(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015517
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】キャスク
(51)【国際特許分類】
G21C 19/32 20060101AFI20230125BHJP
G21F 5/08 20060101ALI20230125BHJP
G21F 5/12 20060101ALI20230125BHJP
G21F 9/36 20060101ALI20230125BHJP
【FI】
G21C19/32 100
G21F5/08
G21F5/12
G21F9/36 501J
G21F9/36 501C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119325
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(74)【代理人】
【識別番号】110001841
【氏名又は名称】弁理士法人ATEN
(72)【発明者】
【氏名】古館 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】萬谷 健一
(72)【発明者】
【氏名】下条 純
(57)【要約】 (修正有)
【課題】水平落下時に、緩衝体取付ボルトの破断を防止することができる構造のキャスクを提供すること。
【解決手段】キャスク100は、放射性物質を収納する有底筒形状の容器本体1と、容器本体1の開口部を閉じる蓋体4と、蓋体4の外周部を覆う緩衝体5であって、蓋体4および容器本体1のフランジ部7が嵌り込む緩衝体凹部Fを有する緩衝体5と、緩衝体5をフランジ部7に固定する複数の緩衝体取付ボルトと、蓋体4をフランジ部7に固定する複数の蓋体取付ボルト17と、を備える。蓋体4の外周角部において、緩衝体取付ボルトの軸部を通す空間および蓋体取付ボルト17の頭部を収容する空間を除く空間が、部材で埋められた状態とされている。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
放射性物質を収納する有底筒形状の容器本体と、
前記容器本体の開口部を閉じる蓋体と、
前記蓋体の外周部を覆う緩衝体であって、前記蓋体および前記容器本体のフランジ部が嵌り込む緩衝体凹部を有する緩衝体と、
前記緩衝体を前記フランジ部に固定する複数の緩衝体取付ボルトと、
前記蓋体を前記フランジ部に固定する複数の蓋体取付ボルトと、
を備え、
前記蓋体の外周角部において、前記緩衝体取付ボルトの軸部を通す空間および前記蓋体取付ボルトの頭部を収容する空間を除く空間が、部材で埋められた状態とされている、
キャスク。
【請求項2】
請求項1に記載のキャスクにおいて、
前記蓋体と前記フランジ部とが軸方向で嵌り合う部分において、前記蓋体および前記フランジ部のうちの一方に凸部が形成され、当該凸部と嵌り合う凹部が他方に形成されている、
キャスク。
【請求項3】
請求項1または2に記載のキャスクにおいて、
前記蓋体取付ボルトの頭部を収容する空間が、前記蓋体取付ボルト毎に独立して前記外周角部に設けられたザグリ穴により形成され、且つ、前記緩衝体取付ボルトの軸部を通す空間が、前記緩衝体取付ボルト毎に独立して前記外周角部に設けられた緩衝体取付ボルト用貫通孔により形成されることで、前記外周角部において、前記緩衝体取付ボルトの軸部を通す空間および前記蓋体取付ボルトの頭部を収容する空間を除く空間が、部材で埋められた状態とされている、
キャスク。
【請求項4】
請求項1または2に記載のキャスクにおいて、
前記緩衝体凹部の角部の一部が前記外周角部側へ突出する凸形状にされることで、前記外周角部において、前記緩衝体取付ボルトの軸部を通す空間および前記蓋体取付ボルトの頭部を収容する空間を除く空間が、部材で埋められた状態とされている、
キャスク。
【請求項5】
請求項3に記載のキャスクにおいて、
前記蓋体と前記フランジ部とが軸方向で嵌り合う部分において、前記蓋体および前記フランジ部のうちの一方に凸部が形成され、当該凸部と嵌り合う凹部が他方に形成されており、
