(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155011
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】シフト装置
(51)【国際特許分類】
B60K 20/02 20060101AFI20231013BHJP
G01B 7/00 20060101ALN20231013BHJP
【FI】
B60K20/02 Z
G01B7/00 101H
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064707
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】591050970
【氏名又は名称】津田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129654
【弁理士】
【氏名又は名称】大池 達也
(72)【発明者】
【氏名】小林 直哉
(72)【発明者】
【氏名】本田 武夫
【テーマコード(参考)】
2F063
3D040
【Fターム(参考)】
2F063AA03
2F063BB03
2F063BD15
2F063CA34
2F063DA01
2F063DA05
2F063DB01
2F063DB05
2F063DC08
2F063DD03
2F063GA52
3D040AA01
3D040AA03
3D040AA10
3D040AA33
3D040AB01
3D040AC07
3D040AC17
3D040AC36
(57)【要約】
【課題】シフト方向に沿って配置された複数のシフト位置を相互に切り替えるためのシフト操作に迂回経路を設定する際、コンパクト設計が可能なシフト装置を提供すること。
【解決手段】シフト装置は、N極とS極との組み合わせよりなると共に磁気センサに対する磁気の作用方向が異なる磁極対を2対含んでいる磁石と、シフト方向にシフトレバーが操作された場合に、磁気センサに対して磁石を回転させる第1の駆動部と、セレクト方向にシフトレバーが操作された場合に、磁気センサに対して磁石を進退させる第2の駆動部と、を備え、セレクト方向の操作範囲には、セレクト方向のシフトレバーの操作に応じて磁石が回転する第1セレクト範囲と、セレクト方向にシフトレバーを操作しても磁石が進退しない第2セレクト範囲と、が設けられている。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部から作用する磁気のうち予め定められた検出面に沿う磁気成分の作用方向を検出可能な磁気センサと、該磁気センサに磁気を作用する磁石と、互いに直交するシフト方向及びセレクト方向に操作可能であって複数のシフト位置のうちのいずれかを選択するための操作部と、を備え、前記検出面における磁気成分の作用方向を検出することで前記操作部が操作された位置を磁気的に検出する車両用のシフト装置であって、
前記磁石は、N極とS極との組み合わせよりなると共に前記検出面における磁気の作用方向が異なる磁極対を少なくとも2対含んでおり、
前記シフト方向に前記操作部が操作された場合および前記セレクト方向に前記操作部が操作された場合のうちのいずれか一方の場合に、前記磁気センサに対して相対的に前記磁石を回転させることにより、前記磁石に属するいずれか一の磁極対から前記磁気センサに対する磁気の作用方向を回転させる第1の駆動部と、
前記シフト方向に前記操作部が操作された場合および前記セレクト方向に前記操作部が操作された場合のうちのいずれか他方の場合に、前記磁気センサに対して相対的に磁石を進退させることにより、前記磁石に属する磁極対のうち前記磁気センサに磁気を作用する磁極対を切り替え、前記磁気センサに対する磁気の作用方向を変化させる第2の駆動部と、を備え、
前記セレクト方向の操作範囲には、前記セレクト方向の前記操作部の操作に応じて前記磁気センサに対する前記磁石の相対的な回転あるいは進退による変位が生じる第1セレクト範囲と、前記セレクト方向に前記操作部を操作しても前記磁気センサに対する前記磁石の相対的な回転あるいは進退による変位が生じない第2セレクト範囲と、が設けられ、
前記複数のシフト位置には、前記シフト方向に沿って配置されている一方、前記シフト方向の操作のみによっては相互に切替できない2カ所以上のシフト位置であって、前記第2セレクト範囲にある前記操作部の前記セレクト方向の操作と、前記第2セレクト範囲にある前記操作部の前記シフト方向の操作と、を組み合わせることで相互に切替できる2カ所以上のシフト位置が含まれているシフト装置。
【請求項2】
請求項1において、前記第1及び第2の駆動部のうちのいずれか一方の駆動部に対して、前記セレクト方向の前記操作部の操作を伝達する経路には、
前記第1セレクト範囲にある前記操作部が前記セレクト方向に操作されたとき、前記いずれか一方の駆動部を変位させる一方、前記第2セレクト範囲にある前記操作部が前記セレクト方向に操作されたときには、前記いずれか一方の駆動部の変位を規制する機構が設けられているシフト装置。
【請求項3】
請求項2において、前記機構は、前記第1セレクト範囲にある前記操作部が前記セレクト方向に操作されたとき、当該操作部と前記いずれか一方の駆動部との間の相対的な変位を規制する一方、前記第2セレクト範囲にある前記操作部が前記セレクト方向に操作されたときには、当該操作部と前記いずれか一方の駆動部との間の相対的な変位を許容するように構成されているシフト装置。
【請求項4】
請求項3において、前記操作部は、前記セレクト方向の操作に伴って回動変位できるようにセレクト軸によって軸支されている一方、当該セレクト軸には、前記いずれか一方の駆動部が前記操作部と相対して回動変位できるように軸支されており、
前記機構は、前記セレクト軸を中心とした周方向において前記操作部及び前記いずれか一方の駆動部が所定の位置関係をなすよう、前記操作部及び前記いずれか一方の駆動部のうちの少なくともいずれか一方を付勢する付勢手段を含んで構成されているシフト装置。
【請求項5】
請求項1において、前記磁気センサに対する前記磁石の進退及び回転の2種類の動作のうち、前記セレクト方向に前記操作部が操作された場合の動作について、前記磁気センサに対して前記磁石が相対的に変位可能な限界位置を定めることにより当該動作による変位範囲の一方の範囲端を規定する規制手段と、
当該限界位置に向けて前記磁気センサあるいは前記磁石を付勢する付勢力を作用する付勢手段と、を有し、
前記第1及び第2の駆動部のうち、前記セレクト方向に前記操作部が操作された場合に前記磁気センサに対して前記磁石を相対的に変位させるいずれか一方の駆動部は、
前記第1セレクト範囲に前記操作部があるとき、前記磁気センサあるいは前記磁石に対して前記付勢力に対抗する力を作用し、前記磁気センサに対する前記磁石の相対的な位置を前記限界位置から変位させ得る一方、
前記第2セレクト範囲に前記操作部があるときは、前記磁気センサに対する前記磁石の相対的な位置が前記限界位置にある前記磁気センサあるいは前記磁石に力を作用しないように構成されているシフト装置。
【請求項6】
請求項5において、前記規制手段は、前記磁気センサに対する前記磁石の相対的な進退により変位可能な限界位置を定める手段であり、
