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特開2023-154992タービン部材の製造方法およびタービン部材の補修方法
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  • 特開-タービン部材の製造方法およびタービン部材の補修方法 図1
  • 特開-タービン部材の製造方法およびタービン部材の補修方法 図2
  • 特開-タービン部材の製造方法およびタービン部材の補修方法 図3
  • 特開-タービン部材の製造方法およびタービン部材の補修方法 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023154992
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】タービン部材の製造方法およびタービン部材の補修方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 5/04 20060101AFI20231013BHJP
   B22F 10/00 20210101ALI20231013BHJP
   B22F 3/24 20060101ALI20231013BHJP
   B22F 3/15 20060101ALI20231013BHJP
   B22F 10/60 20210101ALI20231013BHJP
   B33Y 10/00 20150101ALI20231013BHJP
   F01D 25/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
B22F5/04
B22F10/00
B22F3/24 102Z
B22F3/15 Z
B22F10/60
B33Y10/00
F01D25/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064681
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006208
【氏名又は名称】三菱重工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】泉 岳志
【テーマコード(参考)】
4K018
【Fターム(参考)】
4K018EA12
4K018FA23
4K018KA12
4K018KA63
(57)【要約】
【課題】タービン部材の部位によって緻密化工程における加圧圧力の大きさをコントロールできるタービン部材の製造方法および補修方法を提供する。
【解決手段】
本発明のタービン部材の製造方法は、タービン部材を構成する基材を付加製造によって製造する付加製造工程(S1)と、基材の表面に設けるコーティングの膜厚を決定するコーティング膜厚決定工程(S2)と、基材の表面に、コーティング膜厚決定工程で決定した膜厚のコーティングを設けるコーティング工程(S3)と、コーティングを設けた基材の表面を緻密化する緻密化工程(S4)と、を有し、コーティング膜厚決定工程(S2)は、基材の部位ごとに膜厚を変えることを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タービン部材を構成する基材を付加製造によって製造する付加製造工程と、
前記基材の表面に設けるコーティングの膜厚を決定するコーティング膜厚決定工程と、
前記基材の表面に、前記コーティング膜厚決定工程で決定した膜厚のコーティングを設けるコーティング工程と、
前記コーティングを設けた前記基材の表面を緻密化する緻密化工程と、を有し、
前記コーティング膜厚決定工程は、前記基材の部位ごとに前記膜厚を変えることを特徴とするタービン部材の製造方法。
【請求項2】
前記コーティング膜厚決定工程は、前記基材の部位ごとの気孔率を考慮し、膜厚を決定することを特徴とする請求項1に記載のタービン部材の製造方法。
【請求項3】
前記コーティング膜厚決定工程は、運転時の前記タービン部材の部位ごとの損傷の程度および前記タービン部材の部位ごとの寸法精度の必要性を考慮し、膜厚を決定することを特徴とする請求項1に記載のタービン部材の製造方法。
【請求項4】
前記緻密化工程は、熱間静水圧プレス加工によって行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載のタービン部材の製造方法。
【請求項5】
補修対象とするタービン部材を準備する工程と、
前記タービン部材におけるコーティング部位を決定する工程と、
前記タービン部材の表面に設けるコーティングの膜厚を決定するコーティング膜厚決定工程と、
前記タービン部材の表面に、前記コーティング膜厚決定工程で決定した膜厚のコーティングを設けるコーティング工程と、
前記コーティングを設けた前記タービン部材の表面を緻密化する緻密化工程と、を有し、
前記コーティング膜厚決定工程は、前記タービン部材の部位ごとに前記膜厚を変えることを特徴とするタービン部材の補修方法。
【請求項6】
前記コーティング膜厚決定工程は、前記タービン部材の部位ごとの気孔率を考慮し、膜厚を決定することを特徴とする請求項5に記載のタービン部材の補修方法。
【請求項7】
前記コーティング膜厚決定工程は、運転時の前記タービン部材の部位ごとの損傷の程度および前記タービン部材の部位ごとの寸法精度の必要性を考慮し、膜厚を決定することを特徴とする請求項5に記載のタービン部材の補修方法。
【請求項8】
前記緻密化工程は、熱間静水圧プレス加工によって行うことを特徴とする請求項5から7のいずれか1項に記載のタービン部材の補修方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はタービン部材の製造方法およびタービン部材の補修方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、産業用製品の製造において、切削や鋳造などの従来の加工法では製造が難しい複雑な形状を簡便に製造できるプロセスとして付加製造(Additive Manufacturing;AM)法が注目されている。タービン部材等の高温部品も、このAM法を用いて製造する技術の研究が盛んになされている。