前記緩衝体取付ボルトの軸部と、前記緩衝体取付ボルト用貫通孔との間の径方向最大隙間が、前記凸部と前記凹部との間の径方向最大隙間よりも大きくされている、
キャスク。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載のキャスクにおいて、
前記緩衝体取付ボルトの頭部と、前記緩衝体取付ボルトの頭部を収容する前記緩衝体に設けられた第1貫通孔との間の径方向最大隙間、および前記緩衝体取付ボルトの軸部と、前記緩衝体取付ボルトの軸部を通す前記緩衝体に設けられた第2貫通孔との間の径方向最大隙間のいずれもが、前記フランジ部の外周面と、前記緩衝体凹部の内側面との間の径方向最大隙間、および前記蓋体の外周面と、前記内側面との間の径方向最大隙間よりも大きくされている、
キャスク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射性物質を収納するキャスクに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1、2に記載されているように、キャスクは、例えば、有底円筒形状のキャスク本体、およびキャスク本体の開口部を閉じる3つの蓋体(一次蓋、二次蓋、および三次蓋)を備えた、放射性物質(使用済燃料等)を収納する容器である。また、キャスクの輸送中に事故(落下現象)が発生した場合においても、キャスクの機能(除熱機能、密封機能、遮蔽機能、および未臨界維持機能)が損なわれることのないように、キャスクを衝撃から保護するための緩衝体がその外周部の上部と下部とにそれぞれ取り付けられる。
【0003】
特許文献1の
図2、および特許文献2の
図3からわかるように、従来、三次蓋の外周角部の上面は、三次蓋取付ボルトの頭部が蓋上面から突出しないように、その全周にわたって連続する、蓋上面よりも一段低い環状の面(環状面)とされている。この環状面に三次蓋取付ボルトの頭部の下面が当接される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第6633922号公報
【特許文献2】特許第6180123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
キャスクの中心軸が水平になった姿勢でキャスクが落下する水平落下を想定する。水平落下時、キャスクの外周部の上部に取り付けられた緩衝体(三次蓋の外周部を覆う緩衝体)は、その外側面が床面に衝突し、その内側面にキャスク本体、および三次蓋の側面が衝突する。
【0006】
このとき、特許文献1、2に記載されているような前記環状面を有する三次蓋の場合、三次蓋の外周角部と、当該外周角部と向かい合わせの位置にある緩衝体の内側面との間に、キャスクの全周にわたって空間が存在するため、前記環状面の外縁部を起点とする曲げモーメントが緩衝体の内側面に作用する。この曲げモーメントによって緩衝体が変形し、緩衝体をキャスク本体に固定する緩衝体取付ボルトにせん断力が作用する。その結果、緩衝体取付ボルトが破断してしまう可能性がある。
【0007】
本発明の目的は、水平落下時に、緩衝体取付ボルトの破断を防止することができる構造のキャスクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本願で開示するキャスクは、放射性物質を収納する有底筒形状の容器本体と、前記容器本体の開口部を閉じる蓋体と、前記蓋体の外周部を覆う緩衝体であって、前記蓋体および前記容器本体のフランジ部が嵌り込む緩衝体凹部を有する緩衝体と、前記緩衝体を前記フランジ部に固定する複数の緩衝体取付ボルトと、前記蓋体を前記フランジ部に固定する複数の蓋体取付ボルトと、を備え、前記蓋体の外周角部において、前記緩衝体取付ボルトの軸部を通す空間および前記蓋体取付ボルトの頭部を収容する空間を除く空間が、部材で埋められた状態とされている。
【発明の効果】
【0009】
上記構成のキャスクによれば、水平落下時に、緩衝体取付ボルトの破断を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の一実施形態に係るキャスクの上部の断面図である。
【
図3】緩衝体取付ボルト部分の断面を示す、
図2に相当する図である。
