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特開2023-154884多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイス
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  • 特開-多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイス 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154884
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイス
(51)【国際特許分類】
   C01B 33/021 20060101AFI20231013BHJP
   C01B 33/06 20060101ALI20231013BHJP
   H01M 4/38 20060101ALI20231013BHJP
   H01G 11/86 20130101ALI20231013BHJP
   H01G 11/50 20130101ALI20231013BHJP
【FI】
C01B33/021
C01B33/06
H01M4/38 Z
H01G11/86
H01G11/50
【審査請求】未請求
【請求項の数】15
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064511
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松原 賢東
(72)【発明者】
【氏名】長廻 尚之
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 涼
(72)【発明者】
【氏名】近藤 康仁
(72)【発明者】
【氏名】川浦 宏之
(72)【発明者】
【氏名】早稲田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】吉田 淳
(72)【発明者】
【氏名】内山 貴之
【テーマコード(参考)】
4G072
5E078
5H050
【Fターム(参考)】
4G072AA01
4G072AA20
4G072BB05
4G072BB15
4G072GG02
4G072GG03
4G072HH01
4G072JJ09
4G072JJ13
4G072JJ14
4G072JJ21
4G072LL03
4G072LL07
4G072LL09
4G072MM01
4G072MM24
4G072MM25
4G072MM38
4G072RR01
4G072RR03
4G072RR04
4G072RR12
4G072RR15
4G072TT08
4G072TT19
4G072TT30
4G072UU30
5E078AB02
5E078AB06
5E078BA26
5E078BA44
5E078BA53
5E078BB09
5E078DA02
5E078DA06
5E078FA12
5E078FA13
5H050AA07
5H050BA17
5H050CA02
5H050CA07
5H050CA08
5H050CA09
5H050CA11
5H050CB03
5H050CB07
5H050CB11
5H050CB29
5H050HA01
5H050HA06
5H050HA09
(57)【要約】
【課題】Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制する。
【解決手段】本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、AlとSiとVとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
AlとSiとVとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含む多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項2】
前記前駆体工程では、AlとSiとVとの全体を100at%としたときに、Siを10at%以上60at%以下の範囲で含み、Vを1at%以上10at%以下の範囲で含む前記原料を用いる、
請求項1に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項3】
前記多孔化工程では、酸又はアルカリによってAl成分を選択的に除去する、
請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項4】
前記前駆体工程では、前記原料をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法のうちいずれかの方法で急冷凝固させる、
請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項5】
前記多孔化工程では、Si相及びSi-V化合物相を含む前記多孔質シリコン材料を得る、
請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項6】
前記多孔化工程では、水銀圧入法で求めた細孔率が20vol%以上である前記多孔質シリコン材料を得る、
請求項1又は2に記載の多孔質シリコン材料の製造方法。
【請求項7】
Si相及びSi-V化合物相を含み、水銀圧入法で求めた細孔率が20vol%以上である、
多孔質シリコン材料。
【請求項8】
前記Si相の割合が35wt%以上98wt%以下である、
請求項7に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項9】
水銀圧入法で求めた細孔径が1nm以上300nm以下である、
請求項7又は8に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項10】
水銀圧入法で求めた細孔率が20vol%以上85vol%以下である、
請求項7又は8に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項11】
Alを0at%超過10at%以下の範囲で含む、
請求項7又は8に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項12】
水銀圧入法で求めた平均細孔径が100nm以下である、
請求項7又は8に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項13】
前記Si相の割合が50wt%以上である、
請求項7又は8に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項14】
前記Si-V化合物相であるVSi2相の割合が2wt%以上55wt%以下である、
請求項7又は8に記載の多孔質シリコン材料。
【請求項15】
正極活物質を含む正極と、
請求項7又は8に記載の多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた、
