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▶ 三栄源エフ・エフ・アイ株式会社の特許一覧

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155163
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】食品の歩留まり向上方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/00 20160101AFI20231013BHJP
   A23L 27/00 20160101ALI20231013BHJP
   A23L 27/30 20160101ALI20231013BHJP
   A23B 7/10 20060101ALN20231013BHJP
   A23L 15/00 20160101ALN20231013BHJP
【FI】
A23L5/00 Z
A23L27/00 E
A23L5/00 H
A23L27/30 Z
A23B7/10 A
A23B7/10 C
A23L15/00 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023030610
(22)【出願日】2023-03-01
(31)【優先権主張番号】P 2022063863
(32)【優先日】2022-04-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000175283
【氏名又は名称】三栄源エフ・エフ・アイ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】牛谷 健作
【テーマコード(参考)】
4B035
4B042
4B047
4B169
【Fターム(参考)】
4B035LC16
4B035LE03
4B035LG01
4B035LG14
4B035LG19
4B035LG32
4B035LG43
4B035LG48
4B035LK03
4B035LP25
4B042AC06
4B042AC10
4B042AD40
4B042AG07
4B042AH09
4B042AK01
4B042AK02
4B042AK08
4B042AK10
4B042AP07
4B047LB08
4B047LB09
4B047LE01
4B047LF01
4B047LF10
4B047LG03
4B047LG05
4B047LG15
4B047LG23
4B047LG62
4B047LP20
4B169DA01
4B169DA02
4B169DA03
4B169DA11
4B169DA14
4B169DA20
4B169HA07
4B169HA15
(57)【要約】
【課題】食品の歩留まりを向上する方法を提供する。
【解決手段】スクラロースを含有する調味液で食品を処理する工程を含む、食品の歩留まり向上方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スクラロースを含有する調味液で食品を処理する工程を含む、食品の歩留まり向上方法。
【請求項2】
調味液中のスクラロースの含有率が0.0008~0.07質量%である、請求項1に記載の食品の歩留まり向上方法。
【請求項3】
食品が漬物又は卵である、請求項1又は2に記載の食品の歩留まり向上方法。
【請求項4】
スクラロースを含有する、食品用歩留まり向上剤。
【請求項5】
請求項4に記載の食品用歩留まり向上剤を含有する、歩留まりを向上するための食品。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、食品の歩留まり向上方法に関する。また本発明は、食品用歩留まり向上剤に関する。また本発明は、歩留まりを向上するための食品に関する。
【背景技術】
【0002】
魚肉又は畜肉等を加熱処理することにより引き起こされる水分の流出による重量減少、すなわち歩留まりの低下を防止する目的で、種々の方法が試みられている。例えば特許文献1には、特定のトリグリセリドを含む調理液に、食肉を浸漬して処理することにより、食肉加工食品の歩留まりを改善する方法が開示されている。
【0003】