前記付勢手段は、前記磁石センサあるいは前記磁石が前記進退する方向に沿う付勢力を作用する手段であるシフト装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の運転者がシフト位置を選択するために操作するシフト装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、車両の原動機が出力する回転を加減速するための自動変速機が知られている。この自動変速機を含む変速システムとしては、自動変速機を制御する車載コンピュータユニットと、シフト位置を選択するためのシフト装置と、が信号線を介して接続されたシフトバイワイヤの変速システムが実用化されている。この変速システムでは、シフト装置で選択されたシフト位置を表す電気信号が車載コンピュータユニットに伝達され、その電気信号に応じて自動変速機が制御される。
【0003】
シフトバイワイヤの変速システムに対応するシフト装置としては、例えば、シフト方向及びセレクト方向に操作可能なシフトレバーの後端に磁石を取り付けると共に、磁石の変位位置を検出する磁気センサを設けた装置が提案されている(例えば、下記の特許文献1参照。)。このシフト装置では、磁気センサが複数配置されたセンサ基板が磁石の変位領域に対面するように配設される。このシフト装置では、複数の磁気センサを利用して、シフトレバーに取り付けられた磁石の変位位置を検出することで、シフトレバーが操作されたシフト位置が検出される。
【0004】
下記の特許文献1に記載された装置の場合、シフトレバーの操作に応じた磁石の2方向(シフト方向及びセレクト方向)の変位位置を検出するために、磁石の変位領域を確保する必要があると共に、磁石の変位領域に対応して磁気センサを2次元的に配置する必要がある。したがって、比較的大判のセンサ基板が必要となり、装置のコンパクト設計が難しくなる傾向がある。
【0005】
下記の特許文献2に記載されたシフト装置では、磁気センサの検出面における磁気の作用方向が異なる磁極対を2対、有する磁石を採用することで、コンパクト設計を可能としている。このシフト装置では、シフト方向のシフト操作に応じて磁石が回転して磁気センサに対する磁気の作用方向が変化すると共に、セレクト方向のシフト操作に応じて磁石が進退して磁気センサに対面する磁極対が切り替わり、磁気センサに対する磁気の作用方向が反転する。
【0006】
下記の特許文献2のシフト装置では、シフト位置に対応する磁石の変位位置毎に、磁気センサを配置する必要がない。このシフト装置では、シフト方向及びセレクト方向の両方向の操作を、磁石の回転あるいは進退に応じた磁気センサに対する磁気の作用方向の変化として検出可能である。このシフト装置では、シフト方向及びセレクト方向のシフト操作を1個の磁気センサで検出できるので、装置のコンパクト設計が容易である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007-223384号公報
【特許文献2】国際出願公開WO2019-142521号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献2のシフト装置では、例えば、シフト方向に沿って配置された2カ所のシフト位置を切り替えるに当たって、シフト方向の操作に加えてセレクト方向の操作を要する迂回経路が設定されている場合、迂回経路を構成するセレクト方向の操作に対応する磁石の進退範囲を確保する必要があり、コンパクト設計上の阻害要因となり得る。
【0009】
本発明は、前記従来の問題点に鑑みてなされたものであり、シフト方向に沿って配置された複数のシフト位置を相互に切り替えるためのシフト操作に迂回経路を設定する際、コンパクト設計が可能なシフト装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、外部から作用する磁気のうち予め定められた検出面に沿う磁気成分の作用方向を検出可能な磁気センサと、該磁気センサに磁気を作用する磁石と、互いに直交するシフト方向及びセレクト方向に操作可能であって複数のシフト位置のうちのいずれかを選択するための操作部と、を備え、前記検出面における磁気成分の作用方向を検出することで前記操作部が操作された位置を磁気的に検出する車両用のシフト装置であって、
前記磁石は、N極とS極との組み合わせよりなると共に前記検出面における磁気の作用方向が異なる磁極対を少なくとも2対含んでおり、
前記シフト方向に前記操作部が操作された場合および前記セレクト方向に前記操作部が操作された場合のうちのいずれか一方の場合に、前記磁気センサに対して相対的に前記磁石を回転させることにより、前記磁石に属するいずれか一の磁極対から前記磁気センサに対する磁気の作用方向を回転させる第1の駆動部と、
前記シフト方向に前記操作部が操作された場合および前記セレクト方向に前記操作部が操作された場合のうちのいずれか他方の場合に、前記磁気センサに対して相対的に磁石を進退させることにより、前記磁石に属する磁極対のうち前記磁気センサに磁気を作用する磁極対を切り替え、前記磁気センサに対する磁気の作用方向を変化させる第2の駆動部と、を備え、
前記セレクト方向の操作範囲には、前記セレクト方向の前記操作部の操作に応じて前記磁気センサに対する前記磁石の相対的な回転あるいは進退による変位が生じる第1セレクト範囲と、前記セレクト方向に前記操作部を操作しても前記磁気センサに対する前記磁石の相対的な回転あるいは進退による変位が生じない第2セレクト範囲と、が設けられ、
前記複数のシフト位置には、前記シフト方向に沿って配置されている一方、前記シフト方向の操作のみによっては相互に切替できない2カ所以上のシフト位置であって、前記第2セレクト範囲にある前記操作部の前記セレクト方向の操作と、前記第2セレクト範囲にある前記操作部の前記シフト方向の操作と、を組み合わせることで相互に切替できる2カ所以上のシフト位置が含まれているシフト装置にある。
【発明の効果】
【0011】
本発明のシフト装置は、セレクト方向の操作部の操作に応じて磁気センサに対する磁石の相対的な回転あるいは進退による変位が生じる第1セレクト範囲が設定されている一方、セレクト方向に操作部を操作しても磁気センサに対する磁石の相対的な回転あるいは進退による変位が生じない第2セレクト範囲が設けられている。
【0012】
このシフト装置で選択できる複数のシフト位置には、シフト方向に沿って配置されている一方、シフト方向の操作のみによっては相互に切替できない2カ所以上のシフト位置が含まれている。この2カ所以上のシフト位置を相互に切り替えるためには、第2セレクト範囲におけるセレクト方向の操作と、第2セレクト範囲にある操作部のシフト方向の操作と、の組合せが必要になっている。
【0013】
本発明のシフト装置では、上記の2カ所以上のシフト位置の相互切替の際、第2セレクト範囲においてセレクト方向に操作部を操作しても磁気センサに対する磁石の相対的な変位が生じない。それ故、このシフト装置では、シフト方向に沿って配置されている上記の2カ所のシフト位置の相互切替の際、セレクト方向の操作が必要となる態様を採用した場合であっても、そのセレクト方向の操作に対応する磁石の相対的な変位範囲を確保する必要がない。
