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特開2023-15529プレス製品の製造方法、及びバーリング加工装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023015529
(43)【公開日】2023-02-01
(54)【発明の名称】プレス製品の製造方法、及びバーリング加工装置
(51)【国際特許分類】
   B21D 39/02 20060101AFI20230125BHJP
【FI】
B21D39/02 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2021119355
(22)【出願日】2021-07-20
(71)【出願人】
【識別番号】000219233
【氏名又は名称】東プレ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100101247
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 俊一
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100098327
【弁理士】
【氏名又は名称】高松 俊雄
(72)【発明者】
【氏名】瀧嶋 浩昭
(57)【要約】
【課題】バーリングカシメ加工を行う工程と、他の工程(成形工程)とを、1つの金型によって行う。
【解決手段】2枚の金属板10,11を重ね合わせて成形し、金属板10,11をバーリングカシメ加工によって結合する。重ね合わせた2枚の金属板10,11を、金型2の上型3と下型4とにより挟み込んで目的形状に成形する。その工程の後に、金型2の動作に同期したカム機構20の駆動により、下型4に配置されたバーリングパンチ6を金属板10,11に向けて前進移動させて、バーリングパンチ6によって金属板10,11にバーリング部10iを形成する。その工程の後に、カム機構20の駆動により、バーリングパンチ6を金属板10,11から後退移動させる。その工程の後に、上型3に配置されたカシメパンチ5を金属板10,11に向けて前進移動させて、カシメパンチ5によってバーリング部10iの先端を外方向に折り曲げてカシメ部10jを形成する。
【選択図】図4
【特許請求の範囲】
【請求項1】
2枚の金属板を重ね合わせて成形し、前記金属板をバーリングカシメ加工によって結合するプレス製品の製造方法であって、
重ね合わせた2枚の前記金属板を、金型の可動型と固定型とにより挟み込んで目的形状に成形する成形工程と、
前記成形工程の後に、前記可動型の動作に同期した同期作動機構の駆動により、前記固定型に配置されたバーリングパンチを前記金属板に向けて前進移動させて、前記バーリングパンチによって前記金属板にバーリング部を形成するバーリング工程と、
前記バーリング工程の後に、前記同期作動機構の駆動により、前記バーリングパンチを前記金属板から後退移動させるバーリングパンチ後退工程と、
前記バーリングパンチ後退工程の後に、前記可動型に配置されたカシメパンチを前記金属板に向けて前進移動させて、前記カシメパンチによって前記バーリング部の先端を外方向に折り曲げてカシメ部を形成するカシメ工程と、を含む、
プレス製品の製造方法。
【請求項2】
前記同期作動機構は、
前記バーリングパンチを前記金属板に向けて前進移動させるための前進移動用機構と、
前記バーリングパンチを前記金属板から後退移動させるための後退移動用機構と、を有する、
請求項1に記載のプレス製品の製造方法。
【請求項3】
2枚の金属板を重ね合わせて、成形加工とバーリングカシメ加工とを行うバーリング加工装置であって、
可動型及び固定型を有する金型と、
前記可動型に配置されるカシメパンチと、
前記固定型に配置されるバーリングパンチと、
前記可動型の動作に同期して駆動されるカム機構と、を備え、
前記カム機構は、前記可動型の動作に同期して、前記バーリングパンチを前記金属板に向けて前進移動させて、前記バーリングパンチによって前記金属板にバーリング部を形成し、さらに、前記バーリングパンチを前記金属板から後退移動させた後に、前記カシメパンチを前記金属板に向けて前進移動させて、前記カシメパンチによって前記バーリング部の先端を外方向へ折り曲げてカシメ部を形成するように構成される、
バーリング加工装置。
【請求項4】
前記カム機構は、
前記バーリングパンチを前記金属板に向けて前進移動させるための前進移動用カムと、
前記バーリングパンチを前記金属板から後退移動させるための後退移動用カムと、を有する、
