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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155203
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】組織再生基材
(51)【国際特許分類】
   A61F 2/04 20130101AFI20231013BHJP
   A61L 27/58 20060101ALI20231013BHJP
   A61L 27/40 20060101ALI20231013BHJP
   A61L 27/52 20060101ALI20231013BHJP
   A61L 27/34 20060101ALI20231013BHJP
   A61L 27/18 20060101ALI20231013BHJP
   A61L 27/20 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
A61F2/04
A61L27/58
A61L27/40
A61L27/52
A61L27/34
A61L27/18
A61L27/20
【審査請求】未請求
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023060968
(22)【出願日】2023-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2022064527
(32)【優先日】2022-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(71)【出願人】
【識別番号】504132272
【氏名又は名称】国立大学法人京都大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】平田 梨江子
(72)【発明者】
【氏名】嶋田 紘尚
(72)【発明者】
【氏名】小長井 文乃
(72)【発明者】
【氏名】関根 富士夫
(72)【発明者】
【氏名】高辻 和久
(72)【発明者】
【氏名】村田 祥武
(72)【発明者】
【氏名】豊 洋次郎
(72)【発明者】
【氏名】伊達 洋至
【テーマコード(参考)】
4C081
4C097
【Fターム(参考)】
4C081AB15
4C081BA12
4C081BA16
4C081BB08
4C081CA171
4C081CC01
4C081CC04
4C081CD012
4C081CD082
4C081DA02
4C081DA03
4C081DA12
4C081DB01
4C081DC03
4C097AA14
4C097AA17
4C097BB01
4C097CC01
4C097CC02
4C097CC12
4C097DD12
4C097EE16
4C097FF12
4C097FF16
(57)【要約】
【課題】生体適合性と十分な強度を有し、かつ組織を再生可能な組織再生基材を実現する。
【解決手段】生体吸収性材料の糸の組み編みで形成される生体吸収性基材(11)と、生体適合性材料で構成され、生体吸収性基材(11)の少なくとも一方の主面を覆う塗膜(12)とによって、組織再生基材(1)を構成する。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性材料の糸の組み編みで形成される生体吸収性基材と、生体適合性材料で構成され、前記生体吸収性基材の少なくとも一方の主面を覆う塗膜と、を有する組織再生基材。
【請求項2】
前記生体吸収性基材は、前記生体吸収性材料の糸で隙間なく編み込まれている、請求項1に記載の組織再生基材。
【請求項3】
前記生体吸収性基材がシート状である、請求項1または2に記載の組織再生基材。
【請求項4】
前記生体吸収性基材がチューブ状である、請求項1または2に記載の組織再生基材。
【請求項5】
前記塗膜は、前記生体吸収性基材の外周面を覆う、請求項4に記載の組織再生基材。
【請求項6】
前記生体吸収性基材における組角度は20°以上90°未満である、請求項1に記載の組織再生基材。
【請求項7】
前記生体吸収性基材の目付は0.5g/m以上500g/m以下である、請求項1に記載の組織再生基材。
【請求項8】
前記糸の組糸繊度は5dtex以上である、請求項1に記載の組織再生基材。
【請求項9】
前記糸の単糸繊度は1dtex以上200dtex以下である、請求項1に記載の組織再生基材。
【請求項10】
前記生体吸収性材料は生体吸収性高分子であり、前記生体吸収性高分子は単独重合体または共重合体である、請求項1に記載の組織再生基材。
【請求項11】
前記生体吸収性材料は、ポリグリコール酸またはグリコール酸共重合体である、請求項10に記載の組織再生基材。
【請求項12】
前記生体適合性材料は、ハイドロゲルである、請求項1に記載の組織再生基材。
【請求項13】
前記生体適合性材料は、多糖類、天然高分子およびそれらの架橋体からなる群から選ばれる一種以上を含む、請求項12に記載の組織再生基材。
【請求項14】
前記生体適合性材料は、架橋ヒアルロン酸を含む、請求項12に記載の組織再生基材。
【請求項15】
生体吸収性または生体適合性を有する線状の支持材で構成される支持体であって、生体内において非分解または前記生体吸収性材料よりも遅い分解速度を有し、かつ前記生体吸収性基材中にまたは前記生体吸収性基材に沿って配置される支持体をさらに有する、請求項1に記載の組織再生基材。
【請求項16】
