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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154925
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】新規熱伝導性化合物
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/06 20060101AFI20231013BHJP
【FI】
C08G59/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064571
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000002141
【氏名又は名称】住友ベークライト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100110928
【弁理士】
【氏名又は名称】速水 進治
(72)【発明者】
【氏名】樫野 智將
(72)【発明者】
【氏名】大葉 昭良
【テーマコード(参考)】
4J036
【Fターム(参考)】
4J036AC01
4J036AC11
4J036AE07
4J036BA03
4J036BA07
4J036DA05
4J036DB15
4J036DC10
4J036DC15
4J036DC30
4J036DC40
4J036FB07
(57)【要約】      (修正有)
【課題】高熱伝導性を有する新規化合物を提供する。
【解決手段】式(EP1)で表される化合物であって、

nは、括弧内の構造の繰り返し数を表し、1以上の整数であり、複数のR同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、およびR同士は、互いに同一であり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、独立して、水素原子、または炭素数1~3のアルキル基であり、Xは、炭素数2~6のアルキレン基であり、Yは、式(ep)で表される基であり、

rは、1~3の整数である、化合物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(EP1)で表される化合物であって、
【化1】
式(EP1)中、
nは、括弧内の構造の繰り返し数を表し、1以上の整数であり、
複数のR同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、およびR同士は、互いに同一であり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、独立して、水素原子、または炭素数1~3のアルキル基であり、
Xは、炭素数2~6のアルキレン基であり、
Yは、式(ep)で表される基であり、
【化2】
式(ep)中、rは、1~3の整数である、化合物。
【請求項2】
前記式(EP1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子であり、前記式(EP1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子である、請求項1に記載の化合物。
【請求項3】
前記式(EP1)中のR、R、R、およびRの1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残り3つが水素原子であり、前記式(EP1)中のR、R、R、およびRの1つがアルキル基であり、残り3つが水素原子である、請求項1に記載の化合物。
【請求項4】
前記式(EP1)中のR、R、R、R、R、R、R、およびRのすべてが水素原子である、請求項1に記載の化合物。
【請求項5】
前記式(EP1)中のnが1である、請求項1乃至4のいずれかに記載の化合物。
【請求項6】
式(PH1)で表される化合物であって、
【化3】
式(PH1)中、
nは、括弧内の構造の繰り返し数を表し、1以上の整数であり、
複数のR同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、およびR同士は、互いに同一であり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、独立して、水素原子、または炭素数1~3のアルキル基であり、
Xは、炭素数2~6のアルキレン基である、化合物。
【請求項7】
前記式(PH1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子であり、前記式(PH1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子である、請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