請求項3に記載のバーリング加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、プレス製品の製造方法、及びバーリング加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚の鋼板(金属板)を接合する技術として、例えば特許文献1、2に開示されるバーリングカシメ工法がある。特許文献1に記載の技術は、先ず一方の鋼板にバーリング加工を施し、相手側の他方の鋼板には穴加工を施し、バーリングの円筒部に穴を貫通させ、バーリングの先端を円周外方向に折り曲げ又は潰して(カシメ加工)、2枚の鋼板同士を接合するものである。
【0003】
特許文献1に記載の技術は、バーリングカシメ加工(バーリング加工及びカシメ加工)を複数の工程(複数の金型)で行うものである。これに対して、特許文献2に記載の技術は、バーリングカシメ加工を1つの金型で行うものである。この特許文献2に記載の技術は、バーリングパンチを有する上型と、クッション装置によって可動とされるクッション台(ダイ)を有する下型と、カム機構により駆動される巻き込みパンチ(カシメパンチ)とを備え、カシメパンチによりバーリング穴の折り曲げ部の巻き込み(カシメ加工)を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-312194号公報
【特許文献2】実開昭61-49629号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自動車用車体部品として使用されるプレス成形品は、目的により様々な形状に成形加工される。このために工程数が多くなる傾向があるが、生産性の観点から工程数を減らす工夫が行われている。すなわち、異なる工程を1つの金型を使って1工程で行い、工程数を減らす工夫が行なわれている。前述の特許文献2に記載の技術は、1つの金型でバーリングカシメ加工を行えるが、プレス機械にクッション装置が必要であり、下型が可動(移動可能)であることにより他の工程(特に、成形工程)と合わせて加工することが困難である。
【0006】
そこで、本発明は、バーリングカシメ加工を行う工程と、他の工程(成形工程)とを、1つの金型によって行うことができるプレス製品の製造方法、及びバーリング加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、2枚の金属板を重ね合わせて成形し、金属板をバーリングカシメ加工によって結合するプレス製品の製造方法である。当該製造方法は、重ね合わせた2枚の金属板を、金型の可動型と固定型とにより挟み込んで目的形状に成形する成形工程と、成形工程の後に、可動型の動作に同期した同期作動機構の駆動により、固定型に配置されたバーリングパンチを金属板に向けて前進移動させて、バーリングパンチによって金属板にバーリング部を形成するバーリング工程と、バーリング工程の後に、同期作動機構の駆動により、バーリングパンチを金属板から後退移動させるバーリングパンチ後退工程と、バーリングパンチ後退工程の後に、可動型に配置されたカシメパンチを金属板に向けて前進移動させて、カシメパンチによってバーリング部の先端を外方向に折り曲げてカシメ部を形成するカシメ工程と、を含む。
【0008】
本発明の一態様は、2枚の金属板を重ね合わせて、成形加工とバーリングカシメ加工とを行うバーリング加工装置である。当該バーリング加工装置は、可動型及び固定型を有する金型と、可動型に配置されるカシメパンチと、固定型に配置されるバーリングパンチと、可動型の動作に同期して駆動されるカム機構と、を備える。カム機構は、可動型の動作に同期して、バーリングパンチを金属板に向けて前進移動させて、バーリングパンチによって金属板にバーリング部を形成し、さらに、バーリングパンチを金属板から後退移動させた後に、カシメパンチを金属板に向けて前進移動させて、カシメパンチによってバーリング部の先端を外方向へ折り曲げてカシメ部を形成するように構成される。
【発明の効果】
【0009】
本発明の一態様に係るプレス製品の製造方法、及びバーリング加工装置によれば、バーリングカシメ加工を行う工程と、他の工程(成形工程)とを、1つの金型によって行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1A】本実施形態に係る製造方法におけるバーリングカシメ加工の説明図である。
図1B】本実施形態に係る製造方法におけるバーリングカシメ加工の説明図である。
図1C】本実施形態に係る製造方法におけるバーリングカシメ加工の説明図である。
