(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155130
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】受信信号の異常の検出方法および検出装置
(51)【国際特許分類】
G01S 19/23 20100101AFI20231013BHJP
【FI】
G01S19/23
【審査請求】未請求
【請求項の数】18
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022188034
(22)【出願日】2022-11-25
(31)【優先権主張番号】P 2022063774
(32)【優先日】2022-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】長保 龍
【テーマコード(参考)】
5J062
【Fターム(参考)】
5J062AA11
5J062CC07
5J062CC14
5J062DD03
5J062GG02
(57)【要約】
【課題】GNSSにおける受信信号の到来方向の異常を含む受信信号の異常を検出する。
【解決手段】複数のGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号を複数のGNSSアンテナ3A,3B,3Cを介して受信して、GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいてGNSS信号の送信時刻が正常であるか否かを判定し、GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと所定の基準衛星Srの擬似距離ρrとの比較に基づいてGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iが正常であるか否かを判定するとともに、GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iから複数のGNSSアンテナ3A,3B,3C各々までの行路の差を表す指標に基づいてGNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の衛星から送信されるGNSS信号を複数のアンテナを介して受信して、
前記GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいて前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であるか否かを判定するとともに、
前記GNSS信号を送信した前記衛星から前記複数のアンテナ各々までの行路の差を表す行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、
ことを特徴とする受信信号の異常の検出方法。
【請求項2】
前記GNSS信号を送信した前記衛星の擬似距離と所定の基準衛星の擬似距離との比較に基づいて前記衛星の前記擬似距離が正常であるか否かをさらに判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項3】
前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、過去に前記衛星から送信されたGNSS信号に含まれていた送信時刻である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項4】
前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、他の衛星から送信されるGNSS信号に含まれている送信時刻である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項5】
正常でないと判定された衛星についての正常でない状態を所定の時間だけ維持する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項6】
正常でないと判定された衛星についての正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であると判定された場合に、前記正常でないと判定された衛星についての前記正常でない状態を解除する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項7】
複数の衛星について前記GNSS信号の前記到来方向が正常でないと判定されて正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であると判定された場合に、前記複数の衛星についての前記正常でない状態を解除する、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項8】
正常でないと判定された衛星の数に応じて、前記正常でないと判定された前記衛星と周波数帯が異なる衛星の受信チャネル割り当て数を変化させる、
ことを特徴とする請求項1または2に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項9】
前記衛星の種類ごとの前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項1に記載の受信信号の異常の検出方法。
【請求項10】
複数の衛星から送信されるGNSS信号を複数のアンテナを介して受信する受信部と、
前記GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいて前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であるか否かを判定する送信時刻判定部と、
前記GNSS信号を送信した前記衛星から前記複数のアンテナ各々までの行路の差を表す行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する行路差判定部と、を有する、
ことを特徴とする受信信号の異常の検出装置。
【請求項11】
前記GNSS信号を送信した前記衛星の擬似距離と所定の基準衛星の擬似距離との比較に基づいて前記衛星の前記擬似距離が正常であるか否かを判定する擬似距離判定部をさらに有する、
ことを特徴とする請求項9に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項12】
前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、過去に前記衛星から送信されたGNSS信号に含まれていた送信時刻である、
ことを特徴とする請求項9または10に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項13】
前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、他の衛星から送信されるGNSS信号に含まれている送信時刻である、
ことを特徴とする請求項9または10に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項14】
正常でないと判定された衛星についての正常でない状態が所定の時間だけ維持される、
ことを特徴とする請求項9または10に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項15】
正常でないと判定された衛星についての正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であると判定された場合に、前記正常でないと判定された衛星についての前記正常でない状態を解除する、
ことを特徴とする請求項9または10に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項16】