前記式(PH1)中のR、R、R、およびRの1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残り3つが水素原子であり、前記式(1)中のR、R、R、およびRの1つがアルキル基であり、残り3つが水素原子である、請求項6に記載の化合物。
【請求項9】
前記式(PH1)中のR、R、R、R、R、R、R、およびRのすべてが水素原子である、請求項6に記載の化合物。
【請求項10】
前記式(PH1)中のnが1である、請求項6乃至9のいずれかに記載の化合物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導性を有する化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の高集積化や電子機器の処理能力の急速な向上に伴い、処理能力の高い電子部品からは多くの熱が発生する。そのため電子部品から熱を効果的に外部へ放散させる熱対策が非常に重要な課題になっている。このような放熱対策として、プリント配線基板、半導体パッケージ、筐体、ヒートパイプ、放熱板、熱拡散板等の放熱部材には、金属、セラミックス、高分子組成物等の放熱材料からなる熱伝導性部材が適用されている。
【0003】
これらの放熱部材の中でも、エポキシ樹脂組成物から成形される熱伝導性エポキシ樹脂成形体は、電気絶縁性、機械的性質、耐熱性、耐薬品性、接着性等に優れているため、注型品、積層板、封止材、熱伝導性シート、接着剤等として電気電子分野を中心に広く使用されている。
【0004】
熱伝導性エポキシ樹脂成形体を構成するエポキシ樹脂組成物は、樹脂、ゴム等の高分子マトリックス材料中に、熱伝導率の高い熱伝導性充填剤を配合したものが知られている。しかし、さらに高い熱伝導性が要求される場合には、エポキシ樹脂自体の熱伝導率や耐熱性を向上させることも提案されている(たとえば、特許文献1)。特許文献1では、メソゲン基を有する液晶性エポキシ樹脂等を重合することにより、熱伝導性を向上させた絶縁組成物を得ている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特願2004-331811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、本発明者が検討した結果、特許文献1に記載の樹脂組成物は、熱伝導性においてさらなる改善の余地を有することが判明した。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、特定の構造を有する新規なエポキシ樹脂が高熱伝導性を有することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明によれば、以下に示す化合物が提供される。
[1]式(EP1)で表される化合物であって、
【化1】
式(EP1)中、
nは、括弧内の構造の繰り返し数を表し、1以上の整数であり、
複数のR同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、およびR同士は、互いに同一であり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、独立して、水素原子、または炭素数1~3のアルキル基であり、
Xは、炭素数2~6のアルキレン基であり、
Yは、式(ep)で表される基であり、
【化2】
式(ep)中、rは、1~3の整数である、化合物。
[2]前記式(EP1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子であり、前記式(EP1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子である、項目[1]に記載の化合物。
[3]前記式(EP1)中のR、R、R、およびRの1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残り3つが水素原子であり、前記式(EP1)中のR、R、R、およびRの1つがアルキル基であり、残り3つが水素原子である、項目[1]または[2]に記載の化合物。
[4]前記式(EP1)中のR、R、R、R、R、R、R、およびRのすべてが水素原子である、項目[1]~[3]のいずれかに記載の化合物。
[5]前記式(EP1)中のnが1である、項目[1]~[4]のいずれかに記載の化合物。
[6]式(PH1)で表される化合物であって、
【化3】
式(PH1)中、
nは、括弧内の構造の繰り返し数を表し、1以上の整数であり、
複数のR同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、およびR同士は、互いに同一であり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、独立して、水素原子、または炭素数1~3のアルキル基であり、
Xは、炭素数2~6のアルキレン基である、化合物。