【0014】
本発明のシフト装置では、シフト方向に沿って配置されている一方、シフト方向の操作だけでなく、セレクト方向の操作が必要な操作態様を実現するに当たって、そのセレクト方向の操作に対応して磁石の相対的な変位範囲を拡張する必要がない。このシフト装置では、操作部のセレクト方向の操作範囲に対して、磁気センサに対する磁石の相対的な変位範囲を抑制でき、コンパクト設計が可能になっている。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】実施例1における、シフト装置を示す斜視図。
【
図2】実施例1における、シフトパターンの説明図。
【
図3】実施例1における、シフト装置の内部構造を示す斜視図。
【
図5】実施例1における、検出部の構造を示す分解図。
【
図6】実施例1における、磁石の構成を示す斜視図。
【
図7】実施例1における、シフトレバーを示す斜視図。
【
図8】実施例1における、シフトレバーの構造を示す分解図。
【
図9】実施例1における、セレクト軸、リテーナ、マグネット駆動アームの説明図。
【
図10】実施例1における、リテーナの機能の説明図((a)Hセレクトポジション、(b)Hポジション、(c)Nポジション)。
【
図11】実施例1における、シフトレバーの操作に応じて磁石が変位する様子を示す説明図。
【
図12】実施例1における、磁石と検出面との関係を示す説明図。
【
図14】実施例2における、シフトレバーの斜視図。
【
図15】実施例2における、シフトレバーの操作に応じて磁石が変位する様子を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の実施の形態につき、以下の実施例を用いて具体的に説明する。
(実施例1)
本例は、シフトバイワイヤの変速システム(図示略)に対応するシフト装置1に関する例である。この内容について、
図1~
図12を参照して説明する。
図1のシフト装置1は、車両に搭載される図示しない自動変速機で設定されるシフトレンジを選択するための操作装置であり、運転者の持ち手をなすシフトノブ(操作部)11を備えている。シフト装置1は、自動変速機を制御するECU(図示しない車載コンピュータユニット)と信号線を介して接続されており、運転者によるシフトノブ11の操作情報を電気信号に変換してECUに入力する。
【0017】
シフト装置1は、
図1のごとく、先端にシフトノブ11が取り付けられたシフトレバー5と、シフトレバー5を回動可能に支持する箱状の筐体13と、を含んで構成されている。筐体13の上面には、シフトレバー5の移動経路をなすゲート溝130が設けられている。
【0018】
図1のシフト装置1は、エンジンブレーキが必要なときのBレンジ、前進時のD(ドライブ)レンジ、後退時のR(リバース)レンジ、N(ニュートラル)レンジ、駐車時のP(パーキング)レンジ、が設定された車両に対応している。シフト装置1では、初期位置となるH(ホーム)ポジションを操作の起点として、車両の進行方向に沿うシフト方向、及び車幅方向に沿うセレクト方向にシフトノブ11を操作することでいずれかのシフトレンジを選択可能である。なお、以下の説明では、例えばDレンジに対応するシフト位置をDポジションと言う。
【0019】
Hポジション(
図2中の四角囲みのH)を起点として、運転者がシフト方向手前側にあるBポジションにシフトノブ11を操作すれば、Bレンジを選択できる。Pレンジに対応するPポジションは、シフト方向に沿って配置されている2カ所以上のシフト位置の一例である。Hポジションに対してシフト方向奥側に位置している一方、HポジションとPポジションとの間には、シフト方向に沿う直線的な経路に代えて、迂回経路が設定されている。この迂回経路は、Hポジションから一旦、セレクト方向に沿ってNポジションとは反対側に操作した後、シフト方向奥側に操作し、再度セレクト方向に戻す操作を必要とする経路である。この迂回経路のうち、Hポジション及びPポジションからセレクト方向に操作した経路上の操作位置を、Hセレクトポジション(
図2中の四角囲みのH-sel)あるいはPセレクトポジションという。これらHセレクトポジションあるいはPセレクトポジションは、シフトレンジに対応しない迂回経路上の操作位置である。
【0020】
Dレンジは、
図2のごとく、Hポジションからセレクト方向に沿ってシフトノブ11を移動させて一旦Nポジションに操作し、そのままシフト方向手前側のDポジションにシフトノブ11を操作することで選択できる。Rレンジは、Hポジションからセレクト方向に沿ってシフトノブ11を移動させて一旦Nポジションに操作した後、そのままシフト方向奥側のRポジションにシフトノブ11を操作することで選択できる。なお、このシフト装置1では、操作の起点であるHポジションに向けてシフトノブ11が付勢されている。例えばDポジションにシフトノブ11を操作した後、運転者がシフトノブ11から手を離すと、シフトノブ11は自動的にHポジションに復帰する。
【0021】
図2のごとく、本例の構成では、Hセレクトポジション(Pセレクトポジション)からNポジション(Rポジション、Dポジション)に至る範囲が、セレクト方向にシフト操作可能なセレクト範囲となっている。このセレクト範囲のうち、シフトレンジに対応するシフト位置が配置されている範囲が第1セレクト範囲の例示である。そして、この第1セレクト範囲の左側に隣接する範囲が第2セレクト範囲の例示である。
【0022】
シフト装置1の内部構造を示す
図3の通り、筐体13(
図1)の図示しない内底面には、磁石21を含む検出部2Dが設けられている。シフト装置1は、シフトレバー5の操作に応じて磁石21が回転あるいは進退するように構成されている。検出部2Dは、磁石21の変位位置を磁気的に検出することにより、シフトレバー5の操作位置であるシフト位置を検出する。
【0023】
検出部2Dは、
図1、
図4及び
図5のごとく、磁気センサIC201が実装された基板2と、磁気センサIC201の検出面201S(
図5)に相対して磁石21を変位(回転、進退)させる変位機構と、により構成されている。
【0024】
基板2は、磁気センサIC(磁気センサ)201のほか、シフトノブ11の操作により選択されたシフト位置を表す電気信号を生成し出力するための図示しないマイコンチップなどが実装された電子基板である。両面実装に対応する基板2では、筐体13の内部空間に面して磁気センサIC201が配置され、その裏面にマイコンチップなど他の電子部品が配置されている。
【0025】
磁気センサIC201(
図5)は、直交する2方向の磁気の大きさを検知可能な2軸の磁気センサである。この磁気センサIC201は、この直交する2方向により規定される検出面201Sを有している。磁気センサIC201は、検出面201Sが基板2の表面に沿うように基板2に実装されている。磁気センサIC201は、この検出面201Sに沿う磁気の作用方向を検出し、その作用方向を表すセンサ信号を出力する。つまり、この磁気センサIC201は、検出面201Sに直交する軸周りの回転角を検出する1軸の回転センサとしての機能を有している。図示しないマイコンチップは、磁気センサIC201が出力するセンサ信号を処理することで、シフトノブ11が操作されたシフト位置を検出し、そのシフト位置を表す操作信号を電気的に出力する。
