(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155218
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】眼科用水性組成物及び方法
(51)【国際特許分類】
A61K 31/551 20060101AFI20231013BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20231013BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20231013BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20231013BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20231013BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20231013BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20231013BHJP
C07D 401/12 20060101ALN20231013BHJP
【FI】
A61K31/551
A61K9/08
A61K47/02
A61K47/18
A61K47/12
A61K47/26
A61P27/02
C07D401/12
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023062954
(22)【出願日】2023-04-07
(31)【優先権主張番号】P 2022064619
(32)【優先日】2022-04-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】594105224
【氏名又は名称】東亜薬品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】西尾 真季
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼田 慎治郎
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 一真
【テーマコード(参考)】
4C063
4C076
4C086
【Fターム(参考)】
4C063AA01
4C063BB08
4C063CC36
4C063DD15
4C063EE01
4C076AA12
4C076BB24
4C076CC10
4C076DD22
4C076DD22Q
4C076DD38
4C076DD38Q
4C076DD41
4C076DD41Q
4C076DD49
4C076DD49Q
4C076DD51
4C076DD51Q
4C076FF11
4C076FF36
4C086AA01
4C086AA02
4C086BC54
4C086GA07
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA17
4C086MA58
4C086NA03
4C086ZA33
(57)【要約】
【課題】
本発明は、低温保存時にリパスジルの結晶析出を抑制することを目的とする。
【解決手段】
本発明によれば、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、(i)~(v)から選択される1以上とを含有し、リン酸、リン酸塩、リン酸又はリン酸塩の無水物、及び、リン酸又はリン酸塩の水和物を含有せず、-5℃で保存時に前記リパスジルの結晶が30日以上析出しない、ことを特徴とする眼科用水性組成物が提供される。
(i)ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸又はホウ酸塩の水和物、及び、ホウ酸又はホウ酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(ii)エデト酸、エデト酸塩、エデト酸又はエデト酸塩の水和物、及び、エデト酸又はエデト酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(iii)ε-アミノカプロン酸及びその塩から選択される1以上
(iv)酢酸、酢酸塩、酢酸又は酢酸塩の水和物、及び、酢酸又は酢酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(v)ソルビトール
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、(i)~(v)から選択される1以上とを含有し、リン酸、リン酸塩、リン酸又はリン酸塩の無水物、及び、リン酸又はリン酸塩の水和物を含有せず、
-5℃で保存時に前記リパスジルの結晶が30日以上析出しない、
ことを特徴とする眼科用水性組成物。
(i)ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸又はホウ酸塩の水和物、及び、ホウ酸又はホウ酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(ii)エデト酸、エデト酸塩、エデト酸又はエデト酸塩の水和物、及び、エデト酸又はエデト酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(iii)ε-アミノカプロン酸及びその塩から選択される1以上