食品の歩留まりについては、ショ糖、還元水飴、ぶどう糖、果糖といった甘味料を含有する調味液に食品を浸漬して処理した際に、食品中の水分が流出して重量が減少するという課題がある。しかしながら、そのような歩留まりの低下を抑制する有効な方法は知られておらず、歩留まりを向上する方法が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2021-145673号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、食品の歩留まりを向上する方法を提供することを目的とする。また、本発明は、食品用歩留まり向上剤を提供することを目的とする。また、本発明は、歩留まりが向上した食品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討を重ねたところ、ショ糖、還元水飴、ぶどう糖、果糖といった甘味料を含有する調味液に、それらの代わりにスクラロースを含有させることで、調味液で処理した食品の歩留まりが向上することを見出し、本発明に想到した。
【0007】
すなわち、本発明は下記の実施形態を有する。
【0008】
(I)食品の歩留まり向上方法
(I-1)スクラロースを含有する調味液で食品を処理する工程を含む、食品の歩留まり向上方法。
(I-2)調味液中のスクラロースの含有率が0.0008~0.07質量%である、(I-1)に記載の食品の歩留まり向上方法。
(I-3)食品が漬物又は卵である、(I-1)又は(I-2)に記載の食品の歩留まり向上方法。
【0009】
(II)食品用歩留まり向上剤
(II-1)スクラロースを含有する、食品用歩留まり向上剤。
【0010】
(III)歩留まりを向上するための食品
(III-1) (II-1)の食品用歩留まり向上剤を含有する、歩留まりを向上するための食品。
【発明の効果】
【0011】
本発明の食品の歩留まり向上方法又は食品用歩留まり向上剤を食品に用いることにより、食品の歩留まりを向上することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本明細書中、語句「含む」又は語句「含有する」は、語句「からなる」、及び語句「のみからなる」を包含することを意図して用いられる。本明細書中に記載の操作、及び工程は、特に記載のない限り、室温で実施され得る。本明細書中、用語「室温」は、技術常識に従って理解され、例えば、10~35℃の範囲内の温度を意味することができる。
【0013】
(I)食品の歩留まり向上方法
本発明の食品の歩留まり向上方法(以下「本歩留まり向上方法」とも称する)は、スクラロースを含有する調味液で食品を処理する工程を含む。
【0014】
本発明において、「食品の歩留まり」とは、食品を調味液で処理したときの、処理前後の食品の重量変化の程度を意味する。つまり、「食品の歩留まりが高い」とは、食品を調味液で処理したときに、食品からの水分の流出が少なく、処理前後の食品の重量変化が少ないことを意味する。
【0015】
(スクラロース)
スクラロース(化学名: 1,6-Dichloro-1,6-dideoxy-β-D-fructofuranosyl-4-chloro-4-deoxy-α-D-galactopyranoside)は、ショ糖の約600倍の甘味度を有していることが知られている甘味成分である。水に溶けやすく、安定性に優れているため、従来広く様々な用途で食品に使用されている成分である。ちなみにスクラロースの甘味の閾値は、約10ppmである。スクラロースは商業的に入手することができ、例えば三栄源エフ・エフ・アイ株式会社から市販されている。
【0016】
前記のとおり、スクラロースはショ糖の約600倍の甘味度を有していることから、食品の歩留まりを向上させる目的に加えて、甘味料として、ショ糖を含有する調味液のショ糖の代替品として調味液に含有させることができる。
【0017】
調味液中のスクラロースの含有率は、歩留まり向上及び甘味付与の観点からり、好ましくは0.0008~0.7質量%であり、さらに好ましくは0.004~0.05質量%であり、特に好ましくは0.01~0.04質量%である。
【0018】
本発明における食品としては、調味液に浸漬して処理する食品であれば、特に制限はない。食品の具体例としては、野菜、果物、穀物、豆類、肉類、魚貝類、漬物(梅干し、浅漬け、福神漬、らっきょ、つぼ漬、はりはり漬、しば漬、たくあん、べったら漬、ピックルス、キムチ等)、卵(味付け卵等)等が挙げられる。これらのうち、好ましくは漬物及び卵である。
【0019】
