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特開2023-155278超臨界流体装置および超臨界流体装置における圧力制御方法
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  • 特開-超臨界流体装置および超臨界流体装置における圧力制御方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155278
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】超臨界流体装置および超臨界流体装置における圧力制御方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/02 20060101AFI20231013BHJP
   G01N 30/32 20060101ALI20231013BHJP
   B01D 15/40 20060101ALI20231013BHJP
   B01D 11/00 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
G01N30/02 N
G01N30/32 A
B01D15/40
B01D11/00
【審査請求】有
【請求項の数】10
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023131039
(22)【出願日】2023-08-10
(62)【分割の表示】P 2021525450の分割
【原出願日】2019-06-11
(71)【出願人】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100108523
【弁理士】
【氏名又は名称】中川 雅博
(74)【代理人】
【識別番号】100125704
【弁理士】
【氏名又は名称】坂根 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100187931
【弁理士】
【氏名又は名称】澤村 英幸
(72)【発明者】
【氏名】尾和 道晃
(57)【要約】
【課題】
臨界流体装置において流路内の圧力が急に変動することを抑制することを課題とする。
【解決手段】
超臨界流体装置(超臨界流体クロマトグラフ10)は、溶媒を供給する溶媒供給部(二酸化炭素ボンベ1、モディファイアタンク2、第1ポンプ3、第2ポンプ4、二酸化炭素流路R1およびモディファイア流路R2)と、溶媒供給部により供給される溶媒の流路ARに設けられる圧力制御装置(背圧制御バルブ9)と、圧力制御装置を制御する制御部12とを備える。制御部12は、圧力制御装置を制御することにより流路ARの圧力を上昇させて溶媒を超臨界流体の状態として所定処理の実行環境を維持する第1制御部121と、所定処理の実行環境を終了させるとき、流路ARの圧力の中間目標値を設定し、中間目標値に向けて流路ARの圧力を制御する第2制御部122とを含んでもよい。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶媒を供給する溶媒供給部と、
前記溶媒供給部により供給される溶媒の流路に設けられるカラムと、
前記流路における前記カラムの下流に設けられる圧力制御装置と、
前記圧力制御装置を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記圧力制御装置を制御することにより前記カラムを含む前記流路の圧力を上昇させて前記溶媒を超臨界流体の状態として所定処理の実行環境を維持する第1制御部と、
前記所定処理の実行環境を終了させるとき、前記カラムを含む前記流路の圧力の中間目標値を設定し、前記中間目標値に向けて前記流路の圧力を下げることにより、前記カラム内の急な圧力低下を抑制する第2制御部と、
を含む、超臨界流体装置。
【請求項2】
前記第2制御部は、前記カラムを含む前記流路の圧力を前記中間目標値に向けて下げた後、前記中間目標値よりも低い新たな中間目標値を設定し、前記新たな中間目標値に向けて前記カラムを含む前記流路の圧力を下げる、請求項1に記載の超臨界流体装置。