複数の衛星について前記GNSS信号の前記到来方向が正常でないと判定されて正常でない状態が維持されているときに、前記GNSS信号の前記到来方向が正常であると判定された場合に、前記複数の衛星についての前記正常でない状態を解除する、
ことを特徴とする請求項9または10に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項17】
正常でないと判定された衛星の数に応じて、前記正常でないと判定された前記衛星と周波数帯が異なる衛星の受信チャネル割り当て数が変化する、
ことを特徴とする請求項9または10に記載の受信信号の異常の検出装置。
【請求項18】
前記衛星の種類ごとの前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、
ことを特徴とする請求項10に記載の受信信号の異常の検出装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、GNSS(Global Navigation Satellite System の略;全球測位衛星システム)における受信信号の異常を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、慣性航法装置とGNSS測位システムを用いて移動体の位置を計測する装置が知られている(特許文献1参照)。また、GNSSにおける受信信号の異常を検出する技術として、GPS(Global Positioning System,Global Positioning Satellite の略;全地球測位システム)衛星からの受信信号がマルチパスの影響を受けた信号であるか否かを判定する装置が知られている(特許文献2参照)。さらに、GNSSによる衛星測位が途切れた後にスプーフィングを検出する装置が知られている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第4803862号公報
【特許文献2】特開2010-256301号公報
【特許文献3】特開2020-134350号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献2の装置は、各GPS衛星からの受信信号の位相差に基づいて各GPS衛星からの受信信号がマルチパスの影響を受けた信号であるか否かを各々判定している一方で、各GPS衛星からの受信信号の到来方向が異常であるか否かは判定していない。
【0005】
そこでこの発明は、GNSSにおける受信信号の到来方向の異常を含む受信信号の異常を検出することが可能な、受信信号の異常の検出方法および検出装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、複数の衛星から送信されるGNSS信号を複数のアンテナを介して受信して、前記GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいて前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であるか否かを判定するとともに、前記GNSS信号を送信した前記衛星から前記複数のアンテナ各々までの行路の差を表す行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、ことを特徴とする。
【0007】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記GNSS信号を送信した前記衛星の擬似距離と所定の基準衛星の擬似距離との比較に基づいて前記衛星の前記擬似距離が正常であるか否かをさらに判定する、ようにしてもよい。
【0008】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、過去に前記衛星から送信されたGNSS信号に含まれていた送信時刻である、ようにしてもよい。
【0009】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、他の衛星から送信されるGNSS信号に含まれている送信時刻である、ようにしてもよい。
【0010】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、正常でないと判定された衛星についての正常でない状態を所定の時間だけ維持する、ようにしてもよい。
【0011】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、正常でないと判定された衛星の数に応じて、前記正常でないと判定された前記衛星と周波数帯が異なる衛星の受信チャネル割り当て数を変化させる、ようにしてもよい。
【0012】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法は、前記衛星の種類ごとの前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、ようにしてもよい。
【0013】
また、この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、複数の衛星から送信されるGNSS信号を複数のアンテナを介して受信する受信部と、前記GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいて前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であるか否かを判定する送信時刻判定部と、前記GNSS信号を送信した前記衛星から前記複数のアンテナ各々までの行路の差を表す行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する行路差判定部と、測位情報を計算する測位部と、を有し、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であるか否かの判定結果と前記GNSS信号の前記到来方向が正常であるか否かの判定結果とに基づいて前記測位部による前記測位情報の計算処理で使用する衛星を決定する、ことを特徴とする。
【0014】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記GNSS信号を送信した前記衛星の擬似距離と所定の基準衛星の擬似距離との比較に基づいて前記衛星の前記擬似距離が正常であるか否かを判定する擬似距離判定部をさらに有し、前記GNSS信号の前記送信時刻が正常であるか否かの判定結果と前記GNSS信号の前記到来方向が正常であるか否かの判定結果と前記衛星の前記擬似距離が正常であるか否かの判定結果とに基づいて前記測位部による前記測位情報の計算処理で使用する衛星を決定する、ようにしてもよい。
【0015】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、過去に前記衛星から送信されたGNSS信号に含まれていた送信時刻である、ようにしてもよい。
【0016】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記GNSS信号を送信した前記衛星についての前記基準送信時刻が、他の衛星から送信されるGNSS信号に含まれている送信時刻である、ようにしてもよい。
【0017】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、正常でないと判定された衛星についての正常でない状態が所定の時間だけ維持される、ようにしてもよい。
【0018】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、正常でないと判定された衛星の数に応じて、前記正常でないと判定された前記衛星と周波数帯が異なる衛星の受信チャネル割り当て数が変化する、ようにしてもよい。
【0019】