(iv)酢酸、酢酸塩、酢酸又は酢酸塩の水和物、及び、酢酸又は酢酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(v)ソルビトール
【請求項2】
-5℃で保存時に前記リパスジルの結晶が42日以上析出しない、
ことを特徴とする請求項1に記載の眼科用水性組成物。
【請求項3】
グリセリンを含有する、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科用水性組成物。
【請求項4】
pHが5~9である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科用水性組成物。
【請求項5】
浸透圧比が0.5~2.0である、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科用水性組成物。
【請求項6】
ポリオレフィン系樹脂製容器に収容される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科用水性組成物。
【請求項7】
マルチドーズ型容器に収容される、
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の眼科用水性組成物。
【請求項8】
リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する眼科用水性組成物溶液の前記リパスジルの結晶析出を抑制する方法であって、
リパスジルを含有する眼科用水性組成物溶液に、(i)~(v)から選択される1以上を添加することを含み、
前記眼科用水性組成物溶液は、リン酸、リン酸塩、リン酸又はリン酸塩の無水物、及び、リン酸又はリン酸塩の水和物を含有しない、
ことを特徴とする方法。
(i)ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸又はホウ酸塩の水和物、及び、ホウ酸又はホウ酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(ii)エデト酸、エデト酸塩、エデト酸又はエデト酸塩の水和物、及び、エデト酸又はエデト酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(iii)ε-アミノカプロン酸及びその塩から選択される1以上
(iv)酢酸、酢酸塩、酢酸又は酢酸塩の水和物、及び、酢酸又は酢酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(v)ソルビトール
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、眼科用水性組成物及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リパスジルは、Rhoキナーゼ阻害作用等の薬理作用を有し、眼疾患の予防及び治療に有用であることが知られている。リパスジルは、例えば、高眼圧症、緑内障、及び加齢黄斑変性等の眼底疾患の予防及び治療に有用である。しかし、リパスジルを含む眼科用水性組成物が流通過程、あるいは、患者使用時の保管時において、低温に長時間さらされる可能性があり、眼科用水性組成物中で結晶が析出する可能性がある。
【0003】
そこで、特許文献1には、4-フルオロ-5-{[(2S)-2-メチル-1,4-ジアゼパン-1-イル]スルホニル}イソキノリン)若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、及びジェランガムを含有する水性組成物が記載されている。特許文献2には、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルフォニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン若しくはその塩又はそれらの溶媒和物、リン酸又はその塩、及びグリセリンを含有する水性点眼用組成物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2016-135779号公報
【特許文献2】特許第4168071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の発明において使用されるジェランガムは増粘及びゲル化作用を有することから、有効成分の眼組織移行性が変化すること、また、溶解時には加温が必要なこともあり、リパスジルの結晶析出を抑制することができる他の手段が見出されることが望ましい。また、特許文献2の発明においては、低温保存時においてリパスジルの結晶析出を十分に抑制できないことが見出された。
【0006】
本発明は、低温保存時にリパスジルの結晶析出を抑制することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の目的を達成するために鋭意検討したところ、本発明者らは眼科用水性組成物が特定の組成を有することにより、低温保存時にリパスジルの結晶析出を抑制できることを見出し、本発明を完成させた。すなわち、本発明は以下に関する。
[1]リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、(i)~(v)から選択される1以上とを含有し、リン酸、リン酸塩、リン酸又はリン酸塩の無水物、及び、リン酸又はリン酸塩の水和物を含有せず、
-5℃で保存時に前記リパスジルの結晶が30日以上析出しない、
ことを特徴とする眼科用水性組成物。