【請求項3】
前記所定処理の実行環境における前記流路の圧力を設定圧力(P)、前記流路に対する圧抜きを開始してからの時間を経過時間(T1)、および、前記流路の圧抜きを完了するまでの設定時間を圧抜き設定時間(T2)とすると、前記中間目標値は、
圧抜き速度(V)=設定圧力(P)/圧抜き設定時間(T2)
中間目標値=設定圧力(P)-(圧抜き速度(V)×経過時間(T1))
により算出される、請求項1に記載の超臨界流体装置。
【請求項4】
前記中間目標値へ向けて低減される圧力の減少率は、前記中間目標値を設けず圧力を低減させる場合の圧力の減少率よりも緩やかである、請求項1に記載の超臨界流体装置。
【請求項5】
前記所定処理の実行環境における前記流路の圧力が半減するまでの時間として少なくとも10秒以上が経過するように前記中間目標値が設定される、請求項1に記載の超臨界流体装置。
【請求項6】
前記所定処理の実行環境における前記流路の圧力が半減するまでの時間として少なくとも1分以上が経過するように前記中間目標値が設定される、請求項1に記載の超臨界流体装置。
【請求項7】
前記超臨界流体装置は、超臨界流体クロマトグラフを含む、請求項1に記載の超臨界流体装置。
【請求項8】
前記超臨界流体装置は、超臨界流体抽出を実行する装置を含む、請求項1に記載の超臨界流体装置。
【請求項9】
前記第2制御部は前記カラムを含む前記流路の圧力を、10MPa以上の圧力から大気圧まで下げる、請求項1に記載の超臨界流体装置。
【請求項10】
溶媒供給部により供給される溶媒の流路において、カラムより下流に設けられた圧力制御装置を制御することにより前記カラムを含む前記流路の圧力を上昇させて前記溶媒を超臨界流体の状態として所定処理の実行環境を維持する処理と、
前記所定処理の実行環境を終了させるとき、前記カラムを含む前記流路の圧力の中間目標値を設定し、前記中間目標値に向けて前記カラムを含む前記流路の圧力を下げることにより、前記カラム内の急な圧力低下を抑制する処理と、
を含む、超臨界流体装置における圧力制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超臨界流体装置および超臨界流体装置において実行される圧力制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
試料の分析手法として、移動相に超臨界流体が用いられる超臨界流体クロマトグラフィー(SFC:Supercritical Fluid Chromatography)がある。超臨界流体は液体および気体の両方の性質を持ち、液体よりも拡散性が高く粘性が低いという特徴がある。このような性質の超臨界流体を溶媒として用いることで、高速、高分離または高感度で試料の分析が可能である。また、試料の抽出方法として、超臨界流体が抽出媒体として用いられる超臨界流体抽出(SFE:Supercritical Fluid Extraction)がある。
【0003】
溶媒を超臨界状態に維持するためには、例えば、溶媒の流量が3ml/分以下の微小流量とされ、流路内の圧力が10Mpa以上とされる。このため、超臨界流体クロマトグラフィーまたは超臨界流体抽出を行う超臨界流体装置において、溶媒の流路の圧力を調整するために圧力制御装置が設けられる。
【0004】
下記特許文献1は、超臨界流体クロマトグラフに設けられた圧力制御バルブの構成に関する。特許文献1の圧力制御バルブにおいて、弁体を駆動するアクチュエータとして、ステッピングモータおよびピエゾ素子が用いられる。
【特許文献1】国際公開2015-029253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
超臨界流体クロマトグラフにおいて分析処理が終了すると、圧力制御装置を制御することにより、流路の圧抜き工程が実行される。そして、超臨界流体クロマトグラフが備える分離カラム内の圧力も10MPa以上の高い圧力から大気圧程度まで低下する。このとき、急な圧力低下により、分離カラム内の固定相に偏りが生じたり、移動相によるパスが固定相に生じたりする場合がある。このように分離カラム内の固定相の均一性が低下すると、次の分析処理において分離性能を劣化させる原因となる。また、分離カラムの固定相の均一性が低下すると、分離カラムの寿命を短縮させることにもなる。