環状の前記支持体を複数有し、各前記支持体は互いに離れて配置されている、請求項15に記載の組織再生基材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、組織再生基材に関する。
【背景技術】
【0002】
病気または事故による気管の損傷に対する治療法の一つとして、人工素材で構成されている人工気管を移植する方法が知られている。このような人工気管については、生体適合性と力学的強度を両立させた非吸収性人工気管が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、当該人工気管については、生体適合性のある生体吸収性材料の不織布を用いて、再生しようとする組織や器官の部位に移植される組織再生基材が知られている(例えば、特許文献2参照)。
【0004】
また、当該人工気管については、生体組織材料が存在する環境下で形成された、線維性組織で構成される管状組織体と、生分解性の材料で構成された、当該管状組織体に内包される管状補強体と、を備える管状人工臓器が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0005】
また、当該人工気管については、生分解性多孔質体の足場部材の表面にハイドロゲルを介して軟骨細胞が固定されている再生軟骨体を、組織誘導性物質を含むマトリックス部材によって、生分解性の膜状部材に固定される気管再生用軟骨移植キットが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開第2001/024731号
【特許文献2】国際公開第2016/088821号
【特許文献3】特開2019-129979号公報
【特許文献4】特開2017-086665号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、人工気管の移植による気管の損傷に対する治療法としていまだ確立された方法は存在せず、上述のような従来技術は、非吸収性人工気管であれば、当該非吸収性人工気管体内に永久留置されることによる感染などの影響が生じることがある。生体適合性を有する従来の人工気管では、気密性および力学強度などの物理的な特性が不十分であり、またそのままでは軟骨が再生しないことがある。このように、従来の人工気管には、生体適合性と十分な強度を有し、かつ組織を再生させる観点から、検討の余地が残されている。
【0008】
本発明の一態様は、生体適合性と十分な強度を有し、かつ組織を再生可能な組織再生基材を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る組織再生基材は、生体吸収性材料の糸の組み編みで形成される生体吸収性基材と、生体適合性材料で構成され、前記生体吸収性基材の少なくとも一方の主面を覆う塗膜と、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、生体適合性と十分な強度を有し、かつ組織を再生可能な組織再生基材を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一実施形態に係る組織再生基材の構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の実施形態における生体吸収性基材を説明するための図である。
図3】本発明の実施形態における組織再生基材の具体例の主面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。
図4】実施例におけるチューブ状の組織再生基材の径方向における圧縮強度の測定結果を示す図である。
図5】実施例で使用したラットの気管半周欠損モデルにおける(A)気管を半周切除した状態と(B)気管の切除部分にシート状の組織再生基材を逢着した状態とのそれぞれの一例の写真を示す図である。
図6】実施例において組織再生基材を逢着した気管半周欠損モデルにおける(A)2週間後、(B)1か月後、(C)2か月後および(D)6か月後の気管逢着部を気管支鏡で撮影した写真の一例を示す図である。
図7】実施例において組織再生基材を逢着した気管半周欠損モデルにおける2週間後の気管逢着部の断面写真の一例を示す図である。
図8】実施例において組織再生基材を逢着した気管半周欠損モデルにおける1か月後の気管逢着部の断面写真の一例を示す図である。
図9】実施例において組織再生基材を逢着した気管半周欠損モデルにおける2か月後の気管逢着部の断面写真の一例を示す図である。
図10】実施例において組織再生基材を逢着した気管半周欠損モデルにおける6か月後の気管逢着部の断面写真の一例を示す図である。
図11図10中のA部を拡大して示す写真を示す図である。
図12】実施例において組織再生基材を逢着した気管半周欠損モデルにおける気管逢着部の内側中央部の走査型電子顕微鏡写真の一例を示す図である。
図13図12中のA部を拡大して示す写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、詳細に説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る組織再生基材の構成を模式的に示す図である。図1に示されるように、組織再生基材1は、生体吸収性基材11と塗膜12とを有する。
【0013】
〔生体吸収性基材〕
生体吸収性基材11はチューブ状である。生体吸収性基材11の形状は、適用する生体の器官の形状および適用する形態に応じて適宜に決めることが可能である。たとえば、気管のような管状の器官の全体を置き換える場合であれば、生体吸収性基材11の形態はチューブ状であってよい。器官の一部に被せる場合であれば、生体吸収性基材11の形態はシート状であってよい。