この発明に係る受信信号の異常の検出装置は、前記衛星の種類ごとの前記行路差指標に基づいて前記GNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、ようにしてもよい。
【発明の効果】
【0020】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、GNSS信号の送信時刻の異常を検出するとともに衛星から複数のアンテナ各々までの行路差(GNSS信号の到来方向)の異常を検出するようにしているので、行路差の異常は一層確実にGNSS信号の異常を検出することができるものの複数の衛星から送信されるGNSS信号を対象として処理を行うので検知が遅れることも考えられる一方で送信時刻の異常は衛星ごとに独立に処理を行うので検知を即時的に行うことができ、送信時刻の判定処理と行路差の判定処理とを組み合わせることでGNSSにおける受信信号の異常を相互補完的に検出してGNSSにおける受信信号の異常の検出処理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0021】
この発明に係る受信信号の異常の検出方法や受信信号の異常の検出装置によれば、衛星の擬似距離の異常をさらに検出するようにした場合には、擬似距離の判定処理をさらに組み合わせることでGNSSにおける受信信号の異常を一層確実に検出してGNSSにおける受信信号の異常の検出処理の信頼性を一層向上させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】実施の形態に係るGNSSコンパスの概略構成を示す機能ブロック図である。
【
図2】
図1のGNSSコンパスにおける複数のGNSSアンテナの配置を示す図である。
【
図3】
図2のGNSSアンテナどうしの間における行路差を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。この実施の形態では、この発明に係る受信信号の異常の検出装置がGNSSコンパスに組み込まれる場合を例に挙げて説明する。
【0024】
(GNSSコンパスの全体構成)
図1は、この発明に係る受信信号の異常の検出装置を含む、実施の形態に係るGNSSコンパス1の概略構成を示す機能ブロック図である。GNSSコンパス1は、例えば、船舶,車両,および飛行体などの移動体に搭載されて使用される。
【0025】
実施の形態に係るGNSSコンパス1は、GNSS(Global Navigation Satellite System の略;全球測位衛星システム)で用いられる複数の衛星(「GNSS衛星」と呼ぶ)それぞれから送信される衛星信号/測位信号(「GNSS信号」と呼ぶ)を受信してGNSSにおける受信信号であるGNSS信号の異常を検出する機能と自機の位置などを計算する機能とを備え、主に、制御ユニット2と、GNSSアンテナ3と、GNSS受信部4と、異常検出部5と、測位部6と、を有する。GNSSコンパス1を構成する各部は、バスを介して信号の送受を行って相互に情報伝達可能であるように接続される。
【0026】
GNSSとしてはGPS(Global Positioning System,Global Positioning Satellite の略;全地球測位システム),GLONASS(GLObal NAvigation Satellite System の略),およびBDS(BeiDou navigation satellite System の略;北斗衛星導航系統)などが挙げられる。
【0027】
複数のGNSS衛星それぞれは、当該のGNSS衛星自身の現在位置を示すデータであるエフェメリスを含むGNSS信号を電波として送信する。複数のGNSS衛星それぞれから送信されるGNSS信号には、そのGNSS衛星が当該GNSS信号を電波として送信した時刻を示す情報も含まれる。
【0028】
制御ユニット2は、GNSSコンパス1を構成する各部の動作を制御する機能を備え、例えば、GNSS信号の異常の検出やGNSSコンパス1の位置などの計算などに纏わる演算処理を行う中央処理装置(CPU:Central Processing Unit の略)を有する機序として構成される。
【0029】
制御ユニット2は、また、中央処理装置(CPU)がGNSS信号の異常の検出やGNSSコンパス1の位置などの計算などに纏わる演算処理を行う際に利用するプログラム,各種の情報,およびデータなどを記憶して格納などするための記憶領域となったり中央処理装置(CPU)が前記演算処理を行う際に生成されるデータや情報などを一時的に記憶などするための作業領域となったりする機能を備え、例えば、読み取り専用の記憶装置であるROM(Read Only Memory の略)、読み出しおよび書き込み可能な記憶装置であるRAM(Random Access Memory の略)、ならびにハードディスクのうちの少なくとも1つを有する機序として構成される。
【0030】
制御ユニット2は、GNSSコンパス1の動作を制御するためのプログラム(「制御プログラム」と呼ぶ)を中央処理装置(CPU)が実行することにより、制御プログラムに従ってGNSSコンパス1を構成する各部の処理の開始,内容,および終了を統制して制御する。
【0031】
GNSS受信部4は、複数のGNSS衛星S_i(但し、i:複数のGNSS衛星を相互に区別して各々を識別するための各衛星に固有の番号)それぞれから送信されるGNSS信号を受信するための機序であり、各々がGNSSアンテナ3を備える少なくとも2個のGNSS受信器から構成される。この実施の形態では、GNSS受信部4が3個のGNSS受信器4A,4B,4Cから構成され、GNSS受信器4AがGNSSアンテナ3Aを備え、GNSS受信器4BがGNSSアンテナ3Bを備え、GNSS受信器4CがGNSSアンテナ3Cを備える。
【0032】
3個のGNSSアンテナ3A,3B,3Cは、GNSSコンパス1が搭載される移動体上に、所定の間隔で相互に離間して配置されて固定される。この実施の形態では、3個のGNSSアンテナ3A,3B,3Cが正三角形の頂点の位置それぞれに配置される(
図2参照)。
【0033】
GNSSアンテナ3A,3B,3Cどうしを結ぶ線分を「基線」と呼ぶ。GNSSアンテナ3A,3B,3Cどうしの間の距離である基線の寸法は、GNSSアンテナ3A,3B,3Cの配置の設計値として既知である。この実施の形態では、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの間の基線ABの寸法,GNSSアンテナ3BとGNSSアンテナ3Cとの間の基線BCの寸法,およびGNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Cとの間の基線ACの寸法はいずれも既知である。GNSSアンテナ3A,3B,3Cどうしの間の距離である基線の寸法は、GNSSアンテナ3A,3B,3C間の干渉を避けるため、1波長以上(通常は、数波長程度)に設定される。
【0034】
各GNSS受信器4A,4B,4Cは、GNSS衛星S_iそれぞれから送信されるGNSS信号をGNSSアンテナ3A,3B,3Cを介して受信して電気信号(特に、デジタル信号)に変換して出力する。
【0035】
GNSS信号は、搬送波に重畳されて電波(「GNSS電波」と呼ぶ)としてGNSS衛星S_iから逐次送信される。各GNSS受信器4A,4B,4Cは、GNSS電波を受信し、前記GNSS電波を復調してGNSS信号を取り出す。そして、前記GNSS信号がGNSS受信部4から出力される。
【0036】
制御プログラムを制御ユニット2の中央処理装置(CPU)が実行することにより、制御ユニット2内に異常検出部5および測位部6が構成される。
【0037】
異常検出部5は、GNSS受信部4から出力されるGNSS信号の異常を検出して検出結果を出力するための機序である。
【0038】
測位部6は、GNSS受信部4から出力されるGNSS信号を用いて測位情報を計算して出力するための機序である。
【0039】