[7]前記式(PH1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子であり、前記式(PH1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子である、項目[6]に記載の化合物。
[8]前記式(PH1)中のR、R、R、およびRの1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残り3つが水素原子であり、前記式(1)中のR、R、R、およびRの1つがアルキル基であり、残り3つが水素原子である、項目[6]または[7]に記載の化合物。
[9]前記式(PH1)中のR、R、R、R、R、R、R、およびRのすべてが水素原子である、項目[6]~[8]のいずれかに記載の化合物。
[10]前記式(PH1)中のnが1である、項目[6]~[9]のいずれかに記載の化合物。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、高い熱伝導性を有するとともに、高い液晶性を有するエポキシ化合物、およびその前駆体化合物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本明細書中、「~」との記載は、特に断りがなければ「以上から以下」を表す。
【0011】
[第一実施形態]
第一の実施形態における化合物は、エポキシ基を有するエポキシ化合物であって、式(EP1)で表される構造を有する。
【0012】
【化4】
【0013】
式(EP1)において、
nは、括弧内の構造の繰り返し数を表し、1以上の整数である。nは、好ましくは、1~20であり、より好ましくは、1~15であり、さらに好ましくは、1~10である。
複数のR同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、およびR同士は、互いに同一であり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、独立して、水素原子、または炭素数1~3のアルキル基である。炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、およびiso-プロピル基が挙げられる。
Xは、炭素数2~6のアルキレン基(-(CH-、p=2~6)である。炭素数2~6のアルキレン基としては、エチレン、n-プロピレン、n-ブチレン、n-ペンチレン、n-ヘキシレン等が挙げられ、好ましくは、n-プロピレン、n-ブチレン、n-ペンチレンであり、より好ましくはn-ブチレン、およびn-ペンチレンであり、さらに好ましくはn-ペンチレンである。
Yは、式(ep)で表される基である。
【0014】
【化5】
【0015】
式(ep)中、rは、1~3の整数である。rは、好ましくは、1または2であり、より好ましくは、1である。
【0016】
一実施形態において、式(EP1)で表される化合物は、( )内の繰り返し単位数nが単一の化合物である。単一の化合物である場合、式(EP1)中のnは、例えば、1~10の整数であり、好ましくは、1~5の整数であり、より好ましくは、1または2であり、さらに好ましくは、1である。
【0017】
一実施形態において、式(EP1)で表される化合物は、( )内の繰り返し単位数nの異なる種々の化合物の混合物である。混合物である場合、式(EP1)中のnの平均値は、例えば、1~10であり、好ましくは、1~9であり、より好ましくは、1~8である。
【0018】
一実施形態において、本発明のエポキシ化合物は、式(EP1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子であり、式(EP1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子である構造を有する。
【0019】
一実施形態において、本発明のエポキシ化合物は、式(EP1)中のR、R、R、およびRの1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残り3つが水素原子であり、式(EP1)中のR、R、R、およびRの1つがアルキル基であり、残り3つが水素原子である構造を有する。
【0020】
好ましい実施形態において、本発明のエポキシ化合物は、式(EP1)中のR、R、R、R、R、R、R、およびRのすべてが水素原子である構造を有する。
【0021】
本実施形態のエポキシ化合物の製造方法は、特に制限はなく、目的とするエポキシ化合物に応じて、その出発物質の選択し、公知の反応工程/反応方法を用いることができる。
例えば、本実施形態のエポキシ化合物は、式(BP)で表されるビフェニル化合物を出発物質とし、以下の(工程1)および(工程2)の工程を順次経て合成することができる。以下に、(工程1)~(工程2)の反応スキームを示す。
(工程1)式(BP)で表される多価フェノール化合物と、式(2)で表される化合物を反応させて、式(PH1)で表される化合物を得る工程。
