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特開2023-155290ガラス組成物、ガラス繊維、ガラスクロス、及びガラス繊維の製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2023155290
(43)【公開日】2023-10-20
(54)【発明の名称】ガラス組成物、ガラス繊維、ガラスクロス、及びガラス繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C03C 13/00 20060101AFI20231013BHJP
   C03C 3/091 20060101ALI20231013BHJP
   H05K 1/03 20060101ALI20231013BHJP
【FI】
C03C13/00
C03C3/091
H05K1/03 610T
【審査請求】有
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023132578
(22)【出願日】2023-08-16
(62)【分割の表示】P 2023016095の分割
【原出願日】2020-06-19
(31)【優先権主張番号】PCT/JP2019/024791
(32)【優先日】2019-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000004008
【氏名又は名称】日本板硝子株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】305040569
【氏名又は名称】ユニチカグラスファイバー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(72)【発明者】
【氏名】中村 文
(72)【発明者】
【氏名】福地 英俊
(72)【発明者】
【氏名】倉知 淳史
(72)【発明者】
【氏名】澤井 陸
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 崇治
(72)【発明者】
【氏名】名和 慶東
(72)【発明者】
【氏名】服部 剛士
(57)【要約】
【課題】誘電率が低く、量産に適した新規なガラス組成物を提供する。
【解決手段】例えば、重量%で表示して、SiO2+B23≧81、(SiO2+B23+Al23)/(SiO2+B23)≧1.13、が成立し、周波数1GHzにおける誘電率が4.4以下であり、周波数1GHzにおける誘電正接が0.007及び以下であり、粘度102dPasになる温度T2が1700℃以下、粘度103dPasになる温度T3が1365℃以下、であるガラス繊維用ガラス組成物が提供される。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で表示して、
40≦SiO2≦60
30≦B23≦45
5≦Al23≦15
0<R2O≦5
1.5≦RO<15
を含み、
SiO2+B23≧80、及び/又は、
SiO2+B23≧78かつ1.5≦RO<10
が成立する、ガラス繊維用ガラス組成物。
ただし、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oから選ばれる少なくとも1種の酸化物であり、ROは、MgO、CaO及びSrOから選ばれる少なくとも1種の酸化物である。
【請求項2】
重量%で表示して、
40≦SiO2≦60
30≦B23≦45
5≦Al23≦15
0<R2O≦5
0.01≦Li2O≦1.5
1.5≦RO<15
を含み、
SiO2+B23≧80、及び/又は、
SiO2+B23≧78かつ1.5≦RO<10
が成立する、ガラス組成物。
ただし、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oから選ばれる少なくとも1種の酸化物であり、ROは、MgO、CaO及びSrOから選ばれる少なくとも1種の酸化物である。
【請求項3】
重量%で表示して、
SiO2+B23≧81、
(SiO2+B23+Al23)/(SiO2+B23)≧1.13、が成立し、
周波数1GHzにおける誘電率が4.4以下であり、
周波数1GHzにおける誘電正接が0.007及び以下であり、
粘度102dPasになる温度T2が1700℃以下、
粘度103dPasになる温度T3が1365℃以下、
である、ガラス繊維用ガラス組成物。
【請求項4】
重量%で表示して、
40≦SiO2≦49.95
27≦B23≦45
0<Al23≦18
0<R2O≦5
3<RO<10
を含み、
0.2≦MgO≦5
1≦CaO<10
0.1≦MgO/(MgO+CaO)≦0.5、であり、
SiO2+B23≧75、及びSiO2+B23+Al23<97
が成立する、ガラス組成物。
ただし、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oから選ばれる少なくとも1種の酸化物であり、ROは、MgO、CaO及びSrOから選ばれる少なくとも1種の酸化物である。
【請求項5】
重量%で表示して、
45≦SiO2<58
25≦B23≦40
7.5≦Al23≦18
0<R2O≦4
0≦Li2O≦1.5
0≦Na2O≦1.5
0≦K2O≦1
1≦RO<10
0≦MgO<10
0≦CaO<10
0≦SrO≦5
0≦T-Fe23≦0.5
0≦ZnO≦1
を含み、
SiO2+B23≧80、及び
0.1≦MgO/(MgO+CaO)≦0.5が成立し、
TiO2が実質的に含まれていない、ガラス繊維用ガラス組成物。
ただし、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oから選ばれる少なくとも1種の酸化物であり、ROは、MgO、CaO及びSrOから選ばれる少なくとも1種の酸化物であり、T-Fe23はFe23に換算したガラス組成物中の全酸化鉄である。
【請求項6】
ガラス繊維用である請求項2又は4に記載のガラス組成物。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス組成物から構成されるガラス繊維。
【請求項8】
請求項7に記載のガラス繊維から構成されるガラスクロス。
【請求項9】
請求項8に記載のガラスクロスを含む、プリプレグ。
【請求項10】
請求項8に記載のガラスクロスを含む、プリント基板。
【請求項11】
