(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155087
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】PtRu合金薄膜を備える積層構造
(51)【国際特許分類】
C25D 5/10 20060101AFI20231013BHJP
H01R 13/03 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C25D5/10
H01R13/03 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022064846
(22)【出願日】2022-04-09
(71)【出願人】
【識別番号】000228165
【氏名又は名称】EEJA株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000268
【氏名又は名称】オリジネイト弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】片倉 宏冶
(72)【発明者】
【氏名】岸田 貴範
(72)【発明者】
【氏名】菊池 量平
(72)【発明者】
【氏名】張 理▲か▼
(72)【発明者】
【氏名】山川 澄人
(72)【発明者】
【氏名】崔 秉雨
(72)【発明者】
【氏名】岩熊 啄也
【テーマコード(参考)】
4K024
【Fターム(参考)】
4K024AA03
4K024AA10
4K024AA11
4K024AA12
4K024AA14
4K024AA24
4K024AB02
4K024AB03
4K024AB19
4K024BA02
4K024BA09
4K024BB10
4K024CA01
4K024CA02
4K024CA03
4K024CA04
4K024CA06
4K024GA01
4K024GA03
4K024GA04
(57)【要約】
【課題】電子機器等のコネクタ類を保護するための貴金属層及びその積層構造に関し、耐摩耗性に優れる貴金属層を明らかにし、更に当該貴金属層の耐食性を最適化することができる積層構造を提供する。
【解決手段】本発明は、基材10、前記基材10の表面に形成された中間層11、中間層11の上に形成された貴金属層12で構成される積層構造である。そして、貴金属層12はPtRu合金薄膜からなり、中間層11はPt薄膜で構成される。PtRu合金薄膜からなる貴金属層12は高硬度で耐食性に優れ、中間層11としてPt薄膜を設けることでその耐食性が更に向上している。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、
前記基材表面の少なくとも一部に形成された中間層と、前記中間層上に形成された貴金属層とを含む積層構造であって、
前記貴金属層は、PtRu合金薄膜からなり、
前記中間層は、Pt薄膜からなる積層構造。
【請求項2】
PtRu合金薄膜は、2質量%以上20質量%以下のRuと、残部Pt及び不可避不純物とからなるPtRu合金よりなる請求項1記載の積層構造。
【請求項3】
PtRu合金薄膜は、ビッカース硬度が450Hv以上である請求項1又は請求項2記載の積層構造。
【請求項4】
基材と中間層との間に少なくとも一層の下地層を含み、
前記下地層は、Ni、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Au、Ag、Ag、Pd、Wの純金属又はこれらの金属の合金のいずれかよりなる請求項1又は請求項2記載の積層構造。
【請求項5】
基材は、Cu又はCu合金、Fe又はFe合金のいずれかよりなる請求項1又は請求項2記載の積層構造。
【請求項6】
請求項1又は請求項2記載の積層構造を有するコネクタ又は端子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種のコネクタ、端子の表面を構成する金属膜の積層構造に関する。詳しくは、中間層と貴金属層を含み、前記貴金属層としてPtRu合金からなる薄膜が適用された積層構造に関する。
【背景技術】
【0002】
