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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155169
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】眼科用水性組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/14 20060101AFI20231013BHJP
   A61P 27/02 20060101ALI20231013BHJP
   A61K 47/04 20060101ALI20231013BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
A61K31/14
A61P27/02
A61K47/04
A61K9/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023039620
(22)【出願日】2023-03-14
(31)【優先権主張番号】P 2022064620
(32)【優先日】2022-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594105224
【氏名又は名称】東亜薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】西尾 真季
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 慎治郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一真
【テーマコード(参考)】
4C076
4C206
【Fターム(参考)】
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD22
4C076DD26
4C076DD38
4C076FF67
4C206AA01
4C206AA02
4C206FA42
4C206KA01
4C206MA03
4C206MA05
4C206MA37
4C206NA06
4C206ZA33
(57)【要約】
【課題】組成物全体に対して0.0002w/v%以下の濃度でベンゼトニウム塩を含有する場合であっても、優れた殺菌活性を有する眼科用水性組成物を提供する。
【解決手段】ベンゼトニウム塩と、(i)及び(ii)から選択される1以上と、を含有し、組成物全体に対するベンゼトニウム塩の含有濃度(w/v%)が0.0002w/v%以下である、眼科用水性組成物が提供される。
(i)リン酸、リン酸塩、リン酸又はリン酸塩の無水物、及び、リン酸又はリン酸塩の水和物からなる群から選択される1以上
(ii)ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸又はホウ酸塩の無水物、及び、ホウ酸又はホウ酸塩の水和物からなる群から選択される1以上
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベンゼトニウム塩と、(i)及び(ii)から選択される1以上と、を含有し、組成物全体に対するベンゼトニウム塩の濃度(w/v%)が0.0002w/v%以下である、眼科用水性組成物。
(i)リン酸、リン酸塩、リン酸又はリン酸塩の無水物、及び、リン酸又はリン酸塩の水和物からなる群から選択される1以上
(ii)ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸又はホウ酸塩の無水物、及び、ホウ酸又はホウ酸塩の水和物からなる群から選択される1以上
【請求項2】
(ii)を含有する、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項3】
組成物全体に対するベンゼトニウム塩の濃度(w/v%)が0.00001w/v%以上である、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項4】
点眼剤である、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項5】
ポリオレフィン系樹脂製容器に収容されている、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項6】
マルチドーズ型容器に収容されている、請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項7】
pHが4.5以上9以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
【請求項8】