請求項1~6のいずれか1項に記載のガラス組成物を1400℃以上の温度で溶融する工程を含み、平均繊維径が1~6μmのガラス繊維を得る、ガラス繊維の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガラス組成物と、当該組成物により構成されるガラス繊維、及びガラスクロスとに関する。また、本発明は、ガラス繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器が備えるプリント回路板(printed circuit board)の一種に、樹脂、ガラス繊維、及び無機充填材、並びに、必要に応じて、硬化剤及び改質剤等の更なる材料から構成される基板がある。また、電子部品が実装される前のプリント配線板(printed wiring board)にも、上記基板と同様の構成を有するものがある。以下、本明細書では、プリント回路板及びプリント配線板の双方を合わせて、「プリント基板(printed board)」と記載する。プリント基板においてガラス繊維は、絶縁体、耐熱体、及び基板の補強材として機能する。ガラス繊維は、例えば、複数のガラス繊維を引き揃えたガラス糸(ガラスヤーン)を製織したガラスクロスとして、プリント基板に含まれる。また、通常ガラスクロスは、プリント基板には、樹脂が含浸されたプリプレグとして用いられる。近年、電子機器の小型化の要求と、高機能化を目的としたプリント基板の高実装化の要求とに応えるために、プリント基板の薄型化が進んでいる。プリント基板の薄型化のためには、繊維径のより小さなガラス繊維が必要とされる。また、大容量のデータを高速で伝送処理する要求が急激に高まっている等の理由から、プリント基板に使用するガラス繊維には低誘電率化が求められている状況にある。
【0003】
プリント基板に使用される無機充填剤にもガラスが用いられることがある。典型的な例は、フレーク状ガラスである。フレーク状ガラス等のガラス成形体をプリント基板の無機充填剤に使用する場合、当該成形体には、プリント基板に用いられるガラス繊維と同様の特性、例えば低い誘電率、が要求される。
【0004】
低誘電率のガラス組成物から構成されるガラス繊維が、特許文献1~5に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭62-226839号公報
【特許文献2】特表2010-508226号公報
【特許文献3】特開2009-286686号公報
【特許文献4】国際公開第2017/187471号
【特許文献5】国際公開第2018/216637号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ガラス組成物には、誘電率が低いことと共に量産に適した特性温度を有することも求められている。ガラス繊維の量産に重要なガラス組成物の特性温度としては、紡糸温度の目安となる温度T3、すなわち粘度が103dPasとなる温度、が挙げられる。温度T2、T2.5、さらには失透温度TLも、そのガラス組成物がガラス繊維の量産に適しているかを判断する指標となる。しかし、誘電率が低いガラス組成は特性温度の調整が容易ではない。
【0007】
以上に鑑み、本発明は、誘電率が低く、量産に適した新規なガラス組成物の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、
重量%で表示して、
40≦SiO2≦60
25≦B23≦45
5≦Al23≦15
0<R2O≦5
0<RO<15
を含み、
SiO2+B23≧80、及び/又は、SiO2+B23≧78かつ0<RO<10
が成立する、ガラス組成物、を提供する。
本明細書において、R2Oは、Li2O、Na2O及びK2Oから選ばれる少なくとも1種の酸化物であり、ROは、MgO、CaO及びSrOから選ばれる少なくとも1種の酸化物である。
【0009】
本発明は、別の側面から、
重量%で表示して、
40≦SiO2≦60
25≦B23≦45
0<Al23≦18
0<R2O≦5
0≦RO≦12
を含み、
i)SiO2+B23≧80、及びSiO2+B23+Al23≦99.9、並びに
ii)SiO2+B23≧78、SiO2+B23+Al23≦99.9、及び0<RO<10
の少なくとも一方が成立する、ガラス組成物、を提供する。
【0010】
本発明は、別の側面から、
重量%で表示して、
40≦SiO2≦60
25≦B23≦45
0<Al23≦18
0<R2O≦5
3<RO<8
を含み、
SiO2+B23≧75、及びSiO2+B23+Al23<97
が成立する、ガラス組成物、を提供する。
【0011】
本発明は、別の側面から
重量%で表示してSiO2+B23≧77が成立し、
周波数1GHzにおける誘電率が4.4以下であり、
周波数1GHzにおける誘電正接が0.007以下であり、
粘度102dPasになる温度T2が1700℃以下、
である、ガラス組成物、を提供する。
【0012】
本発明は、別の側面から
重量%で表示して、
40≦SiO2≦49.95
25≦B23≦40
10≦Al23≦20
0.1≦R2O≦2
1≦RO≦10
を含み、
SiO2+B23≧70、及びSiO2+B23+Al23≦97
が成立する、ガラス組成物、を提供する。
【0013】
本発明は、別の側面から
重量%で表示して、
40≦SiO2≦49.95
25≦B23≦29.9
10≦Al23≦20
0.1≦R2O≦1
2≦RO≦8
を含み、
SiO2+B23≧70、及びSiO2+B23+Al23≦97
が成立する、ガラス組成物、を提供する。
【0014】
本発明は、別の側面から
重量%で表示して、
40≦SiO2≦49.95
31≦B23≦40
8≦Al23≦18
0.1≦R2O≦1
1≦RO≦10
を含み、
SiO2+B23≧77、及びSiO2+B23+Al23≦97
が成立する、ガラス組成物、を提供する。
【0015】
本発明は、また別の側面から、
本発明によるガラス組成物から構成されるガラス繊維、を提供する。
【0016】
本発明は、また別の側面から、
本発明によるガラス繊維から構成されるガラスクロス、を提供する。
【0017】
本発明は、また別の側面から、
本発明によるガラスクロスを含むプリプレグ、を提供する。
【0018】
本発明は、また別の側面から、
本発明によるガラスクロスを含むプリント基板、を提供する。
【0019】
本発明は、また別の側面から、
本発明によるガラス組成物を1400℃以上の温度で溶融する工程を含み、平均繊維径が1~6μmのガラス繊維を得る、ガラス繊維の製造方法、を提供する。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、誘電率がより低く、量産に適した特性温度を有するガラス組成物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下において各成分の含有率を示す「%」表示は全て重量%である。「実質的に含まれない」とは、含有率が0.1重量%未満、好ましくは0.07重量%未満、さらに好ましくは0.05重量%未満を意味する。この文言における「実質的に」は、上記を限度として工業原料から不可避的に混入する不純物を許容する趣旨である。各成分の含有率、特性その他の好ましい範囲は、以下において個別に記載する上限及び下限を任意に組み合わせて把握できる。
【0022】
以下においても、ガラス組成物の特性温度は、粘度が10ndPasとなる温度をTnと表記する(例えばT2.5は、そのガラス組成物の粘度が102.5dPasとなる温度を意味する)。誘電率は、厳密には比誘電率を意味するが、本明細書では慣用に従って単に誘電率と表記する。誘電率及び誘電正接は室温(25℃)での値である。以下の説明は、本発明を限定する趣旨ではなく、その好適な形態を示す意味で提示されている。
