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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155059
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】方向性電磁鋼板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C21D 8/12 20060101AFI20231013BHJP
   H01F 1/147 20060101ALI20231013BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20231013BHJP
   C22C 38/60 20060101ALN20231013BHJP
【FI】
C21D8/12 B
H01F1/147 183
C22C38/00 303U
C22C38/60
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064807
(22)【出願日】2022-04-08
(71)【出願人】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001553
【氏名又は名称】アセンド弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】渥美 春彦
(72)【発明者】
【氏名】山縣 龍太郎
(72)【発明者】
【氏名】片岡 隆史
(72)【発明者】
【氏名】国田 雄樹
(72)【発明者】
【氏名】冨田 悠希
(72)【発明者】
【氏名】柏田 祐治
(72)【発明者】
【氏名】松下 航也
【テーマコード(参考)】
4K033
5E041
【Fターム(参考)】
4K033AA02
4K033BA01
4K033BA02
4K033CA01
4K033CA02
4K033CA03
4K033CA04
4K033CA07
4K033CA08
4K033CA09
4K033DA02
4K033EA02
4K033FA01
4K033FA13
4K033FA14
4K033GA00
4K033HA01
4K033HA02
4K033HA05
4K033HA06
4K033JA05
4K033LA01
4K033MA01
4K033MA02
4K033NA01
4K033NA02
4K033PA06
4K033PA07
4K033PA08
4K033RA04
4K033RA09
4K033RA10
4K033SA02
4K033SA03
4K033TA02
4K033TA03
4K033TA06
4K033TA07
5E041AA02
5E041AA19
5E041BC01
5E041BD10
5E041CA02
5E041HB05
5E041HB11
5E041HB14
5E041HB15
5E041HB19
5E041NN01
5E041NN17
5E041NN18
(57)【要約】
【課題】高い磁束密度が得られ、かつ、磁束密度のばらつきを抑制できる、方向性電磁鋼板の製造方法を提供する。
【解決手段】本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法では、冷間圧延工程が、タンデム圧延工程と、リバース圧延工程とを含む。タンデム圧延工程では、複数のパスで用いる複数のワークロールの平均直径D1を200mm以上とし、累積圧下率CR1を30~87%とする。リバース圧延工程では、複数のパスで用いる複数のワークロールの平均直径D2を100mm以下とし、累積圧下率CR2を24~86%とする。脱炭焼鈍工程では、冷延鋼板の温度が550℃~750℃の範囲での平均昇温速度HRを100℃/秒以上とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.01~0.20%、
Si:2.0~4.5%、
Mn:0.01~0.30%、
S:0.01~0.05%、
sol.Al:0.01~0.05%、
N:0.01~0.02%、
Cr:0.00~0.50%、
Sn:0.00~0.30%、
Sb:0.00~0.30%、
Ni:0.00~0.50%、
Mo:0.00~0.20%、
P:0.00~0.15%、
Cu:0.00~0.50%、
Se:0.00~0.03%、
V:0.00~0.15%、及び、
Bi:0.0000~0.0100%、
を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程と、
前記熱延板焼鈍工程後の前記熱延鋼板を、累積圧下率CR0を90%以上として冷間圧延し、冷延鋼板を製造する冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して、脱炭焼鈍鋼板を製造する脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布し、前記焼鈍分離剤が塗布された前記脱炭焼鈍鋼板に対して仕上焼鈍を実施して、仕上焼鈍鋼板を製造する仕上焼鈍工程と、
前記仕上焼鈍鋼板に絶縁皮膜形成液を塗布し、前記絶縁皮膜形成液が塗布された前記仕上焼鈍鋼板に対して熱処理を実施して、前記仕上焼鈍鋼板に絶縁皮膜を形成する、絶縁皮膜形成工程と、を備え、
前記冷間圧延工程は、
一列に配列された複数の圧延スタンドを含むタンデム圧延機を用いて、前記熱延鋼板に対して複数のパス数の連続圧延を実施して、中間鋼板を製造するタンデム圧延工程と、
多段圧延機を用いて、前記タンデム圧延工程後に熱処理が施されていない前記中間鋼板に対して複数のパス数のリバース圧延を実施して、前記冷延鋼板を製造するリバース圧延工程と、を含み、
前記タンデム圧延工程では、
複数の前記パスで用いる複数のワークロールの平均直径D1を200mm以上とし、
累積圧下率CR1を30~87%とし、
前記リバース圧延工程では、
複数の前記パスで用いる複数のワークロールの平均直径D2を100mm以下とし、
累積圧下率CR2を24~86%とし、
前記脱炭焼鈍工程では、
前記冷延鋼板の温度が550℃~750℃の範囲での平均昇温速度HRを100℃/秒以上とする、
方向性電磁鋼板の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記スラブは、
Cr:0.01~0.50%、
Sn:0.01~0.30%、
Sb:0.01~0.30%、
Ni:0.01~0.50%、
Mo:0.01~0.20%、
P:0.01~0.15%、
Cu:0.01~0.50%、
Se:0.01~0.03%、
V:0.01~0.15%、及び、
Bi:0.0001~0.0100%、
からなる群から選択される1元素以上を含有する、
方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、方向性電磁鋼板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
方向性電磁鋼板は、結晶方位を{110}<001>方位(ゴス方位)に集積させた鋼板である。方向性電磁鋼板は、軟質磁性材料として、トランスやその他の電気機器の鉄心材料に利用されている。
【0003】
方向性電磁鋼板の製造方法は、例えば、次のとおりである。スラブを加熱して熱間圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。製造された熱延鋼板を焼鈍する。熱延鋼板に対して冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造する。冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して、一次再結晶を発現する。脱炭焼鈍後の冷延鋼板に対して仕上焼鈍を実施して、二次再結晶を発現する。以上の工程により、方向性電磁鋼板が製造される。
【0004】
上述のとおり、方向性電磁鋼板は鉄心材料に利用されるため、高い磁気特性が求められる。具体的には、磁場の強さが800A/mにおける磁束密度B8の向上が求められている。
【0005】
磁束密度を高める方法として、ゴス方位への集積度の向上が知られている。ゴス方位への集積度を高めるために、通常、高温かつ長時間の仕上焼鈍が行われる。仕上焼鈍において、磁気特性に優れるゴス方位粒が、その周囲の他の方位の結晶粒を蚕食しながら、センチメートルオーダーのサイズまで成長する(二次再結晶)。このようなゴス方位粒の粗大化により結晶方位が揃ってきて、ゴス方位への集積度が高まる。
【0006】
ゴス方位粒の粗大化により、ゴス方位への集積度は高まる。その結果、磁束密度も高まる。しかしながら、ゴス方位粒の粗大化は、磁束密度のばらつきを生じさせる。具体的には、上述の製造方法では、コイル状の鋼板を熱処理炉に装入して、仕上焼鈍を実施する。この場合、鋼板に一定の曲率が付与された状態で、二次再結晶が発現する。そのため、コイル状の鋼板を巻き解いて平坦な状態としたとき、コイルの曲率に応じて結晶方位の連続的なズレが発生する。この結晶方位のズレにより、結晶粒の結晶方位がゴス方位からずれる場合がある。この場合、磁束密度が低下する。このような結晶方位のズレが、磁束密度のばらつきを発生させる。
ゴス方位への集積度を高める手段は、特開平6-049543号公報(特許文献1)、特開平7-62436号公報(特許文献2)、特開平10-280040号公報(特許文献3)及び特開2003-096520号公報(特許文献4)に提案されている。
これらの文献では、一次再結晶を発現するための焼鈍処理の昇温過程において、急速加熱を実施する。急速加熱により、二次再結晶の核となるゴス方位粒を、一次再結晶組織中に富化させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平6-049543号公報
【特許文献2】特開平7-62436号公報
【特許文献3】特開平10-280040号公報
【特許文献4】特開2003-096520号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~4に記載の製造方法では確かに、二次再結晶の核となる微細ゴス方位粒を、一次再結晶組織中に富化させることができ、これにより、ゴス方位への集積度を高めることができる。しかしながら、二次再結晶時においてゴス方位粒が過剰に粗大化すれば、上述の結晶方位のズレが生じてしまう。そのため、コイル状の方向性電磁鋼板の最外周部分と、最内周部分とで、磁束密度にばらつきが生じる場合がある。
【0009】
本開示の目的は、高い磁束密度が得られ、かつ、磁束密度のばらつきを抑制できる、方向性電磁鋼板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示による方向性電磁鋼板の製造方法は、次の工程を備える。
【0011】
化学組成が、質量%で、
C:0.01~0.20%、
Si:2.0~4.5%、
Mn:0.01~0.30%、
S:0.01~0.05%、
sol.Al:0.01~0.05%、
N:0.01~0.02%、
Cr:0.00~0.50%、