【
図4】キャスクの周方向において、蓋体取付ボルトおよび緩衝体取付ボルトがない部分の断面を示す、
図2に相当する図である。
【
図5】三次蓋の一部(1/4部分)の平面図である。
【
図6】
図5に示す三次蓋の変形例を示す、
図5に相当する図である。
【
図7】
図1に示すキャスクの変形例を示す、
図4に相当する図である。
【
図8】
図1に示すキャスクの変形例を示す、
図4に相当する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しつつ説明する。
【0012】
キャスク100は、使用済燃料などの放射性物質を収容して、輸送、貯蔵するために用いられるものであって、
図1に示すように、放射性物質を収納する容器本体1と、容器本体1の開口部を閉じる3つの蓋体(2、3、4)と、緩衝体5と、を備える。3つの蓋体は、一次蓋2と、二次蓋3と、三次蓋4とがある。
【0013】
図1では底部の図示が省略されているが、容器本体1は、有底筒形状(底がある筒形状)とされている。開口部が設けられた容器本体1の上端部は、3つの蓋体(2、3、4)が取り付けられるフランジ部7とされる。フランジ部7は、下方側から順に、一次蓋取付部12と、二次蓋取付部13と、三次蓋取付部14と、を備える。また、容器本体1内から外部への中性子の放出を抑えるために、容器本体1の外周面側には、側部中性子遮蔽層6が設けられる。また、容器本体1の外周部には、ハンドリング用の複数のトラニオン(不図示)が取り付けられる。容器本体1の材料は、金属(例えば、炭素鋼、合金鋼、またはステンレス鋼)である(3つの蓋体(2、3、4)についても同様)。側部中性子遮蔽層6を構成する中性子遮蔽材は、例えば、エポキシ樹脂、もしくはポリエステル樹脂などの樹脂、またはシリコンゴム、もしくはエチレンポリプロピレンゴムなどのゴムである(後述する蓋部中性子遮蔽層11についても同様)。以下の説明において、容器本体1の中心軸と平行な方向を軸方向Xとする。容器本体1の中心軸に対して直角の方向(軸直角方向)を径方向Yとする。
【0014】
一次蓋2は、容器本体1の開口部を密封する蓋体である。一次蓋2は、フランジ部7の一次蓋取付部12に複数の一次蓋取付ボルト15によって固定される。一次蓋2の径方向Y端部(フランジ部)には、一次蓋取付ボルト15の軸部が挿入される貫通孔2aが設けられている。貫通孔2aよりも少し内側の一次蓋2の下面には、シール部材8が取り付けられている。シール部材8は、例えば金属ガスケットである。
【0015】
また、一次蓋取付部12には、一次蓋取付ボルト15の軸部が捩じ込まれることで、一次蓋取付ボルト15が締結される雌ネジ穴12aが設けられている。
【0016】
二次蓋3は、一次蓋2の軸方向X外側に設置され、一次蓋2との間の空間S1の圧力を一次蓋2および容器本体1とともに保持する蓋体である。二次蓋3は、一次蓋2と同様、容器本体1の開口部を閉じる蓋体でもある。二次蓋3の内部には、蓋部中性子遮蔽層11が設けられている。
【0017】
二次蓋3は、フランジ部7の二次蓋取付部13に複数の二次蓋取付ボルト16によって固定される。二次蓋3の径方向Y端部(フランジ部)には、二次蓋取付ボルト16の軸部が挿入される貫通孔3aが設けられている。貫通孔3aよりも少し内側の二次蓋3の下面には、シール部材9が取り付けられている。シール部材9は、例えば金属ガスケットである。
【0018】
また、二次蓋取付部13には、二次蓋取付ボルト16の軸部が捩じ込まれることで、二次蓋取付ボルト16が締結される雌ネジ穴13aが設けられている。
【0019】
三次蓋4は、二次蓋3の軸方向X外側に設置される蓋体である。三次蓋4は、キャスク100を輸送する際に取り付けられる蓋体であって、キャスク100を輸送した後のキャスク100の貯蔵状態では、特別な場合を除いて外される。三次蓋4は、一次蓋2および二次蓋3と同様、容器本体1の開口部を閉じる蓋体でもある。
【0020】
三次蓋4は、フランジ部7の三次蓋取付部14に複数の三次蓋取付ボルト17(蓋体取付ボルト)によって固定される。三次蓋4の径方向Y端部(フランジ部)には、三次蓋取付ボルト17の軸部17a(