本発明における調味液は、処理する食品に応じて、原材料を適宜選択して調製することができる。調味液の原材料としては、塩、醤油、味噌、酢、みりん、酒、香辛料、甘味料(砂糖、水あめ、高甘味度甘味料等)、だし(昆布、鰹節、キノコ類等から抽出したもの)、エキス(畜肉類、魚介類、酵母等から得たもの)といった、一般的に調味液に配合されるものが挙げられる。
【0020】
本歩留まり向上方法における、調味液で食品を処理する工程については特に制限はないが、例えば、食品を調味液に浸漬する方法が挙げられる。食品を調味液に浸漬する時間、温度等については、食品の種類、目的に応じて適宜調整すればよい。
【0021】
(II)食品用歩留まり向上剤
本発明の食品用歩留まり向上剤(以下「本歩留まり向上剤」とも称する)は、スクラロースを含有する。
【0022】
本歩留まり向上剤のスクラロースの含有率は、歩留まり向上及び甘味付与の観点から、好ましくは1~100質量%であり、さらに好ましくは3~90質量%であり、特に好ましくは10~80質量%である。
【0023】
本歩留まり向上剤の形態としては、固体(粉末状、顆粒状、タブレット状、カプセル剤状等)、半固体又は液体(液状(水溶液、分散液状、懸濁液状を含む)、乳液状、シロップ状、ペースト状、ジェル状等)等を挙げることができる。
【0024】
本歩留まり向上剤には、本発明の効果を妨げないことを限度として、食品に配合可能な可食性の担体(基剤)や添加剤を適宜配合することもできる。
【0025】
担体や添加剤を用いることで、本歩留まり向上剤は、前記の固体、半固体又は液体の剤型といった、任意の剤型にすることができる。その一例として、本有効成分を溶解又は分散した水溶液に賦形剤を配合し、噴霧乾燥又は凍結乾燥等の定法に従って粉末化して粉末製剤として調製してもよく、さらに造粒することで顆粒製剤として調製してもよい。
【0026】
本歩留まり向上剤を食品に使用する方法としては、本歩留まり向上方法が好適である。つまり、前記の調味液に本歩留まり向上剤を添加し、食品をその調味液に浸漬する方法が挙げられる。本歩留まり向上剤が使用できる食品、調味液、調味液に浸漬する方法等については、前記の本歩留まり向上方法に関する説明を援用することができる。
【0027】
(III)歩留まりを向上するための食品
本発明の歩留まりを向上するための食品(以下「本食品」とも称する)は、本食品用歩留まり向上剤を含有する。
【0028】
本食品としては、本歩留まり向上方法の説明で例示した食品を、本歩留まり向上剤を含有する調味液で処理して得られたものが挙げられる。調味液、調味液で処理する方法等については、前記の本歩留まり向上方法に関する説明を援用することができる。
【実施例0029】
本発明の内容を以下の実験例や実施例を用いて具体的に説明する。しかし、本発明はこれらに何ら限定されるものではない。下記において、特に言及する場合を除いて、実験は大気圧及び常温条件下で行っている。また特に言及する場合を除いて、「%」は「質量%」を、「部」は「質量部」を意味する。
【0030】
<梅干しの歩留まり率の測定>
以下の方法で梅干しを調製し、梅干しの歩留まり率を算出した。
(1)塩漬け梅干し((有)紀州梅苑製)を6時間流水下に放置して脱塩した。
(2)水から梅干しを取り出し、10分間静置して梅干し表面の水分を除去した後、梅干し(4個/1検体)の質量を測定した。
(3)表1の調味液(実施例1~5、比較例1)それぞれに3検体ずつ梅干しを浸漬し(梅干し:調味液=1:2(質量比))、冷蔵庫で10日間漬け込んだ。
(4)調味液から梅干しを取り出し、10分間静置して梅干し表面の調味液を除去した後、梅干しの質量を測定し、以下の計算式で1検体ずつ梅干しの歩留まり率を算出し、その平均値を平均歩留まり率とした。結果を表2、3に示す。

梅干しの歩留まり率(%)=(調味液に浸漬した後の梅干しの質量/調味液に浸漬する前の梅干しの質量)×100
【0031】
【表1】
【0032】
梅干しの調味液に使用した原料の入手先は以下の通りである。なお、表1に記載した各成分の配合量は各製品の量である。
・還元水飴(製品名:アマミール、三菱商事ライフサイエンス(株)製)
・スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)
・醸造酢(製品名:穀物酢、(株)Mizkan製)
・サンライク(登録商標)アミノベースNAG(調味料、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)