【0026】
基板2には、
図4及び
図5のごとく、磁気センサIC201等の電子部品のほかに、磁石21の変位機構が取り付けられている。変位機構は、磁石21が進退可能なレール250を含むマグネットホルダ25と、回転台でもあるマグネットホルダ25を保持するホルダガイド23と、の組合せ等を含んで構成されている。
【0027】
ホルダガイド23は、マグネットホルダ25を回転可能に保持するガイド部材である。このホルダガイド23は、周方向において対向する2箇所に、マグネットホルダ25を保持するための係合部23B(
図5)を備えている。対向配置された一対の係合部23Bは、いずれも断面カギ状を呈する。係合部23Bは、周方向における約40度に亘って形成されている。
【0028】
略円環状を呈するホルダガイド23は、略中心に磁気センサIC201が位置するよう、基板2に固定されている。ホルダガイド23の円環状をなす部分の板厚は、磁気センサIC201の実装高さを僅かに超える寸法に設定されている。このような寸法設定によれば、ホルダガイド23に保持されたマグネットホルダ25の下面が、磁気センサIC201に対して僅かな隙間を空けて対面する状態を実現できる。
【0029】
マグネットホルダ25(
図3~
図5)は、磁石21を進退可能に保持する回転台である。このマグネットホルダ25は、樹脂等の非磁性材料により形成されている。マグネットホルダ25は、略円形平板状をなす円板部252の表面に、磁石21を進退させるレール250を設けて構成されている。レール250の両側には、円板部252が円弧状をなして外側に張り出す周縁部25Cが形成されている。回転台であるマグネットホルダ25は、ホルダガイド23の係合部23Bに周縁部25Cが係合する状態で回転可能である。
【0030】
磁石21は、扁平な直方体形状の本体21B(
図6参照。)に対して、非磁性材料よりなるカバー210を被せたものである。
図3~
図5等に示す磁石21の外形状は、このカバー210の外形状である。なお、
図6では、カバー210の外形状が破線により図示されている。本例のシフト装置1では、本体21Bの露出面である磁石21の同図中の下面が、磁気センサIC201の検出面201S(
図5参照。)に対面している。
【0031】
以下、カバー210を含む磁石21の形状的な構成について主に
図5を参照して説明し、続いて本体21Bの磁気的な構成につき
図6を用いて説明する。
磁石21の両側面には、外側に張り出すようにスライダ217が設けられている。磁石21は、レール250の長手方向に沿って進退できるよう、スライダ217を利用してレール250に嵌め込まれている。
【0032】
磁石21の上面には、一対のガイド壁218と、先端が球状のピン213と、が磁石21の長手方向の両端付近に立設されている。ピン213は、磁石21を長手方向に進退させるための駆動力が作用するピンである。ガイド壁218は、磁石21の長手方向に平行をなすように立設された壁である。一対のガイド壁218は、間隙を空けて互いに対面するように設けられている。一対のガイド壁218は、磁石21を回転させるための駆動力を受け得るように構成されている。本例のシフト装置1は、後述するマグネット駆動アーム55から力を受けて磁石21が進退あるいは回転するように構成されている。
【0033】
磁石21の本体21Bの構成について
図6を参照して説明する。同図(a)は、本体21Bを上面側から見込む斜視図であり、同図(b)は、本体21Bを下面側から見込む斜視図である。なお、同図中の細線の破線は、磁石21の外形状(カバー210の外形状)を示している。
【0034】
本体21Bは、磁極対をなすN極とS極とを対面させたブロック状の磁石21H、M、Lを3つ並べた直方体形状の磁石である。3つの磁石21H、M、Lのうち、両端の2つの磁石21H、LはN極が面する側(同図(b)で図示される下面側)が同じである一方、中央の磁石21Mは裏返されて他の2つの磁石21H、LのN極が面する側にS極が面している。
【0035】
本体21Bでは、各磁石21H、M、Lの磁極対によってN極とS極とが対面する方向の磁界が形成されるのに加えて、磁石21H、M、Lのうちの異なる2つに属して隣接するN極とS極との組み合わせによる磁極対によっても磁界が形成される。このような磁極対には、磁石21HのN極と磁石21MのS極との組み合わせによる磁極対215Aと、磁石21MのS極と磁石21LのN極との組み合わせによる磁極対215Bと、が含まれている。
【0036】
磁極対215A・Bは、磁石21Hと磁石21Mと磁石21Lとが隣り合う方向、すなわち直方体形状の本体21B(磁石21)の長手方向に沿う磁界を形成する。ここで、本体21Bにカバー210を被せた磁石21は、上記の通り、基板2に対面するマグネットホルダ25のレール250に収容されている。磁石21は、その長手方向が基板2の表面に沿う状態で保持されているため、磁極対215A・Bが形成する磁界は、基板2の表面に沿う方向に磁気を作用することになる。
【0037】
なお、以下の説明では、磁石21の長手方向においてピン213側に配置された磁石21Hのうち基板2に面するN極を第1N極211Nといい、磁石21の長手方向においてガイド壁218側に配置された磁石21Lのうち基板2に面するN極を第2N極212Nという。また、中央の磁石21Mのうち基板2に面するS極をS極21Sという。
【0038】
また、磁極対215Aにおける第1N極211NとS極21Sとの境目を第1境界B1といい、磁極対215Bにおける第2N極212NとS極21Sとの境目を第2境界B2という。本例の構成では、磁石21Hの第1N極211N、磁石21MのS極21S、磁石21Lの第2N極212Nにより形成される本体21Bの表面が、カバー210によって覆われずに磁石21の下面として露出している。
【0039】
シフトレバー5は、
図7及び
図8のごとく、筐体13(
図1参照。)を車幅方向に貫通するシフト軸15、及びこのシフト軸15と直交するセレクト軸16によって軸支されている。シフト軸15は、回転可能な状態で筐体13に固定されている。シフト軸15の回転に応じてシフトレバー5がシフト方向に沿って回動する。セレクト軸16は、シフト軸15に対して直交方向に貫通する状態で固定されている。シフトレバー5は、セレクト軸16により回動可能な状態で軸支されている。シフトレバー5は、シフト軸15の回転を伴ってシフト方向に操作され、セレクト軸16に対する回転に応じてセレクト方向に操作される。
【0040】
シフト軸15には、リテーナ17が外挿配置されている。リテーナ17は、シフト軸15を貫通配置するための孔170を有している。この孔170の断面形状は、完全な円形状ではなく、円形に2面幅を設けた略小判型を呈している。孔170に内挿されるシフト軸15の断面形状もまた、孔170の断面形状に対応する略小判型を呈している。円形に2面幅を設けた略小判型の孔170と、同様に略小判型を呈するシフト軸15の断面形状の組合せにより、リテーナ17が周り止めされた状態でシフト軸15に外挿されている。
【0041】