(i)ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸又はホウ酸塩の水和物、及び、ホウ酸又はホウ酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(ii)エデト酸、エデト酸塩、エデト酸又はエデト酸塩の水和物、及び、エデト酸又はエデト酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(iii)ε-アミノカプロン酸及びその塩から選択される1以上
(iv)酢酸、酢酸塩、酢酸又は酢酸塩の水和物、及び、酢酸又は酢酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(v)ソルビトール
[2]-5℃で保存時に前記リパスジルの結晶が42日以上析出しない、
ことを特徴とする[1]に記載の眼科用水性組成物。
[3]グリセリンを含有する、
ことを特徴とする[1]又は[2]に記載の点眼眼科用水性組成物。
[4]pHが5~9である、
ことを特徴とする[1]-[3]のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
[5]浸透圧比が0.5~2.0である、
ことを特徴とする[1]-[4]のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
[6]ポリオレフィン系樹脂製容器に収容される、
ことを特徴とする[1]-[5]のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
[7]マルチドーズ型容器に収容される、
ことを特徴とする[1]-[6]のいずれか1項に記載の眼科用水性組成物。
[8]リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する眼科用水性組成物溶液の前記リパスジルの結晶析出を抑制する方法であって、
リパスジルを含有する眼科用水性組成物溶液に、(i)~(v)から選択される1以上を添加することを含み、
前記眼科用水性組成物溶液は、リン酸、リン酸塩、リン酸又はリン酸塩の無水物、及び、リン酸又はリン酸塩の水和物を含有しない、
ことを特徴とする方法。
(i)ホウ酸、ホウ酸塩、ホウ酸又はホウ酸塩の水和物、及び、ホウ酸又はホウ酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(ii)エデト酸、エデト酸塩、エデト酸又はエデト酸塩の水和物、及び、エデト酸又はエデト酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(iii)ε-アミノカプロン酸及びその塩から選択される1以上
(iv)酢酸、酢酸塩、酢酸又は酢酸塩の水和物、及び、酢酸又は酢酸塩の無水物からなる群から選択される1以上
(v)ソルビトール
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低温保存時にリパスジルの結晶析出を抑制することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、実施形態を詳しく説明する。なお、以下の実施形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明に必須のものとは限らない。実施形態で説明されている複数の特徴のうち二つ以上の特徴は任意に組み合わされてもよい。
【0010】
<眼科用水性組成物>
本発明において、眼科用水性組成物とは、対象の眼に局所的に投与される目的を有し、例えば、点眼、眼局所注射等により投与される水性組成物をいう。また、水性組成物とは、少なくとも水を含有する組成物をいい、その性状は特に限定されない。水性組成物は、例えば、水を基剤とする、水溶液、水性懸濁液、エマルション等であってよい。本発明の眼科用水性組成物は、好ましくは点眼用組成物である。
【0011】
一実施形態における眼科用水性組成物は、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有し、さらに所定の組成を有する。
【0012】
(リパスジル)
一実施形態において、リパスジルは、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルフォニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンであり、サブスタンスP拮抗作用、ロイコトリエンD4拮抗作用、及びRhoキナーゼ阻害作用を有する。
【0013】
一実施形態において、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルフォニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジンの塩は、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸、臭化水素酸等の無機酸の塩、又は酢酸、酒石酸、乳酸、クエン酸、フマール酸、マレイン酸、コハク酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、カンファースルホン酸等の有機酸の塩等である。
【0014】
一実施形態において、(S)-(-)-1-(4-フルオロ-5-イソキノリンスルフォニル)-2-メチル-1,4-ホモピペラジン又はその塩は、未溶媒和型のみならず、水和物又は溶媒和物としても存在することができ、全ての結晶型及び水和物若しくは溶媒和物を含むものである。