電子・電子機器や半導体機器には、各種のコネクタ、端子が用いられている。これらコネクタ類には、導電性が確保されていると共に安定した接触信頼性が求められ、所定の積層構造を有するものが多い。積層構造を有するコネクタとしては、CuやCu合金等からなる基材にNi等の下地層を形成し、更にその上に貴金属層が形成されたものがある。貴金属層は、その下に位置する下地層及び基材の保護や、安定した通電確保のために形成される。特に、コネクタ類は、挿抜を繰り返しつつ使用することが前提となる為、相手側のコネクタとの間で摩擦が生じる。この摩擦による下地層や基材の露出するのを防ぐために貴金属層が形成されている。
【0003】
また、貴金属層は、環境遮断層として基材等の腐食を抑制するためにも必要である。スマートフォン等の電子機器のコネクタ類は、人体に触れる機会が多く、塩分や水分による腐食が懸念される。貴金属層は、化学的に安定な金属であることから、腐食抑制の保護層としても有用である。
【0004】
コネクタ類の基材上に形成され、保護層等として作用する上記の貴金属層としては、Auめっき膜の適用例がこれまで多かった。その後、比較的軟質なAuに替えて、PtやRhRu合金等の貴金属めっき膜が使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】実用新案登録第3211820号公報
【特許文献2】特開2005-256163号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
近年、スマートフォンやタブレット端末等の電子機器の大幅な普及やその小型化に伴い、それらのコネクタ類に適用される貴金属層を含む積層構造には、従来よりも高硬度で耐食性に優れたものの要求が増加している。そこで、本発明は、電子機器等のコネクタ類を保護するための貴金属層及びその積層構造について、耐摩耗性に優れる貴金属層を明らかにすると共に、この貴金属層の耐食性を最適化することができる積層構造を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等は、上記課題解決の検討に際して最初に貴金属層の最適化を行うこととし、その結果、貴金属層としてPtRu合金からなる薄膜の適用に想到した。Ruは貴金属の一種であり、Ptに対して高硬度の金属であることから、Ptへの合金化による高硬度化が期待される。また、Ruは、PtやRhに比べると低廉な貴金属であるので、Ruの合金化により貴金属層の低コスト化も期待できる。更に、RuもPtと同様に化学的にも安定であるので、PtRu合金めっき膜は耐食性にも優れることが予想される。そして、本発明者等は、Pt又はRuからなる貴金属膜は、成膜のためのめっき液の構成がそれぞれ公知であるので、それらを基にすればPtRu合金めっきの形成も可能であると予測した。
【0008】
もっとも、PtRu合金薄膜からなる貴金属層については、保護膜として実用例に関する報告は乏しい。そこで、本発明者等は、PtRu合金薄膜からなる貴金属層の形成の可否及びその諸特性についての詳細な検討を行った。その結果、本発明者等は、PtRu合金薄膜には、これまで知られているPt等の貴金属・貴金属合金薄膜に対して好適な硬度・耐摩耗性を有することを確認した。そして、PtRu合金薄膜は、それ自体の耐食性も良好であるが、基材又は下地層と貴金属層との間に最適な中間層を設定した積層構造とすることで、更なる高耐食性を発揮することを見出し、本発明に想到した。
【0009】
即ち、上記課題を解決する本発明は、基材と、前記基材表面の少なくとも一部に形成された中間層と、前記中間層上に形成された貴金属層とを含む積層構造であって、前記貴金属層は、PtRu合金薄膜からなり、前記中間層は、Pt薄膜からなる積層構造である。
【0010】
上記積層構造において、PtRu合金薄膜は、2質量%以上20質量%以下のRuと、残部Pt及び不可避不純物とからなるPtRu合金よりなるものが好ましい。また、PtRu合金薄膜は、ビッカース硬度が450Hv以上であるものが好ましい。
【0011】
そして、本発明に係る積層構造では、基材と中間層との間に少なくとも一層の下地層を含んでいても良い。このとき前記下地層は、Ni、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Au、Ag、Pd、Wの純金属又はこれらの金属の合金のいずれかよりなるものが好ましい。
【0012】