【0023】
[組成物の成分]
(SiO2
SiO2は、ガラスの網目構造を形成する成分である。SiO2は、ガラス組成物の誘電率を下げる作用を有する。SiO2の含有率が低過ぎると、ガラス組成物の誘電率を十分に低くすることができない。SiO2の含有率が高過ぎると、溶融時の粘性が高くなり過ぎて均質なガラス組成物を得ることが難しくなる。ガラス組成物の均質性が低下すると、ガラス繊維、なかでも繊維径の小さいガラス繊維、の紡糸時に糸切れが誘発される。SiO2の含有率は、40%以上、45%以上、46%以上、さらには48%以上、特に49%以上が好ましく、場合によっては50%以上、さらに50.5%以上、51%以上、52%以上、53%以上であってもよい。SiO2の含有率は、60%以下、58%未満、56%以下、さらには55%未満、特に54.5%以下が好ましく、場合によっては54%以下、53%以下、52%以下、51%以下であってもよい。SiO2の含有率の好ましい範囲の一例は、40%以上58%未満であり、さらには40%以上55%未満である。また、SiO2の含有率は、40%以上49.95%以下とすることもできる。
【0024】
(B23
23は、ガラスの網目構造を形成する成分である。B23は、ガラス組成物の誘電率を下げると共に、溶融時のガラス組成物の粘性を下げ、脱泡性(泡抜け性)を向上させ、形成したガラス繊維における泡の混入を抑制する作用を有する。一方で、B23は、ガラス組成物の溶融時に揮発しやすく、その含有率が過大となると、ガラス組成物として十分な均質性が得られ難くなったり、形成したガラス繊維における泡の混入の抑制が不十分となったり、ガラスから揮発したB23が紡糸に用いるブッシングのチップに付着していわゆる糸切れの要因になったりすることがある。B23の含有率は、25%以上、27%以上、29%以上、30%以上、さらには30%を超えることが好ましく、場合によっては30.5%以上、さらには31%以上、32%以上、33%以上、34%以上であってもよい。B23の含有率は、45%以下、43%以下、41%以下、さらには39%以下が好ましく、場合によっては38%以下、さらには36%以下、35%以下、34%以下、32%以下であってもよい。B23の含有率の好ましい範囲の一例は、30%を超え45%以下である。また、B23の含有率は、25%以上40%以下、25%以上29.9%以下、または31%以上40%以下とすることができる。
【0025】
(SiO2+B23)、(SiO2+B23+Al23
誘電率が十分に低いガラス組成物を得るためには、SiO2の含有率とB23の含有率の合計(SiO2+B23)を77%以上、78%以上、さらに80%以上に調整するとよい。(SiO2+B23)は、81%以上、82%以上、さらには83%以上が好ましく、場合によっては84%以上、さらには85%以上であってもよい。(SiO2+B23)は、90%以下、さらには87.5%以下であってもよい。(SiO2+B23)の値が高過ぎると、ガラス組成物が分相する傾向が助長されるからである。また、(SiO2+B23)は70%以上とすることができる。SiO2の含有率、B23の含有率、及びAl23の含有率の合計(SiO2+B23+Al23)は、その他の成分を許容するために、99.9%以下が好適である。(SiO2+B23+Al23)は、98%以下、97%以下、97%未満、さらには96%以下であってもよい。(SiO2+B23)と(SiO2+B23+Al23)との組み合わせの好ましい一例は、(SiO2+B23)が82%以上、(SiO2+B23+Al23)が98%以下である。また、(SiO2+B23+Al23)は、90%以上98%以下、または90%以上97%以下とすることができる。
【0026】
(SiO2+B23)に対する(SiO2+B23+Al23)の比、すなわち(SiO2+B23+Al23)/(SiO2+B23)は、1.05以上が好ましく、1.12以上、1.13以上、1.15以上、さらに1.20以上であってもよい。この比が大きくなるにつれ、ガラス繊維の毛羽立ち等の欠点が抑制される。この効果は、後述するSiO2とB23の含有率についての第5の組み合わせにおいて顕著になる。
【0027】
(SiO2とB23の好ましい組み合わせ)
誘電率がより低く、溶融しやすいガラス組成物を得るためには、SiO2とB23の含有率には好ましい範囲の組み合わせがある。第1の組み合わせは、SiO2の含有率が48~51%、好ましくは49~51%、より好ましくは50~51%であり、B23の含有率が33~35%、好ましくは34~35%の組み合わせである。第2の組み合わせは、SiO2の含有率が50~53%、好ましくは51~52%であり、B23の含有率が32~35%、好ましくは32~34%の組み合わせである。第3の組み合わせは、SiO2の含有率が52~54%、好ましくは52.5~54%であり、B23の含有率が31~34%、好ましくは32~34%の組み合わせである。第4の組み合わせは、SiO2の含有率が52~55%、好ましくは53~55%であり、B23の含有率が30~32%の組み合わせである。
【0028】
第5の組み合わせは、SiO2の含有率が47~52%、好ましくは48~51%、より好ましくは48.5~50.5%、特に好ましくは48.95~49.95%であり、B23の含有率が25~30%、好ましくは26~29.5%、より好ましくは26~29%の組み合わせである。第5の組み合わせにおいて、MgOの含有率とCaOの含有率との合計(MgO+CaO)は、3.5%以上、さらに4%以上が適しており、8%以下が適している。第6の組み合わせは、SiO2の含有率が48~53%、好ましくは49~52%であり、より好ましくは49~51.5%であり、場合によっては49~51%又は48.95~49.95%であり、B23の含有率が28~35%、好ましくは30~33%、場合によっては30.5~32.5%の組み合わせである。第6の組み合わせにおいて、(MgO+CaO)は、1%以上3.5%未満、好ましくは1~3%、より好ましくは1~2.5%、場合によっては1.5~2.5%である。
【0029】
(Al23
Al23は、ガラスの網目構造を形成する成分である。Al23は、ガラス組成物の化学的耐久性を高める作用を有する。一方で、Al23は、紡糸時におけるガラス組成物の失透を起こりやすくする。Al23の含有率は、5%以上、7.5%以上、8%以上、9%以上、さらには10%以上が好ましく、場合によっては10.5%以上、12%以上、13%以上であってもよい。Al23の含有率は、20%以下、18%以下、17%以下、さらには15%以下が好ましく、場合によっては14%以下、さらには13%以下、12.5%以下であってもよい。失透温度TLを温度T3よりも低い範囲に確実に制御したい場合に適したAl23の含有率の一例は12.3%以下である。Al23は、一般には溶融時のガラス組成物の粘性を高める成分と理解されている。しかし、SiO2+B23の値が高いガラス組成物では、Al23は特異的に溶融時の粘性を低下させる作用を奏しうる。
