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特開2023-154979処理装置、電動車両、処理方法、およびプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154979
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】処理装置、電動車両、処理方法、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H02P 25/098 20160101AFI20231013BHJP
【FI】
H02P25/098
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064666
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【弁理士】
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】上川畑 正仁
(72)【発明者】
【氏名】本間 励
【テーマコード(参考)】
5H501
【Fターム(参考)】
5H501AA20
5H501BB05
5H501DD04
5H501JJ03
5H501JJ04
5H501KK05
(57)【要約】
【課題】 モータの振動の抑制効果を高められるようにする。
【解決手段】 処理装置700は、モータMのステータコイル122に供給される励磁信号の時間波形である励磁波形として、基本波に第5次高調波と第7次高調波とを重畳させた励磁波形の生成条件である励磁波形生成条件を設定する。この際、処理装置700は、基本波の振幅I0に対する第7次高調波の振幅I7の比を百分率で表した振幅割合A7が0%超50%以下となるように、第7次高調波の振幅I7を設定し、且つ、基本波に対する第7次高調波の位相を進みとして基本波と第7次高調波との位相差φ7が280°以上350°以下となるように、基本波と第7次高調波との位相差φ7を設定する。
【選択図】 図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータのステータコイルに供給される励磁信号の時間波形である励磁波形を生成するための処理を行う処理装置であって、
前記励磁波形として、基本波に第5次高調波と第7次高調波とを重畳させた励磁波形の生成条件である励磁波形生成条件を設定する励磁波形生成条件設定部を備え、
前記励磁波形生成条件設定部は、前記基本波に重畳させる前記第5次高調波および前記第7次高調波の情報を、前記励磁波形生成条件として設定する高調波重畳条件設定部を有し、
前記高調波重畳条件設定部は、前記基本波の振幅I0に対する前記第7次高調波の振幅I7の比を百分率で表した振幅割合A7が、0%超50%以下となるように、前記第7次高調波の振幅I7を設定し、且つ、前記基本波に対する前記第7次高調波の位相を進み位相として、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7が、280°以上350°以下となるように、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7を設定する、処理装置。
【請求項2】
前記高調波重畳条件設定部は、前記基本波の振幅I0に対する前記第5次高調波の振幅I5の比を百分率で表した振幅割合A5が、0%超90%以下となるように、前記第5次高調波の振幅I5を設定する、請求項1に記載の処理装置。
【請求項3】
前記高調波重畳条件設定部は、前記振幅割合A5が、20%超80%以下となるように、前記第5次高調波の振幅I5を設定し、且つ、前記基本波に対する前記第5次高調波の位相を進み位相として、前記基本波と前記第5次高調波との位相差φ5が、80°以上106°以下となるように、前記基本波と前記第5次高調波との位相差φ5を設定する、請求項2に記載の処理装置。
【請求項4】
前記モータのステータコアを構成する軟磁性材料のB50は1.66T超であり、
前記振幅割合A7の範囲として、0%超50%以下に代えて0%超60%以下が用いられ、且つ、前記位相差φ7の範囲として、280°以上350°以下に代えて240°超350°以下が用いられ、
前記高調波重畳条件設定部は、前記振幅割合A7が、0%超60%以下となるように、前記第7次高調波の振幅I7を設定し、且つ、前記位相差φ7が、240°超350°以下となるように、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7を設定する、請求項1~3のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項5】
前記モータのステータコアを構成する軟磁性材料のB50は1.66T以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項6】
前記励磁波形生成条件設定部により設定された励磁波形生成条件に基づいて、前記励磁波形を生成する励磁波形生成部をさらに備える、請求項1~3のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項7】
前記モータは、IPM(Interior Permanent Magnet)モータである、請求項1~3のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項8】
前記モータは、電動車両を駆動するモータである、請求項1~3のいずれか1項に記載の処理装置。
【請求項9】
請求項1~3のいずれか1項に記載の処理装置を備える、電動車両。
【請求項10】
モータのステータコイルに供給される励磁信号の時間波形である励磁波形を生成するための処理を行う処理方法であって、
前記励磁波形として、基本波に第5次高調波と第7次高調波とを重畳させた励磁波形の生成条件である励磁波形生成条件を設定する励磁波形生成条件設定工程を備え、
前記励磁波形生成条件設定工程は、前記基本波に重畳させる前記第5次高調波および前記第7次高調波の情報を、前記励磁波形生成条件として設定する高調波重畳条件設定工程を有し、
前記高調波重畳条件設定工程は、前記基本波の振幅I0に対する前記第7次高調波の振幅I7の比を百分率で表した振幅割合A7が、0%超60%以下となるように、前記第7次高調波の振幅I7を設定し、且つ、前記基本波に対する前記第7次高調波の位相を進み位相として、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7が、280°以上350°以下となるように、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7を設定する、処理方法。
【請求項11】
請求項1~3のいずれか1項に記載の処理装置の前記励磁波形生成条件設定部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、処理装置、電動車両、処理方法、およびプログラムに関し、特に、モータを励磁するために用いて好適なものである。
【背景技術】
【0002】
運転中のモータの振動は騒音の原因となる。また、例えば、ハイブリッド自動車(HV:Hybrid Vehicle)や電気自動車(EV:Electric Vehicle)などの電動車両における駆動用モータ(動力源)の振動は乗り心地にも影響を与える。したがって、モータの振動を抑制することが望まれる。モータの振動を抑制する手法の一つとしては、モータの構造を変更することが考えられるが、既存の電動車両に対しては難しい。モータを励磁するためにモータのステータコイルに供給される励磁信号の高周波制御(高周波電流制御)によるモータ振動の抑制手法も提案されている(例えば非特許文献1など)。
【0003】
非特許文献1には、オープン巻線構造のPMSM(Permanent Magnet Synchronous Motor)におけるトルクリップルや径方向振動の低減を、基本波電流に第3次高調波電流を重畳した励磁電流により行うことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】本田一成、赤津観共著、「第3次高調波電流制御を用いたオープン巻線構造PMSMの駆動手法検討」、電気学会論文誌D、Vol.141、No.1、pp.35-45、2021年1月1日
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に、第3次高調波電流重畳に対する径方向振動抑制効果は小さいと記載されているように、改善の余地がある。例えば、スター結線(Y結線)の三相交流電源により動作するモータにおいては、3の倍数の次数の高調波電流は流れないので、第3次高調波電流を重畳させても、モータの半径方向における振動の抑制効果は十分ではない。
本発明は、以上のような問題点に鑑みてなされたものであり、モータの振動の抑制効果を高められることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の処理装置は、モータのステータコイルに供給される励磁信号の時間波形である励磁波形を生成するための処理を行う処理装置であって、前記励磁波形として、基本波に第5次高調波と第7次高調波とを重畳させた励磁波形の生成条件である励磁波形生成条件を設定する励磁波形生成条件設定部を備え、前記励磁波形生成条件設定部は、前記基本波に重畳させる前記第5次高調波および前記第7次高調波の情報を、前記励磁波形生成条件として設定する高調波重畳条件設定部を有し、前記高調波重畳条件設定部は、前記基本波の振幅I0に対する前記第7次高調波の振幅I7の比を百分率で表した振幅割合A7が、0%超50%以下となるように、前記第7次高調波の振幅I7を設定し、且つ、前記基本波に対する前記第7次高調波の位相を進み位相として、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7が、280°以上350°以下となるように、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7を設定する。
【0007】
本発明の処理方法は、モータのステータコイルに供給される励磁信号の時間波形である励磁波形を生成するための処理を行う処理方法であって、前記励磁波形として、基本波に第5次高調波と第7次高調波とを重畳させた励磁波形の生成条件である励磁波形生成条件を設定する励磁波形生成条件設定工程を備え、前記励磁波形生成条件設定工程は、前記基本波に重畳させる前記第5次高調波および前記第7次高調波の情報を、前記励磁波形生成条件として設定する高調波重畳条件設定工程を有し、前記高調波重畳条件設定工程は、前記基本波の振幅I0に対する前記第7次高調波の振幅I7の比を百分率で表した振幅割合A7が、0%超60%以下となるように、前記第7次高調波の振幅I7を設定し、且つ、前記基本波に対する前記第7次高調波の位相を進み位相として、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7が、280°以上350°以下となるように、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7を設定する。