孔170を形成するリテーナ17の外周壁には、セレクト軸16を貫通させるための孔171が設けられている。リテーナ17は、シフト軸15に対してセレクト軸16が直交する箇所に、セレクト軸16が貫通する状態で配置されている。シフトレバー5は、リテーナ17を挟み込む脚部531、551を有しており、脚部531、551は、いずれもコの字状をなす一方、開口する側が反対になっている。脚部531は、筐体13(
図1参照。)の図示しない内底面側に当たる下方に開口するコの字状である。脚部551は、シフトノブ11(
図1参照。)側に当たる上方に開口するコの字状である。シフトレバー5は、脚部531、551の組合せにより形成される矩形状の空間においてリテーナ17を挟み込む状態でセレクト軸16によって回動可能に軸支されている。
【0042】
シフトレバー5は、先端にシフトノブ11(
図1参照。)の取付部538が設けられたレバーシャフト53と、マグネット駆動アーム55と、の分割構造を有する。レバーシャフト53とマグネット駆動アーム55とは、レバーシャフト53の軸方向に沿って配置されている。本例の構成では、シフトノブ11及びレバーシャフト53が操作部の一例をなしている。
【0043】
レバーシャフト53は、筐体13のゲート溝130を貫通する棒状のシャフト部539を有する部材である。レバーシャフト53では、取付部538とは反対側の他端に、上記の脚部531が設けられている。
【0044】
マグネット駆動アーム55は、上記の脚部551が設けられた部材である。マグネット駆動アーム55は、一定の隙間を空けて対面する一対のプッシュ壁556と、先端が球状の駆動ピン555と、を有している。駆動ピン555は、シフト方向のシフト操作に応じて磁石21を回転させるための第1の駆動部の一例である。一対のプッシュ壁556は、セレクト方向のシフト操作に応じて磁石21を進退させるための第2の駆動部の一例である。
【0045】
一対のプッシュ壁556は、上記の脚部551の奥側に当たる連結部552を挟んで、脚部551とは反対側に位置している。プッシュ壁556は、シフト方向に平行、かつ、セレクト方向に直交する平らな壁である。一対のプッシュ壁556は、シフト方向に沿う一定の隙間を空けて対面している。組付状態のシフト装置1では、一対のプッシュ壁556の間に、磁石21のピン213が配置された状態となる。一対のプッシュ壁556は、セレクト方向のシフト操作に応じてマグネット駆動アーム55が回動したとき、磁石21を進退駆動するための力をピン213に作用する。なお、一対のプッシュ壁556の間隙におけるピン213の位置は、シフト位置に応じて変わるが、この間隙にピン213が配置される構造がシフト位置に依らず維持される。
【0046】
駆動ピン555は、連結部552の側方に延びるアーム部555Aの先端に、かぎ状に折れ曲がるように設けられている。組付状態のシフト装置1では、磁石21に設けられた一対のガイド壁218の間に駆動ピン555が収容される。上記のごとく、ガイド壁218は、磁石21の進退方向に沿う平らな壁である。駆動ピン555は、シフト方向のシフト操作に応じてマグネット駆動アーム55がシフト軸15周りに回動したとき、磁石21を回転駆動するための力を、一対のガイド壁218に作用する。なお、一対のガイド壁218の間隙における駆動ピン555の位置は、シフト位置に応じて変わるが、この間隙に駆動ピン555が配置される構造はシフト位置に依らず維持される。
【0047】
レバーシャフト53の脚部531及びマグネット駆動アーム55の脚部551には、セレクト軸16を貫通配置するための孔530、550が設けられている。レバーシャフト53及びマグネット駆動アーム55は、孔530と孔550とが一致すると共に、脚部531を内側にして脚部531と脚部551とが重なる状態で組み合わせられている。上記のごとく脚部531及び脚部551はコの字状の開口する側が逆であるため、脚部531と脚部551とにより、リテーナ17を内挿するための略矩形状の空間が形成される。このように組み合わせたレバーシャフト53及びマグネット駆動アーム55は、孔530及び孔550に貫通配置されたセレクト軸16によって回動可能に軸支されている。
【0048】
レバーシャフト53の脚部531の外側面では、脚部531の付け根に当たる位置に円柱状のピン533が立設されている。このピン533に対して脚部531の孔530は、脚部531の先端に近く位置している。マグネット駆動アーム55の脚部551の外側面では、脚部551の先端に、略円柱状のピン553が立設されている。このピン553に対して脚部551の孔550は、脚部551の中間辺りに位置している。孔530と孔550とが一致すると共に、脚部531と脚部551とが重なる状態で、レバーシャフト53とマグネット駆動アーム55とを組み合わせたとき、ピン533とピン553とは、脚部531、551の延在方向に沿って隙間少なく隣り合って位置することになる。
【0049】
レバーシャフト53及びマグネット駆動アーム55は、いずれも、セレクト軸16を中心として回動可能である。それ故、レバーシャフト53とマグネット駆動アーム55との組合せにおいて、それぞれの脚部531と脚部551とが重なって、それらの延在方向が一致するような姿勢(
図7参照。)を取るためには、何らかの外力が必要になる。
【0050】
本例の構成では、その外力として、付勢手段の一例をなすトーションばね18の弾性力を利用している。本例のトーションばね18は、線状のばね材がコイル状に巻回されたコイル部180を有すると共に、コイル部180の巻き始めと巻き終わりの端部をなすレバー部181が接線方向に直線的に延びているばねである。2本のレバー部181は、互いに平行をなしており、略一定の隙間を形成している。このトーションばね18は、コイル部180がセレクト軸16に外挿配置されると共に、レバーシャフト53のピン533及びマグネット駆動アーム55のピン553が2本のレバー部181によって挟み込まれる状態で組み付けられている。
【0051】
このトーションばね18は、2本のレバー部181が末広がりになる弾性変形に応じて弾性力を生じ、2本のレバー部181が互いに平行をなすように弾性復帰しようとする。このようなトーションばね18の弾性力は、セレクト軸16を中心とした周方向におけるピン533とピン553との位置ずれを抑制するように作用する。レバーシャフト53及びマグネット駆動アーム55は、トーションばね18の弾性力(付勢力)を上記の外力として、脚部531及び脚部551の延在方向が一致する、例えば
図7の姿勢をなすように規制される。
【0052】
ここで、シフトレバー5の脚部531、551によって挟み込まれるリテーナ17の機能について
図9を参照して説明する。なお、容易な理解のため、同図(a)は、シフト軸15及びリテーナ17の組合せを示し、同図(b)は、シフト軸15、リテーナ17及びマグネット駆動アーム55の組合せを示している。
【0053】
リテーナ17の外周のうち、マグネット駆動アーム55のコの字状の脚部551の奥側に当たる連結部552(
図8参照。)に対面する箇所には、セレクト方向の操作に応じてシフトレバー5がセレクト軸16(
図8参照。)を中心として回動する際、マグネット駆動アーム55の回動範囲を規制するための規制部179が設けられている。本例のシフト装置1では、Hセレクトポジション(
