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特開2023-155256インク組成物及びその製造方法、並びにそのインク組成物を用いたインクジェット用インクセット及びインクジェット印刷システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155256
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】インク組成物及びその製造方法、並びにそのインク組成物を用いたインクジェット用インクセット及びインクジェット印刷システム
(51)【国際特許分類】
   C09D 11/101 20140101AFI20231013BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20231013BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20231013BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20231013BHJP
   B41J 2/17 20060101ALI20231013BHJP
   B41J 2/175 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C09D11/101
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 129
B41J2/01 501
B41J2/17
B41J2/175 201
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023127058
(22)【出願日】2023-08-03
(62)【分割の表示】P 2021155757の分割
【原出願日】2016-09-13
(31)【優先権主張番号】P 2015180966
(32)【優先日】2015-09-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005810
【氏名又は名称】マクセル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】西本 智久
(72)【発明者】
【氏名】西村 佳朗
(72)【発明者】
【氏名】中山 健
(72)【発明者】
【氏名】久保 智史
(57)【要約】
【課題】保存安定性、IJ吐出性及び硬化性に優れたインク組成物を提供する。
【解決手段】本願で開示するインク組成物は、重合性化合物と光重合開始剤とを含み、前記重合性化合物は、分子内に(メタ)アクリレートを1個又は複数有し、温度25℃における水抽出法で測定した有機スルホン酸の含有量が、1ppm以上50ppm以下であり、前記水抽出法は、前記インク組成物と水とを混合して作製した測定液中の有機スルホン酸の含有量をクロマトグラフィ法で測定するものであり、カール・フィッシャー法で測定した水の含有量が、前記インク組成物の全質量に対して0.01質量%以上0.50質量%以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合性化合物と光重合開始剤とを含むインク組成物であって、
前記重合性化合物は、分子内に(メタ)アクリレートを1個又は複数有し、
温度25℃における水抽出法で測定した有機スルホン酸の含有量が、1ppm以上50ppm以下であり、
前記水抽出法は、前記インク組成物と水とを混合して作製した測定液中の有機スルホン酸の含有量をクロマトグラフィ法で測定するものであり、
カール・フィッシャー法で測定した水の含有量が、前記インク組成物の全質量に対して0.01質量%以上0.50質量%以下であることを特徴とするインク組成物。
【請求項2】
前記光重合開始剤は、アシルホスフィンオキサイド化合物、α-アミノアルキルフェノン化合物、及びチオキサントン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む請求項1に記載のインク組成物。
【請求項3】
前記有機スルホン酸は、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、及びナフタレンスルホン酸からなる群から選択される少なくとも1種である請求項1又は2に記載のインク組成物。
【請求項4】
前記重合性化合物は、アミン変性重合性化合物を含む請求項1~3のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項5】
着色剤を更に含む請求項1~4のいずれか1項に記載のインク組成物。
【請求項6】
請求項1~5のいずれか1項に記載のインク組成物を含むことを特徴とするインクジェット用インクセット。
【請求項7】
請求項1~5のいずれか1項に記載のインク組成物とインクジェット記録装置とを用いたインクジェット印刷システムであって、
前記インクジェット記録装置は、インク加温部とインク用フィルターとを備えることを特徴とするインクジェット印刷システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタに用いられるインク組成物及びその製造方法、並びにそのインク組成物を用いたインクジェット用インクセット及びインクジェット印刷システムに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式に適用されるインクとしては、溶剤として水を主成分とする水性インクや有機溶剤を主成分とする油性インクが用いられてきたが、画像の滲みを抑えるために、活性エネルギー線(例えば、紫外線)の照射によりインクを硬化させる無溶剤タイプの活性エネルギー線硬化型インクジェットインクが注目されている。
【0003】
この種の活性エネルギー線硬化型インクジェットインクは溶剤を含まないため、記録媒体中に溶剤を浸透させる必要がなく、且つ極めて短時間でインクを硬化させることができることから、記録媒体の種類によらず滲みの少ない高い印字品質を得ることができる。
【0004】
一方、活性エネルギー線硬化型インクジェットインクでは、インク中に析出物が生じやすく、インクジェットプリンタでインクを吐出する際に、インクジェットヘッドが目詰まりするという問題がある。これは、活性エネルギー線硬化型インクジェットインクに含まれる重合性化合物が、有機スルホン酸等の触媒を用いて製造されるため、通常上記重合性化合物には上記触媒が残留し、インクを長期間保存した場合、上記触媒がインク中に溶出して他の成分と反応して、その反応物がインクジェットヘッドに析出して目詰まりを発生させることによるものである。