【0008】
本発明のプログラムは、前記処理装置の前記励磁波形生成条件設定部としてコンピュータを機能させる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、モータの振動の抑制効果を高めることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】モータの構成の一例を示す図である。
図2】低B50材料における、基本波に対する第5次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図3】低B50材料における、基本波と第5次高調波との位相差と電磁力との関係の一例を示す図である。
図4A】低B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が57°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図4B】低B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が115°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図4C】低B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が182°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図4D】低B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が229°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図4E】低B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が260°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図4F】低B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が272°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図4G】低B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が286°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図4H】低B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が344°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図5】低B50材料における、基本波に対する第5次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図6A】高B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が57°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図6B】高B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が115°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図6C】高B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が182°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図6D】高B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が229°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図6E】高B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が286°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図6F】高B50材料における、基本波と第7次高調波との位相差が344°である場合の、基本波に対する第7次高調波の振幅割合と電磁力との関係の一例を示す図である。
図7】処理装置の機能的な構成の一例を示す図である。
図8】処理方法の一例を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
なお、以下の説明において、長さ、位置、大きさ、間隔等、比較対象が同じであることは、厳密に同じである場合の他、発明の主旨を逸脱しない範囲で異なるもの(例えば、設計時に定められる公差の範囲内で異なるもの)も含むものとする。
【0012】
[知見]
本発明の実施形態を説明する前に、本発明の実施形態に至るに際して本発明者らが得た知見を説明する。
モータに生じる騒音の主要な要因は、ステータ(ステータコア)の振動である。ステータの振動は、ステータ(ステータコア)に生じる電磁力により直接的に評価することができる。そこで、本発明者らは、特願2021-185783号において、基本波に対して重畳させる高調波として、ステータに生じる電磁力を低減することができる高調波を探索する手法を提案した。そして、本発明者らは、電磁界解析(数値解析)を行うことにより、どのような高調波を基本波に重畳させれば、ステータに生じる電磁力を低減することができるのかを調査した。
【0013】
<モータMの構成>
図1は、調査対象のモータMの構成の一例を示す図である。なお、図1は、モータMを回転軸線0(z軸方向)に垂直に切った断面を示すが、図1では表記の都合上、ハッチングを省略する。図1において、x、y、zの傍らに示す矢印線は、x-y-z直交座標系におけるx座標、y座標、z座標の向きを示す。また、r、θの傍らに示す矢印線は、二次元極座標系におけるr座標、θ座標の向きを示す。なお、白丸(〇)の中に黒丸(●)を付した記号は、z座標の向きを示し、紙面の奥側から手前側に向かう方向が正の方向であることを示す。また、各座標の原点は、例えば、モータMの回転軸線0(中心線)であるが、図1では、表記の都合上、各座標を、モータMの回転軸線0から離れた位置に示す。
【0014】
図1において、モータMは、ロータ110と、ステータ120と、を備える。
ロータ110は、ロータコア111と、永久磁石112a~112pと、を備える。ロータコア111は、例えば、平面形状が同じ複数の無方向性電磁鋼板を積み重ねることにより構成される。なお、ロータコア111は、軟磁性体板の一例である無方向性電磁鋼板を用いるものに限定されず、例えば、方向性電磁鋼板、圧粉磁心、アモルファスコア、およびナノ結晶コアであっても良い。
ロータコア111には、モータMの回転軸に平行な方向(z軸方向)において貫通する貫通穴111a~111iが形成されている。
【0015】
貫通穴111aの中心の位置は、モータMの回転軸線0の位置と同じである。貫通穴111aには、回転軸(シャフト)が設置される。
貫通穴111b~111iは、貫通穴111aを取り巻くように、モータMの周方向(図1に示すθ軸方向)において間隔を有して配置される。貫通穴111b~111iの形状および大きさは同じである。貫通穴111b~111iには、永久磁石112a~112pが設置される。貫通穴111b~111iに永久磁石112a~112pが設置された状態で、永久磁石112a~112pの両側方に空隙が形成される。当該空隙は、貫通穴111b~111iの一部の領域である。
【0016】
円形に対して以上のような貫通穴111a~111iに対応する穴が形成された形状を有する複数の無方向性電磁鋼板を、当該穴の位置が合うようにして積み重ねて固定したものがロータコア111である。なお、貫通穴111a~111i以外の貫通穴がロータコア111に形成されていても良い。また、所謂スキューを施してロータコア111を構成しても良い。
【0017】
ステータ120は、ステータコア121と、ステータコイル122と、を備える。ステータコア121は、例えば、平面形状が同じ複数の無方向性電磁鋼板を積み重ねることにより構成される。なお、ステータコア121は、軟磁性体板の一例である無方向性電磁鋼板を用いるものに限定されず、例えば、方向性電磁鋼板、圧粉磁心、アモルファスコア、およびナノ結晶コアであっても良い。
【0018】
ステータコア121は、複数のティース部121aと、ヨーク部121b(コアバック部)と、を有する。なお、図1では、表記の都合上、複数のティース部のうちの1つのみに符号121aを付している。
複数のティース部121aは、モータMの周方向において等間隔となるように配置される。複数のティース部121aの形状および大きさは同じである。ヨーク部121bは、概ね中空円筒形状を有する。複数のティース部121aおよびヨーク部121bは、ヨーク部121bの内周側(回転軸線0側)の端面と、複数のティース部121aの外周側(図1に示すr軸の正の方向側)の端面と、が一致するように配置される。ただし、複数のティース部121aおよびヨーク部121bは、一体となっている(境界線がない)。
【0019】
また、スロット121cにステータコイル122が配置される。スロット121cは、モータMの周方向において間隔を有した状態で隣り合う2つのティース部121aの間の領域である。なお、図1では、表記の都合上、1つのステータコイルにのみ符号122を付している。
【0020】
円形に対して、以上のような複数のティース部121aおよびヨーク部121b(スロット)に対応する形状が形成されるように加工された複数の電磁鋼板を、それらの輪郭(内縁および外縁)が合うようにして積み重ねて固定したものがステータコア121である。なお、所謂スキューを施してステータコア121を構成しても良い。
【0021】
なお、図1では、モータMが、インナーロータ型のIPM(Interior Permanent Magnet)モータである場合を例示する。ただし、モータMは、インナーロータ型のIPMモータに限定されない。例えば、モータMは、同期モータ以外のモータであっても良いし、アウターロータ型のモータであっても良い。また、モータMは、ラジアルギャップ型のモータに限定されず、アキシャルギャップ型のモータであっても良い。
【0022】
以下では、図1に示すモータMとして、ステータ120の外径が140mm、ロータ110の外径が90mm、ロータ110およびステータ120の高さ(z軸方向の長さ)が24mm、ステータ120のスロットの数が48、ロータコア111およびステータコア121を構成する軟磁性体板が無方向性電磁鋼板、極数が8、ステータコイル122の結線がスター結線である三相交流モータを例示して、本発明者らが行った調査の結果を示す。
【0023】
<数値解析の概要>
本発明者らは、電磁界解析(数値解析)を行うことにより、基本波に重畳させる高調波について後述する知見を得た。そこで、以下に、電磁界解析(数値解析)の概要を説明する。