【0015】
本発明の眼科用水性組成物が含有するリパスジルの濃度は、特に限定されず、例えば、眼科用水性組成物全量に対して、0.05w/v%以上、0.1w/v%以上、0.4w/v%以上、0.5w/v%以上、又は1.0w/v%以上、1.1w/v%以上であってよく、10.0w/v%以下、5.0w/v%以下、4.0w/v%以下、3.0w/v%以下、又は2.0w/v%以下であってよい。好ましい態様においては、本発明の眼科用水性組成物が含有するリパスジルの濃度は、眼科用水性組成物全量に対して0.05~5w/v%が好ましく、より好ましくは0.05~2w/v%であり、特に好ましくは0.1~0.4w/v%である。なお、本明細書においては、リパスジルの塩又はリパスジル若しくはその塩の溶媒和物であっても、リパスジルの濃度として表してよい。
【0016】
(組成)
一実施形態において、本発明の眼科用水性組成物は、(i)~(v)から選択される1以上を含有する。
(i)ホウ酸
(ii)エデト酸
(iii)ε-アミノカプロン酸
(iv)酢酸
(v)ソルビトール
【0017】
(i)ホウ酸
本明細書においてホウ酸とは、特に指定しない限り、ホウ酸、ホウ砂のようなホウ酸塩、ホウ酸又はホウ酸塩の無水物、及び、ホウ酸又はホウ酸塩の水和物からなる群から選択される1以上を指し、これらの濃度はホウ酸としての濃度で表すことができる。本発明の眼科用水性組成物が含有するホウ酸の濃度は、特に限定されず、例えば、眼科用水性組成物全量に対して、0.01w/v%以上、0.1w/v%以上、0.2w/v%以上、0.4w/v以上、0.5w/v%以上、0.6w/v%以上、1.0w/v%以上、1.1w/v%以上、1.2w/v%以上、1.3w/v%以上、1.4w/v%以上、1.5w/v%以上、又は、1.58w/v%以上であってよく、10.0w/v%以下、5.0w/v%以下、4.0w/v%以下、3.0w/v%以下、又は2.0w/v%以下であってよい。本発明の眼科用水性組成物が含有するホウ酸の濃度は、眼科用水性組成物全量に対して0.1~5w/v%が好ましく、より好ましくは0.2~2w/v%であり、特に好ましくは0.4~0.6w/v%である。
【0018】
また、本発明の眼科用水性組成物における、リパスジルの含有量(g)に対するホウ酸の含有量(g)の割合(ホウ酸の含有量(g)/リパスジルの含有量(g))は、例えば、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.1以上、1.2以上、1.3以上、1.4以上、又は1.43以上であってよく、好ましくは1.0~1.1である。
【0019】
(ii)エデト酸
本明細書において、エデト酸(エチレンジアミン四酢酸)とは、特に指定しない限り、エデト酸、例えばエデト酸ナトリウム、エデト酸二ナトリウム(EDTA)、エデト酸四ナトリウム等のエデト酸ナトリウム塩等のエデト酸塩、例えば無水エデト酸二ナトリウム等の無水物、及び、エデト酸ナトリウム水和物のような水和物からなる群から選択される1以上を指し、これらの濃度はエデト酸としての濃度で表すことができる。好ましい態様において、本発明の眼科用水性組成物は、エデト酸ナトリウム水和物を含有する。本発明の眼科用水性組成物が含有するエデト酸の濃度は、特に限定されず、例えば、眼科用水性組成物全量に対して、0.001w/v%以上、0.01w/v%以上、0.03w/v%以上、0.04w/v%以上、0.05w/v%以上、0.06w/v%以上、0.07w/v%以上、0.08w/v%以上、0.09w/v%以上、0.1w/v%以上、0.11w/v%以上、0.12w/v%以上、又は0.127w/v%以上であってよく、5.0w/v%以下、4.0w/v%以下、3.0w/v%以下、2.0w/v%以下、1.0w/v%以下、0.5w/v%以下、又は0.2w/v%以下であってよい。本発明の眼科用水性組成物が含有するエデト酸の濃度は、眼科用水性組成物全量に対して0.01~1w/v%が好ましく、より好ましくは0.03~0.5w/v%であり、特に好ましくは0.04~0.06w/vである。
【0020】
また、本発明の眼科用水性組成物における、リパスジルの含有量(g)に対するエデト酸の含有量(g)の割合(エデト酸の含有量(g)/リパスジルの含有量(g))は、例えば、0.05以上、0.06以上、0.07以上、0.08以上、0.09以上、0.1以上、又は0.2以上であってよく、好ましくは0.1~0.2である。
【0021】
(iii)ε-アミノカプロン酸
本明細書においてε-アミノカプロン酸とは、特に指定しない限り、ε-アミノカプロン酸、及び、ε-アミノカプロン酸ナトリウム等のε-アミノカプロン酸塩から選択される1以上を指し、これらの濃度はε-アミノカプロン酸としての濃度で表すことができる。本発明の眼科用水性組成物が含有するε-アミノカプロン酸の濃度は、特に限定されず、例えば、眼科用水性組成物全量に対して、0.001w/v%以上、0.01w/v%以上、0.05w/v%以上、0.1w/v%以上、0.2w/v%以上、0.3w/v%以上、0.4w/v%以上、0.5w/v%以上、又は0.6w/v%以上であってよく、5.0w/v%以下、4.0w/v%以下、3.0w/v%以下、2.0w/v%以下、1.0w/v%以下、0.9w/v%以下、0.8w/v%以下、又は0.7w/v%以下であってよい。本発明の眼科用水性組成物が含有するε-アミノカプロン酸の濃度は、眼科用水性組成物全量に対して0.1~5w/v%が好ましく、より好ましくは0.3~3w/v%であり、特に好ましくは0.4~0.6w/v%である。