【0005】
上記問題を解決するために、酸触媒を含有する光重合性化合物、及び光重合開始剤を含むインク中に一定量の水を含有させることが提案されている(特許文献1)。特許文献1によると、これによりインクから析出物が発生することを防止できるとしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2011-213801号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、水を含有したインクを用いて印刷物を形成すると、画像に滲みが生じる等の印刷性に問題がある。そのため特許文献1で提案されている方法では、最終的には何らかの手段で水を除去する必要があり、そのための装置等が必要となり、印刷システムが複雑となる。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、析出物の発生がなく、吐出性の高いインク組成物及びその製造方法、並びにそのインク組成物を用いたインクジェット用インクセット及びインクジェット印刷システムを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のインク組成物は、重合性化合物と光重合開始剤とを含むインク組成物であって、温度25℃における水抽出法で測定した有機スルホン酸の含有量が、50ppm以下であり、カール・フィッシャー法で測定した水の含有量が、前記インク組成物の全質量に対して0.50質量%以下であることを特徴とする。
【0010】
また、本発明のインク組成物の製造方法は、重合性化合物と光重合開始剤とを含むインク組成物前駆体を準備する工程と、前記インク組成物前駆体にアルカリ金属塩を添加して、40℃以上70℃以下の温度で10分以上120分以下の間攪拌する工程と、前記攪拌後の前記インク組成物前駆体を-20℃以上35℃以下の温度で保持してエージングする工程と、前記エージング後の前記インク組成物前駆体をろ過してインク組成物を作製する工程とを含むことを特徴とする。
【0011】
また、本発明のインク組成物の他の製造方法は、重合性化合物と光重合開始剤とを含むインク組成物前駆体を準備する工程と、前記インク組成物前駆体を40℃以上70℃以下の温度で10分以上120分以下の間攪拌する工程と、前記攪拌後の前記インク組成物前駆体を-20℃以上35℃以下の温度で保持してエージングする工程と、前記エージング後の前記インク組成物前駆体をろ過してインク組成物を作製する工程とを含み、前記重合性化合物及び前記光重合開始剤の少なくとも一方が、アルカリ金属イオンを含むことを特徴とする。
【0012】
本発明のインクジェット用インクセットは、上記本発明のインク組成物を含むことを特徴とする。
【0013】
本発明のインクジェット印刷システムは、上記本発明のインク組成物とインクジェット記録装置とを用いたインクジェット印刷システムであって、前記インクジェット記録装置は、インク加温部とインク用フィルターとを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、析出物の発生がなく、吐出性の高いインク組成物及びその製造方法、並びにそのインク組成物を用いたインクジェット用インクセット及びインクジェット印刷システムを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
(実施形態1)
先ず、本発明のインク組成物について説明する。本発明のインク組成物は、重合性化合物と光重合開始剤とを含み、温度25℃における水抽出法で測定した有機スルホン酸の含有量が、50ppm以下であり、カール・フィッシャー法で測定した水の含有量が、上記インク組成物の全質量に対して0.50質量%以下であることを特徴とする。
【0016】
本発明のインク組成物は、温度25℃における水抽出法で測定した有機スルホン酸の含有量が50ppm以下であるため、析出物の発生がなく、高い吐出性を有する。また、本発明のインク組成物は、カール・フィッシャー法で測定した水の含有量が、上記インク組成物の全質量に対して0.50質量%以下であるため、材料中のアルカリ金属イオンと有機スルホン酸との反応場が少なくなり、インク中に反応物が発生することを抑制できる。
【0017】
以下、本発明のインク組成物について詳細に説明する。
【0018】
<有機スルホン酸の含有量>
本発明のインク組成物における有機スルホン酸の含有量は、温度25℃における水抽出法で測定した値である。上記有機スルホン酸は、インク成分である重合性化合物に含有されているものであり、上記重合性化合物を合成する際に用いた触媒としての有機スルホン酸が残留したものである。本発明のインク組成物では、温度25℃における水抽出法で測定した有機スルホン酸の含有量を50ppm以下としているが、29ppm以下がより好ましく、7ppm以下が更に好ましい。上記有機スルホン酸の含有量の下限値は、理想的には0ppmであるが、有機スルホン酸を完全に除去することは困難であり、1ppm程度が限度となる。
【0019】
上記水抽出法は、インク組成物と水とを混合して作製した測定液中の有機スルホン酸の含有量をクロマトグラフィ法で測定する。インク組成物中の有機スルホン酸の含有量を直接測定することが困難だからである。上記クロマトグラフィ法としては、例えば、液体クロマトグラフィ法、イオンクロマトグラフィ法等を採用できる。
【0020】
上記重合性化合物を合成する際に用いる触媒としての上記有機スルホン酸は、通常、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、及びナフタレンスルホン酸からなる群から選択される少なくとも1種である。
【0021】
<水の含有量>
本発明のインク組成物における水の含有量は、カール・フィッシャー法で測定した値である。上記水は、インクの製造過程で不可避的に混入するものであり、意図的に添加したものではない。本発明のインク組成物では、カール・フィッシャー法で測定した水の含有量を上記インク組成物の全質量に対して0.50質量%以下としているが、0.20質量%以下がより好ましく、0.03質量%以下が更に好ましい。上記水の含有量の下限値は、理想的には0質量%であるが、通常の製造環境の下では0質量%を達成することは困難であり、0.01質量%程度が限度となる。本発明のインク組成物の全質量に対して0.50質量%を超える水が存在すると、その水を反応場として材料中のアルカリ金属イオンと前述の有機スルホン酸とが反応し、インク中にその反応物が発生するため好ましくない。
