(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154904
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】インクジェット記録用水性インク、定着剤、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及びインク収容容器
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20231013BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20231013BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C09D11/38
B41M5/00 120
B41J2/01 501
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064541
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000005267
【氏名又は名称】ブラザー工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115255
【弁理士】
【氏名又は名称】辻丸 光一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100154081
【弁理士】
【氏名又は名称】伊佐治 創
(74)【代理人】
【識別番号】100227019
【弁理士】
【氏名又は名称】安 修央
(72)【発明者】
【氏名】磯谷 雅斗
(72)【発明者】
【氏名】津坂 友香
(72)【発明者】
【氏名】前田 光範
【テーマコード(参考)】
2C056
2H186
4J039
【Fターム(参考)】
2C056FC01
2H186BA11
2H186DA12
2H186FB11
2H186FB15
2H186FB16
2H186FB17
2H186FB25
2H186FB29
2H186FB48
2H186FB55
4J039AE13
4J039BC19
4J039BE01
4J039EA43
4J039EA44
4J039EA46
4J039EA48
4J039GA24
(57)【要約】
【課題】 ポリ乳酸を定着剤として含む、インクジェット記録用水性インクを提供する。
【解決手段】水、着色剤、定着剤を含み、定着剤は、ポリ乳酸を含むことを特徴とする、インクジェット記録用水性インク。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
水、着色剤、定着剤を含み、
前記定着剤は、ポリ乳酸を含むことを特徴とする、インクジェット記録用水性インク。
【請求項2】
前記水が主溶媒であることを特徴とする、請求項1記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項3】
前記着色剤は顔料を含むことを特徴とする、請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項4】
前記定着剤が、前記顔料を記録媒体に定着させるためのものである、請求項3記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項5】
前記インクジェット記録用水性インク全量に対する、前記ポリ乳酸の添加量が、3質量%以上、かつ、10質量%以下であることを特徴とする、請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項6】
前記インクジェット記録用水性インク全量における、前記顔料の含有量(A)と、前記ポリ乳酸の含有量(B)との質量比(A/B)が、0.5以上、かつ、0.85以下であることを特徴とする、請求項3記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項7】
前記インクジェット記録用水性インクの粘度が10mPa・s以下であることを特徴とする、請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インク。
【請求項8】
インクジェット記録用水性インクの定着剤であって、ポリ乳酸を含むことを特徴とする定着剤。
【請求項9】
記録媒体にインクジェット記録用水性インクをインクジェット方式により吐出して記録する記録工程を含み、
前記記録工程において、前記インクジェット記録用水性インクとして、請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とする、インクジェット記録方法。
【請求項10】
インク収容部、及びインク吐出手段を含み、
前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、
前記インク収容部に、請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インクが収容されていることを特徴とする、インクジェット記録装置。