図1D】本実施形態に係る製造方法におけるバーリングカシメ加工の説明図である。
図2A】材料に形成される穴を拡大して示すバーリングカシメ加工の説明図である。
図2B】材料に形成される穴を拡大して示すバーリングカシメ加工の説明図である。
図2C】材料に形成される穴を拡大して示すバーリングカシメ加工の説明図である。
図3A】本実施形態に係るバーリング加工装置の概略的な正面断面図である。
図3B】本実施形態に係るバーリング加工装置の概略的な正面断面図である。
図4】本実施形態に係るバーリング加工装置の概略的な側断面図である。
図5】本実施形態に係るカム機構の概要を示す図である。
図6A】本実施形態に係る製造工程に含まれるバーリング工程の説明図である。
図6B】金型の要部を拡大して示すバーリング工程の説明図である。
図7A】本実施形態に係る製造工程に含まれるカシメ工程の説明図である。
図7B】金型の要部を拡大して示すカシメ工程の説明図である。
図8】下死点の通過後に上型が上昇する際のカム機構の動作を示す説明図である。
図9】プレス機械の動作と金型の要部の動作との関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面と共に詳述する。
【0012】
以下、実施形態を説明するにあたり、金型の可動側に取り付けられた上型ダイをプレス駆動により下降させ、金型の固定側に取り付けられた下型パンチで、上向き方向にプレス成形するプレス成形方法で説明を行う。
【0013】
[加工材料]
図1Aから図1Dに示される加工材料(2枚の鋼板(鋼鈑)10,11)は、例えば自動車の車体に用いられる冷延鋼板、高張力鋼板と称されるものである。本実施形態では、鋼板(金属板)10,11を2枚重ねた状態(図1A参照)で、後述する金型2にセットしてハット形状に成形する。ハット形状に成形された2枚の鋼板10,11はそれぞれ、凸形状の中央部10a,11aと、中央部10a,11aの両端に形成されるフランジ部10b,11bとを有して構成される(図1B参照)。また、本実施形態では、ハット形状に成形した鋼板10,11のフランジ部10b,11bに対して、バーリングカシメ加工(本実施形態では左右2ヶ所)を同じ金型2及び同じ工程において行う。
【0014】
2枚の鋼板10,11に対して予め、図1Aに示すような形状の穴を開ける穴開け加工を施す。下側に重ねられる鋼板10には、凸部と凹部が交互にある異形穴10hが形成される。その一方、上側に重ねられる鋼板11には、円形穴11hが形成される。
【0015】
穴開け加工を施した後に、2枚の鋼板10,11を重ね合わせて金型2にセットし、その金型2でプレス加工(成形加工、バーリングカシメ加工)を行う(図1Bから図1D参照)。
【0016】
[金型の概要]
図3A図3B及び図4に示すように、本実施形態に係るバーリング加工装置1は、成形加工を行う成形工程と、バーリングカシメ加工を行うバーリングカシメ工程とを1工程で行うための金型2を備える。図3Aは、加工(成形工程)を始める前で、鋼板10,11を金型2にセットした状態を示した図である。図3Bは、成形工程が終了し、バーリングカシメ工程に移行する状態を示した図である。金型2は、形状形成のために上型3に設けられる成形ダイ3aと、形状形成のために下型4に設けられる成形パンチ4aとを有する。成形ダイ3aは、上型3内において上下方向に摺動して移動可能である。また、上型ダイホルダー3bにはカシメパンチ5が固定され、下型4の成形パンチ4a内にはバーリングパンチ6が上下方向に摺動して移動可能な状態で保持されている。
【0017】
金型2は、下型4のバーリングパンチ6をプレス機の駆動に同期させて上方向に突出させるための同期作動機構としてのカム機構20を有する。カム機構20は、上型ダイホルダー3bに固定される2つのカム(第1カム21、第2カム22)と、下型4内(成形パンチ4aの下部)に配置される2つの水平カム(第3カム23、第4カム24)とを有する。また、カム機構20は、2つの水平カム(第3カム23、第4カム24)の動作によりバーリングパンチ6を上下方向に動作させるために、第3カム23と第4カム24との間に配置されるバーリングパンチ駆動カム(第5カム25)を有する。第3カム23、第5カム25、第4カム24は、水平方向にほぼ直線状に配置されている。
【0018】
[金型の詳細]
金型2の上型ダイホルダー3b又は下型ダイホルダー4bには、以下の構成部品が固定され、又は摺動可能な状態で保持されている。
【0019】
(成形ダイ3a)