測位部6によって計算される測位情報は、特定の項目には限定されないものの、例えば、自機の位置,方位,および姿勢(例えば、ローリング,ピッチング,旋回率(ROT))などのうちの少なくとも1つが挙げられる。測位部6による測位情報の計算処理は、周知の技術が適用され得るとともにこの発明では特定の項目や手法などには限定されないので、詳細な説明を省略する。
【0040】
測位部6は、異常検出部5から出力されるGNSS信号の異常の検出結果に基づいて、測位情報の計算処理で使用する衛星群から排除するGNSS衛星S_iを決定する(言い換えると、測位情報の計算処理で使用するGNSS衛星S_iを決定する)。
【0041】
(異常検出部の処理内容)
実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法は、複数のGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号を複数のGNSSアンテナ3A,3B,3Cを介して受信して、GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいてGNSS信号の送信時刻が正常であるか否かを判定し、GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと所定の基準衛星Srの擬似距離ρrとの比較に基づいてGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iが正常であるか否かを判定するとともに、GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iから複数のGNSSアンテナ3A,3B,3C各々までの行路の差を表す指標に基づいてGNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する、ようにしている。
【0042】
また、上記の受信信号の異常の検出方法を実施する機器としての受信信号の異常の検出装置を含む、実施の形態に係るGNSSコンパス1は、複数のGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号を複数のGNSSアンテナ3A,3B,3Cを介して受信するGNSS受信部4と、GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との比較に基づいてGNSS信号の送信時刻が正常であるか否かを判定する送信時刻判定部51と、GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと所定の基準衛星Srの擬似距離ρrとの比較に基づいてGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iが正常であるか否かを判定する擬似距離判定部52と、GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iから複数のGNSSアンテナ3A,3B,3C各々までの行路の差を表す指標に基づいてGNSS信号の到来方向が正常であるか否かを判定する行路差判定部54と、測位情報を計算する測位部6と、を有し、GNSS信号の送信時刻が正常であるか否かの判定結果とGNSS信号の到来方向が正常であるか否かの判定結果とGNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iが正常であるか否かの判定結果とに基づいて測位部6による測位情報の計算処理で使用するGNSS衛星S_iを決定する、ようにしている。
【0043】
異常検出部5は、GNSS信号の異常を検出するための機序であり、GNSS受信部4(尚、各々がGNSSアンテナ3(具体的には、3A,3B,3Cのうちのいずれか)を備える3個のGNSS受信器4A,4B,4Cから構成される)から所定の周期で出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号の入力を受け、前記GNSS信号に基づいてGNSSにおける受信信号であるGNSS信号の異常を検出するための演算処理(「異常検出演算処理」と呼ぶ)を実行する。異常検出演算処理は、GNSS受信部4からGNSS信号が出力される所定の周期に合わせて前記所定の周期で実行されるようにしてもよく、或いは、前記所定の周期とは異なる周期で実行されるようにしてもよい。
【0044】
異常検出部5は、送信時刻判定部51,擬似距離判定部52,行路差計算部53,および行路差判定部54を備える。
【0045】
送信時刻判定部51は、GNSS受信部4から出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号の入力を受け、前記GNSS信号の送信時刻が正常であるか否かを判定する。送信時刻判定部51によって行われる処理のことを「送信時刻の判定処理」と呼ぶ。
【0046】
送信時刻判定部51は、GNSS衛星S_iごとに、GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と所定の基準送信時刻との差の絶対値が所定の時刻差閾値以上であるか否かを判断する。
【0047】
基準送信時刻は、GNSS衛星S_iごとに設定されるようにしてもよく、或いは、すべてのGNSS衛星S_iに共通のものとして設定されるようにしてもよい。
【0048】
基準送信時刻がGNSS衛星S_iごとに設定される場合、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として、過去に当該GNSS衛星S_iから送信されたGNSS信号に含まれていて取得されて記憶された送信時刻に前記GNSS信号を受信した時点からの経過時間が加えられた時刻が用いられるようにしてもよい。
【0049】
経過時間は、例えば、経過時間の計測機器としてGNSS受信部4に温度補償水晶発振器(TCXO:Temperature Compensated Crystal Oscillators の略)が搭載され、前記温度補償水晶発振器が用いられて計測される。この場合、時間経過とともに変化する経過時間の計測機器(例えば、温度補償水晶発振器)の誤差やGNSS衛星S_iのドップラーシフトのずれが考慮されて経過時間が補正されるようにしてもよい。なお、ドップラーシフトは、ドップラー効果によって生じる、GNSS衛星S_iから送信されるGNSS電波の搬送波周波数とGNSS受信部4(具体的には、GNSS受信器4A,4B,4C)における受信周波数との周波数差として求められる。
【0050】
GNSS信号の送信時刻が正常であるか否かを判定する際には(即ち、送信時刻の判定処理では)、GNSS信号の送信時刻の小数部のみが使用されるようにしてもよい
【0051】
時刻差閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば機械誤差などに起因して生じると想定される誤差が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。時刻差閾値は、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として当該GNSS衛星S_iについて過去に取得された送信時刻に経過時間が加えられた時刻が用いられる場合は、例えば1~3ミリ秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0052】
送信時刻判定部51は、GNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と基準送信時刻との差の絶対値が時刻差閾値以上であるとき、前記GNSS信号は送信時刻が異常であるとして、前記GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iを送信時刻異常に分類する。
【0053】