蓄電デバイス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書では、多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコンの負極材料において、塊状のSiを70質量部とAl粉末を30質量部混合したのちアルゴン雰囲気下で合金溶湯と、ヘリウムガスによるガスアトマイズ法で粒子化したのち、塩酸でAlを除去して得られた多孔質シリコンが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この多孔質シリコンでは、充放電時の活物質体積の膨張収縮による微粉化、集電体からの活物質の剥離や導電材との接触の欠如を完全に抑制することができるとしている。また、シリコン材料の製造方法としては、Mg、Co、Cr、Cu、Feなどを含む中間合金元素と、SiとのSi合金を、所定の溶湯元素を含む溶湯中で中間合金元素と溶湯元素とを置換した第2相とSi微粒子とに分離させ、第2相を除去することによって、多孔質シリコン材料を得るものが提案されている(例えば、特許文献2参照)。この多孔質シリコン材料では、高容量と高サイクル特性を有するものとすることができるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2004-214054号公報
【特許文献2】特開2012-82125号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の特許文献1の製造方法では、SiとAlとを含む合金を用いて多孔化しているが、Siの膨張収縮に基づく不具合の抑制に対しては、まだ十分ではなかった。特許文献2の多孔質シリコン材料の製造方法では、中間合金元素を含むシリコン合金を溶融し、所定の溶湯元素を含む溶湯中で置換する、即ち高温での処理が必要であり、簡便な製造工程が求められていた。
【0005】
本開示は、このような課題に鑑みなされたものであり、充放電特性の低下をより抑制することができる多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上述した目的を達成するために鋭意研究したところ、本発明者らは、AlとSiとVとを含むシリコン合金を作製し、Alを除去すると、より強固な構造を有するものとし、充放電特性の低下をより抑制することができる多孔質シリコン材料を得ることができることを見いだし、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法、多孔質シリコン材料及び蓄電デバイスを完成するに至った。
【0007】
即ち、本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、
AlとSiとVとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る前駆体工程と、
前記シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る多孔化工程と、
を含むものである。
【0008】
本開示の多孔質シリコン材料は、
Si相及びSi-V化合物相を含み、水銀圧入法で求めた細孔率が20vol%以上である、
ものである。
【0009】
本開示の蓄電デバイスは、
正極活物質を含む正極と、
上述した多孔質シリコン材料を負極活物質として含む負極と、
前記正極と前記負極との間に介在しリチウムイオンを伝導するイオン伝導媒体と、
を備えた、
ものである。
【発明の効果】
【0010】
本開示は、Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、リチウムイオン二次電池用シリコン負極は、理論容量が4199mAh/gであり、一般的な黒鉛の理論容量372mAh/gに比べ約10倍の値を示し、さらなる高容量化、高エネルギー密度化が期待されている。一方で、リチウムイオンを吸蔵したシリコンはLi4.4Siであり、リチウム吸蔵前のシリコンに対して約4倍まで体積が膨張する。本開示では、Al-Si-V系のシリコン合金からAl成分を選択的に除去することによって、例えば、ナノサイズなどの微細な細孔を有し、微細なSi-V化合物でシリコン骨格が強化された多孔質シリコン材料を容易に多量生産することができる。微細な細孔はリチウム吸蔵・放出時のシリコンの膨張・収縮に伴う応力を緩和する。また、シリコン骨格を強化するSi-V化合物は、リチウムに対して不活性であり、リチウム吸蔵・放出時のシリコンの膨張・収縮に伴う応力でシリコンの細孔構造が潰れるのを防ぐ。このため、このような多孔質シリコン材料は、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスに用いた場合、その構造が壊れにくく、サイクル特性が向上するなど、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】2.5at%VにおけるAl-Si-V状態図。
図2】融液液滴の冷却過程における微細組織形成過程の断面模式図。
図3】Al-Si-V状態図。
図4】多孔質シリコン材料の断面模式図。
図5】蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図。
図6】実験例1の多孔質シリコン材料の断面二次電子像。
図7】実験例1の多孔質シリコン材料のXRDパターン。
図8】実験例1の多孔質シリコン材料の細孔径分布。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(多孔質シリコン材料の製造方法)
本開示の多孔質シリコン材料の製造方法は、前駆体工程と、多孔化工程とを含む。前駆体工程では、AlとSiとVとを含む原料を溶融し急冷凝固させシリコン合金の前駆体を得る処理を行う。多孔化工程では、シリコン合金に含まれるAl成分を除去して多孔質シリコン材料を得る処理を行う。まず、原料組成について説明する。
【0013】
2元系のAl-Si合金の平衡状態図(共晶系)において、液相線が極小となる共晶組成物の融液を冷却凝固させると、Al相とSi相とが同時に晶出して繊維状(ラメラ状)に相分離した共晶組織が形成される。この時、形成されるラメラ組織のサイズは、冷却速度が速いほど細かくなり、例えば102K/s以上の冷却速度では、ナノサイズの組織が形成される。この共晶組織から、酸処理などによりAl元素のみを選択除去することができれば、共晶組織の特徴を残したSi骨格からなる多孔質材料を得ることができる。
【0014】
3元系のAl-Si-V合金の平衡状態図でも、融液からAl相とSi相とが同時に晶出する共晶組成が存在する。図1に、その一例として、2.5at%VにおけるAl-Si-V状態図を示す。また、図2に、共晶組成の融液液滴の冷却過程における微細組織形成過程の模式図を示す。この系では、共晶組成の融液(図1(1)、図2(1))を冷却すると、初晶としてVSi2が晶出し、液相にVSi2粒子が分散した状態になる(図1(2)、図2(2))。これを冷却するとVSi2粒子の間の融液からAl相とSi相とが同時に晶出して、Si骨格中にVSi2強化相が分散複合化した多孔質材料を作製することができる(図1(3)、図2(3))。VSi2の強度はSiの2倍程度あるため、強化相としてVSi2を共存させることで、複合材の耐圧性を向上することができる。こうしたことから、原料組成は、Al相とSi相との共晶組織が得られ、かつ、VSi2相などのSi-V化合物相が得られる組成とすることが好ましい。原料組成は、平衡状態図に基づき、必要に応じて急冷の影響を加味して、所望の相構成となる範囲で設定してもよい。