尚、基材は、Cu又はCu合金、Fe又はFe合金のいずれかよりなるものが適用できる。そして、本発明は、上述の積層構造を有するコネクタ又は端子を提供する。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明は貴金属層としてPtRu合金薄膜を適用しつつ、好適な中間層を備える積層構造である。PtRu合金薄膜は、めっき法等で形成可能であり、高硬度で好適な耐摩耗性を有する。また、PtRu合金薄膜は、均一な金属光沢を有し外観上も良好である。そして、本発明は、かかる好適な貴金属層の耐食性をより向上させるためのPt薄膜を中間層として備える。本発明に係る積層構造は、スマーフォン等のコネクタ、端子の保護層に有用であり繰り返される挿抜にも耐久性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図2】第1実施形態の実施例1等の積層構造の構成を示す図。
【
図3】第1実施形態の実施例2等の積層構造の構成を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について説明する。
図1は、本発明に係る積層構造の実施態様を例示する図である。
図1において、本発明の基本形態は、基材10と、基材10の上に形成されたPt薄膜からなる中間層11と、中間層11の表面上に形成されるPtRu合金薄膜からなる貴金属層12とからなる積層構造である(
図1(a))。また、上記のとおり、本発明に係る積層構造では、基材10と中間層11との間に下地層13が形成されていても良い(
図1(b)、(c))。下地層13は、単層でも良いし、複数層(13a、13b)で構成されていても良い。以下、本発明に係る積層構造を構成する貴金属層(A)、中間層(B)、下地層(C)の各構成について詳細に説明する。
【0016】
(A)貴金属層(PtRu合金薄膜)
本発明では、基材及び下地膜の保護層として作用する貴金属層として、PtRu合金薄膜を適用する。このPtRu合金薄膜を構成するPtRu合金の組成は、Ru濃度が2質量%以上20質量%以下のものが好ましい。Ru濃度2質量%未満では、硬度上昇の効果に乏しい。また、PtへのRu合金化による硬度上昇作用は、Ru濃度の増大と共に大きくなるが、20質量%を超えてもさほどの上昇幅は期待されないからである。
【0017】
本発明のPtRu合金薄膜は、実質的にPtとRuのみからなる。PtとRuによる純度は90質量%以上のものが好ましく、99.0質量%以上であるものがより好ましい。但し、本発明に係るPtRu合金薄膜では不可避不純物の含有は許容される。この不可避不純物としては、Fe、Ni、Cr、Co、Mn、Cu、Au、Ag、Pd、W、Mg、Na、Rh、Ge、Zn、Sn,Re等が挙げられる。これらの不可避不純物は、薄膜の形成過程に起因する。めっき法によるPtRu合金薄膜の場合は、PtRu合金めっき液中の成分、例えば、金属塩(Pt塩及びRu塩)中の不純物や、めっき液の添加剤等といった成分からの不可避不純物の混入が考えられる。不可避不純物の含有量としては、合計で1000ppm以下とするのが好ましい。
【0018】
尚、PtRu合金薄膜の合金組成(Ru濃度)や不純物の含有量については、膜の表面又は断面について、電子線マイクロプローブ分析(EPMA)、エネルギー分散型X線分光分析(EDX)、蛍光X線分析(XRF)等を行うことで測定できる。また、PtRu合金薄膜を溶解した溶液について、誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP)で分析することもできる。
【0019】
また、本発明の貴金属層であるPtRu合金薄膜は、ビッカース硬度が450Hv以上であるものが好ましい。PtRu合金薄膜の硬度値は、Ru濃度の上昇と共に増大する。そして、本発明のPtRu合金薄膜の前記硬度は、同じ下地であれば従来技術であるPt薄膜に対して高硬度となり、コネクタ類等における保護層として、好適な耐摩耗性を発揮する。PtRu合金薄膜の硬度は、500Hv以上がより好ましい。尚、硬度値の上限に関しては、下地等により異なるが、上記Ru濃度の上限においては、900Hvまでの硬度を発揮し得る。
【0020】
