IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッドの特許一覧 ▶ イーエムピイエイ,スイス・フェデラル・ラボラトリーズ・フォー・マテリアルズ・テスティング・アンド・リサーチの特許一覧

特開2023-155190固体電池、および脱プロトン化によるその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155190
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】固体電池、および脱プロトン化によるその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/0562 20100101AFI20231013BHJP
   H01M 10/0585 20100101ALI20231013BHJP
【FI】
H01M10/0562
H01M10/0585
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2023057171
(22)【出願日】2023-03-31
(31)【優先権主張番号】22167461.7
(32)【優先日】2022-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(71)【出願人】
【識別番号】506425538
【氏名又は名称】ザ・スウォッチ・グループ・リサーチ・アンド・ディベロップメント・リミテッド
(71)【出願人】
【識別番号】518320214
【氏名又は名称】イーエムピイエイ,スイス・フェデラル・ラボラトリーズ・フォー・マテリアルズ・テスティング・アンド・リサーチ
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】ラベブ・グリッサ
(72)【発明者】
【氏名】コルシン・バッタリア
【テーマコード(参考)】
5H029
【Fターム(参考)】
5H029AJ12
5H029AK01
5H029AK03
5H029AL12
5H029AM12
5H029CJ02
5H029CJ11
5H029HJ02
5H029HJ14
(57)【要約】      (修正有)
【課題】液体接触要素を使用せずに、負極と固体電解質の間の接触を改善する固体電池の生産方法を提供する。
【解決手段】本発明は、固体電解質8を有する固体電池20およびこれの生産方法に関し、方法は以下の連続的なステップを含む。
-プロトン化可能なセラミック材料を含有する、好ましくは全体がこれからなる本体11をプロトン化し、本体上にプロトン化層13を形成するステップ1、
-小空洞18が設けられた多孔質層が得られるようにプロトン化層を脱プロトン化するステップ3、
-本体の第1の側面7上の脱プロトン化層上に負極14を形成する金属元素を積層し、多孔質層の小空洞に金属元素を侵入させるステップ4、および
-本体の第2の側面9、好ましくは負極の第1の側面の反対側に正極15を取り付けるステップ5。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質(8)を有する固体電池(20)の生産方法(10)であって、以下の連続的なステップ:
- プロトン化可能なセラミック材料を含有する、好ましくは全体がこれからなる本体(11)をプロトン化し、前記本体(11)上にプロトン化層(12、13)を形成するステップ(1)、
- 小空洞(18)が設けられた多孔質層が得られるように前記プロトン化層(13)を脱プロトン化するステップ(3)、
- 前記本体(11)の第1の側面(7)上の前記脱プロトン化層(13)上に負極(14)を形成する金属元素を積層し、多孔質層の前記小空洞(18)に前記金属元素を侵入させるステップ(4)、および
- 前記本体(11)の第2の側面(9)、好ましくは前記負極(14)の第1の側面(7)の反対側に正極(15)を取り付けるステップ(5)
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記セラミック材料は、
- LLZO系のドープされたまたはドープされていないリチウムおよび/またはランタンジルコニウム酸化物、
- Na-b’’-Al系のドープされたまたはドープされていないβアルミナ固体電解質材料、
- 例えばLiPSX系(Xは元素Cl、Br、またはIから選択される)もしくはLiS-P系の三元、または四元以上の硫化物系固体電解質材料、
- 例えばLiMX系(Mは金属または金属合金であり、Xはハロゲンである)の三元、または四元以上のハロゲン系固体電解質材料、