【0022】
また、本発明の眼科用水性組成物における、リパスジルの含有量(g)に対するε-アミノカプロン酸の含有量(g)の割合(ε-アミノカプロン酸の含有量(g)/リパスジルの含有量(g))は、例えば、0.1以上、0.2以上、0.3以上、又は0.4以上であってよく、好ましくは0.4以上である。
【0023】
(iv)酢酸
本明細書において酢酸とは、特に指定しない限り、酢酸、酢酸ナトリウム等の酢酸塩、酢酸又は酢酸塩の無水物、及び、酢酸又は酢酸塩の水和物からなる群から選択される1以上を指し、これらの濃度は酢酸としての濃度で表すことができる。好ましい態様において、本発明の眼科用水性組成物は、酢酸ナトリウム水和物を含有する。本発明の眼科用水性組成物が含有する酢酸の濃度は、特に限定されず、例えば、眼科用水性組成物全量に対して、0.001w/v%以上、0.01w/v%以上、0.05w/v%以上、0.1w/v%、0.2w/v%以上、又は0.3w/v%以上であってよく、5.0w/v%以下、4.0w/v%以下、3.0w/v%以下、2.0w/v%以下、1.5w/v%以下、1.0w/v%以下、0.5w/v%以下、0.4w/v%以下、又は0.3w/v%以下であってよい。本発明の眼科用水性組成物が含有する酢酸の濃度は、眼科用水性組成物全量に対して0.01~2w/v%が好ましく、より好ましくは0.05~1w/v%であり、特に好ましくは0.1~0.3w/v%である。
【0024】
また、本発明の眼科用水性組成物における、リパスジルの含有量(g)に対する酢酸の含有量(g)の割合(酢酸の含有量(g)/リパスジルの含有量(g))は、例えば、0.05以上、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上又は0.6以上であってよく、好ましくは0.6以上である。
【0025】
(v)ソルビトール
ソルビトールは、眼科用水性組成物の安定化効果を高める目的として用いられ得る。本発明の眼科用水性組成物が含有するソルビトールの濃度は、特に限定されず、例えば、眼科用水性組成物全量に対して、0.01w/v%以上、0.05w/v%以上、0.1w/v%以上、0.5w/v%以上、0.6w/v%以上、0.7w/v%以上、又は0.8w/v%以上であってよく、5.0w/v%以下、4.0w/v%以下、3.0w/v%以下、2.0w/v%以下、1.5w/v%以下、又は1.0w/v%以下、又は0.9w/v%以下であってよい。本発明の眼科用水性組成物が含有するソルビトールの濃度は、眼科用水性組成物全量に対して0.1~5w/v%が好ましく、より好ましくは0.5~3w/v%であり、特に好ましくは0.8~0.9w/v%である。
【0026】
また、本発明の眼科用水性組成物における、リパスジルの含有量(g)に対するソルビトールの含有量(g)の割合(ソルビトールの含有量(g)/リパスジルの含有量(g))は、例えば、0.1以上、0.2以上、0.3以上、0.4以上、0.5以上、0.6以上、又は0.7以上であってよく、好ましくは0.78以上である。
【0027】
一実施形態において、本発明の眼科用水性組成物は、リン酸を含有しない。本明細書においてリン酸とは、リン酸、リン酸塩、リン酸又はリン酸塩の無水物、及び、リン酸又はリン酸塩の水和物を含み得るものを指し、これらの濃度はリン酸としての濃度で表すことができる。本明細書において、リン酸を含有しない、という場合には、眼科用水性組成物がリン酸を含有しないことだけでなく、本発明による課題の解決を阻害しない範囲の濃度にて、眼科用水性組成物がリン酸を含有することを包含し得る。
【0028】
本発明の眼科用水性組成物は、本発明による課題の解決を阻害しない限り、(i)~(v)以外の1種以上の他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤は、例えば、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、抗酸化剤、粘稠化剤等であり、それぞれが1種又は2種以上であってもよい。
【0029】
緩衝剤としては、例えば、クエン酸塩、炭酸塩、酒石酸塩、トロメタモール等が挙げられる。
【0030】
安定化剤としては、例えば、アスコルビン酸、トコフェロール、ジブチルヒドロキシトルエン、及びポピドン等が挙げられる。
【0031】
等張化剤としては、例えば、アルカリ金属塩、糖類、及び2価又は3価のアルコールである。
【0032】
アルカリ金属塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、及び塩化マグネシウムである。
【0033】
糖類としては、例えば、グルコース、マンニトール、トレハロース、マルトース、及びスクロース等である。
【0034】
2価又は3価のアルコールとしては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、及びブチレングリコールである。
【0035】
等張化剤として好ましくは2価又は3価のアルコールであり、グリセリンが特に好ましい。眼科用剤で等張化剤として汎用される2価又は3価のアルコールには、プロピレングリコール、グリセリン等が挙げられるが、グリセリンは眼科用剤での最大使用前例が25mg/gと高濃度まで確認されている添加剤である。
【0036】
眼科用水性組成物は、眼科用水性物全重量に対して等張化剤を、例えば、0.01w/v%以上、0.05w/v%以上、0.1w/v%以上、0.5w/v%以上、1.0w/v%以上、1.4w/v%以上、1.43w/v%以上、1.96w/v%以上、2.0w/v%以上、又は2.1w/v%以上含有していてもよく、10.0w/v%以下、5.0w/v%以下、3.0w/v%以下、又は2.5w/v%以下含有していてもよい。