【0022】
<重合性化合物>
上記重合性化合物としては、エネルギー線により硬化する特性を有する分子内にエチレン性二重結合を1個又は複数有する単官能モノマー又は多官能モノマーを用いることができる。
【0023】
上記重合性化合物は、アミン変性重合性化合物を含むことが好ましい。上記アミン変性重合性化合物は、空気中の酸素による重合阻害を抑制できると考えられ、紫外線照射時、特に、発光ダイオード(LED)を使用した低エネルギーの紫外線照射時における硬化速度を向上できるからである。
【0024】
上記アミン変性重合性化合物は、分子内に少なくとも1つ以上のアミノ基(第一級、第二級又は第三級アミン骨格)を有する重合性化合物が好ましい。このような重合性化合物としては、例えば、アミノ(メタ)アクリレート、アミン変性ポリエーテル(メタ)アクリレート、アミン変性ポリエステル(メタ)アクリレート、アミン変性エポキシ(メタ)アクリレート、アミン変性ウレタン(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは、単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。上記アミン変性重合性化合物の含有量は、特に限定されないが、上記インク組成物の全質量に対して1質量%以上30質量%以下とすればよく、1質量%以上11質量%以下がより好ましい。
【0025】
上記アミン変性重合性化合物は、単体での硬化物のガラス転移温度が好ましくは25℃以下、より好ましくは10℃以下であることが、密着性の点から望ましい。上記ガラス転移温度の測定は、アミン変性重合性化合物と、開始剤として1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン(1,2-α-ヒドロキシアルキルフェノン系開始剤)とを混合した混合物(重合性化合物/開始剤の質量比:97/3)に積算光量1,000mJ/cm2のエネルギーを有する紫外線を照射して重合物を形成し、この重合物を示差熱測定装置(株式会社マック・サイエンス社製の、商品名“TG-DTA(2000S)”)により測定して行うことができる。
【0026】
上記アミン変性重合性化合物の質量平均分子量は、好ましくは100以上、より好ましくは500以上であることがインク硬化物への柔軟性付与の点から望ましい。また、上記アミン変性重合性化合物の質量平均分子量は、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下であることが、インクの低粘度化の点から望ましい。ここで、質量平均分子量は、オリゴマー単体をゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定(溶媒:テトラヒドロフラン)したポリスチレン換算の分子量である。
【0027】
上記アミン変性重合性化合物としては、具体的には、ダイセル・オルネクス社製の商品名“EBECRYL80”、“EBECRYL81”、“EBECRYL7100”、サートマー社製の商品名“CN371”、“CN550”、“CN551”、BASF社製の商品名“LaromerPO94F”等が挙げられる。
【0028】
上記アミン変性重合性化合物以外の重合性化合物としては、以下のものが使用できる。
【0029】
上記分子内にエチレン性二重結合を1個有する単官能モノマーとしては、具体的には、例えば、アミル(メタ)アクリレート、イソアミル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、イソオクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソデシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソミリスチル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ネオペンチルグリコール(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシ-ジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-トリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシ-ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ノニルフェノールエチレンオキサイド付加物(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-コハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-フタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、及びこれらにリンやフッ素等の官能基が付与された(メタ)アクリレートモノマー等が挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用してもよい。
【0030】
上記分子内にエチレン性二重結合を2個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパン(メタ)アクリル酸安息香酸エステル、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(200)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(400)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(600)ジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(1000)ジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(400)ジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール(700)ジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAプロピレンオキサイド付加物ジ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用してもよい。