【請求項11】
インクジェット記録用水性インクを含むインク収容容器であって、前記インクジェット記録用水性インクが、請求項1又は2記載のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする、インク収容容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録用水性インク、定着剤、インクジェット記録方法、インクジェット記録装置、及びインク収容容器に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録用水性インクとしては、例えば、特許文献1に記載のものが一般的である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年の環境問題に対する意識の高まりを受け、インクジェット記録用水性インクに対しても環境負荷の低減が求められるようになってきた。
【0005】
そこで、本発明は、環境負荷の低減に貢献可能なインクジェット記録用水性インクを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明のインクジェット記録用水性インクは、水、着色剤、定着剤を含み、前記定着剤は、ポリ乳酸を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明のインクジェット記録用水性インクは、前記定着剤が生分解性を有するポリ乳酸を含むため、環境負荷の低減に貢献可能である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す概略斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明において、「質量」という場合は、特に断らない限り「重量」と読み替えてもよいものとする。例えば、「質量比」は、特に断らない限り「重量比」と読み替えてもよく、「質量%」は、特に断らない限り「重量%」と読み替えてもよいものとする。
【0010】
本発明のインクジェット記録用水性インク(以下、「水性インク」又は「インク」と言うことがある。)について説明する。本発明の水性インクは、水、着色剤、定着剤を含み、前記定着剤は、ポリ乳酸を含む。
【0011】
前記着色剤は、例えば、顔料、染料等を含んでいてもよい。
【0012】
前記顔料は、特に限定されず、例えば、カーボンブラック、無機顔料及び有機顔料等があげられる。前記カーボンブラックとしては、例えば、ファーネスブラック、ランプブラック、アセチレンブラック、チャンネルブラック等があげられる。前記無機顔料としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄系無機顔料及びカーボンブラック系無機顔料等をあげることができる。前記有機顔料としては、例えば、アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン及びペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフタロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型レーキ顔料、酸性染料型レーキ顔料等の染料レーキ顔料;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック昼光蛍光顔料;等があげられる。また、その他の顔料であっても水相に分散可能なものであれば使用できる。これらの顔料の具体例としては、例えば、C.I.ピグメントブラック1、6及び7;C.I.ピグメントイエロー1、2、3、12、13、14、15、16、17、55、74、78、150、151、154、180、185及び194;C.I.ピグメントオレンジ31及び43;C.I.ピグメントレッド2、3、5、6、7、12、15、16、48、48:1、53:1、57、57:1、112、122、123、139、144、146、149、150、166、168、175、176、177、178、184、185、190、202、209、221、222、224及び238;C.I.ピグメントバイオレット19及び196;C.I.ピグメントブルー1、2、3、15、15:1、15:2、15:3、15:4、16、22及び60;C.I.ピグメントグリーン7及び36;並びにこれらの顔料の固溶体等もあげられる。
【0013】