Sn:0.00~0.30%、
Sb:0.00~0.30%、
Ni:0.00~0.50%、
Mo:0.00~0.20%、
P:0.00~0.15%、
Cu:0.00~0.50%、
Se:0.00~0.03%、
V:0.00~0.15%、及び、
Bi:0.0000~0.0100%、
を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程と、
前記熱延板焼鈍工程後の前記熱延鋼板を、累積圧下率CR0を90%以上として冷間圧延し、冷延鋼板を製造する冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して、脱炭焼鈍鋼板を製造する脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布し、前記焼鈍分離剤が塗布された前記脱炭焼鈍鋼板に対して仕上焼鈍を実施して、仕上焼鈍鋼板を製造する仕上焼鈍工程と、
前記仕上焼鈍鋼板に絶縁皮膜形成液を塗布し、前記絶縁皮膜形成液が塗布された前記仕上焼鈍鋼板に対して熱処理を実施して、前記仕上焼鈍鋼板に絶縁皮膜を形成する、絶縁皮膜形成工程と、を備え、
前記冷間圧延工程は、
一列に配列された複数の圧延スタンドを含むタンデム圧延機を用いて、前記熱延鋼板に対して複数のパス数の連続圧延を実施して、中間鋼板を製造するタンデム圧延工程と、
多段圧延機を用いて、前記タンデム圧延工程後に熱処理が施されていない前記中間鋼板に対して複数のパス数のリバース圧延を実施して、前記冷延鋼板を製造するリバース圧延工程と、を含み、
前記タンデム圧延工程では、
複数の前記パスで用いる複数のワークロールの平均直径D1を200mm以上とし、
累積圧下率CR1を30~87%とし、
前記リバース圧延工程では、
複数の前記パスで用いる複数のワークロールの平均直径D2を100mm以下とし、
累積圧下率CR2を24~86%とし、
前記脱炭焼鈍工程では、
前記冷延鋼板の温度が550℃~750℃の範囲での平均昇温速度HRを100℃/秒以上とする、
方向性電磁鋼板の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本開示による方向性電磁鋼板の製造方法は、高い磁束密度が得られ、かつ、磁束密度のばらつきを抑制できる方向性電磁鋼板を製造できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法のフロー図である。
図2図2は、タンデム圧延機の模式図である。
図3図3は、リバース圧延工程で用いられる多段圧延機の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明者らは、高い磁束密度が得られ、かつ、磁束密度のばらつきを抑制するためには、二次再結晶後のゴス方位粒の過剰な粗大化を抑制することが有効と考えた。そこで、化学組成が、C:0.01~0.20%、Si:2.0~4.5%、Mn:0.01~0.30%、S:0.01~0.05%、sol.Al:0.01~0.05%、N:0.01~0.02%、Cr:0.00~0.50%、Sn:0.00~0.30%、Sb:0.00~0.30%、Ni:0.00~0.50%、Mo:0.00~0.20%、P:0.00~0.15%、Cu:0.00~0.50%、Se:0.00~0.03%、V:0.00~0.15%、及び、Bi:0.0000~0.0100%、を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを用いて方向性電磁鋼板を製造した場合の、磁束密度と、コイルの外周部分と内周部分とでの磁束密度のばらつきとを調査した。
【0015】
初めに、一次再結晶が発現する脱炭焼鈍工程において、急速加熱を実施した。その結果、鋼板温度が550℃から750℃に至るまでの昇温速度HRが100℃/秒以上であれば、一次再結晶組織において、十分な量の微細ゴス方位粒が生成し、二次再結晶時にゴス方位への集積度が高まることが分かった。
【0016】
しかしながら、脱炭焼鈍工程時に急速加熱をするだけでは、二次再結晶時においてゴス方位への集積度を高めることはできるものの、ゴス方位粒の粗大化を十分に抑制することはできなかった。そのため、磁束密度のばらつきを十分に抑制することはできなかった。
【0017】
そこで、本発明者らは、二次再結晶時のゴス方位の結晶粒を抑制する方法について検討を行った。その結果、次の知見を得た。
【0018】
本発明者らは、冷間圧延工程に注目した。方向性電磁鋼板の製造工程中の冷間圧延工程では、圧下率を高めるために、多段圧延機を用いたリバース圧延が採用される場合が多い。多段圧延機では、圧延対象となる鋼板に高い圧下を付与するために、一対のワークロールを複数のバックアップロールで支持する。一対のワークロールの直径を小さくすることができ、ロールの撓みを極力低減できる。これにより、高い圧下率を実現する。
【0019】
しかしながら、直径の小さいワークロールで冷間圧延を実施する場合、鋼板表層に多くのせん断歪が導入される。多くのせん断歪が導入された場合、鋼板表層においては、冷間圧延の安定方位群の一つであるαファイバ方位群が鋼板表層で発達する。αファイバ方位群から一次再結晶する結晶方位粒は粗大化し易い。そのため、一次再結晶で多数のゴス方位粒を生成させた場合、仕上焼鈍工程における二次再結晶発現直前までの粒成長過程において、二次再結晶の核となるゴス方位粒が減少し、二次再結晶粒が粗大化し易くなる。その結果、コイル状で仕上焼鈍を行う方向性電磁鋼板において、磁束密度にばらつきが生じやすくなる。
【0020】
そこで、本発明者は、冷間圧延工程においてせん断歪の導入を低減できれば、二次再結晶でのゴス方位粒の粗大化を抑制できると考えた。冷間圧延工程においてせん断歪の導入が抑制されれば、冷延鋼板には、αファイバ方位群に代えて、γファイバ方位群が残存しやすくなる。γファイバ方位群は一次再結晶時に{111}再結晶群を生成する。{111}再結晶群は粒成長の駆動力が低く、粗大化し難い。そのため、一次再結晶で多数のゴス方位粒を生成させた場合、仕上焼鈍工程における二次再結晶発現直前までの粒成長過程において、二次再結晶の核となるゴス方位粒が減少し難い。そのため、多数の核(ゴス方位粒)が二次再結晶し、各二次再結晶粒の粒成長が抑制される。その結果、コイル状で仕上焼鈍を行う方向性電磁鋼板において、磁束密度にばらつきが生じやすくなる。
【0021】
以上の考察に基づいて、本発明者らは、冷間圧延工程について検討を行った。その結果、冷間圧延工程において、タンデム圧延工程と、リバース圧延工程とを実施し、各工程において、以下に規定する条件を満たせば、コイル状の方向性電磁鋼板において、高い時速密度が得られ、かつ、磁束密度のばらつきを抑制できることを見出した。
【0022】
以上の知見により完成した本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法は、次の工程を備える。
【0023】
[1]
化学組成が、質量%で、
C:0.01~0.20%、
Si:2.0~4.5%、
Mn:0.01~0.30%、
S:0.01~0.05%、
sol.Al:0.01~0.05%、
N:0.01~0.02%、
Cr:0.00~0.50%、
Sn:0.00~0.30%、
Sb:0.00~0.30%、
Ni:0.00~0.50%、
Mo:0.00~0.20%、
P:0.00~0.15%、
Cu:0.00~0.50%、
Se:0.00~0.03%、
V:0.00~0.15%、及び、
Bi:0.0000~0.0100%、
を含有し、残部がFe及び不純物からなるスラブを熱間圧延して熱延鋼板を製造する熱間圧延工程と、
前記熱延鋼板を焼鈍する熱延板焼鈍工程と、
前記熱延板焼鈍工程後の前記熱延鋼板を、累積圧下率CR0を90%以上として冷間圧延し、冷延鋼板を製造する冷間圧延工程と、
前記冷延鋼板に対して脱炭焼鈍を実施して、脱炭焼鈍鋼板を製造する脱炭焼鈍工程と、
前記脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布し、前記焼鈍分離剤が塗布された前記脱炭焼鈍鋼板に対して仕上焼鈍を実施して、仕上焼鈍鋼板を製造する仕上焼鈍工程と、
前記仕上焼鈍鋼板に絶縁皮膜形成液を塗布し、前記絶縁皮膜形成液が塗布された前記仕上焼鈍鋼板に対して熱処理を実施して、前記仕上焼鈍鋼板に絶縁皮膜を形成する、絶縁皮膜形成工程と、を備え、
前記冷間圧延工程は、
一列に配列された複数の圧延スタンドを含むタンデム圧延機を用いて、前記熱延鋼板に対して複数のパス数の連続圧延を実施して、中間鋼板を製造するタンデム圧延工程と、
多段圧延機を用いて、前記タンデム圧延工程後に熱処理が施されていない前記中間鋼板に対して複数のパス数のリバース圧延を実施して、前記冷延鋼板を製造するリバース圧延工程と、を含み、
前記タンデム圧延工程では、
複数の前記パスで用いる複数のワークロールの平均直径D1を200mm以上とし、
累積圧下率CR1を30~87%とし、
前記リバース圧延工程では、
複数の前記パスで用いる複数のワークロールの平均直径D2を100mm以下とし、
累積圧下率CR2を24~86%とし、
前記脱炭焼鈍工程では、
前記冷延鋼板の温度が550℃~750℃の範囲での平均昇温速度HRを100℃/秒以上とする、
方向性電磁鋼板の製造方法。
【0024】
[2]
[1]に記載の方向性電磁鋼板の製造方法であって、
前記スラブは、
Cr:0.01~0.50%、
Sn:0.01~0.30%、
Sb:0.01~0.30%、
Ni:0.01~0.50%、
Mo:0.01~0.20%、
P:0.01~0.15%、
Cu:0.01~0.50%、
Se:0.01~0.03%、
V:0.01~0.15%、及び、
Bi:0.0001~0.0100%、
からなる群から選択される1元素以上を含有する、
方向性電磁鋼板の製造方法。
【0025】
以下、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法について詳述する。なお、本明細書において、元素の含有量に関する%は、特に断りのない限り、質量%を意味する。
【0026】
[製造工程フロー]
図1は、本実施形態による方向性電磁鋼板の製造方法のフロー図である。図1を参照して、本製造方法は、次の工程S1~工程S6を含む。
・熱間圧延工程S1
・熱延板焼鈍工程S2
・冷間圧延工程S3
・脱炭焼鈍工程S4
・仕上焼鈍工程S5
・絶縁皮膜形成工程S6
【0027】
冷間圧延工程S3はさらに、次の2つの工程を含む。
・タンデム圧延工程S31
・リバース圧延工程S32
【0028】
本実施形態の製造方法では、冷間圧延工程S3(タンデム圧延工程S31、リバース圧延工程S32)、及び、脱炭焼鈍工程S4において、次の製造条件を満たすことが特徴である。
(タンデム圧延工程S31の条件)
条件1:タンデム圧延機を用いて、複数のパス数の連続圧延を実施する。
条件2:ワークロールの平均直径D1を200mm以上とする。
条件3:累積圧下率CR1を30~87%とする。
(リバース圧延工程S32の条件)
条件4:多段圧延機を用いて、複数のパス数のリバース圧延を実施する。
条件5:タンデム圧延工程後に熱処理が施されていない中間鋼板を圧延対象とする。