【0006】
超臨界流体抽出を行う装置において、抽出容器から不要な成分を抽出し、抽出容器内の残存物を目的試料として採取する場合がある。このような抽出処理の場合、流路内の圧力の急な変動により、抽出容器内の試料が掻き乱されることになる。
【0007】
本発明の目的は、超臨界流体装置において流路内の圧力が急に変動することを抑制することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一局面に従う超臨界流体装置は、溶媒を供給する溶媒供給部と、溶媒供給部により供給される溶媒の流路に設けられる圧力制御装置と、圧力制御装置を制御する制御部とを備える。制御部は、圧力制御装置を制御することにより流路の圧力を上昇させて溶媒を超臨界流体の状態として所定処理の実行環境を維持する第1制御部と、所定処理の実行環境を終了させるとき、流路の圧力の中間目標値を設定し、中間目標値に向けて流路の圧力を制御する第2制御部とを含む。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、超臨界流体装置において流路内の圧力が急に変動することを抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本実施の形態に係る超臨界流体クロマトグラフの全体図である。
図2図2は、本実施の形態に係る圧力制御方法を示すフローチャートである。
図3図3は、本実施の形態に係る圧力制御方法を使用した実験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
次に、添付の図面を参照しながら本発明の実施の形態に係る超臨界流体クロマトグラフの構成について説明する。
【0012】
(1)超臨界流体クロマトグラフの全体構成
図1は、本実施の形態に係る超臨界流体クロマトグラフ10の全体構成図である。超臨界流体クロマトグラフ10は、二酸化炭素ボンベ1、モディファイアタンク2、第1ポンプ3、第2ポンプ4、ミキサ5、オートサンプラ6、分離カラム7、検出器8および背圧制御バルブ(BPR:Back Pressure Regulator)9を備える。
【0013】
二酸化炭素ボンベ1には、液化二酸化炭素が貯留される。第1ポンプ3を駆動することにより、二酸化炭素ボンベ1内の液化二酸化炭素が、二酸化炭素流路R1に送液される。モディファイアタンク2には、モディファイアとしての有機溶媒が貯留される。第2ポンプ4を駆動することにより、モディファイアタンク2内のモディファイアが、モディファイア流路R2に送液される。本実施の形態においては、モディファイアとしてメタノールが用いられる。
【0014】
二酸化炭素流路R1内を送液される液化二酸化炭素およびモディファイア流路R2内を送液されるメタノールは、ミキサ5において混合される。このように、本実施の形態に係る超臨界流体クロマトグラフ10では、移動相として液化二酸化炭素およびメタノールが用いられる。二酸化炭素は、比較的低温度および低圧力で超臨界状態が得られる。モディファイアは、測定対象である試料の溶解性を高めるために用いられる。モディファイアとしては、エタノール等の他の有機溶媒が用いられてもよい。
【0015】
ミキサ5によって混合された液化二酸化炭素およびメタノールは、移動相として分析流路ARに供給される。分析処理中においては、分析流路ARの内圧は、検出器8の下流に設けられた背圧制御バルブ9によって10MPa以上に調整される。また、分析流路ARの温度は、二酸化炭素を超臨界流体の状態とするために適切な温度(31.1度以上)に調整される。これにより、分析流路ARに供給される移動相は超臨界流体の状態となる。
【0016】
分析流路ARに供給された移動相は、オートサンプラ6に送られる。オートサンプラ6において、インジェクタ61により試料が分析流路AR内の移動相に滴下される。オートサンプラ6において試料が滴下された超臨界流体である移動相は、分離カラム7に送られる。
【0017】
分離カラム7には、試料が注入された移動相が供給される。分離カラム7において、移動相が分離カラム7内の固定相を通過する間に、試料の分離が行われる。分離カラム7から流出した試料が溶解した移動相は、検出器8に送られる。