本調査では、数値解析の一例である有限要素法を用いて、モータM(の計算モデル)に対して設定した要素(メッシュ)のそれぞれにおける磁束密度Bおよび渦電流密度(ベクトル)Jeを算出した。なお、基本波に重畳させる高調波について後述する知見は、差分法など、有限要素法以外の数値解析の手法(離散化手法)を用いて電磁界解析を実行しても得られる。
【0024】
有限要素法を用いた電磁界解析の手法としてA-φ法を用いる手法がある。この場合、電磁界解析を行うための基礎方程式は、マクスウェルの方程式(Maxwell)に基づき以下の(1)式~(4)式で与えられる。尚、各式において、→は、ベクトルであることを表す。
【0025】
【数1】
【0026】
(1)式~(4)式において、μは、透磁率であり、Aは、ベクトルポテンシャルであり、σは、導電率であり、J0は、励磁電流密度であり、Jeは、渦電流密度であり、Bは、磁束密度である。(1)式および(2)式を連立して解いて、ベクトルポテンシャルAとスカラーポテンシャルφを求めた後、(3)式および(4)式から磁束密度Bと、渦電流密度Jeを要素のそれぞれに対して求める。なお、(1)式では、表記を簡素化するため、透磁率のx成分μx、y成分μy、z成分μzが等しい場合(μx=μy=μzの場合)の式を示す。
【0027】
そして、ステータコア121に対して設定された各要素における磁束密度Bに基づいて、ステータコア121に生じる電磁力Fを算出する(以下の説明では、ステータコア121に生じる電磁力Fを必要に応じて電磁力Fと略称する)。また、ロータコア111とステータコア121との間のエアギャップに対して設定された各要素における磁束密度Bに基づいて、モータMに生じるトルクTを算出する(以下の説明では、モータMに生じるトルクTを必要に応じてトルクTと略称する)。電磁力FおよびトルクTは、例えば、公知の節点力法を用いることにより算出される。節点力法では、磁束密度Bに基づいてマクスウェル応力テンソルを算出し、マクスウェル応力テンソルを用いてr方向、θ方向、z方向の電磁力Fr、Fθ、Fzを成分として含む電磁力(ベクトル)Fが算出される。また、θ方向の電磁力Fθを用いてトルク(ベクトル)Tが算出される。なお、電磁力FおよびトルクTを算出する方法は、節点力法に限定されず、その他の公知の手法であっても良い。
【0028】
なお、電磁界解析を行う手法自体は、「中田高義、高橋則雄著、「電気工学の有限要素法」、第2版、森北出版株式会社、1986年4月」等に記載されているように一般的な手法であるので、その詳細な説明を省略する。
【0029】
<基本波に重畳させる高調波についての知見>
本発明者らは、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fと、時間波形が基本波に各種の高調波を重畳させた時間波形である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fと、を、電磁界解析(数値解析)を行うことにより算出した。ここで、各周波数をω[rad/s]とし、時刻をt[s]とし、高調波の次数をn[-]とし、基本波の振幅をI0[A]とし、第n次高調波の振幅をIn[A]とし、基本波と第n次高調波との位相差をφn[rad]とすると、励磁電流I(ωt)[A]は、以下の(5)式で表されるものとする。なお、[-]は、無次元量であることを示す。また、基本波と第n次高調波との位相差φnが正の値である場合に、第n次高調波は基本波に対して進み位相であるものとする。
【0030】
【数2】
【0031】
トルクTは、励磁電流の実効値に対応する。そこで、本調査では、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合と、時間波形が基本波に各種の高調波を重畳させた時間波形である励磁電流をステータコイル122に供給した場合と、で同等のトルクTが発生するようにして、それぞれの場合の電磁力Fを同等のトルク条件の下で比較した。具体的には、時間波形が基本波である励磁電流の実効値と、時間波形が基本波に高調波を重畳させた時間波形である励磁電流の実効値と、がそれぞれ所望のトルクTに対応する励磁電流の実効値と同じ(厳密に同じにならない場合には所望のトルクTに対応する励磁電流の実効値に可及的に近い値)になるように、それぞれの励磁電流の実効値を調整した。
【0032】
また、本調査では、静磁界解析を行うことにより、トルクTおよび電磁力Fを算出した。具体的には、一周期分の励磁電流の時間波形において、離散的な複数の時刻における励磁電流の値を用いて、当該時刻におけるトルクを算出することを、当該複数の時刻のそれぞれにおいて行い、各時刻におけるトルクの平均値をモータMに生じるトルクTとして算出した。このようにして算出したトルクTが、所望のトルクと同じ(厳密に同じにならない場合には所望のトルクTに可及的に近い値)になるように、時間波形が基本波である励磁電流の実効値と、時間波形が基本波に高調波を重畳させた時間波形である励磁電流の実効値と、をそれぞれ調整した。そして、このようにして実効値を調整した励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fとして、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fと、時間波形が基本波に各種の高調波を重畳させた時間波形である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fと、をそれぞれ算出して比較した。なお、このようにして算出される電磁力Fは、ステータコア121の全体に生じる電磁力である。しかしながら、前述したように本調査では、時間波形が基本波である励磁電流の実効値と、時間波形が基本波に高調波を重畳させた時間波形である励磁電流の実効値と、を同じにして、それぞれの励磁電流をステータコイル122に供給した場合にステータコア121に生じる電磁力Fを算出する。時間波形が基本波である励磁電流の実効値と、時間波形が基本波に高調波を重畳させた時間波形である励磁電流の実効値と、を同じにすることは、モータTのトルクT、すなわちモータMの回転方向における電磁力を同じにすることに対応する。したがって、以上のように励磁電流の実効値を同じにして算出されるステータコア121に生じる電磁力Fの差には、モータMの半径方向における電磁力の差となって表される。
【0033】
ところで、極端に高次の次数の高調波を基本波に重畳させると、励磁電流の時間波形が複雑な形状になる。そうすると、例えば、励磁電流を生成するための回路や制御が複雑になったり、励磁電流を生成するための回路に備わるスイッチング素子がスイッチングを行うことにより生じるスイッチングノイズの影響が大きくなったりする虞がある。また、前述したように例えば、スター結線(Y結線の)三相交流電源により動作するモータにおいては、3の倍数の次数の高調波電流は流れないので、第3次高調波電流を重畳させても、モータMの半径方向における振動の抑制効果は十分ではない。以上のことを踏まえ、本発明者らは、前述した比較の結果から、基本波に重畳させる高調波を、第3次高調波よりも高い奇数次の高調波のうち最も低次の高調波と2番目に低次の高調波である第5次高調波および第7次高調波のみとし、第7次高調波の振幅I7と、基本波と第7次高調波との位相差φ7と、を適正化することにより、励磁電流の時間波形の形状を極端に複雑にしなくても、モータMの振動(モータMの半径方向における電磁力)の抑制効果を大きくすることが可能になることを見出した。また、本発明者らは、ステータコア121を構成する軟磁性材料としてB50(磁化力が5000A/mのときの磁束密度)が1.66T以下である軟磁性材料を用いる場合と、B50が1.66T超である軟磁性材料を用いる場合とで、第7次高調波の振幅I7の適正化の範囲、および基本波と第7次高調波との位相差φ7の適正化の範囲と、が異なることを見出した。なお、B50は、25cmエプスタイン試験器を用いてJIS C 2550:2000により測定される値であるものとする。
【0034】
また、本発明者らは、第7次高調波の振幅I7と、基本波と第7次高調波との位相差φ7と、に加え、第5次高調波の振幅I5を適正化することにより、モータMの半径方向における電磁力をより低減させることが可能になることを見出し、さらに、第5次高調波の振幅I5に加え、基本波と第5次高調波との位相差φ5を適正化することにより、モータMの半径方向における電磁力をより一層低減させることが可能になることを見出した。
【0035】
ここで、以下の(6)式に示すように、基本波の振幅I0に対する第n次高調波の振幅Inの比(=In÷I0)を百分率で表したものを、基本波に対する第n次高調波の振幅割合Anとする。第n次高調波の振幅Inは、基本波の振幅I0と、基本波に対する第n次高調波の振幅割合Anと、を用いると、以下の(7)式で表され、第5次高調波の振幅I5、第7次高調波の振幅I7は、それぞれ以下の(7a)式、(7b)式で表される。また、基本波に第5次高調波と第7次高調波とを重畳させた励磁電流I(ωt)[A]は、(5)式より、以下の(8)式で表されるものとする。なお、基本波に第5次高調波のみを重畳させた励磁電流I(ωt)[A]は、以下の(8)式の右辺第3項を0(零)としたものとなる。また、基本波に第7次高調波のみを重畳させた励磁電流I(ωt)[A]は、以下の(8)式の右辺第2項を0(零)としたものとなる。以下の説明では、基本波に対する第5次高調波の振幅割合A5、基本波に対する第5次高調波の振幅割合A7を、必要に応じて、それぞれ振幅割合A5、A7と略称する。また、基本波と第5次高調波との位相差φ5、基本波と第7次高調波との位相差φ7を、必要に応じて、それぞれ位相差φ5、φ7と略称する。
【0036】
【数3】
【0037】
前述したように、本発明者らは、ステータコア121を構成する軟磁性材料としてB50が1.66T以下である軟磁性材料を用いる場合と、B50が1.66T超である軟磁性材料を用いる場合とで、第7次高調波の振幅I7および位相差φ7の適正化の範囲が異なることを見出した。以下の説明では、B50が1.66T以下である軟磁性材料を必要に応じて低B50材料と称し、B50が1.66T超である軟磁性材料を必要に応じて高B50材料と称する。
【0038】
<<低B50材料>>
まず、低B50材料についての知見を説明する。ここでは、低B50材料のB50が1.6Tである場合を例示して説明する。
<<<第5次高調波のみを重畳させた場合の知見>>>
本発明者らは、基本波に重畳させる高調波を第5次高調波のみとして、基本波に対する第5次高調波の振幅割合A5によって電磁力Fがどのように変化するのかを調査した。図2は、基本波に対する第5次高調波の振幅割合A5(横軸)と電磁力F(縦軸)との関係の一例を示す図である。なお、図2では、基本波と第5次高調波との位相差φ5を1.65rad(≒95°)に固定している場合を例示する。図2において、破線201は、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fの値を示す。破線202は、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fを10%低減させた値(すなわち、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fの0.9倍の値)を示す。黒丸は、時間波形が基本波に第5次高調波を重畳させた時間波形である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fを示す。なお、図2では、電磁力Fを正規化して無次元量で表している。