- LISICON(リチウム超イオン伝導体)系、例えばLi4±xSi1-x系(Xは元素P、Al、またはGeから選択される)のリチウムイオン伝導性固体電解質材料、ならびに
- NASICON(ナトリウム超イオン伝導体)系、例えばNaMM’(XO系(MおよびM’は金属であり、Xは元素Si、P、またはSから選択される)のナトリウムイオン伝導性固体電解質材料
から選択されることを特徴とする、請求項1に記載の生産方法(10)。
【請求項3】
前記プロトン化ステップ(1)では、前記本体(11)は水、アセトン、またはエタノールなどのプロトン性溶媒に浸漬することを特徴とする、請求項1または2に記載の生産方法(10)。
【請求項4】
脱プロトン化ステップでは、前記本体(11)を所定の温度、好ましくは750℃以上に加熱してプロトン化層(13)からプロトンを分離することを特徴とする、請求項1または2に記載の生産方法(10)。
【請求項5】
前記金属元素は、前記金属元素積層ステップ(4)中に前記本体(11)上に溶融することを特徴とする、請求項1または2に記載の生産方法(10)。
【請求項6】
前記金属元素は、
- リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、またはフランシウムなどのアルカリ金属、
- ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、またはラジウムなどのアルカリ土類金属、
- ランタニドおよびアクチニドを含む、周期表の第3~11族に属する遷移金属すべて、ならびに
- これらの金属の合金
から選択される物質を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の生産方法(10)。
【請求項7】
前記生産方法(10)は、前記本体の非プロトン化部分(11)上に前記正極(15)を直接積層するために、前記本体(11)から前記プロトン化層(12)の一部を除去する追加的なステップ(2)を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の生産方法(10)。
【請求項8】
前記本体(11)から前記プロトン化層の一部を除去する前記追加的なステップ(2)は、前記本体(11)の前記第2の側面(9)を研磨することによって実施することを特徴とする、請求項7に記載の生産方法(10)。
【請求項9】
前記正極(15)は、
- LiNiMnCoまたはLi2-x-y-zNiMnCoなどのNMC系のニッケルマンガンコバルト酸リチウム、このときx+y+z≦1、
- LiNi0.5Mn1.5などのLNMO系のニッケルマンガン酸リチウム、
- LiFePOなどのLFP系のリン酸鉄リチウム、
- LiMnなどのLMO系のマンガン酸リチウム、および
- LiNiCoAlOなどのNCA系のリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物
から選択される材料を含有することを特徴とする、請求項1または2に記載の生産方法(10)。
【請求項10】
前記負極(14)、前記正極(15)、および前記固体セラミック電解質(8)を含む固体電解質(8)を有する固体電池(20)であって、前記固体電解質(8)には、小空洞(18)が設けられた多孔質の脱プロトン化層(13)と非プロトン化部分とが重ね合わせて設けられ、前記正極(15)は前記本体(11)上に積層されており、前記負極(14)は前記正極(15)の反対側において前記本体(11)の前記プロトン化層(13)上に積層した金属元素を含み、前記金属元素は多孔質の脱プロトン化層(13)の小空洞(18)に侵入させていることを特徴とする固体電池(20)。
【請求項11】
前記金属元素は前記本体(11)の非プロトン化部分によってブロックされることを特徴とする、請求項10に記載の固体電解質(8)を有する固体電池(20)。
【請求項12】
前記金属元素は、
- リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、またはフランシウムなどのアルカリ金属、
- ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、またはラジウムなどのアルカリ土類金属、
- ランタニドおよびアクチニドを含む、周期表の第3~11族に属するいわゆる遷移金属すべて、ならびに
- これらの金属の合金
から選択される物質を含有することを特徴とする、請求項10または11に記載の固体電解質(8)を有する固体電池(20)。
【請求項13】
前記セラミック材料は、
- LLZO系のドープされたまたはドープされていないリチウムおよび/またはランタンジルコニウム酸化物、
- Na-b’’-Al系のドープされたまたはドープされていないβアルミナ固体電解質材料、