条件6:ワークロールの平均直径D2を100mm以下とする。
条件7:累積圧下率CR2を24~86%とする。
(冷間圧延工程S3全体の条件)
条件8:冷間圧延工程S3全体での累積圧下率CR0を90%以上とする。
(脱炭焼鈍工程S4での条件)
条件9:550℃~750℃の範囲での平均昇温速度HRを100℃/秒以上とする。
以下、各工程S1~S6について説明する。
【0029】
[熱間圧延工程(S1)]
熱間圧延工程(S1)では、準備されたスラブに対して熱間圧延を実施して鋼板を製造する。スラブの化学組成は、次の元素を含有する。
【0030】
[スラブの化学組成中の必須元素]
C:0.01~0.20%
炭素(C)は、製造工程中における脱炭焼鈍工程完了までの組織制御に有効である。C含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、C含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であり、後述の脱炭焼鈍工程を実施しても、脱炭が不十分となり、磁気時効が起こってしまう。この場合、十分な鉄損特性が得られない。
したがって、C含有量は0.01~0.20%である。
C含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.05%であり、さらに好ましくは0.07%である。
C含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.16%であり、さらに好ましくは0.14%である。
【0031】
Si:2.0~4.5%
シリコン(Si)は、方向性電磁鋼板の比抵抗を高めて、鉄損のうちの渦電流損を低減する。Si含有量が2.0%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、Si含有量が4.5%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼の冷間加工性が低下する。
したがって、Si含有量は2.0~4.5%である。
Si含有量の好ましい下限は2.2%であり、さらに好ましくは2.5%であり、さらに好ましくは、2.8%である。
Si含有量の好ましい上限は4.3%であり、さらに好ましくは4.0%であり、さらに好ましくは3.7%である。
【0032】
Mn:0.01~0.30%
マンガン(Mn)は、方向性電磁鋼板の比抵抗を高めて鉄損を低減する。Mnはさらに、熱間加工性を高めて、熱間圧延における割れの発生を抑制する。Mnはさらに、熱間圧延工程において、Sと結合して微細なMnSを形成する。微細MnSは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、熱間圧延工程において、微細MnSの析出量が多ければ、熱延板焼鈍工程において、十分な量の微細AlNが得られる。Mn含有量が0.01%未満であれば、上記効果が十分に得られない。
一方、Mn含有量が0.30%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、方向性電磁鋼板の磁束密度が低下する。
したがって、Mn含有量は0.01~0.30%である。
Mn含有量の好ましい下限は0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
Mn含有量の好ましい上限は0.20%であり、さらに好ましくは0.15%である。
【0033】
S:0.01~0.05%
硫黄(S)は、熱間圧延工程中において、Mnと結合して、上述の微細MnSを形成する。上述のとおり、微細MnSは、インヒビターとして活用される微細AlNの析出核となる。そのため、熱間圧延工程において、微細MnSの析出量が多ければ、十分な量の微細AlNが得られる。S含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、上記効果が十分に得られない。
一方、S含有量が0.05%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、仕上焼鈍工程後の鋼板中においてMnSが残存する場合がある。この場合、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。
したがって、S含有量は0.01~0.05%である。
S含有量の好ましい下限は0.02%である。S含有量の好ましい上限は0.04%である。
【0034】
sol.Al:0.01~0.05%
アルミニウム(Al)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Nと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。sol.Al含有量が0.01%未満であれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、インヒビターとして機能する十分な量のAlNが得られない。
一方、sol.Al含有量が0.05%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、インヒビターとしての機能が過大となり、良好な二次再結晶が発現しなくなる。
したがって、sol.Al含有量は0.01~0.05%である。
sol.Al含有量の好ましい下限は0.02%である。sol.Al含有量の好ましい上限は0.04%である。
なお、本明細書において、sol.Al含有量は、酸可溶Alの含有量を意味する。
【0035】
N:0.01~0.02%
窒素(N)は、方向性電磁鋼板の製造工程中において、Alと結合してAlNを形成し、インヒビターとして機能する。N含有量を0.01%未満とするためには、製鋼工程において過度の精錬を必要とし、この場合、製造コストが高くなる。したがって、N含有量の下限は0.01%である。
一方、鋼材中のN含有量が0.02%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、冷間圧延時に鋼板にブリスタ(空孔)が多数生成しやすくなる。
したがって、N含有量は0.01~0.02%である。
【0036】
本実施形態によるスラブの化学組成の残部は、Fe及び不純物からなる。ここで、不純物とは、方向性電磁鋼板の素材であるスラブを工業的に製造する際に、原料としての鉱石、スクラップ、又は、製造環境などから混入されるものであって、本実施形態の製造方法により製造される方向性電磁鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
【0037】
[スラブの化学組成中の任意元素]
上述のスラブの化学組成はさらに、Feの一部に代えて、
Cr:0.00~0.50%、
Sn:0.00~0.30%、
Sb:0.00~0.30%、
Ni:0.00~0.50%、
Mo:0.00~0.20%、
P:0.00~0.15%、
Cu:0.00~0.50%、
Se:0.00~0.03%、
V:0.00~0.15%、及び、
Bi:0.0000~0.0100%、
からなる群から選択される1元素以上を含有してもよい。
【0038】
[第1群:Cr、Sn及びSb]
Cr、Sn、及びSbはいずれも、方向性電磁鋼板の磁気特性を高め、かつ、磁気特性のばらつきを低減する。以下、Cr、Sn及びSbについて説明する。
【0039】
Cr:0.00~0.50%
クロム(Cr)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cr含有量は0.00%であってもよい。
含有される場合、Crは脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上する。この場合、仕上焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質が向上する。さらに、Crは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。Crが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Cr含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、一次被膜の形成が不安定になる場合がある。
したがって、Cr含有量は0.00~0.50%である。
上記効果をより有効に得るためのCr含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。
Cr含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%であり、さらに好ましくは0.20%であり、さらに好ましくは0.15%である。
【0040】
Sn:0.00~0.30%、
すず(Sn)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sn含有量は0.00%であってもよい。
含有される場合、Snは、脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上する。この場合、仕上焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質が向上する。さらに、Snは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。Snが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Sn含有量が0.30%を超えれば、鋼板の表面が酸化されにくくなり、一次被膜の形成が不十分になる場合がある。
したがって、Sn含有量は0.00~0.30%である。
上記効果をより有効に得るためのSn含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。
Sn含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.20%である。
【0041】
Sb:0.00~0.30%
アンチモン(Sb)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Sb含有量は0.00%であってもよい。
含有される場合、Sbは、脱炭焼鈍工程時に生成される酸化層の性質を向上する。この場合、仕上焼鈍工程時に、この酸化層を用いて生成する一次被膜の性質が向上する。さらに、Sbは、酸化層及び一次被膜の形成の安定化を実現することにより、方向性電磁鋼板の磁気特性を向上し、磁気特性のばらつきを抑制する。Sbが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Sb含有量が0.30%を超えれば、鋼板の表面が酸化されにくくなり、一次被膜の形成が不十分になる場合がある。
したがって、Sb含有量は0.00~0.30%である。
上記効果をより有効に得るためのSb含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。