一方、基準送信時刻がすべてのGNSS衛星S_iに共通のものとして設定される場合、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として、他のGNSS衛星S_j(但し、j:複数のGNSS衛星を相互に区別して各々を識別するための各衛星に固有の番号であり、i≠j;以下同じ)から送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻が用いられるようにしてもよい。他のGNSS衛星S_jとしては、例えば、当該の(若しくは、直近の)異常検出演算処理の実行時点においてGNSS受信部4によってGNSS信号が受信されている複数のGNSS衛星S_iの中から、衛星の仰角が最も大きい衛星が選択される。
【0054】
この場合は、送信時刻判定部51は、GNSS衛星S_iごとに、GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、他のGNSS衛星S_jから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、の差の絶対値が所定の時刻差閾値以上であるか否かを判断する。GNSS信号の受信時刻は、GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報によって特定される。GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報は、複数のGNSS受信器4A,4B,4Cに共通の機器としてGNSS受信部4に搭載される例えば温度補償水晶発振器(TCXO)から供給される。
【0055】
時刻差閾値は、GNSS衛星S_iについての基準送信時刻として他のGNSS衛星S_jから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻が用いられる場合は、前記GNSS衛星S_iのGNSSの種類(例えば、GPS,GLONASS,BDS)と前記他のGNSS衛星S_jのGNSSの種類との組み合わせに応じて異なる値に設定されるようにしてもよい。例えば、GPSどうしの組み合わせの場合は時刻差閾値が20~30ミリ秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定され、GPSとBDSとの組み合わせの場合は時刻差閾値が90~110ミリ秒程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0056】
送信時刻判定部51は、GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、他のGNSS衛星S_jから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と前記GNSS信号の受信時刻との差と、の差の絶対値が時刻差閾値以上であるとき、GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号は送信時刻が異常であるとして、前記GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iを送信時刻異常に分類する。
【0057】
そして、送信時刻判定部51は、送信時刻異常に分類したGNSS衛星S_iに関する情報を送信時刻異常の衛星情報として測位部6へと出力する。
【0058】
次に、擬似距離判定部52は、GNSS受信部4から出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号の入力を受け、前記GNSS信号を送信したGNSS衛星S_iの擬似距離が正常であるか否かを判定する。擬似距離判定部52によって行われる処理のことを「擬似距離の判定処理」と呼ぶ。
【0059】
擬似距離は、GNSS衛星S_iから送信されてGNSSアンテナ3を介して受信されるGNSS信号の伝搬距離であり、受信したGNSS信号(別言すると、GNSS電波)がGNSS衛星S_iから送信された時刻とGNSSアンテナ3を介して受信された時刻との差(謂わば、GNSS信号の伝搬時間)から定まる距離である。
【0060】
GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iは、GNSS衛星S_iからGNSS信号(GNSS電波)が送信された時刻と、GNSSアンテナ3を介して前記GNSS信号(GNSS電波)が受信された時刻との差に、電波の伝搬速度(具体的には、光速)を乗じることで算出される。
【0061】
GNSS衛星S_iからGNSS信号が送信された時刻は当該GNSS信号に含まれている。また、GNSSアンテナ3を介してGNSS信号が受信された時刻は、GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報によって特定される。GNSS受信部4が保有する時計機能/時刻情報は、複数のGNSS受信器4A,4B,4Cに共通の機器としてGNSS受信部4に搭載される例えば温度補償水晶発振器(TCXO)から供給される。なお、GNSS信号が送信された時刻と受信された時刻との差に相当するGNSS信号の伝搬時間は、C/Aコードの位相のずれ量に基づいて特定されるようにしてもよい。なお、C/Aコードは、GNSS衛星S_iごとに固有のコードであり、送信元を示す情報として機能する。
【0062】
擬似距離判定部52は、GNSS衛星S_iごとに、当該GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと所定の基準衛星Srの擬似距離ρrとの差の絶対値が所定の擬似距離差閾値よりも大きいか否かを判断する。基準衛星Srとしては、例えば、当該の(若しくは、直近の)異常検出演算処理の実行時点においてGNSS受信部4によってGNSS信号が受信されている複数のGNSS衛星S_iの中から、衛星の仰角が最も大きい衛星が選択される。
【0063】
擬似距離差閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えばGNSS衛星の軌道を前提としたときにGNSS衛星どうしの擬似距離の差として想定される最大値が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。擬似距離差閾値は、例えば1~2km程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0064】
擬似距離判定部52は、GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと基準衛星Srの擬似距離ρrとの差の絶対値が擬似距離差閾値よりも大きいとき、前記GNSS衛星S_iは擬似距離が異常であるとして、前記GNSS衛星S_iを擬似距離異常に分類する。
【0065】
擬似距離判定部52は、GNSS衛星S_iの擬似距離ρ_iと基準衛星Srの擬似距離ρrとの差の絶対値が擬似距離差閾値よりも大きいことに加えて、前記GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号の信号強度/受信強度が所定の閾値よりも高いときに、前記GNSS衛星S_iは擬似距離が異常であるとして、前記GNSS衛星S_iを擬似距離異常に分類するようにしてもよい。
【0066】
そして、擬似距離判定部52は、擬似距離異常に分類したGNSS衛星S_iに関する情報を擬似距離異常の衛星情報として測位部6へと出力する。
【0067】
次に、行路差計算部53は、GNSS受信部4から出力されるGNSS衛星S_iごとのGNSS信号の入力を受け、前記GNSS信号の情報を用いてGNSS衛星S_iから各GNSSアンテナ3A,3B,3Cまでの行路の差を計算する。行路差計算部53および行路差判定部54によって行われる処理のことを「行路差の判定処理」と呼ぶ。
【0068】
行路差計算部53は、GNSS衛星S_iごとに、複数のGNSSアンテナ3A,3B,3Cが所定の間隔で相互に離間して配置されていることに起因して生じる、GNSS衛星S_iから各GNSSアンテナ3A,3B,3Cまでの行路の差(絶対値)を、GNSSアンテナ3A,3B,3Cどうしの間ごとに、つまり2個のGNSSアンテナ3の組み合わせごとに、計算する。