【0018】
検出器8には、分離カラム7において試料が分離された移動相が供給される。検出器8において、試料の検出が行われる。検出器8としては、例えば、紫外線検出器、可視光検出器または蛍光検出器等が用いられる。
【0019】
また、図1に示すように、超臨界流体クロマトグラフ10は、圧力センサ11および制御部12を備える。圧力センサ11は、超臨界流体である移動相が流れる分析流路AR内に設けられる。圧力センサ11は、検出器8から背圧制御バルブ9へと至る分析流路AR内に設けられる。制御部12は、圧力センサ11により検出された超臨界流体である移動相の圧力を検出する。制御部12は、圧力センサ11の検出値を入力する。制御部12は、圧力センサ11の検出値等に基づいて、背圧制御バルブ9を制御する。
【0020】
(2)制御部の構成
制御部12は、第1制御部121および第2制御部122を備える。第1制御部121は、超臨界流体クロマトグラフ10が分析処理を実行中に、分析流路AR内の移動相の圧力を制御する。第1制御部121は、背圧制御バルブ9を制御することにより分析流路ARの圧力を上昇させて移動相を超臨界流体の状態として分析処理の実行環境を維持する。第1制御部121は、背圧制御バルブ9を制御することにより、分析流路AR内の圧力を10MPa以上に維持する。第1制御部121は、圧力センサ11の検出値に基づいて、背圧制御バルブ9を制御する。
【0021】
第2制御部122は、超臨界流体クロマトグラフ10が分析処理を終了した後、分析流路ARの圧抜き制御を行う。第2制御部122は、背圧制御バルブ9を制御することにより、分析流路AR内の圧力を大気圧程度まで低下させる。第2制御部122は、圧力センサ11の検出値に基づいて、背圧制御バルブ9を制御する。
【0022】
図2は、第2制御部122により実行される圧力制御方法を示すフローチャートである。第2制御部122は、超臨界流体クロマトグラフ10による分析処理を終了した後、図2に示す圧力制御方法を実行する。図2に示す圧力制御方法は、分析流路ARの圧抜き処理方法である。例えば、オペレータによる分析処理の終了の指示、あるいは、オペレータによる圧力抜きの指示を受けて、第2制御部122は、図2に示す圧力制御方法を実行する。
【0023】
第2制御部122は、図2に示す圧力制御方法を開始するとき、圧力センサ11から現在の分析流路AR内の圧力を取得する。つまり、第2制御部122は、分析処理の実行環境における分析流路AR内の圧力を取得する。例えば、第2制御部122は、現在の分析流路AR内の圧力として、圧力センサ11から検出値10MPaを取得する。
【0024】
第2制御部122は、図2に示す圧力制御方法を開始するとき、タイマー123を0にリセットし、圧力制御方法の実行中の経過時間(T1)の計測を開始する。第2制御部122は、ステップS1において、タイマー123から現在の経過時間(T1)を取得する。第2制御部122は、ステップS1において、現在の経過時間(T1)が圧抜き設定時間(T2)を超えているかどうか判定する。
【0025】
ここで、圧抜き設定時間(T2)とは、分析流路AR内の圧力を、分析処理の実行環境における圧力から大気圧程度に減圧させるまでの時間である。つまり、圧抜き設定時間(T2)とは、溶媒を超臨界流体の状態とするための分析流路AR内の圧力を、大気圧程度まで減圧させるまでの時間である。例えば、分析流路AR内の圧力を、分析処理中の圧力である10MPaから、大気圧程度である0.1MPaに減圧させるまでの時間である。ここでは、一例として、分析処理の実行環境における分析流路AR内の圧力が10MPaであり、圧抜き設定時間(T2)として200秒が設定されるものとする。
【0026】
経過時間(T1)が圧抜き設定時間(T2)を超えていないとき、第2制御部122は、ステップS2を実行する。ステップS2において、第2制御部122は、中間目標値を算出する。中間目標値は、分析流路AR内の圧力の目標値である。第2制御部122は、分析流路AR内の圧力の目標値として、最終目標値である大気圧を設定するのではなく、最終目標値よりも高い中間目標値を設定する。
【0027】