【0014】
生体吸収性基材11は、生体吸収性材料の糸の組み編みで形成されている。図2は、本発明の実施形態における生体吸収性基材を説明するための図である。生体吸収性基材11は、二本以上の組糸(「糸状体」とも言われる)を交互に交差させることによる面状の領域として形成されている。組糸は、一本の糸または二本以上の本数の糸の組で構成される。組糸は、複数の糸が立体的に束ねられていてもよいし、平面的に並べられていてもよい。生体吸収性基材11が組み編みで形成されていることは、生体吸収性基材11の生体吸収性を高める観点から好ましい。
【0015】
組糸を構成する糸は、モノフィラメント糸であってもマルチフィラメント糸であってもよい。マルチフィラメント糸の場合は、組織再生基材1に実質的に気密な面状の領域を構成する観点、および、組織再生基材1の強度を高める観点から、1本以上であることが好ましく、10本以上であることがより好ましく、24本以上であることがさらに好ましい。
【0016】
チューブ状の生体吸収性基材11は、組糸の組み編みによる組紐によって構成される。シート状などの、チューブ状以外の形状の生体吸収性基材11は、組紐が切り取られ、または切り開かれることによって構成され得る。
【0017】
生体吸収性基材11の組角度は20°以上90°未満であることが、組織再生基材1の好ましい気密性、強度および柔軟性を実現させる観点から好ましい。組角度とは、生体吸収性基材11の長手方向に対して組紐の軸方向がなす角度であり、図2中のθで表される。組織再生基材1の長手方向は、組紐が形成する組み編み構造の繰り返し単位の形状における特定の位置が並ぶ方向と決めることができる。図2であれば、組織再生基材1の長手方向は、例えば、組紐が形成する、互いに隣接する斜めの略矩形の繰り返し単位の形状における最も右側の頂点を結ぶ線で表される。
【0018】
生体吸収性基材11の組角度が低いことは、生体吸収性基材11の柔軟性を高め、組織再生基材1を器官へ適用したときの形状の追従性を高める観点から好ましい。このような観点から、組角度は20°以上であることが好ましく、30°以上であることがより好ましく、40°以上であることがさらに好ましい。
【0019】
一方で、当該組角度は、組み編みが可能な範囲であればよく、その中で当該組角度が高いことは、組織再生基材1の気密性および強度を高める観点から好ましい。このような観点から、組角度は、90°未満であればよいが、上記の観点によれば85°以下であることが好ましく、80°以下であることがより好ましい。
【0020】
生体吸収性基材11の組目の数は、前述の気密性および強度の観点から3個/inch以上であることが好ましく、より好ましくは25個/inch以上である。
【0021】
生体吸収性基材11の目付は0.5g/m以上500g/m以下であることが、組織再生基材1の好ましい気密性、強度および柔軟性を実現させる観点から好ましい。生体吸収性基材11の目付は、組織再生基材1の柔軟性を十分に高める観点から、500g/m以下であることが好ましく、400g/m以下であることがより好ましく、300g/m以下であることがさらに好ましい。また、生体吸収性基材11の目付は、組織再生基材1の気密性および強度を十分に高める観点から、0.5g/m以上であることが好ましく、1g/m以上であることがより好ましく、2g/m以上であることがさらに好ましい。
【0022】
生体吸収性基材11は、上記のような物性に基づいて組織再生基材1の所望の気密性、強度および柔軟性を実現可能であればよい。生体吸収性基材11は、気管への適用におけるこれらの特性を実現する観点から、生体吸収性材料の糸で隙間なく編み込まれていることが好ましい。
【0023】
生体吸収性基材11は、生体吸収性材料の糸(前述の糸)によって形成される。生体吸収性材料とは、生体内で分解、吸収される材料であり、例えば、生体における加水分解により消失する高分子化合物、すなわち生体吸収性高分子であり得る。生体吸収性高分子は単独重合体であってもよいし、共重合体であってもよい。生体吸収性高分子としては、ポリグリコール酸、ポリラクチド、ポリ-ε-カプロラクトン、ラクチド-グリコリド共重合体、グリコリド-ε-カプロラクトン共重合体、ラクチド-ε-カプロラクトン共重合体、ポリジオキサノン、ポリクエン酸、ポリリンゴ酸、ポリ-α-シアノアクリレート、ポリ-β-ヒドロキシ酸、ポリトリメチレンオキサレート、ポリテトラメチレンオキサレート、ポリオルソエステル、ポリオルソカーボネート、ポリエチレンカーボネート、ポリ-γ-ベンジル-L-グルタメート、ポリ-γ-メチル-L-グルタメート、ポリ-L-アラニン等の合成高分子;デンプン、アルギン酸、ヒアルロン酸、キチン、ペクチン酸及びその誘導体等の多糖類;および、ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリン等のタンパク質等の天然高分子等が挙げられる。生体吸収性材料は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。生体吸収性材料は、組織再生基材1としての所望の物性を実現し、かつ器官における組織の再生を実現する観点から、ポリグリコール酸またはグリコール酸共重合体であることが好ましい。
【0024】