尚、貴金属層の硬度測定は、ビッカース硬度計、微小硬度計の他、ナノインデンテーション法により測定可能である。本発明の積層構造においては、各層の膜厚を極めて薄く設定することがある。ナノインデンテーション法は、かかる薄膜の積層構造に対し、貴金属層の硬度測定を的確に行う際に好適である。ナノインデンテーション法では、測定値(接触剛性(スチフネス)、接触深さ)から硬度(GPa)を算出することができ、この硬度はビッカース硬度に換算可能である。
【0021】
本発明の積層構造における貴金属層の厚さは、0.1μm以上5.0μm以下のものが好ましい。0.1μm以下では、下地への保護効果を長期間維持し難くなる。また、5.0μmを超えるPtRu合金薄膜については、めっき法で製造する場合、膜中にクラック等の欠陥を包含するおそれがある。
【0022】
本発明における貴金属層(PtRu合金薄膜)は、後述のとおり、めっき法(電解めっき)によるめっき膜であることが好ましい。めっき法により形成されるPtRu合金薄膜は、微細で緻密なPtRu合金の結晶子で構成されており、これにより上記した好適な硬度特性及び耐食性を発揮し得る。尚、このPtRu合金の結晶子の粒径は、平均で1Å以上100Å以下であるものが好ましく、1Å以上10Å以下であるものがより好ましい。PtRu合金めっき膜の結晶子径の測定・算出は、X線回折分析(XRD)により得られた回折ピークの半値幅に基づき、Scherrerの式から算出することができる。
【0023】
(B)中間層(Pt薄膜)
上述したPtRu合金薄膜は、硬度と共に耐食性に優れるが、その下にPt薄膜からなる中間層を備えることで、より高い耐食性を発揮する。Pt薄膜からなる中間層を形成することで、その表面上のPtRu合金薄膜の耐食性が向上する理由は、必ずしも明らかではない。その理由として本発明者等は、基材又は下地層に先にPt薄膜を形成することでPtRu合金薄膜の緻密性や密着性が向上する、或いは、下地層と貴金属層との電位差の緩和作用が中間層にある等の考察をしている。本発明者等は、前記の複数の要因が複合的に作用していると考えるが定かではない。もっとも、中間層の存在による貴金属層の耐食性の上昇効果は、後述する実験的検証により明らかになっている。
【0024】
中間層であるPt薄膜は、純度が90質量%以上のものが好ましく、99.0質量%以上であるものがより好ましい。また、貴金属層と同様に不可避不純物の含有は許容され、その場合、上記した種類の不純物元素が含まれ得る。不可避不純物の含有量としては、合計で1000ppm以下とするのが好ましい。尚、中間層であるPt薄膜の純度や不純物含有量は、貴金属層と同様の方法で確認できる。
【0025】
本発明の積層構造における中間層であるPt薄膜の厚さは、0.1μm以上5.0μm以下のものが好ましい。5.0μm以下の中間層は、実質的に存在しないこととなり、貴金属層の耐食性向上作用に乏しい。また、5.0μmを超える中間層は、めっき等で形成する場合にクラックが発生することがある。尚、中間層であるPt薄膜も、めっき法により形成されるものが好ましい。
【0026】
(C)下地層
上記の中間層及び貴金属層は、基材上に直接成膜しても良い。但し、コネクタ類等の各種用途への適用に際しては、基材と中間層との間に下地層が形成されることが多い。
【0027】
下地層は、コネクタ類の積層構造において、様々な目的によって形成される。例えば、下地層は、中間層と基材との密着性(接合強度)の確保や基材への耐食性付与の他、バリア層、接触抵抗の低減、拡散防止等の目的で形成される。下地層の材質としては、Ni、Cr、Mn、Fe、Co、Cu、Au、Ag、Pd、Wの純金属又はこれらの金属の合金のいずれかで構成される。
【0028】
下地層の具体的な構成としては、例えば、中間層及び貴金属層と基材との密着性を確保するため、Au、Ag、Pd、Ptといった貴金属の純金属又はこれらの合金からなる下地層が中間層の下に形成される。また、基材等の金属属の溶出防止やバリア層とするため、Ni、Ni合金(NiP、NiW、NiMo、CoW、CoMo)が下地層として形成される。この下地層は、中間層や上記した貴金属からなる下地層の下に形成される。更に、基材表面には、NiP、NiPW、CoPからなる下地層が形成されることがある。NiPめっきは、緻密且つ硬質な金属層であり、基材へ耐食性や耐摩耗性を付与する。尚、NiP、NiPW、CoPからなる下地層は、結晶質構造又は非晶質構造のいずれでも良い。
【0029】