第2制御部122は、中間目標値を算出するために、まず、圧抜き速度(V)を算出する。圧抜き速度(V)は、次の式1により求められる。
(式1) 圧抜き速度(V)=設定圧力(P)/圧抜き設定時間(T2)
設定圧力(P)は、分析処理の実行環境において設定される圧力である。ここでは、上記のとおり、設定圧力(P)は、10MPaであり、圧抜き設定時間(T2)は200秒であるとする。したがって、
圧抜き速度(V)=10(MPa)/200(秒)=0.05(MPa/秒)
で表される。
【0028】
次に、第2制御部122は、次の式2により中間目標値を算出する。
(式2) 中間目標値=設定圧力(P)-(圧抜き速度(V)×経過時間(T1))
経過時間(T1)が10秒であれば、中間目標値は次のとおりである。
10秒後の中間目標値
=10(MPa)-(0.05(MPa/秒)×10(秒))=9.5MPa
つまり、圧抜き工程を開始してから経過時間(T1)が10秒となった時点で、中間目標値は9.5MPaに設定される。
【0029】
中間目標値が算出されると、次に、第2制御部122は、ステップS3において、中間目標値に基づく圧力制御を行う。第2制御部122は、圧力センサ11から現在の分析流路AR内の圧力を取得し、中間目標値と取得した圧力との差に基づいてフィードバック制御を行う。例えば、背圧制御バルブ9の弁体を駆動するアクチュエータとして、ステッピングモータおよびピエゾ素子が用いられる。第2制御部122により中間目標値に向けたフィードバック制御が行われると、背圧制御バルブ9が備えるステッピングモータまたはピエゾ素子が制御される。例えば、制御量が大きい場合にはステッピングモータにより弁体が駆動され、制御量が小さい場合にはピエゾ素子により弁体が駆動される。
【0030】
第2制御部122は、ステップS3において中間目標値に基づく圧力制御を行った後、ステップS1に戻る。そして、第2制御部122は、タイマー123から経過時間(T1)を取得する。第2制御部122は、経過時間(T1)が圧抜き設定時間(T2)を超えていない場合には、再び、ステップS2を実行し、新たな中間目標値を算出する。そして、第2制御部122は、ステップS3において、新たな中間目標値に基づいて圧力制御を行う。このように、第2制御部122は、経過時間(T1)に応じて新たな中間目標値を算出し、新たな中間目標値に基づく圧力制御を行う。中間目標値は、上記の式2により算出されるので、中間目標値は、経過時間(T1)とともに小さい値となる。
【0031】
第2制御部122は、ステップS1~S3の処理を繰り返し実行し、分析流路AR内の圧力を徐々に低下させる。そして、ステップS1において、経過時間(T1)が圧抜き設定時間(T2)を超えたとき、第2制御部122は、図2に示す圧力制御方法を終了する。
【0032】
このように、本実施の形態の超臨界流体クロマトグラフ10は、分析処理の実行環境を終了させるとき、分析流路AR内の圧力の中間目標値を設定し、中間目標値に向けて分析流路AR内の圧力を制御する第2制御部122を備える。これにより、分析処理の実行環境を終了させるとき、分析流路AR内の圧力として最終目標値を設定する制御と比べて、分析流路AR内の圧力を緩やかに低減させることができる。
【0033】
本実施の形態の超臨界流体クロマトグラフ10においては、分析処理の実行環境を終了させるとき、分析流路AR内の圧力の急な変動を抑制することができる。これにより、分離カラム7内の固定相の均一性が失われることを抑制することができる。これにより、分離カラム7における分離性能が低下することを防止できる。また、分離カラム7が劣化し、分離カラム7の寿命が短縮されることを防止できる。
【0034】
本実施の形態の超臨界流体クロマトグラフ10において、第2制御部122は、分析流路AR内の圧力を中間目標値に向けて制御した後、中間目標値よりも低い新たな中間目標値を設定し、新たな中間目標値に向けて分析流路AR内の圧力を制御する。これにより、分析流路AR内の圧力を徐々に低下させることができる。
【0035】
上記の実施の形態においては、式1および式2を用いて圧力の中間目標値を算出した。これにより、圧抜き設定時間(T2)に応じて、圧力の低下速度を調整することができる。圧抜き設定時間(T2)を調整することにより、分析流路AR内の圧力変動を抑制し、分離カラム7の劣化を防止することができる。