【0030】
Al23の含有率の好ましい範囲の例は、8~12.5%、特に10~12.5%である。上述したSiO2とB23の含有率の第1~4の組み合わせを採用する場合には、これらの範囲が特に適している。
【0031】
Al23の含有率の好ましい範囲の別の例は13~17%である。上述したSiO2とB23の含有率の第5の組み合わせを採用する場合には、Al23の含有率は13~17%が特に適している。Al23の含有率の好ましい範囲のさらに別の例は12~15%である。SiO2とB23の含有率の第6の組み合わせを採用する場合には、Al23の含有率は12~15%が特に適している。
【0032】
溶融時の粘性を低下させる作用を奏する成分としてはアルカリ金属酸化物が周知であるが、アルカリ金属酸化物の含有率を増加させると、同時に誘電率が増大する。これに対し、本発明による好ましいガラス組成物においては、Al23は特異的に溶融時の粘性を低下させる作用を有するが、誘電率を増大させる副作用がわずかである。
【0033】
(MgO)
MgOは、溶融時におけるガラス組成物の粘性を下げてガラス繊維への泡の混入を抑制し、ガラス組成物としての均質性を向上させる任意成分である。MgOの含有率は、0.1%以上、0.2%以上、さらには0.5%以上、0.6%以上、場合によっては0.8%以上、さらには1%以上であってもよい。MgOの含有率は、10%未満、8%以下、7%以下、5%以下が好ましく、場合によっては3%以下、さらには2%以下、特に1.6%以下であってもよい。MgOの含有率は、CaOの含有率との比を適切な範囲とするために、1.7%以下、1.5%以下、さらには1.2%以下、1%以下が好ましいこともある。ただし、その他の成分の含有率によっては、最適なMgOの含有率が2%以上、例えば2~8%、さらには2~5%、或いは3~5%になることもある。なお、MgOは、失透温度を下げる効果が大きく、そうでありながらアルカリ金属酸化物R2Oほどには誘電率を引き上げないため、R2Oより優先的に、言い換えるとR2Oより含有率が高くなるように、添加することが好ましい。
【0034】
MgOの含有率の好ましい範囲の例は、0.5~2%である。SiO2とB23の含有率の第1~4の組み合わせを採用する場合には、MgOの含有率は0.5~2%、さらに0.5~1.6%が特に適している。SiO2とB23の含有率の第5の組み合わせを採用する場合には、MgOの含有率は0.5~2%、さらに1~2%が特に適している。MgOの含有率の好ましい範囲の別の例は0.1~1%である。SiO2とB23の含有率の第6の組み合わせを採用する場合には、MgOの含有率は0.1~1%、さらには0.1%以上1%未満が特に適している。
【0035】
(CaO)
CaOは、ガラス原料の溶解性を向上させ、溶融時におけるガラス組成物の粘性を下げる任意成分である。CaOの作用はMgOに比べて大きい。CaOの含有率は、0.1%以上、0.5%以上、さらには1%以上、場合によっては1.5%以上、さらには2%以上であってもよい。CaOの含有率は、10%未満、7%以下、5%以下が好ましく、場合によっては4%以下、3.5%以下、3%以下、さらには2.5%以下であってもよい。なお、CaOは、MgO及びZnOに比べて、ガラス組成物の誘電率を増加させてしまう効果が大きい。MgOと同様の理由により、CaOも、アルカリ金属酸化物R2Oより優先的に、言い換えるとR2Oより含有率が高くなるように、添加することが好ましい。
【0036】
CaOの含有率の好ましい範囲の例は2~5%、さらに2~3.5%である。SiO2とB23の含有率の第1~5の組み合わせを採用する場合には、CaOの含有率は2~5%が特に適し、第1~4の組み合わせについては2~3.5%、第5の組み合わせについては2.5~5%がより適している。CaOの含有率の好ましい範囲の別の例は0.5~2%である。SiO2とB23の含有率の第6の組み合わせを採用する場合には、CaOの含有率は0.5~2%が特に適している。
【0037】
MgOの含有率とCaOの含有率との特に好ましい組み合わせの例としては、MgOが1~2%、CaOが2~5%を挙げることができる。この組み合わせは、SiO2とB23の含有率の第5の組み合わせを採用する場合に特に適している。
【0038】
(SrO)
SrOも、ガラス原料の溶解性を向上させ、溶融時におけるガラス組成物の粘性を下げる任意成分である。しかし、SrOは、MgO及びCaOと比較してガラス組成物の誘電率を高くするため、その含有率は制限することが望ましい。SrOの含有率は、1%以下、0.5%以下、さらには0.1%以下が好ましい。SrOは、実質的に含まれていなくてもよい。
【0039】
SiO2とB23の含有率の第1~5の組み合わせを採用する場合には、SrOの含有率は0.1%以下が特に適している。この場合、SrOは実質的に含まれていなくてもよい。ただし、SrOは、その含有率が0.1~5%、さらに1~3.5%となるように添加してもよいことがある。SiO2とB23の含有率の第6の組み合わせを採用する場合には、SrOの含有率は0.1~5%、さらに1~3.5%が特に適している。特に第6の組み合わせにおいて、SrOは、当業者の技術常識に反し、誘電損失の低下、言い換えると誘電正接の低下に有効に作用しうることが見い出された。第6の組み合わせにおいて、CaOの含有率に対するSrOの含有率に対する比SrO/CaOは1を超えていてもよい。この場合、MgOの含有率に対するCaOの含有率に対する比CaO/MgOも1を超えていてもよい。
【0040】
(RO)
ROの含有率、すなわちMgO、CaO及びSrOの含有率の合計は、15%未満、12%以下、10%以下、10%未満、9.5%以下、8%以下、さらには7%未満、特に6%以下が好ましく、場合によっては5%以下、さらには4%以下であってもよい。ROの含有率が高過ぎると誘電率が十分に下がらないことがある。ROを構成する各成分は、個別には任意成分であるが、その少なくとも1つが含まれていること、すなわち含有率の合計が0%を超えていることが好ましい。ROの含有率は、1%以上、1.5%以上、2%以上、さらには2.5%以上が好ましく、場合によっては3%以上、さらには3.5%以上であってもよい。
【0041】
ROの含有率の範囲の好ましい例は、2~7%、特に2~4%である。
【0042】
(MgO/RO)
MgO/RO、すなわちROの含有率に対するMgOの含有率の比は、0.8未満、さらには0.7未満が好ましく、場合によっては0.5以下、0.4以下であってもよい。MgO/ROが大きくなると、ガラス組成物が分相する傾向が顕著になるため、ガラス組成物の均質性が損なわれることがある。また、物性が互いに異なる相が混在することにより、紡糸が困難になる場合もある。一方で、ガラス組成物の誘電率を抑えるべく、MgO/ROは、0.1以上、さらには0.14以上が好ましく、場合によっては0.19以上であってもよい。MgO/ROは、好ましくは0.1~0.5である。
【0043】
(MgO/(MgO+CaO))