本実施形態において、「単糸」とは単一の糸であり、マルチフィラメントを構成する単一の糸またはモノフィラメントのことを言う。また、「組糸」とは組紐を作製する際に使用する糸である。組糸は束にして編まれていてもよい。生体吸収性材料の糸の単糸繊度は、組織再生基材1としての所望の物性を実現する観点から、1dtex以上200dtex以下であることが好ましい。単糸の繊度は、生体吸収性基材の強度を高める観点から、1dtex以上であることが好ましく、5dtex以上であることがより好ましく、7dtex以上であることがさらに好ましく、8dtex以上であることがより一層好ましい。また、単糸の繊度は、組織再生基材1の気密性および柔軟性を高める観点から、80dtex以下であることが好ましく、100dtex以下であることがより好ましく、200dtex以下であることがさらに好ましい。
【0025】
生体吸収性材料の糸の単糸繊度は、組として使用される糸の本数に応じて異なるが、単糸または組糸として組み編みに供したときに、生体吸収性基材11として十分な強度を実現可能であればよい。たとえば、24本の糸を束にして編まれている組糸の繊度が200dtexである場合では、当該組紐を構成する各糸の維度は8.3dtexである。組糸は、組糸をさらに束にして編まれていてもよく、例えば、繊度が200dtexの3本の組糸を束にして編まれた組紐を構成することも可能である。
【0026】
生体吸収性材料の糸の強度は、組織再生基材1の所望の強度を実現する観点から適宜に決めることが可能である。ここで言う強度は引張強度であり、繊度と同様に、前述の組紐において組として使用される糸の本数に応じて異なるが、単糸または組紐として使用される際に十分な強度が発現されればよい。組織再生基材1の強度を十分に高める観点から、組糸の強度は、0.1cN/dtex以上であることが好ましく、1cN/dtex以上であることがより好ましく、3cN/dtex以上であることがさらに好ましく、5cN/dtex以上であることがより一層好ましい。また、組織再生基材1の柔軟性を十分に高める観点から、組糸の強度は、30cN/dtex以下であることが好ましく、10cN/dtex以下であることがより好ましく、8cN/dtex以下であることがさらに好ましい。
【0027】
〔塗膜〕
塗膜12は、生体吸収性基材11の外周面を覆っている。塗膜12は、塗布材料の塗布により形成される薄膜である。塗膜12は、生体吸収性基材11の外周面を覆う被覆層を形成する。塗膜12は、後述するように、組み編みによる生体吸収性基材11の外周面を塗布材料で塗布して形成されることから、通常、生体吸収性基材11に染み込む部分を含む。なお、塗膜12は、気密性の観点から、生体吸収性基材11の少なくとも一方の主面を覆っていればよい。すなわち、塗膜は、生体吸収性基材がシート状ならその表面および裏面の一方または両方を覆っていてよく、生体吸収性基材がチューブ状ならその内周面および外周面の一方または両方を覆っていてもよい。また、塗膜は、生体吸収性基材の当該主面全体を、すなわち主面の端部まで、覆っていることが、組織再生基材の気密性を高める観点から好ましい。さらに、塗膜12が生体吸収性基材11の外周面、すなわち、器官の外側の面に形成されることは、生体の組織の再生を促進させる観点から好ましい。
【0028】
塗膜12は、生体適合性材料で構成されている。生体適合材料とは、生体に対して非毒性を有し、かつその材料の機能および耐久性を保持可能な材料である。塗膜12が生体吸収性基材11と生体組織との間に介在することは、生体への刺激を抑制し、組織の再生を実現する観点から好ましい。
【0029】
生体適合性材料は、ハイドロゲルであることが好ましい。ハイドロゲルは、その内部に水を含む物質で、親水性の架橋ポリマーによって構成される。親水性の架橋ポリマーは、水との十分な親和性により水と混和し、架橋構造による三次元構造中に水を保持する。生体適合性材料がハイドロゲルであることは、組織再生基材1の生体との親和性を高め、組織の再生を促進させる観点から好ましい。
【0030】
このような生体適合性材料の例には、デンプン、ヒアルロン酸、アルギン酸、キチン、ペクチン酸およびその誘導体などの多糖類;ゼラチン、コラーゲン、アルブミン、フィブリンなどのタンパク質などの天然高分子;ならびに、架橋ヒアルロン酸などのポリアニオン性多糖類;が含まれる。生体適合性材料は、一種でもそれ以上でもよい。中でも、生体に対する親和性の高さおよび低刺激性の観点から、生体適合性材料が架橋ヒアルロン酸を含むことが好ましい。
【0031】
[塗膜の製法]
塗膜12は、生体適合性材料の溶液である塗布材料を生体吸収性基材11の表面に塗布し、乾燥することによって作製することが可能である。当該塗布材料の塗布および乾燥は、複数回実施してもよい。
【0032】
また、塗膜12の作製において、当該塗布材料の塗布および乾燥の後に、さらに熱処理を施してもよい。熱処理によって分解速度を低下させることができる。当該熱処理の条件は、当該目的を実現可能な範囲で適宜に決めることができ、例えば塗膜12の生体適合性材料が架橋ヒアルロン酸であれば、熱処理の処理温度は80~120℃であってよく、処理時間は10分~1時間であってよい。
【0033】
塗膜12の厚みは、上記の塗布材料をより厚く塗布することにより、より厚くすることが可能である。たとえば、塗膜12の厚みは、当該塗布材料の粘度を高くすることにより、厚くすることが可能である。または、塗膜12の厚みは、生体適合性材料の塗布材料における膨潤速度を遅くすることにより、厚くすることが可能である。または、塗布と乾燥を繰り返し複数回行うことにより、厚くすることが可能である。上記の熱処理をさらに施す場合では、塗膜12の厚みは、熱処理の温度を上げるか、または処理時間を長くすることにより、厚くすることが可能である。塗布材料をより厚く塗布することにより、生体吸収性基材11が編み目に隙間を有していても、当該隙間を実質的に塞いで組織再生基材1の十分な気密性を実現させる塗膜12を作製することが可能である。
【0034】