本発明の積層構造において、下地層は、目的に応じて上記の金属・合金の薄膜として少なくとも1層形成される。即ち、中間層と基材との間で複数の下地層を形成することができる。下地層を構成する薄膜の層数及び個々の薄膜の厚さについては特に制限はない。
【0030】
(D)基材
本発明に係る積層構造は、以上説明した貴金属層、中間層、下地層が基材上に成膜されることで形成される。基材の材質や形状・寸法についての制限はない。基材材質としては、Cu又はCu合金(リン青銅、黄銅、ベリリウム銅、洋白、コルソン銅)やFe又はFe合金(Fe-Ni合金、Fe-Ni-Co合金、ステンレス)等が挙げられる。また、前記材質以外の基材であってもCuやAg等の導電パターンが形成されたものでも良い。基材形状も、チップ状、テープ状等、特段に定められることはない。
【0031】
また、基材における下地層・中間層・貴金属層の形成部位の制限はない。下地層等が基材の少なくとも一部に形成されていれば良い。例えば、基材の一部に電気的接点部を設定し、この電気的接点部に下地層と中間層及び貴金属層を形成することができる。
【0032】
そして、本発明に係るPtRu合金薄膜とPt薄膜を備える積層構造は、電子・電気機器、半導体デバイス等におけるコネクタ、端子に好適に適用できる。コネクタについては、オス・メス(プラグ・レセプタクル)の双方に対して適用可能である。
【0033】
(E)本発明に係る積層構造の製造方法
以上説明した本発明に係る積層構造は、基材に下地層、中間層、貴金属層を構成する薄膜を順次形成することで製造される。基材へ下地層を形成するときの方法について、めっき法(電解めっき及び無電解めっき)、スパッタリング法、化学蒸着法(CVD、ALD)、真空蒸着法等いずれも適用可能である。
【0034】
中間層であるPt薄膜の形成についても、上述の薄膜形成法を適用することができる。但し、好ましくは電解めっき法が好ましい。緻密で欠陥の少ないPt薄膜をカバリッジ性良好に成膜するためである。Pt薄膜の電解めっき法では、公知のPtめっき液を使用することができる。好ましいPtめっき液としては、硫酸基(SO4)又はスルホ基(SO3)、ニトロ基(NO2)、硝酸基(NO3)、アミン(NH3)、アコ基(H2O)、水酸基(OH)の少なくともいずれかを含む2価Ptの無機酸塩が挙げられる。具体例としては、硫酸Pt(PtSO4)、ジニトロ硫化Pt(Pt(SO4)(NO3)2)、硝酸Pt(Pt(NO3)2)、ジニトロジアンミンPt(Pt(NH3)2(NO3)2)、ジアミンジクロロPt(Pt(NH3)2Cl2)、トリクロロアミンPt酸(HPtCl3(NH3))又はその塩、テトラニトロPt酸(H2PtCl4)又はその塩、テトラスルホPt酸(H6Pt(SO3)4)又はその塩、テトラアンミンPtリン酸(H2Pt(NH3)4)又はその塩等が挙げられる。これらの中で、特に好ましいPt塩としては、硫酸Pt、ジニトロ硫化Pt、ジニトロジアンミンPtである。また、Ptめっき液は、公知の添加剤、例えば、pH緩衝剤、錯化剤、安定剤等を添加しても良い。
【0035】
上記のめっき液によるめっき条件としては、Pt濃度1g/L以上15g/L以下、めっき液温度45℃以上65℃以下、成膜時の電流密度2.0A/dm2以上10A/dm2以下とするのが好ましい。
【0036】
そして、貴金属層であるPtRu合金薄膜の形成も、上記の各種成膜法が適用できるが、中間層(Pt薄膜)と同様に電気めっき法が好ましい。良好な膜質のPtRu合金薄膜を得ると共に、電気めっき法はPtRu合金薄膜の組成(Ru濃度)の調整も容易だからである。
【0037】
PtRu合金薄膜を電解めっき法で形成する際のめっき液は、Pt塩とRu塩を必須に含むPtRu合金めっき液が使用できる。本発明において好適なPtRu合金めっき液は、必須成分として2価Pt塩及び3価Ru塩の金属塩と、硫酸及びスルファミン酸とを含むPtRu合金めっき液である。
【0038】
2価Pt塩としては、上記したPtめっき液で適用する2価Pt塩の同じものが適用できる。一方、3価Ru塩については、硫酸Ru(RuSO4)又は硝酸Ru(Ru(NO3)2)、塩化Ru(RuCl3)を適用することができる。そして、PtRu合金めっき液における各構成の含有量は、Pt濃度1g/L以上15g/L以下とし、Ru濃度0.1g/L以上10g/L以下とし、トータル硫酸濃度を10g/L以上200g/L以下、スルファミン酸濃度を0.1g/L以上20g/L以下とすることが好ましい。尚、PtRu合金めっき液についても、適宜に添加剤を添加しても良い。