Sb含有量の好ましい上限は0.25%であり、さらに好ましくは0.20%である。
【0042】
[第2群:Ni、Mo及びP]
Ni、Mo及びPはいずれも、方向性電磁鋼板の鉄損を低減する。以下、Ni、Mo及びPについて説明する。
【0043】
Ni:0.00~0.50%
ニッケル(Ni)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Ni含有量は0.00%であってもよい。
含有される場合、Niは、熱延組織を均質化し、一次再結晶集合組織を改善する。その結果、Niは、方向性電磁鋼板(最終製品)の鉄損を低減する。Niが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Ni含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、二次再結晶が不安定になる場合がある。
したがって、Ni含有量は0.00~0.50%である。
上記効果をより有効に得るためのNi含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%である。
Ni含有量の好ましい上限は0.45%であり、さらに好ましくは0.40%であり、さらに好ましくは0.35%である。
【0044】
Mo:0.00~0.20%
モリブデン(Mo)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Mo含有量は0.00%であってもよい。
含有される場合、Moは方向性電磁鋼板の電気抵抗を高め、鉄損を低減する。Moが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Mo含有量が0.20%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼板の加工性が低下する。
したがって、Mo含有量は0.00~0.20%である。
上記効果をより有効に得るためのMo含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Mo含有量の好ましい上限は0.18%であり、さらに好ましくは0.15%であり、さらに好ましくは0.13%である。
【0045】
P:0.00~0.15%
りん(P)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、P含有量は0.00%であってもよい。
含有される場合、Pは方向性電磁鋼板の一次再結晶集合組織を改善し、方向性電磁鋼板(最終製品)の鉄損を低減する。Pが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、P含有量が0.15%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼板の加工性が低下する。
したがって、P含有量は0.00~0.15%である。
上記効果をより有効に得るためのP含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
P含有量の好ましい上限は0.13%であり、さらに好ましくは0.11%であり、さらに好ましくは0.09%である。
【0046】
[第3群:Cu、Se、V及びBi]
Cu、Se、V及びBiはいずれも、インヒビターの生成を促進したり、インヒビターとして機能したりする。以下、Cu、Se、V及びBiについて説明する。
【0047】
Cu:0.00~0.50%
銅(Cu)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Cu含有量は0.00%であってもよい。
含有される場合、Cuは、熱間圧延工程において、インヒビターとして機能するAlNの生成核となる微細MnSの析出を促進する。Cuが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Cu含有量が0.50%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、CuS析出物が析出し、CuS析出物が仕上焼鈍後にも残存する場合が生じる。鋼中にCuS析出物が残存すれば、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。
したがって、Cu含有量は0.00~0.50%である。
上記効果をより有効に得るためのCu含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.03%であり、さらに好ましくは0.05%である。
Cu含有量の好ましい上限は0.40%であり、さらに好ましくは0.30%である。
【0048】
Se:0.00~0.03%
セレン(Se)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Se含有量は0.00%であってもよい。
含有される場合、熱間圧延工程中において、Mnと結合して、微細MnSeを形成する。微細MnSeは、インヒビターとして機能する微細AlNの析出核となる。そのため、熱間圧延工程において、微細AlNの生成を促進する。Seが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Se含有量が0.03%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、仕上焼鈍工程後の鋼板中において、MnSeが残存する場合がある。この場合、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。
したがって、Se含有量は0.00~0.03%である。
上記効果をより有効に得るためのSe含有量の好ましい下限は0.01%である。Se含有量の好ましい上限は0.02%である。
【0049】
V:0.00~0.15%
バナジウム(V)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、V含有量は0.00%であってもよい。
含有される場合、C又はNと結合してインヒビターとして機能する。Vが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、V含有量が0.15%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、仕上焼鈍工程後の鋼板中において、Vインヒビターが残存する場合がある。この場合、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。
したがって、V含有量は0.00~0.15%である。
上記効果をより有効に得るためのV含有量の好ましい下限は0.01%であり、さらに好ましくは0.02%であり、さらに好ましくは0.03%である。
V含有量の好ましい上限は0.13%であり、さらに好ましくは0.11%であり、さらに好ましくは0.09%である。
【0050】
Bi:0.0000~0.0100%
ビスマス(Bi)は任意元素であり、含有されなくてもよい。つまり、Bi含有量は0.0000%であってもよい。
含有される場合、Biは、MnS及びMnSeを安定化して、インヒビターとしての機能を強化する。Biが少しでも含有されれば、上記効果がある程度得られる。
しかしながら、Bi含有量が0.0100%を超えれば、他の元素含有量が本実施形態の範囲内であっても、鋼板上に形成される一次被膜の密着性が低下する。Bi含有量が0.0100%を超えればさらに、耳割れが発生しやすくなる。
したがって、Bi含有量は0.0000~0.0100%である。
上記効果をより有効に得るためのBi含有量の好ましい下限は0.0001%であり、さらに好ましくは0.0003%であり、さらに好ましくは0.0005%であり、さらに好ましくは0.0007%であり、さらに好ましくは0.0010%である。
Bi含有量の好ましい上限は0.0070%であり、さらに好ましくは0.0050%であり、さらに好ましくは0.0040%である。
【0051】
[上記化学組成を有するスラブの製造方法]
以上の化学組成を有するスラブの製造方法の一例は次のとおりである。上記化学組成を有する溶鋼を製造(溶製)する。溶鋼を用いて、連続鋳造法により、スラブを製造する。
【0052】
[上記スラブを用いた熱間圧延]
準備された上記化学組成を有するスラブに対して、熱間圧延機を用いて熱間圧延を実施して鋼板(熱延鋼板)を製造する。具体的には、熱間圧延工程S1は、次の工程を含む。
・加熱工程S11
・粗圧延工程S12
・仕上圧延工程S13
【0053】
[加熱工程S11]
加熱工程では、スラブを加熱する。たとえば、スラブを周知の加熱炉又は周知の均熱炉に装入して、加熱する。スラブの好ましい加熱温度は1100~1450℃である。
【0054】
[粗圧延工程S12]
粗圧延工程S12では、加熱されたスラブに対して粗圧延を実施して、粗バーを製造する。ここで、粗圧延とは、周知の粗圧延機を用いてスラブを熱間圧延することを意味する。粗バーとは、粗圧延完了後であって仕上圧延開始前の鋼板を意味する。粗圧延工程では、粗圧延機を用いて、スラブに対して複数のパス数の圧下を付与し、粗バーを製造する。
【0055】
[仕上圧延工程S13]
仕上圧延工程S13では、粗圧延工程S12により製造された粗バーに対して、周知の仕上圧延を実施して、熱延鋼板を製造する。ここで、仕上圧延とは、周知の仕上圧延機を用いて粗バーを熱間圧延することを意味する。仕上圧延工程S13では、パスライン上に一列に配列されたタンデム式の複数の仕上圧延スタンドで構成される連続圧延機を用いて、粗バーに複数のパス数の圧下を付与して、熱延鋼板を製造する。
【0056】
[熱延板焼鈍工程S2]
熱延板焼鈍工程S2では、熱間圧延工程S1で製造された熱延鋼板に対して、焼鈍処理を実施する。熱延板焼鈍工程S2を実施することにより、鋼板組織に再結晶が生じ、磁気特性が高まる。
【0057】
熱延板焼鈍工程S2では、周知の熱延板焼鈍を実施すれば足りる。熱延板焼鈍での熱延鋼板の加熱方法は特に限定されず、周知の加熱方式を採用すればよい。熱延板焼鈍温度は例えば、900~1200℃である。熱延板焼鈍温度での保持時間は例えば、10~300秒である。なお、熱延板焼鈍工程S2を実施した場合、熱延板焼鈍工程S2後、冷間圧延工程S3前に、熱延鋼板に対して酸洗処理を実施してもよい。
【0058】
[冷間圧延工程S3]
冷間圧延工程S3では、製造された熱延鋼板に対して、冷間圧延を実施して、冷延鋼板を製造する。上述のとおり、冷間圧延工程S3は次の2つの工程を含む。
・タンデム圧延工程S31
・リバース圧延工程S32
以下、各工程S31及びS32について説明する。
【0059】
[タンデム圧延工程S31]
タンデム圧延工程S31では、タンデム圧延機を用いて、冷間圧延を実施する。
図2は、タンデム圧延機の模式図である。図2を参照して、タンデム圧延機CMは、上流から下流に向かってペイオフリール(巻き戻し装置)11と、テンションリール(巻取り装置)12との間に配置される。