塗膜12は、上記のように塗布材料の塗布によって作製されることから、生体吸収性基材11における上記の塗布材料を塗布した側に、生体適合性材料の層として存在する。図3は、本発明の実施形態における組織再生基材の具体例の主面の走査型電子顕微鏡写真を示す図である。図3において、行B1には、チューブ状の組織再生基材の外周面、行B2には内周面の写真が示されている。また、列A1の写真は、塗膜12を有さない状態(すなわち生体吸収性基材)を示している。列A2の写真は、上記の熱処理未実施の架橋ヒアルロン酸の塗膜を外周側に有する組織再生基材を示している。そして列A3の写真は、熱処理を実施した架橋ヒアルロン酸の塗膜を外周側に有する組織再生基材を示している。
【0035】
図3の写真から明らかなように、列A2、A3において、B2列の内腔の写真に比べてB1列の外装の写真では、繊維間の隙間が埋められており、このように組織再生基材の外周側には生体適合性材料由来の膜の存在が確認される。また、B2列の内腔の写真では、列A1の写真に比べて列A2、A3の写真では、繊維の付着物がより多く確認される。これは、塗膜の作製時に塗膜の塗布材料が一部染み込んだことを示していると考えられる。
【0036】
[支持体]
本実施形態の組織再生基材は、本発明の効果が得られる範囲において、前述した生体吸収性基材および塗膜以外の他の構成をさらに含んでいてもよい。たとえば、組織再生基材は、支持体をさらに含んでいてもよい。
【0037】
支持体は、生体吸収性基材中にまたは生体吸収性基材に沿って配置される。支持体は、組織再生基材の所望の形状に生体吸収性基材を支持するための部材であり、生体中の組織再生基材において生体組織中の軟骨と同様に生体組織の所望の形状を支持する機能を有する。たとえば、支持体は、組織再生基材を気管に適用した場合、気管の軟骨の代わりとなる。
【0038】
支持体は、組織再生基材において、生体内に配置されたときに所望の形状を所望の期間維持するように配置されていればよい。たとえば、支持体は、支持体の長さの半分以上が組織再生基材の主面と平行な面(仮想面を含む)に接するように配置され得る。組織再生基材の形状がチューブ状であれば、支持体は、生体吸収性基材中、生体吸収性基材の内周面、生体吸収性基材の外周面、塗膜中、塗膜の内周面および塗膜の外周面のいずれかに配置され得る。また、組織再生基材の形状がシート状であれば、支持体は、生体吸収性基材中、生体吸収性基材の表面、生体吸収性基材の裏面、塗膜中および塗膜の表面のいずれかに配置され得る。
【0039】
支持体は、生体吸収性基材の組み編みに絡ませることにより生体吸収性基材中に配置することが可能である。また、支持体は、生体吸収性基材の主面上に配置した後に当該主面を覆う塗膜を形成することによって塗膜中に配置することが可能である。
【0040】
支持体は支持材によって構成される。支持材は、線状の部材である。線状の支持材によって支持体を構成することによって、支持体は、その所望の機能を発揮しつつ組織再生基材の柔軟性を担保する。
【0041】
支持材は、生体吸収性あるいは生体適合性を有する。さらに、支持材は、支持体が生体吸収性基材を支持する観点から、比較的硬い材料であることが好ましい。支持材の材料の例には、ポリフッ化ビニリデン、ナイロン、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリエチレンテレフタレート、テフロン(登録商標)、ポリカプロラクトン、ポリグリコール酸、ポリ乳酸、ポリアミド4、酢酸セルロース、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリビニルアルコール、ポリブチレンサクシネート、ポリパラジオキサノンおよびハイドロキシアパタイトが含まれる。
【0042】
支持体は、生体内において非分解であるか、または前記生体吸収性材料よりも遅い分解速度を有する。支持体の分解速度は、37℃の生理食塩液(塩化ナトリウム0.9w/v%の水溶液)に浸漬しているときの経時的な重量減少によって評価される。当該分解速度は、支持体の構造によって調整することが可能であり、例えば支持材がより密に配置された構造とすることによって分解速度をより遅くすることが可能である。
【0043】
支持体は、組織再生基材の形状を保持する観点から、十分な硬さを有することが好ましい。たとえば、支持体は、切除によって欠いた生体組織の形状を少なくとも生体組織の再生の間、当初の形状を維持する硬さを有することが好ましい。支持体の十分な硬さは、上記の分解速度の評価方法において支持体が当初の形状を維持しているか否かを目視で観察することで確認することが可能である。また、支持体の十分な硬さは、例えば支持体を太くすることによってより高くすることが可能である。
【0044】
支持体は、組織再生基材に十分な柔軟性を発現させる観点から、組織再生基材の長手方向において支持体を構成する支持材間に隙間を有するように配置されていることが好ましい。また、支持体は、再生された組織の形状をより確実に保つ観点から、支持体を構成する支持材が略等間隔で、かつ略平行となるように配置されていることがより好ましい。このような支持体の例には、複数の独立した環状の支持材で構成される支持体、らせん状に形成されている支持材で構成される支持体、および、網目状の支持材で管状に形成されてなる支持体、が含まれる。上述の観点から、支持体は複数の環状体であり、組織再生基材において各支持体が互いに離れて配置されていることが好ましい。
【0045】