図2参照)が挿入される貫通孔4aが設けられている。貫通孔4aよりも少し内側の三次蓋4の下面には、シール部材10が取り付けられている。シール部材10は、例えばゴム製のOリングである。
【0021】
また、三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容するためのザグリ穴4dが、貫通孔4aの上、且つ貫通孔4aと同心で、三次蓋4の外周角部Eに設けられている。このザグリ穴4dは、
図5に示すように、三次蓋取付ボルト17、1本毎に独立して設けられる。ザグリ穴4dの径は、貫通孔4aの径よりも大きい。ザグリ穴4dの深さは、三次蓋取付ボルト17の頭部17bの高さ以上とされる。三次蓋4にザグリ穴4dが設けられ、このザグリ穴4dに三次蓋取付ボルト17の頭部17bが収容されることで、三次蓋4の蓋上面から三次蓋取付ボルト17の頭部17bが突出しないようにされる。ザグリ穴4dは、三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容する空間を形成する。
【0022】
三次蓋取付部14には、三次蓋取付ボルト17の軸部17aが捩じ込まれることで、三次蓋取付ボルト17が締結される雌ネジ穴14aが設けられている。
図2などに符号を付して示すように、三次蓋4と三次蓋取付部14とが軸方向Xで嵌り合う部分において、三次蓋4に凸部4bが形成され、当該凸部4bと嵌り合う段差部14b(凹部)が三次蓋取付部14に形成されている。この構成により、容器本体1に対して三次蓋4が横ずれすること(径方向Yにずれること)が抑えられている。なお、この構成とは反対に、三次蓋取付部14に凸部が形成され、当該凸部と軸方向Xで嵌り合う凹部が三次蓋4に形成されてもよい。
【0023】
本実施形態において、上記凸部4bは、キャスク100の全周にわたって連続する環状の凸部である。また、段差部14bは、キャスク100の全周にわたって連続する環状の凹部である。
【0024】
緩衝体5は、キャスク100を輸送する際に取り付けられ、万が一のキャスク100の落下時に、キャスク100を衝撃から保護するためのものである。緩衝体5は、容器本体1の上部(頭部)に取り付けられる。すなわち、緩衝体5は、上部緩衝体である。なお、図示を省略しているが、容器本体1の下部(底部)にも同様の緩衝体(下部緩衝体)が取り付けられる。
【0025】
緩衝体5は、環状の主衝撃吸収体18と、柱状の補助衝撃吸収体19と、カバープレート20とで構成される。カバープレート20は、主衝撃吸収体18および補助衝撃吸収体19を覆うプレートである。カバープレート20は、外側カバープレート22と、内側カバープレート23とで構成される。主衝撃吸収体18は、軸方向Xおよび径方向Yに所定の厚みを有しており、各方向に適切な衝撃伝達面積を有する。主衝撃吸収体18および補助衝撃吸収体19の材料は、例えば、木材、発泡ウレタンなどの発泡樹脂、または発泡アルミニウムなどの発泡金属である。カバープレート20の材料は、金属(例えば、炭素鋼、またはステンレス鋼)である。主衝撃吸収体18および補助衝撃吸収体19をカバープレート20で覆うことにより、床面との衝突時、各衝撃吸収体18、19が潰れて飛散することを防止することができる。緩衝体5は、三次蓋4の外周部を覆う。緩衝体5は、三次蓋4および容器本体1のフランジ部7が嵌り込む緩衝体凹部Fを有する。
【0026】
図3に示すように、緩衝体5は、フランジ部7の三次蓋取付部14に複数の緩衝体取付ボルト21によって固定される。三次蓋4の径方向Y端部(フランジ部)には、緩衝体取付ボルト21の軸部21aが挿入される貫通孔4c(緩衝体取付ボルト用貫通孔)が設けられている。貫通孔4cは、緩衝体取付ボルト21の軸部21aを通す空間を形成する。貫通孔4cは、緩衝体取付ボルト21、1本毎に独立して三次蓋4の外周角部Eに設けられる。
【0027】
三次蓋取付部14には、緩衝体取付ボルト21の軸部21aが捩じ込まれることで、緩衝体取付ボルト21が締結される雌ネジ穴14cが設けられている。
【0028】
また、緩衝体5を構成する主衝撃吸収体18には、軸方向Xに延びる第1貫通孔18aが設けられている。内側カバープレート23には、第1貫通孔18aと同心で、第1貫通孔18aよりも径が小さい第2貫通孔23aが設けられている。緩衝体取付ボルト21の軸部21aは、第2貫通孔23aに通される。第1貫通孔18aに収容される緩衝体取付ボルト21の頭部21bは、内側カバープレート23の上面に押し付けられる。