【0015】
図3に、2.5at%V、10at%V、20at%VにおけるAl-Si-V系の状態図を示す。図3Aが2.5at%V、図3Bが10at%V、図3Cが20at%VにおけるAl-Si-V系の状態図である。Si量が少ない組成では、全てのSiがVSi2相を生成するためSi相が安定に存在できないが、Si量がある値以上の組成範囲では、Al相+Si相の共晶組成が存在し、低温でAl相+Si相+VSi2相が安定すると推察される。図3A~Cの状態図から、V量が増えるほど、Si安定化に必要なSi量は多くなることが分かった。負極容量は、多孔質中に含まれるSi相の量に依存するためSi相の量は重要である。なお、図1及び図3の平衡状態図はCALPHAD法で計算して得られたものである。
【0016】
(前駆体工程)
前駆体工程では、AlとSiとVとの全体を100at%としたときに、Siを10at%以上60at%以下の範囲で含み、Vを1at%以上10at%以下の範囲で含む原料を用いることが好ましい。なお、原料には、AlとSiとVの他に不可避的不純物を含むものとしてもよい。不可避的不純物としては、Al、Si、Vのいずれかの精製の際に不可避的に残存する成分であり、例えば、FeやC、Cu、Ni、Pなどが挙げられる。不可避的不純物は、より少ないことが好ましく、例えば、AlとSiとVとの全体を100at%としたときに、5at%以下が好ましく、2at%以下がより好ましい。Alの配合比は30at%以上としてもよく、40at%以上としてもよく、50at%以上としてもよい。また、Alの配合比は、90at%以下としてもよく、89at%以下としてもよく、85at%以下としてもよい。Siの配合比は、12.5at%以上としてもよく、15at%以上としてもよい。また、Siの配合比は50at%以下としてもよく、40at%以下としてもよい。Vの配合比は、1.5at%以上としてもよく、2at%以上としてもよい。また、Vの配合比は、7.5at%以下としてもよく、5at%以下としてもよい。AlやSiやVをこのような範囲で含むシリコン合金では、細孔率をより高めると共に、より好適な形状、サイズの細孔を得ることができ好ましい。この工程では、一般式Al100-x-ySixy(ただし、0<x<100,0<y<100)で表されるシリコン合金を母合金として用いてもよい。この工程では、共晶組織が得られる所定の組成でAlを含むシリコン合金を用いることが好ましい。所定の組成は、共晶組成としてもよいし、共晶組成近傍としてもよく、亜共晶組成や過共晶組成の一部など、所定の幅を有するものとしてもよい。例えば、共晶組成に対して±5質量%の範囲を含むものとしてもよい。
【0017】
この工程において、原料を溶融する場合は、いかなる溶融手法を用いても構わないが、Arなど不活性ガス雰囲気中の高周波るつぼ溶融が好ましい。また、溶融した原料を急冷凝固させる場合は、いかなる急冷手法を用いても構わないが、その冷却速度は、より急冷であることが好ましく、例えば、溶融状態から102℃/s以上108℃/s以下の範囲としてもよい。急冷凝固の手法としては、例えばシリコン合金の溶湯(溶融した原料)を金型に鋳造して急冷してもよいが、シリコン合金の溶湯(融液)をガスアトマイズ法、水アトマイズ法及びロール急冷法などのうち1以上で急冷することが好ましい。前駆体工程では、原料から得られたシリコン合金を粒子化するものとしてもよい。この粒子化処理では、金型鋳造で得られたインゴットを破砕して粒子化するものとしてもよい。また、上述したガスアトマイズ法及び水アトマイズ法では合金粉末が得られるため、それを利用して粒子化してもよい。また、上述したロール急冷法では薄帯合金が得られることから、その後粉砕して粉末にする(粒子化する)ものとしてもよい。ロール急冷法で得られた粉末は合金組織が微細となるため、溶出処理後に微細な細孔を有する多孔質シリコンを得ることができる。このうち、シリコン合金を粒子化する方法は、ガスアトマイズ法がより好ましい。ガスアトマイズでは、溶湯とする際にAr雰囲気で行うことが好ましく、粒子化の際は、ArやHe雰囲気下で行うことが好ましい。
【0018】
前駆体工程では、平均粒径が0.1μm以上100μm以下の範囲でシリコン合金を粒子化することが好ましい。この粒子は、例えば、平均粒径が0.5μm以上10μm以下であることが好ましく、1μm以上5μm以下がより好ましく、1μm以上3μm以下が更に好ましい。シリコン合金の粒子は、蓄電デバイスに求められる特性に応じて適宜選択すればよい。ここで、粒子の平均粒径は、走査型電子顕微鏡(SEM)で粒子を観察し、各粒子の長径をその粒子の直径として集計し、粒子数で除算して平均した値として求めるものとする。この粒子化処理で得られた粒子は、最終的に得ようとする多孔質粒子の集合体の平均粒径となる。
【0019】
この前駆体工程では、AlとSiとVとに加えCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上の第2元素を含む原料を用いてもよい。このうち、第2元素としては、Ca、Na及びSrのうち1以上が好ましい。第2元素は、AlやSi、Vの含有量よりも少ないことが好ましく、例えば、シリコン合金の全体に対して、10質量%以下の範囲が好ましく、5質量%以下の範囲より好ましい。
【0020】
(多孔化工程)
多孔化工程では、上記作製したシリコン合金からAl成分を除去する処理を行う。Al成分としては、例えば、Alやその化合物などが挙げられる。この工程では、Vやその化合物を除去してもよい。この工程では、酸又はアルカリによってAl成分、即ちAl相やその化合物を選択的に除去することが好ましい。用いる酸またはアルカリは、シリコン合金中のAl成分を溶出し、Si成分、即ちSi相やその化合物が溶出されないものが好ましく、塩酸、硫酸、水酸化ナトリウムなどが挙げられる。この酸又はアルカリは、水溶液とすることが好ましい。酸又はアルカリの濃度は、Al成分を除去できる範囲であれば特に限定されず、例えば、1mol/L以上5mol/L以下の範囲などにすることができる。この除去処理は、例えば、30℃~60℃で加温するものとしてもよい。また、除去処理は、シリコン合金の粒子を酸又はアルカリ溶液に浸漬し、1~5時間程度で撹拌を行うことが好ましい。得られた多孔質シリコン材料は、その後、洗浄および乾燥を行う。
【0021】
多孔化工程では、Si以外の物質を85質量%以上100質量%以下の範囲で除去するものとしてもよい。例えば、AlやV、その他の酸素などは、残存しても構わないが、電極活物質として利用する際には、充放電容量の観点からは、より少ない方が好ましい。また、AlやVなどの成分は、シリコン骨格を補強し、耐久性向上の観点からは、所定量以上含まれることが、好ましい。
【0022】