前記顔料は、樹脂分散剤によって溶媒中に分散されるものであってもよい(樹脂分散顔料ともいう)。前記樹脂分散剤としては、例えば、一般的な高分子分散剤(顔料分散用樹脂や樹脂分散剤等ともいう)等を用いてよく、自家調製してもよい。また、本発明の水性インクにおいて、前記顔料は、高分子によりカプセル化されたものであってもよい。前記樹脂分散剤としては、例えば、メタクリル酸及びアクリル酸の少なくとも一方をモノマーとして含むものを用いることができ、例えば、市販品を用いてもよい。前記樹脂分散剤は、例えば、スチレン、スチレン誘導体、ビニルナフタレン、ビニルナフタレン誘導体、α,β-エチレン性不飽和カルボン酸の脂肪族アルコールエステル等の疎水性単量体、又は、アクリル酸、アクリル酸誘導体、マレイン酸、マレイン酸誘導体、イタコン酸、イタコン酸誘導体、フマル酸、フマル酸誘導体からなる群から選ばれる2つ以上の単量体からなるブロック共重合体、グラフト共重合体、あるいはランダム共重合体、又はこれらの塩等であってもよい。前記市販品としては、例えば、ジョンソンポリマー(株)製の「ジョンクリル(登録商標)611」、「ジョンクリル(登録商標)60」、「ジョンクリル(登録商標)586」、「ジョンクリル(登録商標)687」、「ジョンクリル(登録商標)63」及び「ジョンクリル(登録商標)HPD296」;ビックケミー社製の「Disperbyk190」及び「Disperbyk191」;ゼネカ社製の「ソルスパース20000」及び「ソルスパース27000」;等があげられる。
【0014】
前記顔料分散用樹脂を用いた前記顔料の分散方法としては、例えば、分散装置を使用して顔料を分散させることがあげられる。前記顔料の分散に使用する分散装置は、一般的な分散機であれば特に限定はされないが、例えば、ボールミル、ロールミル、サンドミル(例えば、高速型)等があげられる。
【0015】
前記顔料は、自己分散型顔料であってもよい。前記自己分散型顔料は、例えば、顔料粒子にカルボニル基、ヒドロキシル基、カルボン酸基、スルホン酸基、リン酸基等の親水性官能基及びこれらの塩の少なくとも一種が、直接又は他の基を介して化学結合により導入されていることによって、分散剤を使用しなくても水に分散可能なものである。前記自己分散型顔料は、例えば、特開平8-3498号公報、特表2000-513396号公報、特表2008-524400号公報、特表2009-515007号公報、特表2011-515535号公報等に記載の方法によって顔料が処理されたものを用いることができる。前記自己分散型顔料の原料としては、無機顔料及び有機顔料のいずれも使用することができる。また、前記処理を行うのに適した顔料としては、例えば、三菱化学(株)製の「MA8」及び「MA100」等のカーボンブラック等があげられる。前記自己分散型顔料は、例えば、市販品を用いてもよい。前記市販品としては、例えば、キャボット・コーポレーション社製の「CAB-O-JET(登録商標)200」、「CAB-O-JET(登録商標)250C」、「CAB-O-JET(登録商標)260M」、「CAB-O-JET(登録商標)270Y」、「CAB-O-JET(登録商標)300」、「CAB-O-JET(登録商標)400」、「CAB-O-JET(登録商標)450C」、「CAB-O-JET(登録商標)465M」及び「CAB-O-JET(登録商標)470Y」;オリエント化学工業(株)製の「BONJET(登録商標)BLACK CW-2」及び「BONJET(登録商標)BLACK CW-3」;東洋インク製造(株)製の「LIOJET(登録商標)WD BLACK 002C」等があげられる。
【0016】
前述のとおり、前記定着剤は、ポリ乳酸を含む。前記ポリ乳酸の原料の由来は、特に制限されず、例えば、植物由来のポリ乳酸及び非植物由来(化学合成)のポリ乳酸であってもよい。植物由来のポリ乳酸は、例えば、デンプンや糖などから製造される。植物由来のポリ乳酸を使用すると、CO2の削減にも貢献可能となる。
【0017】
前記定着剤は、前記ポリ乳酸以外の成分を含んでもよい。前記ポリ乳酸以外の成分は、特に限定されないが、例えば、化学合成由来の原料から合成される定着剤がある。
【0018】
前記定着剤は、前記着色剤を記録媒体に定着させるためのものである。前記記録媒体は、特に限定されないが、例えば、記録用紙等があげられる。
【0019】
前記水は、イオン交換水、純水等であってもよい。
【0020】
前記水は、主溶媒であってもよい。本発明において、「主溶媒」とは、溶媒を構成する成分のうち、最も多い成分を言う。前記水性インク全量に対する前記水の配合量(水割合)は、所望のインク特性等に応じて適宜決定される。前記水割合は、例えば、他の成分の残部としてもよい。前記水の配合量は、例えば、50質量%~95質量%、好ましくは55質量%~90質量%、より好ましくは60質量%~80質量%である。
【0021】
前記水性インク全量に対する、前記ポリ乳酸の添加量は、特に限定されないが、例えば、2.5質量%以上、または3質量%以上であってもよく、かつ、10質量%以下、7質量%以下、または5質量%以下であってもよい。例えば、2.5重量%~10重量%、好ましくは3重量%~10重量%、より好ましくは3重量%~7重量%である。
【0022】
前記水性インク全量に対する、前記顔料の含有量(A)と、前記ポリ乳酸の含有量(B)との質量比(A/B)は、特に限定されないが、例えば、0.25~1.0、好ましくは0.5~0.85、より好ましくは0.5~0.83である。
【0023】
前記水性インクの粘度は、例えば、20mPa・s以下、10mPa・s以下、7mPa・s以下、または5mPa・s以下であってもよく、かつ、1mPa・s以上、または2mPa・s以上であってもよい。例えば、1~20mPa・s、好ましくは2~10mPa・sである。