【0039】
本発明者らは、図2に示す結果などから、振幅割合A5を0%超90%以下(0%<A5≦90%)とすることにより、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを低減することができるという知見を得た。ただし、図2に示すように振幅割合A5を0%超90%以下としても、電磁力Fの低減効果が十分でない場合があることから、モータMの振動の抑制効果を確実に発現させる観点から、本発明者らは、振幅割合A5を20%超80%以下(20%<A5≦80%)にすれば、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを10%以上低減させることができるので好ましいという知見を得た。10%程度まで電磁力Fを低減できれば、モータMの振動の抑制効果として確実な効果が得られると考えられる。例えば、10%程度まで電磁力Fを低減できれば、モータMの振動(振幅)が小さくなり易い運転条件(例えば、低回転数、低トルクの運転条件)でモータMを運転している場合でも、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給する場合と、振幅割合A5を20%超80%以下にする場合とで、モータMの振動の絶対値(振幅)に明確な差を生じさせることができるので、振幅割合A5を20%超80%以下にすることによるモータMの振動の抑制効果を確実に発現させることができると考えられる。
さらに、本発明者らは、振幅割合A5を40%以上70%以下(40%≦A5≦70%)にすれば、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを25%近く低減させることができるのでさらに好ましいという知見を得た。
【0040】
なお、前述したように図2では、基本波と第5次高調波との位相差φ5を1.65rad(≒95°)とした場合を示すが、例えば自動車の駆動用モータなど対象となるモータを動作させることができる範囲内であれば、基本波と第5次高調波との位相差φ5が1.65rad(≒95°)以外の値であっても、電磁力Fを低減することができる振幅割合A5の範囲は、前述した範囲(0%<A5≦90%(好ましくは20%<A5≦80%、より好ましくは40%≦A5≦70%))であった。なお、駆動用モータとは、ハイブリッド自動車および電気自動車などの、モータを駆動源として移動可能な電動車両(以下、必要に応じて単に電動車両と称する)の動力源となるモータであり、車輪(ホイールおよびタイヤ)を回転させるためのトルクを発生するモータである。
【0041】
また、本発明者らは、基本波に重畳させる高調波を第5次高調波のみとして、基本波と第5次高調波との位相差φ5によって電磁力Fがどのように変化するのかを調査した。図3は、基本波と第5次高調波との位相差φ5(横軸)と電磁力F(縦軸)との関係の一例を示す図である。なお、図3では、振幅割合A5を50%に固定している場合を例示する。
図3において、破線201、202は、図2に示したものと同じであり、それぞれ、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fの値、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fを10%低減させた値である。黒丸は、時間波形が基本波に第5次高調波を重畳させた時間波形である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fを示す。なお、図3でも図2と同様に、電磁力Fを正規化して無次元量で表している(ただし、各図の電磁力F=1.0[-]における電磁力Fの実際の値(単位をNとする値)は同じである)。
【0042】
本発明者らは、図2および図3に示す結果などから、振幅割合A5が0%超90%以下(0%<A5≦90%)である場合には、位相差φ5に関わらず、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを低減させることができるが、振幅割合A5を20%超80%以下(20%<A5≦80%)とする場合(好ましくは振幅割合A5を40%以上70%以下(40%≦A5≦70%)とする場合)には、位相差φ5を80°以上106°以下(80°≦φ5≦106°)にすることにより、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを10%以上低減させることができるので好ましいという知見を得た。また、さらに、本発明者らは、振幅割合A5を20%超80%以下(20%<A5≦80%)とする場合(好ましくは振幅割合A5を40%以上70%以下(40%≦A5≦70%)とする場合)、位相差φ5を、90°超106°以下(90°<φ5≦106°)にすれば、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを80%程度以下に低減させることができるのでより好ましいという知見を得た。さらに、本発明者らは、さらに、本発明者らは、振幅割合A5を20%超80%以下(20%<A5≦80%)とする場合(好ましくは振幅割合A5を40%以上70%以下(40%≦A5≦70%)とする場合)、位相差φ5を、95°以上106°以下(95°≦φ5≦106°)にすれば、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを75%程度以下に低減させることができるのでより一層好ましいという知見を得た。
【0043】
なお、前述したように図3では、振幅割合A5を50%とした場合の位相差φ5と電磁力Fとの関係を示すが、電動車両の駆動用モータを動作させることができる範囲内であれば、振幅割合A5が50%以外の値であっても、電磁力Fを低減することができる好ましい位相差φ5の範囲は、前述した範囲(80°≦φ5≦106°、より好ましくは、90°<φ5≦106°、より一層好ましくは95°≦φ5≦106°)であった。
【0044】
前述したように本調査では静磁界解析を行っているので、励磁電流の実効値(振幅)、すなわちトルクTが同等であれば、電磁力FはモータMの回転数に依存しない。したがって、図2および図3を参照しながら説明した結果は、モータMの回転数に依存するものではない。このことは、後述する図4A図4H図5、および図6A図6Fについても同じである。
【0045】
<<<第5次高調波および第7次高調波を重畳させた場合の知見>>>
図2に示す結果では、基本波に第5次高調波のみを重畳させた場合、振幅割合A5が50%付近である場合に電磁力Fが最も小さくなった(電磁力Fの基準値203を参照)。そこで、本発明者らは、振幅割合A5が50%であり位相差φ5が1.65rad(≒95°)である第5次高調波と、振幅割合A7および位相差φ7が異なる第7次高調波と、を基本波に重畳させた場合に電磁力Fがどのように変化するのかを調査した。図4A図4Hは、基本波に対する第7次高調波の振幅割合A7と電磁力Fとの関係の一例を示す図である。具体的に、図4A図4B図4C図4D図4E図4F図4G図4Hは、それぞれ、基本波と第7次高調波との位相差φ7が、57°、115°、182°、229°、260°、272°、286°、344°である場合の振幅割合A7(横軸)と電磁力F(縦軸)との関係の一例を示す図である。
【0046】
図4A図4Hにおいて、破線401は、図2に示す電磁力Fの基準値203を示す。黒丸は、時間波形が基本波に第5次高調波(A5=50%、φ5≒95°)および第7次高調波を重畳させた時間波形である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fを示す。したがって、電磁力F(黒丸)が破線401よりも小さいことは、基本波に第5次高調波のみを重畳させる場合よりも電磁力Fを低減することができることを示すことになる。なお、図4A図4Hでも図2と同様に、電磁力Fを正規化して無次元量で表している(ただし、前述したように各図の電磁力F=1.0[-]における電磁力Fの実際の値(単位をNとする値)は同じである)。
【0047】
本発明者らは、図4A図4Fに示す結果などから、位相差φ7が0°以上280°未満(0°≦φ7<280°)では、基本波に第5次高調波のみを重畳させる場合よりも電磁力Fを低減することができない場合があるという知見を得た。一方、図4G図4Hに示す結果などから、本発明者らは、位相差φ7を280°以上350°以下(280°≦φ7≦350°)とする場合、振幅割合A7を0%超50%以下(0%<A7≦50%)とすれば、基本波に第5次高調波のみを重畳させる場合よりも電磁力Fを低減することができるという知見を得た(図4Gおよび図4Hのグレーで示す領域を参照)。
【0048】
なお、図4Gに示すように位相差φ7が286°である場合には、振幅割合A7が50%超となる範囲でも、基本波に第5次高調波のみを重畳させる場合より電磁力Fを低減することができる。しかしながら、モータMを実際に制御する際には、振幅割合A7および位相差φ7を変更する必要がある。したがって、振幅割合A7および位相差φ7の一方のみの適用範囲が極端に狭くなると、モータMを実際に制御する際に最適な振幅割合A7および位相差φ7を選択することができなくなる虞がある。このような観点から、基本波(および第5次高調波)に重畳させる第7次高調波の振幅割合A7を0%超50%以下(0%<A7≦50%)とし、位相差φ7を280°以上350°以下(280°≦φ7≦350°)とすることとした。
【0049】
なお、図4A図4Hでは、基本波に対する第5次高調波の振幅割合A5を50%とし、基本波と第5次高調波との位相差φ5を1.65rad(≒95°)とした場合を示すが、電動車両の駆動用モータを動作させることができる範囲内であれば、基本波に対する第5次高調波の振幅割合A5が50%の以外の値であり、基本波と第5次高調波との位相差φ5が1.65rad(≒95°)以外の値であっても、電磁力Fを低減することができる振幅割合A7および位相差φ7の範囲は、前述した範囲(0%<A7≦50%、280°≦φ7≦350°)であった。
【0050】
以上の図4A図4Hに示す結果などから、本発明者らは、低B50材料においては、振幅割合A7を0%超50%以下にし、且つ、位相差φ7を280°以上350°以下にすることにより、第5次高調波および第7次高調波を基本波に重畳させることによる電磁力Fの低減効果が生じるという知見を得た。
【0051】