【0069】
図3は行路の差を説明する図である。行路の差は実際には3次元で求められるが、行路の差の原理の説明として
図3では2次元で説明する。
図3に示す例では、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とのそれぞれについてGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差(即ち、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの間における行路差)を取り上げて説明する。
【0070】
GNSS衛星S_1からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_1ABは下記の数式1のように表され、GNSS衛星S_2からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_2ABは下記の数式2のように表される(
図3(A)参照)。
(数1) C_1AB = L_AB×cos(θ_1)
(数2) C_2AB = L_AB×cos(θ_2)
ここに、
L_AB:GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの間の基線ABの寸法
θ_1:GNSS衛星S_1の仰角
θ_2:GNSS衛星S_2の仰角
【0071】
上記の数式1のように表されるGNSS衛星S_1からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_1ABは下記の数式3に従って計算される。また、上記の数式2のように表されるGNSS衛星S_2からGNSSアンテナ3Aまでの行路とGNSSアンテナ3Bまでの行路との差C_2ABは下記の数式4に従って計算される。
(数3) C_1AB = λ_1×(N_1+P_1AB)
(数4) C_2AB = λ_2×(N_2+P_2AB)
ここに、
λ_1:GNSS衛星S_1のGNSS電波の搬送波の波長
λ_2:GNSS衛星S_2のGNSS電波の搬送波の波長
N_1:GNSS衛星S_1のGNSS電波の整数値バイアス(サイクル以上)
N_2:GNSS衛星S_2のGNSS電波の整数値バイアス(サイクル以上)
P_1AB:GNSS衛星S_1のGNSS電波のアンテナ間一重差(サイクル未満)
P_2AB:GNSS衛星S_2のGNSS電波のアンテナ間一重差(サイクル未満)
【0072】
GNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差P_iXYは(但し、X,Y:複数のGNSSアンテナ3を相互に区別して各々を識別するためのアンテナ記号であり、X≠Y;以下同じ)、2つのGNSSアンテナ3(
図3に示す例では、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3B)に対する1つのGNSS衛星S_iの搬送波位相積算値の差である。
【0073】
行路差計算部53は、GNSS衛星S_iごとに、2個のGNSSアンテナ3の組み合わせごとに、GNSS衛星S_iからGNSSアンテナXまでの行路とGNSSアンテナYまでの行路との差C_iXYを計算する。
【0074】
次に、行路差判定部54は、行路差計算部53によって計算されるGNSS衛星S_iごと且つ2個のGNSSアンテナ3の組み合わせごとの行路の差C_iXYが正常であるか否かを判定する。
【0075】
ここで、
図3に示す例において、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とは通常は相互に異なる空間位置に存在するのでGNSSコンパス1(具体的には、GNSSアンテナ3)からみた衛星各々の仰角θ_1と仰角θ_2とが相互に異なる。そして、GNSS衛星S_1の仰角θ_1とGNSS衛星S_2の仰角θ_2とが相互に異なるので、GNSS衛星S_1についての行路の差C_1ABとGNSS衛星S_2についての行路の差C_2ABとは相互に異なる(
図3(A)ならびに上記の数式1,数式2参照)。
【0076】
これに対し、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とがどちらも同じ空間位置に存在する場合にはGNSSコンパス1(具体的には、GNSSアンテナ3)からみた衛星各々の仰角θ_1と仰角θ_2とが同じになる(
図3(B)参照)。そして、GNSS衛星S_1の仰角θ_1とGNSS衛星S_2の仰角θ_2とが同じ場合は、GNSS衛星S_1についての行路の差C_1ABとGNSS衛星S_2についての行路の差C_2ABとは同じになる(上記の数式1,数式2参照)。
【0077】
GNSS衛星S_1の仰角θ_1とGNSS衛星S_2の仰角θ_2とが同じになる場合として、例えば、複数のGNSS衛星の測位情報および軌道情報を含んだ信号が単一の送信アンテナから発信されている場合が考えられ、言い換えると、複数のGNSS衛星からGNSS信号(別言すると、GNSS電波)が送信されているように見せかけたうえで単一の送信アンテナ(言い換えると、同一の地点;尚、地上に設置されているアンテナ局を含む)から複数のGNSS信号が発信されている場合が考えられ、つまり単一の送信アンテナ/同一の地点から複数の偽のGNSS信号が送信されている場合が挙げられる。この点において、この発明における「複数のGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号」は、複数のGNSS衛星S_iからGNSS信号が送信されているように見せかけたうえで単一の送信アンテナ/同一の地点から発信される信号を含む。
【0078】
そこで、行路差判定部54は、複数のGNSS衛星S_iについての行路の差(絶対値)C_iXYどうしの差が所定の行路差閾値以下であるとき、前記複数のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、前記複数のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する。
【0079】
具体的には例えば、GNSSアンテナ3どうしの間ごとに、つまり2個のGNSSアンテナ3の組み合わせごとに、複数のGNSS衛星S_iについての行路の差(絶対値)C_iXYのうちの最大値と最小値との差が所定の行路差閾値以下であるとき、前記複数のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、前記複数のGNSS衛星S_iは行路差異常に分類される。
【0080】
行路差閾値は、特定の値に限定されるものではなく、例えば実際には単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS信号が送信されているとしても機械誤差などに起因して生じると想定される誤差が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。
【0081】
複数のGNSS衛星S_iについてGNSS信号の到来方向が異常であると判定する際の、衛星数の下限が設定されるようにしてもよい。例えば、2個のGNSS衛星S_iについての行路の差C_iXYのうちの最大値と最小値との差が行路差閾値以下であるときは前記2個のGNSS衛星S_iは行路差異常に分類されない一方で、3個以上のGNSS衛星S_iについての行路の差C_iXYのうちの最大値と最小値との差が行路差閾値以下であるときは前記3個以上のGNSS衛星S_iは行路差異常に分類されるようにしてもよい。この場合の衛星数の下限は、特定の値には限定されないものの、例えば3~5程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0082】