多孔化工程では、Si相及びSi-V化合物相を含む多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。Si相は、シリコン骨骼を形成するとともに、蓄電デバイスの充放電を担うものと推察される。Si-V化合物相はシリコン骨骼の補強を担うものと推察される。Si-V化合物としては、例えばSixy(x、yは任意の数)としてもよく、Si2VやSi35などが挙げられる。Si-V化合物相は、Siの一部がAlで置換された(Si,Al)xyとしてもよい。Si-V化合物相は、酸又はアルカリに難溶であるものとしてもよい。Si相やSi-V化合物相には、Alが固溶していてもよい。
【0023】
多孔化工程では、水銀圧入法で求めた細孔率が20vol%以上の多孔質シリコン材料を得るものとしてもよい。細孔率は、より大きいとキャリアイオンの吸蔵時の体積変化に応答しやすく、好ましい。この細孔率は、水銀圧入法で求めた1μm以下の細孔の細孔率としてもよい。多孔化工程で得られる多孔質シリコン材料は、後述する多孔質シリコン材料で説明する特徴を適宜備えていてもよい。
【0024】
(多孔質シリコン材料)
本開示の多孔質シリコン材料は、上述した製造方法で作製されたものとしてもよい。ここでは、多孔質シリコン材料の各物性などについて、上述した製造方法と同様であるものとしてその詳細な説明を省略する。
【0025】
この多孔質シリコン材料は、Si相及びSi-V化合物相を含む。この多孔質シリコン材料は、図4に示すように、Si相で形成されたSi骨骼と、Si-V化合物相である強化相とを有するものとしてもよい。Si骨骼は、前駆体であるシリコン合金の共晶組織の特徴を残したものとしてもよく、空隙を有する三次元網目構造を形成していてもよい。Si-V化合物相は、ナノ粒子としてもよく、Si骨骼の間に配置され、Si骨骼を支えるピラーのような役割を果たすものとしてもよい。なお、図4では、本開示の多孔質シリコン材料(図4B)のほか、強化相を有さない従来の多孔質シリコン材料(図4A)も示した。図4Aのように、Si相のSi骨骼だけを有するシリコン多孔体に対し、図4Bのように、Si相のSi骨骼に加え、強化相を導入した複合材とすることで、多孔質シリコン材料の耐圧性を向上することができると考えられる。この多孔質シリコン材料において、Si-V化合物相は、VSi2であることが好ましい。VSi2の強度はSiの2倍程度あるため、強化相としての機能が高い。
【0026】
この多孔質シリコン材料は、蓄電デバイスの充放電容量の観点からはSi相を多く含むことが好ましく、骨骼の補強の観点からはSi-V化合物相を多く含むことが好ましい。この多孔質シリコン材料は、Si相の割合が30wt%以上であるものとしてもよく、35wt%以上であるものとしてもよく、50wt%以上であるものとしてもよい。また、Si相の割合が99wt%以下であるものとしてもよく、98wt%以下であるものとしてもよい。この多孔質シリコン材料はSi-V化合物相(好ましくはVSi2相)の割合が1wt%以上であるものとしてもよく、2wt%以上であるものとしてもよく、10wt%以上であるものとしてもよい。また、このSi-V化合物相の割合が65wt%以下であるものとしてもよく、55wt%以下であるものとしてもよく、50wt%以下であるものとしてもよい。Si相の割合及びSi-V化合物相の割合は、X線回折(XRD)測定により求めることができる。この多孔質シリコン材料は、Si相とSi-V化合物相とで構成され、XRDでその他の相が検出されないものとしてもよい。
【0027】
この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法で求めた細孔率(好ましくは、細孔径1μm以下の細孔の細孔率)が20vol%以上である。多孔質シリコン材料では、個々の細孔にかかる応力を分散する観点から、1μm以下などの微細な細孔がより多くあることが好ましい。この細孔率は、30vol%以上としてもよく、40vol%以上としてもよい。また、この細孔率は、85vol%以下としてもよく、80vol%以下としてもよく、75vol%以下としてもよい。細孔率は、より大きいとキャリアイオンの吸蔵時の体積変化をより抑制でき好ましい。また、細孔率は、より小さいと単位体積あたりに存在するSi相が多くなり、好ましい。
【0028】
この多孔質シリコン材料は、水銀圧入法で求めた細孔径が1μm以下である、つまり、細孔径の分布範囲が1μm以下の範囲であるものとしてもよい。この細孔径は、1nm以上としてもよいし、10nm以上としてもよいし、50nm以上としてもよいし、100nm以上としてもよい。また、この細孔径は、1000nm以下としてもよく、500nm以下としてもよいし、300nm以下としてもよいし、250nm以下としてもよい。この多孔質シリコン材料において、水銀圧入法で求めた平均細孔径は、10nm以上としてもよいし、50nm以上としてもよい。この平均細孔径は、1000nm以下としてもよいし、350nm以下としてもよいし、100nm以下としてもよい。細孔径が小さいと細孔がつぶれにくく好ましい。また、細孔が大きいと、キャリアイオンを吸蔵した際に体積変化をより抑制でき好ましい。
【0029】
この多孔質シリコン材料は、酸素や不可避的不純物を除き、Si、V及びAlの全体を100at%としたときに、Alを0at%超過10at%以下の範囲で含むものとしてもよい。Alの含有率は1at%以上としてもよく、3at%以上としてもよく、4at%以上としてもよい。また、Alの含有率は9at%以下としてもよく、8at%以下としてもよい。この多孔質シリコン材料は、Siの含有率を50at%以上としてもよく、60at%以上としてもよく、70at%以上としてもよい。また、Siの含有率を95at%以下としてもよく、90at%以下としてもよく、87at%以下としてもよい。この多孔質シリコン材料は、Vの含有率を1at%以上としてもよく、3at%以上としてもよく、5at%以上としてもよい。また、Vの含有率を25at%以下としてもよく、20at%以下としてもよく、19at%以下としてもよい。また、多孔質シリコン材料は、15質量%以下の範囲で第2元素としてのCa、Cu、Mg、Na、Sr及びPのうち1以上を含むものとしてもよい。なお、Si以外の元素は、より少ないことが好ましい。
【0030】
この多孔質シリコン材料は、電極として1GPaの拘束圧を受けた際に、細孔率変化量が20vol%よりも小さいことが好ましく、15vol%よりも小さいことがより好ましく、10vol%よりも小さいことがさらに好ましい。多孔質シリコン材料は、拘束圧を受けた際に細孔率の減少量がより小さいことが、骨骼強度の観点から好ましい。
【0031】
多孔質シリコン材料は、平均粒径が0.1μm以上であることが好ましく、1μm以上がより好ましく、5μm以上としてもよい。また、この粒子は、平均粒径が10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましく、3μm以下が更に好ましい。
【0032】
(蓄電デバイス用電極)