(工程2)上記(工程1)で得られた式(PH1)の化合物と、式(3)で表されるエピハロヒドリン類とを反応させて、本実施形態の式(EP1)で表される化合物を得る工程。
【0022】
【化6】
【0023】
式(BP)中のR、R、R、R、R、R、R、およびRは、上記式(EP11)におけるものと同義である。
式(2)において、qは、0~4の整数であり、Xは、ハロゲン原子である。
式(PH1)中の、R、R、R、R、R、R、R、およびR、ならびにXは、上記式(EP1)におけるものと同義である。
式(3)において、qは、0~2の整数であり、Xは、ハロゲン原子である。
【0024】
上記(工程1)において式(PH1)の化合物は、溶媒中、塩基の存在下で、式(BP)で表される多価フェノール化合物と、式(2)で表される化合物とを反応させることにより製造することができる。
式(2)で表される化合物としては、1,2―ジブロモエタン、1,3-ジブロモプロパン、1,3-ジクロロプロパン、1,4-ジクロロブタン、1,4-ジブロモブタン、1,5-ジブロモペンタン等が挙げられるが、これらに限定されない。
【0025】
上記(工程1)の反応で用いられる塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化;水酸化カルシウム等のアルカリ土類金属水酸化物;炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩;炭酸水素ナトリウム等のアルカリ金属炭酸水素塩;ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウム-tert-ブトキシド等のアルカリ金属アルコキシド;トリエチルアミン、ピリジン等の有機塩基等が挙げられる。塩基の使用量は、式(2)で示される化合物に対して、通常2~5モル倍である。
【0026】
上記(工程1)の反応温度は、例えば、10℃~150℃である。
【0027】
上記(工程1)で用いられる有機溶媒は、反応に不活性な溶媒であればよく、例えば、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール等のアルコール系溶媒;メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒;テトラヒドロフラン、ジオキサン、メトキシメチルエーテル、ジエトキシエタン等のエーテル系溶媒等を用いることができる。これらの溶媒は、単独で用いてもよいし、2種以上を混合して用いてもよい。中でも、非プロトン性極性溶媒が好ましい。有機溶媒の使用量は、特に制限されない。
【0028】
(工程1)では、溶媒中で、式(BP)の化合物と式(2)の化合物と塩基とを混合し、適宜加熱することにより、式(BP)の化合物と式(2)の化合物との反応が進行する。反応終了後、例えば、反応液から不溶分を濾別した後、そのままもしくは濃縮処理した後、水および水に不溶の有機溶媒を加えて、抽出処理することにより、式(PH1)で表される多価フェノール化合物を含む有機層が得られ、該有機層を濃縮処理することにより、式(PH1)で表される多価フェノール化合物を単離することができる。単離した式(PH1)で表される多価フェノール化合物は、通常の精製手段により精製して、所定の分子量範囲の多価フェノール化合物を混合物として得てもよいし、所定の分子量を有する多価フェノール化合物を単体として得てもよい。
【0029】
続く(工程2)では、(工程1)で得られた式(PH1)で表される多価フェノール化合物を、グリシジル化する。
【0030】
上記(工程2)における多価フェノール化合物のグリシジル化反応において、式(PH1)で表される多価フェノール化合物と式(3)で表されるエピハロヒドリン類との混合物に、触媒として水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物の固体を添加し、または添加しながら20~120℃で0.5~10時間反応させる。アルカリ金属水酸化物は水溶液として使用してもよく、その場合は該アルカリ金属水酸化物を連続的に添加すると共に、反応混合物中から減圧下又は常圧下で連続的に水及びエピハロヒドリン類を留出し後、分液により水を除去しエピハロヒドリン類のみを反応混合物中に連続的に戻す手法を用いてもよい。
【0031】
この(工程2)のグリシジル化反応に使用される式(3)で表されるエピハロヒドリン類としては、エピクロロヒドリン、エピブロムヒドリン、エピヨードヒドリン等が挙げられ、エピクロロヒドリンを用いることが好ましい。エピハロヒドリン類の好ましい使用量としては、式(PH1)で表される多価フェノール化合物中の水酸基1モルに対して0.5~6モル、より好ましくは0.55~3モルである。アルカリ金属水酸化物の使用量は、式(PH1)で表される多価フェノール化合物中の水酸基1モルに対し通常0.5~2.0モル、好ましくは0.7~1.5モルである。
【0032】