【0036】
上記の実施の形態においては、超臨界流体クロマトグラフ10の分析処理が終了した後、圧抜き設定時間(T2)を200秒に設定したが、これは一例である。超臨界流体クロマトグラフ10の構成または分離カラム7の構成に応じて、適宜最適な圧抜き設定時間(T2)を決定すればよい。例えば、設定圧力(P)が半減するまでの時間が少なくとも10秒以上となるように圧抜き設定時間(T2)を設定することが好ましい。設定圧力(P)が半減するまでの時間が10秒以上となるように圧抜き設定時間(T2)を設定することにより、分析流路AR内の圧力の急な変動を抑制することができる。さらに好ましくは、設定圧力(P)が半減するまでの時間は1分以上である。設定圧力(P)が半減するまでの時間が1分以上となるように圧抜き設定時間(T2)を設定することにより、分析流路AR内の圧力の急な変動をさらに有効に抑制することができる。上記の実施の形態では、圧抜き設定時間(T2)として200秒が設定されているので、設定圧力(P)が半減するまでの時間は、100秒程度である。
【0037】
(3)実験結果
図3は、本実施の形態の圧力制御方法を実施した場合の実験結果を示すグラフである。図3の横軸は経過時間T1(分)であり、縦軸は背圧制御バルブ9の上流側の圧力(MPa)である。図3において、実線で示すグラフG1は、本実施の形態の圧力制御方法を実行した場合の圧力センサ11の検出値を示すグラフである。つまり、グラフG1は、本実施の形態に係る圧力制御方法を実行した場合の背圧制御バルブ9の上流側の圧力変化を示すグラフである。図3において、点線で示すグラフG2は、本実施の形態の圧力制御方法を実行しなかった場合の圧力センサ11の検出値を示すグラフである。つまり、グラフG2は、分析処理の終了時に、背圧制御バルブ9の弁体を全開して、分析流路AR内の圧力を一気に低下させた場合の圧力変化を示すグラフである。
【0038】
図3のグラフG1に示すように、本実施の形態の圧力制御方法を実行した場合、第2制御部122は、中間目標値に向けて圧力を制御するため、圧力の変動が緩やかとなっている。これに対して、本実施の形態の圧力制御方法を実行しなかった場合、背圧制御バルブ9の上流側の圧力が急激に低下していることが分かる。このように、本実施の形態の圧力制御方法を実行した場合、中間目標値へ向けて低減される圧力の減少率は、中間目標値を設けず圧力を低減させる場合の圧力の減少率よりも緩やかである。これにより、背圧制御バルブ9を一気に全開する場合と比べて、流路内の圧力変動を抑制することができる。
【0039】
(4)請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応
以下、請求項の各構成要素と実施の形態の各要素との対応の例について説明するが、本発明は下記の例に限定されない。上記の実施の形態では、超臨界流体クロマトグラフ10が超臨界流体装置の例である。また、二酸化炭素ボンベ1、モディファイアタンク2、第1ポンプ3、第2ポンプ4、二酸化炭素流路R1およびモディファイア流路R2が溶媒供給部の例である。また、上記の実施の形態では、背圧制御バルブ9が圧力制御装置の例であり、分析流路ARが流路の例であり、超臨界流体クロマトグラフ10による分析処理が、所定処理の例である。
【0040】
請求項の各構成要素として、請求項に記載されている構成または機能を有する種々の要素を用いることもできる。
【0041】
(5)他の実施の形態
上述したように、本実施の形態においては、超臨界流体を用いる装置として、超臨界流体クロマトグラフ10を例に挙げて説明した。本発明は、他にも超臨界流体装置として、超臨界流体により試料を抽出する方法(SFE)を実行する装置にも適用可能である。本発明を、SFEを実行する装置に適用させた場合にも、流路内の圧力が急激に変動することが抑制される。SFEにおいて、抽出容器から不要な成分を抽出し、抽出容器内の残存物を目的試料として採取する場合がある。このような抽出処理の場合、流路内の圧力の急な変動により、抽出容器内の試料が掻き乱されることになる。本実施の形態の圧力制御方法を実施することにより、抽出容器内の試料が圧力変動により掻き乱されるのを抑制できる。SFEにより抽出された容器内の試料が綺麗に保持される。