前述したように本調査では静磁界解析を行っているので、励磁電流の実効値(振幅)、すなわちトルクTが同等であれば、電磁力FはモータMの回転数に依存しない。したがって、低B50材料においては、振幅割合A7を0%超50%以下にし、且つ、位相差φ7を280°以上350°以下にすることにより、駆動用モータの回転数に関わらず駆動用モータの振動を低減することができ、例えば、駆動用モータの回転数に関わらず電動車両の乗り心地を改善することができる。また、図2に示す結果などから、振幅割合A5を0%超90%以下にすることにより、基本波に重畳させる第5次高調波による電磁力Fの低減効果が生じる。また、振幅割合A5を20%超80%以下にすると共に、位相差φ5を80°以上106°以下にすることにより、基本波に重畳させる第5次高調波による電磁力Fの低減効果をより顕著に発揮させることができる。
【0052】
なお、IPMモータなどの、電動車両の駆動用モータとして一般的に使用される実用的な範囲においては、駆動用モータの振動を低減することができる振幅割合A7、A5および位相差φ7、φ5の範囲として前述した範囲(0%<A7≦50%且つ280°≦φ7≦350°、好ましくはさらに0%<A5≦90%、より好ましくはさらに20%<A5≦80%且つ80°≦φ5≦106°など)が得られた。
【0053】
また、本調査では、低B50材料のB50が1.6Tである場合について説明するが、IPMモータなどの、電動車両の駆動用モータとして一般的に使用される実用的な範囲においては、B50が1.66T以下のその他の値(≠1.6T)においても、駆動用モータの振動を低減することができる振幅割合A7、A5および位相差φ7、φ5の範囲として前述した範囲(0%<A7≦50%且つ280°≦φ7≦350°、好ましくはさらに0%<A5≦90%、より好ましくはさらに20%<A5≦80%且つ80°≦φ5≦106°など)が得られた。
【0054】
<<高B50材料>>
次に、高B50材料についての知見を説明する。ここでは、高B50材料のB50が1.7Tである場合を例示して説明する。
<<<第5次高調波のみを重畳させた場合の知見>>>
本発明者らは、高B50材料においても低B50材料と同様に、基本波に重畳させる高調波を第5次高調波のみとして、基本波に対する第5次高調波の振幅割合A5によって電磁力Fがどのように変化するのかを調査した。図5は、基本波に対する第5次高調波の振幅割合A5(横軸)と電磁力F(縦軸)との関係の一例を示す図である。なお、図5では、図2と同様に、基本波と第5次高調波との位相差φ5を1.65rad(≒95°)に固定している場合を例示する。図5において、破線501は、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fの値を示す。破線502は、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fを10%低減させた値(すなわち、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fの0.9倍の値)を示す。黒丸は、時間波形が基本波に第5次高調波を重畳させた時間波形である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fを示す。なお、図5でも図2と同様に、電磁力Fを正規化して無次元量で表している(ただし、前述したように各図の電磁力F=1.0[-]における電磁力Fの実際の値(単位をNとする値)は同じである)。
【0055】
本発明者らは、図5に示す結果などから、高B50材料においても低B50材料と同様に、振幅割合A5を0%超90%以下(0%<A5≦90%)とすることにより、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを低減することができるという知見を得た。ただし、図5に示すように振幅割合A5を0%超90%以下としても、電磁力Fの低減効果が十分でない場合があることから、モータMの振動の抑制効果を確実に発現させる観点から、本発明者らは、振幅割合A5を20%超80%以下(20%<A5≦80%)にすれば、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを10%以上低減させることができるので好ましいという知見を得た。10%程度まで電磁力Fを低減できれば、モータMの振動の抑制効果として確実な効果が得られると考えられる。例えば、10%程度まで電磁力Fを低減できれば、モータMの振動(振幅)が小さくなり易い運転条件(例えば、低回転数、低トルクの運転条件)でモータMを運転している場合でも、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給する場合と、振幅割合A5を20%超80%以下にする場合とで、モータMの振動の絶対値(振幅)に明確な差を生じさせることができるので、振幅割合A5を20%超80%以下にすることによるモータMの振動の抑制効果を確実に発現させることができると考えられる。
さらに、本発明者らは、振幅割合A5を40%以上70%以下(40%≦A5≦70%)にすれば、基本波の励磁電流の場合よりも、電磁力Fを2%程度低減させることができるのでさらに好ましいという知見を得た。
【0056】
なお、前述したように図5でも図2と同様に、基本波と第5次高調波との位相差φ5を1.65rad(≒95°)とした場合を示すが、電動車両の駆動用モータを動作させることができる範囲内であれば、基本波と第5次高調波との位相差φ5が1.65rad(≒95°)以外の値であっても、電磁力Fを低減することができる振幅割合A5の範囲は、前述した範囲(0%<A5≦90%(好ましくは20%<A5≦80%、より好ましくは40%≦A5≦70%))であった。
【0057】
また、図示を省略するが、本発明者らは、図3を参照しながら説明した低B50材料と同様に、高B50材料においても、振幅割合A5が0%超90%以下(0%超A5≦90%)である場合には、位相差φ5に関わらず、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを低減させることができるが、振幅割合A5を20%超80%以下(20%<A5≦80%)とする場合(好ましくは振幅割合A5を40%以上70%以下(40%≦A5≦70%)とする場合)には、位相差φ5を80°以上106°以下(80°≦φ5≦106°)にすることにより、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを10%以上低減させることができるという知見を得た。また、さらに、本発明者らは、振幅割合A5を20%超80%以下(20%<A5≦80%)とする場合(好ましくは振幅割合A5を40%以上70%以下(40%≦A5≦70%)とする場合)、位相差φ5を、90°超106°以下(90°<φ5≦106°)にすれば、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを80%程度以下に低減させることができるのでより好ましいという知見を得た。さらに、本発明者らは、振幅割合A5を20%超80%以下(20%<A5≦80%)とする場合(好ましくは振幅割合A5を40%以上70%以下(40%≦A5≦70%)とする場合)、位相差φ5を、95°以上106°以下(95°≦φ5≦106°)にすれば、時間波形が基本波である励磁電流をステータコイル122に供給した場合に比べて電磁力Fを75%程度以下に低減させることができるのでより一層好ましいという知見を得た。
【0058】
<<<第5次高調波および第7次高調波を重畳させた場合の知見>>>
高B50材料に対する図5に示す結果でも低B50材料に対する図2に示す結果と同様に、基本波に第5次高調波のみを重畳させた場合、振幅割合A5が50%付近である場合に電磁力Fが最も小さくなった(電磁力Fの基準値503を参照)。そこで、本発明者らは、振幅割合A5が50%であり位相差φ5が1.65rad(≒95°)である第5次高調波と、振幅割合A7および位相差φ7が異なる第7次高調波と、を基本波に重畳させた場合に電磁力Fがどのように変化するのかを調査した。図6A図6Fは、基本波に対する第7次高調波の振幅割合A7と電磁力Fとの関係の一例を示す図である。具体的に、図6A図6B図6C図6D図6E図6Fは、それぞれ、基本波と第7次高調波との位相差φ7が、57°、115°、182°、229°、286°、344°である場合の振幅割合A7(横軸)と電磁力F(縦軸)との関係の一例を示す図である。
【0059】
図6A図6Fにおいて、破線601は、図5に示す電磁力Fの基準値503を示す。黒丸は、時間波形が基本波に第5次高調波(A5=50%、φ5≒95°)および第7次高調波を重畳させた時間波形である励磁電流をステータコイル122に供給した場合の電磁力Fを示す。したがって、電磁力F(黒丸)が破線601よりも小さいことは、基本波に第5次高調波のみを重畳させる場合よりも電磁力Fを低減することができることを示すことになる。なお、図6A図6Fでも図2と同様に、電磁力Fを正規化して無次元量で表している(ただし、前述したように各図の電磁力F=1.0[-]における電磁力Fの実際の値(単位をNとする値)は同じである)。
【0060】
本発明者らは、図6A図6Dに示す結果などから、位相差φ7が0°以上240°以下(0°≦φ7≦240°)では、基本波に第5次高調波のみを重畳させる場合よりも電磁力Fを低減することができない場合があるという知見を得た。一方、図6D図6Fに示す結果などから、本発明者らは、位相差φ7を240°超350°以下(240°<φ7≦350°)とする場合、振幅割合A7を0%超60%以下(0%<A7≦60%)とすれば、基本波に第5次高調波のみを重畳させる場合よりも電磁力Fを低減することができ、振幅割合A7および位相差φ7の範囲として低B50材料よりも広い範囲を採用することができるという知見を得た(図6Eおよび図6Fのグレーで示す領域を参照)。
【0061】
なお、図6Eに示すように位相差φ7が286°である場合には、振幅割合A7が60%超となる範囲でも、基本波に第5次高調波のみを重畳させる場合より電磁力Fを低減することができる。しかしながら、低B50材料と同様に高B50材料においても、モータMを実際に制御する際に最適な振幅割合A7および位相差φ7を選択することができなくなる虞があることを抑制する観点から、基本波(および第5次高調波)に重畳させる第7次高調波の振幅割合A7を0%超60%以下(0%<A7≦60%)とし、位相差φ7を240°超350°以下(240°<φ7≦350°)とすることとした。
【0062】
なお、図6A図6Fでは、基本波に対する第5次高調波の振幅割合A5を50%とし、基本波と第5次高調波との位相差φ5を1.65rad(≒95°)とした場合を示すが、電動車両の駆動用モータを動作させることができる範囲内であれば、基本波に対する第5次高調波の振幅割合A5が50%の以外の値であり、基本波と第5次高調波との位相差φ5が1.65rad(≒95°)以外の値であっても、電磁力Fを低減することができる振幅割合A7および位相差φ7の範囲は、前述した範囲(0%<A7≦60%、240°<φ7≦350°)であった。
【0063】
以上の図6A図6Fに示す結果などから、本発明者らは、高B50材料においては、振幅割合A7を0%超60%以下にし、位相差φ7を240°超350°以下にすることにより、基本波および第5次高調波に第7次高調波を重畳させることによる電磁力Fの低減効果が生じるという知見を得た。