行路差異常を判定する際の複数のGNSS衛星S_iを全て同じ種類の衛星とし、衛星の種類ごと、つまり、GPS、GLONASS、BDSなどごとに行路差異常を判定してもよい。例えば、2個のGPS衛星についての行路の差のうちの最大値と最小値との差が行路差閾値以下であるときは前記2個のGPS衛星は行路差異常に分類されない一方で、3個以上のGPS衛星についての行路の差のうちの最大値と最小値との差が行路差閾値以下であるときは前記3個以上のGPS衛星は行路差異常に分類されるようにしてもよい。この場合の衛星数の下限は、特定の値には限定されないものの、例えば3~5程度の範囲のうちのいずれかの値に設定されることが考えられる。
【0083】
行路差判定部54は、行路差の判定処理ごとに複数のGNSS衛星S_iについての行路の差C_iXYのうちの最大値と最小値との差が行路差閾値以下であるときに前記複数のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類するようにしてもよく、或いは、複数のGNSS衛星S_iについての行路の差C_iXYのうちの最大値と最小値との差が行路差閾値以下である状態が所定の時間にわたって継続するときに前記複数のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類するようにしてもよい。
【0084】
ここで、複数のGNSS衛星S_iが相互に異なる空間位置に存在する場合には前記複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差P_iXYは通常は相互に異なるのに対して、単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS信号が送信されている場合には複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差P_iXYは同じになる。そこで、GNSS衛星S_iごとの行路差の判定処理において、複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差P_iXYが検証されるようにしてもよい(上記の数式3,数式4参照)。
【0085】
なお、GNSS衛星S_1とGNSS衛星S_2とが相互に異なる空間位置に存在してGNSS衛星S_1についての行路の差C_1ABとGNSS衛星S_2についての行路の差C_2ABとが実際には異なるにもかかわらず前記2つのGNSS衛星S_1,S_2についてのアンテナ間一重差P_1AB,P_2ABがたまたま同じになることも考えられる。しかしながら、GNSS衛星S_1,S_2は移動しているので、前記の状態が長く(例えば、数秒以上)続くことはない。また、GNSSアンテナ3どうしの間ごとに基線の方向が異なるので、例えば、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Bとの組み合わせにおいて2つのGNSS衛星S_1,S_2についてのアンテナ間一重差P_1AB,P_2ABがたまたま同じになったとしても、GNSSアンテナ3AとGNSSアンテナ3Cとの組み合わせにおいて前記2つのGNSS衛星S_1,S_2についてのアンテナ間一重差P_1AB,P_2ACは同じにはならない。
【0086】
複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差P_iXYを検証する場合は、行路差判定部54は、複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差(絶対値)P_iXYどうしの差が所定の行路差閾値以下であるとき、前記複数のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、前記複数のGNSS衛星S_iを行路差異常に分類する。
【0087】
具体的には例えば、GNSSアンテナ3どうしの間ごとに、つまり2個のGNSSアンテナ3の組み合わせごとに、複数のGNSS衛星S_iについてのアンテナ間一重差(絶対値)P_iXYのうちの最大値と最小値との差が所定の行路差閾値以下であるとき、前記複数のGNSS衛星S_iはGNSS信号の到来方向が異常であるとして、前記複数のGNSS衛星S_iは行路差異常に分類される。
【0088】
この場合の行路差閾値も、特定の値に限定されるものではなく、例えば実際には単一の送信アンテナ/同一の地点から複数のGNSS信号が送信されているとしても機械誤差などに起因して生じると想定される誤差が考慮されるなどしたうえで、適当な値に適宜設定される。
【0089】
GNSS衛星S_iごとの行路差の判定処理に用いられる、GNSS衛星S_iから各GNSSアンテナ3A,3B,3Cまでの行路の差を表す、GNSS衛星S_iについての行路の差C_iXYやアンテナ間一重差P_iXYのことを「行路差指標」と呼ぶ。
【0090】
そして、行路差判定部54は、行路差異常(言い換えると、GNSS信号の到来方向異常)に分類したGNSS衛星S_iに関する情報を行路差異常の衛星情報として測位部6へと出力する。
【0091】
上記の各判定処理において送信時刻異常に分類されるGNSS衛星S_i,擬似距離異常に分類されるGNSS衛星S_i,および行路差異常に分類されるGNSS衛星S_iは測位部6による測位情報の計算処理で使用する衛星群から排除され、排除された前記GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号は測位部6による測位情報の計算処理には使用されない。
【0092】
測位部6が計算する測位情報の項目(具体的には、自機の位置,方位,および姿勢など)ごとに、送信時刻異常,擬似距離異常,および行路差異常のうちのいずれの異常に分類されるGNSS衛星S_iを排除するかが設定されるようにしてもよい。例えば、あくまで説明のための一例として挙げると、自機の位置を計算する際には送信時刻異常に分類されるGNSS衛星S_iは排除される一方で擬似距離異常に分類されるGNSS衛星S_iおよび行路差異常に分類されるGNSS衛星S_iは排除されないようにするとともに、自機の方位や姿勢を計算する際には送信時刻異常に分類されるGNSS衛星S_i,擬似距離異常に分類されるGNSS衛星S_i,および行路差異常に分類されるGNSS衛星S_iのすべてが排除されるようにしてもよい。
【0093】
送信時刻異常,擬似距離異常,および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されたGNSS衛星S_i(言い換えると、正常でないと判定されたGNSS衛星S_i)は前記の異常に分類される状態(言い換えると、前記正常でない状態)が所定の異常保持時間だけ維持される(そして、前記の異常に分類される状態が維持される間は前記の判定処理は行われない)ようにしてもよい。
【0094】
異常保持時間は、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば正常な(言い換えると、測位部6による測位情報の計算処理に使用される)GNSS衛星S_iの数が極端に減る事態を回避することやGNSSコンパス1が搭載される移動体の移動に伴う正常なGNSS衛星S_iの捕捉の可能性を確保することが考慮されるなどしたうえで、適当な時間長さに適宜設定される。異常保持時間は、ゼロに設定されるようにしてもよい。この場合はすなわち、GNSS衛星S_iごとの、送信時刻の判定処理,擬似距離の判定処理,および行路差の判定処理は、異常検出演算処理を実行するたびに毎回行われる。
【0095】
異常保持時間は、異常の種類ごとに設定されるようにしてもよい。すなわち、送信時刻異常に分類される場合と、擬似距離異常に分類される場合と、行路差異常に分類される場合とで、異常保持時間が、すべて同じ時間長さに設定されるようにしてもよく、或いは、相互に異なる時間長さに設定されるようにしてもよい。
【0096】