図2)からHポジションを経てNポジションに至るまでの上記のセレクト範囲が、セレクト方向における最大の操作範囲となっている。一方、マグネット駆動アーム55の回動範囲は、Hポジションに対応する位置からNポジションに対応する位置までの上記の第1セレクト範囲(
図2参照。)に制限されている。シフト装置1では、HポジションからHセレクトポジションに至る上記の第2セレクト範囲(
図2参照。)にてセレクト方向のシフト操作が行われたとき、マグネット駆動アーム55の回動が規制され、マグネット駆動アーム55が変位しないようになっている。
【0054】
リテーナ17の規制部179は、第1規制面179aと第2規制面179bとを設けて構成されている。第1規制面179aは、シフト位置がHポジション、Pポジション及びBポジションにあるとき、
図9(b)のように、マグネット駆動アーム55の連結部552が当接するように構成された面である。第2規制面179bは、シフト位置がNポジション、Rポジション及びDポジションにあるとき、連結部552が当接するように構成された面である。詳しくは後述するが、本例のシフト装置1は、Hセレクトポジション及びPセレクトポジションを含む上記の第2セレクト範囲(
図2参照。)にシフト位置があるとき、連結部552が第1規制面179aに当接する状態が維持されるように構成されている。なお、第2規制面179bは必須の構成ではない。第1セレクト範囲(
図2参照。)を越えるセレクト方向の操作は、ゲート溝130によって規制できるからである。
【0055】
本例のシフト装置1では、レバーシャフト53、マグネット駆動アーム55及びトーションばね18の組合せにより、シフトレバー5の中折れが生じる機構が設けられている。本例のシフト装置1では、この中折れ機構は、シフトノブ11をセレクト方向に操作しても磁石21の進退変位を生じさせない空振り機構とも言える。中折れ機構は、第1セレクト範囲(
図2参照。)にあるシフトレバー5がセレクト方向に操作されたとき、マグネット駆動アーム55を変位させる一方、第2セレクト範囲にあるシフトレバー5がセレクト方向に操作されたときには、マグネット駆動アーム55の変位を規制する機構の例示である。この中折れ機構の動作を、
図10を参照しながら説明する。また、
図10では、ホルダガイド23の図示を省略している。
【0056】
図10は、シフト位置が、Hセレクトポジション(同図(a))、Hポジション(同図(b))、Nポジション(同図(c))のシフト装置1を、セレクト軸16の軸方向に沿って見る図である。
【0057】
図10(b)のHポジションを起点として、セレクト方向に沿ってNポジション(同図(c))に向けてシフト操作されたとき、トーションばね18によりシフトレバー5の軸方向に沿う姿勢で規制されたマグネット駆動アーム55が、レバーシャフト53と一体的に回動しようとする。Hポジションのとき、リテーナ17の第1規制面179aに当接するマグネット駆動アーム55は、第2規制面179bに当接するまで、図中、時計周りに回動可能である。それ故、HポジションからNポジションへの第1セレクト範囲(
図2参照。)でのセレクト方向のシフト操作の場合、レバーシャフト53とマグネット駆動アーム55とがシフトレバー5の軸方向に沿う状態を維持できる。
【0058】
一方、
図10(b)のHポジションを起点として、セレクト方向に沿ってHセレクトポジション(同図(a))に向けてシフト操作された場合には、マグネット駆動アーム55がレバーシャフト53に従動して同図中、反時計周りに回動することができない。Hポジションのとき、既に、リテーナ17の第1規制面179aに対してマグネット駆動アーム55が当接する状態にあり、マグネット駆動アーム55の反時計周りの回動が規制されるからである。この場合、同図(a)のごとく、レバーシャフト53とマグネット駆動アーム55(プッシュ壁556)との間の相対的な変位が規制され、シフトレバー5が中折れするように、マグネット駆動アーム55の回動を伴わずにレバーシャフト53のみが回動することになる。このとき、レバーシャフト53のピン533及びマグネット駆動アーム55のピン553を挟み込むトーションばね18の弾性変形を伴いながら、ピン533及びピン553につき、セレクト軸16周りの周方向における位置ずれが生じることになる。このように本例のシフト装置1では、トーションばね18の弾性変形を伴うシフトレバー5の中折れにより、操作部の一例をなすレバーシャフト53と、いずれか一方の駆動部の一例をなすプッシュ壁556(マグネット駆動アーム55)と、のセレクト軸16周りの相対的な変位が許容されている。
【0059】
本例の構成では、脚部531と脚部551との組み合わせが、いずれか一方の駆動部の例示である第2の駆動部の一例をなすプッシュ壁556に対して、セレクト方向のシフトレバー5の操作を伝達する経路に位置している。そして、シフト装置1には、上記の第1セレクト範囲(
図2参照。)にあるシフトレバー5がセレクト方向に操作されたとき、プッシュ壁556を変位させる一方、第2セレクト範囲にあるシフトレバー5がセレクト方向に操作されたときには、プッシュ壁556の変位を規制する機構として、上記の中折れ機構が設けられている。
【0060】
次に、以上のように構成されたシフト装置1におけるシフト位置の検出動作につき、
図11及び
図12を参照しながら説明する。
図11は、各ポジションにおける磁石21の回転位置及び進退位置を説明するための図である。
図12は、各ポジションにおける磁石21と検出面201Sとの位置関係を説明するための図である。なお、
図11中のポジション毎に付記された平行四辺形は、基板2に面する磁石21の下面形状を表し、この平行四辺形の内側に重ねて示す小さな太枠の平行四辺形は、磁気センサIC201の検出面201Sを表している。磁石21の下面形状を表す平行四辺形と、検出面201Sを表す太枠の平行四辺形と、の
図11中の相対的な位置関係を、わかり易く正面視に書き換えたものが
図12である。
【0061】
なお、
図11では、Rポジション及びDポジションの図示を省略している。Nポジションからこれらのポジションへのシフト方向のシフト操作は、HポジションからBポジションへのシフト方向のシフト操作と同様である。そこで、同じ内容の図示や説明の重複を避けるため、Rポジション及びDポジションの図示を省略している。また、
図11では、ホルダガイド23の図示を省略している。
【0062】
図11の通り、マグネットホルダ25のレール250に磁石21の大部分が収容されるHポジションのとき、磁気センサIC201の検出面201Sは、磁石21の第2境界B2に対面する状態にある。このとき、検出面201Sには、
図12に示すように、第2N極212NからS極21Sに至る磁気が作用する。
【0063】
Hポジションを起点としてシフトレバー5が(運転者側から見て)シフト方向手前側のBポジションに操作されると、レバーシャフト53に従動してマグネット駆動アーム55が回動し、これにより、駆動ピン555がシフト方向奥側に変位する。このとき、駆動ピン555が、一対のガイド壁218のうちのシフト方向奥側のガイド壁218にシフト方向の当接荷重を作用する。
【0064】
磁石21のガイド壁218は、マグネットホルダ25の回転中心から偏心しているため、駆動ピン555による当接荷重は、磁石21に作用する回転モーメントに変換される。磁石21は、この回転モーメントにより