【0060】
ペイオフリール11は、巻き取られている熱延鋼板ST0を巻き戻す。テンションリール12は、タンデム圧延機CMにより製造された中間鋼板ST1を巻き取る。
タンデム圧延機CMは、巻き戻された熱延鋼板STに対して、複数のパス数の連続圧延を実施して、中間鋼板ST1を製造する。
【0061】
タンデム圧延機CMは、上流から下流に向かって一列に配列された複数の圧延スタンドCMS~CMS(jは2以上の自然数)を備える。各圧延スタンドCMSは、水平に延びる一対のワークロールWR1を備える。一対のワークロールWR1は、冷間圧延される熱延鋼板と接触して、熱延鋼板を冷間圧延する。圧延スタンドCMSは、複数のバックアップロールBR1を備えてもよい。バックアップロールBR1は、ワークロールWR1を支持して、圧延中のワークロールWR1のたわみを抑制する。
【0062】
タンデム圧延機CMを用いた連続圧延において、各圧延スタンドCMSを通過するときに当該圧延スタンドCMSで熱延鋼板を圧下することを、「1パス」圧下する、と称する。連続圧延とは、タンデム圧延機CMを用いて、複数回のパス数で圧下することを意味する。なお、タンデム圧延機CM中の全ての圧延スタンドCMSで熱延鋼板を圧下しなくてもよい。例えば、タンデム圧延機CM中に6台の圧延スタンドCMS~CMSが配列されている場合であって、圧延スタンドCMSでは熱延鋼板を圧下することなく通過させる場合、5パスの連続圧延を実施したことになる。
【0063】
[リバース圧延工程S32]
図3は、リバース圧延工程S32で用いられる多段圧延機の模式図である。図3を参照して、リバース圧延工程S32では、多段圧延機SMを用いて、タンデム圧延工程S31後の中間鋼板ST1に対して複数のパス数のリバース圧延を実施して、冷延鋼板ST2を製造する。
【0064】
多段圧延機は例えば、ゼンジミア圧延機である。多段圧延機SMは、一対のワークロールWR2と、複数のバックアップロールBR2とを備える。多段圧延機SMでは、複数のバックアップロールBR2で一対のワークロールWR2を支持することにより、ワークロールWR2のたわみを極力抑える。これにより、高い圧下を実現できる。
【0065】
ここで、中間鋼板ST1が多段圧延機SMを通過するときに中間鋼板ST1に対して圧下を付与したとき、1パスの圧下が実行されたことを意味する。リバース圧延の場合、中間鋼板ST1が上流から下流に進むときに圧下を行い、かつ、中間鋼板ST1が下流から上流に進むときにも圧下を行う。より具体的には、中間鋼板ST1が多段圧延機SMを上流から下流に通過するときに、中間鋼板ST1に対して1パスの圧下を付与する。また、中間鋼板ST1が同じ多段圧延機SMを下流から上流に通過するときにも、中間鋼板ST1に対して1パスの圧下を付与する。つまり、往復で圧下を行う場合、中間鋼板ST1に対して2パスの圧下が行われる。なお、中間鋼板ST1が多段圧延機SMを通過するときに、中間鋼板ST1に対して圧下を付与しない場合もある。
【0066】
冷間圧延工程S3では、以上のタンデム圧延工程S31及びリバース圧延工程S32を実施して、冷延鋼板を製造する。
【0067】
[冷間圧延工程S3での製造条件]
冷間圧延工程S3では、次の条件1~条件8を満たす。
(タンデム圧延工程S31の条件)
条件1:タンデム圧延機CMを用いて、複数のパス数の連続圧延を実施する。
条件2:ワークロールWR1の平均直径D1を200mm以上とする。
条件3:累積圧下率CR1を30~87%とする。
(リバース圧延工程S32の条件)
条件4:多段圧延機SMを用いて、複数のパス数のリバース圧延を実施する。
条件5:タンデム圧延工程後に熱処理が施されていない中間鋼板を圧延対象とする。
条件6:ワークロールWR2の平均直径D2を100mm以下とする。
条件7:累積圧下率CR2を24~86%とする。
(冷間圧延工程S3全体の条件)
条件8:冷間圧延工程S3全体での累積圧下率CR0を90%以上とする。
以下、条件1~条件8について説明する。
【0068】
[タンデム圧延工程S31の条件]
[条件1について]
タンデム圧延工程S31では、上述のタンデム圧延機CMを用いて、複数のパス数の連続圧延を実施して、中間鋼板ST1を製造する。上述のとおり、タンデム圧延では、リバース圧延と比較して、ロール径の大きいロールを用いて圧下することができる。そのため、リバース圧延と比較して、鋼板に付与される剪断歪みを抑えることができる。その結果、仕上焼鈍工程において、ゴス方位結晶粒のサイズをなるべく抑えることができる。そのため、方向性電磁鋼板において、十分な磁束密度が得られるだけでなく、方向性電磁鋼板のコイルの最外周部分の磁束密度と最内周部分の磁束密度との差を小さくすることができる。つまり、方向性電磁鋼板の磁束密度のばらつきを抑えることができる。
【0069】
[条件2について]
タンデム圧延において、各パスで用いる複数のワークロールの平均直径D1を200mm以上とする。後述のリバース圧延工程で用いる多段圧延機(ゼンジミア圧延機)では、ワークロールのたわみを抑えるために、ワークロールの直径を100mm以下に抑え、そのワークロールを複数のバックアップロールで支持する。多段圧延機では、このような一対のワークロールと、そのワークロールを支える複数のバックアップロールとの組合せにより、高い圧力を発揮する。しかしながら、ワークロールの直径が小さいため、ゼンジミア圧延機を用いた圧延では、圧延する鋼板に付与される剪断歪みが大きい。
【0070】
上述のとおり、付与される剪断歪みが大きい場合、冷延鋼板の表層においてαファイバ方位群が発達する。αファイバ方位群が発達すると、二次再結晶発現直前までの粒成長によって、二次再結晶の核となるゴス方位粒が減少する。そのため、二次再結晶粒が粗大化する。その結果、方向性電磁鋼板の磁気特性が低くなったり、磁気特性がばらついたりする。
【0071】
本実施形態では、冷間圧延の一部にタンデム圧延を採用し、かつ、各パスで用いる複数のワークロールの平均直径D1を200mm以上とする。この場合、冷間圧延時に鋼板の表層に付与される剪断歪み量を低減できる。この場合、冷間圧延時において、αファイバ方位群よりも、γファイバ方位群が安定化する。そのため、冷延鋼板の表層ではαファイバ方位群が抑制され、γファイバ方位群が残存する。γファイバ方位群は、一次再結晶発現時に{111}再結晶粒を生成する。仕上焼鈍工程において、{111}再結晶粒は、二次再結晶発現前のゴス方位粒の他の結晶粒による蚕食を抑制する。そのため、二次再結晶後のゴス方位への集積度を高めることができる。その結果、方向性電磁鋼板の磁気特性を高めることができ、かつ、磁気特性のばらつきも抑制できる。
【0072】
平均直径D1は、各パスで利用した複数の一対のワークロールの各々の直径(mm)の算術平均値とする。
【0073】
平均直径D1の好ましい下限は250mmであり、さらに好ましくは300mmであり、さらに好ましくは325mmであり、さらに好ましくは350mmである。
平均直径D1の好ましい上限は1000mmであり、さらに好ましくは900mmであり、さらに好ましくは800mmであり、さらに好ましくは700mmであり、さらに好ましくは650mmである。
【0074】
[条件3について]
タンデム圧延工程での累積圧下率CR1を、30~87%とする。ここで、累積圧下率CR1(%)は次の式(1)で定義される。
CR1=(タンデム圧延工程前の熱延鋼板の板厚-タンデム圧延工程後の中間鋼板の板厚)/タンデム圧延工程前の熱延鋼板の板厚×100 (1)
【0075】
累積圧下率CR1が30%未満であれば、タンデム圧延工程での圧下が不足している。この場合、リバース圧延工程での圧下量が多くなる。そのため、冷延鋼板に付与される剪断歪み量が過剰に多くなる。そのため、二次再結晶後のゴス方位の集積度が低くなる。その結果、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。
一方、累積圧下率CR1が87%を超えれば、リバース圧延工程での圧下量が少なすぎる。この場合、冷延鋼板に付与される剪断歪み量が過少になる。剪断歪みが過少であれば、ゴス方位の一次再結晶起源となる剪断帯と呼ばれる不均一変形領域が減少する。そのため、二次再結晶核(ゴス方位粒)が減少する。その結果、方向性電磁鋼板の磁気特性のばらつきが発生する。
したがって、累積圧下率CR1を30~87%とする。
累積圧下率CR1の好ましい下限は35%であり、さらに好ましくは40%であり、さらに好ましくは45%である。
累積圧下率CR1の好ましい上限は85%であり、さらに好ましくは80%であり、さらに好ましくは75%である。
【0076】
[リバース圧延工程S32の条件]
[条件4について]
リバース圧延工程S32では、多段圧延機SMを用いて、タンデム圧延工程S31後に熱処理が施されていない中間鋼板ST1に対して複数のパス数のリバース圧延を実施して、冷延鋼板を製造する。多段圧延機SMを用いたリバース圧延では、タンデム圧延と比較して、鋼板に対して高い圧下を付与することができる。そのため、冷延鋼板を薄くすることができる。
【0077】
[条件5について]
リバース圧延工程S32での圧延対象は、タンデム圧延工程S31後に熱処理が施されていない中間鋼板とする。つまり、リバース圧延工程S32では、タンデム圧延まま材である中間鋼板を圧延対象とする。ここで、「熱処理」とは、500℃以上の温度に鋼板を加熱及び/又は所定時間保持する処理を意味する。熱処理は例えば、焼鈍である。
【0078】
タンデム圧延工程S31により製造された中間鋼板ST1に対して、焼鈍等の熱処理を実施した場合、中間鋼板ST1内の回復・再結晶が進行し、冷間圧延によって導入されるトータル歪が減少する。この場合、リバース圧延工程S32後の累積圧下率CR0が90%以上であっても、方向性電磁鋼板の磁気特性が劣化する。中間鋼板ST1に対して熱処理が実施された場合、上述のとおり歪が減少し、その結果、鋼板中心層での、一次再結晶集合組織が劣化するためである。具体的には、鋼板中心層は、熱間圧延工程S1で形成されたαファイバ方位群を継承する。リバース圧延工程S32後も、鋼板中心層でのαファイバ方位群は、鋼板表層と比較して顕著に発達している。このαファイバ方位群の再結晶を促進するためには、90%以上の累積圧下率CR0が必要である。
【0079】
中間鋼板ST1に焼鈍等の熱処理を実施した場合、累積圧下率CR0が90%以上であっても、鋼板中心層のαファイバ方位群の再結晶を促進することが出来ない。鋼板中心層のαファイバ方位群の再結晶が十分に促進されない場合、鋼板中心層において{411}<148>再結晶方位が減少する。{411}<148>再結晶方位は、ゴス方位とΣ9の対応方位関係にあり、ゴス方位の二次再結晶を促進する。
【0080】
[条件6について]
多段圧延機を用いたリバース圧延において、各パスで用いる複数のワークロールWR2の平均直径D2を100mm以下とする。平均直径D2が100mmを超えれば、リバース圧延される中間鋼板ST1に対して十分な圧下を付与することができない。この場合、中間鋼板ST1に対して十分なせん断歪みを付与できない。