この(工程2)のグリシジル化反応は溶媒中で行っても良い。反応に用い得る溶媒としては、式(PH1)で表される多価フェノール化合物を溶解可能で、かつ反応に悪影響を与えないものであれば特に限定されない。用いることができる溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、N,N-ジメチルホルムアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、ジオキサン、アセトニトリル、テトラヒドロフラン、ジグライム等の非プロトン性極性溶媒挙げられ、これらを混合して用いてもよい。溶媒の使用量は、式(PH1)で表される多価フェノール化合物に対し、通常50~1000質量%、好ましくは100~500質量%である。
【0033】
また(工程2)のグリシジル化反応において、テトラメチルアンモニウムクロライド、テトラメチルアンモニウムブロマイド、トリメチルベンジルアンモニウムクロライドなどの第四級アンモニウム塩を触媒として使用することもできる。この場合の第四級アンモニウム塩の使用量は、式(PH1)で表される多価フェノール化合物の水酸基1モルに対して通常0.001~0.2モル、好ましくは0.05~0.1モルである。
【0034】
上記の(工程1)および(工程2)を経て得られたエポキシ化合物(EP1)を含む反応混合物は、例えば、常法に従い、反応終了後、中和、水洗、晶析、ろ過、乾燥、蒸留などの後処理操作を行うことで、単離することができる。エポキシ化合物(EP1)は、さらに純度を高めるため、常法に従い蒸留や再結晶、カラムクロマトグラフィーによる精製を行ってもよい。
【0035】
[第二の実施形態]
第二の実施形態における化合物は、式(PH1)で表される多価フェノール化合物である。この式(PH1)で表される化合物は、第一の実施形態における式(EP1)で表される化合物の前駆体である。
【0036】
【化7】
【0037】
式(PH1)において、
nは、括弧内の構造の繰り返し数を表し、1以上の整数である。nは、好ましくは、1~20であり、より好ましくは、1~15であり、さらに好ましくは、1~10である。
複数のR同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、R同士、およびR同士は、互いに同一であり、R、R、R、R、R、R、R、およびRは、独立して、水素原子、または炭素数1~3のアルキル基である。炭素数1~3のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、およびiso-プロピル基が挙げられる。
Xは、炭素数2~6のアルキレン基(-(CH-、p=2~6)である。炭素数2~6のアルキレン基としては、エチレン、n-プロピレン、n-ブチレン、n-ペンチレン、n-ヘキシレン等が挙げられ、好ましくは、n-プロピレン、n-ブチレン、n-ペンチレンであり、より好ましくはn-ブチレン、およびn-ペンチレンであり、さらに好ましくはn-ペンチレンである。
【0038】
一実施形態において、式(PH1)で表される化合物は、( )内の繰り返し単位数nが単一の化合物である。単一の化合物である場合、式(PH1)中のnは、例えば、1~10の整数であり、好ましくは、1~5の整数であり、より好ましくは、1または2であり、さらに好ましくは、1である。
【0039】
好ましい実施形態において、式(PH1)で表される化合物は、( )内の繰り返し単位数nの異なる種々の化合物の混合物である。混合物である場合、式(PH1)中のnの平均値は、例えば、1~10であり、好ましくは、1~9であり、より好ましくは、1~8である。
【0040】
一実施形態において、本発明のエポキシ化合物は、式(PH1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子であり、式(EP1)中のR、R、R、およびRの少なくとも1つが炭素数1~3のアルキルであり、残りが水素原子である構造を有する。
【0041】
一実施形態において、本発明のエポキシ化合物は、式(PH1)中のR、R、R、およびRの1つが、炭素数1~3のアルキルであり、残り3つが水素原子であり、式(1)中のR、R、R、およびRの1つがアルキル基であり、残り3つが水素原子である構造を有する。
【0042】
好ましい実施形態において、本発明のエポキシ化合物は、式(PH1)中のR、R、R、R、R、R、R、およびRのすべてが水素原子である構造を有する。
【0043】
本実施形態の多価フェノール化合物(PH1)の製造方法は、特に制限はなく、目的とする多価フェノール化合物に応じて、その出発物質の選択し、公知の反応工程/反応方法を用いることができる。
例えば、本実施形態のエポキシ化合物は、式(BP)で表されるビフェニル化合物、および式(2)で表される化合物を出発物質とし、以下の(工程1)により製造することができる。
(工程1)式(BP)で表される多価フェノール化合物と、式(2)で表される化合物を反応させて、式(PH1)で表される化合物を得る工程。