浸透圧比が0.5以上2以下である、請求項1から6のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
【請求項9】
日本薬局方(第18改正)に規定する保存効力試験に適合する、請求項1から6のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用水性組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
眼科用水性組成物は、水を含むことから、点眼液等で繰り返し使用する場合、微生物汚染の危険にさらされる。微生物汚染を防止するために、多くの点眼剤は防腐剤(保存剤)を配合している。例えば特許文献1には、水性組成物に優れた防腐効果を持たせる技術として、有効成分と、第4級アンモニウム型界面活性剤とを含有する、水性組成物が開示されている。
【0003】
眼科用水性組成物において防腐剤として用いられる第4級アンモニウム型界面活性剤としては、塩化ベンゼトニウム、塩化ベンザルコニウム等が一般的に知られる。非特許文献1には、眼科用水性組成物における塩化ベンゼトニウム又は塩化ベンザルコニウムの有効濃度、すなわち十分な殺菌活性を示す濃度は、どちらも0.002~0.01%であることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/047719号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】南山堂(1984) 「点眼剤」76-83頁
【非特許文献2】大橋裕一(1994) 眼科 New Insight 第2巻 点眼剤-常識と非常識- 「第II章 点眼薬のできるまで 防腐剤の功罪」
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、一般に眼科用水性組成物に用いられる濃度の防腐剤においては細胞毒性が認められ、防腐剤を所定濃度以上で含有する場合には、しばしば角膜上皮障害の原因となり得ることが知られる。例えば、非特許文献2には、眼科用水性組成物に防腐剤として用いられる塩化ベンザルコニウム、パラベン類及びクロロブタノールについて、市販されている点眼薬に含まれるよりも低い濃度においても、角膜上皮の伸びがほとんど完全に阻害されることが示されている。したがって、角膜上皮障害が生じないようにするためには、角膜上皮の伸びが阻害されない程度まで防腐剤濃度を低くする必要がある。この点について、非特許文献2には、塩化ベンザルコニウムの含有濃度が0.0002%以下である場合には、角膜上皮の伸びが約70%以上維持されることが示されている。したがって、眼科用水性組成物中に含まれる防腐剤によって引き起こされる角膜上皮障害のリスクを低減する観点からは、眼科用水性組成物中の塩化ベンザルコニウムや塩化ベンゼトニウム等の第4級アンモニウム塩の濃度を0.0002%以下とすることが望ましい。
【0007】
本発明は、組成物全体に対して0.0002w/v%以下の濃度でベンゼトニウム塩を含有する場合であっても、優れた防腐効力を有する眼科用水性組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討した結果、0.0002w/v%以下の濃度でベンゼトニウム塩を含有する眼科用水性組成物において、特定の組成とすることにより、優れた防腐効力が認められることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
すなわち、本発明は以下に関する。
[1]ベンゼトニウム塩と、(i)及び(ii)から選択される1以上と、を含有し、組成物全体に対するベンゼトニウム塩の濃度(w/v%)が0.0002w/v%以下である、眼科用水性組成物。
(i)リン酸、リン酸塩、リン酸又はリン酸塩の無水物、及び、リン酸又はリン酸塩の水和物からなる群から選択される1以上
(ii)ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸又はホウ酸塩の無水物、及び、ホウ酸又はホウ酸塩の水和物からなる群から選択される1以上
[2](ii)を含有する、[1]に記載の眼科用水性組成物。
[3]組成物全体に対するベンゼトニウム塩の濃度(w/v%)が0.00001w/v%以上である、[1]又は[2]に記載の眼科用水性組成物。
[4]点眼剤である、[1]-[3]のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
[5]ポリオレフィン系樹脂製容器に収容されている、[1]-[4]のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