【0031】
上記分子内にエチレン性二重結合を3個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレート、グリセリルトリ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性体、プロピレンオキサイド変性体、カプロラクトン変性体等が挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用してもよい。
【0032】
上記分子内にエチレン性二重結合を4個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性体、プロピレンオキサイド変性体、カプロラクトン変性体等が挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用してもよい。
【0033】
上記分子内にエチレン性二重結合を5個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性体、プロピレンオキサイド変性体、カプロラクトン変性体等が挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用してもよい。
【0034】
上記分子内にエチレン性二重結合を6個有する多官能モノマーとしては、具体的には、例えば、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、及びこれらのエチレンオキサイド変性体、プロピレンオキサイド変性体、カプロラクトン変性体等が挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用してもよい。
【0035】
上記インク組成物は、重合性化合物として、オリゴマー又はプレポリマーを更に含有してもよい。
【0036】
上記インク組成物中の上記重合性化合物の含有量は、特に限定されるものではないが、上記インク組成物の全質量に対して、55~98質量%が好ましい。上記重合性化合物の含有量が上記範囲であれば、インクの硬化性及び密着性を向上させることができる。
【0037】
<光重合開始剤>
上記光重合開始剤としては、低エネルギーで重合を開始させることができるアシルホスフィンオキサイド化合物、α-アミノアルキルフェノン化合物、及びチオキサントン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物を含む光重合開始剤を用いることが好ましい。特に、アシルホスフィンオキサイド化合物、又はα-アミノアルキルフェノン化合物とチオキサントン化合物との混合物がより好ましい。
【0038】
上記アシルホスフィンオキサイド化合物としては、具体的には、例えば、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6-テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6-ジメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、4-メチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、4-エチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、4-イソプロピルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、1-メチルシクロヘキサノイルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸メチルエステル、2,4,6-トリメチルベンゾイルフェニルホスフィン酸イソプロピルエステル、ビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチルペンチルホスフィンオキサイド等が挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なアシルホスフィンオキサイド化合物としては、例えば、チバ社製の“DAROCURE TPO”等が挙げられる。
【0039】
上記α-アミノアルキルフェノン化合物としては、具体的には、例えば、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)ブタノン-1,2-メチル-1-[4-(メトキシチオ)-フェニル]-2-モルホリノプロパン-2-オン等が挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なα-アミノアルキルフェノン化合物としては、例えば、チバ社製の“IRGACURE 369”、“IRGACURE 907”等が挙げられる。
【0040】
上記チオキサントン化合物としては、具体的には、例えば、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、4-イソプロピルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン等が挙げられる。これらは単独で又は複数混合して使用してもよい。市場で入手可能なチオキサントン化合物としては、例えば、日本化薬社製の“MKAYACURE DETX-S”、ダブルボンドケミカル社製の“ITX-S”等が挙げられる。
【0041】
上記インク組成物中の上記光重合開始剤の含有量は、上記重合性化合物の含有量にもよるが、インク組成物の全質量に対して、総量で2~15質量%が好ましい。上記光重合開始剤の含有量が2質量%以上であれば、低エネルギーの照射でも硬化性及び密着性に優れたインクを得ることができる。一方、上記光重合開始剤の含有量が15質量%以下であれば、未反応成分の残存を抑えることができる。
【0042】
<着色剤>
本発明のインク組成物は、着色剤を更に含んでいてもよい。但し、本発明のインク組成物が、無色透明のクリアインク組成物である場合には、着色剤は含まれない。
【0043】