- 例えばLiPSX系(Xは元素Cl、Br、またはIから選択される)もしくはLiS-P系の三元、または四元以上の硫化物系固体電解質材料、
- 例えばLiMX系(Mは金属または金属合金であり、Xはハロゲンである)の三元、または四元以上のハロゲン系固体電解質材料、
- LISICON(リチウム超イオン伝導体)系、例えばLi4±xSi1-x系(Xは元素P、Al、またはGeから選択される)のリチウムイオン伝導性固体電解質材料、ならびに
- NASICON(ナトリウム超イオン伝導体)系、例えばNaMM’(XO系(MおよびM’は金属であり、Xは元素Si、P、またはSから選択される)のナトリウムイオン伝導性固体電解質材料
から選択されることを特徴とする、請求項10または11に記載の固体電解質(8)を有する固体電池(20)。
【請求項14】
前記正極(15)は前記本体(11)の前記非プロトン化部分に接合することを特徴とする、請求項10または11に記載の固体電解質(8)を有する固体電池(20)。
【請求項15】
前記正極(15)は、
- LiNiMnCoまたはLi2-x-y-zNiMnCoなどのNMC系のニッケルマンガンコバルト酸リチウム、このときx+y+z≦1、
- LiNi0.5Mn1.5などのLNMO系のニッケルマンガン酸リチウム、
- LiFePOなどのLFP系のリン酸鉄リチウム、
- LiMnなどのLMO系のマンガン酸リチウム、および
- LiNiCoAlOなどのNCA系のリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物
から選択される物質を含有することを特徴とする、請求項10または11に記載の固体電解質(8)を有する固体電池(20)。
【請求項16】
請求項10または11に記載の固体電解質(8)を有する固体電池(20)を含む電子システム、例えば携帯時計、携帯電話、ラップトップ型コンピュータ、または自動車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は固体電池に関し、「全固体電池」にも関する。
【0002】
さらに本発明は、そのような固体電池の製造方法にも関する。
【0003】
さらに本発明は、そのような固体電池を含む携帯時計、ラップトップ型コンピュータ、携帯電話、または自動車などの電子システムにも関する。
【背景技術】
【0004】
固体電池または全固体電池は、リチウムイオン型電池の代替となる。液体電解質を含むリチウムイオン型電池とは異なり、全固体電池では負極と正極の間に固体電解質が配置されている。
【0005】
そのような電池はリチウムイオン電池よりもエネルギー密度が高く、故に蓄電容量が大きいという利点があり、これは多くの利用分野で有望である。
【0006】
LLZO化合物などのセラミック化合物は、固体電解質として使用されることが知られている。
【0007】
LLZO系化合物はイオン伝導率が高い。このセラミック化合物は、リチウム、ランタン、ジルコニウム、および酸素を含み、例えば、化学式LiLaZr12またはLiLaZrを有する。これをタンタルまたはアルミニウムでドープし、リチウムイオンに対し伝導性であるこれらの立方相を安定化させることもできる。その場合、例えば、化学式Li6.4LaZrTa0.612を有する。
【0008】
セラミック化合物の欠点の1つは、例えばリチウムでできている負極と固体電解質との接触である。より具体的には、2つの要素間に不純物や凹凸が存在すると、電流の集中や空洞が生じ、それによりリチウムデンドライトが形成され、これがセラミック化合物を通り抜けて短絡を引き起こすため、こうした不純物や凹凸を防ぐことが重要となる。これは、こうした集中電流は電流閾値を超えることがあり、そうするとセラミック化合物においてデンドライト、特にリチウムデンドライトが発生するためである。
【0009】
この問題の解決策の1つは、セラミック化合物とリチウム負極の間に伝導性液体を配置することである。これにより、この2つの間の接触が改善する。
【0010】
しかしながら、液体電解質を含有する電池に関連する問題、特に、液体が電池外に漏れるリスクやそれに伴う結果などの問題は生じる。さらに、液体が存在しても、リチウムデンドライトが形成されるリスクは完全に回避できるものではない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、前述の欠点を克服することであり、液体接触要素を使用せずに、負極と固体電解質の間の接触を改善する固体電池の生産方法を提供することを目指す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
このため、本発明は、固体電池の生産方法に関する。