[6]マルチドーズ型容器に収容されている、[1]-[5]のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
[7]pHが4.5以上9以下である、[1]-[6]のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
[8]浸透圧比が0.5以上2以下である、[1]-[7]のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
[9]日本薬局方(第18改正)に規定する保存効力試験に適合する、[1]-[8]のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、組成物全体に対して0.0002w/v%以下の濃度でベンゼトニウム塩を含有する場合であっても、優れた防腐効力を有し、角膜上皮障害のリスクが低減された眼科用水性組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0012】
本発明において、眼科用水性組成物とは、対象の眼に局所的に投与される目的を有し、例えば、点眼、眼局所注射等により投与される水性組成物をいう。また、水性組成物とは、少なくとも水を含有する組成物をいい、その性状は特に限定されない。水性組成物は、例えば、水を基剤とする、水溶液、水性懸濁液、エマルション等であってよい。
水性組成物に含まれる水の含有量は特に限定されないが、5w/v%以上が好ましく、20w/v%以上がより好ましく、50w/v%以上が更に好ましく、90w/v%以上が更により好ましく、90~99.8w/v%が特に好ましい。
【0013】
本発明の一実施形態に係る眼科用水性組成物は、防腐剤としてベンゼトニウム塩を含有している。本発明において、防腐剤とは、細菌、真菌等に対し、殺菌作用ないし静菌作用を示す添加剤をいう。また、防腐性能、防腐効力等という場合には、細菌、真菌等に対する殺菌作用ないし静菌作用を意味する。
【0014】
ベンゼトニウム塩の種類は特に限定されない。例えば、ベンゼトニウム塩は塩化ベンゼトニウムであってもよい。
【0015】
眼科用水性組成物が含有するベンゼトニウム塩の濃度の下限は、特に限定されず、例えば0.000001w/v%以上であってよく、好ましくは0.00001w/v%以上であってよく、さらに、0.00005w/v%以上、0.0001w/v%以上、又は0.00012w/v%以上とすることができ、後記する上限のいずれかと適宜組み合わせることにより、眼科用水性組成物中のベンゼトニウム塩の濃度範囲を特定してもよい。本明細書において、ベンゼトニウム塩の濃度は、塩化ベンゼトニウムとしての濃度で表される。例えば、眼科用水性組成物中のベンゼトニウムイオンの濃度がAw/v%である場合、ベンゼトニウム塩の濃度は(448.08/412.63)×Aw/v%であるものとする。
【0016】
非特許文献2には、培養角膜において検討した結果、眼科用水性組成物中の第4級アンモニウム塩の濃度が、0%、すなわち、眼科水性組成物中に第4級アンモニウム塩を含まないときの角膜上皮の伸びを100%とした場合、第4級アンモニウム塩の濃度が、0.0005%の場合には角膜上皮の伸びが20%程度にまで減少するのに対し、0.0002%以下の場合には角膜上皮の伸びが少なくとも65%以上維持され、0.0001%以下の場合には角膜上皮の伸びが少なくとも75%以上維持され、0.00005%以下の場合には角膜上皮の伸びが少なくとも85%以上維持されることが示されている。このことから、眼科用水性組成物中に含まれる第4級アンモニウム塩が高濃度になると角膜上皮の伸びが抑制され、角膜上皮障害のリスクが高まることが考えられる。したがって、角膜上皮障害のリスクを低減させるためには、眼科用水性組成物に含まれるベンゼトニウム塩等の第4級アンモニウム塩の濃度は、極力低い方が望ましい。その濃度は、好ましくは0.0002w/v%以下である。
【0017】
一実施形態において、眼科用水性組成物はホウ酸を含有していてもよい。本明細書においてホウ酸は、ホウ砂のようなホウ酸塩、ホウ酸又はホウ酸塩の無水物、及び、ホウ酸又はホウ酸塩の水和物を含む概念であり、これらの濃度はホウ酸としての濃度で表される。ホウ酸を含有することにより、防腐性能を保ちながらベンゼトニウム塩の濃度を減らすことができる。眼科用水性組成物が含有するホウ酸の濃度は特に限定されず、例えば0.01w/v%以上、0.02w/v%以上、0.05w/v%以上、0.1w/v%以上、0.6w/v%以上、又は、1.27w/v%以上であってよく、5.0w/v%以下、又は2.0w/v%以下であってよい。なお、ホウ酸が防腐性能を保つ機能に加えて緩衝剤又はpH調整剤としての機能を有していてもよい。
【0018】