上記着色剤としては特に限定されないが、本発明のインク組成物は非水系であることから、非水溶性媒体に均一に分散しやすい顔料、溶解しやすい染料が好ましい。
【0044】
上記顔料としては、無機顔料、有機顔料のいずれも使用できる。無機顔料としては、例えば、酸化チタン、亜鉛華、酸化亜鉛、リトポン、酸化鉄、酸化アルミニウム、二酸化ケイ素、カオリナイト、モンモリロナイト、タルク、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、シリカ、アルミナ、カドミウムレッド、べんがら、モリブデンレッド、クロムバーミリオン、モリブデートオレンジ、黄鉛、クロムイエロー、カドミウムイエロー、黄色酸化鉄、チタンイエロー、酸化クロム、ビリジアン、コバルトグリーン、チタンコバルトグリーン、コバルトクロムグリーン、群青、ウルトラマリンブルー、紺青、コバルトブルー、セルリアンブルー、マンガンバイオレット、コバルトバイオレット、マイカ等が挙げられる。有機顔料としては、例えば、アゾ系、アゾメチン系、ポリアゾ系、フタロシアニン系、キナクリドン系、アントラキノン系、インジゴ系、チオインジゴ系、キノフタロン系、ベンズイミダゾロン系、イソインドリン系等の有機顔料が挙げられる。また、酸性、中性又は塩基性カーボンからなるカーボンブラックを用いてもよい。更に、架橋したアクリル樹脂の中空粒子等も有機顔料として用いてもよい。
【0045】
本発明のインク組成物には、通常、黒色、並びにシアン、マゼンタ、及びイエローの3原色の顔料が用いられるが、その他の色相を有する顔料や、金、銀色等の金属光沢顔料、無色又は淡色の体質顔料等も目的に応じて用いることができる。
【0046】
上記着色剤は、1種単独のみならず、2種以上を混合して使用してもよい。また、本発明においては、2種類以上の有機顔料又は有機顔料の固溶体を組み合わせて用いることもできる。また、打滴する液滴及び液体ごとに異なる着色剤を用いてもよいし、同一の着色剤を用いてもよい。
【0047】
上記着色剤の分散には、例えばビーズミル、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、ジェットミル、ホモジナイザー、ペイントシェーカー、ニーダー、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル等の分散装置を用いることができ、また、ラインミキサー等の混合機を用いてもよい。更に、上記着色剤の分散後、着色剤の粗大粒子を除去する目的で、遠心分離機、フィルター、クロスフロー等を用いて分級処理を行ってもよい。
【0048】
上記着色剤の分散を行う際には、分散剤を添加することができる。分散剤としては、その種類に特に制限はないが、公知の高分子分散剤を用いることが好ましい。
【0049】
上記分散剤の含有量は、使用目的により適宜選択されるが、例えば、インク組成物の全質量に対し、0.01~5質量%と設定できる。
【0050】
また、上記着色剤を添加するにあたっては、必要に応じて、分散助剤として、各種着色剤に応じたシナージストを用いることも可能である。
【0051】
上記着色剤の含有量は、色、及び使用目的により適宜選択されるが、画像濃度及び保存安定性の観点から、インク組成物の全質量に対し、0.3~30質量%であることが好ましく、0.5~20質量%であることがさらに好ましい。
【0052】
<その他の成分>
本発明のインク組成物には、重合禁止剤、ゲル化防止剤、表面調整剤を添加することが好ましい。上記重合禁止剤、ゲル化防止剤を添加することにより、インク組成物の保存安定性を向上できる。また、上記表面調整剤を添加することにより、印刷物表面のレベリング性を向上できる。
【0053】
上記重合禁止剤としては、例えば、ヒンダートアミン化合物、ニトロソアミン化合物、キノン化合物等を使用できる。上記ゲル化防止剤としては、例えば、ヒンダードアミン系化合物等を使用できる。また、上記表面調整剤としては、例えば、ポリシロキサン等を使用できる。
【0054】
また、本発明のインク組成物には、必要に応じて、消泡剤、殺菌剤、保湿剤、pH調整剤、防腐剤、防錆剤等の添加剤を添加することができる。
【0055】
次に、本発明のインク組成物の製造方法について説明する。
【0056】
本発明のインク組成物の第1の製造方法は、重合性化合物と光重合開始剤とを含むインク組成物前駆体を準備する工程(A)と、上記インク組成物前駆体にアルカリ金属塩を添加して、40℃以上70℃以下の温度で10分以上120分以下の間攪拌する工程(B1)と、上記攪拌後の上記インク組成物前駆体を-20℃以上35℃以下の温度で保持してエージングする工程(C)と、上記エージング後の上記インク組成物前駆体をろ過してインク組成物を作製する工程(D)とを備えることを特徴とする。
【0057】
また、本発明のインク組成物の第2の製造方法は、重合性化合物と光重合開始剤とを含むインク組成物前駆体を準備する工程(A)と、上記インク組成物前駆体を40℃以上70℃以下の温度で10分以上120分以下の間攪拌する工程(B2)と、上記攪拌後の上記インク組成物前駆体を-20℃以上35℃以下の温度で保持してエージングする工程(C)と、上記エージング後の上記インク組成物前駆体をろ過してインク組成物を作製する工程(D)とを備え、上記重合性化合物及び上記光重合開始剤の少なくとも一方が、アルカリ金属イオンを含むことを特徴とする。
【0058】
更に、本発明のインク組成物の第1及び第2の製造方法は、脱水処理工程(E)を備えていてもよい。
【0059】
上記工程(A)では、前述した重合性化合物及び光重合開始剤と、必要に応じて、着色剤、重合禁止剤、ゲル化防止剤、表面調整剤及び他の添加剤とを、撹拌機を用いて均一に混合することによりインク組成物前駆体を調製することができる。撹拌機としては、例えば、スリーワンモーター、マグネチックスターラー、ディスパ、ホモジナイザー等を使用できる。
【0060】
上記工程(B1)では、上記インク組成物前駆体にアルカリ金属塩を添加して、上記重合性化合物に含有している有機スルホン酸と、アルカリ金属イオンとを反応させる。上記アルカリ金属塩としては、例えば、酢酸ナトリウム、酒石酸ナトリウム、クエン酸ナトリウム、安息香酸ナトリウム、アクリル酸ナトリウム等の有機酸アルカリ金属塩;塩化ナトリウム、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、水酸化ナトリウム等の無機酸アルカリ金属塩等を使用できるが、HSAB則に従い有機スルホン酸と反応しやすく、且つ重合性化合物に溶解しやすいアルカリ金属塩、例えばアクリル酸ナトリウム等が好ましい。