図11中の時計周りP1に回転する。このとき、磁石21の進退は生じていないので、検出面201Sに対して磁石21の第2境界B2が対面する状態を維持しつつ、第2N極212NからS極21Sに至る磁界の向きが回転する(
図12)。これにより検出面201Sにおける磁気の作用方向が変化する。このような磁気の作用方向の変化を検出することで、HポジションからBポジションへのシフトレバー5のシフト方向の操作を検出可能である。
【0065】
また、Hポジションを起点としてシフトレバー5がNポジションに向けてセレクト方向に操作されると、
図10を参照して上述した通り、レバーシャフト53と一体的にマグネット駆動アーム55がセレクト軸16周りに回動する。そうすると、一対のプッシュ壁556のうちの一方が、磁石21のピン213を付勢する。これにより、ピン213(
図5参照。)を介して磁石21が長手方向に駆動され、マグネットホルダ25のレール250に沿って
図11中、P3の方向に前進する。
【0066】
このように磁石21が長手方向に前進すると、磁気センサIC201の検出面201Sに対面する磁石21の部位が、第2境界B2から第1境界B1に切り替わる(
図12)。この結果、検出面201Sにおける磁気の作用方向は、第2N極212NからS極21Sに至る方向から、第1N極211NからS極21Sに至る方向に反転する。このような磁気の作用方向の反転を検出すれば、HポジションからNポジションへのセレクト方向の操作を検出できる。
【0067】
さらに、Hポジションを起点としてシフトレバー5がHセレクトポジションに向けてセレクト方向に操作されたときには、上記の中折れ機構の作用により、マグネット駆動アーム55がレバーシャフト53に従動せず、回動変位しない。それ故、HポジションからHセレクトポジションへのシフト操作があっても、磁石21の進退が発生することがない。磁石21と検出面201Sとの関係は変化しないので(
図12参照。)、このシフト操作は検出対象にならない。したがって、シフト装置1は、HポジションからHセレクトポジションへシフト操作された場合にそのシフト操作を検出せず、シフト位置がHポジションにあると判断する状態を保持する。
【0068】
第2セレクト範囲(
図2参照。)に位置するシフトレバー5がシフト方向に沿って、Hセレクトポジションからシフト方向奥側のPセレクトポジションに操作されると、レバーシャフト53に従動するシフト軸15周りのマグネット駆動アーム55の回動が生じ、駆動ピン555がシフト方向手前側に変位する。このとき、駆動ピン555が、一対のガイド壁218のうちのシフト方向手前側のガイド壁218にシフト方向の当接荷重を作用する。
【0069】
磁石21のガイド壁218は、マグネットホルダ25の回転中心から偏心しているため、駆動ピン555による当接荷重は、磁石21に作用する回転モーメントに変換される。磁石21は、この回転モーメントにより
図11中の反時計周りP2に回転する。このとき、磁石21の進退は生じず、磁石21の第2境界B2が検出面201Sに対面する状態を維持しつつ、第2N極212NからS極21Sに至る磁界の向きが回転する(
図12)。これにより検出面201Sにおける磁気の作用方向が変化する。
【0070】
図11では、Pセレクトポジションのシフト装置1の図示を省略するが、このときの磁石21の回転位置は、Pポジションの場合と同じである(
図12)。また、上記のごとく、シフト位置がHセレクトポジションにあるとき、シフト装置1は、シフト位置がHポジションにあると判断する。それ故、HポジションからHセレクトポジションを経てPセレクトポジションに至るシフト操作は、シフト装置1により、HポジションからPポジションへのシフト操作として検出される。
【0071】
なお、上記の通り、NポジションからDポジションあるいはRポジションへシフト操作が行われた場合、磁気センサIC201の検出面201Sに第1境界B1が対面する状態を維持しながら、磁石21が回転変位する。このときに生じる磁気の作用方向の変化(
図12参照。)を検出すれば、NポジションからDポジションあるいはRポジションへのシフト方向の操作を検出できる。
【0072】
以上のように構成された本例のシフト装置1は、互いに直交するシフト方向及びセレクト方向に操作可能であって、複数のシフト位置のうちのいずれかをシフトレバー5により選択可能な車両用のシフト装置である。本例のシフト装置1では、セレクト方向の操作に応じて磁石21が進退する第1セレクト範囲が設定されている一方、セレクト方向に操作しても磁石21の進退による変位が生じない第2セレクト範囲が設けられている。
【0073】
このシフト装置1で選択できる複数のシフト位置には、シフト方向に沿って配置されているが、シフト方向の操作のみによっては切替できない2カ所以上のシフト位置の例示として、HポジションとPポジションとの組合せが含まれている。HポジションとPポジションとの相互切替のためには、第2セレクト範囲でのセレクト方向の操作と、第2セレクト範囲に位置するシフトレバー5に対するシフト方向の操作と、の組合せが必須である。
【0074】
本例のシフト装置1では、上記の2カ所以上のシフト位置の一例であるHポジションとPポジションの相互切替の際、第2セレクト範囲においてセレクト方向にシフトレバー5を操作しても磁石21の進退変位が生じない。それ故、このシフト装置1では、HポジションとPポジションとの相互切替に際して、第2セレクト範囲でのセレクト方向の操作と、第2セレクト範囲に位置するシフトレバー5に対するシフト方向の操作と、の組合せが必要となる態様(迂回経路を経由する操作が必要な態様)を採用した場合であっても、第2セレクト範囲に対応する磁石21の進退範囲を確保する必要がない。
【0075】
このようにシフト装置1では、シフト方向に沿って配置されている一方、セレクト方向の操作と、シフト方向の操作と、の組合せが必要な操作態様を実現するに当たって、磁気センサIC201に対する磁石21の相対的な変位範囲を拡張する必要がない。このシフト装置1では、セレクト方向の操作範囲に対し、磁気センサIC201に対する磁石21の相対的な変位範囲を抑制でき、コンパクト設計が可能である。
【0076】
なお、本例では、磁気センサIC201(磁気センサ)が基板2に固定されている一方、磁石21が変位する構成を例示している。これに代えて、基板2に磁石21を固定する一方、シフトレバー5の操作に従動して磁気センサが変位する構成を採用することも良い。また、本例では、セレクト方向の操作に応じて磁石21が進退し、シフト方向の操作に応じて磁石21が回転する構成を例示している。セレクト方向の操作に応じて磁石21が回転し、シフト方向の操作に応じて磁石21が進退する構成を採用することもできる。
【0077】
本例では、リテーナ17によってマグネット駆動アーム55の回動変位が規制される構成を例示している。これに代えて、磁石21の進退範囲の限界位置を定めるストッパを、例えば、マグネットホルダ25に設けることも良い。マグネット駆動アーム55は、一対のプッシュ壁556の間隙に磁石21のピン213を収容しているため、磁石21の前進が規制されたとき、磁石21と同様に変位(回動変位)が規制される。
【0078】
(実施例2)