【0003】
AM法で製造された付加製造体(AM体)は、表面に気孔を生じる傾向がある。この表面の気孔は、部材動作時の性能および疲労に影響を与え、部材の寿命を縮める可能性があるため、この気孔を取り除く処理が必要になる。
【0004】
AM体表面の気孔を取り除く技術として、例えば特許文献1がある。特許文献1には、付加製造によって物品を形成する工程と、形成物品の表面を、形成物品をシールするためのマイクロレイヤーコーティングでコーティングする工程と、シールされた物品を高密度化する工程を含む部品を形成する方法が記載されている。特許文献1によれば、コーティング工程によって付加製造体の表面の細孔を覆い、それにより、表面結合された多孔性をシールして、続く高密度化工程によって多孔性の圧密化を促進し、部品表面の多孔性を排除できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2018-154918号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
タービン部材の部位によっては、表面の気孔を排除して緻密化することよりも寸法精度の確保を優先すべき場合がある。この場合、部材の一部分は性能および耐疲労性の確保のために大きな圧力をかけて緻密化することが必要であり、一方、他の部分は寸法精度を確保すべく大きな圧力がかからないように緻密化しなければならなくなる。また、タービン部材を補修する場合は、補修対象とする部分に大きな圧力をかけて緻密化することが必要であり、一方、補修を必要としない部分は寸法精度を確保すべく大きな圧力がかからないように緻密化しなければならなくなる。しかしながら、緻密化に熱間静水圧プレス加工(Hot Isostatic Press;HIP)を用いる場合、部材の部位によって圧力を変えることは困難である。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑み、タービン部材の部位によって緻密化工程における加圧圧力の大きさをコントロールできるタービン部材の製造方法および補修方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、タービン部材を構成する基材を付加製造によって製造する付加製造工程と、基材の表面に設けるコーティングの膜厚を決定するコーティング膜厚決定工程と、基材の表面に、コーティング膜厚決定工程で決定した膜厚のコーティングを設けるコーティング工程と、コーティングを設けた基材の表面を緻密化する緻密化工程と、を有し、コーティング膜厚決定工程は、基材の部位ごとに膜厚を変えることを特徴とするタービン部材の製造方法である。
【0009】
また、上記課題を解決するための本発明の他の態様は、補修対象とするタービン部材を準備する工程と、タービン部材におけるコーティング部位を決定する工程と、タービン部材の表面に設けるコーティングの膜厚を決定するコーティング膜厚決定工程と、タービン部材の表面に、コーティング膜厚決定工程で決定した膜厚のコーティングを設けるコーティング工程と、コーティングを設けたタービン部材の表面を緻密化する緻密化工程と、を有し、コーティング膜厚決定工程は、タービン部材の部位ごとに膜厚を変えることを特徴とするタービン部材の補修方法である。
【0010】
本発明のより具体的な構成は、特許請求の範囲に記載される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、タービン部材の部位によって緻密化工程における加圧圧力の大きさをコントロールできるタービン部材の製造方法および補修方法を提供できる。
【0012】
上記した以外の課題、構成および効果は以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明のタービン部材の製造方法の一例を示すフロー図
図2】本発明のタービン部材の補修方法の一例を示すフロー図
図3】タービン動翼の一部の構成例を示す模式図
図4】タービン静翼の一部の構成例を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施例について添付の図面を参照しつつ説明する。同様の構成要素には同様の符号を付し、同様の説明は繰り返さない。
【0015】
図1は本発明のタービン部材の製造方法の一例を示すフロー図である。図1に示すように、本発明のタービン部材の製造方法は、付加製造工程S1と、コーティング膜厚決定工程S2と、コーティング工程S3と、緻密化工程S4とを含む。以下、各工程について説明する。
【0016】
なお、本明細書において、AM法によって製造した「タービン基材(単に「基材」とも称する。)」にコーティング工程S3によってコーティングを施し、緻密化工程S4によって部材の表面を緻密化したものを「タービン部材」と称する。
【0017】
<S1:付加製造工程>
まず始めに、タービン基材をAM法によって製造する。基材の材料となる合金粉末を用い、所望形状を有するAM体(基材)を形成する。AM法は、焼結ではなく、局所溶融・急冷凝固によってニアネットシェイプの金属部材を得ることができ、鍛造材と同等以上の硬度とともに、複雑形状を有する三次元部材を作製することができる。
【0018】
AM方法に特段の限定はなく、従来の方法を利用できる。例えば、レーザー溶融/焼結(SLM、SLS)、電子ビーム溶融/蒸着(EBM)、指向性エネルギー堆積(DED)、バインダジェット、またはレーザー肉盛を用いることが好ましい。
【0019】
<S2:コーティング膜厚決定工程>