平均直径D2が100mm以下であれば、リバース圧延される中間鋼板ST1に対して各パスごとに十分なせん断歪みを付与できる。その結果、ゴス方位の一次再結晶起源となる剪断帯を十分に形成でき、脱炭焼鈍工程S4において、ゴス方位粒が十分な量生成する。
【0081】
1台の多段圧延機SMを用いてリバース圧延を実施する場合、平均直径D1は、各パスで利用した一対のワークロールの各々の直径(mm)の算術平均値とする。複数台の多段圧延機SMを用いてリバース圧延を実施する場合、平均直径D2は、各パスで利用した複数の一対のワークロールの各々の直径(mm)の算術平均値とする。
【0082】
平均直径D2の好ましい上限は95mmであり、さらに好ましくは90mmであり、さらに好ましくは85mmである。
平均直径D2の下限は特に限定されない。平均直径D2の好ましい下限は50mmであり、さらに好ましくは55mmであり、さらに好ましくは60mmである。
【0083】
[条件7について]
リバース圧延工程S32での累積圧下率CR2を、24~86%とする。ここで、累積圧下率CR2(%)は次の式(2)で定義される。
CR2=(リバース圧延工程前の中間鋼板の板厚の冷延鋼板の板厚-リバース圧延工程後の冷延鋼板の板厚)/リバース圧延工程前の中間鋼板の板厚×100 (2)
【0084】
累積圧下率CR2が24%未満であれば、リバース圧延工程での圧下が不足している。この場合、ゴス方位の一次再結晶起源となる剪断帯が不足し、後工程の脱炭焼鈍工程S4において、一次再結晶で生成するゴス方位粒の核が十分な量生成しない。そのため、二次再結晶後のゴス方位の集積度が低くなる。その結果、方向性電磁鋼板の磁気特性が低下する。
一方、累積圧下率CR2が86%を超えれば、付与される剪断歪みが大きくなり、冷延鋼板の表層においてαファイバ方位群が発達する。αファイバ方位群が発達すると、仕上焼鈍工程S5において、二次再結晶発現直前までの粒成長によって、二次再結晶の核となるゴス方位粒が減少する。そのため、二次再結晶粒が粗大化する。その結果、方向性電磁鋼板の磁気特性が低くなったり、磁気特性がばらついたりする。
したがって、累積圧下率CR2を24~86%とする。
【0085】
累積圧下率CR2の好ましい下限は30%であり、さらに好ましくは35%であり、さらに好ましくは40%である。
累積圧下率CR2の好ましい上限は80%であり、さらに好ましくは75%であり、さらに好ましくは70%である。
【0086】
[条件8について]
冷間圧延工程S3(タンデム圧延工程S31及びリバース圧延工程S32)全体での累積圧下率CR0を90%以上とする。ここで、累積圧下率CR0(%)は次の式(3)で定義される。
CR0=(タンデム圧延工程前の熱延鋼板の板厚-リバース圧延工程後の冷延鋼板の板厚)/タンデム圧延工程前の熱延鋼板の板厚×100 (3)
【0087】
累積圧下率CR0が90%未満であれば、冷間圧延工程での圧下が不足している。この場合、冷延鋼板に蓄積されるトータル歪量が少なく、方向性電磁鋼板の磁気特性が劣化する。これは、累積圧下率CR0が85%未満であれば、冷延鋼板に蓄積されるトータル歪量が小さすぎ、その結果、鋼板中心層での一次再結晶集合組織が劣化することによる。具体的には、鋼板中心層は、熱延工程において形成されたαファイバ方位群を継承する。そのため、リバース圧延工程S32後も、鋼板中心層でのαファイバ方位群は、鋼板表層と比較して、顕著に発達している。このαファイバ方位群の再結晶を促進するためには、90%以上の累積圧下率CR0が必要である。
【0088】
中間鋼板ST1に焼鈍等の熱処理を実施した場合、累積圧下率CR0が90%以上であっても、鋼板中心層のαファイバ方位群の再結晶を促進することが出来ない。鋼板中心層のαファイバ方位群の再結晶が促進出来ない場合、鋼板中心層において{411}<148>再結晶方位が減少する。この{411}<148>再結晶方位は、ゴス方位とΣ9の対応方位関係にあり、ゴス方位の二次再結晶を促進する役割がある。
したがって、累積圧下率CR0を90%以上とする。
【0089】
累積圧下率CR0の好ましい下限は91%であり、さらに好ましくは92%であり、さらに好ましくは93%である。
累積圧下率CR0の好ましい上限は97%であり、さらに好ましくは95%である。
【0090】
冷間圧延工程S3では、上述の条件1~条件8を満たすように、タンデム圧延及びリバース圧延を実施して、鋼板表層の剪断歪量を制御した冷延鋼板を製造する。この冷延鋼板を用いて後工程を実施することにより、磁束密度のばらつきが抑制された方向性電磁鋼板を製造することができる。
【0091】
[脱炭焼鈍工程S4]
脱炭焼鈍工程S4では、冷間圧延工程S3後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍を実施して一次再結晶を発現させる。
【0092】
脱炭焼鈍工程S4は次の工程を含む。
・昇温工程S41
・脱炭工程S42
・冷却工程S43
【0093】
昇温工程S41では、鋼板を750℃~950℃までの任意の温度(到達温度)まで加熱する。脱炭工程S42では、鋼板を750℃~950℃の脱炭焼鈍温度で保持して脱炭焼鈍を実施し、一次再結晶を発現させる。冷却工程S43では、脱炭工程S42後の鋼板を周知の方法で冷却する。なお、到達温度と脱炭焼鈍温度は、同じ温度であってもよいし、到達温度の方が脱炭焼鈍温度よりも高くてもよい。
【0094】
本実施形態では、昇温工程S41において、鋼板の再結晶温度域に相当する550℃~750℃の温度域での平均昇温速度HRを顕著に速くする。これにより、ゴス方位の再結晶を促進する。これにより、二次再結晶後のゴス方位への集積度を高めることがきる。その結果、方向性電磁鋼板の磁気特性を高めることができ、かつ、磁気特性のばらつきも抑制できる。
【0095】
以下、各工程の詳細を説明する。
【0096】
[昇温工程S41]
昇温工程S41では、始めに、冷間圧延工程(S3)後の冷延鋼板を熱処理炉に装入する。本実施形態における脱炭焼鈍用の熱処理炉では、例えば、高周波誘導加熱、通電加熱により、冷延鋼板を750℃~950℃の任意の温度まで昇温する。昇温工程S41は次の条件9を満たす。
条件9:550℃~750℃の範囲での平均昇温速度HR:100℃/秒以上
【0097】
[条件9について]
昇温工程S41において、冷延鋼板の温度が550℃~750℃の範囲での昇温速度の平均を、平均昇温速度HR(℃/秒)と定義する。
【0098】
上述のとおり、冷延鋼板には歪が蓄積されている。平均昇温速度HRが100℃/秒未満であれば、再結晶の駆動力となる歪エネルギーが、再結晶が開始される前に解放されてしまう。この場合、一次再結晶後の冷延鋼板(つまり、脱炭焼鈍工程後の冷延鋼板)に十分な量のゴス方位粒を生成することができない。
【0099】
平均昇温速度HRが100℃/秒以上であれば、冷延鋼板に歪エネルギーが十分に蓄積した状態で、一次再結晶が発現する。そのため、一次再結晶後の冷延鋼板に十分な量のゴス方位粒を生成できる。そのため、後工程の仕上焼鈍工程S5において、二次再結晶発現時にゴス方位粒が多く残存する。そのため、二次再結晶後のゴス方位への集積度を高めることができる。その結果、方向性電磁鋼板の磁気特性を高めることができ、かつ、磁気特性のばらつきも抑制できる。
【0100】
なお、平均昇温速度HRの上限は特に限定されない。しかしながら、平均昇温速度HRを2000℃/秒よりも速くしても、上記効果は飽和する。したがって、平均昇温速度HRの上限は、2000℃/秒である。
【0101】
平均昇温速度HRの好ましい下限は150℃/秒であり、さらに好ましくは200℃/秒であり、さらに好ましくは300℃/秒であり、さらに好ましくは400℃/秒であり、さらに好ましくは500℃/秒であり、さらに好ましくは600℃/秒であり、さらに好ましくは700℃/秒であり、さらに好ましくは800℃/秒であり、さらに好ましくは900℃/秒である。
【0102】
平均昇温速度HRは次の方法により測定する。熱処理炉内には、鋼板の表面温度を測定するための複数の測温計が設置されている。複数の測温計は、熱処理炉の上流から下流に向かって配列されている。測温計により測定された鋼板の温度と、鋼板温度が550℃から750℃に上昇するまでに掛かった時間とに基づいて、平均昇温速度HRを求める。
【0103】
[脱炭工程S42]
脱炭工程S42では、昇温工程S41後の冷延鋼板を脱炭焼鈍温度Taで保持して、脱炭焼鈍を実施する。これにより、冷延鋼板に一次再結晶を発現させる。脱炭工程中の雰囲気は、周知の雰囲気で足り、例えば、水素及び窒素を含有する湿潤窒素水素混合雰囲気である。脱炭焼鈍を実施することにより、鋼板中の炭素が鋼板から除去され、一次再結晶が発現する。脱炭焼鈍温度Ta及び脱炭焼鈍温度Taでの保持時間は特に限定されない。脱炭焼鈍温度Taは例えば、800~950℃である。脱炭焼鈍温度Taでの保持時間は例えば、15~150秒である。
【0104】
[冷却工程S43]
冷却工程S43では、脱炭工程S42後の冷延鋼板を周知の方法で常温まで冷却して、脱炭焼鈍鋼板とする。冷却方法は放冷であってもよいし、水冷であってもよい。好ましくは、脱炭工程S42後の冷延鋼板を放冷する。以上の工程により脱炭焼鈍工程(S4)では、脱炭焼鈍鋼板を製造する。
【0105】
[仕上焼鈍工程S5]
仕上焼鈍工程S5では、脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布し、焼鈍分離剤が塗布された脱炭焼鈍鋼板に対して仕上焼鈍を実施して、仕上焼鈍鋼板を製造する。
仕上焼鈍工程S5は、次の工程を含む。
・焼鈍分離剤塗布工程S51
・焼鈍工程S52
以下、各工程について説明する。
【0106】
[焼鈍分離剤塗布工程S51]
焼鈍分離剤塗布工程S51では、脱炭焼鈍鋼板に焼鈍分離剤を塗布する。具体的には、脱炭焼鈍鋼板に、焼鈍分離剤を含有する水性スラリーを塗布する。水性スラリーは、焼鈍分離剤に水を加えて攪拌して作製する。焼鈍分離剤は、酸化マグネシウム(MgO)を含有する。好ましくは、MgOは焼鈍分離剤の主成分である。ここで、「主成分」とは、焼鈍分離剤中のMgO含有量が、質量%で60.0%以上であることを意味する。焼鈍分離剤は、MgO以外に、周知の添加剤を含有してもよい。
【0107】
焼鈍分離剤塗布工程S51では、脱炭焼鈍鋼板の表面上に水性スラリーの焼鈍分離剤を塗布する。表面に焼鈍分離剤が塗布された鋼板を巻取り、コイル状にする。鋼板をコイル状にした後、焼鈍工程S52を実施する。
【0108】
[焼鈍工程S52]
焼鈍分離剤塗布工程S51後の鋼板に対して、焼鈍工程S52を実施して、二次再結晶を発現させる。仕上焼鈍工程(S5)は、コイル状の鋼板を熱処理炉内に装入して実施する。焼鈍工程S52での製造条件は例えば、次のとおりである。なお、焼鈍工程S52における炉内雰囲気は、周知の雰囲気である。
【0109】
仕上焼鈍温度:1000~1300℃
仕上焼鈍温度での保持時間:5~60時間
仕上焼鈍温度が1000℃未満であれば、十分な二次再結晶が発現せず、また二次再結晶に用いた析出物を除去する純化が十分ではない。そのため、製造された方向性電磁鋼板の磁気特性が低くなる。一方、仕上焼鈍温度が1300℃を超えても二次再結晶、純化に対する効果が低いとともに、鋼板の変形などの問題が生じる。仕上焼鈍温度が1000~1300℃であれば、上記保持時間が適切であることを前提として、十分な二次再結晶が発現して、磁気特性が高まる。さらに、鋼板表面上にフォルステライトを含有する一次被膜が形成される。