異常に分類される状態が異常保持時間だけ維持される場合は、送信時刻異常,擬似距離異常,および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されたGNSS衛星S_iが、前記異常保持時間の経過後に直ちに異常の分類から外されてGNSS信号の受信対象の衛星(そして、上記の各判定処理の対象の衛星)とされるようにしてもよく、或いは、前記異常保持時間の経過後に異常に分類されない状態が所定の正常継続時間だけ維持されたときに異常の分類から外されてGNSS信号の受信対象の衛星(そして、上記の各判定処理の対象の衛星)とされるようにしてもよい。
【0097】
正常継続時間は、特定の時間長さに限定されるものではなく、例えば正常な(言い換えると、測位部6による測位情報の計算処理に使用される)GNSS衛星S_iの数が極端に減る事態を回避することが考慮されるなどしたうえで、適当な時間長さに適宜設定される。
【0098】
正常継続時間は、異常の種類ごとに設定されるようにしてもよい。すなわち、送信時刻異常に分類される場合と、擬似距離異常に分類される場合と、行路差異常に分類される場合とで、正常継続時間が、すべて同じ時間長さに設定されるようにしてもよく、或いは、相互に異なる時間長さに設定されるようにしてもよい。
【0099】
GNSS衛星S_iが送信時刻異常,擬似距離異常,および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されている状態で、前記GNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号に含まれている当該GNSS信号の送信時刻と基準送信時刻との差の絶対値が時刻差閾値未満になった場合に、前記GNSS衛星S_iについての異常は解消されたと判断して、前記GNSS衛星S_iが異常の分類から外される(言い換えると、前記GNSS衛星S_iの異常の状態が解除される)ようにしてもよい。また、複数のGNSS衛星S_iが行路差異常に分類されている状態で、前記複数のGNSS衛星S_iについての行路の差(絶対値)C_iXYどうしの差が行路差閾値より大きくなった場合に、前記複数のGNSS衛星S_iについての行路差異常は解消されたと判断して、前記複数のGNSS衛星S_iが行路差異常の分類から外される(言い換えると、前記複数のGNSS衛星S_iの異常の状態が解除される)ようにしてもよい。
【0100】
GNSSコンパス1に付随する、例えばモニタやスピーカを備える出力装置(図示していない)が設けられて、送信時刻異常,擬似距離異常,および行路差異常(のうちのいずれか)が発生したことが、出力装置のモニタに警報画面が表示されたり出力装置のスピーカから警報が発出されたりして、ユーザへと通知されるようにしてもよい。また、GNSS信号を利用する他の機器(例えば、レーダ,慣性航法装置)に対して送信時刻異常,擬似距離異常,および行路差異常(のうちのいずれか)が発生したことが通知されるようにしてもよい。
【0101】
送信時刻異常,擬似距離異常,および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されるGNSS衛星S_iの数が多くて測位部6による測位情報の計算処理で使用するGNSS衛星S_iの数が少なくなった場合に、前記の異常に分類されるGNSS衛星S_iとGNSSの種類が異なる(即ち、周波数帯が異なる)衛星の受信チャネル割り当て数が増やされるようにしてもよい。つまり、異常に分類されるGNSS衛星S_iの数に応じて、前記異常に分類される前記GNSS衛星S_iと周波数帯が異なる衛星の受信チャネル割り当て数が変化するようにしてもよい。
【0102】
例えば、GNSS受信部4の仕様として複数のGNSSの種類(例えば、GPS,GLONASS,BDS)が同一の受信チャネルに共有して割り当てられ且つ割り当てられる衛星数に制限がある場合に、送信時刻異常,擬似距離異常,および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されるGNSS衛星S_iがないときは測位部6による測位情報の計算の精度を優先したGNSS衛星S_iが多く割り当てられ、一方、送信時刻異常,擬似距離異常,および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されるGNSS衛星S_iが多いときは測位部6による測位情報の計算の継続を優先できるGNSS衛星S_iが多く割り当てられるようにしてもよい。
【0103】
送信時刻異常,擬似距離異常,および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されるGNSS衛星S_iの数が多くて測位部6による測位情報の計算処理で使用するGNSS衛星S_iの数が少ないために測位部6による測位情報の計算処理ができない状態が所定の時間以上継続した場合に、フェールセーフのため、前記の異常に分類されたGNSS衛星S_iが、前記の異常の分類から外されてGNSS信号の受信対象の衛星(そして、上記の各判定処理の対象の衛星)とされるようにしてもよい。この場合、GNSS受信部4から出力されるGNSS信号に、送信時刻異常,擬似距離異常,および行路差異常(のうちのいずれか)に分類されているGNSS衛星S_iであることを示す情報(例えば、フラグ)が付加されるようにしてもよい。
【0104】
実施の形態に係る受信信号の異常の検出方法やGNSSコンパス1によれば、送信時刻異常および擬似距離異常を検出するとともに行路差異常(言い換えると、GNSS信号の到来方向の異常)を検出するようにしているので、行路差異常は一層確実にGNSS信号の異常を検出することができるものの複数のGNSS衛星S_iから送信されるGNSS信号を対象として処理を行うので検知が遅れることも考えられる一方で送信時刻異常や擬似距離異常はGNSS衛星S_iごとに独立に処理を行うので検知を即時的に行うことができ、送信時刻や擬似距離の判定処理と行路差の判定処理とを組み合わせることでGNSSにおける受信信号の異常を相互補完的に検出してGNSSにおける受信信号の異常の検出処理の信頼性を向上させることが可能となる。
【0105】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。
【0106】
例えば、上記の実施の形態では
図1に概略構成を示すGNSSコンパス1においてこの発明に係る受信信号の異常の検出方法が実施される(言い換えると、この発明に係る受信信号の異常の検出装置がGNSSコンパス1に組み込まれる)ようにしているが、この発明に係る受信信号の異常の検出方法が適用されたりこの発明に係る受信信号の異常の検出装置が組み込まれたりする機器/装置は
図1に概略構成を示すGNSSコンパス1に限定されるものではなく、他の構成を備えるGNSSコンパスにこの発明に係る受信信号の異常の検出方法が適用されたりこの発明に係る受信信号の異常の検出装置が組み込まれたりするようにしてもよく、また、この発明に係る受信信号の異常の検出方法が、GNSSを利用する他の種類の機器や装置に適用されたり、この発明に係る受信信号の異常の検出装置が、GNSSを利用する他の種類の機器や装置に組み込まれたりするようにしてもよい。
【0107】
また、上記の実施の形態では擬似距離判定部52を備えて擬似距離の判定処理を行うようにしているが、この発明において擬似距離の判定処理は必須の処理ではない。この場合も、送信時刻判定部51による送信時刻の判定処理が行われることにより、GNSS衛星S_iごとに独立に処理を行うので検知を即時的に行うことができ、送信時刻の判定処理と行路差の判定処理とを組み合わせることでGNSSにおける受信信号の異常を相互補完的に検出してGNSSにおける受信信号の異常の検出処理の信頼性を向上させることが可能となる。
【符号の説明】
【0108】
1 GNSSコンパス
2 制御ユニット
3 GNSSアンテナ
3A,3B,3C GNSSアンテナ
4 GNSS受信部
4A,4B,4C GNSS受信器
5 異常検出部
51 送信時刻判定部
52 擬似距離判定部
53 行路差計算部
54 行路差判定部
6 測位部