組織再生基材を配置すべき生体組織の切除部分が大きくなると、生体組織が再生し、軟骨が再生しても生体組織の形状の回復が不十分となる可能性がある。支持体は、組織再生基材が生体内に配置されたときに、生体吸収性基材よりも長期間生体内に存在し、生体組織の形状を維持する。支持体を有する組織再生基材では、生体吸収性基材および塗膜が消失した後にも支持体が残ることから、支持体を巻き込んで(支持体とも接着して)生体組織が再生する。よって、支持体を有する組織再生基材は、所望の形状に生体組織を再生させる観点から有利である。
【0046】
〔組織再生基材の特性〕
本発明の実施形態における組織再生基材の好ましい形態は、適当な物性によって特定することも可能である。
【0047】
たとえば、組織再生基材1cmの径方向の圧縮強度は、0.1N以上200N以下であってもよい。当該圧縮強度を有することは、気管または気管支などの気道を形成する器官に適用する組織再生基材として、そのチューブ状の形状を使用中に維持させる観点から好ましい。当該圧縮強度は、高くても問題ないが、組織の再生と生体内での消失との時期的なバランスの観点から、20N以下であることが好ましい。当該圧縮強度は、チューブ状の組織再生基材を、所望の期間における生体内での存在に対応する条件の処理を施して、径方向から圧縮したときの押圧力とそのときの歪とから求められる。
【0048】
また、組織再生基材は、リークテストによる空気漏れを生じる空気圧が20cmHO(1.96kPa)超であることが、気道の気管への適用に十分な気密性を発現させる観点から好ましい。当該リークテストは、組織再生基材をその厚さ方向に空気が通過するか否かを検出するテストである。当該リークテストは、チューブ状の組織再生基材の端を気密に塞ぐことによって実施することが可能であり、または通気管の端をシート状の組織再生基材で塞ぐことによって実施することが可能である。
【0049】
〔まとめ〕
本発明の実施形態の組織再生基材は、気管などの生体の気道を形成する器官に適用したときに、当該器官の組織を再生させ、かつその後に生体内にて分解、消失する。この間、生体における拒絶反応を実質的に抑制される。このように、本発明の実施形態の組織再生基材は、生体吸収性材料の材料によって管腔保持能および気密性がある管状の組紐人工臓器および補強体となり得る。そして、後述の実施例に示されるように、軟骨の再生および機能する繊毛を再生させることができる。
【0050】
以上の説明から明らかなように、本発明の第一の態様の組織再生基材(1)は、生体吸収性材料の糸の組み編みで形成される生体吸収性基材(11)と、生体適合性材料で構成され、生体吸収性基材の少なくとも一方の主面を覆う塗膜(12)と、を有する。よって、本発明の実施形態によれば、生体適合性と十分な強度を有し、かつ組織を再生可能な組織再生基材を実現することができる。
【0051】
本発明の第二の態様の組織再生基材は、第一の態様において、生体吸収性基材が生体吸収性材料の糸で隙間なく編み込まれていてもよい。この構成は、組織再生基材の気密性を高める観点からより一層効果的である。
【0052】
本発明の第三の態様の組織再生基材は、第一の態様または第二の態様において、生体吸収性基材がシート状であってもよい。この構成は、生体の器官を部分的に覆うのに有利である。
【0053】
本発明の第四の態様の組織再生基材は、第一の態様または第二の態様において、生体吸収性基材がチューブ状であってもよい。この構成は、気管などの管状の器官への適用に有利である。
【0054】
本発明の第五の態様の組織再生基材は、第四の態様において、塗膜は、生体吸収性基材の外周面を覆ってもよい。この構成は、気管への適用、生体への刺激低減、および組織再生の促進に有利である。
【0055】
本発明の第六の態様の組織再生基材は、第一の態様から第五の態様のいずれかにおいて、生体吸収性基材における組角度は20°以上90°未満であってもよい。この構成は、組織再生基材の柔軟性、気密性および強度を良好に発現させる観点からより一層効果的である。
【0056】
本発明の第七の態様の組織再生基材は、第一の態様から第六の態様のいずれかにおいて、生体吸収性基材の目付は0.5g/m以上500g/m以下であってもよい。この構成は、組織再生基材の柔軟性、気密性および強度を良好に発現させる観点からより一層効果的である。
【0057】
本発明の第八の態様の組織再生基材は、第一の態様から第七の態様のいずれかにおいて、糸の組糸繊度は5dtex以上であってもよい。この構成は、組織再生基材の所望の強度を実現する観点からより一層効果的である。
【0058】
本発明の第九の態様の組織再生基材は、第一の態様から第八の態様のいずれかにおいて、単糸繊度は1dtex以上200dtex以下であってもよい。この構成は、組織再生基材の柔軟性、気密性および強度を良好に発現させる観点からより一層効果的である。
【0059】
本発明の第十の態様の組織再生基材は、第一の態様から第九の態様のいずれかにおいて、生体吸収性材料が生体吸収性高分子であり、生体吸収性高分子が単独重合体または共重合体であってもよい。この構成は、生体への刺激を低減させる観点および組織を再生させる観点からより一層効果的である。
【0060】
本発明の第十一の態様の組織再生基材は、第一の態様から第十の態様のいずれかにおいて、生体吸収性材料は、ポリグリコール酸またはグリコール酸共重合体であってもよい。この構成は、生体への刺激を低減させる観点および組織を再生させる観点からより一層効果的である。
【0061】
本発明の第十二の態様の組織再生基材は、第一の態様から第十一の態様のいずれかにおいて、生体適合性材料は、ハイドロゲルであってもよい。この構成は、生体との親和性を高める観点および生体における組織の再生を促進させる観点からより一層効果的である。
【0062】