【0042】
なお、本発明の具体的な構成は、前述の実施の形態に限られるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更および修正が可能である。
【0043】
(6)態様
上述した複数の例示的な実施の形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0044】
(第1項)一態様に係る超臨界流体装置は、溶媒を供給する溶媒供給部と、
前記溶媒供給部により供給される溶媒の流路に設けられる圧力制御装置と、
前記圧力制御装置を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、
前記圧力制御装置を制御することにより前記流路の圧力を上昇させて前記溶媒を超臨界流体の状態として所定処理の実行環境を維持する第1制御部と、
前記所定処理の実行環境を終了させるとき、前記流路の圧力の中間目標値を設定し、前記中間目標値に向けて前記流路の圧力を制御する第2制御部とを含んでいてよい。
【0045】
超臨界流体装置において流路内の圧力が急に変動することを抑制することができる。
【0046】
(第2項)第1項に記載の超臨界流体装置において、前記第2制御部は、前記流路の圧力を前記中間目標値に向けて制御した後、前記中間目標値よりも低い新たな中間目標値を設定し、前記新たな中間目標値に向けて前記流路の圧力を制御してもよい。
【0047】
流路内の圧力を徐々に低下させることができる。
【0048】
(第3項)第1項に記載の超臨界流体装置において、前記所定処理の実行環境における前記流路の圧力を設定圧力(P)、前記流路に対する圧抜きを開始してからの時間を経過時間(T1)、および、前記流路の圧抜きを完了するまでの設定時間を圧抜き設定時間(T2)とすると、前記中間目標値は、
圧抜き速度(V)=設定圧力(P)/圧抜き設定時間(T2)
中間目標値=設定圧力(P)-(圧抜き速度(V)×経過時間(T1))
により算出されてもよい。
【0049】
圧抜き設定時間に応じて、圧力の低下速度を調整することができる。圧抜き設定時間を調整することにより、流路内の圧力変動を抑制することができる。
【0050】
(第4項)第1項に記載の超臨界流体装置において、前記中間目標値へ向けて低減される圧力の減少率は、前記中間目標値を設けず圧力を低減させる場合の圧力の減少率よりも緩やかであってもよい。
【0051】
(第5項)第1項に記載の超臨界流体装置において、前記所定処理の実行環境における前記流路の圧力が半減するまでの時間として少なくとも10秒以上が経過するように前記中間目標値が設定されてもよい。
【0052】
流路内の圧力が急激に変動することを抑制することができる。
【0053】
(第6項)第1項に記載の超臨界流体装置において、前記所定処理の実行環境における前記流路の圧力が半減するまでの時間として少なくとも1分以上が経過するように前記中間目標値が設定されてもよい。
【0054】
流路内の圧力が急激に変動することをさらに効果的に抑制することができる。
【0055】
(第7項)第1項に記載の超臨界流体装置において、前記超臨界流体装置は、超臨界流体クロマトグラフを含んでもよい。
【0056】
分析流路の圧力変動を抑制することができる。これにより、分離カラムの劣化を防止することができる。
【0057】
(第8項)第1項に記載の超臨界流体装置において、前記超臨界流体装置は、超臨界流体抽出を実行する装置を含んでもよい。
【0058】
流路の圧力変動を抑制することができる。これにより、抽出容器内の試料が掻き乱されることが防止される。
【0059】
(第9項)他の態様に係る超臨界流体装置における圧力制御方法は、
溶媒供給部により供給される溶媒の流路に設けられた圧力制御装置を制御することにより前記流路の圧力を上昇させて前記溶媒を超臨界流体の状態として所定処理の実行環境を維持する処理と、
前記所定処理の実行環境を終了させるとき、前記流路の圧力の中間目標値を設定し、前記中間目標値に向けて前記流路の圧力を制御する処理と、
を含んでもよい。
図1
図2
図3