蓄電デバイス用電極は、上述した多孔質シリコン材料を電極活物質として備えたものである。この電極は、電極活物質の電位に対して対極の電位に基づいて正極又は負極のいずれかとなるが、リチウムをキャリアとする場合、負極とすることが好ましい。この電極は、例えば、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などに利用することができる。蓄電デバイス用電極は、多孔質シリコン材料の細孔率が5体積%以上50体積%以下の範囲に圧縮されているものとしてもよい。この電極では、作製時に圧縮することにより、多孔質シリコン材料の細孔率が減少したものとしてもよい。多孔質シリコン材料の細孔率が5体積%以上50体積%以下の範囲で作製したものに比して、50体積%以上95体積%で作製したのち圧縮してこの範囲としたものの方が、空隙の形状などによって、より良好な充放電特性を示す。例えば、多孔質シリコンの粒子をリチウムイオン二次電池の負極活物質として用いる場合、細孔が小さいほどリチウムイオンが合金化する際に、均一に合金化するため、応力集中が減少し、電極そのものの劣化を防ぐことが可能となる。この圧縮後の多孔質シリコン材料の細孔率は、蓄電デバイス用電極に求められる特性に応じて適宜調整すればよく、例えば、5体積%以上や、10体積%以上、20体積%以上としてもよい。また、この圧縮後の多孔質シリコン材料の細孔率は、例えば、40体積%以下や、30体積%以下、20体積%以下としてもよい。
【0033】
蓄電デバイス用電極は、集電体上に上述した多孔質シリコン材料を形成し、集電体上に固着したものとしてもよい。この電極は、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と溶媒に混合しペースト状にして集電体上に塗布する工程か、多孔質シリコン材料を必要に応じて導電材や結着材と混合して集電体に圧着する工程により作製することができる。この電極において、多孔質シリコン材料の含有量は、より多いことが好ましく、70質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましく、85質量%以上が更に好ましい。導電材は、電池性能に悪影響を及ぼさない電子伝導性材料であれば特に限定されず、例えば、天然黒鉛(鱗状黒鉛、鱗片状黒鉛)や人造黒鉛などの黒鉛、アセチレンブラック、カーボンブラック、ケッチェンブラック、カーボンウィスカ、ニードルコークス、炭素繊維、金属(銅、ニッケル、アルミニウム、銀、金など)などの1種又は2種以上を混合したものを用いることができる。結着材は、活物質粒子及び導電材粒子を繋ぎ止める役割を果たすものであり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、フッ素ゴム等の含フッ素樹脂、或いはポリプロピレン、ポリエチレン等の熱可塑性樹脂、エチレンプロピレンジエンゴム(EPDM)、スルホン化EPDMゴム、天然ブチルゴム(NBR)等を単独で、あるいは2種以上の混合物として用いることができる。また、水系バインダーであるセルロース系やスチレンブタジエンゴム(SBR)の水分散体等を用いることもできる。溶媒としては、例えばN-メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、酢酸メチル、アクリル酸メチル、ジエチレントリアミン、N,N-ジメチルアミノプロピルアミン、エチレンオキシド、テトラヒドロフランなどの有機溶剤を用いることができる。また、水に分散剤、増粘剤等を加え、SBRなどのラテックスで活物質をスラリー化してもよい。塗布方法としては、例えば、アプリケータロールなどのローラコーティング、スクリーンコーティング、ドクターブレイド方式、スピンコーティング、バーコータなどが挙げられ、これらのいずれかを用いて任意の厚さ・形状とすることができる。集電体は、活物質の電位などに応じて適宜選択すればよいが、例えば、アルミニウム、チタン、ステンレス鋼、ニッケル、鉄、銅、焼成炭素、導電性高分子、導電性ガラスなどのほか、接着性、導電性及び耐酸化性向上の目的で、アルミニウムや銅などの表面をカーボン、ニッケル、チタンや銀などで処理したものを用いることができる。これらについては、表面を酸化処理することも可能である。集電体の形状については、箔状、フィルム状、シート状、ネット状、パンチ又はエキスパンドされたもの、ラス体、多孔質体、発泡体、繊維群の形成体などが挙げられる。集電体の厚さは、例えば1~500μmのものが用いられる。活物質複合体の形成量は、蓄電デバイスに求められる所望の性能に応じて適宜設定すればよい。
【0034】
この電極において、電極活物質は、低拘束圧と容量維持率との両立が可能な範囲において、多孔質シリコン材料に加えて、多孔質シリコン材料以外の活物質が含まれていてもよい。例えば、電極活物質として、炭素質材料やLi4Ti512などが含まれていてもよい。ただし、電池容量を一層増大させる観点から、電極活物質全体を100質量%として、例えば、多孔質シリコン材料が50質量%以上、好ましくは90質量%以上を占めることが好ましい。
【0035】
(蓄電デバイス)
本開示の蓄電デバイスは、上述した多孔質シリコン材料を有する電極を備えたものである。この蓄電デバイスは、正極と、負極と、正極及び負極の間に介在しキャリアイオンを伝導するイオン伝導媒体と、を備えたものとしてもよい。多孔質シリコン材料は、負極活物質として用いることができる。この蓄電デバイスは、リチウムイオン二次電池、ハイブリッドキャパシタ、空気電池などのうちいずれかであるものとしてもよい。正極において、正極活物質としては、遷移金属元素を含む硫化物や、リチウムと遷移金属元素とを含む酸化物などを用いることができる。具体的には、TiS2、TiS3、MoS3、FeS2などの遷移金属硫化物、基本組成式をLi(1-x)MnO2(0<x<1など、以下同じ)やLi(1-x)Mn24などとするリチウムマンガン複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)CoO2などとするリチウムコバルト複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiO2などとするリチウムニッケル複合酸化物、基本組成式をLi(1-x)NiaCobMnc2(a+b+c=1)などとするリチウムニッケルコバルトマンガン複合酸化物、基本組成式をLiV23などとするリチウムバナジウム複合酸化物、基本組成式をV25などとする遷移金属酸化物などを用いることができる。これらのうち、リチウムの遷移金属複合酸化物、例えば、LiCoO2、LiNiO2、LiMnO2、Li(1-x)Ni1/3Co1/3Mn1/32などが好ましい。なお、「基本組成式」とは、AlやMgなど他の元素を含んでもよい趣旨である。あるいは、正極活物質は、キャパシタやリチウムイオンキャパシタなどに用いられている炭素質材料としてもよい。炭素質材料としては、例えば、活性炭類、コークス類、ガラス状炭素類、黒鉛類、難黒鉛化性炭素類、熱分解炭素類、炭素繊維類、カーボンナノチューブ類、ポリアセン類などが挙げられる。このうち、高比表面積を示す活性炭類が好ましい。炭素質材料としての活性炭は、比表面積が1000m2/g以上であることが好ましく、1500m2/g以上であることがより好ましい。比表面積が1000m2/g以上では、放電容量をより高めることができる。この活性炭の比表面積は、作製の容易性から3000m2/g以下であることが好ましく、2000m2/g以下であることがより好ましい。正極に用いられる導電材や結着材、溶媒、集電体などは、上述した電極で例示したものを適宜利用することができる。
【0036】