【0064】
前述したように本調査では静磁界解析を行っているので、励磁電流の実効値(振幅)、すなわちトルクTが同等であれば、電磁力FはモータMの回転数に依存しない。したがって、高B50材料においては、振幅割合A7を0%超60%以下にし、位相差φ7を240°超350°以下にすることにより、駆動用モータの回転数に関わらず駆動用モータの振動を低減することができ、例えば、駆動用モータの回転数に関わらず電動車両の乗り心地を改善することができる。また、図5に示す結果などから、振幅割合A5を0%超90%以下にすることにより、基本波に重畳させる第5次高調波による電磁力Fの低減効果が生じる。また、振幅割合A5を20%<80%以下にすると共に、位相差φ5を80°以上106°以下にすることにより、基本波に重畳させる第5次高調波による電磁力Fの低減効果をより顕著に発揮させることができる。
【0065】
なお、IPMモータなどの、電動車両の駆動用モータとして一般的に使用される実用的な範囲においては、駆動用モータの振動を低減することができる振幅割合A7、A5および位相差φ7、φ5の範囲として前述した範囲(0%<A7≦60%且つ240°<φ7≦350°、好ましくはさらに0%<A5≦90%、より好ましくはさらに20%<A5≦80%且つ80°≦φ5≦106°など)が得られた。
【0066】
また、本調査では、高B50材料のB50が1.7Tである場合について説明するが、電動車両の駆動用モータとして一般的に使用される実用的な範囲においては、B50が1.66T超のその他の値(≠1.7T)においても、駆動用モータの振動を低減することができる振幅割合A7、A5および位相差φ7、φ5の範囲として前述した範囲((0%<A7≦60%且つ240°<φ7≦350°、好ましくはさらに0%<A5≦90%、より好ましくはさらに20%<A5≦80%且つ80°≦φ5≦106°など)が得られた。
【0067】
以下に説明する本発明の一実施形態は、以上の知見に基づいてなされたものである。
【0068】
[実施形態]
以下、本発明の一実施形態を説明する。
図7は、処理装置700の機能的な構成の一例を示す図である。処理装置700のハードウェアは、例えば、処理装置(例えば中央処理装置)、記憶装置(例えば主記憶装置および補助記憶装置)、および各種のインターフェース装置を備える情報処理装置、または専用のハードウェアを用いることにより実現される。また、本実施形態では、不図示の電動車両が処理装置700を備える場合を例示する。ただし、処理装置700は、電動車両の外部に存在していてもよい。このようにする場合、処理装置700は、例えば、電動車両が備える制御装置と無線通信を行ってもよい。
【0069】
処理装置700は、モータMのステータコイル122に供給される励磁信号の時間波形である励磁波形を生成するための処理を行う。本実施形態では、処理装置700が、励磁波形として励磁電流の時間波形を生成する場合を例示する。励磁波形は、電気一周期の各時刻における励磁信号の値が特定されればよい。各時刻は、任意の時間間隔で連続する時刻のそれぞれであってもよい。例えば、励磁波形を、電気一周期の各時刻における値とする場合、当該値から、各周期の各時刻における値が算出される。また、例えば、電気半周期の各時刻における値から、残りの半周期の各時刻における値を算出する場合、励磁波形は、電気半周期の各時刻における値とすれば良い。また、モータMは、例えば、IPMモータなどの、電動車両の駆動用モータである。
【0070】
<励磁波形生成条件設定部701>
励磁波形生成条件設定部701は、基本波に第5次高調波と第7次高調波とを重畳させた励磁波形の生成条件である励磁波形生成条件を設定する。なお、設定とは、例えば、揮発性メモリおよび不揮発性メモリの少なくとも一方に記憶することを含む処理である。そして、本実施形態では、励磁波形生成条件設定部701は、この励磁波形生成条件を、モータMの運転条件に基づいて設定するようになっており、励磁波形生成条件設定部701が、運転条件設定部701aと、励磁基本条件設定部701bと、高調波重畳条件設定部701cと、を有する場合を例示する。
【0071】
<<運転条件設定部701a>>
本実施形態では、モータMを制御する電動車両の制御装置710(以下、必要に応じて電動車両の制御装置710または単に制御装置710と称する)が、モータMの運転条件を処理装置700に送信する場合を例示する。運転条件設定部701aは、電動車両の制御装置710から送信されたモータMの運転時の運転条件を取得して設定する。運転条件設定部701aは、例えば、規定のタイミングで(例えば周期的に)モータMの運転条件を取得してもよいし、電動車両の制御装置710にモータMの運転条件の取得を要求して取得してもよい。運転条件設定部701aは、取得したモータMの運転条件が、当該モータMの運転条件の一つ前に取得したモータMの運転条件と違う場合に、当該モータMの運転条件を励磁基本条件設定部701bおよび高調波重畳条件設定部701cに出力する。運転条件設定部モータMの運転条件には、例えば、モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値が含まれる。モータMの速度指令値は、モータMの回転速度の指令値である。モータMのトルク指令値は、モータMのトルクの指令値である。
【0072】
運転条件設定部701aは、例えば、モータMの運転時の運転条件を、モータMを制御する電動車両の制御装置710から取得して設定する。電動車両の制御装置710は、例えば、モータMのトルクの実測値と目標値との差に応じたトルク指令値を生成しても良いし、モータMの回転速度の実測値と目標値との差に応じた速度指令値を生成しても良い。モータMのトルクの目標値およびモータMの回転速度の目標値は、例えば、電動車両のアクセル開度および車速(の実測値)を用いることにより算出される。なお、運転条件設定部701aは、必ずしも、モータMの運転時の運転条件を、電動車両の制御装置710から取得する必要はない。例えば、モータMの運転時の運転条件が予め設定(スケジューリング)されていても良い。このような場合、運転条件設定部701aは、当該設定された運転条件を、例えば、処理装置700のユーザインタフェースのオペレータによる入力操作に基づいて取得しても良い。また、運転条件設定部701aが運転条件を算出してもよい。例えば、運転条件設定部701aは、電動車両のアクセル開度および車速(の実測値)などに基づいて、モータMのトルクの目標値およびモータMの回転速度の目標値を算出してもよい。
【0073】
<<励磁基本条件設定部701b>>
励磁基本条件設定部701bは、運転条件設定部701aにより設定されたモータMの運転条件に基づいて、励磁波形における基本情報を取得して設定する。励磁波形における基本情報とは、時間波形が基本波である励磁波形を生成するために必要な情報である。モータMの回転速度は、基本波の周波数(基本周波数)に対応する。モータMのトルクは、励磁電流の実効値および進角に対応する。そこで、励磁基本条件設定部701bは、基本波の周波数(基本周波数)、励磁電流の実効値、および進角を、モータMの運転条件から算出することで取得しても良い。本実施形態では、励磁基本条件設定部701bが、基本波の周波数(基本周波数)、励磁電流の実効値、および進角を、モータMの運転条件に基づいて算出することで取得する場合を例示する。なお、進角が固定されている場合、励磁基本条件設定部701bは、進角を算出しなくても良い。
【0074】
また、例えば、モータMの回転速度、トルク、および進角と、基本波の周波数(基本周波数)、励磁電流の実効値、および進角と、を相互に関連付けて記憶するルックアップテーブルを処理装置700に予め記憶させておいても良い。このようにする場合、励磁基本条件設定部701bは、モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値に対応する、基本波の周波数(基本周波数)、励磁電流の実効値、および進角を、当該ルックアップテーブルから読み出す。なお、進角が固定されている場合には、当該ルックアップテーブルに進角は記憶されていてもされていなくても良い。
【0075】
<<高調波重畳条件設定部701c>>
高調波重畳条件設定部701cは、例えば、運転条件設定部701aにより設定されたモータMの運転条件と、予め記憶されている第5次高調波の情報および第7次高調波の情報と、に基づいて、基本波に重畳される第5次高調波の情報および第7次高調波の情報を、励磁波形生成条件として取得して設定する。
第5次高調波の情報には、例えば、振幅割合A5と位相差φ5とが含まれる。振幅割合A5および位相差φ5は特に限定されないが、<基本波に重畳させる高調波についての知見>の欄で説明したように本実施形態では、振幅割合A5は、0%<A5≦90%の範囲から選択されるのが好ましい。また、振幅割合A5は、20%<A5≦80%の範囲から選択されるのがより好ましく、この場合、位相差φ5は、80°≦φ5≦106°の範囲から選択されるのが好ましく、90°<φ5≦106°の範囲から選択されるのがより好ましく、95°≦φ5≦106°の範囲から選択されるのがより一層好ましい。なお、<基本波に重畳させる高調波についての知見>の欄で説明したように振幅割合A5および位相差φ5の範囲(上限値および下限値)は、モータMのステータコア121を構成する軟磁性体板が高B50材料および低B50材料のいずれの材料であるかに関わらず同じである。
【0076】
第7次高調波の情報には、例えば、振幅割合A7と位相差φ7とが含まれる。<基本波に重畳させる高調波についての知見>の欄で説明したように本実施形態では、モータMのステータコア121を構成する軟磁性体板が低B50材料である場合、振幅割合A7は、0%<A7≦50%の範囲から選択され、位相差φ7は、280°≦φ7≦350°の範囲から選択される。一方、モータMのステータコア121を構成する軟磁性体板が高B50材料である場合、振幅割合A7は、0%<A7≦60%の範囲から選択され、位相差φ7は、240°<φ7≦350°の範囲から選択される。
【0077】
振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7の範囲は、例えば、モータMの振動をどの程度抑制する必要があるかに応じて定めれば良い。例えば、実際のモータMを使用した模擬実験や、実際のモータMを想定した電磁界解析により、モータMの運転条件(モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値)の範囲として想定される範囲において、図4A図4Hおよび図6A図6Fに示すような、振幅割合A7、位相差φ7、および電磁力Fの関係を、振幅割合A5および位相差φ5ごとに調査することを、高B50材料と低B50材料とのそれぞれについて行い、前述した範囲の中から、電磁力Fが可及的に小さくなる(好ましくは最小になる)ような振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7の値を選択しても良い。
【0078】