【0039】
また、PtRu合金薄膜の組成は、PtRu合金めっき液のPt濃度とRu濃度との比により調整できる。例えば、上記では、貴金属層として好適なPtRu合金薄膜のRu濃度は、Ru濃度2質量%以上20質量%以下としている。この好適組成のPtRu合金薄膜を形成するためPtRu合金めっき液のPt濃度とRu濃度との比(Ru濃度(g/L)/Pt濃度(g/L))は、0.1以上0.8以下とすることが好ましい。
【0040】
PtRu合金めっき液による電解めっきの条件としては、PtRu合金めっき液のpHを1以下が好ましく、温度45℃以上65℃以下とし、電流密度2.0A/dm2以上10A/dm2以下とするのが好ましい。
【実施例0041】
第1実施形態:まず、予備的な検討として、PtRu合金薄膜の貴金属層としての適用可能性を確認するため、Cu板基材の上に組成(Ru濃度)が異なるPtRu合金薄膜を形成して硬度を測定した。
【0042】
基材としてCu板(20mm×40mm×0.1mm)を用意し、この基材上に貴金属層であるPtRu合金薄膜を成膜した。PtRu合金薄膜は、PtRu合金めっき液を使用して成膜した。PtRu合金めっき液は、ジニトロ硫化Pt(Pt(SO4)(NO3)2)と硫酸Ru(RuSO4)を硫酸とスルファミン酸を添加して、トータル硫酸濃度80g/Lの基本浴を作製し、pH1に調整してめっき液を建浴した。ここでは、PtRu合金めっき液のPt、Ruの濃度として、Pt濃度を10g/Lとする一方で、Ru濃度についてはPtRu合金薄膜のRu濃度を制御するため、1g/L~5g/L(Ru濃度(g/L)/Pt濃度(g/L)=0.1~0.5)の範囲で調整して5種類のPtRu合金めっき液(Ru濃度(g/L)/Pt濃度(g/L)=0.1~0.5)を製造した。
【0043】
PtRu合金薄膜の成膜は、浴温60℃、電流密度4.0A/dm2とし、めっき時間25分間とし、膜厚5μmのPtRu合金薄膜を有する積層構造を製造した(No.1~5)。尚、本実施形態では、対比のため、Pt薄膜(膜厚5μm)及びRhRu合金薄膜(膜厚5μm)の貴金属層も製造した(No.6、7)。Pt薄膜は、Ptめっき液(日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース株式会社製 プレシャスファブPt2000)を使用した。また、RhRu合金薄膜の成膜には、RhRu合金めっき液(日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース株式会社製 プレシャスファブRh2000)を使用した。
【0044】
そして、製造した5種類のPtRu合金膜及びPt薄膜、RhRu合金薄膜を有する積層構造について、その表面(貴金属層表面)の硬度を測定した。硬度測定は、微小硬度計により荷重10gでビッカース硬度(Hv)を測定した。この測定結果と、EDXにより測定した貴金属層の組成(Ru濃度)を表1に示す。
【0045】
【0046】
本実施形態で成膜したPtRu合金めっき膜(No.1~No.5)のRu比率は、めっき液のRu濃度の増加と共に上昇し、3質量%~12.3質量%のPtRu合金で構成されていることが確認された。そして、表1から、PtRu合金めっき膜の硬度は、いずれの基板においても450Hv以上となることが確認された。これらのPtRu合金めっき膜は、Ptめっき膜(No.6)と対比すると高硬度であり、RhRu合金薄膜と同程度に高硬度とすることができることが確認できた。
【0047】
PtRu合金めっき膜の硬度は、基本的にRu濃度の上昇に応じて高くなり、最大で760Hvのビッカース硬度を示した。また、いずれのPtRu合金めっき膜においても、クラックの発生はみられなかったことから耐食性についても期待できる状態であった。尚、PtRu合金めっき膜は、いずれも均一な金属光沢を呈しており外観においても良好であった。
【0048】
第2実施形態:本実施形態では、基材上に下地層(Ni薄膜)と、中間層(Pt薄膜)及び貴金属層(PtRu合金薄膜)を順次形成して積層構造を作製し、貴金属層の硬度と耐食性を評価した。本実施形態で製造した積層構造の構成を
図2に示す。
【0049】