本発明の第十三の態様の組織再生基材は、第一の態様から第十二の態様のいずれかにおいて、生体適合性材料が多糖類、天然高分子およびそれらの架橋体からなる群から選ばれる一種以上を含んでいてもよい。この構成は、生体との親和性を高める観点および生体における組織の再生を促進させる観点からより一層効果的である。
【0063】
本発明の第十四の態様の組織再生基材は、第一の態様から第十三の態様のいずれかにおいて、生体適合性材料は、架橋ヒアルロン酸を含んでもよい。この構成は、生体への刺激性を低減させる観点および組織の再生を促進させる観点からより一層効果的である。
【0064】
本発明の第十五の態様の組織再生基材は、第一の態様から第十四の態様のいずれかにおいて、組織再生基材は、生体吸収性または生体適合性を有する線状の支持材で構成される支持体であって、生体内において非分解または生体吸収性材料よりも遅い分解速度を有し、かつ生体吸収性基材中にまたは生体吸収性基材に沿って配置される支持体をさらに有していてもよい。この構成は、再生した生体組織の形状を維持する観点からより一層効果的である。
【0065】
本発明の第十六の態様の組織再生基材は、第十五の態様において、組織再生基材は環状の支持体を複数有し、各支持体は互いに離れて配置されていてもよい。この構成は、組織再生基材の柔軟性を確保する観点からより一層効果的である。
【0066】
また、本発明の他の実施形態の組織再生基材は、生体吸収性基材が前述の塗膜の機能を兼ね備える場合には、塗膜を有さず、生体吸収性基材のみで構成され得る。たとえば、本発明の他の実施形態の組織再生基材は、生体吸収性材料の糸の組み編みで形成される生体吸収性基材を有し、当該生体吸収性基材は生体吸収性材料の糸で隙間なく編み込まれていてもよい。
【0067】
また、塗膜の機能を兼ね備える生体吸収性基材で構成される組織再生基材として、本発明の他の実施形態の組織再生基材は、生体吸収性材料の糸の組み編みで形成される生体吸収性基材を有し、生体吸収性基材における組角度は20°以上90°未満であってもよい。
【0068】
本発明におけるこのような構成によれば、組織再生医療への適用が期待され、健康と福祉との推進についての持続可能な開発目標(SDGs)の達成に貢献することが期待される。
【0069】
本発明は上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0070】
本発明の一実施例について以下に説明する。
【0071】
〔組糸の作製〕
クレハ社製のPGA(Kuresurge)を用い、溶融紡糸装置「FET紡糸機」(FIBER EXTRUSION TECHNOLOGY社製)にて200dtex、強度は7.2cN/dtexの組糸を作製した。
【0072】
〔PGAチューブの作製〕
上記の組糸を用い、組み編み装置でPGAチューブ1~4を作製した。
【0073】
PGAチューブ1は、外径3.0mmで三本の組糸をセットで組み編みして作製されている。平均でPGAチューブ1の組角度は49°であった。
【0074】
PGAチューブ2は、外径3.0mmで一本の組糸を組み編みして作製されている。平均でPGAチューブ2の組角度は59°であった。
【0075】
PGAチューブ3は、外径3.5mmで、三本の組糸をセットで組み編みして作製されている。平均でPGAチューブ1の組角度は54°であった。
【0076】
PGAチューブ4は、外径2.5mmで、一本の組糸をセットで組み編みして作製されている。平均でPGAチューブ4の組角度は45°であった。
【0077】
〔塗布材料の調製〕
超純水200mLに1.2gのヒアルロン酸ナトリウム(HA)を常温で添加した。攪拌子を用いて攪拌し、HAが目視で溶解したことを確認した後、HClで溶液のpHを4.75に調整した。次いで、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドヒドロクロリド(EDC)942mgを3mLの超純水に溶解させ、それを全量加え溶解した後にロイシンメチルエステルヒドロクロリド(LME)を570mg添加した。作製した溶液を透析膜で透析し残留試薬を除去した。こうして、生体適合性材料としてヒアルロン酸を含有する塗布材料1を調製した。
【0078】
生体適合性材料としてウルトラキサンタンV-7(伊那食品工業)を用い、これを0.59質量%の濃度で含有する水溶液を調製した。これを塗布材料2とする。
【0079】
生体適合性材料としてトラガント末(鈴粉末薬品)を用い、これを1.25質量%の濃度で含有する水溶液を調製した。これを塗布材料3とする。
【0080】
生体適合性材料としてMETLOSE 65SH-400(信越化学工業)を用い、これを1.04質量%の濃度で含有する水溶液を調製した。これを塗布材料4とする。
【0081】
〔組織再生基材〕
竹串を割って削った支持棒をPGAチューブ1に差し込んで支持棒に支持した。次いで、PGAチューブ1の外表面に塗布材料1を刷毛で塗布し、風乾し、この塗布と風乾とのサイクルを10回繰り返して塗布材料1でPGAチューブ1の外周面を被覆した。次いで、塗布材料1で被覆されたPGAチューブ1を乾燥機で90℃、15分間で乾燥し、次いで120℃、10分間加熱する熱処理を施した。こうして、塗布材料1の塗膜である塗膜がPGAチューブ1の外周面を覆っているチューブ状の組織再生基材1を作製した。
【0082】
PGAチューブ1に代えてPGAチューブ2~4のそれぞれを用いる以外は組織再生基材1の作製と同様にして、組織再生基材2~4をそれぞれ作製した。
【0083】
また、塗布材料1に代えて塗布材料2~4のそれぞれを用いる以外は組織再生基材1の作製と同様にして、組織再生基材5~7をそれぞれ作製した。
【0084】