イオン伝導媒体としては、支持塩を含む非水系電解液や非水系ゲル電解液などを用いることができる。非水電解液の溶媒としては、カーボネート類、エステル類、エーテル類、ニトリル類、フラン類、スルホラン類及びジオキソラン類などが挙げられ、これらを単独又は混合して用いることができる。具体的には、カーボネート類としてエチレンカーボネートやプロピレンカーボネート、ビニレンカーボネート、ブチレンカーボネート、クロロエチレンカーボネートなどの環状カーボネート類や、ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、エチル-n-ブチルカーボネート、メチル-t-ブチルカーボネート、ジ-i-プロピルカーボネート、t-ブチル-i-プロピルカーボネートなどの鎖状カーボネート類、γ-ブチルラクトン、γ-バレロラクトンなどの環状エステル類、ギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酪酸メチルなどの鎖状エステル類、ジメトキシエタン、エトキシメトキシエタン、ジエトキシエタンなどのエーテル類、アセトニトリル、ベンゾニトリルなどのニトリル類、テトラヒドロフラン、メチルテトラヒドロフラン、などのフラン類、スルホラン、テトラメチルスルホランなどのスルホラン類、1,3-ジオキソラン、メチルジオキソランなどのジオキソラン類などが挙げられる。このうち、環状カーボネート類と鎖状カーボネート類との組み合わせが好ましい。この組み合わせによると、充放電の繰り返しでの電池特性を表すサイクル特性が優れているばかりでなく、電解液の粘度、得られる電池の電気容量、電池出力などをバランスの取れたものとすることができる。支持塩は、例えば、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23、LiSbF6、LiSiF6、LiAlF4、LiSCN、LiClO4、LiCl、LiF、LiBr、LiI、LiAlCl4などが挙げられる。このうち、LiPF6、LiBF4、LiAsF6、LiClO4などの無機塩、及びLiCF3SO3、LiN(CF3SO22、LiC(CF3SO23などの有機塩からなる群より選ばれる1種又は2種以上の塩を組み合わせて用いることが電気特性の点から見て好ましい。この支持塩は、非水電解液中の濃度が0.1mol/L以上5mol/L以下であることが好ましく、0.5mol/L以上2mol/L以下であることがより好ましい。支持塩を溶解する濃度が0.1mol/L以上では、十分な電流密度を得ることができ、5mol/L以下では、電解液をより安定させることができる。また、この非水電解液には、リン系、ハロゲン系などの難燃剤を添加してもよい。
【0037】
また、液状のイオン伝導媒体の代わりに、固体のイオン伝導性ポリマーをイオン伝導媒体として用いることもできる。イオン伝導性ポリマーとしては、例えば、アクリロニトリル、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、メチルメタクリレート、ビニルアセテート、ビニルピロリドン、フッ化ビニリデンなどのポリマーと支持塩とで構成されるポリマーゲルを用いることができる。更に、イオン伝導性ポリマーと非水系電解液とを組み合わせて用いることもできる。また、イオン伝導媒体としては、イオン伝導性ポリマーのほか、無機固体電解質あるいは有機ポリマー電解質と無機固体電解質の混合材料、若しくは有機バインダーによって結着された無機固体粉末などを利用することができる。
【0038】
蓄電デバイスは、負極と正極との間にセパレータを備えていてもよい。セパレータとしては、リチウム二次電池の使用範囲に耐えうる組成であれば特に限定されないが、例えば、ポリプロピレン製不織布やポリフェニレンスルフィド製不織布などの高分子不織布、ポリエチレンやポリプロピレンなどのオレフィン系樹脂の薄い微多孔膜が挙げられる。これらは単独で用いてもよいし、複数を混合して用いてもよい。
【0039】
この蓄電デバイスの形状は、特に限定されないが、例えばコイン型、ボタン型、シート型、積層型、円筒型、偏平型、角型などが挙げられる。また、電気自動車等に用いる大型のものなどに適用してもよい。図5は、蓄電デバイス10の構造の一例を示す説明図である。この蓄電デバイス10は、正極12と、負極15と、イオン伝導媒体18とを有する。正極12は、正極活物質13と、集電体14とを有する。負極15は、負極活物質16と、集電体17とを有する。負極活物質16は、上述した多孔質シリコン材料21であり、空隙23を有する。
【0040】
この蓄電デバイスは、充放電サイクルを行った際の容量維持率がより高いことが好ましく、例えば、10サイクルでの容量維持率が95%以上が好ましく、97%以上がより好ましく、99%以上がさらに好ましい。
【0041】
(全固体リチウムイオン二次電池)
この蓄電デバイスは、全固体リチウムイオン二次電池とすることが好ましい。全固体電池では、電解液による性能の変化をより抑制することができ、更に安全性を高めることができ好ましい。この全固体リチウムイオン二次電池は、正極活物質を含む正極と、上述した蓄電デバイス用電極である負極と、正極と負極との間に介在しリチウムイオンを伝導する固体電解質と、を備えたものとしてもよい。正極は、上述した蓄電デバイスに示したいずれかを用いることができる。また、負極は、上述した蓄電デバイス用電極を用いることができる。
【0042】
固体電解質は、例えば、LiとLaとZrと少なくとも含むガーネット型酸化物としてもよい。この固体電解質は、基本組成がLi7.0+x-y(La3-x,Ax)(Zr2-y,Ty)O12であるものとしてもよい。但し、AはSr、Caのうち1種以上であり、TはNb、Taのうち1種以上であり、0<x≦1.0、0<y<0.75を満たすものである。あるいは、固体電解質は、基本組成(Li7-3z+x-yz)(La3-xx)(Zr2-yy)O12や、(Li7-3z+x-yz)(La3-xx)(Y2-yy)O12で表されるガーネット型酸化物であるものとしてもよい。但し、式中、元素MはAl,Gaのうち1以上、元素AはCa,Srのうち1以上、TはNb,Taのうち1以上であり、0≦z≦0.2、0≦x≦0.2、0≦y≦2であるものとしてもよい。この基本組成式において、0.05≦z≦0.1を満たすことがより好ましい。この基本組成式において、0.05≦x≦0.1を満たすことがより好ましい。また、この基本組成式において、0.1≦y≦0.8を満たすことがより好ましい。このような範囲では、イオン伝導度をより好適なものとすることができる。
【0043】