MgO/(MgO+CaO)、すなわちMgOとCaOの含有率の合計に対するMgOの含有率の比も、MgO/ROについての上述した上限及び下限を任意に組み合わせた範囲にあってよい。MgO/(MgO+CaO)は、好ましくは0.1~0.5であり、特に0.1~0.4である。
【0044】
(Li2O)
Li2Oは、少量の添加であっても溶融時におけるガラス組成物の粘性を下げてガラス繊維への泡の混入を抑制する作用を有し、さらには失透を抑制する作用も有する任意成分である。また、適量のLi2Oの添加はガラス組成物が分相する傾向を顕著に抑制する。しかし、Li2Oは、他のR2Oよりもその作用は相対的に弱いものの、ガラス組成物の誘電率を上昇させる。Li2Oの含有率は、1.5%以下、1%以下、0.5%以下が好ましく、場合によっては0.4%以下、0.3%以下、さらには0.2%以下であってもよい。Li2Oの含有率は、0.01%以上、0.03%以上、さらには0.05%以上が好ましい。Li2Oの含有率の好ましい範囲の例は、0.01~0.5%、さらに0.05~0.4%である。
【0045】
(Na2O)
Na2Oも、少量の添加であっても溶融時におけるガラス組成物の粘性が下げてガラス繊維への泡の混入を抑制する作用を有し、さらには失透を抑制する作用も有する任意成分である。この観点からはNa2Oの含有率は、0.01%以上、0.05%以上、さらには0.1%以上であってもよい。しかし、Na2Oの添加は、ガラス組成物の誘電率を上昇させないように、限られた範囲に止める必要がある。Na2Oの含有率は、1.5%以下、1%以下、0.5%以下、さらには0.4%以下が好ましく、場合によっては0.2%以下、さらには0.15%以下、特に0.1%以下、0.05%以下、0.01%以下であってもよい。Na2Oの含有率の好ましい範囲の例は、0.01~0.4%である。
【0046】
(K2O)
2Oも、少量の添加であっても溶融時におけるガラス組成物の粘性が下げてガラス繊維への泡の混入を抑制する作用を有し、さらには失透を抑制する作用も有する任意成分である。しかし、K2Oは、ガラス組成物の誘電率を上昇させる作用が大きい。K2Oの含有率は、1%以下、0.5%以下、0.2%以下が好ましく、場合によっては0.1%以下、0.05%以下、0.01%以下であってもよい。K2Oは、実質的に含まれていなくてもよい。
【0047】
(R2O)
2Oの含有率、Li2O、Na2O及びK2Oの含有率の合計は、5%以下、4%以下、3%以下、2%以下、さらには1.5%以下が好ましく、場合によっては1%以下、さらには0.6%以下、0.5%以下であってもよい。R2Oを構成する各成分は、個別には任意成分であるが、その少なくとも1つが含まれていること、すなわち含有率の合計が0%を超えていることが好ましい。R2Oの含有率は、0.03%以上、0.05%以上、さらには0.1%以上、特に0.15%以上、0.2%以上が好ましい。
【0048】
さらに、Li2Oの含有率がNa2Oの含有率より大きい場合には、ガラス組成物が分相する傾向がより効果的に抑制されることがある。
【0049】
Li2Oの含有率を0.25%以上、さらには0.3%以上とすると、特性温度をより好ましい範囲に調整できることがある。特にSiO2とB23の含有率の第1の組み合わせを採用する場合には、Li2Oを含有率が0.25%以上、さらには0.3%以上となるように添加することが好ましい。この場合は、Na2Oを含有率が0.05%以上でLi2Oの含有率未満となるように添加してもよい。
【0050】
(T-Fe23
T-Fe23は、その熱線吸収作用によってガラス原料の溶解性を向上させると共に、溶融時におけるガラス組成物の均質性を向上させる任意成分である。T-Fe23による均質性向上の効果により、形成するガラス繊維の繊維径が小さい場合においても、紡糸時におけるガラス繊維の糸切れの発生が抑制され、紡糸操業性が向上する。T-Fe23の含有率は、0.01%以上、0.02%以上、0.05%以上、さらには0.10%以上が好ましい。なお溶解性向上の効果はT-Fe23の含有率が0.01%以上で顕著に表れるが、均質性向上の効果は0.02%以上で特に顕著に表れる。T-Fe23による過度の熱線吸収作用を抑制する等の目的から、T-Fe23の含有率は、0.5%以下、0.3%以下、さらに0.25%以下が好ましく、場合によっては0.20%以下であってもよい。本明細書では、慣用に従い、ガラス組成物の全酸化鉄の量を、FeO等のFe23以外の酸化鉄をFe23に換算した値、すなわちT-Fe23の含有率、として表示している。したがって、T-Fe23の少なくとも一部はFeOとして含まれうる。T-Fe23の含有率の好ましい範囲の例は0.01~0.5%、さらに0.1~0.3%である。
【0051】
(ZnO)
ZnOは、ガラス原料の溶解性を向上させ、溶融時におけるガラス組成物の粘性を下げる任意成分である。しかし、ZnOは、ガラス組成物の誘電率を上昇させる。ZnOの含有率は、3.5%以下、2%以下、1%以下、さらには0.5%以下が好ましい。ZnOは、実質的に含まれていなくてもよい。
【0052】
(その他の成分)
ガラス組成物が含みうる上記以外の成分としては、P25、BaO、PbO、TiO2、ZrO2、La23、Y23、MoO3、WO3、Nb25、Cr23、SnO2、CeO2、As23、Sb23、SO3を例示できる。ガラス組成物が含みうる別の成分は、例えばPt、Rh、Os等の貴金属元素であり、また例えばF、Cl等のハロゲン元素である。これらの成分の許容される含有率は、それぞれについて好ましくは2%未満、さらには1%未満、特に0.5%未満であり、合計で好ましくは5%未満、さらに3%未満、特に2%未満、とりわけ1%未満である。ただし、ガラス組成物には、上記その他の成分がそれぞれ実質的に含まれていなくてもよい。TiO2は、後述する理由により微量を添加してもよいが、実質的に含まれていなくてもよい。ZrO2も同様である。また、BaO及びPbOは実質的に含まれていないことが好ましい。P25も実質的に含まれていないことが好ましい。BaO及びPbOはガラス組成物の誘電率を引き上げる効果が大きく、P25は分相を誘発するためである。上記に列挙したSiO2からZnOまでの成分以外の成分は実質的に含まれていなくてもよい。ただしこの場合でも、ガラス組成物は、溶融時の清澄促進に有効な成分、好ましくはSO3、F、Clをそれぞれ2%未満の範囲で含有していてもよい。
【0053】
微量のTiO2の添加により、当業者の技術常識に反し、ガラス組成物の誘電率及び誘電正接は低下する場合があることが見い出された。この観点から、TiO2の含有率は、0%を超え1%以下であってもよい。特にSiO2とB23の含有率の第6の組み合わせを採用する場合には、0%を超え1%以下のTiO2を添加してもよい。
【0054】
(好ましい組成の例示)
好ましい一形態における本発明のガラス組成物は、以下の成分を含む。
40≦SiO2<58
25≦B23≦40
7.5≦Al23≦18
0<R2O≦4
0≦Li2O≦1.5
0≦Na2O≦1.5
0≦K2O≦1
1≦RO<10
0≦MgO<10
0≦CaO<10
0≦SrO≦5
0≦T-Fe23≦0.5
【0055】