【0061】
上記アルカリ金属塩の添加量は特に限定されないが、上記インク組成物前駆体の全質量に対して0.001質量%以上0.1質量%以下とすればよい。上記アルカリ金属塩の添加量が0.001質量%以上であれば、上記インク組成物前駆体中の有機スルホン酸との反応が十分となり、インク組成物の保存中における析出物の発生を抑えることができる。一方、上記アルカリ金属塩の添加量が0.1質量%以下であれば、インク組成物の保存中における上記アルカリ金属塩自体の析出物の発生も抑えることができる。
【0062】
上記工程(B1)において、上記インク組成物前駆体に溶解しにくいアルカリ金属塩を使用する場合、上記アルカリ金属塩を水に溶解させてから上記インク組成物前駆体に添加する工程を用いてもよい。その場合、水の含有量をインク組成物の全質量に対して0.50質量%以下とするため、脱水処理工程(E)を取り入れることが好ましい。
【0063】
本発明のインク組成物の第1の製造方法では、上記工程(B1)においてアルカリ金属塩をインク組成物前駆体に添加する必要がある。一方、インク組成物の重合性化合物、光重合開始剤等の成分に例えば不純物としてアルカリ金属イオンが含まれている場合があり、その場合には本発明のインク組成物の第2の製造方法の上記工程(B2)ように、インク組成物前駆体に更にアルカリ金属塩を添加する必要はない。
【0064】
上記インク組成物の成分がアルカリ金属イオンを元々含んでいるか否かは、ICP発光分光分析装置、ICP質量分析装置、原子吸光分析装置等により分析することにより確認できる。
【0065】
上記アルカリ金属イオンは、上記重合性化合物、光重合開始剤等のインク組成物の成分の少なくとも一つに5~200ppm含んでいればよい。通常、上記アルカリ金属イオンは、重合性化合物、光重合開始剤等の成分に不純物として含まれるものであり、上記重合性化合物や上記光重合開始剤が、その基本成分としてアルカリ金属イオンを含むものではない。上記アルカリ金属イオンとしては、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン等が挙げられる。
【0066】
上記工程(B2)では、上記重合性化合物に含有している有機スルホン酸と、重合性化合物、光重合開始剤等に含有しているアルカリ金属イオンとを反応させる。
【0067】
上記工程(C)では、上記有機スルホン酸と上記アルカリ金属イオンとの反応物を十分析出させる。エージング温度は低温にて過飽和析出現象を発生させるため、-20℃以上35℃以下の温度とし、-20℃以上10℃以下がより好ましい。低温エージング期間は有機スルホン酸に対する反応物の発生頻度に依存して設定するが、60分以上、30日以下が好ましい。更に、反応を促進する目的で、低温エージングの前工程として、40℃以上70℃以下の高温エージングを取り入れることができる。高温エージング期間は、120分以上、20日以下が好ましい。
【0068】
上記工程(D)では、上記インク組成物前駆体をフィルター等でろ過して析出物を除去し、有機スルホン酸の含有量を低減したインク組成物を作製する。
【0069】
上記工程(E)は、上記工程(A)~(D)とは分離して単独で行うこともできるが、上記工程(E)を上記工程(A)~(D)に組み込んで実施することもできる。例えば、上記工程(E)を上記工程(B1)又は(B2)に組み込む場合は、重合性化合物と水との蒸発速度差を利用した加温撹拌による脱水工程として実施でき、上記工程(E)を上記工程(D)に組み込む場合は、モレキュラーシーブ、シリカゲル、活性アルミナ、イオン交換樹脂等の吸水性の充填剤による吸水工程を、ろ過工程の前段又は後段に配置して実施できる。
【0070】
上記工程(A)~(D)を行うことにより、本発明のインク組成物を前述の水抽出法で測定した場合に、有機スルホン酸の含有量を50ppm以下とすることができる。
【0071】
また、上記工程(A)~(E)においては水を加える工程を含まないか、もしくは脱水工程を含むため、本発明のインク組成物を前述のカール・フィッシャー法で測定した場合に、水の含有量をインク組成物の全質量に対して0.50質量%以下とすることができる。
【0072】
(実施形態2)
次に、本発明のインクジェット用インクセットについて説明する。本発明のインクジェット用インクセットは、前述の本発明のインク組成物を含むことを特徴とする。具体的には、本発明のインクジェット用インクセットは、本発明のインク組成物からなる複数のインクを備えている。上記インクとしては、例えば、黒色顔料を含むブラックインク、シアン顔料を含むシアンインク、マゼンタ顔料を含むマゼンタインク、イエロー顔料を含むイエローインク等の顔料インク、及び、顔料を含まない無色透明なクリアインク等が該当する。
【0073】
(実施形態3)
次に、本発明のインクジェット印刷システムについて説明する。本発明のインクジェット印刷システムは、前述の本発明のインク組成物とインクジェット記録装置とを用いたインクジェット印刷システムであり、上記インクジェット記録装置は、インク加温部とインク用フィルターとを備えることを特徴とする。即ち、上記インク加温部はインク組成物の粘度をインクジェットヘッドでの最適吐出粘度に調整するために備え、また上記インク用フィルターはインク組成物やカートリッジ充填等の製造工程における塵埃や外部からの混入異物を除去し、インクジェットヘッド内のインク流路やノズル先端での目詰まりを防止するために使用する。
【0074】
本発明のインクジェット印刷システムでは、インク加温部とインク用フィルターとを備えたインクジェット記録装置を用いるため、有機スルホン酸の含有量が50ppmを超え、且つ水の含有量が0.50質量%を超えたインク組成物を用いた場合、インク加温状態により反応物の形成が促進され、発生した大量の析出物によりインク用フィルターの全面に目詰まりしてインク流路が分断されるため、インク組成物はノズル先端まで到達しない。一方、有機スルホン酸の含有量が50ppm以下であり、且つ水の含有量が0.50質量%以下である本発明のインク組成物を用いた場合、インク粘度を下げるため加温したとしても反応物の形成が抑制されるため、インクジェットヘッド内のインク流路やノズル先端が析出物で目詰まりすることはない。
【0075】