成形ダイ3aは、金型2の可動側(上型ダイホルダー3b)に配置され、中央部分に形成される凹形状の凹部により2枚の鋼板10,11をハット形状に成形する。成形ダイ3aは、上型3内において上下方向に摺動して移動可能である。成形ダイ3aの上方に配置される弾性機構(本実施形態では、2つのガスクッション)7によりプレス加工途中(成形完了後)から下死点まで成形ダイ3aが加工材料(被加工物)に当接して力を付与して、加工材料が加工中にずれることが抑制される。
【0020】
(成形パンチ4a)
成形パンチ4aは、金型2の固定側(下型ダイホルダー4b)に配置され、中央部分に形成される凸形状の凸部により2枚の鋼板10,11をハット形状に成形する。成形パンチ4aの内部には、上方向に突出するバーリングパンチ6と、バーリングパンチ6を動作させるための第3カム23、第4カム24及び第5カム25とが内蔵される。
【0021】
(カム機構20)
図5に示すように、カム機構20は、第1カム21と、第2カム22と、第3カム23と、第4カム24と、第5カム25とを有して構成される。
【0022】
(第1カム21)
第1カム21は、上型ダイホルダー3bに固定され、上型3の動作を下型4の第3カム23に伝える。第1カム21の下端には所定角度(約26度)の傾斜面21aが形成されており、この第1カム21の傾斜面21aが第3カム23の傾斜面23aに当接している。上型3がある程度下降すると、第1カム21の傾斜面21aと第3カム23の傾斜面23aとの当接が外れ、第1カム21の傾斜面21aの上方にある垂直面21bと第3カム23の先端の垂直面23bとが当接する。
【0023】
(第2カム22)
第2カム22は、上型ダイホルダー3bに固定され、上型3の動作を下型4の第4カム24に伝える。第2カム22の先端(下端)には回動可能な駒(カム部分)22aが設けられ、通常は駒22aの先端が水平方向に向くように保持され、駒22aの先端面22bが第4カム24の側面に形成される垂直面24aと当接している。上型3がある程度下降すると、駒22aの先端面22bと第4カム24の垂直面24aとの当接が外れ、第4カム24の第2カム22側への移動が可能になる。
【0024】
(第3カム23)
第3カム23は、第5カム25と係合されて第5カム25を上方に移動(前進移動)させる。この第3カム23は、水平方向(横方向)に移動可能となるように下型4に配置される。第1カム21の傾斜面21aとの当接面である第3カム23の傾斜面23aは所定角度(約26度)に形成され、この傾斜面23aの下方に垂直面23bが形成されている。第3カム23の反対側端面には所定角度(約45度)の傾斜面23cが形成されており、この第3カム23の傾斜面23cが第5カム25の傾斜面25aに当接している。
【0025】
(第4カム24)
第4カム24は、第5カム25と係合されて第5カム25を下方に移動(後退移動)させる。この第4カム24は、水平方向(横方向)に移動可能となるように下型4に配置される。第5カム25の傾斜面25bとの当接面である第4カム24の傾斜面24bは所定角度(約45度)に形成されており、この第4カム24の傾斜面24bが第5カム25の傾斜面25bと当接している。第4カム24の反対側端面には垂直面24aが形成されており、この第4カム24の垂直面24aが第2カム22の駒22aの先端面22bに当接している。上型3の動作(下降)に伴って第2カム22が動作(下降)しても、第4カム24は第2カム22の駒22aによって移動が規制されるため移動しない。上型3がある程度下降して駒22aの先端面22bと第4カム24の垂直面24aとの当接が外れると、第4カム24が第2カム22側へと移動する。
【0026】
(第5カム25)
第5カム25は、バーリングパンチ6を上下方向に動作させるためのカムである。この第5カム25は、水平方向(横方向)及び鉛直方向(上下方向)に移動可能となるように下型4に配置される。第3カム23の傾斜面23cとの当接面である第5カム25の傾斜面25aは所定角度(約45度)に形成され、第4カム24の傾斜面24bとの当接面である第5カム25の傾斜面25bは所定角度(約45度)に形成されている。第2カム22の駒22aによって第4カム24の移動が規制された状態で、第3カム23及び第4カム24が第5カム25を両方向から挟み込むと、第5カム25は上方へ移動する。
【0027】
(バーリングパンチ6)
バーリングパンチ6は、加工材料(下側の鋼板10)を下方からバーリング加工するための円形状パンチである。バーリングパンチ6の先端(上端)には面取り加工が施されている(図2B参照)。
【0028】
(カシメパンチ5)