以上の製造工程により、仕上焼鈍工程S5では、仕上焼鈍鋼板を製造する。
【0110】
なお、仕上焼鈍工程S5により、鋼板の化学組成の各元素が鋼板中からある程度取り除かれる。特に、インヒビターとして機能するS、Al、N等は大幅に取り除かれる。また、仕上焼鈍工程S5後の方向性電磁鋼板の表面には、フォルステライトを含有する一次被膜が形成されている。
【0111】
[絶縁皮膜形成工程S6]
絶縁皮膜形成工程S6では、仕上焼鈍鋼板に絶縁皮膜形成液を塗布し、絶縁皮膜形成液が塗布された仕上焼鈍鋼板に対して熱処理を実施して、仕上焼鈍鋼板に絶縁皮膜を形成する。
【0112】
具体的には、仕上焼鈍鋼板の表面(一次被膜上)に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする周知の絶縁皮膜形成液を塗布する。そして、絶縁皮膜形成液が塗布された仕上焼鈍鋼板に対して、焼付けを実施する。これにより、一次被膜上に、周知の絶縁皮膜が形成される。
【0113】
[その他の任意の工程]
[窒化処理工程]
本実施形態による方向性電磁鋼板1の製造方法はさらに、必要に応じて、脱炭焼鈍工程後であって、仕上焼鈍工程前に、窒化処理工程を実施してもよい。窒化処理工程は周知の条件で実施すればよい。好ましい窒化処理条件は例えば、次のとおりである。
窒化処理温度:700~850℃
窒化処理炉内の雰囲気(窒化処理雰囲気):水素、窒素、及びアンモニア等の窒化能を有するガスを含有する雰囲気
【0114】
窒化処理温度が700℃以上、又は、窒化処理温度が850℃以下であれば、窒化処理時に窒素が鋼板中に侵入しやすい。この温度範囲内にて窒化処理を行えば、鋼板内部で窒素量を好ましく確保できる。そのため、二次再結晶前の鋼板中に微細AlNが好ましく形成される。その結果、仕上焼鈍時に二次再結晶が好ましく発現する。なお、窒化処理温度にて鋼板を保持する時間は特に限定されないが、例えば、10~60秒である。
【0115】
[磁区細分化処理工程]
本実施形態による方向性電磁鋼板はさらに、必要に応じて、仕上焼鈍工程S5又は絶縁皮膜形成工程S6後に、磁区細分化処理工程を実施してもよい。磁区細分化処理工程では、方向性電磁鋼板の表面に、磁区細分化効果のあるレーザ光を照射したり、表面に溝を形成したりする。この場合、さらに磁気特性に優れる方向性電磁鋼板が製造できる。
【0116】
[製造工程のまとめ]
以上のとおり、本実施形態の製造方法では、冷間圧延工程S3において、条件1~条件8を満たすことにより、冷延鋼板中の鋼板表層のαファイバ方位群の発達を抑制し、γファイバ方位群を十分な量残存させる。そして、当該冷延鋼板に対して、条件9を満たす脱炭焼鈍工程S4を実施する。これらにより、脱炭焼鈍工程S4において、一次再結晶発現後の脱炭焼鈍鋼板の鋼板表層では、十分な量の微細ゴス方位粒とともに、十分な量の{111}再結晶群が生成する。
【0117】
仕上焼鈍工程S5において、{111}再結晶群は、二次再結晶が発現する前に、微細ゴス方位粒以外の他の結晶粒が粗大化するのを抑制する。そのため、他の結晶粒が粗大化してゴス方位粒を蚕食するのを抑制できる。その結果、十分な量のゴス方位粒が二次再結晶し、ゴス方位の集積度を高めることができる。その結果、方向性電磁鋼板の磁束密度を高めることができる。
【0118】
さらに、十分な量のゴス方位粒が二次再結晶するため、二次再結晶粒(ゴス方位粒)の大径化を抑制することができる。二次再結晶後のゴス方位粒の粒径を抑制することにより、コイル状の鋼板の集合組織において、ゴス方位からのばらつき、具体的には、各結晶粒の圧延方向に平行な<100>方位からのズレを抑えることができる。そのため、コイル状の方向性電磁鋼板の外周近傍部分と内周近傍部分での磁束密度のばらつきを抑えることができる。
【0119】
なお、本実施形態の製造方法では、熱延板焼鈍工程S2後、冷間圧延工程S3を実施するまでの期間である仕掛かり時間が長くなっても、製造される方向性電磁鋼板において、十分に高い磁束密度が得られ、かつ、方向性電磁鋼板の外周近傍部分と内周近傍部分での磁束密度のばらつきを抑えることができる。また、仕掛かり時間が長くなった場合と同様に、冷間圧延工程S3での脆性割れの発生を抑制するために、焼鈍処理を実施した場合であっても、製造される方向性電磁鋼板において、十分に高い磁束密度が得られ、かつ、方向性電磁鋼板の外周近傍部分と内周近傍部分での磁束密度のばらつきを抑えることができる。
【0120】
以下に、本発明の態様を実施例により具体的に説明する。これらの実施例は、本実施形態の方向性電磁鋼板の製造方法の効果を確認するための一例であり、本発明を限定するものではない。
【実施例0121】
実施例1では、上述の製造工程中の条件1~条件9を変化させて、方向性電磁鋼板を製造した。
【0122】
具体的には、化学組成が、質量%で、C:0.08%、Si:3.3%、Mn:0.08%、S:0.02%、sol.Al:0.03%、N:0.01%を含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
【0123】
表1-1及び表1-2に示す各試験番号のスラブに対して、熱間圧延工程S1を実施した。具体的には、各試験番号のスラブを加熱炉で1340℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延を実施して、板厚1.8~3.5mmの熱延鋼板を製造した。
【0124】
熱間圧延工程後の熱延鋼板に対して、900~1200℃の熱延板焼鈍温度で、保持時間10~300秒の熱延板焼鈍工程S2を実施した。熱延板焼鈍工程S2後、冷間圧延工程S3を実施して、板厚が0.22mmの冷延鋼板を製造した。具体的には、第1冷間圧延工程を実施した後、第2冷間圧延工程を実施した。条件1~条件9は表1-1及び表1-2に示すとおりであった。
【0125】
【表1-1】
【0126】
【表1-2】
【0127】
具体的には、表1-1中の「第1冷間圧延工程」欄の「条件1」欄の「リバース」は、第1冷間圧延工程として、リバース圧延工程を実施したことを意味する。「タンデム」は、第1冷間圧延工程として、タンデム圧延工程を実施したことを意味する。
【0128】
表1-1中の「第1冷間圧延工程」欄の「条件2」欄には、各パスで用いたワークロールの平均直径D1(mm)が記載されている。表1-1中の「第1冷間圧延工程」欄の「条件3」には、第1冷間圧延工程での累積圧下率CR1(%)が記載されている。
【0129】
表1-1中の「第2冷間圧延工程」欄の「条件4」欄の「リバース」は、第2冷間圧延工程として、リバース圧延工程を実施したことを意味する。「タンデム」は、第2冷間圧延工程として、タンデム圧延工程を実施したことを意味する。「-」は第2冷間圧延工程を実施しなかったことを意味する。
【0130】
表1-1中の「第2冷間圧延工程」欄の「条件5」欄には、圧延対象となる冷延鋼板が熱処理されたものか否かを表示する。「無し」は、焼鈍されてない、圧延まま材の冷延鋼板を第2冷間圧延工程の圧延対象としたことを意味する。「有り」は、焼鈍された冷延鋼板を第2冷間圧延工程の圧延対象としたことを意味する。なお、焼鈍では、冷延鋼板を1100℃で80秒保持した。
【0131】
表1-1中の「第2冷間圧延工程」欄の「条件6」欄には、各パスで用いたワークロールの平均直径D2(mm)が記載されている。表1-1中の「第2冷間圧延工程」欄の「条件7」には、第2冷間圧延工程での累積圧下率CR2(%)が記載されている。
【0132】
表1-1中の「条件8」欄には、冷間圧延工程S3全体の累積圧下率CR0(%)が記載されている。
【0133】
冷間圧延工程S3後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程S4を実施した。具体的には、870℃の到達温度まで昇温した後、830℃の脱炭焼鈍温度で80秒保持した。その後、冷延鋼板を常温まで放冷して、脱炭焼鈍鋼板とした。なお、昇温時において、550℃から750℃になるまでの間の平均昇温速度HRは、表1-2中の「脱炭焼鈍工程4」の「条件9」欄に記載のとおりとした。
【0134】
脱炭焼鈍鋼板の表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した。その後、焼鈍分離剤を塗布した脱炭焼鈍鋼板をコイル状に巻き取った。以下、コイル状の鋼板を、単に「コイル」ともいう。コイルの内周の曲率半径を250mmとし、コイルの外周の曲率半径は850mmとした。
【0135】
コイルに対して仕上焼鈍を実施して、仕上焼鈍鋼板を製造した。仕上焼鈍での仕上焼鈍温度を1100℃~1200℃とし、仕上焼鈍温度での保持時間を5~30時間とした。
【0136】
仕上焼鈍工程S5後の鋼板に対して、絶縁皮膜形成工程S6を実施した。具体的には、各試験番号の仕上焼鈍鋼板の表面に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁皮膜形成液を塗布した。その後、絶縁皮膜形成液が塗布された仕上焼鈍鋼板に対して、同じ条件で焼付けを実施し、一次被膜上に、絶縁皮膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号のコイル状の方向性電磁鋼板を製造した。
【0137】
[評価試験]
製造した各試験番号の方向性電磁鋼板のうち、仕上焼鈍時のコイル最内周部分、及び、最外周部分から試験片を採取した。試験片のサイズは、60mm×300mm×板厚とした。以下、コイル最内周部分の試験片を「内周部試験片」、コイル最外周部分の試験片を「外周部試験片」という。
【0138】
内周部試験片及び外周部試験片の磁束密度B8を、JIS C2556:2015に準拠して求めた。さらに、次式により、磁束密度差ΔBを求めた。
ΔB=外周部試験片の磁束密度B8-内周部試験片の磁束密度B8
【0139】
[評価結果]
得られた磁束密度B8を表1-2に示す。
試験番号3~6、8~16、18~23、25~33、42及び43では、条件1~9が適切であった。そのため、内周部試験片及び外周部試験片のいずれにおいても、磁束密度B8が1.911T以上であった。さらに、ΔBは0.006T以下であり、磁束密度のばらつきが少なかった。
【0140】
一方、試験番号1では、第2冷間圧延工程を実施しなかった。そのため、内周部試験片及び外周部試験片の磁束密度B8が低かった。さらに、ΔBが0.006Tを超え、磁束密度のばらつきが大きかった。
【0141】
試験番号2では、条件2を満たさなかった。そのため、内周部試験片及び外周部試験片の磁束密度B8が低かった。さらに、ΔBが0.006T以上であり、磁束密度のばらつきが大きかった。
【0142】
試験番号7及び24では、条件8を満たさなかった。そのため、ゴス方位への集積度が低かった。その結果、内周部試験片及び外周部試験片の磁束密度B8がいずれも低かった。
【0143】