【0013】
本発明は、方法が以下の連続的なステップを含む点で注目に値する。
- プロトン化可能なセラミック材料を含有する、好ましくは全体がこれからなる本体をプロトン化し、本体上にプロトン化層を形成するステップ、
- 小空洞が設けられた多孔質層が得られるようにプロトン化層を脱プロトン化するステップ、
- 本体の第1の側面上の脱プロトン化層上に負極を形成する金属元素を積層し、多孔質層のこれらの小空洞に金属元素を侵入させるステップ、および
- 本体の第2の側面上、好ましくは負極の第1の側面の反対側に正極を取り付けるステップ。
【0014】
プロトン化層を脱プロトン化するステップによりプロトンを除去することで、層に小空洞が生じ、それにより多孔質になる。それにより、部分的に、負極を形成する金属元素が、特に溶融状態で多孔質層に侵入しやすくなる。負極が電解質に入り込むことによって金属元素と固体電解質の本体との接触が向上するが、これは、特に多孔質層の空洞によって接触面積が大幅に増大するためである。さらに、電流集中が生じるリスク、またそれにより非プロトン化部分にデンドライトが形成されるリスクを防ぐ。
【0015】
したがって、リチウムデンドライト形成のリスクが低下する。
【0016】
本発明の特定の実施形態に従って、セラミック材料は以下から選択される。
- LLZO系のドープされたまたはドープされていないリチウムおよび/またはランタンジルコニウム酸化物、
- Na-b’’-Al系のドープされたまたはドープされていないβアルミナ固体電解質材料、
- 例えばLiPSX系(Xは元素Cl、Br、またはIから選択される)もしくはLiS-P系の三元、または四元以上の硫化物系固体電解質材料、
- 例えばLiMX系(Mは金属または金属合金であり、Xはハロゲンである)の三元、または四元以上のハロゲン系固体電解質材料、
- LISICON(リチウム超イオン伝導体)系、例えばLi4±xSi1-x系(Xは元素P、Al、またはGeから選択される)のリチウムイオン伝導性固体電解質材料、ならびに
- NASICON(ナトリウム超イオン伝導体)系、例えばNaMM’(XO系(MおよびM’は金属であり、Xは元素Si、P、またはSから選択される)のナトリウムイオン伝導性固体電解質材料。
【0017】
本発明の特定の実施形態に従って、プロトン化ステップでは、本体を水、アセトン、鉱油、またはエタノールなどのプロトン性または酸性溶媒に浸漬する。
【0018】
本発明の特定の実施形態に従って、脱プロトン化ステップでは、本体を所定の温度、好ましくは750℃以上に加熱してプロトン化層からプロトンを分離する。
【0019】
本発明の特定の実施形態に従って、金属元素は、金属元素積層ステップ中に本体上に溶融する。
【0020】
本発明の特定の実施形態に従って、金属元素は以下から選択される物質を含む。
- リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、またはフランシウムなどのアルカリ金属、
- ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、またはラジウムなどのアルカリ土類金属、
- ランタニドおよびアクチニドを含む、周期表の第3~11族に属する遷移金属すべて、ならびに
- これらの金属の合金。
【0021】
本発明の特定の実施形態に従って、方法は、本体の非プロトン化部分上に正極を直接積層するために、本体からプロトン化層の一部を除去する追加的なステップを含む。
【0022】
本発明の特定の実施形態に従って、本体からプロトン化層の一部を除去する追加的なステップは、本体の第2の側面を研磨することによって実施する。
【0023】
本発明の特定の実施形態に従って、正極は以下から選択される材料を含有する。
- LiNiMnCoまたはLi2-x-y-zNiMnCoなどのNMC系のニッケルマンガンコバルト酸リチウム、このときx+y+z≦1、
- LiNi0.5Mn1.5などのLNMO系のニッケルマンガン酸リチウム、
- LiFePOなどのLFP系のリン酸鉄リチウム、
- LiMnなどのLMO系のマンガン酸リチウム、および
- LiNiCoAlOなどのNCA系のリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物。
【0024】
さらに本発明は、負極、正極、およびセラミック固体電解質を含む固体電池であって、固体電解質には、小空洞が設けられた多孔質の脱プロトン化層と非プロトン化部分とが隣接して設けられ、正極は本体上に積層されており、負極は正極の反対側において本体の多孔質の脱プロトン化層上に配置した金属元素を含み、金属元素は多孔質の脱プロトン化層の小空洞に侵入させていることを特徴とする固体電池に関する。