また、眼科用水性組成物がホウ酸を含有している場合、眼科用水性組成物が含有するベンゼトニウム塩の濃度は0.0002w/v%以下、0.00015w/v%以下、0.00012w/v%以下、0.0001w/v%以下、0.00008w/v%以下、0.00005w/v%以下、0.00004w/v%以下、0.00003w/v%以下、0.00002w/v%以下、又は0.00001w/v%以下であってもよい。
【0019】
一実施形態において、眼科用水性組成物はリン酸を含有していてもよい。本明細書においてリン酸は、リン酸塩、リン酸又はリン酸塩の無水物、及び、リン酸又はリン酸塩の水和物を含む概念であり、これらの濃度はリン酸としての濃度で表される。本発明の眼科用水性組成物の好ましい態様の一つにおいては、無水リン酸二水素ナトリウムを含有する。リン酸を含有することにより、防腐性能を保ちながらベンゼトニウム塩の濃度を減らすことができる。眼科用水性組成物が含有するリン酸の濃度は特に限定されず、例えば0.01w/v%以上、0.02w/v%以上、0.05w/v%以上、0.1w/v%以上、又は0.4w/v%以上であってよく、5.0w/v%以下、又は2.0w/v%以下であってよい。なお、リン酸が防腐性能を保つ機能に加えて緩衝剤又はpH調整剤としての機能を有していてもよい。
【0020】
また、眼科用水性組成物がリン酸を含有している場合、眼科用水性組成物が含有するベンゼトニウム塩の濃度は0.0002w/v%以下、0.00015w/v%以下、0.00012w/v%以下、0.0001w/v%以下、0.00008w/v%以下、0.00005w/v%以下、0.00004w/v%以下、0.00003w/v%以下、0.00002w/v%以下、又は0.00001w/v%以下であってもよい。
【0021】
一実施形態において、眼科用水性組成物はエチレンジアミン四酢酸(エデト酸)を含有していてもよい。本明細書においてエデト酸は、エデト酸ナトリウムのようなエデト酸塩及びエデト酸ナトリウム水和物のような水和物を含み、これらの濃度はエデト酸としての濃度で表される。エデト酸を含有することにより、防腐性能を保ちながらベンゼトニウム塩の濃度を減らすことができる。眼科用水性組成物が含有するエデト酸の濃度は特に限定されず、例えば0.01w/v%以上、0.02w/v%以上、0.05w/v%以上、又は0.1w/v%以上であってよく、5.0w/v%以下、2.0w/v%以下、1.0w/v%以下であってよい。なお、エデト酸が防腐性能を保つ機能に加えて安定化剤又は抗酸化剤としての機能を有していてもよい。
【0022】
また、眼科用水性組成物がエデト酸を含有している場合、眼科用水性組成物が含有するベンゼトニウム塩の濃度は0.0002w/v%以下、0.00015w/v%以下、0.00012w/v%以下、0.0001w/v%以下、0.00008w/v%以下、0.00005w/v%以下、0.00004w/v%以下、0.00003w/v%以下、0.00002w/v%以下、又は0.00001w/v%以下であってもよい。
【0023】
眼科用水性組成物は、さらに有効成分を含有することができる。有効成分の種類は特に限定されないが、カルテオロール、タフルプロスト、チモロール、ブリモニジン、ラタノプロスト、及びリパスジルのような緑内障治療薬、フルオロメトロン及びベタメタゾンのようなステロイド薬、ジクアホソルナトリウム及びヒアルロン酸のようなドライアイ治療薬、オフロキサシン及びレボフロキサシンのような抗菌薬、プラノプロフェン及びアズレンスルホン酸のような抗炎症薬、クロモグリク酸及びケトチフェンのような抗アレルギー薬、などが挙げられる。
【0024】
眼科用水性組成物が含む溶媒は特に限定されないが、少なくとも水を含有する。眼科用水性組成物中に含まれる水は、特に限定されないが、好ましくは精製水、滅菌精製水、注射用水等である。眼科用水性組成物のpHは点眼可能であれば特に制限されないが、眼への刺激を低減する観点から、例えば4.5以上又は5以上であってもよく、9以下、8以下、又は7以下、6以下であってもよい。
【0025】
眼科用水性組成物は、その他の添加剤を含んでいてもよい。添加剤の例としては、安定化剤、等張化剤、緩衝剤、pH調節剤、粘稠化剤、界面活性剤等が挙げられる。また、眼科用水性組成物が、ベンゼトニウム塩以外の防腐剤を含んでいてもよい。
【0026】
安定化剤の例としては、アスコルビン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、ポピドン、亜硫酸塩、モノエタノールアミン、シクロデキストリン、デキストラン、及びタウリン等が挙げられる。これらの安定化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0027】