【0029】
図5は、三次蓋4の一部(1/4部分)の平面図である。
図5には、三次蓋取付ボルト17の軸部17aが挿入される複数の貫通孔4aおよび頭部17bを収容するザグリ穴4d、ならびに緩衝体取付ボルト21の軸部21aが挿入される複数の貫通孔4cが記載されている。
図5からわかるように、これら複数の貫通孔4aおよびザグリ穴4d、ならびに複数の貫通孔4cは、三次蓋4の径方向Y端部において、同一の円周上に設けられている。すなわち、複数の三次蓋取付ボルト17、および複数の緩衝体取付ボルト21は、同一の円周上に配置される。また、三次蓋取付ボルト17部分の断面を示す
図2は、三次蓋4のみを示す
図5でいうと、
図5中のB-B断面に相当する図である。また、緩衝体取付ボルト21部分の断面を示す
図3は、
図5中のC-C断面に相当する図である。また、
図4は、三次蓋取付ボルト17および緩衝体取付ボルト21がない部分の断面を示す図であり、
図5中のD-D断面に相当する図である。
【0030】
本実施形態のキャスク100では、
図2および
図5に示すように、三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容する空間が、三次蓋取付ボルト17毎に独立して設けられたザグリ穴4dにより形成され、且つ、
図3および
図5に示すように、緩衝体取付ボルト21の軸部21aを通す空間が、緩衝体取付ボルト21毎に独立して設けられた貫通孔4cにより形成されている。その結果、三次蓋4の外周角部Eにおいて、ザグリ穴4dおよび貫通孔4cの周辺(
図2、
図3、
図5参照)、周方向で隣り合うザグリ穴4dと貫通孔4cとの間(
図5参照)、ならびに周方向で隣り合うザグリ穴4d同士の間(
図4、
図5参照)が中実構造となっている。すなわち、緩衝体取付ボルト21の軸部21aを通す空間および三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容する空間を除く空間が、三次蓋4を構成する鋼材(部材)で埋められた状態となっている。
【0031】
ここで、キャスク100の中心軸が水平になった姿勢でキャスク100が落下する水平落下を想定する。水平落下時、緩衝体5は、その外側面(外側カバープレート22)が床面に衝突し、その内側面(内側カバープレート23)にフランジ部7、および三次蓋4の側面が衝突する。
【0032】
このとき、本実施形態のキャスク100では、三次蓋4の外周角部Eにおいて、前記のとおり、緩衝体取付ボルト21の軸部21aを通す空間および三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容する空間を除く空間が、三次蓋4を構成する鋼材(部材)で埋められた状態(中実構造)となっている。その結果、緩衝体5(主衝撃吸収体18)から三次蓋4への軸直角方向への衝撃荷重の伝達がなされ易い。そのため、本実施形態のキャスク100では、水平落下の際の床面衝突時に、特許文献1、2に記載されている三次蓋(キャスクの全周にわたって外周角部に空間が存在する三次蓋)を備えるキャスクの場合のような、緩衝体5の内側カバープレート23に作用する曲げモーメント(
図2から
図4に二点鎖線で示す曲げモーメントM)が生じにくい。曲げモーメントMが生じにくいので、曲がるような変形が内側カバープレート23に生じにくく、これにより、緩衝体5を容器本体1に固定する緩衝体取付ボルト21にせん断力が作用しにくく、その破断を防止することができる。
【0033】
また、本実施形態では、三次蓋4へのザグリ穴4dおよび貫通孔4cの加工により、三次蓋4の外周角部Eにおいて、緩衝体取付ボルト21の軸部21aを通す空間および三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容する空間を除く空間を中実構造としている。これによると、緩衝体取付ボルト21の破断を防止するための中実構造を容易に実現することができる。すなわち、本実施形態は、キャスクの製作容易性において優れている。