また、以上のような調査の結果に基づいて、モータMの運転条件(モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値)と、振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7と、を相互に関連付けて記憶するルックアップテーブルを処理装置700に予め記憶させておいても良い。このようにする場合、高調波重畳条件設定部701cは、運転条件設定部701aにより設定されたモータMの運転条件(モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値)に対応する、振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7を、当該ルックアップテーブルから読み出す。また、高B50材料と低B50材料とのそれぞれについて、モータMの運転条件(モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値)と、振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7と、を相互に関連付けて記憶するルックアップテーブルを処理装置700に予め記憶させておいても良い。このようにする場合、高調波重畳条件設定部701cは、モータMのステータコア121を構成する軟磁性体板が高B50材料および低B50材料の情報を取得し、取得した情報に対応するルックアップテーブルから、モータMの運転条件(モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値)に対応する、振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7を読み出す。モータMのステータコア121を構成する軟磁性体板が高B50材料および低B50材料のいずれであるかを示す情報は、運転条件に含まれていても良い。また、処理装置700のユーザインタフェースのオペレータによる入力操作に基づいて高調波重畳条件設定部701cがモータMのステータコア121を構成する軟磁性体板が高B50材料および低B50材料のいずれであるかを示す情報を取得しても良い。本実施形態では、高調波重畳条件設定部701cが、運転条件設定部701aにより設定されたモータMの運転時の運転条件に基づいて、振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7を取得する場合を例示する。
【0079】
ただし、振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7を取得する方法は、このような方法に限定されない。
例えば、モータMの運転条件に代えて、<<励磁基本条件設定部701b>>の欄で説明した励磁波形における基本情報と、振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7と、を相互に関連付けて記憶するルックアップテーブルを処理装置700に予め記憶させておいても良い。
また、高調波重畳条件設定部701cは、振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7として、モータMの速度指令値およびモータMのトルク指令値に関わらず同一の値を取得しても良い。このようにする場合、高調波重畳条件設定部701cは、振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7を、例えば、処理装置700のユーザインタフェースのオペレータによる入力操作に基づいて取得しても良い。
【0080】
<励磁波形生成部702>
励磁波形生成部702は、モータMのステータコイル122に供給される励磁信号の時間波形である励磁波形として、基本波に第5次高調波および第7次高調波を重畳させた励磁波形を生成する。
本実施形態では、励磁波形生成部702は、励磁基本条件設定部701bにより取得された励磁波形における基本情報(基本波の周波数(基本周波数)、励磁電流の実効値、および進角)と、高調波重畳条件設定部701cにより取得された第5次高調波および第7次高調波の情報(振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7)と、に基づいて、モータMのステータコイル122に供給する励磁電流の励磁波形を生成する。具体的には、励磁波形生成部702は、基本波に第5次高調波および第7次高調波を重畳させた励磁波形(励磁信号)を、モータMに励磁信号を供給する信号線に供給しても良い。また、励磁波形生成部702は、基本波の励磁波形と第5次高調波の励磁波形と第7次高調波の励磁波形とを別々に生成し、基本波の励磁波形と第5次高調波の励磁波形とを位相差φ5に基づく時間差だけずらして前述した信号線に供給すると共に、基本波の励磁波形と第7次高調波の励磁波形とを位相差φ7に基づく時間差だけずらして前述した信号線に供給しても良い。
【0081】
励磁波形生成部702は、基本波の振幅I0、第5次高調波の振幅I5、および第7次高調波の振幅I7として、基本波に第5次高調波および第7次高調波を重畳させたときの励磁電流の実効値が、励磁基本条件設定部701bにより取得された励磁電流の実効値に可及的に近くなり(好ましくは一致し)、且つ、基本波の振幅I0に対する第5次高調波の振幅I5の比を百分率で表した値、基本波の振幅I0に対する第7次高調波の振幅I7の比を百分率で表した値が、それぞれ、高調波重畳条件設定部701cにより取得された振幅割合A5、A7に可及的に近くなる(好ましくは一致する)振幅を算出する。なお、基本波の周波数は、励磁基本条件設定部701bにより取得される。また、第5次高調波の周波数、第7次高調波の周波数は、それぞれ、基本波の周波数の5倍、7倍の周波数である。
【0082】
励磁波形生成部702は、以上のようにして振幅I0および周波数が定まる基本波に対し、高調波重畳条件設定部701cにより取得された位相差φ5、φ7だけ進み位相の第5次高調波および第7次高調波であって、以上のようにして振幅I5、I7および周波数が定まる第5次高調波および第7次高調波を当該基本波に重畳させた時間波形を生成する。そして、励磁波形生成部702は、このようにして生成した時間波形に対して、励磁基本条件設定部701bにより取得された進角に基づいて定められる位相差(励磁電圧に対する位相差)だけ位相をずらした時間波形を、励磁波形として生成する。
【0083】
例えば、PWM(Pulse Width Modulation)制御を実行する場合、励磁波形生成部702は、例えば、以下の処理を実行する。まず、励磁波形生成部702は、以上のようにして生成した励磁波形を変調波とし、当該変調波と所定の搬送波(例えば三角波)とを比較することによりパルス信号を生成して、モータMのステータコイル122に供給する。なお、励磁電流の生成方法は、PWM制御による方法に限定されず、その他の公知の方法(例えば、PAM(Pulse Amplitude Modulation)制御による方法)で実現しても良い。また、励磁波形生成部702は、前述したようにして生成した励磁波形の励磁電流をそのままモータMに供給しても良い。また、励磁波形生成部702は、前述したようにして生成した励磁波形の励磁電流を、モータMのインピーダンスを用いて、励磁電圧に変換してモータMに供給しても良い。
【0084】
[フローチャート]
次に、図8のフローチャートを参照しながら、処理装置700を用いた本実施形態の処理方法の一例を説明する。
【0085】
まず、ステップS801において、運転条件設定部701aは、モータMの運転時の運転条件を取得して設定する。図8のフローチャートでは、ステップS801において取得されるモータMの運転時の運転条件は、前回のステップS801において取得されたモータMの運転時の運転条件と異なるものとする。
【0086】
次に、ステップS802において、処理装置700は、モータMの運転時の運転条件に基づいて、モータMの運転を終了するか否かを判定する。この判定の結果、モータMの運転を終了しない場合(ステップS802でNOの場合)、ステップS803の処理が実行される。ステップS803において、励磁基本条件設定部701bは、モータMの運転条件に基づいて、励磁波形における基本情報(基本波の周波数(基本周波数)、励磁電流の実効値、および進角)を算出して設定する。
【0087】
次に、ステップS804において、高調波重畳条件設定部701cは、モータMの運転時の運転条件に基づいて、振幅割合A5、A7および位相差φ5、φ7を取得する。ステップS804で取得される振幅割合A5は、特に限定されないが、0%超90%以下であるのが好ましく、20%超80%以下であるのがより好ましく、40%以上70%以下であるのがより好ましい。ステップS804で取得される振幅割合A5が20%超80%以下である場合(好ましくは40%以上70%以下である場合)、ステップS804で取得される位相差φ5は、80°以上106°以下であるのが好ましく、90°超106°以下であるのがより好ましく、95°以上106°以下であるのがより一層好ましい。また、モータMのステータコア121を構成する軟磁性体板が低B50材料である場合、振幅割合A7は、0%<A7≦50%の範囲から選択され、位相差φ7は、280°≦φ7≦350°の範囲から選択される。一方、モータMのステータコア121を構成する軟磁性体板が高B50材料である場合、振幅割合A7は、0%<A7≦60%の範囲から選択され、位相差φ7は、240°<φ7≦350°の範囲から選択される。
【0088】
次に、ステップS805において、励磁波形生成部702は、励磁波形における基本情報(基本波の周波数(基本周波数)、励磁電流の実効値、および進角)と、第5次高調波の情報(振幅割合A5および位相差φ5)と、第7次高調波の情報(振幅割合A7および位相差φ7)と、に基づいて、モータMのステータコイル122に供給する励磁電流の励磁波形を生成し、モータMに供給する。
【0089】
前述したステップS802の判定の結果、モータMの運転を終了する場合(ステップS802でYESの場合)、ステップS806の処理が実行される。ステップS806において、励磁波形生成部702は、励磁電流のモータMへの供給を停止する。ステップS806の処理が終了すると、図8のフローチャートによる処理は終了する。
【0090】
[まとめ]
以上のように本実施形態では、処理装置700は、モータMのステータコイル122に供給される励磁信号の時間波形である励磁波形として、基本波に第5次高調波と第7次高調波とを重畳させた励磁波形の生成条件である励磁波形生成条件を設定する。この際、処理装置700は、基本波の振幅I0に対する第7次高調波の振幅I7の比を百分率で表した振幅割合A7が0%超50%以下となるように、第7次高調波の振幅I7を設定し、且つ、基本波に対する第7次高調波の位相を進みとして、基本波と第7次高調波との位相差φ7が280°以上350°以下となるように基本波と第7次高調波との位相差φ7を設定する。したがって、第5次高調波に加えて第7次高調波を基本波に重畳させることによる電磁力Fの低減効果を高めることができる。よって、モータMの半径方向における振動の抑制効果を高めることが可能になる。
【0091】