次に、付加製造工程S1で製造した基材の表面にコーティングを設けるために、基材の部位ごとにコーティングの膜厚を決定する。本発明では、部材の緻密化する度合いに応じて、コーティング膜厚を決定する。具体的には、緻密化が特に必要な部位にはコーティングを薄く設け、後述する緻密化工程において高い圧力がかかるようにする。一方、緻密化をそれほど要せず、むしろ寸法精度を優先すべき部位にはコーティングを厚く設け、後述する緻密化工程において高い圧力がかからないようにする。このように部材の表面において、緻密化の度合いに応じてコーティング膜厚を変えることで緻密化工程における加圧圧力の大きさをコントロールし、部材の特性および耐疲労性を確保し、かつ、寸法精度を確保可能という画期的な効果を得ることができる。
【0020】
コーティング膜厚の決定方法としては、一例として、タービンの基材表面の気孔率の割合を考慮して決定することができる。具体的には、実機と同じ付加製造条件で製造したタービン基材の試験片を作製し、断面観察を行って気孔率(画像解析において、所定の面積に含まれる気孔の割合)を評価する。この気孔率が大きい部位ほどコーティング膜厚を薄くし、気孔率が小さい部位ほどコーティング膜厚を厚くする。
【0021】
コーティング膜厚の決定方法の他の例について説明する。図3はタービン動翼の一部の構成例を示す模式図である。図3に示すように、タービン動翼10は、翼部5、プラットフォーム6および翼根部7を備える。実際には、複数の動翼10の翼根部7が、タービンを構成するタービンロータ(図示せず)の外周に沿って接続される。また、翼部5の先端はシュラウド(図示せず)が設けられる。翼部5は、前縁1と、後縁2と、前縁1および後縁2を接続する腹側側壁3および背側側壁4を有する。
【0022】
ここで、図3に示すA部分(翼部5の先端部位およびプラットフォーム6)は動作時に損傷が特に多い部分である。したがって、A部分は部材の性能確保および耐疲労性向上のために、コーティング膜厚を薄くし、高密度化処理により圧力が大きくかかるようにして特に高密度化することが好ましい。なお、この部分は大きな圧力をかけて多少変形したとしても容易に成形が可能である。
【0023】
一方、図3に示すB部分(翼根部7)は、動作時に損傷が少なく、また高い寸法精度が要求される部分である。したがって、B部分は部材の変形を抑制するためにコーティング膜厚を厚くし、高密度化処理により圧力が大きくかからないようにすることが好ましい。
【0024】
図4はタービン静翼の一部の構成例を示す模式図である。図4に示すように、タービン静翼20は、ロータ(図示せず)の内周側に設けられる内周側エンドウォール11と、ロータの外周側に設けられる外周側エンドウォール12と、内周側エンドウォール11と外周側エンドウォール12との間に設けられる翼部13と、外周側から内周側を貫通するように翼部13に設けられた内部冷却流路14とを有する。図4中、C部分(翼部13と内周側エンドウォール11の接続部位)は動作時に損傷が特に多い部分である。したがって、C部分は部材の性能確保および耐疲労性向上のために、コーティング膜厚を薄くし、高密度化処理により圧力が大きくかかるようにして特に高密度化することが好ましい。
【0025】
一方、図4に示すD部分(外周側エンドウォール12のガス流路部位)は、高い寸法精度が要求される部分である。したがって、D部分は部材の変形を抑制するためにコーティング膜厚を厚くし、高密度化処理により圧力が大きくかからないようにすることが好ましい。
【0026】
次に、上述したコーティング膜厚決定工程で決定した膜厚のコーティングをタービン基材に形成する。コーティング方法に特に限定は無く、例えば、溶射またはめっきによって実施することができる。特に、HVOF(High Velocity Oxygen Fuel)溶射やコールドスプレーが好ましい。
【0027】
コーティング材は、基材よりも強度の低い材料が好ましい。例えば、基材は耐熱性のNi基超合金を用いた場合、コーティングは純金属(純Ni)や、Fe系合金等のNi基超合金よりも強度が低い材料を用いる。
【0028】
<S4:緻密化工程>
次に、上述したコーティングを形成したタービン基材を緻密化する。緻密化には、高温等方加圧が可能なHIPを用いる。該方法によって、基材の形状を保ったまま基材の表面を緻密化することができる。なお、図1には図示していないが、緻密化工程の後に熱処理を施しても良い。
【0029】
図2は本発明のタービン部材の補修方法の一例を示すフロー図である。図1に示すように、本発明のタービン部材の補修方法は、補修対象部材準備工程S11、補修対象部位決定工程S12、コーティング膜厚決定工程S13、コーティング工程S14および緻密化工程S15を含む。
【0030】
図2に示すタービン部材の補修方法では、まず補修対象部材準備工程S11において、補修が必要なタービンの部材を取り出し、補修対象部位決定工程S12において該部材の補修が必要な部位を特定する。なお、このタービン部材は上述したようにAM体であっても良いが、鋳造や鍛造品であっても良い。本発明は鋳造や鍛造で製造したタービン部材に対しても適用可能である。
【0031】
コーティング膜厚決定工程S13、コーティング工程S14および緻密化工程S15については図1で説明したタービン部材の製造方法と同様であるので、説明を省略する。
【0032】
以上、説明した通り、本発明によれば、タービン部材の部位によって緻密化工程における加圧圧力の大きさをコントロールできるタービン部材の製造方法および補修方法を提供できることが示された。
【0033】
なお、本発明は上記した実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かり易く説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0034】
1…前縁、2…後縁、3…腹側側壁、4…背側側壁、5…翼部、6…プラットフォーム、7…翼根部、10…タービン動翼、11…内周側エンドウォール、12…外周側エンドウォール、13…翼部、14…内部冷却流路、20…タービン静翼。
図1
図2
図3
図4