実施例1:第1実施形態と同じ基材(Cu板)を用意し、この基材上に下地層であるNi薄膜(厚さ3.0μm)を成膜した。Ni薄膜は、電解Niめっき(日本エレクトロプレイテイング・エンジニヤース株式会社製 ミクロファブNi200)を使用した。その後、中間層であるPt薄膜を成膜した。Ptめっき液は第1実施形態と同じであり、めっき条件は、浴温55℃とし、電流密度5A/dm2とし、めっき時間は1分間とし、膜厚1.0μmのPt薄膜からなる中間層を形成した。
【0050】
そして、第1実施形態と同じPtRu合金めっき液を使用して貴金属層であるPtRu合金薄膜を成膜した。本実施形態では、Pt濃度4g/L、Ru濃度4g/LのPtRu合金めっき液を使用し、同じ条件にてめっき時間5分間で1.0μmの貴金属層であるPtRu合金薄膜を成膜し、実施例1の積層構造(Cu/Ni/Pt/PtRu)を製造した。この実施例1の積層構造について、EDXによる貴金属層の組成(Ru濃度)の測定を行ったところ、Ru濃度13質量%であった。
【0051】
次に、上記実施例1の積層構造と対比するための参考例及び比較例として、下記の積層構造を製造した。
【0052】
参考例1:基材/Ni(下地層)に、中間層であるPt薄膜を成膜することなく貴金属層としてPtRu合金薄膜(2.0μm)を形成した積層構造(Cu/Ni/PtRu)。
比較例1:基材/Ni(下地層)に、中間層を成膜することなく貴金属層としてPt薄膜(2.0μm)を形成した積層構造(Cu/Ni/Pt)。
比較例2:基材/Ni(下地層)に、中間層を成膜することなく貴金属層としてRhRu合金薄膜(2.0μm)を形成した積層構造(Cu/Ni/RhRu)。
【0053】
上記の参考例と比較例1、2の積層構造の製造においては、Ni薄膜、Pt薄膜、PtRu合金薄膜の形成は、実施例1と同じめっき液を使用した。膜厚はメッキ時間で制御した。また、RhRu合金薄膜は、第1実施形態と同じめっき液を使用し、浴温50℃、電流密度4.0A/dm2とし、めっき時間2分間とした。尚、比較例2のRhRu合金薄膜の組成(Ru濃度)はRu濃度4質量%であった。
【0054】
そして、実施例1及び各比較例の積層構造についての硬度を測定した。本実施形態では、貴金属層の膜厚を考慮し、ナノインデンテーション法で硬度測定を行った。この硬度測定では、ナノインデンター(Bruker社製 ハイジトロン TS77)により貴金属薄膜の接触剛性(スチフネス)と接触深さを測定して硬度(GPa)を算出し、ビッカース硬度に換算した。
【0055】
更に、実施例1及び参考例と比較例の積層構造(貴金属層)の耐食性を評価するための電解サイクル試験を行った。電解サイクル試験の条件は、各サンプルを1.1質量%塩化ナトリウム溶液中(温度:室温)で5Vの電圧を30秒で印加し、これを1サイクルとして繰り返した。そして、下地層(Ni)が露出するまでのサイクル数をカウントして耐食性を評価した。
【0056】
以上の実施例1及び参考例1、比較例1,2の積層構造についての、硬度測定結果と耐食性評価結果を表2に示す。
【0057】
【0058】
表2から、表面の貴金属層の硬度については、第1実施形態と同様に、実施例1の積層構造のPtRu合金薄膜からなる貴金属層は、比較例1の積層構造の貴金属層であるPt薄膜を超えるものであった。そして、実施例1のように、Pt薄膜の中間層を形成することで、PtRu合金薄膜の硬度は増大することとなる。また、実施例1のPtRu合金薄膜は、比較例2のRhRu合金薄膜に対しても遜色ない硬度を有し耐摩耗性が良好であるといえる。
【0059】
各積層構造の貴金属層の耐食性について検討すると、PtRu合金薄膜は、それ自体の耐食性が良好であるといえる。即ち、参考例1のように、PtRu合金薄膜は、中間層(Pt薄膜)がなくても、比較例1(貴金属層:Pt薄膜)及び比較例2(貴金属層:RhRu合金薄膜)よりも下地露出までのサイクル数は多い。そして、PtRu合金薄膜からなる貴金属層の耐食性は、中間層であるPt薄膜の存在により明確に向上している。下地露出までのサイクル数でみると、中間層無しの参考例に対して、実施例1では5倍となっている。よって、硬度と耐食性の双方を最適にする上でPt薄膜からなる中間層が必要といえる。
【0060】