なお、比較例1の還元水飴とショ糖のトータルの甘味と同じ甘味になるように、実施例4のスクラロースの添加量を調整した。また、実施例4のスクラロースの添加量を基準に、実施例1~3、5のスクラロースの添加量を増減させた。
【0033】
【表2】
【0034】
【表3】
【0035】
表2、3から明らかなように、調味液にスクラロースを添加した実施例1~5の梅干しは、調味液に還元水飴とショ糖を添加した比較例1の梅干しと比較して歩留まり率が高く、スクラロースは、還元水飴とショ糖を併用したものよりも、歩留まり向上効果が高いといえる。
【0036】
<きゅうりの浅漬けの歩留まり率の測定>
以下の方法できゅうりの浅漬けを調製し、きゅうりの浅漬けの歩留まり率を算出した。
(1)きゅうりを5mm幅に斜め切りし、きゅうり(5枚/1検体)の質量を測定した。
(2)表4の調味液(実施例6~9、比較例2)それぞれにきゅうりを3検体ずつ浸漬し(きゅうり:調味液=1:3(質量比))、冷蔵庫で1日間漬け込んだ。
(3)調味液からきゅうりを取り出し、10分間静置してきゅうり表面の調味液を除去した後、きゅうりの質量を測定し、以下の計算式で1検体ずつきゅうりの浅漬けの歩留まり率を算出し、その平均値を平均歩留まり率とした。結果を表5、6に示す。

きゅうりの浅漬けの歩留まり率(%)=(調味液に浸漬した後のきゅうりの質量/調味液に浸漬する前のきゅうりの質量)×100
【0037】
【表4】
【0038】
きゅうりの浅漬けの調味液に使用した原料の入手先は以下の通りである。なお、表4に記載した各成分の配合量は各製品の量である。
・果糖ぶどう糖液糖(製品名:ニューフラクト55、昭和産業(株)製)
・スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)
・淡口醤油(製品名:うすくちしょうゆ、ヒガシマル醤油(株)製)
・醸造酢(製品名:穀物酢、(株)Mizkan製)
・L-グルタミン酸ナトリウム(製品名:味の素(登録商標)RC-BR、味の素(株)製)
・サンライク(登録商標)テイストベース(登録商標)A(改)(調味料、三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)
なお、比較例2の果糖ぶどう糖液糖の甘味と同じ甘味になるように、実施例8のスクラロースの添加量を調整した。また、実施例8のスクラロースの添加量を基準に、実施例6、7、9のスクラロースの添加量を増減させた。
【0039】
【表5】
【0040】
【表6】
【0041】
表5、6から明らかなように、調味液にスクラロースを添加した実施例6~9のきゅうりの浅漬けは、調味液に果糖ぶどう糖液糖を添加した比較例2のきゅうりの浅漬けと比較して、歩留まり率が高く、スクラロースは、果糖ぶどう糖液糖よりも歩留まり向上効果が高いといえる。
【0042】
<味付け卵の歩留まり率の測定>
以下の方法で味付け卵を調製し、味付け卵の歩留まり率を算出した。
(1)殻付き卵を水に浸漬し、沸騰下9分間ゆでて、ゆで卵を調製した。
(2)ゆで卵を水で冷却後殻を剥き、ゆで卵(2個/1検体)の質量を測定した。
(3)耐熱袋に殻を剥いたゆで卵と表7の調味液100gを入れ、密封後85℃で30分間加熱し、その耐熱袋ごと冷蔵庫で3日間保管して味付け卵を調製した。
(4)耐熱袋から味付け卵を取り出し、表面の調味液をふき取った後、味付け卵(2個/1検体)の質量を測定し、以下の計算式で味付け卵の歩留まり率を算出した。結果を表8に示す。

味付け卵の歩留まり率(%)=(調味液に浸漬した後の味付け卵の質量/調味液に浸漬する前のゆで卵の質量)×100
【0043】
【表7】
【0044】
味付け卵の調味液に使用した原料の入手先は以下の通りである。なお、表7に記載した各成分の配合量は各製品の量である。
・スクラロース(三栄源エフ・エフ・アイ(株)製)
・濃口醤油(製品名:こいくちしょうゆ、キッコーマン(株)製)
・本みりん(製品名:本みりん 醇良、宝酒造(株)製)
なお、比較例3のショ糖の甘味と同じ甘味になるように、実施例10のスクラロースの添加量を調整した。
【0045】
【表8】
【0046】
表8から明らかなように、調味液にスクラロースを添加した実施例10の味付け卵は、調味液にショ糖を添加した比較例3の味付け卵と比較して、歩留まり率が高く、スクラロースは、ショ糖よりも歩留まり向上効果が高いといえる。