また、本実施形態では、処理装置700は、基本波の振幅I0に対する第5次高調波の振幅I5の比を百分率で表した振幅割合A5が0%超90%以下となるように、第5次高調波の振幅I5を設定する。したがって、第5次高調波による電磁力Fの低減効果を高めることができる。よって、モータMの半径方向における振動の抑制効果をより高めることが可能になる。
【0092】
また、本実施形態では、処理装置700は、振幅割合A5が20%超80%以下となるように、第5次高調波の振幅I5を設定し、且つ、基本波に対し第5次高調波を進み位相として、基本波と第5次高調波との位相差φ5が80°以上106°以下となるように、基本波と第5次高調波との位相差φ5を設定する。したがって、第5次高調波による電磁力Fの低減効果をより高めることができる。モータMの半径方向における振動の抑制効果をより一層高めることが可能になる。
【0093】
また、本実施形態では、モータMのステータコア121を構成する軟磁性材料のB50が1.66T超である場合(軟磁性材料が高B50材料である場合)、振幅割合A7が0%超60%以下となるように、第7次高調波の振幅I7を設定し、且つ、位相差φ7が240°超350°以下となるように、基本波と第7次高調波との位相差φ7を設定する。したがって、磁束密度特性が低い軟磁性材料でステータコア121を構成する場合に比べて、振幅割合A7および位相差φ7の許容範囲を広くすることができる。よって、例えば、モータMの制御の高精度化や容易化を図ることができる。
【0094】
また、本実施形態では、処理装置700は、処理装置700は、モータMのステータコア121を構成する軟磁性材料のB50が1.66T以下である場合(軟磁性材料が低B50材料である場合)、振幅割合A7が0%超50%以下となり、且つ、位相差φ7が280°以上350°以下となるように、第7次高調波の振幅I7と、基本波と第7次高調波との位相差φ7と、を設定する。したがって、磁束密度特性が低い軟磁性材料でステータコア121を構成する場合であっても、モータMの半径方向における振動の抑制効果を高めることができる。
【0095】
また、本実施形態では、処理装置700は、前述した励磁波形生成条件に基づいて、基本波に第5次高調波および第7次高調波を重畳させた励磁波形を生成する。したがって、励磁波形生成条件の設定と励磁波形の生成とを一つの装置で実現することができる。よって、例えば、励磁波形生成条件の設定と励磁波形の生成とを別々の装置で実現する場合に比べて、通信障害が生じる可能性を低減することと、通信インターフェースや通信ケーブルなどの構成要素を削減することと、が可能になる。ただし、処理装置700は、励磁波形を生成する励磁波形生成部702を備えていなくても良い。例えば、励磁波形生成条件の設定と励磁波形の生成とを別々の装置で実現する場合には、個々の装置を別々の場所に設置することができると共に、励磁波形生成条件の設定と励磁波形の生成とを一つの装置で実現する場合に比べて小型化することができる。よって、例えば、励磁波形生成条件の設定と励磁波形の生成とを一つの装置で実現する場合に比べて、設置スペースによる制約を受けることを抑制することができる。
【0096】
また、本実施形態では、処理装置700は、電動車両の動力源となるモータM(電動車両の駆動用モータ)のステータコイル122に供給する励磁信号の時間波形を励磁波形として生成する。したがって、電動車両の乗り心地を改善することができる。ただし、モータMの振動を抑制することは、電動車両の駆動用モータに限らず各種のモータMにおいて望まれることであり、本実施形態を適用するモータMは、電動車両の駆動用モータに限定されない。
【0097】
なお、以上説明した本発明の実施形態は、PLC(Programmable Logic Controller)により実現されてもよいし、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)等の専用のハードウェアにより実現することができる。また、本発明の実施形態は、コンピュータがプログラムを実行することによって実現しても良い。また、前記プログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体及び前記プログラム等のコンピュータプログラムプロダクトも本発明の実施形態として適用することができる。記録媒体としては、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、光ディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、磁気テープ、不揮発性のメモリカード、ROM等を用いることができる。
また、以上説明した本発明の実施形態は、何れも本発明を実施するにあたっての具体化の例を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。すなわち、本発明はその技術思想、またはその主要な特徴から逸脱することなく、様々な形で実施することができる。例えば、上述した実施形態では、処理装置700は、電動車両に搭載されており、電動車両の動力源となるモータの励磁波形を生成するよう構成されているが、モータで回転させる回転体を有する例えば電動工具などの電動車両以外の他の装置(機器)に適用されても良い。
【0098】
また、以上説明した本実施形態の開示は、例えば、次のようになる。
(開示1)
モータのステータコイルに供給される励磁信号の時間波形である励磁波形を生成するための処理を行う処理装置であって、
前記励磁波形として、基本波に第5次高調波と第7次高調波とを重畳させた励磁波形の生成条件である励磁波形生成条件を設定する励磁波形生成条件設定部を備え、
前記励磁波形生成条件設定部は、前記基本波に重畳させる前記第5次高調波および前記第7次高調波の情報を、前記励磁波形生成条件として設定する高調波重畳条件設定部を有し、
前記高調波重畳条件設定部は、前記基本波の振幅I0に対する前記第7次高調波の振幅I7の比を百分率で表した振幅割合A7が、0%超50%以下となるように、前記第7次高調波の振幅I7を設定し、且つ、前記基本波に対する前記第7次高調波の位相を進み位相として、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7が、280°以上350°以下となるように、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7を設定する、処理装置。
(開示2)
前記高調波重畳条件設定部は、前記基本波の振幅I0に対する前記第5次高調波の振幅I5の比を百分率で表した振幅割合A5が、0%超90%以下となるように、前記第5次高調波の振幅I5を設定する、開示1に記載の処理装置。
(開示3)
前記高調波重畳条件設定部は、前記振幅割合A5が、20%超80%以下となるように、前記第5次高調波の振幅I5を設定し、且つ、前記基本波に対する前記第5次高調波の位相を進み位相として、前記基本波と前記第5次高調波との位相差φ5が、80°以上106°以下となるように、前記基本波と前記第5次高調波との位相差φ5を設定する、開示2に記載の処理装置。
(開示4)
前記モータのステータコアを構成する軟磁性材料のB50は1.66T超であり、
前記振幅割合A7の範囲として、0%超50%以下に代えて0%超60%以下が用いられ、且つ、前記位相差φ7の範囲として、280°以上350°以下に代えて240°超350°以下が用いられ、
前記高調波重畳条件設定部は、前記振幅割合A7が、0%超60%以下となるように、前記第7次高調波の振幅I7を設定し、且つ、前記位相差φ7が、240°超350°以下となるように、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7を設定する、開示1~3のいずれか1つに記載の処理装置。
(開示5)
前記モータのステータコアを構成する軟磁性材料のB50は1.66T以下である、開示1~4のいずれか1つに記載の処理装置。
(開示6)
前記励磁波形生成条件設定部により設定された励磁波形生成条件に基づいて、前記励磁波形を生成する励磁波形生成部をさらに備える、開示1~5のいずれか1つに記載の処理装置。
(開示7)
前記モータは、IPM(Interior Permanent Magnet)モータである、開示1~6のいずれか1つに記載の処理装置。
(開示8)
前記モータは、電動車両を駆動するモータである、開示1~7のいずれか1つに記載の処理装置。
(開示9)
開示1~8のいずれか1つに記載の処理装置を備える、電動車両。
(開示10)
モータのステータコイルに供給される励磁信号の時間波形である励磁波形を生成するための処理を行う処理方法であって、
前記励磁波形として、基本波に第5次高調波と第7次高調波とを重畳させた励磁波形の生成条件である励磁波形生成条件を設定する励磁波形生成条件設定工程を備え、
前記励磁波形生成条件設定工程は、前記基本波に重畳させる前記第5次高調波および前記第7次高調波の情報を、前記励磁波形生成条件として設定する高調波重畳条件設定工程を有し、
前記高調波重畳条件設定工程は、前記基本波の振幅I0に対する前記第7次高調波の振幅I7の比を百分率で表した振幅割合A7が、0%超60%以下となるように、前記第7次高調波の振幅I7を設定し、且つ、前記基本波に対する前記第7次高調波の位相を進み位相として、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7が、280°以上350°以下となるように、前記基本波と前記第7次高調波との位相差φ7を設定する、処理方法。
(開示11)
開示1~8のいずれか1つに記載の処理装置の前記励磁波形生成条件設定部としてコンピュータを機能させるためのプログラム。
【符号の説明】
【0099】
110 ロータ
111 ロータコア
111a~111i 貫通穴
112a~112p 永久磁石
120 ステータ
121 ステータコア
121a ティース部
121b ヨーク部
121c スロット
122 ステータコイル
201 低B50材料を用いたステータのステータコイルに時間波形が基本波である励磁電流を供給した場合の電磁力の値を示す破線
202 低B50材料を用いたステータコイルに時間波形が基本波である励磁電流を供給した場合の電磁力を10%低減させた値を示す破線
203 低B50材料を用いたステータコアにおける電磁力の基準値
401 低B50材料を用いたステータコアにおける電磁力の基準値を示す破線
501 高B50材料を用いたステータのステータコイルに時間波形が基本波である励磁電流を供給した場合の電磁力の値を示す破線
502 高B50材料を用いたステータのステータコイルに時間波形が基本波である励磁電流を供給した場合の電磁力を10%低減させた値を示す破線
503 高B50材料を用いたステータコアにおける電磁力の基準値
601 高B50材料を用いたステータコアにおける電磁力の基準値を示す破線
700 処理装置
701 励磁波形生成条件設定部
701a 運転条件設定部
701b 励磁基本条件設定部
701c 高調波重畳条件設定部
702 励磁波形生成部
710 電動車両の制御装置
M モータ
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図4H
図5
図6A
図6B
図6C
図6D
図6E
図6F
図7
図8