カシメパンチ5は、上型ダイホルダー3bに固定され、バーリング加工後に、バーリングパンチ6が下方に移動(後退移動)した後に、バーリング部10i(図2B参照)を外方向に開き押し潰して、カシメ部10j(図2C参照)を形成する。カシメパンチ5は、成形ダイ3aには固定されておらず、成形ダイ3aに対して相対移動が可能である。
【0029】
[金型の動作]
プレス機の駆動(上型3の下降)に伴って、以下の(i)~(vi)の動作によりバーリングカシメ加工が行われる。図9は、(i)~(vi)の動作(プレス機の動作と金型2の要部の動作との関係)を、プレス機のクランク角(0°から360°)に対応して示したものである。
【0030】
(i)上型3の成形ダイ3aが下降して、被加工材(2枚の鋼板10,11)を押えて拘束する。
【0031】
(ii)上型3の成形ダイ3aがさらに下降して、下型4の成形パンチ4aとの間で被加工材(2枚の鋼板10,11)がハット形状に成形される(図3B参照)。ハット形状への被加工材の成形が終わったとき、被加工材は上型3の成形ダイ3aと下型4の成形パンチ4aとの間に挟持された状態で保持される。
【0032】
(iii)上型3がさらに下降すると、上型3の第1カム21が下方に移動されて、第3カム23がバーリングパンチ6側(水平方向)に移動する。このとき、上型3の第2カム22も下方に移動するが、第2カム22の駒22aによって移動が規制されている第4カム24は移動しない。したがって、第3カム23及び第4カム24によって両方向から挟み込まれている第5カム25が上方に移動する。第5カム25の上方への移動に伴いバーリングパンチ6が上方に移動(前進移動)し、被加工材(下側の鋼板10)に対して下方からバーリング加工が行われる(図6A図6B参照)。すなわち、上型3の下方への動作が、第1カム21、第3カム23、第5カム25によりバーリングパンチ6の上方への動作に変換される。その後に、第1カム21の傾斜面21aと第3カム23の傾斜面23aとの当接が外れ、第1カム21の垂直面21bと第3カム23の垂直面23bとの当接に移行するので、これ以降は第3カム23は水平方向に移動せずに停止する。
【0033】
(iv)上型3がさらに下降すると、第2カム22が下方に移動されて、第2カム22の駒22aの先端面22bと第4カム24の垂直面24aとの当接が外れ、第4カム24が第2カム22側へと移動することが可能になる。これ以降は第4カム24は第2カム22側へ移動するため、第5カム25が下方へ移動し、バーリングパンチ6は下方へ移動(後退移動)する。
【0034】
(v)上型3がさらに下降すると、カシメパンチ5が被加工材(下側の鋼板11)のバーリング部10iに当接する。カシメパンチ5によってバーリング部10iの先端部が穴中心から放射状に外方向へ曲げ変形され、バーリングパンチ6のリング状(段差部)の水平面で押し潰されてカシメられた状態となる(図7A図7B参照)。
【0035】
(vi)下死点を過ぎると、上型3は上昇する。このとき、第2カム22の下端の駒22aと第4カム24とが当接するが、駒22aは回転機構22cにより回動して、第4カム24に引っ掛かって干渉することを回避する(図8参照)。
【0036】
以上、本実施形態を、カム機構20を利用した金型2で説明したが、バーリングパンチ6を上下動作させる同期作動機構はカム機構20でなくてもよい。例えば、油圧シリンダーをバーリングパンチ6の下部に配置し、プレス機械の動作に同期させ、バーリングパンチ6を上下動作させる同期作動機構を備えていれば実施可能である。
【0037】
[作用効果等]
以下に、本実施形態による作用効果を説明する。
【0038】
(1)本実施形態に係るプレス製品の製造方法は、2枚の鋼板10,11を重ね合わせて成形し、鋼板10,11をバーリングカシメ加工によって結合するものである。当該製造方法は、重ね合わせた2枚の鋼板10,11を、上型3の成形ダイ3aと下型4の成形パンチ4aとにより挟み込んで目的形状に成形する成形工程を含む。また、当該製造方法は、成形工程の後に、上型3の動作に同期した同期作動機構(カム機構20)の駆動により、下型4に配置されたバーリングパンチ6を鋼板10,11に向けて前進移動させて、バーリングパンチ6によって鋼板10,11にバーリング部10iを形成するバーリング工程を含む。また、当該製造方法は、バーリング工程の後に、カム機構20の駆動により、バーリングパンチ6を鋼板10,11から後退移動させるバーリングパンチ後退工程を含む。さらに、当該製造方法は、バーリングパンチ後退工程の後に、上型3に配置されたカシメパンチ5を鋼板10,11に向けて前進移動させて、カシメパンチ5によってバーリング部10iの先端を外方向に折り曲げてカシメ部10jを形成するカシメ工程を含む。