【0025】
本発明の特定の実施形態に従って、金属元素は本体の非プロトン化部分によってブロックされる。
【0026】
本発明の特定の実施形態に従って、金属元素は以下から選択される物質を含む。
- リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、またはフランシウムなどのアルカリ金属、
- ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、またはラジウムなどのアルカリ土類金属、
- ランタニドおよびアクチニドを含む、周期表の第3~11族に属する遷移金属すべて、ならびに
- これらの金属の合金。
【0027】
本発明の特定の実施形態に従って、セラミック材料は以下から選択される。
- LLZO系のドープされたまたはドープされていないリチウムおよび/またはランタンジルコニウム酸化物、
- Na-b’’-Al系のドープされたまたはドープされていないβアルミナ固体電解質材料、
- 例えばLiPSX系(Xは元素Cl、Br、またはIから選択される)もしくはLiS-P系の三元、または四元以上の硫化物系固体電解質材料、
- 例えばLiMX系(Mは金属または金属合金であり、Xはハロゲンである)の三元、または四元以上のハロゲン系固体電解質材料、
- LISICON(リチウム超イオン伝導体)系、例えばLi4±xSi1-x系(Xは元素P、Al、またはGeから選択される)のリチウムイオン伝導性固体電解質材料、ならびに
- NASICON(ナトリウム超イオン伝導体)系、例えばNaMM’(XO系(MおよびM’は金属であり、Xは元素Si、P、またはSから選択される)のナトリウムイオン伝導性固体電解質材料。
【0028】
本発明の特定の実施形態に従って、正極は本体の非プロトン化部分に接合する。
【0029】
本発明の特定の実施形態に従って、正極は以下から選択される材料を含有する。
- LiNiMnCoまたはLi2-x-y-zNiMnCoなどのNMC系のニッケルマンガンコバルト酸リチウム、このときx+y+z≦1、
- LiNi0.5Mn1.5などのLNMO系のニッケルマンガン酸リチウム、
- LiFePOなどのLFP系のリン酸鉄リチウム、
- LiMnなどのLMO系のマンガン酸リチウム、および
- LiNiCoAlOなどのNCA系のリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物。
【0030】
さらに本発明は、そのような全固体電池を含む電子システム、例えば携帯時計、ドローン、ラップトップ型コンピュータ、携帯電話、または自動車に関する。
【0031】
添付図面を参照しながら、決して限定的な指針ではなく大まかな指針として提示する以下の説明で、他の具体的な特徴および利点が明確に観察されよう。
【図面の簡単な説明】
【0032】
図1】本発明による方法のステップを示すブロック図である。
図2a】本発明による電池の生産方法における各ステップ後の電池の概略断面図である。
図2b】本発明による電池の生産方法における各ステップ後の電池の概略断面図である。
図2c】本発明による電池の生産方法における各ステップ後の電池の概略断面図である。
図2d】本発明による電池の生産方法における各ステップ後の電池の概略断面図である。
図2e】本発明による電池の生産方法における各ステップ後の電池の概略断面図である。
図2f】本発明による電池の生産方法における各ステップ後の電池の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明は、固体電池20の生産方法10に関する。そのような電池20は、負極14、正極15、および正極15と負極14の間に配置された電解質を含む。固体電解質8は、液体ではない電解質を指すと理解される。
【0034】
電解質8は、プロトン化が可能な材料を含有する本体11から形成する。つまり、プロトンとHイオン交換することが可能である。好ましくは、本体11は全体がこの材料で作られている。
【0035】
使用するセラミック材料は以下から選択できる。
- LLZO系のドープされたまたはドープされていないリチウムおよび/またはランタンジルコニウム酸化物、
- Na-b’’-Al系のドープされたまたはドープされていないβアルミナ固体電解質材料、
- 例えばLiPSX系(Xは元素Cl、Br、またはIから選択される)もしくはLiS-P系の三元、または四元以上の硫化物系固体電解質材料、
- 例えばLiMX系(Mは金属または金属合金であり、Xはハロゲンである)の三元、または四元以上のハロゲン系固体電解質材料、
- LISICON(リチウム超イオン伝導体)系、例えばLi4±xSi1-x系(Xは元素P、Al、またはGeから選択される)のリチウムイオン伝導性固体電解質材料、ならびに