上記インクジェット記録装置のインクジェット方式としては特に限定されるものではないが、静電誘引力を利用してインクを吐出させる電荷制御方式、ピエゾ素子の振動圧力を利用するドロップオンデマンド方式(圧力パルス方式)、電気信号を音響ビームに変えてインクに照射する放射圧を利用した音響インクジェット方式、インクを加熱して気泡を形成し、生じた圧力を利用するサーマルインクジェット方式を採用できる。
【0076】
本発明のインクジェット印刷システムでは、例えば、インクジェットプリンタを用いて、上記本発明のインク組成物を含むインクジェット用インクセットからインクを吐出した後、エネルギー線を照射することによりインクを固定できる。上記エネルギー線としては、例えば、200~400nmの紫外線、遠紫外線、g線、h線、i線、KrFエキシマレーザー光、ArFエキシマレーザー光、電子線、X線、分子線、LED光線等を使用できる。
【実施例0077】
以下、実施例に基づき本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0078】
下記の実施例及び比較例においてインクを調製するために用いた成分を表1に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
次に、上記した重合性化合物、アミン変性重合性化合物、光重合開始剤、表面調整剤、ゲル化防止剤、重合禁止剤の各成分について、温度25℃における水抽出法で有機スルホン酸の含有量を測定した。具体的には、先ず、イオン交換水25質量部に、上記各成分を3質量部添加し、5分間の超音波処理及び1分間のミキサー撹拌処理を行った後、孔径0.2μmの親水性フィルターでろ過して測定液を作製した。次に、上記測定液中の有機スルホン酸の含有量を、液体クロマトグラフィ飛行時間型質量分析装置(LC/MS)を用いて定量した。上記装置の測定限界は、0.4ppm以下である。その結果を表2に示す。
【0081】
【表2】
【0082】
(実施例1~5)
<顔料インクの調製>
先ず、着色剤(顔料)の一次分散体を次のようにして調製した。即ち、プラスチック製ビンに、着色剤、分散剤、重合性化合物を表3に示す配合量(単位:質量部)となるように計り取り、これに直径0.3mmのジルコニアビーズ100質量部を加えて、この混合物をペイントコンディショナーにより1時間分散処理した。
【0083】
次に、上記一次分散体を用いて顔料インクを次のようにして調製した。即ち、上記一次分散体に、表3に示す配合量(単位:質量部)で光重合開始剤を除く残りの成分を加えて、この混合物をマグネチックスターラーにより30分撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、この混合物を吸引ろ過し、顔料インク前駆体を調製した。
【0084】
続いて、上記顔料インク前駆体に、表3に示す配合量(単位:質量部)で光重合開始剤(アルカリ金属イオン不純物を含有する化合物)を添加して、温度50℃で30分攪拌した。その後、上記顔料インク前駆体を温度25℃で120分保持した後、グラスフィルター(桐山製作所製)でろ過して、実施例1~5の顔料インクを調製した。
【0085】
【表3】
【0086】
(実施例6~7)
<クリアインクの調製>
プラスチック製ビンに、光重合開始剤を除く成分を表4に示す配合量(単位:質量部)となるように計り取り、マグネチックスターラーにより30分撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、この混合物を吸引ろ過し、クリアインク前駆体を調製した。
【0087】
次に、上記クリアインク前駆体に、表4に示す配合量(単位:質量部)で光重合開始剤(アルカリ金属イオン不純物を含有する化合物)を添加して、温度50℃で30分攪拌した。その後、上記クリアインク前駆体を温度25℃で120分保持した後、グラスフィルター(桐山製作所製)でろ過して、実施例6~7のクリアインクを調製した。
【0088】
(実施例8)
<クリアインクの調製>
プラスチック製ビンに、光重合開始剤を除く成分を表4に示す配合量(単位:質量部)となるように計り取り、マグネチックスターラーにより30分撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、この混合物を吸引ろ過し、クリアインク前駆体を調製した。
【0089】
次に、上記クリアインク前駆体に、表4に示す配合量(単位:質量部)で光重合開始剤(アルカリ金属イオン不純物を含有する化合物)を添加して、温度50℃で30分攪拌した。その後、上記クリアインク前駆体を温度25℃で120分保持した後、モレキュラーシーブ(ナカライテスク社製、商品名“4A”)を充填したカラムに上記クリアインク前駆体を通して脱水処理工程を行った後、グラスフィルター(桐山製作所製)でろ過して、実施例8のクリアインクを調製した。
【0090】
(実施例9)
<クリアインクの調製>
プラスチック製ビンに、表4に示す配合量(単位:質量部)となるように計り取り、マグネチックスターラーにより30分撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、この混合物を吸引ろ過し、クリアインク前駆体を調製した。
【0091】
次に、上記クリアインク前駆体100質量部に、アクリル酸ナトリウム(アルカリ金属塩)0.02質量部を加え、温度60℃で30分攪拌した。その後、上記クリアインク前駆体を温度-10℃で24時間保持した後、グラスフィルター(桐山製作所製)でろ過して、実施例9のクリアインクを調製した。
【0092】
(実施例10)
<クリアインクの調製>
プラスチック製ビンに、光重合開始剤を除く成分を表4に示す配合量(単位:質量部)となるように計り取り、マグネチックスターラーにより30分撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、この混合物を吸引ろ過し、クリアインク前駆体を調製した。
【0093】
次に、上記クリアインク前駆体に、表4に示す配合量(単位:質量部)で光重合開始剤(アルカリ金属イオン不純物を含有する化合物)を添加して、温度60℃で60分攪拌した。その後、上記クリアインク前駆体を温度60℃で7日、温度-10℃で7日保持した後、モレキュラーシーブ(ナカライテスク社製、商品名“4A”)を充填したカラムに上記クリアインク前駆体を通して脱水処理工程を行った後、グラスフィルター(桐山製作所製)でろ過して、実施例10のクリアインクを調製した。
【0094】
【表4】
【0095】
(比較例1~2)
<顔料インクの調製>