〔圧縮強度〕
組織再生基材1~4の側面圧縮強度を測定した。組織再生基材1~4のそれぞれを37℃、5%CO、95%RH環境下に14日間静置し、組織再生基材1~4のそれぞれを径方向に沿って圧縮する力を印加したときのひずみを求めた。組織再生基材のひずみ(ε)は、下記式に示されるように、元の直径値(d0)と圧縮する力を印加したときの直径の値(d)の差を求め、元の直径値で除することによって求めた。また、対照としてラットの気管の圧縮強度を同じ条件で測定した。結果を図4に示す。圧縮力が高いほど径方向の圧縮強度が強い。
(式) ε=(d0-d)/d0
【0085】
径方向の圧縮強度の強さの順は、組織再生基材3(実線)、組織再生基材1(破線)、組織再生基材4(一点鎖線)、組織再生基材2(点線)の順であった。組織再生基材4のひずみ0.4の時の側面圧縮強度は、ラットの気管(二点鎖線)のそれと同等であった。
【0086】
[リークテスト]
組織再生基材4の両端のうちの一端を空気が漏れないように塞ぎ、他端に三方栓を差し込み、当該三方栓にシリンジと圧力計とを装着した。組織再生基材4を水中に入れ、シリンジから空気を送り込み、組織再生基材4の側面からバブルが出現し始めた時の圧力を確認した。その結果、25cmHOの耐圧能を確認した。
【0087】
〔組織の再生〕
組織再生基材4をラットの気管に適用し、ラットの気管の経過を観察し、吸収型人工気管とbFGF(basic fibroblast growth factor)の吸入効果を検証した。
【0088】
図5の左図(A)の破線部で示すように、ラットの頸部の気管を長さ約4mmにわたって半周分切り落とし、ラットの気管の半周欠損モデルを用意した。当該半周欠損モデルがcritical defectであることを確認した。
【0089】
一方で、組織再生基材4を長手方向に切り開いてシート状の組織再生基材4を用意した。
【0090】
そして、このシート状の組織再生基材4を、図5の右図(B)の破線部で示すように、半周損失モデルにおける気管の損失部に被せて気管に縫合し、固定した。このようにして組織再生基材4を欠損部位に縫着し、生体適合性と治癒過程を評価した(n=5)。また、経気道的にbFGF(basic fibroblast growth factor)を投与し、治癒促進効果を検証した。治癒促進効果の検証では、1:気管支鏡、2:病理、3:ハイスピードカメラ[繊毛振動数(Hz)・輸送能(μm/s)]、4:電子顕微鏡[繊毛面積(%)]を評価した。輸送能は気管にビーズを散布し、距離/秒を測定した。2週間、1ヶ月、2ヶ月、6ヶ月後にPGA中央と正常部を評価した。また、bFGF、蒸留水を隔日で気管内投与し、2群の比較を2週間後に行った。
【0091】
半周欠損モデルにおける気管内部の様子を図6に示す。また、半周欠損モデルにおける2週間後、1ヶ月後、2ヶ月後および6ヶ月後のそれぞれの断面の様子を図7図10にそれぞれ示す。図7図10において、破線部は半周欠損モデルにおける気管の部分を示しており、矢印は、当該モデルにおける組織再生基材4を被せられた部分を示している。また、図10中に示すA部を拡大して図11に示す。図11中の破線で囲む部分は軟骨細胞を示している。さらに、半周欠損モデルにおいて1ヶ月後に再生した繊毛を図12に示す。なお、図12中に示すA部を拡大して図13に示す。
【0092】
1:気管支鏡での観察では、図6に示されるように、全期間においても狭窄や肉芽形成を認めず、1ヶ月後から新生血管を認めた。
【0093】
2:病理の観察では、素材による異物反応はごく僅かであった。2週間後では、組織再生基材4の存在が確認されるが組織との親和性が認められる(図7)。1か月後では、組織再生基材4の部分に新生した血管が認められる(図8)。2か月後では、組織再生基材4の内側を覆う再生した組織が認められる(図9)。6ヶ月後にはPGA中央に軟骨細胞の再生を認めた(図10図11)。
【0094】
3:ハイスピードカメラでの繊毛の観察では、正常部の振動数は12程度であり、PGA中央は各々の期間で7.00、6.90、8.15、10.29と6ヶ月後で正常部近くまで改善した。正常の輸送能は30程度であり、PGA中央は同期間で5.65、12.39、15.06、19.57と改善傾向を認めた。
【0095】
4:電子顕微鏡での観察では、PGA中央の繊毛面積は13.0、28.8、30.4、30.2と1ヶ月まで拡大した(図12図13)。また、bFGF投与群では振動数、輸送能、繊毛面積ともに改善した。振動数は蒸留水群:bFGF群で6.91:9.63であり、bFGF投与で有意に改善した(p=0.0010)。
【0096】
以上のように、上記の新規PGA人工気管は、優れた生体適合性を示し、半年後には形態的・機能的に気管の再生を認めた。また、経気道的bFGF投与により、治癒促進効果が確認された。
【0097】
現在臨床で使用されているPGAシートは耐圧性に乏しく、中枢気道からの空気漏れを閉鎖することは困難であった。本実施例によれば、PGAの組紐を層状に束ねることで気密性、生体適合性に優れた素材を開発できる可能性がある。また、生体適合性と強度(高い気密性)を有する新しいPGAの素材形状を発明することで、中枢気道(気管または気管支)からの空気漏れが閉鎖できる可能性がある。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、組織の部分切除を要する治療における組織の再生医療への利用が期待される。
【符号の説明】
【0099】
1 組織再生基材
11 生体吸収性基材
12 塗膜
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13