- NASICON(ナトリウム超イオン伝導体)系、例えばNaMM’(XO系(MおよびM’は金属であり、Xは元素Si、P、またはSから選択される)のナトリウムイオン伝導性固体電解質材料。
【0036】
セラミック材料は、好ましくは全体がこの材料で作られている。
【0037】
好ましくは、LLZO系化合物は高いイオン伝導率を有しているために選択される。
【0038】
電池20を生産するために、セラミック本体11をプロトン化する第1のステップ1を含む方法を用いる。セラミックの原子をプロトンに置き換えるために、本体11を、水、アセトン、鉱油、またはエタノールなどのプロトン性または酸性溶媒に浸漬する。好ましくは、プロトン性溶媒として水を選択する。
【0039】
本体11は、本体11および所望のプロトン化層の大きさに応じて、長時間、少なくとも1日、好ましくは数日、または1週間以上浸漬する。
【0040】
本体は、例えば厚さ0.7mmのペレットのような形状で、小型電池20を形成する。本体は、好ましくは事前に研磨され、平行な面を有する。
【0041】
好ましくは、プロセスを加速するために、液体を所定の温度、例えば50℃に加熱する。
【0042】
LLZO系化合物の場合、水を用いたプロトン化の式は以下の通りである。
LLZO+HO→HLLZO+LiOH
【0043】
使用する液体にかかわらず、HLLZO系のプロトン化化合物が得られる。プロトン化されたHLLZO系化合物は、非常に硬いセラミックである非プロトン化LLZO系化合物よりも脆弱である。
【0044】
このステップが終わると、本体11はその周囲にプロトン化層12、13を備える。本体が液体に完全に浸漬されると、層12、13は本体11の周囲全体に積層される。
【0045】
層は、例えば20μmの厚さを有する。第1の層13は本体11の第1の側面7上に積層し、第2の層12は本体11の第2の側面9上に積層する。
【0046】
任意に、方法10は、次のステップで本体11の非プロトン化部分上に正極15を直接積層できるように、第2のプロトン化層12を本体11の第2の側面9から除去する第2のステップ2を含む。これは、正極15と非プロトン化部分の間の伝導率が、正極15とプロトン化部分の間よりも優れているためである。
【0047】
好ましくは、第2の除去ステップ2は、本体11の第2の側面9を研磨することを含む。研磨により材料12のプロトン化層が除去され、本体11の非プロトン化部分が露出する。例えば、600番の研磨材を使用してHLLZO系プロトン化層を除去する。
【0048】
別法として、第2のプロトン化層12は、その上に正極15を積層するために、本体11の第2の側面9上に保持される。正極15の接着方法によって、特に、使用する接着剤に応じて、第2のプロトン化層12を利用できる。
【0049】
第3のステップ3では、プロトン化層13を脱プロトン化するために、本体11を所定の温度に加熱する。脱プロトン化は、プロトン化層13からのプロトンの除去を意味すると理解される。特定の温度を超えると、プロトンは化合物の残りの部分から分離する。HLLZO系のプロトン化材料における脱プロトン化の式は以下の通りである。
HLLZO→LZO+H
【0050】
所定の温度は、好ましくは750℃よりも高い。最低でもこの温度であることで、HLLZO系のプロトン化材料では、化学反応が先行することが可能となる。脱プロトン化層13は、脱プロトン化層13の分解によって生じる小空洞18があるために多孔質となる。それにもかかわらず、多孔質層13は硬さを維持する。加熱時間は、例えば3時間程度である。
【0051】
第4のステップ4は、本体11の第1の側面7上のプロトン化部分上に、負極14を形成する金属元素を積層することからなる。第1の側面7は、本体11の第2の側面9の反対側に位置するように選択される。したがって、本体11のいずれか一方の側面に負極14、他方の側面に正極15が配置される。
【0052】
金属元素は以下から選択される物質を含む。
- リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、またはフランシウムなどのアルカリ金属、
- ベリリウム、マグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、またはラジウムなどのアルカリ土類金属、
- ランタニドおよびアクチニドを含む、周期表の第3~11族に属する遷移金属すべて、ならびに
- これらの金属の合金。
【0053】
金属元素は、好ましくは全体がこの材料で作られている。
【0054】
好ましくは、リチウムは、負極14としての使用に資する物理的および化学的特性のために選択される。