先ず、着色剤(顔料)の一次分散体を次のようにして調製した。即ち、プラスチック製ビンに、着色剤、分散剤、重合性化合物を表5に示す配合量(単位:質量部)となるように計り取り、これに直径0.3mmのジルコニアビーズ100質量部を加えて、この混合物をペイントコンディショナーにより1時間分散処理した。
【0096】
次に、上記一次分散体を用いて顔料インクを次のようにして調製した。即ち、上記一次分散体に、表5に示す配合量(単位:質量部)で光重合開始剤を除く残りの成分を加えて、この混合物をマグネチックスターラーにより30分撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、この混合物を吸引ろ過し、顔料インク前駆体を調製した。
【0097】
続いて、上記顔料インク前駆体に、表5に示す配合量で光重合開始剤(アルカリ金属イオン不純物を含有する化合物)を添加して、温度50℃で30分攪拌した。その後、上記顔料インク前駆体を温度25℃で120分保持した後、グラスフィルター(桐山製作所製)でろ過して、比較例1~2の顔料インクを調製した。
【0098】
(比較例3~4)
<クリアインクの調製>
プラスチック製ビンに、光重合開始剤を除く残りの成分を表5に示す配合量(単位:質量部)となるように計り取り、マグネチックスターラーにより30分撹拌した。撹拌後、グラスフィルター(桐山製作所製)を用いて、この混合物を吸引ろ過し、クリアインク前駆体を調製した。
【0099】
次に、上記クリアインク前駆体に、表5に示す配合量で光重合開始剤(アルカリ金属イオン不純物を含有する化合物)を添加して、温度50℃で30分攪拌した。その後、上記クリアインク前駆体を温度25℃で120分保持した後、グラスフィルター(桐山製作所製)でろ過して、比較例3~4のクリアインクを調製した。
【0100】
【表5】
【0101】
次に、上記のようにして得られた調製直後の実施例1~10及び比較例1~4の顔料インク及びクリアインクを用いて下記のように有機スルホン酸の含有量と水の含有量とを測定した。その結果を表6に示す。
【0102】
<有機スルホン酸の含有量>
イオン交換水25質量部に、上記各インクを3質量部添加し、5分間の超音波処理及び1分間のミキサー撹拌処理を行った後、孔径0.2μmの親水性フィルターでろ過して測定液を作製した。次に、上記測定液中の有機スルホン酸の含有量を、液体クロマトグラフィ飛行時間型質量分析装置(LC/MS)を用いて定量した。上記装置の測定限界は、0.4ppm以下である。また、上記有機スルホン酸の含有量は、同一の測定液を用いて3回測定を行い、その3回の測定結果を算術平均して算出した値である。
【0103】
<水の含有量>
上記各インクの水の含有量をカール・フィッシャー法で測定した。具体的には、京都電子工業社製のカール・フィッシャー水分計一式(カール・フィッシャー水分計〔容量滴定方式〕:MKC-610、水分気化装置:ADP-351)により測定した。
【0104】
続いて、上記のようにして得られた調製直後の実施例1~10及び比較例1~4の顔料インク及びクリアインクを用いて下記のようにインク特性を評価した。その結果を表6に示す。
【0105】
<保存安定性>
各インクをガラスビンに充填し、これを環境試験機により60℃で2日間保存、-10℃で2日間保存の熱冷試験を1サイクル行った。その後、インク中の析出物の発生の有無について、SUSメッシュ(孔径5μm)を用いてインクを吸引ろ過し、上記メッシュ上の残留物の状態を光学顕微鏡により観察し、以下の基準によりインクの保存安定性を評価した。
評価A:残留物なし、評価B:わずかな残留物あり、評価C:残留物あり、評価D:多量の残留物あり
【0106】
<インクジェット(IJ)吐出性>
各インクについてピエゾ型インクジェットノズルを備えたインクジェット記録装置を用いて、保存安定性試験後のインクのIJ吐出性を評価した。このインクジェット記録装置はインク供給系として、インクタンク、供給パイプ、ヘッド直前の前室インクタンク、及びピエゾヘッドを備えている。また、ヘッド直前の前室インクタンクとピエゾヘッドには、インクのゴミを除去するフィルター(SUSメッシュ、孔径5μm)を備えている。更に、インクの吐出に際しては、インクの粘度がヘッドでの最適吐出粘度8~13mPa・sとなるように、インクジェット記録装置内の温調システムによりインクを加熱した。また、液滴サイズを約7pl、解像度を600×600dpiでインク吐出できるよう、駆動周波数10kHzでインクジェット記録装置を駆動した。その際に以下の基準によりインクのIJ吐出性を評価した。
評価A:吐出抜けなし、評価B:わずかに吐出抜けあり、評価C:吐出抜けあり、評価D:多数の吐出抜けあり
【0107】
<硬化性>
各インクを用いて、厚さ188μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム社製の白色PETフィルム、商品名“U292W”)の上に、バーコーターを用いて厚さ3μmのインクベタ印刷膜をそれぞれ形成した。この印刷膜に、照射手段として紫外線LEDランプ(日亜化学工業社製、商品名“NLBU21W01-E2”、ピーク照度:38.7mW/cm2)を用い、トータル照射光量が200mJ/cm2となるように、紫外線を照射して、硬化させてベタ印刷物の硬化物を得た。この硬化物を指で触って、以下基準によりインクの硬化性を評価した。
評価A:インクがまったく指に付着しない、評価B:インクがわずかに指に付着する、評価C:インクが指に付着する、評価D:インクが硬化していない
【0108】
【表6】
【0109】
表6から実施例1~10のインクは、保存安定性、IJ吐出性及び硬化性の全てにおいて満足できる結果を得た。一方、有機スルホン酸の含有量が50ppmを超えた比較例1及び3、並びに、水の含有量が0.50質量%を超えた比較例2及び4では、保存安定性、IJ吐出性及び硬化性の全てにおいて満足する結果が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明によれば、保存安定性、IJ吐出性及び硬化性の全てに優れたインク組成物及びそれを用いたインクジェット用インクセットを提供できる。
【0111】
また、本発明は、インクジェット方式を利用する印刷・成形物に使用するインクを製造する方法、そしてインクジェット方式を用いる印刷システム、例えば、インクジェット方式を用いた通常の平面印刷だけでなく、インクジェット方式を用い、インクを厚盛して立体感を付与する印刷、あるいは、インクジェット方式による立体造形法(インクジェット光造形法等)へも適用できる。