【0037】
眼科用水性組成物は、角膜上皮障害の低減等の観点より、防腐剤又は保存剤を含まないことが好ましい。防腐剤又は保存剤としては、例えば、ベンザルコニウム塩化物、パラオキシ安息香酸エステル、クロロブタノール、ソルビン酸、ベンゼトニウム塩化物、臭化ベンゾドデシニウム、ポリヘキサメチレンビグアニド、クロルヘキシジン塩酸塩、クロルヘキシジングルコン酸塩、クロルヘキシジン酢酸塩、デヒドロ酢酸又はその塩、ベンジルアルコール、パラクロルメタキシレノール、クロロクレゾール、フェネチルアルコール、塩化ポリドロニウム、チメロサール、亜塩素酸塩等である。
【0038】
抗酸化剤としては、例えば、亜硫酸水素ナトリウム、乾燥亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、及び濃縮混合トコフェロール等である。
【0039】
粘稠化剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、キサンタンガム、コンドロイチン硫酸ナトリウム、ヒアルロン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム等の水溶性高分子等が挙げられる。
【0040】
(pHと浸透圧比)
眼科用水性組成物のpHはpH調整剤によって調整されていてもよい。pH調節剤は、塩酸、クエン酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、及び炭酸水素ナトリウム等である。これらは、1種単独であっても良く、2種以上の組み合わせであっても良い。
【0041】
眼科用水性組成物のpHは点眼可能であれば特に制限されないが、眼への刺激を低減する観点から、例えば4.5~9が好ましく、より好ましくは5~7であり、特に好ましくは6である。
【0042】
眼科用水性組成物の浸透圧比は、0.5~3.0であり、好ましくは0.5~2.0である。なお、浸透圧比は、生理食塩水に対する浸透圧比である。。
【0043】
(溶媒)
眼科用水性組成物が含む溶媒は特に限定されないが、一般的には水が用いられる。水は、特に限定されず、好ましくは精製水、滅菌精製水、注射用水等とすることができる。本発明の眼科用水性組成物は、組成物全量に対して、水を80w/v%以上、85w/v%以上、90w/v%以上、又は95w/v%以上含有していてもよく、その含有量は特に限定されない。
【0044】
一実施形態において、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有し、緩衝剤及び安定化剤としては(i)~(v)から選択される1以上のみを含有し、リン酸を含有しない、眼科用水性組成物が提供される。
(i)ホウ酸
(ii)エデト酸
(iii)ε-アミノカプロン酸
(iv)酢酸
(v)ソルビトール
【0045】
一実施形態において、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、(i)~(v)から選択される1以上と、グリセリンと、pH調節剤と、水と、からなる眼科用水性組成物が提供される。
(i)ホウ酸
(ii)エデト酸
(iii)ε-アミノカプロン酸
(iv)酢酸
(v)ソルビトール
【0046】
一実施形態において、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物と、(i)~(v)から選択される1以上と、pH調節剤と、水と、からなる眼科用水性組成物が提供される。
(i)ホウ酸
(ii)エデト酸
(iii)ε-アミノカプロン酸
(iv)酢酸
(v)ソルビトール
【0047】
(結晶析出の抑制)
本発明によれば、-5℃での保存時にリパスジルの結晶析出を抑制することができる。保存とは、例えば、リパスジルを含むサンプルを静置することであってよい。結晶析出は、任意の方法によって確認することができる。例えば、内部が目視可能な任意の透明ないし半透明の容器にリパスジルを含有するサンプルを充填して、目視でサンプルを観察することにより結晶析出の有無を確認することができる。サンプル数は任意の数であってよく、例えば3~5とすることができる。容器が結露し、容器内のサンプルの状態を目視で観察するのが困難な場合には、リパスジルの結晶析出に影響せず、かつ容器の結露を除くことができる範囲の所定の温度下で、所定の時間にわたって、観察前に、サンプルが入った容器を保管してもよい。所定の温度は、例えば5℃であってよく、限定されない。所定の時間は、例えば24時間であってよく、限定されない。
【0048】
本発明の眼科用水性組成物においては、-5℃での保存時にリパスジルの結晶が30日以上析出しない。本発明の眼科用水性組成物のさらに好ましい実施形態においては、-5℃での保存時にリパスジルの結晶が35日以上、又は40日以上析出しない。本発明の眼科用水性組成物の最も好ましい実施形態においては、-5℃での保存時にリパスジルの結晶が42日以上析出しない。
【0049】
(眼科用水性組成物の用途)
眼科用水性組成物は、優れた眼圧下降作用を有するとともに、低温保存時のリパスジルの結晶析出が抑制されている。眼科用水性組成物は、緑内障の予防又は治療用、高圧眼症の予防又は治療用、進行性の角膜内皮障害の予防又は治療用、網膜色素上皮細胞の移植用生着促進用の点眼剤として利用され得る。
【0050】
<容器>