【0055】
溶融した金属元素を、本体11の第1の脱プロトン化側面7に積層する。つまり、第1の側面7上に金属元素を溶融状態で積層する。この状態で、金属元素は本体11に接着し、多孔質となった脱プロトン化層13の空洞または亀裂に侵入する。多孔質であるため、溶融金属元素は第1の側面7から脱プロトン化層13に容易に入り込む。
【0056】
特に金属元素が多孔質層13にこのように侵入することにより、金属元素と本体11との接触面の範囲が最大化し、望ましくないデンドライトの形成が妨げられる。
【0057】
方法は、第2のステップ2で行われた研磨の後にプロトン化されていない、本体11の負極14の反対側にある第2の側面9に正極15を取り付ける第5のステップ5を含む。
【0058】
このために、高分子材料からなる接着剤16を使用して、正極液と呼ばれるこれらを組み合わせ、接着剤16がイオンを通過させるイオン伝導体となる。
【0059】
例えば、PEO系のポリエチレンオキシド、LiTFSi(リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド)系のリチウム塩、およびTHF(テトラヒドロフラン)を含有する高分子接着剤16を使用する。高分子接着剤16をTHF(テトラヒドロフラン)に溶解し、次いで第2の側面9上に、例えばドロップキャスト法を用いて積層する。その後THFが乾燥したら、正極15が第2の側面9に永久に接着するように、正極15を高分子接着剤16上に積層する。
【0060】
正極15は、例えば以下から選択される活物質を含有する。
- LiNiMnCoまたはLi2-x-y-zNiMnCoなどのNMC系のニッケルマンガンコバルト酸リチウム、このときx+y+z≦1、
- LiNi0.5Mn1.5などのLNMO系のニッケルマンガン酸リチウム、
- LiFePOなどのLFP系のリン酸鉄リチウム、
- LiMnなどのLMO系のマンガン酸リチウム、および
- LiNiCoAlOなどのNCA系のリチウムニッケルコバルトアルミニウム酸化物。
【0061】
正極15は、これらのイオン伝導率および電子伝導率を改善するために、高分子接着剤および炭素と合わせて、好ましくは大部分がこの材料から作られている。
【0062】
図2a)は、全体がLLZO系セラミック材料でできた本体11を示す。第1のプロトン化ステップ後、図2b)に示すように、本体11はその周囲にプロトン化層12、13を備える。第1の層13は本体11の第1の側面7上に配置し、第2の層12は本体11の第2の側面9上に配置する。
【0063】
次いで、本体11の第2の側面9を、この側面の非プロトン化部分が露出されるように研磨する。これにより、図2c)の本体11は、第2の側面9に非プロトン化部分を、本体11の第1の側面7にプロトン化層13を有する。
【0064】
第3の脱プロトン化ステップ後、図2d)に示すように、非プロトン化部分の下に多孔質の脱プロトン化層13が得られる。脱プロトン化プロセス中に脱プロトン化層13中に小空洞18が生じる。
【0065】
第4のステップに従って、図2e)に示すように、本体11の第1の脱プロトン化側面7上に、好ましくはリチウムからなる溶融金属元素を積層することによって、負極14を形成する。
【0066】
溶融金属元素は、負極と電解質8との接触面積が増大するように、多孔質の脱プロトン化層13に、特に小空洞18内に侵入する。
【0067】
図2f)に示すように、正極15は、高分子接着剤16を使用して、本体11の第2の非プロトン化側面9に接合する。
【0068】
これにより、電池20は、電解質8のいずれか一方の側面に負極14、他方の側面に正極15を備え、本体11は、重なり合った多孔質の脱プロトン化セラミック層13と非プロトン化部分とを有する。
【0069】
そのような電池20は、携帯時計、ドローン、携帯電話、ラップトップ型コンピュータ、または電気自動車など任意の電子システムに使用できる。自動車の場合、当然ながら電池は大きなサイズである。
【0070】
言うまでもなく、本発明は、図を参照して説明した実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱しない範囲で代替案を検討することができる。
【符号の説明】
【0071】
1 第1のステップ
2 第2のステップ
3 第3のステップ
4 第4のステップ
5 第5のステップ
6 第6のステップ
7 第1の側面
8 固体電解質
9 第2の側面
10 固体電池の生産方法
11 本体
12 プロトン化層
13 プロトン化層
14 負極
15 正極
16 高分子接着剤
18 小空洞
19 電流発生器
20 電池
図1
図2a
図2b
図2c
図2d
図2e
図2f
【外国語明細書】