なお、この(工程1)は、第一の実施形態における(工程1)と同様である。
また得られた反応生成物は、上記と同様の後処理工程により、精製・単離することができる。
【実施例0044】
以下、実施例により、本発明をさらに具体的に説明する。
【0045】
(実施例A1)
式(PH1-1)で表される中間体化合物Aを以下の手順で合成した。
【化8】
【0046】
3,3'-ジメチル-4,4'-ジヒドロキシビフェニル(本州化学社製)16.8重量部、30%-水酸化ナトリウム水溶液26.5重量部をメタノール50.2重量部を混合し、60℃に加温した。2時間かけて1,4-ジブロモブタンを6.4重量部をゆっくりと滴下し、滴下終了後60℃で4時間撹拌した。析出物を濾別し、純水500mLで洗浄し、pHが6付近になるように塩酸で調整し、さらに純水500mLで洗浄を行い中間体Aを白色固体として収率78%で得た。中間体Aの構造は、以下のH-NMRデータより確認した。さらに中間体AのGPC測定により、中間体Aは、ポリスチレンUV換算値で、n>4が5.1%、n=3が8.4%、n=2が22.7%、n=1が66.4%の混合物であることを確認した。
【0047】
H-NMR(400MHz,DMSO-d):9.11(s,2H,OH),7.31(m,8H,Ar-H),6.87(m,4H,Ar-H),4.07(m,4H,O-CH -CH),2.18(d,J=10Hz,12H,Ar-CH ),1.93(m,4H,O-CHCH
【0048】
(実施例A2)
式(EP1-1)で表される化合物を以下の手順で合成した。
【化9】
【0049】
実施例A1で得た中間体Aを19.6重量部、テトラブチルアンモニウムクロリド0.2重量部、エピクロロヒドリン37.5重量部とジメチルスルホキシド36.5重量部を加え40℃で加温しながら1時間撹拌した。50%水酸化ナトリウム水溶液3重量部をゆっくりと滴下し、滴下終了後、50℃に加温し1時間撹拌。50%水酸化ナトリウムを6重量部をさらにゆっくりと滴下し、90℃に昇温した。90℃で6時間加熱攪拌後、冷却し、テトラヒドロフランを加えて不溶分を濾別した。ろ液を純水で洗浄しデカンテーションした。回収した褐色粘調固体をテトラヒドロフランに溶解させ、硫酸マグネシウムで乾燥させて、溶媒留去することで淡褐色固体の目的化合物を収率72%で得た。得られた化合物の構造は、以下のH-NMRデータより確認した。この化合物のGPCによるポリスチレンUV換算における重量平均分子量は、750であった。
【0050】
H-NMR(400MHz,DMSO-d):7.34(m,8H,Ar-H),6.97(m,4H,Ar-H),4.31(m,2H,CH),4.09(m,4H,O-CH -CH),3.94(m,2H,CH),3.33(m,2H,CH),2.83(m,2H,CH),2.73(m,2H,CH),2.21(d,J=9.2Hz,12H,Ar-CH),1.95(m,4H,O-CH-CH
【0051】
(実施例1~実施例6、比較例1~2)
(熱伝導性の測定)
実施例1~6において、実施例A2で得られたエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤を、表1に示す配合量で、150℃のホットプレート上で溶融混合し、室温まで冷却し、粉砕することで熱硬化性樹脂組成物とした。作製した混合物を、(条件1)150℃/2MPa/15分間圧縮成形した後、180℃のオーブンで3時間の加熱処理を実施、または(条件2)180℃/2MPa/15分間圧縮成形した後、180℃のオーブンで3時間の加熱処理を行い、硬化物を作製した。得られた硬化物を10mm□x約1mm厚に加工し、熱拡散率測定用の試料を作製した。
比較例1~2において、上記実施例と同様にして、表1に示すエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤を使用して、熱硬化性樹脂組成物を作製し、熱拡散率測定用の試料を作製した。
得られた試料をグラファイト被膜形成スプレーを用いて黒化処理し、ULVAC社製
TD-1を用いて室温における熱拡散率を測定した。結果を表1に示す。
【0052】
表1に示す成分の詳細は以下のおとりである。
(エポキシ樹脂)
・エポキシ樹脂1:上記実施例A2で得られたエポキシ化合物
・エポキシ樹脂2:ビフェニル型エポキシ樹脂(三菱ケミカル社製、YX-4000HK)
【0053】
(硬化剤)
・硬化剤1:シアネート樹脂(Lonza社製、Primaset「PT-30」)
・硬化剤2:無水ピロメリット酸(PMDA)(東京化成工業社製)
・硬化剤3:4,4'-ジアミノジフェニルメタン(DDM)(東京化成工業社製)
・硬化剤4:4,4'-ジアミノジフェニルスルホン(DDS)(東京化成工業社製)
・硬化剤5:フェノールノボラック樹脂(住友ベークライト株式会社製)
【0054】
(硬化促進剤)
・硬化促進剤1:2-メチルイミダゾール(四国化成工業社製)
【0055】
【表1】