眼科用水性組成物は、保存安定性及び携帯性等の観点から、容器に収容することができる。容器は、眼科用水性組成物を直接的に収容する包装体のことである。容器は、第十八改正日本薬局方通則に定義される「密閉容器」、「気密容器」、及び「密封容器」のいずれかである。
【0051】
また、眼科用水性組成物は、エチレンオキサイドガスや過酸化水素等のガスで滅菌処理された容器に収容されてもよい。ガス滅菌処理で使用されるガスの種類については、特に制限されないが、例えば、エチレンオキサイドガス、過酸化水素ガス、これらと二酸化炭素等との混合ガス等が挙げられる。眼科用水性組成物は、ガンマ線照射及び電子線照射等の放射線で滅菌処理された容器に収容されていてもよい。
【0052】
容器の形態は、眼科用水性組成物を収容可能である容器であれば良く、剤形等に応じて適宜選択されても良い。容器の形態は、例えば、注射剤用容器、吸入剤用容器、スプレー剤用容器、ボトル状容器、チューブ状容器、点眼剤用容器、点鼻剤用容器、点耳剤用容器、及びバッグ容器等を含む。また、眼科用水性組成物を収容した容器は、箱及び袋等によって更に包装されていても良い。
【0053】
容器の材質は、容器の形態に応じて適宜選択され得る材料であって良い。容器の材質は、例えば、ガラス、プラスチック、セルロース、パルプ、ゴム、及び金属等を含む。容器の材質は、加工性、スクイズ性及び耐久性の観点から、プラスチックであって良い。
【0054】
プラスチック製容器に用いる樹脂は、熱可塑性樹脂である。熱可塑性樹脂は、例えば、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリフェニレンエーテル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリスルホン系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、及びスチレン系樹脂を含む。
【0055】
ポリオレフィン系樹脂は、例えば、低密度ポリエチレン(直鎖状低密度ポリエチレンを含む)、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン等を含む樹脂である。
【0056】
ポリエステル系樹脂は、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリ(1,4-シクロヘキシレンジメチレンテレナフタレート)等を含む樹脂である。
【0057】
なお、プラスチック製容器に用いる樹脂は、上記の2以上の樹脂を組み合わせた混合体(ポリマーアロイ)であっても良い。
【0058】
(ポリオレフィン系樹脂製容器)
一実施形態において、眼科用水性組成物は、変色抑制作用の観点から、ポリオレフィン系樹脂製容器に収容される。本明細書において「ポリオレフィン系樹脂製容器」とは、容器のうち少なくとも眼科用水性組成物と接する部分が「ポリオレフィン系樹脂製」である容器を意味する。したがって、例えば、眼科用水性組成物と接する内層にポリオレフィン層を設け、その外側に他の材質の樹脂等を積層等させてなる容器も、「ポリオレフィン系樹脂製容器」に該当する。ポリオレフィン系樹脂は特に限定されず、単一種のモノマーの重合体(ホモポリマー)であっても、複数種のモノマーの共重合体(コポリマー)であってもよい。また、コポリマーである場合においては、その重合様式は特に限定されず、ランダム重合でもブロック重合でもよい、さらにその立体規則性(タクティシティー)は特に限定されない。
【0059】
ポリオレフィン系樹脂は、ポリプロピレンであって良い。ポリオレフィン系樹脂製容器は、紫外線吸収剤及び紫外線散乱剤等の紫外線の透過を妨げる物質を有していても良い。
【0060】
一実施形態において、紫外線吸収剤は、例えば、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-p-クレゾール(例えば、Tinuvin P:BASF社)、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール(例えば、Tinuvin 234:BASF社)である。
【0061】
一実施形態において、紫外線散乱剤は、例えば、酸化チタン及び酸化亜鉛等である。
【0062】
(マルチドーズ型容器)
一実施形態において、眼科用水性組成物はマルチドーズ型容器に収容される。マルチドーズ型容器は、複数回分の使用量の眼科用水性組成物を保持し、繰返し使用可能な容器のことをいう。例えば、マルチドーズ型容器は、マルチドーズ型保存剤フリー容器と通常のマルチドーズ型容器とを含む。
【0063】
マルチドーズ型保存剤フリー容器は、マルチドーズ型容器の外側に浸出した眼科用水性組成物がマルチドーズ型容器内へ逆流することを防止する機構、及び、異物がマルチドーズ型容器内へ混入することを防止する機構を有する。マルチドーズ型保存剤フリー容器は、逆流防止弁、マイクロフィルター、及び特殊な二重構造容器等の構造を有する。
【0064】
通常のマルチドーズ型容器は、上記の機構を有していないマルチドーズ型容器のことである。なお、通常のマルチドーズ型容器において眼科用水性組成物が収容される場合、眼科用水性組成物の製造時のろ過滅菌工程にて、眼科用水性組成物をフィルターに通過させる必要がある。
【0065】
なお、本実施形態における眼科用水性組成物は、ユニットドーズ型容器に収容されても良い。ユニットドーズ型容器は、単回分の使用量の眼科用水性組成物を保持し、1回の点眼で使用済みとなる容器のことをいう。
【0066】