【0024】
前記水性インクは、例えば、さらに、湿潤剤を含んでもよい。
【0025】
前記湿潤剤は、特に限定されず、例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、n-プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブチルアルコール、sec-ブチルアルコール、tert-ブチルアルコール等の低級アルコール;ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド等のアミド;アセトン等のケトン;ジアセトンアルコール等のケトアルコール;テトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル;ポリアルキレングリコール等のポリエーテル;アルキレングリコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコール;2-ピロリドン;N-メチル-2-ピロリドン;1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン;等があげられる。前記ポリアルキレングリコールは、例えば、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等があげられる。前記アルキレングリコールは、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、チオジグリコール、ヘキシレングリコール等があげられる。これらの湿潤剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。これらの中で、アルキレングリコール、グリセリン等の多価アルコールが好ましい。
【0026】
前記水性インクは、例えば、さらに、界面活性剤を含んでもよい。
【0027】
前記界面活性剤は、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、市販品を用いてもよい。具体的に、前記界面活性剤は、例えば、シリコーン系界面活性剤、アセチレン系界面活性剤等があげられる。
【0028】
前記シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業株式会社製の「シルフェイス(登録商標)SAG002」、「シルフェイス(登録商標)SAG005」、「シルフェイス(登録商標)SAG503A」等があげられる。
【0029】
前記アセチレン系界面活性剤の市販品としては、例えば、日信化学工業(株)製の「オルフィン(登録商標)E1004」、「オルフィン(登録商標)E1008」及び「オルフィン(登録商標)E1010」;エアープロダクツアンドケミカルズ社製の「サーフィノール(登録商標)440」、「サーフィノール(登録商標)465」及び「サーフィノール(登録商標)485」;川研ファインケミカル(株)製の「アセチレノール(登録商標)E40」及び「アセチレノール(登録商標)E100」;等があげられる。
【0030】
前記水性インクは、前記シリコーン系界面活性剤や前記アセチレン系界面活性剤に加え/代えて、他の界面活性剤を含んでもよい。前記他の界面活性剤としては、例えば、花王(株)製のノニオン界面活性剤「EMULGEN(登録商標)」シリーズ、「RHEODOL(登録商標)」シリーズ、「EMASOL(登録商標)」シリーズ、「EXCEL(登録商標)」シリーズ、「EMANON(登録商標)」シリーズ、「AMIET(登録商標)」シリーズ及び「AMINON(登録商標)」シリーズ等;東邦化学工業(株)製のノニオン界面活性剤「ソルボン(登録商標)」シリーズ等;ライオン(株)製のノニオン界面活性剤「DOBANOX(登録商標)」シリーズ、「LEOCOL(登録商標)」シリーズ、「LEOX(登録商標)」シリーズ、「LAOL,LEOCOL(登録商標)」シリーズ、「LIONOL(登録商標)」シリーズ、「CADENAX(登録商標)」シリーズ、「LIONON(登録商標)」シリーズ及び「LEOFAT(登録商標)」シリーズ等;花王(株)製のアニオン界面活性剤「EMAL(登録商標)」シリーズ、「LATEMUL(登録商標)」シリーズ、「VENOL(登録商標)」シリーズ、「NEOPELEX(登録商標)」シリーズ、NS SOAP、KS SOAP、OS SOAP及び「PELEX(登録商標)」シリーズ等;ライオン(株)製のアニオン界面活性剤「LIPOLAN(登録商標)」シリーズ、「LIPON(登録商標)」シリーズ、「SUNNOL(登録商標)」シリーズ、「LIPOTAC(登録商標) TE,ENAGICOL」シリーズ、「LIPAL(登録商標)」シリーズ及び「LOTAT(登録商標)」シリーズ等;第一工業製薬(株)製のカチオン界面活性剤「カチオーゲン(登録商標)ES-OW」及び「カチオーゲン(登録商標)ES-L」等;があげられる。
【0031】