【0039】
(2)前述のプレス製品の製造方法において、カム機構20は、バーリングパンチ6を鋼板10,11に向けて前進移動させるための前進移動用機構(第1カム21及び第3カム23)と、バーリングパンチ6を鋼板10,11から後退移動させるための後退移動用機構(第2カム22及び第4カム24)と、を有する。
【0040】
(3)バーリング加工装置1は、2枚の鋼板10,11を重ね合わせて、成形加工とバーリングカシメ加工とを行うものである。バーリング加工装置1は、上型3及び下型4を有する金型2と、上型3に配置される成形ダイ3a及びカシメパンチ5と、下型4に配置される成形パンチ4a及びバーリングパンチ6と、上型3の動作に同期して駆動されるカム機構20と、を備える。カム機構20は、上型3の動作に同期して、バーリングパンチ6を鋼板10,11に向けて前進移動させて、バーリングパンチ6によって鋼板10,11にバーリング部10iを形成し、さらに、バーリングパンチ6を鋼板10,11から後退移動させた後に、カシメパンチ5を鋼板10,11に向けて前進移動させて、カシメパンチ5によってバーリング部10iの先端を外方向へ折り曲げてカシメ部10jを形成するように構成される。
【0041】
(4)前述のバーリング加工装置1において、カム機構20は、バーリングパンチ6を鋼板10,11に向けて前進移動させるための前進移動用カム(第1カム21及び第3カム23)と、バーリングパンチ6を鋼板10,11から後退移動させるための後退移動用カム(第2カム22及び第4カム24)と、を有する。
【0042】
金型2における上型3に、成形ダイ3aをプレス方向に移動可能に配置し、下型4には成形パンチ4aを配置する。また、バーリングパンチ6を固定型(下型4)に配置し、カシメパンチ5は可動型(上型3)に配置する。上型3の動作に同期して駆動されるカム機構20により、先ずバーリングパンチ6を駆動して下方からバーリング加工を行い、次いでバーリングパンチ6の後退後にカシメパンチ5を駆動して上方からカシメ加工を行うようにする。このため、1つの金型2により、同じ加工工程の中で、先ず成形加工を行い、次いでバーリング加工を行い、最後にカシメ加工を行うことができ、工程数の削減及び生産性の向上による加工コスト削減が可能になる。
【0043】
従来技術のように下型にクッション機構を備える場合、下型が上下動作を伴うため、下型にカム機構を備えることが困難であった。したがって、下型にクッション機構を備える場合、目的形状への成形加工と、バーリングカシメ加工を同じ工程(1つの金型)で行うことはできなかった。
【0044】
その一方、本実施形態では、下型4が固定型である(成形パンチ4aが固定されている)ため、上型3の作動に追従して作動するカム機構20を下型4に内蔵することができ、バーリングパンチ6を前進及び後退させることが可能になる。
【0045】
従来技術では、個別に2つの部品のプレス加工を行い、それら2つの部品をスポット溶接によって接合するものもあった。
【0046】
その一方、本実施形態では、プレス加工及び接合を1つの工程の中で実施することができ、工程数の削減及び生産性の向上による加工コスト削減が可能になると共に、接合品質の向上も可能になる。
【0047】
ところで、本発明のプレス製品の製造方法、及びバーリング加工装置は前述の実施形態に例をとって説明したが、この実施形態に限ることなく本発明の要旨を逸脱しない範囲で他の実施形態を各種採用することができる。
【0048】
前述のように、金型の可動側に取り付けられた上型ダイをプレス駆動により下降させ、金型の固定側に取り付けられた下型パンチで、上向き方向にプレス成形するプレス成形方法について実施形態を説明した。しかしながら、上型(成形ダイ)と下型(成形パンチ)とは逆でもよい。すなわち、上型パンチと下型ダイとによる下向き方向にプレス成形するプレス成形方法でもよい。
【符号の説明】
【0049】
1 バーリング加工装置
2 金型
3 上型(可動型)
3a 成形ダイ
4 下型(固定型)
4a 成形パンチ
5 カシメパンチ
6 バーリングパンチ
10 鋼板(金属板)
10i バーリング部
10j カシメ部
11 鋼板(金属板)
20 カム機構(同期作動機構)
21 第1カム(前進移動用カム、前進移動用機構)
22 第2カム(後退移動用カム、後退移動用機構)
23 第3カム(前進移動用カム、前進移動用機構)
24 第4カム(後退移動用カム、後退移動用機構)
25 第5カム
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図4
図5
図6A
図6B
図7A
図7B
図8
図9