等張化剤の例としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、グルコース、ソルビトール、マンニトール、トレハロース、マルトース、スクロース、及びブチレングリコール等が挙げられ、好ましくはグリセリンである。これらの等張化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0028】
緩衝剤の例としては、クエン酸塩、酢酸塩、炭酸塩、酒石酸塩、トロメタモール、及びアミノ酸緩衝剤等が挙げられる。これらの緩衝剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0029】
pH調節剤の例としては、塩酸、クエン酸、酢酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等が挙げられる。これらのpH調節剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0030】
粘稠化剤の例としては、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の水溶性高分子等が挙げられる。これらの粘稠化剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0031】
界面活性剤の例としては、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、モノステアリン酸ポリオキシエチレングリコール、ポリソルベート、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレングリコール、ショ糖脂肪酸エステル、及びチロキサポールなどが挙げられる。これらの界面活性剤は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0032】
一実施形態に係る眼科用水性組成物の浸透圧比は、特に限定されないが、眼への刺激を低減する観点から、0.5以上であってもよく、2以下であってもよい。浸透圧比とは、生理食塩水に対する比である。
【0033】
一実施形態に係る眼科用水性組成物は、点眼液であり、患者への点眼用に用いることができる。
【0034】
一実施形態に係る眼科用水性組成物は、容器に収容することができる。容器の種類は特に限定されないが、ガラス容器又は樹脂製容器であってもよい。樹脂製容器の材質は、例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリスルホン、ポリアミド、又はポリ塩化ビニルであってもよい。
【0035】
また、眼科用組成物は、エチレンオキサイドガス又は過酸化水素等のガスで滅菌処理された容器に収容されてもよい。ガス滅菌処理で使用されるガスの種類については、特に限定されないが、例えば、エチレンオキサイドガス、過酸化水素ガス、及びこれらと二酸化炭素等との混合ガス等が挙げられる。眼科用組成物は、ガンマ線照射又は電子線照射等の放射線で滅菌処理された容器に収容されていてもよい。
【0036】
一実施形態において、変色抑制作用の観点から、眼科用水性組成物はポリオレフィン系樹脂製容器に収容される。ポリオレフィン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリプロピレン、又は環状ポリオレフィンを用いることができる。ポリオレフィン系樹脂製容器は、紫外線吸収剤及び紫外線散乱剤等の紫外線の透過を妨げる物質を有していても良い。
【0037】
本明細書において「ポリオレフィン系樹脂製容器」とは、容器のうち少なくとも水性組成物と接する部分が「ポリオレフィン系樹脂製」である容器を意味する。したがって、例えば、水性組成物と接する内層にポリオレフィン層を設け、その外側に他の材質の樹脂等を積層等させてなる容器も、「ポリオレフィン系樹脂製容器」に該当する。ポリオレフィン系樹脂は特に限定されず、単一種のモノマーの重合体(ホモポリマー)であっても、複数種のモノマーの共重合体(コポリマー)であってもよい。また、コポリマーである場合においては、その重合様式は特に限定されず、ランダム重合でもブロック重合でもよく、さらにその立体規則性(タクティシティー)は特に限定されない。
【0038】
一実施形態に係る眼科用水性組成物はマルチドーズ型容器に収容される。マルチドーズ型容器は、複数回分の使用量の眼科用水性組成物を保持し、繰り返し使用可能な容器のことをいう。もっとも、本実施形態における眼科用水性組成物は、ユニットドーズ型容器に収容されていてもよい。ユニットドーズ型容器は、単回分の使用量の眼科用組成物を保持し、1回の点眼で使用済みとなる容器のことをいう。
【0039】
眼科用水性組成物の製造方法は特に限定されない。ベンゼトニウム塩と、必要に応じてその他の添加剤や有効成分を、精製水に溶解することにより、眼科用水性組成物を製造することができる。