【0034】
また、本実施形態のキャスク100では、三次蓋4とフランジ部7とが軸方向Xで嵌り合う部分において、三次蓋4に凸部4bが形成され、当該凸部4bと嵌り合う段差部14b(凹部)が三次蓋取付部14に形成されている。なお、前記のとおり、三次蓋取付部14に凸部が形成され、当該凸部と軸方向Xで嵌り合う凹部が三次蓋4に形成されてもよい。
【0035】
この構成によると、キャスク100が水平落下したとき、三次蓋4の荷重(径方向Yに作用する荷重)をフランジ部7で受けることができるため、緩衝体取付ボルト21、および三次蓋取付ボルト17にせん断力が作用しにくく、その破断を防止することができる。
【0036】
ここで、緩衝体取付ボルト21の軸部21aと、軸部21aが挿入される貫通孔4cとの間の径方向Y最大隙間S1が、上記凸部4bと段差部14b(凹部)との間の径方向Y最大隙間S2よりも大きくされていることが望ましい。
【0037】
径方向Y最大隙間S1とは、緩衝体取付ボルト21の軸部21aが貫通孔4cの内面に当接したときの、言い換えれば、貫通孔4cの中心から軸部21aの軸心が最も径方向Yでずれたときの、軸部21aと貫通孔4cとの間の径方向Y隙間のことである。
【0038】
図3では、緩衝体取付ボルト21の軸心と、貫通孔4cの中心とが一致している場合のものが図示されている。このときの軸部21aと貫通孔4cとの間の径方向Y隙間をS1aとしたとき、径方向Y最大隙間S1=S1a×2である。同様に、
図3では、三次蓋4の軸心と、容器本体1の軸心とが一致している場合のものが図示されている。このときの凸部4bと段差部14b(凹部)との間の径方向Y隙間をS2aとしたとき、径方向Y最大隙間S2=S2a×2である。
【0039】
上記の径方向Y最大隙間S1が径方向Y最大隙間S2よりも大きくされていると、キャスク100が水平落下したときの床面衝突時に、三次蓋4がずれて、床面衝突側の凸部4bと段差部14b(凹部)との間の径方向Y隙間がなくなったとしても、緩衝体取付ボルト21の軸部21aと、貫通孔4cとの間に隙間が残る。これにより、緩衝体取付ボルト21の軸部21aに貫通孔4cの内面が衝突することを抑制することができ、その結果、せん断力に起因する緩衝体取付ボルト21の破断を防止することができる。
【0040】
また、緩衝体取付ボルト21の頭部21bと、緩衝体5に設けられた第1貫通孔18aとの間の径方向Y最大隙間S3、および緩衝体取付ボルト21の軸部21aと、緩衝体5(内側カバープレート23)に設けられた第2貫通孔23aとの間の径方向Y最大隙間S4のいずれもが、フランジ部7の外周面と、緩衝体凹部Fの内側面との間の径方向Y最大隙間S5、および三次蓋4の外周面と、緩衝体凹部Fの内側面との間の径方向Y最大隙間S6よりも大きくされていることが望ましい。
【0041】
径方向Y最大隙間S3とは、緩衝体取付ボルト21の頭部21bが第1貫通孔18aの内面に当接したときの、言い換えれば、第1貫通孔18aの中心から頭部21bの軸心が最も径方向Yでずれたときの、頭部21bと第1貫通孔18aとの間の径方向Y隙間のことである。
【0042】
図3では、緩衝体取付ボルト21の軸心と、第1貫通孔18aの中心とが一致している場合のものが図示されている。このときの頭部21bと第1貫通孔18aとの間の径方向Y隙間をS3aとしたとき、径方向Y最大隙間S3=S3a×2である。同様に、
図3では、緩衝体取付ボルト21の軸心と、第2貫通孔23aの中心とが一致している場合のものが図示されている。このときの軸部21aと第2貫通孔23aとの間の径方向Y隙間をS4aとしたとき、径方向Y最大隙間S4=S4a×2である。
【0043】
また、
図3では、容器本体1(フランジ部7)の軸心と、緩衝体5(緩衝体凹部F)の軸心とが一致している場合のものが図示されている。このときのフランジ部7の外周面と、緩衝体凹部Fの内側面との間の径方向Y隙間をS5aとしたとき、径方向Y最大隙間S5=S5a×2である。同様に、
図3では、三次蓋4の軸心と、緩衝体5(緩衝体凹部F)の軸心とが一致している場合のものが図示されている。このときの三次蓋4の外周面と、緩衝体凹部Fの内側面との間の径方向Y隙間をS6aとしたとき、径方向Y最大隙間S6=S6a×2である。なお、