上記成分を含む一形態では、7.5≦Al23≦15、及び0≦SrO≦1が成立してもよい。
【0056】
上記の末尾に
0≦ZnO≦3.5
を加えたガラス組成物も好ましい別の一形態である。
【0057】
これらの形態のガラス組成物は、好ましくは40≦SiO2<55をさらに満たす。また、SiO2+B23≧80を満たしていてもよく、好ましくはSiO2+B23+Al23≦99.9をさらに満たしていてもよい。MgO/RO<0.8も、上記形態のガラス組成物が満たしていてよい別の条件である。
【0058】
[特性]
(誘電率)
好ましい一形態において、本発明によるガラス組成物の測定周波数1GHzの誘電率は、4.65以下、4.4以下、4.35以下、4.30以下、4.25以下、さらには4.20以下であり、場合によっては4.18以下である。測定周波数5GHzの誘電率は、4.63以下、4.4以下、4.31以下、4.27以下、4.22以下、さらには4.17以下であり、場合によっては4.15以下である。測定周波数10GHzの誘電率は、4.55以下、4.4以下、4.22以下、4.18以下、4.14以下、さらには4.08以下であり、場合によっては4.06以下である。
【0059】
(誘電正接:tanδ)
好ましい一形態において、本発明によるガラス組成物の測定周波数1GHzの誘電正接は、0.007以下、0.005以下、0.004以下、さらには0.003以下、場合によっては0.002以下である。測定周波数1GHzの誘電正接は、0.001以下、0.001未満、0.0009以下、0.0008以下、さらには0.0007以下であってもよい。測定周波数5GHzの誘電正接は、0.007以下、0.005以下、0.004以下、さらには0.003以下、場合によっては0.002以下である。測定周波数10GHzの誘電正接は、0.007以下、0.006以下、0.005以下、0.004以下、さらには0.003以下であり、場合によっては0.002以下である。
【0060】
(特性温度)
好ましい一形態において、本発明によるガラス組成物のT2は、1700℃以下、1650℃以下、1640℃以下、1620℃以下、さらには1610℃以下であり、場合によっては1600℃未満、1550℃以下、さらに1520℃以下、特に1510℃以下である。T2はガラス融液の溶融温度の目安となる温度である。過度に高いT2は、ガラス融液の溶融に極めて高温を要するためエネルギーコストや高温に耐える装置のコストが高い。同じ温度であれば、T2の低いガラスの方が融液の粘度が低いのでガラス融液の清澄や均質化に効果があり、一方、同じ粘度で溶融する場合はT2が低いガラスの方が低温で溶融でき、量産に適している。T2.5は、好ましくは、1590℃以下、1550℃以下、さらには1500℃以下であり、場合によっては1450℃以下、さらに1400℃以下である。T3は、好ましくは、1450℃以下、1420℃以下、1400℃以下、さらには1365℃以下、特に1360℃以下であり、場合によっては1330℃以下、さらに1300℃以下である。T3は、ガラス繊維の紡糸温度の目安となる温度である。過度に高いT3はブッシングのチップにおいてガラスから揮発するB23が多く、チップに付着していわゆる糸切れのリスクを高めることがある。
【0061】
好ましい一形態において、本発明によるガラス組成物のT3は、失透温度TLよりも高い。また、より好ましい一形態において、T3は、TLより10℃以上、さらには50℃以上、場合によっては100℃以上高い。好ましい一形態において、本発明によるガラス組成物のT2.5は、失透温度TLよりも50℃以上高い。また、より好ましい一形態において、T2.5は、TLより100℃以上高い。TLよりも十分に高いT3及びT2.5は、ガラス繊維の安定した製造への寄与が大きい。
【0062】
SiO2とB23の含有率の第5の組み合わせは、特に好ましい特性温度の達成に適している。好ましい特性温度は、例えば、1520℃以下、特に1510℃以下のT2であり、また例えば、1300℃以下でTLより高いT3である。SiO2とB23の含有率の第1の組み合わせにおいて、Li2Oの含有率が0.25%以上であるガラス組成物も、上記程度に好ましい特性温度の達成に適している。
【0063】
[用途]
本発明によるガラス組成物の用途は限定されない。用途の例は、ガラス繊維及びガラス成形体である。ガラス成形体の例はフレーク状ガラスである。すなわち、本発明のガラス組成物は、ガラス繊維用ガラス組成物、ガラス成形体用ガラス組成物、又はフレーク状ガラス用ガラス組成物でありうる。
【0064】
本発明によるガラス組成物は、形成するガラス繊維の繊維径が小さい場合においても当該ガラス繊維における失透の発生及び泡の混入をより抑制できるガラス組成物である。ここで、「繊維径が小さいガラス繊維」とは、例えば、平均繊維径が1~6μmのガラス繊維を意味する。すなわち、本発明によるガラス組成物は、小繊維径ガラス繊維用ガラス組成物でありうるし、より具体的には、平均繊維径が1~6μmのガラス繊維用ガラス組成物でありうる。また、上述のように、本発明によるガラス組成物から製造したガラス繊維をプリント基板に使用する際に、本発明の効果はより顕著となる。この観点から本発明によるガラス組成物は、プリント基板(プリント配線板、プリント回路板)に使用するガラス繊維用ガラス組成物でありうる。
【0065】
同様に、本発明によるガラス組成物は、形成するガラス成形体、例えばフレーク状ガラスの厚さが小さい場合においても、当該ガラス成形体における失透の発生及び泡の混入をより抑制できるガラス組成物である。ここで、「厚さが小さい」とは、例えば、0.1~2.0μmを意味する。また、上述のように、本発明のガラス組成物から製造したガラス成形体(本発明によるガラス組成物から構成されるガラス成形体)をプリント基板に使用する際に、本発明の効果はより顕著となる。この観点から本発明によるガラス組成物は、プリント基板に使用するガラス成形体用ガラス組成物でありうる。
【0066】
プリント基板に使用することに着目すると、本発明によるガラス組成物はプリント基板用ガラス組成物でありうる。
【0067】
[ガラス繊維]
本発明によるガラス繊維は、本発明によるガラス組成物により構成される。ガラス繊維の具体的な構成は特に限定されず、本発明によるガラス組成物により構成される限り、従来のガラス繊維と同様の構成をとりうる。ただし、上述のように、本発明によるガラス組成物が低誘電率のガラス組成物であって、形成するガラス繊維の繊維径が小さい場合においても当該ガラス繊維における失透の発生及び泡の混入をより抑制できる組成物であることから、本発明によるガラス繊維は繊維径の小さいガラス繊維でありうる。また、このような繊維径の小さい低誘電率のガラス繊維は、本発明によるガラス繊維の一形態である。
【0068】
ガラス繊維の平均繊維径は、例えば1~10μm、さらには6~10μmであってもよいし、1~6μmであってもよい。平均繊維径は3μm以上であってもよく、10μm以下、5.1μm以下、4.6μm以下、さらに4.3μm以下であってもよい。量産に適した特性温度を有するガラス組成物は、細いガラス繊維として安定して製造することに適している。好ましい一形態において、平均繊維径は、さらに細く、例えば3.9μm以下、さらに3.5μm以下である。ガラス繊維は、例えばガラス長繊維(フィラメント)である。