本例は、シフトノブ11が操作されても磁石21が変位しないという実施例1の空振り機構(中折れ機構)が、シフトレバー5の中折れに依らずに実現されたシフト装置1の例である。この内容について、
図13~
図15を参照して説明する。
【0079】
本例のシフト装置1では、シフトレバー5が中折れせず、レバーシャフト53とマグネット駆動アーム55とが一体的に回動する点、リテーナ(
図9中の符号17)が省略されている点、所定の進退位置に向けて磁石21を付勢する機構が設けられている点、マグネット駆動アーム55のプッシュ壁556が片側のみ設けられている点、等が実施例1の構成との相違点になっている。
【0080】
図13に示す通り、本例のマグネットホルダ25では、実施例1のマグネットホルダに基づき、ストッパ259とポスト258とが追加的に設けられている。なお、同図では、図面の見易さを優先して、ホルダガイド(
図4中の符号23)の図示を省略している。
【0081】
ストッパ259は、磁石21の進退可能な限界位置を定めることにより、磁石21の進退範囲の一方の範囲端を規定する規制手段の一例である。このストッパ259は、Hポジションのときの磁石21の位置に対応して設けられ、磁石21がストッパ259を乗り越えて前進できないように構成されている。ポスト258は、レール250の両外側に1本ずつ立設されている略円柱状のポストである。このポスト258は、後述するトーションばね18を係止させることができるように構成されている。
【0082】
磁石21の構成は、実施例1と同じ仕様である一方、先端球状のピン213の根元に、トーションばね18(付勢手段の一例)の略円筒状のコイル部180が外挿配置される点で、実施例1の磁石とは異なっている。トーションばね18は、巻き始めと巻き終わりの端部であるレバー部188を有している。自由状態の図示は省略するが、2本のレバー部188は、コイル部180を挟んで一直線状をなすように、すなわち180度に近い開き角をなすように設けられている。
【0083】
シフト装置におけるトーションばね18は、開き角が180度よりも小さくなるよう、マグネットホルダ25の2本のポスト258にそれぞれレバー部188が係止され、弾性変形した状態で組付けられている。このようにトーションばね18が弾性変形した状態では、その弾性力によって磁石21が付勢され、マグネットホルダ25のストッパ259に押し当たる状態となっている。なお、上記のごとく磁石21のこのような進退位置は、Hポジション(同じシフト列に属するBポジション、Pポジションも同様。)の際の位置である。なお、磁石21の進退に応じてストッパ259から離れて磁石21が位置する場合、トーションばね18の2本のレバー部188の開き角がさらに小さくなり、トーションばね18の弾性力(付勢力)が一層、強くなる。
【0084】
図14に示す通り、本例のシフトレバー5では、レバーシャフト53とマグネット駆動アーム55とが、リテーナを介在せずに、レバーシャフト53の脚部531を内側にしてシフト軸15に軸支されている。レバーシャフト53とマグネット駆動アーム55とは、一体的に回動するように固定された状態にある。
【0085】
本例のマグネット駆動アーム55では、セレクト方向のシフト操作に応じて磁石21を進退駆動するためのプッシュ壁556の構成が実施例1とは異なっている。実施例1では、隙間を空けて対面する一対のプッシュ壁を例示したが、本例のプッシュ壁556は片側のみであり、対面する相手方が設けられていない。なお、シフト方向のシフト操作に応じて磁石21を回転駆動するための駆動ピン555の構成については、実施例1と同様となっている。
【0086】
次に、本例のシフト装置1の動作について、
図15を参照しながら説明する。本例のシフト装置1では、実施例1と同様、HポジションからHセレクトポジションへのシフト操作や、PポジションからPセレクトポジションへのシフト操作、等が検出対象外となっている。
【0087】
図15のHポジションとして図示する通り、シフト位置がHポジションにあるとき、磁石21がマグネットホルダ25のストッパ259に押し当っていると共に、磁石21のピン213がプッシュ壁556に当接する状態にある。このHポジションからHセレクトポジションに向けてセレクト方向にシフト操作されると、シフトレバー5の回動に応じてマグネット駆動アーム55が一体的に回動する。なお、このときの回動方向は、同図中のR1である。
【0088】
マグネット駆動アーム55の回動により、プッシュ壁556がピン213から離れて磁石21に干渉せず、磁石21に対して力を作用しないようになる。このとき、磁石21は、上記のごとくストッパ259に押し当たっており、レール250の長手方向に前進することがない(空振り機構)。HポジションからHセレクトポジションへのセレクト方向のシフト操作があっても、磁気センサ201の検出面201Sと磁石21との関係、すなわち検出面201Sに第2境界B2が対面する関係、が変化することはない。さらにこのとき、磁石21の回転変位も生じない。そのため、HポジションからHセレクトポジションへのセレクト方向のシフト操作は、検出対象外となる。なお、PポジションとPセレクトポジションとの間のセレクト方向のシフト操作についても同様である。
【0089】
HポジションからNポジションに向けてセレクト方向における逆向きのシフト操作が行われると、シフトレバー5の回動に応じてマグネット駆動アーム55が一体的に回動する。なお、このときの回動方向は、
図15中のR2である。マグネット駆動アーム55がR2の方向に回動すれば、プッシュ壁556によりピン213が押し出され、これにより、トーションばね18の付勢力に対抗して磁石21が変位する。そうすると、磁気センサ201の検出面201Sに対面する境界が、第2境界B2から第1境界B1に切り替わり、磁気の作用方向が反転する。HポジションからNポジションへのセレクト方向のシフト操作は、このような磁気の作用方向の反転により検出可能である。
なお、その他の構成及び作用効果については実施例1と同様である。
【0090】
以上、実施例のごとく本発明の具体例を詳細に説明したが、これらの具体例は、特許請求の範囲に包含される技術の一例を開示しているにすぎない。言うまでもなく、具体例の構成や数値等によって、特許請求の範囲が限定的に解釈されるべきではない。特許請求の範囲は、公知技術や当業者の知識等を利用して前記具体例を多様に変形、変更あるいは適宜組み合わせた技術を包含している。
【符号の説明】
【0091】
1 シフト装置
11 シフトノブ(操作部)
13 筐体
15 シフト軸
16 セレクト軸
17 リテーナ
179 規制部
179a 第1規制面
179b 第2規制面
18 トーションばね(付勢手段)
2 基板
2D 検出部
201 磁気センサIC(磁気センサ)
201S 検出面
21 磁石
21B 本体
213 ピン
218 ガイド壁
215A、B 磁極対
B1 第1境界
B2 第2境界
23 ホルダガイド
25 マグネットホルダ(回転台)
250 レール
259 ストッパ(規制手段)
5 シフトレバー
53 レバーシャフト(操作部)
531 脚部
533 ピン
55 マグネット駆動アーム
551 脚部
553 ピン
555 駆動ピン(第1の駆動部)
556 プッシュ壁(第2の駆動部)