あるいは、固体電解質としては、例えば、一般的な、Li3N、LISICONと呼ばれるLi14Zn(GeO44、硫化物のLi3.25Ge0.250.754、ペロブスカイト型のLa0.5Li0.5TiO3、(La2/3Li3x1/3-2x)TiO3(□:原子空孔)、ガーネット型のLi7La3Zr212、NASICON型と呼ばれるLiTi2(PO43、Li1.30.3Ti1.7(PO34(M=Sc,Al)などが挙げられる。また、ガラスセラミックスである80Li2S・20P25(mol%)組成のガラスから得られたLi7311、さらに硫化物系で高い導電率を持つ物質であるLi10Ge2PS2なども挙げられる。ガラス系無機固体電解質ではLi2S-SiS2、Li2S-SiS2-LiI、Li2S-SiS2-Li3PO4、Li2S-SiS2-Li4SiO4、Li2S-P25、Li3PO4-Li4SiO4、Li3BO4-Li4SiO4、そしてSiO2、GeO2、B23、P25をガラス系物質としてLi2Oを網目修飾物質とするものなどが挙げられる。また、チオリシコン固体電解質としてLi2S-GeS2系、Li2S-GeS2-ZnS系、Li2S-Ga22系、Li2S-GeS2-Ga23系、Li2S-GeS2-P25系、Li2S-GeS2-SbS5系、Li2S-GeS2-Al23系、Li2S-SiS2系、Li2S-P25系、Li2S-Al23系、LiS-SiS2-Al23系、Li2S-SiS2-P25系などが挙げられる。これらの固体電解質は、板状に形成して正極と負極との間に配置するものとしてもよい。
【0044】
また、全固体リチウムイオン二次電池は、正極、固体電解質及び負極を積層した積層体を積層方向に対して拘束する拘束部材を備えるものとしてもよい。この拘束部材は、例えば、積層体の積層方向の両端側から積層体を挟む1対の板状部と、1対の板状部を連結する棒状部と、棒状部に連結されネジ構造等によって1対の板状部の間隔を調整する調整部とを備えるものとしてもよい。
【0045】
以上詳述したように、本開示は、Siを含む材料において、充放電特性の低下をより抑制することができる。このような効果が得られる理由は以下のように推察される。例えば、Al-Si-V系のシリコン合金からAl成分を選択的に除去することによって、例えばナノサイズなどの微細な細孔を有し、微細なSi-V化合物でシリコン骨格が強化された多孔質シリコン材料を容易に多量生産することができる。微細な細孔はリチウム吸蔵・放出時のシリコンの膨張・収縮に伴う応力を緩和する。また、シリコン骨格を強化するSi-V化合物は、リチウムに対して不活性であり、リチウム吸蔵・放出時のシリコンの膨張・収縮に伴う応力でシリコンの細孔構造が潰れるのを防ぐ。このため、このような多孔質シリコン材料は、リチウムイオン二次電池などの蓄電デバイスに用いた場合、その構造が壊れにくく、サイクル特性が向上するなど、性能の高い蓄電デバイスを容易に得ることができる。
【0046】
なお、本開示は上述した実施形態に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【実施例0047】
以下には、本開示の多孔質シリコンおよび蓄電デバイスを具体的に作製した例を実験例として説明する。実験例1~12が本開示の実施例であり、実験例13~15が比較例である。
【0048】
[多孔質シリコン材料の作製]
(実験例1)
Al、SiおよびVの原料を基本組成式Al100-x-ySixy(x=25、y=2.5)の組成になる様に秤量し、アーク溶融炉で溶融した。溶融前にアーク溶融炉内は8×10-3Pa以下まで減圧後、Arガス置換した。母合金の作製には、原料粉末の溶解が必要であり、均一な試料を作製するために高周波溶融を行った。得られた母合金をAr雰囲気中で1000~1300℃に加熱して溶融し、ガスアトマイズ法を用いて102 K/sec以上の速度で急冷凝固処理しAlSiV合金粉末を得た(前駆体工程)。得られた合金を3Nの塩酸水溶液に浸漬し、50℃で5時間処理して、Alを選択除去した。残渣をろ過フィルターに移し、加圧濾過法により処理後の酸を除去した後で、蒸留水で4回以上洗浄し、同様の加圧濾過法で洗浄水を除去して多孔質シリコンを得た(多孔化工程)。上記基本組成式のx=25、y=2.5とする母合金組成Al72Si252.5から得られた多孔質シリコン材料を実験例1とした。
【0049】
(実験例2)
上記基本組成式のx=15、y=2とする母合金組成から、単ロール液体急冷法を用いて102 K/sec以上の速度で急冷凝固し、粉砕した後、酸処理で多孔化した以外は実験例1と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料を実験例2とした。
【0050】
(実験例3~12)
上記基本組成式のx=15、y=3とする母合金組成から実験例2と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例3とした。上記基本組成式のx=20、y=3とする母合金組成から実験例2と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例4とした。上記基本組成式のx=30、y=3とする母合金組成から実験例2と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例5とした。上記基本組成式のx=20、y=4とする母合金組成から実験例2と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例6とした。上記基本組成式のx=25、y=4とする母合金組成から実験例2と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例7とした。上記基本組成式のx=30、y=4とする母合金組成から実験例2と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例8とした。上記基本組成式のx=25、y=5とする母合金組成から実験例2と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例9とした。上記基本組成式のx=30、y=5とする母合金組成から実験例2と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例10とした。上記基本組成式のx=35、y=3とする母合金組成から実験例2と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例11とした。上記基本組成式のx=40、y=5とする母合金組成から実験例2と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例12とした。
【0051】
(実験例13~15)
上記基本組成式のx=17、y=0とするAl-Si二元系の母合金組成から実験例1と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例13とした。上記基本組成式のx=20、y=0とするAl-Si二元系の母合金組成から実験例1と同様の工程を経て得られた多孔質シリコン材料をそれぞれ実験例14とした。多孔質シリコン材料を作製せず、平均粒径が5μmのSi粉末(高純度化学製SIE23PB)をそのまま実験例15とした。
【0052】
[SEM観察]
実験例1の多孔質シリコン材料の断面について、走査型電子顕微鏡(SEM、HITACHI製S-4300)を用いて、二次電子像を観察した。図6に実験例1の多孔質シリコン材料の断面二次電子像を示した。シリコン化合物中のAlを酸で溶出させることにより、ボイドを形成し、多孔質シリコン粒子が得られることがわかった。
【0053】
[相構成、元素組成、細孔径分布の検討]