第3実施形態:本実施形態では、実施例1の積層構造に対し、下地層の構成と中間層及び貴金属層の膜厚を変更した積層構造を製造した。実施例1と同じ基材(Cu)に下地層(Ni:3μm)を形成した後、もう一層の下地層としてAu薄膜を0.25μm成膜した。その後、中間層であるPt薄膜の膜厚を0.5μmとし、貴金属層であるPtRu合金薄膜の膜厚を0.5μmとして積層構造とした(実施例2:Cu/Ni/Au/Pt/PtRu)。
【0061】
本実施形態で適用した追加の下地層であるAu薄膜は、ストライクめっきで成膜した(めっき液:プレシャスファブHG-GVC、めっき条件:2A/dm2-5秒)。それ以外の各層の形成のためのめっき液及びめっき条件は、基本的に実施例1と同じであり、めっき時間で膜厚を調整した。また、同様にして本実施形態でも参考例及び比較例となる積層構造として下記を製造した。本実施形態で製造した積層構造の構成を
図2に示す。
【0062】
参考例2:実施例2に対して中間層無しで貴金属層であるPtRu合金薄膜(1.0μm)を形成した積層構造(Cu/Ni/Au/PtRu)。
比較例3:基材/Ni(下地層)/Au(下地層)に中間層無しで貴金属層としてPt薄膜(1.0μm)を形成した積層構造(Cu/Ni/Pt)。
比較例4:基材/Ni(下地層)/Au(下地層)に中間層のPt薄膜(0.4μm)にPdNi薄膜(0.4μm)を形成した後に貴金属層としてPtRu合金薄膜(0.4μm)を形成した積層構造(Cu/Ni/Au/Pt/PdNi/PtRu)。
【0063】
そして、実施例2、参考例2、比較例3、4の積層構造について、耐食性の評価を行った。本実施形態における耐食性の評価試験は、1.1質量%塩化ナトリウム溶液中(温度:室温)で12Vの電圧を30秒で印加し、これを1サイクルとして繰り返した。そして、下地層(Ni)が露出するまでのサイクル数をカウントして耐食性を評価した。この評価試験の結果を表3に示す。
【0064】
【0065】
表3より、本実施形態で検討した積層構造には、基本的に第2実施形態と同様の傾向がある。実施例2の中間層及びPtRu合金薄膜を貴金属層とする積層構造は、Pt薄膜を貴金属層とする積層構造(比較例3)に対して明確に耐食性に優れている。また、実施例2は、PtRu合金薄膜を貴金属層とするが中間層のない積層構造(参考例2)に対しも耐食性が良好である。このことから、Pt薄膜からなる中間層の設定が重要であることが理解できる。
【0066】
そして、本実施形態では、貴金属層であるPtRu合金薄膜と中間層であるPt薄膜との間に他の金属層(PdNi合金薄膜)を有する積層構造の検討を行っている(比較例4)。この比較例4は、参考例2(Cu/Ni/Au/PtRu)と同程度の耐食性はあるが、実施例2よりは大きく劣っている。中間層であるPt薄膜のPtRu合金薄膜の耐食性向上の効果を得るためには、Pt薄膜表面上にPtRu合金薄膜を形成することが好ましいといえる。
【0067】
第4実施形態:本実施形態では、中間層であるPt薄膜の膜厚と貴金属層であるPtRu合金薄膜の膜厚を変更しつつ、積層構造の耐食性を検討した。積層構造の構成は、実施例1と同じであり、Cu(基材)/Ni(下地層)/Pt(中間層)/PtRu合金(貴金属層)である。基材及び各層の形成方法は、第1実施形態と同じとし、めっき処理の際のめっき時間にて膜厚を調整した。
【0068】
そして、製造した各積層構造について、第2実施形態と同じ耐食性の評価試験を行った。この結果を表4に示す。
【0069】
【0070】
表4から、中間層(Pt薄膜)の膜厚が共通である場合、貴金属層(PtRu合金薄膜)の膜厚の増加に伴い、積層構造の耐食性(サイクル数)は向上するといえる。また、同じ膜厚のPtRu合金薄膜であれば、膜厚が厚い中間層の積層構造の方が耐食性は良好となる。コスト面と考慮して高価なPtの使用量と低減しようとしたとき、中間層であるPt薄膜を1μmと薄くしても、PtRu合金薄膜の膜厚制御により十分な耐食性を確保できるといえる。よって、貴金属層であるPtRu合金薄膜と中間層であるPt薄膜との組み合わせは、耐食性と耐摩耗性の確保において好適であることがわかる。
以上説明したように、本発明に係るPtRu合金薄膜からなる貴金属層とPt薄膜からなる中間層とを備える積層構造は、硬度(耐摩耗)と耐食性の双方において良好な特性を示す。本発明は、スマーフォンやタブレット端末等のコネクタ、端子における積層構造に有用である。