前記界面活性剤は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を併用してもよい。
【0032】
前記水性インクは、さらに、前記水以外の溶媒として、例えば、有機溶媒を含んでいてもよい。ただし、揮発性有機化合物(VOC)の低減の観点から、前記水性インクの有機溶媒の含有量は低く設定することができるし、有機溶媒を含まないように設定することもできる。
【0033】
前記水性インクは、必要に応じて、さらに、従来公知の添加剤を含んでもよい。前記添加剤としては、例えば、pH調整剤、粘度調整剤、表面張力調整剤、防カビ剤等があげられる。前記粘度調整剤は、例えば、ポリビニルアルコール、セルロース、水溶性樹脂等があげられる。
【0034】
つぎに、本発明の定着剤は、インクジェット記録用水性インクの定着剤であって、ポリ乳酸を含むことを特徴とする。本発明の定着剤に、前記ポリ乳酸以外の定着剤成分を含む場合、例えば、前記水性インキの、前記ポリ乳酸以外の成分を使用することができる。
【0035】
つぎに、本発明のインク収容容器は、インクジェット記録用水性インクを含むインク収容容器であって、前記水性インクが、本発明のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする。前記インク収容容器としては、例えば、従来公知のものを使用できる。前記インク収容容器は、例えば、インクカートリッジ、タンク、パウチ等があげられる。
【0036】
つぎに、本発明のインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法について説明する。
【0037】
本発明のインクジェット記録装置は、インク収容部及びインク吐出部を含み、前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出部によって吐出するインクジェット記録装置であって、前記インク収容部に、本発明のインクジェット記録用水性インクが収容されていることを特徴とする。
【0038】
図1に、本発明のインクジェット記録装置の一例の構成を示す。図示のとおり、このインクジェット記録装置1は、4つのインク収容部(インクカートリッジ2)と、インク吐出部(インクジェットヘッド)3と、ヘッドユニット4と、キャリッジ5と、駆動ユニット6と、プラテンローラ7と、パージ装置8とを主要な構成要素として含む。
【0039】
4つのインクカートリッジ2は、イエロー、マゼンタ、シアン及びブラックの4色の水性インクを、それぞれ1色ずつ含む。例えば、前記4色の水性インクのうちの少なくとも一つが、本発明の水性インクである。本例では、4つのインクカートリッジ2のセットを示したが、これに代えて、水性イエローインク収納部、水性マゼンタインク収納部、水性シアンインク収納部及び水性ブラックインク収納部を形成するようにその内部が間仕切りされた一体型のインクカートリッジを用いてもよい。前記インクカートリッジの本体としては、例えば、従来公知のものを使用できる。
【0040】
ヘッドユニット4に設置されたインクジェットヘッド3は、記録媒体(例えば、記録用紙)Pに記録を行う。キャリッジ5には、4つのインクカートリッジ2及びヘッドユニット4が搭載される。駆動ユニット6は、キャリッジ5を直線方向に往復移動させる。駆動ユニット6としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008-246821号公報参照)。プラテンローラ7は、キャリッジ5の往復方向に延び、インクジェットヘッド3と対向して配置されている。
【0041】
インクジェットヘッド3は、例えば、金属製の薄板が複数層重ねて構成されている。それぞれの薄板には、貫通穴が形成されている。貫通穴が形成された薄板が複数層重なることで、前記水性インクを通すための流路が形成される。前記薄板は、例えば、それぞれ、接着剤により接着されている。
【0042】
パージ装置8は、インクジェットヘッド3の内部に溜まる気泡等を含んだ不良インクを吸引する。パージ装置8としては、例えば、従来公知のものを使用できる(例えば、特開2008-246821号公報参照)。
【0043】
パージ装置8のプラテンローラ7側には、パージ装置8に隣接してワイパ部材20が配設されている。ワイパ部材20は、へら状に形成されており、キャリッジ5の移動に伴って、インクジェットヘッド3のノズル形成面を拭うものである。
図1において、キャップ18は、水性インクの乾燥を防止するため、記録が終了するとリセット位置に戻されるインクジェットヘッド3の複数のノズルを覆うものである。
【0044】