図3では、三次蓋4の外周面と、フランジ部7の外周面とが面一とされているが、三次蓋4の外径とフランジ部7の外径とは少し異なる寸法とされることもある。
【0044】
フランジ部7の外周面と、緩衝体凹部Fの内側面との間の径方向Y隙間、および三次蓋4の外周面と、緩衝体凹部Fの内側面との間の径方向Y隙間は、製作公差および作業性を踏まえて設計されている。これらの径方向Y隙間は、キャスク100が水平落下したときの床面衝突時に簡単に潰れてしまう(隙間がなくなる)。
【0045】
上記の径方向Y最大隙間S3、および径方向Y最大隙間S4のいずれもが、径方向Y最大隙間S5、および径方向Y最大隙間S6よりも大きくされていると、キャスク100が水平落下したときの床面衝突時に、緩衝体取付ボルト21の頭部21bと、第1貫通孔18aとの間、および緩衝体取付ボルト21の軸部21aと、第2貫通孔23aとの間に隙間が残り易い。これにより、緩衝体取付ボルト21の頭部21bに第1貫通孔18aの内面が衝突すること、および緩衝体取付ボルト21の軸部21aに第2貫通孔23aの内面が衝突することを抑制することができ、その結果、せん断力に起因する緩衝体取付ボルト21の破断を防止することができる。
【0046】
図6は、
図5に示す三次蓋4の変形例を示す、
図5に相当する図である。
【0047】
図5に示す三次蓋4と、
図6に示す三次蓋4との違いは、三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容するためのザグリ穴4dの形状である。
図5に示すザグリ穴4dは、平面視において円形とされている。これに対して、
図6に示すザグリ穴4dは、平面視においてU字形状とされている。
図6に示すザグリ穴4dは、三次蓋4の側面において開口している。
【0048】
図5に示す円形のザグリ穴4dの場合、キャスクによっては、平面視において、ザグリ穴4dと三次蓋4の側面との間に僅かな隙間しかとれないことがある。このような場合、ザグリ穴4dと三次蓋4の側面との間の肉厚が非常に薄いものとなる。このような場合に、
図6に示すようなU字形状のザグリ穴4dとされる。
【0049】
図6に示すようなU字形状のザグリ穴4dであっても、三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容する空間が、三次蓋取付ボルト17毎に独立して設けられたザグリ穴4dにより形成される。そのため、三次蓋4の外周角部Eにおいて、周方向で隣り合うザグリ穴4d同士の間の大部分が中実構造となる。そのため、
図5に示す円形のザグリ穴4dの場合と同様、キャスク100が水平落下したときの床面衝突時に、緩衝体5(主衝撃吸収体18)から三次蓋4への軸直角方向への衝撃荷重の伝達がなされ易い。
【0050】
図7は、
図1に示すキャスク100の変形例を示す、
図4に相当する図である。
【0051】
図7に示すキャスク101は、三次蓋4の外周角部Eにおける、緩衝体取付ボルト21の軸部21aを通す空間および三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容する空間を除く空間を埋める部材が、
図1に示すキャスク100と異なる。
【0052】
図1に示すキャスク100では、三次蓋4を構成する鋼材、言い換えれば、三次蓋4の一部分によって、上記除く空間が埋められた状態(中実構造)とされている。これに対して、
図7に示すキャスク101では、緩衝体5の一部分によって、上記除く空間が埋められた状態(中実構造)とされている。
【0053】
具体的には、緩衝体5における緩衝体凹部Fの角部の一部が、三次蓋4の外周角部E側へ突出する凸形状(凸部24)にされることで、三次蓋4の外周角部Eにおいて、緩衝体取付ボルト21の軸部21aを通す空間および三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容する空間を除く空間が、緩衝体5の一部分によって埋められた状態(中実構造)とされている。凸部24は、主衝撃吸収体18と、これを覆う内側カバープレート23とで構成されている。凸部24は、複数、設けられる。各凸部24は、平面視において円弧形状とされる。