【0040】
本実施形態で得られた眼科用水性組成物は、フィルターを通過させる工程を経て患部へ提供することができる。ここで「フィルター」とは、眼科用水性組成物を通過させるが、細菌及び真菌を通過させない多孔性膜を指す。フィルターの細孔径は、通常5μm以下であり、好ましくは0.1~2.5μm、更に好ましくは0.1~1μmである。本実施形態において、眼科用水性組成物は、フィルター付き容器に収容され、使用時に容器のフィルターを通過させて容器外に注出される眼科用水性組成物であってもよい。また、眼科用水性組成物の製造時のろ過滅菌工程において、眼科用水性組成物にフィルターを通過させてもよい。フィルターの素材は、特に限定されないが、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース混合エステル、ナイロン、又はポリアミド等が挙げられる。
【0041】
一実施形態に係る眼科用水性組成物は、十分な防腐効力を有している。一実施形態において、眼科用水性組成物は日本薬局方(第18改正)に規定する保存効力試験に適合する。同保存効力試験法は、多回投与容器中に充填された製剤自体又は製剤に添加された防腐剤の効力を微生物学的に評価する方法である。
【0042】
日本薬局方(第18改正)に規定する保存効力試験法は、以下のように例示されるが、日本薬局方(第18改正)の規定に従う範囲においては、以下の方法と同一である必要はない。
Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Candida albicans及びAspergillus brasiliensisの5種の菌株をそれぞれカンテン培養又は液体培養し、接種菌液を調製する。試験対象の製剤を含む容器5個のそれぞれの中に、調製した接種菌液をそれぞれ単独に無菌的に注入し、均一に混合する。ここで、混合する接種菌液の量は、製剤の0.5~1.0%とし、通常、製剤1mL又は1g当たり1×10~1×10CFUの生菌数になるように菌液を接種、混合する。これらの容器を遮光下で20~25℃に保存し、接種後0、7、14及び28日目に混合試料中の生菌数を測定する。生菌数の経時的な変化は、接種菌数(CFU/mL又はg)からの対数減少値で表す。
点眼剤においては、日本薬局方(第18改正)の保存効力試験法に規定されるカテゴリーIAの判定基準に従い、保存効力が判定される。同カテゴリーIAの判定基準に適合するには、細菌について、接種7日後に、接種菌数に比べて1.0log以上の減少があり、接種14日後に、接種菌数に比べて3.0log以上の減少があり、接種28日後には、接種14日後の菌数から増加しないことが要求される。さらに真菌について、接種7日後、14日後及び28日後に、接種菌数から増加しないことが要求される。
【実施例0043】
(参考例1)
無水リン酸二水素ナトリウム(0.4g)、グリセリン(2.136g)、及びベンゼトニウム塩化物(0.001g)を、精製水に溶解させ、pH調節剤を加えてpHを6.0に調整することにより、100mLの点眼液を調製した。
【0044】
次に、得られた点眼液に対して保存効力試験を行った。保存効力試験は、日本薬局方(第18改正)に従って行った。具体的には、Escherichia coli、Pseudomonas aeruginosa、Staphylococcus aureus、Candida albicans、及びAspergillus brasiliensisの各菌種を用いて、カテゴリーIAの判定基準を充たすかどうかを確認した。具体的な判定基準は、細菌については接種7日後に接種菌数に比べて1.0log以上の減少があり、接種14日後に接種菌数に比べて3.0log以上の減少があり、接種28日後には14日後の菌数から増加していないこと、真菌については接種7日後、14日後及び28日後に接種菌数から増加していないこと、である。
【0045】
参考例1の点眼液におけるベンゼトニウム塩化物の濃度は0.001%であり、非特許文献1から知られているベンゼトニウム塩化物の最小有効濃度の0.002%よりも低い濃度であるが、保存効力試験の結果、適合していることが確認された。
【0046】
(実施例1)
ベンゼトニウム塩化物の量を0.0002gとしたことを除き、参考例1と同様に点眼液を調製し、保存効力試験を行った。その結果、実施例1の点眼液は保存効力試験に適合していることが確認された。
【0047】
(実施例2)
ベンゼトニウム塩化物の量を0.00015gとしたことを除き、参考例1と同様に点眼液を調製し、保存効力試験を行った。その結果、実施例2の点眼液は保存効力試験に適合していることが確認された。
【0048】
(実施例3)