【0069】
本発明によるガラス繊維の好ましい用途としては、プリント基板が挙げられる。低誘電率で繊維径の小さいガラス繊維は、プリント基板への使用に適している。ただし、用途がプリント基板に限定されるわけではない。
【0070】
ガラス繊維はガラスヤーンとすることができる。ガラスヤーンは、本発明によるガラス繊維以外のガラス繊維を含むこともできるが、本発明によるガラス繊維、具体的にはガラス長繊維のみから構成されていてもよい。このガラスヤーンは、ガラス繊維の糸切れ、毛羽立ち等の欠点の発生が抑制され、生産性が高い。
【0071】
ガラスヤーンに含まれるガラス長繊維の本数(フィラメント本数)は、例えば30~400である。プリント基板に使用する場合、フィラメント本数は、例えば30~120、30~70、さらには30~60とするとよい。適切な本数は、ガラスクロスをより容易かつ確実に形成し、プリント基板の薄型化を図る上で有利である。ただし、ガラスヤーンの構成及び用途は、これらの例に限定されない。
【0072】
ガラス繊維を含むガラスヤーンはその番手が、例えば0.7~6tex、0.9~5tex、さらには1~4tex、さらに1~3texであってもよく、10~70texであってもよい。適切な番手は、薄いガラスクロスをより容易かつ確実に形成し、プリント基板の薄型化を図る上で有利である。
【0073】
ガラスヤーンは、その強度が0.4N/tex以上、さらには0.6N/tex以上、特に0.7N/tex以上であってもよい。
【0074】
本発明によるガラス繊維は、公知の方法を適用して製造できる。例えば、平均繊維径1~6μm程度のガラス繊維を製造する場合、以下の方法の例を採用できる。すなわち、本発明によるガラス組成物をガラス溶融窯に投入し、溶融して溶融ガラスとした後、紡糸炉における耐熱性ブッシングの底部に設けられた多数の紡糸ノズルから溶融ガラスを引き出し、糸状に成形する方法である。これにより、本発明によるガラス組成物により構成されるガラス繊維を製造できる。ガラス繊維は、ガラス長繊維(フィラメント)でありうる。溶融窯における溶融温度は、例えば1300~1700℃であり、1400~1700℃が好ましく、1500~1700℃がより好ましい。これらの場合、形成するガラス繊維の繊維径が小さい場合においても当該ガラス繊維における微小な失透の発生及び泡の混入をさらに抑制できるとともに、過度に紡糸張力が高くなることが防がれ、得られたガラス繊維の特性(例えば強度)及び品質を確実に確保できる。
【0075】
繊維径が小さいガラス繊維を製造するためには、紡糸炉からの溶融ガラスの引出速度を高めたり、紡糸ノズルの温度を低下させたりする手法も考えられる。しかし、前者の手法では、溶融ガラスの脱泡を紡糸炉内で促進させるための時間を十分に確保できないことがある。このため、泡の混入に起因する紡糸時の糸切れ、繊維の強度低下等が生じることがある。また、紡糸時に繊維に生じる張力(紡糸張力)が紡糸速度の上昇に伴って大きくなり、この点も、紡糸時の糸切れ、繊維の強度低下、繊維の品質低下等の要因になることがある。通常、ガラス繊維の巻き取りにはコレットと呼ばれる巻き取り回転体装置が使用されるところ、紡糸張力が過度に増大すると、フィンガー間の窪みに起因する糸癖が巻き取ったガラス繊維に生じ、これがガラス繊維の品質低下につながる。なお、コレットは、その回転時にその径外方に向かって移動すると共に、その停止時にはコレット本体側に沈み込む複数のフィンガーをコレット本体の外周に備えた装置である。ガラス繊維の品質低下は、例えば、ガラスクロスにおける外観不良及び/又は開繊不良につながることがある。一方、後者の手法では、溶融窯内の溶融温度も低下させる必要が生じ、これによりガラス組成物の失透温度に溶融温度が近づくことになり、溶融ガラスの粘度が上昇して十分な脱泡を実施できなくなることがある。粘度上昇に伴って紡糸張力も大きくなって上述の問題も生じ得る。
【0076】
本発明によるガラス組成物を用い、上述の温度域で溶融すれば、上述の問題を緩和することが可能になる。ガラス繊維の品質向上により、当該ガラス繊維を用いたガラスクロスにおける外観及び/又は開繊性も良好となる。
【0077】
紡糸により形成されたガラス繊維の表面に集束剤を塗布し、複数のガラス繊維、例えば10~120本のガラス繊維を束ねることにより、ガラスストランドを形成できる。このストランドは、本発明によるガラス繊維を含む。ストランドを高速で回転するコレット上のチューブ(例えば、紙管チューブ)に巻き取ってケーキとし、続いてケーキの外層からストランドを解舒して、撚りを掛けながら風乾した後、ボビン等に巻き返して撚糸することにより、ガラスヤーンを形成できる。
【0078】
[ガラスクロス]
本発明によるガラスクロスは、本発明によるガラス繊維により構成される。本発明によるガラスクロスは、本発明によるガラス組成物が有する低い誘電率等の上述の特性も有し得る。本発明によるガラスクロスの織組織は、例えば、平織、朱子織、綾織、斜子織、畦織であり、好ましくは平織である。ただし、織組織はこれらの例に限定されない。ガラスヤーンは、本発明によるガラス繊維以外のガラス繊維を含むこともできるが、本発明によるガラス繊維、具体的にはガラス長繊維のみから構成されていてもよい。本発明によるガラスクロスは、ガラス繊維の糸切れ、毛羽立ち等の欠点の発生が抑制されたものとなり、生産性も高い。
【0079】
好ましい一形態において、ガラスクロスの厚さは、JIS R3420:2013の項目7.10.1の規定に従って測定される厚さにより表示して、好ましくは200μm以下、より好ましくは7~150μm、さらに好ましくは7~30μm、特に好ましくは8~15μmである。この好ましい形態のガラスクロスは、プリント基板の薄型化に適している。
【0080】
好ましい一形態において、ガラスクロスの質量は、JIS R3420:2013の項目7.2の規定に従って測定されるクロス質量により表示して、好ましくは250g/m2以下、より好ましくは150g/m2以下、さらに好ましくは50g/m2、特に好ましくは15g/m2以下である。この好ましい形態のガラスクロスは、薄型化されたプリント基板への使用に適している。
【0081】
好ましい一形態において、ガラスクロスの単位長さ(25mm)あたりのガラス繊維の本数(織密度)は、経糸及び緯糸ともに、例えば、長さ25mmあたり好ましくは40~130本、より好ましくは60~120本、さらに好ましくは90~120本である。この好ましい形態のガラスクロスは、その厚さを薄くし、経糸及び緯糸の交絡点を多くしてガラスクロスの目曲がりを生じ難くし、樹脂を含浸させたときのピンホールの発生を抑制することに適している。
【0082】
