジピン31からの距離が大きくなるように、外形線を形成する円形状の中心点を回転軸(ヒンジピン31の中心点)からずらせばよい。
【0049】
また、上記した実施形態では、ハンドル20を格納位置から把持位置まで駆動装置40(モータ42)により電動で移動させていたが、他の例では、ハンドル20を格納位置から把持位置まで手動で移動させてもよい。この例では、ユーザが格納位置にあるハンドル20を手動で引き出せるように、ハンドル20などを構成すればよい。
【符号の説明】
【0050】
1 車両
7 アウタパネル
10 車両用ドア
20 ハンドル
30 ハンドルアーム
31 ヒンジピン(回転軸)
40 駆動装置
42 モータ
60 クランクプレート(ケーブル引っ張り部材)
67 接触面
70 リリースケーブル
80 ラッチ装置
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図7
図8
図9