実験例1~12の多孔質シリコン材料について、X線回折(XRD)測定を行った。X線回折測定には、X線回折装置(リガク社製RINT-TTR)を使用し、Cu管球で、2θ=10°~80°の範囲で、5°/分の速度でX線回折測定を行った。図7に実験例1の多孔質シリコン材料のXRDパターンを示した。この多孔質シリコン材料には、主相であるSi相以外に、強化相であるVSi2相が確認された。Si相の最強ピーク(~28.3°)およびVSi2の最強ピーク(~41.8°)の強度を用いて参照強度比法によりSi相及びVSi2相の存在割合を評価した。実験例2~12も同様にSi相及びVSi2相の存在割合を評価した。なお、実験例1~12では、いずれもSi相とVSi2相のみが観察された。評価結果を表1にまとめた。表1に示すように、同じV量yでは、Si量xが増えるほど、多孔質中に含まれるSi相の割合が増える傾向があることが分かった。実験例1~12では、35~98wt%程度のSi相が確認された。Si相が減るとLi充放電容量が低下するため、Si相は多い方が良いが、Si相が増えると強化相であるVSi2相が減るため、強度改善効果が不十分になる可能性がある。そのため、Si相は50wt%以上90wt%以下であることが好ましいと推察された。また、実験例1~12の多孔質シリコン材料について、SEMに付属のエネルギー分散型X線分析(EDX)装置を用いて組成分析を行った。具体的には、粉末試料を500MPaで成形後、加圧面内の5か所をランダムで、SEM観察(日立ハイテク製S-3600N、倍率1000倍)し、観察面内全面の組成分析を行い、その平均値を組成比として求めた。その結果、いずれの組成でも4~9at%のAlが検出された。Si含有量、V含有量及びAl含有量(ただし、SiとVとAlとの全体を100at%とした)を表1にまとめた。XRDではAl由来の相は確認されなかった一方、EDXではAlが検出されたことから、Si相又はVSi2強化相にAlが固溶されていることが示唆された。
【0054】
実験例1~12の多孔質シリコン材料について、水銀ポロシメータ(カンタクローム製POWERMASTER60GT)で細孔分布を測定した。評価した細孔率及び平均細孔径を、表1にまとめた。表1に示すように、実験例1~12の多孔質シリコン材料では、細孔径は1μm以下であり、細孔率は45vol%以上75vol%以下、平均細孔径は30nm以上100nm以下の範囲にあることがわかった。実験例1の多孔質シリコン材料の細孔径分布を図8に示した。図8に示すように、実験例1では、100nm以下に分布のピークを持つ多孔体が作製できていることがわかった。この試料では、71vol%の細孔率が確認された。Si相がLiと完全に反応すると体積が4倍に膨張する。その場合、例えばSi相の体積が25cm3だとすると100cm3の体積になるため、75cm3即ち75vol%の細孔率が必要になる。これは、活物質中のSi相が100wt%の場合であるが、Si相の割合が変化すると必要な細孔率も変化する。表2に、各Si相の量に対して、必要な細孔率をまとめた。Si相の高容量を使用するためにはSi相は50wt%以上が好ましい。Si相が50wt%の場合に必要な細孔率は60vol%である。つまり好ましい細孔率の範囲は60vol%以上75vol%以下である。ただし、Si骨格にはある程度の強度があるため、細孔率が60vol%よりも小さくても細孔構造が直ぐに壊れるわけではない。Si相の量によって必要な細孔量は異なるが、例えば、母合金組成Al72Si252.5の多孔体では、Si相の量が78wt%であり、細孔率は72vol%であり、必要な細孔率(表2より70vol%と見積もられる)よりも高い細孔率を持つことがわかった。
【0055】
【表1】
【0056】
【表2】
【0057】
[強度の評価]
細孔構造の強度は、シリサイド(VSi2)との複合化で改善可能である。次にそのことについて説明する。細孔構造の強度を比較するため、実験例1,13,14の多孔体試料を超硬製の金型に充填し、1GPaで1軸加圧した。そして、加圧前後の試料の細孔径分布のデータから細孔率の変化量を評価した。表3に、実験例1,13,14の細孔率の変化量をまとめた。表3に示すように、実験例1,13,14の多孔質シリコン材料では、いずれも1GPaで加圧した後は、細孔の一部が潰れて、細孔率が小さくなった。しかし、Vを含まない二元系の試料である実験例13、実験例14に比べて、Vを含む三元系の試料である実験例1では細孔率の変化量は小さくなっており、Vの導入により細孔構造が強化されることが分かった。Vを含む三元系の試料である実験例1では、Vを含まない実験例13,14と比べて10vol%以上多くの細孔が生き残っており、その分、初期の細孔率が小さくてもよいことが示された。
【0058】
【表3】
【0059】
[非水電解液を用いたリチウムイオン二次電池の評価]
実験例1の多孔質シリコン材料及び実験例15のシリコン粉末を負極活物質として用いて、リチウムイオン二次電池を作製し、放電容量や容量維持率を評価した。負極活物質を60重量%と、導電材として平均粒径2μmのアセチレンブラック20重量%と、結着材としてポリイミド20重量%とを混合し、N-メチルピロリドンを加えてから撹拌して負極スラリーを作製した。次にこの負極スラリーを厚さ20μmの銅箔上に塗布してから乾燥し、これを圧延して厚さ50μmの負極電極を作製した。作製した負極電極を直径16mmの円形に打ち抜き、この負極電極に多孔質ポロエチレン製セパレータを挟んで対極として金属リチウムを重ね、更にフルオロエチレンカーボネート(FEC)/炭酸エチレン(EC)/炭酸ジメチル(DMC)/炭酸エチルメチル(EMC)を体積比1.5/3/4/3の混合溶媒にLiPF6を1モル/Lの濃度で添加してなる電解液を注液することにより、トムセル型小型電池セルを用いてリチウム二次電池を作製した。得られたリチウム二次電池に対して、電池電圧0.005V~1.5Vの範囲で0.2Cの電流密度による充放電を10サイクル繰り返し行った。
【0060】
表4に、初回放電容量(mAh/g)、10サイクル後の放電容量(mAh/g)及び容量維持率(%)をまとめた。容量維持率は、1サイクル目の放電容量Q1と、10サイクル目の放電容量Q10とを用い、Q10/Q1×100の式から求めた。実験例15を用いたリチウムイオン二次電池では容量維持率が28%と低かったのに対して、実験例1を用いたリチウムイオン二次電池では容量維持率が99%以上と良好であった。このことから、Si相とSi-V化合物相とを含み、細孔率が20体積%以上の多孔質シリコン材料では、Si-V化合物がSi骨骼を補強することなどによってサイクル特性の低下をより抑制し、容量維持率を高めることができることがわかった。
【0061】
【表4】
【0062】
なお、本開示は上述した実験例に何ら限定されることはなく、本開示の技術的範囲に属する限り種々の態様で実施し得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本開示は、蓄電デバイスの技術分野に利用可能である。
【符号の説明】
【0064】
10 蓄電デバイス、12 正極、13 正極活物質、14 集電体、15 負極、16 負極活物質、17 集電体、18 イオン伝導媒体、21 多孔質シリコン材料、23 空隙。
図1
図2
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図4
図5
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図7
図8