好ましい一形態において、ガラスクロスの通気度は、例えば、400cm3/(cm2・秒)以下、好ましくは300cm3/(cm2・秒)以下、より好ましくは250cm3/(cm2・秒)以下である。この好ましい形態のガラスクロスは、その厚さを薄くし、上述のピンホールの発生を抑制することに適している。なお、上記程度の通気度をガラスクロスが有するように開繊させるためには、本発明によるガラス組成物、又は本発明によるガラス組成物が得られるように調製したガラス原料に上述の溶融温度、すなわち1400℃以上、好ましくは1400~1650℃を適用してガラス繊維を得るとよい。
【0083】
本発明によるガラスクロスは、本発明によるガラス繊維を用いて公知の方法により製造できる。製造方法の一例は、ガラスヤーンに対して整経工程及び糊付工程を実施した後、これを経糸として、ガラスヤーンの緯糸を打ち込む方法である。緯糸の打ち込みには、各種の織機、例えばジェット織機、スルザー織機、レピア織機を使用できる。ジェット織機の具体的な例としては、エアージェット織機、ウォータージェット織機が挙げられる。ただし、ガラスクロスを製造する織機はこれらに限定されない。
【0084】
本発明によるガラスクロスは開繊処理されていてもよい。開繊処理はガラスクロスの薄型化に有利である。開繊処理の具体的な方法は特に限定されず、例えば、水流の圧力による開繊、水等を媒体とした高周波振動による開繊、ロール等を用いた加圧による開繊を適用できる。なお、開繊の媒体とする水は、脱気水、イオン交換水、脱イオン水、電解陽イオン水、電解陰イオン水等を使用できる。開繊処理は、ガラスクロスの織成と同時に実施しても、織成後に実施してもよい。また、開繊処理は、ヒートクリーニング、表面処理といった各種処理と同時に実施してもよく、各種処理の後に実施してもよい。
【0085】
織成したガラスクロスに集束剤等の物質が付着している場合は、ヒートクリーニング処理に代表される当該物質の除去処理をさらに実施してもよい。除去処理を経たガラスクロスは、それをプリント基板に使用する際に、マトリクス樹脂の含浸性及び当該樹脂との密着性において優れたものとなる。除去処理の後に、又は除去処理とは別に、織成したガラスクロスをシランカップリング剤等により表面処理してもよい。表面処理は公知の手段により実施することが可能であり、具体的には、シランカップリング剤をガラスクロスに含浸する方法、塗布する方法、スプレーする方法等により実施できる。
【0086】
本発明によるガラスクロスは、プリント基板に適している。プリント基板に使用する場合には、低誘電率であり、繊維径の小さいガラス繊維から構成されうるといった特徴を有効に活用できる。ただし、用途がプリント基板に限定されるわけではない。
【0087】
[プリプレグ]
本発明によるプリプレグは、本発明によるガラスクロスにより構成され得る。本発明によるプリプレグは、本発明によるガラス組成物が有する低い誘電率等の上述の特性も有し得る。本発明のプリプレグの製造方法は、特に限定されず、従来公知の任意の製造方法が採用されればよい。本発明によるプリプレグに含浸される樹脂としては、本発明のガラスクロスと複合し得る合成樹脂であれば特に限定されず、例えば、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂、これらの複合樹脂等が挙げられる。低誘電率を有する本発明によるガラスクロスに合わせた低誘電率を有する樹脂を使用することが望ましい。
【0088】
[プリント基板]
本発明によるプリント基板は、本発明によるガラスクロスにより構成され得る。本発明によるプリント基板は、本発明によるガラス組成物が有する低い誘電率等の上述の特性も有し得る。本発明の基板の製造方法は、特に限定されず、従来公知の任意の製造方法が採用されればよい。例えば、ガラスクロスに含浸された樹脂を含むプリプレグを製造したあとに硬化する方法等が挙げられる。
【実施例0089】
以下、実施例により、本発明をより詳細に説明する。本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0090】
表1~6に示す各組成(成分の含有率の単位は重量%)となるようにガラス原料を秤量し、均質な状態となるように混合して、ガラス原料混合バッチを作製した。次に、作製した混合バッチを白金ロジウム製るつぼに投入し、1600℃に設定した間接加熱電気炉内で、大気雰囲気中にて3時間以上加熱して溶融ガラスとした。次に、得られた溶融ガラスを耐火性鋳型に流し出して鋳込み成形した後、得られた成形体を徐冷炉により室温まで徐冷処理して、評価に使用するガラス組成物試料とした。
【0091】
このようにして作製したガラス試料について、特性温度T2、T2.5及びT3、失透温度TL、周波数1GHz、5GHz及び10GHzにおける誘電率及び誘電正接を評価した。評価方法は下記のとおりである。
【0092】
(特性温度)
白金球引き上げ法により粘度を測定し、その粘度が102dPa・s、102.5dPa・s、103dPa・sとなる温度を、それぞれT2、T2.5、T3とした。
【0093】
(失透温度)
試料ガラスを粉砕し、目開き2.83mmの篩を通り、目開き1.00mmの篩に残る粒子をふるい分けた。この粒子を洗浄して粒子に付着した微粉を除去し、乾燥して失透温度測定用サンプルを調製した。失透温度測定用サンプルの25gを白金ボート(長方形でフタのない白金製の器)に厚みが略均一になるようにいれ、温度傾斜炉中で2時間保持した後に炉から取り出し、ガラス内部に失透が観察された最高温度を失透温度とした。
【0094】
(誘電率及び誘電正接)
各周波数における誘電率及び誘電正接は、空洞共振器摂動法による誘電率測定装置を用いて測定した。測定温度は25℃、測定用サンプルの寸法は、底面が1辺1.5cmの正方形で長さ10cmの直方体とした。
【0095】
例1~44及び例48~99のガラス組成物は、測定周波数1GHzの誘電率が4.65以下、T2が1700℃以下、T3が1450℃以下であった。これらのガラス組成物には、測定周波数1GHzの誘電率が4.4以下となったものもあり、例1~43、例48~81、例83~84、及び例93~99のガラス組成物は、測定周波数1GHzの誘電率が4.36以下となった。例1~41、例48~81、例83~84、及び例94~99のガラス組成物は、測定周波数1GHzの誘電率が4.35以下となった。また、例5~6、例66~67、及び例83~92のガラス組成物は、T2が1520℃以下であり、T3が1300℃以下でTLよりも高くなった。例66~67及び例83~92のガラス組成物は、B23の含有率が35%以下、場合によっては30%以下であって、T2が1520℃以下であり、T3が1300℃以下でTLよりも高くなった。例2及び例93~99のガラス組成物は、周波数1GHzの誘電正接が0.001未満であった。例93~99のガラス組成物は、周波数1GHzの誘電正接が0.001未満であり、T2が1600℃未満であった。例45~47のガラス組成物は比較例であり、例45はT2が1700℃を超え、例46~47は測定周波数1GHzの誘電率が4.7を超えていた。
【0096】
【表1】
【0097】
【表2】
【0098】
【表3】
【0099】
【表4】
【0100】
【表5】
【0101】
【表6】