本例のインクジェット記録装置1においては、4つのインクカートリッジ2は、ヘッドユニット4と共に、1つのキャリッジ5に搭載されている。ただし、本発明は、これに限定されない。インクジェット記録装置1において、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、ヘッドユニット4とは別のキャリッジに搭載されていてもよい。また、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジは、キャリッジ5には搭載されず、インクジェット記録装置1内に配置、固定されていてもよい。これらの態様においては、例えば、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジと、キャリッジ5に搭載されたヘッドユニット4とが、チューブ等により連結され、4つのインクカートリッジ2の各カートリッジからヘッドユニット4に前記水性インクが供給される。また、これらの態様においては、4つのインクカートリッジ2に代えて、ボトル形状の4つのインクボトルを用いてもよい。この場合、前記インクボトルには、外部から内部にインクを注入するための注入口が設けられていることが好ましい。
【0045】
このインクジェット記録装置1を用いたインクジェット記録は、例えば、つぎのようにして実施される。まず、記録用紙Pが、インクジェット記録装置1の側方又は下方に設けられた給紙カセット(図示せず)から給紙される。記録用紙Pは、インクジェットヘッド3と、プラテンローラ7との間に導入される。導入された記録用紙Pに、インクジェットヘッド3から吐出される水性インクにより所定の記録がされる。この吐出は、例えば、前述のように、第1の吐出量で行われてもよいし、特定の条件を満たした場合に第2の吐出量で行われてもよい。記録後の記録用紙Pは、インクジェット記録装置1から排紙される。
図1においては、記録用紙Pの給紙機構及び排紙機構の図示を省略している。
【0046】
図1に示す装置では、シリアル型インクジェットヘッドを採用するが、本発明は、これに限定されない。前記インクジェット記録装置は、ライン型インクジェットヘッドやロールトゥロールを採用する装置であってもよい。
【0047】
つぎに、本発明のインクジェット記録方法は、記録媒体に水性インクをインクジェット方式により吐出して記録する記録工程を含むインクジェット記録方法であって、前記記録工程において、前記水性インクとして、本発明のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とする。本発明のインクジェット記録方法は、例えば、本発明のインクジェット記録装置を用いて実施可能である。前記記録は、印字、印画、印刷等を含む。
【実施例0048】
つぎに、本発明の実施例について比較例と併せて説明する。なお、本発明は、下記の実施例及び比較例により限定及び制限されない。
【0049】
(定着樹脂A)
定着樹脂Aは、グリコール類と、ポリイソシアネートを反応させて合成したものである。配合比およびカルボキシ基やアミノ基などの官能基の調整により酸価を制御した。定着樹脂Aの酸価は48であった。また、酸価はJIS K2501に従って測定した。
【0050】
(顔料分散液Aの調整)
顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)20質量%、スチレン-アクリル酸共重合体の水酸化ナトリウム中和物 7質量%(酸価50mgKOH/g、分子量10000)に、純水を加え全体を100質量%とし、撹拌混合して混合物を得た。この混合物を、0.3mm径ジルコニアビーズを充填した湿式サンドミルに入れ、6時間分散処理を行った。その後、ジルコニアビーズをセパレータにより取り除き、孔径3.0μmセルロースアセテートフィルターでろ過することにより、顔料分散液Aを得た。なお、スチレン-アクリル酸共重合体は、一般に顔料の分散剤として用いられる水溶性のポリマーである。
【0051】
(実施例1~7、比較例1~3)
水性インク組成(表1)における、色材(着色剤)を除く成分を、均一に混合し、インク溶媒を得た。次に、色材を前記インク溶媒に加え、均一に混合した。その後、得られた混合物を、東洋濾紙(株)製のセルロースアセテートタイプメンブレンフィルタ(孔径3.00μm)でろ過することで、表1に示す実施例1~7、比較例1~3のインクジェット記録用水性インクを得た。
【0052】
実施例1~7、比較例1~3の水性インクについて、(a)粘度(IJ吐出性)、(b)定着性、(c)保存安定性を下記方法により評価した。
【0053】
(a)粘度(IJ吐出性)
粘度計(東機産業(株)製のTVE-25形)を用いて、25℃で測定し、下記評価基準にしたがって評価した。
【0054】
粘度(IJ吐出性) 評価基準
A:粘度10.0mPa・s以下
B:粘度10.0mPa・sを超える
【0055】
(b)定着性
写真光沢紙(ブラザー工業(株)製のBP71G)に対して、ドローダウンを行い、評価サンプルを得た。1日室温で乾燥後、評価サンプルにニチバン(株)製のセロテープ(登録商標)を貼り付け、室温で10分間放置した後、一定の速度で引き剥がした。その後、前記評価サンプルの剥離部の3か所の光学濃度(OD値)を、X-Rite社製の分光測色計SpectroEye(光源:D50、視野角:2°、ANSI-T)により測定し、平均値を求め、下記評価基準に従って評価した。
【0056】
定着性 評価基準
A:剥離前からの光学濃度(OD値)低下率が5%以下
B:剥離前からの光学濃度(OD値)低下率が5%を超えて10%以下
C:剥離前からの光学濃度(OD値)低下率が10%を超える