ホウ酸(1.27g)、グリセリン(0.65g)、及びベンゼトニウム塩化物(0.00015g)を、精製水に溶解させ、pH調節剤を加えてpHを6.0に調整することにより、100mLの点眼液を調製した。次に、参考例1と同様に保存効力試験を行ったところ、実施例3の点眼液は保存効力試験に適合していることが確認された。
【0049】
実施例1~3の点眼液の組成(表1)及び試験結果(保存効力試験における接種7日目、14日目及び28日目の各菌種の接種菌数に対する対数減少値と、適否の結果)(表2)を以下に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
【表2】
【0052】
以上のように、ベンゼトニウム塩と、リン酸又はホウ酸とを含有する眼科用水性組成物は、高い防腐性能を有することが確認された。特に、実施例1~3に示されるように、ベンゼトニウム塩の濃度がわずか0.00015~0.0002w/v%である場合にも、眼科用水性組成物は保存効力試験に適合していた。この結果は、非特許文献1に記載されているように、ベンゼトニウム塩化物の有効濃度が0.002~0.01%であることを踏まえれば、驚くべき結果である。
【0053】
(実施例4~7)
それぞれ、ベンゼトニウム塩化物の量を0.00005g、0.00004g、0.00002g、及び0.00001gとしたことを除き、実施例3と同様に点眼液を調製し、保存効力試験を行った。その結果、実施例4~7の点眼液は保存効力試験に適合していることが確認された。
【0054】
(比較例1)
ベンゼトニウム塩化物が非常に低濃度であるにも関わらず、保存効力試験に適合したことから、実施例3~7に最も高濃度で含まれているホウ酸の効果について検証するために、ホウ酸(1.27g)を、精製水に溶解させ、pH調節剤を加えてpHを6.0に調整することにより、100mLの点眼液を調製し、保存効力試験を行った。その結果、比較例1の点眼液は保存効力試験に適合しないことが確認された。
【0055】
実施例4~7及び比較例1の点眼液の組成(表3)及び試験結果(保存効力試験における接種7日目、14日目及び28日目の各菌種の接種菌数に対する対数減少値と、適否の結果)(表4)を以下に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
【表4】
【0058】
(実施例8)
ホウ酸(0.6g)、グリセリン(1.8g)、及びベンゼトニウム塩化物(0.00004g)を、精製水に溶解させ、pH調節剤を加えてpHを6.0に調整することにより、100mLの点眼液を調製し、保存効力試験を行った。その結果、実施例8の点眼液は保存効力試験に適合していることが確認された。
【0059】
(実施例9~10)
それぞれ、ベンゼトニウム塩化物の量を0.00002g及び0.00001gとしたことを除き、実施例8と同様に点眼液を調製し、保存効力試験を行った。その結果、実施例9~10の点眼液は保存効力試験に適合していることが確認された。
【0060】
(比較例2)
比較例1と同様にホウ酸の効果について検証するために、ホウ酸(0.6g)を、精製水に溶解させ、pHを6.0に調整することにより、100mLの点眼液を調製し、保存効力試験を行った。その結果、比較例2の点眼液は保存効力試験に適合しないことが確認された。
【0061】
実施例8~10及び比較例2の点眼液の組成(表5)及び試験結果(保存効力試験における接種7日目、14日目及び28日目の各菌種の接種菌数に対する対数減少値と、適否の結果)(表6)を以下に示す。
【0062】
【表5】
【0063】
【表6】
【0064】
以上のように、ベンゼトニウム塩に加えてホウ酸を含有する眼科用水性組成物は、高い防腐性能を有することが確認された。特に、実施例7及び10に示されるように、ベンゼトニウム塩の濃度がわずか0.00001w/v%である場合にも、眼科用水性組成物は保存効力試験に適合していた。
【0065】
(製剤例1~3)
エデト酸ナトリウム水和物(0.05g)、グリセリン(2.7g)、及びベンゼトニウム塩化物を、精製水に溶解させ、100mLの点眼液を調製する。ベンゼトニウム塩化物の量は、それぞれ0.00015g、0.0001g、及び0.00008gである。
【0066】
(製剤例4~6)
緑内障治療薬、無水リン酸二水素ナトリウム(0.4g)、グリセリン(2.136g)、及びベンゼトニウム塩化物(0.001g)を、精製水に溶解させ、pHを適宜調整することにより、100mLの点眼液を調製する。緑内障治療薬は、それぞれチモロールマレイン酸塩(0.34g)、リパスジル塩酸塩(0.11g)、及びラタノプロスト(0.005g)である。
【0067】
これらの製剤例によっても、良好な防腐性能を得ることができる。
【0068】
発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、発明の要旨の範囲内で、種々の変形・変更が可能である。