試験番号17では、条件3の下限を満たさなかった。条件7が上限を超えた。そのため、内周部試験片及び外周部試験片の磁束密度B8が低かった。さらに、ΔBが0.006Tを超え、磁束密度のばらつきが大きかった。
【0144】
試験番号34では、条件3の上限を満たさなかった。そのため、条件7が下限未満となった。そのため、ゴス方位への集積度が低かった。その結果、内周部試験片及び外周部試験片の磁束密度B8がいずれも低かった。さらに、ΔBが0.006Tを超えであり、磁束密度のばらつきが大きかった。
【0145】
試験番号35~39では、リバース圧延工程の圧延対象を、熱処理された中間鋼板とした。そのため、ゴス方位への集積度が低かった。その結果、内周部試験片及び外周部試験片の磁束密度B8がいずれも低く、ΔBが0.006Tを超える場合もあった。
【0146】
試験番号40及び41では、条件9を満たさなかった。そのため、ゴス方位への集積度が低かった。その結果、内周部試験片及び外周部試験片の磁束密度B8がいずれも低かった。さらに、ΔBが0.006Tを超え、磁束密度のばらつきが大きかった。
【実施例0147】
実施例2では、種々の化学組成を有するスラブを用いて、方向性電磁鋼板を製造した。具体的には、表2-1、表2-2に示す化学組成を有するスラブを準備した。
【0148】
【表2-1】
【0149】
【表2-2】
【0150】
表2-1中の元素含有量の「-」は、対応する元素含有量において、上述の実施形態で規定の有効数字(最小桁までの数値)での端数を四捨五入した場合に0%であることを意味する。例えば、本実施形態で規定されたCr含有量は小数第二位までの数値で規定されている。したがって、表2-1中の試験番号1では、測定されたCr含有量が、小数第三位で四捨五入した場合に、0%であったことを意味する。また、本実施形態で規定されたSn含有量は小数第二位までの数値で規定されている。したがって、表2-1中の試験番号1では、測定されたSn含有量が、小数第三位で四捨五入した場合に、0%であったことを意味する。
なお、四捨五入とは、規定された最小桁の下の桁(端数)が5未満であれば切り捨て、5以上であれば切り上げることを意味する。
【0151】
表2-1及び表2-2に記載の各試験番号のスラブに対して熱間圧延工程S1を実施した。具体的には、各試験番号のスラブを加熱炉で1340℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。
【0152】
熱間圧延工程後の熱延鋼板に対して、900~1200℃の熱延板焼鈍温度で、保持時間10~300秒の熱延板焼鈍工程S2を実施した。
【0153】
熱延板焼鈍工程S2後、冷間圧延工程S3を実施して、板厚が0.22mmの冷延鋼板を製造した。具体的には、初めに、熱延鋼板に対して、タンデム圧延工程S31を実施して中間鋼板を製造した。タンデム圧延工程では5パスの圧下を実施した。タンデム圧延でのワークロールの平均直径D1は500mmであり、累積圧下率CR1は60%であった。中間鋼板に対して熱処理を施すことなく、リバース圧延工程を実施した。リバース圧延工程では3パスの圧下を実施した。リバース圧延工程でのワークロールの平均直径は70mmであり、累積圧下率CR2は76%であった。冷間圧延工程S3全体の累積圧下率CR0は90%であった。
【0154】
冷間圧延工程S3後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程S4を実施した。具体的には、850℃の到達温度まで昇温した後、830℃の脱炭焼鈍温度で80秒保持した。その後、冷延鋼板を常温まで放冷して、脱炭焼鈍鋼板とした。なお、昇温時において、550℃から750℃になるまでの間の平均昇温速度HRは1300℃/秒であった。
【0155】
脱炭焼鈍鋼板の表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した。その後、焼鈍分離剤を塗布した脱炭焼鈍鋼板をコイル状に巻き取った。以下、コイル状の鋼板を、単に「コイル」ともいう。コイルの内周の曲率反映は250mmとし、コイルの外周の曲率半径は850mmとした。
【0156】
コイルに対して仕上焼鈍を実施して、仕上焼鈍鋼板を製造した。仕上焼鈍での仕上焼鈍温度を1100℃~1200℃とし、仕上焼鈍温度での保持時間を5~30時間とした。
【0157】
仕上焼鈍工程S5後の鋼板に対して、絶縁皮膜形成工程S6を実施した。具体的には、各試験番号の仕上焼鈍鋼板の表面に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁皮膜形成液を塗布した。その後、絶縁皮膜形成液が塗布された仕上焼鈍鋼板に対して、同じ条件で焼付けを実施し、一次被膜上に、絶縁皮膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号のコイル状の方向性電磁鋼板を製造した。
【0158】
[評価試験]
実施例1と同様に、各試験番号のコイル状の方向性電磁鋼板から、内周部試験片及び外周部試験片を採取した。そして、内周部試験片及び外周部試験片の磁束密度B8を、JIS C2556:2015に準拠して求めた。さらに、磁束密度差ΔBを求めた。
【0159】
[試験結果]
評価結果を表2-2に示す。
試験番号1~15のいずれの方向性電磁鋼板においても、スラブの化学組成は適切であった。さらに、製造工程中の条件1~条件9も適切であった。そのため、内周部試験片及び外周部試験片のいずれにおいても、磁束密度B8が1.911T以上であった。さらに、ΔBは0.006T以下であり、磁束密度のばらつきが少なかった。
【実施例0160】
実施例3では、熱延板焼鈍工程S2完了後から冷間圧延工程S3を実施するまでの期間(仕掛時間)の影響、及び、冷間圧延工程S3前に焼鈍処理を実施した場合の焼鈍温度の影響について調査した。
【0161】
具体的には、化学組成が、質量%で、C:0.08%、Si:3.4%、Mn:0.08%、S:0.02%、sol.Al:0.03%、N:0.01%を含有し、残部がFe及び不純物であるスラブを準備した。
【0162】
表3-1及び表3-2に示す各試験番号のスラブに対して、熱間圧延工程S1を実施した。具体的には、各試験番号のスラブを加熱炉で1340℃に加熱した。加熱されたスラブに対して熱間圧延を実施して、板厚2.3mmの熱延鋼板を製造した。
【0163】
【表3-1】
【0164】
【表3-2】
【0165】
熱間圧延工程後の熱延鋼板に対して、900~1200℃の熱延板焼鈍温度で、保持時間10~300秒の熱延板焼鈍工程S2を実施した。
【0166】
熱延板焼鈍工程S2後、表3-2に示す仕掛日数(日)で熱延鋼板を屋内ヤードに載置した。仕掛日数経過後、試験番号7~14の試験番号の熱延鋼板に対して、冷間圧延工程S3を実施する直前に、表3-2に記載の焼鈍温度(℃)で焼鈍(熱処理)した。なお、試験番号1~6では熱延鋼板に対して焼鈍を実施しなかった。
その後、試験番号1~14の熱延鋼板に対して、冷間圧延工程S3を実施して、板厚0.19mmの冷延鋼板を製造した。具体的には、第1冷間圧延工程を実施した後、第2冷間圧延工程を実施した。条件1~条件4、条件6及び条件7は表3-1に示すとおりであった。
具体的には、表3-1中の「第1冷間圧延工程」欄の「条件1」欄の「リバース」は、第1冷間圧延工程として、リバース圧延工程を実施したことを意味する。「タンデム」は、第1冷間圧延工程として、タンデム圧延工程を実施したことを意味する。
【0167】
表3-1中の「第1冷間圧延工程」欄の「条件2」欄には、各パスで用いたワークロールの平均直径D1(mm)が記載されている。表3-1中の「第1冷間圧延工程」欄の「条件3」には、第1冷間圧延工程での累積圧下率CR1(%)が記載されている。
【0168】
表3-1中の「第2冷間圧延工程」欄の「条件4」欄の「リバース」は、第2冷間圧延工程として、リバース圧延工程を実施したことを意味する。「-」は第2冷間圧延工程を実施しなかったことを意味する。
【0169】
表3-1中の「第2冷間圧延工程」欄の「条件6」欄には、各パスで用いたワークロールの平均直径D2(mm)が記載されている。表3-1中の「第2冷間圧延工程」欄の「条件7」には、第2冷間圧延工程での累積圧下率CR2(%)が記載されている。表3-1中の「条件8」欄には、冷間圧延工程S3全体の累積圧下率CR0(%)が記載されている。
【0170】
なお、条件5については、いずれの試験番号においても、熱処理が施されていない中間鋼板を、第2冷間圧延工程の圧延対象とした。なお、条件1がリバース圧延である場合、3パスの圧下を実施した。条件1がタンデム圧延である場合、5パスの圧下を実施した。
【0171】
冷間圧延工程S3後の冷延鋼板に対して、脱炭焼鈍工程S4を実施した。具体的には、850℃の到達温度まで昇温した後、830℃の脱炭焼鈍温度で80秒保持した。その後、冷延鋼板を常温まで放冷して、脱炭焼鈍鋼板とした。なお、加熱時において、550℃から750℃になるまでの間の平均昇温速度HR(条件9)は1300℃/秒であった。
【0172】
脱炭焼鈍鋼板の表面にMgOを主成分とする焼鈍分離剤を塗布した。その後、焼鈍分離剤を塗布した脱炭焼鈍鋼板をコイル状に巻き取った。以下、コイル状の鋼板を、単に「コイル」ともいう。コイルの内周の曲率反映は250mmとし、コイルの外周の曲率半径は850mmとした。
【0173】
コイルに対して仕上焼鈍を実施して、仕上焼鈍鋼板を製造した。仕上焼鈍での仕上焼鈍温度を1100℃~1200℃とし、仕上焼鈍温度での保持時間を5~30時間とした。
【0174】
仕上焼鈍工程S5後の鋼板に対して、絶縁皮膜形成工程S6を実施した。具体的には、各試験番号の仕上焼鈍鋼板の表面に、コロイド状シリカ及びリン酸塩を主体とする絶縁皮膜形成液を塗布した。その後、絶縁皮膜形成液が塗布された仕上焼鈍鋼板に対して、同じ条件で焼付けを実施し、一次被膜上に、絶縁皮膜を形成した。以上の製造工程により、各試験番号のコイル状の方向性電磁鋼板を製造した。
【0175】
[評価試験]
実施例1と同様に、各試験番号のコイル状の方向性電磁鋼板から、内周部試験片及び外周部試験片を採取した。そして、内周部試験片及び外周部試験片の磁束密度B8を、JIS C2556:2015に準拠して求めた。さらに、磁束密度差ΔBを求めた。
【0176】
[試験結果]
評価結果を表3-2に示す。
【0177】
試験番号1~3、7~10では、条件1~条件9が適切であった。そのため、仕掛時間が1日以上であっても、また、第1冷間圧延工程前に焼鈍を実施しても、コイル内周、外周共に、優れた磁束密度B8が得られた。
【0178】
一方、試験番号4~6、11~14は、従来の冷間圧延工程を実施した。そのため、仕掛時間が1日以上の場合、コイル内周、外周共に、磁束密度B8が低かった。また、第1冷間圧延工程前に焼鈍を実施した場合も、コイル内周、外周共に、磁束密度B8が低かった。さらに、ΔBが0.006Tを超え、磁束密度のばらつきが大きかった。
【0179】
以上、本発明の実施の形態を説明した。しかしながら、上述した実施の形態は本発明を実施するための例示に過ぎない。したがって、本発明は上述した実施の形態に限定されることなく、その趣旨を逸脱しない範囲内で上述した実施の形態を適宜変更して実施することができる。
図1
図2
図3