本発明の眼科用水性組成物は、フィルターを通過させる工程を経て患部へ提供される。ここで、「フィルター」とは、眼科用水性組成物を通過させるが、細菌及び真菌を通過させない多孔性膜を指す。フィルターの細孔径としては、通常5μm以下であればよいが、好ましくは0.1~2.5μm、更に好ましくは0.1~1μmが挙げられる。本発明の眼科用水性組成物は、フィルター付き容器に収容され、使用時に容器のフィルターを通過させて容器外に注出されてもよい。また、本発明の眼科用水性組成物は、眼科用水性組成物の製造時のろ過滅菌工程でフィルターを通過させた眼科用水性組成物であってもよい。フィルターの素材については、特に制限されないが、例えば、ポリエーテルスルホン、ポリフッ化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース混合エステル、ナイロン、ポリアミド等が挙げられる。
【0067】
<結晶析出を抑制する方法>
一つの態様においては、リパスジル若しくはその塩又はそれらの溶媒和物を含有する眼科用水性組成物溶液のリパスジルの結晶析出を抑制する方法が提供される。この方法は、リパスジルを含有する眼科用水性組成物溶液に、(i)~(v)から選択される1以上を添加することを含む。
(i)ホウ酸
(ii)エデト酸
(iii)ε-アミノカプロン酸
(iv)酢酸
(v)ソルビトール
【0068】
本発明のリパスジルの結晶析出を抑制する方法において、眼科用水性組成物溶液は、リン酸、リン酸塩、リン酸又はリン酸塩の無水物、及び、リン酸又はリン酸塩の水和物を含有しない。
【実施例0069】
<眼科用水性組成物の調製>
(実施例1)
リパスジル(1.1g)、ホウ酸(1.58g)、グリセリン(1.96g)、及び水酸化ナトリウム又は塩酸(適量)を、精製水に溶解させ、pHを6に調整し、100mLの眼科用水性組成物を調製した(表1参照)。
【0070】
(実施例2~5)
実施例1と同様の方法で、表1に示す組成の通りに実施例2~5の眼科用水性組成物を調製した。
【0071】
(比較例1)
リパスジル(1.1g)、無水リン酸二水素ナトリウム(0.4g)、グリセリン(1.96g)、及び水酸化ナトリウム又は塩酸(適量)を、精製水に溶解させ、pHを6に調整し、100mLの眼科用水性組成物を調製した(表1参照)。
【0072】
(比較例2~4)
比較例1と同様の方法で、表1に示す組成の通りに比較例2~4の眼科用水性組成物を調製した。
【0073】
【0074】
[試験例1]
(安定性試験)
安定性試験とは、低温保存時のリパスジルの結晶析出の有無を評価するための試験のことをいう。以下、安定性試験の試験要領について説明する。まず、実施例1~5及び比較例1~4で得られた眼科用水性組成物を任意の容器に充填したサンプルを5セット用意する。表2の保存条件に基づいて、-5℃の保冷庫にサンプルを保管し、-5℃で1日保存後のサンプルを目視で観察する(1回目の観察)。サンプルの観察後、-5℃の保冷庫にサンプルを再び保管し、-5℃で14日保存後のサンプルを目視で観察する(2回目の観察)。サンプルの観察後、-5℃の保冷庫にサンプルを再び保管し、-5℃で28日保存後にサンプルを目視で観察する(3回目の観察)。サンプルの観察後、-5℃の保冷庫にサンプルを再び保管し、-5℃で42日保存後にサンプルを目視で観察する(4回目の観察)。表2は安定性試験の結果を示す。
【0075】
なお、特許文献2に記載されているように、-5℃の保冷庫でサンプルを所定日数保管した後、サンプルの目視評価を行った場合には、-5℃の保冷庫から取り出したサンプル容器が結露してしまい、サンプルの目視評価を正しく行えなかった。そこで、本安定性試験では、サンプルの目視評価を正しく行うために、5℃の保冷庫にサンプルを所定の時間保管することでサンプル容器に付着する結露を排除してサンプルの評価を行った。ここで、所定の時間は、サンプル容器の結露が取れるまでの時間として、例えば、24時間であるが、これに限定されることはなく、24時間よりも短い時間であっても良い。
【0076】
【0077】
表2の結果から以下のことが判明した。リン酸を含む比較例1~4では、-5℃で1日保存後において、保管した全てのサンプルからリパスジルの結晶析出が確認された。一方、実施例1~5では、-5℃で42日保存した後でも保管した全てのサンプルにおいてリパスジルの結晶析出が確認されなかった。よって、リン酸を配合しない所定の組成とすることで、低温保存時における眼科用水性組成物中のリパスジルの結晶析出が抑制されることが確認された。
【0078】
(実施例6~11)
実施例1と同様の方法で、表3に示す組成の通りに実施例6~11の眼科用水性組成物を調製した。
【0079】
【0080】
[試験例2]
(安定性試験)
実施例6~11で得られた眼科用水性組成物を任意の容器に充填したサンプル(実施例6~8については5セット、実施例9~11については3セット)を用意した。これらのサンプルを用いて、試験例1と同様の方法により安定性試験を行った。表4にその結果を示す。
【0081】
【0082】
実施例6~実施例11の結果に示されるように、ε-アミノカプロン酸、酢酸ナトリウム水和物またはソルビトールを配合した場合においても、-5℃で42日保存した後でも保管した全てのサンプルにおいてリパスジルの結晶の析出が抑制された。
【0083】
実施例1~11で得られた眼科用水性組成物は、日本薬局方(第18改正)に従う保存効力試験に適合することを確認することができる。
【0084】
発明は上記実施形態に制限されるものではなく、発明の精神及び範囲から離脱することなく、様々な変更及び変形が可能である。従って、発明の範囲を公にするために請求項を添付する。