【0054】
上記構造によっても、
図1に示すキャスク100の場合と同様、緩衝体5(主衝撃吸収体18)から三次蓋4への軸直角方向への衝撃荷重の伝達がなされ易い。そのため、水平落下の際の床面衝突時に、特許文献1、2に記載されている三次蓋(キャスクの全周にわたって外周角部に空間が存在する三次蓋)を備えるキャスクの場合のような、緩衝体5の内側カバープレート23に作用する曲げモーメントが生じにくい。曲げモーメントMが生じにくいので、曲がるような変形が内側カバープレート23に生じにくく、これにより、緩衝体5を容器本体1に固定する緩衝体取付ボルト21にせん断力が作用しにくく、その破断を防止することができる。
【0055】
なお、三次蓋4の径方向Y端部(フランジ部)の上面は、その全周にわたって連続する、蓋上面よりも一段低い環状の面(環状面)とされている。
【0056】
図8は、
図1に示すキャスク100のさらなる変形例を示す、
図4に相当する図である。
【0057】
図8に示すキャスク102は、
図7に示す変形例と同じで、三次蓋4の外周角部Eにおける、緩衝体取付ボルト21の軸部21aを通す空間および三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容する空間を除く空間を埋める部材が、
図1に示すキャスク100と異なる。
【0058】
図1に示すキャスク100では、ザグリ穴4dなどの三次蓋4への加工の結果、三次蓋4の一部分によって、上記除く空間が埋められた状態(中実構造)とされている。これに対して、
図8に示すキャスク102では、三次蓋4に後から取り付けられたブロック部材25によって、上記除く空間が埋められた状態(中実構造)とされている。
【0059】
ブロック部材25は、複数であって、各ブロック部材25は、平面視において円弧形状とされる。緩衝体取付ボルト21の軸部21aを通す空間および三次蓋取付ボルト17の頭部17bを収容する空間を除く空間が、複数の円弧形状のブロック部材25で埋められた状態とされる。ブロック部材25は、例えば溶接により三次蓋4に取り付けられる。ブロック部材25の材料は、金属(例えば、炭素鋼、合金鋼、またはステンレス鋼)である。
【0060】
なお、ブロック部材25が取り付けられる前の三次蓋4の径方向Y端部(フランジ部)の上面は、その全周にわたって連続する、蓋上面よりも一段低い環状の面(環状面)とされている。
【0061】
本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、上記実施形態の要素を適宜組み合わせたり、上記実施形態に種々の変更を加えたりすることが可能である。
【0062】
例えば、上記実施形態は、次のように変更可能である。
【0063】
上記実施形態のキャスク100、101、102は、いずれも、放射性物質を収容して、輸送、貯蔵するために用いられるものであって、一次蓋2、二次蓋3、および三次蓋4を備える。一方、輸送専用のキャスクの場合は、一次蓋2だけ、すなわち1つの蓋体だけを備えるキャスクが使用される場合がある。
【0064】
この場合、一次蓋2の上面に緩衝体5が位置することとなり、一次蓋2、および容器本体1のフランジ部7が緩衝体凹部Fに嵌り込む構造となる。よって、蓋体の外周角部において、緩衝体取付ボルト21の軸部21aを通す空間、および蓋体取付ボルトの頭部を収容する空間を除く空間が、部材で埋められた状態とされるのは、一次蓋2の場合もある。すなわち、本発明は、複数の蓋体を備えるキャスクではなく、1つの蓋体だけを備えるキャスクに適用されてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1:容器本体
4:三次蓋(蓋体)
4b:凸部
4c:貫通孔(緩衝体取付ボルト用貫通孔)
4d:ザグリ穴
5:緩衝体
7:フランジ部
14b:段差部(凹部)
17:三次蓋取付ボルト(蓋体取付ボルト)
17b:頭部
18a:第1貫通孔
21:緩衝体取付ボルト
21a:軸部
21b:頭部
23a:第2貫通孔
24:凸部(凸形状)
100、101、102:キャスク
E:外周角部
F:緩衝体凹部
X:軸方向
Y:径方向