【0057】
(c)保存安定性
粘度を測定した調製直後の水性インクを、密閉容器に入れ、温度60℃、相対湿度40%の環境下に1週間保存した。このようにして作製した評価サンプルの粘度を測定し、下記評価基準に従って保存安定性を評価した。前記粘度は、粘度計(東機産業(株)製のTVE-25形)を用いて、25℃で測定した。
【0058】
保存安定性 評価基準
A:60℃1週間後の粘度変化率が5%以下
B:60℃1週間後の粘度変化率が5%を超える
【0059】
表1の環境対応性は下記評価基準に従って評価した。なお、前記環境対応性の評価試験は、ASTM D5338(ISO 14855)に準拠して実施した。
A:組成中の非揮発成分のうち、生分解性を持つ原料を60%以上含む
C:組成中の非揮発成分のうち、生分解性を持つ原料が60%未満
【0060】
表1の揮発性有機化合物(VOC)は下記評価基準に従って評価した。
A:沸点250℃以下の有機溶剤を含まない
C:沸点250℃以下の有機溶剤を含む
【0061】
実施例1~7、比較例1~3の水性インクの水性インク組成及び評価結果を、表1に示す。
【0062】
【0063】
表1に示すように、実施例1~7は、環境対応性及びVOC評価が「A」以上であり、かつ、定着性が「B」以上であった。
【0064】
前記水性インク全量に対する前記ポリ乳酸の添加量を、3質量%以上、かつ、10質量%以下とした実施例1、及び3~7は、他の実施例よりも定着性がより優れていた。
【0065】
前記水性インク全量における、前記顔料の含有量(A)と、前記ポリ乳酸の含有量(B)との質量比(A/B)を、0.5以上、かつ、0.85以下とした実施例4~6は、他の実施例よりも定着性及び保存安定性がより優れていた。
【0066】
前記水性インクの粘度が10mPa・s以下である実施例4及び5は、他の実施例よりも定着性、保存安定性、及びIJ吐出性がより優れていた。
【0067】
一方、化学合成由来の定着剤成分を使用した比較例1は、実施例と比べて環境対応性が劣る。また、VOCであるメチルエチルケトンを使用した比較例2と、実施例1との評価結果に差がなかったことから、溶媒として水だけを使用した実施例1が、地球環境保護の観点からは優位である。定着剤を含まない比較例3は定着性が悪かった。
【0068】
上記実施形態及び実施例の一部又は全部は、以下の付記のようにも記載し得るが、以下には限定されない。
(付記1)
水、着色剤、定着剤を含み、
前記定着剤は、ポリ乳酸を含むことを特徴とする、インクジェット記録用水性インク。
(付記2)
前記水が主溶媒であることを特徴とする、付記1記載のインクジェット記録用水性インク。
(付記3)
前記着色剤は顔料を含むことを特徴とする、付記1又は2記載のインクジェット記録用水性インク。
(付記4)
前記定着剤が、前記顔料を記録媒体に定着させるためのものである、付記3記載のインクジェット記録用水性インク。
(付記5)
前記インクジェット記録用水性インク全量に対する、前記ポリ乳酸の添加量が、3質量%以上、かつ、10質量%以下であることを特徴とする、付記1から4のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インク。
(付記6)
前記インクジェット記録用水性インク全量における、前記顔料の含有量(A)と、前記ポリ乳酸の含有量(B)との質量比(A/B) が、0.5以上、かつ、0.85以下であることを特徴とする、付記3又は4記載のインクジェット記録用水性インク。
(付記7)
前記インクジェット記録用水性インクの粘度が10mPa・s以下であることを特徴とする、付記1から6のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インク。
(付記8)
インクジェット記録用水性インクの定着剤であって、ポリ乳酸を含むことを特徴とする定着剤。
(付記9)
記録媒体にインクジェット記録用水性インクをインクジェット方式により吐出して記録する記録工程を含み、
前記記録工程において、前記インクジェット記録用水性インクとして、付記1から7のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクを用いることを特徴とする、インクジェット記録方法。
(付記10)
インク収容部、及びインク吐出手段を含み、
前記インク収容部に収容されたインクを前記インク吐出手段によって吐出するインクジェット記録装置であって、
前記インク収容部に、付記1から7のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクが収容されていることを特徴とする、インクジェット記録装置。
(付記11)
インクジェット記録用水性インクを含むインク収容容器であって、前記インクジェット記録用水性インクが、付記1から7のいずれか一項に記載のインクジェット記録用水性インクであることを特徴とする、インク収容容器。
以上のように、本発明の水性インクは、ポリ乳酸を定着剤として含むことで、環境対応性がよい。本発明の水性インクの用途は、各種記録媒体へのインクジェット記録に広く適用可能である。